説明

調理器具およびそれを用いた加熱装置

【課題】調理器具の載置面を短時間で所定の温度に昇温させ、食品の調理時間を短縮し、マイクロ波加熱装置におけるグリル皿調理の性能向上と耐久性、安全性の向上を図る。
【解決手段】調理器具であるグリル皿1において、発熱層3が形成される部位の支持体2の熱容量が50〜250J/degの範囲であり、発熱層3を構成するフェライトがFeとCuOとMgOを含み、前記フェライトに含まれるFeが46〜51mol%、CuOは2〜15mol%、ZnOが27mol%以下の範囲の組成とすることにより、グリル皿1の載置面30を短時間で昇温させることができ、載置面30の温度をグリル皿1の耐熱許容温度以下に飽和させることができるので、グリル皿調理の性能向上と耐久性、安全性を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照射されたマイクロ波エネルギーを吸収することによって発熱する発熱層の熱を利用して食品を調理するグリル皿などの調理器具およびそれを用いた加熱装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子レンジなどのマイクロ波加熱装置においては、食品に直接マイクロ波を照射することで食品を加熱するマイクロ波加熱機能に加え、マイクロ波加熱装置内に設置する調理器具、いわゆる、グリル皿を用いた調理機能が存在する。以下、これをグリル皿調理機能という。
【0003】
このグリル皿調理機能とは、マイクロ波エネルギーを吸収して発熱するマイクロ波発熱体からなる発熱層が形成されたグリル皿を加熱室内に設置し、そのグリル皿の上に食品を載置して、マイクロ波エネルギーの照射により発熱層から発生する熱を利用し、その食品を調理するというものである。
【0004】
従来、マイクロ波エネルギーを吸収して発熱するマイクロ波発熱体からなる発熱層を設けたグリル皿は、図6、図7に示されるような構成のものがある(例えば、特許文献1参照)。上記従来の技術について、図面を参照して説明する。
【0005】
図6は、特許文献1に記載された従来のマイクロ波発熱体からなる発熱層が設けられたグリル皿の斜視図である。図7は、同マイクロ波発熱体からなる発熱層が設けられたグリル皿の断面図である。図6、図7に示すように、グリル皿101の底面にマイクロ波発熱体からなる発熱層102が設けられている。
【0006】
図7に示すように、マイクロ波発熱体からなる発熱層102は、グリル皿101の食品が載置される載置面103の裏側の面に設けられている。また、載置面103には、食品の焦げ付きの抑制、調理後のグリル皿の洗浄性を向上させるためにフッ素材料のコーティング層が形成されている。
【0007】
従来のマイクロ波発熱体からなる発熱層102は、マイクロ波エネルギーを吸収して発熱するマイクロ波吸収材料の粉末とシリコーンのゴム材料の複合物で構成される。マイクロ波吸収材料の粉末はゴム材料と混練され、ゴム中にマイクロ波吸収材料の粒子が均一に分散された状態とした混合物を、ホットプレスなどの方法でグリル皿の基材となる金属面、もしくは塗装面に接着され、発熱層102が形成される。
【0008】
食品が載置されたグリル皿101を、マイクロ波を発生させるマグネトロンを搭載したマイクロ波加熱装置の所定の位置に配置し、グリル調理を開始する。これにより、マグネトロンから発振されたマイクロ波エネルギーをグリル皿101に設けられたマイクロ波発熱体からなる発熱層102が吸収することによってマイクロ波エネルギーが熱に変換される。これにより、グリル皿101の載置面103が加熱され、載置面103に載置された食品が調理される。
【0009】
一般的に、グリル調理において、おいしさと、食するのに適した焦げ目とを両立させようとすると、グリル皿101の載置面103を短時間で高温に昇温させる必要がある。しかし、優れた昇温速度と到達温度の高温化を両立するマイクロ波吸収材料が見出せていない。従来は、マイクロ波発熱体からなる発熱層102のマイクロ波吸収材料は、マイクロ
波エネルギーを吸収して発熱するものという観点で選定されたMn−Zn系フェライトが用いられている。
【0010】
また、特許文献2によると、ターンテーブルの回転体に配置される金属プレートの裏面にマイクロ波発熱体からなる発熱層を設けた調理器具が知られている。このマイクロ波発熱体からなる発熱層は、調理中の金属プレートの最高温度よりも低いキュリー温度が選択されたフェライト材料が用いられている。
【0011】
フェライト材料はキュリー温度に達するとマイクロ波の吸収が停止する。マイクロ波発熱体からなる発熱層として調理中の最高温度よりも低いキュリー温度を有するフェライト材料を用いることによって、フェライト自体がマイクロ波の吸収・停止を制御し、金属プレートの温度を均一に維持するようにしている。
【0012】
また、特許文献3によると、食品の加熱に最適な200℃の温度まで急速に上昇し、200〜300℃の所定の温度を超えると昇温が停止するマイクロ波吸収発熱体用のMg−Cu系フェライト粉がある。このフェライト粉の組成をFeが46〜51mol%、CuOは2〜15mol%、ZnOが27mol%以下、残部がMgOとすることにより、フェライト粉のキュリー温度を高くし、200〜300℃の温度で昇温停止を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2006−52932号公報
【特許文献2】特開平4−263705号公報
【特許文献3】特開2010−6617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献1、2のような構成のグリル皿のマイクロ波発熱体からなる発熱層に用いられているフェライトは、キュリー温度が220℃程度、あるいは高温調理に適した温度よりも低いキュリー温度である。
【0015】
これらのフェライトを用いた発熱層はマイクロ波エネルギーを吸収してキュリー温度近傍の温度になるとマイクロ波エネルギーの吸収が低下するため220℃以下の温度までしか昇温させることができない。
【0016】
その結果、ハンバーグや魚などの調理においては、適度な焦げ目を得ようとすると、調理時間が長くなる。さらに、これとともに、食品にもマイクロ波の一部が吸収され、食品内部の油や水分が加熱されて蒸気となって揮発するため、食品が乾燥してジューシーさやおいしさが失われるという課題を有していた。
【0017】
