説明

調光体、調光シート、合わせガラス用中間膜及び合わせガラス

【課題】電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間が極めて短い調光体を提供する。また、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間が極めて短い調光シートを提供する。該調光シートを用いた合わせガラス用中間膜、該合わせガラス用中間膜を備える合わせガラスを提供することを目的とする。
【解決手段】導電膜を有する、一対の透明板の間に、導電性高分子を含有するアノードエレクトロクロミック層と、電解質層と、混合原子価錯体を含有するカソードエレクトロクロミック層とが順次積層されている調光体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間が極めて短い調光体に関する。また、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間が極めて短い調光シートに関する。該調光シートを用いた合わせガラス用中間膜、該合わせガラス用中間膜を備える合わせガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
電圧を印加することにより光の透過率が変化する調光フィルムを備える調光体は、広く用いられている。この調光体を建築物等や、電光板等の表示装置に応用することを目的とする検討が重ねられてきた。近年、自動車等の車内の温度を制御するために、調光フィルムを合わせガラス用中間膜として用いた合わせガラスが提案されている。このような合わせガラス用中間膜を用いることにより、合わせガラスの光線透過率を制御することができると考えられている。
【0003】
上記調光体は、液晶材料を用いた調光体と、エレクトロクロミック化合物を用いた調光体とに大別される。なかでも、エレクトロクロミック化合物を用いた調光体は、液晶材料を用いた調光体に比べて光散乱が少なく、偏光の影響を受けない等の優れた性質を有している。
【0004】
エレクトロクロミック化合物として、無機エレクトロクロミック化合物と、有機エレクトロクロミック化合物とが知られている。また、有機エレクトロクロミック化合物として、低分子量の有機エレクトロクロミック化合物と、エレクトロクロミック性を示す高分子化合物とが検討されている。
【0005】
エレクトロクロミック化合物を用いた調光体として、対向する一対の電極基板の間に、エレクトロクロミック層と電解質層とが挟み込まれている調光体が提案されている。例えば、特許文献1及び特許文献2には、無機酸化物を含有するエレクトロクロミック層、イオン伝導層、無機酸化物を含有するエレクトロクロミック層の3層が順次積層された積層体が、2枚の導電性基板間に挟み込まれている調光体が開示されている。また、特許文献3及び特許文献4には、対向する一対の電極基板の間に、有機エレクトロクロミック化合物を含有するエレクトロクロミック層と電解質層とが挟み込まれている調光体が開示されている。
しかしながら、従来の調光体は、応答性が劣るため、電圧を印加しても光の透過率の変化が完了するまでに時間を要するという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−062030号公報
【特許文献2】特開2005−062772号公報
【特許文献3】特表2002−526801号公報
【特許文献4】特表2004−531770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間が極めて短い調光体を提供することを目的とする。また、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間が極めて短い調光シートを提供することを目的とする。該調光シートを用いた合わせガラス用中間膜、該合わせガラス用中間膜を備える合わせガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、導電膜を有する、一対の透明板の間に、導電性高分子を含有するアノードエレクトロクロミック層と、電解質層と、混合原子価錯体を含有するカソードエレクトロクロミック層とが順次積層されている調光体である。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明者らは、エレクトロクロミック層と電解質層との積層体において、電解質層の一方の面にアノードエレクトロクロミック層を積層し、他方の面にカソードエレクトロクロミック層を積層することにより、著しく応答性が高く、電圧を印加してから光の透過率の変化が完了するまでの時間が極めて短い調光体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。これは、電解質層の一方の面に形成されたアノードエレクトロクロミック層と他方の面に形成されたカソードエレクトロクロミック層との酸化還元反応が対になるため、光の透過率の変化に必要な酸化還元電位を低下させることができるためであると考えられる。
【0010】
本発明の調光体は、導電膜を有する、一対の透明板の間に、導電性高分子を含有するアノードエレクトロクロミック層と、電解質層と、混合原子価錯体を含有するカソードエレクトロクロミック層とが順次積層されている。
上記アノードエレクトロクロミック層は、上記導電膜と接するように積層され、上記カソードエレクトロクロミック層も同様に、上記導電膜と接するように積層されていることが好ましい。
【0011】
上記電解質層は、イオンを伝導することにより上記エレクトロクロミック層に電圧を印加し、エレクトロクロミック層の光の透過率を変化させる役割を有する。
上記電解質層は、支持電解質塩とバインダー樹脂とを含有することが好ましい。例えば、上記電解質層は、バインダー樹脂と支持電解質塩とを含有する樹脂組成物を用いて形成されることが好ましい。
【0012】
上記電解質層は、更に、下記式(1)で表される化合物又は下記式(2)で表される化合物を含有することが好ましい。上記電解質層に上記特定の構造を有する化合物を添加することにより、更に応答性が高く、電圧を印加してから光の透過率の変化が完了するまでの時間が極めて短い調光体が得られる。
【0013】
【化1】

【0014】
式(1)中、n=2〜4の整数を表し、Rは水素原子、炭素数1〜7の有機基を有するアシル基又は炭素数1〜8の有機基を表し、Rはエチレン基又はプロピレン基を表し、Rは水素原子、炭素数1〜7の有機基を有するアシル基又は炭素数1〜8の有機基を表し、少なくともR又はRの何れかはアシル基を有する。
【0015】
【化2】

【0016】
式(2)中、Rは炭素数2〜8であり、酸素原子を有する有機基を表し、Rは炭素数2〜8のアルキレン基又は炭素数6〜12のアリーレン基を表し、Rは炭素数2〜8であり、酸素原子を有する有機基を表す。R及びRは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0017】
上記式(1)で表される化合物又は上記式(2)で表される化合物は、単独で用いてもよく、併用してもよい。なかでも、耐久性が向上し、かつ、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間がより短い調光体が得られることから、上記式(1)で表される化合物を含有することが好ましい。
【0018】
上記式(1)中、Rは水素原子、炭素数1〜7の有機基を有するアシル基又は炭素数1〜8の有機基を表す。なかでも、上記バインダー樹脂との相溶性がより向上することから、Rは炭素数1〜7の有機基を有するアシル基又は炭素数1〜8の有機基であることが好ましく、炭素数1〜7の有機基を有するアシル基であることがより好ましく、炭素数1〜7のアルキル基を有するアシル基であることが更に好ましい。
【0019】
上記式(1)中のRを表す炭素数1〜7の有機基を有するアシル基における、有機基の炭素数の好ましい下限は2、好ましい上限は6である。上記炭素数が2以上であると、電解質層の耐久性が向上し、6以下であると、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間がより短い調光体が得られる。上記炭素数のより好ましい下限は3、より好ましい上限は5であり、更に好ましい上限は4である。
【0020】
上記炭素数1〜7の有機基は、直鎖構造を有する有機基、又は、分岐構造を有する有機基であってもよく、直鎖構造を有するアルキル基、又は、分岐構造を有するアルキル基であることが好ましい。上記分岐構造を有する有機基又は分岐構造を有するアルキル基において、有機基又はアルキル基の分岐鎖の炭素数は3以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましく、1以下であることが更に好ましい。
【0021】
