説明

識別媒体付き転写箔、識別媒体付き転写箔の製造方法、識別媒体、および識別媒体の識別方法

【課題】部分的に設けられたホログラム周囲の段差に起因する不良が発生し難い識別媒体を提供することを目的とする。
【解決手段】基材101、剥離層102、保護層103、部分的に設けられたホログラム層105、部分的に設けられたホログラム層105の周囲に形成され、対象物への転写時に転写面を平坦にする平坦化層106を備えている。平坦化層106によって、部分的に設けられたホログラム層105の縁に部分に生じる段差を解消することで、転写面を平坦面とでき、部分的に設けられたホログラム周囲の段差に起因する不良が発生し難い識別媒体が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止機能と表面の保護機能に優れた識別媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
ホログラムを利用した偽造防止用の識別媒体が知られている。この識別媒体は、表面を保護する構成を必要とする。これに関連した技術として、例えば特許文献1や2に記載されたものが公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−237030号公報
【特許文献2】特許平10−258600公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ホログラムは高価であるので、製造コストを下げるためには、全面に設けず部分的に設けた構成が望まれる。しかしながら、ホログラムを部分的に設けた場合、ホログラムを設けた部分と設けない部分との間で段差が生じる。この段差部分に起因して、保護層の密着不良、対象物への転写不良、転写できたとしても擦れた場合の剥がれ、対象物への密着不良といった問題が発生する。このような背景において、本発明は、部分的に設けられたホログラム周囲の段差に起因する不良が発生し難い識別媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、基材と、前記基材から剥離可能な保護層と、前記保護層に直接または間接に接して部分的に設けられたホログラム層と、前記部分的に設けられた前記ホログラム層の少なくとも周囲に形成され、対象物への転写時に前記対象物に対向する面の表面を平坦にする平坦化層とを備えることを特徴とする識別媒体付き転写箔である。
【0006】
請求項1に記載の発明によれば、部分的に設けられたホログラム層に起因する転写面の凹凸が平坦化層によって平坦化される。このため、部分的に設けられたホログラム周囲の段差に起因する不良が発生し難い識別媒体が提供される。
【0007】
請求項2に記載の発明は、基材と、前記基材から剥離可能な保護層と、前記保護層に直接または間接に接して部分的に設けられたホログラム層と、前記部分的に設けられた前記ホログラム層の周囲に形成され、前記部分的に設けられた前記ホログラム層の表面と共に対象物への転写時に前記対象物に対向する面を構成し、該対向する面の表面を平坦にする平坦化層とを備えることを特徴とする識別媒体付き転写箔である。
【0008】
請求項2に記載の発明によれば、部分的に設けられたホログラム層の縁の部分で形成さされる段差が、平坦化層によって埋められる。このため、ホログラム層の上面に連続する平坦面が形成された識別媒体付き転写箔が得られる。
【0009】
請求項3に記載の発明は、基材と、前記基材から剥離可能な保護層と、前記保護層に直接または間接に接して部分的に設けられたホログラム層と、前記部分的に設けられた前記ホログラム層を覆って形成され、対象物への転写時に前記対象物に接触し軟化する接着層とを備えることを特徴とする識別媒体付き転写箔である。
【0010】
