説明

調整器診断システム、調整器診断装置及び調整器診断方法

【課題】子調整器の診断を行うことが可能な調整器診断システム、調整器診断装置及び調整器診断方法を提供する。
【解決手段】調整器診断システム100は、ガスボンベ110から複数の住宅2側に燃料ガスを供給するメイン流路121と、メイン流路121をバイパスするバイパス流路122と、メイン流路121に設けられた親調整器140と、バイパス流路122に設けられ、親調整器140の調整圧力よりも調整圧力が高く設定された子調整器150と、子調整器150を診断する調整器診断装置160と、を備えている。調整器診断装置160は、子調整器150のみを介して流れる燃料ガスの最大流量値以下の流量範囲において計測された圧力値と、所定値との差に基づいて子調整器150の異常を診断する異常診断部を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調整器診断システム、調整器診断装置及び調整器診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、集合住宅など複数の住宅に燃料ガスを供給するガス供給システムが提案されている。ガス供給システムは、ガス供給元からの燃料ガスを複数の住宅側に供給するガス流路と、ガス流路を通じで流れてきた燃料ガスを複数の住宅に分配供給する複数の個別ガス流路とを備えている。
【0003】
また、ガス流路は、メインとなるメイン流路と、メイン流路をバイパスするバイパス流路とからなり、漏洩が発生しているか否かを判断する漏洩検知装置がバイパス流路上に設けられている。そして、漏洩検知装置は、燃料ガスが例えば30日間連続して流れている場合に、漏洩が発生していると判断し、警報や発呼を行う。
【0004】
また、ガス供給システムにおいて、メイン流路には親調整器が設置され、バイパス流路には親調整器よりも調整圧力が高くされた子調整器が設置される。このため、各家庭で小流量の燃料ガスが使用されたり漏洩が発生したりすると、まず、子調整器を介して燃料ガスが流れる。その後、使用される燃料ガスの流量が多くなると、親調整器及び子調整器の双方を介して燃料ガスが流れる(例えば特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−41300号公報
【特許文献2】特開平5−296873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の漏洩検知装置では漏洩を判断するにあたり、子調整器が正常に動作していることが必要となる。すなわち、子調整器に異物が混入したり、経年劣化により子調整器の調整圧力が低下したりした場合には、漏洩による流量が発生しても親調整器を介して燃料ガスが流れることもある。このような場合、燃料ガスは漏洩検知装置を通ることがなく、漏洩検知をできなくなってしまう。
【0007】
このため、従来では、作業員が現地に訪問し、ガス遮断を行ったうえで圧力計を設置して圧力測定を行う必要があり、子調整器の診断に多くの工数が掛かっていた。
【0008】
本発明はこのような従来の課題を解決するためになされたものであり、その発明の目的とするところは、子調整器の診断を行うことが可能な調整器診断システム、調整器診断装置及び調整器診断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の調整器診断システムは、ガス供給元から複数の住宅側に燃料ガスを供給するメイン流路と、前記メイン流路をバイパスするバイパス流路と、前記メイン流路に設けられた親調整器と、前記バイパス流路に設けられ、前記親調整器の調整圧力よりも調整圧力が高く設定された子調整器と、前記子調整器を診断する調整器診断装置と、を備え、前記調整器診断装置は、前記子調整器のみを介して流れる燃料ガスの最大流量値以下の流量範囲において計測された圧力値と、所定値との差に基づいて前記子調整器の異常を診断する異常診断手段を有することを特徴とする。
【0010】
この調整器診断システムによれば、子調整器のみを介して流れる燃料ガスの最大流量値以下の流量範囲において計測された圧力値と、所定値との差に基づいて子調整器の異常を診断する。ここで、子調整器に異常が発生すると、調整圧力が低下する傾向にある。このため、流量範囲において計測された圧力値についても低下することとなり、この圧力値を所定値とを比較することにより、子調整器の異常を診断することができる。
【0011】
また、本発明の調整器診断システムにおいて、前記調整器診断装置は、前記所定値を算出する所定値算出手段と、前記算出手段により算出された前記所定値を記憶する記憶手段と、を備え、前記所定値算出手段は、前記子調整器が新規に設置されてから所定期間内に前記流量範囲において計測された圧力値から、前記所定値を算出することが好ましい。
【0012】
この調整器診断システムによれば、子調整器が新規に設置されてから所定期間内、すなわち子調整器が正常であるときに、流量範囲において計測された圧力値から、所定値を算出するため、計測された圧力値を子調整器が正常であるときの所定値と比較することとなり、子調整器の異常を診断することができる。
