説明

調温調湿方法及び調温調湿装置

【課題】外気の温湿度を調整して塗装ブース30に供給する空調空気を生成する場合において、外気の状態点が目標温湿度線に対して低湿度側にある場合に、目標状態点を適切に設定して、エネルギーの消費量を出来る限り低減する。
【解決手段】外気のエンタルピと当該外気に噴霧される水のエンタルピとが異なるときに、該水のエンタルピに応じて、外気のエンタルピと等しい等エンタルピ線と目標温湿度線との交点に設定した目標状態点を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外気の温湿度を調整して塗装ブースに供給する空調空気を生成するための調温調湿方法及び調温調湿装置に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
水性塗料を用いた塗装においては、塗装後に、塗料に含まれる水分を適度な蒸発速度で蒸発させるようにすることが、塗装品質を向上させる上で重要となる。このような蒸発速度が得られるようにするために、例えば特許文献1では、外気の温湿度を調整して塗装ブースに空調空気を供給し、その空調空気の状態点を、空気線図の飽和線を等温線に沿って低湿度側へ一定絶対湿度だけ移動して設定した目標温湿度線上の状態点と一致させるようにしている。すなわち、塗装後の塗装対象物の周囲の絶対湿度が、そのときの温度に対応する飽和線上の絶対湿度よりも一定値だけ低ければ、塗装後の塗料に含まれる水分が適度な蒸発速度で蒸発して、塗装品質を向上させることが可能になる。
【0003】
また、上記特許文献1では、外気の状態点が目標温湿度線に対して低湿度側にある場合には、外気に対して断熱加湿処理を行って、空調空気の状態点を上記目標温湿度線上の状態点と一致させるようにしている。
【特許文献1】特許第3993358号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1のように、外気に対して断熱加湿処理を行うことは容易ではない。すなわち、加湿処理は、通常、外気に対し水を噴霧して行うが、断熱加湿処理では、その水のエンタルピを外気のエンタルピと同じにして、空気線図において、空調空気の状態点が、外気のエンタルピと等しい等エンタルピ線上を移動して目標温湿度線上の状態点に達するようにする。このとき、目標温湿度線上に設定される目標状態点は、外気のエンタルピと等しい等エンタルピ線と目標温湿度線との交点となる。この場合、外気の状態点に応じて上記水のエンタルピ(つまり水温)を制御する必要があるが、自動車の車体等を塗装する大型の塗装ブースでは、大量の外気を塗装ブースに供給する必要があり、このため、外気に噴霧する水量も多くなるために、そのような多くの水の温度を短時間で変化させることは困難である。また、水温を変化させるためにエネルギーの消費量が増大するという問題がある。
【0005】
一方、上記水温を制御しない場合に、上記目標状態点を、外気のエンタルピと等しい等エンタルピ線と目標温湿度線との交点としたのでは、外気のエンタルピと水のエンタルピとが異なるときに、空調空気の状態点が上記等エンタルピ線上を移動しなくなって、目標状態点に達することができなくなる。この結果、最終的には、加熱又は冷却処理を行って目標状態点に達するようにする必要が生じる。したがって、水温を制御しない場合も、エネルギーの消費量が増大するという問題がある。
【0006】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、外気の状態点が目標温湿度線に対して低湿度側にある場合に、目標状態点を適切に設定して、エネルギーの消費量を出来る限り低減しようとすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、この発明では、外気のエンタルピと当該外気に噴霧される水のエンタルピとが異なるときに、該水のエンタルピに応じて、外気のエンタルピと等しい等エンタルピ線と目標温湿度線との交点に設定した目標状態点を補正するようにした。
