説明

調光素子

【課題】耐光性、メモリー性に優れた調光素子を提供し、さらには繰返し耐久性、保存安定性に優れた調光素子を提供する。
【解決手段】基板上の一対の対向する電極間に、有機溶媒と、下記一般式(1)で表される銀塩化合物と、メルカプト基もしくはチオエーテルを有する化合物とを含有する電解質を有する調光素子であって、該調光素子は、電圧印加により可視光透過率が変化することを特徴とする調光素子。
一般式(1) Ag−R
(式中、Rは有機イオンを表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学的な調光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、建物において窓(開口部)は大きな熱の出入り場所になっている。例えば、冬の暖房時の熱が窓から流失する割合は5割程度であり、夏の冷房時に窓から熱が入る割合は7割程度にも達する。したがって、窓における光・熱をうまくコントロールすることにより、膨大な省エネルギー効果を得ることができる。調光システムは、このような目的で開発されたものであり、光・熱の流入・流出をコントロールする機能を有している。
【0003】
このような調光ガラスの調光を行う方式には、いくつかの種類がある。それらのうち、1)電流・電圧の印加により可逆的に透過率の変化する材料をエレクトロクロミック材料といい、2)温度により透過率が変化する材料をサーモクロミック材料といい、また、3)雰囲気ガスの制御により透過率が変化する材料をガスクロミック材料という。このうちサーモクロミック材料では、気温により調光度合いが自然に変化し、能動的なスイッチングが難しいという問題があり、またガスクロミック材料では合金薄膜を利用するため、消色時の透過率が低く、ガスの吸着・脱離による調光システムのためにコントロール性が低いという問題がある。
【0004】
またエレクトロクロミック材料としてポリアニリンなどの有機色素、酸化タングステンなどの無機色素が知られているが、消色状態であっても可視域に吸収極大を有し、消色状態でも完全に透明に出来ないという問題点があった。また有機エレクトロクロミック色素として消色状態でほぼ無色であるビオロゲンやロイコ色素も知られているが、これらはメモリー性に劣るという問題点を有していた。
【0005】
これら上述の各方式の欠点を解消する調光方式として、金属または金属塩の溶解析出を利用するエレクトロデポジション方式(以下、ED方式と略す)が知られている。このようなED方式の調光システム用の金属塩材料として、特に銀の析出・溶解を利用したシステムが考案されている(例えば、特許文献1、2、3参照)。銀塩化合物は低電圧で析出・溶解が可能であるという利点を有する。しかしながら銀塩化合物は特にハロゲンイオンが共存する場合には光に対して鋭敏に反応し、銀イオンが析出してしまうことでメモリー性や耐久性に劣るという問題点があった。また黒化像のメモリー性が低いという問題に対しては、メルカプト基を有する化合物を含有させることで黒化像の安定性を向上させた表示素子が知られている(例えば、特許文献4参照)。該特許文献は反射型ディスプレイ用表示素子としての記載は詳細に述べられているものの、調光素子としての利用は想定されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第7,046,418号明細書
【特許文献2】米国特許第7,193,764号明細書
【特許文献3】特開2005−140814号公報
【特許文献4】特開2005−266652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、耐光性、メモリー性に優れた調光素子を提供することである。また、さらには繰返し耐久性、保存安定性に優れた調光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成することができる。
【0009】
1.基板上の一対の対向する電極間に、有機溶媒と、下記一般式(1)で表される銀塩化合物と、メルカプト基もしくはチオエーテルを有する化合物とを含有する電解質を有する調光素子であって、該調光素子は、電圧印加により可視光透過率が変化することを特徴とする調光素子。
【0010】
一般式(1) Ag−R
(式中、Rは有機イオンを表す。)
2.前記、メルカプト基もしくはチオエーテルを有する化合物がエチレンジチオエーテル構造を有するチオエーテル結合含有化合物であることを特徴とする前記1記載の調光素子。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、耐光性、メモリー性に優れ、さらには繰返し耐久性、保存安定性に優れた調光素子を提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0013】
これまでにも銀塩化合物の析出、溶解を利用した種々の調光素子は知られているものの、銀塩イオンの光反応性が高いため、耐光性に劣るという問題点があった。銀塩化合物を調光素子として用いるためにはかなり高い耐光性が要求されることから、銀塩化合物の耐光性は非常に重要な課題として挙げられている。
【0014】
本発明者等の検討によれば、ある特定の銀塩化合物とメルカプト基あるいはチオエーテルを有する化合物を共存させることで、銀塩イオンの光反応を抑制し、調光素子として望ましい耐光性を付与できることが明らかとなった。
【0015】
(一般式(1)で表される銀塩化合物)
上記、一般式(1)において、Rは有機イオンを表す。ここで示す有機イオンとは、主に有機物から形成される分子イオンであることを表し、ハロゲンイオン(具体的にはI、Br、Cl、F)や炭酸イオン、硝酸イオン、チオシアン酸イオン、シアン化物イオン、過塩素酸イオンなどは有機イオンの範疇には含まない。
【0016】
本発明に係る有機イオンとして具体的には、アセチルアセトナートイオンやヘキサフルオロアセチルアセトナートイオンのようなジケトナートイオン、酢酸イオンや安息香酸イオン、ベヘン酸イオンのようなアセトナートイオン、ビス(トリフルオロメタンスルホン酸)イミドなどのようなイミドイオン、ジエチルジチオカルバメート酸イオンのようなカルバメートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオンのようなリン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオンやp−トルエンスルホン酸イオンのようなスルホン酸イオンなどが挙げられる。本発明の銀塩化合物において、好適なRとして具体的には、CFSO、(CFSO、(CSO、PF、CHCOO、CH(C)SOが挙げられ、さらにはCFSO、(CFSO、(CSO、CH(C)SOであることがより好ましい。
【0017】
(メルカプト基もしくはチオエーテルを有する化合物)
本発明のメルカプト基を有する化合物とは、メルカプト基として−S−Ra(Raは水素、金属または4級アンモニウム)を有する化合物であり、チオエーテルを有する化合物とは、チオエーテルとして−S−Rb(Rbは置換基を有していてもよいアルキル基)を有する化合物である。このような硫黄含有化合物は、ED方式の表示素子において金属塩化合物(特に銀塩)の溶解析出を促進するために用いられる銀塩溶剤と同一範疇の化合物であり、電解質の構成成分の一つである。銀塩溶剤とは、電解質中で銀を可溶化できる化合物であればいかなる化合物であってもよい。例えば、銀と配位結合を生じさせたり、銀と弱い供給結合を生じさせたりするような、銀と相互作用を示す化学構造種を含む化合物等と共存させて、銀または銀を含む化合物を可溶化物に変換する手段を用いるのが一般的である。前記化学種として、ハロゲン原子、メルカプト基、カルボキシル基、イミノ基等が知られているが、本発明においては、チオエーテル基を含有する化合物及びメルカプトアゾール類は、銀溶剤として有用に作用しかつ、共存化合物への影響が少なく溶媒への溶解度が高い特徴がある。また更にはこのような化合物を共存させることで、銀イオンの感光による析出が著しく抑制されることが明らかとなった。このような効果はメルカプト基を有する化合物、チオエーテル化合物を有する化合物のいずれでも発現するが、メルカプト基であることがより好ましく、繰返し駆動耐久性向上の観点からはチオエーテル化合物であることがより好ましい。チオエーテルを有する化合物の中でも、特にエチレンジチオエーテル構造を有するチオエーテル結合含有化合物を電解質中に含有することが好ましい。エチレンジチオエーテル構造として、下記一般式(2)で表される化合物が好ましい。
【0018】
【化1】