【0013】
また、本発明の調整器診断システムにおいて、前記所定値算出手段は、前記流量範囲において計測された初回から所定回数目までの圧力値に基づいて、前記所定値を算出することが好ましい。
【0014】
この調整器診断システムによれば、流量範囲において計測された初回から所定回数目の圧力値に基づいて、所定値を算出する。ここで、計測された初回から所定回数目の圧力値は、調整器診断システムの設置直後に計測された値であるため、子調整器に異常が発生している可能性が極めて小さく、子調整器が正常であるときの値といえる。従って、子調整器が正常であるときに所定値を算出することができる。
【0015】
また、本発明の調整器診断システムにおいて、前記異常診断手段は、前記流量範囲において計測された圧力値と前記記憶手段に記憶された所定値との差が規定値以上である場合に、前記子調整器が異常であると診断することが好ましい。
【0016】
この調整器診断システムによれば、流量範囲において計測された圧力値と所定値との差が規定値以上である場合に、子調整器が異常であると診断する。ここで、子調整器に異常が発生すると、調整圧力が低下する傾向にある。このため、子調整器に異常が発生すると、子調整器が正常であるときの調整圧力との差が大きくなる。よって、流量範囲において計測された圧力値と所定値との差が規定値以上である場合に、子調整器が異常であると診断することで、子調整器をより精度良く診断することができる。
【0017】
また、本発明の調整器診断システムは、ガス供給元から複数の住宅側に燃料ガスを供給するメイン流路と、前記メイン流路をバイパスするバイパス流路と、前記メイン流路に設けられた親調整器と、前記バイパス流路に設けられ、前記親調整器の調整圧力よりも調整圧力が高く設定された子調整器と、前記子調整器を診断する調整器診断装置と、を備え、前記調整器診断装置は、前記子調整器のみを介して流れる燃料ガスの最大流量値以下の流量範囲のうち予め定められた小流量域において計測された圧力値に基づいて、所定値を算出する所定値算出手段と、前記流量範囲のうち前記小流量域以上であって予め定められた所定流量域において計測された圧力値と、前記所定値算出手段により算出された所定値との差が特定値以下である場合に、前記子調整器が異常であると診断する異常判断手段と、をさらに備えることを特徴とする。
【0018】
この調整器診断システムによれば、流量範囲のうち予め定められた小流量域において計測された圧力値に基づいて、所定値を算出し、流量範囲のうち小流量域以上であって予め定められた所定流量域において計測された圧力値と、算出された所定値との差が特定値以下である場合に、子調整器が異常であると診断する。ここで、子調整器に異常が発生すると、小流量域以上の所定流量域における圧力値も小流量域と同様に低下する。しかし、所定流量域における圧力値はある程度低下すると、親調整器との関係から途中で低下が止まる傾向にある。このため、小流量域において計測された圧力値は低下するものの、所定流量域における圧力値の低下は止まるという現象が発生し、子調整器の異常時には両者の差が小さくなる傾向にある。従って、上記の如く診断することで、子調整器をより精度良く診断することができる。
【0019】
また、本発明の調整器診断装置は、ガス供給元から複数の住宅側に燃料ガスを供給するメイン流路をバイパスするバイパス流路に設けられ、前記メイン流路に設けられた親調整器の調整圧力よりも調整圧力が高く設定された子調整器のみを介して流れる燃料ガスの最大流量値以下の流量範囲のうち予め定められた小流量域において計測された圧力値に基づいて、所定値を算出する所定値算出手段と、前記流量範囲のうち前記小流量域以上であって予め定められた所定流量域において計測された圧力値と、前記所定値算出手段により算出された所定値との差が特定値以下である場合に、前記子調整器が異常であると診断する異常判断手段と、を備えることを特徴とする。
【0020】
この調整器診断装置によれば、流量範囲のうち予め定められた小流量域において計測された圧力値に基づいて、所定値を算出し、流量範囲のうち小流量域以上であって予め定められた所定流量域において計測された圧力値と、算出された所定値との差が特定値以下である場合に、子調整器が異常であると診断する。ここで、子調整器に異常が発生すると、小流量域以上の所定流量域における圧力値も小流量域と同様に低下する。しかし、所定流量域における圧力値はある程度低下すると、親調整器との関係から途中で低下が止まる傾向にある。このため、小流量域において計測された圧力値は低下するものの、所定流量域における圧力値の低下は止まるという現象が発生し、子調整器の異常時には両者の差が小さくなる傾向にある。従って、上記の如く診断することで、子調整器をより精度良く診断することができる。
【0021】
