説明

誘電体部品用成形体、およびその製造方法

【課題】優れた成形性と強度を持ち、良好な誘電性を示し、高周波帯で使用することが可能な誘電体部品用成形体を提供する。
【解決手段】ガラス繊維を含有する熱可塑性樹脂からなる基材の表面に、酸素を含む雰囲気の減圧化で、高周波励起プラズマ処理を施し、高周波イオンプレーティング法により、導電性膜および誘電体膜を順次成膜する。高周波励起プラズマ処理を、酸素プラズマおよびアルゴンプラズマの混合プラズマ雰囲気で、導電性膜の下層の成膜を、酸素プラズマおよびアルゴンプラズマの混合プラズマ雰囲気で、その上層の成膜をアルゴンプラズマ雰囲気で、かつ、誘電体膜の成膜を酸素プラズマおよびアルゴンプラズマの混合プラズマ雰囲気で行うことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話などのコンデンサやアンテナなどの誘電体部品に用いられる誘電体部品用成形体、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話などの電波を発信および受信する電気・電子機器においては、コンデンサやアンテナなどの小型の誘電体部品が使用されている。近年、これらの機器において、周波数の高周波化や小型化が望まれており、誘電体部品もより一層の小型化が求められている。
【0003】
従来、これらの誘電体部品としては、セラミックスを焼結した誘電体部品(例えば、セラミックスコンデンサ)が使用されている。しかし、セラミックスは、成形性が低いため、複雑形状を有する誘電体部品用としては適さないという問題がある。また、通常1200〜1400℃の焼結温度が要求されるため、生産性も低いという問題がある。
【0004】
一方、成形性が良好な誘電体材料として合成樹脂があげられるが(例えば、プラスチックフィルムコンデンサ)、合成樹脂材料を携帯電話のコンデンサ、アンテナなどの誘導体部品として用いるには、その比誘電率が低すぎるという問題がある。
【0005】
このため、誘電体として、セラミックスと合成樹脂の誘電体を組み合わせることが考えられるが、合成樹脂の耐熱が低すぎて、セラミックスの焼結温度まで加熱して合成樹脂を含む材料を熱処理できないという問題がある。
【0006】
例えば、特許文献1(特開平10−247817号公報)には、誘電体樹脂からなる基材の表面に導体層を設けた誘電体樹脂アンテナの製造方法が記載されている。誘電体樹脂としては、熱可塑性芳香族ポリエステル、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂などのエンジニアリングプラスチックが使用され、また、繊維状または粒子状の誘電体セラミックスを配合することも開示されている。しかしながら、これらの合成樹脂そのものの比誘電率は10以下であり、比誘電率が低く、誘電体としての用途が限られるという問題がある。また、誘電体セラミックスを配合した場合には、合成樹脂と誘電性セラミックスを混合する工程が増え、成形性が低くなり良好な成形体を得られないという問題もある。この技術では、金型のキャビティ内に導体を配置し、該キャビティ内に誘電体樹脂を注入、硬化させることで誘電体部品を得ている。
【0007】
特許文献2(特開2000−114857号公報)には、汎用樹脂製の誘電体に金属板のパッチ電極を貼り付け、任意に電極位置を決めてアンテナ回路にすることが記載されている。しかし、この方法は、誘電体樹脂からなる基材に金属板を貼り付ける必要があり、工程が複雑になる。
【0008】
特許文献3(特開2005−094068号公報)には、成形性が良好な合成樹脂と誘電性セラミックスの粉末を混合して、100MHz以上の周波数域において比誘電率が15以上である複合材料により構成された樹脂型誘電体アンテナが記載されている。しかし、合成樹脂と誘電性セラミックスの粉末を混合する工程が増え、成形性が低くなり良好な成形体を得ることが難しく、コストがかかるという問題がある。
【0009】
特許文献4(特開2006−100258号公報)には、SrTiO3などの無機フィラーとPPS樹脂などの合成樹脂を混合して、流動性に優れ、射出成形が良好に行える誘電体樹脂組成物が記載されている。しかし、無機フィラーと合成樹脂を混合する工程が増え、コストがかかるという問題がある。
【0010】
特許文献5(特開2006−123232号公報)には、誘電体フィラー含有半硬化樹脂膜と導電層を備えたプリント配線板の製造方法が記載され、キャパシタ回路を得ている。しかし、誘電体フィラー含有半硬化樹脂膜は、フィラー含有半硬化樹脂層と高流動性樹脂膜の積層構造を形成するため、誘電体部品としては用途が限定されるという問題がある。
