説明

識別媒体およびその識別方法

【課題】色彩の変化を示し、且つ、像の切り替わりを観察可能な識別媒体を提供する。
【解決手段】観察する側から、ホログラム101aが形成されたコレステリック液晶層101と、周期的にコロイド粒子が配列した高分子ゲルの層102とを備えた構成とし、高分子ゲルの層102に外力を加えた際、高分子ゲルの層102を溶剤に接触させた際または高分子ゲルの層102の温度を変化させた際に、周期的に配列したコロイド粒子の間隔が変化し、高分子ゲルの層102からの反射光の波長が変化する。これにより、コレステリック液晶層101背後からの反射光による色彩が変化し、識別が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、識別媒体およびその識別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧力を加えると色彩が変化するコロイドフォトニック結晶が知られている(例えば、特許文献1および非特許文献1を参照)。また他方で、ホログラムとコレステリック液晶を組み合わせた構造の識別媒体が知られている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2009−148082号公報
【特許文献2】特開2006−145688号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】加工技術研究会「コンバーテック」2009年12月号p12-34
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
圧力を加えるだけで色彩が変化する形態では、真贋の判定を行う識別媒体の機能として不十分である。また、コレステリック液晶は左右の円偏光フィルタを使い分けることで、画像の切り替わりが観察可能であるが、色彩の変化が乏しい。このような背景において、本発明は、圧力を加える等の外部からの作用による色彩の変化を示し、且つ、像の切り替わりを観察可能な識別媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、観察する側から、ホログラムが形成されたコレステリック液晶層と、周期的にコロイド粒子が配列した高分子ゲルの層とを備え、前記高分子ゲルの層に外力を加えた際、前記高分子ゲルの層を溶剤に接触させた際または前記高分子ゲルの層の温度を変化させた際に、前記周期的に配列したコロイド粒子の間隔が変化し、前記高分子ゲルの層からの反射光の波長が変化することを特徴とする識別媒体である。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、コレステリック液晶層から特定波長で特定の旋回方向の円偏光の反射光が得られ、高分子ゲルの層からは、周期的に配列した複数のコロイド粒子からの反射光の干渉により、Bragg反射の原理により、ある中心波長の反射光が得られる。これらの反射光は、繰り返し現れる層から多重的に反射される反射光の干渉を伴うので、当該識別媒体を傾け、見る角度を変化させると、干渉する波長が変化し、観察される色彩が変化する。また、外力を加える等してコロイド粒子間の間隔を変化させると、Bragg反射の条件が変わり、高分子ゲルの層からの反射光の中心波長が変化する。
【0008】
他方で、請求項1に記載の発明では、コレステリック液晶層が観察面側に配置されているので、コレステリック液晶層からの反射光を選択的に透過する円偏光フィルタを介した観察では、コレステリック液晶層からのホログラム像が優先的に視認される。そして、上記と逆旋回の円偏光を選択的に透過する円偏光フィルタを介して当該識別媒体を観察すると、コレステリック液晶層は光学的に透明となり、高分子ゲルの層からの反射光が優先的に観察者側に届く。この際、画像の切り替わりが観察される。またこの状態において、上記の原理により、高分子ゲルの層におけるコロイド粒子の間隔を変化させることで、観察している反射光の中心波長が変わり、色彩の変化が観察される。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記反射光の波長の変化が可視光領域から可視光領域の外にシフトする変化であることを特徴とする。高分子ゲルの層からの反射光の中心波長を可視光領域から可視光領域の外にシフトさせることで、ある色に見えていた色彩が透明に変化する。この変化を利用することで、高分子ゲルの層の背後にある図柄が見えなかった状態から見えるようになる観察内容の切り替え機能が得られる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記高分子ゲルの層の非観察面側に図柄が形成された層、または光透過性のある粘着層が設けられていることを特徴とする。請求項3に記載の発明によれば、高分子ゲルの層が透明になった際に観察される背後の図柄が提供される。あるいは、高分子ゲルの層が透明になった際に粘着層を介して、粘着層によって貼り付けを行った面の図柄を観察可能な構成が提供される。
