説明

識別媒体

【課題】低コストで得られる構造で明瞭な画像の切り替わりを観察でできる識別媒体を提供する。
【解決手段】観察が行われる側から、ホログラム加工が施され、特定中心波長の特定旋回方向の円偏光を選択的に反射するコレステリック液晶層102と、可視光全域の光を反射する場合と等価な反射特性を有し、コレステリック液晶層102から反射される円偏光と同じ旋回方向の円偏光を反射する可視光全域反射コレステリック液晶層105と、特定の表示内容とされた表示パターン106とが配置された構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、観察内容の明瞭な切り替わりを観察できる識別媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ホログラム加工が施され、右円偏光を選択反射する第1のコレステリック液晶層と、ホログラム加工が施され、左円偏光を選択反射する第2のコレステリック液晶層とを積層した構造とすることで、左右の円偏光フィルタを用いた選択的な観察において、2つのホログラム絵柄の切り替わりが観察可能な構造について記載されている。
【0003】
特許文献2には、ホログラム加工を施したコレステリック液晶層と印刷層を組み合わせることで、円偏光フィルタを介して観察した場合に、ホログラム絵柄と印刷絵柄の切り替わりを観察できる構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許4392826号公報
【特許文献2】特開2009−172798号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されている技術では、ホログラム絵柄の切り替わりを観察することが可能であるが、2層のコレステリック液晶層のそれぞれに対してホログラム加工を施さなくてはならず、製造コストが高くなる。特許文献2に記載されている技術では、コレステリック液晶層からの反射光を透過する円偏光フィルタを用いての観察において、ホログラムと同時に下地の印刷層が見え、明瞭な絵柄の切り替わりという点で課題がある。
【0006】
このような背景において、本発明は、低コストで得られる構造で明瞭な画像の切り替わりを観察でできる識別媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、観察が行われる側から、ホログラム加工が施され、特定中心波長の特定旋回方向の円偏光を選択的に反射する第1のコレステリック液晶層と、可視光全域の光を反射する反射特性または可視光全域の光を反射する場合と等価な反射特性を有し、前記第1のコレステリック液晶層から反射される円偏光と同じ旋回方向の円偏光を反射する第2のコレステリック液晶層と、特定の表示内容とされた表示パターンと配置された構造を有することを特徴とする識別媒体である。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、特定の旋回であり、且つ、可視光全域の波長分布を持っている場合と等価な円偏光を選択的に透過する第2のコレステリック液晶層の性質を利用することで、第1のコレステリック液晶層からの選択反射光を遮断する円偏光フィルタを介した観察において、第1のコレステリック液晶層のホログラムに邪魔されずに表示パターンの表示内容を鮮明に観察することができる。この際、表示パターンから反射され、第2のコレステリック液晶層を透過できず、その下面で再度表示パターンの方向に反射された光が、反射を繰り返すことで第2のコレステリック液晶層を透過可能な偏光となり、表示パターンを認識するための光として識別媒体から出射する。このため、円偏光フィルタ越しに表示パターンを選択的に視認する際の視認性が高くなる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記第2のコレステリック液晶層と前記表示パターンとの間に屈折率異方性を有する光透過層が設けられていることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、観察が行われる側から、ホログラム加工が施され、特定中心波長の特定旋回方向の円偏光を選択的に反射する第1のコレステリック液晶層と、可視光全域の光を反射する反射特性または可視光全域の光を反射する場合と等価な反射特性を有し、前記第1のコレステリック液晶層から反射される円偏光と同じ旋回方向の円偏光を反射する第2のコレステリック液晶層と、光透過性を有する粘着層とを備えることを特徴とする識別媒体である。
【0011】
請求項3に記載の発明によれば、粘着層が光透過性(可視光を透過する性質)であるので、対象物に貼り付けた状態において、対象物の表面の表示を利用しての請求項1の発明の場合と同様な光学機能を得ることができる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の発明において、前記第1のコレステリック液晶層が一方の面に接触し、前記第2のコレステリック液晶層が他方の面に接触したシクロオレフィンポリマーの層を備えることを特徴とする。
【0013】
シクロオレフィンポリマーは、安価であり、またガソリン、灯油、シンナー、ベンジン等の炭化水素系の溶剤に触れると非常に劣化しやすい化学的な性質を有し、更に溶剤に触れた状態で引き剥がすような力を加えた際に破断や皴が生じ易い物理的な性質を有している。このため、請求項3に記載の発明を採用することで、識別媒体を不正に剥がそうとした場合や、強制的に対象物から剥がそうとした場合に、識別媒体の層構造が破壊され再利用ができなくなる構造とできる。この性質は、識別媒体100の不正な再利用を防止あるいは困難にする上で有用となる。
【0014】
また、シクロオレフィンポリマーは、上述した優位性があるが、外部からの物理的な接触によって(例えば、手で触ることで)、筋が寄ったりクラックが生じたりする物理的な性質を有している。この現象が生じると、光学的にそれが視認される問題が生じる。請求項4に記載の発明によれば、シクロオレフィンポリマーの層が表裏からコレステリック液晶層および可視光全域反射コレステリック液晶層によって挟まれた構造とされているので、貼り付け作業等においてシクロオレフィンポリマーの層への外部からの接触が防止され、上述した筋やクラックが生じる問題が発生しない。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、低コストで得られる構造で明瞭な画像の切り替わりを観察できる識別媒体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態の断面図である。
