説明

調理器具前防熱板

【課題】清掃性、耐キズ付き性、不燃性、意匠性に優れた厨房の調理器具前防熱板を提供する。
【解決手段】 調理器具前防熱板形状に加工された金属板からなる基材と、前記基材の上に設けられた無機系の非粘着性塗膜を含む調理器具前防熱板である。また、前記基材は、冷延鋼板、亜鉛めっき鋼板やアルミめっき鋼板などの各種めっき鋼板、ステンレス鋼板、アルミ板であり、さらに、前記無機系の非粘着性塗膜は、
(A)アルコキシシランまたはオルガノアルコキシシランの部分加水分解縮合物、と
(B)シリカ、および
(C)フロロシラン化合物、および
(D)着色顔料、をさらに含む、ものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、清掃性、耐キズ付き性、不燃性、意匠性に優れた厨房の調理器具前防熱板に関する。
【背景技術】
【0002】
厨房のガスコンロやIH調理器などの調理器具に隣接する壁面については、消防法規定の離隔距離が確保できない壁面に対しては、防熱板を設置する事が消防法により定められている。
【0003】
従来、ガスコンロやIH調理器に対する防熱板としては、ステンレス鋼製防熱板が広く使用されて来た。しかし、ステンレス鋼製防熱板は調理時の油はねなどにより汚れが付着した場合に、そのまま放置しておくとこびり付いてしまい、簡単には取れなくなるという問題があった。
【0004】
こうした問題に対して、清掃性に関して、フッ素樹脂塗料を塗装した防熱板(特許文献1)やフッ素樹脂フィルムを積層した防熱板(特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−213753号公報
【特許文献2】特開平9−220792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1、2の発明により、清掃性は通常のステンレス鋼裸材の防熱板に比べれば向上する。しかし、フッ素樹脂塗料にしても、フッ素樹脂フィルムにしても、その表面硬度が低いので、キズが付き易いという問題があった。また、万一調理器具からの火が防熱板に延焼した場合には、フッ素樹脂が燃えるとガスが発生するという危険性があった。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑み、清掃性、耐キズ付き性、不燃性、意匠性に優れた厨房の調理器具前防熱板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、金属板の上に、無機系の非粘着性塗膜を形成してなる調理器具前防熱板により前記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、前記課題は以下の本発明により解決される。
【0009】
請求項1に記載の発明は、調理器具前防熱板形状に加工された金属板からなる基材と、前記基材の上に設けられた無機系の非粘着性塗膜を含む調理器具前防熱板であることを特徴とするものである。
次いで、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明を技術的前提として、前記基材は、冷延鋼板、亜鉛めっき鋼板やアルミめっき鋼板などの各種めっき鋼板、ステンレス鋼板、アルミ板であることを特徴とする。
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の発明を技術的前提として、前記無機系の非粘着性塗膜は、
(A)アルコキシシランまたはオルガノアルコキシシランの部分加水分解縮合物
(B)シリカ、と
(C)フロロシラン化合物、と
(D)着色顔料、をさらに含む、ものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、清掃性、耐キズ付き性、不燃性、意匠性に優れた厨房の調理器具前防熱板を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.調理器具前防熱板
本発明の調理器具前防熱板は、防熱板形状に加工された金属板からなる基材、当該基材の上に設けられた無機系の非粘着性塗膜を含むことを特徴とする。以下各部材について説明する。
【0012】
(1)基材
本発明の調理器具前防熱板は、防熱板形状に加工された金属板からなる基材を含む。基材は、所定形状に加工できる金属板であれば特に限定されない。具体的には、冷延鋼板、亜鉛めっき鋼板やアルミめっき鋼板などの各種めっき鋼板、ステンレス鋼板、アルミ板等が上げられる。
【0013】
