説明

識別マークを有する貴重印刷物

【課題】 銀行券、証券、商品券等、貴重印刷物の態様に関し、特に、視覚障害者及び健常者が指先の感覚で識別する「触感識別性」が向上するとともに、健常者が触指後の視覚でも識別する「視覚識別性」を付与し、さらには偽造が効果的に防止できる、フロッキー加工によって複数のパイルを投錨し形成した識別マークを有する貴重印刷物に関する。
【解決手段】 基材の一表面に、フロッキー加工によって複数のパイルを投錨し形成した識別マークを有する貴重印刷物であって、識別マークは、一色に着色された一色性パイルを1種類以上投錨して成る背景領域と、投錨したパイルの基材とは反対側の上端部の色が一色性パイルの色と同色である少なくとも二色に着色された二色性パイルを1種類以上投錨して成る潜像領域を備え、識別マークに投錨した前記パイルを所定の方向へ傾斜させることで潜像模様が出現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀行券、証券、商品券等、貴重印刷物の態様に関し、特には、視覚障害者及び健常者が指先の感覚で識別する「触感識別性」が向上するとともに、健常者が触指後の視覚でも識別する「視覚識別性」を付与し、さらには偽造が効果的に防止できる、フロッキー加工によって複数のパイルを投錨し形成した識別マークを有する貴重印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から銀行券には、視力の不自由な視覚障害者の方々に対しても、券種の判別が可能なように、銀行券のある特定部分に凹凸形状や凸形状などの形状を有した領域を設け、その表面を指で触って(以下「触感」という。)形状の違いによって券種判別が可能なように工夫が施されている。
【0003】
現在、日本で発行されている銀行券では、銀行券の表面の右下部及び左下部において、一万円券はL字形状、五千円券は八角形状、二千円券は丸形状が縦に3つ、千円券は横棒形状(以下、「識別マーク」という。)が凹版印刷で施されている。この識別マークの触感及びその形状により券種判別を行っている。
【0004】
このように、識別マークの識別性を向上させるため、形状を変えたり触感によって識別性を高めたりと、製紙製造技術や印刷製造技術を駆使して識別マークが施されているが、現状よりも、もっと識別性が高く、さらにはより簡単に分かりやすく識別できる識別マークの付与が望まれているとともに、偽造防止効果を併せ持つ識別マークの付与が望まれている。
【0005】
前述したような、貴重印刷物の識別性を向上させるための技術として、基材の一部に識別マークを付与し、その識別マークの近傍に光学的変化素子(ホログラム)を貼付した貴重印刷物が提案されている。これは、光学的変化素子(ホログラム)と識別マークの表面状態の触感による差(ツルツルとザラザラ)と、識別マークの凸部と用紙表面との高低差による形状確認のニ通りの識別方法を備えている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、一般的な視覚障害者の文字形態としては点字が広く知られている。点字の技術として、文字を印刷した物品の表面に、点字を形成した透明なシート類を接着してなる点字形成物が提案されている。これは、視覚により識別可能な文字と、触覚により識別可能な点字を同じ領域に配しており、文字と点字の識別性を損なうことなく表示スペースを縮小し、点字及び文字の情報密度を高めることを可能としたものである(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
さらに、健常者が目視によって偽造紙幣の区別が可能で、かつ視覚障害者が指による触覚によって真贋判別が可能な技術の一つとして、金属ローラの一方に金属製の凸版を固着し、2本の金属ローラ間に用紙を走行させ、用紙に加圧することで用紙に凹部を設けるエンボス加工用紙が提案されている。これは、健常者が目視によって真贋識別をするための透かし効果と、視覚障害者が指による触感で真贋識別をするためのエンボス効果の双方を可能としたものである(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
