説明

識別カードおよびその識別カードを使用した識別カード取引システム

【課題】折り曲げや高熱に強く破損せず、記録された識別情報の不正にコピーを防止し、個人情報の漏洩や識別情報が消去のない識別カードを提供し、識別情報の不正使用を防止した識別カード取引システムを提供する。
【解決手段】識別カード1は6−4チタン合金で一体に形成されたカード本体10に少なくとも1つの識別情報記録部20を備え、識別情報記録部は、カード長辺方向に細分された複数のセル30がカード短辺方向に複数段配列されてなり、複数のセルにはそれぞれセルに刻まれた直線模様の所定の角度による第一識別情報と、セルが刻設される所定の深さによる第二識別情報とからなり、前記第一識別情報と第二識別情報の組み合わせによって複数の固有の識別情報となる。また識別カードの表面が金属蒸着層によって着色されている。識別情報は、レーザー彫刻機によって刻設される。なお、識別カードを現金自動預け払い機による取引システムに使用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、識別カードに関し、詳しくは、高強度合金で一体に形成されたカード本体に識別情報記録部を備えた識別カードに関する。さらに、その識別カードを使用した識別カード取引システムに関する。なお、本発明において、識別カードとは、薄い板状に形成され、現金自動預け払い機(Automatic Teller Machine:以下ATMと称する)やクレジット決済に使用される識別カードのほか、所有者の身分を証明するIDカードやその他一般的に使用される会員カード等を含む概念である。
【背景技術】
【0002】
例えば従来から、ATMやクレジット決済に使用される識別カードとして、塩化ビニル樹脂やPET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂等の樹脂素材で形成されたカード本体の一面側に磁性体領域が備えられ、その磁性体領域に所定の規格に準じた磁気配列によって識別情報を記録した識別カードが知られている。なお、このような識別カードの一例が特許文献1に開示されている。
【0003】
このような従来の識別カードは、柔らかい樹脂素材で形成されているため、識別カードを折り曲げてしまったり傷をつけてしまったりすることが多々あり、また、識別カードを高熱の雰囲気中に置いてしまった場合には、識別カードが溶けてしまう場合もあって、識別カードが破損しやすいという問題があった。
さらに、識別カードの使用時には、前記ATMやクレジット決済機が、破損した識別カードを受け付けることができず、識別カードの所有者を識別することができないため、新しい識別カードの再発行を受けなければならず、その手続きは甚だ煩わしいものであった。
【0004】
そこで、識別カードを金属素材によって形成することも試みられてはいるが、鉄素材の場合には識別カードが重くなってしまうので、所有者が識別カードを携帯する場合の弊害となってしまう。また、識別カードをアルミ素材で形成した場合には、重量は軽くすることができるものの、折り曲げや高熱に対する弱さは改善することができなかった。
【0005】
さらに、従来の識別カードは、カード本体の一面側に備えられた帯状の磁性体領域(磁気ストライプ)に、所定の公的な規格に準じた磁気配列によって識別情報が記録されており、その識別情報を正規のATMやクレジット決済機で磁気リーダによって読み出し、ホストコンピュータのデータベースに問い合わせることによって、識別カードの所有者や識別カードの契約状態の確認が可能となっている。
この場合、前記磁気配列の規格は公開されているので、識別情報を正規のATMやクレジット決済機以外にも市販の磁気リーダによって読み出すことが可能である。昨今、識別カードの所有者の意思に反して、前記市販の磁気リーダによって識別情報を不正に読み出し、読み出した識別情報を他の識別カードに書き写して不正コピーを作成する、いわゆるスキミングと称される犯罪行為が頻繁に行われており、不正コピーされた識別カードを正規の所有者以外の者に使用されたことで、所有者や識別カード発行会社が甚大な被害を被ることが社会問題となっている。また、従来の識別カードの識別情報には個人情報が含まれていたので、上記スキミングによって個人情報が漏れてしまう問題もあった。
さらに、磁気ストライプには磁力によって識別情報が記録されているので、識別カードを強力な磁場、例えば磁石やTV受像機の付近に長時間放置した場合などには、識別情報が消えてしまうという問題があった。
