説明

調理作業時間を配分する調理支援システム

【課題】調理のための加熱又は冷却手段を有する一つ又は複数の調理機器を用いて、複数の人間が並行して複数の料理の調理を、複数回行う際の調理作業時間の配分を効率よく行う。
【解決手段】調理機器の使用を含む個々の調理手順ごとの所要時間のデータを全メニューについて用意しておき、ある時点において完成すべき献立を構成するメニューの作業手順を、一旦その献立の目標完成時刻を基準にして、時間軸上に並行して並べた後、全作業要素のうち、加熱や冷却を行う調理機器の調理時間に着目して、一の調理機器の調理時間が重複していればそれが重複しないように、重複しているうちの一方のメニューを調理する実行時間の予定を前へとずらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、加熱又は冷却を行う調理機器を用いて恒常的に調理を行う厨房において、複数のメニューを調理する際に、調理機器の使用がメニューごとに重ならないようにして、効率よく料理する調整システムと、それを実現するためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
幼稚園や老人福祉施設など、給食を提供する施設の厨房では、複数の人間が手分けして、複数の料理を並行して作成することが行われている。このような大量の人数分の献立を製造する現場では、家庭用の調理機器では大きさが足りないため、大型の調理機器の導入が進んでいる。例えば、コンベクションスチーマー、又はスチームコンベクションオーブンと呼ばれる、蒸気と熱風により様々な加熱調理を行える大規模型多機能調理機器が普及し始めている。一方、冷却でも従来の一般的な冷蔵庫や冷凍庫だけでなく、ブラストチラーと呼ばれる急速冷却保存装置が普及しはじめており、一旦大量に製造しておいた料理を低温保存しておき、供出直前に暖めるだけでよい状態にすることで、厨房の調理計画を柔軟にすることが可能となってきている。
【0003】
しかしこのような新しい機器の導入にあたって、その機器の使用に熟達した熟練者を養成することは現実的ではなく、熟練者でなくてもレシピに従って作業することで、それらの機器をとまどうことなく使用可能にする調理支援システムが提案されている。
【0004】
例えば特許文献1にはスチームコンベクションオーブンを用いた調理のための作業スケジュールを作成するための支援装置及び支援システムが記載されている。これは調理作業を作業単位に分割した作業モジュールを料理毎に作成しておき、その作業モジュール全てについて、調理器で同じ作業種類の作業モジュールを並行して調理できるように割り付けて個々の料理の作業スケジュールを作成するものである(特許文献1請求項1等)。スチームコンベクションは多段式のものがほとんどであり、条件さえ同じであれば複数の料理を同時に調理することが可能であるため、このような割付が可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−141234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、多くの料理では加熱条件が異なるため、並行してスチームコンベクションオーブンを使用できる組み合わせはそれほど多くない。実際にはほとんどの場合、別個に加熱調理を行う必要がある。そこでこの発明は、メニューの組合せに関わらず、効率の良い作業スケジュールを作成して効率よく調理することができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、調理機器の使用を含む個々の調理手順ごとの所要時間のデータを全メニューについて用意しておき、
ある時点において完成すべき献立を構成するメニューの作業手順を、一旦その献立の目標完成時刻を基準にして、時間軸上に並行して並べた後、
全作業要素のうち、加熱や冷却を行う調理機器の調理時間に着目して、一の調理機器の調理時間が重複していればそれが重複しないように、重複しているうちの一方のメニューを調理する実行時間の予定を前へとずらすことで、上記の課題を解決したのである。
【0008】
この発明の特徴は、厨房作業の効率化のために、最大のボトルネックとなる箇所を見いだし、その点に解決手段の投入を集中させたことにある。厨房の人員はある程度柔軟に拡張でき、逆に経験を積めば人数を減らしても対応できるが、設備投資の点から調理機器の拡張はそう簡単にできるものではない。特にスチームコンベクションオーブンなどは設置面積も大きく、複数台導入することは難しい場合がある。逆に言えば、調理機器の使用さえ重複することがなければ、あとの作業は人数や経験によって対応できるのである。なお、この発明にかかる調理支援システムは、時間調整の前提として所要時間を含む調理手順をデータ化したレシピを用意しており、メニューの調理手順ごとにそれを表示部に表示できるので、調理作業者に高度の熟練を必要としないため、人数の拡張は容易である。一方で、システムを短時間利用すれば表示に沿うだけで、何を優先してやればいいかを迷うことなく調理が可能となる。