請求項3に記載の発明によれば、部分的に設けられたホログラム層が接着層で覆われる。この接着層は、転写時に対象物に接触した状態で軟化し、それにより、ホログラム層に起因する段差の影響が緩和される。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の発明において、前記ホログラム層は、ホログラム加工が施されたコレステリック液晶層であることを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、基材に該基材から剥離可能な保護層を形成する工程と、前記保護層の上の部分的な領域にホログラム層を形成する工程と、前記部分的な領域に設けられた前記ホログラム層の周囲に、前記部分的に設けられた前記ホログラム層表面と共に対象物への転写時に前記対象物に対向する面を構成し、該対向する面の表面を平坦にする平坦化層を形成する工程とを有することを特徴とする識別媒体付き転写箔の製造方法である。
【0013】
請求項5に記載の発明において、保護層の上の部分的な領域にホログラム層を形成する工程には、保護層に接してホログラム層を形成する場合と、保護層の上に印刷層のような他の層を形成し、その上にホログラム層を形成する場合とが含まれる。これは、請求項6においても同じである。
【0014】
請求項6に記載の発明は、基材に該基材から剥離可能な保護層を形成する工程と、前記保護層の上の部分的な領域にホログラム層を形成する工程と、前記部分的な領域に設けられた前記ホログラム層を覆って接着剤の層を形成する工程と、前記接着剤の層を対象物に接触させた状態において前記接着剤を軟化させ、平坦な転写面でもって前記接着剤の層を前記対象物に接着させる工程とを有することを特徴とする識別媒体付き転写箔の製造方法である。
【0015】
請求項7に記載の発明は、対象物に接着される接着剤の層と、前記接着剤の層上で部分的に設けられたホログラム層と、前記部分的に設けられた前記ホログラム層の周囲に形成され、前記部分的に設けられた前記ホログラム層の表面と共に対象物への転写時に前記対象物に対向する面を構成し、該対向する面の表面を平坦にする平坦化層と、前記ホログラム層および前記平坦化層上の保護層とを備えることを特徴とする識別媒体である。
【0016】
請求項7に記載の発明において、接着剤の層上で部分的に設けられたホログラム層は、接着剤の層上に直接設けても良いし、間に他の層を挟んで間接的に設けても良い。これは、請求項8においても同じである。
【0017】
請求項8に記載の発明は、保護層と、前記保護層上において部分的に設けられたホログラム層と、前記部分的に設けられた前記ホログラム層を覆って形成され、前記ホログラム層が埋め込まれると共に、平坦な転写面でもって対象物に接触する接着剤の層とを備えることを特徴とする識別媒体である。
【0018】
請求項9に記載の発明は、前記ホログラム層がコレステリック液晶層にホログラム加工が施された構成を有した請求項7または8の識別媒体の識別方法であって、特定旋回方向の円偏光を選択的に透過する円偏光フィルタを介して、当該識別媒体を観察することを特徴とする識別媒体の識別方法である。
【発明の効果】
【0019】
請求項1および2に記載の発明によれば、部分的に設けられたホログラム層周囲の段差に起因する不良が発生し難い識別媒体が提供される。
【0020】
請求項3に記載の発明によれば、対象物に貼り付けられた段階で部分的に設けられたホログラム層周囲の段差に起因して発生する問題が解決された識別媒体が提供される。
【0021】
請求項4に記載の発明によれば、コレステリック液晶を利用した光学識別機能を得ることができる。
【0022】
請求項5に記載の発明によれば、部分的に設けられたホログラム層周囲の段差が解消された識別媒体を製造する方法が提供される。
【0023】
請求項6に記載の発明によれば、対象物に貼り付けられた段階で部分的に設けられたホログラム層周囲の段差に起因して発生する問題が解決される識別媒体を製造する方法が提供される。
【0024】
請求項7に記載の発明によれば、部分的に設けられたホログラム層周囲の段差が解消された識別媒体が提供される。
【0025】
請求項8に記載の発明によれば、対象物に貼り付けられた段階で部分的に設けられたホログラム層周囲の段差に起因して発生する問題が解決された識別媒体が提供される。
【0026】
請求項9に記載の発明によれば、請求項7または8に記載の識別媒体の識別方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施形態の識別媒体の製造工程と対象物への貼り付けを行う工程とを示す断面工程図である。
