護岸に設置される構造体、護岸構造物
【課題】 生物親和性が高く水生生物の生育・生息に好適で、天然の沿岸岩礁部と同等又はそれ以上の生態系を定着させることができ、底質や水質の環境も保全することができる生態系構築型の構造体、護岸構造物を提供する。
【解決手段】 護岸構造物に設置されて水生生物の棲息場となる構造体であって、構造体は、塊状体23を複数連結してパネル状にしてなるパネル状連結体24であり、塊状体23が鉄鋼スラグを主原料とする炭酸固化体、又は鉄鋼スラグを主原料とする水和硬化体、又は少なくとも外表面に炭酸カルシウム被覆層を有するCa含有水和硬化体によって形成されていることを特徴とする構造体。
【解決手段】 護岸構造物に設置されて水生生物の棲息場となる構造体であって、構造体は、塊状体23を複数連結してパネル状にしてなるパネル状連結体24であり、塊状体23が鉄鋼スラグを主原料とする炭酸固化体、又は鉄鋼スラグを主原料とする水和硬化体、又は少なくとも外表面に炭酸カルシウム被覆層を有するCa含有水和硬化体によって形成されていることを特徴とする構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、埋立て地等の護岸や岸壁あるいは防波堤(これら、護岸、岸壁及び防波堤を総称して本明細書では単に「護岸」という。)に設置されて、潮間帯に着生する海藻や、魚、カニ、エビ等の水生生物の生育・生息に好適な場を提供し、海域環境の好適化あるいは修復ができる構造体、護岸構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
自然の磯場のように良好な環境の海では藻類、稚子魚、甲殻類、貝等の多様な生物が生息している。このような多様な生物がプランクトンを摂餌し、これが死滅すると、細菌に分解され、海底に堆積する。海底に堆積したものは底生生物によって摂餌され、底生生物も大型の動物に摂餌されて系外に運び出される。
このように多様性が維持された環境では、物質の循環が滞りなく行われており、水質も良好な状態にある。海域環境浄化とは、多様な生物による滞りのない物質循環という観点を基本にして行われる。
【0003】
しかしながら、従来の護岸は魚介類の隠れ場所や貝や藻類の付着し易い凹凸が全く存在していない垂直壁状のものであった。そのため、光がとどき、光合成の起きる水深には着生基盤である海底がなく、植物連鎖にとって必要な海藻や、水生生物が生息できる環境ではなく、上記の海域環境浄化ができず、海洋汚染が進んでいた。
このため、近年においては、コンクリート等で形成した凹凸形状を有するパネルを護岸の垂直壁に貼設して魚介類等の棲息場所を設けた護岸が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−207429号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示された護岸は動植物の棲息場所に適するような形状を工夫することに終始されており、その材料については何ら考慮されておらず、その実施の形態においてコンクリートを用いたものが示されるのみであった。
しかしながら、コンクリートを水中に設置するとコンクリートから溶出するCa(OH)2が周囲の水のpHを上昇させ、アルカリ性を高め、却って水中生物(動植物、微生物)の棲息・生育環境に悪影響を与えるという問題がある。
また、コンクリートはその表面が平滑であるため、植物などの定着力が弱く、仮に生物(植物、動物)が付着したとしても、生物が一度に脱落してしまう可能性がある。このように生物が一度に海底に落ちると、貧酸素水塊に満たされた海底でヘドロ化してしまうという問題もある。
このように、特許文献1のものでは却って水中生物の棲息・生育環境に悪影響を与える可能性もあり、衰退した沿岸海域での生態系を回復させる十分な成果を挙げることは期待できない。
【0005】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、生物親和性が高く水生生物の生育・生息に好適で、天然の沿岸岩礁部と同等又はそれ以上の生態系を定着させることができ、底質や水質の環境も保全することができる構造体、護岸構造物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明に係る構造体は、護岸構造物に設置されて水生生物の棲息場となる構造体であって、構造体は、塊状体を複数連結してパネル状にしてなるパネル状連結体であり、前記塊状体が鉄鋼スラグを主原料とする炭酸固化体、又は鉄鋼スラグを主原料とする水和硬化体、又は少なくとも外表面に炭酸カルシウム被覆層を有するCa含有水和硬化体によって形成されていることを特徴とするものである。
【0007】
(2)本発明に係る護岸構造物は、上記(1)に記載の構造体が設置された護岸構造物であって、パネル状連結体の少なくとも一部が満潮時の水面位置よりも下方に位置し、干潮時の水面位置よりも上方に位置するように配置されていることを特徴とするものである。
【0008】
(3)また、上記(2)に記載のものにおいて、構造体が前面壁を有する断面L字形の棚部材の後面壁と底面に設置されており、該棚部材の前面壁の上端が満潮時の水面位置よりも下方に位置し、干潮時の水面位置よりも上方に位置するように設定されていることを特徴とするものである。
【0009】
(4)また、上記(2)又は(3)に記載のものにおいて、護岸構造物の近傍の水底に砂粒状のスラグを含む砂粒体からなる砂粒層を設けたことを特徴とするものである。
【0010】
(5)また、上記(2)〜(4)のいずれかに記載のものにおいて、護岸構造物における水底近傍に前方に突出する棚部を設けたことを特徴とするものである。
【0011】
(6)また、上記(5)に記載のものにおいて、棚部に砂粒状のスラグを含む砂粒体からなる砂粒層を設けたことを特徴とするものである。
【0012】
(7)本発明に係る構造体は、護岸に設置されて水生生物の棲息場となる構造体であって、該構造体が鉄鋼製造プロセスで発生したスラグを主原料として形成されていることを特徴とするものである。
【0013】
(8)また、上記(7)の構造体は、炭酸固化体又は水和硬化体のいずれかであることを特徴とするものである。
【0014】
(9)また、護岸に設置されて水生生物の棲息場となる構造体であって、該構造体が少なくとも外表面に炭酸カルシウム被覆層を有するCa含有水和硬化体によって形成されていることを特徴とするものである。
【0015】
(10)また、上記(7)〜(9)の構造体は、水の出入り口となる開口部と、採光用の開口部とを有する箱型のボックス構造体であることを特徴とするものである。