【0019】
上記一般式(2)において、Gは水素原子を除く任意の置換基を表し、R21、R22、R23、R24は水素原子あるいは置換基を表し、それぞれ同一であっても異なっていても良く、構造的な特徴は硫黄原子二つがチオエーテルであり、且つ置換あるいは無置換のエチレン鎖で連結されていることを示す。このような特定構造を含む化合物を電解質の一成分として含有させることにより、耐光性、メモリー性、繰返し耐久性、保存安定性により優れた調光素子を提供することができる。
【0020】
一般式(2)において、Gで表される置換基としては、置換、無置換の炭化水素基を表し、これらの炭化水素基は1個以上の窒素原子、酸素原子、リン原子、硫黄原子、ハロゲン原子を含んでもよく、GとG又はGとR21、R22、R23又はR24とが互いに連結し、環状構造をとってもよい。
【0021】
21、R22、R23、R24で表される置換基としては、上記Gで表される置換基と同義の基を挙げることができる。
【0022】
メルカプト基もしくはチオエーテルを有する化合物として、特に下記一般式(G−1)または一般式(G−2)で表される化合物が好ましい。
【0023】
〔一般式(G−1)または一般式(G−2)で表される化合物〕
一般式(G−1) Rg11−S−Rg12
式中、Rg11、Rg12は各々置換または無置換の炭化水素基を表す。また、これらの炭化水素基では、1個以上の窒素原子、酸素原子、リン原子、硫黄原子、ハロゲン原子を含んでも良く、Rg11とRg12が互いに連結し、環状構造を取っても良い。
【0024】
【化2】

【0025】
式中、Mは水素原子、金属原子または4級アンモニウムを表す。Zは含窒素複素環を構成するのに必要な原子群を表す。nは0〜5の整数を表し、Rg21は置換基を表し、nが2以上の場合、それぞれのRg21は同じであっても、異なってもよく、お互いに連結して縮合環を形成してもよい。
【0026】
前記一般式(G−1)において、Rg11、Rg12は各々置換または無置換の炭化水素基を表し、これらには芳香族の直鎖基または分岐基が含まれる。また、これらの炭化水素基では、1個以上の窒素原子、酸素原子、リン原子、硫黄原子を含んでも良く、Rg11とRg12が互いに連結し、環状構造を取っても良く、さらにはチオエーテルを多数有する構造を取っても良い。チオエーテルを多数有する構造を取る場合、チオエーテル結合間の連結基は特に限定されないが、芳香環、アルキレン基であることが好ましく、より好ましくはアルキレン基である。この時のアルキレン基としてはプロピレン基、エチレン基であることが好ましく、より好ましくはエチレン基であることであって、言い換えるならばエチレンジチオエーテル構造を分子内に有することがより好ましい。また、この場合のアルキレン基は途中に分岐を有していても良い。
【0027】
炭化水素基に置換可能な基としては、例えば、アミノ基、グアニジノ基、4級アンモニウム基、ヒドロキシル基、ハロゲン化合物、カルボン酸基、カルボキシレート基、アミド基、スルフィン酸基、スルホン酸基、スルフェート基、ホスホン酸基、ホスフェート基、ニトロ基、シアノ基等を挙げることができる。
【0028】
以下、一般式(G−1)で表される化合物の具体例を示すが、本発明ではこれら例示する化合物にのみ限定されるものではない。
【0029】
G1−1:CHSCHCHOH
G1−2:HOCHCHSCHCHOH
G1−3:HOCHCHSCHCHSCHCHOH
G1−4:HOCHCHSCHCHSCHCHSCHCHOH
G1−5:HOCHCHSCHCHOCHCHOCHCHSCHCHOH
G1−6:HOCHCHOCHCHSCHCHSCHCHOCHCHOH
G1−7:HCSCHCHCOOH
G1−8:HOOCCHSCHCOOH
G1−9:HOOCCHCHSCHCHCOOH
G1−10:HOOCCHSCHCHSCHCOOH
G1−11:HOOCCHSCHCHSCHCHSCHCHSCHCOOH
G1−12:HOOCCHCHSCHCHSCHCH(OH)CHSCHCHSCHCHCOOH
G1−13:HOOCCHCHSCHCHSCHCH(OH)CH(OH)CHSCHCHSCHCHCOOH
G1−14:HCSCHCHCHNH
G1−15:HNCHCHSCHCHNH
G1−16:HNCHCHSCHCHSCHCHNH
G1−17:HCSCHCHCH(NH)COOH
G1−18:HNCHCHOCHCHSCHCHSCHCHOCHCHNH
G1−19:HNCHCHSCHCHOCHCHOCHCHSCHCHNH
G1−20:HNCHCHSCHCHSCHCHSCHCHSCHCHNH
G1−21:HOOC(NH)CHCHCHSCHCHSCHCHCH(NH)COOH
G1−22:HOOC(NH)CHCHSCHCHOCHCHOCHCHSCHCH(NH)COOH
G1−23:HOOC(NH)CHCHOCHCHSCHCHSCHCHOCHCH(NH)COOH
G1−24:HN(O=)CCHSCHCHOCHCHOCHCHSCHC(=O)NH
G1−25:HN(O=)CCHSCHCHSCHC(=O)NH
G1−26:HNHN(O=)CCHSCHCHSCHC(=O)NHNH
G1−27:HC(O=)CNHCHCHSCHCHSCHCHNHC(O=)CH
G1−28:HNOSCHCHSCHCHSCHCHSONH
G1−29:NaOSCHCHCHSCHCHSCHCHCHSONa
G1−30:HCSONHCHCHSCHCHSCHCHNHOSCH
G1−31:HN(NH)CSCHCHSC(NH)NH・2HBr
G1−32:HN(NH)CSCHCHOCHCHOCHCHSC(NH)NH・2HCl
G1−33:HN(NH)CNHCHCHSCHCHSCHCHNHC(NH)NH・2HBr
G1−34:〔(CHNCHCHSCHCHSCHCHN(CH2+・2Cl
G1−35:CHCHCHCHOCHCHSCHCHSCHCHOCHCHCHCH
G1−36:CHCHCHCHOCOCHCHSCHCHSCHCHOCOCHCHCHCH
G1−37:NCCHCHCHOCOCHCHSCHCHSCHCHOCOCHCHCHCN
【0030】
【化3】

【0031】
【化4】

【0032】
【化5】

【0033】
【化6】

【0034】
上記例示した各化合物の中でも、本発明の目的効果をいかんなく発揮できる観点から、特に例示化合物G1−3、G1−36、G1−40、G1−59、G1−68、G1−71、G1−74、G1−77、G1−86が好ましい。
【0035】
次いで、一般式(G−2)で表される化合物について説明する。
【0036】
前記一般式(G−2)において、Mは水素原子、金属原子または4級アンモニウムを表す。Zはイミダゾール環類を除く含窒素複素環を表す。nは0〜5の整数を表し、Rg21は置換基を表し、nが2以上の場合、それぞれのRg21は同じであってもよく、異なってもよく、お互いに連結して縮合環を形成してもよい。
【0037】
一般式(G−2)のMで表される金属原子としては、例えば、Li、Na、K、Mg、Ca、Zn、Ag等が挙げられ、4級アンモニウムとしては、例えば、NH、N(CH、N(C、N(CH1225、N(CH1633、N(CHCH等が挙げられる。
【0038】
一般式(G−2)のZを構成成分とする含窒素複素環としては、例えば、テトラゾール環、トリアゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、チアジアゾール環、インドール環、オキサゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンズイミダゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾセレナゾール環、ナフトオキサゾール環等が挙げられる。
【0039】
一般式(G−2)のRg21で表される置換基としては、特に制限は無いが、例えば下記の様な置換基が挙げられる。
【0040】
水素原子、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、アルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、i−プロピル、ブチル、t−ブチル、ペンチル、シクロペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル、オクチル、ドデシル、ヒドロキシエチル、メトキシエチル、トリフルオロメチル、ベンジル等)、アリール基(例えば、フェニル、ナフチル等)、アルキルカルボンアミド基(例えば、アセチルアミノ、プロピオニルアミノ、ブチロイルアミノ等)、アリールカルボンアミド基(例えば、ベンゾイルアミノ等)、アルキルスルホンアミド基(例えば、メタンスルホニルアミノ基、エタンスルホニルアミノ基等)、アリールスルホンアミド基(例えば、ベンゼンスルホニルアミノ基、トルエンスルホニルアミノ基等)、アルコキシ基、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ等)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ、エチルチオ、ブチルチオ等)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ基、トリルチオ基等)、アルキルカルバモイル基(例えばメチルカルバモイル、ジメチルカルバモイル、エチルカルバモイル、ジエチルカルバモイル、ジブチルカルバモイル、ピペリジルカルバモイル、モルホリルカルバモイル等)、アリールカルバモイル基(例えば、フェニルカルバモイル、メチルフェニルカルバモイル、エチルフェニルカルバモイル、ベンジルフェニルカルバモイル等)、カルバモイル基、アルキルスルファモイル基(例えば、メチルスルファモイル、ジメチルスルファモイル、エチルスルファモイル、ジエチルスルファモイル、ジブチルスルファモイル、ピペリジルスルファモイル、モルホリルスルファモイル等)、アリールスルファモイル基(例えば、フェニルスルファモイル、メチルフェニルスルファモイル、エチルフェニルスルファモイル、ベンジルフェニルスルファモイル等)、スルファモイル基、シアノ基、アルキルスルホニル基(例えば、メタンスルホニル基、エタンスルホニル基等)、アリールスルホニル基(例えば、フェニルスルホニル、4−クロロフェニルスルホニル、p−トルエンスルホニル等)、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、ブトキシカルボニル等)、アリールオキシカルボニル基(例えばフェノキシカルボニル等)、アルキルカルボニル基(例えば、アセチル、プロピオニル、ブチロイル等)、アリールカルボニル基(例えば、ベンゾイル基、アルキルベンゾイル基等)、アシルオキシ基(例えば、アセチルオキシ、プロピオニルオキシ、ブチロイルオキシ等)、カルボキシル基、カルボニル基、スルホニル基、アミノ基、ヒドロキシ基または複素環基(例えば、オキサゾール環、チアゾール環、トリアゾール環、セレナゾール環、テトラゾール環、オキサジアゾール環、チアジアゾール環、チアジン環、トリアジン環、ベンズオキサゾール環、ベンズチアゾール環、インドレニン環、ベンズセレナゾール環、ナフトチアゾール環、トリアザインドリジン環、ジアザインドリジン環、テトラアザインドリジン環基等)を挙げられる。これらの置換基はさらに置換基を有するものを含む。
【0041】
次に、一般式(G−2)で表される化合物の好ましい具体例を示すが、本発明はこれらの化合物に限定されるものではない。
【0042】
【化7】

