説明

識別媒体およびその製造方法

【課題】溶剤を用いて剥がした痕跡が明確に残る識別媒体を提供する。
【解決手段】溶剤で溶解あるいは発色するインク104を粘着層106に埋め込んだ構造とする。溶剤を用いて、粘着層105の粘着力を弱め、対象物に貼り付けられた識別媒体110を剥がそうとすると、インク104が溶剤に触れ、インク104の溶解や発色が生じる。これにより、溶剤を用いて剥がした痕跡が明確に残る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶剤を用いて剥がしての再利用が困難な識別媒体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
真贋判定に用いる識別媒体を対象物から溶剤を用いて剥がし、それを不正に再利用する問題が存在する。この問題に対応する技術として、溶剤で発色する発色層を設けることで、溶剤に触れた際に発色し、再利用を困難にする技術、あるいは再利用を客観的に認識し易くする技術が提案されている(例えば、特許文献1や2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−250228号公報
【特許文献2】特開平10−268772号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
識別媒体は、粘着剤によって対象物に貼り付けられている。一般に、識別媒体の不正な再利用を行う場合、粘着剤に溶剤を接触させることでその粘着性が弱められ、識別媒体が対象物から剥がされる。ところで、粘着層、基材、基材上の溶剤に反応する発色層と積層した構造では、ラベルの裏面側に溶剤を注意深く浸透させることで、ラベルの表面側に溶剤が付着しないようにし、溶剤を発色層に触れさせずに識別媒体を対象物から剥がすことが可能である。この場合、発色層は発色せず、溶剤を用いて識別媒体を対象物から剥がした痕跡は残らない。このため、一旦剥がした識別媒体の再利用が可能となる。
【0005】
このような背景において、本発明は、溶剤を用いて剥がした痕跡が明確に残る識別媒体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、粘着層と、前記粘着層に埋め込まれ、溶剤により溶解または発色する成分を含むインクによるパターン表示とを備えることを特徴とする識別媒体である。請求項1に記載の発明によれば、溶剤により溶解または発色する成分を含むインクによるパターン部分が、粘着層に埋め込まれているので、粘着層を溶剤に触れさせ、その粘着機能を低下(もしくは損失)させようとした場合に、確実にインクが溶剤に接触する。このため、対象物に粘着層の機能により貼りついた当該識別媒体を、溶剤を用いて剥がした際に、インクの溶解や発色が生じ、その痕跡を明確に認識することができる。なお、溶剤は、アセトン、アルコール、へキサン等の有機溶剤のことをいう。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記粘着層は、溶剤を含み、前記粘着層は、粘着剤が存在しない部分を有し、前記粘着剤が存在しない部分に前記インクが前記粘着剤に接触しない状態で埋め込まれていることを特徴とする。請求項2に記載の発明によれば、粘着層に埋め込まれたインクが粘着剤に直接接触しないので、粘着層を構成する粘着剤に含まれる溶剤により、インクが変質する現象が防止される。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記粘着層の機能により識別対象となる対象物に貼り付けられている状態において、前記対象物に接触する面において、前記インクが露出していることを特徴とする。請求項3に記載の発明によれば、対象物に接触する面においてインクが露出しているので、対象物から当該識別媒体を溶剤によって剥がそうとした場合に、インクが溶剤に触れ易い。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記粘着層が溶剤を含まない粘着剤により構成され、前記粘着層に埋め込まれた前記インクは、前記粘着層を構成する粘着剤に接触していることを特徴とする。請求項4に記載の発明によれば、粘着剤が溶剤を含んでいないので、インクが粘着層を構成する粘着剤に接触していても、インクの変色や溶解による滲みが生じない。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、前記粘着層の対象物に対向する部分における前記インクが埋め込まれた部分は、他の部分に比較して粘着層の厚みが薄くなっており、この厚みが薄くなった粘着層の部分が溶剤に触れると、当該部分の粘着層が溶け、もしくは粘着剤に浸透し、前記インクが前記溶剤に触れることを特徴とする。請求項5に記載の発明によれば、粘着層の部分的に薄くなった部分が溶剤で溶ける(もしくは溶剤が浸透する)ことで、その部分に埋め込まれているインクが溶剤に触れる。