説明

識別媒体およびその識別方法

【課題】構造が簡単で像を切り替えて見ることができる識別媒体を提供する。
【解決手段】識別媒体101は、コレステリック液晶により表示される星型パターン202を備えている。星型パターン202は、複数のドット状のパターンにより構成されており、これらドット状のパターンは、反射する中心波長が異なる第1のドット状のパターン群と、第2のドット状のパターン群とを含んでいる。そして、第1のドット状のパターン群により第1の色の星型パターン202が構成され、第2のドット状のパターン群により第2の色の星型パターン202が構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラー表示を利用した識別媒体およびその識別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コレステリック液晶を用いた識別媒体が知られている。例えば、特許文献1には、ホログラムとコレステリック液晶を組み合わせた構造の識別媒体が記載されている。特許文献2には、コレステリック液晶成分を粒状にし、それをインク中に分散させたものを用いて印刷によりコレステリック液晶層を形成する技術が記載されている。特許文献3には、ホログラムを構成する回折構造を液晶材料の配向と光学的回折効果によるホログラムの表示に利用する構成が記載されている。特許文献4には、偏光方向を回転させる特性を有する液晶領域と円偏光特性を有する液晶領域を利用して画像を形成する構成が記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開2006−145688号公報
【特許文献2】特許4278731号公報
【特許文献3】特表2006−525139号公報(「0066」〜「0076」段落)
【特許文献4】特表2007−532959号公報(「0021」段落、「0022」段落)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された構成は、配向膜または配向処理が必要となる。このため構造が複雑化し、製造工程が煩雑化する。特許文献2に記載された構成は、コレステリック液晶成分が粒状に分散しているので、透過光が分散され、透明感に欠ける(白濁して見える)。特許文献3に記載された構成は、回折構造が配向膜を兼ねているので、その点で構造が簡略化されるが、色彩が切り替わるような像の変化は得られず、識別機能に欠ける。特許文献4に記載された構成も、色彩が切り替わるような像の変化は得られず、識別機能に欠ける。
【0005】
このような背景において、本発明は、構造が簡単で像を切り替えて見ることができる識別媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、複数のドット状のパターンにより構成されたコレステリック液晶層を備え、前記複数のドット状のパターンは、反射光の旋回方向または中心波長が異なる第1のドット状のパターン群と、第2のドット状のパターン群とを含むことを特徴とする識別媒体である。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、反射光の旋回方向の違いによって、第1のドット状のパターン群により構成される第1の像と、第2のドット状のパターン群により構成される第2の像とが構成される。この2つの像は、いずれかの旋回方向を選択的に透過する円偏光フィルタによって分離して観察することが可能となる。また、ドットにより像を形成することができるので、構造が簡単でありながら識別性の高い像を表示することが可能となる。このため、簡単な構造でありながら像の切り替えを利用した識別を行える識別媒体が提供される。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、第1のドット状のパターン群と、第2のドット状のパターン群とは、反射する反射光の旋回方向と中心波長の両方が異なることを特徴とする。請求項2に記載の発明によれば、旋回方向の違いで分離されて観察される2つの像の色彩が異なるので、更に高い識別機能を得ることができる。例えば、右旋回円偏光を選択的に透過する光学フィルタを用いることで、赤色の像を視認し、左旋回円偏光を選択的に透過する光学フィルタを用いることで、青色の像を視認することができる識別媒体が提供される。また、コレステリック液晶からの反射光の中心波長の違いにより色彩が与えられるので、カラーの像が観察できる構成でありながらカラーフィルタを必要とせず、シンプルな構成とできる。