グリル皿の載置面の到達温度を300℃レベルに高温化することは、前述のフェライト材料に金属窒化物などの誘電体の材料を加えることにより達成できる。しかし、加熱時間とともに到達温度が上昇することにより、グリル皿101の載置面に形成しているフッ素コーティング層や、マイクロ波発熱体からなる発熱層102に用いているシリコーンゴムの温度が許容される耐熱温度を超えるため、剥離や割れなどの発生により、グリル皿が破損するという課題を有していた。
【0018】
そのため、温度センサを搭載し、グリル皿の載置面の温度を検知することによってマイクロ波出力を制御するか、あるいはマイクロ波加熱時間の経過によってマイクロ波出力を
制御し、グリル皿の載置面の温度がグリル皿を構成している材料の許容される耐熱温度以下となるように設計する必要があった。
【0019】
しかし、センサの誤動作や故障、調理メニューの選択ミスや食品が載置されていない状態での調理(空焚き)によって300℃以上の高温に昇温することが考えられ、安全性と信頼性の確保が困難であるという課題を有していた。
【0020】
一方、特許文献3のMg−Cu系フェライト粉は、前述のように200〜300℃で昇温が停止するような組成としているが、このフェライト粉を含む発熱層を食品が載置されるグリル皿などの裏面に取り付けられるような構成では、皿の熱容量が大きい場合は、昇温速度が遅くなり、調理に最適な温度に昇温する時間が長くなる。その結果、調理時間の短縮や省エネが実現することが困難であるとともに、調理時間が長くなることにより、食品の乾燥が進み、調理の仕上がりが悪くなるという課題を有していた。
【0021】
本発明は、グリル皿の載置面を短時間で所定の温度に昇温させ、かつグリル皿の食品の載置面の温度を、グリル皿を構成する材料の許容される耐熱温度以下で飽和させる。これにより、食品の調理時間の短縮化とグリル皿の過昇温防止を実現し、マイクロ波加熱装置における高温を必要とするグリル皿調理の性能向上と耐久性、安全性、信頼性を図ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記従来の課題を解決するために、本発明の調理器具は、食品が載置される載置面を有する支持体と、前記支持体の表面に形成され、マイクロ波エネルギーを吸収して発熱するフェライトを含むマイクロ波発熱体からなる発熱層とを有する調理器具であって、前記発熱層が形成される部位の前記支持体の熱容量が50〜250J/degの範囲であり、前記フェライトがFeとCuOとMgOを含み、前記フェライトに含まれるFeが46〜51mol%、CuOは2〜15mol%、ZnOが27mol%以下の範囲の組成とした構成を備える。
【0023】
発熱層が形成される部位の前記支持体の熱容量を50〜250J/degの範囲とすることにより、発熱層によって加熱されるグリル皿の熱容量を小さくできるとともに、グリル皿の機械的強度を保持することができるので、グリル皿を構成する食品の載置面を短時間で食品を調理可能な温度に昇温させることができるとともに、発熱層によって急速に加熱された食品の載置面の部位と加熱され難い食品載置面の周囲の部位との温度差による熱変形を防止することができる。
【0024】
また、発熱層に用いているフェライトを上記組成とすることにより、フェライトのキュリー温度を高くすることができるので、調理器具であるグリル皿の載置面の温度を高温にすることが可能となり、高温を必要とするグリル皿調理の調理時間を短縮することができるとともに、グリル皿の食品載置面の温度をグリル皿の構成材料の耐熱許容温度以下で飽和させることができるので、グリル皿の熱による破損を防止することができる。
【0025】
また、本発明の加熱装置は、加熱室と、加熱室内にマイクロ波を供給するマイクロ波発生部と、加熱室内に配置される上記調理器具とを備えた構成としている。
【0026】
このような構成により、加熱装置におけるグリル皿調理の性能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の調理器具は、短時間でグリル皿の載置面の温度を高温に昇温させることができ
るとともに、グリル皿の温度を構成する材料の許容される耐熱温度以下とすることができるので、食品の調理時間の短縮が可能となり、高温を必要とするグリル皿調理の性能を向上させることができるとともに、グリル皿の構成材料の破損、劣化を防止することができ、耐久性、信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態1における調理器具であるグリル皿の断面図
【図2】本発明の実施の形態1における調理器具であるグリル皿の詳細な構造を示す一部断面図
【図3】本発明の実施の形態1におけるマイクロ波発熱体からなる発熱層の構造を示す模式図
【図4】本発明の実施の形態1における調理器具であるグリル皿が搭載される加熱装置の断面図
【図5】本発明の実施の形態1における調理器具の他の形状のグリル皿を示す斜視図
【図6】従来の調理器具であるグリル皿の斜視図
【図7】従来の調理器具であるグリル皿の断面図
【発明を実施するための形態】
【0029】
第1の発明は、食品が載置される載置面を有する支持体と、前記支持体の表面に形成され、マイクロ波エネルギーを吸収して発熱するフェライトを含むマイクロ波発熱体からなる発熱層とを有する調理器具であって、前記発熱層が形成される部位の前記支持体の熱容量が50〜250J/degの範囲であり、前記フェライトがFeとCuOとMgOを含み、前記フェライトに含まれるFeが46〜51mol%、CuOは2〜15mol%、ZnOが27mol%以下の範囲の組成としたものであり、発熱層が形成される部位の前記支持体の熱容量を上記の範囲とすることにより、発熱層によって加熱されるグリル皿の熱容量を小さくすることができるので、グリル皿を構成する食品の載置面を短時間で食品を調理可能な温度に昇温させることができ、調理時間の短縮化と優れた省エネ性能を実現することができる。
【0030】
また、熱容量を小さくしてもグリル皿の機械的強度を保持することができるので、発熱層によって急速に加熱された食品の載置面の部位と加熱され難い食品載置面の周囲の部位との温度差による熱変形が防止され、グリル皿の食品の載置面が変形することによる食品の加熱むらを防止することができるので常に安定した調理性能を実現することができるとともに、熱的ストレスによるグリル皿構成材料の劣化、破損を防止することができ、優れた耐久性を実現することができる。
