説明

識別媒体およびその識別方法

【課題】立体像を利用した識別体において、偽造が困難であり、また識別性が高いものを提供する。
【解決手段】コレステリック液晶層103にストライプ状に右目用のホログラムを構成するホログラム形成層のパターン104aと左目用のホログラムを構成するホログラム形成層のパターン104bを設ける。そして、パターン104aからの反射光がλ/2板のパターン101aを透過し、パターン104bからの反射光がλ/2板のパターン101bを透過しない配置とする。右目の前に右円偏光フィルタを置き、左目の前に左円偏光フィルタを置いて、識別媒体100を観察すると、パターン104aが右目で見え、パターン104bが左目で見え、立体像が観察される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、識別媒体およびその識別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
引用文献1には、ホログラムを利用して立体像を表示する識別媒体が記載されている。引用文献2には、左右で異なる円偏光を反射するコレステリック液晶層を積層し、それぞれのコレステリック液晶層のパターンを左目用と右目用とする識別媒体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−2148号公報
【特許文献2】特開2000−255200号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
引用文献1に記載の構成では、ホログラムを利用した視差のある画像を左右の目で別々に視認させ、それにより立体像を観察させている。引用文献1では、ディスプレイの材質については触れられておらず、回折格子で回折される波長は、限定されていない。そのため、特定の波長でない自然光の全ての波長が回折格子で回折され、ホログラムの生成に寄与する。この場合、多数の波長のホログラム像が生成されることになり、それらが重なって見えるので、ホログラム像のボケや滲みが発生する。このため、観察される立体像の鮮明さが損なわれやすい。
【0005】
また、回折格子の表面にアルミ蒸着した一般的なエンボスホログラムのように、特に反射光の波長が限定されない材料に対するエンボス加工により形成されるホログラムは、エンボス加工の状態が写し取られやすく、エンボス加工の素となる型がなくても、複製が製造し易い。つまり、偽造品を製造し易く、耐偽造性が低い。
【0006】
引用文献2に記載の構成では、左目用の像と右目用の像とが、それぞれコレステリック液晶層のパターンによって構成されているので、特定の中心波長の光を反射するコレステリック液晶の性質から、鮮明な像が得られ易い。しかしながら、コレステリック液晶層のパターンによって構成された像は、複製が容易であり、同様のものを偽造しやすい。また、識別に利用される像も微細な識別性の高いものが得られず、単調な大雑把なものとならざるを得ない。このため、真贋判定用の識別媒体としては、適当でない。
【0007】
このような背景において、本発明は、シンプルな構造でありながら、偽造が困難であり、また識別性が高い識別媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、ホログラムを表示するためのホログラム層を有するコレステリック液晶層と、前記コレステリック液晶層に積層され、前記コレステリック液晶層を覆う第1の部分と覆わない第2の部分とが周期的に繰り返されたパターンを有するλ/2板として機能する層とを備え、前記ホログラム層は、前記第1の部分に対応した複数の第1の領域と前記第2の部分に対応した複数の第2の領域とを有し、前記複数の第1の領域により第1のホログラム像が構成され、前記複数の第2の領域により第2のホログラム像が構成されていることを特徴とする識別媒体である。
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、コレステリック液晶に形成されたホログラム層の第1の領域からの反射光は、λ/2板として機能する層のパターンを通過し、観察される。コレステリック液晶に形成されたホログラム層の第2の領域からの反射光は、λ/2板として機能する層のパターンを通過せずに観察される。コレステリック液晶からの反射光は、特定の旋回方向を有する円偏光であり、λ/2板を通過することで、旋回方向が反転する。したがって、上記第1の領域からの反射光と第2の領域からの反射光とは、旋回方法が逆の円偏光となる。よって、円偏光フィルタによって、第1の像と第2の像を分離して観察することができ、このことを利用した識別が行える。
【0010】
コレステリック液晶層に形成されたホログラム加工から得られるホログラムは、コレステリック液晶が特定の中心波長を選択的に反射する性質を持っていることから、感光材料を用いた複製が容易ではない。このため、高い耐偽造性が得られる。