電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間が更に一層短い調光体が得られることから、上記炭素数1〜7の有機基が直鎖構造を有する場合は、上記炭素数1〜7の有機基を有するアシル基は、炭素数1〜7であり、かつ、直鎖構造を有する有機基を有するアシル基、又は、炭素数1〜7であり、かつ、直鎖構造を有するアルキル基を有するアシル基であることが好ましい。
【0022】
電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間が更に一層短い調光体が得られることから、上記炭素数1〜7の有機基が分岐構造を有する場合は、上記炭素数1〜7の有機基を有するアシル基は、炭素数1〜7であり、かつ、分岐構造を有する有機基を有するアシル基、又は、炭素数1〜7であり、かつ、分岐構造を有するアルキル基を有するアシル基であることが好ましく、炭素数1〜7であり、分岐構造を有し、かつ、分岐鎖の炭素数が3以下であるアルキル基を有するアシル基であることがより好ましく、炭素数1〜7であり、分岐構造を有し、かつ、分岐鎖の炭素数が2以下であるアルキル基を有するアシル基であることが更に好ましく、炭素数1〜7であり、分岐構造を有し、かつ、分岐鎖の炭素数が1以下であるアルキル基を有するアシル基であることが特に好ましい。
なお、上記炭素数1〜7の有機基を有するアシル基とは、該有機基の炭素数が1〜7であることを意味し、上記炭素数1〜7のアルキル基を有するアシル基とは、該アルキル基の炭素数が1〜7であることを意味する。
【0023】
上記式(1)中のRが炭素数1〜8の有機基である場合、上記バインダー樹脂との相溶性がより向上することから、上記炭素数1〜8の有機基は炭素数1〜8のアルキル基であることが好ましい。
上記式(1)中のRを表す炭素数1〜8の有機基における炭素数の好ましい下限は2、好ましい上限は7である。上記炭素数が2以上であると、電解質層の耐久性が向上し、7以下であると、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間がより短い調光体が得られる。上記炭素数のより好ましい下限は3、より好ましい上限は6であり、更に好ましい下限は4、更に好ましい上限は5である。
【0024】
上記炭素数1〜8の有機基は、直鎖構造を有する有機基、又は、分岐構造を有する有機基であってもよく、直鎖構造を有するアルキル基、又は、分岐構造を有するアルキル基であることが好ましい。上記分岐構造を有する有機基又は分岐構造を有するアルキル基において、有機基又はアルキル基の分岐鎖の炭素数は3以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましく、1以下であることが更に好ましい。
【0025】
電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間が更に一層短い調光体が得られることから、上記炭素数1〜8の有機基が直鎖構造を有する場合は、上記炭素数1〜8の有機基は、炭素数1〜8であり、かつ、直鎖構造を有するアルキル基であることが好ましい。
【0026】
電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間が更に一層短い調光体が得られることから、上記炭素数1〜8の有機基が分岐構造を有する場合は、上記炭素数1〜8の有機基は、炭素数1〜8であり、かつ、分岐構造を有するアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜8であり、分岐構造を有し、かつ、分岐鎖の炭素数が3以下であるアルキル基であることがより好ましく、炭素数1〜8であり、分岐構造を有し、かつ、分岐鎖の炭素数が2以下であるアルキル基であることが更に好ましく、炭素数1〜8であり、分岐構造を有し、かつ、分岐鎖の炭素数が1以下であるアルキル基であることが特に好ましい。
【0027】
上記式(1)中、Rはエチレン基又はプロピレン基を表す。上記プロピレン基はn−プロピレン基であってもよく、イソプロピレン基であってもよい。電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間がより短い調光体が得られることから、Rはエチレン基であることが好ましい。
【0028】
上記式(1)中、Rは水素原子、炭素数1〜7の有機基を有するアシル基又は炭素数1〜8の有機基を表す。なかでも、上記バインダー樹脂との相溶性がより向上することから、Rは炭素数1〜7の有機基を有するアシル基又は炭素数1〜8の有機基であることが好ましく、炭素数1〜7の有機基を有するアシル基であることがより好ましく、炭素数1〜7のアルキル基を有するアシル基であることが更に好ましい。
【0029】
上記式(1)中のRを表す炭素数1〜7の有機基を有するアシル基における、有機基の炭素数の好ましい下限は2、好ましい上限は6である。上記炭素数が2以上であると、電解質層の耐久性が向上し、6以下であると、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間がより短い調光体が得られる。上記炭素数のより好ましい下限は3、より好ましい上限は5であり、更に好ましい上限は4である。
【0030】
上記炭素数1〜7の有機基は、直鎖構造を有する有機基、又は、分岐構造を有する有機基であってもよく、直鎖構造を有するアルキル基、又は、分岐構造を有するアルキル基であることが好ましい。上記分岐構造を有する有機基又は分岐構造を有するアルキル基において、有機基又はアルキル基の分岐鎖の炭素数は3以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましく、1以下であることが更に好ましい。
【0031】
電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間が更に一層短い調光体が得られることから、上記炭素数1〜7の有機基が直鎖構造を有する場合は、上記炭素数1〜7の有機基を有するアシル基は、炭素数1〜7であり、かつ、直鎖構造を有する有機基を有するアシル基、又は、炭素数1〜7であり、かつ、直鎖構造を有するアルキル基を有するアシル基であることが好ましい。
【0032】
電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間が更に一層短い調光体が得られることから、上記炭素数1〜7の有機基が分岐構造を有する場合は、上記炭素数1〜7の有機基を有するアシル基は、炭素数1〜7であり、かつ、分岐構造を有する有機基を有するアシル基、又は、炭素数1〜7であり、かつ、分岐構造を有するアルキル基を有するアシル基であることが好ましく、炭素数1〜7であり、分岐構造を有し、かつ、分岐鎖の炭素数が3以下であるアルキル基を有するアシル基であることがより好ましく、炭素数1〜7であり、分岐構造を有し、かつ、分岐鎖の炭素数が2以下であるアルキル基を有するアシル基であることが更に好ましく、炭素数1〜7であり、分岐構造を有し、かつ、分岐鎖の炭素数が1以下であるアルキル基を有するアシル基であることが特に好ましい。
なお、上記炭素数1〜7の有機基を有するアシル基とは、該有機基の炭素数が1〜7であることを意味し、上記炭素数1〜7のアルキル基を有するアシル基とは、該アルキル基の炭素数が1〜7であることを意味する。
【0033】
上記式(1)において、少なくともR又はRの何れかはアシル基を有する。これにより、上記バインダー樹脂との高い相溶性が得られる。なかでも、Rは炭素数1〜7のアルキル基を有するアシル基を表し、Rはエチレン基又はプロピレン基を表し、Rは炭素数1〜7のアルキル基を有するアシル基を表すことがより好ましい。
【0034】
上記式(1)で表される化合物の具体例を下記式(1−1)〜(1−28)に示す。
【0035】
【化3−1】

【化3−2】

【化3−3】

【0036】
上記式(2)中、Rは炭素数2〜8であり、酸素原子を有する有機基を表す。
上記式(2)中のRを表す炭素数2〜8であり、酸素原子を有する有機基の炭素数の好ましい下限は3、好ましい上限は7である。上記炭素数が3以上であると、電解質層の耐久性が向上し、7以下であると、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間がより短い調光体が得られる。上記炭素数のより好ましい下限は4、より好ましい上限は6である。
【0037】
上記式(2)中、Rは炭素数2〜8のアルキレン基又は炭素数6〜12のアリーレン基を表す。なかでも、上記バインダー樹脂との相溶性が更に向上することから、Rは炭素数2〜8のアルキレン基であることが好ましい。
【0038】
上記式(2)中のRを表す炭素数2〜8のアルキレン基の炭素数の好ましい下限は3、好ましい上限は7である。上記炭素数が3〜7であると、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間がより短い調光体が得られる。上記炭素数のより好ましい下限は4、より好ましい上限は6である。