【図2】実施形態の可視光全域反射コレステリック液晶層の断面構造を示す概念図である。
【図3】実施形態の光学機能を説明する原理図である。
【図4】実施形態の光学機能を説明する原理図である。
【図5】実施形態の見え方を示す概念図である。
【図6】実施形態の断面図である。
【図7】実施形態の光学機能を説明する原理図である。
【図8】実施形態の光学機能を説明する原理図である。
【図9】実施形態の断面図である。
【図10】実施形態の断面図である。
【図11】実施形態の見え方を示す概念図である。
【図12】実施形態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(1)第1の実施形態
(構成)
図1(A)には、実施形態の識別媒体100が示されている。識別媒体100は、観察が行われる側から、保護層101、コレステリック液晶層102、可視光全域反射コレステリック液晶層105、表示パターン106、粘着層107、セパレータ108と積層された構造を有する。保護層101は、観察面を保護するもので、可視光に対する光透過性を有し、透過する光の偏光状態を乱さない材質により構成された薄い膜である。保護層101を構成する材質としては、トリアセチルセルロース、アクリル、シクロオレフィン等が挙げられる。特にシクロオレフィンは、耐油性が劣るため、シクロオレフィンを保護層101として用いた場合、対象物に貼り付けた後に溶剤やオイル等を滴下して識別媒体100を剥がそうとした際に、保護層101が崩壊し、識別媒体100を不正に剥がしての再利用ができなくなる優位性が得られる。
【0018】
コレステリック液晶層102は、赤の右旋回の円偏光を選択的に反射する設定とされ、観察面側に対して反対側の面(図1の場合下面)にエンボス型を押し付けることで形成したホログラム加工103が施されている。コレステリック液晶層102からの反射光を観察した場合、このホログラム加工103に基づくホログラム像が観察される。コレステリック液晶層102が選択反射する円偏光の旋回方向は、左旋回でもよい。ただし、その旋回方向は、後述する可視光全域反射コレステリック液晶層105が選択反射する円偏光の旋回方向と同じになるようにする。また、コレステリック液晶層102が選択反射する円偏光の中心波長も利用目的や視認機能に合わせて、緑等の他のものを選択することができる。
【0019】
可視光全域反射コレステリック液晶層105は、右円偏光を選択的に反射し、且つ、自然光が当たっている状態において、選択反射された円偏光を観察した際にそれが可視光全域の光に見える光学的な性質を有している。つまり、特定の波長帯域を選択反射するのではなく、入射した可視光帯域の全ての波長を反射する特性、あるいは入射した可視光帯域の全ての波長を反射する場合と等価な反射特性を有している。なお、便宜上可視光全帯域と称しているが、可視光の帯域の全ての成分を含んでいる場合に限定されず、その中の複数の波長ピークの組み合わせにより、人間が視認した際に可視光全域の波長を含む光に見える波長スペクトルを有した反射特性の場合も含まれる。
【0020】
なお、コレステリック液晶層102から左円偏光が選択反射される設定とされている場合には、可視光全域反射コレステリック液晶層105からも左円偏光が選択反射されるように設定される。つまり、可視光全域反射コレステリック液晶層105が反射する円偏光の旋回方向は、コレステリック液晶層102が選択反射する円偏光の旋回方向と同じなるようにする。
【0021】
以下、可視光全域反射コレステリック液晶層105について詳細に説明する。まず、通常のコレステリック液晶層では、特定旋回方向で、且つ、赤や緑といった特定の中心波長の円偏光を選択的に反射し、逆旋回方向の円偏光、直線偏光、および上記特定旋回方向の光であっても上記の中心波長以外の波長成分の円偏光は反射せずに透過する。これは、コレステリック液晶層のピッチの寸法により、選択反射される光の波長が決まっているからである。これに対して、可視光全域反射コレステリック液晶層105は、特定旋回方向の可視光帯域全体(あるいはそう見なせる波長スペクトル)の円偏光を選択的に反射する。もちろん、直線偏光および逆旋回方向の円偏光は透過する。この光学特性は、複数のピッチのコレステリック液晶層を複合化することで得られる。可視光全域コレステリック液晶については、例えば、特許第3373374号公報に記載されている。
【0022】
以下、可視光全域反射コレステリック液晶層105の一例を説明する。図2には、可視光全域反射コレステリック液晶層105の断面構造が概念的に示されている。図2において、可視光全域反射コレステリック液晶層105は、第1のコレステリック液晶層105a、第2のコレステリック液晶層105b、第3のコレステリック液晶層105cの3層から構成されている。なお、図2では、これら3層が離れているかのように記載されているが、実際には、積層されて一体化されている。
【0023】
ここで、コレステリック液晶層105aは、赤(波長650±50nm)の右円偏光を選択的に反射する設定とされ、コレステリック液晶層105bは、緑(波長550±50nm)の右円偏光を選択的に反射する設定とされ、コレステリック液晶層105cは、青(波長450±50nm)の右円偏光を選択的に反射する設定とされている。
【0024】
この3層構造の可視光全域反射コレステリック液晶層105に自然光が図2の上の方向から入射する場合を考える。この場合、赤の右円偏光が第1のコレステリック液晶層105aから選択的に反射され、緑の右円偏光が第2のコレステリック液晶層105bから選択的に反射され、青の右円偏光が第3のコレステリック液晶層105cから選択的に反射される。この際、第1のコレステリック液晶層105aは、緑と青の波長成分をその偏光の状態に係らず透過し、第2のコレステリック液晶105bは、青の波長成分をその偏光の状態に係らず透過するので、図2に示すように、赤、緑、青の右円偏光が可視光全域反射コレステリック液晶層105から図2の上の方向に反射される。赤、緑、青の光を同時に観察すると、人間の目には、可視光帯域の光全域が視認される場合と等価な状態が視認されることになる。つまり、特定旋回の円偏光(図2の場合は右円偏光)であって、且つ、可視光の全帯域の光を選択反射する場合と等価な光学特性が得られる。この場合、目視での観察において、白色、鏡面、金属光沢色、あるいは白銀色(白っぽい金属光沢色)が観察される。これらの見た目の違いは、反射面の平滑性の違いによって生じる。例えば、反射面が粗面であれば、白色光が観察され、平滑性が高ければ鏡からのような反射光が観察され、反射面の平滑度が鏡面とはいえない程度である場合は、金属光沢色や銀白色が観察される。