また、健常者が目視によって偽造紙幣の区別が可能で、かつ視覚障害者が指による触覚によって真贋判別が可能な技術の一つとして、点字、文字、記号、英数字、模様で情報を凹凸で構成し、それらの凹凸を紙幣の両面又はどちらか片面に施した紙幣が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0009】
一方、偽造防止効果のある用紙として、用紙の一部に植毛部を設けた用紙が提案されている。この植毛部については、用紙の表面に接着剤を塗布して、その上に植毛を形成して成るか、植毛したラベルを用紙に貼付して成る用紙である(例えば、特許文献5参照)。
【0010】
【特許文献1】特開2004−58605号公報
【特許文献2】実開平07−23361号公報
【特許文献3】特開2001−262497号公報
【特許文献4】実開平07−43300号公報
【特許文献5】特開2000−318400号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に関して、識別マークと用紙表面の高低差により識別性を向上させるためには、識別マークを凹版印刷で付与する等、盛りを出す必要がある。しかし、ATMや自動販売機など機械適性上、凹版印刷のインキの高さ方向(盛り)に制約があることから、他の印刷方法や加工方法による識別マークの付与が求められている。
【0012】
また、特許文献2に関して、点字は、縦3点×横2点の6点の組み合わせから成る点を、触感により読み取る文字であるが、点字には文字の大きさや表記の仕方にルールがあり、拡大や縮小ができない文字である。こういったことから、点字を識別マークに使用するには、さまざまな制約がある。また、点字は触感によって文字を読み取ることを目的としたものであることから、偽造防止の効果としては極めて低い。
【0013】
さらに、特許文献3及び特許文献4に関して、例えば、4種類の銀行券ともに同一箇所に凹部又は凹凸部を設けた場合、形状に相当の変化を持たせないと券種別の識別には困難性があり、凹部を設ける位置を券種別に変えた場合は、表裏を明確にするとともに天地方向も明確にする必要がある。また、偽造防止の効果を向上させるためには、凹凸の形状を複雑にする必要があり、この凹凸形状が複雑であればあるほど偽造防止の効果は上がるが、逆に、触感による識別を困難にしてしまう。
【0014】
また、特許文献5に関して、例えば、4種類の銀行券や多種類存在する商品券等を、用紙に形成した植毛部の形状に変化を持たせ、その形状の違いにより券種の識別を行おうとした場合、形状に相当の変化を持たせない限り券種別の識別が困難である。特に、券種が多種類存在する場合、券種ごとに明確な形状変化を必要とすることから、植毛部のデザインが複雑になる可能性があり、デザインの複雑化は識別を困難にしてしまう。
【0015】
また、識別マークを付与した貴重印刷物を作成する段階において、ある特定領域だけを凹版印刷などでインキの盛りを高くすると、求められている触感による識別性は向上するものの、印刷後の用紙の積載により、凹版印刷部分のインキが乾燥せず裏に移ってしまう裏移り現象が起きたり、更には積載枚数が多くなると、識別マークを凹版印刷等で付与した特定領域と付与しない領域とでは相当の高低差が出る等、品質管理、製造管理及び流通適性の問題点が多くある。
【0016】
本発明は、上記課題の解決を目的とするものであり、視覚障害者及び健常者が指先の感覚で識別する「触感識別性」が向上するとともに、健常者が触指後の視覚でも識別する「視覚識別性」を付与し、さらには偽造が効果的に防止できる、多色パイルによる潜像模様を識別マークとして用いた貴重印刷物に関し、具体的には、貴重印刷物の一部に、フロッキー加工(静電植毛加工)により多色パイル(短繊維)を投錨し、背景領域と潜像領域とから構成される識別マークを形成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の識別マークを有する貴重印刷物は、基材の一部に、フロッキー加工によって複数のパイルを投錨し形成した識別マークを有する貴重印刷物であって、識別マークは、背景領域と潜像領域を有し、背景領域は、一色に着色された一色性パイルを1種類投錨して成り、潜像領域は、二色に着色された二色性パイルを1種類以上投錨して成り、一色性パイルの色と二色性パイルの基材側と反対側の上端部の色が同じ色であり、一色性パイルの色と二色性パイルの上端部以外の色が異なる色であり、識別マークに投錨したパイルを所定の方向へ傾斜させることで、潜像領域に投錨した二色性パイルの上端部以外の色が視認でき潜像模様が出現することを特徴とする。