【0016】
(11)また、上記(7)〜(9)の構造体は、護岸壁面の前方に設置される複数の貫通孔を有する壁型構造体であることを特徴とするものである。
【0017】
(12)また、上記(7)〜(9)の構造体は、複数のブロック体をそれぞれ隙間を設けて配置してなる壁型構造体であることを特徴とするものである。
【0018】
(13)また、上記(7)〜(9)の構造体は、塊状体を複数連結してパネル状にしてなるパネル状連結体であることを特徴とするものである。
【0019】
(14)本発明に係る護岸構造物は、上記(10)に記載のボックス構造体が設置された護岸構造物であって、ボックス構造体における水の出入り口となる開口部の少なくとも一部が、満潮時の水面位置よりも下方に位置し、干潮時の水面位置よりも上方に位置するように配置されていることを特徴とするものである。
【0020】
(15)また、上記(11)または(12)に記載の壁型構造体が護岸壁面の前方に設置されてなることを特徴とするものである。
【0021】
(16)また、上記(15)に記載のものにおいて、壁型構造体と護岸壁面との間に水生生物の棲息場となる裏込め材を設置したことを特徴とするものである。
(17)また、上記(13)に記載のパネル状連結体が設置された護岸構造物であって、パネル状連結体の少なくとも一部が満潮時の水面位置よりも下方に位置し、干潮時の水面位置よりも上方に位置するように配置されていることを特徴とするものである。
【0022】
(18)また、護岸壁の前面に鉄鋼製造プロセスで発生したスラグを主原料として形成された板体または塊状体を設置してなることを特徴とするものである。
【0023】
(19)また、上記(18)に記載の板体または塊状体を階段状に設置してなることを特徴とするものである。
【0024】
(20)また、上記(18)に記載の板体または塊状体をそれぞれ隙間を設けて設置してなることを特徴とするものである。
【0025】
(21)また、上記(18)〜(20)に記載の板体または塊状体は、炭酸固化体又は水和硬化体のいずれかであることを特徴とするものである。
【0026】
(22)また、上記(18)〜(20)に記載の板体または塊状体は、少なくとも外表面に炭酸カルシウム被覆層を有するCa含有水和硬化体からなることを特徴とするものである。
【0027】
(23)また、本発明に係る直立式の護岸構造物は、鉄鋼製造プロセスで発生したスラグを主原料とする炭酸固化体又は水和硬化体で形成したことを特徴とするものである。
【0028】
(24)また、上記(23)に記載の護岸構造物の前面壁に凹凸部を形成したことを特徴とするものである。
【0029】
(25)また、上記(14)〜(24)に記載の護岸構造物近傍の水底に砂粒状のスラグを含む砂粒体からなる砂粒層を設けたことを特徴とするものである。
【0030】
(26)また、上記(14)〜(25)に記載の護岸構造物における水底近傍に前方に突出する棚部を設けたことを特徴とするものである。
【0031】
(27)また、上記(26)の棚部に砂粒状のスラグを含む砂粒体からなる砂粒層を設けたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0032】
本発明の構造体、護岸構造物においては、これらを形成する材料が生物親和性に優れるため、これらが配置された水深などに応じて海藻着生基盤、漁礁、栄養塩供給(溶出)源等として有効に機能し、これらの機能によって、珪藻類や海藻類の増殖、動物プランクトンの増殖、魚介類の餌場・隠れ家・産卵場として好適な環境の出現、魚介類の増殖、といった一連の事象が直接的又は連鎖的に実現され、その結果、天然の沿岸岩礁部と同等又はそれ以上の生態系を構築することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
[実施の形態1]
図1は本実施の形態に係る護岸構造物の説明図であり、ボックス構造体1を海洋に設置された直立式護岸3の壁体に設置して護岸構造物5を構成している。本実施の形態においては、ボックス構造体1を設置した下方に高炉水砕スラグからなる高炉水砕スラグ層7を設置している。
以下、ボックス構造体1及び高炉水砕スラグ層7について詳細に説明する。
なお、図1(a)、(b)、(c)は、ボックス構造体1の配置について異なる3つの態様を示したものであり、その意義については後述する。
【0034】
<ボックス構造体>
ボックス構造体1は、図2及び図2の矢視A−A断面である図3に示すように、前面に海水の出入り口となる開口部9を有する箱型の構造体である。この例では、開口部9はボックス構造体前面幅に等しい矩形状をしており、ボックス構造体前面の上部約2/3の面積を占め、開口部9の下方には前面壁11が形成されている。なお、この例では、開口部9が採光用の開口部を兼ねている。
ボックス構造体1の大きさは特に限定されないが、例えば奥行き80cm×幅5m×高さ3mにする。
なお、ボックス構造体1は後述する鉄鋼スラグ等を主原料として、これを水和硬化させたり炭酸固化させたりして製造するが、その際に、鉄筋、安全鉄筋、養生鉄筋などを入れてもよい。
【0035】
ボックス構造体1は、図1に示すように、前面壁11の上端が満潮時の海面高さ(HWL)よりも下方に位置し(図1(a)及び図1(c)のようにボックス構造体全体が水没してもよい。)、干潮時の水面高さ(LWL)よりも上方に位置するように配置されている。なお、通常、のボックス構造体1は単独で用いるのではなく、複数のボックス構造体1を図1の紙面直交方向に同じ高さで並べて設置する。
また、ボックス構造体1を水生生物にとって好適な棲息場とするには、ボックス構造体1内に適度な光が入ることが必要であり、そのためには、図1(b)に示すように、直立式護岸3のひさし状の出っ張りの下方に少し隙間を設けて設置したり、図1(c)に示すように、直立式護岸3の海側の壁から海側に離したりすることで、ひさし状の出っ張りの日陰にならないようにするのが好ましい。
【0036】
ボックス構造体1の取り付け方法としては、図1に示すように、例えばアングル材13によって上記の所定の高さに設置すればよい。もっとも、ボックス構造体1の設置方法は、他の方法、例えば、ボックス構造体1の下方にコンクリートブロックなどを積み上げて架台を設け、その上に設置するようにしてもよいし、あるいは直立式護岸3に吊り下げるようにしてもよい。
【0037】
