説明

調湿消臭体及びその製造方法

【課題】外部環境に応答した高い調湿能力、即ち、大きく且つ迅速な吸放湿性を有し、吸湿しても自己形状が維持でき、優れた力学物性を示すと同時に、消臭性も併せ持つ調湿消臭体、及び調湿消臭体を有機溶剤なしで、簡便に短時間で製造できる製造方法を提供する。
【解決手段】(1)水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)を反応して得られる重合体(b)と、水膨潤性粘土鉱物(c)とが三次元網目構造を形成する架橋体(A)と、(2)消臭性を有する物質(B)とを、含有する調湿消臭体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般住宅やオフィスビル、病院、美術館、博物館、動物園、倉庫などの建物および部屋、車両、船舶、航空機などの輸送体、ものを収納する空間(タンス、下駄箱など)などにおいて、内部または周囲環境の湿度調整、及び不快または有害な気体を除去するために使用される調湿消臭体である。
具体的には、(メタ)アクリル系モノマーの重合体(b)と粘土鉱物が三次元網目を形成してなる架橋体(A)と、消臭性を有する物質(B)を含有する調湿消臭体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般住宅などの建物の内装材は、殆ど樹脂製の壁紙が使用されている。樹脂製壁紙は吸湿性が殆どないため、天候による室内の湿度上昇や、建物内外の温度差による結露が非常に発生しやすい。また、長期間の結露により壁などにカビや藻などが発生し、居住環境(室内環境)や健康に悪影響を及ぼしている。また、樹脂製以外の内装材(例えば、紙、木材など)の場合も、吸湿性が小さいため、同様な現象が起こりやすい問題を有する。
ものを収納する空間、例えば押入れや洋服タンス、下駄箱などについては、強制的な湿度調節が殆ど行われず、湿気や臭いがこもりやすく、収納物(洋服や布団、靴など)が傷みやすく、また使用時に人に不快感も与えるという問題がある。
また、内装材が低分子物質を吸着する能力を殆ど持っていないため、室内の臭い物質や有毒物質、例えば、アンモニア臭やタバコの臭い、生活臭、体臭、ホルムアルデヒド類などが、長期間室内に滞留し、不快感をもたらすのみならず、健康にも大きな悪影響も及ぼしている。
また、美術館や博物館のような建築物や文化財を収納している建物などについては、館内を常に恒温恒湿に保つ必要があるため、空調設備や加湿器などを常時稼動させる必要があり、莫大なエネルギーを消費している。
更に、自動車、電車、飛行機などの輸送体については、内装材として樹脂製のフェルト材や樹脂板成型物が主に使用されているため、吸湿性や臭い物質の吸着能が殆どなく、また、輸送体内外の温度差による窓ガラスの曇りや結露が発生しやすいという不具合が生じている。
以上のような湿気問題を解決するため、大きな建物の居住や展示空間では、空調機や換気設備、加湿器、除湿機などを用いて空間内の湿度を調節する方法はあるが、設備が高価であるほかに、電気費用や設備の維持管理費用などが大きいという問題がある。一方、小さい収納空間の場合は、除湿剤を用いて除湿する方法があるが、除湿剤の除湿能力が必ずしも高くなく、繰り返し使用ができない場合が多く、更に、除湿剤によって吸収された水がこぼれて収納物を汚してしまうという問題がある。
そこで、エネルギー消費が不要で、且つ簡単に空間内の湿度を適度に調節できるいくつかの方法が提案されている。例えば、
(1)湿気を吸収、放出する吸放湿剤(シリカゲル、活性アルミナ、塩化カルシウム)を、表裏面材間に形成された空間層に充填してなる一般戸、壁として使用する方法(特許文献1参照)。しかし、この方法で使用される吸放湿剤は、単位重量当たりの吸放湿量が小さく(例えば、シリカゲルおよび活性アルミナの飽和吸水量は各々0.4gHO/gシリカゲル、0.7gHO/g活性アルミナ)、満足される快適な湿度調節には、吸放湿能力が不足しており、作製や設置にも手間がかかる。
(2)樹脂製壁紙の表面に、EVA(エチレン酢酸ビニル)系樹脂、天然珪藻土、熱膨張型発泡剤からなる混合物の層を設けて加熱発泡させることにより、天然珪藻土の表面を空気に触れさせて、樹脂製壁紙に吸放湿性を持たせる方法(特許文献2参照)。この方法で作製された吸放湿層は、主に天然珪藻土が吸放湿性を担っているが、珪藻土の単位重量当たりの飽和吸水量が低く(約1.9gHO/g珪藻土)、また、この塗布方法を用いることにより、従来の樹脂製壁紙の柄や模様(意匠性)が全て覆われてしまうという問題がある。
(3)地下室の床部または周壁部の内装材(一部を通気板とし)とコンクリート面間に脱臭、除湿剤を充填して、地下室内の臭気及び湿気を除去する構法(特許文献3参照)。この方法で使用される脱臭、除湿剤は主に木質炭を網袋に入れて使用されると記述されている。(1)の場合と同じように、顆粒状脱臭、除湿剤の単位重量当たりの吸放湿量が小さく、作製や設置、維持管理などに手間がかかる問題がある。
また、車両、船舶、航空機などの輸送体の場合は、現在も殆ど空調機を利用して、輸送体内空間の温湿度を調節しているが、余分なエネルギーを消費すると同時に、ガラス部の曇り止めや、空間内の最適湿度調節は殆ど行われていない。
(4)自動車車内の結露防止や蒸れ防止用内装部材として、ポリオール中で、吸水性樹脂(または吸水ゲル)分散体を重合形成させた後、ついで、ポリイソシアネート化合物を用いて反応させ、吸水性樹脂(または吸水ゲル)を微分散させたウレタン樹脂製自動車用内装部材を作製するという方法が提案されている(特許文献4参照)。しかし、この方法では作製された吸水性樹脂微粒子(1μm以下)がウレタン樹脂の内部に分散している状態のため、外部の湿気と接触できるのは、ウレタン樹脂表面に存在する限られた吸水性樹脂微粒子である。また、吸水性樹脂微粒子が互いに融着しておらず、互いに独立してウレタン樹脂中に存在しているため、表面の微粒子が吸着した水のウレタン樹脂内部への拡散は起こらず、高い性能が期待されない。逆に、もし吸水性樹脂微粒子が互いに接触するほど大量に含有させたウレタン樹脂製内装材を作製した場合、表面で吸着された水がどんどんウレタン樹脂内部へと拡散し、吸水性樹脂微粒子の吸水による膨張のため、ウレタン樹脂全体が膨張し、従来設計された形状に維持できなくなる問題点がある。
更に、吸水性樹脂微粒子については、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム系吸水性樹脂微粒子の場合、大量の水を吸収した場合、該樹脂が卵白のような状態になり、自己形状がなくなる性質を持っている。吸水しても自己形状を維持できるようにするには、該吸水性樹脂の架橋度を上げる必要がある。しかし、架橋度を上げることにより、樹脂の吸水量が大きく低下してしまう問題点があり、また架橋度を上げても必ずしも強度的に強くならない問題も有する。
【0003】
【特許文献1】特開平10-152905
【特許文献2】特開2001−336094