【図2】実施形態の識別媒体の外観を示す概念図である。
【図3】実施形態の識別媒体の断面構造を示す断面図である。
【図4】実施形態の識別媒体の外観を示す概念図である。
【図5】実施形態の識別媒体の対象物への貼り付けを行う工程を示す断面工程図である。
【図6】実施形態の識別媒体の製造工程と対象物への貼り付けを行う工程とを示す断面工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(1) 第1の実施形態
(製造工程)
図1には、実施形態の識別媒体の製造方法および対象物への貼付を行う工程が段階的に示されている。まず、図1(A)に示すベースフィルム104を製造する。ベースフィルム104は、PETフィルム等の樹脂フィルムにより構成される基材101、基材101上に設けられた剥離層102、剥離層102上に設けられた保護層103を備えている。剥離層102は、ワックスの層であり、後でその表面に接触する層を剥がすことができる離型層として機能する。保護層は、樹脂を主成分とするハードコート層であり、液状のものを塗布し、乾燥させ硬化させることで得ている。ここで、基材101の厚さは10〜50μm程度であり、剥離層102の厚さは1〜5μm程度であり、保護層103の厚さが1〜5μm程度である。
【0029】
ベースフィルム104を得たら、図1(B)に示すように、保護層103の露出した面にホログラム層105を形成する。ここでホログラム層105の厚さは、10μm程度である。この例では、ホログラム層105として、コレステリック液晶層に型押しによるホログラムを形成したものを利用する。
【0030】
以下、コレステリック液晶層を利用したホログラム層105の製造方法について説明する。まず図示しない基材上でコレステリック液晶層を配向させ、コレステリック液晶層を形成する。そして、形成したコレステリック液晶層にホログラム型を押し付けることで、その表面に微細な凹凸構造(エンボス構造)を与える。この凹凸構造が、光学干渉によるホログラムを形成する。次いで、ホログラムを形成したコレステリック液晶層を基材から剥がし、保護層103の露出した表面に接着剤もしくは粘着剤により貼り付ける。こうして図1(B)に示す状態を得る。ここでは、ホログラム層105としてコレステリック液晶層を利用したホログラムを採用する例を説明するが、他の形態のホログラム層を利用することも可能である。この例では、比較的に高価であるコレステリック液晶層を利用したホログラム層105を部分的に設け、それによるコスト増を押さえている。
【0031】
図1(B)に示す状態を得たら、平坦化層106を形成する。平坦化層106は、透明なインクを印刷することで形成される。平坦化層106は、ホログラム層105の縁の部分における段差を解消し、図1(C)に示すような平坦化された表面を形成する役割がある。よって、平坦化層106の厚さは、ホログラム層105と同じ厚さとする。なお、平坦化層106によって図柄を形成するようにしてもよい。
【0032】
図1(C)に示す状態において、部分的に設けられたホログラム層105の上面と同じ位置に平坦化層106の上面が位置し、これにより図1(C)に示す状態の最上面が平坦化される。言い換えると、部分的に設けられたホログラム層105の周囲が平坦化層106によって埋められ、その上面がホログラム層105と一致した状態とされることで、図1(C)に示されるように、部分的にホログラム層105が設けられていながら、ホログラム層105に起因する段差が解消された状態が得られる。そして、このホログラム層105とその周囲の平坦化層106によって構成される平坦性が確保された面(図1(C)の最上面)が、貼付対象物への対向面となる。
【0033】
こうして図1(C)に示す状態を得たら、透明な接着剤による接着層107を形成する。この状態が図1(D)に示されている。ここで、接着層107の厚さは、2〜30μmとする。この接着層107は、熱を加えた際に流動化し、接着力が発現するものを利用する。したがって、図1(D)の状態において、接着層107は、接着力を発現していない。
【0034】
図1(D)に示す状態が識別媒体付き転写箔110となる。識別媒体付き転写箔110は、基材101によって一体性が確保されており、取り扱い易い形態とされている。識別媒体付き転写箔110は、識別対象となる物品(例えば、商品やそのパッケージ等)に識別媒体を貼り付ける前段階の状態である。