これにより、溶剤を用いて当該識別媒体を剥がした場合の痕跡がより確実に残る。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、前記粘着層は、対象物に接する側と反対の側が基材に密着しており、前記インクの前記基材に対する固着力が、前記粘着層の対象物に対する固着力に比較して弱いことを特徴とする。請求項6に記載の発明によれば、対象物から粘着層を剥がそうとした際に、粘着層が対象物から離れる前に、インクが基材から離れ、インクが当該識別媒体から脱落する。このため、当該識別媒体の再利用が困難となる。あるいは、当該識別媒体からインクのパターンの一少なくとも一部が脱落するので、この識別媒体が不正な再利用品である旨が明確に認識できる。
【0012】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか一項に記載の発明において、前記粘着層の観察が行われる側にホログラム識別層が設けられていることを特徴とする。
【0013】
請求項8に記載の発明は、粘着剤が部分的に存在しないパターンを有する粘着層を形成する工程と、前記粘着剤が部分的に存在しないパターンの部分に、前記粘着剤に接触しない状態で溶剤により溶解または発色する成分を含むインクを埋め込む工程とを含むことを特徴とする識別媒体の製造方法である。
【0014】
請求項9に記載の発明は、溶剤を含まない粘着剤により部分的に凹部を有する粘着層を形成する工程と、前記凹部に溶剤により溶解または発色する成分を含むインクを埋め込む工程とを含むことを特徴とする識別媒体の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、溶剤を用いて剥がした痕跡が明確に残る識別媒体が提供される。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、溶剤を含む粘着剤を用いる場合であっても、インクの変質が生じない構成が提供される。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、溶剤を用いて当該識別媒体を対象物から剥がした場合の痕跡がより明確に残る。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、粘着剤にインクが接触する構造であっても、インクが溶剤により変質する問題が生じない。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、溶剤を用いて当該識別媒体を対象物から剥がした場合の痕跡がより明確に残る。
【0020】
請求項6に記載の発明によれば、当該識別媒体を対象物から剥がした場合の痕跡がより明確に残る。
【0021】
請求項7に記載の発明によれば、インクの表示とホログラムの表示とが組み合わされた高い識別性を得ることができる。
【0022】
請求項8に記載の発明によれば、請求項2に記載の識別媒体を製造する方法が提供される。
【0023】
請求項9に記載の発明によれば、請求項5に記載の識別媒体を製造する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施形態の識別媒体の製造工程を示す概念図である。
【図2】実施形態の識別媒体の見え方を示す正面図である。
【図3】他の実施形態の識別媒体の断面構造を示す概念図である。
【図4】他の実施形態の正面図(A)と断面図(B)である
【図5】他の実施形態の識別媒体の製造工程を示す概念図である
【図6】他の実施形態を対象物から強制的に剥がした場合の状態を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(1)第1の実施形態
(製造方法および構成)
図1(F)には、発明の実施形態である識別媒体110が示されている。以下、識別媒体110の製造工程の一例を説明する。まず、図1(A)に示す保護層101を用意する。保護層101は、観察が行われる側に配置される光透過性のフィルムである。ここでは、保護層101として、透過光の偏光特性に影響を与え難い材質であるTAC(トリアセチルセルロース)のフィルムが利用されている。
【0026】
保護層101を用意したら、図示しない基材上でコレステリック液晶層102を成長させる。ここで、コレステリック液晶層102は、赤の右円偏光を選択的に反射する設定とされている。この選択反射特性の設定は、他の色の波長であってもよく、また左円偏光を選択的に反射する設定でもよい。
【0027】
次に、このコレステリック液晶層102を図示しない基材から剥がし、透明な接着剤により保護層101に固定する(図1(B))。この後、保護層101に固定されたコレステリック液晶層102の露出面にホログラム型を押し付けることで、コレステリック液晶層102に対してホログラム加工103を施す。次いで、コレステリック液晶層102を基材とし、その露出面側(図1(B)の下面側)にインク104のパターンを印刷により設ける。ここで、インク104の印刷パターンは、後述する図1(D)の除去部107のパターンに合うように設定する。印刷は、オフセット印刷方式やインクジェット方式が採用されるが特に限定はしない。