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、第1のドット状のパターン群は、第1の像を形成し、第2のドット状のパターン群は、第2の像を形成し、前記第1の像と前記第2の像とは同じ像であり、且つ、重なる位置に形成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明によれば、直視により第1の像と第2の像の色が合成された色彩が観察される。例えば、第1の像が赤で第2の像が青である場合、マゼンダの色の像が観察される。そして、第1の旋回方向の円偏光を選択的に透過する円偏光フィルタを介して観察することで、第1の色の像を観察でき、第2の旋回方向の円偏光を選択的に透過する円偏光フィルタを介して観察することで、第2の色の像を観察できる。すなわち、円偏光フィルタの使用の有無や旋回方向の違いによって、色が切り替わる像の観察が行える。
【0011】
請求項4に記載の発明は、前記複数のドット状のパターンは、前記第1のドット状のパターン群および前記第2のドット状のパターン群からの反射光と異なる中心波長の光を反射する第3のドット状のパターン群を更に含み、前記第1のドット状のパターン群、前記第2のドット状のパターン群および前記第3のドット状のパターン群のそれぞれは、RGBの3原色に対応する中心波長の光を反射することを特徴とする請求項3に記載の識別媒体である。
【0012】
請求項4に記載の発明によれば、RGBの3原色を利用したカラー像を識別に利用することができる。特にRGBの割合を調整することで、色彩の階調表示を識別に利用することができる。この仕組みによれば、カラーの階調表示が可能となるので、微細なカラー像を識別に用いることができる。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記第1のドット状のパターン群からの反射光と前記第2のドット状のパターン群からの反射光とは、旋回方向が異なり、前記第1のドット状のパターン群から構成される第1の像と、前記第2のドット状のパターン群から構成される第2の像とがずれた位置にあることを特徴とする。請求項5に記載の発明によれば、旋回方向の違いにより、ずれた位置にある2つの像を区別して視認することができる。なお、ずれた位置にある2つの像は、重なりがあっても良いし、重なりがなくても良い。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、前記第1の像が右目用の像を構成し、前記第2の像が左目用の像を構成し、前記第1の像と前記第2の像とで立体像が構成されていることを特徴とする。請求項6に記載の発明によれば、立体像を識別に利用することができる。
【0015】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか一項に記載の発明において、前記コレステリック液晶層に接して設けられた回折格子層を更に備え、前記回折格子層は配向処理が施され、または配向層を兼ねており、前記回折格子層によりホログラム像が形成されていることを特徴とする。請求項7に記載の発明によれば、ホログラム像を形成するための回折格子層を利用してコレステリック液晶の配向を行うので、構造が簡略化される。
【0016】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜7のいずれか一項に記載の発明において、前記コレステリック液晶層にホログラム加工が施されていることを特徴とする。請求項8に記載の発明によれば、コレステリック液晶層に施されたホログラム加工により構成されるホログラムを識別に利用することができる。
【0017】
請求項9に記載の発明は、右または左旋回円偏光を選択的に透過する光学フィルタにより、請求項2〜5のいずれか一項に記載の識別媒体を観察することで前記第1のドット状のパターン群により構成される第1の像を選択的に観察することを特徴とする識別媒体の識別方法である。請求項9に記載の発明によれば、一方の旋回方向の円偏光を透過する光学フィルタを用いて観察することで、第2のドット状のパターン群により構成される第2の像が見えずに(あるいは見え難く)、第1のドット状のパターン群により構成される第1の像を見ることができる。また、光学フィルタを用いないで観察することで、第1の像と第2の像とが一緒に見える。この際の色彩の違いを利用することで識別が行われる。
【0018】
請求項10に記載の発明は、請求項6に記載の識別媒体を第1の旋回方向を選択的に透過する光学フィルタにより右目で観察し、第2の旋回方向を選択的に透過する光学フィルタにより左目で観察することで、立体像を観察することを特徴とする識別媒体の識別方法である。請求項10に記載の発明によれば、立体像を利用した識別が可能な識別媒体が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、構造が簡単で像を切り替えて見ることができる識別媒体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態の識別媒体の断面構造を示す概念図である。
