調節性T細胞エピトープ、組成物およびその使用
本発明は、少なくとも免疫グロブリン定常領域または可変領域の部分を含むペプチド鎖またはポリペプチド鎖を含むT細胞エピトープを目的とする。本発明はまた、本発明のエピトープを使用する方法およびこれを作製する方法にも関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は概して、新しいクラスのT細胞エピトープ組成物(「Tレギトープ(Tregitope)」と呼ぶ)に関連する。本発明は、Tレギトープ組成物、それらの調製方法および使用方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
背景
自己または外来抗原に対する寛容の人為的な誘導は、自己免疫、移植アレルギーおよび他の疾患に対する治療の目標であり、かつ自己タンパク質および非自己タンパク質を用いる治療との関連においても望ましいものである。最近まで、治療的な寛容誘導は、細胞の枯渇およびサイトカインプロフィールの変化をもたらす広範囲にわたる取り組みに頼っていた。これらの広範囲にわたる取り組みは、一般に免疫系を弱め、多くの対象を日和見感染、自己免疫攻撃およびがんに対して弱い状態のままにしている。免疫寛容の誘導に対する、攻撃性がより少なく、標的をさらに絞った取り組みの必要性が、当技術分野において存在する。
【0003】
免疫寛容は、T細胞、B細胞、サイトカインおよび表面レセプター間の複雑な相互作用によって調節されている。初期の自己/非自己の区別は、新生児の発育中に、未成熟なT細胞に対して髄質上皮細胞が特定の自己タンパク質エピトープを発現している胸腺において起きる。自己抗原を高い親和性で認識するT細胞は除去されるが、適度な親和性の自己反応性T細胞は、時折除去を逃れ、いわゆる「ナチュラル」調節性T細胞(TReg)に変換され得る。これらのナチュラルTReg細胞は、末梢に移送され、定常的な自己免疫抑制をもたらす。
【0004】
寛容の第二の形式は、IL-10およびTGF-β存在下におけるそれらのT細胞レセプターを介した活性化の際に成熟したT細胞が「適応性」TReg表現型に変換される末梢において起きる。これら「適応性」TReg細胞の可能性のある役割は、アレルギー反応または低レベルの慢性感染症に起因しうるような過度の炎症を制御する手段として、侵入病原体除去の成功後の免疫応答を減衰させることを含み、または、有益な共生細菌およびウイルスとの共存を促進することもありうる。「適応性」TRegはまた、体細胞性の超変異を受けたヒト抗体のライフサイクルを管理する役割を果たしてもよい。
【0005】
ナチュラル調節性T細胞は、末梢における免疫調節の重要な構成要素である。それらのTCRを通じた活性化において、ナチュラルTregは、バイスタンダーエフェクターT細胞の、関連しない抗原に対する応答を、接触に依存性および非依存性の機構を通じて抑制できる。さらに、それらの細胞によって放出される、IL-10およびTGF-βを含むサイトカインは、抗原特異的な適応性Tregを誘導できる。広範囲に及ぶ努力にもかかわらず、ほとんど例外なく、ナチュラルTreg、および、さらに重要なことには、臨床上有意な体積で循環するナチュラルTregの抗原特異性は、未だに不明である。
【0006】
当技術分野において、例えばIgGなどの一般的な自己タンパク質に含まれる調節性T細胞エピトープ(「Tレギトープ」)の同定ならびに、それらの調製に関連する方法および使用する方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
概要
本発明は、調節性T細胞(TReg)、特にすでに末梢における外来および自己のタンパク質への免疫応答を調節している細胞(既存またはナチュラルのTreg)の機能を利用する。一つの局面において、本発明は、T細胞エピトープポリペプチド組成物を提供する。
【0008】
TレギトープおよびTレギトープ抗原融合体の使用を通じた既存のナチュラルTregの選択的関与および活性化は、望まれていない免疫応答の存在を特徴とする任意の疾患または状態の治療手段として治療上有用である。例としては以下を含む:例えば1型糖尿病、MS、狼瘡、およびRAなどの自己免疫疾患;例えば移植片対宿主病(GVHD)などの移植関連障害;アレルギー反応;例えばモノクローナル抗体などの生物学的薬物、例えば第VIII因子またはインスリンなどの補充タンパク質、例えばボツリヌス毒素などの治療用毒素の使用、における免疫性拒絶;および急性または慢性に関わらない感染性疾患に対する免疫応答の管理。
【0009】
一つの態様において、本発明は、SEQ ID NO:4〜58からなる群より選択される少なくとも一つのポリペプチドを含むT細胞エピトープポリペプチド組成物を対象としている。特定の態様において、本発明は、本発明のポリペプチドおよび薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物を対象としている。
【0010】
一つの態様において、本発明は、SEQ ID NO:4〜58からなる群より選択される少なくとも一つのT細胞エピトープポリペプチドをコードする核酸を対象としている。特定の態様において、本発明は、本発明の核酸を含むベクターを対象としている。別の態様において、本発明は、本発明のベクターを含む細胞を対象としている。
【0011】
一つの態様において、本発明は、必要としている対象の医学的状態を治療または予防する方法であって、SEQ ID NO:4〜58からなる群より選択される治療上有効な量のT細胞エピトープポリペプチドを投与する工程を含む方法を対象としている。特定の態様において、医学的状態は、アレルギー、自己免疫疾患、移植関連障害、移植片対宿主病、酵素またはタンパク質欠乏障害、止血障害、がん、不妊症;およびウイルス、細菌または寄生虫感染症からなる群より選択される。
【0012】
一つの態様において、本発明は、SEQ ID NO:4〜58からなる群より選択される少なくとも一つのT細胞エピトープポリペプチドを含む、対象の医学的状態を予防または治療するキットを対象としている。
【0013】
一つの態様において、本発明は、調節性T細胞集団を増大させる方法を対象とし、(a)対象由来の生体試料を提供する工程;および(b)生体試料から調節性T細胞を単離し、調節性T細胞の数が増加して増大した調節性T細胞組成物が得られる条件下で、単離した調節性T細胞と有効量の本発明のTレギトープ組成物とを接触させる工程を含み、その結果、生体試料中の調節性T細胞が増大する。
【0014】
一つの態様において、本発明は、生体試料中の調節性T細胞を刺激する方法を対象とし、(a)対象由来の生体試料を提供する工程;(b)生体試料から調節性T細胞を単離し、調節性T細胞が刺激されて一つまたは複数の生物学的機能が変化する条件下で、単離した調節性T細胞と有効量の本発明のTレギトープ組成物とを接触させる工程を含み、その結果、生体試料中の調節性T細胞を刺激する。
【0015】
一つの態様において、本発明は、Tレギトープを含む治療上有効な量のペプチドを含む組成物を対象へ投与する工程を含む、対象における免疫応答を抑制する方法であって、該ペプチドが免疫応答を抑制する、免疫応答抑制方法を対象としている。特定の態様において、ペプチドはエフェクターT細胞応答を抑制する。特定の態様において、ペプチドはヘルパーT細胞応答を抑制する。別の態様において、ペプチドはB細胞応答を抑制する。
【0016】
一つの態様において、本願発明は、一種または複数種のTレギトープが特異的標的抗原と共有結合、非共有結合またはその混合のいずれかで結合して該標的抗原に対する免疫応答の減少をもたらす、一種または複数種のTレギトープを含む治療上有効な量の組成物の投与を通じた対象における抗原特異的免疫応答を抑制する方法を対象としている。特定の態様において、抑制効果はナチュラルTregによって仲介される。別の態様において、抑制効果は適応性Tregによって仲介される。別の態様において、ペプチドはエフェクターT細胞応答を抑制する。別の態様において、ペプチドはヘルパーT細胞応答を抑制する。別の態様において、ペプチドはB細胞応答を抑制する。特定の態様において、ペプチドはSEQ ID NO:4〜58からなる群より選択される配列を含む。
【0017】
一つの態様において、本発明は、調節性T細胞エピトープの同定および除去を含む、ワクチン送達ベクターの免疫原性を増強する方法を対象としている。特定の態様において、T細胞エピトープはSEQ ID NO:4〜58からなる群より選択される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】イムノグロブリンG(IgG)の概略図である。
【図2】キャップされたペプチドおよびキャップされていないペプチドを比較する一連のグラフ表示である。PBMCを8日間の培養中、CEF(陽性対照のペプチドプール)のみ(パネル上段)、CEF+Tレギトープ289-アミド(パネル中段)、またはCEF+Tレギトープ289-キャップ無し(パネル下段)のいずれかで刺激した。CEFのみとの培養と比較して、CEFとTレギトープ289-アミドとの共インキュベーションでは、(1)調節性の表現型を有する細胞は、より高い割合となり(パネル左側)、(2)CEFでの再刺激に応答して、インターフェロン-γの分泌は関連して有意に(p<0.0005)減少した(パネル右側)。対照的に、Tレギトープ289-キャップ無しとの共インキュベーション(パネル下部)では、CEFのみとの培養(パネル上部)と比較して有意差はないという結果になった。
【図3】Tレギトープ存在下での、ナチュラルTregの活性化を示す。ヒトPBMCを、破傷風毒素ペプチド(TT830-844)、Tレギトープの存在下でまたは無刺激で、インビトロで4日間、直接刺激した。細胞を、細胞外は抗CD4および抗CD25で、次いで細胞内はFoxP3で染色し、フローサイトメトリーで分析した。Tレギトープとの培養によって、TT830-844(745細胞のうち12.5%)または無刺激(497細胞のうち19.5%)と比較して、CD4陽性CD25陽性Foxp3陽性T細胞の割合が増加した(644細胞のうち53.6%)。
【図4】Tレギトープが、T-調節性のサイトカインおよびケモカインの上方制御、ならびにT-エフェクターのサイトカインおよびケモカインの下方制御を誘導することを示す一連の棒グラフである。(a)C3dタンパク質由来の免疫原性ペプチドのプール(黒い棒);(b)C3dペプチド+Tレギトープ167(薄い灰色の棒)または(c)C3dペプチド+Tレギトープ 134(中程度に灰色の棒)での初期刺激に続く、C3d再刺激に対する応答。応答を、二度目の培養において無刺激(対照)であるバックグラウンドの増加倍率として示す。それぞれのベースライン(バックグラウンド)の値を、pg/mlの単位でX軸のラベルに示す。IL-4、TNFαまたはTGFβ1のレベルに有意差はなかった。
【図5】(a)C3dタンパク質由来の免疫原性ペプチドプール(黒い棒)または(b)C3dペプチド+Tレギトープ289(薄い灰色の棒)での初期刺激に続く、C3dペプチド再刺激に対する応答を示す一連の棒グラフである。応答を、二度目の培養において無刺激(対照)であるバックグラウンドの増加倍率として示す。各サイトカインについて、ベースライン(再刺激無し、バックグラウンド)の値を、X軸のラベルに示す。
【図6】グレーブス病の標的抗原であるTSHR由来のエピトープを用いた同時刺激が、グレーブス病患者由来のPBMCにおけるエピトープに対する免疫応答を抑制することを示す棒グラフである。グレーブス病患者由来のPBMCを、まず8日間、(1)TSHRペプチドプールのみ、または(2)TSHRペプチドプールならびにTレギトープ134、Tレギトープ167、およびTレギトープ289のプールのいずれかと培養した。次いで細胞を回収、洗浄し、(1)個別のTSHRペプチドおよびTレギトーププール、または(2)TSHRペプチドプールおよびTレギトーププールと(記述されたように、IL-4 ELISpotプレートで)培養した。「再刺激無し」対照もプレートに蒔いた。応答は、抗原を用いない再刺激と比較して示す。黒い棒は、抗原のみと行われた培養および再刺激に対応し、灰色の棒は、抗原+Tレギトーププールとの培養および再刺激に対応する。この実験において、Tレギトープの共インキュベーションは、個別のTSHRペプチドに対する応答を35%から67%抑制し、TSHRペプチドプールに対する応答を65%抑制した。対比較のP値を示す。
【図7】以下のうちの一つとの8日間の培養に続いて、市販の陽性対照ペプチド(CEF)プールに応答した対象三人の応答の平均を示す棒グラフである:CEFのみ、CEF+Tレギトープ289、CEF+Tレギトープ294、CEF+Tレギトープ029、CEF+Tレギトープ074、またはCEF+Tレギトープ009。使用された個別のTレギトープに依存して、CEFに対する応答を29から48%抑制する。CEFに対する応答のベースライン(前もってCEFのみと培養した試料における応答)は、バックグラウンド(バックグラウンドは再刺激無し)を超えて、106のPBMC当たり1404から10139のIFN-γ SFC範囲であった。対比較のP値を示す。
【図8】Tレギトープとの共インキュベーションが、ボツリヌス神経毒素由来のペプチドエピトープに対する免疫応答を抑制することを示す棒グラフである。末梢血は、抗BoNT/A抗体の証拠を有する対象から採取した。まずPBMCを、BoNT/Aペプチドのみのプール、またはBoNT/Aペプチドプール+Tレギトーププール(Tレギトープ134、Tレギトープ167、およびTレギトープ289)のいずれかと8日間培養した。次に細胞を回収、洗浄し、次いでBoNT/Aペプチドと個別に三つ組みで、および一つのプール内で三つ組みで(IFN-γ ELISpotプレートで)培養した。応答は、抗原を用いない再刺激と比較して示す。黒い棒は、抗原のみとの培養に対応し、灰色の棒は、抗原+Tレギトーププールとの培養に対応する。BoNT/Aに対する応答は26%から73%抑制され;BoNT/Aペプチドプールへの応答は59%抑制された。対比較のP値を示す。
【図9】インビトロでの同時投与した免疫優性抗原に応じて、Tレギトープ289およびTレギトープ134が増殖を下方制御することを示す一連のグラフである。PBMCを、血液バンクの供血者から単離し、CEFのみ、CEF+Tレギトープ134またはCEF+Tレギトープ289で8日間刺激した。二つのTレギトープのいずれかとの共インキュベーションも、IFN-γ ELISA(パネル左側)測定時のCEFに対する応答の減少、およびCFSE蛍光(パネル右側)測定時の増殖の減少をもたらす(灰色の影付き部分は抗原-Tレギトープとの共インキュベーションで抑制された応答を指す;黒い部分は抗原のみとの培養後のベースライン応答を指す)。
【図10】ワクシニアペプチドへの応答を示すプロットである。PBMCを、血液バンクの供血者から単離し、CEFのみ、CEF+Tレギトープ134またはCEF+Tレギトープ289で8日間刺激した。二つのTレギトープのいずれかとの共インキュベーションは、IFN-γ ELISA(パネル左側)測定でのCEFに対する応答の減少、およびCFSE蛍光(パネル右側)測定での増殖の減少をもたらした。灰色の影付き部分は抗原-Tレギトープとの共インキュベーションで抑制された応答を指す;黒い部分は抗原のみとの培養後のベースライン応答を指す。
【図11】Tレギトープでの抑制が、調節性の表現型を有する細胞によって仲介されることを示す一連のグラフである。Tレギトープでの抑制は、CD4陽性CD25高陽性T細胞に依存している。左側のパネル:アレルギー体質の個体由来のPBMCを抗CD4および抗CD25抗体で染色し、フローサイトメトリーで分析した。CD4陽性CD25高陽性サブセット(ゲート)を残りのPBMCから枯渇させた。中央のパネル:CD4陽性CD25高陽性を枯渇させた、および枯渇させないPBMCを、Tレギトープ289を用いてまたは用いずにHDM溶解物で同時刺激した。CD4陽性CD25高陽性を枯渇させたPBMCは、枯渇させないPBMCよりもIFN-γを抑制する能力が乏しかった。右側のパネル:HDM溶解物およびTレギトープ289との共インキュベーションは、HDM溶解物の刺激に応じて、CD4陽性細胞の増殖の減少をもたらす。
【図12】TReg(CD4/CD25高陽性)の増大は、IL-10の分泌と相関することを示すプロットおよびグラフである。Tレギトープ289およびHDMとの共インキュベーションに続くCD4 CD25高陽性T細胞の増大;ならびにHDMのみの再刺激に続いて共インキュベーションされた細胞によって分泌されたIL-10の量。Tレギトープ167との共インキュベーションの結果は類似している:CD4/CD25高陽性細胞の1.67%から7.5%への増加、およびIL-10分泌の5倍の増加。
【図13】Tレギトープの共インキュベーションが、抗原特異的なアレルギー性Th2応答抑制の原因となることを示す一連のグラフおよびプロットである。TレギトープおよびBet v 1141-155アレルゲンとの共培養は、Th2エフェクターからTh1/TRegへのシフトの原因となる。三人のカバノキ花粉アレルギーの対象由来のPBMCを、Tレギトープ167を用いてまたは用いずにBet v 1141-155ペプチドで同時刺激した。10日間のTレギトープでの同時刺激は、Bet v 1144-155四量体陽性CD4陽性細胞による、IL-5分泌の減少(下段左側のパネル)およびTh2関連表面マーカーの減少(上段のパネル)をもたらした。長期の培養(30日間、下段右側のパネル)は、Bet v 1144-155特異的細胞においてTh2(IL-5)からTh1(IFN-γ)への著しいシフトをもたらした。
【図14】Tレギトープの同時投与が、インビボで同時投与された治療用タンパク質に対するエフェクター応答の抑制の原因となることを示すグラフである。抗原XX(実施例5A参照)での免疫化のみ(黒い棒)は、IL-4(対のうちの左側の棒、縦軸は左側)および抗抗原XX抗体力価(対のうちの右側の棒、縦軸は右側)の両者に強い応答を引き起こす。これらの応答は、抗原XXをTレギトープ167およびTレギトープ106のネズミ相同体と同時投与した場合は両者とも半減する(灰色の棒)。偽免疫化された動物における、抗原XXに対する応答は、予想通り陰性である。抗体(対のうちの右側の棒)およびIL-4 ELISpot(対のうちの左側の棒)による応答には相関性がある。
【図15】イエダニ溶解物(HDML)およびチリダニ抗原に対するIL-4および抗体の応答を示したグラフである。HDMLでの免疫化(黒い棒)は、IL-4(対のうちの左側の棒、縦軸は左側)および抗HDM抗原の抗体力価(対のうちの右側の棒、縦軸は右側)の両者に強い応答を引き起こす。これらの応答は、HDMLをTレギトープ289のネズミ相同体と同時投与した場合は、両者とも半減する(灰色の棒)。偽免疫化された動物における、HDML対する応答は、予想通り陰性である。抗体(対のうちの右側の棒)およびIL-4 ELISpot(対のうちの左側の棒)による応答には相関性がある。これらのグラフは、DM未処置マウスにおいてはインビボで38%、および前感作されたマウスの場合は84%抑制されることを示す。実施例5Bを参照のこと。
【図16】Tレギトープの同時投与による免疫原性ペプチド治療(「IPT」)に対する、Tエフェクター応答のインビボでの抑制を示す棒グラフである。HLA DR4 Tgマウスに、IPTのみ、またはIPT+ネズミFC、またはIPT+Tレギトープ289(ネズミ相同体)を3回皮下的に投薬した。最後の投薬の1週間後、マウスを屠殺し、脾細胞を免疫原性ペプチド治療で刺激し48時間でのIL-4 ELISpot試験を行った。FcまたはTレギトープ289のいずれかと免疫原性治療用タンパク質の同時投与は、IL-4スポット形成細胞の著しい減少をもたらす。実施例5Cを参照のこと。
【発明を実施するための形態】
【0019】
詳細な説明
概要
可溶性のタンパク質抗原が抗原提示細胞(APC)に取り込まれ、クラスII抗原提示経路を通じて処理された場合に、適応免疫のカスケードが開始する。クラスII提示経路のタンパク質抗原は、小胞体に見られる様々なプロテアーゼによって分解される。得られたタンパク質断片の一部は、クラスII MHC分子と結合する。ペプチドを負荷したMHC分子は、それらがCD4陽性T細胞によって照合される、細胞表面へ輸送される。MHC分子と結合してAPCと循環T細胞間の細胞間相互作用を仲介できるペプチド断片は、T細胞エピトープと呼ばれる。CD4陽性T細胞によるこれらペプチド-MHC複合体の認識は、反応性T細胞の表現型および局所のサイトカイン/ケモカイン環境に基づいて、免疫活性化または免疫抑制化応答のいずれかをもたらし得る。一般に、MHC/ペプチド複合体とTエフェクター細胞のT細胞レセプター(TCR)間の結合は、例えばIL-4、およびIFN-γなどの炎症性サイトカインの活性化および分泌をもたらす。他方では、ナチュラル調節性T細胞(TReg)の活性化は、特に免疫抑制性サイトカインIL-10およびTGF-βの発現をもたらす(Shevach, E., Nat. Rev. Immunol., 2:389-400, 2002)。これらのサイトカインは、近くのエフェクターT細胞に直接作用し、時としてアネルギーまたはアポトーシスをもたらす。別の場合、調節性のサイトカインおよびケモカインが、エフェクターT細胞をT調節性表現型に変換する;この作用は、本明細書において「誘導性」または「適応性」寛容と呼ばれる。MHC分子へ結合して、循環Tregに結合および活性化ができるT細胞エピトープを、Tレギトープと呼ぶ。
【0020】
初期の自己/非自己の区別は、新生児の発育中に、未成熟なT細胞に対して髄質上皮細胞が特定の自己タンパク質エピトープを発現している胸腺において起こる。自己抗原を高い親和性で認識するT細胞は消去されるが、適度な親和性の自己反応性T細胞は、時々消去を逃れ、いわゆるナチュラル調節性T細胞(TReg)に変換され得る。これらナチュラルTReg細胞は末梢に移送され、定常的な自己免疫抑制をもたらす。ナチュラル調節性T細胞は、末梢における免疫調節および自己寛容の重要な構成要素である。
【0021】
自己寛容は、T細胞、B細胞、サイトカインおよび表面レセプターの間の複雑な相互作用によって制御されている。T調節性免疫応答は、タンパク質抗原(自己であるか外来であるかに関わらない)に対するTエフェクター免疫応答と平衡する。自己反応性のエフェクターT細胞の数もしくは機能の増加または調節性T細胞の数もしくは機能の減少のいずれかによる、自己反応側へのバランスの傾きが自己免疫を示す。
【0022】
寛容の第二の形式は、成熟したT細胞が、それらのT細胞レセプターを介した、通常その場の調節性T細胞から供給されるIL-10およびTGF-β存在下での活性化の際に「適応性」TReg表現型に変換される、末梢において起きる。これら「適応性」TReg細胞の可能性のある役割は、アレルギー反応または低レベルの慢性感染症に起因しうるような過度の炎症を制御する手段として、侵入病原体除去の成功後の免疫応答を減衰させることを含み、または、有益な共生細菌およびウイルスとの共存を促進することもあり得る。「適応性」TRegはまた、体細胞性の超変異を受けたヒト抗体のライフサイクルを管理する役割を果たしてもよい。
【0023】
免疫グロブリンの定常領域は、いくつかの重要なTレギトープを含み、その重要な機能は超変異CDRに対する免疫応答を抑制することであると考えられる。大量の循環するIgGのため、IgGに含まれるTレギトープに相当する大量の調節性T細胞も存在する可能性が高い。この主張の部分的証明として、免疫グロブリンのFc部分を含むキメラタンパク質が、安定性の増加、血清半減期の増加、Fcレセプターへの結合、および免疫原性の減少を含むいくつかの望ましい性質をキメラタンパク質に与えることに考慮されたい(Lei, T. et al., Cell. Immunol., 235:12-20, 2005, Baxevanis, C. et al., Eur. J. Immunol., 16:1013-1016, 1986)。
【0024】
TReg細胞は、B細胞寛容にも役立つ。B細胞は、一つの低親和性Fcレセプター、FcyRIIBをその細胞表面に発現する(Ravetch, J. et al., Science, 234:718-725, 1986)。このレセプターは、その細胞質ドメインに免疫受容体抑制性チロシンモチーフ配列(ITIM)を含む。免疫複合体によるFcyRIIBおよびBCRの同時連結は、MAPキナーゼの活性化阻害によりBCR誘発性増殖を抑制する、およびカルシウムの細胞内への流入を阻害する細胞膜からのブルトン型チロシンキナーゼ(Btk)の解離により食作用を阻止する、イノシトールホスファターゼ、SHIPの動員をもたらすITIMのチロシンリン酸化を引き起こす役割を果たす。FcyRIIBは、ITIM非依存的にアポトーシスも誘導できる。ICによるFcRIIBのホモ凝集の際、Btkの細胞膜との関連は、アポトーシス応答の誘発を亢進する(Pearse, R. et al., Immunity, 10:753-760, 1999)。FcyRIIBの発現は、非常に変化しやすく、サイトカイン依存的である。活性化されたTh2およびTReg細胞で発現するIL-4およびIL-10は、FcyRIIBの発現を亢進するように相乗的に作用することが知られており(Joshi, T. et al., Mol. Immunol., 43:839-850, 2006)、従って液性応答の抑制の手助けとなる。
【0025】
Tレギトープ特異的なTReg細胞を、望ましくない免疫応答を抑制する、および同時送達されたタンパク質に対する適応性TRegを誘導するために活用することが可能である。この発見は、移植、タンパク質治療、アレルギー、慢性感染症、自己免疫およびワクチン設計のための治療計画および抗原特異的治療の設計に影響がある。薬物、タンパク質、またはアレルゲンの、Tレギトープと併用した投与によって、エフェクター免疫応答を抑制できる。寛容に向けて意図的に免疫系を操作するためにTレギトープを用いることができる。
【0026】
本願発明のペプチドは、調節性T細胞の選択的結合および活性化に有用である。本明細書において、特定の既に存在する調節性T細胞の集団は、全身性および限られた疾患特異的な状況の両方において、結合、活性化および望ましくない免疫応答の抑制に適用できることが実証される。
【0027】
広範囲に及ぶ努力にもかかわらず、ほとんど例外なく、ナチュラルTregの抗原特異性、および、さらに重要なことには治療上有意な体積で循環するナチュラルTregの抗原特異性は、不明である。本明細書における呈示は、例えば免疫グロブリンまたは血清タンパク質アルブミンのような、血流中を循環する特定のヒトタンパク質が、調節性T細胞の天然の集団に関連するT細胞エピトープを含むことの実証である。正常な免疫監視の過程において、これらのタンパク質は、例えば樹状細胞またはマクロファージのような専門のAPCによって取り込まれ、分解される。分解過程の間、これらのタンパク質に含まれるエピトープの一部がMHC分子に結合し、細胞表面に輸送されて調節性T細胞に提示される。それらの細胞は、ひとたびAPCによって活性化されると、そうでなければ細胞外タンパク質の機能を妨げるであろう自己免疫応答の抑制に役立つサイトカインおよびケモカインを放出する。
【0028】
本発明のペプチドをそれら既存の調節性T細胞を選択的に活性化するために用いることによって、本発明のペプチドがさまざまな望ましくない免疫応答を抑制するために使用できることが、本明細書において示された。その最も単純な形態において、本発明のペプチドの全身適用は、例えば、例として、MSの再発、アレルギー反応、移植反応、または感染に対する制御されていない反応のような重症な自己免疫応答を制御するのに有効な全身性の免疫抑制剤として使用できる。例えば関節リウマチ(RA)に罹患した関節に局所的に適用された、より制御された適用において、本発明のペプチドは限局性自己免疫応答の抑制に使用できる。特定の他のT細胞エピトープへのペプチドの融合または結合を通じて達成されうるような、標的とされる適用において、ペプチドは、免疫系のバランスを保ったまま、非常に特異的な免疫反応を抑制することが可能である。例えば、インスリンのような自己免疫抗原またはブラジルナッツ抗原のようなアレルゲンに融合した調節性ペプチドの送達を通じて、免疫系は、反応するエフェクターT細胞の表現型を適応性調節性T細胞の表現型へ変換することによって、同時送達された抗原を「許容」するように訓練され得る。
【0029】
上記のように、本願発明のペプチドは循環する細胞外タンパク質由来である。有用であるために、これらペプチドは、真のT細胞エピトープ(すなわち、MHC分子およびTCRの両者に結合可能)でなければならず、治療作用を有するために十分に大きな既存の調節性T細胞集団と関連していなければならない。複数のMHC対立遺伝子および複数のTCRに結合可能なエピトープであるT細胞エピトープクラスターが、この後者の必要条件を満たすために重要である。
【0030】
定義
本願発明の理解をさらに容易にするため、多くの用語および語句を以下で定義する。
【0031】
本明細書において使用される、「生体試料」という用語は、生物由来の組織、細胞または分泌物の任意の試料を指す。
【0032】
本明細書において使用される、「移植」という用語は、「移植組織」または「移植片」と呼ばれる細胞、組織、または臓器をある対象から採取し、それまたはそれらを(通常)異なる対象に配置する過程を指す。移植組織を提供する対象は「ドナー」と呼ばれ、移植組織を受け取る対象は「レシピエント」と呼ばれる。同じ種で遺伝学的に異なる二つの対象間で移植される臓器または移植片は、「同種移植片」と呼ばれる。異なる種の対象間で移植される移植片は、「異種移植片」と呼ばれる。
【0033】
本明細書において使用される、「医学的状態」という用語は、限定されるものではないが、治療および/または予防することが望ましい一つまたは複数の身体的および/または心理的な症状を示す任意の状態または疾患を含み、かつ、以前におよび新たに特定された疾患および他の障害を含む。
【0034】
本明細書において使用される、「免疫応答」という用語は、がん細胞、転移性腫瘍細胞、悪性黒色腫、侵入性病原体、病原体に感染した細胞もしくは組織、または、自己免疫もしくは病的炎症の場合の、正常ヒト細胞もしくは組織の選択的な損傷、破壊、または人体からの除去をもたらす、リンパ球、抗原提示細胞、食細胞、顆粒球、および上記細胞または肝臓によって産生された可溶性高分子(抗体、サイトカイン、および補体を含む)の協調して行われる作用を指す。
【0035】
本明細書において使用される、組成物の「有効な量」という用語は、所望の治療および/または予防効果を実現するのに十分な分量、例えば、治療している疾患に関連する症状の予防または軽減をもたらす量である。対象に投与される本発明の組成物の量は、疾患の種類および重症度、ならびに例えば全体的な健康、年令、性別、体重および薬物耐性などの個体の特性に依存する。それは、疾患の程度、重症度および種類にも依存する。当業者であれば、これらのおよび他の因子に応じて適切な投与量を決定できる。本願発明の組成物は、互いにまたは一種または複数種の追加の治療用化合物と一緒に投与することもできる。
【0036】
本明細書において使用される、「T細胞エピトープ」という用語は、長さが7から30アミノ酸で、HLA分子との特異的結合および特異的TCRとの相互作用が可能なタンパク質決定因子を意味する。一般的に、T細胞エピトープは直線状であり、特定の三次元特性を呈しない。T細胞エピトープは、変性溶媒の存在に影響されない。
【0037】
本明細書において使用される、「B細胞エピトープ」という用語は、抗体との特異的結合が可能なタンパク質決定因子を意味する。エピトープは、通常、例えばアミノ酸または糖側鎖などの化学的に活性な表面分子集団からなり、通常、特定の三次元構造特性を有するほかに、特定の電荷特性も有する。立体構造的および非立体構造的エピトープは、後者ではなく前者への結合が変性溶媒存在下で消失するという点で区別される。
【0038】
本明細書において使用される「対象」という用語は、免疫応答が誘発される任意の生物を指す。対象という用語は、限定されるものではないが、ヒト、例えばチンパンジーおよび他の類人猿のような非ヒト霊長類ならびにサル;例えばウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギおよびウマのような家畜;例えばイヌおよびネコのような飼いならされた動物;例えばマウス、ラットおよびモルモットのようなげっ歯類を含む実験動物等を含む。この用語は特定の年令または性別を示していない。従って、雄であるか雌であるかに関係なく、成体および新生対象および胎児を範囲とすることが意図されている。
【0039】
本明細書において使用される、MHC複合体という用語は、HLAリガンドとして公知であるポリペプチドの特定のレパートリーと結合し、その結果該リガンドを細胞表面に輸送できるタンパク質複合体を指す。
【0040】
本明細書において使用される、「MHCリガンド」という用語は、一つまたは複数の特定のMHC対立遺伝子と結合できるポリペプチドを意味する。「HLAリガンド」という用語は、MHCリガンドという用語と置き換え可能である。MHC/リガンド複合体を、それらの細胞表面に発現している細胞を、「抗原提示細胞」(APC)と呼ぶ。
【0041】
本明細書において使用される、T細胞レセプターまたはTCRという用語は、APCの表面に提示されるMHC/リガンド複合体の特定のレパートリーと結合可能なT細胞で発現するタンパク質複合体を指す。
【0042】
本明細書において使用される、「T細胞エピトープ」という用語は、特定のT細胞レセプター(TCR)と相互作用可能なMHCリガンドを意味する。
T細胞エピトープは、インシリコ手法によって予測され得る。(De Groot, A. et al., AIDS Res. Hum. Retroviruses, 13:539-541, 1997; Schafer, J. et al., Vaccine, 16:1880-1884, 1998; De Groot, A. et al., Vaccine, 19:4385-95, 2001;De Groot, A. et al., Vaccine, 21:4486-504, 2003)。
【0043】
本明細書において使用される、「MHC結合モチーフ」という用語は、特定のMHC対立遺伝子への結合を予測する、タンパク質配列におけるアミノ酸パターンを指す。
【0044】
本明細書において使用される、「T細胞エピトープクラスター」という用語は、約4から約40種のMHC結合モチーフを含むポリペプチドを指す。特定の態様において、T細胞エピトープクラスターは、約5から約35種のMHC結合モチーフ、約8から約30種のMHC結合モチーフ;および約10から約20種のMHC結合モチーフを含む。
【0045】
本明細書において使用される、「エピバー(EpiBar)」という用語は、少なくとも4種の異なるHLA対立遺伝子に反応性であると予測される一つの9アミノ酸長のフレームを指す。エピバーを含む公知の免疫原の配列は、インフルエンザ赤血球凝集素 307-319、破傷風毒素825-850、およびGAD65 557-567を含む。エピバーを含む免疫原性ペプチドの例を以下に示す。
【0046】
(表1)エピバーの例:乱交雑インフルエンザエピトープのエピマトリックス(EpiMatrix)解析
乱交雑に免疫原性であることが公知のエピトープである、インフルエンザのHAペプチドを検討する。エピマトリックスにおいて、それは8種類の対立遺伝子全てに極めて高いスコアを示す。そのクラスターのスコアは18である。10より高いスコアを示すクラスタースコアを、有意であるとみなす。帯状のエピバーパターンは、乱交雑エピトープの特徴である。以下に関して結果を示す。
【0047】
本明細書において使用される、「免疫シナプス」という用語は、所与のT細胞エピトープの、細胞表面MHC複合体およびTCRの両者に対する同時の結合によって形成される、タンパク質複合体を意味する。
【0048】
本明細書において使用される、「調節性T細胞」という用語は、限定されるものではないが、CD4、CD25、およびFoxP3を含む特定の細胞表面マーカーの存在を特徴とする、天然のT細胞サブセットを意味する。活性化の際、調節性T細胞は、限定されるものではないが、IL-10、TGF-βおよびTNF-αを含む免疫抑制性サイトカインおよびケモカインを分泌する。
【0049】
「ポリペプチド」という用語は、アミノ酸の重合体を指し、明確な長さは指していない;従って、ペプチド、オリゴペプチドおよびタンパク質がポリペプチドの定義に含まれる。本明細書において使用される場合、組換えおよび非組換え細胞から単離される際にポリペプチドが細胞物質を実質的に含まない、または化学的に合成される際に化学的前駆体または他の化学物質を実質的に含まない場合、このポリペプチドは、「単離」または「精製」されるといわれる。しかしながら、ポリペプチドは、通常なら細胞内で結び付かない別のポリペプチドと連結でき、依然として「単離」または「精製」されている。ポリペプチドが組換え技術によって生産される場合、それは実質的に培地を含まないことも可能であり、例えば、培地はポリペプチド調製物の体積の約20%未満、約10%未満、または約5%未満を示す。
【0050】
変異体ポリペプチドは、一つまたは複数の置換、欠失、挿入、転位、融合、および切断、またはそれらの任意の組み合わせによってアミノ酸配列が異なり得る。
【0051】
本発明は、本発明のポリペプチドのポリペプチド断片も含む。本発明は、本明細書において記載されたポリペプチド変異体の断片も包含する。本発明は、キメラのまたは融合したポリペプチドも提供する。これらは、そのポリペプチドと実質的に相同ではないアミノ酸配列を有する異種のタンパク質またはポリペプチドと効果のあるように連結された、本発明のポリペプチドを含む。「効果のあるように連結される」は、ポリペプチドおよび異種のタンパク質がインフレームで融合されることを示唆する。
【0052】
単離されたポリペプチドは、天然にそれを発現する細胞から精製でき、それを発現するように変えられた細胞(組換え体)から精製でき、または公知のタンパク質合成方法を用いて合成できる。一つの態様において、ポリペプチドは組換えDNA技術によって生産される。例えば、ポリペプチドをコードする核酸分子を発現ベクターにクローニングし、この発現ベクターを宿主細胞に導入して、宿主細胞でポリペプチドを発現させる。その後、標準的なタンパク質精製技術を用いた適切な精製スキームによって、ポリペプチドを細胞から単離することができる。