【0031】
また、発熱層に用いているフェライトを上記組成とすることにより、フェライトのキュリー温度を高くすることができるので、調理器具であるグリル皿の載置面の温度を高温にすることが可能となり、高温を必要とするグリル皿調理の調理時間を短縮することができるとともに、グリル皿の食品載置面の温度をグリル皿の構成材料の耐熱許容温度以下で飽和させることができるので、グリル皿の熱による破損を防止することができ、優れた調理性能と耐久性、信頼性を実現することができる。
【0032】
第2の発明は、特に、第1の発明の食品の載置面の温度を食品が載置面に載置されない状態で240〜300℃で飽和する構成とすることにより、食品載置面の温度を食品の調理に有利な高温に昇温させ、その温度を維持することができるので、所定の調理温度に短時間で昇温させることができ、調理時間の短縮化を図ることができるとともに、食品を乾燥させないで適度な焦げ目を付けることができ、高温でのグリル皿調理の性能を向上させることができる。
【0033】
また、食品が載置されていない状態で食品の載置面が飽和する最高温度を300℃とすることにより、調理器具であるグリル皿の温度を構成材料の耐熱許容温度以下とすることができるので、グリル皿の構成材料の劣化や破損を防止することができ、安全性、耐久性、信頼性を向上させることができる。
【0034】
第3の発明は、特に、第1または第2の発明の発熱層をフェライトの粒子と有機化合物を含む構成とすることにより、フェライトを含むマイクロ波発熱体からなる発熱層をグリル皿に容易に形成することができる。
【0035】
また、有機化合物によって調理器具であるグリル皿の支持体と発熱層の強固な接着性を実現することができるので、耐久性を向上させることができる。
【0036】
また、比較的低温で発熱層を形成することができるのでグリル皿の構成材料の劣化を防止することができる。
【0037】
第4の発明は、特に、第3の発明の発熱層に含まれる前記有機化合物としてシリコーンゴムを用いることにより、発熱層の耐熱性を向上させることができるとともに、より優れたグリル皿の支持体と発熱層の接着を実現することができる。
【0038】
また、発熱層の厚さを厚くすることができるのでマイクロ波の吸収に必要なフェライトの量を多くすることができ、昇温速度の速いマイクロ波発熱体を実現することができる。
【0039】
第5の発明は、特に、第1〜4のいずれか1つの発明の発熱層の面積を0.05〜0.1mの範囲とすることにより、通常使用される800W前後のマイクロ波出力で調理器具であるグリル皿を加熱しても、グリル皿の熱容量の増加や加熱されたグリル皿からの放熱量を抑制することができるので、所定の温度に短時間で昇温させることができ、調理時間の短縮化と省エネを図ることができる。
【0040】
また、昇温速度を低下させることなく、発熱と放熱とがバランスして飽和する温度を、フェライトのキュリー温度近傍でかつキュリー温度よりも低くなるように容易に設定することができるので、調理性能に優れたグリル皿を実現することができる。
【0041】
第6の発明は、特に、第1〜5のいずれか1つの発明の調理器具を構成する支持体の熱伝導率を50〜150W/mKの範囲とすることにより、熱伝導が高すぎることによって起こるグリル皿の食品の載置面以外への熱伝達、放熱面積の拡大による放熱量の増加、熱伝導が低すぎることによって起こる食品載置面の温度分布の不均一性を抑制することができるので、食品の加熱効率に優れたグリル皿を実現することができる。
【0042】
第7の発明は、加熱装置が、加熱室と、加熱室内にマイクロ波を供給するマイクロ波発生部と、加熱室内に配置される加熱室を有し、第1から第6のいずれか1つの発明の調理器具を備えた構成とすることにより、加熱装置におけるグリル皿調理の性能を向上させることができる。
【0043】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0044】
(実施の形態1)
図1は、本発明の第1の実施の形態におけるマイクロ波発熱体が形成された調理器具(以下、グリル皿と記す)の断面図である。なお、本実施の形態のグリル皿は、図6で述べた従来のものと同様の形状である。
【0045】
図1において、グリル皿1は、皿形状の支持体2と、支持体2のいずれか一方の表面に設けられた、マイクロ波エネルギーを吸収して発熱するマイクロ波発熱体からなる発熱層3とから構成される。マイクロ波発熱体からなる発熱層3は、図1に示すように、支持体2の食品が載置される側の表面である載置面30とは異なる表面(グリル皿1の裏面に相当)に形成されることが望ましい。なお、グリル皿1は、図1に示すように、食品から出る油脂などを食品と分離するために、食品の載置面30に溝部2Aを設けている。
【0046】
図2は、本実施の第1の実施の形態におけるマイクロ波発熱体からなる発熱層3が形成されたグリル皿1の詳細な構造を示す一部断面図である。
【0047】
図2において、グリル皿1の支持体2は、金属基材などの基材4と、基材4の両面に形成されたポリエーテルスルホン樹脂材料を主成分とする被覆層5と、食品が載置される側の表面の被覆層5に形成された、フッ素樹脂を主成分とするフッ素コーティング層6とから構成される。なお、金属基材以外の基材4として、セラミックや結晶化ガラスなどの耐熱ガラスも用いることができる。金属基材以外の基材4は耐食性が高いので、発熱層3側の基材表面のポリエーテルスルホン樹脂材料を主成分とする被覆層5は必ずしも必要としない。そのため、グリル皿1の支持体2の構成を簡略化できる。
【0048】
マイクロ波発熱体からなる発熱層3は、食品が載置される側の表面とは異なる表面の被覆層5の表面に形成されている。基材4としては、鉄の鋼板やアルミニウム、亜鉛がメッキされた表面処理鋼板が適用される。
【0049】
図3は、本発明の第1の実施の形態におけるマイクロ波発熱体からなる発熱層3の構造を示す模式図である。図3において、マイクロ波発熱体からなる発熱層3は、マイクロ波を吸収して発熱するフェライト粉末7と、有機化合物8とを含む組成である。さらに、必要に応じて分散剤やゴムの老化防止剤、酸化防止剤などが添加される。フェライト粉末7は、有機化合物8の中に均一に分散した状態となっている。
【0050】
次に、本発明のマイクロ波発熱体からなる発熱層3を形成したグリル皿1の製造方法の一例について述べる。
【0051】