【特許文献3】特開平6−257171
【特許文献4】特開2000−128947
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、外部環境に応答した高い調湿能力、即ち、大きく且つ迅速な吸放湿性を有し、吸湿しても自己形状が維持でき、優れた力学物性を示すと同時に、消臭性も併せ持つ調湿消臭体、及び調湿消臭体を有機溶剤なしで、簡便に短時間で製造できる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)の重合体(b)と水膨潤性粘土鉱物(c)とが三次元網目を形成してなる架橋体(A)と、消臭性を有する物質(B)を含有する調湿消臭体、及び重合開始剤を含んだ水溶液中で、水膨潤性粘土鉱物(c)と消臭性を有する物質(B)の共存下において、水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)を重合させた後、乾燥させることからなる調湿消臭体の製造方法を見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、(1)水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)を反応して得られる重合体(b)と、水膨潤性粘土鉱物(c)とが三次元網目構造を形成する架橋体(A)と、
(2)消臭性を有する物質(B)とを、
含有する調湿消臭体を提供するものである。
また、本発明は、上記の調湿消臭体を、基材に含浸または基材に塗布してなる調湿消臭シートを提供するものである。
更に、本発明は、水溶性の重合開始剤(d)および触媒を水媒体(f)中に溶解させた水溶液中で、水膨潤性粘土鉱物(c)と消臭性を有する物質(B)の共存下において、水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)を重合させた後、乾燥させることからなる調湿消臭体の製造方法を提供するものである。
更に、本発明は、非水溶性の重合開始剤(e)を水媒体(f)中に分散させた分散液中で、水膨潤性粘土鉱物(c)と消臭性を有する物質(B)の共存下において、水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)をエネルギー線の照射により反応させた後、乾燥させることからなる調湿消臭体の製造方法を提供するものである。
更に、本発明は、水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)、水膨潤性粘土鉱物(c)、消臭性を有する物質(B)、及び非水溶性の重合開始剤(e)が水媒体(f)中に分散した分散液を含有するエネルギー線硬化性組成物(X)を、基材に含浸、または基材上に塗布した後、エネルギー線の照射により水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)を反応させた後、乾燥させることからなる調湿消臭シートの製造方法を提供するものである。
更に、本発明は、水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)を反応して得られる重合体(b)と水膨潤性粘土鉱物(c)とが三次元網目構造を形成する架橋体(A)と、消臭性を有する物質(B)とを含有する組成物(Y)を、基材に担持させる調湿消臭シートの製造方法を提供するものである。
なお、本発明の調湿消臭体においては、消臭性物質(B)が架橋体(A)に担持し、それらが一体となる形態、又は架橋体(A)と消臭性物質(B)が各々独立して存在する形態等、種々の形態がある。
【発明の効果】
【0006】
本発明の調湿消臭体は、水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)の重合体(b)と水膨潤性粘土鉱物(c)とが三次元網目を形成してなる架橋体(A)と、消臭性を有する物質(B)を含有するもので、高い飽和吸水能力(約20gHO/g調湿消臭体)、高い調湿能力を有し、吸湿後も自己形状が維持でき、優れた力学物性を示すと同時に、消臭性も併せ持つものである。建物や輸送体、収納具などの空間内の調湿、消臭に有効に用いられる。
また、本発明の製造方法によれば、調湿消臭体を製造する際に有機溶剤を使用しない水溶液を用いるため、環境に与える負荷が低く、更に、エネルギー線の照射による重合方法を用いることにより極短時間で製造できる特徴を持っている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明で用いる水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)は、その重合体(b)が粘土鉱物と相互作用し、重合により有機無機三次元網目構造を有する架橋体(A)を形成できるものであれば、好適に使用できるが、中でも、(メタ)アクリルアミド、およびこれらの誘導体(N−またはN,N置換(メタ)アクリルアミド)や(メタ)アクリル酸エステルが好ましく用いられ、特に好ましくは(メタ)アクリルアミド、およびこれらの誘導体(N−またはN,N置換(メタ)アクリルアミド)が用いられる。
【0008】
更に好ましくは下記式(1)〜(6)の(メタ)アクリル系モノマーが用いられる。
【0009】
【化1】

【0010】
【化2】

【0011】
【化3】

【0012】
【化4】

【0013】
【化5】

【0014】
【化6】

(式(1)〜(6)中、Rは水素原子またはメチル基、R,Rはそれぞれ独立に水素原子または炭素原子数1〜3のアルキル基であり、Rは炭素原子数1〜2のアルキル基であり、nは1〜9の整数である。)
【0015】
ここの(メタ)アクリル系モノマーとは、アクリル系モノマーとメタクリル系モノマーの総称であり、以下も同様である。
これらの(メタ)アクリル系モノマーの使用により、調湿消臭体の吸湿能力(飽和吸水量)が高く、吸湿後も優れた力学物性を示す。また、製造時非水溶性の開始剤を使用した場合、開始剤がより微細且つ均一に分散でき、エネルギー線による重合時酸素の影響が受けにくく、より物性の優れる調湿消臭体が得られる。上記の(メタ)アクリル系モノマーは、要求される力学物性や化学物性などにより、一種以上を混合して使用してもよい。
また、調湿消臭体の物性に影響を及ぼさない程度に、その他の共重合モノマーとして、例えば、スルホン基やカルボキシル基のようなアニオン基を有する(メタ)アクリル系モノマー、4級アンモニウム基のようなカチオン基を有する(メタ)アクリル系モノマー、4級アンモニウム基と燐酸基とを持つ両性イオン基を有する(メタ)アクリル系モノマー、カルボキシル基とアミノ基とをもつアミノ酸残基を有する(メタ)アクリル系モノマー、糖残基を有する(メタ)アクリル系モノマー、また、水酸基を有する(メタ)アクリル系モノマー、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール鎖を有する(メタ)アクリル系モノマー、更にポリエチレングリコールのような親水性鎖とノニルフェニル基のような疎水基を合わせ持つ両親媒性(メタ)アクリル系モノマー、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミドなどを併用することができる。