【0053】
本願発明の目的のために、ポリペプチドは、例えば、D型立体異性体のような天然アミノ酸の改変型、非天然アミノ酸;アミノ酸類似体;および模倣体を含み得る。
【0054】
本発明の実施または検証においては本明細書に記載のものと類似または同等の任意の方法および物質が使用可能であるが、好ましい方法および材料を説明する。本発明の他の特徴、目的、および利点は、説明および特許請求の範囲から明らかである。明細書および添付の特許請求の範囲において、文脈からそうでないことが明らかでない限り、単数形は複数の対象を含む。他に定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者に一般的に理解されているのと同じ意味を持つ。各々の個々の刊行物、特許、または特許出願は、その全体が全ての目的で参照により組み入れられることが具体的におよび個別的に示されるのと同程度に、本明細書中に引用したすべての参考文献は、全ての目的でその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0055】
組成物
一つの局面において、本発明は以下に記載の一つまたは複数の定義された特徴を有するペプチドまたはポリペプチド鎖を含む、「Tレギトープ」と呼ぶ、新しいクラスのT細胞エピトープ組成物を提供する。すなわち、本発明のTレギトープは、一つまたは複数の以下の特徴を有することを含むが、これらに限定されない。
【0056】
(1)本発明のTレギトープは、共通のヒトタンパク質由来である。
【0057】
(2)本発明のTレギトープは、それらの起源となるタンパク質の公知の変異体間で高度に保存されている(例えば、公知の変異体に50%を上回って存在する)。
【0058】
(3)本発明のTレギトープは、エピマトリックス解析によって同定された、少なくとも一つの仮想T細胞エピトープを含む。エピマトリックスは、仮想T細胞エピトープの存在についてタンパク質配列をスクリーニングするために使用される、エピバックス社(EpiVax)によって開発された専売のコンピューターアルゴリズムである。入力配列は、各フレームが最後の8アミノ酸で重なり合う、重なり合った9アミノ酸長のフレームで解析される。その後、得られたフレームのそれぞれは、8種類の一般的なクラスII HLA対立遺伝子パネル(DRB1*0101、DRB1*0301、DRB1*0401、DRB1*0701、DRB1*0801、DRB1*1101、DRB1*1301、およびDRB1*1501)に対する予測された結合親和性についてスコア付けされる。未加工のスコアは、不規則に生成されたペプチドの大きなサンプルのスコアに対して、正規化される。得られた「Z」スコアが報告される。対立遺伝子特異的なエピマトリックスのZスコアが1.64を上回る任意の9アミノ酸長のペプチドは、理論上はあるサンプルの上位5%であり、仮想T細胞エピトープとみなされる。
【0059】
好ましい態様において、本発明のTレギトープは、T細胞エピトープクラスターとして公知のパターンを形成する、いくつかの仮想T細胞エピトープを含む。仮想T細胞エピトープは、タンパク質配列全体に不規則に分布するのではなく、代わりに特定の領域に「クラスターを形成する」傾向がある。加えて、仮想T細胞エピトープのクラスターを含むペプチドは、インビトロおよびインビボアッセイにおける検証において陽性となる可能性がより高い。最初のエピマトリックス分析結果は、仮想T細胞エピトープの「クラスター」の存在について、クラスチマー(Clustimer)として公知である第二の専売のアルゴリズムを用いてさらにスクリーニングされる。クラスチマーアルゴリズムは統計的に著しく多数の仮想T細胞エピトープを含む任意の所与のアミノ酸配列に含まれる小領域を特定する。典型的なT細胞エピトープの「クラスター」は、約9からほぼ30アミノ酸の範囲の長さであり、複数の対立遺伝子に対する、および複数の9アミノ酸長フレームにわたるそれらの親和性を考慮すると、約4からほぼ40個の範囲の仮想T細胞エピトープを含み得る。同定された個々のエピトープクラスターについて、集合的なエピマトリックススコアは、仮想T細胞エピトープのスコアを合計し、候補エピトープクラスターの長さおよびそれと同じ長さの無作為に生成されたクラスターの予想スコアに基づく補正係数を差し引くことにより算出される。+10を上回るエピマトリックスクラスターのスコアが有意であると考えられる。
【0060】
最も反応性のT細胞エピトープクラスターの多くは、「エピバー」と呼ばれる特徴を含む。エピバーは、少なくとも4種類の異なるHLA対立遺伝子に反応性であると予測される、単一の9アミノ酸長のフレームである。エピバーを含む配列は、インフルエンザ赤血球凝集素307〜319(クラスタースコア18)、破傷風毒素825〜850(クラスタースコア16)、およびGAD65 557〜567(クラスタースコア19)を含む。もう一つの態様において、本発明のペプチドは、一つまたは複数のエピバーを含み得る。
【0061】
(4)本発明のTレギトープは、少なくとも中程度の親和性(例えば、可溶性HLA分子に基づくHLA結合アッセイで<200μM IC50)で、少なくとも1種類および好ましくは2種類またはそれ以上の共通のHLAクラスII分子に結合する。
【0062】
(5)少なくとも1種類のHLA対立遺伝子と関連して、および好ましい態様において、2種類またはそれ以上のHLA対立遺伝子との関連して、本発明のTレギトープは、APCによって細胞表面に提示され得る。
【0063】
(6)この関連において、Tレギトープ-HLA複合体は、Tレギトープ-HLA複合体に特異的なTCRを有し、正常な対照である対象において循環する調節性T細胞の先在集団によって認識され得る。Tレギトープ-HLA複合体の認識は、適合する調節性T細胞を活性化させて、調節性サイトカインおよびケモカインを分泌する原因となり得る。
【0064】
(7)本発明のTレギトープでの調節性T細胞の刺激は、次のサイトカインおよびケモカインの1つまたは複数の分泌の増加をもたらす:IL-10、TGF-β、TNF-αおよびMCP1。この調節性サイトカインおよびケモカインの増加された分泌は、調節性T細胞の証明である。
【0065】
(8)本発明のTレギトープによって活性化される調節性T細胞は、CD4陽性CD25陽性FOXP3の表現型を呈する。
【0066】
(9)Tレギトープによって活性化された調節性T細胞は、抗原特異的なTh1またはTh2関連サイトカインレベル、主としてINF-γ、IL-4、およびIL-5の減少によって、ならびにCFSEの希釈で測定された抗原特異的なTエフェクター細胞集団の減少によって測定されたように、エクスビボでTエフェクターの免疫応答を直接抑制する。
【0067】
(10)Tレギトープによって活性化された調節性T細胞は、抗原特異的なTh1またはTh2関連サイトカインレベル(ELISAアッセイで測定)の減少、抗原特異的なTエフェクター細胞レベル(EliSpotアッセイで測定)の減少およびタンパク質抗原への抗体力価の減少によって測定されたように、インビボでTエフェクターの免疫応答を直接抑制する。
【0068】
(11)本発明のTレギトープによって活性化されたナチュラル調節性T細胞は、適応性TReg細胞の発達を刺激する。抗原存在下における末梢T細胞の本発明のTレギトープとの共インキュベーションは、抗原特異的CD4陽性/CD25陽性T細胞の増大をもたらし、それらの細胞におけるFOXP3陽性の発現を上昇させ、かつインビトロでの抗原特異的Tエフェクター細胞の活性化を抑制する。
【0069】
本発明のTレギトープは、モノクローナル抗体、タンパク質治療用物質、自己免疫応答を促進する自己抗原、アレルゲン、移植された組織への免疫応答の制御、および寛容が所望の成果である他の用途において有用である。本発明のTレギトープの選択態様は、実施例1の表2に要約されている。
【0070】
一つの態様において、本発明のTレギトープは、表2に記載のように単離されたT細胞エピトープである。表2のTレギトープ(SEQ ID NO:4から58)は、MHCクラスII分子との結合、MHCクラスII分子と関連するTCRとの結合およびナチュラル調節性T細胞の活性化が可能である。
【0071】
本発明のポリペプチドは、均質にまたは部分的に精製され得る。しかしながら、ポリペプチドが均質に精製されていない調製物が有用であることが理解される。重要な特徴は、多量の他の成分の存在下でさえ、その調製がポリペプチドの所望の機能を可能にすることである。従って、本発明はさまざまな純度を包含する。一つの態様において、「細胞物質を実質的に含まない」という言葉は、約30%未満(乾燥重量)の他のタンパク質(例えば、混入タンパク質)、約20%未満の他のタンパク質、約10%未満の他のタンパク質、または約5%未満の他のタンパク質を有するポリペプチドの調製を含む。
【0072】
ポリペプチドが組換えにより生産される場合、これは培地を実質的に含まないことも可能であり、例えば、培地はポリペプチド調製物の体積の約20%未満、約10%未満、または約5%未満を示す。「化学的前駆体または他の化学物質を実質的に含まない」という言葉は、その合成において関与する化学的前駆体または他の化学物質から分離されているポリペプチドの調製物を含む。「化学的前駆体または他の化学物質を実質的に含まない」という言葉は、例えば、約30%未満(乾燥重量)の化学的前駆体もしくは他の化学物質、約20%未満の化学的前駆体もしくは他の化学物質、約10%未満の化学的前駆体もしくは他の化学物質、または約5%未満の化学的前駆体もしくは他の化学物質を有するポリペプチドの調製物を含み得る。
【0073】
本明細書において使用される際、アミノ酸配列が、少なくとも約45〜55%、典型的には少なくとも約70〜75%、より典型的には少なくとも約80〜85%、およびより典型的には約90%またはそれ以上を上回って相同または同一である場合、二つのポリペプチド(またはポリペプチドの領域)は実質的に相同または同一である。二つのアミノ酸配列または二つの核酸配列の相同性または同一性(%)を決定するため、配列が最適な比較目的のために整列される(例えば、他のポリペプチドまたは核酸分子との最適な整列化のため、一つのポリペプチドまたは核酸分子の配列にギャップが導入され得る)。その後、対応するアミノ酸位置またはヌクレオチド位置にあるアミノ酸残基またはヌクレオチドが比較される。一つの配列のある位置が、他の配列の対応する位置と同じアミノ酸残基またはヌクレオチドによって占められる場合、分子はその位置において相同である。本明細書において使用される際、アミノ酸または核酸の「相同性」は、アミノ酸または核酸の「同一性」と同等である。二つの配列間の相同性(%)は、配列によって共有される同一な位置数の関数である(例えば、相同性(%)は、同一な位置数/位置の総数×100に等しい)。
【0074】
本発明は、より低度の同一性を有するものの、本発明の核酸分子にコードされるポリペプチドによって示されるのと同じ機能の一つまたは複数を示すのに十分な類似性を有するポリペプチドをも包含する。類似性は、保存されているアミノ酸置換によって決定される。そのような置換は、ポリペプチドの特定のアミノ酸を類似な特性のもう一つのアミノ酸によって置換することである。保存された置換は、表現型的にサイレントである可能性が高い。保存された置換として典型的に見られるのは、脂肪族アミノ酸Ala、Val、LeuおよびIle間での互いの置き換え;ヒドロキシル残基SerおよびThrの入れ替え、酸性残基AspおよびGluの交換、アミド残基AsnおよびGln間の置換、塩基性残基LysおよびArgの交換ならびに芳香族残基のPheおよびTyr間での置き換えである。どのアミノ酸の変更が表現型的にサイレントである可能性が高いかに関する指針は、例えば、Bowie, J. et al., Science, 247:1306-1310, 1990に見られる。
【0075】
変異体ポリペプチドは、一つまたは複数の置換、欠失、挿入、転位、融合、および切断、またはそれらの任意のものの組み合わせによってアミノ酸配列が異なり得る。変異体ポリペプチドは、完全に機能的であり得るか、または一つもしくは複数の作用において機能が欠落し得る。完全に機能的な変異体は、典型的に、保存された変化または重要でない残基もしくは重要でない領域での変化のみを含む。機能的な変異体は、機能に変化をもたらさないまたはわずかな変化をもたらす類似のアミノ酸の置換をも含み得る。あるいは、そのような置換は、機能にある程度まで正または負に影響し得る。機能的でない変異体は、典型的に、一つもしくは複数の非保存的なアミノ酸の置換、欠失、挿入、転位、もしくは切断、または、重要な残基もしくは重要な領域における置換、挿入、転位、もしくは欠失を含む。変異体ポリペプチドのいくつかの例が表2に含まれる。
【0076】
本発明は、本発明のポリペプチドのポリペプチド断片をも含む。本発明は、本明細書において記載されるポリペプチドの変異体断片をも包含する。本明細書において使用される際、断片は、少なくとも約5個の連続したアミノ酸を含む。有用な断片は、ポリペプチド特異的な抗体を生成する免疫原として使用できるポリペプチドおよび断片の、一つまたは複数の生物学的活性を保持するものを含む。例えば、生物学的に活性な断片は、約6、9、12、15、16、20もしくは30またはそれ以上の長さのアミノ酸である。断片は、分離して存在(他のアミノ酸またはポリペプチドに融合しない)するか、または、より巨大なポリペプチド内に存在し得る。いくつかの断片は、一つのより巨大なポリペプチド内に含まれ得る。一つの態様において、宿主内での発現用に設計された断片は、ポリペプチド断片のアミノ末端に融合された異種のプレポリペプチド領域およびプロポリペプチド領域、ならびに上記断片のカルボキシル末端に融合された付加的領域を有し得る。
【0077】
本発明は、キメラのまたは融合ポリペプチドをも提供する。これらは、このポリペプチドと実質的に相同ではないアミノ酸配列を有する異種タンパク質またはポリペプチドと効果のあるように連結された、本発明のポリペプチドを含む。「効果のあるように連結」は、ポリペプチドおよび異種タンパク質がインフレームで融合されていることを示す。異種タンパク質は、ポリペプチドのN-末端またはC-末端に融合され得る。一つの態様において、融合ポリペプチドは、ポリペプチドそれ自体の機能に影響しない。例えば、融合ポリペプチドは、ポリペプチド配列がGST配列のC-末端に融合したGTS融合ポリペプチドであり得る。他の種類の融合タンパクは、酵素融合ポリペプチド、例えばβ-ガラクトシダーゼ融合物、酵母ツーハイブリッドGAL融合物、ポリ-His融合物、およびIg融合物を含むが、これらに限定されない。そのような融合ポリペプチド、特にポリ-His融合物またはアフィニティータグ融合物は、組換えポリペプチドの精製を促進し得る。特定の宿主細胞(例えば、哺乳動物宿主細胞)において、ポリペプチドの発現および/または分泌は、異種のシグナル配列の使用によって増加され得る。従って、もう一つの態様において、融合ポリペプチドは、そのN-末端に異種のシグナル配列を含む。
【0078】
キメラのまたは融合ポリペプチドは、標準的な組換えDNA技術によって生産され得る。例えば、異なるポリペプチド配列をコードするDNA断片は、従来技術に従って互いにインフレームで連結される。もう一つの態様において、融合遺伝子は、自動DNA合成機を含む従来技術によって合成され得る。あるいは、核酸断片のPCR増幅は、後にアニールおよびキメラの核酸配列を生成するために再増幅され得る二つの連続する核酸断片間に相補的なオーバーハングを生じさせるアンカープライマーを用いて実施され得る(Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, 1992)。さらに、既に融合部分(例えば、GSTタンパク質)をコードした多くの発現ベクターが市販されている。本発明のポリペプチドをコードした核酸分子は、融合部分がポリペプチドにインフレームで連結されたような発現ベクターにクローニングされ得る。
【0079】
単離されたポリペプチドは、天然にそれを発現する細胞から精製でき、それを発現するように変化させた細胞(組換え体)から精製でき、または公知のタンパク質合成方法を用いて合成できる。一つの態様において、ポリペプチドは組換えDNA技術によって生産される。例えば、ポリペプチドをコードする核酸分子を発現ベクターにクローニングし、この発現ベクターを宿主細胞に導入して、宿主細胞でポリペプチドを発現させる。その後、標準的なタンパク質精製技術を用いた適切な精製スキームによって、ポリペプチドは細胞から単離できる。
【0080】
本発明は、本発明のポリペプチドを全体的にまたは部分的にコードした核酸をも提供する。本発明の核酸分子は、ベクターに挿入され、例えば、発現ベクターまたは遺伝子治療用ベクターとして使用され得る。遺伝子治療用ベクターは、例えば、静脈注射、局所投与(米国特許第5,328,470号)によって、または定位注射(Chen, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91:3054-3057, 1994)によって対象に送達され得る。遺伝子治療用ベクターの薬学的調製物は、許容される希釈剤中に遺伝子治療用ベクターを含み、または遺伝子送達媒体が組み込まれた徐放性基質を含み得る。あるいは、例えば、レトロウイルスベクターのように、完全な遺伝子送達ベクターが、組換え細胞から完全な状態で生産され得る場合、薬学的調製物は、遺伝子送達系を生産する一つまたは複数の細胞を含み得る。薬学的組成物は、投与用の指示書と共に容器、パック、およびディスペンサーに含まれ得る。
【0081】
本発明のTレギトープは、その対立遺伝子もしくは配列の変異体(「突然変異体」)もしくは類似体を含むことができ、または化学修飾(例えば、ペグ化、グリコシル化)を含み得る。一つの事例において、突然変異体は、MHC分子への増強された結合を提供し得る。もう一つの事例において、突然変異体は、TCRへの増強された結合をもたらし得る。もう一つの事例において、突然変異体は、MHC分子および/またはTCRへの結合の減少をもたらし得る。結合するがTCRを経由するシグナル伝達は可能としない突然変異体も意図される。
【0082】
本発明は、キメラのタンパク質組成物であるTレギトープ組成物を提供する。一つの態様において、Tレギトープ組成物は、共に連結している第一および第二のポリペプチド鎖を含み、第一の鎖は配列番号4〜58またはそれらの任意の組み合わせを含み、かつ第二の鎖は生物学的に活性な分子を含む。一つの態様において、生物学的に活性な分子は、免疫原性分子;T細胞エピトープ;ウイルスタンパク質;細菌タンパク質からなる群より選択される。一つの態様において、本発明のTレギトープ組成物は、共に連結している第一および第二のポリペプチド鎖を含み、第一の鎖は289〜309領域のアミノ酸がMHCクラスII分子に結合しないように変化しているFc領域を含み、かつ第二の鎖は免疫原性分子を含む。
【0083】
一つの局面において、本発明は、SEQ ID NO:4〜58の少なくとも一部を認識する調節性T細胞株を生産する方法を提供する。一つの態様において、SEQ ID NO:4〜58からなる群より選択される、一種または複数種のペプチドは、適切な賦形剤との混合物に混合される。そのような組成物は、必要とする対象における炎症を予防または治療する方法に有用であり、適切な賦形剤との混合物の局所送達は、対象における炎症の減少をもたらす。
【0084】
一つの態様において、SEQ ID NO:4〜58からなる群より選択される、一種または複数種のペプチドは、抗原またはアレルゲンとの混合物に混合される。そのような組成物は、必要とする対象における抗原またはアレルゲンに対する寛容を誘導する方法に有用であり、抗原またはアレルゲンとの混合物の局所送達は、対象における抗原またはアレルゲンに対する寛容の増加をもたらし、かつ適切な賦形剤との送達は、抗原またはアレルゲンに対する寛容の誘導をもたらす。
【0085】
一つの態様において、本発明は、SEQ ID NO:4〜58からなる群より選択される、一種または複数種のTレギトープポリペプチドを含みコードする核酸を提供する。一つの態様において、本発明は、SEQ ID NO:4〜58からなる群より選択される、一種または複数種のTレギトープポリペプチドを含みコードする核酸を含むベクターを提供する。一つの態様において、本発明は、本発明のベクターを含む細胞を提供する。細胞は、哺乳動物細胞、細菌細胞、昆虫細胞、または酵母細胞であり得る。
【0086】
Tレギトープ特異的T細胞のクローニング
Tレギトープ特異的T細胞のクローニングは、当業者に公知の技術によって行われ得る。例えば、単離されたPBMCを、20%HAS含有RPMI培地当たり10μgのTレギトープで刺激する。IL-2を、5日目に開始して一日おきに加える(最終濃度10 U/ml)。T細胞を、11または12日目に四量体プールで染色する。各プールについて、2〜3×105個の細胞を、50 mlの培養培地中(10 mg/ml)37℃で1から2時間、0.5 mgのPE-標識四量体とインキュベートし、その後15分間室温で、抗CD4-FITC(BD PharMingen、サンディエゴ、カリフォルニア州)染色する。細胞を洗浄し、Becton Dickinson FACSCaliburフローサイトメーター(Becton Dickinson、サンノゼ、カリフォルニア州)で分析する。陽性染色を示すプールについて単一のペプチドを負荷した四量体を作製し、14または15日目に分析を行う。特定の四量体に陽性である細胞は、同日または翌日にBecton Dickinson FACSVantage(サンノゼ、カリフォルニア州)用いて96穴U底プレートに分類された単一細胞である。分類した細胞を、フィーダーとしてウェル当たり1.5〜3×105個の一致しない、放射線照射(5000 rad)したPBMCと一緒にして増大させ、24時間後に2.5 mg/ml PHAおよび10 U/ml IL-2を加える。四量体(同族のペプチドまたは対照ペプチド、HA307〜319を負荷)での染色、および10 mg/mlの特異的ペプチドとのT細胞増殖アッセイ(Novak, E. et al., J. Immunol., 166:6665-6670, 2001)によって、クローニングされたT細胞の特異性を確認する。
【0087】
Tレギトープ組成物の使用方法
一つの局面において、本発明は、小分子の設計のためにTレギトープの使用方法を提供する。本発明の一つの方法において、Tレギトープ特異的T細胞を、2週間間隔で濃度1μg/mlの小分子混合物のプールおよび自己由来の樹状細胞(DC)で三回刺激し、その後、異種由来の樹状細胞および抗原で刺激する。丸底96ウェルプレートに、ウェル当たりT細胞(1.25×105個)およびDC(0.25×105個)を加える。500 mlのRPMI培地1640に50 mlのFCS(HyClone)、ペニシリン、およびストレプトマイシン(GIBCO);20 mM Hepes(GIBCO);ならびに4 mlの1N NaOH溶液を補足して、T細胞の培地を作製する。IL-2濃度は当初0.1 nMであり、その後の刺激期間中、徐々に1 nMまで増加させる。0.6×105個のエプスタイン-バーウイルス形質転換B細胞(100グレイ)および1.3×105個の異種由来の末梢血単核細胞(33グレイ)をフィーダー細胞として使用する、ならびに2 nMのIL-2を含有する培地中で1μg/mlのフィトヘムアグルチニン(Difco)を使用することによる限界希釈法により、T細胞クローンを得る。その後、Tレギトープ特異的T細胞を刺激する小分子プールを、個別の分子としてテストする。
【0088】
一つの局面において、本発明は、T細胞レセプターのクローニングを目的とするTレギトープ使用方法を提供する。上記のように生成したTレギトープ特異的T細胞株から、全RNAをRNeasy Mini Kit(Qiagene)で抽出する。cDNA末端迅速増幅(RACE)法(GeneRacer Kit、Invitrogen)によってTCRのcDNAをクローニングするために、全RNA 1μgを用いる。一本鎖cDNAを合成する前に、5' RACE GeneRacer Kitの取扱説明書に従って、RNAを脱リン酸化し、脱キャップ化し、およびRNAオリゴヌクレオチドと連結する。RNAオリゴを連結したmRNAを一本鎖cDNAに逆転写するため、SuperScript II RTおよびGeneRacer Oligo-dTを用いる。GeneRacer 5'(GeneRacer Kit)を5'プライマーとして用い、遺伝子特異的プライマー
を、それぞれTCRα、β1、またはβ2鎖の3'プライマーとして用いて、5' RACEを行う。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)生成物を、pCR2.1 TOPOベクター(Invitrogen)にクローニングし、その後One Shot TOP10 コンピテント大腸菌(Escherichia coli)(Invitrogen)に形質転換する。TCRα、β1、およびβ2鎖用の各コンストラクトからの96個の個別クローンから、プラスミドDNAを調製する。vα/vβの使用を決定するため、全てのプラスミドの全長挿入断片を配列決定する(Zhao, Y. et al., J. Immunother., 29:398-406, 2006)。
【0089】
薬学的製剤
本発明は、医学的状態を有する対象を治療する方法であって、薬学的に許容される担体または賦形剤中の治療上有効な量のTレギトープを投与する工程を含む方法を提供する。本願発明のTレギトープは、投与に適した薬学的組成物に組み込まれ得る。薬学的組成物は一般に、対象への投与に適した形態で、少なくとも一つのTレギトープおよび薬学的に許容される担体を含む。薬学的に許容される担体は、投与される特定の組成物、および組成物を投与するために用いられる特定の方法によって、ある程度決定される。従って、Tレギトープ組成物を投与するために、薬学的組成物には多種類の適した製剤が存在する(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co., Easton, PA 18th ed., 1990を参照)。薬学的組成物は一般に、無菌で、実質的に等張に、および米国食品医薬品局の全ての優良製造規則(GMP)の規定に完全に準拠して、製剤される。
【0090】
それらが組成物、担体、希釈剤および試薬を指す際には、「薬学的に許容される」、「生理的に耐容される」という用語、およびそれらの文法的変形は互換的に用いられ、かつ組成物の投与が禁止される程度の望ましくない生理的効果が生み出されることなく、物質が対象にまたは対象上に投与できることを表す。「薬学的に許容される賦形剤」は、例えば、一般に安全で、非毒性であり、および望ましい薬学的組成物の調製に有用な賦形剤を意味し、ならびに獣医用の使用およびヒトの薬学的使用のために容認される賦形剤を含む。そのような賦形剤は、固体、液体、半固体、または、エアロゾル組成物の場合、気体であり得る。当業者であれば、本願発明の特定の薬物および組成物を投与する適切なタイミング、順序および投薬量を決定できるであろう。
【0091】
そのような担体または希釈剤の好ましい例は、水、生理食塩水、リンゲル液、ブドウ糖溶液、および5%ヒト血清アルブミンを含むが、これらに限定されない。リポソーム、および固定油のような非水性媒体も使用され得る。薬学的活性物質用にそのような媒質および化合物を使用することは、当技術分野において周知である。任意の従来の媒質または化合物がTレギトープに不適合性である場合を除いて、組成物におけるその使用を考える。補足の活性化合物も、組成物に組み込まれ得る。
【0092】
本発明の薬学的組成物は、その意図される投与経路に適合するように製剤される。本願発明のTレギトープ組成物は、非経口的、局所的、静脈内、経口的、皮下的、動脈内、皮内、経皮的、直腸、頭蓋内、腹腔内、鼻腔内;膣内;筋肉内経路でまたは吸入剤として投与され得る。本発明のいくつかの態様において、薬剤は、沈着物が蓄積した特定の組織内に直接注射され、例えば、頭蓋内注射である。Tレギトープの投与には、筋肉内注射または静脈内注入が好ましい。いくつかの方法において、本発明の特定のTレギトープは、直接頭蓋内に注射される。いくつかの方法において、本発明のTレギトープは、持続放出組成物または、例えばMedipad(商標)装置のような装置として投与される。
【0093】
本発明のTレギトープは、本明細書において記載される様々な医学的状態の治療に少なくともある程度効果がある他の薬剤と組み合わせて、任意で投与され得る。対象の中枢神経系への投与の場合、本発明のTレギトープは、本発明の薬剤の血液脳関門の向こう側への通過を増加させる他の薬剤と併用して投与することも可能である。
【0094】
非経口的、皮内、または皮下的な適用に使用される溶液または懸濁液は、次の成分を含み得る:例えば注射用水のような無菌希釈剤、生理食塩水、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒;例えばベンジルアルコールまたはメチルパラベンのような抗菌性化合物;例えばアスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウムのような抗酸化物質;例えばエチレンジアミン四酢酸(EDTA)のようなキレート化合物;例えば酢酸塩、クエン酸塩またはリン酸塩のような緩衝剤、および例えば塩化ナトリウムまたはデキストロースのような浸透圧調節用化合物。pHは、例えば塩酸または水酸化ナトリウムのような、酸または塩基で調節され得る。賦形剤の例は、デンプン、ブドウ糖、乳糖、ショ糖、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、水、エタノール、DMSO、グリコール、プロピレン、乾燥スキムミルクなどを含み得る。組成物は、pH緩衝試薬、および湿潤または乳化剤も含み得る。
【0095】
非経口用の調製物は、ガラスまたはプラスチック製のアンプル、使い捨て注射器または複数回投薬量バイアルに封入され得る。
【0096】
注射用の使用に適した薬学的組成物は、無菌の注射用溶液または分散液の即時調製物用の無菌水溶液(水溶性の場合)または分散液および無菌粉末を含む。静脈内投与に関して、適する担体は、生理食塩水、静菌性水、Cremophor ELTM(BASF、パーシッパニー、ニュージャージー州)またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を含む。全ての場合において、組成物は無菌であり、かつ容易な注射可能性が存在する程度に流動性でなければならない。それは、製造および保存の条件下において安定であり、かつ例えば細菌および真菌のような微生物の汚染作用から保護される。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、およびそれらの適当な混合物を含有する溶媒または分散媒であり得る。例えば、レシチンのようなコーティングの使用によって、分散の場合は必要とされる粒径の維持によって、および界面活性剤の使用によって、適切な流動性が維持され得る。微生物の作用を予防することは、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどの様々な抗菌性および抗真菌性化合物によって達成され得る。多くの場合において、等浸透圧化合物、例えば、糖類、マンニトール、ソルビトールのような多価アルコール、塩化ナトリウムを組成物中に含むことが好ましい。注射用組成物の持続的吸収は、組成物中に吸収を遅らせる化合物、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを含むことによってもたらされ得る。
【0097】
無菌の注射用溶液は、上で列挙された成分の一つまたは組み合わせを含む適切な溶媒に必要量のTレギトープを組み込み、必要に応じて、後にろ過滅菌を行うことによって調製され得る。一般に、分散系は、基本的な分散媒質および上で列挙された必要な他の成分を含む無菌媒体に結合剤を組み込むことによって調製される。無菌注射溶液調製物用の無菌粉末の場合、調製方法は、前もって滅菌ろ過した任意の追加の望ましい成分を加えた活性成分の粉末を産生する真空乾燥および凍結乾燥である。活性成分の持続的または拍動性の放出を可能とするような方式で製剤され得る蓄積注射または埋め込み調製物の形態で、この発明の薬剤は投与され得る。
【0098】
経口用組成物は、一般に、不活性な希釈剤または可食の担体を含む。それらは、ゼラチンカプセルに封入または錠剤へ圧縮される。経口治療用投与の目的のため、結合剤は、賦形剤と組み合わせられ、かつ錠剤、トローチ、またはカプセルの形態で使用され得る。経口用組成物は、口内洗浄剤として使用するために流動性担体を用いて調製してもよく、この流動性担体中の化合物は経口的に適用され、口内で漱がれて吐出または嚥下される。薬学的に適合する結合化合物および/またはアジュバント物質が、組成物の一部として含まれ得る。錠剤、丸剤、カプセル、トローチなどは、任意の下記成分、または同様の性質の化合物を含み得る:例えば結晶セルロース、ゴムトラガカントもしくはゼラチンのような結合剤;例えばデンプンもしくは乳糖のような賦形剤、例えばアルギン酸、プリモゲルもしくはコーンスターチのような崩壊剤;例えばステアリン酸マグネシウムもしくはステロート(Sterote)のような潤滑剤;例えばコロイド状二酸化シリコンのようなグライダント(glidant);例えばショ糖もしくはサッカリンのような甘味剤;または例えばペパーミント、サルチル酸メチルもしくはオレンジ香味剤のような香味剤。
【0099】
吸入による投与について、Tレギトープは、適切な噴射剤、例えば、二酸化炭素のような気体を含む、加圧された容器またはディスペンサーからのエアロゾルスプレー、またはネブライザーの形態で送達される。
【0100】
全身性投与は、経粘膜的手段または経皮的手段によってもあり得る。経粘膜投与または経皮投与について、浸透されるバリアに対して適切な浸透剤が、製剤中に使用される。そのような浸透剤は、概して当技術分野において公知であり、例えば、経粘膜投与については、界面活性剤、胆汁酸塩、およびフシジン酸誘導体を含む。経粘膜投与は、鼻スプレーまたは坐剤の使用によって達成され得る。経皮投与について、Tレギトープは、当技術分野において一般に公知であるように、軟膏、膏薬、ゲルまたはクリームに製剤され、局所的に、または経皮的パッチ技術によって適用される。
【0101】
Tレギトープは、坐剤(例えば、カカオバターおよび他のグリセリドのような従来からの坐剤基剤を使用した坐剤)の形態の、または直腸送達用の停留浣腸(retention enema)の形態の薬学的組成物としても調製され得る。
【0102】
一つの態様において、Tレギトープは、埋め込みおよびマイクロカプセル化送達系を含む、Tレギトープを身体からの迅速な排出から保護する例えば制御放出製剤のような担体と調製される。例えば、エチレンビニル酢酸、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルソエステル、およびポリ酪酸のような、生分解性、生体適合性の高分子が使用され得る。そのような製剤の調製方法は、当業者にとって明らかであろう。これらの物質は、Alza CorporationおよびNova Pharmaceuticals, Inc.から商業的に得ることも可能である。リポソーム懸濁液(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体を有する、感染細胞に標的化されたリポソームを含む)も、薬学的に許容できる担体として使用され得る。これらは、当業者に公知の方法(米国特許第4,522,811号)に従って調製され得る。Tレギトープまたはキメラのタンパク質は、所望の場所へのTレギトープまたはキメラタンパク質の放出を可能とする生体高分子の固形支持体に埋め込まれるか、または該支持体に結合され得る。
【0103】
投薬単位形態で経口または非経口用組成物を製剤することは、投与の容易性および投薬量の均一性のために特に有利である。本明細書において使用される場合、投薬単位形態は、治療されるべき対象用の単位投薬量として適した物理的に分離した構成単位を指し;各構成単位は、必要とされる薬学的担体と共同して所望の治療効果を産生するように算出された予め決められた量の結合剤を含む。結合剤の独特な特徴および達成されるべき特定の治療効果、ならびに対象の治療用にそのようなTレギトープを組み合わせる技術分野に固有の制限によって、本発明の投薬単位形態の仕様は決定され、かつそれらに直接依存する。
【0104】
医学的状態の予防または治療の方法
本願発明は、例えば、本発明のTレギトープまたはキメラタンパク質を投与し、それによって医学的状態を治療することを含む、一つまたは複数の医学的状態を治療する方法を対象としている。医学的状態は、例えば、原発性免疫不全;免疫介在性血小板減少、川崎病、20歳より年上の患者における造血幹細胞移植、慢性B細胞リンパ球性白血病および小児HIV-1型感染であり得る。具体的な例は以下を含む:(血液科)再生不良性貧血、赤芽球ろう、ダイアモンド・ブラックファン貧血、自己免疫性溶血性貧血、新生児溶血性疾患、後天性第VIII因子阻害、後天性フォン・ヴィレブランド病、免疫介在性好中球減少、血小板輸血に対する不応性、新生児期同種免疫/自己免疫性血小板減少、輸血後紫斑病、血栓性血小板減少紫斑病/溶血性尿毒症性症候群;(感染症)低出生体重(例えば、<1500 g)、実質臓器移植、手術、外傷、熱傷、およびHIV感染を含む、感染症の獲得が有害であり得る状態;(神経科)てんかんおよび小児の難治性のギラン・バレー症候群、慢性炎症性の脱髄性多発ニューロパシー、重症筋無力症、ランバート・イートン筋無力症症候群、多病巣性運動ニューロパシー、多発性硬化症;(産科)再発性妊娠損失;(呼吸器科 )喘息、慢性胸症状、リウマチ学、関節リウマチ(成人性および若年性)、全身性紅斑性狼瘡、全身性血管炎、皮膚筋炎、多発性筋炎、封入体筋炎、ウェゲナー肉芽腫症;(その他)副腎脳白質ジストロフィ、筋萎縮性側索硬化症、ベーチェット症候群、急性心筋症、慢性疲労症候群、先天性心ブロック、嚢胞性線維症、自己免疫性水疱形成皮膚症、糖尿病、急性特発性自律神経障害、急性散在性脳脊髄炎、内毒血症、溶血性輸血反応、血球貪食症候群、急性リンパ芽球性白血病、下位運動ニューロン症候群、多発性骨髄腫、ヒトT細胞リンパ球向性ウイルス1型関連脊髄症、腎炎症候群、膜性腎症、ネフローゼ症候群、甲状腺機能正常性眼症、オプソクローヌス・ミオクローヌス、再発性中耳炎、腫瘍随伴性小脳変性、異常タンパク性ニューロパシー、パルボウイルス感染症(全身性)、多発性神経炎・臓器肥大症・内分泌異常症・Mタンパク・皮膚病変(POEMS)症候群、進行性腰仙神経叢障害、ライム神経根炎、ラスムッセン症候群、ライター症候群、急性腎不全、血小板減少症(非免疫性)、連鎖球菌中毒性ショック症候群、ブドウ膜炎およびフォークト・小柳・原田症候群。
