説明

誘電特性に優れた樹脂/金属積層体及び回路用基板

【課題】比誘電率が低く、表面平滑性の高いポリイミドフィルムを提供する。
【解決手段】(a)主鎖に脂環式構造を有するポリアミド酸と、(b)シラノール基を有する、籠状のシルセスキオキサンの部分開裂構造体と、(c)溶媒と、を含有するポリアミド酸組成物が加熱されて得られる、比誘電率が3以下であるポリイミドフィルムが提供される。このポリイミドフィルムを用いれば、比誘電率が低く、表面平滑性の高い絶縁層を有するポリイミド金属積層体、及び電子回路用基板を作製することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電特性に優れたポリイミドフィルム、ポリイミド金属積層体、及びそれを用いた電子回路用基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチック材料は、高い絶縁性、寸法安定性、及び易成形性等の特徴を有することから、信頼性が要求される絶縁部材として、回路用基板等の電子機器や電子部品に広く用いられている。最近では、電子機器の処理速度や伝達速度の高速化に伴い、電気信号の高周波化が進んでいる。
【0003】
電気信号の伝送損失は、通常、周波数、比誘電率、及び誘電正接の積に比例する。このため、使用される電気信号の周波数が高いほど、伝送損失が大きくなる。電気信号の伝送損失を少なくして、電気信号の高周波化に対応するために、低誘電率及び低誘電正接であるプラスチック材料が求められている。
【0004】
比誘電率は、通常、材料の種類に依存することが知られている。このため、電気信号の高周波化に対応すべく、比誘電率の低いプラスチック材料を選択することが提案されている。比誘電率の低いプラスチック材料としては、ポリエチレン(PE)等のオレフィン樹脂、及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂がある。しかしながら、オレフィン樹脂は、耐熱性が低い(例えば100℃以下)という問題がある。また、フッ素樹脂は、耐熱性は十分であるが成形加工性が良好ではないという問題がある。
【0005】
これに対してポリイミドは、プラスチック材料のなかでも高い耐熱性を有する材料として知られている。但し、ポリイミドの多くは比誘電率が高いため、ポリイミドの比誘電率を低くする方法が種々提案されている。例えば、ポリイミド骨格にフッ素基を導入することで、ポリイミドの比誘電率を低くする方法が提案されている。しかしながら、ポリイミド骨格に導入するフッ素基が多過ぎると、このポリイミドをプリント配線基板の材料として使用した場合に、銅(Cu)配線材料との密着性が低下したり、耐溶剤性が低下したりするという不具合が生ずることがあった。
【0006】
また、ポリイミド骨格を嵩高い骨格とし、樹脂の密度を低くすることで誘電率を低くする方法も提案されている。しかしながら、ポリイミド骨格を嵩高くすることで、ポリイミド主鎖同士のパッキングが損なわれるため、機械強度が低下するという不具合があった。
【0007】
また、ポリイミド等のプラスチック材料を多孔質化させることで、比誘電率を低くする方法が提案されている(例えば特許文献1〜4参照)。これらの方法は、プラスチック材料を、比誘電率の低い空隙が多く形成された多孔質体とすることによって、プラスチック材料全体としての比誘電率を低くしようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−201362号公報
【特許文献2】特開2000−154273号公報
【特許文献3】特許第3115215号公報
【特許文献4】特開2002−3636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、ポリイミドと、籠状のシルセスキオキサン(Polyhedral Oligomeric SilSesquioxanes(POSS))と、からなる複合材料が、比誘電率の低いプラスチック材料として精力的に検討されている。POSSはナノサイズレベルの空隙を有する化合物であるため、ポリイミドと複合化して得られる複合材料の比誘電率が低下する。
【0010】
ポリイミドに対するPOSSの分散性は、例えば、POSSに導入される官能基の種類により変動する。例えば、極性の高い官能基を有するPOSSは、ポリイミドに対する分散性が比較的良好である。しかしながら、官能基の比誘電率が高いため、得られる複合材料の誘電特性が低下する。
【0011】
一方、極性の低い官能基を有するPOSSを用いると、得られる複合材料の誘電特性が向上する。しかしながら、ポリイミドに対する分散性が低下するため、両者を均一に混合することが困難になる。従って、得られる複合材料を用いて形成したフィルムは、相分離挙動により表面平滑性が低下するため、膜厚がバラついてしまう。このように表面平滑性の低下したフィルムを電子回路用基板に使用した場合、インピーダンスの整合が困難となるので、伝送損失が増大し易いといった問題がある。
【0012】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、比誘電率が低く、表面平滑性の高いポリイミドフィルムを提供することにある。
【0013】
また、本発明の課題とするところは、比誘電率が低く、表面平滑性の高いポリイミドフィルム、これを絶縁層として備えたポリイミドフィルム金属積層体、及び電子回路用基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、主鎖に脂環式構造を有するポリイミドと、シラノール基を有する、籠状のシルセスキオキサンの部分開裂構造体と、を含む複合材料が、比誘電率が低く表面平滑性の高いポリイミドフィルムを形成可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、本発明によれば、以下に示すポリイミドフィルム、ポリイミド金属積層体、及び電子回路用基板が提供される。
【0016】
[1](a)主鎖に脂環式構造を有するポリアミド酸と、(b)シラノール基を有する、籠状のシルセスキオキサンの部分開裂構造体と、(c)溶媒と、を含有するポリアミド酸組成物が加熱されて得られる、比誘電率が3以下であるポリイミドフィルム。
【0017】
[2]前記ポリアミド酸組成物が、前記シルセスキオキサンの部分開裂構造体の融点以上の温度に加熱されて得られる前記[1]に記載のポリイミドフィルム。
【0018】
[3]その両表面の算術平均粗さが2.5μm以下である前記[1]又は[2]に記載のポリイミドフィルム。
【0019】
[4]前記(a)ポリアミド酸が、(A)シクロヘキサンジアミンを含むジアミン成分と、(B)テトラカルボン酸二無水物成分と、に由来する繰り返し単位を有する前記[1]〜[3]のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
【0020】
