説明

識別媒体、識別方法および識別装置

【課題】識別機能の高い識別媒体を提供する。
【解決手段】識別媒体807として、粘着層803、樹脂フィルム801、光反射層802、1/4波長板として機能する液晶層806を積層した構造とする。識別媒体807を直視すると、全面が金属光沢に見え、直線偏光フィルタを介して観察すると、金属光沢の背景の中に黒く図柄が浮かび上がる。また、円偏光フィルタを介して観察すると、黒い背景の中に金属光沢の図柄が浮かび上がる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的な性質を利用した識別媒体に係り、1/4波長板と光反射層とを組み合わせた構造に関する。
【0002】
コレステリック液晶を用いた識別媒体が知られている(例えば、特許文献1を参照)。この識別媒体においては、所定の旋回方向および波長の円偏光を選択的に反射するコレステリック液晶の光学的な性質を利用することで、光学的な識別が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−186377号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、コレステリック液晶を用いた識別媒体は、コレステリック液晶の原料を入手することで偽造が可能となる可能性が危惧される。このため、コレステリック液晶を用いるにしても、より偽造を困難にすることができる識別媒体の構造が求められている。そこで本発明は、従来出回っている識別媒体に比較して、より識別能力が高く偽造が困難である識別媒体の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、光反射層と、この光反射層上に所定のパターンを有して設けられた1/4波長板として機能する液晶層とを備えることを特徴とする。
【0006】
1/4波長板というのは、直交する偏光成分の間にπ/2(90°)の位相差を発生させる波長板のことをいう。1/4波長板を用いると、直線偏光を円偏光に、あるいは円偏光を直線偏光に変換することができる。本発明における1/4波長板も液晶層によって構成される。1/4波長板を液晶層によって構成する優位性は、1/2波長板の場合と同じである。
【0007】
以下、上記の発明における識別機能の原理を説明する。図5(A)は、上記の発明を利用した識別媒体の一例を示す断面図である。この識別媒体200は、光反射層201上に1/4波長板として機能する液晶層202を積層した構造を備えている。図5(B)は、識別の原理を説明するための概念図である。なお、図5(B)においては、説明を容易にするために、1/4波長板として機能する液晶層202を光反射層201から離した状態が記載されている。
【0008】
以下、図5のX軸方向に偏光した直線偏光を選択的に透過する直線偏光透過フィルタ203を介して、識別媒体200を見る場合を考える。この場合、自然光204の中の所定の直線偏光成分(この場合は図中のX軸方向に電界成分を有した直線偏光)が、直線偏光透過フィルタ203を通過し、X軸直線偏光205となる。X軸直線偏光205は、1/4波長板として機能する液晶層202を透過することで、円偏光(この場合は右円偏光)206に変換される。この右円偏光206は、光反射層201において反射され、左円偏光207となる。
【0009】
左円偏光207は、1/4波長板として機能する液晶層202を透過することで、X軸方向に直交する方向に電界成分を有するY軸直線偏光208となる。すなわち、液晶層202は、X軸偏光した直線偏光を右円偏光にする1/4波長板として機能する訳であるから、X軸に直交したY軸直線偏光を入射させた場合には、それを逆旋回方向の左円偏光に変換する。したがって、液晶層202に左円偏光207が入射すると、Y軸直線偏光208に変換される。ここでY軸は、図5の紙面に垂直な方向に延在する軸として定義される。
【0010】
直線偏光透過フィルタ203は、X軸直線偏光を選択的に透過する偏光フィルタであるから、Y軸直線偏光208は透過できず遮断される。つまり、直線偏光透過フィルタ203を介して、識別媒体200を観察した場合には、反射光を認識することができない(あるいは認識し難い)。一方、直線偏光フィルタ203を外せば、偏光の違いによるフィルタ作用がなくなるので、識別媒体200からの反射光を観察することができる。この反射光の有無を利用することで識別機能を得ることができる。
【0011】
液晶層の厚さは、1/4波長板として機能する厚さから多少ずれていても良い。この場合、寸法のズレ具合に応じて、上述した光学機能が不明確になってゆく傾向が増大してゆくが、相応の識別機能を得ることはできる。液晶層の厚さに関する寸法のズレは、1/4波長板として機能する厚さの±10%の範囲内であれば許容することができる。しかしながら、より明確な識別機能を追究するのであれば、±5%以内、好ましくは±3%以内に収めることが好ましい。
【0012】
この液晶層を1/4波長板として利用する発明において、この液晶層にホログラム加工を施すことは好ましい。液晶層にホログラム加工を施すことで、上述した光学的な性質にホログラム表示が組み合わされ、より複雑な見え方を観察することができる。
【0013】
また液晶層に、1/4波長板として機能する厚さからずれた厚さの領域を設けることは好ましい。この場合も、1/2波長板の場合と同様に、1/4位相差条件からずれた厚さの液晶層の部分の表示を淡くすることができる。また、その淡さ加減を液晶層の厚さの設定によって調整することができる。これにより、濃淡を有した図柄表示を用いた識別機能を得ることができ、高い識別機能と高い偽造防止効果を得ることができる。
【0014】
また本発明は、上述した液晶層を1/4波長板として利用する識別媒体の識別方法の発明として把握することもできる。すなわち、光反射層と、この光反射層上に所定のパターンを有して設けられた1/4波長板として機能する液晶層とを備えた識別媒体の識別方法であって、直線偏光を選択的に透過する光学フィルタを介して、前記識別媒体を画像認識する第1画像認識ステップと、前記光学フィルタを介さずに、前記識別媒体を画像認識する第2画像認識ステップとを備える識別方法として把握することもできる。
【0015】
また本発明は、上述した液晶層を1/4波長板として利用する識別媒体の識別装置の発明として把握することもできる。すなわち、光反射層と、この光反射層上に所定のパターンを有して設けられた1/4波長板として機能する液晶層とを備えた識別媒体を識別する識別装置であって、直線偏光を選択的に透過する光学フィルタを介して、前記識別媒体を画像認識する第1画像認識手段と、前記光学フィルタを介さずに、前記識別媒体を画像認識する第2画像認識手段とを備える識別装置として把握することもできる。
【0016】
本明細書中では、下記の内容も開示している。本明細書中で開示する識別媒体は、コレステリック液晶層と、このコレステリック液晶層上に所定のパターンを有して設けられた1/2波長板として機能する液晶層とを備えることを特徴とする。
