説明

識別媒体

【課題】識別機能の高い識別媒体を提供する。
【解決手段】光吸収層兼粘着層101、鱗片状の磁性粉102bと分散液102cを内包した磁性マイクロカプセル102aの層を備えた磁性変化シート102と、コレステリック液晶層105とを積層した構造とする。垂直磁場を印加すると、鱗片状の磁性粉102bが縦に配向し、入射光は、磁性変化シート102を透過し、光吸収層兼粘着層101において吸収される。一方において、平行磁場を印加すると、鱗片状の磁性粉102bが水平に配向し、入射光は、磁性変化シート102において反射される。この違いがコレステリック液晶層105の光学特性に反映されて光学的な識別機能を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、視覚的な効果により物品の真贋性(真正性)を識別する技術に関し、見る角度や特定の偏光フィルタによって得られる特異な見え方に、磁場の印加によって変化する光学特性を組み合わせた技術に関する。
【背景技術】
【0002】
日用品や衣料品等の物品において、見た目を本物に似せて製造した偽物が市場に出回り問題となっている。このような状況において、性能、信頼性あるいは安全性の保証やブランド力の維持のために、物品の真贋性を識別することができる技術が求められている。物品の真贋性を識別する技術として、物品に特殊なインクを用いて印刷を行う方法、あるいは、特殊な光学反射特性を有する小片を物品に貼り付けたりする方法が知られている。
【0003】
特殊なインクを印刷する方法は、紫外線に対して蛍光するインクを用いて、所定の文字や図柄を印刷し、紫外線を照射した際にその図柄や文字を浮かび上がらせることで、真贋性を確認する方法である。また、磁性体の粒子や磁性を帯びた粒子を混ぜたインクを塗布し、磁気センサによって真贋性を識別する方法も知られている。
【0004】
また、光学反射特性を有する小片としては、ホログラムやコレステリック液晶が示す光学特性を利用したものが知られている。この技術に関しては、例えば特許文献1や特許文献2に示されたものが知られている。
【0005】
【特許文献1】特開昭63−51193号公報
【特許文献2】特開平4−144796号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、各種の特殊なインクは、類似品を入手することが比較的容易であり、偽造防止効果は大きくない。また、目視用のホログラムは、見た目による真贋性の判断が困難であるような、偽造レベルの高いものが出回っており、それだけで真贋性を識別するのは困難になりつつある。また、偽造技術が高くなってきている背景において、コレステリック液晶を用いた識別媒体に関しても、より偽造が困難で、高い識別性が得られるものが求められている。
【0007】
そこで、本発明は、上述した従来技術を用いた識別技術よりもさらに偽造防止レベルが高く、しかも識別を容易にそして確実に行うことができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の識別媒体は、磁性マイクロカプセルを分散させた磁性変化層と、カラーシフト発現層とが積層された構造を備えることを特徴とする。本発明によれば、カラーシフト発現層が示すカラーシフト効果が磁性変化層の光学効果に組み合わされ、より複雑で偽造防止効果の高い識別媒体を得ることができる。すなわち、本発明によれば、磁場によって光学特性が制御される磁性変化層の光学機能がカラーシフト発現層の光学特性に反映され、それにより光学的な識別機能を得ることができる。
【0009】
磁性マイクロカプセルを分散させた磁性変化シートは、磁場の印加または除去によって、可視光の透過、反射あるいは吸収を選択することができる光学的な機能を備えた層のことである。マイクロカプセルは、磁性粉と分散液を内包した構造を備えている。そして、このマイクロカプセルを光透過性の一対の基板間に封入し、層状にすることで、磁性マイクロカプセルを分散させた磁性変化層が構成される。磁性変化層としては、光透過性のバインダー中に磁性マイクロカプセルを分散させたものを層状に形成した構造等であってもよい。磁性変化層としては、磁性マイクロカプセルの種類によって、以下の4タイプがある。
【0010】
(態様1)
鱗片状の磁性粉と分散液とをマイクロカプセル中に内包させる。この場合、磁場の印加方向により、光を反射(または遮蔽)するか透過するかが切り替わる。すなわち、磁性変化層に対して平行に磁場を印加すると、鱗片状の磁性粉の主面が層に平行に並び、層に対して主面が平行に配向する。このため、磁性変化層は、入射光を主面で反射(または吸収)し、所定の色に見える。他方において、磁性変化層に対して垂直に磁場を印加すると、鱗片状の磁性粉の主面が層に垂直に並び、光の透過する隙間が増えるので、磁性変化層は、入射光をある程度透過する。したがって、磁性変化層は透明(または半透明)に見える。
【0011】
(態様2)
球状の黒色磁性粉と顔料の粉体をマイクロカプセル内に内包させる。この場合、磁性変化層の一方の面(表面)に磁石を近づけると、黒色の磁性粉がその面に引き寄せられ、磁性変化層は黒色になる。つまり、磁性変化層が光吸収層になる。他方において、他方の面(裏面)に磁石を近づけると、その面に黒色の磁性粉が引き寄せられるので、一方の面(表面)側に顔料の粉体が残り、一方の面側は、その顔料の色に見える。すなわち、磁場の印加の仕方によって、磁性マイクロカプセルを分散させた磁性変化層を、光吸収層あるいは光反射層として利用することができる。なお、顔料は任意の色のものを選択可能である。
【0012】
(態様3)
黒色の球状磁性粉および顔料の粉体を内包させたマイクロカプセルにおいて、分散液の粘土を低く設定し、磁場を印加していない状態においては、重力の影響により磁性粉が沈下するように設定する。この場合、磁性変化層の表面側に磁石を近づけると、磁性粉が引き寄せられ、磁性変化層が黒く見える。一方において、磁石を遠ざけると、磁性粉が重力に引かれて分散液中に沈み、表面側に顔料の粉体が残るので、磁性変化層の表面は、その顔料の色に変化する。なお、分散液の粘度を調整することで、磁石を離してもしばらくは黒く見え、徐々に黒が薄らいでゆくような光学機能を実現することもできる。
【0013】
(態様4)