【0039】
上記式(2)中のRを表す炭素数6〜12のアリーレン基の炭素数の好ましい上限は10である。上記炭素数が10以下であると、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間がより短い調光体が得られる。上記炭素数のより好ましい上限は8である。
【0040】
上記式(2)中、Rは炭素数2〜8であり、酸素原子を有する有機基を表す。
上記式(2)中のRを表す炭素数2〜8であり、酸素原子を有する有機基の炭素数の好ましい下限は3、好ましい上限は7である。上記炭素数が3以上であると、電解質層の耐久性が向上し、7以下であると、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間がより短い調光体が得られる。上記炭素数のより好ましい下限は4、より好ましい上限は6である。
【0041】
上記式(2)で表される化合物の具体例を下記式(2−1)に示す。
【0042】
【化4】

【0043】
上記電解質層中における上記式(1)で表される化合物及び上記式(2)で表される化合物の配合量は特に限定されないが、上記バインダー樹脂100重量部に対する好ましい下限は15重量部、好ましい上限は200重量部である。上記式(1)で表される化合物及び上記式(2)で表される化合物の配合量が15重量部以上であると、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間がより一層短くなる。上記式(1)で表される化合物及び上記式(2)で表される化合物の配合量が200重量部以下であると、調光体の耐貫通性が高くなる。上記式(1)で表される化合物及び上記式(2)で表される化合物の配合量のより好ましい下限は30重量部、更に好ましい下限は40重量部、特に好ましい下限は60重量部であり、より好ましい上限は150重量部、更に好ましい上限は120重量部、特に好ましい上限は100重量部である。
【0044】
上記支持電解質塩は特に限定されず、リチウム塩、カリウム塩又はナトリウム塩等のアルカリ金属塩であることが好ましい。上記アルカリ金属塩は、無機酸とアルカリ金属の塩又は有機酸とアルカリ金属の塩であることが好ましい。例えば、上記無機酸とアルカリ金属の塩として、無機酸アニオンリチウム塩、無機酸アニオンカリウム塩、又は、無機酸アニオンナトリウム塩等が挙げられ、上記有機酸とアルカリ金属の塩として、有機酸アニオンリチウム塩、有機酸アニオンカリウム塩、又は、有機酸アニオンナトリウム塩等が挙げられる。
なかでも、上記支持電解質塩はリチウム塩であることが好ましく、過塩素酸リチウム、ホウフッ化リチウム、リンフッ化リチウム等の無機酸アニオンリチウム塩、又は、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、ビストリフルオロメタンスルホン酸イミドリチウム等の有機酸アニオンリチウム塩であることがより好ましい。
【0045】
上記支持電解質塩は、アンモニウムカチオンと、アニオンとの塩であってもよい。
上記アンモニウムカチオンは特に限定されず、例えば、テトラエチルアンモニウム、トリメチルエチルアンモニウム、メチルプロピルピロリジニウム、メチルブチルピロリジニウム、メチルプロピルピペリジニウム、メチルブチルピペリジニウム等のアルキルアンモニウムカチオンや、エチルメチルイミダゾリウム、ジメチルエチルイミダゾリウム、メチルピリジニウム、エチルピリジニウム、プロピルピリジニウム、ブチルピリジニウム等が挙げられる。
上記アニオンは特に限定されず、過塩素酸アニオン、ホウフッ化アニオン、リンフッ化アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、ビストリフルオロメタンスルホン酸イミドアニオン等が挙げられる。
【0046】
上記電解質層中における上記支持電解質塩の配合量は特に限定されないが、上記バインダー樹脂100重量部に対する好ましい下限は3重量部、好ましい上限は60重量部である。上記支持電解質塩の配合量が3〜60重量部であると、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間がより一層短くなる。上記支持電解質塩の配合量のより好ましい下限は10重量部、更に好ましい下限は20重量部であり、より好ましい上限は50重量部、更に好ましい上限は40重量部である。
【0047】
上記電解質層は溶媒を含有することが好ましい。上記溶媒は特に限定されず、例えば、アセトニトリル、ニトロメタン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン等のエステル化合物や、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等の置換テトラヒドロフラン化合物や、1,3−ジオキソラン、4,4−ジメチル−1,3−ジオキソラン、t−ブチルエーテル、イソブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,2−エトキシメトキシエタン等のエーテル化合物や、エチレングリコール、ポリエチレングリコールスルホラン、3−メチルスルホラン、蟻酸メチル、酢酸メチル、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド等の有機溶媒が挙げられる。
また、上記溶媒として、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチレート、テトラエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート等のジエステル化合物を使用してもよい。
【0048】
上記電解質層中における溶媒の配合量は特に限定されないが、上記バインダー樹脂100重量部に対する好ましい下限は30重量部、好ましい上限は150重量部である。上記溶媒の配合量が30重量部以上であると、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間がより一層短くなる。上記溶媒の配合量が150重量部以下であると、調光体の耐貫通性が高くなる。上記溶媒の配合量のより好ましい下限は50重量部、より好ましい上限は100重量部である。
【0049】
上記バインダー樹脂は特に限定されないが、熱可塑性樹脂であることが好ましい。
上記バインダー樹脂は、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン共重合体、ポリ三フッ化エチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアセタール樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。なかでも、ポリビニルアセタール樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体が好ましく、ポリビニルアセタール樹脂がより好ましい。透明性が高い電解質層が得られることから、ポリビニルアルコールをアセタール化して得られたポリビニルアセタール樹脂が更に好適である。特に、上記ポリビニルアセタール樹脂はポリビニルブチラール樹脂であることが好適である。
【0050】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、アセチル基量が15mol%以下であることが好ましい。上記ポリビニルアセタール樹脂のアセチル基量が15mol%を超えると、電解質層が白化することがある。
上記ポリビニルアセタール樹脂は水酸基量が30mol%以下であることが好ましい。上記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基量が30mol%を超えると、上記溶媒との相溶性が低下し、電解質層の透明性が低下することがある。
なお、上記アセチル基量及び上記水酸基量はJIS K 6728に準拠して、滴定法により求めることができる。
【0051】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールをアルデヒドによりアセタール化することで得られる。上記アルデヒドは炭素数4又は5のアルデヒドであることが好ましい。上記ポリビニルアルコールの平均重合度の好ましい下限は500、好ましい上限は5000である。上記ポリビニルアルコールの平均重合度が500以上であると、調光体の耐貫通性が高くなる。上記ポリビニルアルコールの平均重合度が5000以下であると、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間がより一層短くなる。上記ポリビニルアルコールの平均重合度は、GPC法(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によるポリスチレン換算により求めた上記ポリビニルアルコールの重量平均分子量をポリビニルアルコール1セグメント当りの分子量で除して求められる。GPC法によってポリスチレン換算による重量平均分子量を測定する際のカラムとしては、例えば、Shodex LF−804(昭和電工社製)等が挙げられる。