【0028】
インク104は、溶剤に触れることで、溶解し易い特性、あるいは溶剤に触れることで発色(あるいは変色)する特性ものが利用される。勿論、通常のインクは、溶剤に触れることである程度溶解するので、通常のインクを用いることも可能である。
【0029】
特開平10−268772号公報には、溶剤に触れて溶解する染料として、C.I.名で言えば、Solvent Yellow5、Solvent Yellow6、Solvent Yellow33、Solvent Yellow44、Solvent Yellow93、Solvent Yellow114、Solvent Yellow116、Solvent Blue35、Solvent Blue63、Solvent Blue83、Solvent Blue105、Solvent Red23、Solvent Red111、Solvent Red135、Solvent Red146、Solvent Red179、Solvent Red180、Solvent Orange2、Solvent Orange7、Solvent Orange80、Solvent Orange87、Solvent Violet13、Solvent Violet36、Solvent Green3、等が挙げられている。
【0030】
また、特開平10−250228号公報には、発色剤を溶剤で溶ける材質でマイクロカプセル化し、それをインク中に含ませることで、溶剤に触れた際に発色するインクを得る技術が記載されている。マイクロカプセルを構成する材質としては、ポリウレタン、ポリ尿素、エポキシ樹脂、尿素およびホルマリン樹脂、メラニンおよびホルマリン樹脂等が挙げられる。
【0031】
図1に戻り、図1(B)に示す積層体を得たら、他方で図1(C)に示すように、片面が離型機能を有するセパレータ(離型紙)106を用意し、その離型機能を有している面に粘着剤を塗布し、粘着層105を形成する。ここで、粘着層105は透明とし、背景の図柄や模様が見えるようにする。なお、粘着層105は顔料を添加し、コレステリック液晶層102を図の上から下に向かって透過した光を吸収する吸収層として機能させてもよい。
【0032】
図1(C)に示す状態を得たら、部分的に粘着層105を除去し、図1(D)に示す状態を得る。ここで、符号107で示される部分が、粘着剤が部分的に除去された除去部である。粘着剤の除去は、(1)マスクを設けて溶剤により必要とする部分を選択的に除去する方法、あるいは(2)部分的に圧力を加え、その部分を除去する方法、(3)物理的に部分的に削り取る方法を用いて行う。なお、印刷法を用いて粘着剤のパターンを直接形成することも可能である。この場合、セパレータ106上に直接図1(D)に示す構造が形成される。
【0033】
図1(D)に示す状態を得たら、別に用意してあった図1(B)に示す積層体のインク104のパターンが形成された面と、図1(D)に示す状態の粘着層105が形成された面とを対向させる。この状態が図1(E)に示されている。ここで、図1(E)に示されているように、除去部107にインク104のパターンが入り込む状態となるように位置合わせを行い、両者を密着させる。この際、粘着層105の粘着力により、粘着層105とコレステリック液晶層102とが固着し、図1(E)の状態→図1(F)の状態が得られる。こうして、インク104のパターンが除去部107に埋め込まれた状態(図1(F)参照)が得られる。ここで、インク104のパターンは、除去部107に埋め込まれた状態において、除去部107の内側に露出する粘着層105に接触せず、隙間108が形成されるように位置合わせ、および各部の寸法が調整されている。
【0034】
こうして、図1(F)に示す断面構造を有する識別媒体110を得る。なお、図1(F)には、識別媒体110は、使用時に取り外されるセパレータ106に貼り付けられた状態が示されている。
【0035】
識別媒体110を使用する際には、セパレータ106を剥がし、粘着層105およびインク104を露出させる。そして、この粘着層105の露出面を図示しない識別対象となる対象物の表面に接触させ、粘着層105の粘着機能によって、識別媒体110を対象物に貼り付け固定する。
【0036】
(光学機能)
図2には、識別媒体101を正面(観察面)の側から見た様子の一例を示す正面図である。図2(A)と(B)の違いは、インク104のパターン(デザイン)の違いである。なお、図2には、インク104のパターンの一例が示されており、図1の断面構造とパターンは一致していない。またインク104のパターンは、図柄や文字であってもよい。
【0037】