【0009】
この調理支援システムの具体的構成は以下のようなものとなる。
個々の調理を行う際の、上記調理機器の使用を含む個々の調理手順ごとの所要時間を、少なくともいずれの手順がどの調理機器の使用であるかを判別可能な形式で記録した手順情報を有するレシピ情報を、実際に調理する料理全てについて読み出し可能に記録した記憶部と、
調理する料理の上記レシピ情報を選択可能であり、かつ、それぞれの料理の調理完了時刻を指定可能な入力部と、
調整した上記レシピ情報を表示可能な表示部と、
上記記憶部から読み出した上記レシピ情報について、各手段を実行する制御部と、
選択された複数の料理の上記レシピ情報の実行時間を、上記調理完了時刻を個々の料理の当該レシピ情報の終了時刻とし、個々の調理手順の実行時間をその所要時間から算出して仮配置する終了基準時セット手段と、
一の上記調理機器を使用する時間が重複する一対の料理の上記レシピ情報のうちの一つを選択し、その上記レシピ情報の実行時間を前へずらして、その重複を解消させる重複調理時間調整手段とを有し、
上記終了基準時セット手段の実行後に上記重複調理時間調整手段を1回以上実行することで、選択した全ての料理について一の調理機器を使用する時間が重複しないように、それぞれの上記レシピ情報の調理手順の実行時間を調整したスケジュールを作成する調理支援システムである。
【0010】
この発明にかかる調理支援システムのさらに優れた構成としては、この重複調理時間調整手段の適用順を決定する、料理の種別による重み付けとなる優先度を上記レシピ情報に含めておく。料理と一口に言ってもその種別は様々であり、作成後に時間経過しても美味しいものと、そうでないものがある。極端な例ではおでんや煮物は時間が経過するとより美味しくなる要素さえ有するが、冷めた焼き魚は焼きたてよりも明らかに味が落ちる。また、発明者は、この味の低下傾向が、料理の完成後に保温しておいた場合の味の低下傾向と一致することを見いだした。
【0011】
このように料理の種類により個々のレシピ情報の調理に優先度を示す種別のパラメータを設定し、目標とすべき完成時間よりも早く作っても比較的問題の少ないものを優先して時間的に前へ持って行くようにすると、この発明は単に調理作業の効率を高めたスケジュールを提供するだけでなく、そうして調理された食事を食べる人にとっても味のよいものを提供できるものとなる。具体的には、上記レシピ情報に先行してもよい度合いを示す優先度の種別を含め、上記重複調理時間調整手段において前へずらす上記レシピ情報を二つのうちのいずれかに決定する際に、その優先度が高いものから前へずらすように条件付けをする。
【0012】
この傾向は一般的には次のような順序式となる。すなわち、冷めても、又は保温してもおいしさが低下しにくい順は、「煮物、蒸し物、揚げ物、炒め物、焼き物」となる。
【0013】
この傾向は、調理時間の長さとも相関がある。一般に調理時間は長いものから順に、「煮物、蒸し物、焼き物、揚げ物、炒め物」という傾向にある。焼き物のポジションを除けば、この傾向は上記のおいしさが低下しにくい順と同じである。従って、上記の優先順に沿って順序を調整すると、多くの場合、調理時間が長時間に亘るものほど先に調理するものとなる。これにより、時間のかかる料理の完成までにある程度の時間的余裕を持たせることができるようになる。
【0014】
この優先度を設定する場合、上記重複調理時間調整手段の詳細な構成は、同一の調理機器についての調理時間が重複している上記レシピ情報の対を検出する重複料理検出手段と、その対のうち、種別が最大の優先度である上記レシピ情報を含みかつ対のもう一方の上記レシピ情報の優先度が最も高いものである対を選び出す優先料理選択手段と、その選び出した対を構成する上記レシピ情報のうちより高い優先度の種別である上記レシピ情報の実行開始時間を前へずらす実行時間先行手段とからなる。
【0015】
また、この発明にかかる調理支援システムは、実行時間先行手段の実行に続いて、次の手段を連続して実行すると、調理温度が大きく異なる料理を連続して調理する場合にも柔軟に対応することができる。すなわち、実行時間先行手段の直後に、一の調理機器の実行時間について、前に位置する料理の上記レシピ情報の調理温度と後に位置する料理の上記レシピ情報の調理温度との差を求めて、前の調理の温度から後の調理への温度へ予熱又は放熱に要する時間を算出する温度調整時間算出手段と、その算出された時間分、前に位置する上記レシピ情報の実行時間をさらに前へずらす予備時間先行手段とを実行する。
【0016】
