説明

調理用防汚シート

【課題】耐切断性と作業性に優れ、防汚効果が高く容易に廃棄できる特徴を備えた調理用防汚シートを提供する。
【解決手段】調理用防汚シート1は、強吸水性を備える層2と弱吸水性を備える層4をそれぞれ少なくとも一層以上を有し、少なくとも食材の触れる側の表面を形成する外層として強吸水性を備える層が配置されていることを特徴とする調理用防汚シートであり、弱吸水性を備える層が耐切断性を、強吸水性を備える層ならびに弱吸水性を備える層とが紙でできていて、強吸水性を備える層と弱吸水性を備える層とを貼り合せて構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、まな板や調理台の上に敷き、獣肉や魚肉等食材を包丁で調理する際に血、汁、ヌメリ、臭いがまな板や調理台に付着することを防止するために用いられる調理用防汚シートに関する。
【背景技術】
【0002】
食材等の切断の際に使用されるまな板は食材の調理によって獣肉や魚肉等から血や汁、ヌメリ、においが付着して汚れるうえ、まな板の表面に生じた包丁の刃跡に血や汁が浸透するなどするため、まな板の衛生性を保つよう洗浄するのは困難で面倒である。こうしたまな板の汚れを軽減するため、新聞紙やキッチンペーパーをまな板の上に載せて調理することがあるが、包丁による裁断によって新聞紙やキッチンペーパーが破れたりするためにまな板を洗浄する手間はほとんど低減することはできなかった。こうした問題を解決すべく様々な技術が開発されている。
【0003】
たとえば、特許文献1では、汚れたまな板を洗う手間を省き、汚れる都度廃棄することを可能とするため、食材処理面及び裏面にプラスチックシートをラミネートし、中間層にパルプ紙を用いて構成されるまな板を提供している。
あるいは、特許文献2においては、耐切断性・剛性・耐寒性・防滑性をもつ使い捨てまな板として、シートをポリプロピレンで構成し表面に凹凸加工を施したまな板が記載されている。さらに、特許文献3では薄くて耐熱性・耐切断性に優れ、衛生的に使用できる使い捨てまな板シートとして、二つの蝋引き紙からなる外層と、この間に設けられた合成樹脂からなる中間層からなるシートが提案されている。
【0004】
包丁で調理する際の防汚シートとしては、調理する際に食材等が滑るなど作業性を低下させないことと、調理と同時に包丁により切断されない耐切断性が必要であり、食材や周囲から供給され得る水分等による耐切断性の低下や水分流出による汚染拡大の可能性を考慮する必要がある。さらに使い捨てによって簡易な使用を実現するためにはシートの易廃棄性が必要であり、この易廃棄性は易分別性と柔軟性によるものである。
【0005】
特許文献1においては、パルプ紙による耐切断性と、外層のプラスチックシートによる耐水性を備えているが、作業表面にプラスチック素材が配置されているため、食材等に由来する水分などが表面に滞留し調理時の作業性や防汚機能を低下させるといった問題があるうえに多種の素材から構成されていて分別が困難であり、易廃棄性が十分とは言い難い。
【0006】
また、特許文献2においては、耐切断性や耐水性、作業性に優れてはいるが、一方で耐切断性を実現するために厚みを増やす必要があり、剛性が高いために使い捨てシートとしての易廃棄性と経済性を実現できていない。さらに特許文献3では、蝋によって耐水性を付与しているために、温度によって蝋が溶解して耐水性が低下したり、水分の滞留によって食材等が滑るといった作業性の低下が起こり、さらに水分が流出して汚染が拡散する可能性が高く、防汚シートとしての機能が十分とはいえない。
【0007】
【特許文献1】特開2005−013294号公報
【特許文献2】特開2005−124897号公報
【特許文献3】実用新案登録第3112481号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、耐切断性と作業性に優れ、防汚効果が高く容易に廃棄できる特徴を備えた、まな板や調理台の上に敷き獣肉や魚肉等食材を包丁で調理する際に血、汁、ヌメリ、臭いがまな板や調理台に付着することを防止するために用いられる調理用防汚シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決するには、強吸水性を備える層と弱吸水性を備える層とをそれぞれ少なくとも一層以上有し、少なくとも食材が触れる側の表面を形成する外層として強吸水性を備える層が配置されていることが有効であることを見出し、本発明を成すに至った。
