説明

識別マークを有する貴重印刷物

【課題】 本発明は、基材上の異なる領域に形成された識別マークを重ね合わせ、それぞれの領域の凹凸差を利用して、従来の識別マークよりも2倍程度の高低差により、十分な触感による識別が可能な貴重印刷物に関する。
【解決手段】 基材上に、凹形状及び/又は凸形状の要素から成る二つの領域が形成され、この領域は、第1の要素と第2の要素で構成され、第1の識別領域は、第1の要素が第1の方向に複数配列された低摩擦要素となる少なくとも二つの低摩擦領域と、第1の要素が第1の方向と異なる第2の方向に複数配列された高摩擦領域となる少なくとも一つの高摩擦領域から成り、低摩擦領域と高摩擦領域は、交互に、かつ、低摩擦領域の方が一つ多く配置され、第2の識別領域は、第2の要素が第3の方向に複数配列されて成ることを特徴とする識別マークを有する貴重印刷物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀行券、有価証券、商品券等の資産価値を有する貴重印刷物に関するものであり、特に、複数種類の券種が存在することに対して、視覚障害者及び健常者が指先で券種を識別することが可能な識別要素を有する印刷物である。
【背景技術】
【0002】
従来から資産価値を有する銀行券、各種有価証券等の貴重印刷物には、その印刷物の持つ価値を有益に保持するため、様々なセキュリティ技術が用いられてきていると共に、複数種類存在する券種を識別するための識別要素が付与されている。
【0003】
この識別要素は、特に視覚障害者が識別可能となるように、指先で印刷物の表面を触って(以下、「触感」という。)識別するものが殆どであり、その代表的なものが、銀行券に付与されている識別要素(以下、「識別マーク」という。)である。
【0004】
現在、日本銀行が発行している日本銀行券の右下部及び左下部は、一万円券はL字型、五千円券は八角形、二千円券は丸形状が縦に三つ、千円券は横直線形状の識別マークが、凹版印刷によって隆起状に形成されている。
【0005】
この日本銀行券に形成されている識別マークのように、一般的な触感による識別マークは、基材表面に対して凹凸形状を有することで、特に視覚障害者には、その識別マークの位置を特定することが可能となり、更には、券種ごとに形状を異ならせることで、どの券種であるのかを識別可能としている。
【0006】
この識別マークの識別性を向上させるための技術として、本出願人は、基材の一部に識別マークを形成し、その識別マークの近傍に光学的変化素子(具体的にはホログラム)を貼付することで、光学的変化素子表面の滑らかな状態(ツルツル感)と、識別マークの凹凸形状(ザラザラ感)との触感の差、及び識別マークの凸部と基材表面との高低差による形状確認の2通りの識別方法を開示している(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、券種の識別を行う技術として、触感による識別以外に、シート自体を二つ折りにして上側シートと下側シートを重ね合わせ、上側と下側シートを互いに水平方向に摩擦することで音を発生するシートであって、シートの一部分の上側シート及び下側シートの表面に、凹凸を一定の配列で配置し、その凹凸は、1対の凸部と凹部により形成され、1対の凸部と凹部である1ピッチの距離を凸部の上底部の距離と凹部の下底部の距離に分割し、下底部の長さを上底部の長さよりも大きい長さで形成し、さらに凸部は、その形状、向き及び凸部の横と縦との高さの寸法を変えることで、特殊音を発生するシートが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−58605号公報
【特許文献2】特開2007−268712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1については、識別マークの凹凸感と光学的変化素子の滑らか感の差異による触感という、従来の識別マーク単体による触感を更に向上させた識別機能を有しているものの、識別マーク自体は、凹版印刷により凸状に形成されていることから、市場の流通過程において、摩擦及び圧力等の様々な状況によって、初期段階の凸形状(特に高さ)を維持できず、十分な識別機能を果たすことが困難となってしまうという問題があった。
【0010】
また、特許文献2については、触感ではなく、音による識別を行うものであるため、識別を行う環境に影響を受けるものであり、周りが比較的静寂した環境下で識別を行わないと、上側シートと下側シートを擦り合わせた際に発生する特殊音を正確に聞き取れず、更には券種ごとに異なる特殊音を区別することができないという問題があった。
【0011】
したがって、インキにより基材に対して凸形状を形成した印刷物や、エンボスにより基材に対して凹形状を形成した印刷物のように、市場の流通過程において、摩擦及び圧力等の様々な状況によって、初期段階の凹凸形状(高さ及び深さ等)に多少の変化が生じても識別が可能であると共に、周囲の音等の外部環境に影響を受けない、十分な識別機能を果たす識別マークが望まれていた。
【0012】
そこで、本発明は、基材上の異なる領域に形成された識別マークを重ね合わせたときに、それぞれの領域の凹部と凸部との高さの差を利用して、従来の識別マークよりも2倍程度の高低差により、十分な触感による識別が可能な貴重印刷物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明は、基材の同一表面上又は異なる面に、凹形状及び/又は凸形状の要素から成る二つの領域が形成され、二つの領域を重ね合わせて所定の方向にずらしていくことで得られる触感により識別可能な識別マークを有する貴重印刷物であって、凹形状及び/又は凸形状の要素から成る二つの領域は、第1の要素と第2の要素で構成され、二つの領域の一方は、第1の要素の配列方向を異ならせたことで摩擦抵抗を変化させる第1の識別領域から成り、二つの領域のもう一方は、第2の要素が一定の方向に複数配列され、第1の識別領域と重ね合わされる第2の識別領域から成っており、第1の識別領域は、第1の要素が第1の方向に複数配列された低摩擦要素となる少なくとも二つの低摩擦領域と、第1の要素が第1の方向と異なる第2の方向に複数配列された高摩擦領域となる少なくとも一つの高摩擦領域から成り、低摩擦領域と高摩擦領域は、交互に配置され、第2の識別領域は、第2の要素が第3の方向に複数配列されて成ることを特徴とする識別マークを有する貴重印刷物である。
【0014】