【0011】
また、ホログラムにより構成される像は、微細な精緻なものが可能であり、更に加えて上述したようにコレステリック液晶からは特定の中心波長の光が反射されるので、余分な波長の干渉が小さく、鮮明なホログラム像が観察される。このため、高い識別性を得ることができる。なお、コレステリック液晶層とλ/2板として機能する層とは、観察する方向から見て、重なっていればよく、両者は接していてもよいし、接していなくてもよい。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記第1のホログラム像が左右の目の一方の目用のホログラム像であり、前記第2のホログラム像が左右の目の他方の目用のホログラム像であり、前記第1のホログラム像と前記第2のホログラム像とにより立体像が構成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、本発明の識別媒体を左右の目が逆旋回方向の円偏光を選択的に見えるように光学フィルタを介して観察すると、一方の目で第1の領域からの反射光が選択的に見え、他方の目で第2の領域からの反射光が選択的に見える。ここで、第1の領域からは一方の目用のホログラム像を構成する反射光が得られ、第2の領域からは他方の目用のホログラム像を構成する反射光が得られるので、右目で右目用のホログラム像が選択的に見え、左目で左目用のホログラム像が選択的に見える。つまり、立体像を構成する右目用のホログラム像が右目で視認され、立体像を構成する左目用のホログラム像が左目で視認される。この結果、立体像が認識される。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記第1のホログラム像および前記第2のホログラム像が、当該識別媒体を見る角度に応じて複数用意されていることを特徴とする。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の発明において、前記第1の領域と前記第2の領域がストライプ状のパターンまたは市松模様を構成していることを特徴とする。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項2〜4のいずれか一項に記載の発明において、前記第1のホログラム像は、前記左右の目の一方で結像し、更に、前記第1のホログラム像からの反射光と同じ旋回方向の円偏光を当該識別媒体の外部に反射し、且つ、前記左右の目の一方で結像せず他方で結像するダミーホログラムが前記コレステリック液晶層に形成されていることを特徴とする。
【0017】
請求項6に記載の発明は、請求項2〜4のいずれか一項に記載の発明において、前記第1のホログラム像は、前記左右の目の一方で結像し、更に、前記第1のホログラム像からの反射光と逆の旋回方向の円偏光を当該識別媒体の外部に反射し、且つ、前記左右の目の一方で結像し他方で結像しないダミーホログラムが前記コレステリック液晶層に形成されていることを特徴とする。
【0018】
請求項7に記載の発明は、請求項2〜6のいずれか一項に記載の識別媒体を第1の旋回方向を透過し、それとは逆旋回方向の第2の旋回方向を遮断する光学フィルタを介して、左右の目の一方の目で観察し、且つ、前記第2の旋回方向を透過し、前記第1の旋回方向を遮断する光学フィルタを介して、左右の目の他方の目で観察することを特徴とする識別媒体の識別方法である。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に記載の発明によれば、シンプルな構造でありながら、偽造が困難であり、また識別性が高い識別媒体が提供される。
【0020】
請求項2に記載の発明によれば、立体像を識別に利用できる識別媒体が提供される。
【0021】
請求項3に記載の発明によれば、見る角度によって像が変化するあるいは切り替わる識別媒体が提供される。
【0022】
請求項4に記載の発明によれば、ストライプ状または市松模様のパターン配置により、第1の領域と第2の領域が構成される。
【0023】
請求項5または6に記載の発明によれば、光学フィルタなしで識別媒体を見た際に、左右のホログラム像がぶれて見える現象が緩和される。
【0024】
請求項7に記載の発明によれば、立体像を識別に利用可能な識別媒体の識別方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施形態の識別媒体の断面構造を示す概念図である。
【図2】実施形態の識別媒体を観察する仕組みを示す概念図である。
【図3】実施形態の識別媒体の見え方を示す概念図である。
【図4】実施形態の識別媒体の断面構造を示す概念図である。
【図5】実施形態のλ/2板のパターンの構造の一例を示す概念図である。
【図6】実施形態の識別媒体の断面構造を示す概念図である。
【図7】実施形態の識別媒体の断面構造を示す概念図である。