【0043】
【化8】

【0044】
〔調光素子の基本構成〕
本発明の調光素子においては、一対の対向する電極のうち、調光部には対応する1つの対向電極が設けられている。調光部に近い対向電極の1つである電極には、ITO電極等の透明電極、他方の電極には導電性電極が設けられている。透明電極と導電性電極との間に、本発明に係る有機溶媒、金属塩化合物とメルカプト基もしくはチオエーテルを有する化合物で表される化合物等を含有した電解質層を有し、対向電極間に正負両極性の電圧を印加することにより、透過率を調整することができる。
【0045】
〔基板〕
本発明で用いることのできる基板としては、透明基板であることが好ましく、このような透明基板としては、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート等)、ポリイミド、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、ナイロン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルフォン、シリコン樹脂、ポリアセタール樹脂、フッ素樹脂、セルロース誘導体、ポリオレフィンなどの高分子のフィルムや板状基板、ガラス基板などが好ましく用いられる。本発明に用いられる透明な基板とは、可視光に対する透過率が少なくとも50%以上の基板を言う。
【0046】
〔電極〕
(透明電極)
透明電極としては、透明で電気を通じるものであれば特に制限はない。例えば、Indium Tin Oxide(ITO:インジウム錫酸化物)、Indium Zinc Oxide(IZO:インジウム亜鉛酸化物)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、酸化インジウム、酸化亜鉛、白金、金、銀、ロジウム、銅、クロム、炭素、アルミニウム、シリコン、アモルファスシリコン、BSO(Bismuth Silicon Oxide)等が挙げられる。また、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリセレノフェニレン等、及びそれらの修飾化合物を単独あるいは混合して用いることができる。
【0047】
表面抵抗値としては100Ω/□以下が好ましく、10Ω/□以下がより好ましい。透明電極の厚みは特に制限はないが、0.1〜20μmであるのが一般的である。
【0048】
(透明多孔質電極)
透明電極の1つの態様として、上記透明電極上にナノ多孔質化構造を有するナノ多孔質電極を設けることができる。このナノ多孔質電極は、調光素子を形成した際に実質的に透明で、エレクトロクロミック色素等の電気活性物質を担持することができる。
【0049】
本発明で言うナノ多孔質化構造とは、層中にナノメートルサイズの孔が無数に存在し、ナノ多孔質化構造内を電解質中に含まれるイオン種が移動可能な状態のことを言う。
【0050】
このようなナノ多孔質電極の形成方法としては、ナノ多孔質電極を構成する微粒子を含んだ分散物を、インクジェット法、スクリーン印刷法、ブレード塗布法などで層状に形成した後に、所定の温度で加熱、乾燥、焼成することよって多孔質化する方法や、スパッタ法、CVD法、大気圧プラズマ法などで電極層を構成した後に、陽極酸化、光電気化学エッチングすることによってナノ多孔質化する方法などが挙げられる。また、ゾルゲル法や、Adv.Mater.2006,18,2980−2983に記載された方法でも、形成することができる。
【0051】
ナノ多孔質電極を構成する微粒子の主成分は、Cu、Al、Pt、Ag、Pd、Au等の金属やITO、SnO、TiO、ZnO等の金属酸化物やカーボンナノチューブ、グラッシーカーボン、ダイヤモンドライクカーボン、窒素含有カーボン等の炭素電極から選択することができ、好ましくはITO、SnO、TiO、ZnO等の金属酸化物から選択されることである。
【0052】
ナノ多孔質電極が透明性を有するためには、平均粒子径が5nm〜10μm程度の微粒子を用いることが好ましい。微粒子の形状は不定形、針状、球形など任意の形状のものを用いることができる。ナノ多孔質電極の膜厚は0.1〜10μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは0.25〜5μmの範囲である。
【0053】
(対向する電極)
対向する電極としては、電気を通じるものであれば特に制限されず用いることができる。
【0054】
対向電極の構成材料としては、上記透明電極と同じ材料に加え、白金、金、銀、銅、アルミニウム、亜鉛、ニッケル、チタン、ビスマスなどの金属など、透明性を有さない材料であっても細線電極や補助電極として好適に用いることができる。
【0055】
〈細線電極、補助電極〉
本発明に係る対向する電極の内、少なくとも一方の電極に補助電極を付帯させること、また一方の電極を細線電極とすることができる。このような電極は電気抵抗が低い材料を用いることが好ましい。例えば、白金、金、銀、銅、アルミニウム、亜鉛、ニッケル、チタン、ビスマスなどの金属及びそれらの合金等を好ましく用いることができる。
【0056】
補助電極は、主となる電極部と基板との間と主となる電極部の基板と反対側の表面とのいずれに設置することもできる。いずれにしても、補助電極が主となる電極部と電気的に接続していればよい。
【0057】
補助電極、細線電極の配置パターンには特に制限はない。直線状、メッシュ状、円形など、求められる性能に応じて適宜形成することが可能である。主となる電極部が複数の部分に分割されている場合には、分割された電極部同士を接続する形で設けてもよい。補助電極は調光素子の視認性を阻害しない形状と頻度で設けることが求められる。
【0058】
補助電極、細線電極を形成する方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、フォトリソグラフィ法でパターニングする方法、印刷法やインクジェット法、電解メッキや無電解メッキ、銀塩感光材料を用いて露光、現像処理してパターン形成する方法でもよい。
【0059】
補助電極、細線電極パターンのライン幅やライン間隔は任意の値で構わないが、導電性を高くするためにはライン幅を太くする必要がある。一方、透明電極に補助電極を付帯させる場合には、視認性の観点から補助電極の面積被覆率は30%以下が好ましく、更に好ましくは10%以下である。
【0060】
このように、透過率と導電性の点から補助電極、細線電極のライン幅は1μm以上、100μm以下が好ましく、ライン間隔は50μmから1000μmが好ましい。
【0061】
(電極の形成方法)
透明電極、金属補助電極を形成するには、公知の方法を用いることができる。例えば、基板上にスパッタリング法等でマスク蒸着する方法や、全面形成した後にフォトリソグラフィ法でパターニングする方法等が挙げられる。また、電解メッキや無電解メッキ、印刷法や、インクジェット法によっても電極形成が可能である。
【0062】
インクジェット方式を用いて基板上にモノマー重合能を有する触媒層を含む電極パターンを形成した後に、該触媒により重合されて重合後に導電性高分子層になりうるモノマー成分を付与して、モノマー成分を重合し、更に該導電性高分子層の上に銀等の金属メッキを行うことにより金属電極パターンを形成することもでき、フォトレジストやマスクパターンを使用することがないので工程を大幅に簡略化できる。