【0018】
本発明の識別マークを有する貴重印刷物は、一色性パイル、二色性パイルの上端部、及び基材の色が同じ色であることを特徴とする。
【0019】
本発明の識別マークを有する貴重印刷物は、基材の一部に、フロッキー加工によって複数のパイルを投錨し形成した識別マークを有する貴重印刷物であって、識別マークは、背景領域と潜像領域を有し、背景領域は、一色に着色された第1の一色性パイル及び第2の一色性パイルを投錨して成り、潜像領域は、二色に着色された第1の二色性パイル及び第2の二色性パイルを投錨してなり、第1の一色性パイルの色と第1の二色性パイルの基材側と反対側の上端部の色が同じ色であり、第2の一色性パイルの色と第2の二色性パイルの基材側と反対側の上端部の色が同じ色であり、第1の一色性パイル及び第2の一色性パイルの色と第1の二色性パイル及び第2の二色性パイルの上端部以外の色が異なる色であり、識別マークに投錨したパイルを所定の方向へ傾斜させることで、潜像領域に投錨した第1の二色性パイル及び第2の二色性パイルの上端部以外の色が視認でき、潜像模様が出現することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
視覚障害者及び健常者が指先の触感で識別する「触感識別性」が向上するとともに、フロッキー加工層の多色パイルをある一定の方向へ傾けつつ指をスライドさせることにより潜像模様が現出することで、健常者が視覚で識別する「視覚識別性」を得られる。
【0021】
また、本発明の貴重印刷物をカラーコピー機や複写機によって複写する場合、パイル特有の触感を複写機で再現することは不可能であり、偽造防止効果の向上が図れる。また、フロッキー加工層の部分を指で一定方向へスライドさせることにより潜像模様が現出するようにパイルを着色するため、特別な機器を使用しないで真偽判別でき、更に偽造防止効果の向上が図れ、意匠的な効果も生まれる。
【0022】
パイルを投錨したフロッキー加工層には、もともとの触感に特徴があるため、0.01mm〜0.05mm程度の短いパイルでも、より高い識別性が得られる。仮に、パイルの長さを長くしてフロッキー加工層を比較的高く形成しても、弾力性を有するパイルを選択し形成すれば、積層枚数が多くなっても上から押圧することで積層時の各部の高さが均一となる。
【0023】
また、パイル投錨の製造段階においては、凹版印刷のように識別性向上を目的とするインキ盛りを高くすることによって発生する裏移り現象がなく、高さ(厚み)による品質管理上の問題が発生しない。
【0024】
さらに、潜像模様としてさまざまな技術が開示されているが、本発明は従来開示されている基材又は視点を移動させて潜像模様を出現させるものではなく、基材に形成したパイルを指でスライドさせることで、色が視認できる環境下であれば潜像模様が視認できるため、真偽判別が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次に、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。図1は、本発明におけるフロッキー加工層による識別マークを有した貴重印刷物を示す。図2は、本発明におけるフロッキー加工層による識別マークを有した貴重印刷物を示す。図3は、本発明における実施例1の貴重印刷物の識別方法を示す。図4は、本発明におけるフロッキー加工層による識別マークを有した貴重印刷物を示す。図5は、本発明における実施例2の貴重印刷物の識別方法を示す。図6は、本発明におけるパイルの着色例を示す。
【0026】
