説明

調節可能イオン光学素子を備える電気セクタ飛行時間型質量分析計

本発明は、飛行時間型(TOF)質量分析法(200)を実施するための装置および方法を提供する。本発明のTOF質量分析計は、1個または複数のイオン収束電気セクタ(250、350、450および550)を備える。少なくとも1個の電気セクタは、イオン光学素子(266、267)と結合する。イオン光学素子(266、267)は、少なくとも1個の調節可能な電極を備え、該調節可能な電極(260、261)は、イオン光学素子が結合される電気セクタ(250、350、450および550)に入るか(70)、または出て行く(72)イオンに印加される電位を変更することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2002年9月24日に出願された米国仮特許出願第60/413,406号の利益を主張する米国特許出願第10/424,351号の継続出願であり、この特許出願の開示事項は、引用することにより本明細書に援用する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は化学および生化学分析の分野であり、特に、飛行時間型質量分析法により解像度と感度が改善された検体検出装置および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
飛行時間型(TOF)質量分析法は、1946年における着想以来、目覚しい発展を遂げた。現在、TOF質量分析法は広く使用されている技術であり、大きい生体分子の分子量の決定に特に有用である。TOF質量分析法による質量分析は、時間に依存して変化する磁界間電界を必要としないため、質量分析は、広い質量範囲で比較的小さい時間ウィンドウで実施することができる。
【0004】
TOF質量分析計は、最も単純な形式では、少なくとも3個の主要構成部品であるイオン源と、TOF質量分析計と、イオン検出器とを備える。イオン源では、サンプルからの分子は、一般に高エネルギー衝撃により揮発性イオンに転換される。各々のイオンは、イオンの質量電荷比、つまりm/zにより特徴付けられる。したがって、イオン源は、質量が異なる分子を含むサンプルから、各々の種が特徴的なm/zを有する複数のイオン種を生成する。
【0005】
イオン化後、適切な極性のイオンは、電界により最終速度まで加速し、自由飛行領域に入る。この加速および抽出は、ほぼ一定の運動エネルギーを各々のイオンに与える。したがって、各々のイオンは、イオンの質量の平方根に逆比例する加速後に、最終速度に達する。したがって、比較的軽いイオンは、比較的重いイオンより高速度を有する。
【0006】
自由飛行中、質量が異なるイオンは、それぞれの速度が異なる結果として分離する。イオンは、自由飛行領域を横断した後、イオン検出構成部品に到達する。イオンがこの距離を横断するのに要する時間は、飛行時間(TOF)として周知されており、イオンの質量を計算するために使用される。この方法では、飛行時間スペクトルは、元のサンプルの質量スペクトルに変換される。
【0007】
正確に同じ質量および運動エネルギーを有するイオンは、非常に小さい塊として自由飛行領域を横断する。この塊は、イオン検出器に到達して、その内部に存在するすべてのイオンについて本質的に単一のTOFを有するとしてイオン検出器により記録される。この最適なシナリオでは、質量の決定は、類似質量の異なるイオンを識別する能力、つまり質量分解能として周知されている特性と同様、非常に正確かつ敏感である。
【0008】
しかし、実際上、TOF質量分析計を使用して、こうした最適な状況を達成することは困難である。いくつかの確率的要素は相まって、イオン源内に形成されたイオンに対して、ある分布のエネルギーを与える。この分布は、イオンが最初に形成される時のイオン間の不均質性、たとえばイオンの熱エネルギー、速度、空間位置、または形成時間の差などにより生じる。その結果、同一イオンの塊は自由飛行領域内に分散し、したがって比較的広い飛行時間でイオン検出器に到達する。こうした比較的広い分布は、質量スペクトルの正確さ、感度および解像度を低下させる。したがって、結果として得られる質量スペクトルは、イオン質量の正確な決定が難しい質量スペクトルであり、重複信号の結果、類似しているが同じではない質量のイオンを溶解させる能力の場合と同様である。こうした問題は、TOF質量分析計の正確さおよび有用性に重大な制約を課してきた。
【0009】
一般にイオン収束として公知の様々な技術が説明されているが、これらは、自由飛行中のイオンの質量依存分散を相殺しようと試みるものである。こうした収束技術のいくつか、たとえば遅延収束、ポストソース収束、および動的パルス収束は、イオン加速時に電界を処理する。その他の方法としては、イオン収束を行なうイオンミラーまたは反射が挙げられ、この場合、飛行経路長を変更して、比較的高エネルギーイオンが比例的に長い経路を移動するようにする。しかし、こうした技術は、限られた質量範囲のイオンの収束に限定される。
【0010】
もう1つのイオン収束技術は、電気セクタにより提供される曲線状偏向電界を使用する。米国特許第3,576,992号(ムアマン(Moorman)等)および第3,863,068号(ポッシェンリーダー(Poschenrieder))は、電気セクタを使用するイオン収束について説明している。電気セクタは、電子プレートの曲線状対を備え、これらのプレートの間に偏向電界を有する。イオンは電気セクタに入って、電界内の曲線状経路をたどるように、電界により偏向された後に出て行く。イオン収束は、エネルギーが異なるイオンが電気セクタ内の異なる経路をたどるために生じる。比較的高エネルギーのイオンは、比較的低エネルギーのイオンに比べて比較的低い角速度で、比較的長い曲線状経路をたどる。したがって、比較的高エネルギーのイオンは、比較的低エネルギーのイオンに比べて、電気セクタを横断するためにより多くの時間を要し、これは、線形自由飛行領域内における質量解像度の分散および損失に対向するものであり、したがってこれらを相殺する傾向がある。イオン飛行経路を電気セクタと自由飛行領域との間に適切に分布させると、イオン収束は、比較的高い質量解像度および感度を有するTOF質量スペクトルを生じる。
【0011】
その他の強化は、ポッシェンリーダー(Poschenrieder)および他の文献に見られる(T.サクライ(T.Sakurai)等の「複数対称の飛行時間型質量分析計に関するイオン光学」(Ion Optics For Time−Of−Flight Mass Spectrometers With Multiple Symmetry)、Int.J.Mass.Spectrom.Ion Proc.63、p.273−287(1985年);T.サクライ(T.Sakurai)等の「新奇な飛行時間型質量分析計」(A New Time−Of−Flight Mass Spectormeters)、Int.J.Mass.Spectrom.Ion Proc.66、p.283−290(1985年))。複数の電気セクタは直列に配列され、各々の電気セクタは、単一のイオン飛行経路を順次偏向および収束させる。また、この配列は、各々の電気セクタに先行および追随する複数の自由飛行領域を可能にする。さらに、複数の電気セクタは、エネルギーおよび空間収束を改善するコンパクトな対称配列で配列される。こうしたコンパクトな性質は、イオン飛行経路の全長が、著しく小さい寸法の空間内に含まれ、その結果、装置内の貴重な空間を節約することができるという点でさらに有利である。
【0012】
TOF質量分析法における電気セクタの特定の利益について証明してきたが、これらの電気セクタの使用は、いくつかの不利益により依然として限られている。1つには、電気セクタのイオン収束能力は、その電界特性および物理的パラメーターに高度に依存し、これらに対して敏感だからである。これらのパラメーターにおける小さい偏差は、イオン収束能力に大いに影響する可能性がある。したがって、電気セクタは、所望の結果を達成するように構成および設置することが難しい。さらに、電気セクタを構成および設置後に、機械的手段によりこれらのパラメーターを変更または修正することも著しく困難である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、イオン収束電気セクタによりTOF質量分析法を実施するための装置および方法を提供し、質量スペクトルの質量解像度および/または感度を改善することが望ましい。
【0014】
また、電気セクタのイオン収束特性が容易に調節可能であり、その結果、TOF質量分析計を調整して、質量解像度または感度を改善することが可能であるように、イオン収束電気セクタによりTOF質量分析法を実施するための装置および方法を提供することも望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(発明の開示)