また、本発明の識別マークを有する貴重印刷物は、第1の識別領域に配置された低摩擦領域と高摩擦領域とが、交互に、かつ、低摩擦領域が高摩擦領域より一つ多く配置されていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の識別マークを有する貴重印刷物は、高摩擦要素の要素幅が、第2の要素の隣り合う要素同士の間隔よりも狭い又は第2の要素の要素幅が、高摩擦要素の隣り合う要素同士の間隔よりも狭いことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の識別マークを有する貴重印刷物は、第2の方向と第3の方向が同一方向であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の識別マークを有する貴重印刷物は、第1の方向と第2の方向との異なる角度が、30°〜90°の範囲であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の識別マークを有する貴重印刷物は、第1の識別領域において、少なくとも二つの低摩擦領域を構成する低摩擦要素の配列角度が、低摩擦領域同士で異なっていることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の識別マークを有する貴重印刷物は、第1の識別領域において、少なくとも二つの低摩擦領域を構成する低摩擦要素のピッチが、低摩擦領域同士で異なっていることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の識別マークを有する貴重印刷物は、複数配列された低摩擦要素及び第2の要素が、直線、点線、波線、破線及び画線状に配置された複数の文字の一つ又は組み合わせから成り、複数配列された高摩擦要素が、直線、点線、波線、破線、網点及び画線状に配置された複数の文字の一つ又は組み合わせから成ることを特徴とする。
【0021】
また、本発明の識別マークを有する貴重印刷物は、低摩擦要素及び第2の要素が、一つの要素内において、直線、点線、波線、破線及び画線状に配置された複数の文字の一つ又は組み合わせから成り、高摩擦要素は、一つの要素内において、直線、点線、波線、破線、網点及び画線状に配置された複数の文字の一つ又は組み合わせから成ることを特徴とする。
【0022】
また、本発明の識別マークを有する貴重印刷物は、低摩擦要素、高摩擦要素及び第2の要素のいずれもが、凹形状又は凸形状から成ることを特徴とする。
【0023】
また、本発明の識別マークを有する貴重印刷物は、低摩擦要素、高摩擦要素及び第2の要素が、凹形状及び凸形状の少なくとも一つ又は組み合わせにより形成されていることを特徴とする。
【0024】
また、本発明の識別マークを有する貴重印刷物は、低摩擦要素、高摩擦要素及び第2の要素が、凹形状における深さ方向の形状及び/又は凸形状における盛り上がり形状が、多角形又は楕円形であることを特徴とする。
【0025】
また、本発明の識別マークを有する貴重印刷物は、低摩擦要素、高摩擦要素及び第2の要素の凹形状の深さ及び/又は凸形状の高さが、すべて同じ又は少なくとも一つが異なることを特徴とする。
【0026】
また、本発明の識別マークを有する貴重印刷物は、第1の要素及び第2の要素が、エンボス、凹版印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、凸版印刷、レーザ加工及びすき入れのいずれか一つ又は組合せにより形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、基材上に形成された凹凸形状の識別マークの低摩擦抵抗と高摩擦抵抗を利用した識別が可能となり、単純な凹凸状による識別よりも、指先に与える触感が向上するため、より正確な識別を行うことが可能となる。
【0028】
また、本発明は、基材上の二つの領域に形成された凹凸形状の識別マークを重ね合わせることにより、一方の領域の凹凸形状の高低差と、他方の領域の凹凸形状の高低差の、二つの高低差が合わさるため、従来のような単体による識別マークよりも、2倍程度の高低差が生じることとなり、触感による十分な識別を行うことが可能となる。
【0029】
また、本発明は、前述のとおり、従来の識別マークよりも2倍程度の高低差を利用した識別が行えるため、市場における流通過程において、摩擦や圧力等により識別マークの凹凸形状に多少の変形が加わっても、従来の識別マークよりも十分な識別機能を維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の識別マークを有する貴重印刷物の一例を示す図である。
【図2】第1の識別領域及び第2の識別領域の一例を示す図である。
【図3】第1の識別領域を説明する平面図である。
【図4】第1の識別領域を説明する断面図である。
【図5】低摩擦要素の形態の例を示す図である。
【図6】低摩擦要素における非画線部を説明する図である。
【図7】高摩擦要素の別の形態を示す図である。
【図8】第1の要素及び第2の要素の別の形態を示す図である。
【図9】第1の要素及び第2の要素の別の形態を示す図である。
【図10】第2の識別領域を説明する図である。
【図11】第1の要素及び第2の要素の凸形状及び凹形状の形状を説明する図である。
【図12】低摩擦領域と第2の識別領域を重ね合わせた状態を説明する図である。
【図13】高摩擦領域と第2の識別領域を重ね合わせた状態を説明する図である。
【図14】低摩擦領域と第2の識別領域を重ね合わせた状態を説明する図である。
【図15】本発明の識別方法を説明する図である。
【図16】第1の識別領域の形態の一例を示す図である。
【図17】第1の識別領域の形態の別の例を示す図である。
【図18】実施例1における識別マークを有する貴重印刷物を示す図である。
【図19】実施例1における第2の識別領域を説明する図である。
【図20】実施例1における第1の識別領域を説明する図である。
【図21】実施例2における識別マークを有する貴重印刷物を示す図である。
【図22】実施例2における第2の識別領域を説明する図である。
【図23】実施例2における第1の識別領域を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の実施形態について図面を用いて説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな形態が実施可能である。
【0032】