【0008】
具体的には、請求項1の発明では、外気の温湿度を調整して塗装ブースに供給する空調空気を生成するための調温調湿方法を対象とする。
【0009】
そして、空気線図において上記空調空気の状態点が、飽和線を等温線に沿って低湿度側へ一定絶対湿度だけ移動して設定した目標温湿度線上の状態点と一致するように、上記外気の状態点に応じて、当該外気に対し、加熱処理、冷却処理、又は、水の噴霧による加湿処理を行う空調工程を備え、上記空調工程は、上記空気線図において上記外気の状態点が上記目標温湿度線に対して低湿度側にある場合には、上記空気線図において上記外気のエンタルピと等しい等エンタルピ線と上記目標温湿度線との交点を、上記空調空気の目標状態点として設定する目標状態点設定工程と、上記外気のエンタルピと当該外気に噴霧される水のエンタルピとを比較する比較工程と、上記外気のエンタルピと上記水のエンタルピとが異なるときに、該水のエンタルピに応じて、上記目標状態点設定工程で設定した目標状態点を補正する補正工程とを実行する工程であるものとする。
【0010】
上記の方法により、外気の状態点が上記目標温湿度線に対して低湿度側にある場合には、空気線図において外気のエンタルピと等しい等エンタルピ線と目標温湿度線との交点が、空調空気の目標状態点として設定されるが、外気の加湿のために外気に噴霧される水のエンタルピ(飽和線上において絶対温度が当該水の温度となる点に対応するエンタルピ)が外気のエンタルピと異なるときには、その水のエンタルピに応じて、その設定された目標状態点が補正される。このように水のエンタルピを考慮して目標状態点を補正するので、水のエンタルピ(水温)を外気のエンタルピに一致させるような制御を行わなくても、空調空気の状態点を目標状態点に一致させ易くなる。この結果、水のエンタルピ(水温)の制御を行う必要がなく、しかも、外気に対し加熱や冷却処理を殆ど行わずに、基本的に加湿処理を行うだけで、空調空気の状態点を目標状態点に一致させるようにすることができる。よって、エネルギーの消費量を低減することができる。
【0011】
請求項2の発明では、請求項1の発明において、上記補正工程は、上記空気線図において、上記目標状態点を、上記外気の状態点と上記水の状態点とを結ぶ直線と上記目標温湿度線との交点に補正する工程であるものとする。
【0012】
このことにより、水のエンタルピに応じて目標状態点を適切にかつ容易に補正することができ、基本的に加湿処理だけで、空調空気の状態点を目標状態点に一致させるようにすることができる。
【0013】
請求項3の発明では、請求項1又は2の発明において、上記空調工程は、上記空気線図において上記外気の状態点が上記目標温湿度線に対して低湿度側にある場合には、上記空気線図において、上記空調空気の状態点が、上記目標状態点設定工程で設定した目標状態点と一致するように上記加湿処理を行う加湿工程を更に実行する工程であり、上記加湿工程は、上記補正工程で上記目標状態点を補正したときには、上記空気線図において、上記空調空気の状態点が、該補正工程で補正した目標状態点と一致するように上記加湿処理を行う工程であるものとする。
【0014】
このような加湿工程を実行することで、空調空気の状態点を目標状態点に容易に一致させるようにすることができ、エネルギーの消費量を低減することができる。
【0015】
請求項4の発明では、請求項3の発明において、上記外気に噴霧される水は、ポンプにより供給されるようになっており、上記加湿工程は、上記ポンプの回転制御により、上記空調空気の状態点が、上記目標状態点設定工程で設定した目標状態点、又は、上記補正工程で補正した目標状態点と一致するように上記加湿処理を行う工程であるものとする。
【0016】
このことで、簡単な制御で、空調空気の状態点を目標状態点に一致させるようにすることができる。
【0017】