【0011】
請求項4に記載の発明は、観察する側から、異なる屈折率の光透過性のフィルムを交互に多層に積層した多層薄膜と、周期的にコロイド粒子が配列した高分子ゲルの層とを備え、前記周期的に配列したコロイド粒子の間隔を変えることで、前記周期的に配列したコロイド粒子の間隔が変化し、前記多層薄膜からの反射と同時に観察される前記高分子ゲルの層から反射される観察光の波長が変化することを特徴とする識別媒体である。
【0012】
請求項5に記載の発明は、粘着層と、周期的にコロイド粒子が配列した高分子ゲルの層とを備え、前記粘着層の粘着性を失わせる溶剤に触れた際に、前記周期的に配列したコロイド粒子の間隔が変わり、前記高分子ゲルの層から反射される観察光の波長が変化することを特徴とする識別媒体である。
【0013】
請求項6に記載の発明は、観察する側から、周期的にコロイド粒子が配列した高分子ゲルの層と、図柄が形成された層、または透明な粘着層とが設けられ、前記高分子ゲルの層に外力を加えた際、または前記高分子ゲルの層の温度を変化させた際に、前記周期的に配列したコロイド粒子の間隔が変化し、前記高分子ゲルの層からの反射光の波長が可視光領域から可視光領域の外にシフトすることを特徴とする識別媒体である。
【0014】
請求項7に記載の発明は、請求項1に記載の識別媒体を、右旋回円偏光を選択的に透過する右円偏光フィルタを介して観察するステップと、左旋回円偏光を選択的に透過する左円偏光フィルタを介して観察するステップとを有することを特徴とする識別媒体の識別方法である。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、色彩の変化を示し、且つ、像の切り替わりを観察可能な識別媒体が提供される。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、高分子ゲルの層が透明になる光学識別機能が得られる。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、高分子ゲルの層が透明になった際に、その背後の図柄の色彩が視認可能となる光学識別機能が得られる。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、多層薄膜のカラーシフトと高分子ゲルの層からのカラーシフトが重なって観察される光学識別機能が得られる。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、溶剤を用いて識別媒体を剥がしたことを識別できる。
【0020】
請求項6に記載の発明によれば、高分子ゲルの層が透明になることによる図柄の切り替わりを観察できる。
【0021】
請求項7に記載の発明によれば、請求項1に記載の識別媒体の識別の方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施形態の断面構造図である。
【図2】高分子ゲルの層の光学機能を説明する原理図である。
【図3】実施形態の断面構造図である。
【図4】実施形態の断面構造図である。
【図5】実施形態の断面構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(1)第1の実施形態
(構成)
図1には、発明を利用した識別媒体100が示されている。識別媒体100は、観察する側から、コレステリック液晶層101、コロイドフォトニック結晶ゲル層102、粘着層103、セパレータ104と積層された構造とされている。
【0024】
コレステリック液晶層101は、緑の中心波長の右旋回円偏光(右円偏光)を選択的に反射する設定とされている。コレステリック液晶層101には、ホログラム型を押し付けることで形成されたホログラム101aが形成されている。ホログラム101aは、光学干渉によりホログラム像を形成するための凹凸構造をコレステリック液晶層101に設けることで構成されている。なお、コレステリック液晶層101の観察面側には、TAC(トリアセチルセルロース)フィルム等の透過する光の偏光特性を乱さない材質の光透過性の保護層が配置されるが、図では、記載が省略されている。