【0010】
すなわち、本発明は強吸水性を備える層と弱吸水性を備える層とをそれぞれ少なくとも一層以上有し、少なくとも食材が触れる側の表面を形成する外層として強吸水性を備える層が配置されていることを特徴とする調理用防汚シートである。
これらの層の吸水性は、強吸水性を備える層においては200s以上であり、弱吸水性を備える層においては600s以上であることは好ましい。
さらに、上記強吸水性を備える層及び上記弱吸水性を備える層が、紙でできていることは好ましい。
さらに、上記強吸水性を備える層と上記弱吸水性を備える層とが貼り合わせによって形成されていることは好ましい。
また、貼り合わせによって成型されている場合には、強吸水性を備える層が、坪量5〜90g/mであり、弱吸水性を備える層が、坪量100〜500g/mであることは好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、強吸水性を備える層と弱吸水性を備える層とをそれぞれ少なくとも一層以上有し、少なくとも食材が触れる側の表面を形成する外層として強吸水性を備える層が配置されているので、食材等に由来する水分を強吸水性を備える層が吸収分散し、弱吸水性を備える層への水分の浸透を阻害するため膨潤等による耐切断性の低下を抑制し、かつ作業表面の水分の滞留を抑制するため、作業性の低下や流出による汚染拡大を防ぐことができ、さらに耐切断性の低下がないことから素材全体を軽薄に構成できるため柔軟性を備え廃棄性に優れた調理用防汚シートを提供できる。
さらに、強吸水性を備える層ならびに弱吸水性を備える層それぞれが紙でできている場合、柔軟で耐切断性に優れ、分別や環境負担を低減し吸水能をさらに向上した調理用防汚シートを提供できる。
さらには、それぞれの層を別途製造した後、それらを貼り合せることによって形成することで、先に述べた様々な効果がさらに強化する。
また、それぞれの層を別途製造する際、上記強吸水性を備える層及び弱吸水性を備える層の坪量を規定することで、上記効果がさらに強化する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明について、以下具体的に説明する。
本発明に係るシートは、強吸水性を備える層と弱吸水性を備える層とをそれぞれ少なくとも一層以上有し、少なくとも食材が触れる側の表面を形成する外層として強吸水性を備える層が配置されていることからなる。
【0013】
ここで吸水性とは、JAPAN TAPPI紙パルプ試験法32−2の方法により定義され、緊張状態の試験片に0.1mLの水を直接滴下した場合に、滴下から試験片表面の水滴が完全に消失するまでの時間で表される。吸水性の強弱は相対的に定義されるものであるが、強吸水性を備える層の吸水性は、JAPAN TAPPI紙パルプ試験法32−2の方法により0.1mLの水を滴下した際、好ましくは200s以下であり、さらに好ましくは100s以下である。吸水性が200s以下であると、食材等に由来する水分を十分に吸収分散するため、作業性の低下や汚染拡大を防きやすくなる。さらに、弱吸水性を備える層への水分の浸透を阻害するため、耐切断性の低下を抑制しやすくなる。また、弱吸水性を備える層の吸水性は、JAPAN TAPPI紙パルプ試験法32−2の方法により0.1mLの水を滴下した際、好ましくは600s以上であり、さらに好ましくは1200s以上である。吸水性が600s以上であると、耐切断性の低下を抑制しやすくなる。
【0014】
強吸水性を備える層は少なくとも食材が触れる側の表面を形成する外層として配置されている必要があるが、より好ましくは食材が触れない側の表面を形成する外層としてあわせて配置されていてもよい。
これらの素材は、合成繊維や半天然繊維などから作られる不織布や、パルプを主とする紙などが適当であるが、紙に限定して形成することもできる。さらに、これらの層を多層漉きによって貼り合せることなく形成することもできるが、層ごとにそれぞれ製造されたものを樹脂などを用いて貼り合せることによって形を成すことも可能である。また、層の吸水性は、層の密度を増減して多孔性を付与したり、層を構成する素材や添加剤を選択することで調整できる。
【0015】