【0017】
コレステリック液晶層は、自然光を入射させると、所定波長であり且つ右旋回または左旋回の円偏光を選択的に反射する性質を有する液晶の層である。図3は、コレステリック液晶層の構造を示す概念図であり、図4は、コレステリック液晶層が有する光学的な性質を示す概念図である。図4には、自然光を入射させると、特定波長の右円偏光が反射され、左円偏光、さらにその他の波長の自然光がコレステリック液晶層401を透過する様子が示されている。
【0018】
コレステリック液晶層は、層状構造を有している。そして、一つの層に着目した場合、層中において液晶分子の分子長軸はその向きが揃っており、かつ層の面に平行に配向している。そして配向の方向は、隣接する層において少しずつずれており、全体としては立体的なスパイラル状に配向が回転しつつ各層が積み重なった構造を有している。この構造において、層に垂直な方向で考えて、分子長軸が360°回転して元に戻るまでの距離をピッチP、各層内の平均屈折率をnとする。この場合、コレステリック液晶層は、λs=n×Pを満たす、中心波長λsで特定旋回方向の円偏光を選択的に反射する性質を示す。すなわち、特定の偏光成分に偏らない白色光をコレステリック液晶層に入射させると、特定の波長を中心波長とする右回りまたは左回り円偏光を選択的に反射する。この場合、同じ波長λsで反射した円偏光と逆の旋回方向を有する円偏光とその他の波長の自然光は、コレステリック液晶層を透過する。
【0019】
反射する円偏光の旋回方向(回転方向)は、コレステリック液晶層のスパイラル方向を選択することで決めることができる。つまり、光の入射方向から見て、右ネジの向きに螺旋を描いて各層における分子長軸が配向しているか、左ネジの向きに螺旋を描いて各層における分子長軸が配向しているか、を選択することで、反射する円偏光の旋回方向(回転方向)を決めることができる。
【0020】
また、コレステリック液晶は視野角によって色が変わるカラーシフトと呼ばれる光学的な性質を示す。これは、視野角が大きくなると、ピッチPが見かけ上減少することから、中心波長λsが短波長側へ移行するためである。たとえば、垂直方向から観察して赤色に呈色するコレステリック液晶の反射色は、視野角を大きくするに従い赤→橙→黄→緑→青と順次変化するように観察される。なお、視野角は、視線と識別媒体表面の垂線とのなす角度として定義される。
【0021】
1/2波長板とは、1/2位相差板とも呼ばれ、光が通過する際に、複屈折効果により、直交する偏光成分の間に半波長(位相差π(180°))の位相差を発生させる光学素子のことをいう。1/2波長板に円偏光や楕円偏光を通過させると、その旋回方向を反転させることができる。
【0022】
ここで、液晶層が有する複屈折性を利用して、1/2波長板を構成する。液晶層を1/2波長板として機能させるには、液晶分子を一軸配向させた液晶層の厚さを調整すればよい。理論的には、一軸配向した液晶層において、液晶分子の長軸方向の屈折率と短軸方向の屈折率との差(Δn)と、液晶層の厚さdとの積(Δnd)(リターデーションという)の値の設定によって、当該液晶層を1/2波長板として機能させることができる。
【0023】
1/2波長板を液晶層によって構成することで、任意のパターンの形成を容易に行うことができる。また、厚さを任意にそして簡単に設定することができるので、正確に1/2波長板を構成することができる。また、厚さを任意に設定することができるので、意図的に1/2波長板から位相差の発生条件をずらした設定を作り出すことができる。このことは、反射光が見える、あるいは見えないといった光のON/OFFによる識別のみではなく、階調を伴った識別機能を発現させる場合に重要となる。さらに液晶層を利用して、1/2波長板を構成することで、薄型化、軽量化、低コストを追究することができる。
【0024】
吸収層上にコレステリック液晶層を配置し、さらにその上に所定のパターンを有して設けられた1/2波長板として機能する液晶層を配置してもよい。こうすることで、上述した光学機能を効果的に発揮させることができる。なお、識別対象の物品の表面が光吸収性を備えている場合(例えば黒色等の濃い色の表面を有している場合)は、光吸収層を配置しなくてもよい。ここで光吸収層とは、識別に利用する波長帯域の光を吸収する層のことをいう。識別に可視光を利用する場合、光吸収層として黒や濃い色の層を利用することができる。
【0025】
以下、上記の構成における識別の原理を説明する。図1は、上記の構成の識別媒体の一例を示す断面図である。図1には、識別媒体100が示されている。この識別媒体100は、光吸収層101上にコレステリック液晶層102を備え、更にその上に1/2波長板として機能する液晶層103が積層された構造を備えている。図2は、識別機能の原理を説明するための概念図である。図2(A)は、1/2波長板として機能する液晶層103を外した状態において、右円偏光を選択的に透過する光学フィルタ(右旋回透過フィルタ)104を介して観察する状態を示す。図2(B)は、1/2波長板として機能する液晶層103を設けた構成(つまり図1の構成)を、右旋回透過フィルタ104を介して観察する状態を示す。なお、説明を容易にするために、1/2波長板として機能する液晶層103が、コレステリック液晶層102から離れて位置する状態が記載されているが、実際には、図1に示すように両者が密着している。また、コレステリック液晶層102は、右旋回の円偏光を選択的に反射する設定であるとする。また、円偏光の旋回方向(回転方向)は、光軸の方向(光の進む方向)に向かって、時計回りに電界ベクトル成分が回転するものを右旋回、その逆を左旋回と定義するものとする。
【0026】
まず、図2(A)の1/2波長板として機能する液晶層103がない場合を説明する。この場合、自然光105は、右旋回透過フィルタ104を通過することで、右円偏光106となる。この右円偏光106は、コレステリック液晶層102において右円偏光107として反射される。この右円偏光107は、右旋回透過フィルタ104を透過し、直線偏光109として認識することができる。したがって、図2(A)に示すように、右旋回透過フィルタ104を介して、コレステリック液晶層102を見た場合は、反射光を認識することができる。
【0027】
この場合、右旋回透過フィルタ104を左旋回透過フィルタ(左旋回の円偏光を選択的に透過する光学フィルタ)に交換すると、符号106に相当する光線が左旋回の円偏光となる。したがって、この光線は、コレステリック液晶層102において反射されず、光吸収層101において吸収される。そのため、反射光を認識することができない。これが、従来のコレステリック液晶層を利用した識別媒体の基本的な原理である。
【0028】