【0025】
コロイドフォトニック結晶ゲル層102は、コロイド粒子、網目状高分子、イオン液体からなる層状(シート状)の高分子ゲルである。コロイドフォトニック結晶ゲルについては、WO2009−148082号公報に記載されている。
【0026】
コロイド粒子としては、シリカ粒子、ポリスチレン粒子、高分子ラテックス粒子、二酸化チタン等の酸化物の粒子、金属粒子、これらの粒子の複数を組み合わせた複合粒子が挙げられる。
【0027】
網目状高分子は、重合性の水溶性分子が重合によって形成した高分子が架橋によって三次元ネットワーク構造を構成している網目状の高分子である。網目状高分子は、コロイド粒子の位置を固定し、維持するように機能する。網目状高分子としては、アクリルアミドや各種アクリルアミド誘導体(例えば、N−メチロールアクリルアミドやN―アクリロイソアミノプロパノール、N―イソプロピルアクリルアミド等)が利用可能である。
【0028】
イオン液体は、水および有機溶媒の代わりとして機能する。イオン液体は、実質的に蒸気圧が0であるため、蒸発せず、コロイドフォトニック結晶ゲル層102の高分子ゲルの状態を維持する。イオン液体としては、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド、1−へキシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド等から選ばれたものが利用される。
【0029】
この例では、コロイド粒子はポリスチレンの粒子を用い、網目状高分子はアクリルアミドを用いている。イオン液体は1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテートを用いている。コロイドフォトニック結晶ゲル層102は、後述する原理により特定の中心波長の光を反射する。そして、外力を加える等して周期的に並んだコロイド粒子間の距離を変えると、反射光の波長がシフトし、見た目の色が変化する。この例では、定常状態において正面から見た場合にコロイドフォトニック結晶ゲル層102が緑に見えるように周期的に並んだコロイド粒子間の距離が調整されている。
【0030】
以下、コロイドフォトニック結晶ゲル層102の製造方法の一例を説明する。まず、コロイド粒子が網目状高分子によって固定化されたコロイド結晶ゲルを得る。次に、このコロイド結晶ゲルにイオン液体を含浸させる。この作業は、コロイド結晶ゲルをイオン液体に浸漬させることで行われる。こうしてコロイドフォトニック結晶ゲル層102の基となる材料を得る。そして、このコロイドフォトニック結晶ゲル層102の基となる材料をスライスすることで、コロイドフォトニック結晶ゲル層102を得る。
【0031】
粘着層103は、向こう側が透けて見える程度の透明性を有し、且つ、特定の色の色調を示す半透明な材質の粘着材の層であり、識別媒体100を識別の対象とする対象物に貼り付ける際に利用される。粘着層103を半透明とするのは、貼り付け対象物の図柄が見えるようにすると共に、着色されている方がコロイドフォトニック結晶ゲル層102の変色が際立って観察されるからである。勿論、粘着層103を透明な材質で構成することもできる。ただしこの場合は、コロイドフォトニック結晶ゲル層102の変色を際立たせる効果は、有色の半透明とした場合に比較して小さくなる。セパレータ104は、離型紙である。識別媒体100を対象物に貼り付ける際は、セパレータ104を剥がし、粘着層103を露出させた上で、粘着層103の露出面を対象物に接触させる。
【0032】
(コロイドフォトニック結晶ゲル層の光学機能)
図2には、コロイドフォトニック結晶ゲル層102の光学機能の原理が概念的に示されている。コロイドフォトニック結晶ゲル層の102は、複数のコロイド粒子102aが周期的に分布している。各コロイド粒子102aからの反射光は、Bragg反射の原理により干渉し、特定の角度から見た場合に特定の干渉光が観察される(図2(A))。そして見る角度を変えると、干渉する波長が変化し、色合いが変化する。具体的には、見る角度を大きくすると、Bragg反射の条件における光路差が短くなり、より短波長側で干渉が生じ、観察される反射光は、短波長側の色に変化する。なお見る角度は、視線とコロイドフォトニック結晶ゲル層102への垂線とのなす角度として定義される。
【0033】