【0105】
特定の態様において、本発明は、例えば、アレルギー、自己免疫疾患、移植片対宿主病のような移植関連障害、酵素もしくはタンパク質欠乏障害、止血障害、がん、不妊症、または感染症(ウイルス、細菌、もしくは寄生虫感染症)の治療法を対象としている。本発明のTレギトープまたはキメラタンパク質は、有害事象を低減する、または同時投与された化合物の効果を増強するために、ある医学的状態の対象の治療に使用される他のタンパク質または化合物と併用して使用され得る。
【0106】
アレルギーへの適用
アレルゲン特異的調節性T細胞は、アレルギーおよび喘息の発生の制御において重要な役割を果たす。どちらも転写因子FOXp3を発現している、天然のCD4/CD25調節性T細胞および二次的TReg(抗原特異的調節性T細胞)の両方が、アレルギー性疾患に関与する不適切な免疫応答を抑制することが示されてきた。複数の最近の研究は、調節性T細胞が、動物モデルだけでなくさらにヒトにおいても、感受性個体におけるT-ヘルパー2型に偏った免疫応答の過剰発現の制御において重要な役割を果たすことを示している。最近の研究は、調節性T細胞がTGF-βおよびIL-10の分泌によるT細胞同時刺激も抑制することを示しており、アレルギー性障害の調節における調節性T細胞の重要な役割を示唆している。ナチュラルまたは適応性調節性T細胞の欠陥的増大は、アレルギーの発生をもたらし、アレルゲン特異的調節性T細胞を誘導するための治療は、アレルギーおよび喘息用の治癒的治療法を提供するであろう。
【0107】
喘息の予防および治療の両方のための一つの戦略は、調節性T細胞の誘導である。動物は、Th1またはTrの応答をもたらす免疫刺激によって喘息の発生から保護され得る。
【0108】
移植への適用
本発明のTレギトープは、ドナー細胞に対する免疫応答を特異的に下方制御する細胞の発達の促進によって、移植過程の間に寛容を誘導するために有用である。臓器特異的自己免疫の治療のためにAg特異的なTReg細胞を誘導することは、重要な治療上の進展であり、全身性の免疫抑制を回避する。骨髄移植のネズミモデルにおいて、TRegは、有益な移植片対腫瘍免疫効果を無効にすること無しに、ドナー骨髄の生着を促進し、かつ移植片対宿主病の発病率および重症度を低減する。これらの知見は、マウスおよびヒトのTRegが表現型上および機能上の特徴を共有するという所見と合わせて、ヒト造血細胞移植に関連する合併症を低減するための、これらの細胞の使用に関する活発な研究をもたらしてきた。TRegおよびエフェクターT細胞の不均衡は、移植片対宿主病の発生の一因となる。しかしながら、免疫調節の機構、特にTRegの非自己認識特性、それらの、他の免疫細胞への影響および相互作用、ならびにそれらの抑制活性部位は、十分に理解されていない。
【0109】
ヒトおよび実験動物モデルの両方からの証拠の蓄積は、移植片対宿主病(GVHD)の発生とTRegの関与を関連付けてきた。TRegが移植片対腫瘍(GVT)活性からGVHDを分離できるという実証は、それらの免疫抑制能がGVT効果への好ましくない結果無しにGVHDを低減するように操作され得ることを示唆する。抑制能を有する様々なTリンパ球が報告されてきたものの、二種類の最もよく特徴付けられているサブセットは、自然発生し、胸腺内で生成されたTReg(ナチュラルTReg)および末梢で生成された、誘導性TReg(誘導性TReg)である。
【0110】
自己免疫への適用
Tレギトープは、免疫原性化合物(タンパク質治療用物質)のための寛容化剤として使用され得る。この発見は、タンパク質治療用物質の設計に関係がある。従って、Tレギトープと併用する、モノクローナル抗体、自己由来サイトカイン、または外来タンパク質の投与は、有害なTエフェクターの免疫応答を抑制する。インビボにおいて、TRegは、樹状細胞を介して自己反応性T細胞活性化を制限するように作用して、それらの分化、およびエフェクター機能の獲得を抑制する。活性化した病原性細胞の供給制限によって、TRegは自己免疫疾患の進行を抑制または鈍化させる。しかしながら、長期の疾病経過に渡るTReg細胞の不足ならびに/またはTReg耐性病原性T細胞の発達および蓄積のため、この保護機構は、自己免疫の個体には不十分なように見える。従って、これらの患者における自己寛容の回復は、進行中の組織障害を制御する能力が増強したTRegの注入とともに、病原性T細胞の一掃を必要としうる。例えば甲状腺炎およびインスリン依存性糖尿病のような、臓器特異的な自己免疫状態は、この寛容機構の破綻に起因してきた。
【0111】
糖尿病への適用
1型(若年性)糖尿病は、インスリンを産生する膵臓β細胞の破壊に起因する臓器特異的な自己免疫疾患である。糖尿病ではないとき、島細胞抗原特異的T細胞は、胸腺の発達において消去されるかそれとも、島細胞抗原に対するエフェクター応答を活発に抑制する調節性T細胞に変換される。若年性糖尿病、および若年性糖尿病のNODマウスモデルにおいては、これらの寛容機構が失われている。それらが存在しないとき、島細胞抗原は、ヒト白血球抗原(HLA)クラスIおよびII分子によって提示され、ならびにCD8(+)およびCD4(+)自己反応性T細胞によって認識される。これらの自己反応性細胞による島細胞の破壊は、最終的に耐糖能障害をもたらす。Tレギトープと島細胞抗原の同時投与は、ナチュラル調節性T細胞の活性化、および存在する抗原特異的エフェクターT細胞の調節性表現型への変換をもたらす。このように、有害な自己免疫応答は、抗原特異的な適応性寛容の誘導をもたらすように変更される。抗原特異的な寛容の誘導による自己免疫応答の自己由来エピトープへの変化は、進行中のβ細胞の破壊を抑制し得る。従って、本発明のTレギトープは、糖尿病の予防または治療のための方法に有用である。
【0112】
B型肝炎(HBV)感染への適用
慢性HBVは、通常後天的(母子感染による)か、それとも成人の急性HBV感染のまれな結果であり得る。慢性B型肝炎(CH-B)の急性増悪は、B型肝炎のコアおよびe抗原(HBcAg/HBeAg)に対する増強した細胞障害性T細胞応答を伴う。最近の研究において、HBcAgおよびHbeAg由来のMHCクラスII拘束性エピトープペプチドを予測するために、SYFPEITHI T細胞エピトープマッピングシステムが使用された。高いスコアのペプチドを用いたMHCクラスII四量体を構築し、TRegおよびCTLの頻度を測定するために使用した。結果は、HBcAgペプチド特異的な細胞障害性T細胞の増加と同時に起きる増悪の間に、HBcAgに特異的なTReg細胞が減少したことを示した。寛容段階の間、FOXp3発現TReg細胞クローンを同定した。これらのデータは、HbcAg TReg T細胞の減少が、慢性のB型肝炎ウイルス感染の自然経過における自然発生的増悪の主な原因となることを示唆する。従って、本発明のTレギトープは、ウイルス感染、例えば、HBV感染の予防または治療のための方法に有用である。
【0113】
SLEへの適用
全身性紅斑性狼瘡(SLE)またはシェーグレン症候群において役割を果たす、TRegエピトープが定義されてきた。このペプチドは、スプライセオソームタンパク質の131〜151残基
を包含する。可溶性HLAクラスII分子を用いた結合アッセイおよび分子モデリング実験は、エピトープが、乱交雑エピトープとして振る舞い、ヒトDR分子の大きなパネルに結合することを示した。正常なT細胞および狼瘡ではない自己免疫患者由来のT細胞とは対照的に、無作為に選択した狼瘡患者の40%由来のPBMCは、ペプチド131〜151に応じて増殖するT細胞を含む。リガンドの変化がT細胞応答を変更し、TReg細胞を含みうる、このペプチドに応答するいくつかのT細胞集団が存在することを示唆した。T調節性エピトープが、シェーグレン症候群においても定義されてきた。従って、上からのエピトープと併用して同時投与される本発明のTレギトープは、SLEの予防または治療のための方法に有用である。
【0114】
グレーブス病への適用
グレーブス病は、甲状腺機能高進症、または甲状腺からの異常に強いホルモン放出をもたらす自己甲状腺刺激ホルモンレセプター(TSHR)への抗体を特徴とする、自己免疫障害である。いくつかの遺伝的因子が、グレーブス病の感受性に影響を与え得る。女性は、男性よりも疾患にかかる可能性が非常に高い;白人およびアジア人種は黒人種よりもリスクが高く、HLA DRB1-0301がこの疾患と密接に結び付いている。従って、本発明のTレギトープの、TSHRもしくは他のグレーブス病抗原またはそれらの部分との同時投与は、グレーブス病の予防または治療のための方法に有用である。
【0115】
自己免疫性甲状腺炎への適用
自己免疫性甲状腺炎は、自己甲状腺ペルオキシダーゼおよび/またはチログロブリンに対して抗体が生じる時に起こる状態であり、甲状腺において小胞の段階的破壊を引き起こす。HLA DR5がこの疾患と密接に結び付いている。従って、本発明のTレギトープの、甲状腺ペルオキシダーゼおよび/もしくはチログロブリンTSHRまたはそれらの部分との同時投与は、自己免疫性甲状腺炎の予防または治療のための方法に有用である。
【0116】
ワクチンベクターの設計への適用
樹状細胞表面レセプターDEC-205を標的とするモノクローナル抗体は、ワクチン抗原を樹状細胞に標的化できるワクチンベクターとしての将来性を発揮してきた。しかしながら、強い炎症性免疫応答の刺激物質としての抗DEC-205の成功は、非特異的な樹状細胞成熟因子の同時投与に依存する。それらがないとき、抗DEC-205は、免疫よりもむしろ抗原特異的な寛容を誘導する。従って、抗DEC-205に含まれる調節性T細胞エピトープは、非特異的な免疫刺激物質の同時投与によってのみ克服される、寛容原性反応を促進する。すなわち、抗DEC-205ベクターに含まれるTレギトープは、調節性T細胞の抗原特異的な増大を引き起こし、かつ炎症性免疫応答を抑制するという点が、実験的に検証されてきた。もはやMHC分子に結合しないようにそれらTレギトープを改変することは、寛容原性を著しく減少させ、免疫系の非特異的活性化に関連する危険を取り除く効果的な独立した抗原送達系としての抗DEC-205の使用を可能にする。
【0117】
キット
本明細書に記載の方法は、例えば、本明細書に記載の医学的状態の症状または家族歴を示す対象を治療するための臨床的状況において好都合に使用され得る、例えば、少なくとも一つの本発明のTレギトープ組成物を含むあらかじめパッケージングされたキットの活用によって、実行され得る。一つの態様において、キットは、本明細書に記載の医学的状態の症状または家族歴を示す対象を治療するための、少なくとも一つの本発明のTレギトープ組成物の使用指示書をさらに含む。
【0118】
Tレギトープを使用した調節性T細胞のエクスビボでの増大
もう一つの局面において、本発明は調節性T細胞の増大のためのエクスビボ法を提供する。一つの態様において、本発明は、生体試料中の調節性T細胞を増大する方法を提供し、その方法は以下の工程を含む:(a)対象由来の生体試料を提供する工程;(b)生体試料から調節性T細胞を単離し;かつ、調節性T細胞の数が増加して増大した調節性T細胞組成物が得られる条件下で、単離した調節性T細胞と有効量の本発明のTレギトープ組成物とを接触させる工程であって、その結果、生体試料中の調節性T細胞が増大する工程。一つの態様において、上記方法は増大した調節性T細胞組成物を対象に投与する工程をさらに含む。一つの態様において、増大した調節性T細胞組成物を投与された対象は、例えば、増大した調節性T細胞組成物の自己移植によって、元の生体試料が得られた個体と同じ個体である(Ruitenberg, J. et al., BMC Immunol., 7:11, 2006)。
【0119】
Tレギトープ組成物のインビトロでの使用
もう一つの局面において、本発明は、インビトロ実験モデルでの調節性T細胞機能の研究における試薬としての、本発明のTレギトープ組成物の使用を提供する。一つの態様において、本発明は、生体試料中の調節性T細胞を刺激するためのインビトロの方法を提供し、その方法は以下の工程を含む:(a)対象由来の生体試料を提供する工程;(b)生体試料から調節性T細胞を単離し;かつ、調節性T細胞が刺激されて一つまたは複数の生物学的機能が変化する条件下で、単離した調節性T細胞と有効量の本発明のTレギトープ組成物とを接触させる工程であって、その結果、生体試料中の調節性T細胞が刺激される方法。一つの態様において、本発明は、調節性T細胞に対する結合Tレギトープまたはその断片を測定するためのインビトロの方法を提供する。
【0120】
以下の実施例は、いかなる方法によっても、本発明の範囲を限定するとは解釈されない。本願の開示踏まえて、当業者に、請求項の範囲内の多くの態様が明らかになるであろう。
【0121】
実施例
Tレギトープを、(1)T細胞エピトープマッピングアルゴリズムであるEpiMatrixを使用して同定し、(2)可溶性HLAに結合することを確認し、(3)ナチュラル調節性T細胞への結合を証明し、(4)エクスビボ(ヒトPBMC)で同時送達された抗原への免疫応答を抑制することを証明し、および(3)インビボ(マウス)で同時送達された抗原への免疫応答を抑制すると証明した。これらの発見の方法は、以下に概略が説明され、対応する結果が続く。
【0122】
(1)T細胞エピトープおよびT細胞エピトープクラスターの同定方法
T細胞は、MHC(主要組織適合遺伝子複合体)クラスII分子との関連において抗原提示細胞(APC)によって提示されたエピトープを特異的に認識する。これらのTヘルパーエピトープは、MHCクラスII結合溝に合う7〜30個の連続するアミノ酸を含む直線配列として示され得る。複数のコンピューターアルゴリズムが開発され、様々な由来のタンパク質分子におけるクラスIIエピトープ検出用に使用されてきた(De Groot, A. et al., AIDS Res. Hum. Retroviruses, 13: 539-541, 1997;Schafer, J. et al., Vaccine, 16:1880-1884, 1998;De Groot, A. et al., Vaccine, 19:4385-95, 2001;De Groot, A. et al., Vaccine, 21:4486-504, 2003)。これらTヘルパーエピトープのインシリコ予測は、ワクチンの設計および治療タンパク質の脱免疫化に有効に適用されてきた。
【0123】
EpiMatrixシステムは、クラスIおよびクラスIIエピトープを予測用のツールである。アルゴリズムは、HLA分子に結合する9および10アミノ酸長のペプチドの予測用にマトリクスを使用する。各マトリクスは、ポケットプロファイル(pocket profile)法(Sturniolo, T. et al., Nat. Biotechnol., 17:555-561, 1999)に似ているが同一ではない方法によって解明された、アミノ酸結合親和性に関連する位置特異的係数に基づいている。EpiMatrixシステムは、インビトロおよびインビボで確認されてきた多数のエピトープを、あらかじめ予測するために使用されてきた。任意のある配列の全体のアミノ酸を、各フレームが最後の8アミノ酸で重なり合う、重なり合った9アミノ酸長のフレームで最初に解析する。その後、フレームのそれぞれを、8種類の一般的なクラスII HLAハプロタイプ(DRB1*0101、DRB1*0301、DRB1*0401、DRB1*0701、DRB1*0801、DRB1*1101、DRB1*1301、およびDRB1*1501)のそれぞれに対する予測された親和性についてスコア付けする。それらの普及およびそれらの互いに対する相違のために、これら8種類の対立遺伝子は、世界中の人口のおよそ97%をカバーする。その後、EpiMatrixの未加工のスコアを、無作為に生成されたペプチド配列の非常に大きなセットに由来するスコア分布に関して標準化する。得られた「Z」スコアは正規分布し、対立遺伝子間を直接比較することが可能である。
【0124】
EpiMatrixペプチドスコアリング
EpiMatrix「Z」スケールで1.64より高くスコア付けされる任意のペプチド(任意の特定ペプチドセットのおよそ上位5%)が、予測されたMHC分子に結合する有意な可能性を有することが割り出された。このスケールで2.32より高くスコア付けされるペプチド(上位1%)は、極めて結合する可能性が高く;最も多く公表されたT細胞エピトープは、このスコア範囲に含まれる。以前の研究も、EpiMatrixが、公表されたMHCリガンドおよびT細胞エピトープを正確に予測することを証明してきた。
【0125】
乱交雑T細胞エピトープクラスターの同定
エピトープマッピングに続いて、EpiMatrixアルゴリズムによって生成された結果のセットを、T細胞エピトープクラスターおよびエピバーの存在についてスクリーニングする。可能性のあるT細胞エピトープは、タンパク質配列全体に無作為に分布するのではなく、代わりに「クラスターを形成する」傾向がある。T細胞エピトープ「クラスター」は、9からほぼ30アミノ酸の長さであり、複数の対立遺伝子に対する、かつ複数のフレーム間の、それらの親和性を考慮すると、4から40個の範囲の結合モチーフを含む。クラスチマーとして公知の専売のアルゴリズムを用いて、仮想T細胞エピトープクラスターを同定する。簡潔には、解析された各9アミノ酸長ペプチドのEpiMatrixスコアを総計し、統計的に導出された閾値と照合する。その後、スコアの高い9アミノ酸長を、同時に1アミノ酸延長する。その後、延長した配列のスコアを再度総計し、修正した閾値と比較する。この過程を、計画した延長が、もはやクラスター全体のスコアを改善しなくなるまで、繰り返す。本発明の研究において同定されたTレギトープを、クラスチマーアルゴリズムによって、T細胞エピトープクラスターとして同定した。それらは、有意な数の仮想T細胞エピトープ、ならびにMHC結合およびT細胞反応性に高い可能性を示すエピバーを含む。
【0126】
(2)ペプチド合成および可溶性MHCへの結合の評価方法
ペプチド合成
Tレギトープは、直接的化学合成によって、または組換え方法(Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2 ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press,(1989))によって生産され得る。本発明のTレギトープに対応するペプチドは、New England peptideにおいて、自動化Rainen Symphony/Protein Technologies synthesizer(Synpep、ダブリン、カリフォルニア州)での9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)合成によって調製した。ペプチドは、HPLC、質量分析およびUV走査(それぞれ、純度、質量およびスペクトルを保証する)による確認で>80%の純度で配達された。
【0127】
産生されたペプチドの結合
ビオチン化されていない試験ペプチドを、96ウェルポリプロピレンプレートに、最終濃度0.1μM〜400μMの範囲で3つ組のウェルに懸濁する。その後、1 mM PefaBloc含有溶液中の精製した組換えHLAクラスII分子、0.75% n-オクチル-B-D-グルコピラノシド含有150 mMのクエン酸-リン酸緩衝液(pH 5.4)を、最終濃度200 ng/ウェルで、それらのウェルに加えた。96ウェルプレートを、37℃で6% CO2において45分間インキュベートする。インキュベートに続いて、ビオチン化Flu HAペプチド307〜319(または別の適当な対照ペプチド)を、ウェル当たり最終濃度0.1μMで加え、37℃で20時間インキュベートする。その後、各ウェルの内容物を、前もって抗ヒトHLA-DR L243捕捉抗体(Becton Dickenson)でコーティングした96ウェル高結合ELISAプレートに加え、4℃で20時間インキュベートする。その後、100μl(10μg/ml)のユーロピウム標識ストレプトアビジン(Perkin-Elmer)および100μlのエンハンスメントバッファー(Perkin-Elmer)を各ウェルに加えることによって、プレートを現像した。反応は、暗所において室温で15〜30分間インキュベートし、その後蛍光をWallac Victor 3-V時間分解フルオロメーターで測定した。その後、IC50値を、SigmaPlot分析プログラムを用いて、非線形回帰分析によって算出した。公知のペプチドとの比較に基づいて、250μMまたはそれ以上のIC50は弱い結合を示し、400μMまたはそれ以上のIC50は非結合相互作用を示す。
【0128】
(3)ナチュラル調節性T細胞に対するペプチドの結合能力の評価方法
T細胞の単離
この研究プログラムは、プロビデンスのロードアイランド血液バンクから入手した献血された血液、ロードアイランド州ジョンストンの臨床パートナーで募集したボランティアからの血液、フランス、パリのStallergenesによって募集されたボランティアから入手した血液、および商業的供給業者から入手した試料を含む。ドナー血液は、全ての連邦指針に従い、StallergenesおよびEpiVaxの施設方針に従って入手した。ドナー血液の入手用プロトコールは、それぞれの施設内審査委員会によって認可された。末梢血単核細胞(PBMC)は、Accuspinのプロトコール(Sigma-Aldrich、セントルイス、ミズーリ州)に従って単離した。ほこり-ダニ-アレルギー個体からの低温保存したPBMCは、Cellular Technologies Ltd.(クリーブランド、オハイオ州)から入手した。
【0129】
ナチュラルTregアッセイ
ヒトPBMCを、破傷風毒素ペプチドTT830〜844のみ、Tレギトープのみ、フィトヘマグルチニンのみ(マイトジェン陽性対照)の存在下または刺激物無しで、エクスビボで4日間、直接刺激する。1×106個の細胞を抗CD4-FITC(クローンRPA-T4;eBioscience)および抗CD25-APC(クローンBC96;eBioscience)抗体で30分間氷上において、フロー染色バッファー(eBioscience)中で染色し、緩衝液で二回洗浄した。細胞表面染色に続いて、細胞を固定化および透過処理し(eBioscience)、さらに製造元のプロトコールに従って、FOXp3(クローンPCH101;eBioscience)の細胞内染色を行った。様々な培養条件下でのFOXp3陽性CD4+/CD25+T細胞の頻度は、Flowjo解析ソフトウェアを用いて列挙する。T細胞活性化は、FOXp3発現の増加が付随する場合に、活性化した細胞が調節性であることを示す、CD4+/CD25+発現の増加によって示される。
【0130】
(4)エクスビボで同時投与した抗原への応答を抑制するペプチドの能力の評価方法
バイスタンダー(bystander)抑制アッセイ
単離したPBMCは、免疫原性抗原のみの存在下、またはTレギトープペプチド存在下でのその抗原の存在下のいずれかにおいて、37℃ 5% CO2で8日間培養した。試験用抗原は10μg/mlで添加され、以下を含んだ:(1)例えば、破傷風毒素ペプチドTT830〜844、インフルエンザ赤血球凝集素ペプチド307〜319、ワクシニアペプチドエピトープおよびCEF 陽性対照ペプチドプール(NIH AIDS Research & Reference Reagent Program at the website aidsreagent.org;Currier, J. et al., J. Immunol. Methods, 260:157-72, 2002;Mwau, M. et al., AIDS Res. Hum. Retroviruses, 18:611-8, 2002)のような古典的な抗原、(2)ボツリヌス神経毒素A、例えば甲状腺ホルモン刺激ホルモンおよび補体成分C3dのような自己由来自己抗原のような、タンパク質治療用物質。試験用抗原は、次のアレルゲンも含んだ:カバノキ花粉抗原Betv1、イエチリダニ溶解物および精製イエチリダニ抗原、Der P2。組換えIL-2(10 IU/ml)およびIL-7(20 ng/ml)を、2日目にPBMC培養に加えた。刺激の8日後、細胞を回収し、数回PBSで洗浄し、下記のヒトサイトカイン放出アッセイに従ってアッセイした。
【0131】
ヒトIFN-γ ELISpot
IFN-γ ELISpotアッセイを、Mabtechから購入したHuman IFN-γ ELISpotキットを用いて実施する。標的ペプチドを、10%ヒト血清含有RPMI1640中250,000個のヒト末梢血単核細胞を含む3つ組のウェルに10μg/mlで加え、5% CO2雰囲気下37℃で18から22時間インキュベートする。3つ組のウェルに、PHAを10μg/mLで蒔く。ペプチド無しの6個のウェルは、バックグラウンドの決定に用いる。ペプチド試験ウェルのスポット数がマンホイットニーU検定で対照ウェルのスポット数と統計的に異なる(p < 0.05)場合、応答を陽性とみなす。一般に、スポット数が少なくともバックグラウンドの4倍であり、バックグラウンドを超えて細胞100万個当たり50スポットよりも多い(脾細胞20,000個当たり、バックグラウンドよりも1応答上回る)場合、応答を陽性とみなす。結果は、バックグラウンドを超える平均スポット数として記録し、蒔いた細胞100万個当たりのスポットに調整する。抑制の割合が10%またはそれ以上であり、統計的に有意であると決定される場合、統計的に有意であるとみなす。
【0132】
ヒトIFN-γ ELISpot
IFN-γ ELISpotアッセイを、Mabtechから購入したHuman IL-4 ELISpotキットを用いて実施する。標的ペプチドを、10%ヒト血清含有RPMI1640中250,000個のヒト末梢血単核細胞を含む3つ組のウェルに10μg/mlで加え、5% CO2雰囲気下37℃で18から22時間インキュベートする。3つ組のウェルに、PHAを10μg/mLで蒔く。ペプチド無しの6個のウェルは、バックグラウンドの決定に用いる。ペプチド試験ウェルのスポット数がマンホイットニーU検定で対照ウェルのスポット数と統計的に異なる(p < 0.05)場合、応答を陽性とみなす。一般に、スポット数が少なくともバックグラウンドの4倍であり、バックグラウンドを超えて細胞100万個当たり50スポットよりも多い(脾細胞20,000個当たり、バックグラウンドよりも1応答上回る)場合、応答を陽性とみなす。結果は、バックグラウンドを超える平均スポット数として記録し、蒔いた細胞100万個当たりのスポットに調整する。抑制の割合が10%またはそれ以上であり、統計的に有意であると決定される時、統計的に有意であるとみなす。
【0133】
ヒトIL-4 ELISpot
IL-4 ELISpotアッセイを、Mabtechから購入したHuman IL-4 ELISpotキットを用いて実施する。標的ペプチドを、10%ヒト血清含有RPMI1640中250,000個のヒト末梢血単核細胞を含む3つ組のウェルに10μg/mlで加え、5% CO2雰囲気下37℃で18から22時間インキュベートする。3つ組のウェルに、PHAを2μg/mLで蒔く。ペプチド無しの6個のウェルは、バックグラウンドの決定に用いる。統計的試験は、改良型並べ替え検定(Hudgens, M. et al., J. Immunol. Methods, 288:19-34, 2004)を用いて実行する。ペプチド試験ウェルのスポット数が対照ウェルのスポット数と統計的に異なる(p < 0.01)場合、応答を陽性とみなす。一般に、スポット数が少なくともバックグラウンドの4倍であり、バックグラウンドを超えて細胞100万個当たり50スポットよりも多い場合(脾細胞20,000個当たり、バックグラウンドよりも1応答上回る)、応答を陽性とみなす。結果は、バックグラウンドを超える平均スポット数として記録し、蒔いた細胞100万個当たりのスポットに調整する。抑制の割合が10%またはそれ以上であり、統計的に有意であると決定される場合、有意であるとみなす。
【0134】
ヒトIFN-γ ELISA
標的ペプチドを、10%ヒト血清含有RPMI1640中のヒト末梢血単核細胞を含む培養物に10μg/mlで加え、5% CO2雰囲気下37℃で18から22時間インキュベートする。10μg/mLのPHAで刺激した培養物またはペプチド無しの培養物を対照として用いる。ヒトIFN-γ定量性サンドイッチELISAを、R&D Systems Quantikine ELISAキットを用いて実施した。IFN-γに特異的なポリクローナル抗体を、96ウェルマイクロタイタープレートに予めコーティングする。キットが提供する標準およびPHAを含む細胞上清試料ならびにペプチド無しの対照(100μl)を、ウェルにピペットで移し、存在する任意のIFN-γを固定化抗体に室温で2時間結合させる。結合していない物質を洗い流した後、室温で2時間のインキュベート用にIFN-γに特異的な酵素連結ポリクローナル抗体をウェルに加える。結合していないいかなる抗体-酵素試薬も除去するための洗浄の後、基質溶液を30分間ウェルに加え、結合IFN-γ量に比例して顕色させる。顕色を停止し、450 nmでの発色強度をWallac Victor3で測定する。プレートの光学的不完全性の補正は、450 nmの値から540 nmでの強度を差し引くことにより行う。実験群間のサイトカインレベルの相違は、t-検定で評価した。実験および対照ウェル間での、サイトカイン発現の観測された相違が統計的に異なる(p < 0.01)場合、応答を陽性とみなす。
【0135】
多重化ヒトサイトカイン/ケモカインELISA
SearchLight multiplex ELISA技術を用いて、PBMC培養からの上清を、サイトカインおよびケモカインレベルについて評価する。測定したヒトサイトカインは、IL-1β、IL-2、IL-4、IL-5、IL-6、IL-10、IL-12p40、IL-12p70、TNFαおよびTGFβを含む。測定したヒトケモカインは、MCP-1, MIP-1αおよびMIP-1βを含む。SearchLight Proteomic Arrayは、96ウェルポリスチレンマイクロタイタープレートの底にスポットした最大16種の異なる捕捉抗体を含む、定量的多重化サンドイッチELISAである。各抗体は、ビオチン化抗体で検出される特定のタンパク質を捕捉し、続いてストレプトアビジン-HRPが、そして最後に、電荷結合素子(CCD)カメラで検出されるSuperSignal ELISA Femto Chemiluminescent基質が添加される。実験群間のサイトカインレベルの相違は、t-検定で評価した。実験および対照ウェル間での、サイトカイン発現の観測された相違が統計的に異なる(p < 0.01)場合、応答を陽性とみなす。
【0136】
細胞分離/枯渇方法
invitrogen dynabeadsシステム(ヒトCD4およびCD25用)を用いて、製造元の指示に従い(InVitrogen、カールスバッド、カリフォルニア州)、ヒトTreg細胞集団を、PBMCから枯渇またはポジティブに単離する。
【0137】
(5)インビボにおける同時投与した抗原に対する応答抑制方法
生体系におけるタンパク質誘発エフェクター応答に対するTレギトープの免疫抑制効果を測定するために、ネズミモデルを用いて実験を実施する。マウスの群を、抗原のみ、抗原の混合物およびTレギトープで、またはTレギトープに融合した抗原で免疫化する。負の対照群(溶媒のみ)もまた、評価する。最終投与の一週間後、全ての施設および連邦の方針に従ってマウスを屠殺し、脾臓を回収する。新たに単離したマウス脾細胞を、インビボでの細胞免疫応答アッセイに用いる。単一の脾細胞懸濁液を調製し、下記のアッセイに用いる。心臓穿刺によって全血も入手し、同時投与した抗原に対する抗体応答の定量に用いるために血清を収集する。
【0138】
ネズミIFN-γ ELISpot
IFN-γ ELISpotアッセイを、Mabtechから購入したネズミIFN-γ ELISpotキットを用いて実施する。標的ペプチドを、300,000個のネズミ脾細胞(10% FCS含有RPMI1640中)を含む3つ組のウェルに10μg/mlで加え、5% CO2雰囲気下37℃で18から22時間インキュベートする。3つ組のウェルに、ConAを10μg/mLで蒔く。ペプチド無しの6個のウェルは、バックグラウンドの決定に用いる。ペプチド試験ウェルのスポット数がマンホイットニーU検定で対照ウェルのスポット数と統計的に異なる(p < 0.05)場合、応答を陽性とみなす。一般に、スポット数が少なくともバックグラウンドの4倍であり、バックグラウンドを超えて細胞100万個当たり50スポットよりも多い(脾細胞20,000個当たり、バックグラウンドよりも1応答上回る)場合、応答を陽性とみなす。結果は、バックグラウンドを超える平均スポット数として記録し、蒔いた細胞100万個当たりのスポットに調整する。
【0139】
ネズミIL-4 ELISpot
IL-4 ELISpotアッセイは、Mabtechから購入したネズミIL-4 ELISpotキットを用いて実施する。標的ペプチドを、300,000個のネズミ脾細胞(10% FCS含有RPMI1640中)を含む3つ組のウェルに10μg/mlで加え、5% CO2雰囲気下37℃で18から22時間インキュベートする。3つ組のウェルに、ConAを10μg/mLで蒔く。ペプチド無しの6個のウェルは、バックグラウンドの決定に用いる。統計的試験は、改良型並べ替え検定(Hudgens, M. et al., J. Immunol. Methods, 288:19-34, 2004)を用いて実行する。ペプチド試験ウェルのスポット数が対照ウェルのスポット数と統計的に異なる(p < 0.01)場合、応答を陽性とみなす。一般に、スポット数が少なくともバックグラウンドの4倍であり、バックグラウンドを超えて細胞100万個当たり50スポットよりも多い(脾細胞20,000個当たり、バックグラウンドよりも1応答上回る)場合、応答を陽性とみなす。結果は、バックグラウンドを超える平均スポット数として記録し、蒔いた細胞100万個当たりのスポットに調整する。
【0140】
ネズミIFN-γ ELISA
標的ペプチドを、10%ヒト血清含有RPMI1640中のヒト末梢血単核細胞を含む培養物に10μg/mlで加え、5% CO2雰囲気下37℃で18から22時間インキュベートする。10μg/mLのPHAで刺激した培養物またはペプチド無しの培養物を対照として用いる。マウスIFN-γ定量性サンドイッチELISAを、R&D Systems Quantikine ELISAキットを用いて実施した。IFN-γ特異的なポリクローナル抗体を、96ウェルマイクロタイタープレートに予めコーティングする。キットが提供する標準およびPHAを含む細胞上清試料ならびにペプチド無しの対照(100μl)を、ウェルにピペットで移し、存在する任意のIFN-γを固定化抗体に室温で2時間結合させる。結合していない物質を洗い流した後、室温で2時間のインキュベート用にIFN-γに特異的な酵素連結ポリクローナル抗体をウェルに加える。結合していないいかなる抗体-酵素試薬も除去するための洗浄の後、基質溶液を30分間ウェルに加え、結合IFN-γ量に比例して顕色させる。顕色を停止し、450 nmでの発色強度をWallac Victor3で測定する。プレートの光学的不完全性の補正は、450 nmの値から540 nmでの強度を差し引くことで行う。実験群間のサイトカインレベルの相違は、t-検定で評価した。実験および対照ウェル間での、サイトカイン発現の観測された相違が統計的に異なる(p < 0.01)場合、応答を陽性とみなす。
【0141】
フローサイトメトリー
脾細胞を、10% FCS、100 U/mLペニシリン、100μg/mL硫酸ストレプトマイシンが補充されたRPMI 1640中、2×106 細胞/ウェルで96ウェル組織培養プレートに蒔く。各アッセイは、刺激無しおよび陽性対照(ConA)を含む。細胞を、37℃、5% CO2で終夜インキュベートする。インキュベーションに続いて、細胞を1%ウシ血清アルブミンを含むPBSで洗浄し、表面抗体(例えば、CD4、CD25)で染色する。その後、細胞を洗浄し、Cytofix/Cytopermキット(BD PharMingen)を用いて製造元の指示に従って固定する。固定に続いて、細胞をCytoperm緩衝液中で二回洗浄し、細胞内マーカー(例えば、FOXp3、IL-10)に対する抗体で染色する。染色に続いて、細胞を洗浄し、フローサイトメトリー用の調製において1%パラホルムアルデヒドを含むPBSで固定する。細胞は、BD Facscalibur装置で分析する。試料当たり20,000事象を収集する。データ解析は、FloJoソフトウェアを用いて実施する。全てのデータはバックグラウンドを差し引いたものである。群間の比較は、ウイルコクソンの順位和検定に基づく。一対比較にはp < 0.05の有意性を適用し、多重比較にはp < 0.01を用いる。
【0142】
細胞分離/枯渇方法
InVitrogen dynabeadsシステム(ネズミCD4およびCD25用)を用いて製造元の指示に従い(InVitrogen、カールスバッド、カリフォルニア州)、ネズミTreg細胞集団を、PBMCから枯渇またはポジティブに単離させる。
【0143】
同時投与した抗原に対する抗体の定量化