(メタ)アクリル系モノマーの重合体(b)と粘土鉱物との相互作用には、静電相互作用、疎水性部分の相互作用、水素結合、配位結合による相互作用、またはこれらの相互作用の組み合わせがある。これらの相互作用により、本発明の調湿消臭体特に吸湿後(ゲル状)の力学物性が非常に優れていると推測される。
【0016】
本発明に用いる水膨潤性粘土鉱物(c)としては、層状に剥離可能な膨潤性粘土鉱物が挙げられ、好ましくは水または水と有機溶剤との混合溶液中で膨潤し均一に分散可能な粘土鉱物。粘土鉱物の層状剥離状態については、1層〜10層になるのが好ましい、1層〜5層になるのは更に好ましい、最も好ましくは水中で分子状(単一層)またはそれに近いレベルで均一分散可能な無機粘土鉱物が用いられる。粘土鉱物が水溶液中で単一層状態に近いほど、得られる三次元網目構造を有する架橋体(A)の力学物性が良く、好ましい。粘土鉱物の水溶液中での分散状態は、水溶液の透明度(白濁度)を測定することにより簡略的に判別することができる。また、架橋体(A)の顕微鏡観察により、架橋体中の粘度鉱物の(層)剥離状態を詳細に判別することもできる。
本発明に具体的に使用される粘度鉱物としては、ナトリウムを層間イオンとして含む水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性モンモリライト、水膨潤性サポナイト、水膨潤性合成雲母等が挙げられる。これらの粘土鉱物を混合して用いても良い。
【0017】
本発明の調湿消臭体を製造する際、水膨潤性粘土鉱物(c)と水溶性のアクリルモノマー(a)との質量比(b)/(a)が、0.01〜10であることが好ましく、0.03〜5がより好ましく、0.05〜3が特に好ましい。質量比(b)/(a)が0.01未満では、得られる有機無機複合ヒドロゲルの力学物性が不十分になりやすく、また10を超えると粘土鉱物の分散が困難になってくる。
【0018】
本発明に用いる消臭性を有する物質(B)は、消臭性例えばアンモニア臭、タバコ臭、体臭、生活臭、カビ臭、ペット臭、VOC(揮発性有機機化合物)、ホルムアルデヒドなどに対し吸着性や反応中和性または化学的分解性を有するものであれば、特に限定されないが、例えば、二酸化珪素、酸化亜鉛、酸化銅、酸化銀、または二酸化珪素と金属酸化物の複塩、チタン系酸化物、ゼオライト、ケイソウ土、活性炭、活性炭素繊維、アセト酢酸エステル類キレート化合物、界面活性剤、酸、アルカリ、セルロース系繊維または粉末、ポリフェノール系化合物、お茶(繊維状または粉末状)、柑橘類の皮(繊維状または粉末状)、ひいたコーヒー(ground coffee)またはコーヒーの出しがら(coffee grounds)、および化学的消臭作用(化学反応による消臭)のある月桂樹やハイビスカスなどの植物からの抽出物や繊維粉砕物、藻などの水生植物の抽出物またはその粉砕物、酵素類、微生物類などが挙げられる。中でも、人体に無毒で、消臭性(消臭能力、持続性)が高く、コストが低いなどの点から、ゼオライトやケイソウ土、活性炭、セルロース系繊維または粉末が好ましく用いられる。また、セルロース系繊維においては、植物の成長が早く、消臭性も高いケナフ繊維またはその粉末が特に好ましく用いられる。上記の消臭性を有する物質(B)は、要求される空間の種類、消臭対象物質などにより、一種以上を混合して使用してもよい
【0019】
本発明の調湿消臭体を製造する際、水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)の重合体(b)と消臭性を有する物質(B)との質量比(B)/(b)が、0.1〜5であることが好ましく、0.3〜3がより好ましく、0.7〜1.5が特に好ましい。0.1以上であれば、十分な消臭性を有することができ、また、5以下であれば、調湿消臭体の強度特に吸湿後の力学物性の低下がなく、調湿性と消臭性を共に十分発揮できる。
【0020】
本発明の調湿消臭体中の消臭性を有する物質(B)は、単に水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)の重合体(b)と水膨潤性粘土鉱物(c)とが三次元網目を形成してなる架橋体(A)の中に分散しているものではなく、粉末状のものと繊維状のものの組み合わせや、複合時の架橋体(A)の状態などを調整することにより、空間中の臭い物質が調湿消臭体内部の消臭性を有する物質(B)まで到達できるように設計することができる。
また、水溶性の臭い物質と非水溶性の臭い物質両方が、消臭性を有する物質(B)によって吸着、反応中和または反応分解されるように設計することができる。例えば、調湿消臭体の表面から中まで連通する隙間や孔ができるように繊維状や塊状の消臭性を有する物質(B)を複合させることにより、空間中の臭い物質が調湿消臭体の内部まで到達できる。また、親水性の消臭性物質と疎水性の消臭性物質両方を架橋体(A)と複合させることにより、水溶性の臭い物質と非水溶性の臭い物質両方を消臭(吸着、反応、分解など)することができる。
【0021】
更に、本発明の調湿消臭体は、以下の(架橋体(A)と消臭性物質(B)との)複合形態を持つことにより、調湿性と消臭性が両方最大限に発揮でき、好ましい。例えば、
其の一の形態として、架橋体(A)をゲル状にしてから、消臭性物質(B)と複合させ、乾燥させた形態、
其の二の形態として、架橋体(A)の粉末と消臭性物質(B)とを複合させる形態、
が挙げられる。
複合方法は、直接複合させる方法や、カルボキシメチルセルロースのような接着剤を介した方法、また熱による融着方法などが上げられる。
【0022】
本発明の調湿消臭体の中には更に、用途に応じて、防腐剤や抗菌剤、着色剤(顔料、染料)、炭酸カルシウムのような無機化合物、香料、酵素、微生物、塩類、発泡剤、水溶性有機溶剤類、界面活性剤、レベリング剤などを含むことができる。
【0023】
本発明の調湿消臭体の形状は、特に限定されないが、使用条件例えば、建物の天井や壁に設置して用いられる場合は、薄いシート状やハニカム状、粉末状にすることが好ましく、タンスなどの収納空間に用いられる場合は、粉末状、シート状や棒状、糸状、ストロー状、プリーツ状、球状など場所の取らない形状の方が好ましい。また、車両、船舶、飛行機などに使用される場合は、シート状や置物のような装飾品状にしてもよい。
【0024】
また、本発明の調湿消臭体の形態は、特に限定されないが、そのまま使用しても良いし、製造や加工、敷設などに応じて、基材に含浸または塗布し、基材と一体化したもの(例えばシート状)として使用しても良い。基材と一体化したもの(調湿消臭シート)は、吸湿時の膨潤による形状変化が更に抑えられ、形状変化の少ない使用条件に好適に用いられる。