【0052】
上記電解質層が上記式(1)で表される化合物又は上記式(2)で表される化合物を含有する場合には、上記式(1)で表される化合物及び上記式(2)で表される化合物が上記電解質層から析出することを防止できることから、上記ポリビニルアセタール樹脂は、アセチル基量が5モル%以上であるポリビニルアセタール樹脂(以下、「ポリビニルアセタール樹脂A」ともいう。)、アセタール化度が70〜85モル%であるポリビニルアセタール樹脂(以下、「ポリビニルアセタール樹脂B」ともいう。)、又は、炭素数が6以上のアルデヒドを用いてポリビニルアルコールをアセタール化することにより得られるポリビニルアセタール樹脂(以下、「ポリビニルアセタール樹脂C」ともいう。)であることが好ましい。
【0053】
上記ポリビニルアセタール樹脂Aのアセチル基量の好ましい下限は6モル%、好ましい上限は30モル%である。上記アセチル基量が6モル%以上であると、上記式(1)で表される化合物及び上記式(2)で表される化合物が上記電解質層から析出することをより一層防止することができる。上記アセチル基量が30モル%以下であると、上記ポリビニルアセタール樹脂Aの製造効率を高めることができる。上記アセチル基量のより好ましい下限は8モル%、より好ましい上限は28モル%であり、更に好ましい下限は10モル%、更に好ましい上限は25モル%であり、特に好ましい下限は12モル%、特に好ましい上限は23モル%である。
【0054】
上記ポリビニルアセタール樹脂Aは、アセタール化度の好ましい下限が50モル%、好ましい上限が80モル%である。上記アセタール化度が50モル%以上であると、上記式(1)で表される化合物及び上記式(2)で表される化合物が上記電解質層から析出することを更に一層防止することができる。上記アセタール化度が80モル%以下であると、上記ポリビニルアセタール樹脂Aの製造効率を高めることができる。上記アセタール化度のより好ましい下限は55モル%、より好ましい上限は78モル%であり、更に好ましい下限は60モル%、更に好ましい上限は76モル%であり、特に好ましい下限は65モル%、特に好ましい上限は74モル%である。
上記ポリビニルアセタール樹脂Aは、ポリビニルブチラール樹脂であることが好ましい。
【0055】
上記ポリビニルアセタール樹脂Bのアセタール化度の好ましい下限は71モル%、好ましい上限は84モル%である。上記アセタール化度が71モル%以上であると、上記式(1)で表される化合物及び上記式(2)で表される化合物が上記電解質層から析出することを更に一層防止することができる。上記アセタール化度が84モル%以下であると、上記ポリビニルアセタール樹脂Bの製造効率を高めることができる。上記アセタール化度のより好ましい下限は72モル%、より好ましい上限は83モル%であり、更に好ましい下限は73モル%、更に好ましい上限は82モル%であり、特に好ましい下限は74モル%、特に好ましい上限は81モル%である。
【0056】
上記ポリビニルアセタール樹脂Bは、アセチル基量の好ましい下限が0.1モル%、好ましい上限が20モル%である。上記アセチル基量が0.1モル%以上であると、上記式(1)で表される化合物及び上記式(2)で表される化合物が上記電解質層から析出することを更に一層防止することができる。上記アセチル基量が20モル%以下であると、上記ポリビニルアセタール樹脂Bの製造効率を高めることができる。上記アセチル基量のより好ましい下限は0.5モル%、より好ましい上限は15モル%であり、更に好ましい下限は0.8モル%、更に好ましい上限は8モル%であり、特に好ましい下限は1モル%、特に好ましい上限は7モル%である。
上記ポリビニルアセタール樹脂Bは、ポリビニルブチラール樹脂であることが好ましい。
【0057】
上記ポリビニルアセタール樹脂A及びポリビニルアセタール樹脂Bは、ポリビニルアルコールをアルデヒドによりアセタール化することで得られる。上記アルデヒドは炭素数1〜10のアルデヒドであることが好ましく、炭素数4又は5のアルデヒドであることがより好ましい。
【0058】
上記ポリビニルアセタール樹脂Cは、炭素数が6以上のアルデヒドを用いてポリビニルアルコールをアセタール化することにより得られる。上記炭素数が6以上のアルデヒドは特に限定されないが、例えば、n−ヘキシルアルデヒド、n−オクチルアルデヒド、n−ノニルアルデヒド、又は、n−デシルアルデヒド等が挙げられる。
【0059】
上記ポリビニルアセタール樹脂Cは、アセタール化度の好ましい下限が50モル%、好ましい上限が80モル%である。上記アセタール化度が50モル%以上であると、上記式(1)で表される化合物及び上記式(2)で表される化合物が上記電解質層から析出することを更に一層防止することができる。上記アセタール化度が80モル%以下であると、上記ポリビニルアセタール樹脂Cの製造効率を高めることができる。上記アセタール化度のより好ましい下限は55モル%、より好ましい上限が78モル%であり、更に好ましい下限は60モル%、更に好ましい上限は76モル%であり、特に好ましい下限は65モル%、特に好ましい上限は74モル%である。
【0060】
上記電解質層は熱線吸収剤を含有してもよい。
上記熱線吸収剤は、赤外線を遮蔽する性能を有すれば特に限定されないが、錫ドープ酸化インジウム粒子、アンチモンドープ酸化錫粒子、亜鉛以外の元素がドープされた酸化亜鉛粒子、六ホウ化ランタン粒子、アンチモン酸亜鉛粒子、及び、フタロシアニン構造を有する赤外線吸収剤からなる群より選択される少なくとも1種が好適である。
【0061】
上記電解質層は接着力調整剤を含有してもよい。
上記接着力調整剤は、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、マグネシウム塩等が挙げられる。なかでも、炭素数2〜16のカルボン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩及びマグネシウム塩が好適であり、具体的には例えば、ビス(酢酸)マグネシウム、酢酸カリウム、ビス(プロピオン酸)マグネシウム、プロピオン酸カリウム、ビス(2−エチルブタン酸)マグネシウム、2−エチルブタン酸カリウム、ビス(2−エチルヘキサン酸)マグネシウム、2−エチルヘキサン酸カリウム等が挙げられる。これらの接着力調整剤は単独で用いられてもよく、併用されてもよい。上記電解質層にバインダー樹脂としてポリビニルアセタール樹脂を含有する場合、上記電解質層は接着力調整剤を含有することが好ましい。
【0062】
上記電解質層は単層構造であってもよく、多層構造であってもよい。上記電解質層が多層構造であるとは、上記電解質層が2層以上積層された構造であることを意味する。
上記電解質層が多層構造である場合、上記電解質層は、上記支持電解質塩と、上記式(1)で表される化合物又は上記式(2)で表される化合物と、上記バインダー樹脂として、熱可塑性樹脂とを含有することが好ましい。上記式(1)で表される化合物又は上記式(2)で表される化合物としてトリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート(3GO)、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチレート(3GH)、テトラエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート(4GO)、ジヘキシルアジペート(DHA)等の液状可塑剤が挙げられる。
例えば、上記液状可塑剤の含有量の異なる電解質層を積層したり、上記バインダー樹脂として水酸基量の異なるポリビニルアセタール樹脂を含有する電解質層を積層したりすることにより、得られる合わせガラスの遮音性等を向上させることができる。
【0063】
上記電解質層の厚さは特に限定されないが、好ましい下限は0.01mm、好ましい上限は3.0mmである。上記電解質層の厚さが0.01〜3.0mmであると、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間がより一層短くなる。上記電解質層の厚さのより好ましい下限は0.1mm、より好ましい上限は2.0mm、更に好ましい下限は0.3mm、更に好ましい上限は1.0mmである。
【0064】