抗原へのIgG抗体の定量化を、抗体捕捉ELISAによって決定する。抗原(10μg/mL)を、炭酸緩衝液に溶解し、96ウェルマイクロタイタープレートに4℃で終夜で入れる。その後、プレートを、0.05% Tween 20含有リン酸緩衝生理食塩水(PBST)で洗浄し、室温において三時間、PBS中5%ウシ胎児血清(FBS;Gibco)でブロックした。0.5% FBS/PBSでの血清の段階希釈をプレートに加え、室温で二時間インキュベートする。その後、マイクロタイタープレートをPBSTで洗浄し、各ウェルに0.5% FBS/PBSに1:10000に希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ(Southern Biotechnology Associates)と結合したヤギ抗マウスIgG(γ鎖特異的)を100μL加える。マイクロタイタープレートをPBSTで洗浄し、その後3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB;Moss)で発現させる。吸光度は、Wallac Victor3で測定して450 nmの波長で読み取った。プレートの光学的不完全性の補正は、450 nmの値から540 nmでの強度を差し引くことで行う。
【0144】
実施例1:Tレギトープ組成物の同定
ヒトIgGタンパク質中エピトープの調節性としての同定
多数の抗体の免疫原性の可能性についての評価の後、繰り返しパターンを観察した。特定のエピトープクラスターが複数の抗体に生じた。理論に縛られる訳ではないが、高度に保存されたエピトープクラスターは、抗-抗体免疫応答を促進する可能性は低いと推論した。さらに、これらの繰り返しパターンは、免疫系によって受動的に寛容化されるか、または抗-抗体免疫応答の抑制に関与する調節性T細胞に能動的に結合する可能性があると推論した。繰り返すエピトープクラスターの配列を、GenBankのタンパク質データベースと比較することで、保存され、かつ潜在的に調節性T細胞を刺激する能力があるIgG抗体の配列に含まれる19領域が確立された(表2参照)。
【0145】
EpiMatrixシステムによると、全てのこれら19領域は、意味のある免疫刺激の可能性を有し、それぞれが少なくとも一つおよび最大で14の結合モチーフを含み、EpiVax免疫原性スケールで1と25の間にスコア付けされる。さらに、これらの配列のいくつかは、一つまたは複数の「エピバー」を含む。エピバーは、少なくとも4種類の異なるクラスII HLAに結合すると期待される、単一の9アミノ酸長のフレームである。エピバーは、免疫賦活性の可能性増加のマーカーである。
【0146】
(表2)本発明のTレギトープおよびそれらのEpiMatrixスコア
【0147】
保存
IgG由来の仮想Tレギトープ配列の全てを、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、IgE、IgDおよびIgMの生殖細胞系配列と目視検査を通じて比較した。IgG由来Tレギトープは、IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4の生殖細胞系配列において高度に保存されていることが分かった。IgA、IgE、IgDまたはIgMの生殖細胞系配列には、相同性が見つからなかった。追加のTレギトープの配列は、(ヒトタンパク質の変異体)間でも高度に保存されており、概して循環中に大量に存在する。
【0148】
生物種
IgG由来Tレギトープの非ヒト生物種とのホモロジー解析を実施した。配列は、NCBIウェブサイト(ncbi.nlm.nih.gov/blast)経由でベーシック・ローカル・アライメント・サーチ・ツール(BLAST)にアップロードした。BLASTプログラムは、タンパク質配列を配列データベースと比較し、配列間の局所的類似領域を見出すために、一致の統計的有意性を算出する。IgG由来Tレギトープは、例えばマウス、ラット、ネコ、ラクダ、雌ウシおよび非ヒト霊長類のような非ヒト生物種全体に渡って保存されていることが分かった。表3は、Tレギトープ289(SEQ NO:4)のBLAST報告を示す。
【0149】
(表3)他の生物に対するTレギトープ289(SEQ ID NO:4)の相同性
【0150】
共通の循環ヒトタンパク質中の調節性エピトープの同定
その後の解析において、EpiVaxは、Tレギトープも含む可能性がある一組の共通の循環するタンパク質を同定した。分析したタンパク質の組は、次のヒトの分離物を含んだ:アクチン、アルブミン、コラーゲン、フィブリノーゲン、ハプトグロビン、ケラチン、ミオシン、オステオカルシン、プロスタグランジン、スーパーオキシドジスムターゼ、タイチンおよびトランスフェリン。各タンパク質の共通の分離物を、上記のように、EpiMatrixおよびクラスチマーによって分析し、スコアが高く高度に保存されている仮想T細胞エピトープクラスターの一組をさらなる分析のために選択した。表2を参照、SEQ ID NO:38〜58。
【0151】
実施例2:HLAクラスII分子への結合によるTレギトープ組成物の合成および特性解析
合成IgG Tレギトープの可溶性MHC結合アッセイを、上記方法に従って実施した。IC50値(μM)は、強く結合した対照ペプチドの6点の阻害曲線によって導いた。インシリコ分析により同定されたTレギトープは、ヒトMHC分子に結合した。下記の表4参照。
【0152】
(表4)4つの一般的なHLAのそれぞれに対するTレギトープの結合親和性
【0153】
アミノおよびカルボキシ末端に対する構造的改変に関連する追加のアッセイ
ペプチドのアミノおよびカルボキシ末端に対する改変は、MHC結合、タンパク質分解およびT細胞活性化を変化させることが示されてきた(Maillere, B. et al., Mol. Immunol., 32:1377-85, 1995;Allen, P. et al., Int. Immunol., 1:141-50, 1989)。もし観察されたnTregの活性化が、実際はTレギトープ特異的TCR認識に起因したならば、Tレギトープペプチドのカルボキシ末端の微妙な変化は、異なった抑制効果をもたらしたはずである。同じTレギトープペプチド配列を、C末端アミドキャップを伴っておよび伴わずに合成した。キャップされていないペプチドは、HLA結合アッセイでDRB1*0101およびDRB1*1501への親和性について評価し、両方の対立遺伝子に、キャップされたペプチドよりも高い親和性で結合することを示した。その後、DRB1*0101対象由来のPBMCを用いて、MHCクラスI免疫原性ペプチドプールである同時インキュベートされたCEFに対する応答を抑制するTレギトープペプチド(キャップされたおよびキャップされていない)の能力を調査した。細胞を、1日目に刺激し、6日間培養した。7日目に細胞を回収し、半量をCD4、CD25およびCD127について染色し、フローサイトメトリーで分析した。残りの細胞をIFN-γ ELISpotプレートに加え、CEFで再刺激した。C末端をアミドキャップされたTレギトープとの共培養は、キャップされていないTレギトープ-289と比較して、CD4陽性CD25陽性CD127低陽性Tregの増加をもたらした(図2、左側のパネル)。CD4陽性CD25陽性CD127低陽性Tregは非常に抑制的であることを示した以前の研究と一致し、キャップされていないTレギトープ-289ではなく、キャップされたTレギトープ-289は、CEF特異的IFN-γ分泌を抑制することが可能であった(図2、右側のパネル)。
【0154】
その後の分析が、キャップされたおよびキャップされていない型のTレギトープ-289(SEQ NO:4)間でわずかな1ダルトン変化を示した。Tレギトープ-289アミド化ペプチドは、質量分析で1ダルトン小さい。Tレギトープ-289のC末端のアミド化が、その結合および機能的な特徴を変化させることを本明細書において示す。キャップされた型のTレギトープ-289ペプチドは、より優れた機能性を示したため、全ての後のアッセイではキャップされた(アミド化された)ペプチドを用いた。さらなる裏付けにおいて、本明細書に示されたTレギトープ-289の結果は、キャップされた型を参照している。本明細書において記載されるキャップされたおよびキャップされていない両方の型のTレギトープが、本願発明に包含される。
【0155】
実施例3:ナチュラル調節性T細胞の刺激によるTレギトープ組成物の特性解析
ヒトPBMCを、破傷風毒素ペプチドTT830〜844のみ、Tレギトープ-289のみ、フィトヘマグルチニンのみ(マイトジェン陽性対照)の存在下で、または刺激物無しで、エクスビボで4日間、直接刺激した。1×106個の細胞を、抗CD4-FITC(クローンRPA-T4;eBioscience)および抗CD25-APC(クローンBC96;eBioscience)抗体で、30分間氷上において、Flow Staining Buffer(eBioscience)中で染色し、緩衝液で二回洗浄した。細胞表面染色に続いて、細胞を固定化および透過処理し(eBioscience)、さらに製造元のプロトコールに従って、FOxp3(クローンPCH101;eBioscience)の細胞内染色を行った。様々な培養条件下でのFOxP3陽性CD4陽性/CD25陽性T細胞の頻度は、Flowjo解析ソフトウェアにより列挙した。破傷風およびTレギトープで刺激した試料の両者において、両ペプチドによるT細胞の活性化を示す、CD25発現の類似の増加が存在した(図3;Tレギトープ-289の結果を示す)。しかしながら、CD4陽性CD25陽性サブセットでのFoxP3発現は、用いられた刺激物に応じて著しく異なる。破傷風での刺激がFoxP3発現の7%の減少をもたらしたのに対して、Tレギトープでの刺激は二倍を超える発現の増加をもたらし、それぞれはThおよびnTregの活性化を示すものであった。
【0156】
実施例4:インビトロでの同時投与された抗原の抑制によるTレギトープ組成物の特性解析
4A:Tレギトープ-167およびTレギトープ-134による、インビトロで同時投与された抗原へのエフェクター応答の下方制御、および調節性応答の上方制御
PBMCを次のいずれかと8日間培養した:(a)免疫原性ペプチドプールのみ、(b)h Tレギトープ167-と一緒にした免疫原性ペプチドプール、または(c)h Tレギトープ-134と一緒にした免疫原性ペプチドプール。細胞を回収しPBSで洗浄した。細胞(2×105 細胞/ウェル)を96ウェルプレートに蒔き、免疫原性ペプチドプールのみ、免疫原性ペプチドプールとTレギトープ、またはペプチド無し(陰性対照)で65時間再刺激した。上清は、上記のように多重化ELISA分析によって分析した。最初の刺激におけるTレギトープの共インキュベーションは、調節性T細胞に結合およびそれを活性化するTレギトープの能力を示す、調節性サイトカインおよびケモカイン、IL-10およびMCP-1の分泌増加、ならびにヘルパーT細胞サイトカインおよびケモカイン、IL-5、IL-6、IFN-γおよびMIP-1αの分泌減少をもたらした(図4)。
【0157】
4B:Tレギトープ-289による、インビトロでの同時投与された抗原へのエフェクター応答の下方制御、および調節性応答の上方制御
PBMCを次のいずれかと8日間培養した:(a)免疫原性ペプチドプールのみ、(b)Tレギトープ-289と一緒にした免疫原性ペプチドプール、または(b)Tレギトープ-289と一緒にした免疫原性ペプチドプール。免疫原性ペプチドプールのペプチドは、免疫原性自己タンパク質である、C3d由来であった(Knopf, P. et al., Immunol. Cell Biol., 2008 Jan 8;doi: 10.1038/sj.icb.7100147)。細胞を回収しPBSで洗浄した。記述のように、細胞(2×105 細胞/ウェル)を96ウェルプレートに蒔き、3つ組のウェルにおいて、以下の各条件で、65時間再刺激した:C3dプールのみ、C3dプール+Tレギトープ、PHA対照、またはペプチド無し(陰性対照)。上清は、多重化ELISA分析によって分析した。陽性対照のPHAへの応答は、いずれの培養条件の後でも強力であった。最初の刺激中のTレギトープの共インキュベーションは、調節性T細胞に結合およびそれを活性化するTレギトープの能力をさらに示す、調節性サイトカインIL-10の分泌増加、調節性ケモカインTGFβのわずかな増加、ならびにヘルパーT細胞サイトカインおよびケモカインであるIFNγおよびMIP 1αの分泌減少をもたらした(図5)。
【0158】
4C:Tレギトーププールによる、インビトロでの同時投与された抗原へのエフェクター自己免疫応答の下方制御
グレーブス病の標的抗原であるTSHR由来のエピトープとの共インキュベーションは、グレーブス病患者由来のPBMCのエピトープへの免疫応答を抑制する。PBMCを、Tレギトープペプチドプール(Tレギトープ-134、Tレギトープ-167、Tレギトープ-289)と一緒に、またはこれら無しで、TSHRペプチドプールと共に8日間培養した。細胞を回収しPBSで洗浄した。上述のように、2.5×105個の細胞をIL-4 ELISpotプレートにおいて、次のいずれかで再刺激した:(1)個別のTSHRエピトープ+Tレギトープ-134、Tレギトープ-167、Tレギトープ-289のプール、(2)TSHRエピトーププール+Tレギトープ-134、Tレギトープ-167、Tレギトープ-289のプール、または(3)刺激物無しの対照。陽性対照のPHAへの応答は、いずれの培養条件の後でも強力であった。
【0159】
再刺激中の抗原(TSHRペプチド)のTレギトープとの共インキュベーションは、IL-4スポット形成細胞の著しい減少をもたらした。このデータは、Tレギトープが、エフェクターT細胞のサイトカイン分泌を抑制することを示す(図6)。
【0160】
4D:個別のTレギトープによる、インビトロでの同時投与された免疫優勢ペプチド抗原プールである、CEFへのエフェクター応答の下方制御
Tレギトープとの共インキュベーションは、一般的な病原体由来の免疫優勢ペプチドエピトーププールである、CEFへの免疫応答を抑制する。PBMCを、次の個別のTレギトープペプチドと一緒にまたはこれら無しで8日間培養した:Tレギトープ-289、Tレギトープ-294、Tレギトープ-029、Tレギトープ-074、Tレギトープ-009。細胞を回収しPBSで洗浄した。上述のように、2.5×105個の細胞をINF-γ ELISpotプレートにおいて、CEFのみ、PHA陽性対照(示さず)または刺激物無しの対照のいずれかで再刺激した。陽性対照のPHAへの応答は、いずれの培養条件の後でも強力であった。
【0161】
インキュベーション中の抗原(CEF)のTレギトープとの共インキュベーションは、CEFでの再刺激に応答してINF-γスポット形成細胞の著しい減少をもたらした。これらのデータは、Tレギトープが、エフェクターT細胞のサイトカイン分泌を抑制することを示す(図7)。
【0162】
4E:Tレギトーププールによる、インビトロでの同時投与された治療用タンパク質抗原へのエフェクター応答の下方制御
Tレギトープとの共インキュベーションは、ジストニー(運動障害)の治療に用いられるタンパク質である、ボツリヌス神経毒素由来ペプチドエピトープへの免疫応答を抑制する。阻害物質(抗BoNT抗体)の証拠を有する対象からのPBMCを、Tレギトープペプチドプール(Tレギトープ-167、Tレギトープ-134、Tレギトープ-289)と一緒に、またはこれら無しで8日間培養した。細胞を回収しPBSで洗浄した。上述のように、2.5×105個の細胞をINF-γ ELISpotプレートにおいて、個別のBoNTペプチド、BoNTペプチドプール、PHA陽性対照(示さず)または刺激物無しの対照で再刺激した。有意でないベースライン応答の無いペプチドは示されない。陽性対照のPHAへの応答は、いずれの培養条件の後でも強力であった。
【0163】
インキュベーション中の抗原(CEF)のTレギトープとの共インキュベーションは、CEFでの再刺激に応答してINF-γスポット形成細胞の著しい減少をもたらした。これらのデータは、Tレギトープが、免疫原性の治療用タンパク質に応答してエフェクターT細胞のサイトカイン分泌を抑制することを示す(図8および表5)。
【0164】
(表5)Tレギトープと一緒/ Tレギトープ無しのインキュベーションが続くボツリヌス毒素抗原刺激へのインターフェロン-γ ELISpot応答(再刺激無しのバックグラウンドを超えるスポット形成細胞)
【0165】
4F:Tレギトープ-289およびTレギトープ-134による、インビトロでの同時投与された免疫優性抗原に応答した増殖の下方制御
CEFは、一般的な病原体に由来する免疫優性ペプチドエピトープの市販のプールである。PBMCを、CEFのみ、CEF+Tレギトープ-134、またはCEF+Tレギトープ-289と共に8日間培養した。細胞を回収し、PBSで洗浄した。2×106個の細胞を標準的なプロトコールによりCFSE色素(Invitrogen)で前標識し、CEFプール、またはペプチド無し(陰性対照)、またはPHAマイトジェン対照で65時間再刺激した。上清を回収し、上記の通りにhIFN-γ ELISAを行った。陽性対照PHAに対する応答は、いずれの培養条件の後でも強力であった。再刺激時のTレギトープの共インキュベーションは、IFN-γ産生の有意な減少をもたらし(左パネル)、これはエフェクターT細胞の増殖の低下と相関した(図9、右パネル)。
【0166】
4G:Tレギトープ-289による、インビトロでの同時投与された抗原に応答した増殖の下方制御
予めワクシニアを免疫した対象由来のPBMCを、上記の通りに、免疫原性ワクシニアペプチドのみ、または免疫原性ワクシニアペプチドおよびTレギトープ289のいずれかと共に8日間培養した。細胞を回収し、PBSで洗浄した。2×106個の細胞を標準的なプロトコールによりCFSE色素(Invitrogen)で前標識し、ワクシニアペプチド、ワクシニアペプチドおよびTレギトープ289、またはペプチド無し(陰性対照)で65時間再刺激した。インキュベーション時のTレギトープの共インキュベーションは、エフェクターT細胞の増殖の有意な減少をもたらし、Tレギトープによって活性化された調節性T細胞がエフェクターT細胞の増殖を低下させる能力がさらに実証された(図10)。
【0167】
4H:調節性表現型を有する細胞(CD4+ CD25Hi T細胞)およびIL-10の上方制御によって媒介されるTレギトープ抑制
イエダニアレルギー個体由来のPBMCの2つの試料を調製した。一方の試料を、抗CD4抗体および抗CD25抗体で染色し、フローサイトメトリーにより解析した、この試料において、CD4+CD25Hiサブセットの細胞を、上記の方法により残りのPBMCから除去した。もう一方の試料は、未処理のままにした。次に2つの試料を、Tレギトープ-289と共にまたはこれを伴わずに、HDM溶解物で同時刺激した。CD4+CD25Hi除去PBMCは、非枯渇PBMCよりもIFN-γを抑制する能力が低く、Tレギトープの抑制効果はCD4+CD25Hi細胞によって媒介されることが示された。(未処理の)PBMCでの補助的な解析において、HDM溶解物に対するCD4+増殖応答は、HDM溶解物のみとのインキュベーションと比較して、HDM溶解物およびTレギトープ-289との共インキュベーション後に抑制された。
【0168】
図11は、最初の共インキュベーション中にCD4+/CD25hi T細胞が必要であることを実証する。CD4+CD25hi細胞の存在下では、Tレギトープ-289およびHDMによる同時刺激によって、HDMのみでの再刺激後にγインターフェロン放出が抑制された。CD4+CD25hi細胞の非存在下では(インキュベーションの前に選別)、Tレギトープ-289およびHDMによる同時刺激は、HDMのみでの再刺激後に、より高い抑制量(65%:33.5 pg/mlから11.8 pg/ml)と比較してより低い抑制量(16%:16.5 pg/mlから12.4 pg/ml)を伴った。図11から、抗原に対する寛容性の誘導に、Tregを含む細胞サブセットが必要であることが示される。
【0169】
4I:調節性表現型を有する細胞(CD4+ CD25Hi T細胞)の拡大、およびアレルゲンに応答した調節性サイトカインIL-10の上方制御を引き起こすTレギトープの共インキュベーション
獲得寛容の誘導:
TレギトープのnTreg活性化が、アレルゲン特異的aTRegの生成を引き起こし得るかどうかを判定するために、最初にイエダニ(DM)抗原のみ、イエダニ抗原+Tレギトープ-289、またはイエダニ抗原+Tレギトープ-167と共に8日間インキュベートしたPBMC(イエダニアレルギー個体由来)を分析した。図12の上部パネル(図12)に示されるように、PBMCをDM抗原およびTレギトープ-289と共に同時インキュベートすると、CD4+CD25Hi細胞はほぼ4倍に拡大された。DM抗原およびTレギトープ-167と共に同時インキュベートしたPBMCの場合も同様であった(1.6%から7.5%)。Tレギトープ共インキュベーションの双方において、IL-10分泌が5倍増加したことも認められた(図12、下部パネル)。この知見は、増加したCD4+CD25Hi細胞がHDM特異的な獲得性Tregであり得るという可能性と一致する。当業者は、このインビトロアッセイにおいて、拡大されたCD4+CD25hi集団がIL-10を分泌していることを確認することができる。CD4+CD25hi T調節性細胞の拡大された集団の存在下において、同時インキュベートした抗原に応答してIL-10が分泌されることは、獲得性Tregが抗原との共インキュベーション中に誘導されたことを示す。
【0170】
これらのデータは、同じ患者および同じ実験における、Tレギトープ-289およびDM抗原との共インキュベーション後、ならびにTレギトープ-167およびDM抗原との共インキュベーション後のCD4 CD25hi T細胞の拡大;ならびにHDMのみでの再刺激後の、同時インキュベートした細胞によって分泌されたIL-10の量を示すものである。
【0171】
4J:Tレギトープの共インキュベーションにより引き起こされる抗原特異的アレルギー性Th2応答の抑制
Tレギトープの共インキュベーションはまた、Th2応答と関連していることが示されているCCR4、CD30、CRTH2、およびCCR6の発現の有意な減少を引き起こした。次に、長期のTレギトープ同時刺激後の、アレルゲン特異的CD4+ T細胞によるサイトカイン応答の調節を評価した。30日間の培養後、Tレギトープの同時刺激は、Bet v 11141-1155特異的CD4+ T細胞の混合集団の発生に寄与した。抗原およびTレギトープでの長期刺激後、これらのエピトープ特異的細胞の42%はIL5陽性でもIFN-γ陽性でもなく、44%はこの長期インキュベーション中に、Th-1様のインターフェロン応答増加への移行を示した(図13)。
【0172】
注目すべきことには、研究対象は、四量体結合の機会を高めるために、HLA DR*1 1501の存在について選択した。Tレギトープ-167の効果は、Tレギトープ289(Treg誘導が3倍増加)よりも顕著であった(5倍増加)。Tレギトープ289は、HLB結合アッセイにおいてDR 1501に結合しないことが示された。対照的に、Tレギトープ-167はHLA 1501に強く結合した(50μMにおいて87%結合阻害)。
【0173】
実施例5. インビボで同時投与した抗原の抑制によるTレギトープ組成物の特性解析
5A:Tレギトープの同時投与により引き起こされるインビボで同時投与したタンパク質治療薬に対するエフェクター応答の抑制
本明細書において、Tレギトープが、「抗原-XX」と称される細菌起源の治療タンパク質に対する応答を抑制することが示される(図14)。未発表の研究において、抗原-XXはヒトにおいて有意な免疫原性を引き起こした。本発明のTレギトープが、インビボにおいて、タンパク質に対するエフェクター免疫応答を抑制し得るかどうかを調べた。HLA DR4トランスジェニックマウス(4〜6週齢、雌)に、(1)抗原-XXのみ50μg、(2)抗原-XX 50μg+ネズミTレギトープ-167 25μgおよびネズミTレギトープ106 25μg、または(3)PBS偽対照のいずれかを、毎週、3回にわたり皮下(首筋)注射した。脾細胞を採取し、上記の通りにネズミIL-4 elispotプレートに蒔いた。
【0174】
抗原-XXに対するIgG抗体の定量値を、上記の通りに抗体捕捉ELISAによって決定した。抗原-XX(10μg/mL)を炭酸緩衝液(10 mM Na2CO3および35 mM NaHCO3 [pH 9] )に溶解し、96ウェルマイクロタイタープレートに入れて4℃で一晩おいた。次にプレートを、0.05% Tween 20を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBST)で洗浄し、PBS中の5%ウシ胎仔血清(FBS;Gibco)を用いて室温で3時間ブロックした。0.5% FBS/PBS中の血清の段階希釈物をプレートに添加し、室温で2時間インキュベートした。次にマイクロタイタープレートをPBSTで洗浄し、0.5% FBS/PBSで1:10000に希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ結合ヤギ抗マウスIgG(γ鎖特異的)(Southern Biotechnology Associates)100μLを各ウェルに添加した。マイクロタイタープレートをPBSTで洗浄し、次いで3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB;Moss)で発色させた。Wallac Victor3で測定した波長450 nmの吸光度を読み取った。450 nm値から540 nmでの強度を減算することによって、プレートにおける光学的不完全性の補正を行う。陽性対照PHAに対する応答は、いずれの免疫条件およびいずれのアッセイ読み取り後においても強力であった。
【0175】
本研究により、インビボで抗原と同時投与したヒトTレギトープのマウス相同体の抑制効果が確認される。
【0176】
5B:Tレギトープの同時投与により引き起こされるインビボで同時投与したアレルゲンに対するエフェクター応答の抑制
イエダニはヒトにおいて有意なアレルギー応答を引き起こし、イエダニ溶解物(HDML)を使用するマウスモデルは、ヒトに類似したモデルとして認められている。本発明のTレギトープが、インビボにおいて、HDMLに対するエフェクター免疫応答を抑制し得るかどうかを調べた。HLA DR4トランスジェニックマウス(4〜6週齢、雌)に、(1)HDMLのみ 50μg、(2)HDML 50μg+Tレギトープ-289のネズミ相同体50μg、または(3)PBS偽対照のいずれかを、週に1度、3回にわたり皮下(首筋)注射した。4番目の処置群では、50μgを3回毎週注射することによって、マウスを最初にHDMLに対して前感作してから、HDML(50μg)およびTレギトープ-289の同時注射で処置した。最終注射の1週間後に、マウスを屠殺した。
【0177】
脾細胞を採取し、上記の通りにネズミIL-4 ELISpotプレートに蒔いた。プレーティングした細胞に対して、以下のものを(3つ組で)添加した:PBS(非刺激対照)、HDML溶解物、精製HDM抗原DerP2、およびPHA。HDM DerP2は、HDM溶解物の成分である。
【0178】
心臓穿刺によって血清を採取した。HDM抗原に対するIgG抗体の定量値を、上記の通りに抗体捕捉ELISAによって決定した。HDM抗原DerP2(10μg/mL)を、96ウェルマイクロタイタープレートに入れて4℃で一晩おいた。次にプレートを、0.05% Tween 20を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBST)で洗浄し、PBS中の5%ウシ胎仔血清(FBS;Gibco)を用いて室温で3時間ブロックした。0.5% FBS/PBS中の血清の段階希釈物をプレートに添加し、室温で2時間インキュベートした。次にマイクロタイタープレートをPBSTで洗浄し、0.5% FBS/PBSで1:10000に希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ結合ヤギ抗マウスIgG(γ鎖特異的)(Southern Biotechnology Associates)100μLを各ウェルに添加した。マイクロタイタープレートをPBSTで洗浄し、次いで3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB;Moss)で発色させた。Wallac Victor3で測定した波長450 nmの吸光度を読み取った。450 nm値から540 nmでの強度を減算することによって、プレートにおける光学的不完全性の補正を行う。陽性対照PHAに対する応答は、いずれの免疫条件およびいずれのアッセイ読み取り後においても強力であった(図15)。
【0179】
本研究により、インビボでDM抗原と同時投与したヒトTレギトープのネズミ同等物の抑制効果が確認される。
【0180】
5C:Tレギトープの同時投与により引き起こされるインビボで同時投与した治療薬に対するエフェクター応答の抑制
インビボで同時投与したTレギトープが、免疫原性治療タンパク質に対する免疫応答を抑制し得るかどうかを試験するために、HLA DRB1*0401を、単独のもしくはTレギトープ-289(マウス相同体)50μgと組み合わせた免疫原性タンパク質治療薬(「IPT」)50μg、またはネズミFcと組み合わせたIPTの調製物と共に、毎週3回マウスに注射した。IPTとネズミFc領域の同時投与によりIL-4応答は低下したが、「IPT」とネズミ相同体Tレギトープ-289のインビボ同時投与では、ELISpotによるIL-4はさらにより減少した(図16)。
【0181】
実施例6. FVIII- Tレギトープ構築物の作製
Tレギトープと免疫原性タンパク質を融合させると、免疫原性タンパク質の末梢寛容が誘導され得る。凝固因子VIIIは、重篤な血友病Aを有するヒトにおいて免疫原性である。第VIII因子のコード配列およびTレギトープからなるキメラ構築物を作製する(Sambrook et al., Molecular Cloning: A Labotaroty Manual, 2 ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press,(1989))。簡潔に説明すると、重複オリゴをアニールすることによって、カルボキシル末端でTレギトープに融合している第VIII因子コード領域を作製し、これを発現プラスミドにサブクローニングする。このプラスミドをDG44 CHO細胞にトランスフェクションし、安定したトランスフェクタントを選択する。免疫アフィニティーカラムでキメラタンパク質を精製し、寛容源性(tolergenicity)について評価する。表6は、このようなキメラタンパク質の1つの態様を示す。
【0182】
(表6)第VIII因子- Tレギトープ(太字はTレギトープ)
【0183】
実施例7. FVIII-多Tレギトープ構築物の作製
獲得寛容を促進するために、高度に免疫源性のタンパク質中に複数のTレギトープを存在させることができる。凝固因子VIIIのコード配列および複数のTレギトープからなるキメラ構築物を作製する(Sambrook et al., Molecular Cloning: A Labotaroty Manual, 2 ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press,(1989))。簡潔に説明すると、重複オリゴをアニールすることによって、カルボキシル末端でTレギトープに融合している第VIII因子コード領域を作製し、これを発現プラスミドにサブクローニングする。このプラスミドをDG44 CHO細胞にトランスフェクションし、安定したトランスフェクタントを選択する。免疫アフィニティーカラムでキメラタンパク質を精製し、寛容源性について評価する。表7は、このようなキメラタンパク質の1つの態様を示す。
【0184】
(表7)第VIII因子-多Tレギトープ(太字はTレギトープ)
【0185】
実施例8. 強化されたワクチン送達媒体の作製
Fc受容体にFcが結合すると、抗原提示細胞への取り込みならびにTリンパ球およびBリンパ球に対する提示が強化される。IgG分子のFcドメイン内に位置するTレギトープ-289は、抑制シグナルを送達するように作用する。Tレギトープ-289がMHC分子および調節性T細胞にもはや結合できないようにFcを改変することにより、抑制効果を回避しながら、ワクチン候補の効率的な標的化が可能になる。MHC分子に対するTレギトープの結合を減少させる改変は有用である。表8はそのような改変を示す。関心対象の種々のタンパク質またはエピトープ偽タンパク質、およびTレギトープ改変mIgG Fcからなるキメラ構築物を設計する(Sambrook et al., Molecular Cloning: A Labotaroty Manual, 2 ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press,(1989))。簡潔に説明すると、重複オリゴをアニールすることによって関心対象のタンパク質またはエピトープ偽タンパク質を作製し、これをTレギトープ改変Fc融合発現プラスミドにサブクローニングする。このプラスミドをDG44 CHO細胞にトランスフェクションし、安定したトランスフェクタントを選択する。プロテインAカラムでキメラタンパク質ホモ二量体を精製し、免疫原性について評価する。表8は、関心対象の偽タンパク質が、TレギトープがもはやMHCクラスII分子に結合しないように改変され、内在性調節性T細胞を刺激することができない改変Fcタンパク質に融合している、エプスタイン・バーウイルス(EBV)由来の免疫原性T細胞エピトープのひと続きである、キメラタンパク質の1つの態様を示す。表8におけるEBV- Tレギトープ改変Fc配列(Kbシグナル配列)を、下線の文字として示す。Tレギトープを太字の文字として示す。Tレギトープ改変アミノ酸を影付きの文字として示す。ヒトFc領域をイタリック体の文字として示す。
【0186】
(表8)EBV- Tレギトープ改変Fc配列
【0187】
参考文献
【0188】
同等物
本発明をその特定の態様と関連して説明してきたが、本発明はさらなる変更が可能であることが理解されよう。さらに、本出願は、本発明が属する技術分野において公知のまたは慣例的な実施の範囲内であり、かつ添付の特許請求の範囲の範囲内に入るような本開示からの逸脱を含む、本発明の任意の変更、使用、または適合を包含することが意図される。
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は概して、新しいクラスのT細胞エピトープ組成物(「Tレギトープ(Tregitope)」と呼ぶ)に関連する。本発明は、Tレギトープ組成物、それらの調製方法および使用方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
背景
自己または外来抗原に対する寛容の人為的な誘導は、自己免疫、移植アレルギーおよび他の疾患に対する治療の目標であり、かつ自己タンパク質および非自己タンパク質を用いる治療との関連においても望ましいものである。最近まで、治療的な寛容誘導は、細胞の枯渇およびサイトカインプロフィールの変化をもたらす広範囲にわたる取り組みに頼っていた。これらの広範囲にわたる取り組みは、一般に免疫系を弱め、多くの対象を日和見感染、自己免疫攻撃およびがんに対して弱い状態のままにしている。免疫寛容の誘導に対する、攻撃性がより少なく、標的をさらに絞った取り組みの必要性が、当技術分野において存在する。
【0003】
免疫寛容は、T細胞、B細胞、サイトカインおよび表面レセプター間の複雑な相互作用によって調節されている。初期の自己/非自己の区別は、新生児の発育中に、未成熟なT細胞に対して髄質上皮細胞が特定の自己タンパク質エピトープを発現している胸腺において起きる。自己抗原を高い親和性で認識するT細胞は除去されるが、適度な親和性の自己反応性T細胞は、時折除去を逃れ、いわゆる「ナチュラル」調節性T細胞(TReg)に変換され得る。これらのナチュラルTReg細胞は、末梢に移送され、定常的な自己免疫抑制をもたらす。
【0004】
寛容の第二の形式は、IL-10およびTGF-β存在下におけるそれらのT細胞レセプターを介した活性化の際に成熟したT細胞が「適応性」TReg表現型に変換される末梢において起きる。これら「適応性」TReg細胞の可能性のある役割は、アレルギー反応または低レベルの慢性感染症に起因しうるような過度の炎症を制御する手段として、侵入病原体除去の成功後の免疫応答を減衰させることを含み、または、有益な共生細菌およびウイルスとの共存を促進することもありうる。「適応性」TRegはまた、体細胞性の超変異を受けたヒト抗体のライフサイクルを管理する役割を果たしてもよい。
【0005】
ナチュラル調節性T細胞は、末梢における免疫調節の重要な構成要素である。それらのTCRを通じた活性化において、ナチュラルTregは、バイスタンダーエフェクターT細胞の、関連しない抗原に対する応答を、接触に依存性および非依存性の機構を通じて抑制できる。さらに、それらの細胞によって放出される、IL-10およびTGF-βを含むサイトカインは、抗原特異的な適応性Tregを誘導できる。広範囲に及ぶ努力にもかかわらず、ほとんど例外なく、ナチュラルTreg、および、さらに重要なことには、臨床上有意な体積で循環するナチュラルTregの抗原特異性は、未だに不明である。
【0006】
当技術分野において、例えばIgGなどの一般的な自己タンパク質に含まれる調節性T細胞エピトープ(「Tレギトープ」)の同定ならびに、それらの調製に関連する方法および使用する方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
概要
本発明は、調節性T細胞(TReg)、特にすでに末梢における外来および自己のタンパク質への免疫応答を調節している細胞(既存またはナチュラルのTreg)の機能を利用する。一つの局面において、本発明は、T細胞エピトープポリペプチド組成物を提供する。
【0008】
TレギトープおよびTレギトープ抗原融合体の使用を通じた既存のナチュラルTregの選択的関与および活性化は、望まれていない免疫応答の存在を特徴とする任意の疾患または状態の治療手段として治療上有用である。例としては以下を含む:例えば1型糖尿病、MS、狼瘡、およびRAなどの自己免疫疾患;例えば移植片対宿主病(GVHD)などの移植関連障害;アレルギー反応;例えばモノクローナル抗体などの生物学的薬物、例えば第VIII因子またはインスリンなどの補充タンパク質、例えばボツリヌス毒素などの治療用毒素の使用、における免疫性拒絶;および急性または慢性に関わらない感染性疾患に対する免疫応答の管理。
【0009】