【0063】
電極材料を塗布方式で形成する場合には、例えば、ディッピング法、スピナー法、スプレー法、ロールコーター法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法等の公知の方法を用いることができる。
【0064】
インクジェット方式の中でも、下記の静電インクジェット方式は高粘度の液体を高精度に連続的に印字することが可能であり、本発明に係る透明電極や金属補助電極の形成に好ましく用いられる。インクの粘度は好ましくは30mPa・s以上であり、更に好ましくは100mPa・s以上である。
【0065】
〈静電インクジェット方式〉
本発明の調光素子においては、複合電極の透明電極及び金属補助電極の少なくとも1方が、帯電した液体を吐出する内部直径が30μm以下のノズルを有する液体吐出ヘッドと、前記ノズル内に溶液を供給する供給手段と、前記ノズル内の溶液に吐出電圧を印加する吐出電圧印加手段とを備えた液体吐出装置を用いて形成されることが好ましい態様の1つである。更にノズル内の溶液がノズル先端部から、凸状に盛り上がった状態を形成する凸状メニスカス形成手段を設けた吐出装置を用いて形成されることが好ましい。
【0066】
また、凸状メニスカス形成手段を駆動する駆動電圧の印加、及び吐出電圧印加手段による吐出電圧の印加を制御する動作制御手段を備え、この動作制御手段は前記吐出電圧印加手段による吐出電圧の印加を行わせつつ液滴の吐出に際して、凸状メニスカス形成手段の駆動電圧の印加を行わせる第一の吐出制御部を有する液体吐出装置を用いることも好ましい。
【0067】
また、凸状メニスカス形成手段の駆動及び吐出電圧印加手段による電圧印加を制御する動作制御手段を備え、この動作制御手段は、前記凸状メニスカス形成手段による溶液の盛り上げ動作と前記吐出電圧の印加とを同期させて行う、第二の吐出制御部を有することを特徴とする液体吐出装置を用いること、前記動作制御手段は、前記溶液の盛り上げ動作及び吐出電圧の印加の後に、前記ノズル先端部の液面を内側に引き込ませる動作制御を行う、液面安定化制御部を有する液体吐出装置を用いることも好ましい形態である。
【0068】
このような静電インクジェットを用いて電極パターンを作製することにより、オンデマンド性に優れ、廃棄材料が少なく、寸法精度に優れた電極を得ることができ有利である。
【0069】
〔電子絶縁層〕
本発明の調光素子においては、電気絶縁層を設けることができる。
【0070】
本発明に適用可能な電子絶縁層は、イオン電導性、電子絶縁性を合わせて有する層であればよく、例えば、極性基を有する高分子や塩をフィルム状にした固体電解質膜、電子絶縁性の高い多孔質膜とその空隙に電解質を担持する擬固体電解質膜、空隙を有する高分子多孔質膜、含ケイ素化合物の様な比誘電率が低い無機材料の多孔質体、等が挙げられる。
【0071】
多孔質膜の形成方法としては、燒結法(融着法)(高分子微粒子や無機粒子をバインダ等を添加して部分的に融着させ粒子間に生じた孔を利用する)、抽出法(溶剤に可溶な有機物または無機物類と溶剤に溶解しないバインダ等で構成層を形成した後に、溶剤で有機物または無機物類を溶解させ細孔を得る)、高分子重合体等を加熱や脱気するなどして発泡させる発泡法、良溶媒と貧溶媒を操作して高分子類の混合物を相分離させる相転換法、各種放射線を輻射して細孔を形成させる放射線照射法等の公知の形成方法を用いることができる。
【0072】
具体的には、特開平10−30181号、特開2003−107626号、特公平7−95403号、特許第2635715号、同2849523号、同2987474号、同3066426号、同3464513号、同3483644号、同3535942号、同3062203号の各公報等に記載の電子絶縁層を挙げることができる。
【0073】
〔電解質組成物〕
(有機溶媒)
本発明に係る電解質は有機溶媒を含有する。有機溶媒としては沸点が120〜300℃の範囲にあることが好ましく、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチルラクトン、スルホラン、ジメチルスルホキシド、ブチロニトリル、プロピオニトリル、アセトニトリル、アセチルアセトン、4−メチル−2−ペンタノン、2−ブタノール、1−ブタノール、2−プロパノール、1−プロパノール、無水酢酸、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、ジメトキシエタン、ジエトキシフラン、テトラヒドロフラン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリクレジルホスフェート、2エチルヘキシルホスフェート、ジオクチルフタレート、ジオクチルセバケート等を挙げることができる。
【0074】
(イオン性液体)
本発明に係る電解質にはイオン性液体を併用しても良い。イオン性液体は常温溶融塩とも言われ、融点が100℃以下の塩である。この塩はほぼ同数のカチオンとアニオンから構成されており、分子構造によって融点が室温以下の物質も数多く存在し、これらは溶媒をまったく加えなくても室温で液体状態である。イオン性液体は、強い静電的な相互作用をもっているため蒸気圧がほとんどないことが大きな特徴であり、高温でも蒸発がなく揮発しない。
【0075】
本発明に用いるイオン性液体としては、一般的に研究・報告されている物質ならばどのようなものでも構わない。特に有機のイオン性液体は、室温を含む幅広い温度領域で液体を示す分子構造がある。
【0076】
本発明で用いるイオン性液体とは、式Qで表され、20〜100℃、好ましくは20〜80℃、より好ましくは20〜60℃、更に好ましくは20〜40℃、特に20℃で液体として存在する塩のことを指し、粘度(25℃)は、常温で融体である限り特に制限されないが、好ましくは1〜200mPa・sである。更に、式中Qで表されるカチオン成分はオニウムカチオンが好ましく、更に好ましくはアンモニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、スルホニウムカチオン及びホスホニウムカチオンである。
【0077】
上述のイオン性液体について具体的に詳述すると、上式中のQとしては、R、R、R、R=CR、R=CR[ここで、RからRは互いに独立して、水素、飽和または不飽和の炭素数1〜12のアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基または炭素数7〜11のアラルキル基、R−X−(R−Y−)−(式中、Rは炭素数4以下のアルキル基、Rは炭素数4以下のアルキレン基、X及びYは酸素原子または硫黄原子、nは0〜10の整数を示す)を表し、これらの基は置換基を有していてもよい]から成る群から選択されるアンモニウム及び/またはホスホニウムイオン、R=CR−R−RC=N、R−R−S、R=CR−R−RC=P(ここで、R、R及びRは、前記で定義したものと同じであり、そしてRは、炭素数1〜6のアルキレンまたはフェニレン基を表し、これらの基は置換基を有していてもよい)からなる群から選択される第四級アンモニウム及び/またはホスホニウムイオン、更には下記一般式で表される窒素、硫黄及び燐原子から選ばれる原子を1、2または3個含む窒素、硫黄及び燐原子含有複素環から誘導されるアンモニウムイオン、スルホニウムイオンまたはホスホニウムイオンなどを挙げることができる。
【0078】
【化9】