【図2】実施形態の識別媒体を正面から直視した場合の正面図である。
【図3】光学フィルタの正面図(A)と円偏光フィルタ部の断面図(B)である。
【図4】円偏光フィルタを介して観察した実施形態の識別媒体の正面図である。
【図5】円偏光フィルタを介して観察した実施形態の識別媒体の正面図である。
【図6】円偏光フィルタを介して観察した実施形態の識別媒体の正面図である。
【図7】円偏光フィルタを介して観察した実施形態の識別媒体の正面図である。
【図8】円偏光フィルタを介して観察した実施形態の識別媒体の正面図である。
【図9】実施形態の識別媒体における液晶層のドット構造を示す概念図である。
【図10】実施形態の識別媒体における液晶層のドット構造を示す概念図である。
【図11】実施形態の識別媒体の断面構造を示す概念図である。
【図12】実施形態の識別媒体の見え方を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(1)第1の実施形態
(識別媒体)
図1には、識別媒体101が示されている。識別媒体101は、観察する側から、保護層102、ホログラム形成層103、コレステリック液晶層105、接着層106と積層された構造とされている。なお識別の対象となる物品に貼り付けられていない状態においては、接着層106の露出面に離型紙が貼り付けられている(図1では、図示省略)。
【0022】
保護層102は、識別に利用する光を透過する光透過性を有し、また透過する光の偏光の状態を乱さない材質により構成されている。保護層102の材料としては、例えばTAC(トリアセチルセルロース(Triacetylcellulose))フィルムが利用される。
【0023】
ホログラム形成層103は、回折格子が形成された回折格子層として機能する。ホログラム形成層103は、光透過性を有した熱可塑性または熱硬化性の樹脂の層である。ホログラム形成層103には、ホログラムを表示させるための回折格子104(ホログラム型)が熱プレスにより形成されている。回折格子104のピッチは、100nm〜1500nm、回折格子の深さは100nm〜500nm程度が好ましいが特に限定されない。回折格子104は、コレステリック液晶層105の配向層としても機能する。
【0024】
コレステリック液晶層105は、インクジェット法を用いて形成されている。正面から見たコレステリック液晶層105の状態については後述する。接着層106は、黒や濃い色の顔料や染料が添加されている接着材料により構成されている。接着層106は、粘着性が失われない粘着材料により構成してもよい。また、接着層106を光透過性としてもよい。
【0025】
以下、識別媒体101の製造方法の一例を説明する。まず、保護層102を用意し、それを基材として、ホログラム形成層103を形成する。次にホログラム形成層103の露出した面にホログラム型を熱プレス法により押し当て、回折格子104を形成する。この際、配向層も同時に形成される。なお、配向処理を別工程でホログラム形成層103に対して行い、回折格子104に配向層として機能を付与してもよい。
【0026】
次に、回折格子104上にコレステリック液晶の出発材料(原液)をインクジェット印刷法により吹き付ける。ここでは、印刷法として既知であるインクジェット法の印刷装置において、インクの代わりにコレステリック液晶の原液を用い、このコレステリック液晶の原液を被形成面(回折格子104上)に噴射してドット状に付着させる。この際、後述する印刷パターンに応じて付着させるコレステリック液晶層中のカイラル剤の量を調整し、得られるコレステリック液晶層からの反射光の中心波長を調整する。これにより、予め決められたパターンに複数の色から構成される色彩が表示されるようにする。
【0027】
コレステリック液晶は、層状の構造を有し、各層での分子長軸の方向が互いに平行で、且つ、層面に平行な構造を有している。そして、各層は少しずつ回転して重なっており、立体的なスパイラル構造(螺旋構造)を有している。この螺旋構造における分子長軸の方向が360°回転(一回転)して元に戻るまでの層に垂直な方向における距離pをピッチという。そして、このピッチpと各層内の平均屈折率nとから、λ=n・pで示される反射される円偏光の中心波長λが決まる。ここで、nはコレステリック液晶の種類によってほぼ決まり、pはカイラル剤(液晶分子を螺旋配向させるための添加材料)の添加量によって調整される。また螺旋構造の旋回方向によって、反射される円偏光の旋回方向が決まる。
【0028】
