説明

誘電率および/または透磁率を測定する方法および装置

【課題】 反射測定のみで、非導電材料の試料の誘電率および/または透磁率を、その透磁率が1でない場合でも測定することができる方法を提供する。
【解決手段】 この方法は、a)アドミタンスYtestcoを表わす変数を測定するステップ(94)と、b)試料と、誘電材料層によって、導電性の鎧装から隔てられた少なくとも一本の導電性の芯線を有している第2の導波管の、芯線と鎧装とを結ぶ短絡路を形成されている一端部との間の界面で反射された電磁波の振幅および位相のみから、アドミタンスYtestccを表わす変数を測定するステップ(98)と、c)アドミタンスYtestcoおよびYtestccを表わす変数から、試料の誘電率および/または透磁率を計算するステップ(100)とを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非導電材料の試料の誘電率、および/または透磁率を測定する方法および装置に関する。
【0002】
本明細書においては、特記しない限り、用語「誘電率」は比誘電率を、また用語「透磁率」は比透磁率を意味している。
【背景技術】
【0003】
非導電材料の試料の誘電率を測定するための、次のステップを含む方法がある。
a)非導電材料の試料と、第1の導波管の一端部との間の界面で反射された電磁波の振幅および位相のみから、アドミタンスYtestcoを表わす変数を測定するステップ。この一端部には、電磁波が伝播する、誘電材料から成る層によって、導電性の鎧装から隔てられている少なくとも1本の芯線が存在している。
【0004】
このような方法は、例えば特許文献1に開示されている。
【0005】
この特許文献1においては、ある材料の試料の導電率が10-2S・m-1未満、好ましくは10-3S・m-1未満である場合、その試料は、非導電性であるとみなされる。
【0006】
このような従来技術による方法は、誘電率を測定される試料からの磁気波の反射のみしか用いないので、「反射状態における電磁解析」の方法として知られている。
【0007】
このような反射を用いる測定には、多くの利点がある。このような測定によって、例えば次のことが可能になる。
− 液体、固体、軟質材料(粉末、弾性材料など)のいずれでも、測定を行うことができる。
− 固体試料に、平面形状以外の特定の形状とするための機械加工を施す必要がないため、非破壊測定を行うことができる。
− 広い周波数範囲(例えば0MHz〜20GHz)において、材料を解析することができる。
【0008】
しかしながら、このような従来技術による方法は、透磁率が1ではない試料に対しては、実施不可能であるという欠点を有する。したがって、このような従来技術による方法では、例えばフェライトの誘電率を測定することはできない。
【0009】
さらに、このような従来技術では、誘電率しか測定することができず、透磁率を測定することはできない。
【0010】
これらの欠点を克服するために、誘電率と透磁率との両方を測定する方法が開発されている。これらの方法においては、試料からの電磁波の反射に加えて、試料内の電磁波の透過が用いられる。反射および透過を用いる、このような測定方法の1つが、特許文献2に記載されている。
【0011】
反射および透過を用いる、このような測定方法においては、試料を、電磁波用の導波管内に収容することができるように作り上げるか、または機械加工する必要がある。これは欠点である。
【0012】
この欠点を克服するために、特許文献3には、試料の同じ面上に、並べて配置した2つの導波管を用いることが提案されている。電磁波は、第1の導波管内に送り込まれる。電磁波の一部分は、試料と第1の導波管との界面で、試料から反射され、残りの部分は、試料中を伝播して、第2の導波管に達する。反射された電磁波、および透過した電磁波から、誘電率または透磁率が測定される。しかしながら、測定の一部が、透過測定であるという事実によって、大きな制約が課される。例えば2つの導波管の間の距離が、正確に知られていなければならない。さらに、この手法では、常に、2つの導波管の併用を余儀なくされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】フランス国特許公開第2651580号公報
【特許文献2】米国特許公開第2007−090846号公報
【特許文献3】米国特許公開第2008−191711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、これらの欠点の少なくとも1つを克服することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的を達成するために、本発明は、非導電材料の試料の誘電率および/または透磁率を測定するための、次のステップを含む方法を提供するものである。