図1は、本発明における識別マークを有する真偽判別形成体(1)の一例を示す図である。本発明の真偽判別形成体(1)は、図1(a)に示すように、基材(2)の同一表面上の異なる領域又は図1(b)に示すように、基材の異なる面に、第1の識別領域(3)及び第2の識別領域(4)を有している。
【0033】
本発明の真偽判別形成体は、この第1の識別領域(3)と第2の識別領域(4)を重ね合わせて、所定の方向にずらしていくことにより、低摩擦抵抗と高摩擦抵抗を利用して識別するものである。
【0034】
第1の識別領域(3)及び第2の識別領域(4)を形成する基材については、紙、プラスチック、金属等、凹版印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷又は凸版印刷が可能な基材及びすき入れ加工、レーザ加工並びにエンボス加工が可能な基材であれば特に限定されない。なお、基材全体が前述の材質でもよいが、第1の識別領域(3)及び第2の識別領域(4)を設ける領域のみが前述した材質でもよい。
【0035】
第1の識別領域(3)には、図2(a)に示すように、第1の要素(5)が万線状に複数配置されており、第2の識別領域(4)には、図2(b)に示すように、第2の要素(6)が万線状に複数配置されている。
【0036】
それぞれの識別領域について、以下、詳細に説明する。まず、第1の識別領域(3)は、図3(a)に示すように、万線状に配列されている第1の要素(5)が、第1の方向(S)と第2の方向(S)に角度を異ならせて配列されて低摩擦領域(7)と高摩擦領域(8)に区分けされている。なお、低摩擦領域(7)を構成している第1の要素(5)を、以下、低摩擦要素(9)といい、高摩擦領域(8)を構成している第1の要素(5)を、以下、高摩擦要素(10)という。
【0037】
なお、本発明における低摩擦及び高摩擦の定義は、第2の識別領域(4)を重ね合わせて擦る際に、第1の識別領域(3)内において摩擦抵抗を大きく感じることを高摩擦とし、その高摩擦よりも摩擦抵抗が小さく感じることを低摩擦とするもので、第1の識別領域(3)以外の領域である基材自体や、他の印刷模様、すき入れ模様及びホログラム等、同じ基材上に施されている他の各種構成要素に対して摩擦抵抗が高い及び低いということを示すものではない。
【0038】
この第1の方向(S)と第2の方向(S)は、30°〜90°の範囲内での角度の差を有していればよいが、好ましくは60°〜90°である。なお、第1の方向(S)と第2の方向(S)の角度の差が90°以上となる場合は、一方の方向、例えば、第1の方向(S)を基準として考えると、第2の方向(S)の始点を逆側に考えれば、やはり30°〜90°の範囲ということになり、所謂、第1の方向に対して±30°〜90°の角度となる。そこで、本発明における第1の方向(S)と第2の方向(S)との差異は、総称して30°〜90°としている。この両方の角度の差を30°よりも小さくすると、本発明の効果となる低摩擦領域(7)と高摩擦領域(8)との触感による識別が明確にできなくなってしまう。
【0039】
低摩擦領域(7)を形成する万線状に配列されている低摩擦要素(9)のピッチ(P)は、後述する第2の識別領域(4)の第2の要素(6)との間で、平滑性を有する配列となっていればよいため、特に規則性には限定されず、60〜200μmの範囲内であればよく、図3(b)のように、一つの低摩擦領域(7)内において異なっていてもよい。ただし、デザイン上、規則的なピッチで配列されることが好ましい。
【0040】
また、低摩擦領域(7)は、図3(a)に示すように、高摩擦領域(8)を挟んで少なくとも二つ配置されることとなるが、この少なくとも二つの低摩擦領域(7)において、図3(b)に示すように、二つの低摩擦領域(7)における低摩擦要素(9)のピッチが異なっていてもよく、三つ以上配置されている場合、すべてのピッチが異なっていてもよい。ただし、前述のとおり、デザイン上、同一ピッチであることが好ましい。
【0041】
前述のとおり、低摩擦領域(7)が高摩擦領域(8)を挟んで配置されるということは、低摩擦領域(7)と高摩擦領域(8)が交互に配置されるということであるが、本発明の識別効果を奏するために、第1の識別領域(3)に対して、一方向からのずらしをおこなうものとは限らないことから、低摩擦領域(7)は第1の識別領域(3)の両側に配置される必要があり、そのために、低摩擦領域(7)は高摩擦領域(8)よりも一つ多く配置されることとなる。例えば、第1の識別領域(3)において、高摩擦領域(8)を二つ配置する場合、低摩擦領域(7)は三つ配置され、それぞれが交互に配置される。
【0042】
また、低摩擦要素(9)の要素幅(W)(図3における画線幅)は、30〜1000μmの範囲で形成する。30μmより細く形成すると、後述する盛りの高さを形成することが困難となってしまい、また、1000μmよりも太いと、違和感のあるデザインとなってしまうからである。
【0043】
さらに、図3(c)に示すように、高摩擦領域(8)を挟む二つの低摩擦領域(7)を構成する低摩擦要素(9)は、第1の方向(S)に異なる配列角度(θ)及び(θ)を有して配列されてもよい。
【0044】
本実施の形態では、低摩擦領域(7)を構成する低摩擦要素(9)は、同一ピッチで配列し、また、第1の方向(S)に対する配列角度(θ)は、高摩擦領域(8)を構成する第2の要素(6)に対して90°(垂直)として配置することとして説明する。
【0045】
図4(a)は、図3(a)の低摩擦領域(7)におけるA1−A2の断面図であり、図4(b)は、図3(a)の第1の識別領域(3)におけるB1−B2の断面図である。図4(a)及び(b)では、第1の要素(5)である低摩擦要素(9)及び高摩擦要素(10)を、所定の盛り上がり(h)を有するインキにより形成しているが、すき入れ加工、レーザ加工又はエンボス加工によって、基材に対して所定の凹部を形成してもよい。更には、低摩擦要素(9)を凹部により形成し、高摩擦要素(10)を盛り上がりを有するインキにより形成してもよく、またその逆でもよいが、デザインを考慮すると、低摩擦要素(9)及び高摩擦要素(10)は同じ形成方法とすることが好ましい。本実施の形態では、盛り上がりを有するインキによって各要素を形成している例で説明する。
【0046】
この盛り上がりを有するインキを基材上に形成するためには、凹版印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷又はフレキソ印刷を用いる。また、凸版印刷を用いることも可能であるが、その場合には、発泡インキを用いることが必要となる。盛り上がりを形成するために好適な印刷方法としては、凹版印刷を用いるとよい。なお、盛り上がりの高さ(h)については、基材自体の厚さに依存することや、インキの盛り状態にも限度があるため、20〜150μmの範囲で形成する。