【図8】実施形態の識別媒体の見え方を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(識別媒体の構成)
図1には、発明を利用した識別媒体100が示されている。識別媒体100は、観察が行われる側から、λ/2板(1/2波長板)のパターン層101、透明基板102、コレステリック液晶層103、コレステリック液晶層103に形成されたエンボス構造により構成されたホログラム形成層(ホログラム干渉層)104、粘着層105と積層された構造を有している。
【0027】
λ/2板のパターン層101は、透明基板102を基材として形成されたλ/2板として機能する樹脂層のパターンである。λ/2板は、複屈折性を有する材料を用いて構成され、直線偏光の光を遅相軸と45°の角度で入射させると、偏光方向が90°回転した出射光が得られ、また円偏光を入射させると、旋回方向が反転し、逆旋回方向の円偏光が出射される光学特性を有する。
【0028】
λ/2板のパターン層101は、300μm幅の線状のパターン101aが300μmの間隔を有して複数が配置されたストライプ状のパターンとされている。このパターンの間隔は、10μm〜1mm程度の範囲から選択された値とすることが好ましい。λ/2板のパターン層101は、複屈折性によりλ/2板として機能する材質であれば利用でき、例えば液晶によって構成することもできる。
【0029】
透明基板102は、識別に用いる光を透過し、且つ、透過光の偏光特性を乱さない材質(例えば、TAC(トリアセチルセルロール))のフィルムにより構成されている。コレステリック液晶層103は、左旋回方向の緑の中心波長を有する円偏光を反射するコレステリック液晶の層である。コレステリック液晶層103の反射光の旋回方向は、右旋回方向であってよく、反射光の中心波長も他の色の波長であってもよい。
【0030】
ホログラム形成層104は、ホログラム型をコレステリック液晶層103に押し付けることで形成された凹凸構造(エンボス構造)により構成されている。ホログラム形成層104は、コレステリック液晶層103から図の上方向に反射される円偏光を干渉させ、ホログラム像を形成する。
【0031】
ホログラム形成層104は、線状のパターンが交互にストライプ状に配置された複数のパターン104aと104bにより構成されている。パターン104aは、立体像の右目用の像を構成し、パターン104bは、立体像の左目用の像を構成している。すなわち、パターン104aを左目で視認せず右目で視認し、パターン104bを右目で視認せず左目で視認することで、立体像が認識されるように、ホログラムのパターン104aと104bが形成されている。
【0032】
また、パターン101aと重なる位置にパターン104aが位置し、パターン101aが存在しない位置にパターン104bが位置するように、各パターンの位置関係が設定されている。すなわち、識別媒体100をλ/2板のパターン層101の側から見ると、線状のパターン101aによって隠された位置にホログラムのパターン104aがあり、線状のパターン101aの隙間の部分からホログラムのパターン104bが見える位置関係とされている。
【0033】
粘着層105は、黒や濃い色の顔料や染料が混ぜられた粘着材料により構成されており、識別対象となる物品に識別媒体100を貼り付ける機能を有する。粘着層は、粘着剤でなく接着剤により構成されていてもよい。また、光透過性を有していても良い。光透過性を有している場合、貼り付けた対象物の表面が識別媒体100を介して見える形態となる。
【0034】
なお、図1では、λ/2板のパターン層101が露出しているが、その上を光の偏光特性を乱さない光透過性の材質のフィルムで覆い、保護層を設けた構造としてもよい。また、物品に貼り付ける前の段階で、粘着層105の露出面には、離型紙が貼り付けられているが、図では、図示省略されている。また、図1に示す構成において、パターン104aによって左目用の像を構成し、パターン104bによって右目用の像を構成してもよい。
【0035】
(識別媒体の製造方法)
以下、識別媒体100の製造方法の一例を説明する。まず透明基板102を用意し、その一面にλ/2板のパターン層101を形成する。λ/2板のパターン層101の形成は、ストライプ状に形成されたλ/2板として機能する光透過性の樹脂フィルムを転写する方法で形成される。λ/2板のパターン層101を形成する方法としては、液晶材料の印刷による方法、液晶材料に光線を当てて描画を行い、部分的に複屈折性を付与する方法等を利用することもできる。また、λ/2板のパターン層101は、液晶以外に位相差のある膜を転写することで構成してもよい。
【0036】
透明基板102にλ/2板のパターン層101を形成したら、その反対の側の面にコレステリック液晶層103を形成する。透明基板102のコレステリック液晶層103に接する側の面には予め配向処理が施されており、その上にコレステリック液晶層103を成長させる。コレステリック液晶層103を形成したら、その露出した面にホログラム型を押し付け、ホログラム形成層104を形成する。次に粘着層105を形成し、図1に示す識別媒体100を得る。