【0035】
(転写工程)
以下、識別媒体付き転写箔110を利用して対象物に識別媒体を貼り付ける(転写する)工程の一例を説明する。まず、図1(D)に示す状態において、接着層107を対象物108に押し付ける。この状態が図1(E)に示されている。図1(E)には、図1(D)に示す状態の上下を反転させた状態が示されている。図1(E)に示す状態において、熱を加えた状態で基材101の側から圧力を加え、接着層107に接着力を発現させ、対象物108に識別媒体付き転写箔110を接着により貼り付ける。
【0036】
次いで、剥離層102の剥離機能を利用して、基材101を取り除く。こうして、図1(F)に示す状態を得る。図1(F)には、対象物108に識別媒体111が貼り付けられた状態が示されている。すなわち、図1(F)には、対象物108の表面に、視認する側から剥離層102、保護層103、ホログラム層105を含む平坦化層106、接着層107と積層された構造を有する識別媒体111が貼り付けられた状態、つまり識別媒体付き転写箔110から対象物108に識別媒体111が転写された状態が示されている。
【0037】
なお、図1(F)には、剥離層102が識別媒体111の側に残存している状態が示されているが、剥離層102を取り除いた状態とした識別媒体も可能である。また、対象物としては、各種カード、パスポート、有価証券、製品、製品パッケージ、その他真贋判定の対象とする物品が挙げられる。
【0038】
(識別機能)
図2(A)には、図1(F)に示す状態において、ホログラム層105に透過性がない場合が示されている。この場合、ホログラム層105の背後に黒色インク等により構成された可視光の吸収層が設けられ、ホログラム層105の背後からの反射光が観察できず、ホログラム層105のホログラム像が優先的に観察される。また、ホログラム層105以外の部分において、下地となる対象物の表面の模様や図柄(この場合は数字1の印字)が見える。
【0039】
図2(B)には、図1(F)に示す状態において、ホログラム層105に透過性がある場合が示されている。この場合、ホログラム層105の背後が透けて見え、対象物108の表面とホログラム層105のホログラム像が同時に観察される。また、ホログラム層105以外の部分において、下地となる対象物の表面の模様や図柄(この場合は数字1の印字)が見える。
【0040】
仮にコレステリック液晶層が右円偏光の選択反射性を有している場合、右円偏光フィルタを介して識別媒体111を観察すると、ホログラム層105のホログラム像が見える。逆に左円偏光フィルタを介して識別媒体111を観察すると、ホログラム層105から反射される右円偏光が当該左円偏光フィルタで遮断され、ホログラム層105のホログラム像は見えない。この観察される像の切り替わりを利用することで、真贋判定が行われる。なお、コレステリック液晶層が選択反射する円偏光の旋回方向は、右旋回に限定されず左旋回であってもよい。
【0041】
また、ホログラム層105を構成するコレステリック液晶層は多層構造を有しているので、見る角度を変えると、干渉により強め合う波長が変化するカラーシフトを示す。例えば、正面から見た状態でホログラム層105のホログラム像が赤に見える設定において、当該識別媒体を傾け、見る角度を斜めに変化させると、より短波長側の色合いに見た目の色が変化する。このカラーシフトも識別に利用することができる。
【0042】
(優位性)
以上述べたように、本実施形態では、基材101、剥離層102、保護層103、部分的に設けられたホログラム層105、部分的に設けられたホログラム層105の周囲に形成され、対象物への転写時に転写面を平坦にする平坦化層106を備えている。平坦化層106によって、部分的に設けられたホログラム層105の縁の部分に生じる段差が解消される。このため、転写面を平坦面とでき、部分的に設けられたホログラム層周囲の段差に起因する不良が発生し難い識別媒体が提供される。
【0043】