b)非導電材料の試料と、電磁波が伝播する誘電材料層によって、導電性の鎧装から隔てられた少なくとも1本の導電性の芯線を有している第2の導波管の一端部との間の界面で反射された電磁波の振幅および位相のみから、アドミタンスYtestccを表わす変数を測定するステップであって、界面で反射される電磁波の位相および/または振幅が、第2の導波管の上述の一端部で、芯線と鎧装とが短絡されていない場合に、界面で反射される電磁波の位相および/または振幅と異なるように、第2の導波管における上述の界面を形成する一端部に、芯線と鎧装とを結ぶ短絡路が設けられているステップと、
c)アドミタンスYtestcoおよびYtestccを表わす変数から、試料の誘電率、および/または透磁率を計算するステップ。
【0016】
この方法は、透磁率が1である試料だけではなく、透磁率が1でない試料の誘電率の測定にも用いることができる。例えばフェライトの透磁率を、この方法によって測定することができる。
【0017】
この方法によると、さらに、試料からの電磁波の反射のみによって、その試料の透磁率と誘電率との両方を測定することができる。
【0018】
いかなる透過測定も用いることなく、これらの結果が得られる。より詳細には、試料から反射される電磁波の位相、および/または振幅を変更するための、以下において、「部分的な」短絡路と呼ばれる短絡路の使用は、通常用いられる、透過測定を行う方法の代替になるので有利である。したがって、透過測定の実行に伴う種々の問題が回避される。このような部分的な短絡路は、較正段階において用いられる公知の短絡路と区別することができる。公知の短絡路は、導波管の特性の測定のために用いられる。このような公知の短絡路は、試料の特性の測定のためには用いられない。本発明の短絡路とは対照的に、このような公知の短絡路は、導波管の特性のみが特定されるように、試料から導波管を分離するために用いられる。
【0019】
最後に、本発明の方法は、さらに、反射測定と透過測定との両方を用いる方法に対して、反射測定のみを用いる方法が有する利点を全て有する。
【0020】
この方法の実施形態においては、次の特徴の1つ以上を備えている場合がある。
・ ステップa)とステップb)との間に、芯線と鎧装とが互いに電気的に絶縁されている第1の導波管から、芯線と鎧装とが電気的に短絡されている第2の導波管に切り替えるために、芯線と鎧装との間に電気的に接続されているスイッチのスイッチングを行うステップを含んでいる。
・ アドミタンスYtestcoを表わす変数を測定するステップと、アドミタンスYtestccを表わす変数を測定するステップとは、同一の周波数の電磁波を用いて遂行される。
【0021】
本発明の方法のこれらの実施形態は、次の長所を有している。
− 第1の導波管から第2の導波管への切り替え、またはその逆の切り替えを行うための、スイッチのスイッチングにより、アドミタンスYtestcoの測定から、アドミタンスYtestccの測定への変化、またはその逆の変化を、迅速に行うことができる。
【0022】
本発明は、さらに、電子的なコンピュータによって実行されたときに、上述の方法を遂行する命令を記憶している情報記録媒体を提供するものである。
【0023】
本発明によると、さらに、非導電材料の試料の誘電率、および/または透磁率を測定するための、次のものを備えている装置が提供される。
− 非導電材料の試料と、電磁波の導波手段の一端部との間の界面で反射された電磁波の振幅および位相のみから、アドミタンスを表わす変数を測定する測定器。
− アドミタンスYtestcoを表わす変数を測定するために、非導電材料の試料に押し当てることができる第1の端部、測定器に接続することができる反対側の第2の端部、および電磁波が伝播する誘電材料から成る層によって、導電性の鎧装から隔てられている少なくとも一本の導電性の芯線を有している第1の導波管。
− アドミタンスYtestccを表わす変数を測定するために、非導電材料の試料に押し当てることができる第1の端部、測定器に接続することができる反対側の第2の端部、および電磁波が伝播する誘電材料から成る層によって、導電性の鎧装から隔てられている少なくとも1本の導電性の芯線を有している第2の導波管であって、試料との界面で反射される電磁波の位相、および/または振幅が、第2の導波管の第1の端部で、芯線と鎧装とが短絡されていない場合に、界面で反射される電磁波の位相、および/または振幅と異なるように、上述の界面を形成する第1の端部に、芯線と鎧装とを結ぶ短絡路を設けられている第2の導波管。
− アドミタンスYtestcoおよびYtestccを表わす変数から、試料の誘電率、および/または透磁率を計算することができるコンピュータ。
【0024】