マイクロカプセル中に内包させる黒色の磁性粉として、大きさまたは材質の異なる2種類のものを混合したものを用いる。この場合、磁性変化層に対して磁場を垂直に加えると、磁性粉が表面に引きつけられ、磁性変化層のその面は黒く見える。他方において、磁性変化層に対して磁場を平行に加えると、磁性粉が分散し、表面近傍における顔料の粉体の相対的な密度が大きくなり、磁性変化層は、その顔料の色に見える。
【0014】
以上の態様において、黒色の磁性粉は、光を吸収させる機能を発現させるために黒色としたものであり、光を吸収する機能を得ることができるのであれば完全に黒くなくてもよい。例えば、深い青や深い緑というような色であってもよい。
【0015】
本発明において、カラーシフト発現層は、コレステリック液晶層または異なる屈折率を有する光透過性フィルムを多層に積層した多層薄膜であることは好ましい。特にコレステリック液層を採用した場合、カラーシフトだけではなく、所定波長且つ所定旋回方向の円偏光を選択的に反射する光学特性を利用することができるので、多様で複雑な識別機能を得ることができる。
【0016】
コレステリック液晶層は、自然光を入射させると、所定波長であり且つ右旋回または左旋回の円偏光を選択的に反射する性質を有する液晶の層である。図7は、コレステリック液晶層の構造を示す概念図であり、図8は、コレステリック液晶層が有する光学的な性質を示す概念図である。図8には、自然光を入射させると、特定波長の右旋回円偏光が反射され、左旋回円偏光および直線偏光、さらにその他の波長の右旋回円偏光がコレステリック液晶層801を透過する様子が示されている。
【0017】
コレステリック液晶層は、層状構造を有している。そして、一つの層に着目した場合、層中において液晶分子の分子長軸はその向きが揃っており、かつ層の面に平行に配向している。そして配向の方向は、隣接する層において少しずつずれており、全体としては立体的なスパイラル状に配向が回転しつつ各層が積み重なった構造を有している。この構造において、層に垂直な方向で考えて、分子長軸が360°回転して元に戻るまでの距離をピッチP、各層内の平均屈折率をnとする。この場合、コレステリック液晶層は、λs=n×Pを満たす、中心波長λsで特定旋回方向の円偏光を選択的に反射する性質を示す。すなわち、特定の偏光成分に偏らない白色光をコレステリック液晶層に入射させると、特定の波長を中心波長とする右旋回または左旋回円偏光を選択的に反射する。この場合、反射した円偏光と同じ旋回方向を有するが波長がλsでない円偏光、反射した円偏光と逆旋回方向の円偏光、さらに直線偏光の成分は、コレステリック液晶層を透過する。
【0018】
反射する円偏光の旋回方向(回転方向)は、コレステリック液晶層のスパイラル方向を選択することで決めることができる。つまり、光の入射方向から見て、右ネジの向きに螺旋を描いて各層における分子長軸が配向しているか、左ネジの向きに螺旋を描いて各層における分子長軸が配向しているか、を選択することで、反射する円偏光の旋回方向を決めることができる。
【0019】
また、コレステリック液晶は視野角によって色が変わるカラーシフトと呼ばれる光学的な性質を示す。これは、視野角を大きくすると、ピッチPが見かけ上減少することから、中心波長λsが短波長側へ移行するためである。たとえば、垂直方向から観察して赤色に呈色するコレステリック液晶の反射色は、視野角を大きくするに従い赤→橙→黄→緑→青と順次変化するように観察される。なお、視野角は、視線と被観察面への垂線とのなす角度として定義される。
【0020】
コレステリック液晶と同様に、異なる屈折率を有する光透過性フィルムを多層に積層した多層薄膜もカラーシフトを示す。図9は、カラーシフトが発生する原理を説明する概念図である。図9には、異なる屈折率を有する2種類の光透過性フィルム901および902を交互に多層に積層した断面構造を有する多層薄膜903が概念的に示されている。多層薄膜903に斜めから光が入射すると、その光は、多層構造の各界面において反射される。この反射は、上下に隣接する光透過性フィルムの屈折率が異なることに起因する。また、1層の界面を見た場合、反射されるのは、入射光の一部であり、入射光の大部分は透過する。つまり、多層に積層された界面に入射した入射光は、各界面において少しずつ反射されてゆく。この各界面で発生した反射光は、基本的に同じ方向に反射するので、それらは光路差に起因する干渉を起こす。
【0021】
入射光がより面に平行に近い方向から入射する程、光路差は小さくなるので、より短波長の光が干渉し、強め合うことになる。この原理から、視野角を大きくしていった場合に、より短波長の反射光同士が干渉し、強め合うことになる。この結果、白色光下で多層薄膜903を見た場合に、視野角0°で多層薄膜が所定の色合いに見えたものが、視野角を大きくしてゆくに従い、徐々に青みがかった色に見た目の色彩が変化する現象が観察される。つまり、カラーシフトが観察される。
【0022】
この多層薄膜は、屈折率の異なる3種類以上の薄膜フィルムを積層して構成してもよい。積層の仕方は多様に考えられるが、隣接する薄膜フィルム間で屈折率が相違するように重ねればよい。
【0023】
本発明において、観察面側から、カラーシフト発現層、磁性変化層と積層された構造を有し、磁性変化層は、光吸収層としての機能と光反射層としての機能を磁場の印加によって選択可能である構成とすることは好ましい。この態様によれば、観察面側から見て、カラーシフト発現層の背後を光吸収層あるいは光反射層に磁気的に切り換えることができる。この態様によれば、カラーシフト発現層の光学機能をより複雑なものとすることができる。
【0024】
本発明において、観察面側から、磁性変化層、カラーシフト発現層と積層された構造を有し、磁性変化層は、光遮断層としての機能と光透過層としての機能を磁場の印加によって選択可能である構成とすることは好ましい。この態様によれば、磁性変化層を磁場によって制御可能な光シャッターとして機能させることができる。
【0025】
本発明において、カラーシフト発現層にホログラムが形成されていることは好ましい。この態様によれば、ホログラムによって構成される文字や図柄を識別に利用することができる。
【0026】