さらに、この発明にかかる調理支援システムは、実行時間が前に位置する一の料理の上記レシピ情報と、実行時間がそれより後に位置する他の料理の上記レシピ情報とについて、それぞれの調理時間が、予熱又は放熱に要する時間よりも長く離れている場合、その離れた時間が予め設定した先行可能時間以内であれば、予熱又は放熱の時間を間に挟みつつ、間隔を詰めるように後に位置する上記レシピ情報の実行時間を前へずらす間隔短縮手段を有すると、無駄な放熱を避けて集中的な調理機器の使用ができるので、省エネに寄与することができる。なお、上記先行可能時間とは、個々の料理の上記レシピ情報に、調理の種別ごとに設定しておく値であり、時間を早めて作っておいても味の変化が許容できる時間を示す。原則的には上記の優先度が高いものほど長く設定することが可能である。特に煮物は先に作っておいても味の低下が少ないので、後に位置する料理が煮物のみの場合は上記間隔短縮手段を実行することが好ましい。また、蒸し物の場合も、例えばポテトサラダのように蒸した後に加工して冷やすような料理は、加熱調理後に時間が経過しても問題ないので、上記間隔短縮手段を実行しても問題ない場合がある。それ以外の種別の料理については上記間隔短縮手段を実行すべきではない。また、煮物や蒸し物であっても、その料理での調理機器の使用の後に連続して次の料理での調理機器の使用を行うスケジュールになっているときは、実行して前へずらしてもその後に間隔が開くため無駄となる場合が多い。
【0017】
さらにまた、上記の優先度が高い料理については、省エネのためにさらに柔軟な対応が可能となる。その調理支援システムを実行する厨房が設置された設備のガス又は電気の使用量を一日以上に亘って測定し、その使用量のピークを予め測定しておく。そのピークの前後の所定時間に、上記調理機器の使用時間が該当する場合、種別が煮物又は蒸し物の場合はその所定時間を避けるように、上記先行可能時間の範囲でさらに前へ実行時間をずらすピーク時間回避手段を実行する。これにより、エネルギー消費量の大きい調理機器の利用が設備のエネルギー使用ピークを避けるので、設備のエネルギー負荷の最大値を下げることができる。
【0018】
さらに、上記の煮物等の料理種別による優先度の設定だけでなく、例えば様々な種類のパンを焼くベーカリーのように、同種の料理について、さらに細かく料理の詳細な種類に応じた優先度を設定しておくことで、料理の種類によらずこのシステムを利用することができる。例えばベーカリーであれば、冷めても美味しいパンを高い優先度とし、焼きたてであることが望ましいトーストなどを低い優先度として後に焼くといった優先度とすることで、この発明を利用できる。
【発明の効果】
【0019】
この発明にかかる調理支援システムにより、複数の料理を並行して作成する際に、台数の限られた調理機器を効率的に運用できるスケジュールを作成できる。これにより、単純に厨房における時間効率が向上するだけでなく、その実行時間のずらし方にあたり、料理の種別ごとの優先度を設定してその優先度の高いものを優先して前へずらすことで、揃った献立全体の味の低下を抑制することができる。
【0020】
さらには、発明者はその調理後の味の低下傾向と、調理温度の順序とが共通することを見つけだした。すなわち、上記の優先度に従って先に調理してもよいものを前へと移動すると、結果として調理温度の低い順にメニューが並びやすくなる。これにより、一旦高温で調理した後、次に低温の料理をするために放熱するというエネルギー上全くの無駄となる順序立てになることが抑制され、調理機器は低温のものを調理した後、最低限の昇温のみで次の料理の調理ができるようになる。これにより、省エネが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明にかかる調理支援システムの構成図
【図2】レシピ情報の例を示すテーブル
【図3】この発明にかかる調理支援システムのフロー例図
【図4】レシピ情報の実行時間を調理完了時刻から算出したテーブル
【図5】レシピ情報の調理手順を時間軸上に表した概念図
【図6】時間軸上における重複調理時間調整手段の実行例を示す図
【図7】時間軸上における間隔短縮手段の実行例を示す図
【図8】画面表示手段と画面更新手段とを実行した際の表示部における例図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、この発明について詳細に説明する。この発明にかかる調理の支援システムの構成を図1に示す。
この発明にかかる調理支援システム101は、各構成を制御し各手段を実行する制御部111があり、この制御部111に、内部記憶部113、通信部116、表示部121、入力部122、外部記憶装置123、スピーカー124が接続されている。通信部116からネットワーク151を通じて、外部の電子計算機152が有する外部データベース153と接続している。また、通信部116には、調理機器141が信号を伝達可能に接続されている。
【0023】