貼り合わせにより形成される場合、強吸水性を備えた層は坪量、厚みによらず使用することが出来るが、坪量は5〜90g/mであることが好ましく、さらに好ましくは10〜50g/mである。坪量が5g/m以上であると、水分の吸収分散性能を十分発揮して作業性の低下や汚染拡大防止効果、耐切断性維持の効果をもたらしやすくなる。坪量が90g/m以下であると、軽薄で柔軟性に優れた調理用防汚シートの形成が容易となる。また、弱吸水性を備えた層においては、厚みによらず使用することが出来るが、坪量は100〜500g/mであることが好ましく、より好ましくは150〜350g/mである。坪量が100g/m以上であると、十分な耐切断性を発揮し、作業台への汚れの付着を低減しやすい。坪量が500g/m以下であると、軽薄で柔軟性に優れた調理用防汚シートを形成しやすい。
【0016】
上記により成型されたシートを、適当な大きさに裁断すると同時に、圧力により凹凸加工を施すことで、耐切断性を維持しながら廃棄時の柔軟性を高め、まな板保護シートとしてより好適な形状を得ることも出来る。このとき、適当な大きさとは150〜450mmの長を持つ方形・円形・楕円形などが好ましい。
このシートは、強吸水性を備えた層を表面として食材を載せて使用される。防汚シートを置く場所は問わないが、まな板やキッチンの作業スペースなどの作業台において使用されることが望ましい。このシートは、紙で出来ている場合、包丁の刃こぼれも防止でき、また耐切断性に優れているので調理台若しくはまな板などに傷がつくことが防止できる。調理を終えた後は、シートをまな板や調理台の上からはがしてそのまま廃棄すればよい。
【実施例】
【0017】
本発明を実施例に基づいて説明する。しかしながら、本発明は斯かる実施例に制限されない。
[実施例1]
強吸水性を備えた層として、古紙を含まないパルプのみから抄紙された坪量30g/mのクレープ紙(吸水性:33s)を、弱吸水性を備えた層として、古紙を含まないパルプのみから抄紙された坪量200g/mの板紙(吸水性:600s)を用い、これらをポリエチレン樹脂によってサンドラミネートすることで貼り合せて形成し、調理用防汚シートを得た。
【0018】
[実施例2]
強吸水性を備えた層として、古紙を含まないパルプのみから抄紙された坪量90g/mのクレープ紙(吸水性:10s)を、弱吸水性を備えた層として、古紙を含まないパルプのみから抄紙された坪量500g/mの板紙(吸水性:1200s)を用い、これらをポリエチレン樹脂によってサンドラミネートすることで貼り合せて形成し、調理用防汚シートを得た。
【0019】
[実施例3]
強吸水性を備えた層として、古紙を含まないパルプのみから抄紙された坪量5g/mのクレープ紙(吸水性:200s)を、弱吸水性を備えた層として、古紙を含まないパルプのみから抄紙された坪量100g/mの板紙(吸水性:>3600s)を用い、これらをポリエチレン樹脂によってサンドラミネートすることで貼り合せて形成し、調理用防汚シートを得た。
【0020】
[実施例4]
古紙を含まないパルプのみから抄紙された坪量5g/mの板紙(吸水性:10s)と古紙を含まないパルプのみから抄紙された坪量600g/mの板紙(吸水性:>3600s)を用い、これらをポリエチレン樹脂によってサンドラミネートすることで貼り合せて形成し、調理用防汚シートを得た。
【0021】
[比較例1]
古紙を含まないパルプのみから抄紙された坪量30g/mの板紙(吸水性:600s)と古紙を含まないパルプのみから抄紙された坪量200g/mの板紙(吸水性:600s)を用い、これらをポリエチレン樹脂によってサンドラミネートすることで貼り合せて形成し、調理用防汚シートを得た。
【0022】
[比較例2]
古紙を含まないパルプのみから抄紙された坪量90g/mの板紙(吸水性:1200s)と古紙を含まないパルプのみから抄紙された坪量500g/mの板紙(吸水性:1200s)を用い、これらをポリエチレン樹脂によってサンドラミネートすることで貼り合せて形成し、調理用防汚シートを得た。
【0023】
[比較例3]
古紙を含まないパルプのみから抄紙された坪量5g/mの板紙(吸水性:1200s)と古紙を含まないパルプのみから抄紙された坪量100g/mの板紙(吸水性:400s)を用い、これらをポリエチレン樹脂によってサンドラミネートすることで貼り合せて形成し、調理用防汚シートを得た。