[5]前記(A)ジアミン成分が、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニルを更に含む前記[4]に記載のポリイミドフィルム。
【0021】
[6]前記(A)ジアミン成分と前記(B)テトラカルボン酸二無水物成分との合計100重量部に対する、前記(b)シルセスキオキサンの部分開裂構造体の含有量が1〜200重量部である前記[4]又は[5]に記載のポリイミドフィルム。
【0022】
[7]前記(b)シルセスキオキサンの部分開裂構造体が、エチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、フェニル基、イソブチル基、及びイソオクチル基からなる群より選択される少なくとも一種の官能基を有する前記[1]〜[6]のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
【0023】
[8]前記(b)シルセスキオキサンの部分開裂構造体が、下記一般式(1)で表される化合物である前記[1]〜[7]のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
【0024】
【化1】

【0025】
前記一般式(1)中、Xはシクロヘキシル基を示す。
【0026】
[9]孔径が0.1μm以上の多数の空隙を有する前記[8]に記載のポリイミドフィルム。
【0027】
[10]前記[1]〜[9]のいずれかに記載のポリイミドフィルムからなる絶縁層と、前記絶縁層の少なくとも一方の面上に配置された金属層と、を備えたポリイミド金属積層体。
【0028】
[11]前記[10]に記載のポリイミド金属積層体を備えた電子回路用基板。
【0029】
[12]前記絶縁層の厚みが50μm以下のフレキシブル回路基板である前記[11]に記載の電子回路用基板。
【発明の効果】
【0030】
本発明のポリイミドフィルムは、比誘電率が低く、表面平滑性が高い。このため、本発明のポリイミドフィルムを用いれば、比誘電率が低く、表面平滑性の高い絶縁層を有するポリイミド金属積層体、及び電子回路用基板を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例1で得たポリイミドフィルムの断面の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0033】
1.ポリイミドフィルム
本発明のポリイミドフィルムは、(a)主鎖に脂環式構造を有するポリアミド酸と、(b)シラノール基を有する、籠状のシルセスキオキサンの部分開裂構造体と、(c)溶媒と、を含有するポリアミド酸組成物を用いて得られるフィルムである。以下、その詳細について説明する。
【0034】
((a)ポリアミド酸)
ポリアミド酸組成物には、(a)主鎖に脂環式構造を有するポリアミド酸、(b)シラノール基を有する、籠状のシルセスキオキサンの部分開裂構造体、及び(c)溶媒が含有されている。ポリアミド酸は、例えば、下記一般式(I)で表される繰り返し単位を含む。
【0035】
【化2】

【0036】
一般式(I)中、Aは2価の基を示し、Bは4価の基を示し、mは1以上の整数を示す。なお、AとBの少なくとも一方は脂環式構造を有する基である。好ましくは、Aが脂環式構造を有する2価の基であり、Bが芳香環を有する4価の基である。主鎖に脂環式構造を有するポリアミド酸を用いると、シルセスキオキサンの部分開裂構造体を良好な状態に分散させることができ、表面平滑性に優れたポリイミドフィルムとすることができる。なお、主鎖に脂環式構造が存在しないポリアミド酸を用いた場合には、シルセスキオキサンの部分開裂構造体が均一に分散し難く、得られるポリイミドフィルムの表面平滑性が低下する。
【0037】
ポリアミド酸は、例えば、下記一般式(A)で表されるジアミンを含むジアミン成分と、下記一般式(B)で表されるテトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸二無水物成分と、を重縮合反応させることによって製造することができる。
【0038】
【化3】

【0039】
一般式(A)中のA、及び一般式(B)中のBは、いずれも一般式(I)中のA及びBと同義である。
【0040】
一般式(A)で表されるジアミンとしては、脂環式構造を有するジアミンが好ましい。脂環式構造を有するジアミンの具体例としては、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノメチルシクロヘキサン、1,3−ジアミノメチルシクロヘキサン、1,2−ジアミノメチルシクロヘキサン、1,2−ジ(2−アミノエチル)シクロヘキサン、1,3−ジ(2−アミノエチル)シクロヘキサン、1,4−ジ(2−アミノエチル)シクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン等を挙げることができる。なかでも、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン等のシクロヘキサンジアミンが好ましい。これらの脂環式構造を有するジアミンは、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
なお、ジアミン成分としては、上記の脂環式構造を有するジアミンとともに、芳香族ジアミンを用いることも好ましい。芳香族ジアミンの具体例としては、m−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン等のフェニレンジアミン;3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル等のジアミノジフェニルエーテル;3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド等のジアミノジフェニルスルフィド;3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン等のジアミノジフェニルスルホン;3,3’−ジアミノベンゾフェノン等のジアミノベンゾフェノン;3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン等のジアミノジフェニルメタン;
【0042】
2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン等のビス(アミノフェニル)プロパン;2,2−ビス(3−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン等のビス(アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン;3,3’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド等のジアミノジフェニルスルホキシド;1,3−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン等のビス(アミノフェニル)ベンゼン;1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン等のビス(アミノフェノキシ)ベンゼン;