内部記憶部113の内部データベース115、外部記憶装置123、及び外部データベース153からなる記憶部は、レシピ情報を有している。このレシピ情報とは、上記調理機器141の使用を含む個々の調理手順ごとの所要時間を、少なくともいずれの手順がどの調理機器141の使用であるかを判別可能な形式で記録した手順情報を有し、上記制御部で各種の手段が実行可能な形式で記録されたものである。
【0024】
制御部111の具体的なハードウェア構成としては、一般的な電子計算機のCPU及びその周辺素子を割り当てることができる。制御部111が実行する各々の手段はソフトウェア上の処理を行うものであり、内部記憶部113に保存しておき、必要に応じて読み出せばよい。
【0025】
内部データベース115と外部データベース153は、具体的には磁気ディスクや半導体不揮発メモリからなる記憶装置とそこに記録される情報からなる。一時記憶部114は揮発メモリ(DRAM)からなる。通信部116は、調理機器141に対して制御信号をやりとりするRS232Cなどのシリアル通信の端子及びその制御回路、ネットワーク151にアクセスするためのLAN端子や無線装置及びその制御回路からなる。外部記憶装置123は光ディスクや外付け不揮発メモリなどからなる。表示部121は所謂モニタであり、図1では一台のみであるが複数台あってもよいし、システム本体から離れた箇所にあって、遠隔表示するものでもよい。入力部122は、マウス、キーボード、タッチパネルなどの一般的な入力装置からなる。
【0026】
この発明にかかる調理支援システムで支援効果を発揮する調理機器としては、ガスコンロ、電磁調理器、電子レンジ、回転釜、ケトル、加熱水蒸気による加熱を行うコンベクションスチーマーといった加熱装置や、冷蔵庫、冷凍庫、ブラストチラーなどの冷却装置が挙げられる。また、加熱や冷却以外に、台数が限られるために実行する時間の重複を避けるべき調理機器としては、ミキサーやカッティングマシーンなどが挙げられる。
【0027】
<第一の実施形態>
上記レシピ情報は一品ごとの料理について、その料理を作製するための調理手順毎の手順情報の集合体であり、テーブルやXMLなどの形式で保存してある。これは、作製する可能性のあるすべての料理について用意する情報である。図2に上記レシピ情報の例を示す。それぞれの作業にかかる個々の手順情報の作業時間の合計が、この料理の実行時間である。それぞれの手順情報のうち、調理機器を使用する手順が判別可能となっている。その調理機器が加熱するものであれば、加熱の温度情報と、調理をどの程度の優先度で先にしてもよいかを示す種別が記録されている。また、その調理機器が冷却するものであれば、冷却の温度情報が記録されている。
【0028】
上記の優先度の種別は、料理の種類により、「煮物、蒸し物、揚げ物、炒め物、焼き物」の順により付与すると好ましい。すなわち、煮物:種別A、蒸し物:種別B、揚げ物:種別C、炒め物:種別D、焼き物:種別Eとなる。これはすなわち、焼き物よりも炒め物を優先して先に料理すべきであり、蒸し物よりも煮物を先に料理すべき、といった傾向を示す。上記した以外の種類に属する料理については、その料理の「冷めた際のおいしさの低下しにくさ」及び「保温後のおいしさの低下しにくさ」を検討し、上記の種別の料理のどれと同等程度かを検討して設定する。
【0029】
以下、図3のフローチャートを用いてこの発明にかかる調理支援システムでスケジュールを作成する実行手順を説明する。
この発明にかかる調理の支援システムは、表示手段231を実行して表示部121に全ての又は抽出された料理の一覧を表示し(S01)、入力部122からの入力により料理を選択可能としている(S02)。制御部111の読出手段232は、選択された料理の上記レシピ情報を、上記記憶部のいずれかから読み出して(S03)、内部記憶部113の一時記憶部114に記憶させる(S04)。これを厨房の作業の区切りとなる時間中に行う全てのメニューが揃うまで繰り返す(S05)。また、入力部からの入力により、それぞれの料理について料理を完成させる目標時刻である調理完了時刻を指定可能としている(S06)。これを、一日、あるいは厨房の作業の区切りとなる時間単位で一括して行う。
【0030】