図2(A)に示す状態において周囲から圧力を加え、全体の圧縮した様子が図2(B)に示されている。全体が圧縮されることで、隣接するコロイド粒子102a間の距離が狭まり、反射される光の干渉波長が短くなる。これにより、より短波長側の光が観察される。また、コロイドフォトニック結晶ゲル層102は、反射面が多層に積層された構造も有しているので、各層の界面から反射される反射光の干渉も生じる。この干渉によって生じる干渉光も図2(A)の状態から図2(B)の状態への遷移において、短波長側にシフトする。
【0034】
ここでは、反射光の短波長側へのシフトを説明したが、全体を膨張させれば、逆に長波長側に反射光がシフトする。また、部分的に変形させた場合には、圧縮された部分からの反射光は短波長側にシフトし、伸長された部分からの反射光は長波長側にシフトする。
【0035】
また、見る角度を大きくした場合(つまり、より斜めから見ようとした場合)に干渉する光の光路差が短くなり、観察される光がより短波長側にシフトする。この現象をカラーシフト現象(ブルーシフト現象)という。このカラーシフト現象は、繰り返しの多層構造を有するコレステリック液晶層においても同様に生じる。
【0036】
また本実施形態では、圧縮および伸長があるレベルに達した段階で、シフトした波長が紫外および赤外となるように、コロイド粒子102a間の距離が調整されている。
【0037】
(機能)
識別媒体100の識別機能を説明する。ここで、識別媒体100は、表面に図柄が形成された対象物に貼り付けられており、半透明な粘着層103を介して対象物表面の図柄が観察可能な状態であるとする。
【0038】
まず、識別媒体100を見る角度0度から直視した場合、コレステリック液晶層101からの赤の反射光とコロイドフォトニック結晶ゲル層102からの緑の反射光が同時に視認され、これら2つの色を合成した色彩が観察される。この際、コレステリック液晶層101のホログラムと対象物表面の図柄も同時に観察される。
【0039】
そして、識別媒体100を見る角度0度から直視した状態から識別媒体100を傾け、見る角度を大きくすると、カラーシフト現象により、コレステリック液晶層101からの干渉反射光とコロイドフォトニック結晶ゲル層102からの干渉反射光は、より短波長側にシフトし、観察される色彩が変化する。
【0040】
ここで、圧力を加える等してコロイドフォトニック結晶ゲル層102に外力を加えると、その部分およびその周囲で周期的に並んだコロイド粒子間の間隔が変化し、その部分のコロイドフォトニック結晶ゲル層102からの反射光の波長がシフトする。この結果、観察される色彩が変化する。
【0041】
また、加える外力を調整し、コロイドフォトニック結晶ゲル層102からの干渉反射光が紫外または赤外となるようにすると、その部分のコロイドフォトニック結晶ゲル層102が透明になり、下地となる貼り付けた対象物の図柄が見える。
【0042】
次に、右円偏光を選択的に透過する光学フィルタ(右円偏光フィルタ)を介して識別媒体100を正面から観察する場合を説明する。この場合、コレステリック液晶層101からの右円偏光が光学フィルタを透過するので、コレステリック液晶層101からの赤のホログラム像が優先的に鮮明に観察される。
【0043】
次に、使用する光学フィルタを、左円偏光を選択的に透過する光学フィルタ(左円偏光フィルタ)に交換し、観察を行う場合を説明する。この場合、コレステリック液晶層101から選択反射される右円偏光が遮断されるので、コレステリック液晶層101からの赤の反射光(赤のホログラム像)は見えず、コレステリック液晶層101は光学的に透明となり、コロイドフォトニック結晶ゲル層102からの緑の反射光が優先的に観察される。そしてこの状態において、識別媒体100を傾け見る角度を変化させると、コロイドフォトニック結晶ゲル層102のカラーシフトが観察される。さらにこの状態において、押すあるいは折り曲げる等によりコロイドフォトニック結晶ゲル層102に外力を加え、コロイド粒子の間隔を変化させると、その部分からの反射光の波長がシフトし、観察される反射光の色彩が変化する。さらに、加える外力を調整し、コロイドフォトニック結晶ゲル層102からの反射光を紫外または赤外に追いやることで、その部分のコロイドフォトニック結晶ゲル層102が透明となり、下地となる対象物の図柄が観察される。またこの外力を加えた状態で、コロイドフォトニック結晶ゲル層102からの反射光が赤外に追いやられている場合に、識別媒体100を傾け見る角度を大きくすると、干渉光が短波長側にシフトし、コロイドフォトニック結晶ゲル層102の透明感が損なわれ、赤っぽくみえる。これらの見え方の変化を利用して識別が行われる。
【0044】