本発明において、磁性変化層に磁場を印加する磁性層をさらに備える構成とすることは好ましい。この態様によれば、外部から磁場を印加しない状態において、磁性変化層が常時磁場を印加され続け、磁場の印加による磁性変化層の光学機能を発現させることができる。そして、磁性層が生成する磁場より強い磁場を外部から印加することで、磁性変化層の光学機能を制御することが可能となる。磁性層を構成する方法としては、磁性材料を含む層構造に強い磁場を加え、磁化させる方法を挙げることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、簡単な構造でありながら、識別能力が高く、偽造が困難な識別媒体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
1.第1の実施形態
(構成)
図1は、第1の実施形態における識別媒体の概要を概念的に示す断面図である。図1に示す識別媒体100は、光吸収層兼粘着層101上に磁性マイクロカプセル102aを分散させて保持する磁性変化シート102を備え、さらにその上方にコレステリック液晶層105を備えている。光吸収層兼粘着層101は、黒い顔料(あるいは黒い染料)を加えた粘着材料の層であり、識別媒体100を識別対象となる適当な物品に貼り付ける際に利用される。また、コレステリック液晶層105を透過した光線を吸収する。なお、光吸収層兼粘着層101には、セパレータ107が張り合わされている。物品への貼り付けに際しては、このセパレータ107を剥がし、光吸収層兼粘着層101を露出させ、その露出面を物品に接触させる。
【0029】
磁性マイクロカプセル102aを分散して保持した磁性変化シート102は、一対の光透過性の樹脂フィルム103aおよび103bとの間に磁性マイクロカプセル102aを挟んで保持している。磁性マイクロカプセル102aは、分散液102c中に鱗片状の磁性粉102bが分散された構造を有している。鱗片状の磁性粉102bは、その扁平方向に分極した磁性を有し、また主面(平面)は、白っぽい色をしている。
【0030】
分散液102cは、磁性マイクロカプセル102a内において鱗片状の磁性粉102bを安定して分散・保持できるものであればよく、例えば流動パラフィンなどを好ましく用いることができるが、その組成等は特に限定されない。なお、磁性マイクロカプセル102a内には、鱗片状の磁性粉102bの凝集を防ぐための分散剤が含有されていてもよい。また、磁性マイクロカプセル102aは、ゼラチン等を用いて構成することができる。
【0031】
また、磁性マイクロカプセル102aを安定して分散させるために、バインダーを用いても良い。このバインダーは、ゼラチン等から構成されるマイクロカプセル41を安定して分散・結合でき、また、基体への接着性が良好で透明なものであればその組成等は特に限定されないが、例えばポリビニルアルコールなどを好ましく用いることができる。
【0032】
磁性マイクロカプセル102aを含む層の厚さは、磁性マイクロカプセル102aの平均径より大きい必要があり、具体的厚さは、画像が高いコントラストで表示できるように適宜決定すればよい。図示例では、磁性マイクロカプセル102aが層の厚さ方向に1個だけ並んでいるが、高コントラストの画像を得るためには、層の厚さ方向に複数の磁性マイクロカプセル102aが並んであるいは重なって存在するような構成とすることが好ましい。通常は、磁性マイクロカプセル102aが含まれる層の厚さ(一対の光透過性の樹脂フィルム103aと103bとの間の間隔)を20〜200μm程度とすることが好ましい。
【0033】
鱗片状の磁性粉102bは、後述する作用が実現可能なように、その材質や偏平率、寸法を決定するが、例えば、Fe、Ni、Fe−Ni合金、Fe−Ni−Cr合金、Al−Co合金、Fe−Al−Si合金、Sm−Co合金などの偏平粉が好適である。鱗片状の磁性粉102bの主面の平均径は、1μm以上であることが好ましい。可視光の波長に対し平均径が小さすぎると、反射率が低くなって配向変化による反射率変化が小さくなり、表示情報のコントラストが低くなってしまう。主面の平均径の具体値は、磁性マイクロカプセル102aの径や、そこに含まれる磁性粉の数に応じ、磁性マイクロカプセル102a内において配向変化が可能である範囲内で適宜決定されるが、通常、5〜15μmとすることが好ましい。
【0034】
図1には、Y軸方向の磁場(垂直磁場)が加えられることで、磁性粉102bがY軸方向に配向した状態が示されている。なお、この例においては、分散液102cの粘度を調整することで、磁場を取り除いても磁性粉102bの配向状態がそのまま維持されるように設定されている。
【0035】
コレステリック液晶層105は、光透過性の樹脂フィルム106の裏面側に形成され、磁性変化シート102側にホログラムを構成するためのエンボス模様104が形成されている。この例において、コレステリック液晶層105は、赤の右旋回円偏光を選択的に反射する設定とされている。なお、この識別媒体100は、透光性基材106側から観察が行われる。また、エンボス模様104は、コレステリック液晶層105の樹脂フィルム106側に形成してもよい。
【0036】
本実施形態によれば、磁場の印加状態によって、磁性変化シートを光遮断層あるいは光透過層として適宜機能させ、この機能とコレステリック液晶層105の光学機能とが組み合わされて識別が行われる。
【0037】
(作製方法)
まず、光透過性の樹脂フィルム103aおよび103bとして、TAC(トリアセチルセルロース)フィルムを用意する。そして、光透過性の樹脂フィルム103aと103bとを所定の隙間を有した状態で対向させ、その間に分散液102c中に鱗片状の磁性粉102bを分散させたマイクロカプセル102aを充填する。こうして、光透過性の樹脂フィルム103aおよび103bの間に磁性マイクロカプセル102aを分散させた磁性変化シート102が得られる。そして、光透過性の樹脂フィルム103aの露出面に黒の顔料を添加した、光吸収層兼粘着層101を形成し、さらにセパレータ107を貼り合わせる。なお、光透過性の樹脂フィルム103a上に磁性マイクロカプセル102aとバインダーを混ぜた塗布物を塗工し、それを乾燥させ、そこに光透過性の樹脂フィルム103bを乗せ、磁性変化シート102を得ても良い。また、コレステリック液晶層105の露呈した表面に磁性マイクロカプセル102aとバインダーを混ぜた塗布物を塗工し、それを乾燥させることで、磁性変化シートとしてもよい。この場合、光透過性の樹脂フィルム103aおよび103bは不要となる。
【0038】