溶融アルミメッキ鋼板などの基材4の両面に、ポリエーテルスルホン樹脂材料を主成分とする塗料を塗布して被覆層5を形成し、その後、一方の被覆層5の表面に、主成分がフッ素樹脂からなる塗料を塗布し、フッ素コーティング層6を形成する。次に、図2に示すように、フッ素コーティング層6が食品の載置面30となるようにグリル皿1の形状にプレス加工が施される。
【0052】
発熱層3に用いられるフェライト粉末7は、グリル皿1の食品の載置面30を短時間で高温に昇温させ、かつグリル皿1の許容される耐熱温度以下で飽和する昇温特性が必要である。これを実現するフェライト粉末7として、FeとCuOとMgO、ZnOを含む組成としたものが挙げられる。
【0053】
この組成の範囲となるように、出発原料であるFe、Cu、Zn、Mgを含む炭酸塩や硝酸鉛などを所定の比率で混合し、高温で焼成することによって反応させ、フェライトの結晶構造を有する複合酸化物が造られる。このフェライトの複合酸化物を粉砕することによって、所定の重量比のフェライト粉末7が得られる。
【0054】
次に、所定の配合量のフェライト粉末7と、有機化合物8として選択したシリコーンゴムとをオープンロールやニーダーなどの混練加工装置を用い、フェライト粉末7がシリコ
ーンゴムの中に均一に分散するまで混練し、その後、架橋剤を添加し、再度混練する。
【0055】
次に、これらの混練物の固まり、もしくはオープンロールでシート状に分出ししたものを必要量採取し、これをグリル皿1の形状にプレス加工された食品の載置面30とは異なる表面の被覆層5の上に配置して、ホットプレスで加圧接着および一次加硫を行う。その後、必要に応じて二次加硫などの熱処理を行うことによって、マイクロ波発熱体からなる発熱層3が形成され、本実施の形態の調理器具であるグリル皿1が得られる。
【0056】
なお、混練の際にマイクロ波発熱体からなる発熱層3のさらなる耐熱性を付与するための耐熱性剤、老化防止剤や、柔軟性を付与するための油脂剤などを必要に応じて添加してもよい。
【0057】
また、マイクロ波発熱体からなる発熱層3と被覆層5との接着性を向上させるために、マイクロ波発熱体からなる発熱層3の接着面あるいは被覆層5の面に、接着機能を有するプライマーを塗布し、そのプライマーを介してマイクロ波発熱体からなる発熱層3と被覆層5を接着してもよい。また、予め、フェライト粉末7と有機化合物8の混練時に接着剤を添加してもよい。
【0058】
また、上述の製造方法では、マイクロ波発熱体からなる発熱層3を被覆層5の上に形成したが、発熱層3が形成される側の表面の被覆層5を設けず、直接、基材4の面と接着してもよい。
【0059】
図4は、本発明の第1の実施の形態における調理器具であるグリル皿1が搭載される加熱装置の断面図である。
【0060】
図4において、加熱装置25は加熱室9を有している。加熱室9は、金属材料から構成された金属境界部である右側壁面10、左側壁面11、奥壁面12、上壁面13、底壁面14および食品を加熱室9内に出し入れする開閉壁面である開閉扉(図示せず)により略直方体形状(直方体を含む)に構成される。これにより、給電されたマイクロ波エネルギーをその内部に実質的に閉じ込める。開閉扉は奥壁面12と対向した位置(図4の手前側)に設置される。
【0061】
本実施の形態の加熱装置25を構成するマイクロ波発生部であるマグネトロン15は、加熱室9に供給するマイクロ波を発生するものである。加熱装置25には、マグネトロン15から発生したマイクロ波エネルギーを加熱室9内に導くための導波管16と、導波管16から加熱室9内にマイクロ波エネルギーを照射するマイクロ波放射部17とが設けられている。底壁面14にはマイクロ波を透過するガラス系やセラミック系の材料からなる封口部18が設けられている。
【0062】
また、加熱室9の上部には加熱ヒータ19が設けられており、加熱室9の奥壁面12の奥にはコンベクションヒータユニット(図示せず)が設けられている。これにより、加熱装置25は、食品のマイクロ波調理、グリル調理、オーブン調理の機能を有する。
【0063】
本実施の形態の調理器具であるグリル皿1は、加熱室9の右側壁面10および左側壁面11に設けられた係止部であるレール部20に沿って加熱室9内に挿入され、配置される。本実施の形態では、レール部20は、右側壁面10および左側壁面11のそれぞれに3箇所設けられている。これにより、グリル皿1の設置高さを3段階に調整できるようになっている。
【0064】
また、加熱室9には加熱室9内の温度を検出するサーミスタ21、食品やグリル皿1な
どの温度を検出する赤外線センサ22が設けられている。サーミスタ21、赤外線センサ22、マグネトロン15、加熱ヒータ19は、これらの動作を制御する制御部23に電気的に接続されている。
【0065】
次に、以上の構成からなる加熱装置25を用い、本実施の形態のグリル皿1の動作と作用について説明する。
【0066】
加熱室9内に、食品(図示せず)を載置したグリル皿1をレール部20に配置し、開閉扉を閉めた状態で所定の指示操作を行う。これにより、制御部23によりマグネトロン15が動作してマイクロ波エネルギーを発生する。発生したマイクロ波エネルギーは、導波管16を経て、マイクロ波放射部17からセラミックなどで形成された封口部18を透過して加熱室9内に照射される。
【0067】
加熱室9内に照射されたマイクロ波エネルギーは、グリル皿1を構成するマイクロ波発熱体からなる発熱層3で吸収され、熱に変換される。その熱がグリル皿1の食品を載置している載置面30に伝達され、食品が加熱調理される。
【0068】
グリル皿1は耐久性、安全性の点から、グリル皿1の構成材料の耐熱許容温度以上に昇温しないようにする必要がある。そのためにマイクロ波エネルギーを吸収して発熱する発熱層3は、温度が低い時はマイクロ波エネルギーを吸収して発熱するが、温度が上昇するとマイクロ波エネルギーを吸収しなくなる特性を有する材料で構成することが好ましい。
【0069】
この特性を実現するマイクロ波発熱材料として、フェライトが挙げられる。フェライトのマイクロ波エネルギーによる発熱は磁性損失によるものであり、複素比透磁率の虚数部で表され、この値が大きいほどマイクロ波エネルギーの吸収による発熱性能が高い。
【0070】
一方、フェライトの温度が上昇すると、透磁率の低下とともに磁性損失が小さくなり、マイクロ波エネルギーの吸収による発熱量は減少する。さらにフェライトの温度がキュリー温度に達すると磁性損失は無くなり、発熱しなくなる。