【0037】
(識別機能)
図2は、光学フィルタを介して識別媒体100を介して観察している状態を示す概念図である。図3は、識別媒体100の見え方を示す概念図である。図2には、右旋回円偏光を透過し、左旋回円偏光を遮断する右円偏光フィルタ203を介して、右目201で識別媒体100を観察し、同時に、左旋回円偏光を透過し、右旋回円偏光を遮断する左円偏光フィルタ204を介して、左目202で識別媒体100を観察する様子が示されている。
【0038】
図2に示す状態において、ホログラム形成層104のパターン104aからの反射光は、左旋回円偏光であるが、λ/2λ板101の線状のパターン101aを透過する際に、右旋回円偏光となり、右円偏光フィルタ203を透過し、且つ、左円偏光フィルタ204は透過せず、右目201のみで選択的に視認される。
【0039】
ホログラム形成層104のパターン104bからの反射光は、左旋回円偏光であり、λ/2λ板101の線状のパターン101aの隙間を透過するので、そのまま左旋回円偏光のままであり、右円偏光フィルタ203で遮断され、右目201では視認されないが、左円偏光フィルタ204を透過するので、左目のみで選択的に視認される。
【0040】
こうして、右目201が選択的にパターン104aを視認し、左目202が選択的にパターン104bを視認する。ここで、パターン104aは、立体像の右目用の像を構成し、パターン104bは、立体像の左目用の像を構成しているので、右目201で右目用の像を視認し、左目202が左目用の像を同時に視認することになる。この結果、視覚中枢において、立体像が合成され、それが認識される。
【0041】
図3(A)には、光学フィルタを介さずに識別媒体100を直視した場合の見え方が示されている。この例では、「N」という文字がホログラムのパターン104aと104b(図1参照)により構成されている場合が示されている。図3(A)では、左右の目でホログラムのパターン104aと104bとが同時に見えるので、視差の分ずれた左右の目用の像が左右の目で同時に見え、2重にぶれた「N」の文字が見える。
【0042】
図3(B)には、図2に示すのと同じように右目の前に右円偏光フィルタを位置させ、左目の前に左円偏光フィルタを位置させた状態で、識別媒体100を観察した場合の見え方が示されている。この場合、図2に関連して説明したように、右目でホログラムのパターン104aが選択的に視認され、左目でホログラムのパターン104bが選択的に視認される。そして、パターン104aにより構成されるホログラム像とパターン104bにより構成されるホログラム像が視覚中枢で合成され、文字「N」の立体像300が認識される。なお、図示した表示は、一例であり、数字や他の文字であってもよい。また、物品を模した図柄や各種のデザインであってもよい。
【0043】
(優位性)
コレステリック液晶からの反射光を利用したホログラムは、偽造が困難であるという優位性がある。すなわち、普通の光透過性の材料に形成され、アルミ蒸着などの反射層のあるエンボスホログラム加工は、感光材料がその上に密着させた状態で、紫外域のレーザ光などによるこの感光材料の感光を行うことで、ホログラム加工を構成するエンボス構造(凹凸構造)を比較的容易に写し取ることができる。一方、コレステリック液晶層は、特定の中心波長の光を選択的に反射する性質を持っている。よって、上述した複製の技術では、その反射スペクトル特性に合った感光特性の感光材料が必要とされる。しかしながら、コレステリック液晶層の反射特性に合った感光特性の感光材料を用意するのは、困難である。このため、コレステリック液晶層に設けられたホログラム加工の複製は、原版を入手しない限り困難となる。
【0044】
また、立体像の場合は、左右の目の視差を利用しているので、微妙な誤差が立体像の再現性に影響する。このため、本実施形態に示す識別媒体をリバースエンジニアリングにより再現するのは、より困難となる。
【0045】
また、上述したようにコレステリック液晶層は、特定の波長を中心した反射光を反射する(言い換えると、特定の色の反射光を反射し、他の色成分は透過する)。このため、鮮明な干渉像(ホログラム像)を観察することができる。通常の光透過性の材料に形成され、アルミ蒸着などの反射層のあるエンボスホログラムは、自然光の全波長の光が異なった角度に回折するので、本来は認識させたくない色の干渉光も視認されてしまう。これは、像のボケや滲みの要因となる。本発明を利用した場合、上述した特定の中心波長の光を反射するというコレステリック液晶層の光学特性により、上述した不要な波長の干渉の発生を抑えることができる。このため、ボケや滲みのない鮮明な立体像を得ることができる。また、ホログラムを用いて構成した像は、微細な細かい部分を再現できる優位性がある。これらの理由により、立体像を利用した識別媒体において、高い識別性を得ることができる。