図1に示す貴重印刷物は、商品券(9)の態様を示し、基材となる用紙(2)に図柄、文字、模様などを印刷したものである。この商品券(9)の券種(例えば、一万円券、五千円券、二千円券、千円券)を触感によって識別可能とするために、商品券(9)の用紙(2)の一部に、フロッキー加工によってパイル(4)を投錨し、識別マーク(5)を形成する。なお、識別マーク(5)は、潜像模様を含むフロッキー加工層によって形成される。
【0027】
フロッキー加工により投錨したパイル(4)により形成された識別マーク(5)の表面を指で触ると、毛羽立ったような独特の触感を得ることができ、基材である用紙(2)の触感との違いは歴然である。
【0028】
ここで、フロッキー加工とは静電気植毛加工と言われ、静電塗装等と同じ原理で高圧静電界における静電吸引力を利用したものである。手順として、基材に接着剤を塗布し、その上にパイル(4)を垂直に立たせ(投錨させ)、その後、接着剤を乾燥させることにより投錨したパイル(4)を固定させる加工である。
【0029】
パイル(4)としては、レーヨン、ナイロン、アクリル、ポリエステルなどを使用することとし、長さは0.01mm〜4.0mm程度の範囲で使用する。パイルの太さが細く、カットの長いパイルの方が風合いは良い。しかし、極端に細く長いパイルを使用すると、パイル同士が絡み合ってしまう可能性があるため、使用するパイルの太さに応じた長さにカットして使用することが好ましい。
【0030】
また、パイル(4)は所望の色に着色することが可能であり、指でパイルをある一定方向へ傾けた場合に、潜像模様が現出するように着色して形成する。
【0031】
パイル(4)の着色方法としては、一般的な着色方法によって着色することとし、例えば、特開平06−192977号公報に掲げられている「立毛布帛の毛先の着色方法」などが挙げられる。これは、液流着色機等を使用し、パイルの先端に染料を塗布する方法である。第一に、液流着色機を使用してパイル全体を淡色によって着色する。第二に、パイルの先端に塗布する染料に、適宜な粘度を与えるため、染料に増粘剤を加え塗布液の調整を行う。第三に、調整した塗布液をパイルの先端にコーティング処理することで塗布する。第四に、毛先のみに染料が塗布されたパイルを熱風乾燥機で乾燥し、これによって染料は完全に毛先の所定の位置にのみ配置される。第五に、高圧湿熱あるいは加熱湿熱で処理し染料を繊維に固着する。第六に、還元洗浄され湯水洗をされ、その後は乾燥、巾出等の処理を必要に応じて行う。
【0032】
接着剤は、エマルジョンタイプとソルベントタイプに分けられ、その分類は主にアクリル系、ウレタン系、エポキシ系、酢酸ビニル系である。接着剤の選択は、商品券(9)への使用用途に応じて適宜選択して使用することとする。使用用途とは、例えばフロッキー加工層の大きさや形状、使用するパイル(4)の太さや長さ、さらには基材(2)の材質のことをいう。
【0033】
加工方法としては、パイルの飛昇方向によって4種類の方法がある。1つはパイルを下方より上方へ飛昇させるアップメソド、1つはパイルを上方より下方へ飛昇させるダウンメソド、1つはパイルを横方向に飛昇させるサイドメソド、1つはアップメソドとダウンメソドとを組み合わせて同時に行うアップダウンメソドである。加工方法に関しても、商品券(9)への使用用途に応じて適宜選択して使用することとする。
【0034】
識別マーク(5)の形状に関しては、円形状、多角形、棒状、図柄、模様、文字、記号など特に限定はないが、識別の容易性を向上させる点を考慮するならば複雑な形状よりも簡易な形状の方が好ましい。
【0035】
また、識別マーク(5)の大きさに関しては、指先の大きさに適したサイズにすることが必要であり、縦30mm×横30mm幅の領域内に形成することが望ましい。
【0036】
さらに、識別マーク(5)の形状、大きさ、色彩、潜像模様に関しては、券種別に特徴を持たせることが望ましく、それぞれにおいて差異が明確なほど触感識別性と視覚識別性をともに向上させるためには有効な手段である。
【0037】
なお、ここで言う触感識別性とは、識別マークを指で触った際に特別な触感を得られる状態のことであり、また、視覚識別性とは、識別マークを指で一定方向にスライドさせた際に出現する潜像模様を目で見て確認できる状態のことである。
【0038】