本発明の防熱板の製造方法については後述するが、予め金属板を防熱板形状に加工して基材とすることが好ましい。防熱板形状に加工された基材は、密着性付与の観点からショットブラスト処理されるのが望ましい。
【0014】
(2)無機系の非粘着性塗膜
無機系の非粘着性塗膜とは、アルコキシシランやオルガノシランの部分加水分解縮合物
やシリカのような金属酸化物およびフロロシラン化合物などの材料から構成された非粘着性塗膜である。以下、無機系の非粘着性塗膜を単に「本発明の塗膜」ということがある。
【0015】
1)塗膜の主成分
本発明の塗膜は、前述の通り、アルコキシシランやオルガノシランの部分加水分解縮合物やシリカのような金属酸化物およびフロロシラン化合物などの材料から構成された非粘着性塗膜である。本発明においては、アルコキシシラン又はオルガノシランの加水分解縮合物とシリカおよびフロロシラン化合物であることが好ましい。中でも、本発明の塗膜は、(A)アルコキシシランまたはオルガノアルコキシシラン部分加水分解縮合物と、(B)シリカと、(C)フロロシラン化合物と、(D)着色顔料を含むことが好ましい。
【0016】
(A)アルコキシシランまたはオルガノアルコキシシラン加水分解縮合物
アルコキシシランとは、一般式(1)で表される化合物である。
Si(OR) (1)
Rはそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基、またはアリール基である。アルコキシシランの加水分解縮合物とは、前記式(1)の一部または全部のOR基が加水分解されてOH基になり、そのOH基が縮合した化合物をいう。本発明においては、Rはメチル基であることが好ましい。代表的な物として、テトラメトキシシランやテトラエトキシシランなどが上げられる。
【0017】
オルガノアルコキシシランとは、一般式(2)で表される化合物である。
X−Si(OR) (2)
Xは一価の有機基であり、その例には炭素数1〜3のアルキル基、ビニル基、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル基、γ−グリシドキシプロピル基、γ−メルカプトプロピル基、γ−クロロプロピル基が含まれる。Rは前記式(1)と同様に定義される。オルガノアルコキシシランの加水分解縮合物とは、前記式(2)の一部または全部のOR基が加水分解されてOH基になり、そのOH基が縮合した化合物をいう。代表的な物として、メチルトリメトキシシランやメチルトリエトキシシランなどが上げられる。
【0018】
本発明の塗膜は(B)シリカを含んでいることが好ましい。シリカとは二酸化珪素のことである。本発明の塗膜は、コロイダルシリカがゲル化して形成されたシリカを含んでいることがより好ましい。
【0019】
本発明の塗膜は(C)フロロシラン化合物を含んでいることが好ましい。本塗膜に非粘着性を付与するためには、フロロシラン化合物は必要である。具体的には以下の物などが使用できる。トリフルオロプロピルトリメトキシシラン「CFCHCHSi(OCH」、ノナフルオロヘキシルトリメトキシシラン「CF(CFCHCHSi(OCH」、トリデカフルオロオクチルメトキシシラン「CF(CFCHCHSi(OCH」、ヘプタデカトリフルオロデシルトリメトキシシラン「CF(CFCHCHSi(OCH」、ヘネイコサフルオロドデシルトリメトキシシラン「CF(CFCHCHSi(OCH」。
【0020】
本発明の塗膜は(D)着色顔料を含んでいることが好ましい。意匠性付与の観点から、希望の色に合わせて適宜着色顔料を添加すれば良い。これは、天板に人造大理石が使用されている場合に、人造大理石の色に合わせる形で、防熱板の塗料の色を合わせる事ができる。それにより従来はステンレス防熱板が主流のため、ステンレスの金属感の強さが出ていたものが、人造大理石の天板の色に合わせることで、キッチン空間全体がソフトになり、落ち着いた雰囲気を出す事が可能となる。
【0021】
本発明の塗膜の厚みは、5〜30μmであることが好ましい。厚みが5μm未満であると、下地である金属板の色を遮蔽するのが難しい。また、膜厚が30μmを越えると塗膜が割れやすくなる。
【0022】
本発明においては、塗料を塗布して得た未乾燥の膜を「塗布膜」、塗布膜を乾燥させたものを「塗膜」という。塗布膜の乾燥温度は特に限定されないが、到達板温度が150〜300℃となるように焼付けられることが好ましい。焼付け温度が150℃未満であると、主樹脂である無機系樹脂の硬化反応が不十分になり、硬度が不足したり、耐溶剤性に劣ることがある。一方、前記温度が300℃を超えると塗膜にクラックが入り易くなる。塗布膜の厚みは、塗膜としたときに既に述べたとおりの厚みになるように適宜調整される。
