説明

調温機能を備えた編物

【課題】 調温機能を備えた糸の織り方や処理の仕方等を工夫することで、当該糸が備えている調温機能をより十分に効果的に発揮することができると共に、低コスト化を実現可能な編物を提供する。
【解決手段】 第1の糸10と、調温機能を備えた第2の糸20がプレーティング編みされてなる編物本体2と、編物本体2の少なくとも一方の面に形成されたデッドエア構造3と、を有してなる調温機能を備えた編物1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調温機能を備えた編物にかかり、特に、身体の熱を効率よく吸収・保持・分配・放出することが可能な編物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、外気温が高過ぎたり低過ぎたりしても快適と感じられる体温を維持する目的で、編物に蓄熱性能や保温性能を保持させる様々な技術が紹介されている。
【0003】
このような蓄熱性能や保温性能を保持した編物としては、例えば、蓄熱材を内包するマイクロカプセルの組成物が塗工又は含浸された繊維を撚り合わせて得られる蓄熱性能を有する糸を作製し、さらにその糸を編み込んで編物としたものがある。(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、ポリマー全体にわたって分散された相変化物質を含むミクロスフェア(極小球状体)と、界面活性剤と、分散剤と、消泡剤と、増粘剤とを含むコーティング剤を、布に塗布することにより、熱及びエネルギの伝達を制御したり、形成されたコーティング層に蓄熱させるエネルギ吸収性の布コーティング及び製造方法がある。(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
さらにまた、相変化物質を含有する第1の微小球体を分散させたポリマーバインダーで被覆された基体からなる第1層と、この第1層に付着され且つ相変化物質を含有する第2の微小球体が分散されたファブリックからなる第2層と、この第2層に付着された軟質第3層と、を備えた断熱物品に関するものがある。この断熱物品は、衣類における使用に適当であり、変化する作業及び着用条件に適応することができる熱調整機能を備えている。(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2003−268679号公報
【特許文献2】特表平10−502137号公報
【特許文献3】特表2001−523596号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された編物は、前述した蓄熱性能を有する糸を、平織りすることにより得られるものであり、蓄熱性能や保温性能を保持するものであるが、前記糸の織り方を工夫する等して、身体の熱を効率よく吸収・保持・分配・放出する等の良好な調温機能を保持させることについては言及されていない。
【0007】
また、特許文献2に記載された布に、前述したコーティング剤を塗布することにより、熱及びエネルギの伝達を制御したり、形成されたコーティング層に蓄熱をさせるものであり、糸自身が蓄熱性能や保温性能を保持するものではない。したがって、糸の織り方を工夫する等して、身体の熱を効率よく吸収・保持・分配・放出する等の良好な調温機能を保持させることについては言及されていない。
【0008】
そしてまた、特許文献3に記載された断熱物品は、複数の層を重ねることによって、衣類における使用に適当であり、変化する作業及び着用条件に適応することができる熱調整機能を付与するものであり、糸自身が蓄熱性能や保温性能を保持するものではない。したがって、糸の織り方を工夫する等して、身体の熱を効率よく吸収・保持・分配・放出する等の良好な調温機能を保持させることについては言及されていない。
【0009】
本発明は、このような従来の編物等を改良することを目的とするものであり、調温機能を備えた糸の織り方や処理の仕方等を工夫することで、当該糸が備えている調温機能をより十分に効果的に発揮することができると共に、低コスト化を実現可能な編物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するため、本発明は、第1の糸と調温機能を備えた第2の糸がプレーティング編みされてなる編物本体と、前記編物本体の少なくとも一方の面に形成されたデッドエア構造と、を有してなる調温機能を備えた編物を提供するものである。
【0011】
この構成を備えた調温機能を備えた編物は、第1の糸と、調温機能を備えた第2の糸がプレーティング編みされてなるため、編物本体の一方の面全体に第1の糸からなる網目が現れ、他方の面全体第2の糸からなる網目が現れる。
【0012】