【0047】
なお、前述した発泡インキとは、インキ中に少なくとも発泡剤が配合されているインキであり、加熱することにより、配合してある発泡剤が発泡してインキ層が隆起するものである。この発泡インキには、プラスチゾルインキ、水性インキ又は有機溶剤型インキ等があるが、本発明では、インキが隆起して盛り上がりを形成すればよいため、使用する種類は特に限定されない。
【0048】
低摩擦領域(7)についても、盛り上がりを有するように形成することで、基材との高低差を利用して、識別マークが形成されている箇所の把握をすることが可能となることと、高摩擦領域(8)との高低差を無くすことにより、スムーズに低摩擦領域(7)から高摩擦領域(8)へ基材を擦り合わせることが可能となる。
【0049】
また、図2〜図4においては、第1の要素(5)は、画線が複数配列されて万線状に形成されているが、この第1の要素(5)の画線は、直線に限定されず、図5(a)〜(c)に示すように、点線、波線又は破線であってもよく、更には、後述する微小な文字を画線状に複数配置してもよい。ただし、低摩擦要素(9)については、後述する本発明の効果となる第2の要素(6)との摩擦抵抗の関係で、第1の識別領域(3)と第2の識別領域(4)を重ね合わせて、所定の方向に向けて擦り合わせた際、極力摩擦抵抗を小さくする必要があるため、直線によって形成することが好ましい。本発明における画線とは、前述した直線、点線、波線、破線及び後述する微小な文字を複数画線状に配置したもの並びに網点及び画素を複数画線状に配置したものをすべて含むものである。
【0050】
低摩擦要素(9)を点線又は破線によって形成する場合は、図6(a)に示す非画線部(x)の範囲を短くする必要がある。非画線部(x)を長くしてしまうと、第2の要素(6)をこすり合わせた場合に、摩擦抵抗が大きくなってしまい、低摩擦領域(7)と高摩擦領域(8)との摩擦抵抗の差異が明確とはならず、適正な識別が困難となってしまう。したがって、非画線部(x)の距離は、10〜300μmの範囲で形成する。
【0051】
さらに、点線及び破線によって低摩擦要素(9)を形成する場合には、図6(b)に示すように、非画線部(x)を配置する位置が、点線又は破線が引かれた方向に対して垂直方向の同一線上に配置されてしまうと、その位置において段差が生じ、摩擦抵抗が大きくなってしまうため、図6(c)及び(d)に示すように、各低摩擦要素(9)内の非画線部(x)を配置する位置を、点線又は破線が引かれた方向に対して、垂直方向の同一線上に配置しないことが好ましい。
【0052】
また、高摩擦要素(10)についても、直線に限らず、点線、波線又は破線であってもよく、更には、図7(a)又は(b)に示すように、網点又は画素であってもよい。高摩擦領域(6)は、前述した低摩擦領域(5)に対して摩擦抵抗が高くなる配列となればよいため、万線状に配列される各高摩擦要素(10)の形状より、隣り合う高摩擦要素(10)同士とのピッチ(P)が重要となる。したがって、仮に高摩擦要素(10)を点線、破線、網点又は画素によって形成したとしても、それぞれの非画線部(x)の距離は、低摩擦要素(9)のような限定はなく、また、隣り合う高摩擦要素(10)同士における非画線部(x)の配置も、同じ直線上にならないような、好ましい配置の限定は特にない。
【0053】
図8に、第1の要素(5)のその他の例を示す。図8(a)は、複数配列された第1の要素(5)に対して、一定の間隔で斜め方向に非画線部(x)を設けたものであるが、同一形状の平行四辺形を直線状に配置した画線としても同様である。図8(b)は、第1の要素(5)を斜め方向に配列したものである。
【0054】
図8(c)は、微小な文字を直線状に配置して画線としたものであり、図8(d)は、第1の要素(5)を画線で形成し、その一本一本の画線内に白抜きの微小文字を形成したものである。図8(c)及び図8(d)はいずれも肉眼では視認困難な程度の大きさで形成されているため、肉眼では、単に画線として視認されるが、ルーペ等により拡大すると、微小な文字を視認することができ、更なる偽造防止効果を奏することも可能となる。ただし、いずれの微小文字についても、前述したように、本発明の識別機能を損なう形状及び配置とならないよう、各文字同士のピッチ及び一つの用語(例えば、図8(c)の「JAPAN」)同士の間隔に注意する必要がある。なお、図8(c)のような微小文字を用いる場合には、微小文字を画線状に配置して一本の画線として認識させる必要があるため、文字の字高は画線幅の範囲である30〜1000μmの範囲とする。
【0055】
低摩擦要素(9)、高摩擦要素(10)及び第2の要素(6)は、複数配列された各要素同士が、直線に限らず、点線、破線、波線、微小文字又は網点を画線状に配置してもよいことは述べたが、図9に示すように、一つの要素において、点線、破線、波線、微小文字又は網点を組み合わせて配置してもよい。
【0056】
例えば、図9に示すように、図9(a)は、一つの低摩擦要素(9)において、途中まで直線で形成し、途中から微小文字で形成してもよく、また、図9(b)においては、一つの低摩擦要素(9)において、点線と網点と直線を用いて形成している。
【0057】
高摩擦領域(8)を構成する複数配列された高摩擦要素(10)のピッチ(P)は、第2の要素(6)の要素幅と同じ又は広くする必要がある。第2の要素(6)よりもピッチ(P)を狭くしてしまうと、複数配列された高摩擦要素(10)同士の間に第2の要素(6)が嵌め合わされなくなってしまい、低摩擦領域(7)との摩擦抵抗の差異が生じなくなってしまうためである。この第2の要素(6)との関係については、本発明の識別の原理のところで説明することとする。
【0058】
高摩擦要素(10)についても、低摩擦要素(9)と同様、要素の幅(W)(図3における画線幅)は、30〜1000μmの範囲で形成する。ただし、高摩擦要素(10)については、前述したとおり、低摩擦要素(9)とは意図する目的が異なるため、第2の要素(6)の要素幅との関係が重要となる。
【0059】