【特許文献1】特開平10−247817号公報
【特許文献2】特開2000−114857号公報
【特許文献3】特開2005−094068号公報
【特許文献4】特開2006−100258号公報
【特許文献5】特開2006−123232号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、優れた成形性と強度を持ち、良好な誘電性を示し、高周波帯で使用することが可能な誘電体部品用成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る誘電体部品用成形体の製造方法は、熱可塑性樹脂またはガラス繊維を含有する熱可塑性樹脂からなる基材の表面に、酸素を含む雰囲気の減圧化で、高周波励起プラズマ処理を施し、その後、真空成膜法により、該基材の表面に導電性膜を成膜し、該導電性膜の上に誘電体膜を成膜することを特徴とする。
【0013】
前記基材として、例えば、ガラス繊維を含有するポリアミド樹脂またはポリフェニレンサルファイド樹脂を用いることができる。
【0014】
前記高周波励起プラズマ処理を、酸素プラズマ雰囲気、または、アルゴンプラズマと酸素プラズマの混合プラズマ雰囲気で行うことが好ましい。
【0015】
前記導電性膜の成膜を、イオンプレーティング法により、アルゴンプラズマと酸素プラズマの混合雰囲気で行った後、アルゴンプラズマ雰囲気で行うことが好ましい。
【0016】
これにより、前記導電性膜の下層を、酸化された銅により形成し、かつ、前記導電性膜の上層を、酸化されていない銅により形成することが好ましい。
【0017】
前記誘電体膜として、SiO2膜、TiO2膜、またはBaTiO3膜を形成することが好ましい。
【0018】
また、前記誘電体膜の成膜を、イオンプレーティング法により、アルゴンプラズマと酸素プラズマの混合雰囲気で行うことが好ましい。
【0019】
上記の誘電体の成膜後に、成形体を80℃以上の温度で熱処理をすることが好ましい。
【0020】
上記方法により、熱可塑性樹脂またはガラス繊維を含有する熱可塑性樹脂からなる基材と、該基材の上に形成された導電性膜および誘電体膜からなる誘電体部品用成形体が得られる。
【0021】
前記導電性膜の膜厚は、0.5〜10μmであることが好ましい。
【0022】
前記誘電体膜の膜厚は、0.5〜2.0μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、優れた成形性と強度を持ち、良好な誘電性を示し、高周波帯で使用することが可能な誘電体部品用成形体を、低温で形成することができ、コストおよび生産性に優れるという効果が得られる。かかる誘電体部品用成形体は、携帯電話などのコンデンサやアンテナなどの誘電体部品において、周波数の高周波化や小型化の要求に対して好適に対応することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明者は、前記課題を解決するために、鋭意検討を行った結果、誘電体部品用成形体を、熱可塑性樹脂またはガラス繊維を含有する熱可塑性樹脂からなる基材の表面に、酸素を含む雰囲気の減圧化で、高周波励起プラズマ処理を施し、その後、真空成膜法により、該基材の表面に導電性膜を成膜し、該導電性膜の上に誘電体膜を成膜することにより、周波数の高周波化や小型化が要求される携帯電話などのコンデンサやアンテナに好適に用いることができる誘電体部品用成形体を提供できるとの知見を得た。
【0025】
該基材には、熱可塑性樹脂、例えば、ガラス繊維を含有するポリアミド樹脂またはポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂が、機械的強度が高く、耐熱温度も高いことから、金属材料に代わる材料として広く用いられている。
【0026】
これらの基材に、導電性膜と誘電体膜を成膜することにより、誘電体樹脂材料に誘電体セラミックスを配合したり、誘電体樹脂に金属板を貼り付けたりする工程を経ることなく、導体層と誘電体層を備え、成形性の良好な誘電体部品用成形体が、簡易かつ低コストで得られる。
【0027】