【特許文献1】特開2003−154778号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、折り曲げや高熱に強くて破損することがなく、記録された識別情報を不正にコピーされされたり、個人情報の漏洩や識別情報が消去したりすることのない識別カードを提供することである。さらに、その識別カードを使用して識別情報を不正に使用されることを防止した識別カード取引システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するために本発明がなした技術的手段は、高強度合金で一体に形成されたカード本体と、そのカード本体に刻設された固有の識別情報からなる少なくとも1つの識別情報記録部とで構成された識別カードとしたことである。そのカード本体の所定位置には複数のセルが刻設され、識別情報記録部は、それらセルの刻設深さ、刻設幅、刻設形状のいずれか一つもしくは複数の組み合わせによって固有の識別情報が特定される。また、識別情報記録部は、それらセルに刻設される模様によって固有の識別情報が特定される場合もあり、それらセルに刻設される模様によって特定される第一識別情報と、それら模様の深さによって特定される第二識別情報の組み合わせによって固有の識別情報が特定される場合もある。また、第二識別情報は、それらセルの深さによって特定されるものであっても良い。
【0008】
さらに、複数のセルは、カードの短辺間にわたって細分され、かつカード長辺間にわたって複数段配列されていても良く、第一の識別情報は、平面視で所定の傾きをもってそれぞれのセルに刻設される複数の直線模様の組み合わせによってが特定されるものであっても良い。また、高強度合金は6−4チタン合金としても良く、カード本体の表面が金属蒸着層によって着色されていても良い。これらの識別情報は、レーザー彫刻機によって刻設されている場合もある。なお、識別カードは現金自動預け払い機にも使用可能である。
【0009】
また、上述した本発明の識別カードを利用した取引システムは、上述の各本発明による識別カードと、その識別カードに刻設された固有の識別情報を読み取るクライアントシステムと、クライアントシステムとネットワークで接続されたサーバシステムと、サーバシステムに備えられ、前記固有の識別情報と識別カードの所有者に関する情報が記録されたデータベースと、サーバシステムに備えられ、前記固有の識別情報とデータベースの記録とを照合する判定部とを備え、識別カードに刻設された固有の識別情報の配列パターンをクライアントシステムで読み取り、さらに、サーバシステムでデータベースと照合することによって、判定部が識別カードの所有者を判別する識別カード取引システムとしたことである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、折り曲げや高熱に強くて破損することがなく、記録された識別情報を不正にコピーされされたり、個人情報の漏洩や識別情報が消去したりすることのない識別カードを提供することができるようになった。さらに、その識別カードを使用して識別情報を不正に使用されることを防止した識別カード取引システムを提供することができるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の第1の実施形態に係る識別カード1について、添付図面に基づいて説明する。
【0012】
本実施形態による識別カード1は、主にATMやクレジット決済に使用され、いわゆるキャッシュカードあるいはクレジットカードと称されるカードである。
また、識別カード1は、「JIS X 6301」あるいは「ISO/IEC7810」規格に規定される物理的特性を備える。すなわち、カードの長辺方向の長さ(図中左右方向)が85.6mm、短辺方向の長さ(図中上下方向)が54mmであり、その厚みは0.68mm〜0.84mmに形成されている。
なお、本実施形態では識別カード1をATMやクレジット決済に使用する場合を想定したので、カードのサイズは上記規格に準じているが、他の規格によるカード使用形態に適合させる場合には、その規格に準じたサイズとすることは言うまでもない。
【0013】
識別カード1は高強度合金で一体に形成されている。具体的には、例えば「JIS60種(TAP6400)」あるいは「ASTM Grade5」に区分される、いわゆる6−4チタンと称される高強度合金からなる板素材から、前記形状にプレスによる打ち抜き処理をして形成されている。
【0014】
このような物理的特性を備えて形成された識別カード1の全体をカード本体10とし、そのカード本体10の表面は、金属イオンを電着した金属蒸着層による加工が施されている。このような加工により、カード本体10は、例えば、ブラック、ゴールド、プラチナ、ピンク、ブルー等に着色される。また、金属蒸着層による着色は、識別カード1の使用状態において、カード表面がこすれたり、カード表面を強力な洗剤で洗ったりした場合であっても、その着色は容易に落ちることがない。