上記電解質層を形成する方法は特に限定されず、例えば、上記溶媒、上記式(1)で表される化合物(1)又は上記式(2)で表される化合物(2)に上記支持電解質塩を溶解した溶液を調製し、得られた溶液を上記バインダー樹脂と混合した混合物を熱プレス等の方法により電解質層を形成する方法や、該混合物を押出機により押出成形し電解質層を形成する方法等が挙げられる。
【0065】
本発明の調光体では、導電性高分子を含有するアノードエレクトロクロミック層と、電解質層と、混合原子価錯体を含有するカソードエレクトロクロミック層とが順次積層されている。
上記アノードエレクトロクロミック層は、導電性高分子を含有する。上記アノードエレクトロクロミック層は、酸化により可視光線透過率が増加する性質を有する。
なお、エレクトロクロミック性を有するとは、電圧を印加することにより光の透過率が変化する性質を有することを意味する。
【0066】
上記導電性高分子として、エレクトロクロミック性と導電性とを有する高分子であれば特に限定されず、例えば、ポリピロール化合物、ポリアセチレン化合物、ポリチオフェン化合物、ポリパラフェニレンビニレン化合物、ポリアニリン化合物、ポリエチレンジオキシチオフェン化合物等が挙げられる。なかでも、ポリアセチレン化合物が好ましく、芳香族側鎖を有するポリアセチレン化合物がより好ましい。
【0067】
上記芳香族側鎖を有するポリアセチレン化合物は、エレクトロクロミック性と導電性とを有し、かつ、アノードエレクトロクロミック層の形成が容易である。従って、芳香族側鎖を有するポリアセチレン化合物を用いれば、優れた調光性能を有するアノードエレクトロクロミック層を容易に形成できる。また、芳香族側鎖を有するポリアセチレン化合物は、構造が変化することにより、吸収特性の変化を示す。その結果、吸収スペクトルが近赤外線の波長領域に及ぶため、アノードエレクトロクロミック層は広い波長領域について優れた調光性能を有する。
【0068】
上記芳香族側鎖を有するポリアセチレン化合物は特に限定されないが、例えば、一置換又は二置換の芳香族を側鎖に有するポリアセチレン化合物等が好適である。
【0069】
上記芳香族側鎖を構成する置換基は特に限定されないが、例えば、フェニル、p−フルオロフェニル、p−クロロフェニル、p−ブロモフェニル、p−ヨードフェニル、p−ヘキシルフェニル、p−オクチルフェニル、p−シアノフェニル、p−アセトキシフェニル、p−アセトフェニル、ビフェニル、o−(ジメチルフェニルシリル)フェニル、p−(ジメチルフェニルシリル)フェニル、o−(ジフェニルメチルシリル)フェニル、p−(ジフェニルメチルシリル)フェニル、o−(トリフェニルシリル)フェニル、p−(トリフェニルシリル)フェニル、o−(トリルジメチルシリル)フェニル、p−(トリルジメチルシリル)フェニル、o−(ベンジルジメチルシリル)フェニル、p−(ベンジルジメチルシリル)フェニル、o−(フェネチルジメチルシリル)フェニル、p−(フェネチルジメチルシリル)フェニル等のフェニル基や、ビフェニル基や、1−ナフチル、2−ナフチル、1−(4−フルオロ)ナフチル、1−(4−クロロ)ナフチル、1−(4−ブロモ)ナフチル、1−(4−ヘキシル)ナフチル、1−(4−オクチル)ナフチル等のナフチル基や、ナフタレン基や、1−アントラセン、1−(4−クロロ)アントラセン、1−(4−オクチル)アントラセン等のアントラセン基や、1−フェナントレン等のフェナントレン基や、1−フルオレン等のフルオレン基や、1−ペリレン等のペリレン基等が挙げられる。
【0070】
上記芳香族側鎖を構成する置換基として、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、ナフタレン基、アントラセン基、フェナントレン基、フルオレン基及びペリレン基からなる群より選択される少なくとも1種の置換基を有することが好ましい。なかでも、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間がより一層短くなることから、上記芳香族側鎖を構成する置換基は、ナフチル基、ナフタレン基、アントラセン基、フェナントレン基、フルオレン基又はペリレン基であることがより好ましく、アントラセン基、フェナントレン基、フルオレン基又はペリレン基であることが更に好ましく、フェナントレン基であることが特に好ましい。
なお、上記芳香族側鎖を構成する置換基の一部の水素原子は、水素原子以外の原子又は原子団に置換されていてもよい。
【0071】
上記アノードエレクトロクロミック層は、熱線吸収剤や接着力調整剤を含有してもよい。上記熱線吸収剤は、上記電解質層に含有される熱線吸収剤と同様の熱線吸収剤を用いることができる。上記接着力調整剤は、上記電解質層に含有される接着力調整剤と同様の接着力調整剤を用いることができる。
【0072】
上記アノードエレクトロクロミック層の厚さは特に限定されないが、好ましい下限は0.05μm、好ましい上限は5μmである。上記アノードエレクトロクロミック層の厚さが0.05〜5μmであると、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間がより一層短くなる。上記アノードエレクトロクロミック層の厚さのより好ましい下限は0.1μm、より好ましい上限は2μmであり、更に好ましい下限は0.2μm、更に好ましい上限は1μmである。
【0073】
上記アノードエレクトロクロミック層は上記バインダー樹脂を含有してもよい。上記バインダー樹脂は上記電解質層に含まれるバインダー樹脂と同様のバインダー樹脂を用いることができる。
【0074】
上記アノードエレクトロクロミック層を形成する方法として、上記導電性高分子を有機溶剤に溶解させた溶液を調整し、得られた溶液を上記電解質層の一方の面に塗布し、有機溶剤を揮発させる方法等が挙げられる。
【0075】
上記カソードエレクトロクロミック層は、混合原子価錯体を含有する。上記カソードエレクトロクロミック層は、還元により可視光線透過率が高くなる性質を有する。
【0076】
上記混合原子価錯体は、エレクトロクロミック性を有すれば特に限定されないが、金属元素とシアノ基とを有する化合物であることが好ましく、鉄等の金属元素とシアノ基とを有する化合物であることがより好ましい。
上記混合原子価錯体として、例えば、プルシアンブルー型錯体(KFe[Fe(CN)])等が挙げられる。上記カソードエレクトロクロミック層に上記混合原子価錯体を含有させることにより、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間が極めて短い調光体を得ることができる。
なお、上記混合原子価錯体がプルシアンブルー型錯体(KFe[Fe(CN)])である場合、鉄原子の一部が鉄原子以外の原子に置換されていてもよい。
【0077】
上記カソードエレクトロクロミック層は、熱線吸収剤や接着力調整剤を含有してもよい。上記熱線吸収剤は、上記電解質層に含有される熱線吸収剤と同様の熱線吸収剤を用いることができる。上記接着力調整剤は、上記電解質層に含有される接着力調整剤と同様の接着力調整剤を用いることができる。
【0078】
上記カソードエレクトロクロミック層の厚さは特に限定されないが、好ましい下限は0.05μm、好ましい上限は2μmである。上記カソードエレクトロクロミック層の厚さが0.05μm以上であると、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間がより一層短くなり、2μm以下であると、調光体の透明性が高くなる。上記カソードエレクトロクロミック層の厚さのより好ましい下限は0.1μm、より好ましい上限は1μmである。
【0079】
上記カソードエレクトロクロミック層は上記バインダー樹脂を含有してもよい。上記バインダー樹脂は上記電解質層に含まれるバインダー樹脂と同様のバインダー樹脂を用いることができる。
【0080】
上記カソードエレクトロクロミック層を形成する方法として、上記混合原子価錯体を水や有機溶剤に分散させた分散液を調製し、得られた溶液を上記電解質層に塗布する方法や、透明板の導電膜上に電着法により上記混合原子価錯体を析出させる方法等が挙げられる。例えば、上記電解質層の一方の面に、上記導電性高分子を有機溶剤に溶解させた溶液を塗布し、有機溶剤を揮発させ、アノードエレクトロクロミック層を形成する工程と、上記電解質層の他方の面に、上記混合原子価錯体を有機溶剤に分散させた溶液を塗布し、有機溶剤を揮発させ、カソードエレクトロクロミック層を形成する工程とを行なうことが好ましい。
上記混合原子価錯体を水や有機溶剤に分散させる方法は特に限定されないが、例えば、サンドミル、ビーズミル、ミキサー、超音波による分散等の公知の方法で上記混合原子価錯体を粒子化して分散液を調製する方法等が挙げられる。
また、共押出法により、上記アノードエレクトロクロミック層と、上記電解質層と、上記カソードエレクトロクロミック層とが積層された調光シートを製造してもよい。
なお、アノードエレクトロクロミック層と電解質層とが積層されている積層体と、透明板の導電膜上に形成されたカソードエレクトロクロミック層とを、電解質層とカソードエレクトロクロミック層とが接するように、積層してもよい。