一方、低分子コレステリック液晶を重合性モノマー中に溶解させ、さらに温度条件を制御することにより、コレステリック液晶成分を成長させる。その後、光反応または熱反応などで低分子液晶を架橋して分子配向を固定するとともに高分子化し、コレステリック液晶の原液を得る。この原液を基材となる光透過性の樹脂フィルム106(TAC(トリアセチルセルロース)フィルム)の片面に所定の厚さになるように塗布し、さらにコレステリック配向および分子配向の固定を行なう。
【0039】
本実施例では、右回りの円偏光を選択的に反射し、同時に視野角0°の時に赤色に見えるように、液晶分子の捻れの向きとピッチPとを調整する。次に、コレステリック液晶層105に対して、加熱しつつ型押し加工を行い、エンボス模様104を形成する。このエンボス模様105によってホログラムが形成される。こうして、光透過性の樹脂フィルム106の上にホログラムが形成されたコレステリック液晶層105が設けられた部材を得る。そしてこの部材をひっくり返し、エンボス模様104が形成された面を光透過性の樹脂フィルム103bに貼り合わせる。こうして、図1に示す識別媒体100を得る。
【0040】
コレステリック液晶の原液を得る方法としては、側鎖型または主鎖型のサーモトロピック高分子液晶をその液晶転移点以上に加熱してコレステリック液晶構造を成長させた後、液晶転移点以下の温度に冷却して分子配向を固定する方法でもよい。また、側鎖型または主鎖型のリオトロピック高分子液晶を溶媒中でコレステリック配向させた後、溶媒を徐々に揮発させて分子配向を固定する方法でもよい。
【0041】
これらの原料としては、側鎖に液晶形成基を有するポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリシロキサン、ポリマロネートなどの側鎖型ポリマーや、主鎖に液晶形成基を有するポリエステル、ポリエステアミド、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミドなどの主鎖型ポリマーを挙げることができる。
【0042】
(機能)
図1に示す識別媒体100において、光透過性の樹脂フィルム106の露出面の全面に磁石の磁極(N極またはS極)を近接あるいは接触させる。この際、磁性マイクロカプセル102aに垂直磁場(Y軸方向の磁場)が加わり、鱗片状の磁性粉102bは、図1に示すようにY軸方向に沿ってその扁平方向が揃った状態となる。
【0043】
この状態において、識別媒体100を光透過性の樹脂フィルム106側から観察すると、コレステリック液晶層105においては反射された赤の右旋回円偏光を観察することができる。なお、コレステリック液晶層105を透過した赤以外の右旋回円偏光、左旋回円偏光、直線偏光の成分は、磁性変化シート102を透過し、光吸収層兼粘着層101において吸収される。この際、エンボス模様104によって構成されるホログラムの図柄を観察することができる。
【0044】
そして、識別媒体100を傾ければ、このホログラムの図柄は、カラーシフトを伴って見える。また、左旋回円偏光を選択的に透過する光学フィルタ(ビュアー)を介して識別媒体100を観察すると、識別媒体100からの赤の右旋回円偏光が遮断されて、エンボス模様104によるホログラムの図柄が見えなくなる。勿論、右旋回円偏光を選択的に透過する光学フィルタ(ビュアー)を介して識別媒体100を観察すると、エンボス模様104による赤いホログラムの図柄を観察することができる。
【0045】
次に、図1に示す状態において、部分的に水平方向(X軸方向)の磁場(平行磁場)を加えた場合の光学機能を説明する。図2は、識別媒体100に部分的に平行磁場を加えた状態を示す概念図である。図2には、マグネットペン200を識別媒体100の一部分に接触させた状態が示されている。マグネットペン200は、磁石201の一方の磁極に非磁性体(例えば樹脂材料)のスペーサ202を取り付けた構造を有している。スペーサ202が存在することで、磁石201の磁極から出た磁力線のX軸方向成分(つまり平行磁場)が磁性マイクロカプセル102aに印加される。なお、スペーサ202を取り除き、磁石201を直接識別媒体100に接触させると、垂直磁場(Y軸方向の磁場)が磁性マイクロカプセル102aに印加される。一般には、ペン型のマグネットペンの一端にスペーサ付きの磁石、他端にスペーサなしの磁石を取り付けたものが利用され、適宜平行磁場と垂直磁場を任意の場所に印加できるようになっている。
【0046】
図2に示すように、スペーサ付きのマグネットペン200を接触させると、その部分における磁性マイクロカプセル102dには、水平方向(X軸方向)の磁場が印加されるので、その内部の磁性粉102eは、面が水平方向に配向する。
【0047】
そして、マグネットペン200を離し、識別媒体100を直接観察すると、マグネットペン200でなぞった部分の磁性マイクロカプセル102aが水平に配向しているので、その部分においては磁性粉102b主面からの白い反射光が観察される。この反射光の一部は、コレステリック液晶層105を透過するので、光透過性の樹脂フィルム106側からの直接の観察において、コレステリック液晶層105からの赤の右旋回円偏光の反射光に混ざって、この白い軌跡をかすかに観察することができる。例えば、光透過性の樹脂フィルム106上をなぞってマグネットペン200によって文字を書いた識別媒体100を観察すると、赤いホログラム画像に重ねてマグネットペンで書いたかすかな白い文字を観察することができる。
【0048】
そして、左旋回円偏光を選択的に透過する光学フィルタを介して観察すると、コレステリック液晶層105からの右旋回円偏光の反射光が遮断されるので、マグネットペン200によって書き込んだ軌跡を黒の背景の中に白く明瞭に認識することができる。
【0049】
また、上記白い文字部分を、垂直磁場印加用のマグネットペン(スペーサ202が配置されていないタイプ)でなぞると、磁性マイクロカプセル102d内の磁性粉102eが符号102bによって示される状態に変化し、白い表示が消える。この場合、直視するとカラーシフトを伴ったホログラム画像だけが認識される。また、左旋回円偏光を選択的に透過する光学フィルタを介して観察すると、全面が黒く見える。
【0050】
磁場印加手段として、マグネットペンのような局所的に磁場を印加するものではなく、面全体に垂直磁場または平行磁場を印加するものを用いることで、磁性変化シート102による全面透過状態または全面反射状態(あるいは全面光吸収状態)とを適宜選択することもできる。
【0051】