しかしながら、ポリアミド樹脂またはPPS樹脂にガラス繊維が含有された基材の表面に、導電性膜および誘電体膜を形成するには、表面に官能基がほとんどないため、プライマーコートなどを塗布する必要がある。かかるプライマーコートの塗布は、工程を複雑にし、基材にゴミを付着させる。また、基材と導電性膜との間に、プライマーコートが存在すると、耐熱性が劣り、膜厚が一定しなくなる。さらには、プライマーの比誘電率が低いことから、所望の特性が得られない。
【0028】
これらの不都合を排除するために、本発明では、酸素雰囲気、または、酸素とアルゴンの混合ガス雰囲気で、基材の表面に励起プラズマ処理を施している。励起された酸素やアルゴン、ないしは、イオン化され高速に加速された酸素イオンやアルゴンイオンによる表面ボンバード効果により、基材の表面に付着している金型油や摺動油などが洗浄され、また、基材に含まれる添加剤も容易に除去および蒸発させられ、さらに、基材の表面が粗化される。よって、従来のように、フロンやアルコール系溶剤による洗浄を、基材に対して予め行う必要もなくなる。
【0029】
また、高速に加速されたイオンの存在により、基材の表面が活性化されるとともに、酸素イオンの存在により、基材の表面に酸素官能基が生成され、導電性膜を形成する金属と基材の表面の酸素との間に反応が生ずる。これにより、基材と導電性膜との間に強い密着力が生ずる。よって、従来のように、真空成膜前に行っていた基材の表面へのプライマーコート層の形成が不要となる。
【0030】
このように、励起プラズマ処理による表面ボンバード効果、洗浄効果、および、励起イオン種による活性化堆積作用により、基材と導電性膜との密着強度は十分となる。さらに、酸素を介して導電性膜と誘電体膜の間も強い密着力が得られる。
【0031】
なお、励起プラズマ処理は、酸素プラズマの雰囲気、または、アルゴンプラズマと酸素プラズマの混合プラズマ雰囲気で行う高周波励起プラズマ処理が望ましい。
【0032】
高周波励起プラズマ処理は、平面電極を用いたDCプラズマやアンテナを使い、高周波の電波をチャンバー内に放射することで、さらに高密度のプラズマを得る。得られた高周波プラズマは、エネルギーが高いため、より高い効果が得られる。なお、電波法で、真空装置やスパッタリング装置には13.5MHzの周波数が割り当てられている。
【0033】
高周波(13.5MHz)を用いる場合、高周波励起プラズマ処理は、高周波出力を1.0kW以上として、3分以上行うことが望ましい。高周波出力が1.0kW未満では、基材の洗浄が不十分になるため、好ましくない。なお、2.0kWを超えると、電源に、大きく高価格な装置が要求され、また、必要以上に出力を上げることとなるので、高周波出力を2.0kW以下とすることが好ましい。
【0034】
また、処理時間が3分未満では、基材の洗浄と表面活性化効果が不十分となり、基材と導電性膜との密着強度が低くなる可能性が生ずる。なお、5分を超えても、これらの効果に変化はないため、コストの面から処理時間は5分以下とすることが好ましい。
【0035】
本発明は、高周波励起プラズマ処理を、反応ガスである酸素ガスの存在下で行うことにより、基材の表面に酸素官能基を付与する点に特徴があり、当該効果の観点から、導入する雰囲気ガスは、酸素ガス単独とすることもできる。酸素ガスのみで処理した方が、官能基の生成が多くなるので、ガス流量が少なくて済む利点があるが、酸素ガスは、アルゴンガスよりも高価であり、アルゴンガスは、酸素より重い気体であり、基材のエッチング効果が高いため、酸素とアルゴンの混合ガスとすることにより効率を高めることができる。酸素ガスは、多く入れすぎると、汚れなどと反応し、汚れなどを酸化および炭化させるので、量産の際には、コスト面も考え、酸素ガスの使用量を抑制することが望ましいこととなる。
【0036】
以上のことから、混合ガスを用いる場合には、酸素とアルゴンの混合ガスにおけるアルゴンガスの比率を、体積比で80%以下とすることが好ましい。すなわち、導電性膜が酸素と反応することにより、基材と導電性膜との間に強固な密着力が得られるという効果があるから、そのような効果を得るためには、酸素ガスの量が体積比で20%以上となるように調整することが好ましい。アルゴンガスが多いと、基材を洗浄する力は強くなるが、酸素ガスの量が体積比で20%未満であると、基材の表面の活性化が不十分となり、また、酸素官能基の量も不十分となり、良好な密着性を得られない可能性がある。
【0037】