また、高摩擦要素(10)についても、低摩擦要素(9)と同様、盛り上がりを有するインキを用いて形成する。したがって、高摩擦要素(10)の盛り上がりの高さ(h)についても、低摩擦要素(9)の盛り上がりの高さ(h)と同様、20〜150μmの範囲で形成する。なお、低摩擦要素(9)と高摩擦要素(10)の盛りの高さについては、必ずしも同じ高さで形成する必要はなく、異なっていてもよい。ただし、デザイン設計を考慮すると、低摩擦要素(9)と高摩擦要素(10)のピッチ、幅及び高さは同じとすることが好ましい。
【0060】
次に、第2の識別領域(4)について、説明する。第2の識別領域(4)は、第1の識別領域(3)が形成されている同一基材に形成されている。ただし、識別を行うために、第1の識別領域(3)と第2の識別領域(4)を重ね合わせて擦り合わせる必要があるため、少なくとも基材を折り曲げ又は丸めた場合に、各領域を重ね合わせることが可能な箇所に形成する必要がある。したがって、好ましくは、基材の長辺方向の中心に対して第1の識別領域(3)が形成された箇所と対称となる箇所に形成する。
【0061】
図1(b)に示したように、第1の識別領域(3)と第2の識別領域(4)を、基材の表裏に形成する場合でも、基材の長辺方向の中心に対して、対称となる箇所に形成することが好ましい。
【0062】
第2の識別領域(3)には、図10(a)に示すように、第2の要素(6)が第3の方向(S)に複数万線状に配列されている。この第3の方向(S)については、第2の識別領域(4)と第1の識別領域(3)の高摩擦領域(8)との摩擦抵抗により識別を行うものであるため、高摩擦領域(8)を形成している高摩擦要素(10)が配列されている第2の方向(S)と同じ方向であることが好ましい。同じ方向とすることで、識別を行う際に、基材を長辺方向において中心線で折り曲げ又は丸めることにより、高摩擦要素(10)の配列方向と第2の要素(6)の配列方向が同一方向となり、適正な識別が行えることとなる。
【0063】
なお、第2の方向(S)と第3の方向(S)を同一方向としなくても、識別を行う際に、高摩擦要素(10)と第2の要素(6)が同一方向となるように重ね合わせればよい。ただし、その場合には、基材を長辺方向に対して中心線で折り曲げ又は丸めただけでは適正に高摩擦要素(10)と第2の要素(6)が重なりあわないため、基材自体を若干ねじるように折り曲げ又は丸める必要がある。したがって、基材をねじることが可能な角度としては45°が限界であるため、第2の方向(S)と第3の方向(S)の角度の関係は±45°ということになり、好ましくは同一方向となる。
【0064】
また、第2の要素(6)の形状については、低摩擦要素(9)との間で、摩擦抵抗を少なくする必要があるため、直線で形成することが好ましい。仮に低摩擦要素(9)が直線で形成されている場合には、第2の要素(6)を点線、波線、破線又は画線状に配置された複数の文字等によって形成しても摩擦抵抗が少なければ問題ない。
【0065】
第2の要素(6)の要素幅(W)及びピッチ(P)は、前述したとおり、高摩擦要素(10)との関係が重要となる。高摩擦要素(10)と第2の要素(6)が重なりあった状態で一定方向に基材をずらして行くことにより、高摩擦要素(10)と第2の要素(6)の凹凸形状がこすれて摩擦抵抗が大きくなることを利用して識別を行うものであるため、高摩擦要素(10)の盛り上がり部分が第2の要素(6)同士の間に嵌るような状態とならなければならない。したがって、第2の要素(6)も図10(b)に示すように、盛り上がりを有するインキによって形成することが好ましい。なお、第2の要素(6)の盛り上がり高さ(h)についても、低摩擦要素(9)及び高摩擦要素(10)と同様、20〜150μmの範囲で形成する。ただし、低摩擦要素(9)及び高摩擦要素(10)の盛り上がり高さと同一としなくてもよい。
【0066】
第1の要素(5)である低摩擦要素(9)及び高摩擦要素(10)並びに第2の要素(6)については、盛り上がりを有する形状となるが、その盛り上がり形状については図11(a)〜(c)に示すように、長方形、三角形等の多角形又は楕円形で、盛り上がりを形成可能な形状であれば特に限定はない。
【0067】
同様に、第1の要素(5)である低摩擦要素(9)及び高摩擦要素(10)並びに第2の要素(6)については、前述したように、凹部によって形成してもよく、その凹部の形状についても、図11(d)〜(f)に示すように、長方形、三角形等の多角形又は楕円形で、凹部を形成可能な形状であれば特に限定はない。なお、凹部に形成する場合の深さについては、基材の厚みにもよるが、盛り上がり高さと同様、20〜150μmの範囲で形成する。
【0068】
高摩擦要素(10)と第2の要素(6)が嵌め合わさる関係を有するためには、例えば、高摩擦要素(10)の要素幅(w)が隣り合う第2の要素(6)同士の間に嵌る必要があり、その際に、逆に第2の要素(6)が隣り合う高摩擦要素(10)同士の間に嵌る必要があるため、隣り合う高摩擦要素(10)同士の間隔は、第2の要素(6)の要素幅(w)以上、隣り合う第2の要素(6)同士の間隔は、高摩擦要素(10)の要素幅(w)以上を有することとなる。所謂、高摩擦要素(10)のピッチ(P)―高摩擦要素(10)の要素幅(w)≧第2の要素(6)の要素幅(w)、かつ、第2の要素(6)のピッチ(P)―第2の要素(6)の要素幅(w)≧高摩擦要素(10)の要素幅(w)の関係を有する。したがって、仮に双方の要素幅を同一とすれば、双方のピッチは少なくとも要素幅の2倍以上を有することとなる。なお、第2の要素(6)のピッチ(P)も、低摩擦要素(9)及び高摩擦要素(10)と同様、60〜2000μmの範囲で形成する。
【0069】
また、第2の要素(6)の要素幅(w)も、低摩擦要素(9)及び高摩擦要素(10)と同様、30〜1000μmの範囲で形成する。
【0070】
次に、第1の識別領域(3)と第2の識別領域(4)とを重ね合わせて識別する原理について説明する。図12は、本発明における真偽判別形成体を用いて識別を行う状態を示す図である。図12(a)は、まず、真偽判別形成体の基材を所定の位置において折り曲げ、第1の識別領域(3)の低摩擦領域(7)と第2の識別領域(4)を重ね合わせた状態を示す図である。この低摩擦領域(7)と第2の識別領域(4)を重ね合わせた状態は、低摩擦領域(7)を形成している低摩擦要素(9)が第1の方向(S)(図面上では、基材底辺に対して水平方向)に配列されており、第2の識別領域(4)を形成している第2の要素(6)が第3の方向(S)(図面上では、基材底辺に対して垂直方向)に配列されているため、それぞれの要素は、直交している関係である。したがって、重ね合わせたときには、図12(b)に示すように、それぞれの要素が点接触(M)となっている。そのため、第2の識別領域(4)と低摩擦領域(7)の摩擦抵抗は少ない状態である。