本発明は、1個または複数の電気セクタを有する飛行時間型質量分析計を提供することにより、上記およびその他の必要性を解決する。少なくとも1個の電気セクタは、1個または複数のイオン光学素子と結合する。イオン光学素子は、電気セクタの入口または出口の一方または両方に配置され、光学素子が結合された電気セクタに出入りするイオンに印加される電位を変更する。各々のイオン光学素子は、トリム電極の電位が調節可能な少なくとも1個のトリム電極を備える。さらに、各々のトリム電極は、調節可能な他のトリム電極および電気セクタに対して単独で調節可能である。したがって、調節可能な各々のトリム電極は、電気セクタ自体の比較的難しい機械的調節または変更を必要とせずに、トリム電極を使って電気セクタのイオン収束特性を変更するための追加の自由度を提供する。
【0016】
本発明のもう1つの実施態様では、TOF質量分析計は、さらに、複数の電気セクタの対称配列を備える。電気セクタの配列は、イオンを相応に対称な飛行経路内に偏向させ、その結果追加のイオン収束能力をコンパクトな空間に提供する。少なくとも1個の電気セクタは、1個または複数のイオン光学素子に結合する。各々のイオン光学素子は、上記のとおり、少なくとも1個の単独で調節可能なトリム電極を備える。
【0017】
もう1つの態様では、本発明のTOF質量分析計を調整して、結果として得られる質量スペクトルの質量解像度または感度を改善する方法を提供する。この調整は、内部に存在する1個または複数のイオン光学素子の調節可能なトリム電極を調節し、それにより質量分析計のイオン収束特性を変更して行なわれる。この調節が質量スペクトルに与える影響の観察および比較は、所望の質量スペクトルが達成されるまで、さらに他のトリム電極の調節を案内するために使用することができる。
【0018】
本発明は、イオンの飛行経路を画定し、イオン入口およびイオン出口を有するイオン飛行経路手段と、イオン源からイオン飛行経路手段のイオン入口に入るパルスを加速するための手段を備えるイオン源と、検出したイオンの飛行時間スペクトルを記録するための手段とを備える飛行時間型質量分析計を提供する。イオン飛行経路手段は、少なくとも1つの無電解領域と、各々の電気セクタが入口および出口を有する少なくとも1個の電気セクタと、少なくとも1個の電気セクタに結合する少なくとも1個のイオン光学素子であって、各イオン光学素子が、電気セクタに出入りするイオンに印加される電位を変更するイオン光学素子とを備える。
【0019】
本発明の特定の実施態様では、イオン光学素子は、1個のアインツェルレンズおよび/または少なくとも1個の調節可能なトリム電極を備え、トリム電極は、電界に出入りするイオンに印加される電位を調節可能に変更する。調節可能なトリム電極は、電気セクタの入口と出口との間に配置される。一般に、トリム電極は、1対または複数対のトリム電極を備え、各対のトリム電極は、電気セクタの入口または出口に結合される。トリム電極の対は、イオンが2個のトリム電極間を通過するように配置される。
【0020】
特定の実施態様では、質量分析計は、複数の電気セクタ、好ましくは4個の電気セクタであって、無電解領域が各々の電気セクタを分離する電気セクタを備える。一般に、各々の電気セクタは、約270°の偏向角度を有する。質量分析計は、最初の電気セクタの前および最後の電気セクタの後に無電解領域を含む。
【0021】
特定の実施態様では、本発明の質量分析計は複数の電気セクタであって、調節可能なトリム電極が第1および第2対の調節可能なトリム電極を備え、各々の対が、イオンが当該対の調節可能なトリム電極間を通過するように配置され、第1対がイオン飛行経路のイオン入口に最も近い電気セクタの入口に結合され、第2対が、イオン飛行経路のイオン出口に最も近い電気セクタの出口に結合される電気セクタを備える。
【0022】
特定の実施態様では、イオン源は、レーザ脱離/イオン化手段、化学イオン化手段、電子衝撃イオン化手段、光イオン化手段、または電気スプレーイオン化手段を備える。イオン源は、1つもしくは複数の質量もしくは質量範囲、またはその部分のイオン、たとえば四重極イオントラップまたは線形イオントラップのイオンを選択的に提供するための手段も備える。
【0023】
特定の実施態様では、イオンのパルスを加速する手段は、イオンの形成後に印加される電圧パルスを含む。イオン源は、一群のイオンをパルス化または連続イオンビームからビームの方向に実質的に垂直な方向に抽出する手段を備える。
【0024】
特定の実施態様では、質量分析計は、アパーチャを有する少なくとも1個のヘルツォグシャントを備え、ヘルツォグシャントは、イオンがアパーチャを通過するように電気セクタの入口または出口と結合される。もう1つの実施態様では、質量分析計は、少なくとも1個の電気セクタを囲む囲いを備える。囲いは、ヘルツォグシャントとして機能するように構成された少なくとも1個のアパーチャを含む。
【0025】
特定の実施態様では、本発明は、トリム電極を調節するように構成された制御システムであって、調節が、電気セクタに出入りするイオンに印加される電位を変更する制御システムをさらに備える。制御システムは、ソフトウェアプログラムを含む。
【0026】
本発明は、飛行時間型質量分析計を調整するための方法も提供する。この方法は、本発明の質量分析計を提供し、第1設定でイオン検出の解像度または感度を決定し、第2設定でイオン検出の解像度または感度を決定し、イオン検出の解像度または感度が第2設定で改善されたかまたは低下したかを決定することを含む。第1設定におけるイオン検出の解像度または感度は、電位を少なくとも1個の調節可能なトリム電極に印加し、イオン源から第1質量スペクトルのイオンを取得し、第1質量スペクトルから検出の解像度または感度を決定することにより決定される。第2設定における解像度または感度は、少なくとも1個の調節可能なトリム電極に印加される電位を調節し、イオン源から第2質量スペクトルのイオンを取得し、第2質量スペクトルから検出の解像度または感度を決定することにより決定する。
【0027】
解像度または感度が第2設定で低下したと決定される場合、この方法は、第3設定におけるイオン検出の解像度または感度を決定し、イオン検出の解像度または感度が第3設定で改善されたかまたは低下したかを決定することをさらに含む。第3設定におけるイオン検出の解像度または感度は、少なくとも1個の調節可能なトリム電極に対して、第2設定の調節に対向する方向に印加される電位を調節し、イオン源から第3質量スペクトルのイオンを取得し、第3質量スペクトルから検出の解像度または感度を決定することにより決定される。
【0028】
解像度または感度が第2設定で改善されたと決定された場合、第3設定におけるイオン検出の解像度または感度は、代わりに、少なくとも1個の調節可能な電極に印加される電位を第2設定の調節と同じ方向に調節し、イオン源から第3質量スペクトルのイオンを取得し、第3質量スペクトルから決定の解像度または感度を決定することにより決定される。
【0029】
本発明の上記およびその他の目的および利益は、以下の詳細な説明を添付の図面に関連して考察すると明白になるであろう。図中、同じ参照符号は、全体的に同じ部品を意味する。
【0030】
(発明の詳細な説明)
(定義)
本明細書で使用する場合、特に以下に記載する用語は、次の定義を有する。別段の定義がない限り、本明細書で使用するすべての用語は、本発明が関連する技術の当業者が通常理解する意味を有する。
【0031】
「イオン源」は、複数のイオンをサンプルから生成して抽出するのに適する質量分析計の構成部品を意味する。イオン源は、図1および図10に参照符号110で指示され、図3に参照符号210で指示する。
【0032】
「イオン飛行経路」は、質量分析計内において「イオン入口」と「イオン出口」との間でイオンが取る経路を意味する。イオン飛行経路は、図1および図10の参照符号50、52および54、並びに図3の参照符号60により指示する経路など、基準イオンがたどる経路により実証される。
【0033】
「イオン飛行経路手段」は、イオン飛行経路を画定する質量分析計の構成部品を意味する。イオン飛行経路手段は、イオン入口およびイオン出口を有し、少なくとも1個のイオン光学素子を備える。図1および図10の例示的なイオン飛行経路手段は、自由飛行領域120および125、電気セクタ150、並びにイオン光学素子166および167を備える。図3に示す実施態様のイオン飛行経路手段は、自由飛行領域220、222、224、226および228、電気セクタ250、350、450および550、並びに電気セクタに結合するイオン光学素子を備える。
【0034】
「無電解領域」は、イオンが線形または角加速せずに移動することが可能なイオン飛行経路の1個または複数のセグメントを意味する。無電解領域は、図1および図10に参照符号120および125により指示され、図3に参照符号220、222、224、226および228で指示する。
【0035】
「電気セクタ」は、イオン飛行経路の曲線状偏向領域を画定する質量分析計の構成部品を意味する。電気セクタは、イオンを偏向させて、イオンが角加速により曲線状経路をたどるように構成された電界を間に有する2個の偏向電極を備える。電気セクタは、たとえば参照符号150、250、350、450および550により図示する。
【0036】
「イオン光学素子」は、イオン飛行経路内でイオンに印加される電位を変更するように構成された電気セクタとは別個の質量分析計の構成部品を意味する。イオン光学素子が電気セクタに接続する場合、電位の変更は、イオンが電気セクタに入るか、電気セクタから出るか、または電気セクタを通過する時に、電気セクタに課される。イオン光学素子は、たとえば図1および図10の参照符号166および167、並びに図3、図5Aおよび図5Bの参照符号266および267により指示される。
