説明

誘電体組成物及びこれを含むセラミック電子部品

【課題】希土類元素を用いなくても粒成長抑制及び耐還元性を実現し、優れた高温信頼性を確保できる誘電体組成物及びこれを含むセラミック電子部品を提供する。
【解決手段】誘電体組成物は、母材粉末と、上記母材粉末100モルに対して、遷移金属を含む酸化物または炭酸塩0.1〜1.0at%の含量(x)を含む第1副成分と、上記母材粉末100モルに対して、原子価固定アクセプタ元素を含む酸化物または炭酸塩0.01〜5.0at%の含量(y)を含む第2副成分と、ドナー元素を含む酸化物または炭酸塩を含む第3副成分と、焼結助剤を含む第4副成分と、を含有する。セラミック素体110を構成する誘電体層111は、このような誘電体組成物を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体組成物及びこれを含むセラミック電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、キャパシタ、インダクタ、圧電素子、バリスタ、またはサーミスタなどのセラミック材料を用いる電子部品は、セラミック材料からなるセラミック素体と、素体の内部に形成された内部電極と、上記内部電極と接続されるようにセラミック素体の表面に設けられた外部電極と、を備える。
【0003】
このようなセラミック電子部品のうち積層セラミックキャパシタ(Multi−Layered Ceramic Capacitor:MLCC)は、積層された複数の誘電体層と、一誘電体層を挟んで対向配置される内部電極と、上記内部電極に電気的に接続された外部電極と、を含む。
【0004】
この積層セラミックキャパシタは、小型でありながら高容量が保障され、実装が容易であるという長所により、コンピュータ、PDA、または携帯電話などの移動通信装置の部品として広く用いられている。
【0005】
このような積層セラミックキャパシタは、移動通信端末機、ノートパソコン、コンピュータ及び個人携帯端末機(PDA)などの様々な電子製品の印刷回路基板に装着され、電気を充電または放電させる重要な役割をするチップ形態のコンデンサであり、その使用用途と容量に応じて多様なサイズ及び積層形態を有する。
【0006】
また、積層セラミックキャパシタは最近、電子製品の小型化に伴い、超小型化及び超高容量化が求められている。これにより、超小型化のために内部電極及び誘電体層の厚さを薄くし、超高容量化のために多数の誘電体を積層した製品が製造されている。
【0007】
積層セラミックキャパシタは、内部電極層用ペーストと誘電体層用ペーストをシート法や印刷法などにより積層し、同時に焼成して製造する。
【0008】
ところで、従来の積層セラミックキャパシタなどに用いられる誘電体材料は、還元性の雰囲気下で焼成すると還元されて半導体化される性質を有する。このため、高容量MLCCの正常な容量及び絶縁特性を実現するためには、一定水準以上の粒成長抑制及び耐還元性が実現されなければならず、このために原子価固定アクセプタを添加していた。しかし、原子価固定アクセプタのみを添加する場合、誘電体の信頼性が低下するという問題があるため、希土類元素をともに添加してその信頼性を確保していた。
【0009】
しかし、最近、希土類元素の需給問題が深刻となっており、その単価も上昇する傾向にある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
当技術分野では、積層セラミックキャパシタなどに用いられる誘電体材料を製造する際、希土類元素を用いなくても粒成長抑制及び耐還元性を実現し、優れた高温信頼性を確保することができる新しい方案が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一側面によると、母材粉末と、この母材粉末100モルに対して、遷移金属を含む酸化物または炭酸塩0.1〜1.0at%の含量(x)を含む第1副成分と、上記母材粉末100モルに対して、原子価固定アクセプタ(fixed valence acceptor)元素を含む酸化物または炭酸塩0.01〜5.0at%の含量(y)を含む第2副成分と、ドナー(donor)元素を含む酸化物または炭酸塩を含む第3副成分と、焼結助剤を含む第4副成分と、を含有する誘電体組成物が提供される。ここで、at%は原子数の組成比を示す。