ここで、例えば、平編みや天竺編みにより調温機能を備えた編物を得る場合、2本の糸の両方とも調温機能を備えた第2の糸を用いないと、片方の面全体(平編みの場合、必然的に両面全体となるが)に調温機能を備えた第2の糸からなる網目を出現させることはできないが、本発明にかかる編物は、プレーティング編みされてなるため、2本の糸のうち1本のみを調温機能を備えた第2の糸とすることで、片方の面全体に調温機能を備えた第2の糸からなる網目を出現させることができる。したがって、調温機能を備えた第2の糸の使用量が、通常(例えば、平編み)の約半分であっても、優れた調温機能を備えた編物を提供することができる。また、前記第2の糸が高価であっても、使用量を通常の半分に抑えることができるため、経済的である。そしてまた、前記編物本体の少なくとも一方の面には、デッドエア構造が形成されているため、前述した調温機能をより十分に効果的に発揮することができる。特に、前記第2の糸が現れた面側を、着用者の肌側にすれば、より効果的である。
【0013】
ここで、「デッドエア構造」とは、編物本体の表面が、繊維端を除いて外気と極めて通じ難い構造のことであり、空気が対流しにくく、軽量かつ断熱保温素材にきわめて効果的である。
【0014】
また、本発明に係る調温機能を備えた編物は、前記デッドエア構造を、前記編物本体の第2の糸が配置される側とは反対側の面に形成することができる。このようにすることで、前述した調温機能をより一層効果的に発揮することができる。
【0015】
前記第2の糸としては、例えば、融点と凝固点との差が小さい物質を含有する組成物が塗工又は分散された繊維を撚り合わせたものを使用することができる。この場合、前記融点と凝固点との差は、5℃以上、30℃以下、さらに好ましくは、5℃以上、15℃以下であることが好適である。
【0016】
ここで、物質は、通常、固定から流体になる際に熱が必要である為、周りから熱を奪う性質がある。一方、流体から固体になる際には、周りに熱を排出する性質がある。すなわち、周りの温度が高くなり、物質の温度が融点、あるいは融点以上となった際に、周りから熱を奪い、周りの温度を下げることになる。また、周りの温度が低くなり、物質の温度が凝固点、あるいは凝固点以下となった際に、周りの温度を高くすることになる。したがって、融点と凝固点との差が小さい物質を含有する組成物は、狭い温度範囲、(例えば、気温の変化程度の温度範囲)において、前記特性を発揮することができる。このため、この組成物が塗工又は分散された繊維を撚り合わせた編物を身につけた使用者は、気温が低い際には、この組成物が放出した熱によって暖かく保たれ、気温が高い際には、この組成物によって熱を奪われて涼しく保たれるという優れた調温効果を得ることができる。
【0017】
また、前記融点と凝固点との差が小さい物質としては、例えば、パラフィン系炭化水素を主成分とする物質を挙げることができる。そして、このパラフィン系炭化水素を主成分とする物質は、マイクロカプセルに内包されていてもよい。
【0018】
そしてまた、前記デッドエア構造は、前記第1の糸を起毛処理して得られる層から構成してもよい。
【0019】
さらにまた、前記編物本体は、前記第2の糸を20重量%以上含むよう構成することができる。また、この編物本体は、シングルニットまたはダブルニットであってもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明にかかる調温機能を備えた編物は、第1の糸と調温機能を備えた第2の糸がプレーティング編みされてなる編物本体と、前記編物本体の少なくとも一方の面に形成されたデッドエア構造と、を有してなるため、調温機能をより十分に効果的に発揮することができると共に、低コスト化を実現可能な編物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、本発明の好適な実施の形態にかかる調温機能を備えた編物について図面を参照して説明する。なお、以下に記載される実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこれらの実施形態にのみ限定するものではない。したがって、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施することができる。
【0022】
図1は、本実施の形態にかかる編物の一部を示す断面模式図、図2は、図1に示す編物の裏面を示す平面図、図3は、図1に示す編物の表面を示す平面図であって、起毛層が形成されていない状態を示す図である。
【0023】
