説明

調味料の製造方法

【課題】 魚醤油は、製造する際の熟成に6ヶ月から2年という長期間を要し、その短縮が望まれていた。
【解決手段】 上記課題は、魚介類を容器に漬け込んで魚を熟成する際に、容器に酢酸エチルを加えることによって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚介類から魚醤油等に用いられる調味料を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
魚醤油は、魚介類を原料にした調味料で、新鮮な魚介類に重量比で20~30%の食塩を撒きながら容器に漬け込み、6ヶ月から2年間熟成させ、濾過、火入れ処理をして製品としている。この熟成で蛋白質が分解されて旨味成分であるアミノ酸に変わり、食塩の含有量は24〜28%程度のものが多い。
【0003】
この魚醤油は、日本では、秋田のしょっつる、奥能登のいしる、香川のいかなご醤油などが知られており、東南アジアでは、タイのナン・プラー、ベトナムのニョク・マム、フィリッピンのパティス、中国の魚露などがある(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】独立行政法人農林水産消費技術センターホームページ魚醤油「食のサイエンス」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
魚醤油は、製造する際の熟成に6ヶ月から2年という長期間を要し、その短縮が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するべくなされたものであり、酢酸エチルを添加することによって熟成期間を大幅に短縮できることを見出してなされたものである。
すなわち、本発明は、魚介類を容器に漬け込んで熟成する際に、容器に酢酸エチルを加えることを特徴とする調味料の製造方法に関するものである。
【0007】
魚醤油の製造においては、食塩が雑菌の繁殖を抑制して、内蔵に含まれている蛋白質分解酵素等の作用で熟成が進むと考えられている。本発明においては、酢酸エチルが雑菌の繁殖を抑制するとともに蛋白質分解酵素等の酵素作用を食塩より高めて熟成期間を短縮していると考えられる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって、従来の魚醤油の製造に比べて魚介類の熟成期間を大幅に短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施例2で得られた、酢酸エチル法と食塩法における蛋白分解速度を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明で用いられている原料の魚介類は特に限定されず、従来使用されていたものをいずれも使用できる。例を挙げれば、鰯、ハタハタ、いかなご、鮭、鮪、いか、海老、蛤、牡蠣、これらの内臓等である。魚醤油の製法における熟成は、主に魚の内臓等に含まれる蛋白分解酵素によって行われる。
【0011】
酢酸エチルの添加量は、魚介類の重量に対し、0.1〜4重量%程度、好ましくは、1〜2重量%程度が適当である。
【0012】
従来の魚醤油の製造において、食塩は雑菌の繁殖を阻止する作用を発揮している。本発明においては、酢酸エチルは雑菌の繁殖阻止と、食塩に比べ相対的に蛋白質分解酵素等の活性を高める作用を発揮している。食塩と酢酸エチルの蛋白質分解酵素等への作用の差異は、食塩には酵素活性への抑制作用があり、酢酸エチルには酵素活性の抑制作用がないためである。
【0013】
魚介類の構成に用いる容器は、従来から用いている容器でよく、例えば、樽形、箱形等でよい。底部には熟成後の取出しのための抜出口を設けておくことが好ましい。上面は開放のままでもよいが、酢酸エチルの臭いが外に出たり、塵などが入らぬよう蓋を設けることが好ましい。
【0014】
魚介類の構成方法としては、魚介類は、そのまま、あるいは適宜切断して容器に入れて酢酸エチルを加え、放置して熟成させる。温度は、そのままでよいが、酵素の最適温度±5℃程度に加温することもできる。攪拌は、酵素反応を促進するために行うほうが望ましい。熟成は、5〜30日程度、通常5〜15日間程度で終了する。
【0015】
熟成後は、酢酸エチルを除去する。除去手段は問わないが、減圧濃縮すればよい。除去は酢酸エチルがなくなるまで行う。酢酸エチルがなくなるとは、食品添加物の検査基準に従った検査で検出されないことである。
【0016】
酢酸エチル除去後は、そのまま密封し、あるいは粉末化して、調味料あるいは調味料ベースとしてもよく、あるいは食塩を添加して魚醤油とすることもできる。
その際、酢酸エチルの除去前あるいは除去跡に固液分離して未消化物や異物を取り除くことができる。
【0017】
固液分離は、公知の各種の濾過器を用いて行えばよく、遠心分離等も利用できる。特段の事情がなければ、従来から行っている方法をそのまま行えばよい。
また、火入れ処理して加熱殺菌と酵素の失活を行うこともできる。
火入れ処理の温度、時間等の条件は、従来と同一でよい。
【実施例1】
【0018】
<雑菌および腐敗を抑制することにおいて低濃度酢酸エチルは高濃度食塩に優る>
清潔な200mlの広口瓶3本にそれぞれ新鮮なメジマグロの内臓肉100gを投入し、これらの瓶の1本には酢酸エチル2ml、別の1本には食塩25g、残りの1本には何も加えずに、おのおのをよく混合攪拌した後、密栓して、30度で5日間保温した。
それぞれを生理食塩水で10倍に希釈し、市販の栄養寒天培地に塗布し31度で培養してコロニー数を計算した。
結果を臭いとともに第1表に示した。
【0019】
【表1】