また、本発明の調整器診断方法は、ガス供給元から複数の住宅側に燃料ガスを供給するメイン流路と、前記メイン流路をバイパスするバイパス流路と、前記メイン流路に設けられた親調整器と、前記バイパス流路に設けられ、前記親調整器の調整圧力よりも調整圧力が高く設定された子調整器と、を備えた調整器診断システムの調整器診断方法であって、前記子調整器のみを介して流れる燃料ガスの最大流量値以下の流量範囲のうち予め定められた小流量域において計測された圧力値に基づいて、所定値を算出する所定値算出工程と、前記流量範囲のうち前記小流量域以上であって予め定められた所定流量域において計測された圧力値と、前記所定値算出工程において算出された所定値との差が特定値以下である場合に、前記子調整器が異常であると診断する異常判断工程と、を有することを特徴とする。
【0022】
この調整器診断方法によれば、流量範囲のうち予め定められた小流量域において計測された圧力値に基づいて、所定値を算出し、流量範囲のうち小流量域以上であって予め定められた所定流量域において計測された圧力値と、算出された所定値との差が特定値以下である場合に、子調整器が異常であると診断する。ここで、子調整器に異常が発生すると、小流量域以上の所定流量域における圧力値も小流量域と同様に低下する。しかし、所定流量域における圧力値はある程度低下すると、親調整器との関係から途中で低下が止まる傾向にある。このため、小流量域において計測された圧力値は低下するものの、所定流量域における圧力値の低下は止まるという現象が発生し、子調整器の異常時には両者の差が小さくなる傾向にある。従って、上記の如く診断することで、子調整器をより精度良く診断することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、子調整器の診断を行うことが可能な調整器診断システム、調整器診断装置及び調整器診断方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係る調整器診断システムを含むガス供給システムの構成図である。
【図2】図1に示したガス供給システムにおける圧力−流量特性を示すグラフであって、子調整器が正常である場合を示している。
【図3】図1に示したガス供給システムにおける圧力−流量特性を示すグラフであって、子調整器が異常である場合を示している。
【図4】図1に示した調整器診断装置の詳細を示す構成図である。
【図5】図1に示した調整器診断システムによる調整器診断方法を示すフローチャートであり、所定値の算出及び記憶についての処理を示している。
【図6】図1に示した調整器診断システムによる調整器診断方法を示すフローチャートであり、記憶された所定値との差に基づく診断処理を示している。
【図7】図1に示した調整器診断システムによる調整器診断方法を示すフローチャートであり、所定値の算出及び記憶についての処理を示している。
【図8】図1に示した調整器診断システムによる調整器診断方法を示すフローチャートであり、記憶された所定値との差に基づく診断処理を示している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の実施形態に係る調整器診断システムを含むガス供給システム1の構成図である。なお、以下では、LPガスを燃料ガスとして供給するガス供給システム1を例に説明するが、これに限らず、ガス供給システム1は都市ガスを供給するものであってもよい。
【0026】
ガス供給システム1は、ガスボンベ(ガス供給元)110から複数の住宅2に燃料ガスを供給する住宅設備である。このガス供給システム1は、調整器診断システム100と、住宅側設備200とからなっている。調整器診断システム100は、ガスボンベ110と、ガス流路120と、圧力調整器130〜150と、調整器診断装置160とを備えている。
【0027】
ガス流路120は、ガスボンベ110から複数の住宅2側まで連続する流路であって、メイン流路121と、バイパス流路122とからなっている。メイン流路121は、ガスボンベ110から複数の住宅2側に燃料ガスを供給するメインとなる流路である。バイパス流路122は、メイン流路121をバイパスするものであって、両端がメイン流路121に接続されている。
【0028】
圧力調整器130〜150は、ガス流路120上に設けられ、閉塞状態と開放状態との2状態により下流側のガス圧力を調整するものである。このうち、元調整器130はガスボンベ110側に設けられている。また、親調整器140は、メイン流路121に設けられている。詳細に親調整器140は、メイン流路121のうちバイパス流路122によってバイパスされる部分に設けられている。子調整器150は、バイパス流路122に設けられ、親調整器140の調整圧力よりも調整圧力が高く設定されたものである。調整器診断装置160は、ガス流路120のうちバイパス流路122上に設けられ、子調整器150が正常であるか異常であるかを診断するものである。
【0029】
住宅側設備200は、複数の個別ガス流路210と、複数のバルブ220と、複数のガスメータ230と、複数のガス器具240とを備えている。複数の個別ガス流路210は、ガス流路120を通じて流れてきた燃料ガスを複数の住宅2に供給するものである。これら複数の個別ガス流路210は、ガス流路120から分岐するようにして、複数の住宅2にそれぞれに燃料ガスを供給する。