制御部111は、読み出したレシピ情報の実行時間を構成する個々の手順情報の作業時間を、一旦、調理完了時刻の時点で完成するように設定し、時間情報を付与する終了基準時セット手段201を実行する(S11)。例えば、調理完了時刻を12時00分とすると、図2のレシピ情報を構成する各々の調理手順を実行する時間は図4のようになる。最後の手順である手順12が作業時間15分であり、11時45分〜12時00分までを割り当てる。その前の手順である手順11の作業時間は15分であり、11時30分〜11時45分までを割り当てる。これを最初の手順まで順に行い、全ての作業手順について時間を割り当てる。このように、一連の調理手順に一旦時刻情報が付されることにより、時間軸上で前後可能、すなわち数値上増減可能な形式となる。この時点においては、それぞれの調理機器を使用する作業時間の重複を可能としており、時間軸上に複数の料理のレシピ情報が概念上は並列に並ぶこととなる。図2のレシピ情報を、時間軸上の実行時間を棒状にグラフ化したものを図5に示す。このうち、調理機器を使用する実行時間を網掛けで示す。重複調理時間調整手段202は、この部分の重複を避けるように実行される。読み出した全てのレシピ情報について終了基準時セット手段201を実行した結果を、図5のようにグラフ化して時間軸上に並べた状態の例を図6(a)に示す。実際の一時記憶部114内におけるデータの形式は、それぞれが、図4のように開始時刻と終了時刻を含む数値データである。
【0031】
制御部111は、上記のように時間軸上に並行可能に並べたこれらの上記レシピ情報について、一の上記調理機器を使用する時間が重複する一対の料理の上記レシピ情報のうちの一つを選択し、その上記レシピ情報の実行時間を前へずらして、その重複を解消させる重複調理時間調整手段202を実行する(S12)。
【0032】
この重複調理時間調整手段202は、同一の調理機器141についての調理時間が重複している上記レシピ情報の組合せを抽出する重複料理検出手段211と(S13)、その組合せのうち、上記レシピ情報のうち上記優先度が最も高いものが含まれるものを選び出す優先料理選択手段212と(S15)、その選択した組み合わせのうちより優先度が高い上記レシピ情報の実行開始時間を前へずらす実行時間先行手段213とからなる(S16)。
【0033】
図6を例として用いてこれらの手段の実行を説明する。まず、図6(a)の12時00分を調理完了時刻とする3つの料理からなる献立のうち、料理α,料理β,料理γは互いに、一の調理機器を使用する時間(図中黒塗り部分で示す。)が重複している。この状況では、重複料理検出手段211により、αβ,βγ,γαという組み合わせが抽出される(S13)。次に、優先料理選択手段212は、まず、最も優先度の高い種別Aの料理βが含まれるαβ、βγの組み合わせを選ぶ。それから、それぞれの組み合わせを構成するもう一つの料理αと料理γを比較すると、種別Cである料理αの方が、種別Eである料理γよりも優先される。よって、優先料理選択手段212はαβの組み合わせを選び出す(S15)。そして料理αと料理βでは種別Aである料理βが優先されるので、実行時間先行手段213は料理βを移動させる上記レシピ情報として選択して実行時間を移動させる。具体的には、料理βにおける調理機器141の使用時間(黒ベタ部分)が、料理αにおける調理機器141の使用時間と重複しないように、料理βの全ての調理時間の実行時間を前へずらす(S16)。これにより、一時記憶部114の中にある上記レシピ情報のそれぞれの料理の実行時間は図6(a)の状態から図6(b)の状態へと調整される。なお、料理βにおける調理機器141の使用時間の終了時刻と、料理αにおける調理機器141の使用時間の開始時刻とが一致せず、料理βの終了時刻がより前に位置するのは、後述する温度調整時間算出手段221と予備時間先行手段222をここで実行して温度調整のための時間を確保することによる。
【0034】
次に、図6(b)の状態で同様に重複料理検出手段211を実行する(S13)。この状態では、調理機器141の使用時間が重複するのはαγの組み合わせだけであるのでこれを抽出する。抽出される組み合わせが一つであるので、優先料理選択手段212はこの組み合わせをそのまま選択する(S15)。料理αと料理γでは、種別Cである料理αが優先されるので、実行時間先行手段213は、料理αを選択し、料理γとの間で調理機器141の使用時間が重複しないように料理αの実行時間を移動して、図6(c)のようにする(S16)。
【0035】
さらに、図6(c)の状態で同様に重複料理検出手段211を実行する(S13)。この状態では調理機器141の使用時間が重複するのはαβの組み合わせだけであるのでこれを抽出する。抽出される組み合わせが一つであるので、優先料理選択手段212はこの組み合わせをそのまま選択する(S15)。料理αと料理βでは、種別Aである料理βが優先されるので、実行時間先行手段213は、料理βを選択し、料理αとの間で調理機器141の使用時間が重複しないように料理βの実行時間を移動して、図6(d)のようにする(S16)。
【0036】
図6(d)では、重複料理検出手段211を実行しても(S13)、調理機器141の使用時間が重複する組み合わせが存在しないので(S14−No)、重複調理時間調整手段202の実行による調整は終了となる。これで、調理機器141の実行時間が重なることがなくなり、料理α、β、γからなるこの献立を作製可能なスケジュールが完成する。このスケジュールは実行可能であるだけでなく、より熱い状態であるべき種別Eの料理γを後に調理するので、目標完成時刻において、料理γを温かい状態で供することができる。一方で、先に調理した料理βは冷めても味の低下が比較的少ない種別Aのものであるので、時間経過による味の低下は最小限に抑えられる。また、一般に調理温度が低い種別Aの料理から順に料理していくため、無駄な放熱冷却を避けることができ、エネルギー上の無駄も少ない。