本実施形態によれば、コレステリック液晶が示す識別機能に複合させて、磁場印加によって文字や図柄を表示させる機能を備えた識別媒体が提供される。この識別媒体は、マグネットペン等によって書き込んだ文字や図柄を表示させることができ、それがコレステリック液晶の識別機能に組み合わされるので、特異な見え方を示し、偽造防止効果を高くすることができる。特に、磁場印加による文字や図柄の表示は、識別を行う時点で自由に行うことができるので、予め図柄等を設定しておく偽造は容易に見破ることができる。
【0052】
また、コレステリック液晶層105が示すカラーシフト機能も磁性変化シート102の状態によって影響を受け、それが識別機能に生かされる。例えば、平行磁場の印加により磁性変化シート102の全面が光反射状態にある場合、コレステリック液晶層105が示すカラーシフトは、磁性変化シート102からの反射光の影響を受ける。そして、この状態において、磁性変化シート102に垂直磁場を加えると、この影響がなくなり、カラーシフトの見え方が変化する。例えば、鱗片状の磁性粉102bの主面が緑色に見える設定とすると、磁場の印加方向によって、コレステリック液晶層105が示すカラーシフトの色の変化具合に磁性変化シート102からの緑の反射光の有無が影響し、複雑な視覚効果を観察することができる。特に、磁場を部分的に印加することで、カラーシフトが示す色彩変化を任意の図柄パターンにおいて発現させることができる。
【0053】
2.第2の実施形態
第1の実施形態において、磁性変化シート102を全面に設けず、部分的に設けてもよい。例えば、磁性マイクロカプセル102aを分散させた領域を文字のパターンとする。なお、磁性マイクロカプセル102aを分散させた領域以外の領域は、光透過性の材質で埋め、その領域を透過した光は、最終的に光吸収層兼粘着層101において吸収されるようにする。
【0054】
図3は、磁性マイクロカプセル102aの分散領域を文字のパターンに形成した場合における識別媒体100の見え方を示す概念図である。ここでは、磁性マイクロカプセル102aを分散させた領域によって「OK」という文字パターンを形成し、さらにエンボス模様104によって星型のホログラム図柄を形成した例を説明する。
【0055】
まず、識別媒体100の全面に平行磁場を加え、「OK」という文字パターンの領域に形成された磁性マイクロカプセル内における鱗片状の磁性粉を水平方向に配向させておく。この状態において、識別媒体100を視野角0°で(つまり垂直方向から)直視すると、図3(A)に示すように、コレステリック液晶層からの赤い反射光が観察され、その赤い背景の中に星印のホログラム301が見える。また、磁性変化シートからの白い反射光も薄くではあるが観察できるので、「OK」という白い表示302もかすかに認識することができる。この状態において、識別媒体100を傾けると、ホログラム301がカラーシフトを示し、表示302はカラーシフトを示さない。
【0056】
次いで、左旋回の円偏光を選択的に透過する光学フィルタを介して、識別媒体100を観察する。この場合、磁性変化シートによる「OK」というパターン以外の部分からの反射光は、コレステリック液晶層からの赤の右旋回円偏光であるから、それは光学フィルタによって遮断される。一方、磁性変化シートからの白い反射光は、多様な偏光成分が含まれているから、その一部は、光学フィルタを透過する。したがって、図3(B)に示すように、黒い背景の中に白い「OK」という表示を明瞭に観察することができる。
【0057】
次に右旋回の円偏光を選択的に透過する光学フィルタを介して、識別媒体100を観察する。この場合、磁性変化シート102からの白い反射光の大部分は、光学フィルタによって、遮断されるので、「OK」の文字は見え難くなり、図3(C)に示すように、赤い背景の中にホログラムの星印表示301が明瞭に観察される。
【0058】
このように、磁場印加の有無、印加磁場の方向、光学フィルタの有無および種類、視野角の変化といった要素を組み合わせることで、識別媒体の真贋判定を行うことができる。なお、図3(B)に示す左円偏光透過フィルタを介した観察状態において、垂直磁場を全面に印加すると、「OK」のパターン中に含まれる磁性マイクロカプセル中の鱗片状の磁性粉が垂直に配向し、磁性粉からの反射光が減少するので、「OK」の白表示は見え難くなる。
【0059】
3.第3の実施形態
第1の実施形態において、磁性マイクロカプセル102a中に球状の黒色磁性粉、白い顔料の粉体、および分散液を内包させる。図4は、本第3の実施形態における識別媒体の断面構造を示す概念図である。図4(A)は、磁場の未印加状態、図4(B)は、裏面側の全面に磁場を印加した状態、図4(C)は、表側から部分的に磁場を印加した状態を示す。図4(A)に示すように、本実施形態の識別媒体100は、図1に示す磁性マイクロカプセル102aを磁性マイクロカプセル402aに変更したものである。なお、図1と同じ符号の部分は、図1に示す構成と同じである。
【0060】
磁性マイクロカプセル402aは、黒色磁性粉402b、非磁性材料である白い顔料の粉体402c、および分散液402dをマイクロカプセル内に内包させた構造を有する。磁場が未印加の状態においては、図4(A)に示すように、黒色磁性粉402bおよび白い顔料の粉体402cはランダムに分散している。
【0061】
そして、裏面側(光吸収層兼粘着層101側)の全面に磁石403の磁極を近づけると、黒色磁性粉402bが磁石403に引き寄せられ、磁性マイクロカプセル402aの下方における黒色磁性粉402bの密度が高くなり、磁性マイクロカプセル402aの上方における黒色磁性粉402の密度は低くなる。一方において、白い顔料の粉体402cは、非磁性材料であるので、磁石403の磁場の影響を受けず、磁性マイクロカプセル402a内に図4(A)と同じ状態で存在する。このため、白い顔料402aの磁性マイクロカプセル402a内の上方における相対的な密度が高くなり、コレステリック液晶層105側からの入射光の反射効率が(A)の場合に比較して高くなる。その結果、磁性変化シート102は、光反射層としての機能を発現する。つまり、図4(B)に示すような磁石の近づけ方をすると、磁性マイクロカプセル402aを含んだ磁性変化シート102が光反射層として機能するようになる。
【0062】