この装置のいくつかの実施形態は、次の特徴の1つ以上を備えている場合がある。
・ 第1の導波管と第2の導波管との芯線、鎧装、および誘電材料は、両者に共通であり、芯線と鎧装とが互いに電気的に絶縁されている第1の導波管から、芯線と鎧装とが短絡されている第2の導波管への切り替えを行うために、芯線と鎧装との間に、スイッチが電気的に接続されている。
・ 第2の導波管の第1の端部は、芯線と鎧装とを短絡させ、かつ試料との界面で反射された電磁波が伝播する誘電材料の端面の一部分だけを覆うように、芯線から鎧装まで延在している金属プレートを有している。
・ 第2の導波管は、金属プレートを有しているという点を除いて、第1の導波管と同じである。
・ 第1および第2の導波管の鎧装は、それぞれ第1および第2の導波管の芯線を完全に囲んでいる。
【0025】
これらの実施形態は、さらに、次の長所を有している。
− 第1の導波管と第2の導波管とを、ほとんど同一にすることによって、それらの導波管に対する動作周波数範囲も、ほとんど同一にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】非導電材料の試料の誘電率および透磁率を測定する装置の一実施形態のブロック図である。
【図2】図1の装置における導波管の一端部の斜視図である。
【図3】図2の一端部の開路状態を、対応する電気モデルとともに示す図である。
【図4】図2の一端部の部分的な短絡状態を、対応する電気モデルとともに示す図である。
【図5】図1の装置によって、非導電材料の試料の誘電率および透磁率を測定する方法のフローチャートである。
【図6】非導電材料の試料の誘電率および透磁率を測定する装置の別の一実施形態のブロック図である。
【図7】図6の装置の導波管の一端部の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
添付図面を参照して、単に非限定的な例として示す以下の説明を読むことによって、本発明を、より明瞭に理解することができると思う。
【0028】
添付図面において、同一の要素には、同一の符号を付してある。
【0029】
以下の説明において、当業者に周知の特性および機能については、詳述しない。
【0030】
図1は、非導電材料から成る試料4の誘電率、および透磁率を測定する測定装置2を示している。一例として、試料4は、透磁率が1ではない非導電材料から成る試料である。試料4は、例えばフェライトである。試料4は、1つの物体の一部分である場合もあるし、全体である場合もある。
【0031】
測定装置2は、試料4と、電磁波用の導波管10の一端部を形成しているプローブ8との間の界面におけるアドミタンスを測定するための測定器6を備えている。アドミッタンス(Yで表わす)は、インピーダンスの逆数である。
【0032】
導波管10の他端部は、測定器6に電気的に接続されている。
【0033】
測定器6は、電磁波を発生させることができ、この電磁波は、導波管10によって、試料4の平面12まで導かれる。これを可能にするために、プローブ8は、平面12に直接押し当てられる。測定器6は、試料4と導波管10との界面で反射された電磁波の振幅および位相を測定する。
【0034】
測定器6は、例えばベクトルネットワークアナライザ(VNA)である。このようなアナライザは公知であるので、本明細書においては、これ以上詳述しない。
【0035】
一例として、測定器6は、測定器6によって測定されたアドミタンスの値から、試料4の誘電率および透磁率を計算することができる電子的なコンピュータ20に接続されている。コンピュータ20は、例えば情報記録媒体に記録されている命令を実行することができる、プログラム可能なコンピュータである。この実行を可能にするために、コンピュータ20は、図5の方法を実行するために必要な命令を記憶しているメモリ22に接続されている。
【0036】
導波管10は、中心部の導電性の芯線16、および芯線16を囲んで延在している導電性の鎧装14を備えている。鎧装14および芯線16は、例えば金属から成っている。鎧装14と芯線16とは、誘電材料によって互いに分離されており、この誘電材料内をガイドされて、電磁波が伝播する。導波管10は、例えば同軸ケーブルである。
【0037】
コンピュータ20は、さらに、誘電率および透磁率の測定値をユーザに伝達するためのマン−マシンインターフェイス24に接続されている。マン−マシンインターフェイス24は、本明細書においては、一例として、スクリーン26およびキーボード28によって構成されている。
【0038】
図2は、プローブ8を、より詳細に示している。
【0039】
プローブ8は、試料4の平面12に直接押し当てられるように作られているフランジ30を有している。このフランジ30は、鎧装14を囲んでいる。
【0040】