【0037】
また、制御部111は、重複調理時間調整手段202の実行にあたり、それぞれの実行時間先行手段213の実行の直後に、温度調整時間算出手段221と予備時間先行手段222を実行すると、より適切なスケジュールを作成できる。すなわち、単に調理機器141の実行時間の重複を避けただけで、前の料理の使用直後に次の料理を調理機器141に入れると、次の料理に最適な温度になっておらず、レシピ通りの料理が作れない場合の方が多い。調理機器141が電子レンジのように予熱がほぼ不要である場合にはそれでもよいが、特にスチームコンベクションなどの大型装置は、内部温度の調整時間が必要となる。そこで、制御部111は上記の実行時間先行手段213を実行した直後に、その移動させた料理のレシピ情報の組み合わせについて、温度調整時間算出手段221を実行して、
前に位置する料理の上記レシピ情報の調理温度と後に位置する料理の上記レシピ情報の調理温度との差を求めて、前の調理の温度から後の調理への温度へ予熱又は放熱するために当該調理機器141が要する時間を算出する(S17)。そして、その算出された時間分だけ、又は、それに食材の入れ替えに要する予備時間を追加した分だけ、前に位置する上記レシピ情報の実行時間をさらに前へずらす予備時間先行手段222を実行する(S18)。
【0038】
この発明にかかる調理支援システムは、このようにして調理のスケジュールを作成する。上記のような調整を、調理完了時刻ごとに行うことで、例えば、朝食、昼食、夕食のそれぞれについて、最適なスケジュールを作成することができる。このように作成されたスケジュールは、上記優先度に従って調整しているので、より温かいことが望ましい料理ほど後に料理するので、時間経過又は保温による味の低下を最小限に抑えることができる。また、上記優先度は全体的には、より低い温度の調理から高い温度の調理へと進む傾向にあるため、調理機器141の使用中に無駄な放熱を行うケースを最小限にすることができるので、省エネにも大きく寄与するものとなる。
【0039】
また、デパートの総菜コーナーや、仕出し弁当の製造のように、頻繁に料理を完成させる場合、すなわち、区切りとなる調理完了時刻が存在する間隔が三食よりも短い場合には、省エネのためのさらなる調整が可能となる。
図7のように、料理ηについて、上記の重複調理時間調整手段202を実行した後の状態で、料理ηの上記レシピ情報の先行可能時間の範囲で、その調理時間の前に調理完了時刻(図では10時30分。)が設定される料理θがあった場合、この料理ηをさらに前へ移動する間隔短縮手段(図示せず。)を実行して図7(b)のように調整する。これにより、料理θで調理機器を用いた後、不要な放熱後に再度予熱をすることなく、連続して料理ηを調理することができるので、さらなる省エネをはかることができる。このように先行可能時間が長い料理は、一般的に上記の種別A又は種別Bのものとなる。
【0040】
また、上記レシピ情報の調理時間については、料理の選択の際に調理する料理の量に応じて調整可能としてもよい。単純に、量が多ければその分加熱にも時間がかかるからである。さらに、上記レシピ情報の調理時間を、用いる材料の加熱時点における大きさに従って調整可能としてもよい。例えば、同じ料理でも、人員が不足気味の厨房では、材料のカットサイズを大きくして、加熱時間を長くし、人員が十分いる厨房では、材料のカットサイズを小さくして、加熱時間を短くするといった調整が可能である。
【0041】
この発明における調理支援システムは、上記のようにして作成したスケジュールを、直結した表示部121や、ネットワーク151を通じて繋がった、同一設備内の別室に設けたコンピュータの表示装置(図示せず)に表示する。その際には、図4のような時刻表示で表してもよいし、図6(d)のように時間軸上の予定一覧として示しても良い。
【0042】
さらに、そのスケジュールを実際に実行するにあたっては、厨房に備えつけた表示装置に、上記レシピ情報の各作業手順を順に表示していく画面表示手段241を実行するとよい。その際の画面の例を図8に示す。表示するのは図2のレシピ情報における「表示文書」や「表示画像」であり、それぞれの手順で行う作業内容をわかりやすく説明したテキスト又は画像である。なお、図示しないが音声や動画ファイルであってもよい。その時点において行う作業をわかりやすく画面に表示する。この際、厨房の当該箇所で同時に調理するものを図8(a)のように画面分割して同時に表示してもよいし、厨房の各所に設置した表示部に、その場所で行う作業のみを表示するようにしてもよい。表示の際には、既に手順を開始した料理だけでなく、近い時間内に作業を開始する料理の実行開始までの残り時間を表示しておくとよりわかりやすく好ましい。