【0025】
可視光全域反射コレステリック液晶層105としては、図2に示す積層タイプの他に、赤、緑、青の同旋回方向の円偏光を選択反射する特性の3種類のコレステリック液晶を50μm程度の幅でストライプ状、格子状、ドット状に形成した構成を採用することも可能である。また、コレステリック液晶のピッチをグラデーションのように連続的に可変させ、幅をもった波長帯域の円偏光を反射する特性に調整したものを可視光全域反射コレステリック液晶層105として利用することもできる。
【0026】
また、RGBではなく、2色あるいは4色以上の組み合わせによって、人間の目で見た際に可視光全域の光が反射されたかのように見える状態を作り出すことも可能である。勿論、可視光帯域全体を極力まんべんなくカバーする波長スペクトルの反射光が得られるようにし、実質的に可視光の全帯域が反射される特性とすることも可能である。なお、可視光全域反射コレステリック液晶層105の厚さは0.5μm〜10μmの範囲、好ましくは1μm〜5μmの範囲の値とすることが好ましい。
【0027】
図1に戻り、可視光全域反射コレステリック液晶層105の下面(観察面と反対側)には、表示パターン106が印刷により形成されている。この例において、表示パターン106は、インクジェット法により形成されている。表示パターン106の内容は、文字、各種の絵柄、コード等である。コードとしては、バーコード、2次元コード、OCRコード、ホログラムコード、カラーコードから選ばれた一または複数により構成される表示内容を利用することができる。また、印刷方法は、インクジェット法に限定されず、オフセット印刷法等の他の印刷方法を用いることができる。また、樹脂フィルム等の基材フィルム上に表示パターン106を設け、それを可視光全域反射コレステリック液晶層105に転写する方法で表示パターン106を形成することもできる。また、表示パターン106をホログラムにより構成することもできる。
【0028】
表示パターン106に接して、粘着層107が配置されている。粘着層107は、粘着剤の層であり、識別媒体100を対象物に貼り付ける際に利用される。粘着層107の裏面には、離型紙であるセパレータ108が貼り付けられている。識別媒体100を対象物に貼り付ける際には、セパレータ108を粘着層107から剥がし、粘着層107を対象物に接触させる。この粘着剤107の粘着力により、識別媒体100が対象物に固定される。なお、表示パターン106と粘着層107とは異なる色に見えるように配色を設定する。これは、表示パターン106の画像を認識し易くするためである。
【0029】
図1(B)には、識別媒体100の変形例である識別媒体100’が示されている。識別媒体100’は、観察が行われる側から、保護層として機能するハードコート層101a、コレステリック液晶層102、COP(シクロオレフィンポリマー)層104、可視光全域反射コレステリック液晶層105、表示パターン106、粘着層107、セパレータ108と積層された構造を有する。ハードコート層101aは、アクリル樹脂やウレタン樹脂等によるコート層であり、コレステリック液晶層102の観察面側の表面を保護する樹脂の層である。ハードコート層101aも可視光を透過し、且つ、透過する光の偏光の状態を乱さないものが選択される。
【0030】
COP層104は、シクロオレフィンポリマーをフィルム状にしたもので構成されており、コレステリック液晶層102および可視光全域反射コレステリック液晶層105の基材として機能する。COP層104を構成するシクロオレフィンポリマーのフィルムは、可視光を透過する性質を有し、また透過する可視光の偏光の状態を乱さない性質を有している。
【0031】
(光学機能:左円偏光フィルタ越しの観察)
図3には、左円偏光フィルタ111を介して識別媒体100を観察している状態が概念的に示されている。なお、図3において、「右」と記載されているのが右円偏光であり、「左」と記載されているのが左円偏光であり、「その他偏光」と記載されているのが特定中心波長の右円偏光以外の偏光成分である。
【0032】
ここで、識別媒体100に自然光が入射したとする。この場合、コレステリック液晶層102は、赤の右円偏光113を選択反射する。この選択反射された赤の右円偏光113は、左円偏光フィルタ111で遮断され、観察者側には届かない。また、コレステリック液晶層102に入射した自然光のうち、赤以外の右円偏光および主に左円偏光がコレステリック液晶層102を図の上から下方向に向かって透過する。この透過光がその他偏光として符号aで示されている。
【0033】
その他偏光aは、可視光全域反射コレステリック液晶層105に入射し、そこで符号bの右円偏光が図の上方向に反射される。この右円偏光bは、赤以外の右円偏光であり、左円偏光フィルタ111で遮断され、観察者には届かない。また、その他偏光aに含まれる主に左円偏光(符号c)が、可視光全域反射コレステリック液晶層105を透過し、表示パターン106に到達し、そこで反射される。この際、旋回方向が反転し、右円偏光dとして反射される。この右円偏光dは、可視光全域反射コレステリック液晶層105の下面で図の下方向に反射され、右円偏光eとして再度表示パターン106に入射する。右円偏光eは、表示パターン106で反射される際に旋回方向が反転し、左円偏光fとして反射される。左円偏光fは、可視光全域反射コレステリック液晶層105およびコレステリック液晶層102を透過し、左円偏光フィルタ111に入射し、そこを透過して被観察光114として観察者に届く。
【0034】
こうして、左円偏光フィルタ越しに識別媒体100を観察した場合、コレステリック液晶層102からの反射光は観察できない。つまりホログラム加工103に起因するホログラムは観察できない。他方で、表示パターン106からの反射光は観察できるので、表示パターン106の画像を視認することができる。これは、カメラによる画像認識手段を用いた場合も同じである。つまり、カメラを用いた画像認識において、左円偏光フィルタ111を介した撮像を行った場合、ホログラム加工103に起因するホログラムが画像として取得されず、表示パターン106の表示が画像として電子的に取得される。
【0035】