請求項5の発明は、外気の温湿度を調整して塗装ブースに供給する空調空気を生成するための調温調湿装置の発明であり、この発明では、空気線図において上記空調空気の状態点が、飽和線を等温線に沿って低湿度側へ一定絶対湿度だけ移動して設定した目標温湿度線上の状態点と一致するように、上記外気の状態点に応じて、当該外気に対し、加熱処理、冷却処理、又は、水の噴霧による加湿処理を行う空調装置を備え、上記空調装置は、上記空気線図において上記外気の状態点が上記目標温湿度線に対して低湿度側にある場合に、上記空気線図において上記外気のエンタルピと等しい等エンタルピ線と上記目標温湿度線との交点を、上記目標状態点として設定する目標状態点設定手段と、上記外気のエンタルピと当該外気に噴霧される水のエンタルピとを比較する比較手段と、上記外気のエンタルピと上記水のエンタルピとが異なるときに、該水のエンタルピに応じて、上記目標状態点設定手段により設定された目標状態点を補正する補正手段とを有するものとする。
【0018】
この発明により、請求項1の発明と同様の作用効果が得られる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明の調温調湿方法及び調温調湿装置によると、外気のエンタルピと当該外気に噴霧される水のエンタルピとが異なるときに、該水のエンタルピに応じて、外気のエンタルピと等しい等エンタルピ線と目標温湿度線との交点に設定した目標状態点を補正するようにしたことにより、外気に対し加熱や冷却処理を殆ど行わずに、基本的に加湿処理を行うだけで、空調空気の状態点を目標状態点に一致させるようにすることができ、エネルギーの消費量を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の実施形態に係る調温調湿装置の概略構成を示す。この調温調湿装置は、外気の温湿度を調整して塗装ブース30に供給する空調空気を生成するものであって、後述の如く外気に対して加湿処理等を行って空調空気を生成する空調装置1と、この空調装置1により生成された空調空気を塗装ブース30へ送風する送風ファン28(遠心ファン)とを備えている。上記塗装ブース30内では、例えば自動車の車体等のような塗装対象物に対して水性塗料を用いた塗装が行われる。この塗装を乾燥させるために、該乾燥に適した空調空気を塗装ブース30へ供給する。
【0022】
上記空調装置1は、上記送風ファン28によって空気が一方向へ(図1の右側から左側へ)流れる空気流路3が内部に形成された装置本体2を有している。この装置本体2における空気流路3の上流側端(図1の右側端)に相当する位置には、外気を装置本体2の空気流路3内に取り入れるための空気取入れ口2aが形成されている。この空気取入れ口2aには、外気に含まれているゴミ等を取り除くためのフィルター5が配設されている。
【0023】
装置本体2の空気流路3内には、上流側から順に、空気取入れ口2aより取り入れた外気に対し、水の噴霧による加湿処理を行うスプレー式のワッシャー7(加湿装置)、当該外気に対し冷却処理を行う冷却装置8、及び、当該外気に対し加熱処理を行う加熱装置9が配設されている。これらワッシャー7、冷却装置8及び加熱装置9の作動は、CPU等を含む制御装置25によって制御されて空調空気が生成される。
【0024】
上記空気流路3の下流側端は、送風ファン28の軸心部に設けられた空気導入口28aと接続されており、空調装置1により生成された空調空気は、送風ファン28の空気導入口28aから送風ファン28内に導入されて、送風ファン28の空気導出口28bから塗装ブース30内へ送風されるようになっている。
【0025】
上記装置本体2の空気取入れ口2aの近傍には、空気流路3内に取り入れられる外気の温湿度を検出するための外気温湿度センサ11が配設されている。また、送風ファン28の空気導出口28bの近傍には、上記塗装ブース30へ供給される空調空気の温湿度を検出するための空調空気温湿度センサ12が配設されている。これらセンサ11,12による検出情報は上記制御装置25に入力され、これにより、制御装置25は、外気の温度及び絶対湿度(空気線図における外気の状態点)並びに空調空気の温度及び絶対湿度(空気線図における空調空気の状態点)の情報が得られることになる。