【0081】
本発明の調光体は、上記電解質層、アノードエレクトロクロミック層、カソードエレクトロクロミック層以外に、必要に応じて、紫外線吸収剤を含有する紫外線吸収層や、熱線吸収剤を含有する赤外線吸収層等を有してもよい。
【0082】
上記透明板は、少なくとも一方の面に導電膜が形成されていればよい。例えば、上記透明板として、ガラス板を使用することができる。例えば、フロート板ガラス、磨き板ガラス、型板ガラス、網入りガラス、線入り板ガラス、着色された板ガラス、熱線吸収ガラス、熱線反射ガラス、グリーンガラス等の無機ガラスが挙げられる。また、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアクリレート等の有機プラスチックス板を用いることもできる。上記透明板として、2種類以上のガラス板を用いてもよい。
【0083】
また、導電性高分子を含有するアノードエレクトロクロミック層と、電解質層と、混合原子価錯体を含有するカソードエレクトロクロミック層とが順次積層されている調光シートもまた、本発明の1つである。なかでも、電解質層の一方の面に、導電性高分子を含有するアノードエレクトロクロミック層が直接積層され、かつ電解質層の一方の面とは反対側の他方の面に、混合原子価錯体を含有するカソードエレクトロクロミック層が直接積層されていることが好ましい。
【0084】
本発明の調光シートは、表面にエンボスが形成されていることが好ましい。
上記エンボスの粗さは特に限定されないが、JIS B 0601で定義される十点平均粗さの好ましい下限が20μm、好ましい上限が50μmである。
【0085】
本発明の調光シートは、合わせガラス用中間膜として使用することができる。上記合わせガラス用中間膜もまた、本発明の1つである。
【0086】
本発明の調光シート及び合わせガラス用中間膜は、導電膜との接着力を高めるために、アノードエレクトロクロミック層又はカソードエレクトロクロミック層上に部分的に形成された熱可塑性樹脂を含有する接着層を有することが好ましい。
上記部分的に形成された接着層の形状は特に限定されず、網目状、線状又は斑点状等が挙げられる。
【0087】
上記アノードエレクトロクロミック層又はカソードエレクトロクロミック層の面積に対する上記接着層の面積の好ましい下限は10%、好ましい上限は90%である。上記接着層の面積が10〜90%であると、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間がより短くなる。上記接着層の面積のより好ましい下限は20%、より好ましい上限は80%であり、更に好ましい下限は30%、更に好ましい上限は70%である。
なお、上記アノードエレクトロクロミック層又はカソードエレクトロクロミック層の面積に対する接着層の面積X(%)は、以下の式で表される。
X(%)=(Amm)/(10mm)×100
接着層を形成した後の上記アノードエレクトロクロミック層又はカソードエレクトロクロミック層を光学顕微鏡で観察し、接着層が形成された任意の10箇所(1mm/1箇所)における、接着層の存在する合計面積A(mm)を測定し、接着層の面積X(%)を算出する。
【0088】
上記接着層の最大厚みの上限は50μmであることが好ましい。上記接着層の最大厚みが50μm以下であると、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間がより短くなる。上記接着層の最大厚みのより好ましい上限は20μmである。
なお、上記接着層の最大厚みとは、接着層を形成した後に接着層を3D測定レーザー顕微鏡(OLYMPAS社製「LEXT OLS4000」)により測定した時の接着層の厚みの最大値を意味する。
【0089】
上記接着層を形成する方法は特に限定されず、例えば、適当な有機溶剤に溶解した上記熱可塑性樹脂をスクリーン印刷によりアノードエレクトロクロミック層又はカソードエレクトロクロミック層上に塗布した後、乾燥する方法や、適当な有機溶剤に溶解した上記熱可塑性樹脂をスプレー照射機によりアノードエレクトロクロミック層又はカソードエレクトロクロミック層上に塗布した後、乾燥する方法等が挙げられる。
【0090】
本発明の合わせガラス用中間膜が、導電膜が形成されている、一対のガラス板の間に、それぞれの導電膜と接するように挟み込まれている合わせガラスもまた、本発明の1つである。例えば、透明フロート板ガラスと、グリーンガラスのような着色されたガラス板とで、本発明の合わせガラス用中間膜を挟持した合わせガラスが挙げられる。また、上記透明板として、2種以上の厚さの異なるガラス板を用いてもよい。
【0091】
上記ガラス板は、少なくとも一方の面に導電膜が形成されている。本発明の合わせガラスにおいて本発明の合わせガラス用中間膜は、上記ガラス板の導電膜が形成された面に接するように2枚のガラス板の間に挟持される。
上記導電膜は、スズドープ酸化インジウム(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)等を含む透明導電膜が好ましい。
【0092】
本発明の合わせガラスの面密度は特に限定されないが、12kg/m以下であることが好ましい。
本発明の合わせガラスは、自動車用ガラスとして使用する場合は、サイドガラス、リアガラス、ルーフガラスとして用いることができる。
【発明の効果】
【0093】
本発明によれば、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間が極めて短い調光体を提供することができる。また、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間が極めて短い調光シートを提供することができる。該調光シートを用いた合わせガラス用中間膜、該合わせガラス用中間膜を備える合わせガラスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0094】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されない。
【0095】
(実施例1)
(1)電解質層の調製
溶媒としてトリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート2.38gに、支持電解質塩としてビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiTFSI)0.67gを溶解して電解質溶液を調製した。得られた電解質溶液の全量と、バインダー樹脂として、平均重合度が2300であるポリビニルアルコールをn−ブチルアルデヒドによりアセタール化して得られたポリビニルブチラール樹脂(アセチル基量13mol%、水酸基量22mol%)5.00gとを混合して樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートに挟み、厚さ400μmのスペーサを介して、熱プレスにて150℃、100kg/cmの条件で5分間加圧し、厚さ400μmの電解質層を得た。
【0096】
(2)アノードエレクトロクロミック層の形成
窒素雰囲気下−50℃で9−エチニルフェナントレン3gを溶解させたテトラヒドロフラン溶液30mLにノルマルブチルリチウムの30重量%ヘキサン溶液13.4gを添加した。次いで、−90℃に冷却後、カリウムターシャリーブトキシド1.8gを溶解させたテトラヒドロフラン溶液15mLを添加し、−80℃で1時間撹拌し、5℃まで昇温した。次いで、−70℃で1−ヨードオクタデカン5.6gを滴下し、−30℃で12時間撹拌した。0℃で水100mLを滴下し、ヘキサン300mLを加え、生成した化合物を抽出した。このヘキサン層を蒸留水300mLで3回洗浄後、無水硫酸マグネシウムで1時間乾燥させ、濾過後、溶媒を留去した。カラム精製後溶媒を留去し、ヘキサンを展開溶媒としてカラム精製することにより3.5gの9−エチニル−10−n−オクタデシルフェナントレンを得た。
得られた9−エチニル−10−n−オクタデシルフェナントレンについてH−NMR(270MHz、CDCl)により分析を行ったところ、δ8.7(2H)、8.5(1H)、8.1(1H)、7.7(4H)、3.7(1H)、3.5(2H)、1.7(2H)、1.6(30H)、1.0(3H)のピークが認められた。
【0097】
得られた9−エチニル−10−n−オクタデシルフェナントレン3.5gをトルエン10.5g中でWCl触媒0.2gを用いて重合させ、ポリ(9−エチニル−10−n−オクタデシルフェナントレン)2.7gを得た。