【実施例】
【0023】
[実施例1]
板厚0.8mmアルミめっき鋼板(アルミ付着量:両面で120g/m2)を防熱板の形状に加工した後、めっき表面をサンドブラスト処理により荒らした。その後、市販の無機系非粘着塗料「サーモロン」(色は白色。サーモロン・ジャパン製)をスプレー塗装により、乾燥膜厚が20μmとなるように塗装後、200℃で1時間乾燥焼付を行って、無機系非粘着塗膜が形成された防熱板を得た。色を白にしたのは下記の清掃性の評価で実際の家庭でのモニターの際に、使用している天板が白色の人造大理石であったため、その天板の色に合わせたためである。
【0024】
1)清掃性
このようにして得た防熱板をA4サイズにカットして、実際の家庭でキッチンのガスコンロの前にカット板を1ヶ月間置いてモニターを行い、清掃性の確認を行った。
その間一切防熱板の清掃は行わないで、1ヵ月後に性能評価した。
評価基準は以下のとおりとした。結果を表1に示す。
◎:水拭きだけで汚れが簡単に落ちる
○:中性洗剤を含ませたスポンジで洗浄して汚れが落ちる
△:中性洗剤を含ませたスポンジで一生懸命洗浄してようやく汚れが落ちる
×:中性洗剤を含ませたスポンジで一生懸命洗浄しても汚れが残る
【0025】
2)耐キズ付き性
金属たわしで防熱板表面を10回擦って、そのキズ付き度合いを目視で評価した。
評価基準は以下のとおりとした。結果を表1に示す。
◎:全くキズが付かない
○:キズがわずかに入る
△:キズがある程度入る
×:キズがはっきりと入る
【0026】
3)不燃性
火を試料表面に近づけて、試料が燃えないかどうか確認する。
評価基準は以下のとおりとした。結果を表1に示す。
◎:全く燃えない
△:ゆっくりじわじわと燃える
×:簡単にさっと燃える
【0027】
[比較例1]
板厚0.8mmSUS430鋼板ヘアライン材を防熱板の形状に加工した後、表面をサンドブラスト処理により荒らした。その後、2液型ウレタン系接着剤を塗布後、旭硝子製フッ素樹脂系ETFEフィルム(商品名「Fluon」厚み25μm、白色)を貼り合わせてフッ素フィルムを貼った防熱板を得た。
実施例1と同様にして試験片を切り出し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0028】
[比較例2]
板厚0.8mmSUS430鋼板ヘアライン材を防熱板の形状に加工して防熱板を得た。実施例1と同様にして試験片を切り出し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
上記結果から、本発明の防熱板は清掃性、耐キズ付き性、不燃性、意匠性に優れることが明らかである。
一方、比較例1のフッ素フィルムを貼った場合は、清掃性は優れるものの耐キズ付き性が劣ると共に、不燃性にも劣る。また、比較例2のステンレス裸材は清掃性に劣る共に耐キズ付き性、意匠性でも劣る。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の防熱板は、清掃性、耐キズ付き性、不燃性、意匠性にも優れるため、個人住宅用のシステムキッチンやセクショナルキッチン、業務用のキッチン等の調理器具前防熱板に好適である。調理具前防熱板としては、加熱器奥側に配設される衝立やキッチンパネル自体であったり、それら衝立やキッチンパネルが可燃性等の材質である場合には、それらと加熱器とを仕切ったり、覆ったりする部材として適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
調理器具前防熱板形状に加工された金属板からなる基材と、前記基材の上に設けられた無機系の非粘着性塗膜を含む調理器具前防熱板。
【請求項2】
前記基材は、冷延鋼板、亜鉛めっき鋼板やアルミめっき鋼板などの各種めっき鋼板、ステンレス鋼板、アルミ板である、請求項1に記載の調理器具前防熱板。
【請求項3】
前記無機系の非粘着性塗膜は、
(A)アルコキシシランまたはオルガノアルコキシシランの部分加水分解縮合物、と
(B)シリカ、および
(C)フロロシラン化合物、および
(D)着色顔料、をさらに含む、
請求項1または2のいずれかに記載の調理器具前防熱板。



【公開番号】特開2012−37173(P2012−37173A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179159(P2010−179159)
【出願日】平成22年8月10日(2010.8.10)
【出願人】(000002222)サンウエーブ工業株式会社 (196)
【Fターム(参考)】