【0037】
「イオン検出器」は、イオン飛行経路から出た後のイオンを検出するのに適する質量分析計の構成部品を意味する。到着するイオンの検出は、イオンの飛行時間型を決定するために使用される。図示の目的上、イオン検出器は、図1および図10に参照符号180で指示し、図3に参照符号280で指示する。
【0038】
「トリム電極」は、イオン飛行経路上でイオンに印加される電位を変更するように構成されたイオン光学素子の1個または複数の構成部品を意味する。本発明は、調節可能なトリム電極を備える。実例となるトリム電極は、図1および図10に参照符号160〜163で指示し、図3、図5Aおよび図5Bに参照符号260〜263で指示する。
【0039】
「部分」は、分子イオンの分解から生じるイオンを意味する。部分は、サンプルのイオン化時またはイオン化後に形成される。
【0040】
「偏向角度」は、電気セクタのアークがスパする角度を意味し、該角度上でイオン飛行経路上のイオンが偏向される。たとえば、図1および図10の電気セクタの偏向角度は約180°であり、図3の各電気セクタの偏向角度は約270°である。
【0041】
「イオントラップ」は、イオン源内に形成されたイオンを抽出する前にトラップするのに適するイオン源の構成部品を意味する。イオントラップは、1つまたは複数の質量もしくは質量範囲、またはその部分のイオンを選択的にトラップして提供するように構成された電界を使用する。イオントラップは、四重極イオントラップおよび線形イオントラップを含む。
【0042】
「ヘルツォグシャント」は、電気セクタの端子電界を制限するのに適する質量分析計内の構成部品または構造を意味する。ヘルツォグシャントは、イオン飛行経路が貫通することを可能にするアパーチャを有する。実例となるヘルツォグシャントは、図1および図10に参照符号170および171で指示され、図3、図5Aおよび図5Bに参照符号270および275で指示される。図10にそれぞれ参照符号370および375〜376で指示される囲いおよびアパーチャも、ヘルツォグシャントとして機能する。
【0043】
「アインツェルレンズ」は、イオンの放射状分布をイオン飛行経路上に収束させるのに適する1個または複数の電極を備えるイオン光学素子の構成部品である。
【0044】
「解像度」は、類似しているが同じではない質量のイオンを別個の信号として、および/または測定した質量の信号の幅を決定された質量の比として識別する能力を意味する。
【0045】
「感度」は、スペクトルのノイズ上の信号を検出および識別し、信号を検出するのに必要な最小量のサンプルを確立する能力である。
【0046】
「正確さ」は、構成された質量分析計が、イオンの予測質量に近いイオンの質量値を提供する能力を意味する。
【0047】
「スペクトル範囲」は、分析計が質量範囲および/または飛行時間をスペクトル内の特定のサンプルから検出して測定することができる範囲を意味する。質量スペクトルのスペクトル範囲外のイオンは、一般に検出不能である。
【0048】
(本発明の説明)
本発明の装置では、別個に容易に調節可能なトリム電極を備えるイオン光学素子は、電気セクタを通過するイオンに印加される電位を変更する追加の自由度を提供する。このようにして、電気セクタのイオン収束特性も、別個に容易に調節可能であり、電気セクタ自体の難しい機械的変更または調節を必要としない。したがって、本発明のイオン光学素子は、TOF質量分析計装置の性能およびその使用方法を著しく改善する。
【0049】
図1を参照すると、装置100は、上断面図で示されている本発明によるTOF質量分析計を備える。断面は、基準イオンが貫通する飛行経路50により画定される平面を通って取得する。装置100は、イオン源110、自由飛行領域120および125、電気セクタ150、イオン光学素子166および167、ヘルツォグシャント170および171、並びにイオン検出器180を備える。TOF質量分析計の一般的な動作時、イオンは、イオン源110内に生成されて加速され、自由飛行領域120内で分離し、シャント170のアパーチャ175を通過し、イオン光学素子166の対のトリム電極160および161間を通過し、入口開口部156から電気セクタ150に入る。外側および内側偏向電極154および152はそれぞれ、イオンを曲線状経路内に偏向させる偏向電界を間に形成する。次に、イオンは出口開口部158から出て行き、イオン光学素子167の対のトリム電極162および163間を通過し、シャント171のアパーチャ176を通過して、自由飛行領域125内で分離し、イオン検出器180に到達時に検出される。飛行経路50は基準イオンの経路だが、飛行経路52および54は、基準イオンの角度よりわずかに大きいかまたは小さい角度でイオン源110を離れるイオンが取る経路の略図である。
【0050】
したがって、イオン飛行経路は装置100内に画定され、飛行経路50は代表的な実施例である。飛行経路50は、自由飛行領域120に接続するイオン源110が、イオンを飛行経路50に入れるイオン入口40を備える。これに対して、飛行経路50はさらにイオン出口42を備え、イオンは、自由飛行領域125に接続するイオン検出器180に到達した後、イオン出口42において飛行経路50から出て行く。
【0051】
イオン源110は、先行技術で公知のイオン生成手段を備え、こうした生成手段としては、比較的小さい体積内で比較的短時間で複数のイオンを生成するために先行技術で公知の手段または方法の何れかを含む。また、イオンのパルスを生成するために先行技術で公知の手段または方法であって、イオンのパルスは、イオンが比較的小さい体積内で比較的短時間で生成されたイオンであるような外観を有し、そのようなイオンとして挙動する手段または方法も含まれる。イオン源110は、連続またはパルス状の方法でイオンを形成する手段を含む。イオン源は、四重極イオントラップまたは線形イオントラップのように、イオンを濃縮するための手段も含む。
【0052】
イオン源110は、たとえば、固体表面と相互作用するパルス化レーザ、小さい体積内で気体をイオンするパルス化収束レーザ、または気体または固体表面と相互作用するパルス化電子またはイオンビームを使用する手段を含む。もう1つの実施例では、イオン源110は、イオンのパルスを生成するための手段であって、狭いスリット上に渡される連続イオンビームの迅速な掃引を使用し、イオンの短時間のパルスが、イオンビームが通過する時に、スリットを通過するイオンにより生成される手段を使用する。イオン源110は、電気スプレーイオン化、レーザ脱離/イオン化(「LDI」)、マトリックス支援レーザ脱離/イオン化(「MALDI」)、表面強化レーザ脱離/イオン化(「SELDI」)、表面強化ニート脱離(「SEND」)、高速原子衝撃、表面強化感光付着および解放、パルス化イオン抽出、プラズマ脱離、多光子イオン化、電子衝撃イオン化、誘導結合プラズマ、化学イオン化、大気圧化学イオン化、高温源イオン化などを使用するが、これらの使用だけに限らない。
【0053】
さらに、イオン源110は、1つもしくは複数の質量もしくは質量範囲のイオン、またはその部分を選択的に提供する手段も含む。こうした手段は、本発明のTOF質量分析計を複数の分析器、たとえば磁気セクタ、静電分析器、イオントラップ、四重極イオントラップ、四重極質量フィルタ、およびTOFデバイスと直列に結合することにより得られる。
【0054】
イオン源110は、イオン飛行経路のイオン源からイオン入口40までのイオン抽出または加速手段も含む。抽出方法は、イオン源110内に生成されるイオンビームに平行または直角である。さらに、イオンの抽出または加速は、イオンの形成後に、たとえば電圧パルスの印加により行なわれる。
【0055】
同様に、イオン検出器180は、イオンを検出して信号を増幅するための手段を備えるが、こうした手段は公知であり、以下で詳細には説明しない。たとえば、イオン検出器180は、連続電子増倍管、分離ダイノード電子増倍管、シンチレーションカウンタ、ファラデーカップ、光電子増倍管などを含む。イオン検出器180は、内部で検出されたイオンを記録するための手段、たとえばコンピュータまたはその他の電子装置も含む。
【0056】
電気セクタ150は、内側偏向電極152および外側偏向電極154を備える。図2を参照すると、電気セクタ150の入口開口部156は、イオン飛行経路が図の平面にほぼ垂直になるように示されている。図示のとおり、電気セクタは、それぞれ上部および下部マツダプレート190および192をさらに備える。好ましい実施態様では、両方の偏向電極は、外側電極154が内側電極152より大きい半径を有する円筒状部分である。別法によると、静電プレートは、トロイダルまたは球状部分など、その他の形態に適合する。別法によるその他の実施態様は、内側および外側プレートの半径が実質的に同じであり、したがって、トロイダル部分を使用する場合などは上部および下部で収束する電子プレートを含む。マツダプレート190および192は、プレート自体が、電気セクタ150を移動するイオンをさらに閉じ込めるように構成される電極であり、そのため、イオンが電気セクタの上部または下部から出て行くのを防止し、電気セクタのイオン伝達歩留まりを増加させる。