鎧装14と芯線16との間には、鎧装14から芯線16を電気的に絶縁する誘電材料32が収容されている。実質的にフランジ30の平面上で、制御可能なスイッチ34によって、芯線16は、鎧装14に電気的に接続されている。スイッチ34は、その閉位置において、芯線16と鎧装14とを短絡させる。対照的に、スイッチ34の開位置において、芯線16と鎧装14とは、電気的に互いに絶縁されている。このスイッチ34のサイズ・形状、およびスイッチ34の両端の各々を、それぞれ芯線16および鎧装14に接続させている導電体36および38の寸法と形状は、スイッチ34の閉位置において、電磁波の一部が、若干でも試料4から反射されるように選択される。したがって、スイッチ34が閉じられたときに、この短絡によって、誘電材料32の端面の一部分しか覆われない。この短絡によって、平面12から反射される電磁波の位相は、スイッチ34が開位置にある場合に比して変更される。したがって、スイッチ34の閉位置において、この短絡は部分的な短絡である。さらに、スイッチ34、および導電体36および38の寸法と形状を、スイッチ34の閉位置において、平面12で反射される電磁波の振幅が、スイッチ34が開位置にある場合に比して変更されるように選択することができる。平面12で反射される電磁波の位相、および/または振幅をこのように変更すると、例えばスイッチ34が開位置にあるときに得られる位相、および/または振幅よりも、少なくとも1%または10%を超える。
【0041】
スイッチ34、および導電体36および38の寸法および形状は、スイッチ34の閉位置において生じる短絡が、スイッチ34が開位置にある状態に比して、180°の位相シフトをもたらすことができる電磁的短絡に相当するように選択することが好ましい。
【0042】
スイッチ34に対して、多くの実施例が可能である。例えば次のものによって、スイッチ34を形成することができる。
− ダイオード、トランジスタ、またはサイリスタなどの半導体素子。
− マイクロマシンシステム(MEMS)。または
− オプトエレクトロニクス素子(フォトトランジスタ)。
【0043】
例えば図2においては、スイッチ34はダイオードからできている。
【0044】
測定装置2は、さらに、スイッチ34を制御するための制御ユニット36を備えている。この制御ユニット36は、開位置と閉位置との間の、スイッチ34のスイッチングを制御することができる。開位置と閉位置との間のスイッチングは、例えばユーザによって手動で行われる。
【0045】
スイッチ34がダイオードである場合には、制御ユニット36は、例えば鎧装14と芯線16との間に接続されている直流電圧源38を備えている。この直流電圧源38は、切り替えスイッチ40に直列に接続されている。切り替えスイッチ40が閉位置にあるとき、直流電圧が、芯線16と鎧装14との間に印加される。この直流電圧は、ダイオードであるスイッチ34をオン状態にすることができるように選ばれる。切り替えスイッチ40が開位置にあるとき、鎧装14と芯線16との間には、直流電圧は印加されない。したがって、スイッチ34は開位置にあり、電流を通過させない。
【0046】
スイッチ34が閉位置にあるとき、芯線16から鎧装14までの高導電性によって、動作周波数の交流電流が伝播することができる。対照的に、スイッチ34が開位置にあるとき、芯線16から鎧装14までの低導電性によって、動作周波数の交流電流は伝播することができない。
【0047】
切り替えスイッチ40は、ユーザによって、手動で、開位置と閉位置との間でスイッチングされる。切り替えスイッチ40は、例えば押しボタンである。
【0048】
図3は、スイッチ34が開位置にあるときの、プローブ8の略断面図である。この状態のときに、プローブ8は、開路状態にあると言われる。この開路状態において、一端部のプローブ8と試料4との間の界面は、電気モデル44でモデル化することができる。電気モデル44は、互いに直列に接続されたキャパシタ48およびインダクタ46を有している。さらに、キャパシタ50が、キャパシタ48の両端子に並列に接続されている。インダクタ46のインダクタンスμL0coの値は、試料4の透磁率μに比例する。キャパシタ48の静電容量Cfcoは、試料4の誘電率および透磁率に依存しない。キャパシタ50の静電容量εC0coは、試料4の誘電率に比例する。
【0049】
図4は、スイッチ34が閉位置にあるときの、プローブ8の略断面図である。この状態のときに、プローブ8は、短絡状態にあると言われる。この図4において、芯線14と鎧装16との間の短絡路は、太線52によって示されている。
【0050】