【0043】
各々の作業手順が終わった後、マウスやタッチパネルなどの入力部122により画面の当該箇所をクリックされたのを確認したら、画面更新手段242は、当該レシピ情報の次の手順の表示文書又は表示画像を表示して、次の手順がどのようなものか促す。また、この際に図8(a)上部のように時間軸を表示して、直近の調理完了時刻までに行う作業全体のうちの進行度合いがわかるようにしておくとより好ましい。
【0044】
さらに、この発明にかかる調理支援システムが、上記の画面表示手段241や画面更新手段242の実行の際に、上記調理機器へ、上記レシピ情報が数値情報として有している、上記調理機器の加熱温度や冷却温度の情報や、加熱又は冷却を行う調理時間の情報といった環境設定値を、上記調理機器への制御信号として送信し、作業員が調理機器に細かい数値情報を入力することなく、調理を開始できるようにしておく調理指示手段(図示せず。)を有すると、作業はさらに効率化される。これは、コンベクションスチーマー、電子レンジ、ブラストチラー、電磁調理器といった、加熱や冷却温度を指定可能な調理機器のうち、外部からの信号入力を受け付ける端子を有するものの場合に有効である。この環境設定値を送信するタイミングは、当該調理機器を使用しはじめる直前が好ましい場合と、予熱又は予冷である予備的起動を行うために、使用時間が前に位置する他の料理での調理機器の使用が終わった後が好ましい場合と、それが終わった後速やかに予熱や予冷である予備的起動に移るために、前の料理における調理機器の使用が終了する前から予約情報として送信するのが好ましい場合とがある。なお、調理指示手段を実行する場合には、上記レシピ情報は、一の調理機器の使用する調理手順において、料理を調理機器に入れる指示の表示と、加熱や冷却を実際に行う旨の表示とを、更新可能にそれぞれ用意しておく必要がある。すなわち、下拵えした材料を調理機器に入れる旨の表示をし、その画面を画面交信手段により更新するタイミングで、上記環境設定値に従った調理を行う。
【0045】
上記調理機器のうち、コンベクションスチーマーやブラストチラーは、指定した温度に昇(降)温させるために予熱や予冷が必要である。このため、これらの調理機器を用いる料理の上記レシピ情報は、直前に当該調理機器を使う料理がスケジュール上、先行して存在していない場合には、その調理を行う温度にまで予熱又は予冷を行うために必要な時間を記録し、又は計算可能としておく。画面表示手段241や画面更新手段242の実行の際に、調理機器の使用を開始するタイミングまで、必要な時間が近づいてきたら、予め予熱又は予冷の指示を表示可能としておくとよい。又は、予め予熱又は予冷をすべきタイミングで、上記レシピ情報がその旨を表示する文章又は画像を表示するようにしておいてもよい。
【0046】
逆に、ピザやパンなどを焼く専門の釜で同種の料理を続ける場合は、釜内は一定温度のままで運用することになる。この場合は予熱や予冷がいらなくなり、釜内のスペースを個々の調理装置とみなして運用することができる。例えば、パン屋で開店前に多種のパンを焼く際に、先に焼き上げたパンを取り出した箇所に、他のパンを焼きつつ、速やかに次に焼くパンを入れることとなる。
【0047】
また、図4及び図5に示すように、複数の上記調理機器を使用する料理の上記レシピ情報に対しては、一の調理機器についての実行時間の重複を避けても、別の調理機器についての実行時間が重複する場合は、その調理機器の使用する間の時間を引き延ばして、より先に実行する調理機器の実行より前の作業手順だけを先に行う、待機指定手段を実行してもよい。作業時間が固定長のまま二以上の調理機器についての重複を避けようとすると、前へずらす時間の移動幅が大きくなりすぎる場合があるためである。
【符号の説明】
【0048】
101 調理支援システム
111 制御部
113 内部記憶部
114 一時記憶部
115 内部データベース
116 通信部
121 表示部
122 入力部
123 外部記憶装置
124 スピーカー
141 調理機器
151 ネットワーク
152 電子計算機
153 外部データベース
201 終了基準時セット手段
202 重複調理時間調整手段
211 重複料理検出手段
212 優先料理選択手段
213 実行時間先行手段
221 温度調整時間算出手段
222 予備時間先行手段
231 表示手段
232 読出手段
241 画面表示手段
242 画面更新手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