【0026】
上記ワッシャー7は、外気に対し噴霧するための水を貯溜する貯水槽15と、水を噴霧するための多数のスプレーノズルを有するノズル管16と、上記貯水槽15とノズル管16とを接続する接続管17と、この接続管17に設けられ、貯水槽15内の水をノズル管16へ供給するためのワッシャーポンプ18とを備えている。
【0027】
上記ワッシャーポンプ18は、駆動モータによって駆動される。そして、制御装置25がインバータを介して駆動モータの回転制御(つまりワッシャーポンプ18の回転制御)を行うようになっている。この駆動モータの回転速度が高いほど、多くの水がノズル管16に供給されて、空調空気の絶対湿度が上昇する。
【0028】
また、上記接続管17には、蒸気を該接続管17へ供給するための蒸気供給管21が接続されている。この蒸気供給管21には、制御装置25により開閉制御される開閉弁22が設けられており、この開閉弁22が開かれると、蒸気が上記接続管17へ供給され、開閉弁22が閉じられると、接続管17への蒸気の供給が停止する。接続管17へ供給された蒸気は、貯水槽15からノズル管16へ供給される水の温度を上昇させる。この蒸気の供給は、冬季等のように水の温度が低くなりすぎたときに、ノズル管16のスプレーノズルより外気に対し噴霧される水の温度(つまり水のエンタルピ)を上昇させるために行う。このような蒸気の供給は必ずしも必要ではないが、後述の如く目標状態点を補正した際に、目標状態点の温度が後述の所定温度範囲の下限値よりも低くなるような現象が生じ難くなる。
【0029】
本実施形態では、接続管17において蒸気供給管21の接続部分とノズル管16との間の部分に、上記噴霧される水の温度を検出する水温センサ13を設け、この水温センサ13による検出情報が上記制御装置25に入力されるようになっている。そして、制御装置25は、上記開閉弁22に対し、水温センサ13より得られる水温が所定温度以下であるときには、開閉弁22を開ける指示を出力し、水温が上記所定温度よりも高いときには、開閉弁22を閉める指示を出力する。尚、上記水温センサ13は、後述の如く、上記噴霧される水のエンタルピを検出するためにも用いられる。
【0030】
上記冷却装置8は、冷媒が供給される熱交換器を有し、この熱交換器により、そこを通過する空気(空気流路3内に取り入れられた外気)と冷媒との熱交換が行われて、該空気が絶対湿度を一定にした状態で冷却される。また、空気線図の飽和線S(図2参照)に沿って、過冷却結露での除湿がなされる。上記熱交換器への冷媒の供給及び非供給(冷却処理を行うか否か)は、不図示の弁を介して、制御装置25により制御される。
【0031】
上記加熱装置9は、蒸気が供給される熱交換器を有し、この熱交換器により、そこを通過する空気(空気流路3内に取り入れられた外気)と蒸気との熱交換が行われて、該空気が絶対湿度を一定にした状態で加熱される。上記熱交換器への蒸気の供給及び非供給(加熱処理を行うか否か)は、不図示の弁を介して、制御装置25により制御される。
【0032】
上記空調装置1の制御装置25には、図2に示すような空気線図を記憶する記憶部25aが設けられている。この空気線図において、上記空調空気の目標温湿度を表す目標温湿度線Tが設定されている。この目標温湿度線Tは、飽和線Sを等温線に沿って低湿度側へ一定絶対湿度(例えば6g/kg)だけ移動して設定したものである。上記塗装ブース30へ供給される空調空気の状態点が目標温湿度線T上のどこに位置しても、塗装ブース30内で塗装された塗装対象物の塗料に含まれる水分が適度な蒸発速度で蒸発するようになり、塗装品質を向上させることが可能になる。尚、図2の空気線図において破線で示す線は、等エンタルピ線であり、一点鎖線で示す線は、等相対湿度線である。