一つの態様において、本発明は、SEQ ID NO:4〜58からなる群より選択される少なくとも一つのポリペプチドを含むT細胞エピトープポリペプチド組成物を対象としている。特定の態様において、本発明は、本発明のポリペプチドおよび薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物を対象としている。
【0010】
一つの態様において、本発明は、SEQ ID NO:4〜58からなる群より選択される少なくとも一つのT細胞エピトープポリペプチドをコードする核酸を対象としている。特定の態様において、本発明は、本発明の核酸を含むベクターを対象としている。別の態様において、本発明は、本発明のベクターを含む細胞を対象としている。
【0011】
一つの態様において、本発明は、必要としている対象の医学的状態を治療または予防する方法であって、SEQ ID NO:4〜58からなる群より選択される治療上有効な量のT細胞エピトープポリペプチドを投与する工程を含む方法を対象としている。特定の態様において、医学的状態は、アレルギー、自己免疫疾患、移植関連障害、移植片対宿主病、酵素またはタンパク質欠乏障害、止血障害、がん、不妊症;およびウイルス、細菌または寄生虫感染症からなる群より選択される。
【0012】
一つの態様において、本発明は、SEQ ID NO:4〜58からなる群より選択される少なくとも一つのT細胞エピトープポリペプチドを含む、対象の医学的状態を予防または治療するキットを対象としている。
【0013】
一つの態様において、本発明は、調節性T細胞集団を増大させる方法を対象とし、(a)対象由来の生体試料を提供する工程;および(b)生体試料から調節性T細胞を単離し、調節性T細胞の数が増加して増大した調節性T細胞組成物が得られる条件下で、単離した調節性T細胞と有効量の本発明のTレギトープ組成物とを接触させる工程を含み、その結果、生体試料中の調節性T細胞が増大する。
【0014】
一つの態様において、本発明は、生体試料中の調節性T細胞を刺激する方法を対象とし、(a)対象由来の生体試料を提供する工程;(b)生体試料から調節性T細胞を単離し、調節性T細胞が刺激されて一つまたは複数の生物学的機能が変化する条件下で、単離した調節性T細胞と有効量の本発明のTレギトープ組成物とを接触させる工程を含み、その結果、生体試料中の調節性T細胞を刺激する。
【0015】
一つの態様において、本発明は、Tレギトープを含む治療上有効な量のペプチドを含む組成物を対象へ投与する工程を含む、対象における免疫応答を抑制する方法であって、該ペプチドが免疫応答を抑制する、免疫応答抑制方法を対象としている。特定の態様において、ペプチドはエフェクターT細胞応答を抑制する。特定の態様において、ペプチドはヘルパーT細胞応答を抑制する。別の態様において、ペプチドはB細胞応答を抑制する。
【0016】
一つの態様において、本願発明は、一種または複数種のTレギトープが特異的標的抗原と共有結合、非共有結合またはその混合のいずれかで結合して該標的抗原に対する免疫応答の減少をもたらす、一種または複数種のTレギトープを含む治療上有効な量の組成物の投与を通じた対象における抗原特異的免疫応答を抑制する方法を対象としている。特定の態様において、抑制効果はナチュラルTregによって仲介される。別の態様において、抑制効果は適応性Tregによって仲介される。別の態様において、ペプチドはエフェクターT細胞応答を抑制する。別の態様において、ペプチドはヘルパーT細胞応答を抑制する。別の態様において、ペプチドはB細胞応答を抑制する。特定の態様において、ペプチドはSEQ ID NO:4〜58からなる群より選択される配列を含む。
【0017】
一つの態様において、本発明は、調節性T細胞エピトープの同定および除去を含む、ワクチン送達ベクターの免疫原性を増強する方法を対象としている。特定の態様において、T細胞エピトープはSEQ ID NO:4〜58からなる群より選択される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】イムノグロブリンG(IgG)の概略図である。
【図2】キャップされたペプチドおよびキャップされていないペプチドを比較する一連のグラフ表示である。PBMCを8日間の培養中、CEF(陽性対照のペプチドプール)のみ(パネル上段)、CEF+Tレギトープ289-アミド(パネル中段)、またはCEF+Tレギトープ289-キャップ無し(パネル下段)のいずれかで刺激した。CEFのみとの培養と比較して、CEFとTレギトープ289-アミドとの共インキュベーションでは、(1)調節性の表現型を有する細胞は、より高い割合となり(パネル左側)、(2)CEFでの再刺激に応答して、インターフェロン-γの分泌は関連して有意に(p<0.0005)減少した(パネル右側)。対照的に、Tレギトープ289-キャップ無しとの共インキュベーション(パネル下部)では、CEFのみとの培養(パネル上部)と比較して有意差はないという結果になった。
【図3】Tレギトープ存在下での、ナチュラルTregの活性化を示す。ヒトPBMCを、破傷風毒素ペプチド(TT830-844)、Tレギトープの存在下でまたは無刺激で、インビトロで4日間、直接刺激した。細胞を、細胞外は抗CD4および抗CD25で、次いで細胞内はFoxP3で染色し、フローサイトメトリーで分析した。Tレギトープとの培養によって、TT830-844(745細胞のうち12.5%)または無刺激(497細胞のうち19.5%)と比較して、CD4陽性CD25陽性Foxp3陽性T細胞の割合が増加した(644細胞のうち53.6%)。
【図4】Tレギトープが、T-調節性のサイトカインおよびケモカインの上方制御、ならびにT-エフェクターのサイトカインおよびケモカインの下方制御を誘導することを示す一連の棒グラフである。(a)C3dタンパク質由来の免疫原性ペプチドのプール(黒い棒);(b)C3dペプチド+Tレギトープ167(薄い灰色の棒)または(c)C3dペプチド+Tレギトープ 134(中程度に灰色の棒)での初期刺激に続く、C3d再刺激に対する応答。応答を、二度目の培養において無刺激(対照)であるバックグラウンドの増加倍率として示す。それぞれのベースライン(バックグラウンド)の値を、pg/mlの単位でX軸のラベルに示す。IL-4、TNFαまたはTGFβ1のレベルに有意差はなかった。
【図5】(a)C3dタンパク質由来の免疫原性ペプチドプール(黒い棒)または(b)C3dペプチド+Tレギトープ289(薄い灰色の棒)での初期刺激に続く、C3dペプチド再刺激に対する応答を示す一連の棒グラフである。応答を、二度目の培養において無刺激(対照)であるバックグラウンドの増加倍率として示す。各サイトカインについて、ベースライン(再刺激無し、バックグラウンド)の値を、X軸のラベルに示す。
【図6】グレーブス病の標的抗原であるTSHR由来のエピトープを用いた同時刺激が、グレーブス病患者由来のPBMCにおけるエピトープに対する免疫応答を抑制することを示す棒グラフである。グレーブス病患者由来のPBMCを、まず8日間、(1)TSHRペプチドプールのみ、または(2)TSHRペプチドプールならびにTレギトープ134、Tレギトープ167、およびTレギトープ289のプールのいずれかと培養した。次いで細胞を回収、洗浄し、(1)個別のTSHRペプチドおよびTレギトーププール、または(2)TSHRペプチドプールおよびTレギトーププールと(記述されたように、IL-4 ELISpotプレートで)培養した。「再刺激無し」対照もプレートに蒔いた。応答は、抗原を用いない再刺激と比較して示す。黒い棒は、抗原のみと行われた培養および再刺激に対応し、灰色の棒は、抗原+Tレギトーププールとの培養および再刺激に対応する。この実験において、Tレギトープの共インキュベーションは、個別のTSHRペプチドに対する応答を35%から67%抑制し、TSHRペプチドプールに対する応答を65%抑制した。対比較のP値を示す。
【図7】以下のうちの一つとの8日間の培養に続いて、市販の陽性対照ペプチド(CEF)プールに応答した対象三人の応答の平均を示す棒グラフである:CEFのみ、CEF+Tレギトープ289、CEF+Tレギトープ294、CEF+Tレギトープ029、CEF+Tレギトープ074、またはCEF+Tレギトープ009。使用された個別のTレギトープに依存して、CEFに対する応答を29から48%抑制する。CEFに対する応答のベースライン(前もってCEFのみと培養した試料における応答)は、バックグラウンド(バックグラウンドは再刺激無し)を超えて、106のPBMC当たり1404から10139のIFN-γ SFC範囲であった。対比較のP値を示す。
【図8】Tレギトープとの共インキュベーションが、ボツリヌス神経毒素由来のペプチドエピトープに対する免疫応答を抑制することを示す棒グラフである。末梢血は、抗BoNT/A抗体の証拠を有する対象から採取した。まずPBMCを、BoNT/Aペプチドのみのプール、またはBoNT/Aペプチドプール+Tレギトーププール(Tレギトープ134、Tレギトープ167、およびTレギトープ289)のいずれかと8日間培養した。次に細胞を回収、洗浄し、次いでBoNT/Aペプチドと個別に三つ組みで、および一つのプール内で三つ組みで(IFN-γ ELISpotプレートで)培養した。応答は、抗原を用いない再刺激と比較して示す。黒い棒は、抗原のみとの培養に対応し、灰色の棒は、抗原+Tレギトーププールとの培養に対応する。BoNT/Aに対する応答は26%から73%抑制され;BoNT/Aペプチドプールへの応答は59%抑制された。対比較のP値を示す。
【図9】インビトロでの同時投与した免疫優性抗原に応じて、Tレギトープ289およびTレギトープ134が増殖を下方制御することを示す一連のグラフである。PBMCを、血液バンクの供血者から単離し、CEFのみ、CEF+Tレギトープ134またはCEF+Tレギトープ289で8日間刺激した。二つのTレギトープのいずれかとの共インキュベーションも、IFN-γ ELISA(パネル左側)測定時のCEFに対する応答の減少、およびCFSE蛍光(パネル右側)測定時の増殖の減少をもたらす(灰色の影付き部分は抗原-Tレギトープとの共インキュベーションで抑制された応答を指す;黒い部分は抗原のみとの培養後のベースライン応答を指す)。
【図10】ワクシニアペプチドへの応答を示すプロットである。PBMCを、血液バンクの供血者から単離し、CEFのみ、CEF+Tレギトープ134またはCEF+Tレギトープ289で8日間刺激した。二つのTレギトープのいずれかとの共インキュベーションは、IFN-γ ELISA(パネル左側)測定でのCEFに対する応答の減少、およびCFSE蛍光(パネル右側)測定での増殖の減少をもたらした。灰色の影付き部分は抗原-Tレギトープとの共インキュベーションで抑制された応答を指す;黒い部分は抗原のみとの培養後のベースライン応答を指す。
【図11】Tレギトープでの抑制が、調節性の表現型を有する細胞によって仲介されることを示す一連のグラフである。Tレギトープでの抑制は、CD4陽性CD25高陽性T細胞に依存している。左側のパネル:アレルギー体質の個体由来のPBMCを抗CD4および抗CD25抗体で染色し、フローサイトメトリーで分析した。CD4陽性CD25高陽性サブセット(ゲート)を残りのPBMCから枯渇させた。中央のパネル:CD4陽性CD25高陽性を枯渇させた、および枯渇させないPBMCを、Tレギトープ289を用いてまたは用いずにHDM溶解物で同時刺激した。CD4陽性CD25高陽性を枯渇させたPBMCは、枯渇させないPBMCよりもIFN-γを抑制する能力が乏しかった。右側のパネル:HDM溶解物およびTレギトープ289との共インキュベーションは、HDM溶解物の刺激に応じて、CD4陽性細胞の増殖の減少をもたらす。
【図12】TReg(CD4/CD25高陽性)の増大は、IL-10の分泌と相関することを示すプロットおよびグラフである。Tレギトープ289およびHDMとの共インキュベーションに続くCD4 CD25高陽性T細胞の増大;ならびにHDMのみの再刺激に続いて共インキュベーションされた細胞によって分泌されたIL-10の量。Tレギトープ167との共インキュベーションの結果は類似している:CD4/CD25高陽性細胞の1.67%から7.5%への増加、およびIL-10分泌の5倍の増加。
【図13】Tレギトープの共インキュベーションが、抗原特異的なアレルギー性Th2応答抑制の原因となることを示す一連のグラフおよびプロットである。TレギトープおよびBet v 1141-155アレルゲンとの共培養は、Th2エフェクターからTh1/TRegへのシフトの原因となる。三人のカバノキ花粉アレルギーの対象由来のPBMCを、Tレギトープ167を用いてまたは用いずにBet v 1141-155ペプチドで同時刺激した。10日間のTレギトープでの同時刺激は、Bet v 1144-155四量体陽性CD4陽性細胞による、IL-5分泌の減少(下段左側のパネル)およびTh2関連表面マーカーの減少(上段のパネル)をもたらした。長期の培養(30日間、下段右側のパネル)は、Bet v 1144-155特異的細胞においてTh2(IL-5)からTh1(IFN-γ)への著しいシフトをもたらした。
【図14】Tレギトープの同時投与が、インビボで同時投与された治療用タンパク質に対するエフェクター応答の抑制の原因となることを示すグラフである。抗原XX(実施例5A参照)での免疫化のみ(黒い棒)は、IL-4(対のうちの左側の棒、縦軸は左側)および抗抗原XX抗体力価(対のうちの右側の棒、縦軸は右側)の両者に強い応答を引き起こす。これらの応答は、抗原XXをTレギトープ167およびTレギトープ106のネズミ相同体と同時投与した場合は両者とも半減する(灰色の棒)。偽免疫化された動物における、抗原XXに対する応答は、予想通り陰性である。抗体(対のうちの右側の棒)およびIL-4 ELISpot(対のうちの左側の棒)による応答には相関性がある。
【図15】イエダニ溶解物(HDML)およびチリダニ抗原に対するIL-4および抗体の応答を示したグラフである。HDMLでの免疫化(黒い棒)は、IL-4(対のうちの左側の棒、縦軸は左側)および抗HDM抗原の抗体力価(対のうちの右側の棒、縦軸は右側)の両者に強い応答を引き起こす。これらの応答は、HDMLをTレギトープ289のネズミ相同体と同時投与した場合は、両者とも半減する(灰色の棒)。偽免疫化された動物における、HDML対する応答は、予想通り陰性である。抗体(対のうちの右側の棒)およびIL-4 ELISpot(対のうちの左側の棒)による応答には相関性がある。これらのグラフは、DM未処置マウスにおいてはインビボで38%、および前感作されたマウスの場合は84%抑制されることを示す。実施例5Bを参照のこと。
【図16】Tレギトープの同時投与による免疫原性ペプチド治療(「IPT」)に対する、Tエフェクター応答のインビボでの抑制を示す棒グラフである。HLA DR4 Tgマウスに、IPTのみ、またはIPT+ネズミFC、またはIPT+Tレギトープ289(ネズミ相同体)を3回皮下的に投薬した。最後の投薬の1週間後、マウスを屠殺し、脾細胞を免疫原性ペプチド治療で刺激し48時間でのIL-4 ELISpot試験を行った。FcまたはTレギトープ289のいずれかと免疫原性治療用タンパク質の同時投与は、IL-4スポット形成細胞の著しい減少をもたらす。実施例5Cを参照のこと。
【発明を実施するための形態】
【0019】
詳細な説明
概要
可溶性のタンパク質抗原が抗原提示細胞(APC)に取り込まれ、クラスII抗原提示経路を通じて処理された場合に、適応免疫のカスケードが開始する。クラスII提示経路のタンパク質抗原は、小胞体に見られる様々なプロテアーゼによって分解される。得られたタンパク質断片の一部は、クラスII MHC分子と結合する。ペプチドを負荷したMHC分子は、それらがCD4陽性T細胞によって照合される、細胞表面へ輸送される。MHC分子と結合してAPCと循環T細胞間の細胞間相互作用を仲介できるペプチド断片は、T細胞エピトープと呼ばれる。CD4陽性T細胞によるこれらペプチド-MHC複合体の認識は、反応性T細胞の表現型および局所のサイトカイン/ケモカイン環境に基づいて、免疫活性化または免疫抑制化応答のいずれかをもたらし得る。一般に、MHC/ペプチド複合体とTエフェクター細胞のT細胞レセプター(TCR)間の結合は、例えばIL-4、およびIFN-γなどの炎症性サイトカインの活性化および分泌をもたらす。他方では、ナチュラル調節性T細胞(TReg)の活性化は、特に免疫抑制性サイトカインIL-10およびTGF-βの発現をもたらす(Shevach, E., Nat. Rev. Immunol., 2:389-400, 2002)。これらのサイトカインは、近くのエフェクターT細胞に直接作用し、時としてアネルギーまたはアポトーシスをもたらす。別の場合、調節性のサイトカインおよびケモカインが、エフェクターT細胞をT調節性表現型に変換する;この作用は、本明細書において「誘導性」または「適応性」寛容と呼ばれる。MHC分子へ結合して、循環Tregに結合および活性化ができるT細胞エピトープを、Tレギトープと呼ぶ。
【0020】
初期の自己/非自己の区別は、新生児の発育中に、未成熟なT細胞に対して髄質上皮細胞が特定の自己タンパク質エピトープを発現している胸腺において起こる。自己抗原を高い親和性で認識するT細胞は消去されるが、適度な親和性の自己反応性T細胞は、時々消去を逃れ、いわゆるナチュラル調節性T細胞(TReg)に変換され得る。これらナチュラルTReg細胞は末梢に移送され、定常的な自己免疫抑制をもたらす。ナチュラル調節性T細胞は、末梢における免疫調節および自己寛容の重要な構成要素である。
【0021】
自己寛容は、T細胞、B細胞、サイトカインおよび表面レセプターの間の複雑な相互作用によって制御されている。T調節性免疫応答は、タンパク質抗原(自己であるか外来であるかに関わらない)に対するTエフェクター免疫応答と平衡する。自己反応性のエフェクターT細胞の数もしくは機能の増加または調節性T細胞の数もしくは機能の減少のいずれかによる、自己反応側へのバランスの傾きが自己免疫を示す。
【0022】
寛容の第二の形式は、成熟したT細胞が、それらのT細胞レセプターを介した、通常その場の調節性T細胞から供給されるIL-10およびTGF-β存在下での活性化の際に「適応性」TReg表現型に変換される、末梢において起きる。これら「適応性」TReg細胞の可能性のある役割は、アレルギー反応または低レベルの慢性感染症に起因しうるような過度の炎症を制御する手段として、侵入病原体除去の成功後の免疫応答を減衰させることを含み、または、有益な共生細菌およびウイルスとの共存を促進することもあり得る。「適応性」TRegはまた、体細胞性の超変異を受けたヒト抗体のライフサイクルを管理する役割を果たしてもよい。
【0023】
免疫グロブリンの定常領域は、いくつかの重要なTレギトープを含み、その重要な機能は超変異CDRに対する免疫応答を抑制することであると考えられる。大量の循環するIgGのため、IgGに含まれるTレギトープに相当する大量の調節性T細胞も存在する可能性が高い。この主張の部分的証明として、免疫グロブリンのFc部分を含むキメラタンパク質が、安定性の増加、血清半減期の増加、Fcレセプターへの結合、および免疫原性の減少を含むいくつかの望ましい性質をキメラタンパク質に与えることに考慮されたい(Lei, T. et al., Cell. Immunol., 235:12-20, 2005, Baxevanis, C. et al., Eur. J. Immunol., 16:1013-1016, 1986)。
【0024】
TReg細胞は、B細胞寛容にも役立つ。B細胞は、一つの低親和性Fcレセプター、FcyRIIBをその細胞表面に発現する(Ravetch, J. et al., Science, 234:718-725, 1986)。このレセプターは、その細胞質ドメインに免疫受容体抑制性チロシンモチーフ配列(ITIM)を含む。免疫複合体によるFcyRIIBおよびBCRの同時連結は、MAPキナーゼの活性化阻害によりBCR誘発性増殖を抑制する、およびカルシウムの細胞内への流入を阻害する細胞膜からのブルトン型チロシンキナーゼ(Btk)の解離により食作用を阻止する、イノシトールホスファターゼ、SHIPの動員をもたらすITIMのチロシンリン酸化を引き起こす役割を果たす。FcyRIIBは、ITIM非依存的にアポトーシスも誘導できる。ICによるFcRIIBのホモ凝集の際、Btkの細胞膜との関連は、アポトーシス応答の誘発を亢進する(Pearse, R. et al., Immunity, 10:753-760, 1999)。FcyRIIBの発現は、非常に変化しやすく、サイトカイン依存的である。活性化されたTh2およびTReg細胞で発現するIL-4およびIL-10は、FcyRIIBの発現を亢進するように相乗的に作用することが知られており(Joshi, T. et al., Mol. Immunol., 43:839-850, 2006)、従って液性応答の抑制の手助けとなる。
【0025】
Tレギトープ特異的なTReg細胞を、望ましくない免疫応答を抑制する、および同時送達されたタンパク質に対する適応性TRegを誘導するために活用することが可能である。この発見は、移植、タンパク質治療、アレルギー、慢性感染症、自己免疫およびワクチン設計のための治療計画および抗原特異的治療の設計に影響がある。薬物、タンパク質、またはアレルゲンの、Tレギトープと併用した投与によって、エフェクター免疫応答を抑制できる。寛容に向けて意図的に免疫系を操作するためにTレギトープを用いることができる。
【0026】
本願発明のペプチドは、調節性T細胞の選択的結合および活性化に有用である。本明細書において、特定の既に存在する調節性T細胞の集団は、全身性および限られた疾患特異的な状況の両方において、結合、活性化および望ましくない免疫応答の抑制に適用できることが実証される。
【0027】
広範囲に及ぶ努力にもかかわらず、ほとんど例外なく、ナチュラルTregの抗原特異性、および、さらに重要なことには治療上有意な体積で循環するナチュラルTregの抗原特異性は、不明である。本明細書における呈示は、例えば免疫グロブリンまたは血清タンパク質アルブミンのような、血流中を循環する特定のヒトタンパク質が、調節性T細胞の天然の集団に関連するT細胞エピトープを含むことの実証である。正常な免疫監視の過程において、これらのタンパク質は、例えば樹状細胞またはマクロファージのような専門のAPCによって取り込まれ、分解される。分解過程の間、これらのタンパク質に含まれるエピトープの一部がMHC分子に結合し、細胞表面に輸送されて調節性T細胞に提示される。それらの細胞は、ひとたびAPCによって活性化されると、そうでなければ細胞外タンパク質の機能を妨げるであろう自己免疫応答の抑制に役立つサイトカインおよびケモカインを放出する。
【0028】
本発明のペプチドをそれら既存の調節性T細胞を選択的に活性化するために用いることによって、本発明のペプチドがさまざまな望ましくない免疫応答を抑制するために使用できることが、本明細書において示された。その最も単純な形態において、本発明のペプチドの全身適用は、例えば、例として、MSの再発、アレルギー反応、移植反応、または感染に対する制御されていない反応のような重症な自己免疫応答を制御するのに有効な全身性の免疫抑制剤として使用できる。例えば関節リウマチ(RA)に罹患した関節に局所的に適用された、より制御された適用において、本発明のペプチドは限局性自己免疫応答の抑制に使用できる。特定の他のT細胞エピトープへのペプチドの融合または結合を通じて達成されうるような、標的とされる適用において、ペプチドは、免疫系のバランスを保ったまま、非常に特異的な免疫反応を抑制することが可能である。例えば、インスリンのような自己免疫抗原またはブラジルナッツ抗原のようなアレルゲンに融合した調節性ペプチドの送達を通じて、免疫系は、反応するエフェクターT細胞の表現型を適応性調節性T細胞の表現型へ変換することによって、同時送達された抗原を「許容」するように訓練され得る。
【0029】
上記のように、本願発明のペプチドは循環する細胞外タンパク質由来である。有用であるために、これらペプチドは、真のT細胞エピトープ(すなわち、MHC分子およびTCRの両者に結合可能)でなければならず、治療作用を有するために十分に大きな既存の調節性T細胞集団と関連していなければならない。複数のMHC対立遺伝子および複数のTCRに結合可能なエピトープであるT細胞エピトープクラスターが、この後者の必要条件を満たすために重要である。
【0030】
定義
本願発明の理解をさらに容易にするため、多くの用語および語句を以下で定義する。
【0031】
本明細書において使用される、「生体試料」という用語は、生物由来の組織、細胞または分泌物の任意の試料を指す。
【0032】
本明細書において使用される、「移植」という用語は、「移植組織」または「移植片」と呼ばれる細胞、組織、または臓器をある対象から採取し、それまたはそれらを(通常)異なる対象に配置する過程を指す。移植組織を提供する対象は「ドナー」と呼ばれ、移植組織を受け取る対象は「レシピエント」と呼ばれる。同じ種で遺伝学的に異なる二つの対象間で移植される臓器または移植片は、「同種移植片」と呼ばれる。異なる種の対象間で移植される移植片は、「異種移植片」と呼ばれる。
【0033】
本明細書において使用される、「医学的状態」という用語は、限定されるものではないが、治療および/または予防することが望ましい一つまたは複数の身体的および/または心理的な症状を示す任意の状態または疾患を含み、かつ、以前におよび新たに特定された疾患および他の障害を含む。
【0034】
本明細書において使用される、「免疫応答」という用語は、がん細胞、転移性腫瘍細胞、悪性黒色腫、侵入性病原体、病原体に感染した細胞もしくは組織、または、自己免疫もしくは病的炎症の場合の、正常ヒト細胞もしくは組織の選択的な損傷、破壊、または人体からの除去をもたらす、リンパ球、抗原提示細胞、食細胞、顆粒球、および上記細胞または肝臓によって産生された可溶性高分子(抗体、サイトカイン、および補体を含む)の協調して行われる作用を指す。
【0035】
本明細書において使用される、組成物の「有効な量」という用語は、所望の治療および/または予防効果を実現するのに十分な分量、例えば、治療している疾患に関連する症状の予防または軽減をもたらす量である。対象に投与される本発明の組成物の量は、疾患の種類および重症度、ならびに例えば全体的な健康、年令、性別、体重および薬物耐性などの個体の特性に依存する。それは、疾患の程度、重症度および種類にも依存する。当業者であれば、これらのおよび他の因子に応じて適切な投与量を決定できる。本願発明の組成物は、互いにまたは一種または複数種の追加の治療用化合物と一緒に投与することもできる。
【0036】
本明細書において使用される、「T細胞エピトープ」という用語は、長さが7から30アミノ酸で、HLA分子との特異的結合および特異的TCRとの相互作用が可能なタンパク質決定因子を意味する。一般的に、T細胞エピトープは直線状であり、特定の三次元特性を呈しない。T細胞エピトープは、変性溶媒の存在に影響されない。
【0037】
本明細書において使用される、「B細胞エピトープ」という用語は、抗体との特異的結合が可能なタンパク質決定因子を意味する。エピトープは、通常、例えばアミノ酸または糖側鎖などの化学的に活性な表面分子集団からなり、通常、特定の三次元構造特性を有するほかに、特定の電荷特性も有する。立体構造的および非立体構造的エピトープは、後者ではなく前者への結合が変性溶媒存在下で消失するという点で区別される。
【0038】
本明細書において使用される「対象」という用語は、免疫応答が誘発される任意の生物を指す。対象という用語は、限定されるものではないが、ヒト、例えばチンパンジーおよび他の類人猿のような非ヒト霊長類ならびにサル;例えばウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギおよびウマのような家畜;例えばイヌおよびネコのような飼いならされた動物;例えばマウス、ラットおよびモルモットのようなげっ歯類を含む実験動物等を含む。この用語は特定の年令または性別を示していない。従って、雄であるか雌であるかに関係なく、成体および新生対象および胎児を範囲とすることが意図されている。
【0039】
本明細書において使用される、MHC複合体という用語は、HLAリガンドとして公知であるポリペプチドの特定のレパートリーと結合し、その結果該リガンドを細胞表面に輸送できるタンパク質複合体を指す。
【0040】
本明細書において使用される、「MHCリガンド」という用語は、一つまたは複数の特定のMHC対立遺伝子と結合できるポリペプチドを意味する。「HLAリガンド」という用語は、MHCリガンドという用語と置き換え可能である。MHC/リガンド複合体を、それらの細胞表面に発現している細胞を、「抗原提示細胞」(APC)と呼ぶ。
【0041】
本明細書において使用される、T細胞レセプターまたはTCRという用語は、APCの表面に提示されるMHC/リガンド複合体の特定のレパートリーと結合可能なT細胞で発現するタンパク質複合体を指す。
【0042】
本明細書において使用される、「T細胞エピトープ」という用語は、特定のT細胞レセプター(TCR)と相互作用可能なMHCリガンドを意味する。
T細胞エピトープは、インシリコ手法によって予測され得る。(De Groot, A. et al., AIDS Res. Hum. Retroviruses, 13:539-541, 1997; Schafer, J. et al., Vaccine, 16:1880-1884, 1998; De Groot, A. et al., Vaccine, 19:4385-95, 2001;De Groot, A. et al., Vaccine, 21:4486-504, 2003)。
【0043】
本明細書において使用される、「MHC結合モチーフ」という用語は、特定のMHC対立遺伝子への結合を予測する、タンパク質配列におけるアミノ酸パターンを指す。
【0044】
本明細書において使用される、「T細胞エピトープクラスター」という用語は、約4から約40種のMHC結合モチーフを含むポリペプチドを指す。特定の態様において、T細胞エピトープクラスターは、約5から約35種のMHC結合モチーフ、約8から約30種のMHC結合モチーフ;および約10から約20種のMHC結合モチーフを含む。
【0045】
本明細書において使用される、「エピバー(EpiBar)」という用語は、少なくとも4種の異なるHLA対立遺伝子に反応性であると予測される一つの9アミノ酸長のフレームを指す。エピバーを含む公知の免疫原の配列は、インフルエンザ赤血球凝集素 307-319、破傷風毒素825-850、およびGAD65 557-567を含む。エピバーを含む免疫原性ペプチドの例を以下に示す。
【0046】
(表1)エピバーの例:乱交雑インフルエンザエピトープのエピマトリックス(EpiMatrix)解析
乱交雑に免疫原性であることが公知のエピトープである、インフルエンザのHAペプチドを検討する。エピマトリックスにおいて、それは8種類の対立遺伝子全てに極めて高いスコアを示す。そのクラスターのスコアは18である。10より高いスコアを示すクラスタースコアを、有意であるとみなす。帯状のエピバーパターンは、乱交雑エピトープの特徴である。以下に関して結果を示す。
【0047】
本明細書において使用される、「免疫シナプス」という用語は、所与のT細胞エピトープの、細胞表面MHC複合体およびTCRの両者に対する同時の結合によって形成される、タンパク質複合体を意味する。
【0048】
本明細書において使用される、「調節性T細胞」という用語は、限定されるものではないが、CD4、CD25、およびFoxP3を含む特定の細胞表面マーカーの存在を特徴とする、天然のT細胞サブセットを意味する。活性化の際、調節性T細胞は、限定されるものではないが、IL-10、TGF-βおよびTNF-αを含む免疫抑制性サイトカインおよびケモカインを分泌する。
【0049】
「ポリペプチド」という用語は、アミノ酸の重合体を指し、明確な長さは指していない;従って、ペプチド、オリゴペプチドおよびタンパク質がポリペプチドの定義に含まれる。本明細書において使用される場合、組換えおよび非組換え細胞から単離される際にポリペプチドが細胞物質を実質的に含まない、または化学的に合成される際に化学的前駆体または他の化学物質を実質的に含まない場合、このポリペプチドは、「単離」または「精製」されるといわれる。しかしながら、ポリペプチドは、通常なら細胞内で結び付かない別のポリペプチドと連結でき、依然として「単離」または「精製」されている。ポリペプチドが組換え技術によって生産される場合、それは実質的に培地を含まないことも可能であり、例えば、培地はポリペプチド調製物の体積の約20%未満、約10%未満、または約5%未満を示す。
【0050】
変異体ポリペプチドは、一つまたは複数の置換、欠失、挿入、転位、融合、および切断、またはそれらの任意の組み合わせによってアミノ酸配列が異なり得る。
【0051】
本発明は、本発明のポリペプチドのポリペプチド断片も含む。本発明は、本明細書において記載されたポリペプチド変異体の断片も包含する。本発明は、キメラのまたは融合したポリペプチドも提供する。これらは、そのポリペプチドと実質的に相同ではないアミノ酸配列を有する異種のタンパク質またはポリペプチドと効果のあるように連結された、本発明のポリペプチドを含む。「効果のあるように連結される」は、ポリペプチドおよび異種のタンパク質がインフレームで融合されることを示唆する。
【0052】
単離されたポリペプチドは、天然にそれを発現する細胞から精製でき、それを発現するように変えられた細胞(組換え体)から精製でき、または公知のタンパク質合成方法を用いて合成できる。一つの態様において、ポリペプチドは組換えDNA技術によって生産される。例えば、ポリペプチドをコードする核酸分子を発現ベクターにクローニングし、この発現ベクターを宿主細胞に導入して、宿主細胞でポリペプチドを発現させる。その後、標準的なタンパク質精製技術を用いた適切な精製スキームによって、ポリペプチドを細胞から単離することができる。
【0053】
本願発明の目的のために、ポリペプチドは、例えば、D型立体異性体のような天然アミノ酸の改変型、非天然アミノ酸;アミノ酸類似体;および模倣体を含み得る。
【0054】
本発明の実施または検証においては本明細書に記載のものと類似または同等の任意の方法および物質が使用可能であるが、好ましい方法および材料を説明する。本発明の他の特徴、目的、および利点は、説明および特許請求の範囲から明らかである。明細書および添付の特許請求の範囲において、文脈からそうでないことが明らかでない限り、単数形は複数の対象を含む。他に定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者に一般的に理解されているのと同じ意味を持つ。各々の個々の刊行物、特許、または特許出願は、その全体が全ての目的で参照により組み入れられることが具体的におよび個別的に示されるのと同程度に、本明細書中に引用したすべての参考文献は、全ての目的でその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0055】
組成物
一つの局面において、本発明は以下に記載の一つまたは複数の定義された特徴を有するペプチドまたはポリペプチド鎖を含む、「Tレギトープ」と呼ぶ、新しいクラスのT細胞エピトープ組成物を提供する。すなわち、本発明のTレギトープは、一つまたは複数の以下の特徴を有することを含むが、これらに限定されない。
【0056】
(1)本発明のTレギトープは、共通のヒトタンパク質由来である。
【0057】
(2)本発明のTレギトープは、それらの起源となるタンパク質の公知の変異体間で高度に保存されている(例えば、公知の変異体に50%を上回って存在する)。
【0058】
(3)本発明のTレギトープは、エピマトリックス解析によって同定された、少なくとも一つの仮想T細胞エピトープを含む。エピマトリックスは、仮想T細胞エピトープの存在についてタンパク質配列をスクリーニングするために使用される、エピバックス社(EpiVax)によって開発された専売のコンピューターアルゴリズムである。入力配列は、各フレームが最後の8アミノ酸で重なり合う、重なり合った9アミノ酸長のフレームで解析される。その後、得られたフレームのそれぞれは、8種類の一般的なクラスII HLA対立遺伝子パネル(DRB1*0101、DRB1*0301、DRB1*0401、DRB1*0701、DRB1*0801、DRB1*1101、DRB1*1301、およびDRB1*1501)に対する予測された結合親和性についてスコア付けされる。未加工のスコアは、不規則に生成されたペプチドの大きなサンプルのスコアに対して、正規化される。得られた「Z」スコアが報告される。対立遺伝子特異的なエピマトリックスのZスコアが1.64を上回る任意の9アミノ酸長のペプチドは、理論上はあるサンプルの上位5%であり、仮想T細胞エピトープとみなされる。
【0059】
好ましい態様において、本発明のTレギトープは、T細胞エピトープクラスターとして公知のパターンを形成する、いくつかの仮想T細胞エピトープを含む。仮想T細胞エピトープは、タンパク質配列全体に不規則に分布するのではなく、代わりに特定の領域に「クラスターを形成する」傾向がある。加えて、仮想T細胞エピトープのクラスターを含むペプチドは、インビトロおよびインビボアッセイにおける検証において陽性となる可能性がより高い。最初のエピマトリックス分析結果は、仮想T細胞エピトープの「クラスター」の存在について、クラスチマー(Clustimer)として公知である第二の専売のアルゴリズムを用いてさらにスクリーニングされる。クラスチマーアルゴリズムは統計的に著しく多数の仮想T細胞エピトープを含む任意の所与のアミノ酸配列に含まれる小領域を特定する。典型的なT細胞エピトープの「クラスター」は、約9からほぼ30アミノ酸の範囲の長さであり、複数の対立遺伝子に対する、および複数の9アミノ酸長フレームにわたるそれらの親和性を考慮すると、約4からほぼ40個の範囲の仮想T細胞エピトープを含み得る。同定された個々のエピトープクラスターについて、集合的なエピマトリックススコアは、仮想T細胞エピトープのスコアを合計し、候補エピトープクラスターの長さおよびそれと同じ長さの無作為に生成されたクラスターの予想スコアに基づく補正係数を差し引くことにより算出される。+10を上回るエピマトリックスクラスターのスコアが有意であると考えられる。
【0060】