【0030】
バルブ220は、各個別ガス流路210の上流部位に設けられている。このバルブ220を開閉することにより、各住宅2の住居者は燃料ガスを家庭内に引き込むことができる。
【0031】
ガスメータ230は、燃料ガスの流量を測定して積算流量を表示するものである。複数のガス器具240は、ガスストーブ、ファンヒータ、給湯器、床暖房、ガステーブル、及び、ガスBF風呂釜などである。
【0032】
このようなガス供給システム1において、小流量の燃料ガスは、親調整器140と子調整器150との調整圧力の違いから、親調整器140側を流れず、子調整器150側を介して流れることとなる。また、大流量の燃料ガスは、親調整器140及び子調整器150の双方を介して流れることとなる。
【0033】
図2は、図1に示したガス供給システム1における圧力−流量特性を示すグラフであって、子調整器150が正常である場合を示している。図2に示すように、ガス供給システム1においては、小流量の燃料ガスは子調整器150のみを介して、バイパス流路122を流れる。このとき、流量が0L/hのときの圧力は約3.22kPaとなっており、流量が増加するにつれて圧力は低下していく。具体的に流量が180L/hのときの圧力は約3.00kPaとなる。そして、流量が180L/hを超えると、親調整器140を介してメイン流路121にも流量が流れ、圧力は急激に低下する。これにより、圧力は親調整器140に依存することとなる。その後、流量が増加しても圧力は約2.88kPaから2.78kPa程度の値を示すこととなる。
【0034】
図3は、図1に示したガス供給システム1における圧力−流量特性を示すグラフであって、子調整器150が異常である場合を示している。図3に示すように、子調整器150に異常が発生した場合、調整圧力が低下する。このため、例えば図3に示すように、流量が0L/hのときの圧力が約3.10kPa程度に低下する(符号a参照)。このとき、流量が180L/hに達したときの圧力は、親調整器140と同様の約2.88kPa程度となる。このように、子調整器150の異常時において圧力−流量特性は圧力が低下する方向に平行移動を示す。
【0035】
さらに、子調整器150の劣化が進んだり過度な異常が発生すると、流量が0L/hのときの圧力が約3.02kPa程度に低下する(符号b参照)。このとき、圧力が低下する方向に平行移動を示すとすると、流量が180L/hに達したときの圧力は、約2.81kPa程度となる。ところが、実際には流量120L/h程度の段階で、燃料ガスが親調整器140を介して流れることとなる。
【0036】
図4は、図1に示した調整器診断装置160の詳細を示す構成図である。図4に示すように、調整器診断装置160は、流量センサ161と、圧力センサ162と、判断部163と、記憶部(記憶手段)164とを備えている。
【0037】
流量センサ161は、調整器診断装置160の流路内におけるガス流量に応じた計測信号を出力するものであって、超音波センサやフローセンサなどで構成される。圧力センサ162は、調整器診断装置160の流路内におけるガス圧力に応じた計測信号を出力するものであって、ピエゾ抵抗式や静電容量式などのセンサによって構成される。
【0038】
判断部163は、調整器診断装置160における各種判断を行うものであって、例えば、流量センサ161からの信号及び圧力センサ162からの信号に基づいて、子調整器150の診断処理を実行するものである。
【0039】
また、判断部163は、異常診断部(異常診断手段)163aと、算出部(所定値算出手段)163bとを備えている。
【0040】
異常診断部163aは、子調整器150の異常を診断するものである。この異常診断部163aは、最大流量値以下の流量範囲において圧力センサ162からの計測信号に基づいて計測された圧力値に基づいて、子調整器150の異常を診断するものである。ここで、最大流量値とは、子調整器150のみを介して流れる燃料ガスの最大流量値である。図2に示すように、子調整器150が正常である場合、180L/hの流量が流れ得る。このため、本実施形態において最大流量値は180L/hであり、流量範囲は最大で0L/h〜180L/hであり、本実施形態では、21L/h〜150L/hであるとする。
【0041】
より詳細に異常診断部163aは、最大流量値以下の流量範囲において計測された圧力値と所定値との差に基づいて、子調整器150の異常を診断する。ここで、所定値は予め定められた値でもよいが、本実施形態では算出部163bによって算出される。
【0042】
算出部163bは所定値を算出するものである。この算出部163bは、子調整器150が新規に設置されてから所定期間内、すなわち正常であるときに、流量範囲において計測された圧力値から所定値を算出する。このとき、算出部163bは、流量範囲において計測された初回から所定回数目までの圧力値に基づいて、所定値を算出する。初回の圧力値とは、調整器診断システム100の設置直後など、子調整器150が新しい状態における1回目の圧力値である。このため、例えば算出部163bは、調整器診断システム100の設置直後の1回目から所定回数目までの圧力値に基づいて、所定値を算出することとなる。このように、調整器診断システム100の設置直後に所定値を算出しておくことで、子調整器150が正常であるときに所定値を算出するようにしている。