次に磁石403を取り除き、図4(C)に示すように光透過性の樹脂フィルム106側の表面にマグネットペン404を押し当て、部分的に磁場を印加した場合を説明する。この場合、図4(C)に示すように、マグネットペン404を押し当てられた部分における磁性マイクロカプセル403aにおいて、黒色磁性粉402bがマグネットペン404の磁気に引き寄せられて上方に移動する。一方、非磁性材料である白い顔料の粉体402cには磁場の影響が及ばない、この結果、部分的に磁性マイクロカプセル403a内の上方に黒色磁性粉402bが集まることになる。そして、この部分において、コレステリック液晶層105側からの入射光の吸収効率が(B)の場合に比較して高くなる。つまり、図4(C)に示すような磁石の近づけ方をすると、部分的に磁性変化シート102が光吸収層として機能するようになる。
【0063】
例えば、磁性変化シート102が図4(B)の状態にあるとして、光透過性の樹脂フィルム106側から直接観察するとする。この場合、コレステリック液晶層105を透過した赤の右旋回円偏光以外の成分は、磁性変化シート102において反射され、その一部はコレステリック液晶層105を透過する。このため、左旋回円偏光を選択的に透過する光学フィルタを介して、識別媒体100を観察しても、識別媒体からの反射光を観察できる。
【0064】
次に、マグネットペン404で光透過性の樹脂フィルム106側の表面をなぞると、そのなぞった軌跡が図4(C)に示す原理により光吸収層になる。この場合、左旋回円偏光を選択的に透過する光学フィルタを介して、識別媒体100を観察すると、前記軌跡部分からの反射光は、コレステリック液晶層105からの右旋回円偏光のみとなるから、その部分ははっきりと黒く見える。そして、左旋回円偏光を選択的に透過する光学フィルタを外すと、コレステリック液晶層105からの反射光も見えるので、前記マグネットペン404でなぞった軌跡の跡は、うっすらと黒っぽく見えることになる。
【0065】
4.第4の実施形態
本実施形態においては、第2の実施形態における磁性マイクロカプセルとして、球状の黒色磁性粉と顔料の粉体をマイクロカプセル内に内包させたものを採用する。この構成においては、識別媒体の表側全面を磁石でなぞると、「OK」の文字にパターニングされた磁性マイクロカプセル分布領域が黒く変色する。この場合、この黒く変色した部分が光吸収層となるので、その部分においては、通常のコレステリック液晶の見え方となる。そして、裏側全面を磁石でなぞると、磁性変化シートの観察面側の黒く変色している部分が白く変色し、光反射層となる。この場合、通常の目視下においては、うっすらと「OK」の文字が白く浮かび上がり、左旋回円偏光を選択的に透過する光学フィルタを観察すると、「OK」の文字が白く明瞭に浮かび上がる。
【0066】
5.第5の実施形態
本実施形態においては、第1の実施形態における磁性マイクロカプセルとして、黒色の球状磁性粉および顔料の粉体を内包させたマイクロカプセルとし、さらに分散液の粘度を低く設定し、磁場を印加していない状態においては、重力の影響により磁性粉が沈下するように設定する。この構成においては、識別媒体の観察面側をマグネットペンでなぞると、磁性変化シート表面のその部分が黒く変色する。この場合、通常の目視下においては、その軌跡が赤く浮かび上がり、左旋回円偏光を選択的に透過する光学フィルタを観察すると、それが黒く明瞭に浮かび上がる。また、マグネットペンを識別媒体から離すと、時間経過と共にマグネットペンによって描いた軌跡の跡が徐々に薄らいでゆく。なお、本実施形態における磁性変化シートの機能を上手く発現させるには、識別媒体の観察面を上にし、重力の作用を効果的に働かせる必要がある。
【0067】
6.第6の実施形態
本実施形態においては、第2の実施形態における磁性マイクロカプセルとして、黒色の球状磁性粉および顔料の粉体を内包させたマイクロカプセルとし、さらに分散液の粘度を低く設定し、磁場を印加していない状態においては、重力の影響により磁性粉が沈下するように設定する。この構成においては、磁場非印加の状況において、普通に目視した場合、「OK」の文字パターンがうっすらと白く見える。そして、左旋回円偏光を選択的に透過する光学フィルタを介して観察すると、黒い背景の中に白く「OK」の文字パターンが明確に見える。そして表面から磁石を近づけ、磁石を離した直後に表面から観察すると、「OK」の文字パターンは見え難くなる。そして、徐々に白い「OK」の文字パターンが見えてくる。
【0068】
7.第7の実施形態
本実施形態においては、第1の実施形態における磁性マイクロカプセルとして、マイクロカプセル中に内包させる黒色の磁性粉として、大きさ(または材質)の異なる2種類のものを混合したものを用いる。
【0069】
図5は、本実施形態を採用した識別媒体の断面構造を示す概念図である。図5(A)は、垂直磁場(Y軸方向の磁場)を加えた状態、図5(B)は、平行磁場(X軸方向の磁場)を加えた状態を示す。この態様においては、磁性マイクロカプセル402a内に分散液502d、2種類の磁性粉502bと502c、および非磁性の白色顔料粉502eとが内包されている。この例においては、2種類の磁性粉502bと502cは、前者が相対的に小さく、後者が相対的に大きい。そして両者は一緒になり、複合磁性粉502aとなっている。なお、白色顔料粉502eとしては、酸化チタンを用いることができる。
【0070】
水平(X軸方向)に磁力線が延びる平行磁場を加えると、磁性マイクロカプセル402a内の複合磁性粉502aが磁力線の作用により泳動、分散し、その結果白色顔料粉502eからなる非磁性粉が交換的に表側の表面に多く集まり白色を示す。
【0071】
すなわち、図5(A)に示すように、磁石501の一方の磁極を観察面である光透過性の樹脂フィルム106の表面に接触(または近接)させると、磁性変化シート102に垂直磁場が加わり、複合磁性粉502aが磁石501の磁極に引かれ移動する。この結果、図5(A)に示すように、複合磁性粉502aが上方に集まる。この場合、光透過性の樹脂フィルム106側からの観察において、磁性変化シート102は光吸収層として機能する。
【0072】
一方において、非磁性材料のスペーサ504を介して磁石503が光透過性の樹脂フィルム106に接触(または近接)する形態の磁石502を用いた場合、スペーサ504がある関係で、磁性変化シート102に平行磁場が印加される。この場合、複合磁性粉502aは、平行磁場によって磁性マイクロカプセル402a内に分散するように分布する。このため、図5(B)に示す状態となる。この場合、白色顔料粉502eによる反射が顕在化するので、磁性マイクロカプセル402aは白く見える。