最も反応性のT細胞エピトープクラスターの多くは、「エピバー」と呼ばれる特徴を含む。エピバーは、少なくとも4種類の異なるHLA対立遺伝子に反応性であると予測される、単一の9アミノ酸長のフレームである。エピバーを含む配列は、インフルエンザ赤血球凝集素307〜319(クラスタースコア18)、破傷風毒素825〜850(クラスタースコア16)、およびGAD65 557〜567(クラスタースコア19)を含む。もう一つの態様において、本発明のペプチドは、一つまたは複数のエピバーを含み得る。
【0061】
(4)本発明のTレギトープは、少なくとも中程度の親和性(例えば、可溶性HLA分子に基づくHLA結合アッセイで<200μM IC50)で、少なくとも1種類および好ましくは2種類またはそれ以上の共通のHLAクラスII分子に結合する。
【0062】
(5)少なくとも1種類のHLA対立遺伝子と関連して、および好ましい態様において、2種類またはそれ以上のHLA対立遺伝子との関連して、本発明のTレギトープは、APCによって細胞表面に提示され得る。
【0063】
(6)この関連において、Tレギトープ-HLA複合体は、Tレギトープ-HLA複合体に特異的なTCRを有し、正常な対照である対象において循環する調節性T細胞の先在集団によって認識され得る。Tレギトープ-HLA複合体の認識は、適合する調節性T細胞を活性化させて、調節性サイトカインおよびケモカインを分泌する原因となり得る。
【0064】
(7)本発明のTレギトープでの調節性T細胞の刺激は、次のサイトカインおよびケモカインの1つまたは複数の分泌の増加をもたらす:IL-10、TGF-β、TNF-αおよびMCP1。この調節性サイトカインおよびケモカインの増加された分泌は、調節性T細胞の証明である。
【0065】
(8)本発明のTレギトープによって活性化される調節性T細胞は、CD4陽性CD25陽性FOXP3の表現型を呈する。
【0066】
(9)Tレギトープによって活性化された調節性T細胞は、抗原特異的なTh1またはTh2関連サイトカインレベル、主としてINF-γ、IL-4、およびIL-5の減少によって、ならびにCFSEの希釈で測定された抗原特異的なTエフェクター細胞集団の減少によって測定されたように、エクスビボでTエフェクターの免疫応答を直接抑制する。
【0067】
(10)Tレギトープによって活性化された調節性T細胞は、抗原特異的なTh1またはTh2関連サイトカインレベル(ELISAアッセイで測定)の減少、抗原特異的なTエフェクター細胞レベル(EliSpotアッセイで測定)の減少およびタンパク質抗原への抗体力価の減少によって測定されたように、インビボでTエフェクターの免疫応答を直接抑制する。
【0068】
(11)本発明のTレギトープによって活性化されたナチュラル調節性T細胞は、適応性TReg細胞の発達を刺激する。抗原存在下における末梢T細胞の本発明のTレギトープとの共インキュベーションは、抗原特異的CD4陽性/CD25陽性T細胞の増大をもたらし、それらの細胞におけるFOXP3陽性の発現を上昇させ、かつインビトロでの抗原特異的Tエフェクター細胞の活性化を抑制する。
【0069】
本発明のTレギトープは、モノクローナル抗体、タンパク質治療用物質、自己免疫応答を促進する自己抗原、アレルゲン、移植された組織への免疫応答の制御、および寛容が所望の成果である他の用途において有用である。本発明のTレギトープの選択態様は、実施例1の表2に要約されている。
【0070】
一つの態様において、本発明のTレギトープは、表2に記載のように単離されたT細胞エピトープである。表2のTレギトープ(SEQ ID NO:4から58)は、MHCクラスII分子との結合、MHCクラスII分子と関連するTCRとの結合およびナチュラル調節性T細胞の活性化が可能である。
【0071】
本発明のポリペプチドは、均質にまたは部分的に精製され得る。しかしながら、ポリペプチドが均質に精製されていない調製物が有用であることが理解される。重要な特徴は、多量の他の成分の存在下でさえ、その調製がポリペプチドの所望の機能を可能にすることである。従って、本発明はさまざまな純度を包含する。一つの態様において、「細胞物質を実質的に含まない」という言葉は、約30%未満(乾燥重量)の他のタンパク質(例えば、混入タンパク質)、約20%未満の他のタンパク質、約10%未満の他のタンパク質、または約5%未満の他のタンパク質を有するポリペプチドの調製を含む。
【0072】
ポリペプチドが組換えにより生産される場合、これは培地を実質的に含まないことも可能であり、例えば、培地はポリペプチド調製物の体積の約20%未満、約10%未満、または約5%未満を示す。「化学的前駆体または他の化学物質を実質的に含まない」という言葉は、その合成において関与する化学的前駆体または他の化学物質から分離されているポリペプチドの調製物を含む。「化学的前駆体または他の化学物質を実質的に含まない」という言葉は、例えば、約30%未満(乾燥重量)の化学的前駆体もしくは他の化学物質、約20%未満の化学的前駆体もしくは他の化学物質、約10%未満の化学的前駆体もしくは他の化学物質、または約5%未満の化学的前駆体もしくは他の化学物質を有するポリペプチドの調製物を含み得る。
【0073】
本明細書において使用される際、アミノ酸配列が、少なくとも約45〜55%、典型的には少なくとも約70〜75%、より典型的には少なくとも約80〜85%、およびより典型的には約90%またはそれ以上を上回って相同または同一である場合、二つのポリペプチド(またはポリペプチドの領域)は実質的に相同または同一である。二つのアミノ酸配列または二つの核酸配列の相同性または同一性(%)を決定するため、配列が最適な比較目的のために整列される(例えば、他のポリペプチドまたは核酸分子との最適な整列化のため、一つのポリペプチドまたは核酸分子の配列にギャップが導入され得る)。その後、対応するアミノ酸位置またはヌクレオチド位置にあるアミノ酸残基またはヌクレオチドが比較される。一つの配列のある位置が、他の配列の対応する位置と同じアミノ酸残基またはヌクレオチドによって占められる場合、分子はその位置において相同である。本明細書において使用される際、アミノ酸または核酸の「相同性」は、アミノ酸または核酸の「同一性」と同等である。二つの配列間の相同性(%)は、配列によって共有される同一な位置数の関数である(例えば、相同性(%)は、同一な位置数/位置の総数×100に等しい)。
【0074】
本発明は、より低度の同一性を有するものの、本発明の核酸分子にコードされるポリペプチドによって示されるのと同じ機能の一つまたは複数を示すのに十分な類似性を有するポリペプチドをも包含する。類似性は、保存されているアミノ酸置換によって決定される。そのような置換は、ポリペプチドの特定のアミノ酸を類似な特性のもう一つのアミノ酸によって置換することである。保存された置換は、表現型的にサイレントである可能性が高い。保存された置換として典型的に見られるのは、脂肪族アミノ酸Ala、Val、LeuおよびIle間での互いの置き換え;ヒドロキシル残基SerおよびThrの入れ替え、酸性残基AspおよびGluの交換、アミド残基AsnおよびGln間の置換、塩基性残基LysおよびArgの交換ならびに芳香族残基のPheおよびTyr間での置き換えである。どのアミノ酸の変更が表現型的にサイレントである可能性が高いかに関する指針は、例えば、Bowie, J. et al., Science, 247:1306-1310, 1990に見られる。
【0075】
変異体ポリペプチドは、一つまたは複数の置換、欠失、挿入、転位、融合、および切断、またはそれらの任意のものの組み合わせによってアミノ酸配列が異なり得る。変異体ポリペプチドは、完全に機能的であり得るか、または一つもしくは複数の作用において機能が欠落し得る。完全に機能的な変異体は、典型的に、保存された変化または重要でない残基もしくは重要でない領域での変化のみを含む。機能的な変異体は、機能に変化をもたらさないまたはわずかな変化をもたらす類似のアミノ酸の置換をも含み得る。あるいは、そのような置換は、機能にある程度まで正または負に影響し得る。機能的でない変異体は、典型的に、一つもしくは複数の非保存的なアミノ酸の置換、欠失、挿入、転位、もしくは切断、または、重要な残基もしくは重要な領域における置換、挿入、転位、もしくは欠失を含む。変異体ポリペプチドのいくつかの例が表2に含まれる。
【0076】
本発明は、本発明のポリペプチドのポリペプチド断片をも含む。本発明は、本明細書において記載されるポリペプチドの変異体断片をも包含する。本明細書において使用される際、断片は、少なくとも約5個の連続したアミノ酸を含む。有用な断片は、ポリペプチド特異的な抗体を生成する免疫原として使用できるポリペプチドおよび断片の、一つまたは複数の生物学的活性を保持するものを含む。例えば、生物学的に活性な断片は、約6、9、12、15、16、20もしくは30またはそれ以上の長さのアミノ酸である。断片は、分離して存在(他のアミノ酸またはポリペプチドに融合しない)するか、または、より巨大なポリペプチド内に存在し得る。いくつかの断片は、一つのより巨大なポリペプチド内に含まれ得る。一つの態様において、宿主内での発現用に設計された断片は、ポリペプチド断片のアミノ末端に融合された異種のプレポリペプチド領域およびプロポリペプチド領域、ならびに上記断片のカルボキシル末端に融合された付加的領域を有し得る。
【0077】
本発明は、キメラのまたは融合ポリペプチドをも提供する。これらは、このポリペプチドと実質的に相同ではないアミノ酸配列を有する異種タンパク質またはポリペプチドと効果のあるように連結された、本発明のポリペプチドを含む。「効果のあるように連結」は、ポリペプチドおよび異種タンパク質がインフレームで融合されていることを示す。異種タンパク質は、ポリペプチドのN-末端またはC-末端に融合され得る。一つの態様において、融合ポリペプチドは、ポリペプチドそれ自体の機能に影響しない。例えば、融合ポリペプチドは、ポリペプチド配列がGST配列のC-末端に融合したGTS融合ポリペプチドであり得る。他の種類の融合タンパクは、酵素融合ポリペプチド、例えばβ-ガラクトシダーゼ融合物、酵母ツーハイブリッドGAL融合物、ポリ-His融合物、およびIg融合物を含むが、これらに限定されない。そのような融合ポリペプチド、特にポリ-His融合物またはアフィニティータグ融合物は、組換えポリペプチドの精製を促進し得る。特定の宿主細胞(例えば、哺乳動物宿主細胞)において、ポリペプチドの発現および/または分泌は、異種のシグナル配列の使用によって増加され得る。従って、もう一つの態様において、融合ポリペプチドは、そのN-末端に異種のシグナル配列を含む。
【0078】
キメラのまたは融合ポリペプチドは、標準的な組換えDNA技術によって生産され得る。例えば、異なるポリペプチド配列をコードするDNA断片は、従来技術に従って互いにインフレームで連結される。もう一つの態様において、融合遺伝子は、自動DNA合成機を含む従来技術によって合成され得る。あるいは、核酸断片のPCR増幅は、後にアニールおよびキメラの核酸配列を生成するために再増幅され得る二つの連続する核酸断片間に相補的なオーバーハングを生じさせるアンカープライマーを用いて実施され得る(Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, 1992)。さらに、既に融合部分(例えば、GSTタンパク質)をコードした多くの発現ベクターが市販されている。本発明のポリペプチドをコードした核酸分子は、融合部分がポリペプチドにインフレームで連結されたような発現ベクターにクローニングされ得る。
【0079】
単離されたポリペプチドは、天然にそれを発現する細胞から精製でき、それを発現するように変化させた細胞(組換え体)から精製でき、または公知のタンパク質合成方法を用いて合成できる。一つの態様において、ポリペプチドは組換えDNA技術によって生産される。例えば、ポリペプチドをコードする核酸分子を発現ベクターにクローニングし、この発現ベクターを宿主細胞に導入して、宿主細胞でポリペプチドを発現させる。その後、標準的なタンパク質精製技術を用いた適切な精製スキームによって、ポリペプチドは細胞から単離できる。
【0080】
本発明は、本発明のポリペプチドを全体的にまたは部分的にコードした核酸をも提供する。本発明の核酸分子は、ベクターに挿入され、例えば、発現ベクターまたは遺伝子治療用ベクターとして使用され得る。遺伝子治療用ベクターは、例えば、静脈注射、局所投与(米国特許第5,328,470号)によって、または定位注射(Chen, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91:3054-3057, 1994)によって対象に送達され得る。遺伝子治療用ベクターの薬学的調製物は、許容される希釈剤中に遺伝子治療用ベクターを含み、または遺伝子送達媒体が組み込まれた徐放性基質を含み得る。あるいは、例えば、レトロウイルスベクターのように、完全な遺伝子送達ベクターが、組換え細胞から完全な状態で生産され得る場合、薬学的調製物は、遺伝子送達系を生産する一つまたは複数の細胞を含み得る。薬学的組成物は、投与用の指示書と共に容器、パック、およびディスペンサーに含まれ得る。
【0081】
本発明のTレギトープは、その対立遺伝子もしくは配列の変異体(「突然変異体」)もしくは類似体を含むことができ、または化学修飾(例えば、ペグ化、グリコシル化)を含み得る。一つの事例において、突然変異体は、MHC分子への増強された結合を提供し得る。もう一つの事例において、突然変異体は、TCRへの増強された結合をもたらし得る。もう一つの事例において、突然変異体は、MHC分子および/またはTCRへの結合の減少をもたらし得る。結合するがTCRを経由するシグナル伝達は可能としない突然変異体も意図される。
【0082】
本発明は、キメラのタンパク質組成物であるTレギトープ組成物を提供する。一つの態様において、Tレギトープ組成物は、共に連結している第一および第二のポリペプチド鎖を含み、第一の鎖は配列番号4〜58またはそれらの任意の組み合わせを含み、かつ第二の鎖は生物学的に活性な分子を含む。一つの態様において、生物学的に活性な分子は、免疫原性分子;T細胞エピトープ;ウイルスタンパク質;細菌タンパク質からなる群より選択される。一つの態様において、本発明のTレギトープ組成物は、共に連結している第一および第二のポリペプチド鎖を含み、第一の鎖は289〜309領域のアミノ酸がMHCクラスII分子に結合しないように変化しているFc領域を含み、かつ第二の鎖は免疫原性分子を含む。
【0083】
一つの局面において、本発明は、SEQ ID NO:4〜58の少なくとも一部を認識する調節性T細胞株を生産する方法を提供する。一つの態様において、SEQ ID NO:4〜58からなる群より選択される、一種または複数種のペプチドは、適切な賦形剤との混合物に混合される。そのような組成物は、必要とする対象における炎症を予防または治療する方法に有用であり、適切な賦形剤との混合物の局所送達は、対象における炎症の減少をもたらす。
【0084】
一つの態様において、SEQ ID NO:4〜58からなる群より選択される、一種または複数種のペプチドは、抗原またはアレルゲンとの混合物に混合される。そのような組成物は、必要とする対象における抗原またはアレルゲンに対する寛容を誘導する方法に有用であり、抗原またはアレルゲンとの混合物の局所送達は、対象における抗原またはアレルゲンに対する寛容の増加をもたらし、かつ適切な賦形剤との送達は、抗原またはアレルゲンに対する寛容の誘導をもたらす。
【0085】
一つの態様において、本発明は、SEQ ID NO:4〜58からなる群より選択される、一種または複数種のTレギトープポリペプチドを含みコードする核酸を提供する。一つの態様において、本発明は、SEQ ID NO:4〜58からなる群より選択される、一種または複数種のTレギトープポリペプチドを含みコードする核酸を含むベクターを提供する。一つの態様において、本発明は、本発明のベクターを含む細胞を提供する。細胞は、哺乳動物細胞、細菌細胞、昆虫細胞、または酵母細胞であり得る。
【0086】
Tレギトープ特異的T細胞のクローニング
Tレギトープ特異的T細胞のクローニングは、当業者に公知の技術によって行われ得る。例えば、単離されたPBMCを、20%HAS含有RPMI培地当たり10μgのTレギトープで刺激する。IL-2を、5日目に開始して一日おきに加える(最終濃度10 U/ml)。T細胞を、11または12日目に四量体プールで染色する。各プールについて、2〜3×105個の細胞を、50 mlの培養培地中(10 mg/ml)37℃で1から2時間、0.5 mgのPE-標識四量体とインキュベートし、その後15分間室温で、抗CD4-FITC(BD PharMingen、サンディエゴ、カリフォルニア州)染色する。細胞を洗浄し、Becton Dickinson FACSCaliburフローサイトメーター(Becton Dickinson、サンノゼ、カリフォルニア州)で分析する。陽性染色を示すプールについて単一のペプチドを負荷した四量体を作製し、14または15日目に分析を行う。特定の四量体に陽性である細胞は、同日または翌日にBecton Dickinson FACSVantage(サンノゼ、カリフォルニア州)用いて96穴U底プレートに分類された単一細胞である。分類した細胞を、フィーダーとしてウェル当たり1.5〜3×105個の一致しない、放射線照射(5000 rad)したPBMCと一緒にして増大させ、24時間後に2.5 mg/ml PHAおよび10 U/ml IL-2を加える。四量体(同族のペプチドまたは対照ペプチド、HA307〜319を負荷)での染色、および10 mg/mlの特異的ペプチドとのT細胞増殖アッセイ(Novak, E. et al., J. Immunol., 166:6665-6670, 2001)によって、クローニングされたT細胞の特異性を確認する。
【0087】
Tレギトープ組成物の使用方法
一つの局面において、本発明は、小分子の設計のためにTレギトープの使用方法を提供する。本発明の一つの方法において、Tレギトープ特異的T細胞を、2週間間隔で濃度1μg/mlの小分子混合物のプールおよび自己由来の樹状細胞(DC)で三回刺激し、その後、異種由来の樹状細胞および抗原で刺激する。丸底96ウェルプレートに、ウェル当たりT細胞(1.25×105個)およびDC(0.25×105個)を加える。500 mlのRPMI培地1640に50 mlのFCS(HyClone)、ペニシリン、およびストレプトマイシン(GIBCO);20 mM Hepes(GIBCO);ならびに4 mlの1N NaOH溶液を補足して、T細胞の培地を作製する。IL-2濃度は当初0.1 nMであり、その後の刺激期間中、徐々に1 nMまで増加させる。0.6×105個のエプスタイン-バーウイルス形質転換B細胞(100グレイ)および1.3×105個の異種由来の末梢血単核細胞(33グレイ)をフィーダー細胞として使用する、ならびに2 nMのIL-2を含有する培地中で1μg/mlのフィトヘムアグルチニン(Difco)を使用することによる限界希釈法により、T細胞クローンを得る。その後、Tレギトープ特異的T細胞を刺激する小分子プールを、個別の分子としてテストする。
【0088】
一つの局面において、本発明は、T細胞レセプターのクローニングを目的とするTレギトープ使用方法を提供する。上記のように生成したTレギトープ特異的T細胞株から、全RNAをRNeasy Mini Kit(Qiagene)で抽出する。cDNA末端迅速増幅(RACE)法(GeneRacer Kit、Invitrogen)によってTCRのcDNAをクローニングするために、全RNA 1μgを用いる。一本鎖cDNAを合成する前に、5' RACE GeneRacer Kitの取扱説明書に従って、RNAを脱リン酸化し、脱キャップ化し、およびRNAオリゴヌクレオチドと連結する。RNAオリゴを連結したmRNAを一本鎖cDNAに逆転写するため、SuperScript II RTおよびGeneRacer Oligo-dTを用いる。GeneRacer 5'(GeneRacer Kit)を5'プライマーとして用い、遺伝子特異的プライマー
を、それぞれTCRα、β1、またはβ2鎖の3'プライマーとして用いて、5' RACEを行う。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)生成物を、pCR2.1 TOPOベクター(Invitrogen)にクローニングし、その後One Shot TOP10 コンピテント大腸菌(Escherichia coli)(Invitrogen)に形質転換する。TCRα、β1、およびβ2鎖用の各コンストラクトからの96個の個別クローンから、プラスミドDNAを調製する。vα/vβの使用を決定するため、全てのプラスミドの全長挿入断片を配列決定する(Zhao, Y. et al., J. Immunother., 29:398-406, 2006)。
【0089】
薬学的製剤
本発明は、医学的状態を有する対象を治療する方法であって、薬学的に許容される担体または賦形剤中の治療上有効な量のTレギトープを投与する工程を含む方法を提供する。本願発明のTレギトープは、投与に適した薬学的組成物に組み込まれ得る。薬学的組成物は一般に、対象への投与に適した形態で、少なくとも一つのTレギトープおよび薬学的に許容される担体を含む。薬学的に許容される担体は、投与される特定の組成物、および組成物を投与するために用いられる特定の方法によって、ある程度決定される。従って、Tレギトープ組成物を投与するために、薬学的組成物には多種類の適した製剤が存在する(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co., Easton, PA 18th ed., 1990を参照)。薬学的組成物は一般に、無菌で、実質的に等張に、および米国食品医薬品局の全ての優良製造規則(GMP)の規定に完全に準拠して、製剤される。
【0090】
それらが組成物、担体、希釈剤および試薬を指す際には、「薬学的に許容される」、「生理的に耐容される」という用語、およびそれらの文法的変形は互換的に用いられ、かつ組成物の投与が禁止される程度の望ましくない生理的効果が生み出されることなく、物質が対象にまたは対象上に投与できることを表す。「薬学的に許容される賦形剤」は、例えば、一般に安全で、非毒性であり、および望ましい薬学的組成物の調製に有用な賦形剤を意味し、ならびに獣医用の使用およびヒトの薬学的使用のために容認される賦形剤を含む。そのような賦形剤は、固体、液体、半固体、または、エアロゾル組成物の場合、気体であり得る。当業者であれば、本願発明の特定の薬物および組成物を投与する適切なタイミング、順序および投薬量を決定できるであろう。
【0091】
そのような担体または希釈剤の好ましい例は、水、生理食塩水、リンゲル液、ブドウ糖溶液、および5%ヒト血清アルブミンを含むが、これらに限定されない。リポソーム、および固定油のような非水性媒体も使用され得る。薬学的活性物質用にそのような媒質および化合物を使用することは、当技術分野において周知である。任意の従来の媒質または化合物がTレギトープに不適合性である場合を除いて、組成物におけるその使用を考える。補足の活性化合物も、組成物に組み込まれ得る。
【0092】
本発明の薬学的組成物は、その意図される投与経路に適合するように製剤される。本願発明のTレギトープ組成物は、非経口的、局所的、静脈内、経口的、皮下的、動脈内、皮内、経皮的、直腸、頭蓋内、腹腔内、鼻腔内;膣内;筋肉内経路でまたは吸入剤として投与され得る。本発明のいくつかの態様において、薬剤は、沈着物が蓄積した特定の組織内に直接注射され、例えば、頭蓋内注射である。Tレギトープの投与には、筋肉内注射または静脈内注入が好ましい。いくつかの方法において、本発明の特定のTレギトープは、直接頭蓋内に注射される。いくつかの方法において、本発明のTレギトープは、持続放出組成物または、例えばMedipad(商標)装置のような装置として投与される。
【0093】
本発明のTレギトープは、本明細書において記載される様々な医学的状態の治療に少なくともある程度効果がある他の薬剤と組み合わせて、任意で投与され得る。対象の中枢神経系への投与の場合、本発明のTレギトープは、本発明の薬剤の血液脳関門の向こう側への通過を増加させる他の薬剤と併用して投与することも可能である。
【0094】
非経口的、皮内、または皮下的な適用に使用される溶液または懸濁液は、次の成分を含み得る:例えば注射用水のような無菌希釈剤、生理食塩水、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒;例えばベンジルアルコールまたはメチルパラベンのような抗菌性化合物;例えばアスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウムのような抗酸化物質;例えばエチレンジアミン四酢酸(EDTA)のようなキレート化合物;例えば酢酸塩、クエン酸塩またはリン酸塩のような緩衝剤、および例えば塩化ナトリウムまたはデキストロースのような浸透圧調節用化合物。pHは、例えば塩酸または水酸化ナトリウムのような、酸または塩基で調節され得る。賦形剤の例は、デンプン、ブドウ糖、乳糖、ショ糖、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、水、エタノール、DMSO、グリコール、プロピレン、乾燥スキムミルクなどを含み得る。組成物は、pH緩衝試薬、および湿潤または乳化剤も含み得る。
【0095】
非経口用の調製物は、ガラスまたはプラスチック製のアンプル、使い捨て注射器または複数回投薬量バイアルに封入され得る。
【0096】
注射用の使用に適した薬学的組成物は、無菌の注射用溶液または分散液の即時調製物用の無菌水溶液(水溶性の場合)または分散液および無菌粉末を含む。静脈内投与に関して、適する担体は、生理食塩水、静菌性水、Cremophor ELTM(BASF、パーシッパニー、ニュージャージー州)またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を含む。全ての場合において、組成物は無菌であり、かつ容易な注射可能性が存在する程度に流動性でなければならない。それは、製造および保存の条件下において安定であり、かつ例えば細菌および真菌のような微生物の汚染作用から保護される。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、およびそれらの適当な混合物を含有する溶媒または分散媒であり得る。例えば、レシチンのようなコーティングの使用によって、分散の場合は必要とされる粒径の維持によって、および界面活性剤の使用によって、適切な流動性が維持され得る。微生物の作用を予防することは、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどの様々な抗菌性および抗真菌性化合物によって達成され得る。多くの場合において、等浸透圧化合物、例えば、糖類、マンニトール、ソルビトールのような多価アルコール、塩化ナトリウムを組成物中に含むことが好ましい。注射用組成物の持続的吸収は、組成物中に吸収を遅らせる化合物、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを含むことによってもたらされ得る。
【0097】
無菌の注射用溶液は、上で列挙された成分の一つまたは組み合わせを含む適切な溶媒に必要量のTレギトープを組み込み、必要に応じて、後にろ過滅菌を行うことによって調製され得る。一般に、分散系は、基本的な分散媒質および上で列挙された必要な他の成分を含む無菌媒体に結合剤を組み込むことによって調製される。無菌注射溶液調製物用の無菌粉末の場合、調製方法は、前もって滅菌ろ過した任意の追加の望ましい成分を加えた活性成分の粉末を産生する真空乾燥および凍結乾燥である。活性成分の持続的または拍動性の放出を可能とするような方式で製剤され得る蓄積注射または埋め込み調製物の形態で、この発明の薬剤は投与され得る。
【0098】
経口用組成物は、一般に、不活性な希釈剤または可食の担体を含む。それらは、ゼラチンカプセルに封入または錠剤へ圧縮される。経口治療用投与の目的のため、結合剤は、賦形剤と組み合わせられ、かつ錠剤、トローチ、またはカプセルの形態で使用され得る。経口用組成物は、口内洗浄剤として使用するために流動性担体を用いて調製してもよく、この流動性担体中の化合物は経口的に適用され、口内で漱がれて吐出または嚥下される。薬学的に適合する結合化合物および/またはアジュバント物質が、組成物の一部として含まれ得る。錠剤、丸剤、カプセル、トローチなどは、任意の下記成分、または同様の性質の化合物を含み得る:例えば結晶セルロース、ゴムトラガカントもしくはゼラチンのような結合剤;例えばデンプンもしくは乳糖のような賦形剤、例えばアルギン酸、プリモゲルもしくはコーンスターチのような崩壊剤;例えばステアリン酸マグネシウムもしくはステロート(Sterote)のような潤滑剤;例えばコロイド状二酸化シリコンのようなグライダント(glidant);例えばショ糖もしくはサッカリンのような甘味剤;または例えばペパーミント、サルチル酸メチルもしくはオレンジ香味剤のような香味剤。
【0099】
吸入による投与について、Tレギトープは、適切な噴射剤、例えば、二酸化炭素のような気体を含む、加圧された容器またはディスペンサーからのエアロゾルスプレー、またはネブライザーの形態で送達される。
【0100】
全身性投与は、経粘膜的手段または経皮的手段によってもあり得る。経粘膜投与または経皮投与について、浸透されるバリアに対して適切な浸透剤が、製剤中に使用される。そのような浸透剤は、概して当技術分野において公知であり、例えば、経粘膜投与については、界面活性剤、胆汁酸塩、およびフシジン酸誘導体を含む。経粘膜投与は、鼻スプレーまたは坐剤の使用によって達成され得る。経皮投与について、Tレギトープは、当技術分野において一般に公知であるように、軟膏、膏薬、ゲルまたはクリームに製剤され、局所的に、または経皮的パッチ技術によって適用される。
【0101】
Tレギトープは、坐剤(例えば、カカオバターおよび他のグリセリドのような従来からの坐剤基剤を使用した坐剤)の形態の、または直腸送達用の停留浣腸(retention enema)の形態の薬学的組成物としても調製され得る。
【0102】
一つの態様において、Tレギトープは、埋め込みおよびマイクロカプセル化送達系を含む、Tレギトープを身体からの迅速な排出から保護する例えば制御放出製剤のような担体と調製される。例えば、エチレンビニル酢酸、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルソエステル、およびポリ酪酸のような、生分解性、生体適合性の高分子が使用され得る。そのような製剤の調製方法は、当業者にとって明らかであろう。これらの物質は、Alza CorporationおよびNova Pharmaceuticals, Inc.から商業的に得ることも可能である。リポソーム懸濁液(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体を有する、感染細胞に標的化されたリポソームを含む)も、薬学的に許容できる担体として使用され得る。これらは、当業者に公知の方法(米国特許第4,522,811号)に従って調製され得る。Tレギトープまたはキメラのタンパク質は、所望の場所へのTレギトープまたはキメラタンパク質の放出を可能とする生体高分子の固形支持体に埋め込まれるか、または該支持体に結合され得る。
【0103】
投薬単位形態で経口または非経口用組成物を製剤することは、投与の容易性および投薬量の均一性のために特に有利である。本明細書において使用される場合、投薬単位形態は、治療されるべき対象用の単位投薬量として適した物理的に分離した構成単位を指し;各構成単位は、必要とされる薬学的担体と共同して所望の治療効果を産生するように算出された予め決められた量の結合剤を含む。結合剤の独特な特徴および達成されるべき特定の治療効果、ならびに対象の治療用にそのようなTレギトープを組み合わせる技術分野に固有の制限によって、本発明の投薬単位形態の仕様は決定され、かつそれらに直接依存する。
【0104】
医学的状態の予防または治療の方法
本願発明は、例えば、本発明のTレギトープまたはキメラタンパク質を投与し、それによって医学的状態を治療することを含む、一つまたは複数の医学的状態を治療する方法を対象としている。医学的状態は、例えば、原発性免疫不全;免疫介在性血小板減少、川崎病、20歳より年上の患者における造血幹細胞移植、慢性B細胞リンパ球性白血病および小児HIV-1型感染であり得る。具体的な例は以下を含む:(血液科)再生不良性貧血、赤芽球ろう、ダイアモンド・ブラックファン貧血、自己免疫性溶血性貧血、新生児溶血性疾患、後天性第VIII因子阻害、後天性フォン・ヴィレブランド病、免疫介在性好中球減少、血小板輸血に対する不応性、新生児期同種免疫/自己免疫性血小板減少、輸血後紫斑病、血栓性血小板減少紫斑病/溶血性尿毒症性症候群;(感染症)低出生体重(例えば、<1500 g)、実質臓器移植、手術、外傷、熱傷、およびHIV感染を含む、感染症の獲得が有害であり得る状態;(神経科)てんかんおよび小児の難治性のギラン・バレー症候群、慢性炎症性の脱髄性多発ニューロパシー、重症筋無力症、ランバート・イートン筋無力症症候群、多病巣性運動ニューロパシー、多発性硬化症;(産科)再発性妊娠損失;(呼吸器科 )喘息、慢性胸症状、リウマチ学、関節リウマチ(成人性および若年性)、全身性紅斑性狼瘡、全身性血管炎、皮膚筋炎、多発性筋炎、封入体筋炎、ウェゲナー肉芽腫症;(その他)副腎脳白質ジストロフィ、筋萎縮性側索硬化症、ベーチェット症候群、急性心筋症、慢性疲労症候群、先天性心ブロック、嚢胞性線維症、自己免疫性水疱形成皮膚症、糖尿病、急性特発性自律神経障害、急性散在性脳脊髄炎、内毒血症、溶血性輸血反応、血球貪食症候群、急性リンパ芽球性白血病、下位運動ニューロン症候群、多発性骨髄腫、ヒトT細胞リンパ球向性ウイルス1型関連脊髄症、腎炎症候群、膜性腎症、ネフローゼ症候群、甲状腺機能正常性眼症、オプソクローヌス・ミオクローヌス、再発性中耳炎、腫瘍随伴性小脳変性、異常タンパク性ニューロパシー、パルボウイルス感染症(全身性)、多発性神経炎・臓器肥大症・内分泌異常症・Mタンパク・皮膚病変(POEMS)症候群、進行性腰仙神経叢障害、ライム神経根炎、ラスムッセン症候群、ライター症候群、急性腎不全、血小板減少症(非免疫性)、連鎖球菌中毒性ショック症候群、ブドウ膜炎およびフォークト・小柳・原田症候群。
【0105】
特定の態様において、本発明は、例えば、アレルギー、自己免疫疾患、移植片対宿主病のような移植関連障害、酵素もしくはタンパク質欠乏障害、止血障害、がん、不妊症、または感染症(ウイルス、細菌、もしくは寄生虫感染症)の治療法を対象としている。本発明のTレギトープまたはキメラタンパク質は、有害事象を低減する、または同時投与された化合物の効果を増強するために、ある医学的状態の対象の治療に使用される他のタンパク質または化合物と併用して使用され得る。
【0106】
アレルギーへの適用
アレルゲン特異的調節性T細胞は、アレルギーおよび喘息の発生の制御において重要な役割を果たす。どちらも転写因子FOXp3を発現している、天然のCD4/CD25調節性T細胞および二次的TReg(抗原特異的調節性T細胞)の両方が、アレルギー性疾患に関与する不適切な免疫応答を抑制することが示されてきた。複数の最近の研究は、調節性T細胞が、動物モデルだけでなくさらにヒトにおいても、感受性個体におけるT-ヘルパー2型に偏った免疫応答の過剰発現の制御において重要な役割を果たすことを示している。最近の研究は、調節性T細胞がTGF-βおよびIL-10の分泌によるT細胞同時刺激も抑制することを示しており、アレルギー性障害の調節における調節性T細胞の重要な役割を示唆している。ナチュラルまたは適応性調節性T細胞の欠陥的増大は、アレルギーの発生をもたらし、アレルゲン特異的調節性T細胞を誘導するための治療は、アレルギーおよび喘息用の治癒的治療法を提供するであろう。
【0107】
喘息の予防および治療の両方のための一つの戦略は、調節性T細胞の誘導である。動物は、Th1またはTrの応答をもたらす免疫刺激によって喘息の発生から保護され得る。
【0108】
移植への適用
本発明のTレギトープは、ドナー細胞に対する免疫応答を特異的に下方制御する細胞の発達の促進によって、移植過程の間に寛容を誘導するために有用である。臓器特異的自己免疫の治療のためにAg特異的なTReg細胞を誘導することは、重要な治療上の進展であり、全身性の免疫抑制を回避する。骨髄移植のネズミモデルにおいて、TRegは、有益な移植片対腫瘍免疫効果を無効にすること無しに、ドナー骨髄の生着を促進し、かつ移植片対宿主病の発病率および重症度を低減する。これらの知見は、マウスおよびヒトのTRegが表現型上および機能上の特徴を共有するという所見と合わせて、ヒト造血細胞移植に関連する合併症を低減するための、これらの細胞の使用に関する活発な研究をもたらしてきた。TRegおよびエフェクターT細胞の不均衡は、移植片対宿主病の発生の一因となる。しかしながら、免疫調節の機構、特にTRegの非自己認識特性、それらの、他の免疫細胞への影響および相互作用、ならびにそれらの抑制活性部位は、十分に理解されていない。
【0109】
ヒトおよび実験動物モデルの両方からの証拠の蓄積は、移植片対宿主病(GVHD)の発生とTRegの関与を関連付けてきた。TRegが移植片対腫瘍(GVT)活性からGVHDを分離できるという実証は、それらの免疫抑制能がGVT効果への好ましくない結果無しにGVHDを低減するように操作され得ることを示唆する。抑制能を有する様々なTリンパ球が報告されてきたものの、二種類の最もよく特徴付けられているサブセットは、自然発生し、胸腺内で生成されたTReg(ナチュラルTReg)および末梢で生成された、誘導性TReg(誘導性TReg)である。
【0110】
自己免疫への適用
Tレギトープは、免疫原性化合物(タンパク質治療用物質)のための寛容化剤として使用され得る。この発見は、タンパク質治療用物質の設計に関係がある。従って、Tレギトープと併用する、モノクローナル抗体、自己由来サイトカイン、または外来タンパク質の投与は、有害なTエフェクターの免疫応答を抑制する。インビボにおいて、TRegは、樹状細胞を介して自己反応性T細胞活性化を制限するように作用して、それらの分化、およびエフェクター機能の獲得を抑制する。活性化した病原性細胞の供給制限によって、TRegは自己免疫疾患の進行を抑制または鈍化させる。しかしながら、長期の疾病経過に渡るTReg細胞の不足ならびに/またはTReg耐性病原性T細胞の発達および蓄積のため、この保護機構は、自己免疫の個体には不十分なように見える。従って、これらの患者における自己寛容の回復は、進行中の組織障害を制御する能力が増強したTRegの注入とともに、病原性T細胞の一掃を必要としうる。例えば甲状腺炎およびインスリン依存性糖尿病のような、臓器特異的な自己免疫状態は、この寛容機構の破綻に起因してきた。