【0025】
調湿性を有する架橋体(A)と消臭性を有する物質(B)が互いに(包埋せず)独立して存在し、調湿性と消臭性を共に最大限に発揮させる点から、水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)の重合体(b)と水膨潤性粘土鉱物(c)とが三次元網目を形成してなる架橋体(A)と消臭性を有する物質(B)を混合して、基材に担持させた調湿消臭シートが好ましく用いられる。架橋体(A)の形態(例えばゲル状、粉末状など)や大きさは、用途に応じて、任意に変えることができる。混合(複合)や担持方法も、接着剤を介した方法や、熱による接着方法、架橋体(A)をゲル状にしてから消臭性物質(B)を直接複合させる方法などが用いられ。例えば、調湿消臭体を壁塗り剤として使用する場合は、意匠性に応じて、大きな粒状にして使用しても良いし、大小不規則の顆粒状にしてもよい。紙に塗布して平滑なシートにする場合は、なるべく細かい粉末状にした方が平滑の表面が得られ好ましい。これらの用途は接着剤を介して基材に担持させる方法が挙げられる。また、不織布に担持させる場合は、比較的小さな粒子状にして、熱による融着の方法が挙げられる。
【0026】
また、製造などの簡便さから、水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)の重合体(b)と水膨潤性粘土鉱物(c)とが三次元網目を形成してなる架橋体(A)と、消臭性を有する物質(B)を含有する調湿消臭体の粉末を基材に担持させた調湿消臭シートも好適に用いることができる。粉末の形状や大きさは、用途に応じて、任意に変えることができる。担持方法も、直接担持や、接着剤を介した方法、熱による接着方法などが用いられる。粉末化することにより、表面積が大きく増え、調湿消臭の速度や能力が向上し好ましい。
【0027】
基材としては、公知慣用のものが用いられるが、中でも、樹脂製不織布、布、紙、木材、フェルト、樹脂シート(例えば樹脂製壁紙など)が好ましく用いられる。
基材の形状も特に限定されないが、例えば、板状、シート状、棒状、糸状、球状、立方体、置物のような装飾物、粉末など任意形状のものでよい。製造の簡便性から、シート状の基材の方が好ましく用いられる。例えば、自動車車内用の表皮材(樹脂製フェルト)シートの片表面に調湿消臭体を塗布、または含浸したもの、通気性の樹脂製壁紙シートの裏面または表面に調湿消臭体を塗布したものなどが挙げられる。また、水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)の重合体(b)と水膨潤性粘土鉱物(c)とが三次元網目を形成してなる架橋体(A)と消臭性を有する物質(B)を、カルボキシメチルセルロースのような接着剤、その他の添加剤を含んだものを直接コンクリートや石膏ボードや木の板、不織布などに塗布したものもある。
【0028】
上記の調湿消臭体と基材とが一体化したもの(調湿消臭シート)を更にシート状材料に固定して調湿消臭積層体として使用してもよい。例えば、調湿消臭シートを自動車の内装(例えば天井部)表皮材とパット材(発泡スチロール)との間に介在させてなるものや、住宅の壁紙とその下地(石膏ボード)との間に介在してなるもの(調湿消臭積層体)などが挙げられる。調湿消臭体と基材とが一体化した調湿消臭シートは、必要に応じてその上に積層するシート状材料に固定してもよい。
湿気や臭い物質がシート状材料側から、シート状材料を透過して調湿消臭体(調湿消臭シート)に到達する場合は、シート状材料が通気性のものであることが必要である。例えば樹脂製壁紙や天井材が通気性のないものの場合は、物理的に樹脂製壁紙に孔を開ければよく、穴の大きさも壁紙表面の模様や柄、要求される調湿消臭度合いに応じて任意に変えることができる。例えば、花模様の場合は、比較的大きな孔(例えば直径2mm前後)を開けても意匠性に大きな影響を及ぼさず、白一色の壁紙の場合は、比較的小さな孔(例えば直径0.5mm前後)を開ければよい。自動車などの輸送体の車内に使用される内装材は、その多くは通気性のよいフェルトであるため、そのまま調湿消臭シートと積層して使用してよい。
【0029】
次は調湿消臭体の製造方法について説明する。
本発明の第1の製造方法は、水溶性の重合開始剤(d)および触媒を水媒体(f)中に溶解させた水溶液中で、水膨潤性粘土鉱物(c)と消臭性を有する物質(B)の共存下において、水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)を重合させた後、乾燥させることからなる調湿消臭体の製造方法である
【0030】
この製造方法で用いる水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)と水膨潤性粘土鉱物(c)及び消臭性を有する物質(B)は、調湿消臭体で説明されたのと同じものを使用することができるので、省略する。
この製造方法に用いられる水溶性の重合開始剤(d)及び触媒としては、公知のラジカル重合開始剤や触媒を適宜選択して用いることができる。具体的には、重合開始剤(d)として、ペルオキソ二硫酸カリウムなどの過酸化物、2,2'-Azobis[N-(2-carboxyethyl)-2-methylpropionamidine]hydrate(商品名VA−057、和光純薬工業株式会社製)などのアゾ化合物、Fe2+と過酸化水素との混合物などが挙げられる。触媒としては、N,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミンなどの3級アミン化合物が挙げられる。重合温度や時間は、選ばれた重合開始剤と触媒の種類に応じて適宜調節すればよく特に限定されない。重合が酸素によって阻害を受ける場合は、重合雰囲気を窒素やアルゴンガスで酸素を置換して重合を行うと反応速度が上がり、未反応モノマーの残存も少なく好ましい。
【0031】
本発明に用いる水媒体(f)は、水溶性のアクリルモノマー(a)や水膨潤性粘土鉱物(c)及び消臭性を有する物質(B)、水溶性の重合開始剤(d)及び触媒を含むことができ、ラジカル重合によって、残存モノマーが少なく、力学物性、調湿消臭性のよい調湿消臭体が得られれば良く、特に限定されない。例えば水、または水と混和性を有する溶剤及び/またはその他の化合物を含む水溶液であってよく、その中には更に、防腐剤や抗菌剤、着色剤、香料、酵素、微生物、たんぱく質、糖類、アミノ酸類、細胞類、塩類、界面活性剤、レベリング剤などを含むことができる。
【0032】
重合後の乾燥方法は、生成物中の揮発成分(例えば水、溶剤など)が除去されれば特に限定されない。例えば、通常の熱風乾燥機や真空乾燥機中での乾燥方法でよい。加熱温度や時間は調湿消臭体や基材などの耐熱性に応じて適宜決めればよい。また、乾燥後反りなどが発生するものは、予め木の板などの支持体に固定してから加熱することが好ましい。また、必要に応じて、反応後の複合体を、乾燥する前に、洗浄してもよい。