【0057】
再び図1を参照すると、入口のヘルツォグシャント170および出口のヘルツォグシャント171は、電気セクタ150のそれぞれの開口部に配置される。これらのヘルツォグシャントは、電気セクタ内の平均電位とほぼ同じ電位を有する電極である。ヘルツォグシャントの目的は、先行技術で公知のとおり、電気セクタの電界をできるだけその開口部に近く終了させ、理想的な偏向電界に近づけることである。さらに、イオンが、ヘルツォグシャントのアパーチャ175および176を通過する時、アパーチャは、イオンが電気セクタに出入りする時に、イオンの軌跡が比較的狭い範囲になるように選択するのに役立つ。ヘルツォグシャントのアパーチャ175および176の形状は、これらのアパーチャが結合される電気セクタの開口部の形状に適合することが好ましい。たとえば、内側電極152および外側電極154が円筒状部分である実施態様では、入口開口部156または出口開口部158に結合されるヘルツォグシャントのアパーチャの好ましい形状は、共形的に矩形である。ヘルツォグシャントのアパーチャは、シャントが結合される電気セクタの入口開口部または出口開口部より小さい寸法を有する。
【0058】
イオン光学素子166は、電気セクタ150と結合されて、入口開口部156に配置される。同様に、イオン光学素子167は、出口開口部158に配置される。イオン光学素子166は1対のトリム電極160および161を備え、同様に、素子167はトリム電極162および163を備える。両方の対のトリム電極は、飛行経路50が対のトリム電極の間を通過することを可能にする。特定のイオン光学素子のトリム電極の対は、イオン光学素子が結合する電気セクタの入口または出口の内側電極と外側電極との分離部分より小さい距離で分離されることが好ましい。各々のトリム電極は、調節可能なトリム電極の他のトリム電極、および偏向電極152および154に対して別個に調節可能な電位を有する。したがって、各々の調節可能なトリム電極は、電気セクタ150のイオン収束特性を調節するための追加の自由度を提供する。
【0059】
ヘルツォグシャントのアパーチャと同様に、トリム電極の内縁は、トリム電極が結合する電気セクタの開口部の形状に適合することが好ましい。たとえば、図1に示す実施態様では、トリム電極160の内縁は、外側偏向電極154の内縁の形状に適合することが好ましい。その他のトリム電極の内縁は、それぞれの電気セクタの開口部に相応に適合する。
【0060】
1対のトリム電極(イオン光学素子を形成する)およびヘルツォグシャントが特定の電気セクタの開口部(入口または出口)に結合される実施態様では、内側および外側電気セクタの電極の分離は、上記のとおり、トリム電極の対を分離する距離より大きいことが好ましい。また同様に、トリム電極間の分離距離も、トリム電極が結合されるヘルツォグシャントのアパーチャの幅より大きいことが好ましい。
【0061】
トリム電極を備える本発明のイオン光学素子は、イオンが電気セクタに出入りする時に、イオン飛行経路内のイオンに印加される電位を変更する手段を提供する。本発明のトリム電極は、調節可能な電位を提供するための手段を提供する。たとえば、イオン光学素子166および167を電気セクタ150の開口部およびイオン飛行経路50に対して図示のように配置することにより、各々の素子は、イオンが電気セクタ150に出入りする時にイオンに印加される電位に影響を与えることが可能である。したがって、イオン光学素子の電位を調節すると、イオンに印加される電位が相応に変化する。こうした調節は、ヘルツォグシャント170および171または偏向電極152および154の電位を調節することなく行なわれる。この方法では、電気セクタ150のイオン光学特性に応じて微妙な調節を容易かつ有利に行なうことができ、電気セクタ自体を直接調節する必要はない。イオン光学素子により得られる利益の例について、以下で説明する。
【0062】
本発明のイオン光学素子は、他のイオン光学特性に著しい影響を与えずに、電気セクタ150の偏向角度を変更するために使用される。先行技術の飛行時間型質量分析計の電気セクタは、出入りするイオンに印加される電位を選択的または具体的に変更する何らかの手段を含まない。偏向電極152または154の電位の変更は、全体の電気セクタのイオン光学特性を変化させ、したがって入口開口部156または出口開口部158における電界に限定されない。詳細には、偏向電極152または154を調節すると、電気セクタが選択するように構成されるイオン収束特性およびエネルギー範囲に著しい影響を与えるであろう。本発明のイオン光学素子166および167を調節して、イオンの偏向を増加または減少させると、電気セクタのその他の特性を著しく変更することなく、偏向角度をより微妙に、より容易に調節することが可能である。
【0063】
本発明の装置のイオン光学素子により提供されるもう1つの利益は、電気セクタ150のイオン収束特性を変更することである。たとえば、出口開口部158においてイオン光学素子167を調節することは(等しい非ゼロ電位をトリム電極162および163に印加することにより)、飛行経路54および飛行経路52に類似する飛行経路を有するイオンが、飛行経路の出口42付近を横断または交差する地点の位置を変更するために使用される。飛行経路のこうした変更により、電気セクタ150のイオン収束特性が変化し、飛行時間スペクトルの感度および/または解像度を改善する。
【0064】
本発明は、少なくとも2種類の利益を提供する。第1の利益は、本発明のイオン光学素子を使用して、電気セクタが設計仕様から予測されるイオン光学特性を有するように、TOF質量分析計内の電気セクタを結合する性能を補正または変更することにより得られる。イオン光学素子をこのように使用すると、電気セクタの製造または機械的構造の誤差または偏差を補正することができる。第2の利益は、本発明を使用しない電気セクタには利用できないイオン光学特性の組合せを使用することにより得られる。さらに、これらの特性は調節可能なので、本発明を組み込むTOF質量分析計の性能は、実際上、従来の電気セクタに基づく構造の理論上の性能を超える。
【0065】
たとえば、上記のトリム電極の各々の電位を同じ大きさだけ増加すると、半径方向平面におけるイオンの収束が変化する。もう1つの実施例では、イオンビームの小さい偏向が、第1イオン光学素子を使用して電気セクタの入口に印加され、対向する偏向が、第2イオン光学素子を使用して出口に印加される。こうした特定の調節により、電気セクタ上の正味の偏向は変化しないが、イオンが電気セクタを通って取る経路はわずかに変化する。したがって、本発明のTOF質量分析計の全体的な性能は、無電解(たとえば、自由飛行)領域を通る経路長に対する電気セクタ内の有効経路長が変化するために変化する
本発明のトリム電極上の電位を調節することにより得られるその他の用途および利益は、当業者が想像することができ、こうした用途および利益は本発明の範囲内である。電気セクタのイオン光学特性に対するトリム電極の電位およびその調節の影響全体の正確な本質は、現時点では完全には調査することはできないが、本願特許出願人は、トリム電極の電位およびその他の特性を調節することにより、本発明によるTOF質量分析計の解像度およびその他の特性は、先行技術に比べて大幅に改善できることを実証した。
【0066】
本発明によるイオン光学素子を使用した調節可能な電位場の形成は、電位の形状に対応する物理的形状に適合する1個または複数の電位を使用して達成される。本発明のトリム電極は、形状が類似するかまたは同等の調節可能な電位も提供し、トリム電極は対応する物理的形状を有する必要はない。こうした電極は、たとえば半導性もしくは伝導性が不十分な材料、または導電性もしくは半導性材料で完全もしくは部分的に被覆された絶縁材料から製造される。上記の導電性または半導性材料は、たとえばフィルムまたはワイヤとして形成される。所望の調節可能な電位を生成する任意の形状のトリム電極は、本発明の範囲内であると考えられる。
【0067】
本発明のイオン光学素子は、1対のトリム電極に限定する必要はない。たとえば、3個以上のトリム電極を複数個、イオン光学素子を構成するように、電気セクタの入口または出口に配置することができる。こうした複数のトリム電極は、トリム電極を対向する対で、点対称配列またはその他の適切な配列で配列することができる。上記のように構成されたイオン光学素子内の追加のトリム電極は、イオンに印加される電位を変更する自由度を追加するのみならず、追加の利益も提供する。たとえば、追加のトリム電極は、操作者が、トリム電極に結合された電気セクタに出入りするイオンを電気セクタの平面および全体のイオン飛行経路に垂直な方向に偏向させることを可能にする。垂直偏向に使用するトリム電極は、電気セクタの偏向電極の形状に必ずしも適合しない縁部を有し、また、本発明のトリム電極は特定のどの形状に適合する必要もない。
【0068】
本発明のイオン光学素子は、好ましい実施態様の結合電気セクタの入口および出口の量に配置されるが、電気セクタに対するイオン光学素子のその他の構成および配列は、本発明の範囲内である。
【0069】