【0111】
糖尿病への適用
1型(若年性)糖尿病は、インスリンを産生する膵臓β細胞の破壊に起因する臓器特異的な自己免疫疾患である。糖尿病ではないとき、島細胞抗原特異的T細胞は、胸腺の発達において消去されるかそれとも、島細胞抗原に対するエフェクター応答を活発に抑制する調節性T細胞に変換される。若年性糖尿病、および若年性糖尿病のNODマウスモデルにおいては、これらの寛容機構が失われている。それらが存在しないとき、島細胞抗原は、ヒト白血球抗原(HLA)クラスIおよびII分子によって提示され、ならびにCD8(+)およびCD4(+)自己反応性T細胞によって認識される。これらの自己反応性細胞による島細胞の破壊は、最終的に耐糖能障害をもたらす。Tレギトープと島細胞抗原の同時投与は、ナチュラル調節性T細胞の活性化、および存在する抗原特異的エフェクターT細胞の調節性表現型への変換をもたらす。このように、有害な自己免疫応答は、抗原特異的な適応性寛容の誘導をもたらすように変更される。抗原特異的な寛容の誘導による自己免疫応答の自己由来エピトープへの変化は、進行中のβ細胞の破壊を抑制し得る。従って、本発明のTレギトープは、糖尿病の予防または治療のための方法に有用である。
【0112】
B型肝炎(HBV)感染への適用
慢性HBVは、通常後天的(母子感染による)か、それとも成人の急性HBV感染のまれな結果であり得る。慢性B型肝炎(CH-B)の急性増悪は、B型肝炎のコアおよびe抗原(HBcAg/HBeAg)に対する増強した細胞障害性T細胞応答を伴う。最近の研究において、HBcAgおよびHbeAg由来のMHCクラスII拘束性エピトープペプチドを予測するために、SYFPEITHI T細胞エピトープマッピングシステムが使用された。高いスコアのペプチドを用いたMHCクラスII四量体を構築し、TRegおよびCTLの頻度を測定するために使用した。結果は、HBcAgペプチド特異的な細胞障害性T細胞の増加と同時に起きる増悪の間に、HBcAgに特異的なTReg細胞が減少したことを示した。寛容段階の間、FOXp3発現TReg細胞クローンを同定した。これらのデータは、HbcAg TReg T細胞の減少が、慢性のB型肝炎ウイルス感染の自然経過における自然発生的増悪の主な原因となることを示唆する。従って、本発明のTレギトープは、ウイルス感染、例えば、HBV感染の予防または治療のための方法に有用である。
【0113】
SLEへの適用
全身性紅斑性狼瘡(SLE)またはシェーグレン症候群において役割を果たす、TRegエピトープが定義されてきた。このペプチドは、スプライセオソームタンパク質の131〜151残基
を包含する。可溶性HLAクラスII分子を用いた結合アッセイおよび分子モデリング実験は、エピトープが、乱交雑エピトープとして振る舞い、ヒトDR分子の大きなパネルに結合することを示した。正常なT細胞および狼瘡ではない自己免疫患者由来のT細胞とは対照的に、無作為に選択した狼瘡患者の40%由来のPBMCは、ペプチド131〜151に応じて増殖するT細胞を含む。リガンドの変化がT細胞応答を変更し、TReg細胞を含みうる、このペプチドに応答するいくつかのT細胞集団が存在することを示唆した。T調節性エピトープが、シェーグレン症候群においても定義されてきた。従って、上からのエピトープと併用して同時投与される本発明のTレギトープは、SLEの予防または治療のための方法に有用である。
【0114】
グレーブス病への適用
グレーブス病は、甲状腺機能高進症、または甲状腺からの異常に強いホルモン放出をもたらす自己甲状腺刺激ホルモンレセプター(TSHR)への抗体を特徴とする、自己免疫障害である。いくつかの遺伝的因子が、グレーブス病の感受性に影響を与え得る。女性は、男性よりも疾患にかかる可能性が非常に高い;白人およびアジア人種は黒人種よりもリスクが高く、HLA DRB1-0301がこの疾患と密接に結び付いている。従って、本発明のTレギトープの、TSHRもしくは他のグレーブス病抗原またはそれらの部分との同時投与は、グレーブス病の予防または治療のための方法に有用である。
【0115】
自己免疫性甲状腺炎への適用
自己免疫性甲状腺炎は、自己甲状腺ペルオキシダーゼおよび/またはチログロブリンに対して抗体が生じる時に起こる状態であり、甲状腺において小胞の段階的破壊を引き起こす。HLA DR5がこの疾患と密接に結び付いている。従って、本発明のTレギトープの、甲状腺ペルオキシダーゼおよび/もしくはチログロブリンTSHRまたはそれらの部分との同時投与は、自己免疫性甲状腺炎の予防または治療のための方法に有用である。
【0116】
ワクチンベクターの設計への適用
樹状細胞表面レセプターDEC-205を標的とするモノクローナル抗体は、ワクチン抗原を樹状細胞に標的化できるワクチンベクターとしての将来性を発揮してきた。しかしながら、強い炎症性免疫応答の刺激物質としての抗DEC-205の成功は、非特異的な樹状細胞成熟因子の同時投与に依存する。それらがないとき、抗DEC-205は、免疫よりもむしろ抗原特異的な寛容を誘導する。従って、抗DEC-205に含まれる調節性T細胞エピトープは、非特異的な免疫刺激物質の同時投与によってのみ克服される、寛容原性反応を促進する。すなわち、抗DEC-205ベクターに含まれるTレギトープは、調節性T細胞の抗原特異的な増大を引き起こし、かつ炎症性免疫応答を抑制するという点が、実験的に検証されてきた。もはやMHC分子に結合しないようにそれらTレギトープを改変することは、寛容原性を著しく減少させ、免疫系の非特異的活性化に関連する危険を取り除く効果的な独立した抗原送達系としての抗DEC-205の使用を可能にする。
【0117】
キット
本明細書に記載の方法は、例えば、本明細書に記載の医学的状態の症状または家族歴を示す対象を治療するための臨床的状況において好都合に使用され得る、例えば、少なくとも一つの本発明のTレギトープ組成物を含むあらかじめパッケージングされたキットの活用によって、実行され得る。一つの態様において、キットは、本明細書に記載の医学的状態の症状または家族歴を示す対象を治療するための、少なくとも一つの本発明のTレギトープ組成物の使用指示書をさらに含む。
【0118】
Tレギトープを使用した調節性T細胞のエクスビボでの増大
もう一つの局面において、本発明は調節性T細胞の増大のためのエクスビボ法を提供する。一つの態様において、本発明は、生体試料中の調節性T細胞を増大する方法を提供し、その方法は以下の工程を含む:(a)対象由来の生体試料を提供する工程;(b)生体試料から調節性T細胞を単離し;かつ、調節性T細胞の数が増加して増大した調節性T細胞組成物が得られる条件下で、単離した調節性T細胞と有効量の本発明のTレギトープ組成物とを接触させる工程であって、その結果、生体試料中の調節性T細胞が増大する工程。一つの態様において、上記方法は増大した調節性T細胞組成物を対象に投与する工程をさらに含む。一つの態様において、増大した調節性T細胞組成物を投与された対象は、例えば、増大した調節性T細胞組成物の自己移植によって、元の生体試料が得られた個体と同じ個体である(Ruitenberg, J. et al., BMC Immunol., 7:11, 2006)。
【0119】
Tレギトープ組成物のインビトロでの使用
もう一つの局面において、本発明は、インビトロ実験モデルでの調節性T細胞機能の研究における試薬としての、本発明のTレギトープ組成物の使用を提供する。一つの態様において、本発明は、生体試料中の調節性T細胞を刺激するためのインビトロの方法を提供し、その方法は以下の工程を含む:(a)対象由来の生体試料を提供する工程;(b)生体試料から調節性T細胞を単離し;かつ、調節性T細胞が刺激されて一つまたは複数の生物学的機能が変化する条件下で、単離した調節性T細胞と有効量の本発明のTレギトープ組成物とを接触させる工程であって、その結果、生体試料中の調節性T細胞が刺激される方法。一つの態様において、本発明は、調節性T細胞に対する結合Tレギトープまたはその断片を測定するためのインビトロの方法を提供する。
【0120】
以下の実施例は、いかなる方法によっても、本発明の範囲を限定するとは解釈されない。本願の開示踏まえて、当業者に、請求項の範囲内の多くの態様が明らかになるであろう。
【0121】
実施例
Tレギトープを、(1)T細胞エピトープマッピングアルゴリズムであるEpiMatrixを使用して同定し、(2)可溶性HLAに結合することを確認し、(3)ナチュラル調節性T細胞への結合を証明し、(4)エクスビボ(ヒトPBMC)で同時送達された抗原への免疫応答を抑制することを証明し、および(3)インビボ(マウス)で同時送達された抗原への免疫応答を抑制すると証明した。これらの発見の方法は、以下に概略が説明され、対応する結果が続く。
【0122】
(1)T細胞エピトープおよびT細胞エピトープクラスターの同定方法
T細胞は、MHC(主要組織適合遺伝子複合体)クラスII分子との関連において抗原提示細胞(APC)によって提示されたエピトープを特異的に認識する。これらのTヘルパーエピトープは、MHCクラスII結合溝に合う7〜30個の連続するアミノ酸を含む直線配列として示され得る。複数のコンピューターアルゴリズムが開発され、様々な由来のタンパク質分子におけるクラスIIエピトープ検出用に使用されてきた(De Groot, A. et al., AIDS Res. Hum. Retroviruses, 13: 539-541, 1997;Schafer, J. et al., Vaccine, 16:1880-1884, 1998;De Groot, A. et al., Vaccine, 19:4385-95, 2001;De Groot, A. et al., Vaccine, 21:4486-504, 2003)。これらTヘルパーエピトープのインシリコ予測は、ワクチンの設計および治療タンパク質の脱免疫化に有効に適用されてきた。
【0123】
EpiMatrixシステムは、クラスIおよびクラスIIエピトープを予測用のツールである。アルゴリズムは、HLA分子に結合する9および10アミノ酸長のペプチドの予測用にマトリクスを使用する。各マトリクスは、ポケットプロファイル(pocket profile)法(Sturniolo, T. et al., Nat. Biotechnol., 17:555-561, 1999)に似ているが同一ではない方法によって解明された、アミノ酸結合親和性に関連する位置特異的係数に基づいている。EpiMatrixシステムは、インビトロおよびインビボで確認されてきた多数のエピトープを、あらかじめ予測するために使用されてきた。任意のある配列の全体のアミノ酸を、各フレームが最後の8アミノ酸で重なり合う、重なり合った9アミノ酸長のフレームで最初に解析する。その後、フレームのそれぞれを、8種類の一般的なクラスII HLAハプロタイプ(DRB1*0101、DRB1*0301、DRB1*0401、DRB1*0701、DRB1*0801、DRB1*1101、DRB1*1301、およびDRB1*1501)のそれぞれに対する予測された親和性についてスコア付けする。それらの普及およびそれらの互いに対する相違のために、これら8種類の対立遺伝子は、世界中の人口のおよそ97%をカバーする。その後、EpiMatrixの未加工のスコアを、無作為に生成されたペプチド配列の非常に大きなセットに由来するスコア分布に関して標準化する。得られた「Z」スコアは正規分布し、対立遺伝子間を直接比較することが可能である。
【0124】
EpiMatrixペプチドスコアリング
EpiMatrix「Z」スケールで1.64より高くスコア付けされる任意のペプチド(任意の特定ペプチドセットのおよそ上位5%)が、予測されたMHC分子に結合する有意な可能性を有することが割り出された。このスケールで2.32より高くスコア付けされるペプチド(上位1%)は、極めて結合する可能性が高く;最も多く公表されたT細胞エピトープは、このスコア範囲に含まれる。以前の研究も、EpiMatrixが、公表されたMHCリガンドおよびT細胞エピトープを正確に予測することを証明してきた。
【0125】
乱交雑T細胞エピトープクラスターの同定
エピトープマッピングに続いて、EpiMatrixアルゴリズムによって生成された結果のセットを、T細胞エピトープクラスターおよびエピバーの存在についてスクリーニングする。可能性のあるT細胞エピトープは、タンパク質配列全体に無作為に分布するのではなく、代わりに「クラスターを形成する」傾向がある。T細胞エピトープ「クラスター」は、9からほぼ30アミノ酸の長さであり、複数の対立遺伝子に対する、かつ複数のフレーム間の、それらの親和性を考慮すると、4から40個の範囲の結合モチーフを含む。クラスチマーとして公知の専売のアルゴリズムを用いて、仮想T細胞エピトープクラスターを同定する。簡潔には、解析された各9アミノ酸長ペプチドのEpiMatrixスコアを総計し、統計的に導出された閾値と照合する。その後、スコアの高い9アミノ酸長を、同時に1アミノ酸延長する。その後、延長した配列のスコアを再度総計し、修正した閾値と比較する。この過程を、計画した延長が、もはやクラスター全体のスコアを改善しなくなるまで、繰り返す。本発明の研究において同定されたTレギトープを、クラスチマーアルゴリズムによって、T細胞エピトープクラスターとして同定した。それらは、有意な数の仮想T細胞エピトープ、ならびにMHC結合およびT細胞反応性に高い可能性を示すエピバーを含む。
【0126】
(2)ペプチド合成および可溶性MHCへの結合の評価方法
ペプチド合成
Tレギトープは、直接的化学合成によって、または組換え方法(Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2 ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press,(1989))によって生産され得る。本発明のTレギトープに対応するペプチドは、New England peptideにおいて、自動化Rainen Symphony/Protein Technologies synthesizer(Synpep、ダブリン、カリフォルニア州)での9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)合成によって調製した。ペプチドは、HPLC、質量分析およびUV走査(それぞれ、純度、質量およびスペクトルを保証する)による確認で>80%の純度で配達された。
【0127】
産生されたペプチドの結合
ビオチン化されていない試験ペプチドを、96ウェルポリプロピレンプレートに、最終濃度0.1μM〜400μMの範囲で3つ組のウェルに懸濁する。その後、1 mM PefaBloc含有溶液中の精製した組換えHLAクラスII分子、0.75% n-オクチル-B-D-グルコピラノシド含有150 mMのクエン酸-リン酸緩衝液(pH 5.4)を、最終濃度200 ng/ウェルで、それらのウェルに加えた。96ウェルプレートを、37℃で6% CO2において45分間インキュベートする。インキュベートに続いて、ビオチン化Flu HAペプチド307〜319(または別の適当な対照ペプチド)を、ウェル当たり最終濃度0.1μMで加え、37℃で20時間インキュベートする。その後、各ウェルの内容物を、前もって抗ヒトHLA-DR L243捕捉抗体(Becton Dickenson)でコーティングした96ウェル高結合ELISAプレートに加え、4℃で20時間インキュベートする。その後、100μl(10μg/ml)のユーロピウム標識ストレプトアビジン(Perkin-Elmer)および100μlのエンハンスメントバッファー(Perkin-Elmer)を各ウェルに加えることによって、プレートを現像した。反応は、暗所において室温で15〜30分間インキュベートし、その後蛍光をWallac Victor 3-V時間分解フルオロメーターで測定した。その後、IC50値を、SigmaPlot分析プログラムを用いて、非線形回帰分析によって算出した。公知のペプチドとの比較に基づいて、250μMまたはそれ以上のIC50は弱い結合を示し、400μMまたはそれ以上のIC50は非結合相互作用を示す。
【0128】
(3)ナチュラル調節性T細胞に対するペプチドの結合能力の評価方法
T細胞の単離
この研究プログラムは、プロビデンスのロードアイランド血液バンクから入手した献血された血液、ロードアイランド州ジョンストンの臨床パートナーで募集したボランティアからの血液、フランス、パリのStallergenesによって募集されたボランティアから入手した血液、および商業的供給業者から入手した試料を含む。ドナー血液は、全ての連邦指針に従い、StallergenesおよびEpiVaxの施設方針に従って入手した。ドナー血液の入手用プロトコールは、それぞれの施設内審査委員会によって認可された。末梢血単核細胞(PBMC)は、Accuspinのプロトコール(Sigma-Aldrich、セントルイス、ミズーリ州)に従って単離した。ほこり-ダニ-アレルギー個体からの低温保存したPBMCは、Cellular Technologies Ltd.(クリーブランド、オハイオ州)から入手した。
【0129】
ナチュラルTregアッセイ
ヒトPBMCを、破傷風毒素ペプチドTT830〜844のみ、Tレギトープのみ、フィトヘマグルチニンのみ(マイトジェン陽性対照)の存在下または刺激物無しで、エクスビボで4日間、直接刺激する。1×106個の細胞を抗CD4-FITC(クローンRPA-T4;eBioscience)および抗CD25-APC(クローンBC96;eBioscience)抗体で30分間氷上において、フロー染色バッファー(eBioscience)中で染色し、緩衝液で二回洗浄した。細胞表面染色に続いて、細胞を固定化および透過処理し(eBioscience)、さらに製造元のプロトコールに従って、FOXp3(クローンPCH101;eBioscience)の細胞内染色を行った。様々な培養条件下でのFOXp3陽性CD4+/CD25+T細胞の頻度は、Flowjo解析ソフトウェアを用いて列挙する。T細胞活性化は、FOXp3発現の増加が付随する場合に、活性化した細胞が調節性であることを示す、CD4+/CD25+発現の増加によって示される。
【0130】
(4)エクスビボで同時投与した抗原への応答を抑制するペプチドの能力の評価方法
バイスタンダー(bystander)抑制アッセイ
単離したPBMCは、免疫原性抗原のみの存在下、またはTレギトープペプチド存在下でのその抗原の存在下のいずれかにおいて、37℃ 5% CO2で8日間培養した。試験用抗原は10μg/mlで添加され、以下を含んだ:(1)例えば、破傷風毒素ペプチドTT830〜844、インフルエンザ赤血球凝集素ペプチド307〜319、ワクシニアペプチドエピトープおよびCEF 陽性対照ペプチドプール(NIH AIDS Research & Reference Reagent Program at the website aidsreagent.org;Currier, J. et al., J. Immunol. Methods, 260:157-72, 2002;Mwau, M. et al., AIDS Res. Hum. Retroviruses, 18:611-8, 2002)のような古典的な抗原、(2)ボツリヌス神経毒素A、例えば甲状腺ホルモン刺激ホルモンおよび補体成分C3dのような自己由来自己抗原のような、タンパク質治療用物質。試験用抗原は、次のアレルゲンも含んだ:カバノキ花粉抗原Betv1、イエチリダニ溶解物および精製イエチリダニ抗原、Der P2。組換えIL-2(10 IU/ml)およびIL-7(20 ng/ml)を、2日目にPBMC培養に加えた。刺激の8日後、細胞を回収し、数回PBSで洗浄し、下記のヒトサイトカイン放出アッセイに従ってアッセイした。
【0131】
ヒトIFN-γ ELISpot
IFN-γ ELISpotアッセイを、Mabtechから購入したHuman IFN-γ ELISpotキットを用いて実施する。標的ペプチドを、10%ヒト血清含有RPMI1640中250,000個のヒト末梢血単核細胞を含む3つ組のウェルに10μg/mlで加え、5% CO2雰囲気下37℃で18から22時間インキュベートする。3つ組のウェルに、PHAを10μg/mLで蒔く。ペプチド無しの6個のウェルは、バックグラウンドの決定に用いる。ペプチド試験ウェルのスポット数がマンホイットニーU検定で対照ウェルのスポット数と統計的に異なる(p < 0.05)場合、応答を陽性とみなす。一般に、スポット数が少なくともバックグラウンドの4倍であり、バックグラウンドを超えて細胞100万個当たり50スポットよりも多い(脾細胞20,000個当たり、バックグラウンドよりも1応答上回る)場合、応答を陽性とみなす。結果は、バックグラウンドを超える平均スポット数として記録し、蒔いた細胞100万個当たりのスポットに調整する。抑制の割合が10%またはそれ以上であり、統計的に有意であると決定される場合、統計的に有意であるとみなす。
【0132】
ヒトIFN-γ ELISpot
IFN-γ ELISpotアッセイを、Mabtechから購入したHuman IL-4 ELISpotキットを用いて実施する。標的ペプチドを、10%ヒト血清含有RPMI1640中250,000個のヒト末梢血単核細胞を含む3つ組のウェルに10μg/mlで加え、5% CO2雰囲気下37℃で18から22時間インキュベートする。3つ組のウェルに、PHAを10μg/mLで蒔く。ペプチド無しの6個のウェルは、バックグラウンドの決定に用いる。ペプチド試験ウェルのスポット数がマンホイットニーU検定で対照ウェルのスポット数と統計的に異なる(p < 0.05)場合、応答を陽性とみなす。一般に、スポット数が少なくともバックグラウンドの4倍であり、バックグラウンドを超えて細胞100万個当たり50スポットよりも多い(脾細胞20,000個当たり、バックグラウンドよりも1応答上回る)場合、応答を陽性とみなす。結果は、バックグラウンドを超える平均スポット数として記録し、蒔いた細胞100万個当たりのスポットに調整する。抑制の割合が10%またはそれ以上であり、統計的に有意であると決定される時、統計的に有意であるとみなす。
【0133】
ヒトIL-4 ELISpot
IL-4 ELISpotアッセイを、Mabtechから購入したHuman IL-4 ELISpotキットを用いて実施する。標的ペプチドを、10%ヒト血清含有RPMI1640中250,000個のヒト末梢血単核細胞を含む3つ組のウェルに10μg/mlで加え、5% CO2雰囲気下37℃で18から22時間インキュベートする。3つ組のウェルに、PHAを2μg/mLで蒔く。ペプチド無しの6個のウェルは、バックグラウンドの決定に用いる。統計的試験は、改良型並べ替え検定(Hudgens, M. et al., J. Immunol. Methods, 288:19-34, 2004)を用いて実行する。ペプチド試験ウェルのスポット数が対照ウェルのスポット数と統計的に異なる(p < 0.01)場合、応答を陽性とみなす。一般に、スポット数が少なくともバックグラウンドの4倍であり、バックグラウンドを超えて細胞100万個当たり50スポットよりも多い場合(脾細胞20,000個当たり、バックグラウンドよりも1応答上回る)、応答を陽性とみなす。結果は、バックグラウンドを超える平均スポット数として記録し、蒔いた細胞100万個当たりのスポットに調整する。抑制の割合が10%またはそれ以上であり、統計的に有意であると決定される場合、有意であるとみなす。
【0134】
ヒトIFN-γ ELISA
標的ペプチドを、10%ヒト血清含有RPMI1640中のヒト末梢血単核細胞を含む培養物に10μg/mlで加え、5% CO2雰囲気下37℃で18から22時間インキュベートする。10μg/mLのPHAで刺激した培養物またはペプチド無しの培養物を対照として用いる。ヒトIFN-γ定量性サンドイッチELISAを、R&D Systems Quantikine ELISAキットを用いて実施した。IFN-γに特異的なポリクローナル抗体を、96ウェルマイクロタイタープレートに予めコーティングする。キットが提供する標準およびPHAを含む細胞上清試料ならびにペプチド無しの対照(100μl)を、ウェルにピペットで移し、存在する任意のIFN-γを固定化抗体に室温で2時間結合させる。結合していない物質を洗い流した後、室温で2時間のインキュベート用にIFN-γに特異的な酵素連結ポリクローナル抗体をウェルに加える。結合していないいかなる抗体-酵素試薬も除去するための洗浄の後、基質溶液を30分間ウェルに加え、結合IFN-γ量に比例して顕色させる。顕色を停止し、450 nmでの発色強度をWallac Victor3で測定する。プレートの光学的不完全性の補正は、450 nmの値から540 nmでの強度を差し引くことにより行う。実験群間のサイトカインレベルの相違は、t-検定で評価した。実験および対照ウェル間での、サイトカイン発現の観測された相違が統計的に異なる(p < 0.01)場合、応答を陽性とみなす。
【0135】
多重化ヒトサイトカイン/ケモカインELISA
SearchLight multiplex ELISA技術を用いて、PBMC培養からの上清を、サイトカインおよびケモカインレベルについて評価する。測定したヒトサイトカインは、IL-1β、IL-2、IL-4、IL-5、IL-6、IL-10、IL-12p40、IL-12p70、TNFαおよびTGFβを含む。測定したヒトケモカインは、MCP-1, MIP-1αおよびMIP-1βを含む。SearchLight Proteomic Arrayは、96ウェルポリスチレンマイクロタイタープレートの底にスポットした最大16種の異なる捕捉抗体を含む、定量的多重化サンドイッチELISAである。各抗体は、ビオチン化抗体で検出される特定のタンパク質を捕捉し、続いてストレプトアビジン-HRPが、そして最後に、電荷結合素子(CCD)カメラで検出されるSuperSignal ELISA Femto Chemiluminescent基質が添加される。実験群間のサイトカインレベルの相違は、t-検定で評価した。実験および対照ウェル間での、サイトカイン発現の観測された相違が統計的に異なる(p < 0.01)場合、応答を陽性とみなす。
【0136】
細胞分離/枯渇方法
invitrogen dynabeadsシステム(ヒトCD4およびCD25用)を用いて、製造元の指示に従い(InVitrogen、カールスバッド、カリフォルニア州)、ヒトTreg細胞集団を、PBMCから枯渇またはポジティブに単離する。
【0137】
(5)インビボにおける同時投与した抗原に対する応答抑制方法
生体系におけるタンパク質誘発エフェクター応答に対するTレギトープの免疫抑制効果を測定するために、ネズミモデルを用いて実験を実施する。マウスの群を、抗原のみ、抗原の混合物およびTレギトープで、またはTレギトープに融合した抗原で免疫化する。負の対照群(溶媒のみ)もまた、評価する。最終投与の一週間後、全ての施設および連邦の方針に従ってマウスを屠殺し、脾臓を回収する。新たに単離したマウス脾細胞を、インビボでの細胞免疫応答アッセイに用いる。単一の脾細胞懸濁液を調製し、下記のアッセイに用いる。心臓穿刺によって全血も入手し、同時投与した抗原に対する抗体応答の定量に用いるために血清を収集する。
【0138】
ネズミIFN-γ ELISpot
IFN-γ ELISpotアッセイを、Mabtechから購入したネズミIFN-γ ELISpotキットを用いて実施する。標的ペプチドを、300,000個のネズミ脾細胞(10% FCS含有RPMI1640中)を含む3つ組のウェルに10μg/mlで加え、5% CO2雰囲気下37℃で18から22時間インキュベートする。3つ組のウェルに、ConAを10μg/mLで蒔く。ペプチド無しの6個のウェルは、バックグラウンドの決定に用いる。ペプチド試験ウェルのスポット数がマンホイットニーU検定で対照ウェルのスポット数と統計的に異なる(p < 0.05)場合、応答を陽性とみなす。一般に、スポット数が少なくともバックグラウンドの4倍であり、バックグラウンドを超えて細胞100万個当たり50スポットよりも多い(脾細胞20,000個当たり、バックグラウンドよりも1応答上回る)場合、応答を陽性とみなす。結果は、バックグラウンドを超える平均スポット数として記録し、蒔いた細胞100万個当たりのスポットに調整する。
【0139】
ネズミIL-4 ELISpot
IL-4 ELISpotアッセイは、Mabtechから購入したネズミIL-4 ELISpotキットを用いて実施する。標的ペプチドを、300,000個のネズミ脾細胞(10% FCS含有RPMI1640中)を含む3つ組のウェルに10μg/mlで加え、5% CO2雰囲気下37℃で18から22時間インキュベートする。3つ組のウェルに、ConAを10μg/mLで蒔く。ペプチド無しの6個のウェルは、バックグラウンドの決定に用いる。統計的試験は、改良型並べ替え検定(Hudgens, M. et al., J. Immunol. Methods, 288:19-34, 2004)を用いて実行する。ペプチド試験ウェルのスポット数が対照ウェルのスポット数と統計的に異なる(p < 0.01)場合、応答を陽性とみなす。一般に、スポット数が少なくともバックグラウンドの4倍であり、バックグラウンドを超えて細胞100万個当たり50スポットよりも多い(脾細胞20,000個当たり、バックグラウンドよりも1応答上回る)場合、応答を陽性とみなす。結果は、バックグラウンドを超える平均スポット数として記録し、蒔いた細胞100万個当たりのスポットに調整する。
【0140】
ネズミIFN-γ ELISA
標的ペプチドを、10%ヒト血清含有RPMI1640中のヒト末梢血単核細胞を含む培養物に10μg/mlで加え、5% CO2雰囲気下37℃で18から22時間インキュベートする。10μg/mLのPHAで刺激した培養物またはペプチド無しの培養物を対照として用いる。マウスIFN-γ定量性サンドイッチELISAを、R&D Systems Quantikine ELISAキットを用いて実施した。IFN-γ特異的なポリクローナル抗体を、96ウェルマイクロタイタープレートに予めコーティングする。キットが提供する標準およびPHAを含む細胞上清試料ならびにペプチド無しの対照(100μl)を、ウェルにピペットで移し、存在する任意のIFN-γを固定化抗体に室温で2時間結合させる。結合していない物質を洗い流した後、室温で2時間のインキュベート用にIFN-γに特異的な酵素連結ポリクローナル抗体をウェルに加える。結合していないいかなる抗体-酵素試薬も除去するための洗浄の後、基質溶液を30分間ウェルに加え、結合IFN-γ量に比例して顕色させる。顕色を停止し、450 nmでの発色強度をWallac Victor3で測定する。プレートの光学的不完全性の補正は、450 nmの値から540 nmでの強度を差し引くことで行う。実験群間のサイトカインレベルの相違は、t-検定で評価した。実験および対照ウェル間での、サイトカイン発現の観測された相違が統計的に異なる(p < 0.01)場合、応答を陽性とみなす。
【0141】
フローサイトメトリー
脾細胞を、10% FCS、100 U/mLペニシリン、100μg/mL硫酸ストレプトマイシンが補充されたRPMI 1640中、2×106 細胞/ウェルで96ウェル組織培養プレートに蒔く。各アッセイは、刺激無しおよび陽性対照(ConA)を含む。細胞を、37℃、5% CO2で終夜インキュベートする。インキュベーションに続いて、細胞を1%ウシ血清アルブミンを含むPBSで洗浄し、表面抗体(例えば、CD4、CD25)で染色する。その後、細胞を洗浄し、Cytofix/Cytopermキット(BD PharMingen)を用いて製造元の指示に従って固定する。固定に続いて、細胞をCytoperm緩衝液中で二回洗浄し、細胞内マーカー(例えば、FOXp3、IL-10)に対する抗体で染色する。染色に続いて、細胞を洗浄し、フローサイトメトリー用の調製において1%パラホルムアルデヒドを含むPBSで固定する。細胞は、BD Facscalibur装置で分析する。試料当たり20,000事象を収集する。データ解析は、FloJoソフトウェアを用いて実施する。全てのデータはバックグラウンドを差し引いたものである。群間の比較は、ウイルコクソンの順位和検定に基づく。一対比較にはp < 0.05の有意性を適用し、多重比較にはp < 0.01を用いる。
【0142】
細胞分離/枯渇方法
InVitrogen dynabeadsシステム(ネズミCD4およびCD25用)を用いて製造元の指示に従い(InVitrogen、カールスバッド、カリフォルニア州)、ネズミTreg細胞集団を、PBMCから枯渇またはポジティブに単離させる。
【0143】
同時投与した抗原に対する抗体の定量化
抗原へのIgG抗体の定量化を、抗体捕捉ELISAによって決定する。抗原(10μg/mL)を、炭酸緩衝液に溶解し、96ウェルマイクロタイタープレートに4℃で終夜で入れる。その後、プレートを、0.05% Tween 20含有リン酸緩衝生理食塩水(PBST)で洗浄し、室温において三時間、PBS中5%ウシ胎児血清(FBS;Gibco)でブロックした。0.5% FBS/PBSでの血清の段階希釈をプレートに加え、室温で二時間インキュベートする。その後、マイクロタイタープレートをPBSTで洗浄し、各ウェルに0.5% FBS/PBSに1:10000に希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ(Southern Biotechnology Associates)と結合したヤギ抗マウスIgG(γ鎖特異的)を100μL加える。マイクロタイタープレートをPBSTで洗浄し、その後3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB;Moss)で発現させる。吸光度は、Wallac Victor3で測定して450 nmの波長で読み取った。プレートの光学的不完全性の補正は、450 nmの値から540 nmでの強度を差し引くことで行う。
【0144】
実施例1:Tレギトープ組成物の同定
ヒトIgGタンパク質中エピトープの調節性としての同定
多数の抗体の免疫原性の可能性についての評価の後、繰り返しパターンを観察した。特定のエピトープクラスターが複数の抗体に生じた。理論に縛られる訳ではないが、高度に保存されたエピトープクラスターは、抗-抗体免疫応答を促進する可能性は低いと推論した。さらに、これらの繰り返しパターンは、免疫系によって受動的に寛容化されるか、または抗-抗体免疫応答の抑制に関与する調節性T細胞に能動的に結合する可能性があると推論した。繰り返すエピトープクラスターの配列を、GenBankのタンパク質データベースと比較することで、保存され、かつ潜在的に調節性T細胞を刺激する能力があるIgG抗体の配列に含まれる19領域が確立された(表2参照)。
【0145】
EpiMatrixシステムによると、全てのこれら19領域は、意味のある免疫刺激の可能性を有し、それぞれが少なくとも一つおよび最大で14の結合モチーフを含み、EpiVax免疫原性スケールで1と25の間にスコア付けされる。さらに、これらの配列のいくつかは、一つまたは複数の「エピバー」を含む。エピバーは、少なくとも4種類の異なるクラスII HLAに結合すると期待される、単一の9アミノ酸長のフレームである。エピバーは、免疫賦活性の可能性増加のマーカーである。
【0146】
(表2)本発明のTレギトープおよびそれらのEpiMatrixスコア
【0147】
保存
IgG由来の仮想Tレギトープ配列の全てを、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、IgE、IgDおよびIgMの生殖細胞系配列と目視検査を通じて比較した。IgG由来Tレギトープは、IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4の生殖細胞系配列において高度に保存されていることが分かった。IgA、IgE、IgDまたはIgMの生殖細胞系配列には、相同性が見つからなかった。追加のTレギトープの配列は、(ヒトタンパク質の変異体)間でも高度に保存されており、概して循環中に大量に存在する。
【0148】
生物種
IgG由来Tレギトープの非ヒト生物種とのホモロジー解析を実施した。配列は、NCBIウェブサイト(ncbi.nlm.nih.gov/blast)経由でベーシック・ローカル・アライメント・サーチ・ツール(BLAST)にアップロードした。BLASTプログラムは、タンパク質配列を配列データベースと比較し、配列間の局所的類似領域を見出すために、一致の統計的有意性を算出する。IgG由来Tレギトープは、例えばマウス、ラット、ネコ、ラクダ、雌ウシおよび非ヒト霊長類のような非ヒト生物種全体に渡って保存されていることが分かった。表3は、Tレギトープ289(SEQ NO:4)のBLAST報告を示す。
【0149】
(表3)他の生物に対するTレギトープ289(SEQ ID NO:4)の相同性
【0150】
共通の循環ヒトタンパク質中の調節性エピトープの同定
その後の解析において、EpiVaxは、Tレギトープも含む可能性がある一組の共通の循環するタンパク質を同定した。分析したタンパク質の組は、次のヒトの分離物を含んだ:アクチン、アルブミン、コラーゲン、フィブリノーゲン、ハプトグロビン、ケラチン、ミオシン、オステオカルシン、プロスタグランジン、スーパーオキシドジスムターゼ、タイチンおよびトランスフェリン。各タンパク質の共通の分離物を、上記のように、EpiMatrixおよびクラスチマーによって分析し、スコアが高く高度に保存されている仮想T細胞エピトープクラスターの一組をさらなる分析のために選択した。表2を参照、SEQ ID NO:38〜58。
【0151】
実施例2:HLAクラスII分子への結合によるTレギトープ組成物の合成および特性解析
合成IgG Tレギトープの可溶性MHC結合アッセイを、上記方法に従って実施した。IC50値(μM)は、強く結合した対照ペプチドの6点の阻害曲線によって導いた。インシリコ分析により同定されたTレギトープは、ヒトMHC分子に結合した。下記の表4参照。