また、表示パターン106での光の反射が行われる際に、偏光状態の乱れが生じた場合でも、可視光全域反射コレステリック液晶層105を透過できる偏光成分が生じる。この光は、コレステリック液晶層102および左円偏光フィルタ111を透過し、観察者によって視認される。この光は、被観察光114と同じ画像内容を有しており、被観察光114の光量を大きくすることに寄与する。
【0036】
(光学機能:右円偏光フィルタ越しの観察)
図4には、識別媒体100を右円偏光フィルタ115越しに観察する場合が示されている。図4において、識別媒体100における光線の振る舞いは、図3の場合と同じである。この場合、コレステリック液晶層102から選択反射される赤の右円偏光113は、右円偏光フィルタ115を透過し、被観察光116として観察者に観察される。したがって、ホログラム加工103に起因するホログラムの像を右円偏光フィルタ115越しに観察することができる。
【0037】
また、表示パターン106から反射され、コレステリック液晶層102を図の上方向に透過した左円偏光が主体の光は、右円偏光フィルタ115で遮断されるので観察できない。つまり、右円偏光フィルタ115越しに識別媒体100を見た場合、表示パターン106は視認できない。こうして、右円偏光フィルタ115越しに識別媒体100を見た場合、表示パターン106は視認できず、他方において、コレステリック液晶層102に施されたホログラム加工103に基づくホログラムが鮮明に視認できる。
【0038】
以上説明したように、図3の左円偏光フィルタ越しに識別媒体100を観察した場合は、表示パターン106のみが見える。この際、可視光全域反射コレステリック液晶層105の下面側で繰り返し反射が行われ、被観察光114の強度を高める反射光の生成が行われる。これにより、表示パターン106の明度が高くなる。
【0039】
また、図4に示すように、右円偏光フィルタ115を介して観察した場合、表示パターン106は見えず、コレステリック液晶層102のホログラム加工103に起因するホログラムが選択的に見える。
【0040】
なお、識別媒体100を直視した場合は、反射される全ての偏光成分が同時に見えるので、コレステリック液晶層102のホログラムと表示パターン106とが同時に見える。
【0041】
このように、左右の円偏光フィルタを切り替えての観察を行うことで、表示パターンとホログラムとを切り替えて観察することができる。この切り替わりは明瞭である。さらに直視した場合を加えて3種類のパターンを識別することできる。
【0042】
図5は、上述した円偏光フィルタを切り替えて識別媒体100を観察した場合における見え方の一例を示す模式図である。図5において、「GENUINE」は、表示パターン106の印刷パターンであり、「Security」は、ホログラム加工103に起因するホログラムの画像である。
【0043】
図5(A)には、図3に示す左円偏光フィルタ111を介して識別媒体100を観察した場合に観察される画像の内容が示されている。この場合、図3を参照して説明したように、表示パターン106「GENUINE」が選択的に鮮明に観察される。この際、コレステリック液晶層102のホログラム加工103に起因するホログラム「Security」は見えない。
【0044】
図5(B)には、図4に示す右円偏光フィルタ115を介して識別媒体100を観察した場合に観察される画像の内容が示されている。この場合、図4を参照して説明したように、ホログラム加工103に起因するホログラム「Security」が選択的に観察される。この際、表示パターン106「GENUINE」は見えない。
【0045】
図5(C)には、識別媒体100を直接観察した場合の画像の内容が示されている。この場合、ホログラム加工103に起因するホログラム「Security」と表示パターン106「GENUINE」とが同時に観察される。
【0046】
以上の観察内容は、カメラによる画像認識手段を用いた場合も同じである。つまり、カメラを用いた画像認識において、左円偏光フィルタ111を介した撮像を行った場合、ホログラム加工103に起因するホログラム「Security」が画像として取得されず、表示パターン106「GENUINE」が画像として電子的に取得される。また、右円偏光フィルタ115を介した撮像を行った場合、ホログラム加工103に起因するホログラム「Security」が画像として取得され、表示パターン106「GENUINE」の画像が取得できない。また、円偏光フィルタを介さずにカメラによる撮像を行った場合、ホログラム「Security」と表示パターン106「GENUINE」の画像が重なった画像情報が取得される。
【0047】
以上説明した観察される内容は、円偏光フィルタ111や114を識別媒体から離した場合であっても、識別媒体に密着させた場合であっても同じである。また、コレステリック液晶は、見る角度を変えると、色彩が短波長側にシフトするカラーシフト効果が観察されるが、識別媒体100および100’においても、見る角度を変えることで(例えば、識別媒体を傾けることで)、カラーシフトを観察することができる。また、図1(B)の識別媒体100’の光学機能は、図1(A)の識別媒体100の場合と同じであり、COP層104以外の構成が同じであるならば、観察される内容も同じである。
【0048】
(製造方法)
以下、図1(A)の識別媒体100を得る工程の一例を説明する。まず、図示しない基材フィルム上に保護層101を形成し、更にその上にコレステリック液晶層102を成長させる。そして、コレステリック液晶層102の露出面に型押しによるホログラム加工103を施す。
【0049】
他方において、図示しない他の基材フィルム上で、図2に示す可視光全域反射コレステリック液晶層105を構成する第1のコレステリック液晶層105a、第2のコレステリック液晶層105bおよび第3のコレステリック液晶層105cをそれぞれ個別に形成する。そして、個別に形成した第1のコレステリック液晶層105a、第2のコレステリック液晶層105bおよび第3のコレステリック液晶層105cをコレステリック液晶層102の露出面で積層し、接着剤によって固定する。次に露出した可視光全域反射コレステリック液晶層105の裏面側にインクジェット法等により、表示パターン106を形成する。次に、可視光全域反射コレステリック液晶層105の露出面に粘着層107を設け、さらに粘着層107の露出面にセパレータ108を貼り付けることで、図1(A)に示す媒体100を得る。
【0050】