次に、基材となる用紙の一部分に潜像模様によるフロッキー加工層を識別マークとして形成した場合について、実施例を用いて説明する。実施例1としては、一種類の潜像模様が出現する場合について示し、実施例2としては、複数の潜像模様が出現する場合について示す。
【実施例1】
【0039】
図2に示す貴重印刷物は、銀行券(1)の態様を示し、基材となる用紙(2´)に凹版印刷やオフセット印刷などの印刷方式で図柄、数字、模様などを印刷したものである。
【0040】
この銀行券(1)の券種(例えば、銀行券の一万円券、五千円券、二千円券、千円券)を触感によって識別可能とするために、銀行券(1)の用紙(2´)のある一部分に識別マークを形成する。
【0041】
この識別マークは、フロッキー加工によってパイル(4´)を六角形で形成したフロッキー加工層(以下「識別マーク3A」という。)であり、六角形の形状からなる背景領域(6)と、「万」という文字からなる潜像領域(7)とを有している。
【0042】
識別マーク3Aの形状は六角形であり、縦30mm×横30mmの領域内に形成することが望ましい。しかし、この形状に制約されるものではなく、例えば、円形状、多角形、棒状、図柄、模様、文字、記号などでも良い。
【0043】
さらに、前記識別マーク3Aの領域は、縦30mm×横30mmとしたが、この数字に限定される必要はなく、貴重印刷物の態様、その貴重印刷物に形成する識別マークの種類、及び識別マークの形状によって設定するものとする。
【0044】
パイルの色彩は、黄色一色で着色した一色性パイル(6a)を一種類と、黄色と濃紺色の二色で着色した二色性パイル(7a)を一種類、計二種類のパイルを使用する。パイルの着色方法は、前述した着色方法を利用して行う。まず、一色性パイル(6a)は液流着色機を使用してパイル全体を黄色に着色する。一方、二色パイル(7a)については、その後、濃紺色の染料に増粘剤を加え塗布液の調整を行い、調整した塗布液を、黄色に着色したパイルの一方の先端から80%の位置までコーティングする。そして、染料が塗布されたパイルを熱風乾燥機で乾燥することによって、染料を完全に毛先の所定の位置にのみ配置し、二色性パイル(7a)が完成する。
【0045】
識別マーク3Aの付与方法としては、フロッキー加工によって用紙(2´)の一部分にパイル(4´)を投錨し、六角形のフロッキー加工層を形成する。投錨するパイル(4´)としては、識別マーク3Aの背景領域(6)には黄色一色に着色した一色性パイル(6a)を投錨し、潜像領域(7)には黄色と濃紺色の二色性パイル(7a)を濃紺色に着色している先端を用紙(2´)の表面に接着するように投錨する。パイルの長さは図2の拡大図3Aのように、0.1mmで示したが、0.05mm〜0.5mm程度が好ましい。パイルの長さが0.1mmの場合の二色性パイルの色彩は、用紙(2´)の表面から0.08mmの高さまでは濃紺色であり、そこから先端までは黄色である。
【0046】
この時、銀行券(1)の識別マーク3Aを指(8)による触感で確認した場合、毛羽立ったような独特の触感を得ることができ、基材である用紙(2´)の触感との違いは歴然である。また、多券種が存在する銀行券等に関しては、券種ごとに識別マーク3Aの大きさや形状を変化させることによって「触感識別性」の向上が可能となる。
【0047】
さらに、識別マーク3Aを指(8)で触れずに上部から見た場合、図3(a)に示すように六角形の形状が黄色に視認される。その際のパイルの立毛状態であり、図3(a)の断面であるX−X部を図3(b)に示す。図3(b)の二色性パイル(7a)の下部が、図3(a)の「万」の文字(点線個所)を表しているが、識別マーク3Aを上部から見ただけでは、この「万」の文字は視認できない。
【0048】
一方、図3(c)に示すように、識別マーク3Aを指(8)で一定の方向へ傾けつつスライドさせることにより、パイルが傾くことで潜像色である濃紺色が視認でき、その結果の潜像模様(「万」の文字)が現出する。その際のパイルの傾倒状態であり、図3(c)の断面であるX−X部を図3(d)に示す。指(8)をスライドさせることにより、矢印の方向へ順にパイルが倒れていくことによって、上部から見ると二色性パイル(7a)の下部色である濃紺色がパイルとパイルの間から現出し、潜像模様である「万」が視認可能となる。