図1及び図2に示すように、本実施の形態にかかる編物1は、第1の糸10と、第2の糸20とをプレーティング編みしてなる編物本体2と、編物本体2の第1の糸10が現れている側の面に形成されたデッドエア構造3と、を備えて構成されている。すなわち、編物本体2は、一方の面(図1でいう上層:以下、「表面」ということがある)に、第1の糸が現れており、他方の面(図1でいう下層:以下、「裏面」ということがある)に、第2の糸が現れている。そして、編物本体2の、第1の糸が現れている面には、デッドエア構造3が形成されている。なお、本実施の形態では、編物1として、シングルニットを採用した。
【0024】
第1の糸10としては、特に限定されるものではないが、例えば、レーヨン、キュプラに代表される再生繊維、アセテート、トリアセテートに代表される半合成繊維、ポリエステル、ポリアミド、アクリルなどの合成繊維、綿、羊毛、麻などの天然繊維等、従来使用されている種々の種類の糸を用いることができる。また、第1の糸10の原糸番手は、特に限定されるものではなく、所望により種々の番手のものを使用することができる。
【0025】
第2の糸としては、身体の熱を効率よく吸収・保持・分配・放出等することが可能な調温機能を備えた糸を用いる。このような調温機能を備えた糸としては、例えば、パラフィン系炭化水素を内包するマイクロカプセルの組成物が塗工又は分散された繊維を撚り合わせてなる糸が挙げられる。なお、この繊維自体の素材は、特に限定されるものではない。また、第2の糸20の原糸番手は、特特に限定されるものではなく、所望により種々の番手のものを使用することができる。
【0026】
デッドエア構造3は、編物本体2の第1の糸10が現れている側の面を起毛処理してなる起毛層から形成されている。この起毛層は、編物本体の表面が、繊維端を除いて外気と極めて通じ難い構造のことであり、空気が対流しにくく、軽量かつ断熱保温素材にきわめて効果的であれば、その長さ等は特に限定されるものではないが、長さは、0.1mm〜5mm程度であることが好ましい。
【0027】
前記起毛処理としては、特に限定されるものではないが、例えば、ピーチ起毛処理、針布起毛処理、エメリー起毛処理、水中起毛処理等が挙げられる。
【0028】
この構成を備えた編物1の用途は、特に限定されるものではないが、例えば、様々な衣料品(例えば、Tシャツ、トレーナー、パジャマ、ジャケット、パンツ、シャツ、スカート、コート、カーディガン、セーター、ベスト、丹前、羽織、下着、靴下、帽子、手袋、マフラー、ショール、膝掛け等)や、毛布、カーペット、クッション、シーツ、座布団カバー、バック等、様々な物に使用可能である。
【0029】
そして、この編物1は、所望により、シングルニットにしてもよく、またダブルニットにしてもよい。
【0030】
また、この編物1は、例えば、使用者に着用させる場合、第2の糸20が現れている側、すなわち裏面が内側(使用者側)となるようにすることが、より良好な調温機能を得る上で好ましい。
【0031】
(実施例1)
本実施の形態にかかる編物1の製造:
第1の糸10として、綿糸を用い、第2の糸20として、パラフィン系炭化水素を内包するマイクロカプセルの組成物が塗工又は分散された繊維を撚り合わせてなる糸を用いて、プレーティング編みを行い、一方の面に第1の糸10が、他方の面に第2の糸20が現れた編物本体2を得た。この編物本体2の厚さは、無負荷の状態で、約5mmであった。なお、この編物本体2は、第1の糸10が55%、第2の糸20が45%となるように形成した。
【0032】
次に、編物本体2の第1の糸10が現れている面に、起毛処理を行い、長さ、約2mm程度の起毛層を形成した。このようにして、本実施の形態にかかる編物1(実施例1)を得た。
【0033】
本実施の形態にかかる編物1を用いた衣類の製造:
次に、この編物1(実施例1)を用いて製造された衣類(内側、すなわち、着用者の肌側に第2の糸20が出るようにして製造したもの)を被験者(4名)に着用させた際の快適性について調査した。この調査では、被験者は、約25℃の室内にて、以下の運動を行った。
【0034】
開始時〜15分 足踏み水車(treadmill)を使用し、2.2Km/時間の速度で歩く運動をする
15分〜30分 着席して休む
30分〜45分 足踏み水車(treadmill)を使用し、2.2Km/時間の速度で歩く運動をする
45分〜60分 着席して休む
【0035】
この結果を図4に示す。なお、評価は、以下の基準により行った。
0=快適
1=少し暖かく感じる
2=暑く感じる
3=非常に暑く感じる
【0036】
(比較例1)
次に、比較として、第2の糸20の代わりに、第1の糸10を使用し、第1の糸10同士をプレーティング編みした編物本体を製造し、この編物本体の一方の面に、実施例1と同様の起毛処理を行い、起毛層を形成した編物(比較例1)を製造した。次に、この編物を用いて製造された衣類について、実施例1と同様の調査を行った。この結果を図4に示す。
【0037】