図1(B)の識別媒体100’を製造する場合、まず、図示しないPETフィルム等の樹脂フィルム上にハードコート層101aを形成し、更にその上にコレステリック液晶層102を形成して、そこにホログラム加工103を施す。これをCOP層104に転写し、図示しない樹脂フィルムを剥がすことで、COP層104とコレステリック液晶層102との積層物を得る。他方で、上述した方法により、可視光全域反射コレステリック液晶層105を得、それをCOP層104の露出面に接着する。こうして、観察面側からコレステリック液晶層102、COP層104、可視光全域反射コレステリック液晶層105と積層された積層物を得る。後は、識別媒体100と同様の工程を経て、識別媒体100’が製造される。
【0051】
(優位性)
前述した機能は可視光全域反射コレステリック液晶層以外にも、直線偏光板およびλ/4板を組み合わせた円偏光フィルタを用いることによりほぼ可能となる。但し、円偏光フィルタを使用した場合では印刷面で反射された光のうち、直線偏光板で約50%の光が吸収されるため表示パターン106の観察状態が暗くなる。これに対して、本実施形態の構造では、上記の直線偏光板に相当する光を吸収する部材を用いず、可視光全域反射コレステリック液晶層裏面側での繰り返しの反射の過程において、観察光に寄与する光成分が生成されるので、表示パターン106からの反射光量をより大きくすることができる。言い換えると、表示パターン106からの反射光を効率よく識別媒体100の外部に取り出すことができるので、表示パターン106からの反射光量をより大きくすることができる。このため、上記の円偏光フィルタを用いた場合に比較して、表示パターン106がより明るく見え、表示パターン106がより明瞭に見える。
【0052】
例えば、可視光全域反射コレステリック液晶層の代わりに円偏光フィルタを用いた場合、上方からの光は直線偏光板でまず50%吸収される。更に、表示パターンの反射で直線偏光が乱れると、乱れた分がさらに吸収される。このため、可視光全域反射コレステリック液晶層を用いた場合に比較して、視認に寄与する表示パターンからの反射光の光量が少なく、表示パターンが暗く見える。
【0053】
また、図1(B)の構造の識別媒体100’は、不正な再利用が困難であるという優位性がある。すなわち、COP層104を構成するシクロオレフィンポリマーは、ガソリン、灯油、シンナー、ベンジン等の炭化水素系の溶剤に触れると非常に劣化しやすい化学的な性質を有し、また溶剤に触れた状態で引き剥がすような力を加えた際に破断や皴が生じ易い物理的な性質を有している。このため、コレステリック液晶層102と可視光全域反射コレステリック液晶層105との間にCOP層を挟んだ構造とすることで、溶剤を用いて識別媒体100を不正に剥がそうとした場合や、強制的に識別媒体100を対象物から剥がそうとした場合に、識別媒体100の層構造が破壊され再利用ができなくなる。この性質は、識別媒体100の不正な再利用を防止あるいは困難にする上で有用となる。
【0054】
また、COP層104を構成するシクロオレフィンポリマーは、安価であるが、外部からの物理的な接触によって(例えば、手で触ることで)、筋が寄ったりクラックが生じたりする物理的な性質を有している。この現象が生じると、光学的にそれが視認される問題が生じる。図1(B)の構造によれば、COP層104が表裏からコレステリック液晶層102および可視光全域反射コレステリック液晶層105によって挟まれた構造とされているので、貼り付け作業等においてCOP層104への外部からの接触が防止され、COP層104に上述した筋やクラックが生じる問題が発生しない。
【0055】
(その他)
【0056】
可視光全域反射コレステリック液晶層105が選択反射する円偏光の旋回方向と、コレステリック液晶層102が選択反射する円偏光の旋回方向とを逆の設定とすることも可能である。この場合、コレステリック液晶層102と可視光全域反射コレステリック液晶層105との間にλ/2板を配置し、円偏光の旋回方向が反転するようにすればよい。
【0057】
(2)第2の実施形態
図1に示す構造において、可視光全域反射コレステリック液晶層105と表示パターン106との間に複屈折層を配置した構造も可能である。図6(A)には、識別媒体200が示されている。識別媒体200は、図1の識別媒体100において、可視光全域反射コレステリック液晶層105と表示パターン106との間に複屈折層110が配置された構造とされている。なお、図6(B)には、変形例として、識別媒体200におけるコレステリック液晶層102と可視光全域反射コレステリック液晶層105との間にCOP層104を挟んだ構造の識別媒体200’が示されている。COP層104以外は、識別媒体200と200’は同じであるので、以下、図6(A)の識別媒体200について説明する。
【0058】
複屈折層110は、複屈折効果が得られる光学機能層であり、屈折率異方性を有し、可視光を透過する性質を有している。この場合、複屈折層110としてPETフィルムが採用されている。複屈折層110としては、複屈折効果を示す各種の樹脂フィルムや液晶等を用いることができる。この例では、複屈折層110の粘着層107の側に表示パターン106が印刷により設けられている。
【0059】
複屈折層110は、観察面側(図1の上側)から可視光全域反射コレステリック液晶層105に入射し、可視光全域反射コレステリック液晶層105を透過してきた光(この場合は主に左円偏光成分)、および表示パターン106からの反射光の偏光状態を乱す。すなわち、複屈折効果によって、透過する光の偏光状態を乱す作用を有する。この偏光の状態が乱れることで、可視光全域反射コレステリック液晶層105を図3の下から上の方向に透過可能な光成分が生じ、左円偏光フィルタ111を透過する表示パターン106からの反射光(被観察光)の光量が増加する。この偏光の状態を乱すことで、表示パターン106から観察者に届く反射光の光量を増加させる作用は、可視光全域反射コレステリック液晶層105と表示パターン106との間の反射が繰り返し生じる過程において発生する。したがって、表示パターン106に届いた光を識別に利用可能な反射光として無駄なく有効に利用することができる。
【0060】
以下、複屈折層110の機能を具体的に説明する。なお、観察される内容は、図5に例示した図1の識別媒体100の場合と同じである。図7には、左円偏光フィルタ111を介して図6の識別媒体200を観察している状態が概念的に示されている。なお、図7において、「右」と記載されているのが右円偏光であり、「左」と記載されているのが左円偏光であり、「その他偏光」と記載されているのが特定中心波長の右円偏光以外の偏光成分であり、「その他」と記載されているのが、偏光の状態が乱され、特定の偏光状態と言えない光の状態である。