【0071】
したがって、本実施の形態のグリル皿1に適用されるマイクロ波発熱体からなる発熱層3に適用されるフェライト材料は、初期の昇温速度が大きく、グリル皿1の食品の載置面30が食品の調理に有効な温度で、かつグリル皿1の構成材料の耐熱許容温度以下の温度で飽和するものがよい。
【0072】
フェライトは成分、組成によって磁性損失の他に誘電損失、導電損失による発熱も考えられる。グリル皿1の食品の載置面30を所定の温度に飽和させるためには、磁性損失以外の発熱作用がないフェライト材料か、もしくは所定の飽和温度を変化させない程度の発熱作用を有するフェライト材料であることが好ましい。
【0073】
また、グリル皿1を構成する被覆層5、フッ素コーティング層6、マイクロ波発熱体からなる発熱層3に用いる有機化合物8は長期の耐久性を確保するため、食品の載置面30が飽和する温度を、グリル皿1を構成する材料の耐熱許容温度(300℃)以下とする必要がある。
【0074】
一方、グリル皿調理においては、食品の焦げ目、調理時間の短縮の点から判断すると、グリル皿1の飽和温度は高い方がよい。しかし、食品を載置した場合は食品の熱容量が加算されることや、加熱されたグリル皿1からの放熱により、食品が載置面30と接触した部位の温度は食品がない状態でのグリル皿の食品の載置面の温度よりも低くなる。
【0075】
通常、ハンバーグや魚などの高温を必要とする食品の調理温度は、200℃前後であり、この調理温度を確保するためのグリル皿1の食品の載置面30の温度は食品が載置されていない状態で240℃以上必要であること、グリル皿1の構成材料の耐熱温度が300℃であることから、調理性能と耐久性・信頼性を両立させるためには、グリル皿1の飽和温度を240〜300℃とすることが好ましい。これを実現するためには、常温からの昇温速度を速くすることが可能となる大きい磁性損失を有し、グリル皿1の食品の載置面30の飽和温度が240〜300℃になるようなキュリー温度を有するフェライト材料が必要となる。
【0076】
なお、以下の実施の形態で用いる上記の飽和温度とは、グリル皿1の食品の載置面30に食品がない状態(空焚き)で飽和する温度をいう。
【0077】
グリル皿の食品の載置面の飽和温度が240〜300℃となるようなキュリー温度を有するフェライト材料としては、背景技術で述べたように、FeとCuOとMgOを含むフェライト粉があり、このフェライト粉はFeが46〜51mol%、CuOは2〜15mol%、ZnOが27mol%以下の範囲の組成を有するものである。
【0078】
フェライト粉末7として上記フェライトを用いることにより、フェライト粉末7のキュリー温度を250〜330℃と高くすることができる。そして、フェライト粉末7のキュリー温度を高くすることによって、グリル皿1の食品の載置面30の飽和温度を従来のグリル皿よりも高い240〜300℃とすることができる。
【0079】
したがって、グリル皿1の食品の載置面30の温度を高温にすることが可能となり、グリル皿調理の調理時間を短縮することができ、調理性能を向上させることができる。
【0080】
また、フェライト粉末7がキュリー温度近傍になると、マイクロ波エネルギーの吸収量が少なくなるように自己制御するため、調理器具であるグリル皿1を構成する材料の耐熱許容温度以下、すなわち300℃以下で食品の載置面30の温度を飽和させることが可能となる。
【0081】
また、FeとCuOとMgOを含むフェライト粉は、従来この種のグリル皿のマイクロ波発熱体のフェライトとして用いられてきたMn−Zn系フェライトよりも比重が軽いことから、グリル皿1の軽量化を図ることができ、加熱室からグリル皿を出し入れする際の作業を軽減することができる。
【0082】
以上のように、フェライト粉末7として、FeとCuOとMgOを含み、フェライトに含まれるFeが46〜51mol%、CuOは2〜15mol%、ZnOが27mol%以下の範囲とした組成としたものを用いることにより、グリル皿1の構成材料の過昇温による破損やグリル皿1の構成材料の発火や他の部材への延焼を防止することができ、耐久性、信頼性を向上させることができる。
【0083】
さらに、グリル皿1の過昇温を防止する安全装置を必要としないため、複雑な電子制御・制御デバイスが不要となり、低コスト化を図ることができる。
【0084】
グリル皿1の構成材料の耐熱許容温度は300℃であることを述べたが、グリル皿1の飽和温度は、長期の耐久性から判断すると300℃よりも低い280℃を上限とし、調理性能との両立を図るために240〜280℃とすることが好ましい。
【0085】
240〜280℃のグリル皿1の飽和温度を実現するためには、本発明のマイクロ波発熱体からなる発熱層3に用いるフェライト粉末7のキュリー温度は、250〜300℃で
あることが好ましい。
【0086】
また、調理性能をさらに向上させるためにはグリル皿1の飽和温度を260℃以上とすることがよい。調理性能と優れた耐久性、信頼性を両立させるためには、グリル皿1の飽和温度を260〜280℃とすることが好ましい。食品の載置面30の飽和温度を260〜280℃とするためのフェライト粉末7のキュリー温度は、280〜300℃であることが好ましい。
【0087】
食品の載置面30の温度の飽和現象は、マイクロ波発熱体からなる発熱層3がマイクロ波エネルギーを吸収して発熱する発熱量と、加熱されたグリル皿1からの伝導、対流、放射による放熱量がバランスすることよって起こる。すなわち、本実施の形態1では、食品が載置面30に載置されない状態で発熱層3による発熱と、調理器具であるグリル皿1からの放熱とがバランスして飽和する載置面30の温度を240〜300℃としている。
【0088】
また、本実施の形態によると、発熱層3に含まれるフェライト粉末7がキュリー温度近くになると、フェライトの磁性損失が低下し、マイクロ波エネルギーの吸収が小さくなる。したがって、食品の載置面の温度が高くなるにつれ、発熱量が減少することになり、食品の載置面はフェライト粉末7のキュリー温度よりも低い温度で飽和する。
【0089】
なお、グリル皿1の調理性能と構成材料の耐久性の両立する温度が240〜300℃とすると、この温度で飽和させるためのマイクロ波発熱体からなる発熱層3に用いるフェライト粉末7のキュリー温度は、250〜330℃である。
【0090】