【0033】
本発明の第2の製造方法は、非水溶性の重合開始剤(e)を水媒体(f)中に分散させた分散液中で、水膨潤性粘土鉱物(c)と消臭性を有する物質(B)の共存下において、水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)をエネルギー線の照射により反応させた後、乾燥させることからなる調湿消臭体の製造方法である。
【0034】
本発明に用いられる非水溶性の重合開始剤(e)としては、p−tert−ブチルトリクロロアセトフェノンなどのアセトフェノン類、4,4’−ビスジメチルアミノベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類、2−メチルチオキサントンなどのケトン類、ベンゾインメチルエーテルなどのベンゾインエーテル類、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどのα−ヒドロキシケトン類、メチルベンゾイルホルメートなどのフェニルグリオキシレート類、メタロセン類などが挙げられる。
【0035】
ここで言う非水溶性とは、重合開始剤の水に対する溶解量が0.5重量%以下であることを意味する。
【0036】
非水溶性の重合開始剤(e)を水媒体(f)中に分散させる際、重合開始剤(e)を予め水溶性の溶剤、または非水溶性重合開始剤(e)を溶解し且つHLB(親水疎水バランス)値が8以上の(メタ)アクリル系モノマー(以下、該(メタ)アクリル系モノマーを(メタ)アクリル系モノマー(a’)と略記する)に溶解した後、その溶液を水媒体(f)中に分散させた方が、非水溶性の重合開始剤(e)をより微細に、均一に水媒体(f)中に分散でき、エネルギー線を照射し重合させることにより、残存モノマーがより少なく、力学物性のよりよい調湿消臭体が得られ、好ましい。
ここのHLB値はデービス式(「界面活性剤−物性・応用・化学生態学」、北原文雄ら編、講談社、1979、p24−27)に従って求められた値である。
水溶性の溶剤としては、非水溶性重合開始剤(e)を溶解でき、且つ一定以上の水溶性を有する溶剤を用いることができる。ここで言う水溶性を有する溶剤とは、水100gに対し50g以上溶解できる溶剤であることが好ましい。水への溶解性が50g未満であると、非水溶性の重合開始剤(e)の水媒体(f)への分散性が低下し、得られる調湿消臭体の力学物性が低い場合がある。
【0037】
第2の製造方法で用いられる(メタ)アクリル系モノマー(a’)としては、例えば、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートのようなポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート類、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート類、ペンタプロピレングリコール(メタ)アクリレートのようなポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート類、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート類、メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレートのようなメキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート類、ノニルフェノキシポリエチレングリコ−ル(メタ)アクリレート類、ジメチルアクリルアミドのようなN置換アクリルアミド類、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、などが挙げられる。(メタ)アクリル系モノマー(a’)のHLB値が8以上であると、水媒体(f)への溶解生性または分散性に優れるため好ましい。これらの(メタ)アクリル系モノマー(a’)は、一種以上を混合して用いることができる。
非水溶性重合開始剤(e)を水溶性の溶剤または(メタ)アクリル系モノマー(a’)に溶解させた溶液中における非水溶性重合開始剤(e)と水溶性の溶剤または(メタ)アクリル系モノマー(a’)の質量比(e)/水溶性の溶剤または(メタ)アクリル系モノマー(a’)は、0.001〜0.1であることが好ましく、0.01〜0.05が更に好ましい。0.001以上であると、エネルギー線の照射によるラジカルの発生量が十分に得られるため好適に重合反応を進行させることができ、0.1以下であれば、開始剤による発色や、臭気を実質的に生じることがなく、またコストの低減が可能である。
以上の水溶性の溶剤または(メタ)アクリル系モノマー(a’)のいずれの場合においても、非水溶性重合開始剤(e)を水溶性の溶剤または(メタ)アクリル系モノマー(a’)に溶解させた溶液の水媒体(f)への分散量が、水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)、水膨潤性粘土鉱物(c)、消臭性を有する物質(B)、水媒体(f)、重合開始剤(e)及び水溶性の溶剤または(メタ)アクリル系モノマー(a’)の総重量に対し、0.1重量%〜5重量%であることが好ましく、0.2重量%〜2重量%であることが更に好ましい。該分散量が0.1重量%以上であると、重合が十分に開始され、5重量%未満であると、架橋体(A)に関与しないリニアポリマーの生成や生成物中の重合開始剤の増加による臭気の発生、更には一旦分散された重合開始剤が再び凝集する等の問題を低減でき、均一な調湿消臭体得ることができるため好ましい。
重合生成物中の非反応残存モノマーを減らす点から、反応系中にペルオキソ二硫酸カリウムなどの水溶性の重合開始剤(d)を添加し、エネルギー線照射時の熱や乾燥時の熱を利用して、モノマーの反応率を更に上げることができる。
【0038】
第2の製造方法中の水媒体(f)は、第1の製造方法の水媒体(f)と同じものであるため省略する。また、この製造方法で用いる水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)と水膨潤性粘土鉱物(c)及び消臭性を有する物質(B)は、調湿消臭体で説明されたのと同じものを使用することができるので、省略する。
【0039】
第2の製造方法に用いられるエネルギー線としては、電子線、γ線、X線、紫外線、可視光などを用いることができる。中でも装置や取り扱いの簡便さから紫外線を用いることが好ましい。照射する紫外線の強度は10〜500mW/cmが好ましく、照射時間は一般に0.1秒〜600秒程度である。通常の加熱によるラジカル重合においては、酸素が重合の阻害因子として働くが、この製造方法では、必ずしも酸素を遮断した雰囲気で溶液の調製およびエネルギー線照射による重合を行う必要がなく、空気雰囲気でこれらを行うことが可能である。但し、紫外線照射を不活性ガス雰囲気下で行うことによって、更に重合速度を速めることが可能で、望ましい場合がある。