イオン光学素子のトリム電極は、好ましくは結合電気セクタの入口または出口付近に配置され、偏向電極に対する間隔は、装置の構造が必要する電位差を持続するのに十分であるように維持される。同様に、ヘルツォグシャントも、好ましくは結合イオン光学素子および電気セクタに近接して配置する。好ましい実施態様では、ヘルツォグシャントとトリム電極との間の間隔は、トリム電極と電気セクタの開口部との間の間隔と同じである。しかし、異なる間隔または異なる間隔比を生じる上記構成部品の位置の変動は、本発明の範囲内である。たとえば、トリム電極と電気セクタとの間の距離、またはヘルツォグシャントとトリム電極との間の距離は、本発明の精神から逸脱することなく増加することができる。また、トリム電極の位置は、任意に電気セクタの入口または出口に近接して移動することができる。実際上、トリム電極は、電気セクタの偏向電極間の領域内にさらに移動する場合がある。当業者は、トリム電極の幾何学的形状のこうした変動はすべて、イオンが電気セクタに出入りする時にイオン飛行経路内のイオンが直面する電位を変更するための手段を提供するため、本発明の範囲内である。
【0070】
好ましい実施態様では、特定のイオン光学素子のトリム電極の厚さは、トリム電極を分離する間隔より小さい。しかし、トリム電極の寸法は、この実施態様と広範囲にわたって異なることができ、やはり本発明の範囲内である。たとえば、トリム電極の厚さは、イオン光学素子を通るイオンが移動する距離が、トリム電極の分離間隔、またはさらに電気セクタの分離間隔より大きい点まで増加して良い。好ましい実施態様では、トリム電極の厚さは、結合ヘルツォグシャントの厚さとほぼ同じである。やはり、この関係からの偏差は、本発明の精神の範囲内である。
【0071】
偏向電極、トリム電極、ヘルツォグシャントおよびマツダプレートを含む本発明の電極は、先行技術で公知の材料から製造される。一般に、電極に適する材料としては、金属、合金、複合材料、ポリマー、イオン性固体、電圧が外部源から印加された後のこれらの組合せまたは混合物が挙げられる。本発明の電極は、導電性、半導性、および/または導電性が不十分な材料から製造される。電極は、導電性、半導性、または導電性が不十分な材料、たとえばフィルム、電線などで被覆されるか、またはこうした材料を支持する絶縁材料から製造しても良い。
【0072】
上記のとおり、本発明のイオン光学素子およびトリム電極は各々、材料の組成、構成、配列、形状、電気セクタおよびその他の電極に対する配置などに関して異なる個々の特性を有する。したがって、異なるかまたは類似の特性を有するイオン光学素子およびトリム電極の適切な組合せは、TOF質量分析計の範囲ないで実施することができ、したがって本発明範囲内である。
【0073】
図3に関して、本発明のTOF質量分析計の好ましい実施態様を略上断面図に示す。断面は、基準イオン飛行経路60により画定される平面を通って取る。装置200は、各々が約270°の円弧の曲線状偏向電界を画定する4個の同じ電気セクタ250、350、450および550を備えるTOF質量分析計である。4個の電気セクタの各々には、自由飛行領域、つまり220、222、224、226および228が先行および追随する。電気セクタおよび自由飛行領域の対称配列は、サクライ(Sakurai)等の「複数対称を有する飛行時間型質量分析計のためのイオン光学」(Ion Optics For Time−Of−Flight Mass Spectrometers With Multiple Symmetry)、Int.J.of Mass Spectrom.Ion Proc.63、p.273−287(1985年)に記載されているように、等時性および空間収束の両方を含むいくつかの利益を提供する。この対称構成は、比較的長い飛行経路60を著しく小さい寸法の空間内にコンパクトに収容し、その結果、質量分析計の全体のサイズを縮小することを可能にするという利益も提供する。好ましい構成では、4個の電気セクタの各々は、各々のセクタにより画定される平面が、他のセクタの平面に対してほぼ平行であり、他のセクタの平面と同一平面であるように配置され、これらの平面の間に自由飛行領域を収容する。
【0074】
装置200は、イオン源210およびイオン検出器280を備え、これらは共に、図1に示す装置100内の対応する特徴と機能上同じである。同様に、各々の電気セクタ250、350、450および550は、本質的に他の要素と同じであり、本質的に上記の電気セクタ150と同じ機能を有する。したがって、以下の説明はその他の電気セクタに適用されることを理解した上で、電気セクタ250の要素についてのみ触れる。
【0075】
装置200の一般的な動作時、サンプル由来のイオンは、イオン源210内で生成され、イオン源210から抽出され、飛行経路60に沿って分離および収束され、最終的にイオン検出器280に到達して検出される。飛行経路60は、イオン入口70およびイオン出口72を備え、電気セクタ(250、350、450および550)並びに5個の自由飛行領域(220、222、224、226および228)により画定され、これらは図示のように配置されて、各々が隣接する電気セクタおよび領域に接続する。イオンは、イオン源210から出て自由飛行領域220に入ることにより、イオン入口70から飛行経路60に入る。これに対して、イオンは、自由飛行領域228からイオン検出器280に入ることにより、イオン出口72を介して飛行経路60から出て行く。
【0076】
装置200の好ましい実施態様では、自由飛行領域の長さは、パラメーターが指定される「D1」および「D2」で画定され、その値を表1および表3に列挙する。好ましい実施態様では、自由飛行領域222および226の長さは実質的に同じであり、この長さは「D2」の2倍である。また、自由飛行領域224の長さは、自由飛行領域220および228の長さの実質的に2倍であることが好ましく、自由飛行領域220および228の長さは「D1」により画定される。しかし、当業者は、これらの既定値の長さをさらに調節および/または変更して、装置の性能またはその他の所望の特性を変えることができることを理解するであろう。たとえば、それぞれイオン源210およびイオン検出器280と結合する自由飛行領域220および228の長さは、装置に使用されるイオン源および/またはイオン検出器に応じて、上記の既定値の長さから変更することができる。
【0077】
第1電気セクタ250は、内側偏向電極252および外側偏向電極254を備える。電気セクタの入口開口部256は、アパーチャ271を有するヘルツォグシャント270に結合される。同様に、アパーチャ276を有するヘルツォグシャント275は、出口開口部258において電気セクタに結合される。
【0078】
入口256および出口258には、それぞれイオン光学素子266および267も結合される。イオン光学素子266はトリム電極260および261を備え、同様に、イオン光学素子267はトリム電極262および263を備える。この特定の実施態様では、電気セクタ350、450および550は電気セクタ250と同じ要素を備えるため、別個に説明しない。
【0079】
図4は、図3の電気セクタ250に至る入口256の略図であり、イオン飛行経路は、図面の平面にほぼ垂直である。この図は、電気セクタ250の内側偏向電極252と外側偏向電極254との間の空間S、マツダプレート284および285の幅W、電気セクタの偏向電極252および254の高さH、およびマツダプレート284および285と電気セクタの偏向電極252および254との間の間隔Sの寸法を画定する。
【0080】
図5Aは、内側偏向電極252および外側偏向電極254を含む電気セクタ250に対する電気セクタの入口256の上断面図を示す。図4に示すマツダプレートは、図示の目的上省略する。また、この図には、イオン光学素子266(トリム電極260および261を含む)並びにヘルツォグシャント270(ヘルツォグシャントのアパーチャ271を含む)が示されている。値が表1および表3(以下を参照)に列挙されている様々な寸法をこの図に指示する。これらの寸法は、トリム電極の厚さ(T)と、トリム電極の間隔(T)と、トリム電極と偏向電極との間の空間(TE)と、ヘルツォグシャントの厚さ(H)と、トリム電極に対するヘルツォグシャントの間隔(HT)と、ヘルツォグシャントの開口部の高さ(H)と、ヘルツォグシャントの開口部の幅(H)とを含む。
【0081】
図5Bは、電気セクタ250に対する入口256の対応する分解等角図を示し、値が表1および表3(以下参照)に列挙されている様々な寸法が支持されている。図5Aと同様、これらの寸法の値は、図3に示す4個の電気セクタすべてを表すと考えられる。すべての寸法は、特記しない限りインチで示す。
【0082】
様々な実施態様では、イオン光学素子は、アインツェルレンズを含む。先行技術で公知のとおり、アインツェルレンズは、イオンビームを収束するように構成された複数の電極を備える。アインツェルレンズは、上記の調節可能な電極の代わりに、または調節可能な電極と組み合わせて使用することができる。
【0083】
本発明のTOFMS装置は、先ず、市販されている光学モデルかプログラムであるSIMION7(SIMION7、P.O.Box2726、Idaho Falls、ID 83403、USA)、次に、性能をテストするように構成されたプロトタイプを使用してモデル化され、性能指数を先行技術で報告されている値と比較する。