【0033】
そして、制御装置25は、上記空気線図において上記空調空気の状態点が目標温湿度線T上の状態点と一致するように、上記外気の状態点に応じて、当該外気に対し、上記加熱装置9による加熱処理、上記冷却装置8による冷却処理、又は、上記ワッシャー7による加湿処理を行う。すなわち、制御装置25は、外気の状態点に応じて、目標温湿度線T上に目標状態点を設定するとともに、この目標状態点に上記空調空気の状態点が一致するように、上記3つの処理の中から最適な処理を選択する。
【0034】
上記目標状態点は、目標温湿度線T上のどこに設定してもよいが、本実施形態では、目標状態点の設定を、上記処理の選択と共に、エネルギーの消費量を低減する観点から行う。この観点からは、基本的に冷却処理は行わないようにする。但し、本実施形態では、塗装ブース30内に作業者が存在することを前提に、その作業者の快適性を考慮して、目標状態点の温度を所定温度範囲内に制限することとし、これにより、例えば外気の温度が高い場合には、後述の如く冷却処理を行うことになる。
【0035】
具体的には、上記空気線図において上記外気の状態点が上記目標温湿度線Tに対して高湿度側(図2の空気線図において上側)にある場合には、当該外気の状態点を通る等絶対湿度線と目標温湿度線Tとの交点を目標状態点として設定し、外気に対して加熱処理を行って、絶対湿度一定で温度を上昇させて、空調空気の状態点を目標状態点に一致させるようにする。例えば図3に示すように、外気の状態点がP1点にある場合、目標温湿度線T上においてP1点と絶対湿度が同じであるQ1点が目標状態点となり、加熱処理により、絶対湿度を一定にした状態で、空調空気の状態点を目標状態点に一致させる。
【0036】
尚、上記目標状態点の温度が上記所定温度範囲の下限値よりも低い場合には、目標状態点を、該目標状態点の温度が上記所定温度範囲内になる(つまり目標状態点の絶対湿度が外気の絶対湿度よりも高くなる)ように再設定し、該再設定した目標状態点に空調空気の状態点を一致させるべく、加湿処理(断熱加湿処理であってもよく、後述の如く水のエンタルピを制御しない加湿処理であってもよい)を行った後に加熱処理を行う。例えば図3に示すように、外気の状態点がP2点にある場合、加湿処理によりR2点まで絶対湿度を上昇させ、加熱処理によりR2点から、再設定した目標状態点Q2に一致させるようにする。
【0037】
また、上記目標状態点の温度が上記所定温度範囲の上限値よりも高い場合には、目標状態点を、該目標状態点の温度が上記所定温度範囲内になる(つまり目標状態点の絶対湿度が外気の絶対湿度よりも低くなる)ように再設定し、該再設定した目標状態点に空調空気の状態点を一致させるべく、冷却処理(除湿処理を含む)を行った後に加熱処理を行う。例えば図3に示すように、外気の状態点がP3点にある場合、冷却処理によって飽和線S上のR2点まで絶対湿度を一定にした状態で温度を下げ、そのまま冷却処理を継続して、R2点からR3点まで飽和線Sに沿って冷却及び除湿を行い、加熱処理によりR3点から、再設定した目標状態点Q3に一致させるようにする。
【0038】
一方、上記空気線図において上記外気の状態点が目標温湿度線Tに対して低湿度側(図2の空気線図において下側)にある場合には、上記空気線図において上記外気のエンタルピと等しい等エンタルピ線(外気の状態点を通る等エンタルピ線)と上記目標温湿度線Tとの交点を、目標状態点として設定する。但し、上記等エンタルピ線と上記目標温湿度線Tとの交点を目標状態点に設定するのは、外気に噴霧される水のエンタルピが外気のエンタルピと等しい場合(つまり上記水の状態点が、上記外気の状態点を通る等エンタルピ線と上記飽和線Sとの交点にある場合)に限られ、水のエンタルピが外気のエンタルピと異なる場合には、上記設定した目標状態点を補正する。
【0039】
すなわち、制御装置25は、上記水温センサ13により検出される水温から、その温度に対応する水のエンタルピを求める。つまり、その水温から、空気線図において水の状態点(飽和線S上にある)が求まり、その水の状態点を通る等エンタルピ線のエンタルピが水のエンタルピである。