【0049】
多券種が存在する銀行券等に関しては、券種ごとに識別マーク3Aの潜像模様を異なった図柄や異なった色彩にすることによって「視覚識別性」が付与できる。
【0050】
なお、用紙(2´)の色と二色性パイル(7a)の上層色とを同色にすることにより、貴重印刷物を見ただけでは、何も付与されていないかのように見える。
【実施例2】
【0051】
図4に示す貴重印刷物は、銀行券(1´)の態様を示し、基材となる用紙(2´´)に凹版印刷やオフセット印刷などの印刷方式で図柄、数字、模様など印刷したものである。
【0052】
この銀行券(1´)の券種(例えば、銀行券の一万円券、五千円券、二千円券、千円券)を触感によって識別可能とするために、銀行券(1´)の用紙(2´´)のある一部分に識別マークを形成する。
【0053】
この識別マークは、フロッキー加工によってパイル(4´´)を十字形で形成したフロッキー加工層(以下「識別マーク3B」という。)であり、十字の形状と「千」の文字からなる背景領域(6´)と、「1」の文字からなる潜像領域(7´)とを有している。さらに、背景領域(6´)は第一の一色性パイル(6b)と、第二の一色性パイル(6c)を有しており、潜像領域(7´)は第一の二色性パイル(7b)と第二の二色性パイル(7c)を有している。
【0054】
識別マーク3Bの形状は十字形であり、縦30mm×横30mm領域内に形成することが望ましい。しかし、この形状に制約されるものではなく、例えば、円形状、多角形、棒状、図柄、模様、文字、記号などでも良い。
【0055】
さらに、前記識別マーク3Bの領域は、縦30mm×横30mmとしたが、この数字に限定される必要はなく、貴重印刷物の態様、その貴重印刷物に形成する識別マークの種類及び識別マークの形状によって設定するものとする。
【0056】
パイルの色彩は、黄色一色で着色した第一の一色性パイル(6b)及び橙色一色で着色した第二の一色性パイル(6c)の二種類と、黄色と赤色の二色で着色した第二の二色性パイル(7b)及び橙色と赤色の二色で着色した第二の二色性パイル(7c)の二種類、計四種類を使用する。パイルの着色方法は、前述した着色方法を利用して行う。まず、第一の一色性パイル(6b)及び第二の一色性パイル(6c)は、液流着色機を使用してパイル全体を黄色又は橙色に着色する。
【0057】
一方、黄色と赤色の二色で着色する第一の二色性パイル(7b)については、黄色でパイル全体を着色した後、赤色の染料に増粘剤を加え塗布液の調整を行い、調整した塗布液を、黄色に着色したパイルの一方の先端から80%の位置まで、かつパイルの片側面をコーティングする。そして、染料が塗布されたパイルを熱風乾燥機で乾燥することによって、染料を完全に毛先の所定の位置にのみ配置し、黄色と赤色の第二の二色性のパイル(7b)が完成する。
【0058】
一方、橙色と赤色の二色で着色する第二の二色性パイル(7c)については、橙色でパイル全体を着色した後、赤色の染料に増粘剤を加え塗布液の調整を行い、調整した塗布液を、橙色に着色したパイルの一方の先端から80%の位置まで、かつパイルの片側面をコーティングする。そして、染料が塗布されたパイルを熱風乾燥機で乾燥することによって、染料を完全に毛先の所定の位置にのみ配置し、橙色と赤色の第二の二色性のパイル(7c)が完成する。
【0059】
識別マーク3Bの付与方法としては、フロッキー加工によって用紙(2´´)の一部分にパイル(4´´)を投錨し、十字形のフロッキー加工層を形成する。識別マーク3Bに投錨するパイル(4´´)としては、背景領域(6´)には黄色一色に着色した第一の一色性パイル(6b)と、橙色一色に着色した第二の一色性パイル(6c)を投錨する。さらに、潜像領域(7´)には黄色と赤色に着色した第一の二色性パイル(7b)と、橙色と赤色に着色した第二の二色性パイル(7c)を赤色の方側が用紙(2´´)の表面に接着するように投錨する。
【0060】
パイルの長さは図4の拡大図3Bのように、0.1mmで示したが、0.05mm〜0.5mm程度が好ましい。パイルの長さが0.1mmの場合の二色性パイルの色彩は、用紙(2´´)の表面から0.08mmの高さまでは赤色であり、そこから先端までは黄色もしくは橙色である。