なお、本実施形態では、堅牢な着色を得るために金属蒸着層による着色を採用したが、識別カード1の使用環境や需要者からの要望により従来の識別カードと同様に印刷による着色とすることも可能である。
【0015】
カード本体10の一面側、例えば表面側11には、図1に示すように、識別カード1の名称等の情報として、レーザー彫刻機によって、例えば「ABC BANK CARD」の文字が刻設されている。なお、識別カード情報として、文字に加えて所望の図柄や識別カード1の所有者名が刻設されていても良い。また、使用過程において容易に剥離しない限りにおいて識別カード情報が印刷されていても良いし、あるいは、シールが貼付されていても良い。
【0016】
カード本体10の他面側、例えば裏面側12には、図2に示すように、少なくとも1つの識別情報記録部20を備えている。その識別情報記録部20は、カードの短辺間にわたって細分された複数の四角形のセル(升目)30,30・・・がカード長辺間にわたって複数段(A,B,C,D・・・)に配列されている。例えば、本実施形態では、セルはカード長辺方向に36個に細分され、短辺間に4段の配列としている。なお、各セルは隙間なく配列されている。
前記複数のセル30,30・・・には、図3に示すように、レーザー彫刻機によって固有の識別情報が刻設されている。これら固有の識別情報は、識別カードの所有者を特定する情報と、所有者に関する、例えば銀行口座番号等の情報に割り当てられ、図5に示すように、識別情報記録部20の各セル30,30・・・に所定の組み合わせによりマトリックスを形成して刻設される。
【0017】
なお、本実施形態では四角形のセル形状を採用したが、セル形状は識別情報を記録可能な限りにおいて他の形状であっても良い。例えば、三角形や五角形等の多角形でも良く、あるいは、円形形状であっても良く、また、多角形の角が円弧状に処理された円形と多角形の組み合わせ形状であっても良い。
また、本実施形態では各セルを隙間なく配列したが、これに限定されず、各セル間に隙間が設けられていても良い。
【0018】
その複数の固有の識別情報は、第一識別情報として、直線模様が所定の角度で刻まれている。本実施例では、図4に示すように、縦模様31、横模様32、左斜め模様33、右斜め模様34が採用されている。また、これらに直線模様が施されないセル35を加えた5種類の第一識別情報が設定されている。
さらに、第二識別情報として、前記第一識別情報が所定の深さで刻設されている。本実施形態では、第二識別情報として、図5に示すように、浅い刻設α、深い刻設β、前記αとβとの中間の刻設γの深さによって3種類の第二識別情報が設定されている。
【0019】
これら、前記第一識別情報と第二識別情報の組み合わせによって、図6に示すように、深い縦模様31a、浅い縦模様31b、中間の縦模様31c、深い横模様32a、浅い横模様32b、中間の横模様32c、深い左斜め模様33a、浅い左斜め模様33b、中間の左斜め模様33c、深い右斜め模様34a、浅い右斜め模様34b、中間の右斜め模様34c、深い無模様35a、浅い無模様35b、中間の無模様35cからなる15種類の固有の識別情報が得られる。さらに、これに加えて、模様なしかつ刻設の深さなしのセル35dを加えて16種類の固有の識別情報を得る。
【0020】
なお、本実施形態では、識別情報記録部20に刻設されるセルは、カード長辺間に36個に細分され、短辺間に4段の配列としたが、セルの細分数や段数はこれに限定されるものではなく、刻設される情報量やデザイン上の観点から自由に設定可能である。また、セルの大きさについても同様に自由に設定されるものである。また、本実施形態では刻設される模様は直線模様としたが、これに限定されるものではなく自由に設定可能である。例えば曲線模様であっても良い。
さらに、識別情報記録部20は、本実施形態では1本の帯として刻設されているが、これについても、刻設される情報量やデザイン上の観点から自由に設定可能であり、例えば2本の帯として刻設されていても良い。
また、本実施形態では一例として、識別情報記録部20をカード本体10の他面側に備えているが、これに限られず、識別情報記録部20はカード本体10の一面側に備えられていても良い。
【0021】
なお、本実施形態で採用した固有の識別情報に代えて以下に挙げる識別情報としても良い。例えば、カード本体の所定位置に刻設される複数のセルが、それらセルの刻設深さ、刻設幅、刻設形状のいずれか一つもしくは複数の組み合わせによって固有の識別情報が特定されものでも良い。また、それらセルに刻設される模様のみによって固有の識別情報が特定されるものでも良い。
あるいは、第二識別情報として模様が刻設される深さによって固有の識別情報が特定されるようにしても良い。