【0046】
(他の構成1)
図4は、他の実施形態の識別媒体を示す概念図である。図4には、識別媒体400が示されている。識別媒体400において、図1の識別媒体100と同じ符号の部分は、図1に関連して説明した内容と同じである。
【0047】
識別媒体400が識別媒体100(図1参照)と異なるのは、ホログラム形成層の位置である。識別媒体400では、コレステリック液晶層103の透明基板102に側にホログラム形成層106が形成されている。この例では、透明基板102のコレステリック液晶層103に接する側の面にホログラム型となる凹凸構造が形成されており、その面にコレステリック液晶層103を形成した際に、この凹凸構造に倣ってコレステリック液晶層103の界面に凹凸構造が形成され、それがホログラム形成層として機能する。なお、ホログラム型となる凹凸構造と配向処理の凹凸構造とは、寸法が異なるので、透明基板102の同じ面に同時に形成することができる。
【0048】
ホログラム形成層106には、右目用のホログラムのパターン106aと左目用のホログラムのパターン106bが形成されている。これは、図1の符号104a、104bの場合と同じである。
【0049】
(他の構成2)
図1、図4の例では、右目用の像と左目用の像を交互に配置された線状のパターンによって形成したが(ストライプ配置)、矩形状のドットパターンを交互に配置した市松模様(チェック柄)のパターン配置を採用することもできる。図5には、左右の像を構成するパターン配置の他の例を示す概念図である。
【0050】
図5には、識別媒体500を面に垂直な方向から見た状態が示されている。識別媒体500は、図1の識別媒体100と同じ断面構造とされている。ここで、符号501がλ/2板のパターンが存在する領域であり、符号502がλ/2板が存在しない領域である。この場合、符号501の領域の下に右目用のホログラムを構成するホログラム層の領域が配置されており、符号502の領域の下に左目用のホログラムを構成するホログラム層の領域が配置されている。
【0051】
図2に示す状態と同じようにして、識別媒体500を観察すると、市松模様に配置されたパターン501によって構成される右目用の像が右目で選択的に観察され、市松模様に配置されたパターン502によって構成される左目用の像が左目で選択的に観察される。そして、これら2つの像が視覚中枢で合成されることで、立体像の認識が行われる。
【0052】
(他の構成3)
図6には、実施形態の識別媒体600が示されている。識別媒体600は、観察する側から、表面保護層601、λ/2板のパターン層602、コレステリック液晶層603、ホログラム形成層604、基板605、粘着層606と積層された構成を有している。
【0053】
表面保護層601は、透過する偏光特性を乱さない光透過性のフィルムである。λ/2板のパターン層602は、λ/2板のパターン層101と同様なパターンの配置構造を有している。コレステリック液晶層603は、コレステリック液晶層103と同様に予め決められた旋回方向で、且つ、特定の中心波長を選択的に反射する。ホログラム形成層604は、コレステリック液晶層603に型押しされたホログラムを構成するエンボス模様であり、ホログラム形成層104と同じパターンの配置構造を有している。基板605は、光透過性の基板である。粘着層606は、黒や濃い色をした粘着材料の層である。
【0054】
以下、識別媒体600の製造方法の一例を説明する。まず、基板605の表面に配向処理とホログラム形成層604を得るための凹凸構造を付与する。そして、基板605の配向処理とホログラム用の凹凸構造が付与された面にコレステリック液晶層603を形成することで、コレステリック液晶層603と同時にホログラム形成層604を得る。なお、ホログラム形成層604の凹凸構造の周期を調整することによって、配向処理を兼ねることも可能である。
【0055】
次に、コレステリック液晶層603の上面にλ/2板のパターン層602を転写によって貼り付ける。その後、表面保護層601と粘着層606を設けて、識別媒体600を得る。
【0056】
(他の構成4)
図7には、他の実施形態の識別媒体700が示されている。識別媒体700は、識別媒体100と同様に、観察が行われる側から、λ/2板のパターン層101、透明基板102、コレステリック液晶層103、コレステリック液晶層103に形成されたエンボス構造により構成されたホログラム形成層(ホログラム干渉層)104、粘着層105と積層された構造を有している。
【0057】
識別媒体700は、識別媒体100とホログラム形成層104のパターンの構造が異なっている。以下、この点について説明する。識別媒体700では、ホログラム形成層104が、線状のパターン11、12、13、14からなるストライプパターン群10を備えている。ストライプパターン群10は、繰り返し配置されている。