したがって、インクジェットによって吹き付けられるコレステリック液晶材料の出発材料中のカイラル剤の量を調整することで、ドット毎にコレステリック液晶層105におけるピッチpの分布を調整でき、反射光の中心波長の設定が行われる。なお、反射光の旋回方向は、螺旋構造の捩れの方向を決める添加剤の種類によって決定される。
【0029】
コレステリック液晶の原液をインクジェット法により回折格子104上に付着させたら、予め決められた温度条件により、液晶分子の配向状態を成長させ、コレステリック液晶層105を得る。その後、接着層106を設け、図1に示す識別媒体101を得る。
【0030】
(表示パターン)
図2は、自然光の下において、識別媒体101を保護層102の側から直接見た状態を示す正面図である。符号201は、背景色(背景のパターン)である。背景色201は、緑色に見える中心波長の右旋回円偏光を反射するコレステリック液晶層105の印刷パターンにより構成されている。
【0031】
符号202は、2重の星型の外側の星型を構成する星型パターンであり、マトリクス状に配列した2種類のドット群によって構成されている。図9は、星型パターン202の一部を拡大した概念図である。図9に示すように、星型パターン202は、互い違いにマトリクス状に配列された2種類のドット群202aと202bとによって構成されている。
【0032】
ドット群202aは、赤色の波長で右旋回円偏光を反射するコレステリック液晶のドットにより構成されている。ドット群202bは、青色の波長で左旋回円偏光を反射するコレステリック液晶のドットにより構成されている。ドット群202aと202bは、インクとしてコレステリック液晶の原液を用いたインクジェット法により形成されている。色と旋回方向の選択は、上述したように添加物の量や種類を調整することで行われている。
【0033】
ドット群202aが作る像とドット群202bが作る像とは、同じ星型の像202とされている。この2つの像は重なっており、直視した場合は、赤と青が混ざって見えてマゼンタ色に見える。そして右旋回円偏光フィルタで見ると、ドット群202aが作る赤い星型のパターン202が選択的に見え、左旋回円偏光フィルタで見ると、ドット群202bが作る青い星型のパターン202が選択的に見える。
【0034】
図2に戻り、符合203は、星型パターン202の内側に配置された星型パターンである。星型パターン203は、緑色に見える中心波長の右旋回円偏光を反射するコレステリック液晶層105のパターンである。星型パターン203もコレステリック液晶のドットの集合により構成されている。図2における符号204は、ホログラムによる文字の表示である。ホログラム表示204は、回折格子104に起因する回折光の干渉により生成される。この回折光は、コレステリック液晶を反射層とするため円偏光の回折光となる。
【0035】
(識別機能)
以下、識別媒体101の識別機能を説明する。下記表1は、識別媒体101の見え方をまとめた表である。
【0036】
【表1】

【0037】
まず、識別媒体101を後述する光学フィルタを用いずに直接観察すると、緑色の背景色201を背景として、マゼンダ色の星型パターン202と、その内側の緑色の星型パターン203が観察される。またホログラム204が観察される。
【0038】
図3は、識別媒体101を見るための光学フィルタの一例である。図3には、光学フィルタ300が示されている。光学フィルタ300は、右旋回円偏光を選択に透過し、その他の偏光を遮断する右旋回円偏光フィルタ部301と、左旋回円偏光を選択に透過し、その他の偏光を遮断する左旋回円偏光フィルタ部302を備えている。
【0039】
右旋回円偏光フィルタ部301、左旋回円偏光フィルタ部302は、1/4波長板311と直線偏光を選択的に透過する直線偏光板312とを積層した構造を有している。右旋回円偏光フィルタ部301、左旋回円偏光フィルタ部302における透過光の旋回方向は、1/4波長板311と偏光板312の光軸回りの角度関係によって決められている。
【0040】
以下、右旋回円偏光を透過する右旋回円偏光フィルタ部301を介して、識別媒体101を観察した場合を説明する。図4は、右旋回円偏光フィルタを介して識別媒体101を観察した場合の正面図である。
【0041】
この場合、背景色201と星型パターン203からの右旋回円偏光は、右旋回円偏光フィルタ部301を透過するので、背景色201と星型パターン203は緑色に見える。そして、星型パターン202からの青色の左旋回円偏光は右旋回円偏光フィルタ部301で遮断され、星型パターン202からの赤色の右旋回円偏光は右旋回円偏光フィルタ部301を透過するので、星型パターン202は赤色に見える(図4)。
【0042】
次に、左旋回円偏光を透過する左旋回円偏光フィルタ部302を介して、識別媒体101を観察した場合を説明する。図5は、左旋回円偏光フィルタを介して識別媒体101を観察した場合の正面図である。