ボックス構造体1を形成する材料としては、(1)鉄鋼製造プロセスで発生したスラグ(以下、「鉄鋼スラグ」という。)を主原料としたもの、(2)鉄鋼スラグを主原料とする炭酸固化体、(3)鉄鋼スラグを主原料とする水和硬化体、(4)少なくとも外表面に炭酸カルシウム被覆層を有するCa含有水和硬化体が挙げられる。これらの部材は海藻着生基盤、魚礁、栄養塩供給(溶出)源などとして機能する。
以下、それぞれの材料について説明する。
【0038】
(1)鉄鋼スラグ
鉄鋼製造プロセスで発生したスラグ(以下、「鉄鋼スラグ」という。)は適量の鉄分及び珪酸を含んでおり、したがって、鉄鋼スラグやこれを炭酸化反応で固結させて得られた炭酸固化体からは、珪藻類や海藻類の生育に有効な珪酸や鉄分などの栄養塩が海中に溶出する。したがってまた、これらの部材(特に、鉄鋼スラグの炭酸固化体)は海藻着生基盤としても有効に機能する。
【0039】
鉄鋼スラグとしては、例えば、高炉で発生する高炉徐冷スラグ(但し、この高炉徐冷スラグは水中でSが溶出しないようにするため、十分にエージング処理したものが好ましい。)、高炉水砕スラグ、溶銑予備処理、転炉脱炭精錬、鋳造、電気炉精錬などの工程で発生する製鋼スラグ(脱燐スラグ・脱硫スラグ・脱珪スラグなどの溶銑予備処理スラグ、脱炭スラグ、鋳造スラグ、電気炉スラグなど)、鉱石還元スラグなどが挙げられ、これらの2種以上を用いてもよい。
【0040】
また、これらのスラグ中でも特に製鋼スラグが好ましく、そのなかでも特に脱炭スラグ(転炉スラグ)、脱燐スラグが好適である。鉄鋼スラグは、溶融スラグを冷却固化後、重機などまたはクラッシングプラントにより細かく破砕し、これを型枠に入れて適宜の方法によりボックス状に形成する。
なお、製鋼スラグをはじめとする各種のスラグは、水和処理、炭酸化処理、エージング処理、水和硬化、炭酸化硬化などを経たものを用いてもよい。
【0041】
(2)炭酸固化体
鉄鋼スラグを主原料とする炭酸固化体としては、例えば特許第3175694号で提案されている、鉄鋼スラグを主原料とする粉粒状原料を炭酸化反応で生成させたCaCO3(場合によっては、さらにMgCO3)を主たるバインダーとして固結させ、ボックス形状のボックス構造体を形成する。また、鉄鋼スラグとしては、高炉で発生する高炉水砕スラグや高炉徐冷スラグ、高炉水砕スラグ、予備処理、転炉、鋳造等の工程で発生する脱炭スラグ、脱燐スラグ、脱硫スラグ、脱珪スラグ、鋳造スラグ等の製鋼スラグ、鉱石還元スラグ、電気炉スラグ等を用いることができる。
【0042】
このような鉄鋼スラグを主原料とする炭酸固化体は、特に、スラグ中に含まれるCaO(又はCaOから生成したCa(OH)2)の大部分がCaCO3に変化するため、CaOによる海水のpH上昇を防止でき、また、全体(表面及び内部)がサブミリ以下の微細なポーラスな性状を有しているため表面に海藻類が付着し易く、しかも海藻類の生育促進に有効な成分(珪酸や鉄分など)が海水中に溶出しやすいことから、海藻着生基盤として特に有効に機能する。
【0043】
(3)水和硬化体、
鉄鋼スラグを主原料とする水和硬化体は、鉄鋼スラグを主原料(骨材及び/又は結合材)として含む原料を水和硬化させて得られるものであり、鉄鋼スラグとしては、先に挙げたような各種スラグ、すなわち高炉で発生する高炉水砕スラグ、脱燐スラグ、脱硫スラグ、脱珪スラグ、鋳造スラグ等の製鋼スラグ、鉱石還元スラグ、電気炉スラグ等を用いることができる。
水和硬化体によるボックス構造体は、原料を水と混練後、型枠に入れ、通常1〜4週間養生することによって製造される。
なお、水和硬化体に用いる結合材としては、上述した高炉水砕スラグの微粉末などの他にシリカ含有物質(例えば、粘土、フライアッシュ、ケイ砂、シリカゲル、シリカシューム)、セメント、消石灰、NaOHなどを適宜組み合わせて使用することもできる。
【0044】
(4)Ca含有水和硬化体
ここで用いるCa含有水和硬化体とは、基体となるCa含有水和硬化体の少なくとも外表面に炭酸カルシウム被覆層を形成したものである。
Ca含有水和硬化体は、その表面に炭酸カルシウム被覆層が形成されているので、これをボックス構造体の材料として用いた場合には、基体からのCa(OH)2の溶出とこれに伴う海水(特に基体表面の境界層の海水)のpH上昇が抑えられ、基体表面の海水層を遊走子や卵の着生や生育に好適な環境とすることができ、上記の炭酸固化体を用いた場合と同等の効果を期待できる。
【0045】
以下、Ca含有水和硬化体の構成を詳細に説明する。
ここにいうCa含有水和硬化体とは、前述のように、基体となるCa含有水和硬化体の少なくとも外表面に炭酸カルシウム被覆層を形成したものである。基体となるCa含有水和硬化体とは、Caを含有する結合材(セメントなど)、骨材(細骨材及び/又は粗骨材)、水、必要に応じて配合される混和材等を混練し、水和硬化させたもの、或は結合材程度から骨材程度までの広い粒径分布を有するCa含有材、水、必要に応じて配合される混和材等を混練し、水和硬化させたものである。最も一般的な基体となるCa含有水和硬化体はセメントコンクリートであるが、これに限定されるものではなく、例えば、FSコンクリート、エコセメントコンクリート、石炭灰水和硬化体(例えば、フライアッシュセメントコンクリート)や、鉄鋼製造プロセスで発生するスラグを主原料とする水和硬化体(例えば、溶銑予備処理スラグ、高炉スラグ微粉末、消石灰などを配合した水和硬化体)、など、任意のCa含有水和硬化体を対象とすることができる。
また、セメントコンクリートには、ポルトランドセメント、高炉セメントなど任意のセメントを用いたコンクリートが含まれる。
【0046】
基体となるCa含有水和硬化体の外表面に炭酸カルシウムの被覆層を形成させる方法は任意であるが、通常は基体となるCa含有水和硬化体を炭酸ガスと接触させる炭酸化処理で形成させる。
Ca含有水和硬化体の外表面の炭酸化処理を効率的に行うには、Ca含有水和硬化体の表面に水(表面付着水)が存在することが事実上不可欠であり、このため基体となるCa含有水和硬化体の少なくとも外表面に水を付着させ又は少なくとも表層に水を含浸させることが必要である。すなわち、炭酸化処理における基体となるCa含有水和硬化体表層に含まれる未炭酸化CaとCO2との反応機構は、水和硬化体表面に存在する水(表面付着水)にCO2が溶解するとともに、水和硬化体側からはCaイオンが溶出し、この水に溶解・溶出したCO2とCaイオンとが反応(炭酸化反応)することにより、基体となる水和硬化体表面にCaCO3が析出するものであると考えられる。
したがって、上記機構による炭酸化を生じさせるには、基体となる水和硬化体表面に水(表面付着水)が存在することが必要となる。