【0043】
1,3−ビス(3−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン等のビス(アミノフェニルスルフィド)ベンゼン;1,3−ビス(3−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルスルホン)ベンゼン等のビス(アミノフェニルスルホン)ベンゼン;1,3−ビス(3−アミノベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノベンジル)ベンゼン等のビス(アミノベンジル)ベンゼン;1,3−ビス(3−アミノ−4−フェノキシベンゾイル)ベンゼン等のビス(アミノフェノキシベンゾイル)ベンゼン;
【0044】
3,3’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、3,3’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル等のビス(アミノフェノキシ)ビフェニル;ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル等のビス〔(アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル;ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン等のビス〔(アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン;ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド等のビス〔(アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド;ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン等のビス〔(アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン;
【0045】
ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン等のビス〔(アミノフェノキシ)フェニル〕メタン;2,2−ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン等のビス〔(アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン;2,2−ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン等のビス〔(アミノフェノキシ)フェニル〕−ヘキサフルオロプロパン;
【0046】
9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、9,9−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−メチル−4−アミノフェニル)フルオレン、9,9−ビス(2−エチル−4−アミノフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−エチル−4−アミノフェニル)フルオレン等のビス(アミノフェニル)フルオレン;9,9−ビス(4−アミノフェニル)−1−メチルフルオレン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)−2−メチルフルオレン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)−3−メチルフルオレン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)−4−メチルフルオレン等のビス(アミノフェニル)−メチルフルオレン等を挙げることができる。なかでも、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニルが好ましい。これらの芳香族ジアミンは、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
一般式(B)中のBは、芳香族テトラカルボン酸二無水物から誘導される4価の基でありうる。即ち、一般式(B)で表されるテトラカルボン酸二無水物としては、芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましい。芳香族テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物、メロファン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルフィド二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ビフェニル二無水物、2,2−ビス〔(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパン二無水物等を挙げることができる。なかでも、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が好ましい。これらの芳香族テトラカルボン酸二無水物は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0048】
ポリアミド酸を調製する際に反応させる、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分とのモル比(仕込み比)は、M1:M2=0.900〜0.999:1.00(M1:テトラカルボン酸二無水物成分のモル数、M2:ジアミン成分のモル数)とすることが好ましい。これにより、得られるポリアミド酸の主鎖をアミン末端とすることができる。なお、M1:M2は0.92〜0.995:1.00とすることが更に好ましく、0.95〜0.995:1.00とすることが特に好ましく、0.97〜0.995:1.00とすることが最も好ましい。
【0049】
((b)シルセスキオキサンの部分開裂構造体)
シルセスキオキサンの部分開裂構造体は、籠状のシルセスキオキサンの一部のケイ素(Si)−酸素(O)結合が開裂してできたケイ素化合物であって、シラノール基を有する化合物である。より具体的には、一般式[XSiO3/2(nは6〜14の整数を示す)で表される籠状のシルセスキオキサンの一部のケイ素(Si)−酸素(O)結合が開裂してできた、一般式[XSiO3/2n−m(O1/2H)2+m(nは6〜14の整数を示し、mは0又は1を示す)で表わされるケイ素化合物である。