【0012】
本発明の一実施形態において、上記第3副成分のドナー元素はCeであり、上記Ceのat%含量(z1)は0.1≦z1≦x+2yとすることができる。
【0013】
本発明の一実施形態において、上記第3副成分のドナー元素はNbであり、上記Nbのat%含量(z2)は0.1≦z2≦x+0.5yとすることができる。
【0014】
本発明の一実施形態において、上記第3副成分のドナー元素はLaであり、上記Laのat%含量(z3)は0.1≦z3≦x+yとすることができる。
【0015】
本発明の一実施形態において、上記第3副成分のドナー元素はSbとすることができる。
【0016】
本発明の一実施形態において、上記第4副成分の含量は、上記母材粉末100モルに対して、0.1〜8.0モル%とすることができる。
【0017】
本発明の一実施形態において、上記第4副成分の焼結助剤は、Si、Ba、Ca及びAlのうち少なくとも一つを含む酸化物または炭酸塩であるか、またはSiを含むガラス(glass)とすることができる。
【0018】
本発明の一実施形態において、上記母材粉末は、BaTiO系または(Ba1−xCa)(Ti1−yCa)O、(Ba1−xCa)(Ti1−yZr)O及びBa(Ti1−yZr)Oのうち、少なくとも一つとすることができる。
【0019】
本発明の一実施形態において、上記母材粉末は、平均粒径が0.5μm以下とすることができる。
【0020】
本発明の一実施形態において、上記第1副成分の遷移金属は、Mn、V、Cr、Fe、Ni、Co、Cu及びZnからなる群から選択された少なくとも一つとすることができる。
【0021】
本発明の一実施形態において、上記第2副成分の原子価固定アクセプタ元素は、Mg及びAlのうち少なくとも一つとすることができる。
【0022】
本発明の他の側面によると、複数の誘電体層が積層されたセラミック素体と、上記セラミック素体の内部に形成され、非金属を含む内部電極と、上記セラミック素体の外表面に形成され、上記内部電極と電気的に連結された外部電極と、を備え、上記誘電体層は、母材粉末と、上記母材粉末100モルに対して、遷移金属を含む酸化物または炭酸塩0.1〜1.0at%の含量(x)を含む第1副成分と、上記母材粉末100モルに対して、原子価固定アクセプタ元素を含む酸化物または炭酸塩0.01〜5.0at%の含量(y)を含む第2副成分と、ドナー元素を含む酸化物または炭酸塩を含む第3副成分と、焼結助剤を含む第4副成分と、を含有するセラミック電子部品が提供される。
【0023】
本発明の一実施形態において、上記各誘電体層の厚さは0.1〜10μmとすることができる。
【0024】
本発明の一実施形態において、上記内部電極はNiまたはNi合金を含むことができる。
【0025】
本発明の一実施形態において、上記内部電極は、上記誘電体層と交互に積層されることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によると、希土類元素を用いなくても既存の誘電体組成物と同等水準以上の粒成長抑制及び耐還元性を実現することが可能で、また、優れた高温信頼性を確保することができる。さらに、1260℃以下の還元雰囲気で焼成が可能な誘電体組成物及びこれを含むセラミック電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態による積層セラミックキャパシタを概略的に図示した斜視図である。
【図2】図1のA−A'線の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付の図面を参照して本発明の好ましい実施形態を説明する。
【0029】
但し、本発明の実施形態は様々な他の形態に変形することができ、本発明の範囲は以下で説明する実施形態に限定されるものではない。
【0030】
また、本発明の実施形態は当技術分野で平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0031】
従って、図面における要素の形状及び大きさ等はより明確な説明のために誇張されることがあり、図面上において同一の符号で表される要素は同一の要素である。
【0032】
また、類似の機能及び作用をする部分に対しては図面全体にわたって同一の符号を用いる。
【0033】