【0061】
この時、銀行券(1´)の識別マーク3Bを指(8´)による触感で確認した場合、毛羽立ったような独特の触感を得ることができ、基材である用紙(2´´)の触感との違いは歴然である。また、多券種が存在する銀行券等に関しては、券種ごとに識別マーク3Bの大きさや形状を変化させることによって「触感識別性」の向上が可能となる。
【0062】
さらに、識別マーク3Bを指(8´)で触れずに上部から見た場合、図5(a)に示すように十字形の形状が黄色に視認され、黄色の十字形の中に「千」の文字が橙色で視認される。その際のパイルの立毛状態であり、図5(a)の断面であるX−X部を図5(b)に示す。図5(b)の第一の一色性パイル(6b)が図5(a)の十字形部分(背景領域(6´)の「千」の文字以外)を表しており、第二の一色性パイル(6c)が「千」の文字を表している。さらに、図5(b)の第一の二色性パイル(7b)及び第二の二色性パイル(7c)の下部が、図5(a)の「1」の文字(点線個所)を表しており、そのうちの第二の二色性パイル(7c)が「千」の文字と「1」の文字が重なる部分を現している。識別マーク3Bを上部から見ただけでは、この「1」の文字は視認できない。
【0063】
一方、図5(c)に示すように、識別マーク3Bを指(8´)で一定の方向へ傾けつつスライドさせることにより、パイルが傾くことで潜像色である赤色が視認でき、その結果、潜像模様(「1」の文字)が現出する。その際のパイルの傾倒状態であり、図5(c)の断面であるX−X部を図5(d)に示す。矢印の方向へ順にパイルが倒れていくことで、上部から見ると第一の二色性パイル(7b)と第二の二色性パイル(7c)の下部色である赤色がパイルとパイルの間から現出し、潜像模様である「1」が視認可能となる。
【0064】
多券種が存在する銀行券等に関しては、券種ごとに識別マーク3Bの潜像模様を異なった図柄や異なった色彩にすることによって「視覚識別性」が付与できる。
【0065】
なお、用紙(2´´)の色と二色性パイル(7b、7c)の上層色とを同色にすることにより、貴重印刷物を見ただけでは、何も付与されていないかのように見える。
【0066】
本発明を実施するための最良の形態において、貴重印刷物を銀行券の態様として記載したが、これに限定されるものではなく、その他にも諸証券、商品券、身分証明書、通行券、印紙類、パスポート、カード等が挙げられ、識別を必要とする態様のものをいう。
【0067】
また、同様に、本発明を実施するための最良の形態において、貴重印刷物である銀行券における識別マークの好ましいサイズを記載したが、これに限定されるものではなく、貴重印刷物の態様、その貴重印刷物に形成する識別マークの種類及び識別マークの形状や大きさによって任意に設計するものとする。
【0068】
また、同様に、本発明を実施するための最良の形態において、パイルを投錨したフロッキー加工層によって識別マークを形成し、その際に使用したパイルの長さを0.1mmとしたが、識別マークの全面を同じ長さのパイルで投錨する必要はなく、パイルの長さを変えて投錨し、任意に長さを異ならせたフロッキー加工層を形成しても良い。
【0069】
また、同様に、本発明を実施するための最良の形態において、貴重印刷物である銀行券における一部分(実施例においては基材の左下)に識別マークを形成する場合を示したが、形成場所に限定はなく、貴重印刷物の態様、その貴重印刷物に形成する識別マークの種類及び識別マークの形状や大きさによって任意に設計し、貴重印刷物の図柄の一部分が識別マークであっても良い。
【0070】
実施例1及び実施例2に示した着色パイルの組み合わせパターン以外で、着色パイルの組み合わせ例を図6(a)、(b)、(c)及び(d)に示す。
【0071】
図6(a)は、青色一色で着色したパイル及び赤色一色で着色したパイルの一色性パイルを二種類と、上部を青色で下部を黄色で着色したパイルの二色性パイルを一種類、計三種類のパイルを投錨する場合である。この場合、識別マークを指で触れず上から見ると青色と赤色の図柄が視認され、識別マークを指で一定方向にスライドすると黄色の潜像模様が現出する。