【0050】
シルセスキオキサンの部分開裂構造体としては、一般式[XSiO3/2(O1/2H)で表されるトリシラノール体(下記一般式(1))、一般式[XSiO3/2(O1/2H)で表されるトリシラノール体(下記一般式(4))、一般式[XSiO3/211(O1/2H)で表されるトリシラノール体(下記一般式(5))、一般式[XSiO3/2(O1/2H)で表されるジシラノール体(下記一般式(2)及び(3))が更に好ましく、一般式[XSiO3/2(O1/2H)で表されるトリシラノール体(下記一般式(1))が特に好ましい。なお、下記一般式(1)〜(5)中、同一のケイ素原子(Si)に結合している「X」と「OH」は、相互の位置を交換してもよい。これらのシルセスキオキサンの部分開裂構造体は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0051】
【化4】

【0052】
一般式(1)〜(5)中のXは、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のシクロアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数7〜20のアラルキル基、炭素数6〜20アリール基である。「炭素数1〜20のアルキル基」の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、i−ペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、i−ヘキシル基、n−ヘプチル基、i−ヘプチル基、n−オクチル基、i−オクチル基、n−ノニル基、i−ノニル基、n−デシル基、i−デシル基、n−ウンデシル基、i−ウンデシル基、n−ドデシル基、i−ドデシル基等を挙げることができる。
【0053】
「炭素数6〜20のシクロアルキル基」の具体例としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、メチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基等を挙げることができる。
【0054】
「炭素数2〜20のアルケニル基」の具体例としては、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、シクロヘキセニル基、シクロヘキセニルエチル基、ノルボルネニルエチル基等を挙げることができる。
【0055】
「炭素数7〜20のアラルキル基」の具体例としては、ベンジル基、フェネチル基、2−メチルベンジル基、3−メチルベンジル基、4−メチルベンジル基、2,6−ジメチルベンジル基、2,4−ジメチルベンジル基、2,5−ジメチルベンジル基、2−エチルベンジル基、3−エチルベンジル基、4−エチルベンジル基、2−メチルフェネチル基、3−メチルフェネチル基、4−メチルフェネチル基、2−プロピルベンジル基、3−プロピルベンジル基、4−プロピルベンジル基、2−エチル−6−メチルベンジル基、2−エチル−5−メチルベンジル基、2−エチル−4−メチルベンジル基、6−エチル−2−メチルベンジル基、5−エチル−2−メチルベンジル基、4−エチル−2−メチルベンジル基、2,6−ジメチルフェネチル基、2,5−ジメチルフェネチル基、2,4−ジメチルフェネチル基、2−エチルフェネチル基、3−エチルフェネチル基、4−エチルフェネチル基、2,6−ジエチルベンジル基、2,5−ジエチルベンジル基、2,4−ジエチルベンジル基、2−エチル−6−メチルフェネチル基、2−エチル−5−メチルフェネチル基、2−エチル−4−メチルフェネチル基、6−エチル−2−メチルフェネチル基、5−エチル−2−メチルフェネチル基、4−エチル−2−メチルフェネチル基、2,6−ジエチルフェネチル基、2,5−ジエチルフェネチル基、2,4−ジエチルフェネチル基等を挙げることができる。
【0056】
「炭素数6〜20アリール基」の具体例としては、フェニル基、炭素数1〜14(好ましくは炭素数1〜8)のアルキル基で一置換又は複数置換されたフェニル基等を挙げることができる。一般式(1)〜(5)中のXとしては、エチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、フェニル基、イソブチル基、又はイソオクチル基が好ましい。なお、シルセスキオキサンの部分開裂構造体は、シラノール基同士の縮合反応により形成される、2量体以上の多量体を使用してもよく、一般式(1)〜(5)で表される単量体と組み合わせて使用してもよい。
【0057】
一般的に、シクロヘキシル基等の非極性基を有するシルセスキオキサン(非開裂構造体)とポリイミドとの複合材料を調製しようとする場合、ポリイミドに対するシルセスキオキサンの分散性が低く、ポリイミド中にシルセスキオキサンを均一に分散させることが困難である。これに対して、本発明において用いるシルセスキオキサンの部分開裂構造体は、上記シルセスキオキサンの一部のケイ素(Si)−酸素(O)共有結合が開裂してなる、その分子構造中にシラノール基を有するシラノール体である。シルセスキオキサンの部分開裂構造体は、ポリイミド中への分散性が高い。これは、シルセスキオキサンの部分開裂構造体の分子中に極性のシラノール基が存在するため、比較的極性の高いポリイミドに対する分散性が向上したものと推測される。
【0058】
また、シルセスキオキサンの部分開裂構造体は、シルセスキオキサンのケイ素(Si)−酸素(O)共有結合の一部のみが開裂した化合物であるため、シルセスキオキサンに特有のナノサイズレベルの空隙が保持されている。このため、シルセスキオキサンの部分開裂構造体を用いて得られる本発明のポリイミドフィルムは、比誘電率が低いものである。また、本発明のポリイミドフィルムは、シルセスキオキサンの部分開裂構造体が比較的均一に分散しているため、表面平滑性が高く、電子回路用基板として使用した場合に伝送損失を低減可能であるといった顕著な効果を示す。
【0059】
ポリアミド酸組成物に含有されるシルセスキオキサンの部分開裂構造体の量は、ポリアミド酸を調製する際に反応させるジアミン成分(A)とテトラカルボン酸二無水物成分(B)との合計100重量部に対して、1〜200重量部であることが好ましく、3〜100重量部であることが更に好ましい。
【0060】
((c)溶媒)
溶媒の種類は特に限定されないが、ポリイミド酸やポリアミド酸を調製するために用いられるモノマー等を溶解可能な溶媒が好ましく、非プロトン性極性溶媒が更に好ましく、非プロトン性アミド系溶媒が特に好ましい。非プロトン性アミド系溶媒の具体例としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等を挙げることができる。これらの溶媒は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0061】