【0061】
ここで、識別媒体200に自然光が入射したとする。この場合、コレステリック液晶層102は、赤の右円偏光113を選択反射する。この選択反射された赤の右円偏光113は、左円偏光フィルタ111で遮断され、観察者側には届かない。また、コレステリック液晶層102に入射した自然光のうち、赤以外の右円偏光および主に左円偏光がコレステリック液晶層102を図の上から下方向に向かって透過する。この透過光がその他偏光として符号aで示されている。
【0062】
その他偏光aは、可視光全域反射コレステリック液晶層105に入射し、そこで符号bの右円偏光が図の上方向に反射される。この符号bの右円偏光は、左円偏光フィルタ111により遮断され、観察者に届かない。また、その他偏光aに含まれる右円偏光以外の偏光(符号c)は、複屈折層110に入射し、複屈折効果により偏光の状態が乱される。こうして、「その他」で示される偏光の状態が乱された光線dとなり、表示パターン106に入射し、そこで反射される。この反射光は、再び複屈折層110を図の下から上に向かって透過し、更に偏光の状態が乱され、符号eの光線として可視光全域反射コレステリック液晶層105の下面側に入射する。
【0063】
このとき、符号eの光線は、偏光の状態が乱れており、可視光全域反射コレステリック液晶層105を透過可能な左円偏光の成分を含んでいる。この変更状態の乱れによって生じた左円偏光の成分が、符号gで示される左円偏光として、可視光全域反射コレステリック液晶層105を透過する。この符号gで示される左円偏光は、コレステリック102も透過し、左円偏光フィルタ111に到達し、そこを透過して被観察光114aとして観察される。
【0064】
また、符号eの光線の中の右円偏光成分は、右円偏光fとして、可視光全域反射コレステリック液晶層105において反射され、複屈折層110に入射する。この際、複屈折層110において、右円偏光fは、偏光の状態が乱され、符号hで示される光線として、表示面106において反射される。この反射により反射光jが生じ、反射光jは、複屈折層110を透過する過程で更に偏光の状態が乱され、符号kで示される光線として可視光全域反射コレステリック液晶層105の下面に入射する。
【0065】
符号eの光線の場合と同様に、符号kの光線の偏光の状態も乱れており、その中の可視光全域反射コレステリック液晶層105を透過可能な左円偏光の成分が、左円偏光mとして、可視光全域反射コレステリック液晶層105を図の上方向に透過する。他方で、符号kに含まれる符号lで示される右円偏光が再度表示パターン106の方向に反射される。
【0066】
左円偏光mは、コレステリック液晶層102を透過し、更に左円偏光フィルタ111を透過して、被観察光114bとして観察者によって視認される。右円偏光lは、複屈折層110を透過する過程で偏光の状態が乱され、符号f→h→j→kと同様な経路を経て、一部の成分が左円偏光qとして被観察光114cとなり、偏光の乱れで生じた右円偏光の成分が、右円偏光pとして再度表示パターン106の側に反射される。
【0067】
左円偏光の被観察光114a、114bおよび114cは、表示パターン106からの反射光であり、表示パターン106の画像情報を含んでいる。また、コレステリック液晶層102のホログラムでの反射や回折をしないで透過した光であり、ホログラム加工103に起因するホログラムの画像情報を含んでいない。このため、表示パターン106が鮮明に見え、コレステリック液晶層102のホログラムは見えない。また、被観察光114a、114bおよび114cが合わさることで、表示パターン106の画像がより明るく鮮明に観察される。この作用は、符号pの光線においても得られる。つまり、可視光全域反射コレステリック液晶層105と表示パターン106との間における光の反射が繰り返される限り上記の左円偏光フィルタ越しに観察される表示パターン106の光線は繰り返し生成され、符号114a〜114cで示されるように重ね合わされる。これにより、表示パターン106に届いた光を無駄なく利用して表示パターン106の被観察光を得る機能が得られる。
【0068】
図8には、右円偏光フィルタ115を介して識別媒体200を観察する場合が示されている。この場合、識別媒体200内部での光の振る舞いは、図7の場合と同じである。そして、識別媒体200から反射された左円偏光は、右円偏光フィルタ115で遮断され、観察されない。他方において、コレステリック液晶層102から反射された右円偏光113が、右円偏光フィルタ115を透過し、被観察光117として観察者に観察される。この場合、表示パターン106は観察されず、ホログラム加工103に基づくホログラムが選択的に観察される。
【0069】
以上説明したように、左円偏光フィルタ越しに識別媒体200を観察した場合、表示パターン106のみが見える。この際、可視光全域反射コレステリック液晶層105の下面側で繰り返し反射が行われ、更にそこで複屈折層110における複屈折効果によって、被観察光114aの強度を高める反射光の生成が行われる。
【0070】
以上説明した観察される内容は、円偏光フィルタ111や114を識別媒体から離した場合であっても、識別媒体に密着させた場合であっても同じである。また、コレステリック液晶は、見る角度を変えると、色彩が短波長側にシフトするカラーシフト効果が観察されるが、識別媒体200および200’においても、見る角度を変えることで(例えば、識別媒体を傾けることで)、カラーシフトを観察することができる。
【0071】
(3)第3の実施形態
図9(A)には、実施形態の識別媒体300が示されている。識別媒体300は、観察が行われる側から、保護層101、ホログラム加工103が施されたコレステリック液晶層102、可視光全域反射コレステリック液晶層105、粘着層601と配置された構造とされている。図9には、更に表示パターン602が表面に形成された識別対象物(物品)603が示されている。ここで、図1と共通な符号の部分は、図1に関連して説明した内容と同じである。この例では、識別媒体300が、粘着層601の粘着力によって、対象物603に貼り付けられている状態が示されている。図9(B)には、図9(A)に示す識別媒体300におけるコレステリック液晶層102と可視光全域反射コレステリック液晶層105との間にCOP層104を介在させた構造とした識別媒体300’が示されている。