【0072】
図6(b)は、青色一色で着色した一色性パイルを一種類と、上部(基材表面と接着しない側)を青色で下部(基材表面と接着する側)を赤色で着色したパイル及び上部を青色で下部を黄色で着色したパイルの二色性パイルを二種類、計三種類のパイルを投錨する場合である。この場合、識別マークを指で触れず上から見ると青色の図柄が視認され、識別マークを指で一定方向にスライドすると赤色と黄色の潜像模様が現出する。
【0073】
図6(c)は、青色一色で着色した一色性パイルを一種類と、上部と下部の半分が青色で下部の残り半分が黄色で着色されたパイル及び上部と下部の半分が青色で下部の残り半分が緑色で着色されたパイルの二色性パイルを二種類と、上部が青色で下部の半分が黄色で下部の残り半分が緑色で着色されたパイルの三色性パイルを一種類、計四種類のパイルを投錨する場合である。この場合、識別マークを指で触れず上から見ると青色の図柄が視認され、識別マークを指で一定方向にスライドすると緑色の潜像模様が現出し、逆方向にスライドすると黄色の潜像模様が現出する 。
【0074】
図6(d)は、青色一色で着色したパイル及び赤色一色で着色したパイルの一色性パイルを二種類と、上部と下部の半分が青色で下部の残り半分が黄色で着色されたパイル及び上部と下部の半分が赤色で下部の残り半分が緑色で着色されたパイルの二色性パイルを二種類と、上部が青色で下部の半分が黄色で下部の残り半分が緑色で着色されたパイル及び上部が赤色で下部の半分が黄色で下部の残り半分が緑色で着色されたパイルの三色性パイルを二種類、計六種類のパイルを投錨する場合である。この場合、識別マークを指で触れず上から見ると青色と赤色の図柄が視認され、識別マークを指で一定方向にスライドすると緑色の潜像模様が現出し、逆方向にスライドすると黄色の潜像模様が現出する。
【0075】
実施例1、実施例2及び図6に計6パターンの着色例を示したが、パイルを着色できる数色の範囲内であれば、これに限定される必要はない。また、パイルを着色する色の指定を行ったが、パイルを着色できる色であれば、これに限定される必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明における、フロッキー加工層による識別マークを有した貴重印刷物を示す。
【図2】本発明における、フロッキー加工層による識別マークを有した貴重印刷物を示す。
【図3】本発明における、実施例1の貴重印刷物の識別方法を示す。
【図4】本発明における、フロッキー加工層による識別マークを有した貴重印刷物を示す。
【図5】本発明における、実施例2の貴重印刷物の識別方法を示す。
【図6】本発明における、パイルの着色例を示す。
【符号の説明】
【0077】
1、1´ 銀行券
2、2´、2´´ 用紙
4、4´、4´´ パイル(短繊維)
5 識別マーク
6、6´ 背景領域
6a 一色性パイル
6b 第一の一色性パイル
6c 第二の一色性パイル
7、7´ 潜像領域
7a 一色性パイル
7b 第一のニ色性パイル
7c 第二のニ色性パイル
8、8´ 指
9 商品券

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の一表面に、フロッキー加工によって複数のパイルを投錨し形成した識別マークを有する貴重印刷物であって、
前記識別マークは、一色に着色された一色性パイルを1種類以上投錨して成る背景領域と、
前記投錨したパイルの基材とは反対側の上端部の色が前記一色性パイルの色と同色である少なくとも二色に着色された二色性パイルを1種類以上投錨して成る潜像領域を備え、
前記識別マークに投錨した前記パイルを所定の方向へ傾斜させることで、潜像模様が出現することを特徴とする識別マークを有する貴重印刷物。
【請求項2】
前記一色性パイル、前記二色性パイルの上端部、及び前記基材の色が同じ色であることを特徴とする請求項1記載の識別マークを有する貴重印刷物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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