【0043】
この場合、背景色201と星型パターン203からの右旋回円偏光は、左旋回円偏光フィルタ部302で遮断されるので、背景色201と星型パターン203は黒色に見える(接着層106の黒い色が見える)。そして、星型パターン202からの青色の左旋回円偏光は左旋回円偏光フィルタ部302を透過し、星型パターン202からの赤色の右旋回円偏光は左旋回円偏光フィルタ部302で遮断されるので、星型パターン202は青色に見える。また、ホログラム204は、星型パターン202以外の部分において、右旋回円偏光の回折光になっているので、読み取れない(あるいは読み取り難い)。この識別媒体101の色の設定は一例であり、色および旋回方向の組み合わせは、請求の範囲に記載された範囲内であれば制限されない。
【0044】
(優位性)
識別媒体101は、配向処理が施された回折格子104と、回折格子104に接して形成されたコレステリック液晶105とを備え、回折格子104によりホログラム像が形成され、コレステリック液晶105の星型パターン202は、図9に示す複数のドット状のパターンにより構成されており、これらドット状のパターンは、反射する中心波長が異なる第1のドット状のパターン群202aと、第2のドット状のパターン群202bとを含んでいる。
【0045】
更に、第1のドット状のパターン群202aは、赤色の第1の像を形成し、第2のドット状のパターン群202bは、青色の第2の像を形成し、第1のドット状のパターン群202aからの反射光の旋回方向(右旋回)と第2のドット状のパターン群202bからの反射光の旋回方向(左旋回)が逆であり、第1の像と第2の像とは同じ星型パターン202であり、且つ、重なる位置に形成されている。
【0046】
この構成において、星型パターン202は、旋回方向と反射光の中心周波数が異なる2種類のドットの集合により像が形成されているので、直視と左右の円偏光フィルタを用いた観察において、異なる色合いに見える。このことを利用して識別が行われる。この例では、色彩の変化を利用するので、高い識別機能を得ることができる。また、色合いの違いに起因する違和感は、認識し易いので、偽装により得ることが困難な識別媒体を得ることができる。この他にもホログラムが円偏光フィルタにより可視、不可視に変化する現象を観察ことで、高い識別機能が得られる。また、コレステリック液晶層に形成されたホログラムは、複製が困難であるので、偽造が困難な識別媒体が得られる。
【0047】
(カラー表示の他の例)
図10は、図2の星型のパターン202に適用可能なドット構造の一例を示す概念図である。図10には、マトリクス状に配置された6個の画素10〜60が示されている。実際には、更に多くの画素により像の表示が行われるのであるが、ここでは説明を簡単にするために6個の画素により構成される例を説明する。
【0048】
6個の画素10〜60は、同じ基本構造を有している。以下、代表して画素10について説明する。画素10は、インクジェット法によって形成されたコレステリック液晶からなるドット11、12、13を有している。ドット11〜13の形状は、任意であるが、ここでは楕円形状とされている。この例では、ドット11がR(レッド)、ドット12がG(グリーン)、ドット13がB(ブルー)の3原色に割り当てられている。
【0049】
色の設定は、ドットを構成するコレステリック液晶のピッチを調整することで行われている。具体的には、カイラル剤の添加量を調整することで、ピッチが調整され、反射光の中心波長の調整が行われている。すなわち、ドット11は、赤(R)に対応する中心波長を反射するピッチとなるようにカイラル剤の添加量が調整されており、ドット12は、緑(G)に対応する中心波長を反射するピッチとなるようにカイラル剤の添加量が調整されており、ドット13は、青(B)に対応する中心波長を反射するピッチとなるようにカイラル剤の添加量が調整されている。
【0050】
また、ドット11〜13は、その面積が調整されることで、3原色の配合割合が調整され、これにより画素10が示す色彩が調整可能とされている。この調整は、インクジェット方式の印刷における噴射されるコレステリック液晶の原料の噴出量が調整されること、もしくは噴出量一定で噴出回数を調整することで行われる。なお、図10では、各ドットの面積は同じとされ、全体が一様な色彩の例が示されている。また、ドット11と12は、右旋回の円偏光を反射し、ドット13は、左旋回の円偏光を反射する設定とされている。
【0051】
以上の点は、画素20、30、40、50、60においても同じとされている。こうして、6個の画素10〜60によって、直視した場合に観察されるカラー像が構成される(実際には、更に多くの画素によりカラー像が形成される)。この構成によれば、色彩の階調表示が可能となり、濃淡のあるカラー像を識別に利用することができる。