第2の製造方法は、水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)、水膨潤性粘土鉱物(c)、消臭性を有する物質(B)、水媒体(f)、非水溶性の重合開始剤(e)などを含む反応溶液を、任意の形(例えば板状、シート状、薄膜上、棒状、球状、糸状、中空糸状など)に賦形し、エネルギー線を照射し、水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)を重合させた後、乾燥させることにより調湿消臭体を製造する方法である。また、ベルト状の支持体を用いることにより、枚葉式または連続してシート状の調湿消臭体を製造することもできる。また、必要に応じて、反応後の複合体を、乾燥する前に、洗浄してもよい。
【0040】
本発明の第3の製造方法は、水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)、水膨潤性粘土鉱物(c)、消臭性を有する物質(B)、及び非水溶性の重合開始剤(e)が水媒体(f)中に分散した分散液を含有するエネルギー線硬化性組成物(X)を、基材に含浸、または基材上に塗布した後、エネルギー線の照射により水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)を反応させた後、乾燥させることからなる調湿消臭シートの製造方法である。
【0041】
この製造方法で用いられる水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)、水膨潤性粘土鉱物(c)、消臭性を有する物質(B)、及び非水溶性の重合開始剤(e)、並びに水媒体(f)、エネルギー線は、第2の製造方法で述べたものと同じものを使用できるので省略する。非水溶性の重合開始剤(e)の分散方法、反応後の乾燥方法も第2の製造方法で述べたものと同じ方法を用いることができるので省略する。また、この方法で用いられる基材は、調湿消臭体の部分で説明されたのと同じものを使用することができるので、省略する。
組成物(X)の、基材への塗布方法は、公知慣用の方法でよい。例えば、バーコーターのようなコーターやロールコーター、スピンコーター、ヘラなどによる塗布、組成物(X)の基材への流延や圧延による塗布などが挙げられる。中でも、組成物(X)の粘度が高いものについては、バーコーターによる塗布方法が好ましい。
【0042】
本発明の第4の製造方法は、水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)の重合体(b)と水膨潤性粘土鉱物(c)とが三次元網目を形成してなる架橋体(A)、消臭性を有する物質(B)を含有する組成物(Y)を、基材に担持させた調湿消臭シートの製造方法。
この製造方法で用いられる水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)、水膨潤性粘土鉱物(c)、消臭性を有する物質(B)は、第1の製造方法で述べたものと同じものを使用できるので省略する。架橋体(A)と消臭性を有する物質(B)との混合(複合)や基材への担持方法も、調湿消臭シートで説明したのと同じ方法を使用できるので省略する。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲がこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
本実施例及び比較例で使用される調湿消臭体の各評価試験方法は次の通りである。
【0044】
[吸放湿試験]得られた調湿消臭体(60mm×90mm)を、底に水を入れ、相対湿度95%(22℃)のデシケーター(直径240mm、全高314mm)に静置し、24時間後の吸湿量を測定した。次いで、該試験片を、相対湿度40%(22℃)の環境中に静置し、24時間後の放湿量を測定した。吸湿量及び放湿量は、調湿消臭体1m当たりに吸湿、放湿した水の量(g/m)で表記する。
【0045】
[調湿試験]220mm×160mm×12.5mm(高さ)のポリプロピレン製容器に、水の入ったポリスチレンシャーレ(直径60mm)を入れ、得られた調湿消臭体(210mm×150mm)を入れて、容器に蓋をして、容器中の湿度の経時変化をアズワン株式会社製のTH321温湿度計を用いて測定した。
【0046】
[曇り止め試験]底に水を入れ、同時に得られた調湿消臭体(60mm×90mm)を入れたデシケーター(直径240mm、全高314mm)を50℃の恒温機中に2時間静置した後、該容器を10℃の環境に移して冷却し、容器ガラス面の曇りの発生の有無を目視で観察した。
【0047】
[消臭試験1]220mm×160mm×12.5mm(高さ)のポリプロピレン製容器に、5μLの25%アンモニア水溶液の入ったポリスチレンシャーレ(直径60mm)を入れ、同時に得られた調湿消臭体(210mm×150mm)を入れて、容器に蓋をして、容器中のアンモニアガス濃度の経時変化を、ガス検知管(株式会社ガステック製)を用いて測定した。
【0048】
[消臭試験2]220mm×160mm×12.5mm(高さ)のポリプロピレン製容器に、得られた調湿消臭体(210mm×150mm)を入れ、次いで、一酸化炭素濃度が100ppmになるよう、タバコの副流煙(タバコの点火部から立ち上る煙のこと)を注入して容器を密閉し、4時間後、容器の蓋部にある孔(直径8mm)から容器内の臭いを直接鼻で嗅いでタバコ臭いの有無を判別した。
【0049】
(実施例1)
[水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)、水膨潤性粘土鉱物(c)、消臭性を有する物質(B)、水溶性の重合開始剤(d)、水媒体(f)を含む反応溶液の調製]
水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)としてN,Nージメチルアクリルアミド(株式会社興人製)9g、その他の共重合モノマーとしてメトキシノナエチレングリコールアクリレート(商品名NKエステルAM−90G、新中村化学工業株式会社製)5g、粘土鉱物(c)としてLaponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)4g、消臭性を有する物質(B)として珪藻土(商品名ラヂオライト#800S、昭和化学工業株式会社製)6g、抹茶(食品加工用、株式会社南山園製)0.7g、水溶性の重合開始剤(d)として、ペルオキソ二硫酸カリウム(和光純薬工業株式会社製)0.2g、触媒としては、N,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミン(和光純薬工業株式会社製)80μL、水媒体(f)として水100g、を均一に混合して反応溶液(1)を調製した。
【0050】
[調湿消臭体の作製]