調理のための加熱又は冷却手段を有する一つ又は複数の調理機器を用いて、一人又は複数の人間が並行して複数の料理の調理を、複数回行う際の調理作業時間の配分を行うシステムであって、
個々の調理を行う際の、上記調理機器の使用を含む個々の調理手順ごとの所要時間を、少なくともいずれの手順がどの調理機器の使用であるかを判別可能な形式で記録した手順情報を有するレシピ情報を、実際に調理する料理全てについて読み出し可能に記録した記憶部と、
調理する料理の上記レシピ情報を選択可能であり、かつ、それぞれの料理の調理完了時刻を指定可能な入力部と、
選択した上記レシピ情報を表示可能な表示部と、
上記記憶部から読み出した上記レシピ情報について、各手段を実行する制御部と、
選択された複数の料理の上記レシピ情報の実行時間を、上記調理完了時刻を個々の料理の当該レシピ情報の終了時刻とし、個々の調理手順の実行時間をその所要時間から算出して仮配置する終了基準時セット手段と、
一の上記調理機器を使用する時間が重複する一対の料理の上記レシピ情報のうちの一つを選択し、その上記レシピ情報の実行時間を前へずらして、その重複を解消させる重複調理時間調整手段とを有し、
上記終了基準時セット手段の実行後に上記重複調理時間調整手段を1回以上実行することで、選択した全ての料理について一の調理機器を使用する時間が重複しないように、それぞれの上記レシピ情報の調理手順の実行時間を調整したスケジュールを作成する調理支援システム。
【請求項2】
上記レシピ情報が、上記調理機器による加熱を先にしてもよい度合いである優先度の種別を含み、
上記重複調理時間調整手段の構成要素として、
同一の調理機器についての調理時間が重複している上記レシピ情報の対を検出する重複料理検出手段と、その対のうち、種別が最大の優先度である上記レシピ情報を含みかつ対のもう一方の上記レシピ情報の優先度が最も高いものである対を選び出す優先料理選択手段と、その選び出した対を構成する上記レシピ情報のうちより高い優先度の種別である上記レシピ情報の実行開始時間を前へずらす実行時間先行手段を有する請求項1に記載の調理支援システム。
【請求項3】
上記優先度の種別が、先に料理しても良い順に、煮物、蒸し物、揚げ物、炒め物、焼き物となる順序に設定したものである請求項2に記載の調理支援システム。
【請求項4】
作成した上記スケジュールにおいて料理の実行時間の開始時刻に、上記表示部に上記レシピ情報が含む調理手順の文章、画像、又はその両方を表示し始める画面表示手段と、
上記入力部からの各調理手順の完了を示す入力に従い、上記レシピ情報が含む次の調理手順の文章、画像、又はその両方の上記表示部における表示を更新する画面更新手段とを有する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の調理支援システム。
【請求項5】
上記画面表示手段、又は上記画面更新手段の実行の際に、上記調理機器へ、上記レシピ情報が有する上記調理機器の加熱又は冷却温度を含む環境設定値を送信し、上記調理機器での調理のための予熱若しくは予冷である予備的起動、又は実際の調理を開始させる調理指示手段を有する請求項4に記載の調理支援システム。
【請求項6】
調理のための加熱又は冷却手段を有する一つ又は複数の調理機器を用いて、一人又は複数の人間が並行して複数の料理の調理を行う際の調理作業時間の配分を行う方法であって、
個々の調理を行う際の、上記調理機器の使用を含む個々の調理手順ごとの所要時間を、少なくともいずれの手順がどの調理機器の使用であるかを判別可能な形式で記録した手順情報を有するレシピ情報を、実際に調理するメニュー全てについて用意し、
調理する料理の上記レシピ情報を選択し、それぞれの料理の調理完了時刻を決定し、
選択された複数の料理の上記レシピ情報の実行時間を、上記調理完了時刻を個々の料理の当該レシピ情報の終了時刻とし、個々の調理手順の実行時間をその所要時間から算出して仮配置した後、
一の上記調理機器を使用する時間が重複する一対の料理の上記レシピ情報のうちの一つを選択し、その上記レシピ情報の実行時間を前へずらして、その重複を解消させる作業を1回以上実行して、選択した全ての料理について一の調理機器を使用する時間が重複しないように、それぞれの上記レシピ情報の調理手順の実行時間を調整したスケジュールを作成する調理作業時間の配分方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−203950(P2011−203950A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69868(P2010−69868)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(508317996)株式会社グローカルフード (3)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】