【0040】
制御装置25は、同様に、外気の状態点から外気のエンタルピ(外気の状態点を通る等エンタルピ線のエンタルピ)を求め、この外気のエンタルピと上記水のエンタルピとを比較する。そして、制御装置25は、これら両エンタルピが同じである(つまり水の状態点が、外気の状態点を通る等エンタルピ線上にある)場合には、上記空調空気の状態点が、上記設定した目標状態点と一致するように加湿処理(断熱加湿処理)を行う。これにより、空調空気の状態点が、外気の状態点を通る等エンタルピ線に沿って移動して、目標温湿度線T上の目標状態点に達する。
【0041】
これに対し、上記両エンタルピが互いに異なる場合には、制御装置25は、上記水のエンタルピに応じて、上記設定した目標状態点を補正する。具体的には、上記空気線図において、上記目標状態点を、上記外気の状態点と上記水の状態点とを結ぶ直線と上記目標温湿度線Tとの交点に補正する。水のエンタルピが外気のエンタルピよりも低い場合には、補正後の目標状態点は、最初に設定した目標状態点よりも温度及び絶対湿度が低い状態点となる。例えば図4に示すように、外気の状態点がP5点にあり、水の状態点がW1点にあり、水の状態点W1を通る等エンタルピ線E2のエンタルピが、外気の状態点P5を通る等エンタルピ線E1のエンタルピよりも低い場合、等エンタルピ線E1と目標温湿度線Tとの交点Q5が最初に目標状態点として設定されるが、水のエンタルピと外気のエンタルピとが異なることから補正されて、外気の状態点P5と水の状態点W1とを結ぶ直線L1と目標温湿度線Tとの交点Q6が補正後の目標状態点となる。
【0042】
一方、水のエンタルピが外気のエンタルピよりも高い場合には、目標状態点は、最初に設定した状態点よりも温度及び絶対湿度が高い状態点となる。例えば図5に示すように、外気の状態点がP6点にあり、水の状態点がW2点にあり、水の状態点W2を通る等エンタルピ線E4のエンタルピが、外気の状態点P6を通る等エンタルピ線E3のエンタルピよりも高い場合、等エンタルピ線E3と目標温湿度線Tとの交点Q7が最初に目標状態点として設定されるが、水のエンタルピと外気のエンタルピとが異なることから補正されて、外気の状態点P6と水の状態点W2とを結ぶ直線L2と目標温湿度線Tとの交点Q8が補正後の目標状態点となる。
【0043】
そして、制御装置25は、上記空調空気の状態点が、上記補正した目標状態点と一致するように加湿処理を行う(この場合は、断熱加湿処理ではない)。これにより、空調空気の状態点は、外気の状態点と水の状態点とを結ぶ直線(図4におけるL1、図5におけるL2)に略沿って移動して、補正した目標状態点に達する。
【0044】
ここで、上記加湿処理は、上記ワッシャーポンプ18(駆動モータ)の回転制御により、上記空調空気の状態点を、上記設定した目標状態点、又は、上記補正した目標状態点と一致させるようにする処理である。具体的には、上記空調空気温湿度センサ12より得られた空調空気の絶対湿度と、上記目標状態点の絶対湿度との差に応じて、駆動モータの回転速度を調整する。つまり、上記差が大きいほど上記回転速度を上昇させる。
【0045】
尚、上記目標状態点(補正した場合には補正後の目標状態点)の温度が上記所定温度範囲の上限値よりも高い場合には、目標状態点を、該目標状態点の温度が上記所定温度範囲内になるように再設定し、該再設定した目標状態点に空調空気の状態点を一致させるべく、加湿処理(断熱加湿処理であってもよく、上記の如く水のエンタルピを制御しない加湿処理であってもよい)を行った後に冷却処理を行う。例えば図6に示すように、外気の状態点P7からR4点まで加湿処理を行い、冷却処理によりR4点から、再設定した目標状態点Q9に一致させるようにする。
【0046】