図2(B)に示す構成を利用した識別媒体は、1/2波長板として機能する液晶層103があるので、動作が上記の場合とは異なり、見え方も違うものとなる。すなわち、まず、入射光である自然光110は、右旋回透過フィルタ104を透過することで、右円偏光111となる。この右円偏光111は、1/2波長板として機能する液晶層103を通過する際に左円偏光112となり、コレステリック液晶層102に入射する。コレステリック液晶層102は、右円偏光を反射する設定であったので、左円偏光112は、コレステリック液晶層102を透過し、光吸収層101に吸収される。したがって、この場合、識別媒体100からの反射光を観察することはできない。つまり、右旋回透過フィルタ104を介して、識別媒体100を観察しても、反射光を認識することはできない(あるいは認識し難い)。
【0029】
次に、図2(C)に示すように、識別媒体100を、左旋回透過フィルタ(左円偏光を透過する光学フィルタ)113を介して観察する場合を説明する。この場合、まず入射光である自然光114は、左旋回透過フィルタ113を透過することで、左円偏光115となり、さらに1/2波長板として機能する液晶層103を透過することで、右円偏光116となる。コレステリック液晶層102は右円偏光を反射するので、右円偏光116は、右円偏光117としてコレステリック液晶層102から反射される。右円偏光117は、1/2波長板として機能する液晶層を透過する際に、左円偏光118に変換され、さらに左旋回透過フィルタ113を透過し、直線偏光119として認識される。つまり、左旋回透過フィルタ113を介して、識別媒体100を観察した場合、反射光を認識することができる。このように、上述した構成を利用した識別媒体は、従来のコレステリック液晶を用いた識別媒体とは光学的な機能が異なる。
【0030】
晶層の厚さが、1/2波長板として機能する厚さから多少ずれていても良い。この場合、寸法のズレ具合に応じて、上述した光学機能が不明確になってゆく傾向が増大してゆくが、相応の識別機能を得ることはできる。液晶層の厚さに関する寸法のズレは、1/2波長板として機能する厚さの±10%の範囲内であれば許容することができる。しかしながら、より明確な識別機能を追究するのであれば、±5%以内、好ましくは±3%以内に収めることが好ましい。
【0031】
レステリック液晶層にホログラム加工が施されていても良い。ホログラム加工は、型押しにより、コレステリック液晶層の層構造に凹凸構造を与えることで行われる。また、液晶層を用いた1/2波長板にホログラム加工が施されていてもよい。液晶層を用いて、光学的な機能を発現する層を構成した場合、この層にホログラム加工を容易に施すことができる。このため、ホログラムを利用した複雑な図柄の形成も容易であり、意匠性や識別性の高い表示を行うことができる。また、上述した所定旋回方向を選択的に透過する光学フィルタを用いた観察において、ホログラムによって表される表示が組み合わされるので、高い識別機能を得ることができる。
【0032】
1/2波長板として機能する液晶層において、その厚さが1/2波長板として機能する厚さと異なる領域が設けられている構成とすることは好ましい。この態様によれば、識別媒体からの反射光が確認できるか否かによる識別に加えて、識別媒体の表示に階調表示を取り入れることができる。また、この原理を利用すると、場所により段階的あるいは連続的に階調が変化する表示を行わせることもできる。この場所により表示の階調が変化する表示形態を実現するには、1/2波長板として機能する液晶層の厚さが、1/2波長板として機能する厚さから、段階的あるいは連続的に変化してゆく領域を設ければよい。
【0033】
晶層を用いた1/2波長板は、その厚さを調整することで、1/2波長板としての機能を発現させている。したがって、液晶層の厚さを1/2波長板として機能する厚さから微妙にずらすことで、生じる位相差をπから微妙にずらすことができる。すなわち、液晶層の厚さを調整することで、(1/2λ±Δλ)波長板を実現することができる。円偏光が入射する場合を考えると、波長板としての機能が、位相差1/2λの条件からずれるに従って、透過光は徐々にアスペクト比が大きな逆旋回方向の楕円偏光となる。したがって、この透過光を所定旋回方向の円偏光を選択的に透過する光学フィルタを介して観察した場合、上記のΔλが大きくなるのにしたがって、光学フィルタにおける透過損失が増大する。このため、1/2波長板として機能する液晶層の厚さを部分的に1/2波長板として機能する厚さからずれた厚さに変化させてゆくと、所定旋回方向の円偏光を選択的に透過する光学フィルタを介した観察において、その部分からの反射光に濃淡を付けることができる。この濃淡は、液晶層の厚さを調整すればよいので、連続的あるいは段階的に自由に設定することができる。このため、識別に利用する表示内容を複雑あるいは微妙な模様とすることができ、識別機能を高めることができる。また、偽造が困難な識別媒体とすることができる。
【0034】
本明細書で開示する技術は、上述した識別媒体の識別方法として把握することもできる。すなわち、光吸収層と、この光吸収層上に設けられたコレステリック液晶層と、このコレステリック液晶層上に所定のパターンを有して設けられた1/2波長板として機能する液晶層とを備えた識別媒体の識別方法であって、所定の旋回方向の円偏光を選択的に透過する光学フィルタを介して、前記識別媒体を画像認識する第1画像認識ステップと、前記光学フィルタを介さずに、前記識別媒体を画像認識する第2画像認識ステップとを備える識別方法として把握することもできる。この識別方法によれば、第1画像認識ステップにおいて認識される画像と、第2画像認識ステップにおいて認識される画像とを比較することで、真正判定を行うことができる。画像を認識する方法としては、撮像装置により撮像した画像を画像処理する方法、所定の検出ポイントから反射される所定波長の光を光検出センサによって検出する方法、撮像装置で撮像した画像、またはそれを画像処理した画像を判定人がモニターによって観察する方法等を挙げることができる。
【0035】
この構成においては、所定の旋回方向の円偏光を選択的に反射するコレステリック液晶の性質を利用しているので、光学フィルタは、右円偏光または左円偏光を選択的に透過するものが選択される。なお、第2画像認識ステップとしては、光学フィルタを用いずに直接識別媒体の画像認識を行う場合と、第1画像認識ステップにおいて用いた光学フィルタと逆旋回方向の円偏光を選択的に透過する光学フィルタを用いて画像認識を行う場合とを挙げることができる。
【0036】
本明細書で開示する技術は、上述した識別媒体を識別する際に用いられる識別装置として把握することもできる。すなわち、光吸収層と、この光吸収層上に設けられたコレステリック液晶層と、このコレステリック液晶層上に所定のパターンを有して設けられた1/2波長板として機能する液晶層とを備えた識別媒体を識別する識別装置であって、所定の旋回方向の円偏光を選択的に透過する光学フィルタを介して、前記識別媒体を画像認識する第1画像認識手段と、前記光学フィルタを介さずに、前記識別媒体を画像認識する第2画像認識手段とを備えることを特徴とする識別装置として把握することもできる。なお、第1画像認識手段と第2画像認識手段とは、部分的に構成を共有してもよい。例えば、画像認識手段として撮像装置(カメラ)が採用される場合、両画像認識手段において、撮像装置を共有してもよい。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、簡単な構造でありながら、識別能力が高く、偽造が困難な識別媒体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】別媒体の構造を示す断面図である。