高周波励起プラズマ処理において、ガス流量は、酸素ガスのみの場合、150〜260cc/minとすることが望ましく、混合ガスの場合、150〜400cc/minとすることが望ましい。ただし、混合ガスにおいても、酸素ガスのガス流量を260cc/min以下にする。ガス流量が150cc/min未満では、生成するイオンの量が少なく、基材の表面の洗浄と活性化が不十分になる可能性がある。一方、酸素ガスのガス流量が260cc/minを超えると、基材の表面が活性化しすぎ、また、その後に成膜される導電性膜を必要以上に酸化させ、抵抗値の低下を招くことになるので、好ましくない。さらに、混合ガスのガス流量が400cc/minを超えると、真空度が悪化するため、好ましくない。
【0038】
基材の表面の洗浄と、表面に官能基を付与する工程が完了した後、導電性膜の下層を成膜する工程を行う。導電性膜には、比抵抗が小さく、安価なことから、銅を用いることが好ましい。なお、銅のほか、銀、ニッケルなどを用いることもできる。導電性膜の下層の成膜工程においても、基材の表面の洗浄の工程と同様に、酸素雰囲気、または、酸素とアルゴンの混合ガス雰囲気で、導電性膜の下層の成膜を行なう。さらに、ガス流量とガスの混合比率を、前処理工程と同一にすることが、量産の観点からは望ましい。
【0039】
導電性膜の下層の成膜工程において、ガス流量は、酸素ガスのみの場合、150〜260cc/minとすることが望ましく、混合ガスの場合、150〜400cc/minとすることが望ましい。ただし、混合ガスにおいても、酸素ガスの量を260cc/min以下にする。ガス流量が150cc/min未満では、生成するイオンの量が少なく、基材と導電性膜の下層の活性化が不十分になる可能性がある。一方、酸素ガスのガス流量が260cc/minを超えると、導電性膜の下層が活性化しすぎて、銅を必要以上に酸化させ、抵抗値の低下を招くことになるので、好ましくない。さらに、酸素イオンが、堆積した導電性膜の下層と反応して、得られる導電性膜の色が黒くなってしまうおそれがある。また、混合ガスのガス流量が400cc/minを超えると、真空度が悪化するため、好ましくない。また、酸素ガスが増えると、チャンバー内の汚れと反応し、汚れが炭化し、ガスを発生するので好ましくない。
【0040】
その後、導電性膜の上層の成膜を成膜する工程を行う。導電性膜の上層の成膜は、アルゴン雰囲気で行なうことが望ましい。酸素ガスを含む雰囲気で成膜された導電性膜の下層は、基材の表面の酸素と結合することで、導電性膜と基材の間に強い密着力をもたらし、一方、アルゴン雰囲気で成膜された導電性膜の上層は、酸化されないので、純粋な銅と同様な抵抗値を得ることができる。
【0041】
従って、導電性膜の下層の膜厚を、導電性膜の全体に対して15〜60%に抑える。導電性膜の下層の膜厚が、導電性膜の全体に対して15%未満であると、基材との十分な密着力が得られず、60%を超えると、希望の抵抗値を得るのに必要な成膜時間が伸びる。
【0042】
また、比抵抗を十分に低くするためには、導電性膜の全体の膜厚を厚くする必要が生じるが、膜厚を増加しすぎると、膜応力が高まって、導電性膜の剥離の原因となるため、好ましくない。形成される導電性膜の膜厚を、0.5〜10μmとすることが望ましく、より望ましくは0.5〜2μmとする。導電性膜の全体の膜厚が0.5μm未満では、膜本来の構造が粗になり、耐食性が著しく低下し、十分な特性を得られない。導電性膜の全体の膜厚が2.0μmを超えると、導電率はほとんど変化しないにもかかわらず、膜応力が強くなり、基材との密着力や、誘電体膜との密着力が低下し、成膜後に自然剥離を生ずるおそれが高くなる。また、必要以上に厚くすると、成膜に時間がかかり、生産性が低下する。
【0043】
なお、高周波励起プラズマ処理、および導電性膜の成膜のいずれにおいても、酸素ガスまたはアルゴンガスとして、不純物ガスの混入を防止する観点から、純度が99.9%以上であることが望ましい。
【0044】
導電性膜の成膜を完了した後、導電性膜の上に誘電体膜の成膜を行う。誘電体膜の材料は、SiO2(比誘電率:3.8)、TiO2(比誘電率:114)、またはBaTiO3(比誘電率:800)である。これらのセラミックスは、蒸発させやすく、成膜速度が速い点で好ましい。さらに、不純物が混じらないために、材料の純度は99%以上が好ましい。また、粒のサイズとしては、1〜5mmの大きさが、蒸発させ易さや充填性から望ましい。
【0045】
誘電体膜の膜厚は、0.5〜2.0μmとすることが望ましい。誘電体膜の膜厚が0.5μm未満では、誘電体膜にピンホールが発生するおそれがある。特に、製品の立ち面では、誘電体膜が薄くなり、未着部分が発生しやすいので、注意が必要となる。誘電体膜の膜厚が2μmより厚いと、成膜時間がかかり、膜応力が大きくなり、誘電体膜にクラックが入りやすくなる。