また、必要に応じて、上記の非プロトン性アミド系溶媒以外の「その他の溶媒」を用いることもできる。「その他の溶媒」の具体例としては、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、o−クロロトルエン、m−クロロトルエン、p−クロロトルエン、o−ブロモトルエン、m−ブロモトルエン、p−ブロモトルエン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール等を挙げることができる。
【0062】
ポリアミド酸組成物に含有される溶媒の量は、樹脂固形分(ポリアミド酸)の濃度が1〜40重量%となる量であることが好ましく、10〜30重量%となる量であることが更に好ましい。
【0063】
(その他の成分)
ポリアミド酸組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で必要に応じて、上記の(a)ポリアミド酸、(b)シルセスキオキサンの部分開裂構造体、及び(c)溶媒以外の「その他の成分」が含有されていてもよい。「その他の成分」としては、フィラー、難燃剤、熱安定剤、酸化安定剤、及び耐光安定剤等の各種添加剤を挙げることができる。
【0064】
難燃剤の例には、有機ハロゲン系難燃剤;有機ハロゲン系難燃剤と、酸化アンチモン、ホウ酸亜鉛、錫酸亜鉛、及び酸化鉄からなる群より選ばれる一種以上との組み合わせ;有機リン系難燃剤とシリコーン化合物との組み合わせ;赤燐等の無機燐;オルガノポリシロキサンと有機金属化合物との組み合わせ;ヒンダードアミン系難燃剤;水酸化マグネシウム、アルミナ、硼酸カルシウム、及び低融点ガラス等の無機系難燃剤等が含まれる。これらの難燃剤は、一種単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
有機ハロゲン系難燃剤の例には、ハロゲン化ビスフェノール化合物、ハロゲン化エポキシ化合物、及びハロゲン化トリアジン化合物からなる群より選ばれた少なくとも一種類の化合物が含まれる。樹脂の難燃性を効果的に高める点で、有機ハロゲン系難燃剤に含まれるハロゲン原子は、臭素と塩素の少なくとも一方であることが好ましい。このようなハロゲン化ビスフェノール化合物の例には、テトラブロモビスフェノールA、ジブロモビスフェノールA、テトラクロロビスフェノールA、ジクロロビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールF、ジブロモビスフェノールF、テトラクロロビスフェノールF、ジクロロビスフェノールF、テトラブロモビスフェノールS、ジブロモビスフェノールS、テトラクロロビスフェノールS、及びジクロロビスフェノールS等が含まれる。
【0066】
有機リン系難燃剤は、ホスフェート化合物とホスファゼン化合物の少なくとも一方であることが好ましい。ホスフェート化合物の例には、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシリルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシリルジフェニルホスフェート、トリルジキシリルホスフェート、トリス(ノリルフェニル)ホスフェート、及び(2−エチルヘキシル)ジフェニルホスフェート等のリン酸エステル;レゾルシノールジフェニルホスフェート、及びハイドロキノンジフェニルホスフェート等の水酸基含有リン酸エステル;レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)、ハイドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)、ビスフェノール−Aビス(ジフェニルホスフェート)、ビスフェノール−Sビス(ジフェニルホスフェート)、レゾルシノールビス(ジキシリルホスフェート)、ハイドロキノンビス(ジキシリルホスフェート)、ビスフェノール−Aビス(ジトリルホスフェート)、ビフェノール−Aビス(ジキシリルホスフェート)、及びビスフェノール−Sビス(ジキシリルホスフェート)等の縮合リン酸エステル化合物;トリラウリルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリトリルホスフィン、トリフェニルホスフィンオキシド、及びトリトリルホスフィンオキシド等のホスフィン又はホスフィンオキシド化合物等が含まれる。
【0067】
ホスファゼン化合物の例には、ヘキサフェノキシシクロトリホスファゼン、モノフェノキシペンタキス(4−シアノフェノキシ)シクロトリホスファゼン、ジフェノキシテトラキス(4−シアノフェノキシ)シクロトリホスファゼン、トリフェノキシトリス(4−シアノフェノキシ)シクロトリホスファゼン、テトラフェノキシビス(4−シアノフェノキシ)シクロトリホスファゼン、ペンタフェノキシ(4−シアノフェノキシ)シクロトリホスファゼン、モノフェノキシペンタキス(4−メトキシフェノキシ)シクロトリホスファゼン、ジフェノキシテトラキス(4−メトキシフェノキシ)シクロトリホスファゼン、トリフェノキシトリス(4−メトキシフェノキシ)シクロトリホスファゼン、テトラフェノキシビス(4−メトキシフェノキシ)シクロトリホスファゼン、ペンタフェノキシ(4−メトキシフェノキシ)シクロトリホスファゼン、モノフェノキシペンタキス(4−メチルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、ジフェノキシテトラキス(4−メチルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、トリフェノキシトリス(4−メチルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、テトラフェノキシビス(4−メチルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、ペンタフェノキシ(4−メチルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、トリフェノキシトリス(4−エチルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、トリフェノキシトリス(4−プロピルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、モノフェノキシペンタキス(4−シアノフェノキシ)シクロトリホスファゼン、ジフェノキシテトラキス(4−ヒドロキシフェノキシ)シクロトリホスファゼン、トリフェノキシトリス(4−ヒドロキシフェノキシ)シクロトリホスファゼン、テトラフェノキシビス(4−ヒドロキシフェノキシ)シクロトリホスファゼン、ペンタフェノキシ(4−ヒドロキシフェノキシ)シクロトリホスファゼン、トリフェノキシトリス(4−フェニルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、トリフェノキシトリス(4−メタクリルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、及びトリフェノキシトリス(4−アクリルフェノキシ)シクロトリホスファゼン等が含まれる。