食品の載置面の飽和温度を240〜300℃の高温とすることにより、所定の調理温度に短時間で昇温させることができ、調理時間の短縮化を図ることができる。さらに、食品を乾燥させないで適度な焦げ目を付けることができ、高温でのグリル皿調理の性能を向上させることができる。
【0091】
また、食品が載置されていない状態で食品の載置面が飽和する最高温度を300℃とすることにより、調理器具であるグリル皿の構成材料を耐熱許容温度以下とすることができる。したがって、グリル皿の構成材料の劣化や破損を防止することができ、安全性、耐久性、信頼性を向上させることができる。
【0092】
一方、発熱層3が発熱層3に含まれるフェライト粉末7のキュリー温度あるいはそれ以上の温度になると、マイクロ波エネルギーの吸収がなくなる。
【0093】
この温度で加熱室9にマイクロ波を照射し続けると、マイクロ波の電界が発熱層3以外の箇所(加熱室9を構成する右側壁面10、左側壁面11、奥壁面12、上壁面13、底壁面14など)に集中してスパークが発生すること、マイクロ波が加熱室9内で反射して導波管16を経てマグネトロン15に戻り、マイクロ波放射部17が破損することなど、安全性、信頼性を損なう可能性がある。
【0094】
本実施の形態では、食品の載置面がフェライト粉末7のキュリー温度より低い温度で飽和する構成としているため、発熱層3のフェライト粉末7は加熱室9に照射されたマイクロ波の吸収を持続することができる。
【0095】
したがって、加熱室9の他の部材への電界集中やマグネトロン15へのマイクロ波の反射が抑制され、加熱室9内でのスパークやマグネトロン15の破損を防止することができるので安全性、信頼性を確保することができる。
【0096】
なお、フェライト粉末7として、FeとCuOとMgOを含み、フェライトに含まれるFeが46〜51mol%、CuOは2〜15mol%、ZnOが27mol%以下の範囲とした組成としたものを用い、グリル皿1に食品が載置されない状態での飽和温度が240〜300℃である例で説明したが、これに限られない。例えば、載置面30に載置されない状態の飽和する温度を240〜300℃にできる構成であれば、特に、上記の組成のフェライト粉末7を用いる必要はない。つまり、グリル皿1の発熱層3として用いる発熱材料や組成または温度制御により、食品がグリル皿1の載置面30に載置されない状態で240〜300℃の飽和温度を実現してもよい。
【0097】
このFeとCuOとMgOを含むフェライト粉を発熱層3として用いることによってグリル皿1の食品の載置面の飽和温度を食品の調理に有効な所定の温度とすることができるが、グリル皿を構成する基材の熱容量が大きい場合は加熱初期の昇温速度が遅くなり、所定の温度に到達する時間が長くなる。その結果、食品の加熱時間、すなわち調理時間が長くなり、調理時間の短縮化や優れた省エネ性能が得られなくなるとともに、食品の加熱時間が長くなると食品の水分が適正以上に蒸発し、おいしさに必要な適正量の水分が確保できなくなり、満足する調理性能が得られなくなる。
【0098】
経験的な知見によると、調理時間の短縮、省エネ、食品の適正な焦げ目、おいしさを実現するためには、グリル皿の食品の載置面の温度を2分以内で150℃以上の昇温速度が必要である。
【0099】
昇温速度を速くするにはフェライトの磁性損失を大きくすることが考えられるが、フェライトの磁性損失を大きくするために組成を変更すると適正なキュリー温度が得られなくなるなどの課題が生じる。
【0100】
そこで、昇温速度を速くする手段として、グリル皿1の熱容量に着目し、グリル皿1の熱容量を小さくすることで昇温速度を速くできると考え、適正な熱容量を検討した。
【0101】
マイクロ波発熱体からなる発熱層3が形成される部位(食品の載置面の面積に相当)のグリル皿1を構成する支持体2の熱容量を可変させ、キュリー温度が約260〜280℃となるように組成を調整したFeとCuOとMgOを含むフェライト粉をフェライト粉末7とし、有機化合物8(シリコーンゴム)と混合したマイクロ波発熱体からなる発熱層3を形成したグリル皿1を作製し、図4に示す加熱装置25を用い、800Wのマイクロ波電力を給電してグリル皿1の食品の載置面の昇温速度を評価した。
【0102】
その結果、発熱層3が形成される部位の支持体2の熱容量が250J/deg以下であれば、グリル皿1の食品の載置面の温度が2分以内で150℃以上に昇温する昇温速度が得られることがわかった。
【0103】
一方、発熱層3が形成される部位の支持体2の熱容量が50J/deg未満になると、支持体2の機械的強度が低下し、グリル皿1が昇温時の温度差により変形し、食品とグリル皿1の載置面との接触が悪くなり、食品に加熱むらが生じる、適正な焦げ目が付かない、仕上がりの時間が長くなるなどの課題が発生する。
【0104】
したがって、優れた昇温速度と熱変形が抑制可能な機械的強度を実現するための発熱層3が形成される部位の支持体2の熱容量は、50〜250J/degの範囲が好ましい。
【0105】
なお、支持体2の熱容量を変えたグリル皿1のすべてにおいて、食品の載置面が240〜260℃の温度で飽和することが確認された。
【0106】
以上のことから、マイクロ波発熱体からなる発熱層3が形成される部位の支持体2の熱容量が50〜250J/degの範囲とし、発熱層3に用いるフェライト粉末7がFeとCuOとMgOを含み、前記フェライトに含まれるFeが46〜51mol%、CuOは2〜15mol%、ZnOが27mol%以下の範囲の組成とすることにより、フェライト粉末7の優れたマイクロ波エネルギーによる発熱作用に加え、発熱層3によって加熱されるグリル皿1の熱容量を小さくすることができるので、グリル皿1を構成する食品の載置面を短時間で食品が調理可能な温度に昇温させることができ、調理時間の短縮化と優れた省エネ性能を実現することができる。
【0107】
また、発熱層3が形成される部位の支持体2の熱容量を最低でも50J/degとすることにより、グリル皿1の機械的強度を保持することができるので、発熱層3によって急速に加熱された食品の載置面の部位と加熱され難い食品載置面の周囲の部位との温度差による熱変形が防止され、グリル皿1の食品の載置面が変形することによる食品の加熱むらや調理時間が長くなることを防止することができる。
【0108】
これによって、常に安定した調理性能を実現することができるとともに、熱的ストレスによるグリル皿1の構成材料の劣化、破損をまた、グリル皿1の載置面30と接触している食品を素早く焼くことができるため、食品の載置面へのこびり付きが抑制され、調理後のグリル皿からの食品の取り出しや、グリル皿の洗浄などの手入れを容易に行うことができる。また、グリル皿1の構成材料の劣化や破損を防止することができ、優れた耐久性を実現することができる。
