説明

調湿活性炭の製造方法および調湿材

【課題】室内の調湿を図り冷暖房装置における結露や、梅雨時におけるカビあるいはダニの発生を防止し、快適な居住を可能とする調湿活性炭の製造方法およびそれを用いた調湿材を提供する。
【解決手段】比表面積が1280m2/g以上で、細孔容積0.88ml/g以上の原料活性炭を、2.5N以下の硝酸溶液中で、40〜80℃で0.5〜30分で処理する調湿活性炭の製造方法。前記原料活性炭の粒度は、0.01〜4.0mmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は家屋の壁面、天井、押入れあるいは床下等に使用した場合に調湿効果を有し、さらに梅雨時における、カビあるいはダニの発生を防止し、かつ冷暖房装置による結露の発生を軽減する調湿活性炭の製造方法およびそれを用いた調湿材に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅の室内に湿気が多くなると、住宅木材や畳の腐食が進行し、さらにカビやダニが発生しやすくなり、住宅の耐用年数の低下とともに人体に対するアレルギー問題を生ずる。また住宅建設資材に含まれる各種化学物質、さらに防虫剤、防錆剤に含まれる化学物質は人体に有害な影響を与えている。
【0003】
従来このような湿気あるいは臭いを軽減する方法として木炭あるいは活性炭等の材料が使用されているが、これらの材料を粉末状にしてそのまま使用するか、あるいは包装容器にその粉末材料を収納した形態で使用されるか、あるいはその粉末材料を添加した成形体として使用されるものである。
【0004】
木炭は燃料として古くから使用されているが、最近新しい用途の開発が活発に行なわれるようになり、現在では脱臭および水の浄化に利用されるようになった。木炭が家屋の調湿材として使用され、床下、畳下に敷き詰められることにより腐敗菌、シロアリ、カビ、ダニ等の発生を抑える効果があるのは、木炭がその表面に無数の孔を有しその孔が水蒸気を吸ったり吐いたりするからで、調湿用木炭としてはマングローブ炭、広葉樹木炭、針葉樹木炭等が使用されている。
【0005】
特許文献1には、調湿用材料としてフェノール樹脂発泡体が炭化されてなる、かさ密度0.05〜0.6g/cm3、炭素含有量85〜95重量%、比表面積300m2/gの炭素多孔体からなる吸湿用材料が開示されている。
【0006】
また特許文献2には、調湿剤と床下の地面または基礎スラブとの間に敷設される合成樹脂からなる調湿剤用下敷きフィルムまたはシートであって、下面に互いに独立した多数の突起を形成する技術が開示されている。
【0007】
さらに特許文献3には、汚泥を400〜750℃で炭化したものを、塩酸、硫酸、硝酸で灰分を洗い流し、ついで650〜1150℃で水蒸気または炭酸ガスを含むガス中で賦活させ、酸処理する技術が開示されている。
【0008】
これらの技術はいずれも調湿および脱臭効果は十分ではなくさらにその用途は極めて限られていた。
【特許文献1】特開平2−239167号公報
【特許文献2】特開平9−158341号公報
【特許文献3】特開平9−315809号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は室内の調湿を図り冷暖房装置における結露や、梅雨時におけるカビあるいはダニの発生を防止し、快適な居住を可能とするとともに持ち運びに便利な調湿活性炭の製造方法およびそれを用いた調湿材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、比表面積が1280m2/g以上で、細孔容積0.88ml/g以上の原料活性炭を、2.5N以下の硝酸溶液中で、40〜80℃で0.5〜30分で処理する調湿活性炭の製造方法である。
【0011】
前記原料活性炭の粒度は、0.01〜4.0mmであることが好ましい。
本発明は、前記調湿活性炭に無機金属塩を添着させて得られる調湿材である。
【0012】