【実施例2】
【0020】
<酢酸エチルを添加する方法(以下、酢エチ法)は食塩添加法(食塩法)に比べてたんぱく分解速度が著しく早いことを検出した>
実施例1と同様のサンプルを用いて保温日数によるアミノ酸生成量の変化、酢エチ法10日目食塩法30日目の可溶化総窒素濃度およびアミノ酸組成を第2表に示した。
【0021】

【実施例3】
【0022】
〈酢エチ法は食塩法に比べてたんぱく分解酵素活性、グルタミナーゼ活性が高かった〉
新鮮なかつおの内蔵肉150gに3mlの酢酸エチル、もしくは37.5gの食塩を添加して31度に保温し、6日後にこれらの上澄み液を取って酵素活性を測定した。
プロテアーゼ活性はアンソン萩原変法、ペプチターゼ活性はロイシンアミノペプチターゼ活性をTuppy変法、グルタミナーゼ活性はハートマンらの変法に従い測定しそれぞれの活性を1単位(U)とし結果を第3表に示した。
【0023】
【表3】

【実施例4】
【0024】
<酢酸エチル濃度は0.1−4%で可能、最適濃度は1−2%>
実施例1のメジマグロの内臓肉を用いた酢エチ法における酢酸エチル濃度を蛋白分解における影響を検討した。アミノ酸は実施例2と同様に求め、第4表に示した。
【0025】
【表4】

【実施例5】
【0026】
<酢エチ法の蛋白分解温度は30〜60℃、最適温度は40〜50℃>
実施例1のメジマグロの内臓肉を用いた酢エチ法における保温温度の蛋白分解に及ぼす影響を検討した。そのアミノ酸は実施例2と同様に求め、結果を第5表に示した。
【0027】
【表5】

【実施例6】
【0028】
<ろ過、濃縮後では残酢エチは検出されない>
実施例1において500mlのメディウム瓶に200gのメジマグロの内臓肉に4mの酢酸エチルを加え、これを45℃にて5日間保温した。この全量を綿不織布、次いで東洋ろ紙No.1で吸引ろ過した。
得られた透明な液(ろ液A)のうち100mlを50℃、0.02MPaの条件で50mlになるように減圧濃縮した(減圧濃縮液B)。ろ液A及び減圧濃縮液Bの酢酸エチルを、島津GC−1700ガスクロマトグラフィーにて検出した。その結果を第6表に示した。
【0029】
【表6】

【実施例7】
【0030】
<スプレードライ粉体で残酢エチは検出されない>
実施例6のろ液A100mlをヤマト化学ADL310スプレードライヤーで粉末化した。
得られた約20gの粉末を蒸留水にて溶かして50mlにフィルアップした。
この溶液について実施例6と同様に酢酸エチルの検出を行った。その結果を第7表に示した。
【0031】
【表7】

【実施例8】
【0032】
<魚全身でも酢エチは食塩より分解が速かった>
1kgの新鮮なカタクチイワシをミンチにし、500gづつにわけて1Lの密栓つき広口瓶に入れた。これらの一方には10mlの酢酸エチルを(酢エチ法)他方には167gの食塩を添加して(食塩法)、よく攪拌混合した。密栓したこれらを45℃に保温した。その結果、保温1日目と保温5日目の可溶化総窒素と総アミノ酸濃度を第8表に示した。
【0033】
【表8】

【実施例9】
【0034】
<酢エチ法は脱脂大豆添加による高窒素化が容易>
500gの新鮮なキハダマグロの内蔵肉のミンチを調製し、4本の広口瓶に100gづつ投入した。これらに(1)食塩25g、または(2)食塩25gと膨化させた脱脂大豆10g、または(3)酢酸エチル2m、(4)酢酸エチル2mlと膨化脱脂大豆10g(酢エチー脱脂大豆)を投入して、それぞれを攪拌混合し、密栓をし、45℃に保温した。これらの総窒素、可溶化総窒素、総アミノ酸濃度の変化をしらべた。それらの結果を第9表に示した。
【0035】
【表9】

【実施例10】
【0036】
鶏肉分解でも酢エチ法は食塩法より分解が速かった。
【実施例11】
【0037】
牛肉分解でも酢エチ法は食塩法より分解が速かった。
【実施例12】
【0038】
固体培養した麹の水抽出液による大豆フレーク分解でも酢エチ法は食塩法より分解が速かった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、魚介類の熟成期間を大幅に短縮できるので各種の魚醤油の製造に利用でき、また、食塩が不要なので新たな調味料として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚介類を容器に漬け込んで熟成する際に、容器に酢酸エチルを加えることを特徴とする調味料の製造方法

【図1】
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【公開番号】特開2011−50356(P2011−50356A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−204764(P2009−204764)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(591072019)篠崎香料株式会社 (1)
【Fターム(参考)】