【0046】
誘電体膜の成膜時には、酸素ガスの雰囲気、または、酸素とアルゴンの混合ガス雰囲気で、成膜することが望ましい。酸素ガスが存在することにより、誘電体膜まで酸化されて、結晶性が向上し、透過率も上がる。
【0047】
また、誘電体膜を形成した後、SUS製の金属マスクを被せて、公知の電極の形成方法により、任意の形状の銅からなる電極を形成することも可能である。あるいは、誘電体膜を形成した後、銀ペースト等を塗布して、電極を製造することも可能である。さらに、必要に応じて、金属、無機物、またはポリマーなどの保護膜を形成してもよい。
【0048】
さらに、本発明の基材として、熱可塑性樹脂、特に、エンジニアリングプラスチックを使用することにより、得られる効果を大きいものとすることができる。なお、エンジニアリングプラスチックとしては、ポリアミド、ポリアセタール、シンジオタクチック・ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、フッ素樹脂、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー、ポリエーテルニトリル、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミドまたはポリイミドがあげられる。これらは、表面官能基をほとんど含まないために、難接着性の材料であるが、基材として使用し、本発明の製造方法により、基材の表面に酸素官能基が導入され、誘電体部品用成形体における基材と導電性膜との密着性を向上させることができる。なお、ガラス繊維を含有するこれらの基材にも、本発明を好適に適用することができる。
【0049】
なお、基材の形成は、各種プラスチックを射出成形、押出成形、または注型成形することにより行い、本発明は、いずれの成形方法により得られた基材でも、使用することができる。
【0050】
導電性膜および誘電体膜の成膜法としては、導電性膜および誘電体膜を均一に形成させることができ、かつ、耐環境性に優れた導電性膜および誘電体膜とすることができる真空成膜法により行うことが好ましい。導電性膜の材料として使用する銅は、抵抗加熱、誘導加熱、電子ビーム照射、または、ホロカソード放電などの手段で蒸発させることができる。また、誘電体膜の材料も、酸化物で蒸発する材料であれば、特に限定はされない。
【0051】
蒸発粒子を励起させ、イオン化してプラスチック成形品表面に付着成膜させる励起プラズマ処理については、従来の公知技術を踏まえつつ、適宜、実施することができる。なお、低周波励起プラズマ処理を用いることもできるが、高周波励起プラズマ処理を用いることが、効果の観点から好ましい。
【0052】
真空成膜法としては、スパッタリング法を用いることもできるが、電子銃で高融点ターゲットを溶解し、金属を蒸発させ、基材に膜を形成するイオンプレーティング法が好ましい。イオンプレーティング法は、広い面積について、速い成膜速度で膜を形成することができる。成膜は、バッチ方式、あるいは連続方式のいずれでも行うことが可能である。
【0053】
また、本発明の実施に際しては、高周波イオンプレーティング装置を用いることで、高周波励起プラズマ処理による前洗浄および官能基付与から、導電性膜および誘電体膜の成膜処理まで、連続的に同じチャンバーで行うことができる。これに対して、通常の蒸着器を使用すると、高周波プラズマを起こせず、単に抵抗過熱で基材に成膜するので、反応も弱く、密着力も低くなるので好ましくない。
【0054】
さらに、成膜後の膜の欠陥を減らすために、基材の熱変形温度付近で熱処理(アニール)をすることが望ましい。
【実施例】
【0055】
(実施例1)
ポリアミド樹脂とガラス繊維とが50質量%ずつ配合されたレニー(登録商標)(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、2051DS)からなり、大きさ70×50mmで、厚さ2mmの基材を、イオンプレーティング装置(神港精機株式会社製、AAIH−W36200SBT)に取り付け、1×10-2Paまで真空排気後、最初に、酸素ガスとアルゴンガスを、各150cc/minずつ、合計のガス流量300cc/minで導入し、得られた混合ガス雰囲気において、高周波出力1kWをかけて、13.5MHzの高周波励起プラズマ処理を5分間、行い、生成したイオンで基材を洗浄し、活性化させた。
【0056】