【0052】
また、ドット11〜13の大きさの組み合わせを調整することで、所望する色を得ることができるので、色彩の設定が容易に行える。
【0053】
この例において、右旋回円偏光を選択的に透過する円偏光フィルタを用いて観察を行うと、ドット11と12からの反射光が見え、すなわち赤と緑が重なった色彩が見える。そして、左旋回円偏光を選択的に透過する光学フィルタを用いて観察を行うと、ドット13からの反射光が見え、青の色彩が見える。また、円偏光フィルタを用いずに直視すると、ドット11〜13の3原色が合成されたカラー像が観察される。
【0054】
(その他)
図9に示す構成において、ドット群202aとドット群202bの面積比を調整することで、赤と青の割合を調整し、直視した場合の色合いを調整することができる。この場合、インクジェット法によるドットの形成における噴射するコレステリック液晶の原液の量を調整し、ドットの面積を調整すればよい。また、領域202c毎における赤のドットと青のドットの面積比を調整することで、階調(濃淡)を有したカラー像を表示させることもできる。
【0055】
上記の例においては、ドット群202aが作る第1の像とドット群202bが作る第2の像とが同じ星型パターン202とされているが、第1の像と第2の像とを別な形状としてもよい。また、2つ像が一部で重なるように(つまり一部ずらし)、あるいは完全にずらした位置としてもよい。こうすることで、左右の円偏光フィルタを用いた観察において、色彩だけでなく、画像の形状や位置が切り替わる機能が得られる。
【0056】
図1に示す構成において、接着層106を設ける前の段階で、コレステリック液晶層105にホログラム形を押し付け、コレステリック液晶層105のホログラムを形成してもよい。この場合、コレステリック液晶層105の接着層106に接する面の側に、回折格子104によるホログラムとは別のホログラムが形成される。
【0057】
(2)第2の実施形態
図6は、他の実施形態の識別媒体を示す正面図である。図7および図8は、円偏光フィルタを介して図6の識別媒体を観察した場合を示す正面図である。
【0058】
図6には、識別媒体400が示されている。識別媒体400の断面構造は、第1の実施形態と同じである。この例では、背景色401として緑の右旋回円偏光を反射するコレステリック液晶が選択されている。そして、図柄402として、赤の右旋回円偏光を反射するコレステリック液晶が選択されている。また、「SECURITY」というも文字がホログラムにより形成されている。
【0059】
ここで、「GENUINE」という文字パターン403が背景と同じ色で、旋回方向が逆方向の反射光を反射するコレステリック液晶で構成されている。すなわち、「GE」と「NE」の部分は、背景色401と同様な緑色で旋回方向が逆の左旋回円偏光を反射するコレステリック液晶により構成され、「NUI」の部分は、図柄402と同じ赤色で旋回方向が逆の左旋回円偏光を反射するコレステリック液晶により構成されている。また、背景色401、図柄402、文字パターン403は、コレステリック液晶のドットの集合により構成されている。
【0060】
なお、図6では、「GENUINE」という文字パターン403が表示されているが、上述のように文字パターン403は、背景と同じ色であるので、円偏光フィルタを介さず、直視した場合には、視認できない(あるいは視認し難い)。
【0061】
右円偏光を選択的に透過する円偏光フィルタを介して識別媒体400を見ると、「GENUINE」という文字パターン403から反射される左旋回円偏光は観察できず、文字パターン403は黒く見える(図7)。この際、「SECURITY」というも文字がホログラム像として視認される。
【0062】
一方、左円偏光を選択的に透過する円偏光フィルタを介して識別媒体400を見ると、「GENUINE」という文字パターン403から反射される左旋回円偏光が観察され、他の領域からの右旋回円偏光は観察できない(あるいは観察し難い)。このため、文字パターン403が下地の色で見え、その他の領域は黒く見える(あるいは濃い色に見える)(図8)。
【0063】
この例によれば、図6では見えない(あるいは見え難い)「GENUINE」という文字パターン403が、円偏光フィルタの使用により図8に示すようにカラーの像として浮かび上がって見える潜像効果が得られる。
【0064】
(3)第3の実施形態
コレステリック液晶層を形成した後に、このコレステリック液晶層に対してホログラム加工を施す構成も可能である。図11は、実施形態の識別媒体の断面構造を示す概念図である。図11には、識別媒体500が示されている。識別媒体500は、保護層501、コレステリック液晶層502、接着層503を備えている。