【0084】
トリム電極を電気セクタに追加すると、各々の電気セクタのイオン光学特性を調整する場合に、さらに4種類までの調節または自由度を提供する。イオン光学をモデル化する時に、これらの自由度のすべてを使用する必要はないか、または望ましくないとも言える。モデルでは、セクタの機械的整列の小さい誤差を補正する必要はなく、こうした調節は不要である。
【0085】
したがって、モデル化の目的上、本願特許出願人は、内側および外側トリム電極上の電位の和および差のみを、分析計を調整する時の調節可能なパラメーターとして使用した。外側トリム電極のすべてに同じ電位を印加し、内側トリム電極のすべてに、さらに別の電位を印加する。本発明は、このパターンで印加される電位に限られず、その他の可能な部分集合(個々のトリム電極以下)は各々、異なる印加電位を有する。
【0086】
(表1)
(モデル化された発明の実施態様の寸法および電位)
【0087】
【表1−1】

【0088】
【表1−2】

表1に記載の動作電位の集合は、この特定の幾何学的形状において、10kVのイオンに対して最大解像度を生成するモデル化時に見られる多くの組合せの中で最善の組合せである。モデルの調整は、飛行時間に関するすべての一次および二次収差係数の絶対等級の和を最小化することにより実施した。x(イオン飛行経路の平面では、基準イオンの経路に垂直)における偏差および対応する角度αは、この構造では対称ではないため、これらの偏差に関する収差も計算して、和に通常含まれる20項にさらに11項を追加した。最適化に使用した偏差x、α、y、βおよびδの値は0.2mm、0.2°、0.2mm、0.2°および0.001であり、全部で31の収差項を計算に含んだ場合、16,000を超える最適化解像度が得られた。
【0089】
この電位の集合に関するこうした計算の結果は、表2で、サクライ(Sakurai)等の「新奇な飛行時間型質量分析計」(A New Time−Of−Flight Mass Spectrometer)、Int. J ; Mass.Spectrom.Ion Proc.66、p.283−290(1985年)(「サクライI」(「SakuraiI」)に開示されている収差係数と比較し、収差係数の定義は、「サクライI」(「SakuraiI」)、およびサクライ(Sakurai)等の「複数対称の飛行時間型質量分析計に関するイオン光学」(Ion Optics For Time−Of−Flight Mass Spectormeters With Multiple Symmetry)、Int.J.Mass.Spectrom.Ion Proc.63、p.273−287(1985年)(「サラクライII」(「SakuraiII」)に開示されている。
【0090】
(表2)
(収差係数の比較)
【0091】
【表2】

本発明のモデル化された実施態様の収差係数のいくつかは、サクライ(Sakurai)の収差係数に比べて小さく、いくつかは大きいが、ピーク幅LααおよびLαδに最大の影響を与える2つの収差係数は著しく小さく、本発明の全体的な分析計解像度は、先行技術で報告されている解像度より改善される。
【0092】
たとえば、x=y=0.0002メートル、α=β=0. 00349ラジアンおよびδ=0.001の場合、サクライI(SakuraiI)の計算を使用する予測解像度は、表2に列挙する収差係数のみを含み、本来の構造の場合は約19,000であるが、本発明のモデル化された実施態様の場合は30,000を超える。
【0093】
予測解像度は、偏差x、y、α、βおよびδに関して仮定される大きさに依存する。さらに、本発明の場合、飛行時間型分析計の特性は、基準イオン特性から予想される実際の偏差に最善の性能を提供するように調節することができる。たとえば、一般に使用されるマトリックス支援レーザ脱離/イオン化(MALDI)法により生成されるイオンは、平均的に著しく過剰なエネルギーを有し、この余分なエネルギーの平均量はイオンの質量に比例することは十分に公知である。こうした過剰なエネルギーの大きさは、1000ダルトン当たり約1eVである。したがって、巨大タンパク質から形成されるイオンは、この同じ大きさのエネルギー分布で、平均して100eVを超える過剰エネルギーを有する可能性がある。10,000Vの公称エネルギーで動作するMALDI飛行時間型質量分析計は、巨大タンパク質の場合は0.01以上のエネルギー偏差δを有するが、値は、質量が2000ダルトン未満の小ペプチドの場合は0.0002以下であろう。本発明による飛行時間型分析計は、トリム電極を含む様々な要素に印加される電位を変更することにより変更されるイオン光学特性を有する。したがって、本発明は、巨大タンパク質に対して最善の解像度を与える比較的大きいδで、最善の性能になるように分析計を調節するか、またはペプチドに対して最善の性能を当てる小さいδで、最善の解像度になるように調節することを可能にする。さらに、所望の調整条件は、分析計の電極に印加される電位を単に変更することにより得られる。
【0094】
装置200のトリム電極の各々は、他方の調節可能なトリム電極に関して、および電気セクタの偏向電極に関して個々に調節可能な電位を有する。したがって、イオン光学素子は、イオン光学素子が結合される電気セクタに出入りするイオンに印加される電位を特に変更するように構成される。こうした調整の効果は、装置100に関して上記で説明した効果に類似する。したがって、各々の要素およびトリム電極は、電気セクタのイオン収束特性を変更するための追加の自由度を構成する。こうした調節は、飛行経路60の対称構成に関する公知の利益と組み合わせて、質量解像度および/または感度をさらに大幅に制御し、改善することを可能にする。
【0095】
本発明による例示的な電気セクタの飛行時間型質量分析計(「実際の実施態様A」または同等に「実施態様A」)は、表3に記載するパラメーターで構成した。
【0096】
(表3)
(実施態様Aの寸法および電位)
【0097】
【表3】

実施態様Aと表示された本発明の装置は、表3の寸法に従って構成し、図3、図4、図5Aおよび図5Bに略図を示す。この実施態様のその他の属性は、以下または表3に特記しない限り、上記の理論上の実施態様に関する上記の属性に類似する。
【0098】
本発明の特徴および/または利益を実証するため、実施態様Aの電気セクタの飛行時間型質量分析計を使って、代表的な質量分析計による実験を行なった。特記しない限り、サンプルの調製、質量分析計の動作、および飛行時間質量スペクトルの取得は、公知であって、当業者が理解している方法およびプロトコルに従って実施した。実施態様Aの電極の電位は、表3に記載したように印加した。以下の実験および結果は、単に具体的かつ例示的に示すためのものであり、本発明の特徴、利益および用法を制限する意図はない。
【実施例】
【0099】
(実施例1:スペクトル範囲(IgG))
本発明の質量分析計は、十分に画定された信号を大きいスペクトル範囲上に提供する。スペクトル範囲は質量スペクトルの特性であり、分析計が単一スペクトル内の特定サンプルからの広範な質量を検出および測定する能力を意味する。スペクトル範囲外のイオンは、通常は検出不可能であり、質量スペクトル上に現れない。したがって、質量スペクトルに所定の大きい質量範囲を与える分析計は、比較的小さいスペクトル範囲の場合よりも多数のイオンの検出および測定を可能にする。
【0100】
本発明のスペクトル範囲を実証するため、実施態様Aの装置を使用して、金チップ上のシナピン酸(「SPA」)マトリックスにおけるIgGのTOF質量スペクトルを取得した。サンプルは、遅延抽出レーザ脱離/イオン化によりイオン化し、イオンは、250MHzの抽出率で検出した。図6A〜図6Cを参照すると、TOF質量スペクトルの3つの部分が示されており、各々の部分は、その水平軸に沿って倍率を変更した。この質量スペクトルでは、1.3kDa〜146kDaの質量を有するイオンを表す信号を観察した。したがって、この実施例は、本発明の装置が、大きいスペクトル範囲で単一の質量スペクトルを提供することができることを実証する。
【0101】
(実施例2:スペクトル範囲および感度(ペプチド))
この実験は、ペプチドサンプルを使って、装置のスペクトル範囲および感度を決定するために実行した。実施例1に記載した方法に類似する方法では、100フェムトモルのウシ血清アルブミン(「BSA」)のトリプシン消化物をSEND−C18チップ(Ciphergen Biosystems(商標)上に調製し、質量スペクトルを取得した。図7A〜図7Hを参照すると、取得された単一質量スペクトルからの8つのタンパク質が示されている。指示されたピークの測定質量および解像度を以下の表4に列挙する。この実験は、個々のペプチドの質量が、単一質量スペクトルで測定した場合と同様、高度の正確さおよび解像度で得られることを実証する。
【0102】
(表4:選択されたペプチドの質量および解像度)
【0103】
【表4】

装置の感度を決定するため、BSA消化物の量を減少させて、実験を繰り返した。以下の表5に列挙するとおり、この装置の感度は、低いフェムトモル量のサンプルタンパク質で開始した場合でも、本来のタンパク質配列の実質的割合を構成する著しい数のペプチドの検出を可能にする。図8Aは、1フェムトモルのBSAの代表的消化物のTOF質量スペクトルを示す。図8Bは、図8Aの質量スペクトルの拡張部分を示す。