次に、酸素ガスとアルゴンガスを、各150cc/minずつ、合計のガス流量が300cc/minの割合となるように導入し、酸化された銅を0.3μm成膜した。続いて、アルゴンガスのみを、ガス流量300cc/minの割合で導入し、銅を0.9μm成膜した。従って、得られた導電性膜は、下層が酸化された銅からなり、かつ、上層が酸化されていない銅からなり、膜厚は、1.2μmである。
【0057】
その後、誘電体膜として、酸素ガスとアルゴンガスを、各150cc/minずつ、合計のガス流量300cc/minで導入し、BaTiO3(株式会社高純度化学研究所製、純度99%以上、粒径:2mm)を使用して、電流値を200mAから2分の間に徐々に上げた後、500mAで1分、成膜し、膜厚0.5μmを得た。
【0058】
その後、乾燥器で、100℃、1時間、アニールを行なった。
【0059】
以上により得られた誘電体部品用成形体について、以下のように評価した。
【0060】
[初期付着の確認試験]
碁盤目テープ試験により、初期付着の確認試験を実施した。具体的には、誘電体膜の上から、2×2mmの切れ目を入れ、100のマス目についてセロファンテープ(ニチバン製、CT405AP−15)を貼り付けた。そして、該セロファンテープをひきはがした時に、基材から剥離が生じるか否かを調べることで、基材と導電性膜との密着性について評価した。
【0061】
実施例1については、100のマス目中、1つも剥離は生じなかった。
【0062】
[耐湿試験]
基材と導電性膜の密着性、および導電性膜と誘電体膜の密着性に対する湿度の影響を調べた。具体的には、温度60℃、湿度95%の環境に、240時間および600時間のいずれかの間、保持した後、外観の変化を観察するとともに、前述の碁盤目テープ試験を実施した。
【0063】
実施例1については、240時間および600時間のいずれの場合でも、外観に変化はなく、また、碁盤目テープ試験の結果でも、100のマス目中、1つも剥離は生じなかった。
【0064】
[耐熱試験]
基材と導電性膜の密着性、および導電性膜と誘電体膜の密着性に対する温度の影響を調べた。具体的には、温度85℃、湿度90%の環境に、240時間の間、保持した後、外観の変化を観察するとともに、前述の碁盤目テープ試験を実施した。
【0065】
実施例1については、外観に変化はなく、また、碁盤目テープ試験の結果でも、100のマス目中、1つも剥離は生じなかった。
【0066】
[シート抵抗の測定]
誘電体膜のシート抵抗を、表面抵抗率計(三菱化学株式会社製、Loresta MP WCP−T350)を用いて測定した。
【0067】
実施例1の誘電体膜については、106Ω・cm以上の抵抗値を示し、測定不能であり、絶縁体であることが確認された。
【0068】
[比誘電率の測定]
誘電率測定用インターフェイス(英国ソーラトロン社製、1296型)を用いて測定した。測定周波数は1MHzとした。
【0069】
実施例1の基材の比誘電率は37(1MHz)であったが、誘電体膜を成膜後は、比誘電率が107(1MHz)であった。
【0070】
(実施例2)
ポリアミド樹脂とガラス繊維とが50質量%ずつ配合されたレニー(登録商標)(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、2051H)からなり、大きさ50×50mm、厚さ2mmの基材を使用したことと、誘電体膜の成膜に、SiO2(株式会社高純度化学研究所製、純度99%以上、粒径:2mm)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、誘電体部品用成形体を得た。
【0071】
得られた誘電体部品用成形体について、実施例1と同様に評価した。
【0072】
実施例2において、誘電体膜を成膜後の比誘電率は、56(1MHz)であった。その他の測定結果は、実施例1と同様であった。
【0073】
(実施例3)
実施例1と同様に誘電体膜を成膜後、一度、大気に開放し、得られた誘電体膜の上に、電極が形成される形状のSUS製の金属マスクを被せて、再度、真空に引いて、アルゴンガスのみを、ガス流量300cc/minで導入し、銅を1.0μm成膜することにより、電極を形成して、所望の誘電体部品が得られることを確認した。
【0074】
(実施例4)
誘電体膜の成膜に、TiO2(株式会社高純度化学研究所製、純度99%以上、粒径:2mm)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、誘電体部品用成形体を得た。
【0075】