得られたポリ(9−エチニル−10−n−オクタデシルフェナントレン)の分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフ法(GPC法)により測定した。Waters社製の液体クロマトグラフ装置(Waters2695,RI Waters2410,UV Waters2996)を用い、カラムはShodex社製LF−804を使用した。0.2重量%となるようにクロロホルムに溶解したポリ(9−エチニル−10−n−オクタデシルフェナントレン)を100μL注入し、カラム温度40℃で移動相をクロロホルムとして測定を行った。ポリスチレン換算分子量は、数平均分子量14万7千、重量平均分子量31万5千であった。
【0098】
得られたポリ(9−エチニル−10−n−オクタデシルフェナントレン)0.04gを1.3gのトルエンに溶解して溶液を調製した。この溶液を、得られた電解質層の一方の面に、トルエンが揮発した後の厚さが0.3μmになるようにバーコーターを用いて塗布し、乾燥して、アノードエレクトロクロミック層/電解質層の積層体を得た。
【0099】
(3)カソードエレクトロクロミック層の形成
ITO電極が形成されたガラス板(表面抵抗10Ω/□)を用い、ITO電極を作用極、Pt線を対極とし、Ag/AgClを参照極としてフェリシアン化カリウム、塩化第一鉄をそれぞれ10mmol/L溶解した水溶液中で電流密度40μA/cmで120秒間通電することでITO電極表面に、混合原子価錯体として、プルシアンブルー型錯体(KFe[Fe(CN)])を析出させ、ITO電極表面にプルシアンブルー型錯体層を有するITOガラスを作製した。
【0100】
(4)調光体の製造
85℃に加熱したアノードエレクトロクロミック層/電解質層の積層体(縦5cm×横5cm)を、1枚のITO電極が形成されたガラス板(縦5cm×横5cm、表面抵抗10Ω/□)と、ITO電極表面にプルシアンブルー型錯体層を有するITOガラスとの間に、電解質層とプルシアンブルー型錯体層とが接するように挟み込むことにより、調光体を作製した。
得られた調光体は、ガラス板/ITO電極/アノードエレクトロクロミック層/電解質層/カソードエレクトロクロミック層(プルシアンブルー型錯体層)/ITO電極/ガラス板が積層された構造を有する。
【0101】
(実施例2)
プルシアンブルー(ACROS ORGANICS社製)0.2gをエタノール19.8gに添加した液中に直径3mmのステンレス球80gを加え、ペイントシェーカー(セイワ技研社製)にて1時間振とうすることでプルシアンブルー粒子がエタノール中に分散した分散液を得た。プルシアンブルー粒子の体積平均粒子径を粒度分布計(Nicomp社製、「380ZLS−S」)で測定したところ、132nm(CV値33.8%)であった。
ITO電極が形成されたガラス板(縦5cm×横5cm、表面抵抗10Ω/□)上に、得られたプルシアンブルー分散液0.5mLを滴下し、スピンコーター(アクティブ社製)で1000rpmの条件で10秒間回転させ塗布し、ITO電極表面にプルシアンブルー層を有するITOガラスを作製した。
ITO電極表面にプルシアンブルー型錯体層を有するITOガラスに代えて、得られたITO電極表面にプルシアンブルー層を有するITOガラスを用いた以外は実施例1と同様にして、調光体を製造した。
【0102】
(実施例3)
直径3mmのステンレス球を、直径1mmのジルコニウム球とした以外は実施例2と同様にしてプルシアンブルー粒子がエタノール中に分散した分散液を得た。実施例2と同様にプルシアンブルー粒子の体積平均粒子径を測定したところ、125nm(CV値38.9%)であった。
その後、実施例2と同様にしてITO電極表面にプルシアンブルー層を有するITOガラスを作製した。
得られたITO電極表面にプルシアンブルー層を有するITOガラスを用いた以外は実施例1と同様にして、調光体を製造した。
【0103】
(実施例4)
実施例1と同様にして電解質層、アノードエレクトロクロミック層/電解質層の積層体を得た。
実施例2と同様にして得られたプルシアンブルー分散液を、得られたアノードエレクトロクロミック層/電解質層の積層体のアノードエレクトロクロミック層と反対側の面上に0.5mL滴下し、スピンコーター(アクティブ社製)で1000rpmの条件で10秒間回転させ塗布し、アノードエレクトロクロミック層/電解質層/プルシアンブルー層がこの順番に積層された調光シートを得た。
【0104】
85℃に加熱した調光シート(縦5cm×横5cm)を、2枚のITO電極が形成されたガラス板(縦5cm×横5cm、表面抵抗10Ω/□)の間に挟み込むことにより調光体を製造した。なお、調光シートとITO電極とが接するように調光体を製造した。
【0105】
(実施例5)
溶媒としてトリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエートの代わりにトリエチレングリコールジアセタートを用いて電解質層を調製した以外は実施例2と同様にして調光体を製造した。
【0106】
(実施例6)
溶媒としてトリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエートの代わりにトリエチレングリコールジ−n−ブチレートを用いて電解質層を調製した以外は実施例2と同様にして調光体を製造した。
【0107】
(実施例7)
溶媒としてトリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエートの代わりにトリエチレングリコールジ−2−エチルブチレートを用いて電解質層を調製した以外は実施例2と同様にして調光体を製造した。
【0108】
(実施例8)
溶媒としてトリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエートの代わりにトリエチレングリコールジ−1−プロピルブチレートを用いて電解質層を調製した以外は実施例2と同様にして調光体を製造した。
【0109】
(実施例9)
溶媒としてトリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエートの代わりにアジピン酸ジプロポキシエチルを用いて電解質層を調製した以外は実施例2と同様にして調光体を製造した。
【0110】
(実施例10)
バインダー樹脂として、平均重合度が2300であるポリビニルアルコールをn−ブチルアルデヒドによりアセタール化して得られたポリビニルブチラール樹脂(アセチル基量13mol%、水酸基量22mol%)の代わりに、平均重合度が2300であるポリビニルアルコールをn−ブチルアルデヒドによりアセタール化して得られたポリビニルブチラール樹脂(アセチル基量18mol%、水酸基量15mol%)を用いて電解質層を調製した以外は実施例6と同様にして調光体を製造した。
【0111】
(実施例11)
バインダー樹脂として、平均重合度が2300であるポリビニルアルコールをn−ブチルアルデヒドによりアセタール化して得られたポリビニルブチラール樹脂(アセチル基量13mol%、水酸基量22mol%)の代わりに、平均重合度が2300であるポリビニルアルコールをn−ブチルアルデヒドによりアセタール化して得られたポリビニルブチラール樹脂(アセチル基量6mol%、水酸基量11mol%)を用いて電解質層を調製した以外は実施例6と同様にして調光体を製造した。
【0112】
(実施例12)
バインダー樹脂として、平均重合度が2300であるポリビニルアルコールをn−ブチルアルデヒドによりアセタール化して得られたポリビニルブチラール樹脂(アセチル基量13mol%、水酸基量22mol%)の代わりに、平均重合度が2300であるポリビニルアルコールをn−ブチルアルデヒドによりアセタール化して得られたポリビニルブチラール樹脂(アセチル基量22mol%、水酸基量22mol%)を用いて電解質層を調製した以外は実施例6と同様にして調光体を製造した。
【0113】
(実施例13)
電解質層の調整において、トリエチレングリコールジブチレート2.38gをトリエチレングリコールジブチレート2.5gに変更した以外は、実施例6と同様にして調光体を製造した。
【0114】
(実施例14)
電解質層の調整において、トリエチレングリコールジブチレート2.38gをトリエチレングリコールジブチレート5.0gに変更した以外は、実施例6と同様にして調光体を製造した。
【0115】
(実施例15)
平均重合度が1700のポリビニルアルコールをn−ブチルアルデヒドでアセタール化して得られたポリビニルブチラール樹脂(アセチル基量13mol%、水酸基量22mol%)7.87g、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート5.1g及びビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiTFSI)1.56gをエタノール45gに溶解して接着剤組成物を得た。
【0116】