また、セルに刻設される模様の深さは均一でなくても良い。例えば、一方方向に向かって深くなるように刻設された模様を識別情報とすることもできる。
【0022】
このように構成した識別カード1は、カード本体10が高強度合金である6−4チタン合金で形成されているので、6−4チタン合金による他のカードに固有の識別情報を新たに刻設するためには、レーザー彫刻機とそのレーザー彫刻機が所定の識別情報を刻設するように制御する制御プログラムを用意する必要がある。従って、本物の識別カード1と同様の固有の識別情報が刻設された識別カードの不正コピーを作成することは極めて困難である。
【0023】
また、6−4チタン合金で形成された識別カード1は6−4チタン合金の特性を保有することとなる。すなわち、他の合金と比べて非常に軽量でありながら高い硬度を備えており、曲げ応力や剪断応力に対しても強固であり、加熱時にも溶融したり変形したりしない特性をもつ。
これにより、所有者が複数の識別カード1を携帯した場合であっても、その重量を重く感じさせることがない。さらに、使用状態において、識別カード1に硬質な物体が擦り付けられた場合であっても識別カード1が傷つくことがない。さらに、外力によって折れ曲がったり千切れたりすることもなく、万一高温の環境下に放置した場合であっても焼損したり溶融して変形したりすることがない。識別カード1はこれらの特性を備えていることから、長期間にわたって使用可能であるとともに美しい表面を維持することができる。
【0024】
さらに、本実施形態による識別カード1には個人情報が記載されていないので、識別カード1から個人情報が漏れる心配もない。また、識別カード1の識別情報は磁力によって記録されていないので、識別カード1を強力な磁場の付近に長時間放置しても識別情報が消えてしまう心配もなくなった。
【0025】
次に、第2の実施形態として、前記第1の実施形態による識別カード1を使用した識別カード取引システムの一例を説明する。なお、識別カード1の構成および効果は前記第1の実施形態と同様であるので説明を省略する。
例えば、本実施形態では、識別カード1を現金自動預け払い機(ATM)用に銀行が発行するキャッシュカード(バンクカード)として使用しているので、図7に示すように、クライアントシステムはATM70であり、サーバシステムは銀行側サーバ80となる。この場合において、ATM70はネットワーク網90(例えば専用回線網またはインターネット網)によって銀行側サーバ80と接続されている。
【0026】
また、ATM70には、識別カード1に刻設されている識別情報記録部20の識別情報を読み取る読取部72と、その読取部72に接続され、読み取った識別情報や銀行側サーバ80からの情報を入出力するATMI/O部71とが備えられている。
さらに、銀行側サーバ80には、ATM70と識別情報を入出力するサーバI/O部81が備えられる。また、銀行側サーバ80は、そのサーバI/O部81と接続されたCPU82を備える。さらに、CPU82に接続され、プログラムが記録されているROM83と、ROM83からプログラムをロードするとともに、入出力する識別情報を一時記憶するRAM84と、識別情報を判定する判定部85と、個々の識別カードに関する固有情報を記憶して管理するデータベース86とを備えている。
【0027】
なお、前記データベース86には、識別カード1の所有者ごとに割り当てられた固有の配列パターンや、所有者の口座番号や所有者の定めた暗証番号等、ATM取引の遂行に必要な各情報が予め記録されている。この場合、識別カード1の配列パターンはカード所有者ごとに固有の配列パターンがランダムに決定されるとともに、他の識別カード1の所有者に付与された配列パターンと同一になることがないように割り当てられているの。従って、特定の配列パターンに複数の所有者が重なって登録されることはない。
【0028】
具体的には、識別カード1の識別情報記録部20には、刻設されたセル30,30・・・の識別情報として、例えば、中間の横模様32c、深い右斜め模様34a、模様なしかつ刻設なし、中間の無模様35c、浅い左斜め模様33b、深い無模様35a、浅い縦模様31b・・・のように、カード長辺間に36個にかつ短辺間に4段の配列で144個の識別情報が配列されている。
この場合において、銀行側サーバ80のデータベース86にも同一の144個の識別情報の配列パターンが識別カード1の所有者に関連付けられてATM取引の遂行に必要な各情報とともに記録されている。
【0029】