尚、明細書の全体において、ある構成要素を「含む」ということは、特別に反対される記載がない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに含むことができるということを意味する。
【0034】
本発明は誘電体組成物に関するものであって、本発明の一実施形態による誘電体組成物を含むセラミック電子部品は、積層セラミックキャパシタ、インダクタ、圧電体素子、バリスタ、チップ抵抗またはサーミスタなどがあり、下記ではセラミック電子製品の一例として、積層セラミックキャパシタについて説明する。
【0035】
図1及び図2を参照すると、本実施形態による積層セラミックキャパシタ100は、誘電体層111と第1及び第2内部電極130a、130bが交互に積層されたセラミック素体110を有する。このセラミック素体110の両端部には、セラミック素体110の内部に交互に配置された第1及び第2内部電極130a、130bと、それぞれ電気的に連結された第1及び第2外部電極120a、120bが形成されている。
【0036】
セラミック素体110の形状は特に制限されないが、好ましくは直方体状とすることができる。また、その寸法も特に制限されず、用途に応じて適切な寸法にすることができ、例えば(0.6〜5.6mm)×(0.3〜5.0mm)×(0.3〜1.9mm)とすることが可能である。
【0037】
誘電体層111の厚さは、キャパシタの容量設計に応じて任意に変更することができ、本実施形態における焼成後の誘電体層111の厚さは、1層当り0.1μm以上、さらに好ましくは0.1〜10μmとすることができる。これは、厚さが薄すぎる活性層は、一つの層内に存在する結晶粒の数が少なく、信頼性に悪影響を与えるためである。
【0038】
第1及び第2内部電極130a、130bは、各端面がセラミック素体110の対向する両端部の表面に交互に露出されるように積層することができる。第1及び第2外部電極120a、120bは、セラミック素体110の両端部に形成され、交互に配置された第1及び第2内部電極130a、130bの露出端面に電気的に連結されてキャパシタ回路を構成することができる。
【0039】
このような第1及び第2内部電極130a、130bに含有される導電材は、特に限定されないが、誘電体層111の構成材料が耐還元性を有さなければならないため、非金属を用いることができる。
【0040】
前記導電材は、非金属としてNiまたはNi合金を用いることができる。Ni合金としては、Mn、Cr、Co及びAlから選択される1種以上の元素とNiの合金であることができ、この際、合金中のNiの含有量は95重量%以上とすることができる。
【0041】
第1及び第2内部電極130a、130bの厚さは、用途などに応じて適切に決めることができるが、例えば、0.1〜5μmとすることができ、さらに好ましくは0.1〜2.5μmとすることができる。
【0042】
このような第1及び第2外部電極120a、120bに含有される導電材は、特に限定されないが、Ni、Cu、またはこれらの合金を用いることができる。第1及び第2外部電極120a、120bの厚さは、用途などに応じて適切に決めることができるが、例えば10〜50μmとすることができる。
【0043】
このようなセラミック素体110を構成する誘電体層111は、耐還元性を備えた誘電体組成物を含むことができる。本実施形態による誘電体組成物は、母材粉末と下記の第1〜第4副成分とを含むことができる。
【0044】
このような誘電体組成物は、希土類元素を用いなくても高誘電率及び高温信頼性を確保することができ、低温、例えば1260℃以下の還元雰囲気で焼成が可能であるため、NiまたはNi合金を含む内部電極を用いることができる。
【0045】
以下、本発明の一実施形態による誘電体組成物の各成分をより具体的に説明する。
【0046】
a)母材粉末
母材粉末は、誘電体の主成分であり、BaTiO系誘電体粉末を用いることができ、場合に応じて、BaTiOにCa、Zrなどが一部固溶されて修正された(Ba1−xCa)TiO、(Ba1−xCa)(Ti1−yCa)O、(Ba1−xCa)(Ti1−yZr)OまたはBa(Ti1−yZr)Oなどを用いることができる。この際、母材粉末の平均粒径は、好ましくは0.01〜0.5μm以下とすることができるが、これに制限されるものではない。
【0047】