反応溶液(1)を、窒素で置換したポリプロピレン製容器(220mm×160mm×12.5mm)に、乾燥後の目付け(乾燥塗布量)が500g/mになるよう流し込み、一晩静置した後、容器ごと60℃の熱風乾燥機に入れ、一晩乾燥させて、調湿消臭体1を得た。
【0051】
[調湿消臭体の吸放湿、調湿、消臭、及び曇り止め評価試験]
乾燥状態の調湿消臭体1を用いて、吸放湿試験、調湿試験、消臭試験(1,2)及び曇り止め試験を行い、結果をそれぞれ表1、2、3、4、5に示す。
【0052】
(実施例2)
[水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)、水膨潤性粘土鉱物(c)、消臭性を有する物質(B)、水媒体(f)を含む反応溶液の調製]
水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)としてN,Nージメチルアクリルアミド(株式会社興人製)9g、その他の共重合モノマーとしてメトキシノナエチレングリコールアクリレート(商品名NKエステルAM−90G、新中村化学工業株式会社製)4g、ノニルフェノキシポリエチレングリコールアクリレート(商品名ニューフロンティアN−177E、第一工業製薬株式会社製)1g、粘土鉱物(c)としてLaponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)4g、消臭性を有する物質(B)としてゼオライト(Ca/Fe混合人工ゼオライト、株式会社シゲシン製)、5.6g、ケナフ繊維(フィラーグレード、オー・ジー株式会社製)2.8g、水媒体(f)として水100g、を均一に混合して反応溶液(2)を調製した。
【0053】
[非水溶性重合開始剤(e)を(メタ)アクリル系モノマー(a’)に溶解させた溶液の調整]
(メタ)アクリル系モノマー(a’)として、ポリオキシプロピレンモノアクリレート(商品名ブレンマーAP−400、日本油脂株式会社製)98g、非水溶性重合開始剤(e)として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(商品名イルガキュアー184チバガイギー社製)2gを、均一に混合して溶液(2')を調製した。
【0054】
[調湿消臭体の作製]
上記反応溶液(1)全量に、溶液(2')を500μL入れ、スーパーミキサーAR−250(株式会社シンキー製)で均一に分散させた後、バーコーターを用いて、乾燥後の目付け(乾燥塗布量)が800g/mになるよう、混合液をガラス板に塗布し、窒素雰囲気中で、波長365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を10分間照射し反応成分を重合させた後、ガラス板ごと80℃の熱風乾燥機に入れ、5時間乾燥させ、乾燥物をガラス板から剥がして、調湿消臭体2を得た。
【0055】
[調湿消臭体の吸放湿、調湿、消臭、及び曇り止め評価試験]
乾燥状態の調湿消臭体2を用いて、吸放湿試験、調湿試験、消臭試験(1,2)及び曇り止め試験を行い、結果をそれぞれ表1、2、3、4、5に示す。
【0056】
(実施例3)
[調湿消臭シートの作製]
実施例2に使用した反応溶液(2)と溶液(2')との混合液と同じものを用いて、バーコーターで、乾燥後の目付け(乾燥塗布量)が800g/mになるよう、混合液を樹脂製不織布(親水化FE−610、日本バイリーン株式会社製)に塗布し、窒素雰囲気中で、波長365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を10分間照射し反応成分を重合させた後、80℃の熱風乾燥機に入れ、5時間乾燥させ、調湿消臭シート3を得た。
【0057】
[調湿消臭シートの吸放湿、調湿、消臭、及び曇り止め評価試験]
乾燥状態の調湿消臭シート3を用いて、吸放湿試験、調湿試験、消臭試験(1,2)及び曇り止め試験を行い、結果をそれぞれ表1、2、3、4、5に示す。
【0058】
(実施例4)
[調湿消臭シートの作製]
実施例2に使用した反応溶液(2)と溶液(2')との混合液と同じものを用いて、バーコーターで、乾燥後の目付け(乾燥塗布量)が800g/mになるよう、混合液を自動車内装材用表皮材(日本バイリーン株式会社製)の裏面に塗布し、窒素雰囲気中で、波長365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を10分間照射し反応成分を重合させた後、60℃の熱風乾燥機に入れ、一晩乾燥させて、更に80℃、1時間熱処理して、調湿消臭シート4を得た。
【0059】
[調湿消臭シートの吸放湿、調湿、消臭、及び曇り止め評価試験]
乾燥状態の調湿消臭シート4の裏面(調湿消臭体を塗布した面)をビニルシートで覆って、湿気や臭気が直接表皮材面のみに触れるようにして、吸放湿試験、調湿試験、消臭試験(1,2)及び曇り止め試験を行い、結果をそれぞれ表1、2、3、4、5に示す。
吸放湿試験において、24時間吸湿後、表皮材の面を手で確認したところ、蒸れや濡れの感触は全くなく、未塗布の表皮材と同じ感触であった。
【0060】
(実施例5)
[調湿消臭積層体の作製]
実施例3の調湿消臭シート3を、自動車内装材用表皮材(日本バイリーン株式会社製)と厚さ5mmの発泡スチロールとの間に積層し(調湿消臭体の面が表皮材に向ける)、周りを、湿気や臭気が入らないよう両面粘着テープで層間を接着させて、調湿消臭積層体5を得た。
【0061】
[調湿消臭積層体の吸放湿、調湿、消臭、及び曇り止め評価試験]
乾燥状態の調湿消臭積層体5を用いて、吸放湿試験、調湿試験、消臭試験(1,2)及び曇り止め試験を行い、結果をそれぞれ表1、2,3,4、5に示す。
吸放湿試験において、24時間吸湿後、表皮材の面を手で確認したところ、蒸れや濡れの感触は全くなく、未塗布の表皮材と同じ感触であった。
【0062】
(実施例6)
[調湿消臭シートの作製]
実施例2に使用した反応溶液(2)と溶液(2')との混合液と同じものを用いて、バーコーターで、乾燥後の目付け(乾燥塗布量)が200g/mになるよう、混合液を樹脂製不織布(親水化FE−610、日本バイリーン株式会社製)に塗布し、窒素雰囲気中で、波長365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を5分間照射し反応成分を重合させた後、60℃の熱風乾燥機に入れ、一晩乾燥させて、更に80℃、1時間熱処理して、調湿消臭シート6を得た。
【0063】
[調湿消臭積層体の作製]
予め通気性のない塩化ビニル製壁紙に約3mm間隔で直径約0.5mmの孔を開ける。次いで、調湿消臭シート6を、上記の樹脂製壁紙と厚さ1mmのポリエチレンシートとの間に積層し(調湿消臭体の面が壁紙に向ける)、周りを、湿気や臭気が入らないよう両面粘着テープで層間を接着させて、調湿消臭積層体6を得た。
【0064】
[調湿消臭積層体の吸放湿、調湿、消臭、及び曇り止め評価試験]
乾燥状態の調湿消臭積層体6を用いて、吸放湿試験、調湿試験、消臭試験(1,2)及び曇り止め試験を行い、結果をそれぞれ表1、2、3、4、5に示す。