短絡状態のプローブは、電気モデル54でモデル化される。電気モデル54は、例えば連続的に並列に接続されている、1つのインダクタ56および3つのキャパシタ58〜60を有している。インダクタ56のインダクタンスμL0ccは、試料4の透磁率μに比例する。キャパシタ58の静電容量Cfccは、試料4の誘電率および透磁率に依存しない。キャパシタ59および60のそれぞれの静電容量εC0ccおよびε21ccは、試料4の誘電率εの関数である。
【0051】
電気モデル44から、開路状態において測定器6によって測定されるアドミタンスYCOを算出することができる。この算出値は、次の関係式(数1)によって与えられる。
【数1】

【0052】
上述の関係式において、
− ωは、角周波数(ω=2πf:fはHzを単位とする周波数である)、
− jは、j2=−1で定義される虚数単位、
− L0co、Cfco、C0coは、試料4の誘電率εおよび透磁率μに依存しない値を有する、電気モデル44のパラメータである。
【0053】
同様に、電気モデル54から、短絡状態において測定器6によって測定されるアドミタンスYCCを算出することができる。この算出値は、次の関係式(数2)によって与えられる。
【数2】

【0054】
上述の関係式において、
− L0cc、Cfcc、C0cc、C1ccは、試料4の誘電率εおよび透磁率μに依存しない値を有する、電気モデル54のパラメータである。
【0055】
次に、測定装置2の動作を、図5を参照しながら説明する。
【0056】
この方法は、測定装置2を較正するための段階70で開始される。この段階70の開始時に、最初に、ステップ72において、測定器6が較正される。このステップ72は、通常行われるステップであるので、これ以上詳述しない。
【0057】
次に、ステップ74において、開路状態におけるプローブ8の較正が実行される。このステップ74は、パラメータCfco、C0co、L0coの値の特定を目的としている。このステップ74において、本発明では、標準試料を用いる。これらの標準試料の誘電率および透磁率は、前もって知られている。ステップ74において、例えば脱イオン水、テフロン(登録商標)、空気、誘電率および透磁率が5である磁性誘電体によって形成されているグループから選ばれた3つの標準試料を用いる。
【0058】
より詳細には、操作76において、試料4ではなく、第1の標準試料を配置する。言い換えると、プローブ8は、この第1の標準試料の平面に押し当てられる。次に、このような条件の下で、第1の標準試料のアドミタンスYref1coの値を、測定器6によって測定する。次いで、操作76を、第2および第3の標準試料に対して繰り返し、それぞれのアドミタンスYref2coおよびYref3coの値を測定する。
【0059】
その後、操作78において、コンピュータ20は、測定されたアドミタンスYref1co、Yref2co、Yref3coの値、および第1、第2、第3の標準試料のそれぞれの誘電率の既知値εref1、εref2、εref3、および透磁率の既知値μref1、μref2、μref3から、パラメータC0co、Cfco、L0coの値をそれぞれ特定する。この特定を行うために、例えば次の連立方程式(数3)を解く。
【数3】

【0060】
パラメータC0c0、Cfco、L0coの値は、電磁波の動作周波数、したがってアドミタンスの測定のために用いられる、芯線16を流れる励磁電流の周波数に依存する。したがって、利用可能な動作周波数範囲に均一に分布した多数の動作周波数において、操作76および78を繰り返すことが好ましい。利用可能な動作周波数範囲は、例えば0MHz〜20GHzにわたっている。動作周波数範囲は、100MHz〜10GHzであることが好ましい。
【0061】
ステップ74が完了すると、短絡状態においてプローブ8を較正するために、ステップ80を実行する。この実行のために、操作82において、スイッチ34を閉位置にスイッチングし、4つの標準試料のアドミタンスを、測定装置2によって測定する。上述と同様に、これらの4つの標準試料のそれぞれの誘電率、および透磁率の既知値は、εref1、εref2、εref3、εref4と表わされ、透磁率の既知値は、μref1、μref2、μref3、μref4と表わされる。これらの標準試料は、例えばステップ74において説明したグループと同じグループから選ばれる。
【0062】
操作82において、これらの標準試料の各々のアドミタンスYref1、Yref2、Yref3、Yref4の値を、測定器6によって測定する。
【0063】
次に、操作84において、パラメータCfcc、C0cc、C1cc、L0ccの値を、測定されたアドミタンスYref1、Yref2、Yref3、Yref4の値、および4つの標準試料の透磁率および誘電率の既知値から計算する。操作84において、例えば次の連立方程式(数4)を解く。
【数4】

【0064】
操作82および84を、動作周波数範囲に均一に分布したいくつかの動作周波数において繰り返す。ステップ74において用いられた動作周波数と同じ動作周波数を、ステップ80において用いることが好ましい。