【0152】
(表4)4つの一般的なHLAのそれぞれに対するTレギトープの結合親和性
【0153】
アミノおよびカルボキシ末端に対する構造的改変に関連する追加のアッセイ
ペプチドのアミノおよびカルボキシ末端に対する改変は、MHC結合、タンパク質分解およびT細胞活性化を変化させることが示されてきた(Maillere, B. et al., Mol. Immunol., 32:1377-85, 1995;Allen, P. et al., Int. Immunol., 1:141-50, 1989)。もし観察されたnTregの活性化が、実際はTレギトープ特異的TCR認識に起因したならば、Tレギトープペプチドのカルボキシ末端の微妙な変化は、異なった抑制効果をもたらしたはずである。同じTレギトープペプチド配列を、C末端アミドキャップを伴っておよび伴わずに合成した。キャップされていないペプチドは、HLA結合アッセイでDRB1*0101およびDRB1*1501への親和性について評価し、両方の対立遺伝子に、キャップされたペプチドよりも高い親和性で結合することを示した。その後、DRB1*0101対象由来のPBMCを用いて、MHCクラスI免疫原性ペプチドプールである同時インキュベートされたCEFに対する応答を抑制するTレギトープペプチド(キャップされたおよびキャップされていない)の能力を調査した。細胞を、1日目に刺激し、6日間培養した。7日目に細胞を回収し、半量をCD4、CD25およびCD127について染色し、フローサイトメトリーで分析した。残りの細胞をIFN-γ ELISpotプレートに加え、CEFで再刺激した。C末端をアミドキャップされたTレギトープとの共培養は、キャップされていないTレギトープ-289と比較して、CD4陽性CD25陽性CD127低陽性Tregの増加をもたらした(図2、左側のパネル)。CD4陽性CD25陽性CD127低陽性Tregは非常に抑制的であることを示した以前の研究と一致し、キャップされていないTレギトープ-289ではなく、キャップされたTレギトープ-289は、CEF特異的IFN-γ分泌を抑制することが可能であった(図2、右側のパネル)。
【0154】
その後の分析が、キャップされたおよびキャップされていない型のTレギトープ-289(SEQ NO:4)間でわずかな1ダルトン変化を示した。Tレギトープ-289アミド化ペプチドは、質量分析で1ダルトン小さい。Tレギトープ-289のC末端のアミド化が、その結合および機能的な特徴を変化させることを本明細書において示す。キャップされた型のTレギトープ-289ペプチドは、より優れた機能性を示したため、全ての後のアッセイではキャップされた(アミド化された)ペプチドを用いた。さらなる裏付けにおいて、本明細書に示されたTレギトープ-289の結果は、キャップされた型を参照している。本明細書において記載されるキャップされたおよびキャップされていない両方の型のTレギトープが、本願発明に包含される。
【0155】
実施例3:ナチュラル調節性T細胞の刺激によるTレギトープ組成物の特性解析
ヒトPBMCを、破傷風毒素ペプチドTT830〜844のみ、Tレギトープ-289のみ、フィトヘマグルチニンのみ(マイトジェン陽性対照)の存在下で、または刺激物無しで、エクスビボで4日間、直接刺激した。1×106個の細胞を、抗CD4-FITC(クローンRPA-T4;eBioscience)および抗CD25-APC(クローンBC96;eBioscience)抗体で、30分間氷上において、Flow Staining Buffer(eBioscience)中で染色し、緩衝液で二回洗浄した。細胞表面染色に続いて、細胞を固定化および透過処理し(eBioscience)、さらに製造元のプロトコールに従って、FOxp3(クローンPCH101;eBioscience)の細胞内染色を行った。様々な培養条件下でのFOxP3陽性CD4陽性/CD25陽性T細胞の頻度は、Flowjo解析ソフトウェアにより列挙した。破傷風およびTレギトープで刺激した試料の両者において、両ペプチドによるT細胞の活性化を示す、CD25発現の類似の増加が存在した(図3;Tレギトープ-289の結果を示す)。しかしながら、CD4陽性CD25陽性サブセットでのFoxP3発現は、用いられた刺激物に応じて著しく異なる。破傷風での刺激がFoxP3発現の7%の減少をもたらしたのに対して、Tレギトープでの刺激は二倍を超える発現の増加をもたらし、それぞれはThおよびnTregの活性化を示すものであった。
【0156】
実施例4:インビトロでの同時投与された抗原の抑制によるTレギトープ組成物の特性解析
4A:Tレギトープ-167およびTレギトープ-134による、インビトロで同時投与された抗原へのエフェクター応答の下方制御、および調節性応答の上方制御
PBMCを次のいずれかと8日間培養した:(a)免疫原性ペプチドプールのみ、(b)h Tレギトープ167-と一緒にした免疫原性ペプチドプール、または(c)h Tレギトープ-134と一緒にした免疫原性ペプチドプール。細胞を回収しPBSで洗浄した。細胞(2×105 細胞/ウェル)を96ウェルプレートに蒔き、免疫原性ペプチドプールのみ、免疫原性ペプチドプールとTレギトープ、またはペプチド無し(陰性対照)で65時間再刺激した。上清は、上記のように多重化ELISA分析によって分析した。最初の刺激におけるTレギトープの共インキュベーションは、調節性T細胞に結合およびそれを活性化するTレギトープの能力を示す、調節性サイトカインおよびケモカイン、IL-10およびMCP-1の分泌増加、ならびにヘルパーT細胞サイトカインおよびケモカイン、IL-5、IL-6、IFN-γおよびMIP-1αの分泌減少をもたらした(図4)。
【0157】
4B:Tレギトープ-289による、インビトロでの同時投与された抗原へのエフェクター応答の下方制御、および調節性応答の上方制御
PBMCを次のいずれかと8日間培養した:(a)免疫原性ペプチドプールのみ、(b)Tレギトープ-289と一緒にした免疫原性ペプチドプール、または(b)Tレギトープ-289と一緒にした免疫原性ペプチドプール。免疫原性ペプチドプールのペプチドは、免疫原性自己タンパク質である、C3d由来であった(Knopf, P. et al., Immunol. Cell Biol., 2008 Jan 8;doi: 10.1038/sj.icb.7100147)。細胞を回収しPBSで洗浄した。記述のように、細胞(2×105 細胞/ウェル)を96ウェルプレートに蒔き、3つ組のウェルにおいて、以下の各条件で、65時間再刺激した:C3dプールのみ、C3dプール+Tレギトープ、PHA対照、またはペプチド無し(陰性対照)。上清は、多重化ELISA分析によって分析した。陽性対照のPHAへの応答は、いずれの培養条件の後でも強力であった。最初の刺激中のTレギトープの共インキュベーションは、調節性T細胞に結合およびそれを活性化するTレギトープの能力をさらに示す、調節性サイトカインIL-10の分泌増加、調節性ケモカインTGFβのわずかな増加、ならびにヘルパーT細胞サイトカインおよびケモカインであるIFNγおよびMIP 1αの分泌減少をもたらした(図5)。
【0158】
4C:Tレギトーププールによる、インビトロでの同時投与された抗原へのエフェクター自己免疫応答の下方制御
グレーブス病の標的抗原であるTSHR由来のエピトープとの共インキュベーションは、グレーブス病患者由来のPBMCのエピトープへの免疫応答を抑制する。PBMCを、Tレギトープペプチドプール(Tレギトープ-134、Tレギトープ-167、Tレギトープ-289)と一緒に、またはこれら無しで、TSHRペプチドプールと共に8日間培養した。細胞を回収しPBSで洗浄した。上述のように、2.5×105個の細胞をIL-4 ELISpotプレートにおいて、次のいずれかで再刺激した:(1)個別のTSHRエピトープ+Tレギトープ-134、Tレギトープ-167、Tレギトープ-289のプール、(2)TSHRエピトーププール+Tレギトープ-134、Tレギトープ-167、Tレギトープ-289のプール、または(3)刺激物無しの対照。陽性対照のPHAへの応答は、いずれの培養条件の後でも強力であった。
【0159】
再刺激中の抗原(TSHRペプチド)のTレギトープとの共インキュベーションは、IL-4スポット形成細胞の著しい減少をもたらした。このデータは、Tレギトープが、エフェクターT細胞のサイトカイン分泌を抑制することを示す(図6)。
【0160】
4D:個別のTレギトープによる、インビトロでの同時投与された免疫優勢ペプチド抗原プールである、CEFへのエフェクター応答の下方制御
Tレギトープとの共インキュベーションは、一般的な病原体由来の免疫優勢ペプチドエピトーププールである、CEFへの免疫応答を抑制する。PBMCを、次の個別のTレギトープペプチドと一緒にまたはこれら無しで8日間培養した:Tレギトープ-289、Tレギトープ-294、Tレギトープ-029、Tレギトープ-074、Tレギトープ-009。細胞を回収しPBSで洗浄した。上述のように、2.5×105個の細胞をINF-γ ELISpotプレートにおいて、CEFのみ、PHA陽性対照(示さず)または刺激物無しの対照のいずれかで再刺激した。陽性対照のPHAへの応答は、いずれの培養条件の後でも強力であった。
【0161】
インキュベーション中の抗原(CEF)のTレギトープとの共インキュベーションは、CEFでの再刺激に応答してINF-γスポット形成細胞の著しい減少をもたらした。これらのデータは、Tレギトープが、エフェクターT細胞のサイトカイン分泌を抑制することを示す(図7)。
【0162】
4E:Tレギトーププールによる、インビトロでの同時投与された治療用タンパク質抗原へのエフェクター応答の下方制御
Tレギトープとの共インキュベーションは、ジストニー(運動障害)の治療に用いられるタンパク質である、ボツリヌス神経毒素由来ペプチドエピトープへの免疫応答を抑制する。阻害物質(抗BoNT抗体)の証拠を有する対象からのPBMCを、Tレギトープペプチドプール(Tレギトープ-167、Tレギトープ-134、Tレギトープ-289)と一緒に、またはこれら無しで8日間培養した。細胞を回収しPBSで洗浄した。上述のように、2.5×105個の細胞をINF-γ ELISpotプレートにおいて、個別のBoNTペプチド、BoNTペプチドプール、PHA陽性対照(示さず)または刺激物無しの対照で再刺激した。有意でないベースライン応答の無いペプチドは示されない。陽性対照のPHAへの応答は、いずれの培養条件の後でも強力であった。
【0163】
インキュベーション中の抗原(CEF)のTレギトープとの共インキュベーションは、CEFでの再刺激に応答してINF-γスポット形成細胞の著しい減少をもたらした。これらのデータは、Tレギトープが、免疫原性の治療用タンパク質に応答してエフェクターT細胞のサイトカイン分泌を抑制することを示す(図8および表5)。
【0164】
(表5)Tレギトープと一緒/ Tレギトープ無しのインキュベーションが続くボツリヌス毒素抗原刺激へのインターフェロン-γ ELISpot応答(再刺激無しのバックグラウンドを超えるスポット形成細胞)
【0165】
4F:Tレギトープ-289およびTレギトープ-134による、インビトロでの同時投与された免疫優性抗原に応答した増殖の下方制御
CEFは、一般的な病原体に由来する免疫優性ペプチドエピトープの市販のプールである。PBMCを、CEFのみ、CEF+Tレギトープ-134、またはCEF+Tレギトープ-289と共に8日間培養した。細胞を回収し、PBSで洗浄した。2×106個の細胞を標準的なプロトコールによりCFSE色素(Invitrogen)で前標識し、CEFプール、またはペプチド無し(陰性対照)、またはPHAマイトジェン対照で65時間再刺激した。上清を回収し、上記の通りにhIFN-γ ELISAを行った。陽性対照PHAに対する応答は、いずれの培養条件の後でも強力であった。再刺激時のTレギトープの共インキュベーションは、IFN-γ産生の有意な減少をもたらし(左パネル)、これはエフェクターT細胞の増殖の低下と相関した(図9、右パネル)。
【0166】
4G:Tレギトープ-289による、インビトロでの同時投与された抗原に応答した増殖の下方制御
予めワクシニアを免疫した対象由来のPBMCを、上記の通りに、免疫原性ワクシニアペプチドのみ、または免疫原性ワクシニアペプチドおよびTレギトープ289のいずれかと共に8日間培養した。細胞を回収し、PBSで洗浄した。2×106個の細胞を標準的なプロトコールによりCFSE色素(Invitrogen)で前標識し、ワクシニアペプチド、ワクシニアペプチドおよびTレギトープ289、またはペプチド無し(陰性対照)で65時間再刺激した。インキュベーション時のTレギトープの共インキュベーションは、エフェクターT細胞の増殖の有意な減少をもたらし、Tレギトープによって活性化された調節性T細胞がエフェクターT細胞の増殖を低下させる能力がさらに実証された(図10)。
【0167】
4H:調節性表現型を有する細胞(CD4+ CD25Hi T細胞)およびIL-10の上方制御によって媒介されるTレギトープ抑制
イエダニアレルギー個体由来のPBMCの2つの試料を調製した。一方の試料を、抗CD4抗体および抗CD25抗体で染色し、フローサイトメトリーにより解析した、この試料において、CD4+CD25Hiサブセットの細胞を、上記の方法により残りのPBMCから除去した。もう一方の試料は、未処理のままにした。次に2つの試料を、Tレギトープ-289と共にまたはこれを伴わずに、HDM溶解物で同時刺激した。CD4+CD25Hi除去PBMCは、非枯渇PBMCよりもIFN-γを抑制する能力が低く、Tレギトープの抑制効果はCD4+CD25Hi細胞によって媒介されることが示された。(未処理の)PBMCでの補助的な解析において、HDM溶解物に対するCD4+増殖応答は、HDM溶解物のみとのインキュベーションと比較して、HDM溶解物およびTレギトープ-289との共インキュベーション後に抑制された。
【0168】
図11は、最初の共インキュベーション中にCD4+/CD25hi T細胞が必要であることを実証する。CD4+CD25hi細胞の存在下では、Tレギトープ-289およびHDMによる同時刺激によって、HDMのみでの再刺激後にγインターフェロン放出が抑制された。CD4+CD25hi細胞の非存在下では(インキュベーションの前に選別)、Tレギトープ-289およびHDMによる同時刺激は、HDMのみでの再刺激後に、より高い抑制量(65%:33.5 pg/mlから11.8 pg/ml)と比較してより低い抑制量(16%:16.5 pg/mlから12.4 pg/ml)を伴った。図11から、抗原に対する寛容性の誘導に、Tregを含む細胞サブセットが必要であることが示される。
【0169】
4I:調節性表現型を有する細胞(CD4+ CD25Hi T細胞)の拡大、およびアレルゲンに応答した調節性サイトカインIL-10の上方制御を引き起こすTレギトープの共インキュベーション
獲得寛容の誘導:
TレギトープのnTreg活性化が、アレルゲン特異的aTRegの生成を引き起こし得るかどうかを判定するために、最初にイエダニ(DM)抗原のみ、イエダニ抗原+Tレギトープ-289、またはイエダニ抗原+Tレギトープ-167と共に8日間インキュベートしたPBMC(イエダニアレルギー個体由来)を分析した。図12の上部パネル(図12)に示されるように、PBMCをDM抗原およびTレギトープ-289と共に同時インキュベートすると、CD4+CD25Hi細胞はほぼ4倍に拡大された。DM抗原およびTレギトープ-167と共に同時インキュベートしたPBMCの場合も同様であった(1.6%から7.5%)。Tレギトープ共インキュベーションの双方において、IL-10分泌が5倍増加したことも認められた(図12、下部パネル)。この知見は、増加したCD4+CD25Hi細胞がHDM特異的な獲得性Tregであり得るという可能性と一致する。当業者は、このインビトロアッセイにおいて、拡大されたCD4+CD25hi集団がIL-10を分泌していることを確認することができる。CD4+CD25hi T調節性細胞の拡大された集団の存在下において、同時インキュベートした抗原に応答してIL-10が分泌されることは、獲得性Tregが抗原との共インキュベーション中に誘導されたことを示す。
【0170】
これらのデータは、同じ患者および同じ実験における、Tレギトープ-289およびDM抗原との共インキュベーション後、ならびにTレギトープ-167およびDM抗原との共インキュベーション後のCD4 CD25hi T細胞の拡大;ならびにHDMのみでの再刺激後の、同時インキュベートした細胞によって分泌されたIL-10の量を示すものである。
【0171】
4J:Tレギトープの共インキュベーションにより引き起こされる抗原特異的アレルギー性Th2応答の抑制
Tレギトープの共インキュベーションはまた、Th2応答と関連していることが示されているCCR4、CD30、CRTH2、およびCCR6の発現の有意な減少を引き起こした。次に、長期のTレギトープ同時刺激後の、アレルゲン特異的CD4+ T細胞によるサイトカイン応答の調節を評価した。30日間の培養後、Tレギトープの同時刺激は、Bet v 11141-1155特異的CD4+ T細胞の混合集団の発生に寄与した。抗原およびTレギトープでの長期刺激後、これらのエピトープ特異的細胞の42%はIL5陽性でもIFN-γ陽性でもなく、44%はこの長期インキュベーション中に、Th-1様のインターフェロン応答増加への移行を示した(図13)。
【0172】
注目すべきことには、研究対象は、四量体結合の機会を高めるために、HLA DR*1 1501の存在について選択した。Tレギトープ-167の効果は、Tレギトープ289(Treg誘導が3倍増加)よりも顕著であった(5倍増加)。Tレギトープ289は、HLB結合アッセイにおいてDR 1501に結合しないことが示された。対照的に、Tレギトープ-167はHLA 1501に強く結合した(50μMにおいて87%結合阻害)。
【0173】
実施例5. インビボで同時投与した抗原の抑制によるTレギトープ組成物の特性解析
5A:Tレギトープの同時投与により引き起こされるインビボで同時投与したタンパク質治療薬に対するエフェクター応答の抑制
本明細書において、Tレギトープが、「抗原-XX」と称される細菌起源の治療タンパク質に対する応答を抑制することが示される(図14)。未発表の研究において、抗原-XXはヒトにおいて有意な免疫原性を引き起こした。本発明のTレギトープが、インビボにおいて、タンパク質に対するエフェクター免疫応答を抑制し得るかどうかを調べた。HLA DR4トランスジェニックマウス(4〜6週齢、雌)に、(1)抗原-XXのみ50μg、(2)抗原-XX 50μg+ネズミTレギトープ-167 25μgおよびネズミTレギトープ106 25μg、または(3)PBS偽対照のいずれかを、毎週、3回にわたり皮下(首筋)注射した。脾細胞を採取し、上記の通りにネズミIL-4 elispotプレートに蒔いた。
【0174】
抗原-XXに対するIgG抗体の定量値を、上記の通りに抗体捕捉ELISAによって決定した。抗原-XX(10μg/mL)を炭酸緩衝液(10 mM Na2CO3および35 mM NaHCO3 [pH 9] )に溶解し、96ウェルマイクロタイタープレートに入れて4℃で一晩おいた。次にプレートを、0.05% Tween 20を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBST)で洗浄し、PBS中の5%ウシ胎仔血清(FBS;Gibco)を用いて室温で3時間ブロックした。0.5% FBS/PBS中の血清の段階希釈物をプレートに添加し、室温で2時間インキュベートした。次にマイクロタイタープレートをPBSTで洗浄し、0.5% FBS/PBSで1:10000に希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ結合ヤギ抗マウスIgG(γ鎖特異的)(Southern Biotechnology Associates)100μLを各ウェルに添加した。マイクロタイタープレートをPBSTで洗浄し、次いで3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB;Moss)で発色させた。Wallac Victor3で測定した波長450 nmの吸光度を読み取った。450 nm値から540 nmでの強度を減算することによって、プレートにおける光学的不完全性の補正を行う。陽性対照PHAに対する応答は、いずれの免疫条件およびいずれのアッセイ読み取り後においても強力であった。
【0175】
本研究により、インビボで抗原と同時投与したヒトTレギトープのマウス相同体の抑制効果が確認される。
【0176】
5B:Tレギトープの同時投与により引き起こされるインビボで同時投与したアレルゲンに対するエフェクター応答の抑制
イエダニはヒトにおいて有意なアレルギー応答を引き起こし、イエダニ溶解物(HDML)を使用するマウスモデルは、ヒトに類似したモデルとして認められている。本発明のTレギトープが、インビボにおいて、HDMLに対するエフェクター免疫応答を抑制し得るかどうかを調べた。HLA DR4トランスジェニックマウス(4〜6週齢、雌)に、(1)HDMLのみ 50μg、(2)HDML 50μg+Tレギトープ-289のネズミ相同体50μg、または(3)PBS偽対照のいずれかを、週に1度、3回にわたり皮下(首筋)注射した。4番目の処置群では、50μgを3回毎週注射することによって、マウスを最初にHDMLに対して前感作してから、HDML(50μg)およびTレギトープ-289の同時注射で処置した。最終注射の1週間後に、マウスを屠殺した。
【0177】
脾細胞を採取し、上記の通りにネズミIL-4 ELISpotプレートに蒔いた。プレーティングした細胞に対して、以下のものを(3つ組で)添加した:PBS(非刺激対照)、HDML溶解物、精製HDM抗原DerP2、およびPHA。HDM DerP2は、HDM溶解物の成分である。
【0178】
心臓穿刺によって血清を採取した。HDM抗原に対するIgG抗体の定量値を、上記の通りに抗体捕捉ELISAによって決定した。HDM抗原DerP2(10μg/mL)を、96ウェルマイクロタイタープレートに入れて4℃で一晩おいた。次にプレートを、0.05% Tween 20を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBST)で洗浄し、PBS中の5%ウシ胎仔血清(FBS;Gibco)を用いて室温で3時間ブロックした。0.5% FBS/PBS中の血清の段階希釈物をプレートに添加し、室温で2時間インキュベートした。次にマイクロタイタープレートをPBSTで洗浄し、0.5% FBS/PBSで1:10000に希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ結合ヤギ抗マウスIgG(γ鎖特異的)(Southern Biotechnology Associates)100μLを各ウェルに添加した。マイクロタイタープレートをPBSTで洗浄し、次いで3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB;Moss)で発色させた。Wallac Victor3で測定した波長450 nmの吸光度を読み取った。450 nm値から540 nmでの強度を減算することによって、プレートにおける光学的不完全性の補正を行う。陽性対照PHAに対する応答は、いずれの免疫条件およびいずれのアッセイ読み取り後においても強力であった(図15)。
【0179】
本研究により、インビボでDM抗原と同時投与したヒトTレギトープのネズミ同等物の抑制効果が確認される。
【0180】
5C:Tレギトープの同時投与により引き起こされるインビボで同時投与した治療薬に対するエフェクター応答の抑制
インビボで同時投与したTレギトープが、免疫原性治療タンパク質に対する免疫応答を抑制し得るかどうかを試験するために、HLA DRB1*0401を、単独のもしくはTレギトープ-289(マウス相同体)50μgと組み合わせた免疫原性タンパク質治療薬(「IPT」)50μg、またはネズミFcと組み合わせたIPTの調製物と共に、毎週3回マウスに注射した。IPTとネズミFc領域の同時投与によりIL-4応答は低下したが、「IPT」とネズミ相同体Tレギトープ-289のインビボ同時投与では、ELISpotによるIL-4はさらにより減少した(図16)。
【0181】
実施例6. FVIII- Tレギトープ構築物の作製
Tレギトープと免疫原性タンパク質を融合させると、免疫原性タンパク質の末梢寛容が誘導され得る。凝固因子VIIIは、重篤な血友病Aを有するヒトにおいて免疫原性である。第VIII因子のコード配列およびTレギトープからなるキメラ構築物を作製する(Sambrook et al., Molecular Cloning: A Labotaroty Manual, 2 ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press,(1989))。簡潔に説明すると、重複オリゴをアニールすることによって、カルボキシル末端でTレギトープに融合している第VIII因子コード領域を作製し、これを発現プラスミドにサブクローニングする。このプラスミドをDG44 CHO細胞にトランスフェクションし、安定したトランスフェクタントを選択する。免疫アフィニティーカラムでキメラタンパク質を精製し、寛容源性(tolergenicity)について評価する。表6は、このようなキメラタンパク質の1つの態様を示す。
【0182】
(表6)第VIII因子- Tレギトープ(太字はTレギトープ)
【0183】
実施例7. FVIII-多Tレギトープ構築物の作製
獲得寛容を促進するために、高度に免疫源性のタンパク質中に複数のTレギトープを存在させることができる。凝固因子VIIIのコード配列および複数のTレギトープからなるキメラ構築物を作製する(Sambrook et al., Molecular Cloning: A Labotaroty Manual, 2 ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press,(1989))。簡潔に説明すると、重複オリゴをアニールすることによって、カルボキシル末端でTレギトープに融合している第VIII因子コード領域を作製し、これを発現プラスミドにサブクローニングする。このプラスミドをDG44 CHO細胞にトランスフェクションし、安定したトランスフェクタントを選択する。免疫アフィニティーカラムでキメラタンパク質を精製し、寛容源性について評価する。表7は、このようなキメラタンパク質の1つの態様を示す。
【0184】
(表7)第VIII因子-多Tレギトープ(太字はTレギトープ)
【0185】
実施例8. 強化されたワクチン送達媒体の作製
Fc受容体にFcが結合すると、抗原提示細胞への取り込みならびにTリンパ球およびBリンパ球に対する提示が強化される。IgG分子のFcドメイン内に位置するTレギトープ-289は、抑制シグナルを送達するように作用する。Tレギトープ-289がMHC分子および調節性T細胞にもはや結合できないようにFcを改変することにより、抑制効果を回避しながら、ワクチン候補の効率的な標的化が可能になる。MHC分子に対するTレギトープの結合を減少させる改変は有用である。表8はそのような改変を示す。関心対象の種々のタンパク質またはエピトープ偽タンパク質、およびTレギトープ改変mIgG Fcからなるキメラ構築物を設計する(Sambrook et al., Molecular Cloning: A Labotaroty Manual, 2 ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press,(1989))。簡潔に説明すると、重複オリゴをアニールすることによって関心対象のタンパク質またはエピトープ偽タンパク質を作製し、これをTレギトープ改変Fc融合発現プラスミドにサブクローニングする。このプラスミドをDG44 CHO細胞にトランスフェクションし、安定したトランスフェクタントを選択する。プロテインAカラムでキメラタンパク質ホモ二量体を精製し、免疫原性について評価する。表8は、関心対象の偽タンパク質が、TレギトープがもはやMHCクラスII分子に結合しないように改変され、内在性調節性T細胞を刺激することができない改変Fcタンパク質に融合している、エプスタイン・バーウイルス(EBV)由来の免疫原性T細胞エピトープのひと続きである、キメラタンパク質の1つの態様を示す。表8におけるEBV- Tレギトープ改変Fc配列(Kbシグナル配列)を、下線の文字として示す。Tレギトープを太字の文字として示す。Tレギトープ改変アミノ酸を影付きの文字として示す。ヒトFc領域をイタリック体の文字として示す。
【0186】
(表8)EBV- Tレギトープ改変Fc配列
【0187】
参考文献
【0188】
同等物
本発明をその特定の態様と関連して説明してきたが、本発明はさらなる変更が可能であることが理解されよう。さらに、本出願は、本発明が属する技術分野において公知のまたは慣例的な実施の範囲内であり、かつ添付の特許請求の範囲の範囲内に入るような本開示からの逸脱を含む、本発明の任意の変更、使用、または適合を包含することが意図される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SEQ ID NO:4〜58からなる群より選択される少なくとも一つのポリペプチドを含むT細胞エピトープポリペプチド組成物。
【請求項2】
SEQ ID NO:4〜58からなる群より選択される少なくとも一つのT細胞エピトープポリペプチドをコードする核酸。
【請求項3】
請求項2記載の核酸を含むベクター。
【請求項4】
請求項3記載のベクターを含む細胞。
【請求項5】
請求項1記載のT細胞エピトープポリペプチド組成物および薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物。
【請求項6】
それを必要としている対象の医学的状態を治療または予防する方法であって、SEQ ID NO:4〜58からなる群より選択される治療上有効な量のT細胞エピトープポリペプチドを投与する工程を含む方法。
【請求項7】
医学的状態が、アレルギー、自己免疫疾患、移植関連障害、移植片対宿主病、酵素またはタンパク質欠乏障害、止血障害、がん、不妊症、およびウイルス、細菌または寄生虫感染症からなる群より選択される、請求項6記載の方法。
【請求項8】
SEQ ID NO:4〜58からなる群より選択される少なくとも一つのT細胞エピトープポリペプチドを含む、対象における医学的状態を予防または治療するキット。
【請求項9】
調節性T細胞集団を増大させる方法であって、
(a)対象由来の生体試料を提供する工程;および
(b)生体試料から調節性T細胞を単離し、調節性T細胞の数が増加して、増大した調節性T細胞組成物が得られる条件下で、単離した調節性T細胞と有効な量の本発明のTレギトープ(Tregitope)組成物とを接触させる工程
を含み、その結果、生体試料中の調節性T細胞が増大する方法。
【請求項10】
生体試料中の調節性T細胞を刺激する方法であって、
(a)対象由来の生体試料を提供する工程;
(b)生体試料から調節性T細胞を単離し、かつ、調節性T細胞が刺激されて一つまたは複数の生物学的機能が変化する条件下で、単離した調節性T細胞と有効な量の本発明のTレギトープ組成物とを接触させる工程
を含み、その結果、生体試料中の調節性T細胞が刺激される方法。
【請求項11】
Tレギトープを含む治療上有効な量のペプチドを含む組成物を対象へ投与する工程を含む、対象における免疫応答を抑制する方法であって、該ペプチドが免疫応答を抑制する、免疫応答抑制方法。
【請求項12】
ペプチドがエフェクターT細胞応答を抑制する、請求項11記載の方法。
【請求項13】
ペプチドがヘルパーT細胞応答を抑制する、請求項11記載の方法。
【請求項14】
ペプチドがB細胞応答を抑制する、請求項11記載の方法。
【請求項15】
一種または複数種のTレギトープが特異的標的抗原と共有結合、非共有結合またはその混合のいずれかで結合して該標的抗原に対する免疫応答の減少をもたらす、該一種または複数種のTレギトープを含む治療上有効な量の組成物の投与を通じた対象における抗原特異的免疫応答を抑制する方法。
【請求項16】
抑制効果がナチュラルTregによって仲介される、請求項15記載の方法。
【請求項17】
抑制効果が適応性Tregによって仲介される、請求項15記載の方法。
【請求項18】
ペプチドがエフェクターT細胞応答を抑制する、請求項15記載の方法。
【請求項19】
ペプチドがヘルパーT細胞応答を抑制する、請求項15記載の方法。
【請求項20】
ペプチドがB細胞応答を抑制する、請求項15記載の方法。
【請求項21】
ペプチドがSEQ ID NO:4〜58からなる群より選択される配列を含む、請求項15記載の方法。
【請求項22】
調節性T細胞エピトープの同定および除去を含む、ワクチン送達ベクターの免疫原性を増強する方法。
【請求項23】
T細胞エピトープがSEQ ID NO:4〜58からなる群より選択される、請求項22記載の方法。
【請求項1】
SEQ ID NO:4〜58からなる群より選択される少なくとも一つのポリペプチドを含むT細胞エピトープポリペプチド組成物。
【請求項2】
SEQ ID NO:4〜58からなる群より選択される少なくとも一つのT細胞エピトープポリペプチドをコードする核酸。
【請求項3】
請求項2記載の核酸を含むベクター。
【請求項4】
請求項3記載のベクターを含む細胞。
【請求項5】
請求項1記載のT細胞エピトープポリペプチド組成物および薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物。
【請求項6】
それを必要としている対象の医学的状態を治療または予防する方法であって、SEQ ID NO:4〜58からなる群より選択される治療上有効な量のT細胞エピトープポリペプチドを投与する工程を含む方法。
【請求項7】
医学的状態が、アレルギー、自己免疫疾患、移植関連障害、移植片対宿主病、酵素またはタンパク質欠乏障害、止血障害、がん、不妊症、およびウイルス、細菌または寄生虫感染症からなる群より選択される、請求項6記載の方法。
【請求項8】
SEQ ID NO:4〜58からなる群より選択される少なくとも一つのT細胞エピトープポリペプチドを含む、対象における医学的状態を予防または治療するキット。
【請求項9】
調節性T細胞集団を増大させる方法であって、
(a)対象由来の生体試料を提供する工程;および
(b)生体試料から調節性T細胞を単離し、調節性T細胞の数が増加して、増大した調節性T細胞組成物が得られる条件下で、単離した調節性T細胞と有効な量の本発明のTレギトープ(Tregitope)組成物とを接触させる工程
を含み、その結果、生体試料中の調節性T細胞が増大する方法。
【請求項10】
生体試料中の調節性T細胞を刺激する方法であって、
(a)対象由来の生体試料を提供する工程;
(b)生体試料から調節性T細胞を単離し、かつ、調節性T細胞が刺激されて一つまたは複数の生物学的機能が変化する条件下で、単離した調節性T細胞と有効な量の本発明のTレギトープ組成物とを接触させる工程
を含み、その結果、生体試料中の調節性T細胞が刺激される方法。
【請求項11】
Tレギトープを含む治療上有効な量のペプチドを含む組成物を対象へ投与する工程を含む、対象における免疫応答を抑制する方法であって、該ペプチドが免疫応答を抑制する、免疫応答抑制方法。
【請求項12】
ペプチドがエフェクターT細胞応答を抑制する、請求項11記載の方法。
【請求項13】
ペプチドがヘルパーT細胞応答を抑制する、請求項11記載の方法。
【請求項14】
ペプチドがB細胞応答を抑制する、請求項11記載の方法。
【請求項15】
一種または複数種のTレギトープが特異的標的抗原と共有結合、非共有結合またはその混合のいずれかで結合して該標的抗原に対する免疫応答の減少をもたらす、該一種または複数種のTレギトープを含む治療上有効な量の組成物の投与を通じた対象における抗原特異的免疫応答を抑制する方法。
【請求項16】
抑制効果がナチュラルTregによって仲介される、請求項15記載の方法。
【請求項17】
抑制効果が適応性Tregによって仲介される、請求項15記載の方法。
【請求項18】
ペプチドがエフェクターT細胞応答を抑制する、請求項15記載の方法。
【請求項19】
ペプチドがヘルパーT細胞応答を抑制する、請求項15記載の方法。
【請求項20】
ペプチドがB細胞応答を抑制する、請求項15記載の方法。
【請求項21】
ペプチドがSEQ ID NO:4〜58からなる群より選択される配列を含む、請求項15記載の方法。
【請求項22】
調節性T細胞エピトープの同定および除去を含む、ワクチン送達ベクターの免疫原性を増強する方法。
【請求項23】
T細胞エピトープがSEQ ID NO:4〜58からなる群より選択される、請求項22記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公表番号】特表2010−516290(P2010−516290A)
【公表日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−548278(P2009−548278)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【国際出願番号】PCT/US2008/001148
【国際公開番号】WO2008/094538
【国際公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(509213439)エピバックス インコーポレーテッド (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【国際出願番号】PCT/US2008/001148
【国際公開番号】WO2008/094538
【国際公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(509213439)エピバックス インコーポレーテッド (2)
【Fターム(参考)】
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