【0043】
具体的に算出部163bは、初回から所定回数目までの圧力値の平均値、及び、初回から所定回数目までの圧力値のうち特異値を除いた平均値などを所定値として算出する。算出部163bは所定値を算出すると、所定値を記憶部164に記憶させる。
【0044】
次に、本実施形態に係る調整器診断方法について説明する。子調整器150の診断は、所定値の算出及び記憶についての処理と、記憶された所定値との差に基づく診断処理の2段階によって行われる。
【0045】
図5は、図1に示した調整器診断システム100による調整器診断方法を示すフローチャートであり、所定値の算出及び記憶についての処理を示している。図5に示すように、まず、判断部163は調整器診断システム100の設置直後であるか否かを判断する(S11)。なお、ステップS11では設置直後であるか否かを判断しているが、これに限らず、調整器診断システム100が正常であるタイミングであれば、設置直後でなくともよい。
【0046】
調整器診断システム100の設置直後でないと判断した場合(S11:NO)、図5に示す処理は終了する。一方、調整器診断システム100の設置直後であると判断した場合(S11:YES)、判断部163は、流量センサ161からの計測信号に基づいて計測された流量値が流量範囲内(21L/h〜150L/h)であるか否かを判断する(S12)。
【0047】
計測された流量値が流量範囲内でないと判断した場合(S12:NO)、図5に示す処理は終了する。一方、計測された流量値が流量範囲内であると判断した場合(S12:YES)、算出部163bは、圧力センサ162からの計測信号に基づいて圧力を計測する(S13)。
【0048】
その後、算出部163bは、所定回数(例えば15回)計測したか否かを判断する(S14)。なお、この所定回数は可変であることが望ましい。所定回数計測していないと判断した場合(S14:NO)、処理はステップS12に移行する。一方、所定回数計測したと判断した場合(S14:YES)、算出部163bは、所定回数の平均値PINIを算出する(S15)。次いで、算出部163bは、平均値PINIを所定値として記憶部164に記憶させる(S16)。その後、図5に示す処理は終了する。
【0049】
図6は、図1に示した調整器診断システム100による調整器診断方法を示すフローチャートであり、記憶された所定値との差に基づく診断処理を示している。図6に示すように、まず、判断部163は、流量センサ161からの計測信号に基づいて計測された流量値が流量範囲内(21L/h〜150L/h)であるか否かを判断する(S21)。
【0050】
計測された流量値が流量範囲内でないと判断した場合(S21:NO)、図6に示す処理は終了する。一方、計測された流量値が流量範囲内であると判断した場合(S21:YES)、異常診断部163aは、圧力センサ162からの計測信号に基づいて圧力を計測する(S22)。
【0051】
その後、異常診断部163aは、所定回数(例えば15回)計測したか否かを判断する(S23)。なお、この所定回数は可変であることが望ましく、回数についても図5のステップS14に示した所定回数と同じでなくともよい。所定回数計測していないと判断した場合(S23:NO)、処理はステップS21に移行する。一方、所定回数計測したと判断した場合(S23:YES)、異常診断部163aは、所定回数の平均値Pを算出する(S24)。
【0052】
次いで、異常診断部163aは、図5のステップS16において記憶された所定値PINIと、ステップS24において算出された平均値Pとの差が規定値(例えば100Pa)以上であるか否かを判断する(S25)。すなわち、異常診断部163aは、所定値PINI−平均値P≧100Paであるか否かを判断する。
【0053】
所定値PINI−平均値P≧100Paであると判断した場合(S25:YES)、異常診断部163aは、子調整器150が異常であると判断する(S26)。その後、図6に示す処理は終了する。一方、所定値PINI−平均値P≧100Paでないと判断した場合(S25:NO)、異常診断部163aは、子調整器150が正常であると判断する(S27)。その後、図6に示す処理は終了する。なお、子調整器150が異常であると診断した場合、通信によりガスの管理センターなどに通知することが望ましい。
【0054】
このようにして、本実施形態に係る調整器診断システム100、調整器診断装置160及び調整器診断方法によれば、子調整器150のみを介して流れる燃料ガスの最大流量値以下の流量範囲において計測された圧力値と、所定値との差に基づいて子調整器150の異常を診断する。ここで、子調整器150に異常が発生すると、調整圧力が低下する傾向にある。このため、流量範囲において計測された圧力値についても低下することとなり、この圧力値を所定値とを比較することにより、子調整器150の異常を診断することができる。