すなわち、コスト削減のため、高コストなコレステリック液晶を用いたホログラム層105を限定的に設けた構成であっても、平坦化層106の機能により、図1(D)に示す識別媒体付き転写箔110の状態において、部分的に設けられたホログラム層105に起因する段差が埋められている。このため、段差が解消されていることに起因して、図1(F)に示す対象物に貼り付けた状態において、保護層103の識別媒体111への密着性が高く、擦れ等に起因する保護層103の剥がれが生じ難い構造が得られる。また、これに関連して図1(D)→図1(E)に示す識別媒体111の転写時、および基材101の剥離時における不良の発生が生じ難い構造とできる。また、ホログラム層105が部分的に設けられているので、転写の対象となる対象物自体のデザインを邪魔しない(あるいは対象物のデザインを生かすことができる)。
【0044】
転写を行い基材を取り除く際、転写箔は対象物と接着した部分(接着部)と接着していない部分(未接着部)の境で切断され、接着した部分の転写箔のみが対象物に残る。しかし、転写箔の材質によっては接着部と未接着部の境で綺麗に切断されず、未接着部の一部が対象物に残ったり、接着部の一部が基材と一緒に剥離する状態になる。このような状態を箔切れが悪いという。箔切れが悪いと転写時に不良品が生じ、転写箔が無駄になる確率が増大する。ホログラム層は箔切れを悪化させる原因であり、ホログラム層が転写箔全面に設けられていると転写箔自体の箔切れが悪くなる。本発明ではホログラム層が部分的に設けられているため、箔切れが大幅に改善する。
【0045】
(2)第2の実施形態
図3には、対象物108に貼り付けた状態の識別媒体120が示されている。識別媒体120は、図1の識別媒体111に図柄印刷層121を加えた構成を有している。図4(A)には、図3に示す状態において、ホログラム層105に透過性がない場合が示されている。この場合、ホログラム層105以外の部分において、下地となる対象物の表面の図柄(この場合は数字1の印字)および図柄印刷層121の図柄(この場合は、星印)が見える。
【0046】
図4(B)には、図1(F)に示す状態において、ホログラム層105に透過性がある場合が示されている。この場合、ホログラム層105の背後が透けて見え、対象物108の模様とホログラム層105のホログラム像が同時に観察される。また、ホログラム層105以外の部分において、下地となる対象物の表面の図柄(この場合は数字1の印字)および図柄印刷層121の図柄(この場合は、星印)が見える。なお、図3に示す構成において、印刷層121をホログラム層105より先(保護層103の上)に印刷してもよい。この場合、保護層103とホログラム層105の間に印刷層121が設けられた層構造となる。
【0047】
(3)第3の実施形態
図5には、他の実施形態における対象物への貼り付け工程の一例が示されている。まず、図1(C)に示す状態を得る。ここでは、この状態を識別媒体付き転写箔141とする。この状態が図5(A)に示されている。次に、図5(B)に示すように、対象物108の転写面に紫外線硬化型の接着剤を塗布または印刷し、接着層142を形成する。更に、識別媒体付き転写箔141の平坦化層106の側を、接着層142に対向させ、図5(C)に示すように対向させた面同士を密着させる。この状態で、紫外光を照射することで、接着層142に接着力を発現させる。接着層142の接着剤が硬化したら、基材101を剥がし、対象物108に識別媒体143が貼り付けられた状態を得る(図5(D))。こうして、コールドスタンプ(コールド転写)による識別媒体143の対象物108への転写が行われる。ここでは、図1の構成を利用したが、図3に示す図柄印刷層121を備えた構成の実施形態を利用して、ここで示すコールドスタンプによる転写方法を行うこともできる。なお、接着層142を構成する接着剤は、時間が経過すると自然に硬化する形態のものを採用することもできる。
【0048】
(4)第4の実施形態
図6には、他の実施形態が製造工程および対象物への貼り付けを行う工程が段階的に示されている。まず図1(A)、(B)に示す工程を利用してベースフィルム104上にホログラム層105を形成する。ここで図6(A)は、図1(A)に対応し、図6(B)は、図1(B)に対応する。図6(B)に示す状態を得たら、接着剤を塗布し接着層131を形成する。接着層131は、図1の接着層107と同じものを利用する。この際、接着層131の厚さは、第1の実施形態の場合と同様に、2〜30μm程とする。この状態が図6(C)に示されている。