b)第1副成分
第1副成分として、遷移金属を含む酸化物または炭酸塩を含有することができる。遷移金属酸化物または炭酸塩は、誘電体組成物の耐還元性及び信頼性を付与する役割をする。
【0048】
このような遷移金属は、原子価可変アクセプタ(variable−valence acceptor)元素であり、Mn、V、Cr、Fe、Ni、Co、Cu及びZnからなる群から選択されることができる。遷移金属酸化物または炭酸塩の形態は、特に制限されるものではないが、例えば、MnO、VまたはMnCOなどを用いることができる。
【0049】
この際、好ましい耐還元性及び信頼性を実現するための第1副成分の含量は、母材粉末100モルに対して0.1〜1.0at%(以下「x」という)であることができる。ここで、at%は原子数の組成比を示す。
【0050】
もし、第1副成分の含量(x)が0.1at%未満であると、高温耐電圧特性が悪くなり、還元性雰囲気の焼成で還元されやすく、粒成長の制御が困難になって抵抗劣化が発生する可能性がある。
【0051】
また、第1副成分の含量(x)が1.0at%を超過すると、高温耐電圧特性が悪くなり、焼結温度が上昇し、誘電率が低下して所望の誘電率値を得ることが困難になるという問題が発生する可能性がある。
【0052】
c)第2副成分
第2副成分として、原子価固定アクセプタ(fixed valence acceptor)元素を含む酸化物または炭酸塩を含むことができる。第2副成分は、還元性雰囲気の焼成で非正常粒成長の抑制及び耐還元性を実現する役割をする。このような原子価固定アクセプタ元素として、MgまたはAlなどを用いることができる。
【0053】
この際、好ましい耐還元性を実現するための第2副成分の含量(以下「y」という)は、母材粉末100モルに対して0.01〜5.0at%とすることができる。もし、第2副成分の含量(y)が5.0at%を超過すると、焼成温度が上昇し、高温耐電圧特性が悪くなる問題が発生する可能性がある。
【0054】
d)第3副成分
従来の耐還元性誘電体組成物は、原子価固定アクセプタ元素のみがドーピングされる場合は、信頼性が低下する可能性があるため、希土類元素(rare earth element)をともに添加していた。しかし、本実施形態では、希土類元素を含まず、第3副成分としてドナー(donor)の役割をする元素を含む酸化物または炭酸塩を含む。
【0055】
このようなドナー元素として、例えばCe、Nb、La及びSbのうち少なくとも一つを用いることができる。一方、ドナー元素酸化物または炭酸塩の形態は、特に制限されるものではないが、例えば、CeOまたはCeCOなどを用いることができる。
【0056】
この際、好ましい耐還元性及び信頼性を実現するための第3副成分の含量(以下「z1〜z3」という)は、第3副成分がどのような元素を含むかに応じて変化させることができる。
【0057】
例えば、第3副成分としてCeを用いる場合、第3副成分のat%含量(z1)は0.1≦z1≦x+2yであることができ、第3副成分としてNbを用いる場合、第3副成分の含量(z2)は0.1≦z2≦x+0.5yとすることができる。また、第3副成分としてLaを用いる場合、第3副成分の含量(z3)は0.1≦z3≦x+yとすることができる。
【0058】
第3副成分の含量(z1〜z3)が0.1at%未満であれば高温耐電圧特性が低下し、上記範囲を超過すると耐還元特性が低下するという問題が発生する可能性がある。
【0059】
第2副成分と第3副成分が上記の範囲内で同時ドーピング(co−doping)される場合、第1副成分のみを含有する場合に比べ、信頼性を向上させることができる。
【0060】
e)第4副成分
第4副成分は、焼成温度を低くして焼結を促進する焼結助剤であり、Si、Ba、Ca及びAlなどのうち少なくとも一つを含む酸化物または炭酸塩を含むことができる。他の例として、第4副成分はSi元素を含むガラス(glass)形態を含むことができる。
【0061】
この際、好ましい第4副成分の含量は、母材粉末100モルに対して0.1〜8.0モル%とすることができる。もし、第4副成分の含量が0.1モル%未満であれば焼成温度が高くなって焼結性が低下し、8.0モル%を超過すると粒成長の制御が困難で、焼結性が低下するという問題が発生する可能性がある。
【0062】