【0104】
(表5:ペプチド検出の感度)
【0105】
【表5】

(実施例3:質量の正確さ)
本発明の質量の正確さを決定するため、実施態様Aの質量分析計を使用して、ペプチド混合物の8個のサンプルにおける質量スペクトルを取得した。8個のサンプルは、シアノヒドロケイ皮酸(「CHCA」)マトリックス内の単一金チップ上に導入した。表6に列挙した数は、これらの質量スペクトルにより測定した対応するペプチド信号から計算した。以下に示すように、全部で5個のペプチドの正確な質量は、実施例Aの質量分析計装置を使用して取得した。
【0106】
(表6:ペプチド混合物のTOF質量スペクトル(8回の測定値))
【0107】
【表6】

(実施例4:質量解像度)
本発明の質量解像度を実証するため、実施態様Aの装置を使用して、アドレノコルチコトロピックホルモン(「ACTH」)の質量を測定した。結果として得られる質量スペクトルを図9に示し、質量スペクトルに表示された各々のピークの質量および解像度を表7に列挙する。
【0108】
(表7:ACTHスペクトルの測定質量および解像度)
【0109】
【表7】

上記の実験およびその結果は、用法、本発明のパラメーターおよび利益の単なる実施例および具体例であると考える。したがって、これらの実験および結果は、本発明の特徴、利益および用法のタイプまたは範囲に関する制限であることを意味するのではない。本発明のその他の用法、用途および利益は、当業者にとっては、本明細書を考察すると明白である。
【0110】
本明細書に記載する装置は、本発明が意図する多くの別法による実施態様の一例に過ぎないと考える。たとえば、これらの実施態様は、電気セクタのすべての入口および出口に配置されたイオン光学素子を示すが、こうした構成は必須ではない。たとえば、1個を超える電気セクタを備えるTOF質量分析計の場合、最初の電気セクタの入口および最後の電気セクタの出口にのみイオン光学素子を配置し、連続する電気セクタ間にはイオン光学素子を配置しないことが望ましい。その他の類似の組合せは、容易に考えることができる。同様に、本発明は、イオン光学素子およびトリム電極の数量、形状、サイズ、相対的位置およびその他の特性が、図1、図2、図3、図4、図5A,図5Bおよび図10に示すものとは異なる別法による実施態様を意図する。
【0111】
さらに、TOF質量分析計内のすべての電気セクタは、幾何学的形状、サイズ、イオン収束またはその他の特性が同じである必要はない。同様に、本発明は、複数の電気セクタおよび自由飛行領域の特定の構成、対称構成さもなければ他の構成に限定されない。
【0112】
また、当業者は、上記のヘルツォグシャントまたはマツダプレートは、使い捨ての要素であることを理解するであろう。当業者は、図10の上断面図に示すように、ヘルツォグシャントまたはマツダプレートを電気セクタまたは飛行時間型質量分析計のセクタの部分的または完全な囲いの中に組み込むことが可能であることも認識するであろう。図10に関して、装置300は、ヘルツォグシャントおよび/またはマツダプレートの機能を組み込む囲い370を備える。囲い370は、イオン飛行経路のそれぞれ入口および出口を可能にするアパーチャ375および376をさらに備える。上記およびその他の実施態様は、本発明の範囲内であり、当業者には明白であり、こうした実施態様の適性は、分析状況または所望の特徴に依存するであろう。
【0113】
本発明のTOF質量分析計は、トリム電極を制御および調節するための電子および/または計算手段も備える。たとえば、コンピュータなどの制御システムは、1個または複数のポートで上の電位を監視および調節するように構成することができる。こうした制御システムは、高度の正確さおよび精度で、調節可能なトリム電極を監視および調節することが可能である。制御システムは、調節可能なトリム電極を制御するように構成されたソフトウェアプログラムをさらに含む。たとえば、ソフトウェアは、特定のサンプルまたは分析用途に適する構成で、調節可能なトリム電極の各々に電位を与えるようにプログラムすることができる。
【0114】
本発明のもう1つの態様では、本発明は、質量スペクトルの質量解像度または感度を改善するために、TOF質量分析計を調製する方法を提供する。TOF質量分析計は、1個または複数のイオン収束電気セクタを備え、その少なくとも1個は、少なくとも1個のイオン光学素子と結合する。各々のイオン光学素子は、少なくとも1個の調節可能な電極を備える。この方法の適切なTOF質量分析計としては、上記の実施態様が挙げられるが、これだけに限らない。
【0115】
一実施態様では、この方法は、本発明の質量分析計を使用して、第1質量スペクトルを決定し、質量スペクトルから第1質量解像度または感度を決定する。電位は、第1質量スペクトルを決定する以前に、少なくとも1個のトリム電極に印加することができる。
【0116】
第1質量の決定後、装置の少なくとも1個のトリム電極の電位を調節する。次に、第2の質量スペクトルを決定し、第2の質量スペクトルから、対応する第2質量解像度または感度を決定する。第1および第2質量スペクトル間の質量解像度または感度の相対的改善または低下を比較することにより、改善または低下は、イオン光学素子に対して間に行なわれる調節と関連付けられる。たとえば、第2スペクトルは、第1スペクトルと比べて高度の質量解像度または感度を実証し、トリム電極を同方向にさらに調節した後、第3質量スペクトルを決定することにより、さらに改善が行なわれる。したがって、対向方向における調節は、第2スペクトルが、間に行なわれる調節の結果として、第1スペクトルと比べて低下したと実証される場合に必要である。
【0117】
さらなる調整は、所望の、または十分な質量解像度または感度が達成されるまで繰り返し行なうことができる。本発明の調整方法を使用すると、特定のサンプルおよび分析用途に応じて、所望の解像度および/または感度を達成することができる。たとえば、質量分析計のトリム電極は、ペプチドサンプルに対する質量スペクトルを決定するために、質量分析計を最適化するように調整することができる。同様に、質量分析計は、その代わりにタンパク質サンプルの質量スペクトルを最適に決定するように調整することができる。当業者は、このように調整すると、任意の適切な基板に応じて最適な設定を行なうことができる。さらに、メーカーおよび/または操作者は、特定の基板タイプに応じて最適な調整設定を事前に決定することができる。こうした設定は、説明書に記載されているか、または装置に応じて予めプログラムすることができる。
【0118】
こうした調整方法、および一般にトリム電極の調節は、上記の制御システムをさらに備える装置を使用することにより、より迅速に、精密に、および/または正確に行なうことができる。制御システムは、たとえば、様々な設定で決定された質量スペクトルの特性を比較するか、および/またはトリム電極の設定を相応に調整するように構成することができる。制御システムは、コンピュータ、電子回路、ソフトウェアプログラム、アルゴリズムなどを備える。上記のように、予め決められた最適化された設定は、装置内に保存されて、ソフトウェアプログラムが、トリム電極を迅速かつ正確に適切な設定に設定するために使用することができる。
【0119】
本明細書に記載するすべての特許、特許文献、およびその他の発行文献は、各々が本明細書に引用されることにより、個々に、かつ特に組み込まれていたものとして、引用により全体を本明細書に援用する。本願特許出願人は、本明細書における引用または様々な言及により、特定の引用が本発明の「先行技術」であることを認めるものではない。
【0120】
特定の実施例を提供して来たが、上記の説明は具体的に示すためのものであり、制限的ではない。上記実施態様の1つまたは複数の特徴は、本発明のその他の実施態様の1つまたは複数の特徴と、何らかの方法で組み合わせることができる。さらに、本発明の多くの変形は、当業者にとって、本明細書を検討すると明白になるであろう。したがって、本発明の範囲は、上記の説明に関して決定されるのではなく、むしろ、添付の請求の範囲および等価なものの範囲に関して決定するべきである。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】図1は、本発明の一実施態様の略上断面図である。
【図2】図2は、基準イオン飛行経路が図面の平面に垂直な本発明の電気セクタ開口部の略図である。
【図3】図3は、本発明のもう1つの実施態様の略上断面図である。
【図4】図4は、基準イオン飛行経路が図面の平面に垂直で、表示されている寸法を有する本発明の電気セクタ開口部の略図である。
【図5】図5Aおよび図5Bは、本発明の電気セクタ開口部のそれぞれ略上断面図および等角図である。
【図6】図6A、図6Bおよび図6Cは、本発明による装置を使用して得られる例示的な質量スペクトルのIgG(免疫グロブリンG)の部分である。
【図7−1】図7A〜図7Hは、本発明による装置を使用するウシ血清アルブミンのトリプシン消化物の例示的な質量スペクトルである。
【図7−2】図7A〜図7Hは、本発明による装置を使用するウシ血清アルブミンのトリプシン消化物の例示的な質量スペクトルである。