このような構成において、まず、識別カード1の所有者がATM70に識別カード1を挿入した場合には、まず、ATM70は読取部72の図示しないレーザー読取機によって識別情報記録部20に刻設された全てのセル30,30・・・について固有の識別情報を順番に読み取って、読み取った識別情報の配列パターンを銀行側サーバ80に伝送する。この際、縦模様31、横模様32、左斜め模様33、右斜め模様34および模様なしの第一識別情報と、浅い刻設α、深い刻設β、前記αおよび刻設の深さなしの第二識別情報が、ATM70と銀行サーバ80との間で定められた伝送規則に従って、逐一コード変換されて伝送される。
なお、そのとき伝送されるデータは、前記第一識別情報および第二識別情報が一般には公開されない伝送規則に従ってコード化されている。従って、万一、他人が不正な目的で伝送過程の伝送データを不正取得しても、その伝送データを解析して前記第一識別情報および第二識別情報を復元することは非常に困難である。さらに、コード化のための伝送規則を複数用意して、その複数の伝送規則を適宜切替えて使用すれば、伝送データのセキュリティはより堅牢になる。
【0030】
ATM70から識別情報の配列パターンのコードを伝送された銀行側サーバ80は、識別情報がサーバI/O81に入力される。サーバI/O81に入力された識別情報は、銀行側サーバ80のROM83からRAM84にロードされたプログラムを銀行側サーバ80のCPU82が実行することによって、識別情報の配列パターンのコードから識別情報の配列パターンが復号される。
【0031】
復号された識別情報の配列パターンは、ATM取引の遂行に必要な各情報とともにデータベース86に記録されている識別情報の配列パターンのレコードを照合して、判定部85で合致するデータがあるか否かを判定する。その結果、復号された識別情報の配列パターンと合致するデータがあれば、そのデータに関連付けられた所有者レコードから識別カード1の所有者を判定して特定する。
【0032】
識別カード1の所有者が特定されると、銀行側サーバ80のCPU82は、データベース86の所有者のレコードから、所有者の口座番号や所有者の定めた暗証番号等、ATM業務の遂行に必要な各情報を参照することが可能となる。
識別カード1の所有者が特定された後の取引動作は、従来のATMを使用した取引動作と同様である。例えば、銀行側サーバ80のCPU82は、銀行側サーバ80のROM83からRAM84にロードされたプログラムに従って、所有者がATM70の操作に対応する取引を実行する。一例を挙げれば、所有者が預金の払出操作をした場合には、暗証番号の認証や口座残高の確認等の処理をした後に、所有者の要求に応じた現金の払出しをATM70に指示する。
なお、本実施形態では、銀行側サーバ80は判定部85を備えているが、判定部85はプログラムであっても良い。
【0033】
このような識別カード1を使用した取引システムによれば、識別カード1の識別情報記録部20には、個人情報は一切記録されておらず、ただ単に、識別情報が固有の配列パターンで記録されているのだけである。従って、万一識別カード1が、所有者の意に反して所有者以外の者の手に渡った場合であっても、識別カード1の情報を基に所有者の個人情報を不正に読み出されることはない。
従って、スキミング犯罪を防止することができ、不正コピーされた識別カードを正規の所有者以外の者に使用されることもないので、所有者や銀行および識別カード発行会社が甚大な被害を被ることもなくなった。
【0034】
また、所有者の口座番号等を不正な方法で別途入手した者が、不正に識別カード1を作ろうとした場合であっても、所有者に割り当てられた識別情報の固有の配列パターンを作り出すことができず、識別カード1の不正コピーを作成することができない。
これに加えて、識別カード1は前記第1の実施形態で述べたように、その不正コピーを作ることが極めて困難であるので、所有者や銀行および識別カード発行会社が甚大な被害を被ることもなくなった。
【0035】
さらに、第3の実施形態として、前記第2の実施形態の識別情報記録部20には第一識別情報と第二識別情報の組み合わせによって16種類の固有の識別情報を刻設することができるので、この16種類の固有の識別情報を組み合わせることによって文字を表現することができる。
なお、識別カード1の構成および効果は前記第1の実施形態と同様であり、識別カード1を使用した識別カード取引システムの構成および効果は前記第2の実施形態と同様であるので、ここでは説明を省略し、以下に、本実施形態の特徴部分である、識別情報記録部20に刻設される識別情報によって文字を表現する構成を中心に説明する。
【0036】
16種類の固有の識別情報は、2つ組み合わせることによって、ASCII(American Standard Code for Information Interchange)コードを仮想することが可能であるので、識別情報としてASCII規格に準じた文字を表現することができる。