【0109】
有機化合物8の材料としては、耐熱性の高いゴムや樹脂が挙げられる。フェライト粉末7を含むマイクロ波発熱体からなる発熱層3は、これらの有機化合物8を用いることによって、ホットプレス加工などによりグリル皿1に容易に形成することができる。
【0110】
また、有機化合物8がグリル皿1の支持体2と発熱層3の強固な接着を実現することができるので耐久性を向上させることができる。
【0111】
また、比較的低温で発熱層3を形成することができるのでグリル皿1の構成材料の劣化を防止することができる。
【0112】
有機化合物8としては、特にシリコーンゴムやフッ素ゴムがよい。中でもシリコーンゴムは、耐熱性が高く、かつ発熱層3とグリル皿1の支持体2との接着性をより向上させることができる。そのため、発熱層3の剥離やクラックが防止され、長期にわたり初期の発熱性能を保持することができ、常に安定したグリル皿調理の性能を実現することができる。
【0113】
また、シリコーンゴムは優れた耐熱性と耐化学薬品性を有するため、耐久性、信頼性の高い発熱層3を実現することができる。
【0114】
また、シリコーンゴムを用いることによって発熱層3の膜厚を厚く構成することができるので、マイクロ波の吸収に必要なフェライト粉末7を多量に含有させることができる。
【0115】
この構成により、フェライト粉末7のマイクロ波エネルギーの吸収量を多くすることが可能となり、昇温速度の速いマイクロ波発熱体を実現することができる。
【0116】
本実施の形態のグリル皿1は、マイクロ波発熱体からなる発熱層3によって加熱されるが、グリル皿1の大きさが大きくなると、グリル皿1からの放熱量が大きくなり、食品の載置面の飽和温度が低くなる。一方、グリル皿1が小さくなると、放熱量が少なくなり、
食品載置面の飽和温度が高くなる。
【0117】
グリル皿1を用いたグリル調理は、通常、800W前後のマイクロ波出力が使用される。800Wでグリル皿1を加熱する場合、発熱層3の面積が0.1mを超えると、グリル皿1が大きくなることによって熱容量が大きくなる。そのため、食品の載置面の昇温に時間がかかり、グリル皿調理に適している2分以内に150℃以上の昇温が得られなくなる。
【0118】
また、食品の載置面の面積も大きくなることによって加熱された面からの放熱量が多くなり、食品の載置面の飽和温度が240℃未満になる。その結果、調理時間が長くなるとともに、食品の適した焦げ目、おいしさが得られなくなる。
【0119】
一方、発熱層3の面積が0.05m未満になると、発熱層3に含まれるフェライト粉末7の量が少なくなることによって発熱層3のマイクロ波エネルギーの吸収が少なくなる。その結果、発熱層3以外の部材にマイクロ波の電界が集中にしてスパークが発生することや、反射したマイクロ波によってマグネトロンの破損など、耐久性、安全性を損なう可能性がある。また、食品へのマイクロ波エネルギーの吸収も増加し、食品の水分量の低下など、おいしさを阻害する原因となる。
【0120】
したがって、発熱層3の面積は、0.05〜0.1mとすることにより、食品の載置面を短時間で昇温させることができるとともに、所定の飽和温度に加熱することができるので優れた調理性能を実現することができる。
【0121】
また、調理時間の短縮化と省エネルギー化を図ることができる。さらに、マグネトロンの破損やスパークの発生を防止することができ、加熱装置25の耐久性、安全性を確保することができる。
【0122】
食品の載置面の飽和温度を260〜280℃とする場合、発熱層3のマイクロ波エネルギー吸収量とグリル皿1からの放熱量のバランス幅が狭くなるため、発熱層3の面積は0.06〜0.08mの範囲が適している。
【0123】
本実施の形態のマイクロ波発熱体からなる発熱層3は、膜厚が2mmを超える場合、発熱層3の重量の増加による熱容量の増加や、熱伝導が悪くなることによる食品の載置面への熱伝達の低下によって食品の載置面の昇温速度が遅くなる。また、膜厚が厚いことにより、コストが高くなる。
【0124】
一方、発熱層3の膜厚を0.5mm未満にすると、フェライト粉末7の量が不足して食品の載置面の飽和温度が低くなる。
【0125】
したがって、昇温速度の向上と、240〜300℃の食品の載置面の飽和温度の実現を両立するためには、発熱層3の膜厚を0.5〜2mmとすることが好ましい。また、発熱層3の膜厚を0.5〜2mmとすることによって、優れた調理性能と調理時間の短縮化を実現することができる。
【0126】
また、食品の載置面の飽和温度を260〜280℃とする場合、発熱層3のマイクロ波エネルギー吸収量とグリル皿1からの放熱量のバランス幅が狭くなるため、発熱層3の膜厚は、0.7〜1.5mmの範囲が適している。
【0127】
さらに、安定した昇温性能を得るためには、発熱層3の膜厚を0.9〜1.1mmの範囲とすることが望ましい。
【0128】
フェライト粉末7の配合量が多くなると、発熱層3の昇温性能は向上するが、以下の3つの課題が発生する。
【0129】
第1に、有機化合物8と食品の載置面との接着性が悪くなり、発熱層3の剥離がしやすくなる。
【0130】
第2に、有機化合物8とフェライト粉末7の発熱体組成物が硬くなり、ホットプレス時の発熱体組成物の流動性が悪く、均一な膜厚の発熱層3が得られない。これによって、発熱層3の加熱むらが大きくなり、調理性能が低下する。
【0131】
第3に、形成された発熱層3が硬くなりことによって、耐熱衝撃や耐機械的衝撃が低下し、グリル皿1の落下や冷熱の繰り返しが起こると発熱層3が破損する可能性がある。
【0132】
一方、フェライト粉末7の配合量が少なくなると、発熱層3のマイクロ波エネルギーの吸収性能が低下し、満足する昇温性能が得られなくなる。
【0133】
食品の載置面の飽和温度を240〜300℃とした場合、上記課題を解決し、耐久性、昇温性能、調理性能に優れた発熱層3を得るための発熱層3におけるフェライト粉末7の含有量は、50〜90重量%の範囲が好ましい。
【0134】
また、食品の載置面の飽和温度を260〜280℃とする場合、発熱層3のマイクロ波エネルギー吸収量とグリル皿1からの放熱量とのバランス幅が狭くなるため、フェライト粉末7の配合量は、65〜85重量%の範囲が適している。