【図8】図8Aおよび図8Bは、本発明による装置を使用するウシ血清アルブミンのトリプシン消化物の例示的な質量スペクトルである。
【図9】図9は、本発明による装置を使用するアドレノコルチコトロピックホルモンの例示的な質量スペクトルである。
【図10】図10は、本発明のもう1つの実施態様の略上断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛行時間型質量分析計であって、該質量分析計は、以下:
a)イオンの飛行経路を画定し、かつイオン入口およびイオン出口を有する、イオン飛行経路手段であって、該イオン入口および該イオン出口が、以下:
i)少なくとも1つの無電解領域と、
ii)少なくとも1個の電気セクタであって、各々の電気セクタが入口および出口を有する電気セクタと、
iii)少なくとも1個の電気セクタと結合する少なくとも1個のイオン光学素子であって、各々のイオン光学素子が、電気セクタに出入りするイオンに印加される電位を変更するイオン光学素子とを備える、イオン飛行経路手段;
b)イオン源であって、該イオン源から該イオン飛行経路手段の該イオン入口に至るイオンのパルスを加速するための手段を備える、イオン源;
c)該イオン飛行経路手段の該イオン出口と接続するイオン検出器;ならびに
d)検出されたイオンの飛行時間スペクトルを記録するための手段、
を備える、飛行時間型質量分析計。
【請求項2】
前記イオン光学素子が、アインツェルレンズを備える、請求項1に記載の質量分析計。
【請求項3】
前記イオン光学素子が、電気セクタに出入りするイオンに印加される電位を調節可能に変更する少なくとも1個の調節可能なトリム電極を備える、請求項1に記載の質量分析計。
【請求項4】
前記イオン源が、レーザー脱離イオン源である、請求項1または請求項2に記載の質量分析計。
【請求項5】
前記イオン源が、1つ以上の質量または質量範囲を選択的に提供する手段を備える、請求項1または請求項2に記載の質量分析計。
【請求項6】
前記イオン源が、選択された質量または質量範囲の部分を提供する手段をさらに備える、請求項5に記載の質量分析計。
【請求項7】
前記調節可能なトリム電極が、電気セクタの入口と出口との間に配置される、請求項3に記載の質量分析計。
【請求項8】
前記少なくとも1個の調節可能なトリム電極が、1対の調節可能なトリム電極を含み、該対の調節可能なトリム電極は、前記イオンが該対の調節可能なトリム電極間を通過するように配置され、ここで、該対が電気セクタの入口または出口のいずれかと結合される、請求項3に記載の質量分析計。
【請求項9】
前記少なくとも1個の調節可能なトリム電極が、複数対の調節可能なトリム電極を備え、各々の対は、前記イオンが該対の調節可能なトリム電極間を通過するように配置され、ここで、1つの対が各電気セクタの各入口および各出口と結合される、請求項3に記載の質量分析計。
【請求項10】
4個の電気セクタを備え、各々の電気セクタが約270°の偏向角度を有し、無電解領域が各電気セクタを分離する、請求項9に記載の質量分析計。
【請求項11】
複数の電気セクタを備え、前記少なくとも1個の調節可能なトリム電極が、第1および第2の対の調節可能なトリム電極を備え、各々の対が、イオンが前記対の調節可能なトリム電極間を通過するように配置され、ここで、該第1対が、前記イオン飛行経路の前記入口に最も近い電気セクタの入口に結合され、該第2の対が、該イオン飛行経路の前記出口に最も近い電気セクタの出口に結合される、請求項3に記載の質量分析計。
【請求項12】
4個の電気セクタを備え、各電気セクタが約270°の偏向角度を有し、無電解領域が各電気セクタを分離する、請求項11に記載の質量分析計。
【請求項13】
前記イオン源がレーザ脱離/イオン化手段を備える、請求項3に記載の質量分析計。
【請求項14】
前記イオン源が、化学イオン化手段、電子衝撃イオン化手段、光イオン化手段、または電気スプレーイオン化手段を備える、請求項3に記載の質量分析計。
【請求項15】
前記イオン源が、1つ以上の質量または質量範囲のイオンを選択的に提供する手段を備える、請求項3に記載の質量分析計。
【請求項16】
前記イオン源が四重極イオントラップを備える、請求項3に記載の質量分析計。
【請求項17】
前記イオン源が、パルス化または連続イオンビームから、ビームの方向に対して実質的に垂直な方向に、イオン群を抽出するための手段を備える、請求項3に記載の質量分析計。
【請求項18】
イオンのパルスを加速する手段が、該イオンの形成後に印加される電圧パルスを含む、請求項3に記載の質量分析計。
【請求項19】
イオンを選択的に提供するための前記手段が、四重極イオントラップまたは線形イオントラップを備える、請求項15に記載の質量分析計。
【請求項20】
前記イオン源が、選択された質量または質量範囲の部分を提供するための手段をさらに備える、請求項15に記載の質量分析計。
【請求項21】
前記イオン飛行経路手段が、最初の電気セクタの前、および最後の電気セクタの後に無電解領域をさらに備える、請求項16に記載の質量分析計。
【請求項22】
前記イオン飛行経路手段が、最初の電気セクタの前、および最後の電気セクタの後に無電解領域をさらに備える、請求項12に記載の質量分析計。
【請求項23】
前記イオン源が、レーザ脱離イオン源である、請求項19に記載の質量分析計。
【請求項24】
アパーチャを有する少なくとも1個のヘルツォグシャントをさらに備える、請求項3に記載の質量分析計であって、ここで、各ヘルツォグシャントが、前記イオンがアパーチャを通過するように、電気セクタの入口または出口のいずれかと結合される、質量分析計。
【請求項25】
少なくとも1個の電気セクタを囲むように構成される囲いをさらに備える、請求項3に記載の質量分析計。
【請求項26】
前記囲いが、少なくとも1個のアパーチャを備え、少なくとも1個のアパーチャがヘルツォグシャントとして構成される、請求項25に記載の質量分析計。
【請求項27】
前記トリム電極を調節するように構成された制御システムをさらに備える、請求項3に記載の質量分析計であって、ここで、前記調節が、電気セクタに出入りするイオンに印加される電位を調節可能に変更する、質量分析計。
【請求項28】
前記制御システムがソフトウェアプログラムを備える、請求項27に記載の質量分析計。
【請求項29】
飛行時間型質量分析計を調整するための方法であって、該方法は、以下:
a)請求項1または請求項3の質量分析計を提供する工程;
b)第1設定でイオンを検出する解像度または感度を、
i)少なくとも1個の調節可能なトリム電極に電位を印加し、
ii)イオンの第1質量スペクトルをイオン源から取得し、そして
iii)検出の解像度または感度を第1質量スペクトルから決定することにより、
決定する工程;
c)第2設定でイオンを検出する解像度または感度を、
i)少なくとも1個の調節可能なトリム電極に印加した該電位を調節し、
ii)イオンの第2質量スペクトルを該イオン源から取得し、そして
iii)検出の解像度または感度を第2質量スペクトルから決定することにより、
決定する工程;および
d)イオンを検出する解像度または感度が、第2設定で改善したかまたは低下したかを決定する工程;
を包含する方法。
【請求項30】
解像度が、前記第2設定で低下したと決定される場合、
e)第3設定でイオンを検出する解像度または感度を、
i)少なくとも1個の調節可能なトリム電極に対し、前記第2設定の調節に対向する方向に印加される電位を調節し、
ii)イオンの第3質量スペクトルを該イオン源から取得し、
iii)検出の解像度または感度を第3質量スペクトルから決定することにより、
決定する工程;および
f)イオンを検出する解像度または感度が、該第3設定で改善したかまたは低下したかを決定する工程、
をさらに包含する、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記第2設定で解像度が改善されたと決定される場合、
e)第3設定でイオンを検出する解像度または感度を、
i)少なくとも1個の調節可能な電極に対し、前記第2設定の調節と同じ方向に印加される電位を調節し、
ii)イオンの第3質量スペクトルを前記イオン源から取得し、
iii)検出の解像度または感度を第3質量スペクトルから決定することにより、
決定する工程;および
f)イオンを検出する解像度または感度が、前記第3設定で改善または低下したことを決定する工程、
をさらに包含する、請求項29に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2006−500751(P2006−500751A)
【公表日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−540053(P2004−540053)
【出願日】平成15年9月4日(2003.9.4)
【国際出願番号】PCT/US2003/027974
【国際公開番号】WO2004/030008
【国際公開日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【出願人】(501497253)サイファージェン バイオシステムズ インコーポレイテッド (21)
【Fターム(参考)】