識別媒体101を直視すると、インク104のパターンとコレステリック液晶層102(図1参照)に施されたホログラム加工103に起因するホログラム像103Aが視認される。右円偏光を選択的に透過する右円偏光フィルタを介して識別媒体101を観察すると、コレステリック液晶層102から反射される赤の右円偏光の反射光が優先的に観察されるので、赤いホログラム像103Aが更により強調されて鮮明に見える。そして、左円偏光を選択的に透過する左円偏光フィルタを介して識別媒体101を観察すると、コレステリック液晶層102からの右円偏光の反射光が左円偏光フィルタで遮断されるので、ホログラム像103Aは見えず、インク104のパターンのみが見える。
【0038】
(剥がした痕跡が判る機能)
粘着層105の粘着機能により、対象物に貼り付けられている識別媒体110を対象物から強制的に剥がすために、溶剤を用いて粘着層105の粘着力を弱めようとした場合を考える。この場合、図1(F)に示す粘着層105およびインク104の下面側に溶剤が浸透する。この結果、インク104が溶剤に触れ、その溶解や発色が生じる。これにより、当該識別媒体110を対象物から上手く剥がしたとしてもインク104の滲みや発色(あるいは変色)が生じ、それが視認可能な状態となる。このため、不正な再利用を簡単に見破ることができる。
【0039】
(変形例1)
図3には、図1の識別媒体110の構造の変形例である識別媒体200が示されている。この場合、透明な基材フィルム201を基材として、インク104のパターンが印刷により設けられている。基材フィルム201とコレステリック液晶102とは透明な接着剤により固定されている。その他は、図1の識別媒体110と同じである。
【0040】
(変形例2)
図4には、他の変形例である識別媒体220が示されている。なお、図4(A)は正面図であり、図4(B)は、(A)におけるa−aの破線部分で切断した断面図である。識別媒体220の積層構造は、基本的に図1の識別媒体110と同じである。念のため説明すると、図4(B)には、セパレータ221に識別媒体220が貼り付いた状態が示されている。識別媒体220は、セパレータ221側から、粘着層222、コレステリック液晶層223、透明な保護層224と積層された構造を有している。
【0041】
粘着層222には、粘着層222を構成する粘着剤に接触しない状態で、インク225が埋め込まれ、このインク225によって正面から見て円形の表示が形成されている。この部分の基本構造は、図1に示す第1の実施形態と同じである。コレステリック液晶層223は、赤の右円偏光を選択的に反射する設定とされ、星型のホログラム226を表示する型押しによるホログラム加工が施されている。保護層224は、図1の実施形態1と同様なTACフィルムである。また、コレステリック液晶層223と保護層224には、正面から見て十字形の切り込み227が入れられている。
【0042】
識別媒体220の識別機能および溶剤によるインクの滲みや変質が生じる機能は、第1の実施形態の識別媒体110と同じである。識別媒体220が識別媒体110と異なるのは、粘着層222の機能により、図示省略した対象物に貼り付いた状態において、識別媒体220を剥がそうとした場合に、切り込み227が拡大し易く、識別媒体220が裂け易い点である。
【0043】
すなわち、切り込み227が入れられている部分は、インク225が存在している部分である。インク225は、粘着剤に比較して接触している物を固定しておく機能が無いに等しい。したがって、識別媒体220を対象物から強制的に剥がそうとし、切り込み227が入れられている付近に力が加わると、その部分のコレステリック液晶層223は、下の層(インク225)に束縛されていないのに、他の部分のコレステリック液晶層223は粘着層222に束縛されているので、切り込み227を拡大しようとする力が加わる。これにより、切り込み227の部分から裂け目が広がり、識別媒体220が裂ける。この対象物から剥がそうとした場合に裂け易い構造は、不正な再利用を困難にする点で有効となる。
【0044】
(2)第2の実施形態
(製造方法および構成)
図5(F)には、実施形態の識別媒体310が示されている。図5において、図1と同じ符号の部分は、特に説明を加えていない場合、図1に関連して説明した内容と同じである。以下、識別媒体310の製造方法の概略を説明する。まず、図5(A)に示す保護層101を用意し、更に保護層101に接してコレステリック液晶層102を設ける。保護層101にコレステリック液晶層102を設けたら、コレステリック液晶層102の露出面にホログラム型を押し付け、ホログラム加工103を施す(図5(B))。
【0045】
次に、図5(B)の状態の積層体とは別に、図5(C)に示すセパレータ106を用意し、その離型面に粘着層105を形成する。粘着層105を構成する粘着剤は、溶剤を含まず、紫外線の照射により粘着性を発現するタイプのものが利用される。このタイプの粘着剤としては、綜研化学株式会社製のSKダインシロップB、SKダインシロップBが挙げられる。また、溶剤を含まない粘着剤として、アクリルエマルジョン粘着剤を用いることができる。アクリルエマルジョン粘着剤としては、東洋インキ製造株式会社製のOribain BPWシリーズが挙げられる。