【0073】
この構成においては、識別媒体100の表側(観察面側)から垂直磁場を加えると、垂直磁場を加えた部分における磁性変化シート102の観察面側を黒く変色させることができる。この場合、識別媒体100を直視すると、垂直磁場を加えた軌跡がうっすらと認識でき、さらに右旋回円偏光を選択的に透過する光学フィルタを介して観察すると、その軌跡を赤く鮮明に認識することができる。また、表側から平行磁場を加えると、その部分の磁性変化シート100の観察面側が白く変色する。この現象を利用することで、上記垂直磁場の印加によって描いた文字等を消去することができる。なお、垂直磁場と平行磁場の役割を反転させて、識別を行うこともできる。
【0074】
8.第8の実施形態
本実施形態においては、第2の実施形態における磁性マイクロカプセルとして、マイクロカプセル中に内包させる黒色の磁性粉として、大きさまたは材質の異なる2種類のものを混合したものを用いる。この構成においては、識別媒体の表側から全面に垂直磁場を加えると、「OK」とパターニングされた磁性マイクロカプセル領域の観察面側が黒く変色し、そのパターンにコレステリック液晶層の機能が発現する。この場合、全体が黒になり、文字は見えなくなる。
【0075】
次に、識別媒体の表側から全面に平行磁場を加えると、「OK」とパターニングされた磁性マイクロカプセル領域が白く変色する。この場合、直視すると、うっすらと白い「OK」の文字パターンを観察することができる。そして、右旋回円偏光を選択的に透過する光学フィルタを介して観察すると、文字パターンはほとんど見なくなる。さらに、左旋回円偏光を選択的に透過する光学フィルタを介して観察すると、黒い背景の中に白い「OK」の文字パターンを明瞭に観察することができる。
【0076】
9.第9の実施形態
本実施形態においては、図1に示す第1の実施形態において、光吸収層兼粘着層101中に磁性粉を混入し、光吸収層兼粘着層101に磁場を生成する磁性層としての機能を付加する。ここでは、磁性材料を混ぜ込んだ光吸収層兼粘着層101に対して、その面に数直な方向に強い磁場を加えて、磁化を行い、その面に垂直な方向に磁場が生成されるようにする。この構成によれば、磁性粉102bは、特に外部から磁場を加えなければ、常時垂直方向に配向する。そのため、特に外部から磁場を加えなければ、識別媒体100は、コレステリック液晶層105の光学特性をそのまま発揮する。
【0077】
そして、光吸収層兼粘着層101から発生する磁場よりも強い平行磁場を発生するマグネットペンで観察面側をなぞると、その部分における鱗片状の磁性粉102bの主面が層に平行な方向に沿って配向する。このため、白い軌跡が形成される。この場合、直視すると、この白い軌跡をうっすらと観察することができ、左旋回円偏光を選択的に透過する光学フィルタを介して観察すると、黒い背景の中にこの白い軌跡を明瞭に観察することができる。そして、マグネットペンを離すと、光吸収層兼粘着層101の磁性の影響が復活し、白い軌跡は消える。なお、光吸収層兼粘着層101が生成する磁場を平行磁場、マグネットペンから印加される磁場を垂直磁場としてもよい。
【0078】
10.第10の実施形態
本実施形態においては、第9の実施形態において、磁性マイクロカプセルが存在する場所を所定のパターンに形成する。例えば、磁性マイクロカプセルを「OK」の文字パターンの領域に分散させる。この場合、外部磁場を印加しない状態においては、鱗片状の磁性粉が垂直方向に配向するので、磁性変化シートを入射光は透過する。このため、「OK」の表示は認識できず、コレステリック液晶層の光学機能がそのまま発現する。そして、全体の強い平行磁場を加えると、その影響が強く出て、磁性マイクロカプセル内の磁性粉の主面が水平に配向する。このため、「OK」とパターニングされた磁性マイクロカプセル領域からの光反射が発生する。この場合、識別媒体を直接見ると、白い「OK」の表示がうっすらと見え、左旋回円偏光を選択的に透過する光学フィルタを介して見ると、黒い背景の中に白い「OK」の表示が明瞭に見える。そして、磁場の印加を止めると、光吸収層兼粘着層101から発生する磁場の影響が強くなり、鱗片状の磁性粉が垂直方向に配向し、そのため「OK」の白い表示は消える。
【0079】
11.第11の実施形態
本実施形態においては、第1の実施形態において、光吸収層兼粘着層101を光透過性の粘着層に変更する。また、鱗片状の磁性粉102bの主面の色を黒くする。この構成においては、平行磁場を印加した部分の磁性変化シートが光吸収層に変化する。例えば、全面に垂直磁場を加えた後に、平行磁場を印加するマグネットペンを用いて識別媒体をなぞると、そのなぞった軌跡のパターンが黒く見える。そして、左旋回円偏光を透過する光学フィルタを介して観察すると、このパターンが貼付面の背景色の中に黒く際立って見える。
【0080】
全体に平行磁場を加えた後に、垂直磁場を印加するマグネットペンを用いて識別媒体をなぞると、そのなぞった軌跡のパターンが背景色に見える。そして、左旋回円偏光を透過する光学フィルタを介して観察すると、このパターンが黒い背景色の中に背景色の色に見える。この光吸収層兼粘着層101を光透過性の粘着層に変更する構成は、他の実施形態に適用することもできる。
【0081】
12.第12の実施形態
第1〜第11の実施形態において、コレステリック液晶層105の代わりに異なる屈折率を示す光透過性フィルムを積層したカラーシフトフィルムを用いてもよい。この構成においては、マイクロカプセルが黒色以外に変色すると、その変色部は、マイクロカプセルからの反射光に加えてカラーシフトフィルムからの干渉光もプラスされる。そのため、変色部は、他の部分に比較して明るく見える。また、この部分は、マイクロカプセルからの反射光があるために視野角を大きくしていった場合に現れるカラーシフトフィルムのカラーシフトの影響が比較的小さい。このため、マイクロカプセルの変色部の視認性は高い。すなわち、識別媒体を傾けると、カラーシフトの背景中にマイクロカプセルの変色部によって構成される文字や図柄を明瞭に観察することができる。
【0082】
カラーシフトフィルムとしては、屈折率の異なる樹脂フィルムを2種類用意し、それを交互に数十層以上積層したものを挙げることができる。積層の構造としては、屈折率の異なる3種類の樹脂フィルムを順に積層したものをユニットとして、このユニットを複数積層した構造等を採用することもできる。また、屈折率の異なる2種類の材質の樹脂フィルムを交互に重ねた構造としてもよい。例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムとPEN(ポリエチレンナフタレート)フィルムとを交互に積層することで、カラーシフトフィルムを構成することができる。