さらに本発明は、上記製造方法で得られた調湿活性炭を用いて製造された建材である。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、所定の微細孔を有する原料活性炭を、規定濃度の硝酸溶液で、規定温度、規定時間処理するため、微細孔を破壊することなく、親水性置換基を活性炭の表面に導入することができ、得られた調湿活性炭の調湿能力を高めることができる。また該調湿活性炭を用いた調湿材は、冷暖房装置における結露や、梅雨時におけるカビあるいはダニの発生を防止し、快適な居住を可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、比表面積が1280m2/g以上で、細孔容積0.88ml/g以上の原料活性炭を、2.5N以下の硝酸中で、40〜80℃で0.5〜30分で処理する調湿活性炭の製造方法である。
【0015】
<原料活性炭>
(比表面積)
原料活性炭の比表面積は1280m2/g以上で、3000m2/g以下である。比表面積が1280m2/g以上の原料活性炭を使用することにより、吸湿量を改善することができる。一方、比表面積が3000m2/gを超える原料活性炭を使用すれば、硝酸処理の際に微細孔が破壊されやすく満足な調湿活性炭は得られにくい。好ましくは、原料活性炭の比表面積は1300m2/g以上で、1800m2/g以下である。
【0016】
ここで比表面積は、液体窒素温度(−196℃)における窒素ガスの吸差等温線の測定データをもとに、相対圧が0.01〜0.1の範囲でのBETプロットから求めた。
【0017】
(細孔容積)
本発明において原料活性炭の細孔容積は0.88ml/g以上で2.00ml/g以下である。微細孔の容積を大きくすることで、水などの化合物の飽和吸着量を増大させることができる。細孔容積が0.88ml/g未満の原料活性炭を使用すれば、吸湿量を改善することが難しい。一方、細孔容積が2.00ml/gを超える原料活性炭を使用すれば、硝酸処理の際に微細孔が破壊されやすく満足な調湿活性炭は得られにくい。細孔容積は、好ましくは1.10ml/g以上で1.60ml/g以下である。
【0018】
ここで細孔容積は、液体窒素温度(−196℃)における相対圧0.931での窒素吸吸着量から求める。
【0019】
(粒度)
前記原料活性炭の粒度は、0.01〜4.0mmであることが好ましい。粒度が0.01mm未満の場合、硝酸処理作業が困難となり、一方、4.0mmを超えると粒子が大きくなりすぎて、硝酸が原料活性炭の細孔の細部まで浸透するのが困難となり硝酸処理による改善効果が小さくなる。好ましくは粒度は0.1〜2.0mmである。ここで、原料活性炭の粒度は、ふるいによる分級で測定される。
【0020】
(製法)
本発明において原料活性炭は、木材、のこくず、籾殻、ヤシガラ、麦ガラ、および、石炭、石油、それらのコ−クス、フェノール樹脂などの合成樹脂、パルプ廃液、並びにピッチなどの重質歴青物系の活性炭が使用できる。原料活性炭の形状は、粉末状、破砕状、顆粒状、繊維状および円柱状等の各種形状のものが使用できる。
【0021】
前記原料活性炭は賦活により、微細孔を形成する。賦活は、従来用いられている方法を採用できる。例えば、水蒸気、二酸化炭素、酸素などの酸化性ガス雰囲気下で実施される。なお、これらのガスは燃焼ガスあるいは不活性ガスと混合して用いることもできる。さらに、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、塩化亜鉛、リン酸、リン酸カリウムなどの賦活助剤を用いることもできる。
【0022】
賦活は、通常600〜1100℃の範囲で、40分〜5時間保持して行なう。賦活の温度が高いほど均一な微細孔の活性炭が得られる傾向にある。また賦活により均一な微細孔を形成するために、移動式、回転式あるいは流動式での攪拌条件で実施するのが好ましい。
【0023】
活性炭の粒度が小さい場合は、賦活の時間を短くすることができるが、粒度が大きい場合は、賦活の時間を充分長くして均一な微細孔を形成することができる。
【0024】
なお、原料活性炭は、通常、無機金属成分を含み、これらの無機金属成分は均一な微細孔の形成を阻害するとともに、高い細孔容積を得るのが困難である。ここで無機金属成分としては、例えばカリウム、ナトリウム、カルシウム、鉄、マグネシウム、アルミニウム、ホウ素、チタン、珪素、リンなどが含まれ、これらの含量は合計で3質量%以下とすることが好ましい。
【0025】
<硝酸処理>
本発明は前記原料活性炭を硝酸溶液に添加して、所定温度で所定時間、処理することを特徴とする。