【0046】
図5(C)に示す状態を得たら、粘着層105における後に印刷によりインクのパターンを形成する部分を除去し、除去部301を形成する。除去部301は、底の部分の粘着剤が薄く残存した凹部として形成される。ここで、凹部となる除去部301の底の部分に粘着剤残存部105Aが存在する。ここで、粘着剤残存部105Aの厚みは、溶剤によって一部が溶けて失われる程度の厚さ、あるいは少なくとも一部が溶けることで溶剤が浸透し、インク302に溶剤が浸透する程度の厚さとする。この厚さは、例えば、5μm〜20μm程度の厚さが適当となる。
【0047】
図5(D)に示す状態を得たら、印刷により除去部301にインク302を埋め込んだ状態とし、図5(E)に示す状態を得る。ここで、インク302は、除去部301において、粘着層105を構成する粘着剤と接触している。図5(E)に示す状態を得たら、図5(B)に示す状態の積層体のコレステリック液晶層102の露出面を粘着層105に接触させ、粘着層105の粘着力により、粘着層105とコレステリック液晶層102とを固着させる。こうして図5(F)に示す状態を得る。なお、粘着層105とコレステリック液晶層102とを固着させる段階において、インク302は硬化した状態であるので、図5(F)の状態において、インク302と基材となるコレステリック液晶層102とは接触しているだけである。
【0048】
また、図5(B)の状態を得た段階で、インク302を印刷によりコレステリック液晶102の露出面に付着させ、コレステリック液晶層102側にインクパターンを形成してもよい。この場合、図5(D)に示す除去部301は設けず、図5(C)の状態の粘着層105の露出面に、図5(B)の状態においてコレステリック液晶層102の露出面にインクパターンを設けた状態ものを貼り合わせる。この際、コレステリック液晶102側のインクの盛り上がりに押されてインクに対向する部分の粘着層105が自身の流動性に起因して薄くなり、図5(F)と同様なインク302が粘着層105に埋め込まれた状態が得られる。なお、この構成において、除去部301を設け、インク302が粘着層105に埋め込まれる状態を得ることも可能である。
【0049】
(機能その他)
識別媒体310を使用する場合、セパレータ106を粘着層105から剥がし、露出した粘着層105の粘着面を対象物に接触させ粘着層105の粘着力によって、識別媒体310を対象物に貼り付ける。なお、識別媒体310の識別機能は、図1の識別媒体110と同じである。
【0050】
次に、識別媒体310の再利用防止機能(あるいは再利用を困難にする機能)について説明する。まず、粘着層105の粘着力によって、識別媒体310が識別対象となる対象物に貼り付けた状態を考える。この状態において、溶剤を用いて粘着層105の粘着力を弱め、識別媒体310を対象物から剥がそうとすると、溶剤が粘着剤残存部105Aの一部を溶かし、あるいはそこに浸透し、インク302に到達する。この結果、インク302が溶解あるいは発色(変色)し、溶剤を用いての剥がし行為の履歴が残る。
【0051】
また例えば、溶剤の使用によって、粘着剤残存部105Aの一部が溶失した場合、粘着剤残存部105Aは脆くなり、その残存部分が対象物側に残る。ここで、インク302は基材としても機能するコレステリック液晶層102に密着している固着力を後述する粘着力より弱いものとする。これにより、インク302は、弱まったとはいえ粘着力を残している残存した上述の対象物側に残る粘着剤残存部105Aに付着する。この結果、元々識別対象物310の側にあったインク302の一部が、対象物の側に残る。つまり、剥がした識別対象物310からインク302のパターンが一部失われ、それが溶剤を用いた剥がし行為の痕跡として残る。
【0052】
この状態の一例が、図6に示されている。まず、図6(A)には、対象物303に貼り付けられた識別媒体310が示されている。図6(A)に示す状態において、溶剤を用いて粘着層105を対象物303から剥がそうとすると、粘着剤残存部105Aが一部溶解し、部分的に残存した粘着剤残存部105Bとして対象物303の側に残る(図6(B)参照)。この際、識別媒体102に固着していないインクが部分的に残存した粘着剤残存部105Bに付着し、符号302Aに示すように、基材であるコレステリック液晶層102から離れ、対象物303の側に残存する。図6には、(A)に示すインク302が全て(B)の符号302Aで示すように対象物303の側に残る場合が例示されているが、インク302の内、識別媒体310側に残る部分、対象物303側に残る部分、識別媒体310および対象物303から脱落する部分に分かれる場合もある。いずれにしても、図6(A)に示す状態のインク302に欠落が生じ、溶剤を用いて識別媒体310を剥がした痕跡が残る。
【0053】