【0083】
13.第13の実施形態
第12の実施形態において、カラーシフトフィルムにホログラムを形成してもよい。この場合、ホログラムの図柄がカラーシフトを伴って観察される。
【0084】
14.第14の実施形態
本実施形態においては、磁性変化シートを、磁場の印加によって、光遮断層あるいは光透過層として選択可能なデバイスとして利用する。本実施形態においては、図1に示す識別媒体100を構成するパーツである磁性変化シート102を用意し、その下側にコレステリック液晶層105を配置し、磁性変化シート102側から観察を行う形態とする。図6は、本実施形態の識別媒体の概要を示す概念図である。図6に示す識別媒体600において、光透過性の樹脂フィルム上にコレステリック液晶層105が設けられ、その裏面側には光吸収層兼粘着層101が配置され、さらに光吸収層兼粘着層101には、セパレータ107が張り合わされている。また、コレステリック液晶層105には、ホログラムを形成するためのエンボス模様104が形成されている。符号102は、磁性変化シートであり、一対の光透過性の樹脂フィルム103aと103bとの間に磁性マイクロカプセル102aが保持された構造を備えている。磁性マイクロカプセル102aは、その内部に鱗片状の磁性粉102bと分散液102cとを内包している。図6には、垂直磁場(Y軸方向の磁場)が印加されて、鱗片状の磁性粉102bが、その主面が垂直方向(Y軸方向)に平行になるように配向した状態が示されている。
【0085】
この識別媒体600は、光透過性の樹脂フィルム103a側から観察する。図6に示す状態の識別媒体600を直接見た場合、入射光は、磁性変化シート102を透過するので、コレステリック液晶105の光学機能を観察することができる。次に、平行磁場を印加すると、磁性粉102bの主面が水平方向(X軸方向)に沿って配向する。この場合、磁性粉102bによる反射が顕著になり、コレステリック液晶層105からの反射光を観察することは困難となる。つまり、磁場の印加の仕方によって、コレステリック液晶105の光学機能の発現の有無を選択することができる。
【0086】
本実施形態において、コレステリック液晶層105をカラーシフトフィルムに変更することもできる。また磁性マイクロカプセルとして他の態様のものを採用することもできる。また、磁性マイクロカプセルの領域を所定のパターンに形成する、あるいはコレステリック液晶層105を所定のパターンに形成することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、真正を判断するための識別媒体に利用することができる。また、本発明の識別媒体は、識別対象となる物品に直接組み込むことも可能である。この場合、識別媒体としての機能を備えた物品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】発明を利用した識別媒体の断面構造を示す概念図である。
【図2】発明を利用した識別媒体の断面構造を示す概念図である。
【図3】発明を利用した識別媒体の見え方を示す概念図である。
【図4】発明を利用した識別媒体の断面構造を示す概念図である。
【図5】発明を利用した識別媒体の断面構造を示す概念図である。
【図6】発明を利用した識別媒体の断面構造を示す概念図である。
【図7】コレステリック液晶の構造を示す概念図である。
【図8】コレステリック液晶の光学特性を説明する概念図である。
【図9】多層薄膜の光学特性を説明する概念図である。
【符号の説明】
【0089】
100…識別媒体、101…光吸収層兼粘着層、102…磁性変化シート、102a…磁性マイクロカプセル、102b…鱗片状の磁性粉、102c…分散液、102d…磁性マイクロカプセル、102e…鱗片状の磁性粉、103a…光透過性の樹脂フィルム、103b…光透過性の樹脂フィルム、104…エンボス模様、105…コレステリック液晶層、106…光透過性の樹脂フィルム、107…セパレータ、200…マグネットペン、201…磁石、202…スペーサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性マイクロカプセルを分散させた磁性変化層と、
カラーシフト発現層と
が積層された構造を備えることを特徴とする識別媒体。
【請求項2】
前記カラーシフト発現層は、コレステリック液晶層または異なる屈折率を有する光透過性フィルムを多層に積層した多層薄膜であることを特徴とする請求項1に記載の識別媒体。
【請求項3】
観察面側から、前記カラーシフト発現層、前記磁性変化層と積層された構造を有し、
前記磁性変化層は、光吸収層としての機能と光反射層としての機能を磁場の印加によって選択可能であることを特徴とする請求項1または2に記載の識別媒体。
【請求項4】
観察面側から、前記磁性変化層、前記カラーシフト発現層と積層された構造を有し、
前記磁性変化層は、光遮断層としての機能と光透過層としての機能を磁場の印加によって選択可能であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の識別媒体。
【請求項5】
前記カラーシフト発現層にホログラムが形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の識別媒体。
【請求項6】
前記磁性変化層に磁場を印加する磁性層をさらに備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の識別媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−176094(P2007−176094A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−379623(P2005−379623)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000004640)日本発条株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】