【0065】
保護層501は、識別に利用する波長の光を透過し、且つ、透過光の偏光状態を乱さない材質(例えばTAC)により構成されている。コレステリック液晶層502は、図1のコレステリック液晶層105と同様に、インクジェット法により形成されたドット状パターンにより構成されている。接着層503は、接着材料や粘着材料に黒等の濃い色の顔料や染料を混ぜたものにより構成されている。接着層503は、識別媒体を識別対象の物品に貼り付ける機能に加えて、コレステリック液晶層502を透過してきた光を吸収する光吸収層としても機能する。
【0066】
以下、識別媒体500の製造方法の一例を説明する。まず保護層501を用意し、その一面に配向処理を施し、コレステリック液晶層502をインクジェット法により形成する。コレステリック液晶層502により構成される図柄は、図2に示すものが採用可能である。コレステリック液晶層502を形成したら、ホログラム型を熱プレスすることで、光干渉によりホログラム像を形成する回折格子(エンボス模様)504を形成する。その後、接着層503を形成し、識別媒体500を得る。
【0067】
(4)第4の実施形態
2種類のドット群により形成される像を右目用と左目用に振り分け、旋回方向の違いにより、各像を右目と左目とで分離して見るようにすることで、立体像を識別に利用することもできる。以下、この立体像を識別に利用する識別媒体の一例を説明する。
【0068】
図12は、立体像を識別に利用する識別媒体の一例を示す正面図である。図12(A)には、光学フィルタを介さずに直接観察した場合の見え方が示され、図12(B)には、光学フィルタを介して観察した状態が示されている。
【0069】
図12には、識別媒体600が示されている。識別媒体600は、図1に示す識別媒体101と同じ断面構造を有している。識別媒体600には、「SECURITY」というホログラム表示を備え、右目用の星型R601と左目用の星型L602が形成されている。星型Rと星型Lは、コレステリック液晶のドットの集合により構成されている。この点は、第1の実施形態の場合と同じである。ここで、星型R601は赤色の中心波長を反射するコレステリック液晶のドットパターンの集まりにより構成され、星型L602は青色の中心波長を反射するコレステリック液晶のドットパターンの集まりにより構成されている。ドットパターンの詳細は、図9に示す場合と同じである。
【0070】
星型R601は、右目用の画像を構成する像であり、右旋回円偏光を選択的に反射するコレステリック液晶のドットにより構成されている。星型L602は、左目用の画像を構成する像であり、左旋回円偏光を選択的に反射するコレステリック液晶のドットにより構成されている。星型Rと星型Lは、両目の視差の分、僅かにずれた位置に形成されており(図では誇張して示されている)、星型R601を右目で視認し、星型L602を左目で視認することで、立体像が認識される配置とされている。
【0071】
識別媒体600を直接見ると、星型R601と星型L602とが、左右両方の目で視認される。このため、図12(A)に示すように、ずれた位置にある星型R601と星型L602とが両方同時に見え、2重にぶれた星型の図柄が認識される。この際、星型R601のみが見えている部分は、赤色に見え、星型L602のみが見えている部分は青色に見える。そして、星型R601と星型L602とが重なっている部分は、赤と青が混ざりマゼンタ色に見える。
【0072】
次に立体像を見る場合を説明する。この場合、右旋回円偏光を選択的に透過する右旋回円偏光フィルタを介して、右目で識別媒体600を見る。また、左旋回円偏光を選択的に透過する左旋回円偏光フィルタを介して、左目で識別媒体600を見る。すると、星型R601から反射される右旋回円偏光は、右目で見えるが、左目では見えない。逆に、星型L602から反射される左旋回円偏光は、左目で見えるが、右目では見えない。つまり、右目で星型R601が選択的に視認され、左目で星型L602が選択的に視認される。これにより、視覚中枢において、立体像が虚像として得られ、図12(B)に示す星型の立体像603が認識される。またこの立体像603は、赤と青が合成されたマゼンタ色に見える。
【0073】
識別媒体600は、図12(A)と図12(B)の見え方の違いにより、識別が行われる。つまり、光学フィルタを介して見た場合に立体像が浮かび上がって見える現象、およびこの際に色彩が変化する現象を利用することで、識別が行われる。
【0074】
図12に示す例では、コレステリック液晶のドット模様で右目用の画像と左目用の画像を構成している。そして、両画像で反射光の旋回方向を逆方向とすることで、円偏光フィルタを用いた観察において、各像を左右の目で分離して視認し、立体像を観察できるようにしている。更に、左右の像の色彩を変えることで、立体像として見た場合と、直視した場合とで、色彩の変化を感じ取ることができるようにしている。このため、高い識別機能を得ることができる。