図4から、実施例1にかかる編物から製造された衣類は、1時間の着用時間の間で、足踏み水車(treadmill)を使用し、2.2Km/時間の速度で歩く運動をしても、暑く感じることがなく、快適〜少し暖かく感じる程度で安定していることが判る。これに対し、比較例1にかかる編物から製造された衣類は、1時間の着用時間の間で、足踏み水車(treadmill)を使用し、2.2Km/時間の速度で歩く運動をした際に、非常に暑く感じること(45分頃)があることが判る。以上から、実施例1にかかる編物から製造された衣類は、比較例1にかかる編物から製造された衣類に比べ、調温機能及び保温機能に優れていることが判る。
【0038】
次に、被験者(4人)に、実施例1にかかる編物を用いて製造された衣類、比較例1にかかる編物を用いて製造された衣類を各々着用させた状態で、各々の被験者について、以下に示す4カ所における温度を測定し、これらの平均値を算出した。この結果を図5に示す。なお、この調査は、約25℃の室内にて行った。
・背中中央の皮膚温度
・胸中央の皮膚温度
・衣類の背中部分の内側の温度
・衣類の胸中央部分の内側の温度
【0039】
図5から、実施例1にかかる編物を用いて製造された衣類を着用した被験者の温度変化(平均値)は、華氏74度(約23.3℃)〜華氏82度(約27.8℃)であったことが判る。これに対し、比較例1にかかる編物を用いて製造された衣類を着用した被験者の温度変化(平均値)は、華氏70度(約21.1℃)〜華氏86度(約30℃)であったことが判る。
【0040】
以上から、実施例1にかかる編物から製造された衣類は、比較例1にかかる編物から製造された衣類に比べ、快適な温度を保持すると共に、調温機能及び保温機能に優れていることが判る。
【0041】
なお、本実施の形態では、編物1をシングルニットとした場合について説明したが、これに限らず、編物1は、ダブルニットとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本実施の形態にかかる編物の一部を示す断面模式図である。
【図2】図1に示す編物の裏面を示す平面図である。
【図3】図1に示す編物の表面を示す平面図であって、起毛層が形成されていない状態を示す図である。
【図4】本実施の形態にかかる編物(実施例1)を用いて製造した衣類と、比較例1にかかる編物を用いて製造した衣類の快適性を示す図である。
【図5】本実施の形態にかかる編物(実施例1)を用いて製造した衣類と、比較例1、比較例2及び比較例3にかかる編物を用いて製造した衣類を着用した際の温度変化を示す図である。
【符号の説明】
【0043】
1 編物
2 編物本体
3 デッドエア構造
10 第1の糸
20 第2の糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の糸と、調温機能を備えた第2の糸がプレーティング編みされてなる編物本体と、
前記編物本体の少なくとも一方の面に形成されたデッドエア構造と、
を有してなる調温機能を備えた編物。
【請求項2】
前記デッドエア構造を、前記編物本体の第2の糸が配置される側とは反対側の面に形成してなる請求項1記載の編物。
【請求項3】
前記第2の糸は、融点と凝固点との差が小さい物質を含有する組成物が塗工又は分散された繊維を撚り合わせてなる請求項1または請求項2記載の編物。
【請求項4】
前記融点と凝固点との差が、5℃以上、30℃以下である請求項3記載の編物。
【請求項5】
前記融点と凝固点との差が小さい物質は、パラフィン系炭化水素を主成分とする物質である請求項3または請求項4記載の編物。
【請求項6】
前記パラフィン系炭化水素を主成分とする物質が、マイクロカプセルに内包されてなる請求項5記載の編物。
【請求項7】
前記デッドエア構造は、前記第1の糸を起毛処理してなる請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の編物。
【請求項8】
前記編物本体は、前記第2の糸を20%重量%以上含んでなる請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の編物。
【請求項9】
前記編物本体が、シングルニットまたはダブルニットである請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の編物。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−97152(P2006−97152A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−282018(P2004−282018)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(398056827)株式会社ファーストリテイリング (6)
【Fターム(参考)】