【0068】
熱安定剤や酸化安定剤の例には、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製の商品名「イルガノックス」や商品名「イルガフォス」等が含まれる。耐光安定剤の例には、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製の商品名「TINUVIN」や商品名「CHIMASSORB」等が含まれる。
【0069】
(ポリイミドフィルム)
本発明のポリイミドフィルムは、上記のポリアミド酸組成物を加熱し、ポリアミド酸をイミド化することによって得られるフィルムである。このようにして得られる本発明のポリイミドフィルムの比誘電率(ε)は3以下であり、好ましくは2.9以下、更に好ましくは2.8以下である。このように、本発明のポリイミドフィルムは比誘電率が低いため、電気信号の伝送損失の小さい電子回路用基板を提供することができる。なお、ポリイミドフィルムの比誘電率の下限値については特に限定されないが、通常は2.0程度である。また、ポリイミドフィルムの比誘電率は、温度:23℃、相対湿度:50%、測定周波数:12.5GHzの条件で測定及び算出される値である。
【0070】
本発明のポリイミドフィルムの熱膨張係数は、好ましくは30ppm/K以下であり、更に好ましくは25ppm/K以下である。このように、本発明のポリイミドフィルムの熱膨張係数は小さいため、例えば銅(熱膨張係数:約17ppm/K)等の金属からなる金属層と積層体を構成した場合に、熱膨張差に基づく反りや歪みが生じ難く、温度安定性に優れている。なお、ポリイミドフィルムの熱膨張係数の下限値については特に限定されないが、通常は5ppm/K程度である。また、ポリイミドフィルムの熱膨張係数は、熱分析装置を使用し、乾燥空気雰囲気下、100〜200℃の範囲で測定される。ポリイミドフィルムの熱膨張係数は、ポリイミドの骨格や、ポリイミドと籠状のシルセスキオキサンの部分開裂構造体が有する官能基によって調整することができる。
【0071】
本発明のポリイミドフィルムは、ポリイミド中にシルセスキオキサンの部分開裂構造体が比較的均一に分散しているものであるため、表面平滑性が高い。具体的には、本発明のポリイミドフィルムの両表面の算術平均粗さ(表面粗さ(Ra))は、好ましくは2.5μm以下であり、更に好ましくは2.0μm以下である。このため、本発明のポリイミドフィルムを用いれば、電気信号の伝送損失の小さい電子回路用基板を提供することができる。なお、ポリイミドフィルムの表面粗さ(Ra)の下限値については特に限定されないが、通常は0.001μm程度である。ポリイミドフィルムの算術平均粗さ(表面粗さ(Ra))は、触針式表面形状測定装置(日本真空技術社製、商品名「Dektak3」)を用いて、測定長2mm、カットオフ波長未設定で測定することができる。なお、算術平均粗さ(Ra)の定義はJIS表面粗さ(B0601)に従った。ここで、「Ra」とは、粗さ曲線からその平均線の方向に測定長さLの部分を抜き取り、この抜き取り部分の平均線から測定曲線までの偏差の絶対値を合計し、平均した値をいう。
【0072】
本発明のポリイミドフィルムは、シクロヘキシル基を有するシルセスキオキサンの部分開裂構造体を使用した場合、図1に示すとおり、フィルム中に多数の空隙が形成される。その空隙の孔径は通常0.1μm以上であり、好ましくは0.1〜10μm程度である。
【0073】
(ポリイミドフィルムの作製)
本発明のポリイミドフィルムは、例えば、上述のポリイミド組成物をガラス基板等の表面に塗布して薄膜状とした後、加熱して、イミド化(閉環)させるとともに溶媒を除去することによって作製することができる。加熱温度は、イミド化が進行する温度以上とすればよいが、シルセスキオキサンの部分開裂構造体の融点以上に加熱することが好ましく、具体的には250〜400℃とすることが好ましい。シルセスキオキサンの部分開裂構造体の融点以上に加熱することで、ポリイミドフィルムの空隙率を上昇させることができるからである。なお、加熱時間はとくに限定されないが、例えば3分〜12時間程度である。
【0074】
ポリアミド酸のイミド化は、通常、大気圧条件下で行えばよいが、加圧条件下でも行ってもよい。また、ポリアミド酸をイミド化させる際の雰囲気は特に制限されないが、通常、空気、窒素、ヘリウム、ネオン、又はアルゴン雰囲気等であり、好ましくは不活性気体の窒素又はアルゴン雰囲気でイミド化させる。
【0075】
2.ポリイミド金属積層体及び電子回路用基板
本発明のポリイミド積層体は、前述のポリイミドフィルムからなる絶縁層と、この絶縁層の少なくとも一方の面上に配置された金属層(導体層)とを備える。なお、金属層は絶縁層の両面上に配置されていてもよく、複数の絶縁層を備えてもよい。本発明のポリイミド金属積層体は、比誘電率が低く、耐熱性の高いポリイミドからなる、表面平滑性の高い絶縁層を備えている。このため、本発明のポリイミド金属積層体は、各種の電子回路用基板、特に高周波回路用基板として好ましく用いられる。
【0076】
金属層を構成する金属の具体例としては、銅、アルミニウム、ニッケル、金、銀、及びステンレス等を挙げることができる。なかでも、導電性が高い等の観点から銅が好ましい。金属層の厚みは特に限定されないが、通常、2〜150μm、好ましくは3〜50μmである。また、絶縁層の厚みについても特に限定されないが、通常、5〜100μm、好ましくは10〜50μmである。
【0077】
本発明のポリイミド金属積層板は、例えば以下に示す(1)〜(3)等の方法によって製造することができる。
(1)前述のポリイミドフィルムと、金属箔とを熱圧着する方法
(2)前述のポリイミドフィルムの表面上に、金属層をスパッタ、蒸着等により形成する方法
(3)前述のポリアミド酸組成物を金属箔の表面上に塗布した後、加熱してポリアミド酸をイミド化してポリイミドフィルムを形成する方法
【0078】
なお、上記(1)の方法における熱圧着温度は、ポリイミドと金属箔との組み合わせにもよるが、ポリイミドのガラス転移温度以上とすることが好ましく、具体的には130〜300℃程度とすることが好ましい。
【0079】
本発明の電子回路用基板は、高耐熱性であるとともに、低誘電率である絶縁層を有する。このため、本発明の電子回路用基板は、高周波回路を有する電子部品、例えば携帯電話機の内蔵アンテナ、自動車の車載レーダのアンテナ、家庭用の高速無線通信等の高周波を用いた種々のアプリケーションに幅広く適用できる。
【実施例】