【図2】図1の識別媒体の動作原理を示す概念図である。
【図3】コレステリック液晶層の構造を示す概念図である。
【図4】コレステリック液晶層の光学特性を示す概念図である。
【図5】別媒体の構造および動作原理を示す断面図である。
【図6】別媒体の製造工程を示す断面図である。
【図7】図6の識別媒体の見え具合を示す概念図である。
【図8】別媒体の製造工程を示す断面図である。
【図9】図8の識別媒体の見え具合を示す概念図である。
【図10】識装置の概要を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、コレステリック液晶層と1/2波長板として機能する液晶層とを用いた識別媒体の一例を説明する。図6は、識別媒体の製造工程の一例を示す工程断面図である。
【0040】
まず、図6(A)に示すように、透明保護層601としてTAC(トリアセチルセルロース)フィルムを用意する。透明保護層601は、透過する光の偏光状態に影響を与えない、あるいは透過する光の偏光状態への影響が少ない材質であることが好ましい。透明保護層601には、予め後述する液晶を配向させるための下処理(ラビング処理)を施しておく。配向処理は、液晶パネルの製造技術において利用されている技術を用いて行えばよい。
【0041】
透明保護層601を用意したら、上述した配向処理を施した表面上に液晶材料を印刷し、所定のパターンを有した液晶層602を形成する。液晶層602は、1/2波長板として機能する厚さに設定する。またその印刷パターンは、所定の図柄(文字や図形)とする。また、液晶材料としては、紫外線や電子線のようなエネルギー線の照射によって配向状態が固定されるものや使用する環境温度よりも十分高いガラス転移温度を有する液晶高分子を用いる。具体的なガラス転移温度としては、日常的な使用環境を想定した場合には60度以上であることが好ましい。これより低い場合は、例えば直射日光のあたる車内に放置される場合のように使用中の環境温度がガラス転移温度よりも高くなり液晶の配向状態が変化してしまう恐れがあり好ましくない。液晶層602を形成したら、加熱し配向処理を行い、更に紫外線を照射して配向状態を固定する。液晶の配向状態は、液晶分子が層に平行に、更にその分子長軸が一方向に揃った状態となるようにする。こうして、図6(A)に示す状態を得る。
【0042】
一方、図6(B)に示すように、透明基材層603としてTAC(トリアセチルセルロース)フィルムを用意する。透明基材層603の表面にもコレステリック液晶層の配向状態を決める下処理を施しておく。そして、透明基材層603上にコレステリック液晶層を構成するための液晶材料を全面に塗布し、さらに配向処理を施すことで、コレステリック液晶層604を形成する。
【0043】
図6(A)に示す状態と図6(B)に示す状態とを得たら、液晶層602とコレステリック液晶層604とを向かい合わせ、両者を接着剤により接着する。こうして。図6(C)に示す状態を得る。すなわち、透明保護層601、パターニングされ1/2波長板として機能する液晶層602、コレステリック液晶層604、透明基材層603と積層された状態を得る。液晶層602とコレステリック液晶層604とを接着する接着剤は、液晶層602を構成する液晶分子の長軸方向の屈折率または短軸方向の屈折率に近い値のものを選択することが好ましい。接着剤の屈折率と液晶層602の長軸方向または短軸方向の屈折率とが大きく異なっていると、屈折率の違いに起因して、直接目視した場合に液晶層602のパターンがうっすらと認識可能になる可能性が増大する。上述した接着剤の屈折率の選択を行うことで、直接目視した場合に、液晶層602のパターンが薄く見えてしまうことが防止される。これにより、直接見た場合に液晶層602のパターンが見えなくなる光学機能を効果的に発揮させることができ、高い識別機能を得ることができる。
【0044】
図6(C)に示す状態を得たら、図6(D)に示すように、黒の顔料を加えた粘着材料を透明基材層603の露呈した表面上に塗布し、粘着層兼光吸収層605を形成する。そして、粘着層兼光吸収層605に離型紙606を貼り合わせる。こうして識別媒体607を得る。図6(E)は、図6(D)に示す状態を上下逆さまにしたものである。図6(E)には、離型紙606、粘着層兼光吸収層605、透明基材層603、コレステリック液晶層604、パターニングされ1/2波長板として機能する液晶層602、透明保護層601と積層された構造の識別媒体607が示されている。識別媒体607を識別対象の物品に固定する場合、離型紙606を粘着層兼光吸収層605から剥がし、粘着層兼光吸収層605を識別対象の物品を貼り付ける。そして識別を行う際には、透明保護層601側から観察を行う。
【0045】
上記の構成において、コレステリック液晶層604にホログラム加工が施されていてもよい。コレステリック液晶層604にホログラム加工が施されていると、液晶層602のパターンによって構成される図柄に加えて、このホログラム加工によって構成される図柄を識別の対象として利用することができる。コレステリック液晶層604にホログラム加工を施すには、図6(B)の状態において、型を押し付け、コレステリック液晶層604に凹凸構造を与えればよい。
【0046】
また、1/2波長板として機能する液晶層602にホログラム加工が施されていてもよい。液晶層602にホログラム加工が施されていると、液晶層602のパターンによって構成される図柄に加えて、このホログラム加工によって構成される図柄を識別の対象として利用することができる。液晶層602にホログラム加工を施すには、図6(A)の状態において、型を押し付け、液晶層602に凹凸構造を与えればよい。
【0047】
1/2波長板として機能する液晶層602を所定のパターンに形成する方法として、まず全面に1/2波長板として機能する液晶層を形成しておき、サーマルプリンタ等によって部分的に加熱を行う方法を採用してもよい。この場合、選択的な加熱を行った部分の配向性が変化し、その部分が1/2波長板として機能しなくなる。そして、選択的な加熱が行われなかった部分が、1/2波長板として機能する液晶パターンとなる。
【0048】
以下、図6に示す識別媒体607の識別動作について説明する。この例においては、1/2波長板として機能する液晶層602によってABCと図柄表示が形成されているものとする。また、コレステリック液晶層604は、赤の右回り円偏光を選択的に反射する設定になっているものとする。