基体となるCa含有水和硬化体に水を付着させ又は水を含浸させる方法は任意であり、例えば、基体となる水和硬化体を水中に浸漬する方法、基体となる水和硬化体に散水する方法、などの方法を採ることができる。
【0047】
また、炭酸化処理の具体的方法は任意であるが、例えば、上記のように水を付着させ又は水を含浸させた基体となるCa含有水和硬化体を密閉容器(気密性を保つことができる容器)内に置き、この密閉容器内に炭酸ガス又は炭酸ガス含有ガス(以下、便宜上これらを総称して「炭酸ガス」という。)を供給することで炭酸化処理を行う。
【0048】
上述した(1)鉄鋼製造プロセスで発生したスラグ(以下、「鉄鋼スラグ」という。)を主原料としたもの、(2)鉄鋼スラグを主原料とする炭酸固化体、(3)鉄鋼スラグを主原料とする水和硬化体、(4)少なくとも外表面に炭酸カルシウム被覆層を有するCa含有水和硬化体は、純水での浸漬試験においてのpH値が6〜10を示す。このため、ボックス構造体1を上記の材料で形成して護岸に設置すれば、ボックス構造体の周囲の海水が弱アルカリとなり、生物親和性を増すことができる。
なお、純水での浸漬試験は、試験材料:純水=1:10(体積比)として、試験材料を純水に浸漬し、pHの経時変化を測定する。(上記材料は、このときのpHの最低値または最大値が6〜10となる。)
なお、pH値の最低値または最大値は、通常試験開始1週間後程度において現れる。
【0049】
<高炉水砕スラグ層>
次に、ボックス構造体1の下方に設置した高炉水砕スラグ層7について説明する。
高炉水砕スラグ層7を形成する高炉水砕スラグは鉄鋼スラグの一種である高炉水砕スラグを水砕化処理して固化させた粉粒状のスラグであり、その粒径は海砂よりも大きく(通常、D50が、1.0〜2.0mm程度の粒径)、また真比重も海砂に較べてやや大きい。さらに、高炉水砕スラグは、その製造上の理由から多孔質組織のガラス質であり、且つスラグ粒子が角張った形状(表面に多数の尖った部分を有する形状)を有している。
【0050】
高炉水砕スラグとしては、生成ままのもの、地鉄(鉄分)除去したもの、軽破砕などの破砕処理したもの、地鉄除去の前又は後に軽破砕などの破砕処理したもの、炭酸化処理により表面に炭酸皮膜を形成したもの、などのいずれを用いてもよい。高炉水砕スラグは鉄鋼製造プロセスで大量に発生するものであるため、安価に且つ大量に入手することができる材料である。
高炉水砕スラグ層2の厚さは特に制限はないが、通常10cm以上、より望ましくは30cm以上が好ましい。
【0051】
なお、高炉水砕スラグ層2は、高炉水砕スラグに代えて製鋼スラグ、または、これらスラグの細粒と天然砂などとの混合物を用いて砂粒状のスラグを含む砂粒体からなる砂粒層としてもよい。砂粒状のスラグとしては、砂粒状の高炉水砕スラグ、溶銑予備処理スラグ、転炉スラグ、電気炉スラグ、あるいはこれらスラグの水和硬化体を砂粒状に粉砕したもの、炭酸固化体を砂粒状に粉砕したもの、あるいはこれらの砂粒状スラグを天然の砂、浚渫土と混合したもの、があげられる。
粒度の範囲としては0.01mmから80mmの間にあることが好ましい。
【0052】
<作用>
図1に示すように構成された護岸構造物5のボックス構造体1は、上記のように生物親和性の高い材料で形成されおり、特にボックス構造体1を鉄鋼スラグを主原料として形成した場合には、このボックス構造体1から珪酸や鉄分などの栄養塩が海中に溶出する。このため水深の浅い領域では珪藻類などの植物プランクトンが増殖し、その結果、植物プランクトンを捕食する動物プランクトンの増殖→動物プランクトンを捕食する小魚などの小型魚介類の増大→小型魚介類を捕食する大型魚類の増大、という食物連鎖による生態系がボックス構造体内に出来上がる。
また、ボックス構造体1の開口部9からは適度な光が入り込み、ボックス構造体内面が海藻養生基盤となって海藻類が養生・繁茂し、この海藻類が魚介類の餌場や産卵場所となり、水生生物のさらなる増殖をもたらす。
【0053】
また、ボックス構造体1は、満潮時には、前面壁11の上端が満潮時の海面高さ(HWL)よりも下方に位置し、開口部9から海水がボックス構造体内に流入する。また、干潮時には、前面壁11の上端よりも海面レベルが下になり、生物棲息場が海洋側と遮断され、ボックス構造体1内の水生生物が拡散するのを防止できる。
このように、ボックス構造体1を、前面壁11の上端が満潮時の海面高さ(HWL)よりも下方に位置し、干潮時の水面高さ(LWL)よりも上方に位置するように配置することにより、潮の干満によってボックス構造体1内の海水が入れ替えられ、水生生物にとって好適な環境となる。
また、上記で説明したように、天然の沿岸岩礁部と同等又はそれ以上の生態系が構築されたボックス内を、干潮時には海洋側と前面壁11によって海側と遮断することで水生生物が海洋側に拡散するのを防止でき、構築された生態系が維持され海域環境浄化が長期的に実現される。
【0054】
また、ボックス構造体1の下方に形成された高炉水砕スラグ層7がゴカイ等のベントスに好適に生息場所を提供する。すなわち、上述したように高炉水砕スラグは多孔質組織のガラス質であり、且つスラグ粒子が角張った形状を有しているため、高炉水砕スラグ層7はスラグ間隙が大きく、通水性に優れている。このためスラグ間隙の水が入れ替わり易く、この間隙での溶存酸素濃度が十分に確保される。
また、ガラス質のスラグ粒子から微量のCa分が長時間にわたってゆっくりと溶出することで間隙水中のpHが8.5程度に維持され、これにより硫酸還元菌による硫化水素の発生が長時間にわたり効果的に抑制される。以上の点から、高炉水砕スラグ層7はゴカイ等のベントスにとって好適な生息場所となる。したがって、海中構造物で生育・生息する水生生物の排泄物、死骸、老廃物などが水底に沈設しても、高炉水砕スラグ層7に生息するベントスがこれを捕食・分解し、水底に有機物が堆積することが適切に抑えられる。また、高炉水砕スラグは多孔質であるため、有機物を分解する微生物が付着しやすく、このため高炉水砕スラグ層7は微生物による有機物の分解能にも優れている。
【0055】
なお、ボックス構造体1内には、天然の砕石、塊状の鉄鋼スラグなどを適宜隙間を設けて配置してもよい。これらを配置することで、水生生物にとってより好適な棲息場となる。
また、ボックス構造体1を水和硬化体で形成して、内面に炭酸固化体のパネル部材を貼り付けるようにしてもよい。強度面では水和硬化体が炭酸固化体より優れ、逆に炭酸固化体の方が生物親和性に優れることから、それぞれの優れた点を活かすことができる。