以下、実施例及び比較例によって本発明をより詳細に説明するが、これは発明の具体的な理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲が下記実施例により限定されるものではない。
【0063】
[実施例]
表1〜3に記載の組成及び含量に従って、母材粉末と第1〜第4副成分とが含まれた原料粉末を、ジルコニアボールを混合及び分散メディアとして用い、エタノール及びトルエンを溶媒として分散剤及びバインダと混合した後、約20時間、ボールミルしてスラリーを製造した。
【0064】
この際、母材粉末として、平均粒子サイズが170nmであるBaTiO粉末を用いた。製造されたスラリーを小型ドクターブレード(doctor blade)方式のコータ(coater)を利用して、3.5μm及び10〜13μmの厚さのセラミックシートに成形した。
【0065】
成形されたセラミックシートにNi内部電極を印刷した。上下カバーは10〜13μmの厚さのカバー用シートを25層に積層して製作し、21層の印刷された活性シートを加圧及び積層して、圧着バー(bar)を製造した。
【0066】
圧着バーは、切断機を利用して3.2mm×1.6mmサイズのチップに切断した。切断されたチップは脱バインダのためにか焼し、還元雰囲気である0.1%H/99.9%N(H0/H/N雰囲気)、約1100〜1250℃の温度で約2時間焼成した後、約1000℃、N雰囲気で再酸化のために約3時間熱処理した。
【0067】
焼成されたチップに対して、Cuペーストを用いたターミネート工程及び電極工程を経て外部電極を完成し、誘電体厚さが2.0μm以下で、誘電体の層数が20層である3.2mm×1.6mmサイズのMLCCチップを製作した。
【0068】
[評価]
MLCCチップの常温静電容量及び誘電損失は、LCR meterを利用して、1kHz、AC0.5V/μmの条件で測定した。この静電容量とMLCCチップの誘電体の厚さ、内部電極の面積及び積層数から、MLCCチップ誘電体の誘電率を計算した。
【0069】
常温絶縁抵抗は、サンプルを10個ずつ取り、DC10V/μmを印加した状態で60秒経過後に測定した。温度による静電容量の変化率(temperature coefficient of capacitance、TCC)は、−55℃〜125℃の温度範囲で測定した。
【0070】
高温IR昇圧実験は、150℃で電圧段階をDC10V/μmずつ増加させながら抵抗劣化挙動を測定した。ここで、各段階の時間は10分であり、5秒間隔で抵抗値を測定した。
【0071】
この高温IR昇圧実験の結果から高温耐電圧を導出した。高温耐電圧とは、焼成後2μm以下の厚さを有する20層の誘電体を含むMLCCチップに対して、150℃で電圧段階をDC10V/μmずつ10分印加し、このような電圧段階を増加させながら測定する際、IRが10Ω以上に耐える電圧を意味する。
【0072】
RC値は、AC0.5V/μm、1kHzで測定した常温容量値とDC10V/μmで測定した絶縁抵抗値との積である。下記の表2、4及び6に、表1、3及び5に記載の組成からなる誘電体で構成されたプロトタイプ(proto−type)チップの特性を示した。比較例としては、母材粉末100モルに対して、Y0.5モル、MgCO1.0モル、BaCO0.4モル、SiO1.25モル、Al0.1モル、MnO0.05モル及びV0.05モルを有するX5R適用品を例として用いた。
【0073】
表1は、第3副成分がCeOである場合の耐還元性誘電体組成物の実施例を示し、表2は、これらの実施例の組成に該当するプロトタイプチップの特性を示す。
【0074】
【表1】

<第3副成分がCeOである耐還元性誘電体組成物の実施例>
【0075】
【表2】

<第3副成分がCeOである耐還元性誘電体組成物の実施例を用いたプロトタイプチップの特性>
【0076】
実施例1〜7を参照すると、第2副成分であるMgCOの濃度が1モル%に固定された条件で、かつ、第3副成分であるCeOの濃度が2.5モル%に次第に増加するにつれて、高温耐電圧は、実施例3(CeO:0.5モル%)で60V/μmの最高値を示した。そして、この濃度を越えると減少しはじめ、実施例7(CeO:2.5モル%)では5V/μmと、急激に低くなる。
【0077】