実施例4において、誘電体膜を成膜後の比誘電率は、87(1MHz)であった。その他の測定結果は、実施例1と同様であった。
【0076】
(実施例5)
PPS樹脂(東洋紡績株式会社製、TS401、比誘電率:4)からなる基材を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、誘電体部品用成形体を得た。
【0077】
得られた誘電体部品用成形体について、実施例1と同様に評価した。
【0078】
実施例5において、誘電体膜を成膜後の比誘電率は、13(1MHz)であった。その他の測定結果は、実施例1と同様であった。
【0079】
(実施例6)
成膜後にアニールを行わなかった以外は、実施例1と同様にして、誘電体部品用成形体を得た。
【0080】
得られた誘電体膜は、誘電体膜を成膜後は、比誘電率が96(1MHz)で、その他の測定結果も実施例1と同様であった。しかしながら、実施例1と比較すると、比誘電率が約10%低くなり、また、誘電体膜の表面が干渉色を示した。
【0081】
(比較例1)
導電性膜の成膜時に、酸素ガスを含まず、アルゴンガスをガス流量300cc/minで導入した以外は、実施例1と同様にして、誘電体部品用成形体を得た。
【0082】
得られた誘電体部品用成形体について、実施例1と同様に評価した。
【0083】
比較例1においては、耐湿試験で剥離した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂またはガラス繊維を含有する熱可塑性樹脂からなる基材の表面に、酸素を含む雰囲気の減圧化で、高周波励起プラズマ処理を施し、その後、真空成膜法により、該基材の表面に導電性膜を成膜し、該導電性膜の上に誘電体膜を成膜することを特徴とする誘電体部品用成形体の製造方法。
【請求項2】
前記基材として、ガラス繊維を含有するポリアミド樹脂またはポリフェニレンサルファイド樹脂を用いることを特徴とする請求項1に記載の誘電体部品用成形体の製造方法。
【請求項3】
前記高周波励起プラズマ処理を、酸素プラズマ雰囲気、または、アルゴンプラズマと酸素プラズマの混合プラズマ雰囲気で行うことを特徴とする請求項1または2に記載の誘電体部品用成形体の製造方法。
【請求項4】
前記導電性膜の成膜を、イオンプレーティング法により、アルゴンプラズマと酸素プラズマの混合雰囲気で行った後、アルゴンプラズマ雰囲気で行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の誘電体部品用成形体の製造方法。
【請求項5】
前記導電性膜の下層を、酸化された銅により形成し、かつ、前記導電性膜の上層を、酸化されていない銅により形成することを特徴とする請求項4に記載の誘電体部品用成形体の製造方法。
【請求項6】
前記誘電体膜として、SiO2膜、TiO2膜、またはBaTiO3膜を形成することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の誘電体部品用成形体の製造方法。
【請求項7】
前記誘電体膜の成膜を、イオンプレーティング法により、アルゴンプラズマと酸素プラズマの混合雰囲気で行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の誘電体部品用成形体の製造方法。
【請求項8】
前記誘電体膜の成膜後に、80℃以上の温度で熱処理をすることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の誘電体部品用成形体の製造方法。
【請求項9】
熱可塑性樹脂またはガラス繊維を含有する熱可塑性樹脂からなる基材と、該基材の上に形成された導電性膜および誘電体膜からなり、請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法により製造されたことを特徴とする誘電体部品用成形体。
【請求項10】
前記導電性膜の膜厚は、0.5〜10μmであることを特徴とする請求項9に記載の誘電体部品用成形体。
【請求項11】
前記誘電体膜の膜厚は、0.5〜2.0μmであることを特徴とする請求項9に記載の誘電体部品用成形体。

【公開番号】特開2008−111182(P2008−111182A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−296530(P2006−296530)
【出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】