また、ボックス構造体1の底を、例えば、図2の矢視A−A断面に相当する図4に示すように海側に向かって下に傾斜する傾斜面にしたり、また、図5に示すように、海側に向かって下りとなる階段を形成したり、さらに、図6に示すように、海側に向かって下りとなる階段を形成すると共に各段に傾斜を形成するようにしてもよい。このようにすることで、満潮時には冠水し、干潮時には干出する潮間帯を形成でき、多様な水生生物の棲息場とすることができる。
【0056】
また、ボックス構造体1の底面は、図2の矢視B−B断面である図7に示すように幅方向に平坦面でもよいが、図8に示すように、幅方向に傾斜させたり(傾斜の方向は問わない。)、図9(a)に示すように、中央部が凸になる山形になるようにしてもよいし、図9(b)に示すように、中央部が凹となる谷形にしてもよい。また、あるいは、ボックス構造体1の奥側から前方に向かって傾斜すると共に幅方向にも傾斜するようにしてもよい。このように、ボックス構造体1の底面を幅方向に傾斜させることで、奥行きが比較的短く、幅が広い形状のボックス構造体1内に比較的なだらかな傾斜部を形成でき、これが海辺の浅瀬のような酸素に富む潮間帯となり、水生生物のより好適な棲息場となる。
【0057】
また、ボックス構造体1の前面形状に関し、図10に示すように、開口部15を図1の開口部9よりも小さくして、前面壁11における開口部15の近傍に複数の通水穴17を設けてもよい。このようにすることで、ボックス構造体1への海水の出入りと採光量を微妙に調整することができる。
また、前面壁11の上辺に関し、図2では水平のものを示したが、ボックス構造体1の幅方向に斜めに形成してもよい。斜めにすることで、太陽の位置との関係でボックス構造体1内への光の入り具合を微妙に調整することができる。
また、図11に示すように、前面壁11に複数の通水穴17のみを設け、採光用の開口部としてボックス構造体1の上面にグレーチング19を設けるようにしてもよい。
このように、ボックス構造体1の前面、上面に形成する開口部を適宜調整することにより、通水と採光とを水生生物にとって最も好適になるように調整できる。
なお、上記の実施の形態1に示したボックス構造体1は側壁、天井および前壁を有するものであるが、これら側壁、天井、前壁のうち、天井がないもの、前壁がない断面が略L字形状のようなもの、あるいは一部側壁がないもの、であってもよい。
【0058】
[実施の形態2]
図12は本発明の実施の形態2に係る護岸構造物21の説明図である。本実施の形態に係る護岸構造物21は、図12に示すように、球体又は多面体形状に形成した塊状体23を複数連結してパネル状に形成したパネル状連結体24を護岸に設置したものである。
パネル状連結体24は、例えば図14に示すように、塊状体23の中央部に貫通穴25を設け、この貫通穴25にワイヤ、ロープなどの緊締手段27を通すことによって複数の塊状体23を連結して形成されている。
そして、パネル状連結体24は、護岸に設置された断面略L字形の棚部材29に設置されている。棚部材29は、海側の面に前面壁31を有し、前面壁31に対向する後面壁33を護岸の直立面に接して取り付けられている。パネル状連結体24は、棚部材29の後面壁33と、底面35に、それぞれ二段にして設置されている。
【0059】
棚部材29は、図12に示すように、前面壁31の上端が満潮時の海面高さ(HWL)よりも下方に位置し、干潮時の水面高さ(LWL)よりも上方に位置するように配置されている。また、棚部材29は、棚部材29を海側から見た状態を示す図13に示されるように、護岸に沿って連続しており、また、棚部材29には、パネル状連結体24を保持するための押さえ板37が所定間隔で設けられている。
【0060】
塊状体23の材料としては、実施の形態1と同様に、(1)鉄鋼スラグを主原料としたもの、(2)鉄鋼スラグを主原料とする炭酸固化体、(3)鉄鋼スラグを主原料とする水和硬化体、(4)少なくとも外表面に炭酸カルシウム被覆層を有するCa含有水和硬化体が挙げられる。
【0061】
本実施の形態の護岸構造物21によれば、パネル状連結体24が、ほぼ球形又は多面体形状に形成した塊状体23を複数連結してパネル状に形成されているので、隣接するもの同士の間には隙間が形成され、この隙間が水生生物の棲息場として好適な場所となる。
また、パネル状連結体24を形成する材料が生物親和性を有することによる実施の形態1と同様の効果を奏することは言うまでもない。
さらに、本実施の形態においては、棚部材29の底面35に2段に設置したパネル状連結体24が潮間帯を形成し、多様な水生生物の棲息場として機能する。
なお、本実施の形態においては、塊状体23の形状について球体又は多面体形状を例に挙げたが、本発明はこれに限られるものではなく、その形状は特に問わない。もっとも、塊状体を連結したときに、隣接するもの同士の間に水生生物の棲息場となる適度な隙間を形成できるような形状が好ましい。
なお、パネル状連結体24の配置に関し、満潮時において少なくともその一部が海面下に位置すればよく、その全体が海面下に位置してもよい。また、干潮時においてはパネル状連結体24の一部が海面よりも上方に位置し、他の部分が海面よりも下方に位置するようになることが好ましい。
【0062】
[実施の形態3]
図15は本発明の実施の形態3に係る護岸構造物39の説明図である。本実施の形態に係る護岸構造物39は、図15に示すように、直立護岸41の前面側に複数のブロック体43からなる壁体45を設け、該壁体45と直立護岸41との隙間に水生生物の棲息場となる裏込め材47を詰め込んだものである。
該壁体45を構成する複数のブロック体43は、図15および壁体45を海側から見た状態を示す図16に示されるように、上下左右に所定の隙間を設けた状態で、押さえ金物49に保持されている。
【0063】
ブロック体43を形成する材料としては、実施の形態1と同様に、(1)鉄鋼製造プロセスで発生したスラグ(以下、「鉄鋼スラグ」という。)を主原料としたもの、(2)鉄鋼スラグを主原料とする炭酸固化体、(3)鉄鋼スラグを主原料とする水和硬化体、(4)少なくとも外表面に炭酸カルシウム被覆層を有するCa含有水和硬化体が挙げられる。
裏込め材47としては、小石、砂利、砕石、塊状の鉄鋼スラグなど、またスラグの水和固化体、炭酸固化体の粉砕物など種々の材料を単独または同時に用いることができる。これによって、多様な水生生物の棲息場を形成できる。
【0064】
本実施の形態の護岸構造物39によれば、複数のブロック体43間の隙間が裏込め材側まで貫通しており、これがカニ、魚などの水生生物の出入りの穴として機能し、裏込め材に多彩な水生生物の棲息場が形成される。
また、ブロック体43を形成する材料が生物親和性を有することによる実施の形態1、2と同様の効果を奏することは言うまでもない。