このような現象は、実施例7で、常温RC値が430ΩFに急激に低くなる現象と相応する。従って、Ceの濃度が特定濃度以下の範囲では、耐還元性及び信頼性が改善されるが、特定濃度を超過すると耐還元性及び高温耐電圧特性が急激に低下することを確認することができる。
【0078】
また、実施例7、9、11、13及び15を参照すると、第2副成分であるMgCOを含まなかったり(実施例9)、MgCOが0.5モル%(実施例11)、1.0モル%(実施例7)、2.0モル%(実施例13)及び4.0モル%(実施例15)と次第に増加するにつれて、CeOの濃度は、それぞれ0.5モル%(実施例9)、1.5モル%(実施例11)、2.5モル%(実施例7)、4.5モル%(実施例13)及び8.5モル%(実施例15)と増加し、常温RC値及び高温耐電圧が急激に低下することを確認することができる。
【0079】
また、実施例16〜19及び実施例3を参照すると、Mgが1.0モル%で、Ceを0.5モル%とした同様の条件で、第1副成分であるMn及びVを含まない場合には、常温RC値及び高温耐電圧が非常に低い。実施例17(MnO:0、V:0.05at%)のように第1副成分が1at%以上になると、正常なRC値(1680)及び高温耐電圧(40V/μm)特性が実現される。実施例19のように第1副成分の値が高すぎるとRC値(1486)及び高温耐電圧(30V/μm)特性が低下することを確認することができた。
【0080】
よって、それぞれBaTiOに対する第1副成分Mn及びVのat%量をx、第2副成分Mgのat%量をy、第3副成分のCeのat%量をz1とすると、好ましい耐還元性及び信頼性を実現するためのx、y及びzの範囲は、0.1≦x≦1、0≦y≦5及び0.1≦z≦x+2yであるといえる。
【0081】
従って、このような範囲を満たす実施例2〜4及び8の場合、既存の希土類元素を含まなくても、比較例である常用X5R誘電体材料と同等水準以上の特性が実現されることを確認することができる。
【0082】
表3は、第3副成分がLaである場合の耐還元性誘電体組成物の実施例を示し、表4は、これらの実施例の組成に該当するプロトタイプチップの特性を示す。
【0083】
【表3】

<第3副成分がLaである耐還元性誘電体組成物の実施例>
【0084】
【表4】

<第3副成分がLaである耐還元性誘電体組成物の実施例を用いたプロトタイプチップの特性>
【0085】
実施例1及び20〜23を参照すると、第2副成分であるMgCOの濃度が1モル%に固定された条件で、第3副成分であるLaの濃度が0.75モル%に次第に増加するにつれて、高温耐電圧は、実施例21(La:0.25モル%)で60V/μmの最高値を示す。この濃度を超えると前記電圧減少しはじめ、実施例23(La:0.75モル%)で10V/μmと急激に低くなる。
【0086】
このような現象は、実施例23で、常温RC値が1000ΩF以下である780ΩFに急激に低くなる現象と相応する。従って、Laの濃度が特定濃度以下の範囲では、耐還元性及び信頼性が改善されるが、特定濃度を超過すると、耐還元性及び高温耐電圧特性が急激に低下することを確認できた。
【0087】
また、実施例25、23、27及び29を参照すると、第2副成分であるMgCOが0.5モル%(実施例25)、1.0モル%(実施例23)、2.0モル%(実施例27)及び4.0モル%(実施例29)と次第に増加するにつれて、Laの濃度はそれぞれ0.5モル%(実施例25)、0.7モル%(実施例23)、1.25モル%(実施例27)及び2.25モル%(実施例29)と増加し、常温RC値及び高温耐電圧が急激に低下することが確認できた。
【0088】
よって、BaTiOに対する第1副成分Mn及びVのat%量をx、第2副成分Mgのat%量をy、第3副成分のLaのat%量をz2とすると、好ましい耐還元性及び信頼性を実現するためのx、y及びz2の範囲は、0.1≦x≦1、0≦y≦5、0.1≦z2≦x+yであるといえる。
【0089】
従って、このような範囲を満たす実施例20〜22及び24の場合、既存の希土類元素を含まなくても、比較例である常用X5R誘電体材料と同等水準以上の特性が実現されることを確認できた。
【0090】
表5は、第3副成分がNbである場合の耐還元性誘電体組成物の実施例を示し、表6は、これらの実施例の組成に該当するプロトタイプチップの特性を示す。
【0091】
【表5】

<第3副成分がNbである耐還元性誘電体組成物の実施例>