また、上記目標状態点の温度が上記所定温度範囲の下限値よりも低い場合には、目標状態点を、該目標状態点の温度が上記所定温度範囲内になるように再設定し、該再設定した目標状態点に空調空気の状態点を一致させるべく、加熱処理を行った後に加湿処理(断熱加湿処理であってもよく、上記の如く水のエンタルピを制御しない加湿処理であってもよい)を行う。例えば図6に示すように、外気の状態点P8からR5点まで絶対湿度一定で加熱処理を行い、加湿処理によりR5点から、再設定した目標状態点Q10に一致させるようにする。
【0047】
上記のように、本実施形態では、制御装置25が、本発明の目標状態点設定手段、比較手段及び補正手段を構成することになる。
【0048】
したがって、本実施形態では、外気の状態点が目標温湿度線Tに対して低湿度側にある場合において、外気のエンタルピと当該外気に噴霧される水のエンタルピとが異なるときに、該水のエンタルピに応じて、外気のエンタルピと等しい等エンタルピ線と目標温湿度線Tとの交点に設定した目標状態点を補正するようにしたので、外気に噴霧される水のエンタルピ(水温)を外気のエンタルピに一致させるような制御を行う必要がなくなり、これにより、水温を変化させるためのエネルギーは不要になる。
【0049】
一方、上記水のエンタルピ(水温)を制御しない場合、外気のエンタルピと等しい等エンタルピ線と目標温湿度線Tとの交点を目標状態点としたのでは、水のエンタルピが外気のエンタルピと異なるときに、空調空気の状態点が上記等エンタルピ線上を移動しなくなって、目標状態点に達することができなくなり、この結果、最終的には、加熱又は冷却処理を行って目標状態点に達するようにする必要が生じ、エネルギーの消費量が増大してしまう。
【0050】
しかし、本実施形態では、水のエンタルピに応じて上記目標状態点を補正する、つまり、外気の状態点と水の状態点とを結ぶ直線と目標温湿度線Tとの交点に補正するので、加湿処理によって、空調空気の状態点が上記直線に略沿って移動して目標状態点に達するようになる。したがって、基本的に加湿処理だけで、空調空気の状態点を目標状態点に一致させるようにすることができるようになる。よって、エネルギーの消費量を低減することができる。
【0051】
尚、上記実施形態では、塗装ブース30内に作業者が存在することを前提に、目標状態点の温度を所定温度範囲内に制限するようにしたが、塗装ブース30内が無人である場合には、そのような制限を行う必要はない。このようにすれば、目標状態点の再設定を行う必要がなくなり、冷却処理は不要になって、エネルギーの消費量をより一層低減することが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、外気の温湿度を調整して塗装ブースに供給する空調空気を生成するための調温調湿方法及び調温調湿装置に有用であり、特に、塗装ブース内で塗装対象物に対して水性塗料を用いた塗装が行われる場合に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施形態に係る調温調湿装置を示す概略図である。
【図2】調温調湿装置の制御装置の記憶部に記憶された空気線図である。
【図3】外気の状態点が目標温湿度線に対して高湿度側にある場合の、制御装置による制御例を示す図である。
【図4】外気の状態点が目標温湿度線に対して低湿度側にありかつ水のエンタルピが外気のエンタルピよりも低い場合の、制御装置による制御例を示す図である。
【図5】外気の状態点が目標温湿度線に対して低湿度側にありかつ水のエンタルピが外気のエンタルピよりも高い場合の、制御装置による制御例を示す図である。
【図6】外気の状態点が目標温湿度線に対して低湿度側にありかつ目標状態点を再設定した場合の、制御装置による制御例を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
1 空調装置
7 ワッシャー
8 冷却装置
9 加熱装置
18 ワッシャーポンプ
25 制御装置(目標状態点設定手段)(比較手段)(補正手段)
30 塗装ブース
T 目標温湿度線