【0079】
式中、R及びRはこの上で定義した通りであり、ZはN、N=C、S、PあるいはP=Cを含む4〜10員環を構成しうる原子を指し、この構成する原子には置換基を有していてもよい。
【0080】
上述の中で、RからRの具体的な例はとしては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシルなどの直鎖または分枝を有するアルキル基、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチルなどのシクロアルキル基、無置換あるいはハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、水酸基、低級アルコキシ基(メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ)、カルボキシル基、アセチル基、プロパノイル基、チオール基、低級アルキルチオ基(メチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ、ブチルチオ)、アミノ基、低級アルキルアミノ基、ジ低級アルキルアミノ基などの置換基を1〜3個有するフェニル、ナフチル、トルイル、キシリル等のアリール基、ベンジルなどのアラルキル基などを挙げることができる。
【0081】
また、Rの具体的な例としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチル基などのアルキル基などが挙げられ、Rとしてはメチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン基などのアルキレン基などを挙げることができる。更にRの具体的な例はとしては、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレンなどのアルキレン基、フェニレンなどのフェニレン基などを挙げることができる。
【0082】
また、式中のAで表される対アニオンとしては、ヘキサフルオロリン酸塩、ヘキサフルオロアンチモン酸塩、ヘキサフルオロヒ酸塩、フルオロスルホン酸塩、テトラフルオロホウ酸塩、硝酸塩、アルキルスルホン酸塩、フッ化アルキルスルホン酸塩または水素硫酸塩を表す。
【0083】
更に、国際公開第95/18456号パンフレット、特開平8−259543号公報、特開2001−243995号公報、電気化学第65巻11号923頁(1997年)、EP−718288号、J.Electrochem.Soc.,Vol.143,No.10,3099(1996)、Inorg.Chem.1996,35,1168〜1178等に記載されているピリジニウム塩、イミダゾリウム塩、トリアゾリウム塩なども本発明に応じては適時選択して用いることができる。
【0084】
(金属塩化合物)
本発明においては、一般式(1)で表される銀塩化合物の他にも金属塩化合物を用いることができる。これらは銀の溶解・析出反応を妨げないものであれば、如何なる化合物であってもよい。好ましい金属種は、ビスマス、銅、ニッケル、鉄、クロム、亜鉛、錫、パラジウム、イリジウム、ルテニウム等である。
【0085】
本発明の調光素子において、電解質組成物に含まれる金属イオン濃度は、0.01モル/kg≦[Metal]≦2.0モル/kgが好ましい。金属イオン濃度が0.01モル/kg以上であれば、十分な濃度の銀溶液となり十分な銀析出濃度を得ることができ、2.0モル/kg以下であれば過飽和による析出を防止し、低温保存時での電解質の安定性が向上する。
【0086】
(ハロゲンイオン、金属イオン濃度比)
本発明の調光素子においては、電解質に含まれるハロゲンイオンまたはハロゲン原子のモル濃度を[X](モル/kg)とし、前記電解質に含まれる銀または銀を化学構造中に含む化合物の銀の総モル濃度を[Metal](モル/kg)としたとき、下式(1)で規定する条件を満たすことが好ましい。
【0087】
式(1):0≦[X]/[Metal]≦0.1
本発明で言うハロゲン原子とは、ヨウ素原子、塩素原子、臭素原子、フッ素原子のことを言う。[X]/[Metal]が0.1よりも大きい場合は、金属の酸化還元反応時に、X→Xが生じ、Xは析出した金属と容易にクロス酸化して析出した金属を溶解させ、メモリー性を低下させる要因の1つになるので、ハロゲン原子のモル濃度は金属銀のモル濃度に対してできるだけ低い方が好ましい。本発明においては、0≦[X]/[Metal]≦0.001がより好ましい。ハロゲンイオンを添加する場合、ハロゲン種については、メモリー性向上の観点から、各ハロゲン種モル濃度総和が[I]<[Br]<[Cl]<[F]であることが好ましく、ハロゲン種総モル濃度は0≦[X]≦0.1であることが好ましく、より好ましくは0≦[X]≦0.01であって、更に好ましくは0≦[X]≦0.001である。
【0088】
本発明に係る電解質組成物には、更に下記のような成分を併用してもよい。
【0089】
(エレクトロクロミック化合物)
本発明の調光素子においては、必要に応じて種々のエレクトロクロミック化合物を併用することが出来る。
【0090】
エレクトロクロミック化合物とは、電気化学的な酸化反応及び還元反応の少なくとも一方により発色または消色する作用をもつエレクトロクミック材料を含む。
【0091】
本発明の「電気化学的な還元または酸化によって着色と消色をする材料」とは、電気化学的な酸化反応及び還元反応の少なくとも一方により発色または消色する機能(作用)をもつエレクトロクミック(以下において、適宜「EC」と略す。)化合物乃至それを含む材料を言う。
【0092】
本発明で用いることの出来るエレクトロクロミック化合物(EC化合物)としては、電気化学的な酸化反応及び還元反応の少なくとも一方により発色または消色する機能(作用)を示す限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0093】
例えば、EC化合物として、酸化タングステン、酸化イリジウム、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化チタン、酸化インジウム、酸化クロム、酸化マンガン、プルシアンブルー、窒化インジウム、窒化錫、窒化塩化ジルコニウム等の無機化合物に加え、有機金属錯体、導電性高分子化合物及び有機色素が従来知られている。
【0094】
エレクトロクロミック(EC)特性を示す有機金属錯体としては、例えば、金属−ビピリジル錯体、金属フェナントロリン錯体、金属−フタロシアニン錯体、希土類ジフタロシアニン錯体、フェロセン系色素などが挙げられる。
【0095】
EC特性を示す導電性高分子化合物としては、例えば、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリイソチアナフテン、ポリアニリン、ポリフェニレンジアミン、ポリベンジジン、ポリアミノフェノール、ポリビニルカルバゾール、ポリカルバゾール及びこれらの誘導体などが挙げられる。