【0049】
図7は、図6の識別媒体607の見え具合を説明する概念図である。図7(A)は、偏光フィルタを介さず、識別媒体607をそのまま直接観察した場合の見え具合である。この場合、全面が赤に見える。すなわち、1/2波長板として機能する液晶層602に多様な偏光状態を含む自然光が入射するので、1/2波長板としての光学作用は、液晶層602が存在していない領域と比較して区別できない(あるいは区別し難い)。したがって、コレステリック液晶層604によって反射された赤の右円偏光が観察され、全面が赤に見える。
【0050】
なお、識別媒体607を傾け、視野角を徐々に大きくしてゆくと、赤→橙→黄→緑→青と短波長側にシフトしてゆくカラーシフトを観察することができる。このため、コレステリック液晶層604にホログラム加工が施されていると、視野角を変化させていった場合に、カラーシフトを伴ったホログラム画像を観察することができる。
【0051】
次に右旋回の円偏光を選択的に透過する光学フィルタである右旋回透過フィルタを、図6(E)に示す識別媒体607の透明保護層601上に重ね、識別媒体607を観察した場合を説明する。この場合、図2(B)に示す原理により、赤い背景の中に液晶層602によって構成される図柄ABCが黒く浮かび上がる(図7(B))。
【0052】
すなわち、図2(B)に示すように、識別媒体100に右旋回透過フィルタ104を重ねた場合、1/2波長板として機能する液晶層103を透過した光は、コレステリック液晶層102によって反射されない。つまり、図6(E)の識別媒体607の透明保護層601に右旋回透過フィルタを重ねた場合、1/2波長板として機能する液晶層602を透過した入射光は左円偏光となって、コレステリック液晶層604において反射されず、それを透過し、粘着層兼光吸収層605において吸収される。従って、液晶層602のパターンは黒く見える。
【0053】
これに対して、液晶層602が存在していない領域では、コレステリック液晶層604からの赤の反射光を観察することができるので、液晶層602が存在していない領域は赤く見える。したがって、図7(B)に示すように、赤い背景の中に黒く図柄ABCが浮かび上がる。また、この右旋回透過フィルタ104を重ねた場合において、視野角を大きくしてゆくと、背景の赤の表示色がカラーシフトによって、徐々に短波長側の色にシフトする。すなわち、赤→橙→黄→緑→青と短波長側にシフトしてゆく背景色の中に、黒く図柄ABCが表示される状態が観察される。
【0054】
次に左旋回の円偏光を選択的に透過する光学フィルタである左旋回透過フィルタを、図6(E)に示す識別媒体607の透明保護層601上に重ね、識別媒体607を観察した場合を説明する。この場合、図2(C)に示す原理により、黒い背景の中に液晶層602によって構成される図柄ABCが赤く浮かび上がる(図7(C))。
【0055】
すなわち、図2(C)に示すように、左旋回透過フィルタ113を重ねた場合、1/2波長板として機能する液晶層103には左円偏光115が入射する。そして、液晶層103を透過後には、右円偏光116となり、コレステリック液晶層102によって反射される。このコレステリック液晶層102によって反射された右円偏光117は、液晶層103に再入射し、液晶層103の1/2波長板としての機能により、左円偏光118に変換される。この左円偏光118は、左旋回透過フィルタ113を透過するので、観察可能となる。つまり、図6(E)の識別媒体607の透明保護層601に左旋回透過フィルタを重ねた場合、1/2波長板として機能する液晶層602を透過した入射光は、コレステリック液晶層604において反射される。このコレステリック液晶層604において反射された赤の右円偏光は、液晶層602に再度入射し、左円偏光となり、透明保護層601上に重ねた左旋回透過フィルタを透過する。したがって、液晶層602のパターンは、赤く見える。
【0056】
これに対して、液晶層602が存在していない領域では、コレステリック液晶層604に左円偏光が入射するので、コレステリック液晶層604からの反射光は無く(あるいは弱く)、反射光は観察されない(あるいは弱く観察される)。したがって、液晶層602が存在していない領域は、黒く(あるいは濃い色に)見える。このため、図7(C)に示すように、黒い背景の中に、液晶層602によって構成される図柄ABCのパターンが赤く浮かび上がって見える。また、この状態において、識別媒体607を傾けると、液晶層602によって構成される図柄ABCが、カラーシフトを示し、その発色が赤→橙→黄→緑→青と短波長側にシフトする。
【0057】
このように、図6の識別媒体607は、視野角0°で(つまり垂直に)直視した場合に全体が赤く見え、また視野角を大きくすると、全体がカラーシフトを示す。そして、識別媒体607に右旋回透過フィルタを重ね、視野角0°で見ると、液晶層602によって構成される図柄ABCが赤い背景の中に黒く浮かび上がって見える。また、視野角を大きくしてゆくと、背景のみがカラーシフトを示す。さらに、識別媒体607に左旋回透過フィルタを重ね、視野角0°で見ると、液晶層602によって構成される図柄ABCが黒い背景の中に赤く浮かび上がって見える。また、視野角を大きくしてゆくと、図柄ABCのみが黒い背景の中でカラーシフトを示す。このような特異な見え方を利用することで、識別媒体として機能させることができる。なお、コレステリック液晶層604にホログラム加工を施すと、上述したカラーシフト現象がホログラムの図柄を浮かび上がらせるように作用するので、さらに複雑な見え方を観察することができる。
【0058】
図6に示す識別媒体607において、1/2波長板として機能する液晶層602の厚さをパターン毎に微妙に異ならせても良い。こうすると、例えば図7の図柄ABCの各文字の見た目の濃さに濃淡を付けることができる。
【0059】
例えば、図柄AおよびCを構成する液晶層602の厚さを1/2波長板として機能する厚さに設定し、図柄Bを構成する液晶層602の厚さを1/2波長板として機能する厚さよりやや薄く(あるいはやや厚く)設定する。こうすると、図柄Bにおける液晶層602の1/2波長板としての機能がやや不完全になる。この結果、図7(C)に示す左旋回透過フィルタを介した観察において、上述した条件からのずれに起因して、図柄Bを透過し観察される光の左旋回透過フィルタを透過する際の損失が増大する。この結果、図柄AおよびCに比較して、図柄Bの表示が弱く見える。この結果、図柄Bが図柄AおよびCに比較してやや淡く(やや弱い光強度)で観察される。
【0060】