【0065】
測定装置2の較正が完了すると、段階70は終了し、試料4の誘電率および透磁率を測定する段階90を開始することができる。
【0066】
段階90の開始時に、ステップ92において、プローブ8は、誘電率εtestおよび透磁率μtestを測定される試料4の平面12に押し当てられる。
【0067】
次に、ステップ94において、スイッチ30は、開位置にスイッチングされ、そのときのアドミタンスYtestcoが、測定器6によって測定される。アドミタンスYtestcoのいくつかの測定値を得るために、ステップ74で用いられた動作周波数と同じ動作周波数で、ステップ94を繰り返すことが好ましい。
【0068】
次いで、ステップ96において、スイッチ34は、閉位置にスイッチングされる。
【0069】
その後、ステップ98において、アドミタンスYtestccが、用いられた各動作周波数で、測定器6によって測定される。
【0070】
ステップ100において、コンピュータ20は、ステップ94および98において用いられた動作周波数の各々における誘電率εtestおよび透磁率μtestを計算する。透磁率εtestおよび透磁率μtestは、同一動作周波数で測定されたアドミタンスYtestcoおよびYtestccの値から得られる。誘電率εtestおよび透磁率μtestは、例えば次の連立方程式(数5)を解くことによって計算される。
【数5】

上述の連立方程式において、
− Cfco、C0co、L0co、L0cc、Cfcc、C0cc、C1ccは、段階70において測定されたパラメータの値、または段階70中になされた測定に基づいて内挿されたパラメータの値であり、
− YtestcoおよびYtestccは、その測定における動作周波数と同じ動作周波数における開路状態および短絡状態で測定されたアドミタンス値である。
【0071】
上述の連立方程式は、解析的に解くことができる。しかしながら、この連立方程式からは、3組の解が得られる。正しい解を選択するために、1に最も近い誘電率を有する解が選択される。この選択のために、この連立方程式を、例えば初期状態において透磁率μtestの値が1に等しいとし、ニュートン法を用いて解くことができる。
【0072】
ステップ100において、誘電率εtestおよび透磁率μtestが計算されると、ステップ102において、それらの値は、マンマシンインターフェイスを介してユーザに提示されるか、またはファイルに記録される。
【0073】
図6は、試料4の誘電率および透磁率を測定する測定装置の別の一実施形態を示している。この測定装置110は、図1の導波管10が、2つの導波管112および114に置き換えられているという点を除いて、測定装置2と同じである。導波管112および114は、アドミタンスの測定がなされるときに、平面12に直接押し当てられる端部116および118を、それぞれ有している。端部116は、開路状態のプローブを形成している。すなわち、端部116は、スイッチ34、導電体36および38、および制御ユニット36が省かれているという点を除いて、プローブ8と同じである。したがって、プローブを形成している端部116は、開路状態しか呈しない。
【0074】
対照的に、端部118は、部分的な短絡状態しか呈しないプローブを形成している。プローブを形成しているこの端部118が、図7に、より詳細に示されている。すなわち、プローブを形成しているこの端部118は、スイッチ34、導電体36および38が、芯線16から鎧装14まで延在している、薄い金属プレート120に置き換えられているという点を除いて、プローブ8と同じである。この金属プレート120は、平面12によって反射される電磁波の位相、および/または振幅を、金属プレート120が省かれている場合に比して変更させるのに十分な寸法と形状を有している。位相および/または振幅のこの変更は、例えば金属プレート120が省かれている場合に得られる位相および/または振幅の少なくとも1%または10%を超過している。例えば金属プレート120の幅は、芯線16の直径と等しい。
【0075】
各導波管112および114の他端部には、コネクタ122および124が、それぞれ取り付けられている。これらのコネクタ122および124は、測定器6への/からの導波管112および114の連結/切り離しを可能にする。
【0076】
測定装置110の動作は、開路状態のプローブから短絡状態のプローブへの移行のために、導波管112から導波管114への切り替えが必要である、またはその逆の移行のために、逆の切り替えが必要であるという点を除いて、図5の方法に関して説明した動作と同じである。
【0077】
多くの別の実施形態が可能である。例えば導波管の断面は、同軸ケーブルの場合のような円形である必要はない。鎧装および/または芯線の断面は、矩形である場合がある。