【0055】
また、子調整器150が新規に設置されてから所定期間内、すなわち子調整器150が正常であるときに、流量範囲において計測された圧力値から、所定値を算出するため、計測された圧力値を子調整器150が正常であるときの所定値と比較することとなり、子調整器150の異常を診断することができる。
【0056】
また、流量範囲において計測された初回から所定回数目の圧力値に基づいて、所定値を算出する。ここで、計測された初回から所定回数目の圧力値は、調整器診断システム100の設置直後に計測された値であるため、子調整器150に異常が発生している可能性が極めて小さく、子調整器150が正常であるときの値といえる。従って、子調整器150が正常であるときに所定値を算出することができる。
【0057】
また、流量範囲において計測された圧力値と所定値との差が規定値以上である場合に、子調整器150が異常であると診断する。ここで、子調整器150に異常が発生すると、調整圧力が低下する傾向にある。このため、子調整器150に異常が発生すると、子調整器150が正常であるときの調整圧力との差が大きくなる。よって、流量範囲において計測された圧力値と所定値との差が規定値以上である場合に、子調整器150が異常であると診断することで、子調整器150をより精度良く診断することができる。
【0058】
次に、第2実施形態に係る調整器診断システム100について説明する。第2実施形態に係る調整器診断システム100は、第1実施形態のものと同様であるが、構成及び処理内容が一部異なっている。
【0059】
第2実施形態に係る子調整器150の診断概念を、図3を参照して説明する。図3に示したように、子調整器150が正常である場合、流量が0L/hのときの圧力は約3.22kPaであり、流量が180L/hのときの圧力は約3.00kPaである。このため、両者の差は0.22kPaとなる。
【0060】
また、子調整器150が異常である場合(符号a参照)、調整圧力が低下する。すなわち、流量が0L/hのときの圧力は約3.10kPaであり、流量が180L/hのときの圧力は約2.88kPa程度である。このため、両者の差は、0.22kPaとなる。
【0061】
さらに、子調整器150の劣化が進んだり過度な異常が発生すると(符号b参照)、流量が0L/hのときの圧力は約3.02kPaであり、流量が180L/hのときの圧力は約2.88kPaである。すなわち、燃料ガスは流量120L/h程度の段階で親調整器140を介して流れるため、流量が180L/hのときの圧力は親調整器140に依存した約2.88kPaとなる。よって、両者の差は0.14kPaとなる。
【0062】
ここで、子調整器150の劣化が進んだり過度な異常が発生すると、流量が0L/hのときと、流量が180L/hのときとの圧力差は小さくなる。第2実施形態に係る調整器診断装置160は、圧力差が小さくなることを利用して、子調整器150の異常を診断する。
【0063】
図4を参照する。第2実施形態において算出部163bは、流量範囲のうち予め定められた小流量域(例えば21L/h〜50L/h)において圧力値を計測し、計測した圧力値から定期的に所定値を算出する。すなわち、算出部163bは、所定回数圧力値を計測して所定値を算出する処理を、1カ月毎や数日毎など定期的に実行する。また、算出部163bは、定期的に算出した所定値を記憶部164に記憶させる。このため、第2実施形態において所定値は定期的に更新されることとなる。
【0064】
異常診断部163aは、記憶部164に定期的に更新される所定値と、流量範囲のうち小流量域以上であって予め定められた所定流量域(例えば100L/h〜150L/h)において計測された圧力値との差が特定値(例えば50Pa)以下である場合に、子調整器140が異常であると診断する。ここで、図3を参照して説明したように、子調整器150に異常が発生すると、小流量域と所定流量域との圧力値は同様に低下する傾向にある。しかし、所定流量域における圧力値はある程度低下すると、親調整器140との関係から途中で低下が止まる傾向にある。このため、小流量域において計測された圧力値は低下するものの、所定流量域における圧力値の低下は止まるという現象が発生し、子調整器140の異常時には両者の差が小さくなる傾向にある。従って、上記の如く診断することで、子調整器140を診断することができる。
【0065】
次に、第2実施形態に係る調整器診断方法について説明する。図7は、図1に示した調整器診断システム100による調整器診断方法を示すフローチャートであり、所定値の算出及び記憶についての処理を示している。図7に示すように、まず、判断部163は、前回所定値を更新してから規定時間経過したか否かを判断する(S31)。すなわち所定値の定期的な更新タイミングであるか否かを判断する。
【0066】