S 飽和線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外気の温湿度を調整して塗装ブースに供給する空調空気を生成するための調温調湿方法であって、
空気線図において上記空調空気の状態点が、飽和線を等温線に沿って低湿度側へ一定絶対湿度だけ移動して設定した目標温湿度線上の状態点と一致するように、上記外気の状態点に応じて、当該外気に対し、加熱処理、冷却処理、又は、水の噴霧による加湿処理を行う空調工程を備え、
上記空調工程は、上記空気線図において上記外気の状態点が上記目標温湿度線に対して低湿度側にある場合には、
上記空気線図において上記外気のエンタルピと等しい等エンタルピ線と上記目標温湿度線との交点を、上記空調空気の目標状態点として設定する目標状態点設定工程と、
上記外気のエンタルピと当該外気に噴霧される水のエンタルピとを比較する比較工程と、
上記外気のエンタルピと上記水のエンタルピとが異なるときに、該水のエンタルピに応じて、上記目標状態点設定工程で設定した目標状態点を補正する補正工程と
を実行する工程であることを特徴とする調温調湿方法。
【請求項2】
請求項1記載の調温調湿方法において、
上記補正工程は、上記空気線図において、上記目標状態点を、上記外気の状態点と上記水の状態点とを結ぶ直線と上記目標温湿度線との交点に補正する工程であることを特徴とする調温調湿方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の調温調湿方法において、
上記空調工程は、上記空気線図において上記外気の状態点が上記目標温湿度線に対して低湿度側にある場合には、上記空気線図において、上記空調空気の状態点が、上記目標状態点設定工程で設定した目標状態点と一致するように上記加湿処理を行う加湿工程を更に実行する工程であり、
上記加湿工程は、上記補正工程で上記目標状態点を補正したときには、上記空気線図において、上記空調空気の状態点が、該補正工程で補正した目標状態点と一致するように上記加湿処理を行う工程であることを特徴とする調温調湿方法。
【請求項4】
請求項3記載の調温調湿方法において、
上記外気に噴霧される水は、ポンプにより供給されるようになっており、
上記加湿工程は、上記ポンプの回転制御により、上記空調空気の状態点が、上記目標状態点設定工程で設定した目標状態点、又は、上記補正工程で補正した目標状態点と一致するように上記加湿処理を行う工程であることを特徴とする調温調湿方法。
【請求項5】
外気の温湿度を調整して塗装ブースに供給する空調空気を生成するための調温調湿装置であって、
空気線図において上記空調空気の状態点が、飽和線を等温線に沿って低湿度側へ一定絶対湿度だけ移動して設定した目標温湿度線上の状態点と一致するように、上記外気の状態点に応じて、当該外気に対し、加熱処理、冷却処理、又は、水の噴霧による加湿処理を行う空調装置を備え、
上記空調装置は、
上記空気線図において上記外気の状態点が上記目標温湿度線に対して低湿度側にある場合に、上記空気線図において上記外気のエンタルピと等しい等エンタルピ線と上記目標温湿度線との交点を、上記目標状態点として設定する目標状態点設定手段と、
上記外気のエンタルピと当該外気に噴霧される水のエンタルピとを比較する比較手段と、
上記外気のエンタルピと上記水のエンタルピとが異なるときに、該水のエンタルピに応じて、上記目標状態点設定手段により設定された目標状態点を補正する補正手段と
を有することを特徴とする調温調湿装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−131507(P2010−131507A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−308945(P2008−308945)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】