【0026】
硝酸溶液は、2.5規定(N)以下であることが必要である。硝酸の濃度が2.5Nを超えると活性炭の細孔の一部が破壊され、細孔容積が減少し、調湿能力の改善は期待できない。硝酸溶液の濃度は好ましくは、0.1〜2.0Nの範囲である。
【0027】
硝酸溶液による処理温度は、40〜80℃の範囲で行なう。処理温度が40℃未満の場合は、硝酸と活性炭の表面の反応が不十分となり、処理効果が小さい。一方、80℃を超えると細孔の一部が破壊され、調湿能力がピーク時より低下する傾向にある。硝酸溶液の処理は、好ましくは溶液を攪拌条件下、さらには超音波条件下で実施することも可能である。
【0028】
次に、硝酸溶液中の原料活性炭の処理時間は0.5分以上で30分以下、特に0.5〜25分が好ましい。処理時間が30分を超えると活性炭の表面の親水性が高くなりすぎて、調湿能力がピーク時より低下する傾向にある。一方、0.5分に満たない場合は、硝酸溶液の処理効果は期待できない。なお、硝酸溶液による処理時間は処理温度を高くすれば短くすることができる。
【0029】
硝酸溶液の処理により原料活性炭に化学的変化を生じさせ調湿能力を高めるものと考えられる。
【0030】
原料活性炭には、カリウム、ナトリウム、カルシウム、鉄などの無機成分が含まれている。その含有量が、例えば、3質量%を超えると、均一な微細孔の形成および、高い比表面積を得ることが困難になる。これらの無機成分の除去を硝酸溶液の処理で行なうことができる。また、前記硝酸溶液の処理により、微細孔を含む活性炭表面に、カルボン酸基、水酸基等の親水性官能基を効果的に導入することができ、その結果、活性炭の水蒸気吸着能力が一層高められる。
【0031】
<ろ過、水洗>
硝酸処理された活性炭は、その後、ろ過をしてさらに水で洗浄することが好ましい。洗浄後の水のpHが5〜7の範囲になるまで蒸留水で洗浄を繰り返す。その後、活性炭を乾燥する。
【0032】
<調湿材>
本発明は調湿活性炭に無機金属塩を添着した複合体よりなる調湿材を製造できる。調湿活性炭を無機金属塩の溶液に混合し、その後、溶媒を除去することにより調湿活性炭の内部および表面に無機金属塩が分散された状態となる。
【0033】
調湿活性炭と無機金属塩の複合体とすることにより、調湿能力を一層高めることができる。すなわち無機金属塩単独で、例えば温度25℃、湿度90%の雰囲気中に置くと、短時間でべたべたした状態になる。しかし、本発明の調湿材は、無機金属塩が調湿活性炭の表面および内部に添着された複合体であるので、べたべたすることがなく、さらに長時間に亘り調湿能力を維持することができる。
【0034】
本発明で用いられる無機金属塩は特に制限はなく、たとえば無機金属塩は塩化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化カリウムおよび塩化カルシウム等のアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の塩が好適に用いられる。無機金属塩は調湿活性炭に添着される割合、すなわち添着率は、調湿材に対して50質量%未満が好ましい。より好ましくは40質量%未満である。
【0035】
ここで添着率は次のように定義される。
添着率=[無機金属塩添着量/(調湿活性炭量+無機金属塩添着量)]×100(%)
無機金属塩の添着率が50質量%以上の場合、高湿度領域で調湿材がべたべたしたものとなり、また無機金属塩が調湿活性炭に均一に添着されない。
【0036】
次に本発明の調湿材の製造方法は、一例を示すと次の工程で行なう。なお、調湿活性炭、無機金属塩および溶媒の混合順序は特に制限はない。
【0037】
(1) 調湿活性炭と無機金属塩を所定割合で混合する。
(2) 上記混合物に溶媒たとえば水を加えて攪拌することによって全体を均一相とする。
【0038】
(3) 上記混合溶液の溶媒を、除去することにより調湿活性炭に無機金属塩を添着させる。
【0039】