【0078】
導波管は、複数の芯線を有している場合がある。
【0079】
測定装置110において、第1の導波管112と第2の導波管114とは、金属プレート120を除いて、構造的に同じであるという条件は必要不可欠ではない。例えば導波管112と114との寸法および形状は、互いに異なる場合がある。例えばこれらの2つの導波管の間で、鎧装および芯線の寸法および形状(例えば、それぞれの直径)は、互いに異なっている場合がある。
【0080】
一変形例として、コンピュータ20は、測定されたアドミタンスYtestcoおよびYtestccの値から誘電率だけを計算し、ユーザに透磁率μtestの値を伝達しない。これによって、1でない透磁率を有する材料(例えばフェライト)の誘電率を測定することができる。それとは逆に、コンピュータ20は、測定されたアドミタンスYtestcoおよびYtestccの値から透磁率μtestだけを計算し、ユーザに誘電率εtestの値を伝達しない場合もある。
【0081】
試料の誘電率および透磁率を正しく与えるものであれば、本明細書に示されている電気モデル以外の電気モデルも用いることができる。それらの電気モデルは、電磁波の放射の式から得ることができる。本明細書に示されている電気モデルに替えて、より複雑なモデルを用いることができる。
【0082】
各導波管の一端部が、プローブの形態を呈していることは必要不可欠ではない。導波管の端部は、例えばいかなるフランジまたは同様の手段も有することなく、試料に直接押し当てられる場合もある。
【0083】
本明細書においては、測定装置2および110は、アドミタンスの測定値が、有線リンクを介してコンピュータに直接伝達される特定の例について説明してきた。一変形例では、この有線リンクを除き、測定器6によって測定された測定値を、キーボード28を介して入力して、誘電率および透磁率の計算を行う能力を有するコンピュータ20に伝達する。
【0084】
最後に、測定装置2および110、および各連立方程式は、測定される変数がアドミタンスである特定の場合について説明する。しかしながら、測定装置2および110は、アドミタンスを直接に測定するのではなく、アドミタンスを表わす変数を測定するように適合化されている場合がある。用語「アドミタンスを表わす変数」は、測定器によって測定することができ、かつなんらの補足的な測定を伴うことなく、アドミタンス値を導出することができる物理的変数を意味している。例えばインピーダンス、および平面12における電磁波の反射係数が、アドミタンスを表わす変数である。アドミタンス自体ではなく、アドミタンスを表わす変数が用いられる場合には、上述の連立方程式は、その相違を取り込むように適合化される。
【符号の説明】
【0085】
2 測定装置
4 試料
6 測定器
8 プローブ
10 導波管
12 平面
14 鎧装
16 芯線
20 コンピュータ
22 メモリ
24 マン−マシンインターフェイス
26 スクリーン
28 キーボード
30 フランジ
32 誘電材料
34 スイッチ
36 導電体(制御ユニット)
38 導電体(直流電圧源)
40 切り替えスイッチ
44、54 電気モデル
46、56 インダクタ
48、50、58〜60 キャパシタ
52 太線
110 測定装置
112、114 導波管
116、118 端部
120 金属プレート
122、124 コネクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)非導電材料の試料と、第1の導波管の一端部との間の界面で反射された電磁波の振幅および位相のみから、アドミタンスYtestcoを表わす変数を測定するステップ(94)であって、前記一端部には、該電磁波が伝播する誘電材料から成る層によって、導電性の鎧装から隔てられている少なくとも1本の導電性の芯線が存在しているステップを含む非導電材料の試料の誘電率および/または透磁率を測定する方法であって、
b)前記試料と、電磁波が伝播する誘電材料層によって、導電性の鎧装から隔てられた少なくとも1本の導電性の芯線を有している第2の導波管の一端部との間の界面で反射された電磁波の振幅および位相のみから、アドミタンスYtestccを表わす変数を測定するステップ(98)であって、前記界面で反射される電磁波の位相、および/または振幅が、前記第2の導波管の一端部で、前記芯線と鎧装とが短絡されていない場合に、前記界面で反射される電磁波の位相および/または振幅と異なるように、前記第2の導波管は、前記界面を形成する一端部に、前記芯線と鎧装とを結ぶ短絡路を設けられているステップと、
c)前記アドミタンスYtestcoおよびYtestccを表わす変数から、前記試料の誘電率および/または透磁率を計算するステップ
とをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
ステップa)とステップb)との間に、前記芯線と鎧装とが互いに電気的に絶縁されている第1の導波管から、前記芯線と鎧装とが電気的に短絡されている第2の導波管に切り替えるために、前記芯線と鎧装との間に電気的に接続されているスイッチのスイッチングを行うステップ(94、96)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アドミタンスYtestcoを表わす変数を測定するステップ(94)と、アドミタンスYtestccを表わす変数を測定するステップ(98)とは、同一の周波数の電磁波を用いて遂行される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
電子的なコンピュータによって実行されたときに、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法を遂行する命令を記憶している情報記録媒体。
【請求項5】
非導電材料の試料と、電磁波の導波手段の一端部との間の界面で反射された電磁波の振幅および位相のみから、アドミタンスを表わす変数を測定する測定器(6)と、
アドミタンスYtestcoを表わす変数を測定するために、非導電材料の試料に押し当てることができる第1の端部(8、116)、前記測定器に接続することができる反対側の第2の端部、および電磁波が伝播する誘電材料(32)から成る層によって、導電性の鎧装(14)から隔てられている少なくとも1本の導電性の芯線(16)を有している第1の導波管(10、112)とを備えている、非導電材料の試料の誘電率および/または透磁率を測定する装置であって、
アドミタンスYtestccを表わす変数を測定するために、非導電材料の試料に押し当てることができる第1の端部(8、118)、前記測定器に接続することができる反対側の第2の端部、および電磁波が伝播する誘電材料から成る層によって、導電性の鎧装(14)から隔てられている少なくとも1本の導電性の芯線(16)を有している第2の導波管(10、114)であって、前記試料との界面で反射される電磁波の位相および/または振幅が、前記第2の導波管の前記第1の端部で、前記芯線と鎧装とが短絡されていない場合に、前記界面で反射される電磁波の位相および/または振幅と異なるように、前記界面を形成する第1の端部に、前記芯線と鎧装とを結ぶ短絡路が設けられている第2の導波管と、
前記アドミタンスYtestcoおよびYtestccを表わす変数から、前記試料の誘電率および/または透磁率を計算することができるコンピュータ(20)
とをさらに備えていることを特徴とする装置。
【請求項6】
前記第1の導波管と第2の導波管との芯線(16)、鎧装(14)、および誘電材料(32)は、両者に共通であり、
前記芯線と鎧装とが互いに電気的に絶縁されている前記第1の導波管から、前記芯線と鎧装とが短絡されている前記第2の導波管への切り替えを行うために、前記芯線と鎧装との間に、スイッチ(34)が電気的に接続されている請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記第2の導波管の第1の端部(118)は、前記芯線と鎧装とを短絡させ、かつ前記試料との界面で反射された電磁波が伝播する前記誘電材料の端面の一部分だけを覆うように、前記芯線から鎧装まで延在している金属プレート(120)を有している、請求項5に記載の装置。
【請求項8】
前記第2の導波管(114)は、前記金属プレート(120)を有しているという点を除いて、前記第1の導波管(112)と同じである、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記第1および第2の導波管の鎧装(14)は、それぞれ前記第1および第2の導波管の芯線(16)を完全に囲んでいる、請求項5〜8のいずれか1項に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−520442(P2012−520442A)
【公表日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−553392(P2011−553392)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【国際出願番号】PCT/EP2010/052605
【国際公開番号】WO2010/102925
【国際公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(510132347)コミサリア ア レネルジ アトミク エ オウ エネルジ アルタナティヴ (51)
【Fターム(参考)】