【0080】
次に、本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0081】
1.使用した各種成分(略称)
(1)ポリアミド酸の構成成分
(1−1)ジアミン
CHDA:トランス1,4−ジアミノシクロヘキサン
mBP :4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル
PDA :p−フェニレンジアミン
ODA :4,4’−ジアミノジフェニルエーテル
【0082】
(1−2)テトラカルボン酸二無水物
BPDA:3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
PMDA:ピロメリット酸二無水物
【0083】
(2)シルセスキオキサン及びその部分開裂構造体(POSS)
SO1400(ハイブリッドプラスチック社製):一般式(1)で表される化合物(X=シクロヘキシル基)、融点275℃
SO1458(ハイブリッドプラスチック社製):一般式(1)で表される化合物(X=フェニル基)、融点243℃
SO1450(ハイブリッドプラスチック社製):一般式(1)で表される化合物(X=i-ブチル基)、融点268℃
SO1455(ハイブリッドプラスチック社製):一般式(1)で表される化合物(X=i-オクチル基)、融点 常温以下
MS0840(ハイブリッドプラスチック社製):一般式[XSiO3/2で表される化合物(X=フェニル基)、融点(分解点)434℃
【0084】
(3)溶媒
DMAc:N,N−ジメチルアセトアミド
NMP :N−メチル−2−ピロリドン
【0085】
2.ポリイミドフィルムの作製
(実施例1)
(1)ポリアミド酸Aの調製
撹拌機及び窒素導入管を備えた反応容器中にCHDA(14.84g)を入れ、NMP341gに溶解した後、撹拌しながらBPDAの粉末37.87gを添加して白色の懸濁液を得た。得られた懸濁液をオイルバスにて100℃で12分間激しく撹拌することで、容器中の固形分が溶解し、透明な粘稠液体を得た。反応容器をオイルバスから外した後、NMPを85g添加し、室温で10時間撹拌することにより、ポリアミド酸Aのワニスを得た。得られたワニスのポリアミド酸固形分の含有率は11重量%であり、対数粘度は1.50dl/gであった。
【0086】
(2)ポリアミド酸組成物の調製
プラスチック製の容器に、ポリアミド酸Aのワニスと、SO1400とを、CHDAとBPDAの合計100重量部に対してSO1400が64重量部となるように投入した。更に、ポリアミド酸組成物の固形分の含有率が11重量%になるように、NMPを518重量部添加した。これらを混練機を用いて混ぜ合わせることにより、ポリアミド酸組成物を調製した。
【0087】
(3)ポリイミドフィルムの作製
調製したポリアミド酸組成物を、ガラス板上に、乾燥膜厚が約30μmとなるようにベーカーアプリケーターで塗布した。イナートオーブンで、窒素雰囲気下、300℃まで2時間かけて昇温し、更に300℃で2時間加熱してイミド化させた。塗膜が形成されたガラス板を約40℃の水に浸漬し、塗膜をガラス板から剥離して厚さ約30μmのポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムの内部には、孔径1μm以上の多数の空隙が存在していた。
【0088】
(実施例2)
イミド化温度を250℃としたこと以外は、実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを得た。
【0089】
(実施例3)
SO1400をSO1458に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを得た。
【0090】
(実施例4)
(1)ポリアミド酸Bの調製
撹拌機及び窒素導入管を備えた反応容器中にCHDA(10.45g)を入れ、NMP285gに溶解した後、撹拌しながらBPDAの粉末34.95gを添加して白色の懸濁液を得た。得られた懸濁液をオイルバスにて100℃で12分間激しく撹拌することで、容器中の固形分が溶解し、透明な粘稠液体を得た。反応容器をオイルバスからはずして、容器内の温度を室温に戻した後、NMPを28g添加し、次にmBPの粉末10.51gを約30分かけて徐々に添加した。39gのNMPを更に加え、10時間撹拌してポリアミド酸Bのワニスを得た。得られたワニスのポリアミド酸固形分の含有率は13.7重量%であり、対数粘度は1.0dl/gであった。
【0091】
(2)ポリアミド酸組成物の調製
プラスチック製の容器に、ポリアミド酸Bのワニスと、SO1400とを、CHDAとmBPとBPDAの合計100重量部に対してSO1400が64重量部となるように投入した。更に、ポリアミド酸組成物の固形分の含有率が11重量%になるように、NMPを403重量部添加した。これらを混練機を用いて混ぜ合わせることにより、ポリアミド酸組成物を調製した。
【0092】
(3)ポリイミドフィルムの作製
実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを得た。
【0093】
(実施例5)
SO1400をSO1450に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを得た。
【0094】
(実施例6)
プラスチック製の容器に、ポリアミド酸Aのワニスと、SO1455とを、CHDAとBPDAの合計100重量部に対してSO1455が35重量部となるように投入した。更に、ポリアミド酸組成物の固形分の含有率が11重量%になるように、NMPを283重量部添加した。これらを混練機を用いて混ぜ合わせることにより、ポリアミド酸組成物を調製した。これを、実施例1と同様の方法でイミド化してポリイミドフィルムを得た。
【0095】
(比較例1)
SO1400を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを得た。
【0096】
(比較例2)
SO1400をMS0840に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを得た。
【0097】
(比較例3)
(1)ポリアミド酸Cの調製
撹拌機及び窒素導入管を備えた容器に、20.55gのPDAと、溶媒としての301gのNMPとを装入し、温度を50℃に昇温してPDAが溶解するまで撹拌した。溶液の温度を室温まで下げた後、55.34gのBPDAを約30分かけて投入し、129gのNMPを更に加えて、20時間撹拌してポリアミド酸Cのワニスを得た。得られたワニスのポリアミド酸固形分の含有率は15重量%であり、対数粘度は1.3dl/gであった。
【0098】
(2)ポリアミド酸組成物の調製
プラスチック製の容器に、ポリアミド酸Cのワニスと、SO1400とを、PDAとBPDAの合計100重量部に対してSO1400が64重量部となるように投入した。更に、ポリアミド酸組成物の固形分の含有率が11重量%になるように、NMPを363重量部添加した。これらを混練機を用いて混ぜ合わせることにより、ポリアミド酸組成物を調製した。