【0058】
この例では、線状のパターン11は、視線の角度0度から見た場合に認識される右目用のホログラム像を構成する。線状のパターン12は、視線の角度0度から見た場合に認識される左目用のホログラム像を構成する。線状のパターン13は、視線の角度30度から見た場合に認識される右目用のホログラム像を構成する。線状のパターン14は、視線の角度30度から見た場合に認識される左目用のホログラム像を構成する。そして、パターン11と12の組み合わせにより、第1の立体像が構成され、パターン13と14の組み合わせにより、第1の立体像とは異なる第2の立体像が構成されるようにされている。なお、視線の角度は、識別媒体の面に対して垂直な方向となす角度として定義される。
【0059】
この例によれば、図2に示すような光学フィルタを介した観察において、視線の角度0度では、第1の立体像が認識され、視線の角度30度では、第2の立体像が認識される。つまり、識別媒体を傾けることで、立体像が変化する(あるいは切り替わる)状態を観察することができる。この現象を利用すると、識別媒体700を傾けると、立体像が回転するかのような視覚効果が得られる。また、識別媒体700を傾けると、別の立体像に切り替わる視覚効果が得られる。
【0060】
ここでは、2つの視線の角度に対して立体像を用意する例を説明したが、さらに多くの視線の角度に対して立体像を用意した構成とすることもできる。
【0061】
(他の構成5)
図7の同様な視覚効果を得る方法として、図1に示す構成におけるパターン104aおよび104bの一つを更にストライプ状に分離し、右目用のホログラム像と左目用のホログラム像を複数用意する方法が挙げられる。この場合、図1のパターン104aがストライプ上に分割され、そこに複数の角度用のホログラムが用意される。また、図1のパターン104bがストライプ上に分割され、そこに複数の角度用のホログラムが用意される。
【0062】
(他の構成6)
図1には、第1の像を右目用とし、第2の像を左目用とし、立体像を観察可能とする例が記載されているが、第1の像を数字、第2の像をアルファベット文字としてもよい。この場合、当該識別媒体を直視すると、数字とアルファベット文字が同時に見え、右円偏光フィルタを介して当該識別媒体を観察すると、数字のみが見え、左円偏光フィルタを介して当該識別媒体を観察すると、アルファベット文字のみが見える。この見え方の変化を利用することで、識別が行われる。
【0063】
ここで、数字とアルファベット文字の組み合わせを示したが、数字と図柄の組み合わせ、アルファベット文字と図柄の組み合わせ、異なる図柄の組み合わせを採用することもできる。
【0064】
(他の構成7)
第1の立体像を識別に利用する形態において、直視した場合に像が2重にぶれて見えてしまう現象を緩和した例を以下に説明する。図8は、本実施形態の識別媒体の見え方を概念図である。図8(A)には、識別媒体800が示されている。識別媒体800は、図1に例示した断面構造を有し、コレステリック液晶層は、左円偏光を選択的に反射する設定とされている。また、コレステリック液晶層には、以下に説明する左右のホログラム像とダミーホログラムが形成されている。
【0065】
図8(A)には、右目用のホログラム像801とダミーホログラム802が示されている。なお、図8(A)では、左目用のホログラム像は図示省略されている。ホログラム像801およびダミーホログラム802は、同じ様に反射光が観察される形態とされ(図8(A)では、区別が付く模様とされている)、λ/2板を介して観察される構造とされている。
【0066】
ホログラム像801を右目で視認している状態において、ダミーホログラム802は、右目からは見えず(見え難く)、左目で視認し易いホログラムとされている。すなわち、ホログラム像801を右目で視認している状態において、ダミーホログラム802は、右目では像を結像せず、左目において結像するホログラムとされている。
【0067】
一方において、図8(B)に示すように左目用のホログラム像803が、図8(A)の右目用のホログラム像801とややずれた位置関係で構成されている。左目用のホログラム像803は、ホログラム像801を右目で観察している状態で、左目で結像するホログラム像であり、λ/2板を介さずに観察される。
【0068】
この構成によれば、円偏光フィルタを利用せずに識別媒体800を直接観察する際、右目を右目用のホログラム801に視点を合わせ、左目を左目用のホログラム803に視点を合わせる。この場合、右目で右目用のホログラム像801が見え、左目でダミーホログラム802が見える。ホログラム像801とダミーホログラム802は、ネガポジの様に同じ模様とされているので、両者が同時に認識されることで、ホログラム像801がダミーホログラム802と一緒に見え、両者の区別が付き難くなる。つまり、識別媒体800を直視した場合、ホログラム像801は、認識し難くなる。このため、直視した場合、図8(B)の符号804で示すように、一様なホログラム像が認識され、右目用のホログラム像801は、観察されない(あるいは、観察し難い)。