【0049】
図6(C)には、この識別媒体付き転写箔132が示されている。識別媒体付き転写箔132の役割や機能は、図1の識別媒体付き転写箔110と同じである。この状態では、部分的に存在するホログラム層105の部分が盛り上がった状態となる。
【0050】
次に、接着層131の露出面を対象物108に押し付け、更に熱を加えることで接着剤131を軟化させると共にその接着力を発現させる。この過程が、図6(D)→図6(E)に示されている。この際、接着剤が流動性を示し、図6(E)に示すように、接着層131にホログラム層105が埋め込まれた状態となる。この状態では、部分的に存在するホログラム層105に起因する段差が接着剤の流動性により解消され、層間の界面に段差が生じていない構成が得られる。
【0051】
次に、剥離層102の機能により、基材101を剥がし、図6(F)に示す状態を得る。図6(F)には、識別媒体付き転写箔132から対象物108に識別媒体133が転写された状態が示されている。
【0052】
本実施形態では、部分的に設けられたホログラム層105に起因する凹凸が接着層131を構成する接着剤の流動性よって解消されるので、第1の実施形態の場合と同様に、保護層103の識別媒体132への密着性が高く、擦れ等に起因する保護層103の剥がれが生じ難い構造が得られる。また、これに関連して図6(D)→図6(E)に示す識別媒体133の転写時、および基材101の剥離時における不良の発生が生じ難い。
【0053】
(その他)
図柄を構成するインクとして液晶インク等の偏光特性を持つインクを用いることもできる。この場合、ホログラムの目視観察に加えて、インクの偏光特性を利用した識別が可能となる。例えば、コレステリック液晶層を細かく鱗片状に粉砕して、それを溶媒中に分散させた液晶インクを利用して図柄を形成することができる。
【0054】
例えば、図4(A)に示す星印の図柄を上述したコレステリック液晶含有インクで形成した場合を説明する。ここで、コレステリック液晶含有インクは、赤の右円偏光を選択的に反射する設定のコレステリック液晶を含有した液晶インクであるとする。また、ホログラム層105を構成するコレステリック液晶は、緑の右円偏光を選択的に反射する設定であるとする。また、背後の対象物の表面は可視光を吸収する濃い色調であるとする。
【0055】
この場合、正面から直視してみると、赤の星印と緑の記号「A」のホログラム像が見える。そして、右旋回の円偏光を選択的に透過する右円偏光フィルタを介して観察すると、図柄印刷層121およびホログラム層105から選択反射される右円偏光が、この右円偏光フィルタを透過するので、上記直視した場合と同様に、赤の星印と緑の記号「A」のホログラム像が見える。そして、左円偏光フィルタを介した観察を行うと、図柄印刷層121およびホログラム層105から選択反射される右円偏光が、この左円偏光フィルタで遮断されるので、星印と記号「A」のホログラム像からの反射光は観察できず、背景の濃い色の中に紛れて識別困難になる。
【0056】
また、ホログラム層105からの反射光と図柄印刷層121の上記液晶インクを用いた図柄からの反射光の旋回方向を逆方向と設定すると、右円偏光フィルタを介した観察において一方が優先的に見え、左円偏光フィルタを介した観察において他方が優先的に見える識別機能が得られる。
【0057】
以上の例示では、基材101から剥離可能な保護層103とするために、剥離層102を利用しているが、剥離層102を用いる代わりに、基材101および保護層103の一方または両方の材質として、後で基材101から保護層103を剥がし易い関係となるものを選択する形態も可能である。この場合、剥離層102を設けなくても、最終段階で基材101から保護層103を剥離させることができる。また、図1、図5、図6に示す構成において、保護層103とホログラム層105との間に印刷層を設け、ホログラム層105以外の表示が行われるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、真贋の識別を行うための技術に利用することができる。
【符号の説明】