【0096】
また、例えば、特開2007−112957号公報に記載されているような、ビスターピリジン誘導体と金属イオンからなる高分子材料もEC特性を示す。
【0097】
EC特性を示す有機色素としては、ビオロゲン等ピリジニウム系化合物、フェノチアジン等アジン系色素、スチリル系色素、アントラキノン系色素、ピラゾリン系色素、フルオラン系色素、ドナー/アクセプター型化合物類(例えば、テトラシアノキノジメタン、テトラチアフルバレン)等が挙げられる。その他、酸化還元指示薬、pH指示薬として知られている化合物を用いることもできる。
【0098】
〈色調によるEC化合物の分類〉
本発明で用いることの出来るエレクトロクロミック(EC)化合物を、色調変化の点で分類すると、下記3つのクラスに分けられる。
【0099】
クラス1:酸化還元によりある特定の色から別の色に変化するEC化合物
クラス2:酸化状態で実質無色であり、還元状態である特定の着色状態を示すEC化合物
クラス3:還元状態で実質無色であり、酸化状態である特定の着色状態を示すEC化合物。
【0100】
本発明の調光素子においては、目的、用途により上記クラス1からクラス3のEC化合物を適宜選択することができる。
【0101】
[クラス1のEC化合物]
クラス1のEC化合物は、酸化還元によりある特定の色から別の色に変化するEC化合物であり、その取り得る酸化状態において、二色以上の表示が可能な化合物である。
【0102】
クラス1に分類される化合物としては、例えば、Vは酸化状態から還元状態へ変化することで橙色から緑色に変化し、同様にRhは黄色から暗緑色に変化する。
【0103】
有機金属錯体の多くはクラス1に分類され、ルテニウム(II)ビピリジン錯体、例えば、トリス(5,5′−ジカルボキシルエチル−2,2′−ビピリジン)ルテニウム錯体は+2〜−4価の間で、順にオレンジ色から紫、青、緑青色、褐色、赤錆色、赤へと変化する。希土類ジフタロシアニン類の多くも、このようなマルチカラー特性を示す。例えば、ルテチウムジフタロシアニンの場合、酸化に従い順次、紫色から青、緑、赤橙色へと変化する。
【0104】
また、導電性ポリマーもその多くはクラス1に分類される。例えば、ポリチオフェンは酸化状態から還元状態へ変化することで青から赤へと変化し、ポリピロールは褐色から黄色へと変化する。また、ポリアニリン等では、マルチカラー特性を示し酸化状態の紺色から順に青色、緑色、淡黄色へと変化する。
【0105】
クラス1に分類されるEC化合物は、単一の化合物で多色表示が可能であると言うメリットを有するが、反面実質無色と言える状態を作れないと言う欠点を有する。
【0106】
[クラス2のEC化合物]
クラス2のEC化合物は、酸化状態で無色乃至は極淡色であり、還元状態である特定の着色状態を示す化合物である。
【0107】
クラス2に分類される無機化合物としては下記化合物が挙げられ、各々還元状態でカッコ内に示した色を示す。WO(青)、MnO(青)、Nb(青)、TiO(青)等。
【0108】
クラス2に分類される有機金属錯体としては、例えば、トリス(バソフェナントロリン)鉄(II)錯体が挙げられ、還元状態で赤色を示す。
【0109】
クラス2に分類される有機色素としては、特開昭62−71934号、特開2006−71765号の各公報に記載されている化合物、例えば、テレフタル酸ジメチル(赤)、4,4′−ビフェニルカルボン酸ジエチル(黄色)、1,4−ジアセチルベンゼン(シアン)、あるいは特開平1−230026号、特表2000−504764号の各公報に記載されているテトラゾリウム塩化合物等が挙げられる。
【0110】
クラス2に分類される色素として、最も代表的な色素はビオロゲン等ピリジニウム系化合物である。ビオロゲン系化合物は表示が鮮明であること、置換基を変えることなどにより色のバリエーションを持たせることが可能であることなどの長所を有しているため、有機色素の中では最も盛んに研究されている。発色は、還元で生じた有機ラジカルに基づく。
【0111】
ビオロゲン等ピリジニウム系化合物としては、例えば、特表2000−506629号公報を初めとして下記特許文献に記載されている化合物が挙げられる。
【0112】
特開平5−70455号、特開平5−170738号、特開2000−235198号、特開2001−114769号、特開2001−172293号、特開2001−181292号、特開2001−181293号、特表2001−510590号、特開2004−101729号、特開2006−154683号、特表2006−519222号、特開2007−31708号、特開2007−171781号、特開2007−219271号、特開2007−219272号、特開2007−279659号、特開2007−279570号、特開2007−279571号、特開2007−279572号の各公報等。
【0113】
[クラス3のEC化合物]
クラス3のEC化合物は還元状態で無色乃至は極淡色であり、酸化状態である特定の着色状態を示す化合物である。
【0114】
クラス3に分類される無機化合物としては、例えば、酸化イリジウム(暗青色)、プルシアンブルー(青)等が挙げられる(各々酸化状態でカッコ内に示した色を示す)。
【0115】
クラス3に分類される導電性ポリマーとしての例は少ないが、例えば、特開平6−263846号公報に記載のフェニルエーテル系化合物が挙げられる。
【0116】
クラス3に分類される色素としては多数の色素が知られているが、スチリル系色素、フェナジン、フェノチアジン、フェノキサジン、アクリジン等のアジン系色素、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール等のアゾール系色素等が好ましい。
【0117】
(支持電解質)
本発明において用いられる支持電解質としては、電気化学の分野または電池の分野で通常使用される塩類、酸類、アルカリ類が使用できる。塩類としては特に制限はなく、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等の無機イオン塩;4級アンモニウム塩;環状4級アンモニウム塩;4級ホスホニウム塩などが使用できる。
【0118】
塩類の具体例としては、SCN、ClO、BF、CFSO、(CFSO、(CSO、PF、AsF、CHCOO、CH(C)SO、及び(CSOから選ばれる対アニオンを有するLi塩、Na塩、あるいはK塩が挙げられる。
【0119】
また、SCN、ClO、BF、CFSO、(CFSO、(CSO、PF、AsF、CHCOO、CH(C)SO、及び(CSOから選ばれる対アニオンを有する4級アンモニウム塩、具体的には、(CHNBF、(CNF、(n−CNBF、(CNBr、(CH5)NClO、(n−CNClO、CH(CNBF、(CH(CNBF、(CHNSOCF、(CNSOCF、(n−CNSOCF、更には、
【0120】
【化10】