【0069】
一方、直視した場合であっても、左目において、左目用のホログラム803は見えるので、左目用のホログラム像803は視認できる。このため、光学フィルタを介さずに識別媒体800を直視した場合、図8(B)に示すように左目用のホログラム像803が優先的に認識され、像がぶれて見える現象が緩和される。
【0070】
次に、右目の前に右旋回円偏光を選択的に透過する右円偏光フィルタを配置し、左目の前に左旋回円偏光を選択的に透過する左円偏光フィルタを配置して識別媒体800を観察する場合を説明する。
【0071】
この場合、右目用のホログラム像801からは、λ/2板を透過する関係で右旋回円偏光が反射される。この点は、ダミーホログラム802も同じである。この際、右円偏光フィルタを介して右目用のホログラム像801からの像を右目で観察している状態において、ダミーホログラム802からの反射光は、右目では視認されない(あるいは視認し難い)。これは、右目用のホログラム像801が右目で結像している状態では、ダミーホログラム802は、右目で結像せず、左目で結像するように設定されているからである。一方、左目は、左円偏光フィルタを介して、識別媒体800を見ているから、ダミーホログラム802からの右旋回円偏光の反射光は、この左円偏光フィルタで遮断され左目には届かない。つまり、この状態において、ダミーホログラム802は、左目で見えない。
【0072】
従って、右目で右目用のホログラム像801が選択的に見え、左目で左目用のホログラム像803が選択的に見え、ダミーホログラム802は両目で見えない。これにより、図8(C)に示す立体像805が認識される。このように本実施形態に示すダミーホログラム802を用いることで、直視した場合に、像がぶれて見えてしまう現象が緩和され、且つ、光学フィルタを用いた観察において、ダミーホログラムを認識せずに立体像を観察することができる識別媒体が提供される。
【0073】
以上述べたように、上記の例では、右目用のホログラム像801は、右目で結像し、更に、ホログラム像801からの反射光と同じ旋回方向(右旋回方向)の円偏光を当該識別媒体800の外部に反射し、且つ、右目で結像せず左目で結像するダミーホログラム802がコレステリック液晶層(図1の符号103に相当)に形成されている。なお、「ホログラム像801からの反射光と同じ旋回方向(右旋回方向)の円偏光を当該識別媒体800の外部に反射し、且つ、右目で結像せず左目で結像するダミーホログラム802」というのは、識別媒体800を外部から観察した際に、ダミーホログラム802からの反射光が、ホログラム像801からの反射光と同じ旋回方向の円偏光であり、更にダミーホログラム802からの反射光が右目で結像せず左目で結像するホログラム像を構成していることをいう。
【0074】
ここでは、直視した場合に、右目用のホログラム像を左目で見えるダミーホログラムにより、見え難くすることで、像のぶれを抑える構成を説明したが、ダミーホログラムを左目用のホログラム像に適用することもできる。また、左右のホログラム像に同時にダミーホログラムを適用することもできる。左右のホログラム像にダミーホログラムを適用した場合、直視では、像が見え難く、右目の前に右円偏光フィルタを配置し、左目の前に左円偏光フィルタを配置した状態で観察すると、立体像が浮かび上がって見える識別媒体が得られる。
【0075】
(他の構成8)
他の構成7の変形として、ダミーホログラム802をλ/2板を介さずに観察する構成としてもよい。この場合、ダミーホログラム802と右目用のホログラム像801が同時に右目で結像し、左目用のホログラム像803を左目で見ている状態で、ダミーホログラム像802が左目で結像しない構成とする。
【0076】
この場合、識別媒体800を直視すると、右目でダミーホログラム802と右目用のホログラム像801が同時に見え、両ホログラムが同時に見えるので、図8(B)に示すように右目用のホログラム像801が認識でできない(認識し難い)。また、左目は、左目用のホログラム像803を視認する。更に、この状態でダミーホログラム像802が左目で結像しないので、ダミーホログラム802は、左目では見えない(見え難い)。
【0077】
一方、右目の前に右円偏光フィルタを配置し、左目の前に左円偏光フィルタを配置した状態で識別媒体800を観察すると、ダミーホログラム802からの反射光は、λ/2波長を透過しないので、左旋回円偏光であり、右目には届かず、右目では見えない(あるいは見え難い)。また、左目でホログラム像803が結像する状態において、ダミーホログラム802は、左目で結像しないので、ダミーホログラム802は左目で見えない(あるいは見え難い)。一方、右目用ホログラム像は、右目で選択的に視認され、左目用ホログラム像は、左目で選択的に視認される。