【0059】
101…基材
102…剥離層
103…保護層
104…ベースフィルム
105…ホログラム層
106…平坦化層
107…接着層
108…対象物
110…識別媒体付き転写箔
111…識別媒体
120…識別媒体
121…図柄印刷層
131…接着層
132…識別媒体付き転写箔
133…識別媒体
141…識別媒体付き転写箔
142…接着層
143…識別媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材から剥離可能な保護層と、
前記保護層に直接または間接に接して部分的に設けられたホログラム層と、
前記部分的に設けられた前記ホログラム層の少なくとも周囲に形成され、対象物への転写時に前記対象物に対向する面の表面を平坦にする平坦化層と
を備えることを特徴とする識別媒体付き転写箔。
【請求項2】
基材と、
前記基材から剥離可能な保護層と、
前記保護層に直接または間接に接して部分的に設けられたホログラム層と、
前記部分的に設けられた前記ホログラム層の周囲に形成され、前記部分的に設けられた前記ホログラム層の表面と共に対象物への転写時に前記対象物に対向する面を構成し、該対向する面の表面を平坦にする平坦化層と
を備えることを特徴とする識別媒体付き転写箔。
【請求項3】
基材と、
前記基材から剥離可能な保護層と、
前記保護層に直接または間接に接して部分的に設けられたホログラム層と、
前記部分的に設けられた前記ホログラム層を覆って形成され、対象物への転写時に前記対象物に接触し軟化する接着層と
を備えることを特徴とする識別媒体付き転写箔。
【請求項4】
前記ホログラム層は、ホログラム加工が施されたコレステリック液晶層であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の識別媒体付き転写箔。
【請求項5】
基材に該基材から剥離可能な保護層を形成する工程と、
前記保護層の上の部分的な領域にホログラム層を形成する工程と、
前記部分的な領域に設けられた前記ホログラム層の周囲に、前記部分的に設けられた前記ホログラム層表面と共に対象物への転写時に前記対象物に対向する面を構成し、該対向する面の表面を平坦にする平坦化層を形成する工程と
を有することを特徴とする識別媒体付き転写箔の製造方法。
【請求項6】
基材に該基材から剥離可能な保護層を形成する工程と、
前記保護層の上の部分的な領域にホログラム層を形成する工程と、
前記部分的な領域に設けられた前記ホログラム層を覆って接着剤の層を形成する工程と、
前記接着剤の層を対象物に接触させた状態において前記接着剤を軟化させ、平坦な転写面でもって前記接着剤の層を前記対象物に接着させる工程と
を有することを特徴とする識別媒体付き転写箔の製造方法。
【請求項7】
対象物に接着される接着剤の層と、
前記接着剤の層上で部分的に設けられたホログラム層と、
前記部分的に設けられた前記ホログラム層の周囲に形成され、前記部分的に設けられた前記ホログラム層の表面と共に対象物への転写時に前記対象物に対向する面を構成し、該対向する面の表面を平坦にする平坦化層と、
前記ホログラム層および前記平坦化層上の保護層と
を備えることを特徴とする識別媒体。
【請求項8】
保護層と、
前記保護層上において部分的に設けられたホログラム層と、
前記部分的に設けられた前記ホログラム層を覆って形成され、前記ホログラム層が埋め込まれると共に、平坦な転写面でもって対象物に接触する接着剤の層と
を備えることを特徴とする識別媒体。
【請求項9】
前記ホログラム層がコレステリック液晶層にホログラム加工が施された構成を有した請求項7または8の識別媒体の識別方法であって、
特定旋回方向の円偏光を選択的に透過する円偏光フィルタを介して、当該識別媒体を観察することを特徴とする識別媒体の識別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−83546(P2012−83546A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229571(P2010−229571)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】