(2)第2の実施形態
図3には、識別媒体200が示されている。識別媒体200は、図1の識別媒体100に図柄層201を加え、また粘着層として光透過性を有し、且つ光吸収性を有する暗色の半透明性の粘着層202を採用した構成を有する。なお、識別媒体100と同じ符号の部分は、図1に関連して説明した内容と同じである。
【0045】
図柄層201は、透明な樹脂フィルム上に印刷により図柄が形成されている。図柄は、文字、図形、模様等であり、図柄として視認できるものであれば、限定されない。粘着層202は、透明な粘着剤に黒や濃い色の顔料を混ぜたもので、粘着機能に加えて暗色でありながら半透明性を有する層として機能する。ここでは暗色の半透明性の粘着層202を採用する場合を説明するが、図柄層201の図柄を際立たせる色であれば、半透明状態の色調は、他の色を採用することも可能である。また、図柄層201の図柄の色調によっては、粘着層202を黒や暗色の光吸収性とすることもできる。この場合、黒や暗色との対比で図柄層201の色調が際立つようになる。
【0046】
識別媒体200も識別媒体100と同様にコレステリック液晶層101の側から観察する。まず右円偏光フィルタを介して識別媒体200を観察すると、コレステリック液晶層101のホログラム101aが赤く見える。次いで、左円偏光フィルタを介して識別媒体200を観察すると、コロイドフォトニック結晶ゲル層102からの緑の反射光が観察される。そして、識別媒体100に外力を加えると、コロイドフォトニック結晶ゲル層102中のコロイド粒子の間隔が変化し、コロイドフォトニック結晶ゲル層102からの反射光の色が変化する。更に、外力を調整し、コロイドフォトニック結晶ゲル層102からの反射光を可視光領域内から可視光領域外にシフトさせると、コロイドフォトニック結晶ゲル層102が透明となり、下地となる図側層201の図柄が観察される。この際の見え方の変化を利用して識別が行われる。
【0047】
(3)第3の実施形態
図4には、識別媒体300が示されている。識別媒体300は、観察する面の側から多層薄膜301、コロイドフォトニック結晶ゲル層102、暗色の粘着層202、セパレータ104と積層された構成とされている。ここで、コロイドフォトニック結晶ゲル層102、暗色の粘着層202、セパレータ104は、既に説明してあるので、ここでの説明は省略する。
【0048】
多層薄膜301は、屈折率の異なる2種類の光透過性の樹脂フィルムを交互に100〜200層積層した構造を有している。この構造では、異なる屈性率の層の界面が繰り返し存在するので、各界面からの反射光が干渉し、Bragg反射の場合と同様に見る角度を変えることで、干渉光の波長が変化するカラーシフトが現れる。
【0049】
識別媒体300の観察において、見る角度を変化させると、コロイドフォトニック結晶ゲル層102からの反射光と多層薄膜301からの反射光とが共にカラーシフトを示す。また、外力を加え、コロイドフォトニック結晶ゲル層102中のコロイド粒子の間隔を変化させると、コロイドフォトニック結晶ゲル層102からの反射光の色合いが変化する。また、外力の与え方によっては、コロイドフォトニック結晶ゲル層102からの反射光が可視光領域外にシフトし、コロイドフォトニック結晶ゲル層102が透明となる。これらの見え方の変化を利用して識別が行われる。
【0050】
(4)第4の実施形態
この例では、図1の識別媒体100において、粘着層102の粘着性を失わせる溶剤をコロイドフォトニック結晶ゲル層102に接触させた際に、コロイドフォトニック結晶ゲル層102を構成する網目状高分子が変質し、コロイドフォトニック結晶ゲル層102が収縮するように網目状高分子の種類が選択されている。この例では、溶剤としてアルコールを想定し、網目状高分子としてエポキシ樹脂、ウレタン樹脂等を選択している。
【0051】
この場合、識別媒体100と同様の光学識別機能に加えて以下の不正利用を識別できる機能が得られる。例えば、粘着層103の粘着性を溶剤で失わせ、識別媒体100を貼り付けた対象物から剥がした場合、溶剤に触れることで、コロイドフォトニック結晶ゲル層102が収縮するので、コロイドフォトニック結晶ゲル層102中のコロイド粒子の間隔が狭くなり、反射光の波長が短波長側にシフトする。これにより、見た目の色合いが変わり、識別媒体100を溶剤により剥がしたことが判明する。
【0052】
この例の変形として、溶剤によりコロイドフォトニック結晶ゲル層102を構成する網目状高分子が膨潤し、周期的に並んだコロイド粒子間の距離が増大するように設定することもできる。この場合、溶剤としてトルエンを想定した場合に網目状高分子としてアクリル樹脂等を選択する例が挙げられる。