この原理を応用すると、一つの文字(あるいは適当な図柄)の中で濃淡(グラデーション)を付けた表示を行うことも可能である。例えば、図7に示すような図6の液晶層602によって図柄ABCのパターンが形成されている場合を考える。この際、各文字を構成する液晶層602の厚さを正面左から縦縞状に徐々に減少させた設定とする。例えば、各文字パターンにおいて、液晶層602の一番左側を1/2波長板として機能する厚さとして、そこから縦縞状に段階的に徐々に厚さを薄くする設定とする。こうすると、図7(C)に示す左旋回透過フィルタを介した観察において、図柄ABCの各文字が、縦縞状に左から段階的に淡くなる状態を観察することができる。また、同様な原理により、液晶層602の厚さを連続的に変化させると、連続的に濃淡が変化した表示を観察することも可能となる。液晶層602の厚さは、印刷時における液晶材料の基材への付着量や塗布量の調整により簡単に制御可能である。したがって、上述した階調識別表示の機能は簡単に実現することができる。
【0061】
この階調識別表示の機能を利用すると、濃淡の表示が可能になるので、例えば簡単な風景の表示等を、識別を行うための画像として利用するようなこともできる。また、視野角を変化させることで、コレステリック液晶層が示すカラーシフト機能を併せて観察することができるので、濃淡のある図柄を色彩の変化を伴って観察することができる。このため、光学フィルタを用いた観察において、非常に特異な見え方となる。また、液晶材料の選択や厚さの設定といった製造条件が分からなければ、この特異な見え方を再現することは困難となる。したがって、偽造が困難な識別媒体を得ることができる。
【0062】
以下、光反射層と1/4波長板として機能する液晶層とを用いた識別媒体の一例を説明する。図8は、識別媒体の製造工程の一例を示す工程断面図である。まず、適当な樹脂フィルム801を用意する。樹脂フィルム801は、基材として機能するフィルムであり、例えばPETフィルム等を利用すればよい。樹脂フィルム801を用意したら、その一方の表面に光反射層802としてアルミ蒸着層を付ける。また、その他方の表面に粘着層803を設け、更に粘着層803の露呈した表面に離型紙804を貼り付ける。こうして図8(A)に示す状態を得る。
【0063】
次に図8(B)に示すように、透明保護層805としてTAC(トリアセチルセルロース)フィルムを用意する。透明保護層805は、透過する光の偏光状態に影響を与えない、あるいは透過する光の偏光状態への影響が少ない材質であることが好ましい。透明保護層805には、予め液晶を配向させるための下処理(ラビング処理)を施しておく。配向処理は、液晶パネルの製造技術において利用されている技術を用いて行えばよい。次に印刷法を用いて、所定のパターンに液晶層806を形成する。液晶層806は、1/4波長板として機能する厚さに設定する。液晶層806を形成したら、配向処理を行い、液晶分子を配向させる。液晶材料としては、紫外線や電子線のようなエネルギー線の照射によって配向状態が固定されるものや、使用する環境温度よりも十分高いガラス転移温度を有する液晶高分子を用いる。具体的なガラス転移温度としては、日常的な使用環境を想定した場合には60度以上であることが好ましい。これより低い場合は、例えば直射日光のあたる車内に放置される場合のように使用中の環境温度がガラス転移温度よりも高くなり液晶の配向状態が変化してしまう恐れがあり好ましくない。配向処理においては、液晶層806を形成した後に、加熱することで液晶分子を配向させ、その後に紫外線を照射することで、配向状態を固定するか、ガラス転移温度以下に急速に冷却することにより配向状態をガラス固定化する。液晶の配向状態は、液晶分子が層に平行に、更にその分子長軸が一方向に揃った状態となるようにする。こうして、図8(B)に示す状態を得る。
【0064】
次に図8(A)に示す部材と図8(B)に示す部材とを、光反射層802と液晶層806とが向かい合わせになる状態で貼り合わせる。こうして、図8(C)に示す識別媒体807を得る。識別媒体807は、基材となる樹脂フィルム801上に光反射層802が設けられ、その上に液晶層806による所定の図柄パターンが形成され、さらにその上に透明保護層805が設けられている。また、樹脂フィルム801の裏面側には、粘着層803と離型紙804を備えている。識別媒体807を識別対象となる物品に固定する際には、離型紙804を剥がし、粘着層803を当該物品に貼り付ければよい。
【0065】
1/4波長板として機能する液晶層806を所定のパターンに形成する方法として、まず全面に1/4波長板として機能する液晶層を形成しておき、サーマルプリンタ等によって部分的に加熱を行う方法を採用してもよい。この場合、選択的な加熱を行った部分の配向性が変化し、その部分が1/4波長板として機能しなくなる。そして、選択的な加熱が行われなかった部分を1/4波長板として機能する液晶パターンとすることができる。
【0066】
以下、図8に示す識別媒体807の識別動作について説明する。この例においては、1/4波長板として機能する液晶層806によってABCと図柄表示が形成されているものとする。図9は、当該識別媒体の見え具合を示す概念図である。
【0067】
図8の識別媒体807をそのまま直接観察した場合、光反射層802からの反射光が全体において一様に観察される。これは、特定の偏光状態にない自然光が識別媒体807に入射するので、1/4波長板として機能する液晶層806の存在は際立たず、液晶層806のパターンは認識しがたい。したがって、図9(A)に示すように全体が一様に金属光沢に見える。
【0068】
識別媒体807の透明保護層805に直線偏光を選択的に透過する光学フィルタ(直線偏光透過フィルタ)を重ね、識別媒体を観察する場合を考える。この場合、液晶層806の部分からの反射光を観察することができず、その部分が黒く見える。すなわち、図9(B)に示すように、金属光沢のある背景の中に黒く図柄ABCが浮かび上がる。
【0069】
すなわち、図5に示すように、識別媒体200にX軸直線偏光を透過する直線偏光透過フィルタ203を重ねた場合、直線偏光透過フィルタ203を透過したX軸直線偏光205は、1/4波長板を構成する液晶層202を透過することで右円偏光206になり、光反射層201において反射することで、左円偏光207になる。この左円偏光207は、液晶層202を透過することで、X軸直線偏光205と偏波方向が直交するY軸直線偏光208となる(Y軸は、図5の紙面に垂直な向きに延長する軸である)。よって、Y軸直線偏光208は、直線偏光透過フィルタ203によって遮断される。この原理により、図8の液晶層806が存在する部分からの反射光は、観察されず、液晶層806の部分は黒く見える。一方、液晶層806が存在していない部分においては、そのまま光反射層802からの反射光が観察されるので、金属光沢に見える。そのため、図9(B)に示すように図8の液晶層806によって構成される図柄ABCは、金属光沢の背景に中に黒く浮かび上がって見える。
【0070】