また、溶剤を用いないで対象物から識別媒体310を剥がした場合でも、インク302とコレステリック液晶層102との間の固着力(密着力)は、粘着層105とコレステリック液晶層102との間の粘着力よりも小さいので、インク302がコレステリック液晶層102より剥がれて対象物に移行する。これにより、剥がした行為の痕跡が残る。
【0054】
(3)その他
コレステリック液晶層102の代わりに、異なる屈折率を有する2種類の光透過性のフィルムを交互に100層〜200層積層した多層薄膜フィルムを利用することもできる。この場合、異なる屈折率を有する層の間の界面からの反射光の干渉光が観察される。この干渉光は、見る角度を変えると、干渉波長が変化し、色合いが変化して見えるカラーシフト効果が得られる。この場合、このカラーシフトの背後にインク104のパターンが観察される。
【0055】
また、コレステリック液晶層102の代わりに、樹脂フィルムにホログラム型を押したホログラム表示層を利用することもできる。この場合、コレステリック液晶層が示す選択反射性の特性は得られないが、ホログラム像を用いた識別機能を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、パスポート、書類、各種カード、パス、紙幣、金券、証券、証書、商品券、絵画、切符、公共競技投票券、音楽や映像が記録された記録媒体、コンピュータソフトウェアが記録、された記録媒体、各種製品等のパッケージ等の真正性(真贋性)を識別するための識別媒体に利用することができる。
【符号の説明】
【0057】
101…保護層、102…コレステリック液晶層、103…ホログラム加工、103A…ホログラム像、104…インク、105…粘着層、105A…粘着剤残存部、105B…対象物側に部分的に残存した粘着剤残存部、106…セパレータ、107…除去部、108…隙間、110…識別媒体、103A…ホログラム像、200…識別媒体、201…基材フィルム、220…識別媒体、221…セパレータ、222…粘着層、223…コレステリック液晶層、224…保護層、225…インク、226…ホログラム、227…切り込み、301…除去部、302…インク、302A…対象物側に残存したインク、303…対象物、310…識別媒体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着層と、
前記粘着層に埋め込まれ、溶剤により溶解または発色する成分を含むインクによるパターン表示と
を備えることを特徴とする識別媒体。
【請求項2】
前記粘着層は、溶剤を含み、
前記粘着層は、粘着剤が存在しない部分を有し、
前記粘着剤が存在しない部分に前記インクが前記粘着剤に接触しない状態で埋め込まれていることを特徴とする請求項1に記載の識別媒体。
【請求項3】
前記粘着層の機能により識別対象となる対象物に貼り付けられている状態において、
前記対象物に接触する面において、前記インクが露出していることを特徴とするは請求項1または2に記載の識別媒体。
【請求項4】
前記粘着層が溶剤を含まない粘着剤により構成され、
前記粘着層に埋め込まれた前記インクは、前記粘着層を構成する粘着剤に接触していることを特徴とする請求項1に記載の識別媒体。
【請求項5】
前記粘着層の対象物に対向する部分における前記インクが埋め込まれた部分は、他の部分に比較して粘着層の厚みが薄くなっており、この厚みが薄くなった粘着層の部分が溶剤に触れると、当該部分の粘着層が溶け、もしくは粘着剤に浸透し、前記インクが前記溶剤に触れることを特徴とする請求項4に記載の識別媒体。
【請求項6】
前記粘着層は、対象物に接する側と反対の側が基材に密着しており、
前記インクの前記基材に対する固着力が、前記粘着層の対象物に対する固着力に比較して弱いことを特徴とする請求項5に記載の識別媒体。
【請求項7】
前記粘着層の観察が行われる側にホログラム識別層が設けられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の識別媒体。
【請求項8】
粘着剤が部分的に存在しないパターンを有する粘着層を形成する工程と、
前記粘着剤が部分的に存在しないパターンの部分に、前記粘着剤に接触しない状態で溶剤により溶解または発色する成分を含むインクを埋め込む工程と
を含むことを特徴とする識別媒体の製造方法。
【請求項9】
溶剤を含まない粘着剤により部分的に凹部を有する粘着層を形成する工程と、
前記凹部に溶剤により溶解または発色する成分を含むインクを埋め込む工程と
を含むことを特徴とする識別媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−123295(P2012−123295A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275572(P2010−275572)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】