【0071】
前述の第1の識別領域(3)の低摩擦領域(7)と第2の識別領域(4)を重ね合わせた状態から、基材を所定の方向(高摩擦領域(8)へ向かう方向)へずらした状態が図13(a)である。この状態では、高摩擦要素(10)が配列されている第2の方向(S)(図面上では、基材底辺に対して垂直方向)と、第2の要素(6)が配列されている第3の方向(S)(図面上では、基材底辺に対して垂直方向)が同一方向であるため、万線状に配列された高摩擦要素(10)と第2の要素(6)は、ある位置では線接触(M)の状態となり、その位置から若干ずれると高摩擦要素(10)同士の間に第2の要素(6)が嵌め込まれた状態となる。その状態を図示したのが図13(b)である。
【0072】
図13(b)の状態を、基材上方から見た模式図が図13(c)であり、双方の要素同士が重なり合っている場合には、線接触(M)の状態であり、そこから若干基材をずらすと、一方の要素間に他方の要素が嵌め込まれた状態となる。
【0073】
この高摩擦領域(8)と第2の識別領域(4)を重ね合わせながら基材をずらしていくことで、低摩擦領域(7)と第2の識別領域(4)を重ね合わせながら基材をずらしていくときの摩擦抵抗よりも大きな摩擦抵抗を感じることとなる。更には、高摩擦要素(10)と第2の要素(6)が、線接触(M)の状態と一方の要素間に他方の要素が嵌め込まれた状態とでは、上下方向(基材表面に対して垂直方向)に対して高低差を生じることとなり、基材(それぞれの領域)を指で押さえながら一定方向(ここでは、第2の方向(S)及び第3の方向(S)へずらしていくことで、その高低差を連続的に感じることが可能となる。
【0074】
従来の識別マークでは、一つの領域に凹凸形状による識別マークが形成されていただけであるため、識別を行う際には、指によりその凹凸形状を感じるもので、その凹凸形状の高低差はインキの盛り又は基材の凹みだけとなっていたが、本発明の高低差は、前述のとおり、二つの領域を重ね合わせることで、従来の識別マークよりも少なくとも2倍の高低差を有することとなり、指による触感もかなり強く感じることが可能である。
【0075】
さらに、第1の識別領域(3)の高摩擦領域(8)と第2の識別領域(4)を重ね合わせた状態から、基材を所定の方向(低摩擦領域(7)へ向かう方向)へずらした状態が図14である。この状態は、前述した最初に第1の識別領域(3)の低摩擦領域(7)と第2の識別領域(4)を重ね合わせた状態と同じであり、再び低摩擦要素(9)と第2の要素(6)は点接触(M)の状態となるため、高摩擦領域(8)と第2の識別領域(4)を重ね合わせながらずらしていく際の摩擦抵抗よりも、摩擦抵抗は少なくなる。重ね合わせた際の状態は、図12の状態と同様であるため、詳細は省略する。
【0076】
以上の本発明における識別方法の一連の流れを図示したのが図15である。それぞれの状態の詳細は前述のとおりであるため省略するが、図15(a)の状態から図15(d)の状態まで基材を連続的に重ね合わせながらずらしていくことで、図15(a)の摩擦抵抗が少ない状態から、図15(b)及び図15(c)の摩擦抵抗の多い状態へと移り、再度図15(d)の摩擦抵抗の少ない状態へと移行していく。
【0077】
以上の説明は、本発明における識別方法の基本的な原理であるが、本発明の目的としては、同じ種類の印刷物、例えば銀行券又は商品券等において、製品価値の異なる種別、例えば、銀行券における千円、五千円及び一万円のような券種種別を触感により識別することであるため、1種類の印刷物に対して、前述した触感を認識するだけでは本来の識別機能を有していないこととなる。そこで、次に異なる種別を識別するための例を説明する。
【0078】
本発明では、低摩擦領域(7)と高摩擦領域(8)を隣接して配置することにより、その触感の違いを認識するものであるため、異なる種別を識別するためには、種別ごとに低摩擦領域(7)と高摩擦領域(8)の配置を異ならせればよい。
【0079】
例えば、図16に同じ種類の印刷物において、異なる券種に形成された識別マークを示す。図16(a)は、二つの低摩擦領域(7)の間に一つの高摩擦領域(8)を形成した形態であり、図16(b)は、三つの低摩擦領域(7)と二つの高摩擦領域(8)を形成し、低摩擦領域(7)と高摩擦領域(8)を交互に配置している。また、図16(c)は、図16(a)に対して配列方向を90°異ならせて形成した形態である。なお、第2の識別領域(4)は、いずれも同じ形態である。
【0080】
図16(a)から(c)に示した識別マークを、それぞれ異なる券種に形成することで、識別を行う者が、摩擦抵抗による触感により、高い摩擦抵抗を感じる領域が一つであるか、二つであるか、その触感を感じる向きがどの方向であるかによって、券種を識別することが可能となる。
【0081】
図16では、高摩擦領域(8)が配置されている数及び識別を行う方向によって、それぞれを異ならせて識別を行う一例を示したが、本発明はこれに限定されず、図17に示すように、低摩擦領域(7)や高摩擦領域(8)の領域の長さ(z)によっても識別は可能であり、本発明の基本的な原理を用いれば、適宜設計することが可能である。
【0082】
図17では、高摩擦領域(8)の長さを券種ごとに異ならせた例を示している。図17(a)では、高摩擦領域(8)の長さが(Z)であるのに対し、図17(b)では、その2倍の(2Z)の長さを有し、更に図17(c)では、3倍の(3Z)の長さを有している。これにより、高い摩擦抵抗を感じる長さの差異により、券種を識別することが可能となる。
【0083】
本発明における識別マークについては、資産価値を有する銀行券、商品券等に活用することが可能となるが、パスポートにおいても、5年用及び10年用のパスポートの識別を行うため、パスポートの所定のページに形成することでもよい。
【0084】
以下、本発明における識別マークについて、実施例を用いて詳細に説明するが、以下の実施例に限定されることはなく、特許請求の範囲に記載された技術的な範疇であれば、適宜、変更が可能なことは言うまでもない。
【実施例1】
【0085】
実施例1として、図18に示す商品券(11)に対して、基材(12)両端の下部に識別マークとなる第1の識別領域(13)と第2の識別領域(14)を形成した。両方の領域は、凹版印刷を用いて、第1の要素(15)及び第2の要素(16)が画線幅200μm及び画線ピッチは500μmで万線状に配列されている。なお、各要素の画線高さは50μmとなっている。