【0092】
【表6】

<第3副成分がNbである耐還元性誘電体組成物の実施例を用いたプロトタイプチップの特性>
【0093】
実施例1及び30〜32を参照すると、第2副成分であるMgCOの濃度が1モル%に固定された条件で、第3副成分であるNbの濃度が0モル%から0.5モル%に次第に増加するにつれて、高温耐電圧は、実施例30(Nb:0.05モル%)及び実施例31(Nb:0.25モル%)で50V/μmの最高値を示す。この濃度を超えると前記電圧は減少しはじめ、実施例32(Nb:0.5モル%)で5Vμmと急激に低くなる。
【0094】
この現象は、実施例32で、常温RC値が40ΩFに急激に低くなる現象と相応する。従って、Nbの濃度が特定濃度以下の範囲では、耐還元性及び信頼性が改善されるが、特定濃度を超過すると耐還元性及び高温耐電圧特性が急激に低下することを確認することができた。
【0095】
また、実施例34、32、36及び38を参照すると、第2副成分であるMgCOが0.5モル%(実施例34)、1.0モル%(実施例32)、2.0モル%(実施例36)及び4.0モル%(実施例38)と次第に増加するにつれて、Nbの濃度はそれぞれ0.35モル%(実施例34)、0.5モル%(実施例32)、0.75モル%(実施例36)及び1.25モル%(実施例38)と増加する。一方、常温RC値及び高温耐電圧が急激に低下することを確認することができた。
【0096】
よって、それぞれBaTiOに対する第1副成分Mn及びVのat%量をx、第2副成分Mgのat%量をy、第3副成分のNbのat%量をz3とすると、好ましい耐還元性及び信頼性を実現するためのx、y及びzの適正範囲は、0.1≦x≦1、0≦y≦5、0.1≦z2≦x+0.5yであるといえる。
【0097】
従って、このような範囲を満たす実施例30、31及び33の場合、既存の希土類元素を含まなくても、比較例である常用X5R誘電体材料と同等水準以上の特性が実現されることを確認することができた。
【0098】
本発明は、上述の実施形態及び添付の図面により限定されるものではなく、添付の請求範囲により限定される。
【0099】
従って、請求範囲に記載された本発明の技術的思想を外れない範囲内で、当技術分野の通常の知識を有する者によって様々な形態の置換、変形及び変更が可能であり、これも本発明の範囲に属する。
【符号の説明】
【0100】
100 積層セラミックキャパシタ
110 セラミック素体
111 誘電体層
120a、120b 第1及び第2外部電極
130a、130b 第1及び第2内部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材粉末と、
前記母材粉末100モルに対して、遷移金属を含む酸化物または炭酸塩0.1〜1.0at%の含量(x)を含む第1副成分と、
前記母材粉末100モルに対して、原子価固定アクセプタ(fixed valence acceptor)元素を含む酸化物または炭酸塩0.01〜5.0at%の含量(y)を含む第2副成分と、
ドナー(donor)元素を含む酸化物または炭酸塩を含む第3副成分と、
焼結助剤を含む第4副成分と、を含有する誘電体組成物。
【請求項2】
前記第3副成分のドナー元素はCeであり、
前記Ceのat%含量(z1)は0.1≦z1≦x+2yであることを特徴とする請求項1に記載の誘電体組成物。
【請求項3】
前記第3副成分のドナー元素はNbであり、
前記Nbのat%含量(z2)は0.1≦z2≦x+0.5yであることを特徴とする請求項1に記載の誘電体組成物。
【請求項4】
前記第3副成分のドナー元素はLaであり、
前記Laのat%含量(z3)は0.1≦z3≦x+yであることを特徴とする請求項1に記載の誘電体組成物。
【請求項5】
前記第3副成分のドナー元素はSbであることを特徴とする請求項1に記載の誘電体組成物。
【請求項6】
前記第4副成分の含量は、前記母材粉末100モルに対して、0.1〜8.0モル%であることを特徴とする請求項1に記載の誘電体組成物。
【請求項7】
前記第4副成分の焼結助剤は、Si、Ba、Ca及びAlのうち少なくとも一つを含む酸化物または炭酸塩であることを特徴とする請求項1または6に記載の誘電体組成物。
【請求項8】
前記第4副成分の焼結助剤は、Siを含むガラス(glass)を含むことを特徴とする請求項1または6に記載の誘電体組成物。