【0078】
この場合も、直視した場合に、像がぶれて見えてしまう現象が緩和され、且つ、光学フィルタを用いた観察において、ダミーホログラムを認識せずに立体像を観察することができる識別媒体が提供される。
【0079】
以上述べたように、上記の例では、右目のホログラム像801は、右目で結像し、更に、右目用のホログラム像801からの反射光と逆の旋回方向の円偏光を当該識別媒体800の外部に反射し、且つ、右目で結像し左目で結像しないダミーホログラム802がコレステリック液晶層(図1の符号103に相当)に形成されている。なお、「右目用のホログラム像801からの反射光と逆の旋回方向の円偏光を当該識別媒体800の外部に反射し、且つ、右目で結像し左目で結像しないダミーホログラム802」というのは、識別媒体800を外部から観察した際に、ダミーホログラム802からの反射光が、ホログラム像801からの反射光と逆の旋回方向の円偏光であり、更にダミーホログラム802からの反射光が右目で結像し、左目で結像しないホログラム像を構成していることをいう。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、真贋の識別を行うための技術に利用することができる。
【符号の説明】
【0081】
100…識別媒体、101…λ/2板、101a…λ/2板により構成された線状のパターン、102…透明基板、103…コレステリック液晶層、104…ホログラム形成層、104a…右目用のホログラム形成層のパターン、104b…左目用のホログラム形成層のパターン、105…粘着層、201…右目、202…左目、203…右旋回円偏光を選択的に透過する右円偏光フィルタ、204…左旋回円偏光を選択的に透過する左円偏光フィルタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホログラムを表示するためのホログラム層を有するコレステリック液晶層と、
前記コレステリック液晶層に積層され、前記コレステリック液晶層を覆う第1の部分と覆わない第2の部分とが周期的に繰り返されたパターンを有するλ/2板として機能する層と
を備え、
前記ホログラム層は、前記第1の部分に対応した複数の第1の領域と前記第2の部分に対応した複数の第2の領域とを有し、
前記複数の第1の領域により第1のホログラム像が構成され、
前記複数の第2の領域により第2のホログラム像が構成されていることを特徴とする識別媒体。
【請求項2】
前記第1のホログラム像が左右の目の一方の目用のホログラム像であり、
前記第2のホログラム像が左右の目の他方の目用のホログラム像であり、
前記第1のホログラム像と前記第2のホログラム像とにより立体像が構成されていることを特徴とする請求項1に記載の識別媒体。
【請求項3】
前記第1のホログラム像および前記第2のホログラム像が、当該識別媒体を見る角度に応じて複数用意されていることを特徴とする請求項1または2に記載の識別媒体。
【請求項4】
前記第1の領域と前記第2の領域がストライプ状のパターンまたは市松模様を構成していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の識別媒体。
【請求項5】
前記第1のホログラム像は、前記左右の目の一方で結像し、
更に、前記第1のホログラム像からの反射光と同じ旋回方向の円偏光を当該識別媒体の外部に反射し、且つ、前記左右の目の一方で結像せず他方で結像するダミーホログラムが前記コレステリック液晶層に形成されていることを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載の識別媒体。
【請求項6】
前記第1のホログラム像は、前記左右の目の一方で結像し、
更に、前記第1のホログラム像からの反射光と逆の旋回方向の円偏光を当該識別媒体の外部に反射し、且つ、前記左右の目の一方で結像し他方で結像しないダミーホログラムが前記コレステリック液晶層に形成されていることを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載の識別媒体。
【請求項7】
請求項2〜6のいずれか一項に記載の識別媒体を第1の旋回方向を透過し、それとは逆旋回方向の第2の旋回方向を遮断する光学フィルタを介して、左右の目の一方の目で観察し、且つ、前記第2の旋回方向を透過し、前記第1の旋回方向を遮断する光学フィルタを介して、左右の目の他方の目で観察することを特徴とする識別媒体の識別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−102843(P2011−102843A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256998(P2009−256998)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】