また、16種類の固有の識別情報を4つ組み合わせることによって、JIS(Japanese Industrial Standard) X 0208コードを仮想することが可能であるので、識別情報としてJIS X 0208規格に準じた文字を表現することができる。
【0037】
この場合において、前記16種類の固有の識別情報をそれぞれ16進数のコードに割り当てておく。例えば、図6に示すように、「深い縦模様31a」を「1」、「浅い縦模様31b」を「2」、「中間の縦模様31c」を「3」、「深い横模様32a」を「4」、「浅い横模様32b」を「5」、「中間の横模様32c」を「6」、「深い左斜め模様33a」を「7」、「浅い左斜め模様33b」を「8」、「中間の左斜め模様33c」を「9」、「深い右斜め模様34a」を「a」、「浅い右斜め模様34b」を「b」、「中間の右斜め模様34c」を「c」、「深い無模様35a」を「d」、「浅い無模様35b」を「e」、「中間の無模様35c」を「f」、「模様なしかつ刻設の深さなしのセル35d」を「0」と割り当てることができる。
【0038】
このように割り当てられることによって、例えば、JIS X 0208規格に準じた文字として「N,A,K,A,T,A」の6文字を表現する場合には、文字Nのコードは16進数では004eと規定され、文字Aのコードは16進数では0041と規定され、文字Kのコードは16進数では0046と規定され、文字Tのコードは16進数では0054と規定されているので、「N,A,K,A,T,A」は、16進数では「004e,0041,0046,0041,0054,0041」と表わされる。
そして、「N」の文字は、固有の識別情報の配列として「模様なしかつ刻設の深さなしのセル35d,模様なしかつ刻設の深さなしのセル35d,浅い横模様32b,深い縦模様31a」の4つの固有の識別情報の配列で表現される。同様にして、「A,K,A,T,A」の文字もそれぞれ4つの固有の識別情報の配列で表現される。
【0039】
さらに、同様にして、JIS X 0208規格に準じた文字として、日本語の漢字文字である「中,田」は16進数では「4366,4544」と表わされるので、これを前記16種類の固有の識別情報で表わすと、例えば、「深い横模様32a,中間の縦模様31c,中間の横模様32c,中間の横模様32c,深い横模様32a,浅い横模様32b,深い横模様32a,深い横模様32a」の8つの固有の識別情報の配列で表現される。
【0040】
なお、上記割り当ては一例であって、銀行側サーバ80によって所有者ごとにランダムに複数の固有の識別情報に対応した16進数の割り当てを定義して、データベース86の所有者に関するレコードに記録しておけば、膨大な数の割り当ての定義を管理することができる。
そして、取引時には、識別カード1の識別情報記録部20の所定範囲に記録された識別情報の配列から所有者を特定し、その所有者の複数の識別情報とJIS X 0208規格の文字の割り当て定義に従って、識別情報の配列から文字を復号することができる。このよう識別情報に文字を割り当てることによって、文字データは暗号化されることとなる。
【0041】
このような識別カード1を使用した取引システムによれば、識別カード1の識別情報記録部20には、個人情報は通常の手段で読み取り可能な状態で記録されることがなく、ただ単に、固有の識別情報が固有の配列パターンとして暗号化されて記録されているのだけである。従って、万一識別カード1が、所有者の意に反して所有者以外の者の手に渡った場合であっても、識別カード1に刻設された識別情報を解析することは非常に困難である。
【0042】
また、所有者の口座番号等を不正な方法で別途入手した者が、不正に識別カード1を作ろうとした場合であっても、所有者に割り当てられた識別情報の固有の配列パターンを作り出すことができず、識別カード1の不正コピーを作成することができない。
従って、スキミング犯罪を防止することができ、不正コピーされた識別カードを正規の所有者以外の者に使用されることもないので、所有者や銀行および識別カード発行会社が甚大な被害を被ることもなくなった。
【0043】
なお、上述の各実施形態では、一例として、識別カード1をATMによる銀行との取引に使用した場合を説明したが、識別カード1の使用形態はこれに限定されるものではなく、広くカードを使用した使用形態に適用可能である。
例えば、個人の所属や身分を証明するIDカードや、日本の戸籍を管理する住民基本台帳ネットワークシステムにアクセスするための識別カードとして使用することも本発明の範囲内である。このように識別カード1を個人判別のカードとして使用した場合には、万一、所有者に不測の外力が及んで、所有者の身元が判別できないような状況下であっても、識別カード1は使用可能な状態で残存するので、従来のようにDNAや歯型の照合によることなく、所有者の身元を判別することが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】識別カードの表を示す平面図である。