【0121】
等が挙げられる。
【0122】
また、SCN、ClO、BF、CFSO、(CFSO、(CSO、PF、AsF、CHCOO、CH(C)SO、及び(CSOから選ばれる対アニオンを有するホスホニウム塩、具体的には、(CHPBF、(CPBF、(CPBF、(CPBF等が挙げられる。また、これらの混合物も好適に用いることができる。
【0123】
本発明に係る支持電解質としては4級アンモニウム塩あるいはLiが好ましく、Li塩が好ましい。
【0124】
電解質塩の使用量は任意であるが、一般的には、電解質塩は溶媒中に上限としては20M以下、好ましくは10M以下、更に好ましくは5M以下存在していることが望ましく、下限としては通常0.01M以上、好ましくは0.05M以上、更に好ましくは0.1M以上存在していることが望ましい。
【0125】
固体電解質の場合には、電子伝導性やイオン伝導性を示す以下の化合物を電解質中に含むことができる。パーフルオロスルフォン酸を含むフッ化ビニル系高分子、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール、トリフェニルアミン類、ポリビニルカルバゾール類、ポリメチルフェニルシラン類、CuS、AgS、CuSe、AgCrSe等のカルコゲニド、CaF、PbF、SrF、LaF、TlSn、CeF等の含F化合物、LiSO、LiSiO、LiPO等のLi塩、ZrO、CaO、Cd、HfO、Y、Nb、WO、Bi、AgBr、AgI、CuCl、CuBr、CuBr、CuI、LiI、LiBr、LiCl、LiAlCl、LiAlF、AgSBr、CNHAg、RbCu16Cl13、RbCuCl10、LiN、LiNI、LiNBr等の化合物が挙げられる。
【0126】
(酸化還元されうる補助化合物(プロモーター))
本発明の調光素子においては、金属塩化合物(特に銀塩)の溶解析出を促進する目的、酸化還元されうる補助化合物(以下、プロモーターと記す)を添加してもよい。プロモーターは酸化還元反応の結果として、可視領域(400〜700nm)の光学濃度が変化しないものでもよいし、変化するもの、即ち前記EC化合物であってもよく、電極上に固定化されていてもよく、電解質中に添加されていてもよいが、少なくとも1種のプロモーターが対向電極上に固定化されていることが好ましい。
【0127】
本発明に用いることができる好ましいプロモーターとしては、例えば、以下のような化合物が挙げられる。
【0128】
1)TEMPO等に代表されるN−オキシル誘導体、N−ヒドロキシフタルイミド誘導体、ヒドロキサム酸誘導体等、N−O結合を有する化合物
2)ガルビノキシル等、o−位に嵩高い置換基を導入したアリロキシ遊離基を有する化合物
3)フェロセン等、メタロセン誘導体
4)ベンジル(ジフェニルエタンジオン)誘導体
5)テトラゾリウム塩/ホルマザン誘導体
6)フェナジン、フェノチアジン、フェノキサジン、アクリジン等のアジン系化合物
7)ビオロゲン等ピリジニウム化合物。
【0129】
その他、ベンゾキノン誘導体、ベルダジル等ヒドラジル遊離基化合物、チアジル遊離基化合物、ヒドラゾン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、トリアリルアミン誘導体、テトラチアフルバレン誘導体、テトラシアノキノジメタン誘導体、チアントレン誘導体等もプロモーターとして用いることができる。
【0130】
本発明の調光素子においては、上記1)及び3)の範疇のプロモーターが好ましく、特にフェロセン誘導体が好ましい。
【0131】
なお、上記プロモーターが対向電極上に固定化されるためには、−COH、−P=O(OH)、−OP=O(OH)、−SOHまたは−Si(OR)(Rは、アルキル基を表す。)などを有することが好ましく、最も好ましくは−Si(OR)である。これらの基は電極上の水酸基等と化学結合あるいは電極に物理吸着し、固定化される。
【0132】
(固体電解質、ゲル電解質)
本発明に係る電解質組成物は、溶媒やイオン性液体からなる溶液状の電解質以外にも、実質的に溶媒を含まない固体電解質や高分子化合物を含有した高粘度な電解質やゲル状の電解質(以下、ゲル電解質)を用いることができる。
【0133】
本発明に適用可能な固体電解質、ゲル電解質としては、例えば、特開2002−341387号公報に記載の固体電解質、特開2002−341387号公報に記載のポリマー固体電解質、特開2004−20928号公報に記載の高分子固体電解質、特開2004−191945号公報に記載の高分子固体電解質、特開2005−338204号公報に記載の固体高分子電解質、特開2006−323022号公報に記載の高分子固体電解質、特開2007−141658号公報に記載の固体電解質、特開2007−163865号公報に記載の固体電解質、ゲル電解質等を挙げることができる。
【0134】
(電解質添加の増粘剤)
本発明の調光素子においては、電解液に増粘剤を使用することができ、例えば、ゼラチン、アラビアゴム、ポリ(ビニルアルコール)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(アルキレングリコール)、カゼイン、デンプン、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メチルメタクリル酸)、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(メタクリル酸)、コポリ(スチレン−無水マレイン酸)、コポリ(スチレン−アクリロニトリル)、コポリ(スチレン−ブタジエン)、ポリ(ビニルアセタール)類(例えば、ポリ(ビニルホルマール)及びポリ(ビニルブチラール))、ポリ(エステル)類、ポリ(ウレタン)類、フェノキシ樹脂、ポリ(塩化ビニリデン)、ポリ(エポキシド)類、ポリ(カーボネート)類、ポリ(ビニルアセテート)、セルロースエステル類、ポリ(アミド)類、疎水性透明バインダとして、ポリビニルブチラール、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアクリル酸、ポリウレタン等が挙げられる。
【0135】
これらの増粘剤は2種以上を併用して用いてもよい。また、特開昭64−13546号公報の71〜75頁に記載の化合物を挙げることができる。これらの中で好ましく用いられる化合物は、各種添加剤との相溶性と白色粒子の分散安定性向上の観点から、ポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、ヒドロキシプロピルセルロース類、ポリアルキレングリコール類、ポリビニルアセタール類である。
【0136】
本発明の調光素子において、増粘剤として好ましいのは平均重合度100〜1000000のポリエチレングリコールであり、電解質の全質量に対して質量比で5〜50%の範囲で添加するのが好ましい。
【0137】
〔調光素子のその他の構成要素〕
本発明の調光素子には、必要に応じてシール剤、柱状構造物、スペーサー粒子を用いることができる。
【0138】
シール剤は外に漏れないように封入するためのものであり封止剤とも呼ばれ、エポキシ樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、エン−チオール系樹脂、シリコン系樹脂、変性ポリマー樹脂等の、熱硬化型、光硬化型、湿気硬化型、嫌気硬化型等の硬化タイプを用いることができる。
【0139】
柱状構造物は基板間の強い自己保持性(強度)を付与し、例えば、格子配列等の所定のパターンに一定の間隔で配列された、円柱状体、四角柱状体、楕円柱状体、台形柱状体等の柱状構造物を挙げることができる。また、所定間隔で配置されたストライプ状のものでもよい。この柱状構造物はランダムな配列ではなく、等間隔な配列、間隔が徐々に変化する配列、所定の配置パターンが一定の周期で繰り返される配列等、基板の間隔を適切に保持できることが好ましい。柱状構造物は表示素子の表示領域に占める面積の割合が1〜40%であれば、調光素子として実用上十分な強度が得られる。
【0140】
一対の基板間には、該基板間のギャップを均一に保持するためのスペーサーが設けられていてもよい。このスペーサーとしては、樹脂製または無機酸化物製の球体を例示できる。また、表面に熱可塑性の樹脂がコーティングしてある固着スペーサーも好適に用いられる。基板間のギャップを均一に保持するために柱状構造物のみを設けてもよいが、スペーサー及び柱状構造物をいずれも設けてもよいし、柱状構造物に代えて、スペーサーのみをスペース保持部材として使用してもよい。スペーサーの直径は柱状構造物を形成する場合は、その高さ以下、好ましくは当該高さに等しい。柱状構造物を形成しない場合は、スペーサーの直径がセルギャップの厚みに相当する。
【0141】
〔調光素子駆動方法〕
本発明の調光素子の駆動操作は単純マトリックス駆動であっても、アクティブマトリック駆動であってもよい。本発明で言う単純マトリックス駆動とは、複数の正極を含む正極ラインと複数の負極を含む負極ラインとが対向する形で互いのラインが垂直方向に交差した回路に、順次電流を印加する駆動方法のことを言う。単純マトリックス駆動を用いることにより、回路構成や駆動ICを簡略化でき安価に製造できるメリットがある。アクティブマトリックス駆動は、走査線、データライン、電流供給ラインが碁盤目状に形成され、各碁盤目に設けられたTFT回路により駆動させる方式である。画素毎にスイッチングが行えるので、階調やメモリー機能などのメリットがあり、例えば、特開2004−29327号公報の図5に記載されている回路を用いることができる。
【0142】
〔商品適用〕
本発明の調光素子は、各種建造物の窓、自動車や電車、飛行機などの窓ガラスやミラーの防眩手段などとして用いることができる。
【実施例】
【0143】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0144】
[電解質の作製]
(電解質1の調製)
γ−ブチロラクトン、10.0g中に、過塩素酸テトラn−ブチルアンモニウム、0.05gと、トリフルオロメタンスルホン酸銀、0.20g、例示化合物(G1−36)、1.0gを溶解して、電解質1を調製した。
【0145】
(電解質2の調製)
上記電解質1の調製において例示化合物(G1−36)を(G1−37)、0.5g、(G1−40)、0.5gに変更した以外は同様にして電解質2を作製した。
【0146】
(電解質3の調製)
上記電解質1の調製において、トリフルオロメタンスルホン酸銀を乳酸銀、0.28gに変更した以外は同様にして電解質3を作製した。
【0147】
(電解質4の調製)
上記電解質1の調製において、トリフルオロメタンスルホン酸銀をヘキサフルオロリン酸銀、0.20gに変更した以外は同様にして電解質4を作製した。
【0148】
(電解質5の調製)
上記電解質4の調製において例示化合物(G1−36)を(G2−12)、0.5g、(G2−20)、0.5gに変更した以外は同様にして電解質5を作製した。
【0149】
(電解質6の調製)
γ−ブチロラクトン、10.0g中に、過塩素酸テトラn−ブチルアンモニウム、0.05gと、ビス(トリフルオロメタンスルホン酸)イミド銀、0.45gと例示化合物(G1−59)、0.6g、(G2−20)、0.5gを溶解して、電解質6を作製した。
【0150】
(電解質7の調製)
γ−ブチロラクトン、10.0g中に、ビス(トリフルオロメタンスルホン酸)イミド銀、0.45gと例示化合物(G1−3)、0.9gとビス(トリフルオロメタンスルホン酸イミド)リチウム、0.1gを溶解させ、さらにポリエチレングリコール200000、4.5gを加え、攪拌しながら真空脱気して電解質7を得た。
【0151】
(電解質8の調製)
γ−ブチロラクトン、10.0g中に、トリフルオロメタンスルホン酸銀、0.30gと例示化合物(G2−1)、0.9gとビス(トリフルオロメタンスルホン酸イミド)リチウム、0.1gを溶解させ、さらにポリエチレングリコール200000、4.5gを加え、攪拌しながら真空脱気して電解質8を得た。
【0152】
(電解質9の調製)
上記電解質8の調製において例示化合物(G2−1)を(G1−59)、0.6g、(G2−12)、0.5gに変更した以外は同様にして電解質9を作製した。
【0153】
(電解質10の調製)
上記電解質9において、例示化合物(G1−59)を(G1−77)、0.6gに変更し、さらに下記エレクトロクロミック色素を0.3g加え、再度、攪拌しながら真空脱気して電解質10を得た。
【0154】
【化11】