さらに、安定した昇温性能を得るためには、フェライト粉末7の配合量を75〜80重量%の範囲とすることが好ましい。
【0135】
加熱室9にマイクロ波が照射されると、加熱室9内でマイクロ波の定在波が生じる。その結果、加熱室9内にマイクロ波エネルギーの強弱が発生し、グリル皿1の底面に接着されているマイクロ波発熱体からなる発熱層3の面もマイクロ波エネルギーの強弱によってマイクロ波の吸収量が異なり、不均一な温度分布となる。
【0136】
グリル皿1の支持体2の材料は、熱伝導率が高いほど発熱層3からの熱を効率よく伝達でき、食品の載置面の温度分布を均一にすることができる。しかし、熱伝導が高すぎると食品の載置面以外へも熱が伝達され、グリル皿1からの放熱量が増加し、食品の載置面の飽和温度が低下する。
【0137】
一方、支持体2として熱伝導率が低すぎる材料は、発熱層3に発生した不均一な温度分布を均一にすることができず、食品の焼きむらが発生し、調理性能を悪化させる。
【0138】
熱伝導率が高すぎる材料としては、アルミニウムや銅などの熱伝導率が200W/m・K以上のものが挙げられる。熱伝導率が低すぎる材料としては、セラミックやガラスなど熱伝導率が10W/m・K以下のものが挙げられる。これらの材料は支持体2として好ましくない。
【0139】
本実施の形態のグリル皿1の支持体2としては、熱伝導率が50〜150Wの材料が好ましい。この材料としては鉄を主成分とする鋼板、アルミニウムや亜鉛がメッキされた鉄を主成分とする表面処理鋼板、塗料によって塗装された鉄を主成分とする表面処理鋼板が挙げられる。
【0140】
鉄を主成分とする鋼板は、熱伝導率が約85W/m・Kでありアルミニウムより低いが、機械的強度が高く支持体2の厚みを薄くする。そのため、発熱層3から食品の載置面への熱抵抗を小さくすることができ、効率よく熱を伝達することができる。
【0141】
また、鉄を主成分とする鋼板は、アルミニウムよりは温度分布の均一性は劣るが、食品の載置面全体の温度分布を均一化することができる。
【0142】
さらに、鉄を主成分とする鋼板は、発熱層3からの食品の載置面以外への方向の熱抵抗を大きくすることができる。これにより、食品の載置面以外への熱ロスを抑制することができるので、食品の載置面の温度を高い温度で飽和させることができる。
【0143】
より好ましいグリル皿1の支持体2の熱伝導率は、80〜150W/m・Kである。
【0144】
なお、本実施の形態のグリル皿1は、高温でのグリル皿調理の性能を向上させることを目的としているが、高温を必要としないグリル皿調理、例えば、解凍調理、温め調理に対してはマイクロ波電力の出力制御よって対応することができる。
【0145】
図5は、本発明の第1の実施の形態における調理器具の他の形状のグリル皿を示す斜視図を示すものである。本実施の形態のマイクロ波発熱体からなる発熱層3は、図5に示すグリル皿形状にも適用できる。
【0146】
図5に示すように、グリル皿24の食品が載置される載置面30は、端部2Bよりも中央部2Cを広くした構成である。これにより、食品が載置される可能性が高いグリル皿24の中央付近の載置面30の面積を大きくしている。
【0147】
このグリル皿24によると、食品と載置面30との接触面積を大きくすることができる。そのため、図6と同じ形状のグリル皿1(図1参照)よりも発熱層3から食品に伝達される熱を多くすることができるので、調理時間の短縮化、グリル皿調理の性能を一層図ることができる。
【0148】
また、食品との接触面積が大きくなることにより、食品の焦げむらを少なくすることができるので、食品の仕上がり状態を向上させることができる。さらに、食品の乾燥むらも抑制できるのでジューシーさ、おいしさを向上させることができる。
【0149】
また、加熱室9と、加熱室9内にマイクロ波を供給するマイクロ波発生部であるマグネトロン15と、加熱室9内に配置される上記グリル皿1の調理器具とを備えた加熱装置25を構成することにより、加熱装置25におけるグリル皿調理の性能を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明の調理器具は、グリル皿調理の性能を向上させることが可能となるので、電子レンジなどのマイクロ波加熱装置に適用可能であるとともに、マイクロ波発熱体を主成分とする発熱層は、乾燥機など調理機器以外のマイクロ波加熱機器として適用できる。
【符号の説明】
【0151】
1、24 グリル皿
2 支持体
3 発熱層
4 基材
7 フェライト粉末(フェライト)
8 有機化合物
9 加熱室
25 加熱装置
30 載置面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品が載置される載置面を有する支持体と、
前記支持体の表面に形成され、マイクロ波エネルギーを吸収して発熱するフェライトを含むマイクロ波発熱体からなる発熱層とを有する調理器具であって、
前記発熱層が形成される部位の前記支持体の熱容量が50〜250J/degの範囲であり、前記フェライトがFeとCuOとMgOを含み、前記フェライトに含まれるFeが46〜51mol%、CuOは2〜15mol%、ZnOが27mol%以下の範囲の組成である調理器具。
【請求項2】
前記食品が前記載置面に載置されない状態で飽和する前記載置面の温度を240〜300℃とした請求項1に記載の調理器具。
【請求項3】
前記発熱層がフェライトの粒子と有機化合物とを含む請求項1または2に記載の調理器具。
【請求項4】
前記発熱層に含まれる前記有機化合物がシリコーンゴムを含む請求項3に記載の調理器具。
【請求項5】
前記発熱層の面積が0.05〜0.1mの範囲である請求項1〜4のいずれか1項に記載の調理器具。
【請求項6】
前記支持体の熱伝導率が50〜150W/mKの範囲である請求項1〜5のいずれか1項に記載の調理器具。
【請求項7】
加熱室と、前記加熱室内にマイクロ波を供給するマイクロ波発生部と、前記加熱室内に配置される請求項1〜6のいずれか1項に記載の調理器具とを備えた加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−111107(P2013−111107A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257527(P2011−257527)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】