【図2】識別カードの裏面を示す平面図である。
【図3】識別カードの裏面の識別情報記録部を示し、図2中右肩部分の一部拡大図である。
【図4】識別情報記録部に記録される直線模様の種類を示す説明図である。
【図5】識別情報記録部に記録される直線模様が刻設される深さを示す説明図である。
【図6】第一識別情報と第二識別情報の組み合わせを示す説明図である。
【図7】識別カードを使用した取引システムの概略を示す説明図である。
【符号の説明】
【0045】
1 識別カード
10 カード本体
20 識別情報記録部
30 識別情報記録部に配列される複数のセル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高強度合金で一体に形成されたカード本体と、
そのカード本体に刻設された固有の識別情報からなる少なくとも1つの識別情報記録部とで構成されていることを特徴とする識別カード。
【請求項2】
カード本体の所定位置には複数のセルが刻設され、
識別情報記録部は、それらセルの刻設深さ、刻設幅、刻設形状のいずれか一つもしくは複数の組み合わせによって固有の識別情報が特定されることを特徴とする請求項1に記載の識別カード。
【請求項3】
カード本体の所定位置には複数のセルが刻設され、
識別情報記録部は、それらセルに刻設される模様によって固有の識別情報が特定されることを特徴とする請求項1に記載の識別カード。
【請求項4】
カード本体の所定位置には複数のセルが刻設され、
識別情報記録部は、それらセルに刻設される模様によって特定される第一識別情報と、それら模様の深さによって特定される第二識別情報の組み合わせによって固有の識別情報が特定されることを特徴とする請求項1に記載の識別カード。
【請求項5】
カード本体の所定位置には複数のセルが刻設され、
識別情報記録部は、それらセルに刻設される模様によって特定される第一識別情報と、それらセルの深さによって特定される第二識別情報の組み合わせによって固有の識別情報が特定されることを特徴とする請求項1に記載の識別カード。
【請求項6】
複数のセルは、カードの短辺間にわたって細分され、かつカード長辺間にわたって複数段配列されていることを特徴とする請求項5に記載の識別カード。
【請求項7】
平面視で所定の傾きをもってそれぞれのセルに刻設される複数の直線模様の組み合わせによって第一の識別情報が特定されることを特徴とする請求項6に記載の識別カード。
【請求項8】
高強度合金は、6−4チタン合金であることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれかに記載の識別カード。
【請求項9】
カード本体は、その表面が金属蒸着層によって着色されていることを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれかに記載の識別カード。
【請求項10】
識別情報は、レーザー彫刻機によって刻設されていることを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれかに記載の識別カード。
【請求項11】
現金自動預け払い機に使用可能であることを特徴とする請求項1〜請求項10のいずれかに記載の識別カード。
【請求項12】
請求項1〜請求項11のいずれかに記載された識別カードと、
その識別カードに刻設された固有の識別情報を読み取るクライアントシステムと、
クライアントシステムとネットワークで接続されたサーバシステムと、
サーバシステムに備えられ、前記固有の識別情報と識別カードの所有者に関する情報が記録されたデータベースと、
サーバシステムに備えられ、前記固有の識別情報とデータベースの記録とを照合する判定部とを備え、
識別カードに刻設された固有の識別情報の配列パターンをクライアントシステムで読み取り、さらに、サーバシステムでデータベースと照合することによって、判定部が識別カードの所有者を判別することを特徴とした識別カード取引システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−178843(P2009−178843A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−225598(P2006−225598)
【出願日】平成18年8月22日(2006.8.22)
【出願人】(507282048)リン グループ エルエルシー (2)
【Fターム(参考)】