【0086】
実施例1における商品券(11)は、図18に示した千円の商品券と、図示しない五千円及び一万円の商品券がある。それぞれの商品券に形成された識別マークは、前述の金額以外に識別マークの構成が異なっている。そこで、各商品券における識別マークについて図19及び図20を用いて説明する。
【0087】
図19(a)は、種別(金額)の異なる三つの商品券に共通に形成されている第2の識別領域(14)を真上から見た図であり、第2の要素(16)が画線幅200μm及び画線ピッチが500μmで、第3の方向(S)に万線状に配列されている。また、図19(a)のC1−C2における断面図が図19(b)であり、50μmの画線高さを有している。なお、五千円の商品券(11)に形成されている第2の識別領域(14)については、形状は他の商品券に形成されている第2の識別領域(14)の形状と同様であるが、配置されている向きについては、90°回転させた方向に配置されている。
【0088】
図20は、実施例1の商品券(11)に形成されている識別マークであり、図20(a)は、千円の商品券(11)に形成されている第1の識別領域(13)を示し、低摩擦要素(19)である画線が第1の方向(S)に万線状に配列された低摩擦領域(17)が二つ形成され、その二つの低摩擦領域(17)の間に、高摩擦要素(20)である画線が第2の方向(S)に万線状に配列された高摩擦領域(18)が形成されている。前述のとおり、第1の識別領域(13)を構成している各画線は、第2の識別領域(14)を構成している画線と、画線幅、ピッチ及び画線の高さはすべて等しい。
【0089】
図20(b)は、五千円の商品券(11)に形成されている第1の識別領域(13)を示し、前述した千円の商品券に形成されている第1の識別領域(13)を90°回転させた形状となっている。したがって、低摩擦要素(19’)である画線が配列されている第1の方向(S)と、高摩擦要素(20’)である画線が配列されている第2の方向(S)は、千円の商品券に形成されている第1の識別領域(13)を形成している各画線の方向とは90°異なっていることとなる。
【0090】
図20(c)は、一万円の商品券(11)に形成されている第1の識別領域(13)を示し、前述した千円の商品券に形成されている第1の識別領域(13)と同じ方向に、低摩擦要素(19’’)及び高摩擦要素(20’’)の画線が配列されているが、低摩擦領域(17’’)が三つ、高摩擦領域(18’’)が二つ配置され、それぞれの領域が交互に配置されている。
【0091】
以上説明した各種別(金額)が異なる商品券において、商品券を長辺方向に対して略中央で折り曲げ、第1の識別領域(13)と第2の識別領域(14)を重ね合わせ、一定方向に向かって擦り合わせてみると、千円の商品券は、長辺方向に1回の高い摩擦抵抗を感じる領域が存在していることを得、五千円の商品券は、短辺方向に1回の高い摩擦抵抗を感じる領域が存在していることを得、一万円の商品券は、長辺方向に2回の高い摩擦抵抗を感じる領域が存在していることを得ることができ、それぞれの種別を識別することができた。
【実施例2】
【0092】
実施例2として、図21に示す商品券(21)に対して、基材(22)両端の下部に識別マークとなる第1の識別領域(23)と第2の識別領域(24)を形成した。両方の領域は、YAGレーザを用いて、第1の要素(25)及び第2の要素(26)が画線幅150μm及び画線ピッチは300μmで、凹部として形成されて万線状に配列されている。なお、各要素の画線深さ40μmとなっている。
【0093】
実施例2における商品券(21)は、図21に示した千円の商品券と、図示はしていないが、五千円及び一万円の商品券がある。それぞれの商品券に形成された識別マークは、前述の金額以外に識別マークの構成が異なっている。そこで、各商品券における識別マークについて図22を用いて説明する。
【0094】
図22(a)は、種別(金額)の異なる三つの商品券に共通に形成されている第2の識別領域(24)を真上から見た図であり、第2の要素(26)が画線幅150μm及び画線ピッチが300μmで、第3の方向(S)に万線状に配列されている。また、図22(a)のC1−C2における断面図が図22(b)であり、40μmの画線深さを有している。
【0095】
図23は、実施例2の商品券(21)に形成されている識別マークであり、図23(a)は、千円の商品券(21)に形成されている第1の識別領域(23)を示し、低摩擦要素(29)である画線が第1の方向(S)に万線状に配列された低摩擦領域(27)が二つ形成され、その二つの低摩擦領域(27)の間に、高摩擦要素(30)である画線が第2の方向(S)に万線状に配列された高摩擦領域(28)が形成されている。なお、本実施例2における低摩擦要素(29)は、破線による画線にて形成されており、非画線部(X)は、隣り合う画線において同一線上には配置されていない。また、非画線部(X)の長さは50μmとなっている。前述のとおり、第1の識別領域(23)を構成している各画線は、第2の識別領域(24)を構成している画線と、画線幅、ピッチ及び画線の深さはすべて等しい。
【0096】
図23(b)は、五千円の商品券(21)に形成されている第1の識別領域(23)を示し、前述した千円の商品券に形成されている高摩擦領域(28)の長さ(Z)の2倍の長さ(2Z)を有する高摩擦領域(28’)となっている。その高摩擦領域(28’)の長さ以外の構成については、千円の商品券に形成されている第1の識別領域(23)と同様であるため省略する。
【0097】
図23(c)は、一万円の商品券(21)に形成されている第1の識別領域(23)を示し、前述した千円の商品券に形成されている高摩擦領域(28)の長さ(Z)の3倍の長さ(3Z)を有する高摩擦領域(28’’)となっている。その高摩擦領域(28’’)の長さ以外の構成については、千円の商品券に形成されている第1の識別領域(23)と同様であるため省略する。
【0098】
以上説明した各種別(金額)が異なる商品券において、商品券を長辺方向に対して略中央で折り曲げ、第1の識別領域(23)と第2の識別領域(24)を重ね合わせ、一定方向に向かって擦り合わせてみると、千円の商品券は、長辺方向に1回の高い摩擦抵抗を感じる領域が存在していることを得、五千円の商品券は、長辺方向に1回の高い摩擦抵抗を感じる領域が千円の商品券よりも長く感じることを得、一万円の商品券は、長辺方向に1回の高い摩擦抵抗を感じる領域がかなり長く感じることを得ることができ、それぞれの種別を識別することができた。