【0072】
粘着層601は、光学的に透明な材質の粘着剤である。表示パターン602は、対象物601の表面に形成されている印刷パターンであり、各種の絵柄や文字、ロゴ、模様、バーコード等のコード表示等である。識別媒体300の光学的な性質は、図1の識別媒体100と同じである。識別媒体300が図1の識別媒体100と異なるのは、識別媒体100が、識別に用いる画像の基となる表示パターン106を備えているのに対して、識別媒体300では、識別に用いる画像として対象物603側の表示パターン602を用いている点である。
【0073】
なお、対象物に貼り付けていない状態、つまり識別媒体300が未使用の状態においては、粘着層601の裏面側に図示しないセパレータ(離型紙)が貼り付けられている。使用時にこのセパレータが粘着層601の裏面から剥がされ、対象物に粘着層601の粘着機能により、識別媒体300が貼り付けられる。この状態の一例が図9に示されている。また、図9に示す構造において、可視光全域反射コレステリック液晶層105の下面側に複屈折層を設け、図7および図8を用いて説明した場合と同様な光学機能を得ることも可能である。
【0074】
(4)その他の開示内容1
(構成)
図10には、識別媒体400が示されている。識別媒体400は、観察する側の面から保護層101、光学異方性層301、可視光全域反射コレステリック液晶層105、粘着層107、セパレータ108と積層された構造を有している。ここで、図1と同じ符号の部分は、図1の場合と同じである。
【0075】
光学異方性層301は、複屈折性を有する配向した高分子材料により構成され、光を当てると高分子の重合反応が生じ、配向状態が決まる材質のものを用いる。この光学異方性層中の高分子は未反応の反応性基を有する。露光により未反応の反応性基が反応して高分子鎖の架橋が起こり、露光条件の異なる露光によって高分子鎖の架橋の程度が異なり、その結果としてレターデーション値が変化して複屈折パターンが形成される。
【0076】
光学異方性層301は、20℃においてレターデーションが5nm以上であればよく、10nm以上10000nm以下であることが好ましく、20nm以上2000nm以下であることが最も好ましい。
【0077】
この例では、光学異方性層の製法として、少なくとも1つの反応性基を有する液晶性化合物を含む溶液を塗布乾燥して液晶相を形成した後、電離放射線を照射して重合固定化して作製する方法を採用する。この方法については、特開2009−175208号公報に記載されている。なお、当該公報には、他の方法として、少なくとも2つ以上の反応性基を有するモノマーを重合固定化した層を延伸する方法、高分子からなる層にカップリング剤を用いて反応性基を導入した後に延伸する方法、または高分子からなる層を延伸した後にカップリング剤を用いて反応性基を導入する方法などが挙げられている。また、後述するように、本発明の光学異方性層は転写により形成されたものであってもよい。光学異方性層301の厚さは、0.1〜20μmであることが好ましく、0.5〜10μmであることがさらに好ましい。
【0078】
以下、光学異方性層301の形成工程の一例を説明する。まず、液晶性化合物を含有する組成物(例えば塗布液)を、配向処理を施した易剥離層上に塗布する。この例では、液晶性化合物として、棒状液晶、水平配向剤、カチオン系光重合開始剤、重合制御剤、メチルエチルケトンを配合したものを用いる。そして、所望の液晶相を示す配向状態とした後、該配向状態を電離放射線の照射により固定する。
【0079】
この例では、光重合反応により、配向させた液晶性化合物の配向状態が固定される。光照射の照射エネルギーは、25〜800mJ/cm2が選択される。照射波長としては250〜450nmにピークを有する紫外線が用いられる。
【0080】
この際、図11に示すパターンに光描画を行い、領域Aにおいて生じる透過光の位相差(複屈折効果)と、領域Bにおいて生じる透過光の位相差(複屈折効果)と、領域Cにおいて生じる透過光の位相差(複屈折効果)とが異なるものとなるように調整する。すなわち、各領域において、光学異方性が異なる状態となるようにする。なお、領域Dは、光照射を行わず、複屈折効果が生じない単なる光透過層とする。
【0081】
上記の位相差の調整は、照射する光の光量(露光量)を変えることで行う。その後、200℃の温度で熱処理を加えることで、光の照射光量に応じた配向状態の固定化の状態が決まり、それにより部分的に複屈折の状態が異なる光学異方性層301が得られる。なお、光を当てないと、熱処理時に配向状態が乱れ、その領域の複屈折性は消失する(単なる光透過層となる)。上記の熱処理は、50℃〜400℃の範囲から選択された温度で行うことができる。
【0082】
こうして、平面内における直交方向の屈折率に差があり、しかもその差の状態が図11に示す領域A、領域B、領域Cにおいて異なっている光学異方性層301が得られる。この例では、円偏光フィルタを用いた観察時において、領域A、領域B、領域Cが異なる色彩に見えるように、それら領域で生じる位相差の設定がされている。なお、領域Dは、屈性率異方性がない、単なる光透過領域として形成される。
【0083】
光学異方性層301を得たら、それを図示しない易剥離層から剥離し、保護層101に固定する。この後、可視光全域反射コレステリック液晶層105との積層、更に粘着層107の形成およびセパレータ108の貼り付けを行い図10に示す識別媒体400を得る。
【0084】
識別媒体400の対象物への固定は、セパレータ108を剥がし、粘着層107を対象物に接触させることで行われる。この点は、図1の識別媒体100と同じである。なお、可視光全域反射コレステリック液晶層105が選択反射する円偏光の旋回方向は、右旋回に限定されず、左旋回であってもよい。
【0085】
(光学機能)
図10の識別媒体400を図の上の方向から直視した場合、領域A〜Cの複屈折効果は視認できず、また領域Dは単なる光透過層であるので、図11に示すABCの表示は観察されない。右円偏光フィルタを介して識別媒体400を観察すると、領域ABCを透過してきた光は、複屈折効果により楕円偏光化し、またその楕円偏光の状態は、領域ABCのそれぞれにおいて異なるので、領域ABCのそれぞれが異なった色彩に見える。領域Dは、可視光全域反射コレステリック液晶層105から反射された可視光全域の光が観察され、例えば金属光沢を持った反射光が観察される。
【0086】