【0099】
(3)ポリイミドフィルムの作製
実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを得た。
【0100】
(比較例4)
SO1400をMS0840に変更したこと以外は、比較例3と同様にしてポリイミドフィルムを得た。
【0101】
(比較例5)
(1)ポリアミド酸Dの調製
撹拌機及び窒素導入管を備えた容器に、24.03gのODAと、溶媒として139.5gのDMAcを装入し、ODAが溶解するまで撹拌した。次いで、この溶液に、25.78gのPMDAを約30分かけて投入し、更に、103.7gのDMAcを加えて、20時間撹拌してポリアミド酸Dのワニスを得た。得られたワニスのポリアミド酸固形分の含有率は17重量%であり、対数粘度は1.2dl/gであった。
【0102】
(2)ポリアミド酸組成物の調製
プラスチック製の容器に、ポリアミド酸Dのワニスと、SO1400とを、ODAとPMDAの合計100重量部に対してSO1400が64重量部となるように投入した。更に、ポリアミド酸組成物の固形分の含有率が11重量%になるように、DMAcを312重量部添加した。これらを混練機を用いて混ぜ合わせることにより、ポリアミド酸組成物を調製した。
【0103】
(3)ポリイミドフィルムの作製
実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを得た。
【0104】
(比較例6)
SO1400をMS0840に変更したこと以外は、比較例5と同様にしてポリイミドフィルムを得た。
【0105】
3.各種物性値の測定
実施例及び比較例で作製したポリイミドフィルムの熱膨張係数、比誘電率、及び表面粗さの測定結果を表1に示す。また、これらの物性値の測定方法を以下に示す。
(1)熱膨張係数
熱分析装置(商品名「TMA50シリーズ」、島津製作所社製)を使用し、乾燥空気雰囲気下、100〜200℃の範囲でポリイミドフィルムの熱膨張係数(ppm/K)を測定した。
【0106】
(2)比誘電率
分子配向計(商品名「MOA−2012A」、新王子製紙社製)を使用し、温度23℃、相対湿度50%、測定周波数12.5GHzにおけるポリイミドフィルムの比誘電率(ε)を測定及び算出した。
【0107】
(3)表面粗さ
触針式表面形状測定装置(商品名「DEKTAK3」、日本真空技術社製)を使用し、ポリイミドフィルムの表面粗さ(Ra)を計測した。
【0108】
4.透過型電子顕微鏡(TEM)写真
図1に、実施例1で得たポリイミドフィルムの断面の透過型電子顕微鏡(TEM)写真を示す。図1に示すように、ポリイミドフィルムの内部には、その孔径(幅)が1μm以上の細長い空隙(孔)が多数形成されていることが分かる。
【0109】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明のポリイミドフィルムは、比誘電率が低く、表面平滑性が高いので、各種の電子回路用基板、特に高周波回路用基板を攻勢するための材料として好適である。また、本発明の電子回路用基板は、携帯電話機の内蔵アンテナ、自動車の車載レーダのアンテナ、家庭用の高速無線通信等の高周波を用いた種々のアプリケーションに幅広く適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)主鎖に脂環式構造を有するポリアミド酸と、
(b)シラノール基を有する、籠状のシルセスキオキサンの部分開裂構造体と、
(c)溶媒と、を含有するポリアミド酸組成物が加熱されて得られる、比誘電率が3以下であるポリイミドフィルム。
【請求項2】
前記ポリアミド酸組成物が、前記シルセスキオキサンの部分開裂構造体の融点以上の温度に加熱されて得られる請求項1に記載のポリイミドフィルム。
【請求項3】
その両表面の算術平均粗さが2.5μm以下である請求項1又は2に記載のポリイミドフィルム。
【請求項4】
前記(a)ポリアミド酸が、
(A)シクロヘキサンジアミンを含むジアミン成分と、(B)テトラカルボン酸二無水物成分と、に由来する繰り返し単位を有する請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリイミドフィルム。
【請求項5】
前記(A)ジアミン成分が、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニルを更に含む請求項4に記載のポリイミドフィルム。
【請求項6】
前記(A)ジアミン成分と前記(B)テトラカルボン酸二無水物成分との合計100重量部に対する、前記(b)シルセスキオキサンの部分開裂構造体の含有量が1〜200重量部である請求項4又は5に記載のポリイミドフィルム。
【請求項7】
前記(b)シルセスキオキサンの部分開裂構造体が、エチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、フェニル基、イソブチル基、及びイソオクチル基からなる群より選択される少なくとも一種の官能基を有する請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリイミドフィルム。
【請求項8】
前記(b)シルセスキオキサンの部分開裂構造体が、下記一般式(1)で表される化合物である請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリイミドフィルム。
【化1】

(前記一般式(1)中、Xはシクロヘキシル基を示す)
【請求項9】
孔径が0.1μm以上の多数の空隙を有する請求項8に記載のポリイミドフィルム。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載のポリイミドフィルムからなる絶縁層と、
前記絶縁層の少なくとも一方の面上に配置された金属層と、を備えたポリイミド金属積層体。
【請求項11】
請求項10に記載のポリイミド金属積層体を備えた電子回路用基板。
【請求項12】
前記絶縁層の厚みが50μm以下のフレキシブル回路基板である請求項11に記載の電子回路用基板。

【図1】
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【公開番号】特開2012−107121(P2012−107121A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256929(P2010−256929)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【出願人】(503231882)エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ (179)
【Fターム(参考)】