【0053】
この場合、溶剤で網目状高分子が膨潤することで、周期的に並んだコロイド粒子間の距離が増大し、反射光のピークが長波長側にシフトする。これにより、溶剤で識別媒体を対象物から剥がそうとした事実を識別することができる。
【0054】
(5)第5の実施形態
この例では、図1の識別媒体100において、環境の温度を変化させた際(例えば、加熱や冷却)に、網目状高分子が膨張あるいは収縮し、それによりコロイド粒子間の距離の変化が生じて、コロイドフォトニック結晶ゲル層102からの反射光の中心波長がシフトする。例えば、加熱により網目状高分子が膨張するように設定する場合、網目状高分子としてアクリル樹脂等を選択する。また例えば、冷却により網目状高分子が収縮するように設定する場合、網目状高分子としてエポキシ樹脂、ウレタン樹脂等を選択する。なお、各種の設定事項については、他の実施形態の設定が利用可能である。
【0055】
この例の場合、識別媒体100を加熱または冷却することで、コレステリック液晶層101背後からの反射光の中心波長が変化する。またこの変化は、加熱や冷却を部分的に行うことで、部分的に生じさせることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、真贋の識別を行うための技術に利用することができる。
【符号の説明】
【0057】
100…識別媒体、101…コレステリック液晶層、101a…ホログラム、102…コロイドフォトニック結晶ゲル層、103…粘着層、104…セパレータ、200…識別媒体、201…図柄層、202…粘着層、300…識別媒体、301…多層薄膜、400…識別媒体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察する側から、
ホログラムが形成されたコレステリック液晶層と、
周期的にコロイド粒子が配列した高分子ゲルの層と
を備え、
前記高分子ゲルの層に外力を加えた際、前記高分子ゲルの層を溶剤に接触させた際または前記高分子ゲルの層の温度を変化させた際に、前記周期的に配列したコロイド粒子の間隔が変化し、前記高分子ゲルの層からの反射光の波長が変化することを特徴とする識別媒体。
【請求項2】
前記反射光の波長の変化が可視光領域から可視光領域の外にシフトする変化であることを特徴とする請求項1に記載の識別媒体。
【請求項3】
前記高分子ゲルの層の非観察面側に図柄が形成された層、または光透過性のある粘着層が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の識別媒体。
【請求項4】
観察する側から、
異なる屈折率の光透過性のフィルムを交互に多層に積層した多層薄膜と、
周期的にコロイド粒子が配列した高分子ゲルの層と
を備え、
前記周期的に配列したコロイド粒子の間隔を変えることで、前記周期的に配列したコロイド粒子の間隔が変化し、前記多層薄膜からの反射と同時に観察される前記高分子ゲルの層から反射される観察光の波長が変化することを特徴とする識別媒体。
【請求項5】
粘着層と、
周期的にコロイド粒子が配列した高分子ゲルの層と
を備え、
前記粘着層の粘着性を失わせる溶剤に触れた際に、前記周期的に配列したコロイド粒子の間隔が変わり、前記高分子ゲルの層から反射される観察光の波長が変化することを特徴とする識別媒体。
【請求項6】
観察する側から、
周期的にコロイド粒子が配列した高分子ゲルの層と、
図柄が形成された層、または透明な粘着層と
が設けられ、
前記高分子ゲルの層に外力を加えた際、または前記高分子ゲルの層の温度を変化させた際に、前記周期的に配列したコロイド粒子の間隔が変化し、前記高分子ゲルの層からの反射光の波長が可視光領域から可視光領域の外にシフトすることを特徴とする識別媒体。
【請求項7】
請求項1に記載の識別媒体を、
右旋回円偏光を選択的に透過する右円偏光フィルタを介して観察するステップと、
左旋回円偏光を選択的に透過する左円偏光フィルタを介して観察するステップと
を有することを特徴とする識別媒体の識別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−253051(P2011−253051A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126824(P2010−126824)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】