【符号の説明】
【0099】
1、11、21 真偽判別形成体
2、12、22 基材
3、13、23 第1の識別領域
4、14、24 第2の識別領域
5、15、25 第1の要素
6、16、26 第2の要素
7、17、17’、17’’、27、27’、27’’ 低摩擦領域
8、18、18’、18’’、28、28’、28’’ 高摩擦領域
9、19、19’、19’’、29、29’、29’’ 低摩擦要素
10、20、20’、20’’、30、30’、30’’ 高摩擦要素
低摩擦要素のピッチ
高摩擦要素のピッチ
第1の方向
第2の方向
第3の方向
低摩擦要素の幅
高摩擦要素の幅
X 非画線部
θ 低摩擦要素と高摩擦要素との配置角度
h 要素の盛り高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の同一表面上又は異なる面に、凹形状及び/又は凸形状の要素から成る二つの領域が形成され、前記二つの領域を重ね合わせて所定の方向にずらしていくことで得られる触感により識別可能な識別マークを有する貴重印刷物であって、
前記要素から成る二つの領域は、第1の要素と第2の要素で構成され、
前記二つの領域の一方は、前記第1の要素の配列方向を異ならせたことで摩擦抵抗を変化させる第1の識別領域から成り、
前記二つの領域のもう一方は、前記第2の要素が一定の方向に複数配列され、前記第1の識別領域と重ね合わされる第2の識別領域から成っており、
前記第1の識別領域は、前記第1の要素が第1の方向に複数配列された低摩擦要素となる少なくとも二つの低摩擦領域と、前記第1の要素が前記第1の方向と異なる第2の方向に複数配列された高摩擦領域となる少なくとも一つの高摩擦領域から成り、前記低摩擦領域と前記高摩擦領域は、交互に配置され、
前記第2の識別領域は、前記第2の要素が第3の方向に複数配列されて成ることを特徴とする識別マークを有する貴重印刷物。
【請求項2】
前記第1の識別領域の前記交互に配置された、前記低摩擦領域と前記高摩擦領域は、交互に、かつ、前記低摩擦領域が前記高摩擦領域より一つ多く配置されていることを特徴とする請求項1記載の識別マークを有する貴重印刷物。
【請求項3】
前記高摩擦要素の要素幅は、前記第2の要素の隣り合う要素同士の間隔よりも狭い又は前記第2の要素の要素幅は、前記高摩擦要素の隣り合う要素同士の間隔よりも狭いことを特徴とする請求項1又は2記載の識別マークを有する貴重印刷物。
【請求項4】
前記第2の方向と前記第3の方向が同一方向であることを特徴とする請求項1乃至3記載の識別マークを有する貴重印刷物。
【請求項5】
前記第1の方向と前記第2の方向の異なる角度は、30°〜90°の範囲であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項記載の識別マークを有する貴重印刷物。
【請求項6】
前記第1の識別領域において、少なくとも二つの前記低摩擦領域を構成する前記低摩擦要素の配列角度が、前記低摩擦領域同士で異なっていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項記載の識別マークを有する貴重印刷物。
【請求項7】
前記第1の識別領域において、少なくとも二つの前記低摩擦領域を構成する前記低摩擦要素のピッチが、前記低摩擦領域同士で異なっていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項記載の識別マークを有する貴重印刷物。
【請求項8】
前記複数配列された低摩擦要素及び第2の要素は、直線、点線、波線、破線及び画線状に配置された複数の文字の一つ又は組み合わせから成り、前記複数配列された高摩擦要素は、直線、点線、波線、破線、網点及び画線状に配置された複数の文字の一つ又は組み合わせから成ることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項記載の識別マークを有する貴重印刷物。
【請求項9】
前記低摩擦要素及び第2の要素は、一つの要素内において、直線、点線、波線、破線及び画線状に配置された複数の文字の一つ又は組み合わせから成り、前記高摩擦要素は、一つの要素内において、直線、点線、波線、破線、網点及び画線状に配置された複数の文字の一つ又は組み合わせから成ることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項記載の識別マークを有する貴重印刷物。
【請求項10】
前記低摩擦要素、前記高摩擦要素及び前記第2の要素は、すべての要素が凹形状又は凸形状から成ることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項記載の識別マークを有する貴重印刷物。
【請求項11】
前記低摩擦要素、前記高摩擦要素及び前記第2の要素は、凹形状及び凸形状の少なくとも一つ又は組み合わせにより形成されていることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項記載の識別マークを有する貴重印刷物。
【請求項12】
前記低摩擦要素、前記高摩擦要素及び前記第2の要素は、凹形状における深さ方向の形状及び/又は凸形状における盛り上がり形状が、多角形又は楕円形であることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一項記載の識別マークを有する貴重印刷物。
【請求項13】
前記低摩擦要素、前記高摩擦要素及び前記第2の要素の凹形状の深さ及び/又は凸形状の高さは、すべて同じ又は少なくとも一つが異なることを特徴とする請求項1乃至12のいずれか一項記載の識別マークを有する貴重印刷物。
【請求項14】
前記第1の要素及び前記第2の要素は、エンボス、凹版印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、凸版印刷、レーザ加工及びすき入れのいずれか一つ又は組合せにより形成されていることを特徴とする請求項1乃至13のいずれか一項記載の識別マークを有する貴重印刷物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2011−83991(P2011−83991A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−239196(P2009−239196)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】