領域A、B、Cの部分からの反射光が異なる色彩に見えるのは、以下の理由による。すなわち、領域ABCのそれぞれにおいて、光学異方性層301内で直交する偏光の成分に位相差が生じるのであるが、この生じる位相差に波長依存性があるので、ある偏光成分に着目すると、光学異方性層301内で生じた位相差に応じた波長を中心にした色が見える。このため、生じた位相差の違いによって異なる色彩が観察される。ここで、領域A、B、Cの部分では、生じる位相差が異なる状態となるように設定されているので、円偏光フィルタを介した観察において、領域A、B、Cの部分が異なる色彩に見える。
【0087】
また、左円偏光フィルタを介して識別媒体400を見ると、領域A、B、Cの部分が右円偏光フィルタを用いた場合と異なる色彩で見える。これは、円偏光フィルタで抽出された偏光成分が、右円偏光フィルタを用いた場合と異なるからである。またこの際も、領域A、B、Cのそれぞれは異なる色に見える。また、領域Dからの右円偏光の反射光は、左円偏光フィルタで遮断されるので、可視光全域反射コレステリック液晶層105からの反射光は見えず、可視光全域反射コレステリック液晶層105の下地である粘着層107が見える。ここで、粘着層107が着色されていれば、その色が領域Dの部分で見え、粘着層107が透明であれば、粘着層107の更に下層の表面が領域Dの部分で見える。
【0088】
以上述べたように、図10には、観察される側から、光学異方性の状態が異なる複数の領域を備えた光学異方性層と、可視光全域反射コレステリック液晶層とが配置された構造を有している。
【0089】
(4)その他の開示内容2
図12には、識別媒体500が示されている。識別媒体500は、観察する側から保護層101、ホログラム加工103が施されたコレステリック液晶層102、λ/2板401、可視光全域反射コレステリック液晶層105、粘着層107、セパレータ108と積層された構造を有している。ここで、コレステリック液晶層102は赤の右円偏光を選択反射する設定であり、可視光全域反射コレステリック液晶層105は、右円偏光の可視光全域反射を行う設定とされている。
【0090】
右円偏光フィルタを介して識別媒体500を図の上の方向から観察すると、コレステリック液晶層102から反射された例えば赤の右円偏光が観察される。このため、ホログラム加工103に起因するホログラムが観察される。左円偏光フィルタを介して識別媒体500を観察すると、コレステリック液晶層102からの反射光は観察できない。他方において、可視光全域反射コレステリック液晶層105から反射された右円偏光がλ/2板401で反転し、左円偏光となるので、コレステリック液晶層102を上方へそのまま透過するので、可視光全域反射コレステリック液晶層105からの反射光が観察可能となる。この反射光は、左円偏光であり、可視光全域の光として観察されるので、コレステリック液晶102のホログラムが見えない状態で、例えば金属光沢を持った反射光が観察される。
【0091】
なお、可視光全域反射コレステリック液晶層105から反射される円偏光の旋回方向を左旋回とした場合、λ/2板401は省略できる。また、コレステリック液晶層102の選択反射波長を赤以外の他の色とすることも可能であり、また選択反射される円偏光の旋回方向を左旋回とする設定も可能である。
【0092】
以上述べたように、図12には、観察される側から、ホログラム加工が施されたコレステリック液晶層と、λ/2板と、前記コレステリック液晶層と同じ旋回方向の円偏光を選択反射する可視光全域反射コレステリック液晶層とを備えている。なお、λ/2板を省略したい場合は、可視光全域反射コレステリック液晶層から反射される円偏光の旋回方向をコレステリック液晶層と逆とする。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、真贋の識別を行うための技術に利用することができる。
【符号の説明】
【0094】
100…識別媒体、101…保護層、102…コレステリック液晶層、103…ホログラム加工、104…COP(シクロオレフィンポリマー)層、105…可視光全域反射コレステリック液晶層、105a…コレステリック液晶層、105b…コレステリック液晶層、105c…コレステリック液晶層、106…表示パターン、107…粘着層、108…セパレータ、109…対象物、110…複屈折層、200…識別媒体、300…識別媒体、301…光学異方性層、400…識別媒体、500…識別媒体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察が行われる側から、
ホログラム加工が施され、特定中心波長の特定旋回方向の円偏光を選択的に反射する第1のコレステリック液晶層と、
可視光全域の光を反射する反射特性または可視光全域の光を反射する場合と等価な反射特性を有し、前記第1のコレステリック液晶層から反射される円偏光と同じ旋回方向の円偏光を反射する第2のコレステリック液晶層と、
特定の表示内容とされた表示パターンと
配置された構造を有することを特徴とする識別媒体。
【請求項2】
前記第2のコレステリック液晶層と前記表示パターンとの間に屈折率異方性を有する光透過層が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の識別媒体。
【請求項3】
観察が行われる側から、
ホログラム加工が施され、特定中心波長の特定旋回方向の円偏光を選択的に反射する第1のコレステリック液晶層と、
可視光全域の光を反射する反射特性または可視光全域の光を反射する場合と等価な反射特性を有し、前記第1のコレステリック液晶層から反射される円偏光と同じ旋回方向の円偏光を反射する第2のコレステリック液晶層と、
光透過性を有する粘着層と
を備えることを特徴とする識別媒体。
【請求項4】
前記第1のコレステリック液晶層が一方の面に接触し、前記第2のコレステリック液晶層が他方の面に接触したシクロオレフィンポリマーの層を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の識別媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−198316(P2012−198316A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61184(P2011−61184)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】