円偏光を選択的に透過する光学フィルタ(円偏光透過フィルタ)を介して識別媒体807を観察した場合も図柄ABCを認識することができる。この場合、図5に示す原理図において、符号203の光学フィルタが円偏光透過フィルタに変更される。例えば、右旋回の円偏光を選択的に透過する右旋回透過フィルタを符号203の直線偏光透過フィルタの代わりに利用する場合を考える。この場合、符号205の光線が右円偏光となり、符号206および207の光線がX軸直線偏光となる。そして、符号208の光線が右円偏光となり、それは符号203の位置に置いた右旋回透過フィルタを透過する。また、1/4波長板を構成する液晶層202が存在していない場所は、光反射層201からの反射光の旋回方向が反転して左円偏光となるので、それは右旋回透過フィルタを透過せず、観察することができない。したがって、その部分は黒く見える。この原理により、図8に示す液晶層806の部分からの反射光を観察することができる。すなわち、円偏光透過フィルタを用いた観察を行うことで、黒い背景の中に金属光沢のある図柄ABCが浮かび上がった状態を観察することができる。
【0071】
このように、図8の識別媒体807は、直視すると全面が金属光沢に見え、直線偏光を選択的に透過する光学フィルタを介して観察すると、金属光沢の背景の中に黒く図柄が浮かび上がる光学特性を示す。また、円偏光を選択的に透過する光学フィルタを介して観察すると、黒い背景の中に金属光沢の図柄が浮かび上がる光学特性を示す。
【0072】
図8に示す識別媒体807において、1/4波長板として機能する液晶層806の厚さをパターン毎に微妙に異ならせても良い。こうすると、例えば図9の図柄ABCの各文字の見た目の濃さに濃淡を付けることができる。
【0073】
例えば、図柄AおよびCを構成する液晶層806の厚さを1/4波長板として機能する厚さに設定し、図柄Bを構成する液晶層806の厚さを1/4波長板として機能する厚さよりやや薄く(あるいはやや厚く)設定する。こうすると、図柄Bにおける液晶層806の1/4波長板としての機能がやや不完全になり、図柄Bの部分からの反射光がアスペクト比の大きい楕円偏光になる。そのため、図9(B)に示す直線偏光フィルタを介した観察において、図柄Bの部分からの反射光に直線偏光フィルタによって遮断されない直線偏光の成分が含まれることになり、図柄Bの黒表示が、図柄AおよびCに比較して、薄く見える。つまり、図柄AおよびCが濃い黒に見え、図柄Bが薄い(淡い)黒に見える。
【0074】
この原理を応用すると、一つの文字(あるいは適当な図柄)の中で濃淡(グラデーション)を付けた表示を行うことも可能である。例えば、図8の液晶層806によって図9に示すような図柄ABCのパターンが形成されている場合を考える。この際、各文字を構成する液晶層806の厚さを正面左から縦縞状に徐々に減少させた設定とする。例えば、各文字パターンにおいて、液晶層806の一番左側を1/4波長板として機能する厚さとして、そこから縦縞状に段階的に徐々に厚さを薄くした設定とする。こうすると、図9(B)に示す直線偏光透過フィルタを介した観察において、図柄ABCの各文字が、縦縞状に左から段階的に淡くなる状態を観察することができる。また、同様な原理により、液晶層806の厚さを連続的に変化させると、連続的に濃淡が変化した状態を観察することも可能となる。液晶層806の厚さは、印刷時における液晶材料の基材への付着量や塗布量の調整により簡単に制御可能である。したがって、上述した階調識別表示の機能は簡単に実現することができる。この階調識別表示の機能を利用すると、濃淡の観察が可能になるので、例えば簡単な風景の表示等を、識別を行うための画像として利用するようなこともできる。液晶材料の選択や厚さの設定といった製造条件が分からなければ、この濃淡の微妙な表現を再現することは困難である。したがって、偽造が困難な識別媒体を得ることができる。
【0075】
以下、図6に示す識別媒体607を識別するための識別装置の一例を説明する。図10は、識別装置の概要を示すブロック図である。図10には、図6に示す識別媒体607を識別するための識別装置901が示されている。識別装置901は、第1画像認識手段902と第2画像認識手段903を備えている。第1画像認識手段902は、第1撮像装置(CCDカメラ)902a、ライト902b、および右円偏光を選択的に透過する右旋回透過フィルタ902cを備えている。第2画像認識手段903は、第2撮像装置(CCDカメラ)903a、およびライト903bを備えている。2つの画像認識手段の違いは、右旋回透過フィルタ902cの有無である。また識別装置901は、ステージ904を備えている。このステージ904上に識別媒体607(図6参照)を貼り付けた物品905が載置される。ステージ904は、第1画像認識手段902と第2画像認識手段903との間を自由に移動することができる。図10には、ステージ904が、第1画像認識手段902の下に位置した状態が示されている。
【0076】
第1撮像装置902aは、右旋回透過フィルタ902cを介して、識別媒体607を撮像する。ライト902bは、この撮像の際に発光し、識別媒体607に光を当て、撮像に必要な明るさを確保する。第2撮像装置903aは、光学フィルタを介さずに識別媒体607を直接撮像する。ライト903bは、この撮像の際に発光し、識別媒体607に光を当て、撮像に必要な明るさを確保する。
【0077】
また、識別装置901は、画像比較装置906、記憶装置907、および比較結果出力装置908を備えている。画像比較装置906は、第1撮像装置902aの画像出力と、第2撮像装置903aの画像出力とを取り込み、両画像を記憶装置907内に記憶された基準画像と比較する。記憶装置907は、識別手段607の真正を判断する際の基準となる画像のデータを記憶する。また、記憶装置907には、後述する識別装置の動作手順を決める動作プログラムが記憶される。記憶手段907としては、半導体メモリやハードディスク装置が採用される。比較結果出力装置908は、画像比較装置906による比較結果(真正判断の結果)を出力するディスプレイである。比較結果出力装置908は、音による出力手段(例えば、真正判断が偽である場合に、警報音を発生するブザー)であってもよい。また、比較結果出力装置908を、真正判断OKであれば緑ランプ点灯、真正判断NOであれば赤ランプ点灯というような構成としてもよい。
【0078】
識別動作の前に、予め記憶装置907に真正が保証された基準識別媒体の画像を基準画像として記憶させておく。この例においては、基準画像として、右旋回透過フィルタを介して基準識別媒体を撮像した際の画像データと、右旋回透過フィルタを介さず直接基準識別媒体を撮像した際の画像データとを記憶装置907に記憶しておく。
【0079】
識別に当たっては、まず識別対象となる物品905をステージ904上に載置する。物品905がステージ904上に載置されたら、図示しないスタートスイッチが操作され、以下の手順が自動的に実行され、識別媒体607の真正判断が行われる。すなわち、物品905がステージ904上に載置された状態において、ステージ904は、第1画像認識手段902の下に移動する。そして、ライト902bを点灯し、第1撮像装置902aによって、右旋回透過フィルタ902cを介した識別媒体607の撮像が行われる。この撮像画像は、画像比較装置906に出力される。画像比較装置906は、記憶装置907に記憶されている基準画像(右旋回透過フィルタを介した撮像画像)を読み出し、それを第1撮像装置902aから出力された撮像画像と比較する。画像比較装置906は、比較した画像が一致、あるいは多少の差違があっても、それが許容される程度のものであれば、真正と判断し、そうでなければ偽物と判断し、その旨の第1判断信号を生成する。