【0075】
なお、右目で左旋回円偏光を見、左目で右旋回円偏光を見るようにしてもよい。また、色の設定もこの例に限定されず、他の色を選択することができる。また、図10に示すドットパターンを利用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、真贋の識別を行うための技術に利用することができる。
【符号の説明】
【0077】
101…識別媒体、102…保護層、103…ホログラム形成層、104…回折格子、105…コレステリック液晶層、106…接着層、201…背景色、202…星型パターン、202a…ドット群、202b…ドット群、203…星型パターン、204…ホログラム表示、300…光学フィルタ、301…右旋回円偏光フィルタ部、302…左旋回円偏光フィルタ部、311…1/4波長板、312…直線偏光板、400…識別媒体、401…背景色、402…図柄、403…文字パターン、500…識別媒体、501…保護層、502…コレステリック液晶層、503…接着層、504…回折格子、600…識別媒体、601…星型R、602…星型L、603…星型の立体像。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のドット状のパターンにより構成されたコレステリック液晶層を備え、
前記複数のドット状のパターンは、反射光の旋回方向または中心波長が異なる第1のドット状のパターン群と、第2のドット状のパターン群とを含むことを特徴とする識別媒体。
【請求項2】
前記第1のドット状のパターン群と、前記第2のドット状のパターン群とは、反射する反射光の旋回方向と中心波長の両方が異なることを特徴とする請求項1に記載の識別媒体。
【請求項3】
前記第1のドット状のパターン群は、第1の像を形成し、
前記第2のドット状のパターン群は、第2の像を形成し、
前記第1の像と前記第2の像とは同じ像であり、且つ、重なる位置に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の識別媒体。
【請求項4】
前記複数のドット状のパターンは、前記第1のドット状のパターン群および前記第2のドット状のパターン群からの反射光と異なる中心波長の光を反射する第3のドット状のパターン群を更に含み、
前記第1のドット状のパターン群、前記第2のドット状のパターン群および前記第3のドット状のパターン群のそれぞれは、RGBの3原色に対応する中心波長の光を反射することを特徴とする請求項3に記載の識別媒体。
【請求項5】
前記第1のドット状のパターン群からの反射光と前記第2のドット状のパターン群からの反射光とは、旋回方向が異なり、
前記第1のドット状のパターン群から構成される第1の像と、前記第2のドット状のパターン群から構成される第2の像とがずれた位置にあることを特徴とする請求項1に記載の識別媒体。
【請求項6】
前記第1の像が右目用の像を構成し、前記第2の像が左目用の像を構成し、前記第1の像と前記第2の像とで立体像が構成されていることを特徴とする請求項5に記載の識別媒体。
【請求項7】
前記コレステリック液晶層に接して設けられた回折格子層を更に備え、
前記回折格子層は配向処理が施され、または配向層を兼ねており、
前記回折格子層によりホログラム像が形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の識別媒体。
【請求項8】
前記コレステリック液晶層にホログラム加工が施されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の識別媒体。
【請求項9】
右または左旋回円偏光を選択的に透過する光学フィルタにより、請求項2〜5のいずれか一項に記載の識別媒体を観察することで前記第1のドット状のパターン群により構成される第1の像を選択的に観察することを特徴とする識別媒体の識別方法。
【請求項10】
請求項6に記載の識別媒体を第1の旋回方向を選択的に透過する光学フィルタにより右目で観察し、第2の旋回方向を選択的に透過する光学フィルタにより左目で観察することで、立体像を観察することを特徴とする識別媒体の識別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−99888(P2011−99888A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252676(P2009−252676)
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】