【0155】
(電解質11の調製)
γ−ブチロラクトン、10.0g中に、ヨウ化銀、1.0gと臭化リチウム、0.5g、下記の比較化合物1、0.09g、比較化合物2、0.05g、比較化合物3、0.05gを加え、攪拌しながら真空脱気して電解質11を得た。
【0156】
【化12】

【0157】
(電解質12の調製)
γ−ブチロラクトン、10.0g中に、テトラn−ブチルアンモニウムブロマイド、0.6gと、トリフルオロメタンスルホン酸銀、0.20g、下記の比較化合物4、1.0g、デカメチルフェロセン、0.05gを溶解し、さらにポリエチレングリコール200000、4.5gを加え、攪拌しながら真空脱気して電解液12を得た。
【0158】
【化13】

【0159】
《電解液の評価》
[耐光性]
上記、電解質の作製において作製した電解質1〜12をそれぞれパイレックス(登録商標)ガラス製試験管に入れ、密栓し、スガ試験機株式会社製キセノンウェザーメーターを用いてキセノン光(7万ルックス)を温度63℃の条件下、36時間照射した。
【0160】
照射後のサンプルを目視で観察したところ、電解質11および12では銀由来と考えられる黒色の微粉末が生成していたのに対し、電解質1〜10では粉末の生成は見られず、本発明の電解質1〜10は比較の電解質11および12に対して耐光性に優れることが明らかとなった。
【0161】
《表示素子の作製》
[電極の作製]
(電極1)
厚さ1.5mmで2cm×2cmのガラス基板上に、膜厚300nmのITO(Indium Tin Oxide、インジウム錫酸化物)膜をスパッタリング法に従って形成し、透明電極(電極1)を得た。
【0162】
(電極2の作製)
電極1の上に、ITOインク X−490CN27(住友金属鉱山、平均粒子径:20nm)に酸化亜鉛粒子(20nm:和光純薬製)をITO粒子に対し15質量%になるように混合、撹拌し混合液をスピンコート法により塗布した。180℃焼成を行い乾燥後、希硝酸(比重1.38の硝酸を10倍に希釈したもの)中に浸漬したのち、洗浄、乾燥した。さらに無水NMP中に下記化合物(A)(m:n=6:1、Mw:約5000、Mw/Mn:2.9)を3質量%加え、1時間室温で攪拌し、さらに80℃で2時間加熱攪拌した。その後基板を乾燥し、メタノールで洗浄して補助化合物として(A)がシラノール結合を介して電極に固定化された電極2を得た。
【0163】
【化14】

【0164】
(電極3の作製)
スパッタリング装置の2つのカソードにそれぞれITOセラミックスターゲット(SnO:5質量%、放電面積270cm/1個)を設置し、基板としてITO成膜面に30nmの蒸着SiOが成膜されている200μm厚みのPETフィルムを用い、基板加熱なしでパルススパッタリングを行い、膜厚0.5μm、表面抵抗は100Ω/□のITO薄膜を成膜し、電極3を得た。
【0165】
〔素子用空セルの作製〕
(空セル1の作製)
電極1の周辺部を、平均粒径40μmのガラス製球形ビーズを体積分率として10%含むオレフィン系封止剤で縁取りした後に、この電極1ともう一つの電極1とを、貼り合わせ、さらに加熱押圧して空セル1を作製した。
【0166】
(空セル2の作製)
上記空セル1の作製において対向側の電極1を電極2に変更した以外は同様にして空セル2を作製した。
【0167】
(空セル3の作製)
上記空セル1の作製において対向側の電極1を電極2に、表示側の電極1を電極3に変更した以外は同様にして空セル3を作製した。
【0168】
(調光素子1〜25の作製)
上記で作製した空セル1〜3にそれぞれ下記表1に示すように電解液を真空注入後、注入口をエポキシ系の紫外線硬化樹脂にて封止し、表示素子1〜25を作製した。
【0169】
定電圧電源の両端子に作製した調光素子の両電極を接続し、電圧を0.1Vずつ変化させて印加し、各調光素子の銀析出閾値電圧を測定した。また、同様にして銀溶解閾値電圧を測定した。
【0170】
《調光素子の評価》
上記調光素子のいずれも、銀析出閾値電圧、銀溶解閾値電圧を有し、調光素子として作用することがわかった。また、調光素子15において、銀溶解閾値よりもさらに0.5V正側の電圧を印加したところ、EC色素の発色が観測され、さらに銀溶解閾値よりも0.2V負側の電圧を印加したところEC色素の発色は消色し、本発明の調光素子において、銀塩が共存する系であっても、EC色素の反応は可逆的に進行することがわかった。
【0171】
[耐光性]
作製した各調光素子を、日本分光株式会社製紫外可視赤外分光計を用い、550nmでの透過率を測定し、これを初期の透過率とした。さらに各調光素子を、スガ試験機株式会社性キセノンウェザーメーターを用いてキセノン光(7万ルックス)を温度63℃の条件下、72時間照射し、照射後の調光素子の透過率を測定し、これを照射後の透過率とし、下記式に従って評価した。結果を表1に合わせて示す。
【0172】
(耐光性、%)=(照射後の透過率)/(初期の透過率)×100
◎:耐光性が95%以上
○:耐光性が85%以上、95%未満
△:耐光性が70%以上、85%未満
×:耐光性が70未満
[メモリー性の評価]
作製した各調光素子の銀析出可電圧より0.5V負電圧を1秒間印加し、日本分光株式会社製紫外可視赤外分光計を用い、550nmでの透過率を測定し、これを初期の透過率とした。各調光素子を暗室において、室温で一週間放置した後、透過率を測定し、下記に従ってメモリー性を評価した。結果を表1に合わせて示す。
【0173】
(メモリー性、%)=(一週間放置後の透過率)/(初期の透過率)×100
◎:メモリー性が95%以上
○:メモリー性が80%以上、95%未満
△:メモリー性が50%以上、80%未満
×:メモリー性が50%未満
××:メモリー性が50%未満で、且つ目視評価で析出物が観測される
[繰返し耐久性の評価]
作製した各調光素子の中央部分を、日本分光株式会社製紫外可視赤外分光計を用い、550nmでの透過率を測定し、これを初期の透過率とした。さらに銀析出・溶解閾値電圧より0.5Vだけ過電圧を加え、銀析出反応のための電圧印加時間を5秒間、銀溶解反応のための電圧印加時間を3秒間の1セットを1サイクルとし、20サイクル毎に同様の条件で透過率を測定し、100サイクル以降は100サイクル毎に透過率を測定した。繰返し耐久性は上限を2000サイクルとし、繰返し駆動後の透過率が初期の透過率の70%未満となったサイクル数までとし、結果を表1に合わせて示す。
【0174】
[保存安定性の評価]
作製した各調光素子を用い、銀析出閾値電圧より0.1Vだけ過電圧を加え、銀析出反応のための電圧を10秒間印加し、調光素子の中央部分を、日本分光株式会社製紫外可視赤外分光計を用い、550nmでの透過率を測定し、銀溶解反応のために過電圧を0.2V、印加時間を3秒間かけて銀を溶解させ、同様に透過率を測定し、銀溶解時の透過率から銀析出時の透過率を差し引いて初期の透過率変化とした。さらに各調光素子を暗室下、垂直に立てて二週間放置し、初期の透過率変化測定方法と同様の方法で銀析出反応および溶解反応を行って透過率を測定し、これを二週間放置後の透過率変化として、下記式に従って評価した。結果を表1に合わせて示す。
【0175】
(保存安定性、%)=(二週間放置後の透過率変化)/(初期の透過率変化)×100
○:保存安定性が85%以上
△:保存安定性が50%以上、85%未満
×:保存安定性が50%未満
【0176】
【表1】

【0177】
以上より、本発明の化合物を含有した電解質を用いることで、耐光性に優れ、且つメモリー性に優れた調光素子を提供することができた。また、さらには本発明の調光素子は繰返し耐久性、保存安定性にも優れることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上の一対の対向する電極間に、有機溶媒と、下記一般式(1)で表される銀塩化合物と、メルカプト基もしくはチオエーテルを有する化合物とを含有する電解質を有する調光素子であって、該調光素子は、電圧印加により可視光透過率が変化することを特徴とする調光素子。
一般式(1) Ag−R
(式中、Rは有機イオンを表す。)
【請求項2】
前記、メルカプト基もしくはチオエーテルを有する化合物がエチレンジチオエーテル構造を有するチオエーテル結合含有化合物であることを特徴とする請求項1記載の調光素子。

【公開番号】特開2011−39282(P2011−39282A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−186405(P2009−186405)
【出願日】平成21年8月11日(2009.8.11)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】