【0065】
(比較例1)
コントロール試験として、試験容器内に試験片を入れずに調湿、消臭(1,2)、及び曇り止め評価試験を行い、結果をそれぞれ表1、2、3、4、5に示す。
【0066】
(比較例2)
高吸水性樹脂で表面加工を施した塩化ビニル樹脂系壁紙(吸放湿性壁紙RH1842,ルノン株式会社)を用いて、吸放湿試験、調湿試験、消臭試験(1,2)及び曇り止め試験を行い、結果をそれぞれ表1、2、3、4、5に示す。
【0067】
(比較例3)
光触媒で表面加工を施した塩化ビニル樹脂系壁紙(消臭抗菌壁紙SW5245、シンコール株式会社)を用いて、吸放湿試験、調湿試験、消臭試験(1,2)及び曇り止め試験を行い、結果をそれぞれ表1、2、3、4、5に示す。
【0068】
(比較例4)
珪藻土で表面加工を施した塩化ビニル樹脂系壁紙(吸放湿壁紙SW5028、シンコール株式会社)を用いて、吸放湿試験、調湿試験、消臭試験(1,2)及び曇り止め試験を行い、結果をそれぞれ表1、2、3、4、5に示す。
【0069】
(比較例5)
自動車内装材用表皮材(日本バイリーン株式会社製)を用いて、吸放湿試験、調湿試験、消臭試験(1,2)及び曇り止め試験を行い、結果をそれぞれ表1、2、3、4、5に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
【表3】

【0073】
【表4】

【0074】
【表5】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)を反応して得られる重合体(b)と、水膨潤性粘土鉱物(c)とが三次元網目構造を形成する架橋体(A)と、
(2)消臭性を有する物質(B)とを、含有する調湿消臭体。
【請求項2】
前記水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)が、(メタ)アクリルアミド若しくはその誘導体、または(メタ)アクリル酸エステルである請求項1に記載の調湿消臭体。
【請求項3】
前記水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)が、下記式(1)〜(6)
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

(式中、Rは水素原子またはメチル基、R,Rはそれぞれ独立に水素原子または炭素原子数1〜3のアルキル基であり、Rは炭素原子数1〜2のアルキル基であり、nは1〜9の整数である。)
から選ばれる少なくとも一種である請求項1に記載の調湿消臭体。
【請求項4】
前記水膨潤性粘土鉱物(c)が、水媒体(f)中で、1〜10層に層状剥離するものである請求項1〜3のいずれかに記載の調湿消臭体。
【請求項5】
前記水膨潤性粘土鉱物(c)が、水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性モンモリロナイト、水膨潤性サポナイト及び水膨潤性合成雲母から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜4のいずれかに記載の調湿消臭体。
【請求項6】
前記水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)を反応して得られる重合体(b)と水膨潤性粘土鉱物(c)との質量比(c)/(b)が、0.01〜10の範囲にある請求項1〜5のいずれかに記載の調湿消臭体。
【請求項7】
前記消臭性を有する物質(B)が、多孔質性無機素材及び/又はセルロース系の繊維若しくは粉末である請求項1〜6のいずれかに記載の調湿消臭体。
【請求項8】
前記多孔質性無機素材が、ゼオライト、ケイソウ土、活性炭、活性炭素繊維から選ばれる少なくとも一種である請求項7に記載の調湿消臭体。
【請求項9】
前記水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)を反応して得られる重合体(b)と消臭性を有する物質(B)との質量比(B)/(b)が、0.1〜5の範囲にある請求項1〜8のいずれかに記載の調湿消臭体。
【請求項10】
前記架橋体(A)が粉末状である請求項1〜9のいずれかに記載の調湿消臭体。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載の調湿消臭体を、基材に含浸または基材に塗布してなる調湿消臭シート。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれかに記載の調湿消臭体の粉末を基材に担持させた調湿消臭シート。
【請求項13】
請求項10に記載の調湿消臭体を基材に担持させた調湿消臭シート。
【請求項14】
前記基材が不織布、布、紙、木材、フェルト又は樹脂シートである請求項11〜13のいずれかに記載の調湿消臭シート。
【請求項15】
水溶性の重合開始剤(d)および触媒を水媒体(f)中に溶解させた水溶液中で、水膨潤性粘土鉱物(c)と消臭性を有する物質(B)の共存下において、水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)を重合させた後、乾燥させることからなる調湿消臭体の製造方法。
【請求項16】
非水溶性の重合開始剤(e)を水媒体(f)中に分散させた分散液中で、水膨潤性粘土鉱物(c)と消臭性を有する物質(B)の共存下において、水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)をエネルギー線の照射により反応させた後、乾燥させることからなる調湿消臭体の製造方法。
【請求項17】
水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)、水膨潤性粘土鉱物(c)、消臭性を有する物質(B)、及び非水溶性の重合開始剤(e)が水媒体(f)中に分散した分散液を含有するエネルギー線硬化性組成物(X)を、基材に含浸、または基材上に塗布した後、エネルギー線の照射により水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)を反応させた後、乾燥させることからなる調湿消臭シートの製造方法。
【請求項18】
水溶性の(メタ)アクリル系モノマー(a)を反応して得られる重合体(b)と水膨潤性粘土鉱物(c)とが三次元網目構造を形成する架橋体(A)と、消臭性を有する物質(B)とを含有する組成物(Y)を、基材に担持させる調湿消臭シートの製造方法。

【公開番号】特開2007−297550(P2007−297550A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−128293(P2006−128293)
【出願日】平成18年5月2日(2006.5.2)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】