【請求項9】
前記母材粉末は、BaTiO系または(Ba1−xCa)(Ti1−yCa)O、(Ba1−xCa)(Ti1−yZr)O及びBa(Ti1−yZr)Oのうち少なくとも一つであることを特徴とする請求項1に記載の誘電体組成物。
【請求項10】
前記母材粉末は、平均粒径が0.5μm以下であることを特徴とする請求項1または9に記載の誘電体組成物。
【請求項11】
前記第1副成分の遷移金属は、Mn、V、Cr、Fe、Ni、Co、Cu及びZnからなる群から選択された少なくとも一つであることを特徴とする請求項1に記載の誘電体組成物。
【請求項12】
前記第2副成分の原子価固定アクセプタ元素は、Mg及びAlのうち少なくとも一つであることを特徴とする請求項1に記載の誘電体組成物。
【請求項13】
複数の誘電体層が積層されたセラミック素体と、
前記セラミック素体の内部に形成され、非金属を含む内部電極と、
前記セラミック素体の外表面に形成され、前記内部電極と電気的に連結された外部電極と、を備え、
前記誘電体層は、母材粉末と、前記母材粉末100モルに対して、遷移金属を含む酸化物または炭酸塩0.1〜1.0at%の含量(x)を含む第1副成分と、前記母材粉末100モルに対して、原子価固定アクセプタ元素を含む酸化物または炭酸塩0.01〜5.0at%の含量(y)を含む第2副成分と、ドナー元素を含む酸化物または炭酸塩を含む第3副成分と、焼結助剤を含む第4副成分と、を含有するセラミック電子部品。
【請求項14】
前記第3副成分のドナー元素はCeであり、
前記Ceのat%含量(z1)は0.1≦z1≦x+2yであることを特徴とする請求項13に記載のセラミック電子部品。
【請求項15】
前記第3副成分のドナー元素はNbであり、
前記Nbのat%含量(z2)は0.1≦z2≦x+0.5yであることを特徴とする請求項13に記載のセラミック電子部品。
【請求項16】
前記第3副成分のドナー元素はLaであり、
前記Laのat%含量(z3)は0.1≦z3≦x+yであることを特徴とする請求項13に記載のセラミック電子部品。
【請求項17】
前記第3副成分のドナー元素はSbであることを特徴とする請求項13に記載のセラミック電子部品。
【請求項18】
前記第4副成分の含量は、前記母材粉末100モルに対して、0.1〜8.0モル%であることを特徴とする請求項13に記載のセラミック電子部品。
【請求項19】
前記第4副成分の焼結助剤は、Si、Ba、Ca及びAlのうち少なくとも一つを含む酸化物または炭酸塩であることを特徴とする請求項13または18に記載のセラミック電子部品。
【請求項20】
前記第4副成分の焼結助剤は、Siを含むガラス成分を含むことを特徴とする請求項13または18に記載のセラミック電子部品。
【請求項21】
前記母材粉末は、BaTiO系または(Ba1−xCa)(Ti1−yCa)O、(Ba1−xCa)(Ti1−yZr)O及びBa(Ti1−yZr)Oのうち少なくとも一つであることを特徴とする請求項13に記載のセラミック電子部品。
【請求項22】
前記第1副成分の遷移金属は、Mn、V、Cr、Fe、Ni、Co、Cu及びZnからなる群から選択された少なくとも一つであることを特徴とする請求項13に記載のセラミック電子部品。
【請求項23】
前記第2副成分の原子価固定アクセプタ元素は、Mg及びAlのうち少なくとも一つであることを特徴とする請求項13に記載のセラミック電子部品。
【請求項24】
前記各誘電体層の厚さは0.1〜10μmであることを特徴とする請求項13に記載のセラミック電子部品。
【請求項25】
前記内部電極はNiまたはNi合金を含むことを特徴とする請求項13に記載のセラミック電子部品。
【請求項26】
前記内部電極は前記誘電体層と交互に積層されることを特徴とする請求項13または25に記載のセラミック電子部品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−79183(P2013−79183A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−32481(P2012−32481)
【出願日】平成24年2月17日(2012.2.17)
【出願人】(594023722)サムソン エレクトロ−メカニックス カンパニーリミテッド. (1,585)
【Fターム(参考)】