前回所定値を更新してから規定時間経過していないと判断した場合(S31:NO)、図7に示す処理は終了する。一方、前回所定値を更新してから規定時間経過したと判断した場合(S31:YES)、判断部163は、流量センサ161からの計測信号に基づいて計測された流量値が小流量域(21L/h〜50L/h)に含まれるか否かを判断する(S32)。
【0067】
計測された流量値が小流量域に含まれないと判断した場合(S32:NO)、図7に示す処理は終了する。一方、計測された流量値が小流量域に含まれると判断した場合(S32:YES)、算出部163bは、圧力センサ162からの計測信号に基づいて圧力を計測する(S33)。
【0068】
その後、算出部163bは、所定回数(例えば15回)計測したか否かを判断する(S34)。なお、この所定回数は可変であることが望ましい。所定回数計測していないと判断した場合(S34:NO)、処理はステップS32に移行する。一方、所定回数計測したと判断した場合(S34:YES)、算出部163bは、所定回数の平均値PAを算出する(S35)。次いで、算出部163bは、平均値PAを所定値として記憶部164に記憶させる(S36)。その後、図7に示す処理は終了する。
【0069】
図8は、図1に示した調整器診断システム100による調整器診断方法を示すフローチャートであり、記憶された所定値との差に基づく診断処理を示している。図8に示すように、まず、判断部163は、流量センサ161からの計測信号に基づいて計測された流量値が所定流量域(100L/h〜150L/h)に含まれるか否かを判断する(S41)。
【0070】
計測された流量値が所定流量域に含まれないと判断した場合(S41:NO)、図8に示す処理は終了する。一方、計測された流量値が所定流量域に含まれると判断した場合(S41:YES)、異常診断部163aは、圧力センサ162からの計測信号に基づいて圧力を計測する(S42)。
【0071】
その後、異常診断部163aは、所定回数(例えば15回)計測したか否かを判断する(S43)。なお、この所定回数は可変であることが望ましく、回数についても図7のステップS34に示した所定回数と同じでなくともよい。所定回数計測していないと判断した場合(S43:NO)、処理はステップS41に移行する。一方、所定回数計測したと判断した場合(S43:YES)、異常診断部163aは、所定回数の平均値PBを算出する(S44)。
【0072】
次いで、異常診断部163aは、図7のステップS36において記憶された所定値PAと、ステップS44において算出された平均値PBとの差が特定値(例えば50Pa)以下であるか否かを判断する(S45)。すなわち、異常診断部163aは、所定値PA−平均値PB≦50Paであるか否かを判断する。
【0073】
所定値PA−平均値PB≦50Paであると判断した場合(S45:YES)、異常診断部163aは、子調整器150が異常であると判断する(S46)。その後、図8に示す処理は終了する。一方、所定値PA−平均値PB≦50Paでないと判断した場合(S45:NO)、異常診断部163aは、子調整器150が正常であると判断する(S47)。その後、図8に示す処理は終了する。なお、子調整器150が異常であると診断した場合、通信によりガスの管理センターなどに通知することが望ましい。
【0074】
このようにして、第2実施形態に係る調整器診断システム100、調整器診断装置160及び調整器診断方法によれば、第1実施形態と同様に、子調整器150の異常を診断することができる。
【0075】
また、流量範囲のうち予め定められた小流量域において計測された圧力値に基づいて、所定値を算出し、流量範囲のうち小流量域以上であって予め定められた所定流量域において計測された圧力値と、算出された所定値との差が特定値以下である場合に、子調整器150が異常であると診断する。ここで、子調整器150に異常が発生すると、小流量域以上の所定流量域における圧力値も小流量域と同様に低下する。しかし、所定流量域における圧力値はある程度低下すると、親調整器140との関係から途中で低下が止まる傾向にある。このため、小流量域において計測された圧力値は低下するものの、所定流量域における圧力値の低下は止まるという現象が発生し、子調整器150の異常時には両者の差が小さくなる傾向にある。従って、上記の如く診断することで、子調整器150をより精度良く診断することができる。
【0076】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよいし、各実施形態を組み合わせてもよい。
【0077】
例えば、上記実施形態において所定回数計測を行っているが、この計測の間隔は1時間や1日などであってもよい。また、上記実施形態では、図5に示すステップS25,S45において「YES」と判断された場合に、子調整器150が異常であると判断しているが、複数回連続して「YES」と判断された場合に、子調整器150が異常であると判断してもよいし、「YES」と判断された回数がある予め定められた回数に達した場合に、子調整器150が異常であると判断してもよい。
【符号の説明】