【0065】
なお、上記の実施の形態では、複数のブロック体43を、隙間を設けて設置することで裏込め材側に貫通する貫通穴を有する壁体45を形成する例を示した。
しかし、ブロック体43と同じ材料の板体に裏込め材側に貫通する貫通穴を所定の間隔で形成して壁体45を形成してもよい。
【0066】
[実施の形態4]
図17、図18は本発明の実施の形態4に係る護岸構造物51の説明図であり、図17が側断面図、図18が海側から見た図である。本実施の形態に係る護岸構造物51は、図17、図18に示すように、ケーソン護岸53の海側の面に複数のブロック体55を階段状に設置したものである。
より具体的には、ケーソン53の基礎となる捨石(マウント)57上に根固め用の石材59を設置し、その上に複数のブロック体55を設置したものである。複数のブロック体は石材59上に下方から上方に千鳥配置すると共に山形になるように配置されている。このため、ブロック体55による階段部61が形成されると共に、ブロック体55で囲まれた隙間62が形成されている。
【0067】
ブロック体55の材料としては、実施の形態1と同様に、(1)鉄鋼製造プロセスで発生したスラグ(以下、「鉄鋼スラグ」という。)を主原料としたもの、(2)鉄鋼スラグを主原料とする炭酸固化体、(3)鉄鋼スラグを主原料とする水和硬化体、(4)少なくとも外表面に炭酸カルシウム被覆層を有するCa含有水和硬化体が挙げられる。
【0068】
本実施の形態の護岸構造物51によれば、複数のブロック体55を下方から上方に千鳥配置すると共に山形になるように配置したので、ブロック体55によって階段部61が形成され、この階段部61が潮間帯を形成し、多様な水生生物の棲息場となる。また、ブロック体55に囲まれた隙間62にも、魚などの隠れ場所となり、水生生物にとって好適な棲息場となる。
また、ブロック体43を形成する材料が生物親和性を有することによる実施の形態1、2と同様の効果を奏することは言うまでもない。
【0069】
なお、上記の実施の形態4においては、ブロック体55をケーソン護岸の海側面に階段状に設置したが、ブロック体55に代えて同様の材料の板材をケーソン護岸に張り付けても、その材料の有する生物親和性により、一定の効果が期待できる。
さらに、直立式のケーソン護岸自体を、実施の形態1に示した、(1)鉄鋼製造プロセスで発生したスラグ(以下、「鉄鋼スラグ」という。)を主原料としたもの、(2)鉄鋼スラグを主原料とする炭酸固化体、(3)鉄鋼スラグを主原料とする水和硬化体、(4)少なくとも外表面に炭酸カルシウム被覆層を有するCa含有水和硬化体により形成することも有効である。
この場合、ケーソン護岸における海側の面に、凹凸部、ケーソン護岸幅方向に傾斜する傾斜凹凸などの水生生物の隠れ場所となるような形状を設けることが好ましい。
また、ケーソン護岸における海側の面における海底近傍に海側に突出する棚部を設けるようにするのも好ましい。棚部はケーソン護岸に付着した生物、例えば貝などが死滅して落下したときにこれを受け止めて、死骸が海底に堆積するのを防止する機能を有する。
棚部を形成する材料は問わず、例えばコンクリート、鋼材、あるいは水和硬化体であってもよい。
なお、棚部に、実施の形態1で述べた砂粒状のスラグを含む砂粒体からなる砂粒層を形成してもよい。
【実施例1】
【0070】
実施の形態1に示したボックス構造体および水砕スラグの効果を実証するために以下表1に示すボックス構造体をコンクリート護岸に設置して3ヶ月後にCOD(Chemical Oxygen Demand)の測定を行った。
【0071】
【表1】
【0072】
表1に示したボックス構造体を干満差が3メートルある場所のコンクリート護岸(縦8m)に、横に4列並べた。ボックス構造体の設置高さは、ボックス構造体の天端面を満潮時の水面の70cm上とした。
また、ボックス列の下には水砕スラグを30cmの厚みで幅80m、奥行き5mで敷いた。
比較対照を縦8m×幅48mの通常のコンクリート護岸とした。
3ヶ月後(夏季)の、発明例と比較対照例の護岸近傍表層水の水質(COD)を計測したところ以下の表2に示す通りであった。
【0073】
【表2】
【0074】
表2に示すように、発明例では比較対照例に比べてCODが半分以下に減っており、水質が改善されていることが実証された。
【実施例2】
【0075】
本発明の実施の形態4の効果を検証するため、実施形態で示した材料を用いてこれらの材料の生物親和性の確認実験を以下の通り行った。
本発明例として、奥行80cm×高さ5mの垂直護岸を水和固化体で作成し、表面に炭酸固化体のパネル(30cm×30cm×10cm)を2列で15個貼り付ける。また、その垂直護岸の下に高炉水砕スラグを30cmの厚みで周囲5m×5mで敷く。
他方、比較例として、幅80cm×高さ5mの垂直護岸をコンクリートで作成した。
これら、発明例と比較例を海中に設置して、1年後の状況を観察したものを表3に示す。
【0076】
【表3】
【0077】
表3に示されるように、発明例は比較例に比べて海藻付着数及び蝟集魚数が顕著に多く、生物親和性が非常に優れていることがわかる。
また、比較例ではヘドロの堆積があるのに、発明例ではヘドロの堆積がなく、高炉水砕スラグの微生物等による有機分解能に優れる点も実証された。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の実施の形態1に係る護岸構造物の説明図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係るボックス構造体の説明図である。
【図3】図2の矢視A−A断面図である。
【図4】ボックス構造体の他の態様の説明図である(その1)。
【図5】ボックス構造体の他の態様の説明図である(その2)。
【図6】ボックス構造体の他の態様の説明図である(その3)。
【図7】図2の矢視B−B断面図である。
【図8】ボックス構造体の他の態様の説明図である(その4)。
【図9】ボックス構造体の他の態様の説明図である(その5)。
【図10】ボックス構造体の他の態様の説明図である(その6)。
【図11】ボックス構造体の他の態様の説明図である(その7)。
【図12】本発明の実施の形態2に係る護岸構造物の説明図である。
【図13】本発明の実施の形態2に係る護岸構造物の説明図である。
【図14】本発明の実施の形態2に係るパネル状連結体の説明図である。
【図15】本発明の実施の形態3に係る護岸構造物の説明図である。
【図16】本発明の実施の形態3に係る護岸構造物の説明図である。
【図17】本発明の実施の形態4に係る護岸構造物の説明図である。