以上の実施例及び比較例における紙の種類、坪量及び吸水性を表1にまとめた。
【0024】
[性能評価]
実施例及び比較例で得られたシートについて、以下の方法で調理用防汚シートの適応性を評価した。その結果を表2に示す。
<耐切断性>まな板の上にシートを敷き、その上で鯵・鶏モモ肉・イカを捌いたあとのシートの状態を観察した。20人のモニターで行い、各モニターにはそれぞれのシートを各食材ごとに一枚ずつ使用させた。シートが切断されなかったモニターが19人ないしは20人である場合を◎、18〜15人の場合を○、15〜10人の場合を△、9人以下の場合を×として評価した。
【0025】
<防汚性能>
まな板の上にシートを敷き、その上で鯵・鶏モモ肉・イカを捌いたあとのまな板の汚れを観察した。20人のモニターで行い、各モニターにはそれぞれのシートを各食材ごとに一枚ずつ使用させた。まな板に汚れがついていないモニターが19人ないしは20人である場合を◎、18〜15人の場合を○、15〜10人の場合を△、9人以下の場合を×として評価した。
<食材の滑り性>
シートにイカをおき、その上に200gの加重をかけ、テクスチャーアナライザー(Stable Micro Systems社製 TA-XT2i)にて引っ張った際の荷重を測定した。その値が大きいほど滑りにくく作業しやすい。
<柔軟性>
まな板の上にシートを敷き、その上で鶏モモ肉を捌いたあとのシートが柔軟で廃棄しやすいかをモニターに回答させた。20人のモニターで行い、柔軟で廃棄しやすいと回答したモニターが19人ないしは20人である場合を◎、18〜15人の場合を○、15〜10人の場合を△、9人以下の場合を×として評価した。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
表2に示す結果から明らかなように、実施例の調理用防汚シート(本発明品)によれば、耐切断性に優れていることがわかる。またこれに起因し、あるいは強吸水性に起因してまな板の汚れはほとんど改善されている。さらに、食材が滑らずに安定して作業できるため、調理の作業性が良好になることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、まな板や調理台の上に敷き、獣肉や魚肉等食材を包丁で調理する際に血、汁、ヌメリ、臭いがまな板や調理台に付着することを防止するために用いられる調理用防汚シートとして好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例1の調理用防汚シートの縦断面を示す模式図。
【図2】実施例1の調理用防汚シートの使用状態を示す模式図。
【符号の説明】
【0031】
1 調理用防汚シート
2 強吸水性を備えた層
3 ポリエチレン樹脂
4 弱吸水性を備えた層
5 まな板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強吸水性を備える層と弱吸水性を備える層とをそれぞれ少なくとも一層以上有し、少なくとも食材が触れる側の表面を形成する外層として強吸水性を備える層が配置されていることを特徴とする調理用防汚シート。
【請求項2】
強吸水性を備える層の吸水性が200s以下であり、弱吸水性を備える層の吸水性が600s以上であることを特徴とする請求項1記載の調理用防汚シート。
【請求項3】
上記強吸水性を備える層及び上記弱吸水性を備える層が、紙でできていることを特徴とする請求項1または2記載の調理用防汚シート。
【請求項4】
上記強吸水性を備える層と上記弱吸水性を備える層とが貼り合わせによって形成されていることを特徴とする請求項1から3いずれかに記載の調理用防汚シート。
【請求項5】
上記強吸水性を備える層が、坪量5〜90g/mであり、弱吸水性を備える層が、坪量100〜500g/mであることを特徴とする請求項4記載の調理用防汚シート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−11444(P2009−11444A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−174157(P2007−174157)
【出願日】平成19年7月2日(2007.7.2)
【出願人】(390017949)旭化成ホームプロダクツ株式会社 (56)
【Fターム(参考)】