【0078】
1…ガス供給システム
2…住宅
100…調整器診断システム
110…ガスボンベ(ガス供給元)
120…ガス流路
121…メイン流路
122…バイパス流路
130…元調整器
140…親調整器
150…子調整器
160…調整器診断装置
161…流量センサ
162…圧力センサ
163…判断部
163a…異常診断部(異常診断手段)
163b…算出部(所定値算出手段)
164…記憶部(記憶手段)
200…住宅側設備
210…複数の個別ガス流路
220…複数のバルブ
230…複数のガスメータ
240…複数のガス器具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス供給元から複数の住宅側に燃料ガスを供給するメイン流路と、
前記メイン流路をバイパスするバイパス流路と、
前記メイン流路に設けられた親調整器と、
前記バイパス流路に設けられ、前記親調整器の調整圧力よりも調整圧力が高く設定された子調整器と、
前記子調整器を診断する調整器診断装置と、を備え、
前記調整器診断装置は、
前記子調整器のみを介して流れる燃料ガスの最大流量値以下の流量範囲において計測された圧力値と、所定値との差に基づいて前記子調整器の異常を診断する異常診断手段を有する
ことを特徴とする調整器診断システム。
【請求項2】
前記調整器診断装置は、前記所定値を算出する所定値算出手段と、前記算出手段により算出された前記所定値を記憶する記憶手段と、を備え、
前記所定値算出手段は、前記子調整器が新規に設置されてから所定期間内に前記流量範囲において計測された圧力値から、前記所定値を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の調整器診断システム。
【請求項3】
前記所定値算出手段は、前記流量範囲において計測された初回から所定回数目までの圧力値に基づいて、前記所定値を算出する
ことを特徴とする請求項2に記載の調整器診断システム。
【請求項4】
前記異常診断手段は、前記流量範囲において計測された圧力値と前記記憶手段に記憶された所定値との差が規定値以上である場合に、前記子調整器が異常であると診断する
ことを特徴とする請求項3に記載の調整器診断システム。
【請求項5】
ガス供給元から複数の住宅側に燃料ガスを供給するメイン流路と、
前記メイン流路をバイパスするバイパス流路と、
前記メイン流路に設けられた親調整器と、
前記バイパス流路に設けられ、前記親調整器の調整圧力よりも調整圧力が高く設定された子調整器と、
前記子調整器を診断する調整器診断装置と、を備え、
前記調整器診断装置は、
前記子調整器のみを介して流れる燃料ガスの最大流量値以下の流量範囲のうち予め定められた小流量域において計測された圧力値に基づいて、所定値を算出する所定値算出手段と、
前記流量範囲のうち前記小流量域以上であって予め定められた所定流量域において計測された圧力値と、前記所定値算出手段により算出された所定値との差が特定値以下である場合に、前記子調整器が異常であると診断する異常判断手段と、
をさらに備えることを特徴とする調整器診断システム。
【請求項6】
ガス供給元から複数の住宅側に燃料ガスを供給するメイン流路をバイパスするバイパス流路に設けられ、前記メイン流路に設けられた親調整器の調整圧力よりも調整圧力が高く設定された子調整器のみを介して流れる燃料ガスの最大流量値以下の流量範囲のうち予め定められた小流量域において計測された圧力値に基づいて、所定値を算出する所定値算出手段と、前記流量範囲のうち前記小流量域以上であって予め定められた所定流量域において計測された圧力値と、前記所定値算出手段により算出された所定値との差が特定値以下である場合に、前記子調整器が異常であると診断する異常判断手段と、
を備えることを特徴とする調整器診断装置。
【請求項7】
ガス供給元から複数の住宅側に燃料ガスを供給するメイン流路と、
前記メイン流路をバイパスするバイパス流路と、
前記メイン流路に設けられた親調整器と、
前記バイパス流路に設けられ、前記親調整器の調整圧力よりも調整圧力が高く設定された子調整器と、を備えた調整器診断システムの調整器診断方法であって、
前記子調整器のみを介して流れる燃料ガスの最大流量値以下の流量範囲のうち予め定められた小流量域において計測された圧力値に基づいて、所定値を算出する所定値算出工程と、
前記流量範囲のうち前記小流量域以上であって予め定められた所定流量域において計測された圧力値と、前記所定値算出工程において算出された所定値との差が特定値以下である場合に、前記子調整器が異常であると診断する異常判断工程と、
を有することを特徴とする調整器診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−220950(P2011−220950A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92805(P2010−92805)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】