得られた接着剤組成物を、実施例1と同様の方法にて作製したアノードエレクトロクロミック層/電解質層の積層体のアノードエレクトロクロミック層上へ、スクリーン印刷法を用いて印刷した。このとき、3D測定レーザー顕微鏡(OLYMPAS社製「LEXT OLS4000」)による観察から求めた最大厚みが10μm、アノードエレクトロクロミック層の面積に対する接着層の面積が50%となるように網目状に印刷した。印刷後、接着剤組成物を乾燥して、接着層/アノードエレクトロクロミック層/電解質層の積層体を得た。
なお、アノードエレクトロクロミック層の面積に対する接着層の面積X(%)は、接着層を形成した後のアノードエレクトロクロミック層を光学顕微鏡で観察し、接着層が形成された任意の10箇所(1mm/1箇所)における、接着層の存在する合計面積A(mm)を測定し、以下の式で算出した。
X(%)=A(mm)/10(mm)×100
【0117】
85℃に加熱した接着層/アノードエレクトロクロミック層/電解質層の積層体(縦5cm×横5cm)を、1枚のITO電極が形成されたガラス板(縦5cm×横5cm、表面抵抗10Ω/□)と、実施例1と同様の方法により作製したITO電極表面にプルシアンブルー型錯体層を有するITOガラスとの間に、電解質層とプルシアンブルー型錯体層とが接するように挟み込むことにより、調光体を作製した。
得られた調光体は、ガラス板/ITO電極/接着層/アノードエレクトロクロミック層/電解質層/カソードエレクトロクロミック層(プルシアンブルー型錯体層)/ITO電極/ガラス板が積層された構造を有する。
【0118】
(比較例1)
実施例1と同様にしてアノードエレクトロクロミック層/電解質層の積層体を作製した。
85℃に加熱したアノードエレクトロクロミック層/電解質層の積層体(縦5cm×横5cm)を、2枚のITO電極が形成されたガラス板(縦5cm×横5cm、表面抵抗10Ω/□)の間に挟み込むことにより、調光体を作製した。
得られた調光体は、ガラス板/ITO電極/アノードエレクトロクロミック層/電解質層/ITO電極/ガラス板が積層された構造を有する。
【0119】
(評価)
実施例及び比較例で得られた調光体について、以下の方法により消色時間と着色時間とを測定した。結果を表1に示した。
完全に着色した状態の調光体の波長640nmの光の透過率をTC、完全に消色した状態の調光体の波長640nmの光の透過率をTBとする。
完全に着色した状態の調光体に+2Vの電圧を印加し、電圧を印加してから、調光体の波長640nmの光の透過率がTCからT1=TC+(TB−TC)×0.8にまで変化する時間を測定して、これを消色時間とした。
完全に消色した状態の調光体に−2Vの電圧を印加し、電圧を印加してから、調光体の波長640nmの光の透過率がTBからT2=TB−(TB−TC)×0.8にまで変化する時間を測定して、これを着色時間とした。
なお、透過率の測定には、日本分光社製の分光光度計「V−670」を用いた。
また、実施例及び比較例にて用いたITO電極が形成されたガラス板の厚みは1mmであった。
【0120】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明によれば、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間が極めて短い調光体を提供することができる。また、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間が極めて短い調光シートを提供することができる。該調光シートを用いた合わせガラス用中間膜、該合わせガラス用中間膜を備える合わせガラスを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電膜を有する、一対の透明板の間に、導電性高分子を含有するアノードエレクトロクロミック層と、電解質層と、混合原子価錯体を含有するカソードエレクトロクロミック層とが順次積層されていることを特徴とする調光体。
【請求項2】
導電性高分子が芳香族を側鎖に有するポリアセチレン化合物であることを特徴とする請求項1記載の調光体。
【請求項3】
混合原子価錯体がプルシアンブルー型錯体であることを特徴とする請求項1又は2記載の調光体。
【請求項4】
電解質層は、支持電解質塩、バインダー樹脂、並びに、下記式(1)で表される化合物又は下記式(2)で表される化合物を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の調光体。
【化1】

式(1)中、n=2〜4の整数を表し、Rは水素原子、炭素数1〜7の有機基を有するアシル基又は炭素数1〜8の有機基を表し、Rはエチレン基又はプロピレン基を表し、Rは水素原子、炭素数1〜7の有機基を有するアシル基又は炭素数1〜8の有機基を表し、少なくともR又はRの何れかはアシル基を有する。
【化2】

式(2)中、Rは炭素数2〜8であり、酸素原子を有する有機基を表し、Rは炭素数2〜8のアルキレン基又は炭素数6〜12のアリーレン基を表し、Rは炭素数2〜8であり、酸素原子を有する有機基を表す。R及びRは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【請求項5】
式(1)中、Rは炭素数1〜6のアルキル基を有するアシル基を表し、Rはエチレン基又はプロピレン基を表し、Rは炭素数1〜6のアルキル基を有するアシル基を表すことを特徴とする請求項4記載の調光体。
【請求項6】
バインダー樹脂は、ポリビニルアセタール樹脂であることを特徴とする請求項4又は5記載の調光体。
【請求項7】
ポリビニルアセタール樹脂は、アセチル基量が15モル%以下であり、かつ、水酸基量が30モル%以下であることを特徴とする請求項6記載の調光体。
【請求項8】
ポリビニルアセタール樹脂は、アセチル基量が5モル%以上であることを特徴とする請求項6記載の調光体。
【請求項9】
ポリビニルアセタール樹脂は、アセタール化度が70〜85モル%であることを特徴とする請求項6記載の調光体。
【請求項10】
導電性高分子を含有するアノードエレクトロクロミック層と、電解質層と、混合原子価錯体を含有するカソードエレクトロクロミック層とが順次積層されていることを特徴とする調光シート。
【請求項11】
導電性高分子が芳香族を側鎖に有するポリアセチレン化合物であることを特徴とする請求項10記載の調光シート。
【請求項12】
混合原子価錯体がプルシアンブルー型錯体であることを特徴とする請求項10又は11記載の調光シート。
【請求項13】
電解質層は、支持電解質塩、バインダー樹脂、並びに、下記式(1)で表される化合物又は下記式(2)で表される化合物を含有することを特徴とする請求項10又は11記載の調光シート。
【化3】

式(1)中、n=2〜4の整数を表し、Rは水素原子、炭素数1〜7の有機基を有するアシル基又は炭素数1〜8の有機基を表し、Rはエチレン基又はプロピレン基を表し、Rは水素原子、炭素数1〜7の有機基を有するアシル基又は炭素数1〜8の有機基を表し、少なくともR又はRの何れかはアシル基を有する。
【化4】

式(2)中、Rは炭素数2〜8であり、酸素原子を有する有機基を表し、Rは炭素数2〜8のアルキレン基又は炭素数6〜12のアリーレン基を表し、Rは炭素数2〜8であり、酸素原子を有する有機基を表す。R及びRは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【請求項14】
式(1)中、Rは炭素数1〜6のアルキル基を有するアシル基を表し、Rはエチレン基又はプロピレン基を表し、Rは炭素数1〜6のアルキル基を有するアシル基を表すことを特徴とする請求項13記載の調光シート。
【請求項15】
バインダー樹脂は、ポリビニルアセタール樹脂であることを特徴とする請求項13又は14記載の調光シート。
【請求項16】
ポリビニルアセタール樹脂は、アセチル基量が15モル%以下であり、かつ、水酸基量が30モル%以下であることを特徴とする請求項15記載の調光シート。
【請求項17】
ポリビニルアセタール樹脂は、アセチル基量が5モル%以上であることを特徴とする請求項15記載の調光シート。
【請求項18】
ポリビニルアセタール樹脂は、アセタール化度が70〜85モル%であることを特徴とする請求項15記載の調光シート。
【請求項19】
請求項10又は11記載の調光シートを用いることを特徴とする合わせガラス用中間膜。
【請求項20】
請求項19記載の合わせガラス用中間膜が、導電膜が形成されている、一対のガラス板の間に挟み込まれていることを特徴とする合わせガラス。

【公開番号】特開2012−53439(P2012−53439A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45208(P2011−45208)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【分割の表示】特願2011−501030(P2011−501030)の分割
【原出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】