【図18】本発明の実施の形態4に係る護岸構造物の説明図である。
【符号の説明】
【0079】
1 ボックス構造体
3 直立式護岸
5 護岸構造物
7 高炉水砕スラグ層
9 開口部
11 前面壁
24 パネル状連結体
43、55 ブロック体
47 裏込め材
【技術分野】
【0001】
本発明は、埋立て地等の護岸や岸壁あるいは防波堤(これら、護岸、岸壁及び防波堤を総称して本明細書では単に「護岸」という。)に設置されて、潮間帯に着生する海藻や、魚、カニ、エビ等の水生生物の生育・生息に好適な場を提供し、海域環境の好適化あるいは修復ができる構造体、護岸構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
自然の磯場のように良好な環境の海では藻類、稚子魚、甲殻類、貝等の多様な生物が生息している。このような多様な生物がプランクトンを摂餌し、これが死滅すると、細菌に分解され、海底に堆積する。海底に堆積したものは底生生物によって摂餌され、底生生物も大型の動物に摂餌されて系外に運び出される。
このように多様性が維持された環境では、物質の循環が滞りなく行われており、水質も良好な状態にある。海域環境浄化とは、多様な生物による滞りのない物質循環という観点を基本にして行われる。
【0003】
しかしながら、従来の護岸は魚介類の隠れ場所や貝や藻類の付着し易い凹凸が全く存在していない垂直壁状のものであった。そのため、光がとどき、光合成の起きる水深には着生基盤である海底がなく、植物連鎖にとって必要な海藻や、水生生物が生息できる環境ではなく、上記の海域環境浄化ができず、海洋汚染が進んでいた。
このため、近年においては、コンクリート等で形成した凹凸形状を有するパネルを護岸の垂直壁に貼設して魚介類等の棲息場所を設けた護岸が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−207429号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示された護岸は動植物の棲息場所に適するような形状を工夫することに終始されており、その材料については何ら考慮されておらず、その実施の形態においてコンクリートを用いたものが示されるのみであった。
しかしながら、コンクリートを水中に設置するとコンクリートから溶出するCa(OH)2が周囲の水のpHを上昇させ、アルカリ性を高め、却って水中生物(動植物、微生物)の棲息・生育環境に悪影響を与えるという問題がある。
また、コンクリートはその表面が平滑であるため、植物などの定着力が弱く、仮に生物(植物、動物)が付着したとしても、生物が一度に脱落してしまう可能性がある。このように生物が一度に海底に落ちると、貧酸素水塊に満たされた海底でヘドロ化してしまうという問題もある。
このように、特許文献1のものでは却って水中生物の棲息・生育環境に悪影響を与える可能性もあり、衰退した沿岸海域での生態系を回復させる十分な成果を挙げることは期待できない。
【0005】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、生物親和性が高く水生生物の生育・生息に好適で、天然の沿岸岩礁部と同等又はそれ以上の生態系を定着させることができ、底質や水質の環境も保全することができる構造体、護岸構造物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明に係る構造体は、護岸構造物に設置されて水生生物の棲息場となる構造体であって、構造体は、塊状体を複数連結してパネル状にしてなるパネル状連結体であり、前記塊状体が鉄鋼スラグを主原料とする炭酸固化体、又は鉄鋼スラグを主原料とする水和硬化体、又は少なくとも外表面に炭酸カルシウム被覆層を有するCa含有水和硬化体によって形成されていることを特徴とするものである。
【0007】
(2)本発明に係る護岸構造物は、上記(1)に記載の構造体が設置された護岸構造物であって、パネル状連結体の少なくとも一部が満潮時の水面位置よりも下方に位置し、干潮時の水面位置よりも上方に位置するように配置されていることを特徴とするものである。
【0008】
(3)また、上記(2)に記載のものにおいて、構造体が前面壁を有する断面L字形の棚部材の後面壁と底面に設置されており、該棚部材の前面壁の上端が満潮時の水面位置よりも下方に位置し、干潮時の水面位置よりも上方に位置するように設定されていることを特徴とするものである。
【0009】
(4)また、上記(2)又は(3)に記載のものにおいて、護岸構造物の近傍の水底に砂粒状のスラグを含む砂粒体からなる砂粒層を設けたことを特徴とするものである。
【0010】
(5)また、上記(2)〜(4)のいずれかに記載のものにおいて、護岸構造物における水底近傍に前方に突出する棚部を設けたことを特徴とするものである。
【0011】
(6)また、上記(5)に記載のものにおいて、棚部に砂粒状のスラグを含む砂粒体からなる砂粒層を設けたことを特徴とするものである。
【0012】
(7)本発明に係る構造体は、護岸に設置されて水生生物の棲息場となる構造体であって、該構造体が鉄鋼製造プロセスで発生したスラグを主原料として形成されていることを特徴とするものである。
【0013】
(8)また、上記(7)の構造体は、炭酸固化体又は水和硬化体のいずれかであることを特徴とするものである。
【0014】
(9)また、護岸に設置されて水生生物の棲息場となる構造体であって、該構造体が少なくとも外表面に炭酸カルシウム被覆層を有するCa含有水和硬化体によって形成されていることを特徴とするものである。
【0015】
(10)また、上記(7)〜(9)の構造体は、水の出入り口となる開口部と、採光用の開口部とを有する箱型のボックス構造体であることを特徴とするものである。
【0016】
(11)また、上記(7)〜(9)の構造体は、護岸壁面の前方に設置される複数の貫通孔を有する壁型構造体であることを特徴とするものである。
【0017】
(12)また、上記(7)〜(9)の構造体は、複数のブロック体をそれぞれ隙間を設けて配置してなる壁型構造体であることを特徴とするものである。
【0018】
(13)また、上記(7)〜(9)の構造体は、塊状体を複数連結してパネル状にしてなるパネル状連結体であることを特徴とするものである。
【0019】
(14)本発明に係る護岸構造物は、上記(10)に記載のボックス構造体が設置された護岸構造物であって、ボックス構造体における水の出入り口となる開口部の少なくとも一部が、満潮時の水面位置よりも下方に位置し、干潮時の水面位置よりも上方に位置するように配置されていることを特徴とするものである。