本発明で使用される溶媒は水、メチルアルコール、エチルアルコールまたはこれらの混合物が使用でき、特に無機金属塩を溶解するものであれば特に制限はない。そして溶媒の量は無機金属塩を溶解するに十分な量が用いられる。また調湿活性炭と無機金属塩の混合溶液の溶媒を除去するには、減圧または加熱、さらに両者を併用することによって行なうことができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の実施例について説明する。原料活性炭として、表1に示す活性炭1、活性炭2、活性炭3を用いて種々の条件で硝酸溶液処理を行った。三角フラスコに濃度調整した硝酸溶液を10ml加えて、ホットプレート上で昇温し、粒度が0.1〜1.0mmの活性炭1〜3を0.5g加えて、よく攪拌した後、所定温度、所定時間処理を行った。その後、活性炭1〜3をろ過し、洗浄水のpHが5〜7になるまで蒸留水で洗浄を繰り返した後、115℃にて一晩乾燥して、調湿活性炭を製造した。
【0041】
比較例としてシリカ、ケイソウ土、ゼオライトを用いて調湿能力を測定した。その結果を表1に合わせて示している。
【0042】
【表1】

【0043】
なお、表1に用いた材料は次のとおりである。
(注1)シリカ:富士シリシア化学社製、商品名「サイリシア470」。
(注2)ケイソウ土:昭和化学工業社製、商品名「けいそうブレスK301」。
(注3)ゼオライト:日本ゼオライト社製、商品名「Zテクト(調湿用)」。
【0044】
<中湿域−低湿域の調湿能力の測定方法>
表1において、「中湿域−低湿域」の調湿能力は、以下の方法で測定した。
常温放置しておいた調湿活性炭試料0.3gを、115℃で2時間乾燥させ、シリカゲル入りのデシケータ中で放冷した後、秤量してそのときの質量をW0とする。次に23℃で53%RH(相対湿度)環境下に24時間放置した後の質量をW1とする。さらに23℃で75%RH(相対湿度)環境下に24時間放置した後の質量をW2とする。調湿能力(X)は、次の式で求められる。
X(%)={(W2−W0)/W0}×100−{(W1−W0)/W0}×100
<調湿能力の測定結果>
比較例1,2は、硝酸で処理していない例であり、中湿域−低湿域の調湿能力は、それぞれ19%、28%であった。また比較例3は、水で煮沸した例であり、調湿能力は28%であった。比較例4、5は、活性炭1を硝酸処理した例であり、調湿能力は、それぞれ22%、25%であった。比較例6、比較例7、比較例8は、それぞれシリカ、ケイソウ土、ゼオライトの未処理の状態の調湿能力を示し、それぞれ28%、20%、15%であった。また、比較例9は、比表面積と細孔容積の大きい活性炭3を、6N硝酸で、100℃で60分間処理したもので、調湿能力は7%となり大幅に低下した。
【0045】
本発明の実施例1〜13は、特定の原料活性炭を、所定の硝酸処理をしたため、調湿能力は、28%以上の値を示している。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の製造方法で得られた調湿活性炭は、空気中の水蒸気を吸着する能力が優れているため、各種の調湿材料に適用できる。また、調湿活性炭に無機金属塩を添着してなる調湿材は、持ち運びに便利で、各種用途に採用しうる。例えば、住宅家屋の壁面、天井、押入れ、床面あるいは床下等に使用することで、調湿効果および防臭効果を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
比表面積が1280m2/g以上で、細孔容積0.88ml/g以上の原料活性炭を、2.5N以下の硝酸溶液中で、40〜80℃、0.5〜30分で処理する調湿活性炭の製造方法。
【請求項2】
原料活性炭の粒度は、0.01〜4.0mmである請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の製造方法で得られた調湿活性炭に無機金属塩を添着させた調湿材。
【請求項4】
請求項1または2に記載の製造方法で得られた調湿活性炭を用いて製造された建材。
【請求項5】
請求項3記載の調湿材を用いて製造された建材。

【公開番号】特開2009−114004(P2009−114004A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−286289(P2007−286289)
【出願日】平成19年11月2日(2007.11.2)
【出願人】(508114454)地方独立行政法人 大阪市立工業研究所 (60)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】