【0080】
次にステージ904は、第2画像認識手段903の下に移動する。そして、ライト903bを点灯し、第2撮像装置903aによって識別媒体607の撮像が行われ、その撮像画像は、画像比較装置906に出力される。画像比較装置906は、記憶装置907に記憶されている基準画像(右旋回透過フィルタを介さない撮像画像)を読み出し、それを第2撮像装置903aから出力された撮像画像と比較する。画像比較装置906は、比較した画像が一致、あるいは多少の差違があっても、それが許容される程度のものであれば、真正と判断し、そうでなければ偽物と判断し、その旨の第2判断信号を生成する。
【0081】
そして、第1判断信号と第2判断信号が共に真正を意味するものであれば、比較結果出力装置908は、判断結果が真正である旨の出力を行い、そうでなければ、判断結果が偽物である旨の出力を行う。
【0082】
以下、図8に示す識別媒体807を識別するための識別装置の一例を説明する。この場合、図10に示す識別装置901に備える光学フィルタを右旋回透過フィルタ902cから直線偏光透過フィルタに交換する。また、記憶装置907に記憶させる基準画像も対応するものに変更する。真正判断における動作手順は、図6の形態の場合と同じである。
【0083】
図10の形態において、符号902cの光学フィルタとして、右旋回透過フィルタと直線偏光透過フィルタとを用意し、何れか一方を適宜光路上に配置できるようにする構成も可能である。例えば、適当な駆動機構により、右旋回透過フィルタまたは直線偏光透過フィルタを動かし、符号902cの部分に適宜配置できるようにする。また、記憶装置907には、各識別媒体に応じた基準画像を記憶させておく。この態様によれば、図6の識別媒体607と図8の識別媒体807の両方に対応することができる。識別動作を行う際には、識別媒体の種類に応じて、右旋回透過フィルタまたは直線偏光透過フィルタを光路に挿入し、図10に関連して説明した動作手順を実行する。この際、基準画像は、対応する識別媒体のものを選択する。
【0084】
図10の形態において、第2画像認識手段903に左円偏光を選択的に透過する左旋回透過フィルタを配置し、この左旋回透過フィルタを介して、識別媒体607を撮像するようにしてもよい。この場合、第1画像認識手段902における右旋回透過フィルタ902cを介した識別媒体の撮像画像と、第2画像認識手段903における左旋回透過フィルタを介した識別媒体の撮像画像とが画像比較装置906において、それぞれ基準画像と比較される。図2(B)と図2(C)に原理を、そして図7に見え具合を説明するように、1/2波長板を用いた識別媒体607は、右旋回透過フィルタを用いた場合の画像と、左旋回透過フィルタを用いた場合の画像とにおいて、反射/非反射の領域が反転する。この違いは当然撮像される画像の違いに反映されるので、第1画像認識手段902と第2画像認識手段903とにおいて、異なる画像が取得される。この場合、2種類の取得撮像を基準画像と比較して、真正の判断が行われる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、真正を判断するための識別媒体に利用することができる。また、本発明の識別媒体は、識別対象となる物品に直接組み込むことも可能である。この場合、識別媒体としての機能を備えた物品を得ることができる。
【符号の説明】
【0086】
100…識別媒体、101…光吸収層、102…コレステリック液晶層、103…1/2波長板として機能する液晶層、104…右旋回透過フィルタ、113…左旋回透過フィルタ、200…識別媒体、201…光反射層、202…1/4波長板として機能する液晶層、203…直線偏光透過フィルタ、607…識別媒体、901…識別手段、902…第1画像認識手段、902c…右旋回透過フィルタ、903…第2画像認識手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光反射層と、
この光反射層上に所定のパターンを有して設けられた1/4波長板として機能する液晶層と
を備えることを特徴とする識別媒体。
【請求項2】
前記液晶層の厚さは、1/4波長板として機能する厚さの±10%の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の識別媒体。
【請求項3】
前記1/4波長板として機能する液晶層にホログラム加工が施されていることを特徴とする請求項1または2に記載の識別媒体。
【請求項4】
前記1/4波長板として機能する液晶層は、1/4波長板として機能する厚さと異なる厚さの領域を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載する識別媒体。
【請求項5】
光反射層と、
この光反射層上に所定のパターンを有して設けられた1/4波長板として機能する液晶層と
を備えた識別媒体の識別方法であって、
直線偏光を選択的に透過する光学フィルタを介して、前記識別媒体を画像認識する第1画像認識ステップと、
前記光学フィルタを介さずに、前記識別媒体を画像認識する第2画像認識ステップと
を備えることを特徴とする識別方法。
【請求項6】
前記液晶層の厚さは、1/4波長板として機能する厚さの±10%の範囲にあることを特徴とする請求項5に記載の識別方法。
【請求項7】
光反射層と、
この光反射層上に所定のパターンを有して設けられた1/4波長板として機能する液晶層と
を備えた識別媒体を識別する識別装置であって、
直線偏光を選択的に透過する光学フィルタを介して、前記識別媒体を画像認識する第1画像認識手段と、
前記光学フィルタを介さずに、前記識別媒体を画像認識する第2画像認識手段と
を備えることを特徴とする識別装置。
【請求項8】
前記液晶層の厚さは、1/4波長板として機能する厚さの±10%の範囲にあることを特徴とする請求項7に記載の識別装置。












【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−191769(P2011−191769A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89789(P2011−89789)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【分割の表示】特願2006−101907(P2006−101907)の分割
【原出願日】平成18年4月3日(2006.4.3)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】