【0020】
(15)また、上記(11)または(12)に記載の壁型構造体が護岸壁面の前方に設置されてなることを特徴とするものである。
【0021】
(16)また、上記(15)に記載のものにおいて、壁型構造体と護岸壁面との間に水生生物の棲息場となる裏込め材を設置したことを特徴とするものである。
(17)また、上記(13)に記載のパネル状連結体が設置された護岸構造物であって、パネル状連結体の少なくとも一部が満潮時の水面位置よりも下方に位置し、干潮時の水面位置よりも上方に位置するように配置されていることを特徴とするものである。
【0022】
(18)また、護岸壁の前面に鉄鋼製造プロセスで発生したスラグを主原料として形成された板体または塊状体を設置してなることを特徴とするものである。
【0023】
(19)また、上記(18)に記載の板体または塊状体を階段状に設置してなることを特徴とするものである。
【0024】
(20)また、上記(18)に記載の板体または塊状体をそれぞれ隙間を設けて設置してなることを特徴とするものである。
【0025】
(21)また、上記(18)〜(20)に記載の板体または塊状体は、炭酸固化体又は水和硬化体のいずれかであることを特徴とするものである。
【0026】
(22)また、上記(18)〜(20)に記載の板体または塊状体は、少なくとも外表面に炭酸カルシウム被覆層を有するCa含有水和硬化体からなることを特徴とするものである。
【0027】
(23)また、本発明に係る直立式の護岸構造物は、鉄鋼製造プロセスで発生したスラグを主原料とする炭酸固化体又は水和硬化体で形成したことを特徴とするものである。
【0028】
(24)また、上記(23)に記載の護岸構造物の前面壁に凹凸部を形成したことを特徴とするものである。
【0029】
(25)また、上記(14)〜(24)に記載の護岸構造物近傍の水底に砂粒状のスラグを含む砂粒体からなる砂粒層を設けたことを特徴とするものである。
【0030】
(26)また、上記(14)〜(25)に記載の護岸構造物における水底近傍に前方に突出する棚部を設けたことを特徴とするものである。
【0031】
(27)また、上記(26)の棚部に砂粒状のスラグを含む砂粒体からなる砂粒層を設けたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0032】
本発明の構造体、護岸構造物においては、これらを形成する材料が生物親和性に優れるため、これらが配置された水深などに応じて海藻着生基盤、漁礁、栄養塩供給(溶出)源等として有効に機能し、これらの機能によって、珪藻類や海藻類の増殖、動物プランクトンの増殖、魚介類の餌場・隠れ家・産卵場として好適な環境の出現、魚介類の増殖、といった一連の事象が直接的又は連鎖的に実現され、その結果、天然の沿岸岩礁部と同等又はそれ以上の生態系を構築することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
[実施の形態1]
図1は本実施の形態に係る護岸構造物の説明図であり、ボックス構造体1を海洋に設置された直立式護岸3の壁体に設置して護岸構造物5を構成している。本実施の形態においては、ボックス構造体1を設置した下方に高炉水砕スラグからなる高炉水砕スラグ層7を設置している。
以下、ボックス構造体1及び高炉水砕スラグ層7について詳細に説明する。
なお、図1(a)、(b)、(c)は、ボックス構造体1の配置について異なる3つの態様を示したものであり、その意義については後述する。
【0034】
<ボックス構造体>
ボックス構造体1は、図2及び図2の矢視A−A断面である図3に示すように、前面に海水の出入り口となる開口部9を有する箱型の構造体である。この例では、開口部9はボックス構造体前面幅に等しい矩形状をしており、ボックス構造体前面の上部約2/3の面積を占め、開口部9の下方には前面壁11が形成されている。なお、この例では、開口部9が採光用の開口部を兼ねている。
ボックス構造体1の大きさは特に限定されないが、例えば奥行き80cm×幅5m×高さ3mにする。
なお、ボックス構造体1は後述する鉄鋼スラグ等を主原料として、これを水和硬化させたり炭酸固化させたりして製造するが、その際に、鉄筋、安全鉄筋、養生鉄筋などを入れてもよい。
【0035】
ボックス構造体1は、図1に示すように、前面壁11の上端が満潮時の海面高さ(HWL)よりも下方に位置し(図1(a)及び図1(c)のようにボックス構造体全体が水没してもよい。)、干潮時の水面高さ(LWL)よりも上方に位置するように配置されている。なお、通常、のボックス構造体1は単独で用いるのではなく、複数のボックス構造体1を図1の紙面直交方向に同じ高さで並べて設置する。
また、ボックス構造体1を水生生物にとって好適な棲息場とするには、ボックス構造体1内に適度な光が入ることが必要であり、そのためには、図1(b)に示すように、直立式護岸3のひさし状の出っ張りの下方に少し隙間を設けて設置したり、図1(c)に示すように、直立式護岸3の海側の壁から海側に離したりすることで、ひさし状の出っ張りの日陰にならないようにするのが好ましい。
【0036】
ボックス構造体1の取り付け方法としては、図1に示すように、例えばアングル材13によって上記の所定の高さに設置すればよい。もっとも、ボックス構造体1の設置方法は、他の方法、例えば、ボックス構造体1の下方にコンクリートブロックなどを積み上げて架台を設け、その上に設置するようにしてもよいし、あるいは直立式護岸3に吊り下げるようにしてもよい。
【0037】
ボックス構造体1を形成する材料としては、(1)鉄鋼製造プロセスで発生したスラグ(以下、「鉄鋼スラグ」という。)を主原料としたもの、(2)鉄鋼スラグを主原料とする炭酸固化体、(3)鉄鋼スラグを主原料とする水和硬化体、(4)少なくとも外表面に炭酸カルシウム被覆層を有するCa含有水和硬化体が挙げられる。これらの部材は海藻着生基盤、魚礁、栄養塩供給(溶出)源などとして機能する。
以下、それぞれの材料について説明する。
【0038】
(1)鉄鋼スラグ
鉄鋼製造プロセスで発生したスラグ(以下、「鉄鋼スラグ」という。)は適量の鉄分及び珪酸を含んでおり、したがって、鉄鋼スラグやこれを炭酸化反応で固結させて得られた炭酸固化体からは、珪藻類や海藻類の生育に有効な珪酸や鉄分などの栄養塩が海中に溶出する。したがってまた、これらの部材(特に、鉄鋼スラグの炭酸固化体)は海藻着生基盤としても有効に機能する。
【0039】
鉄鋼スラグとしては、例えば、高炉で発生する高炉徐冷スラグ(但し、この高炉徐冷スラグは水中でSが溶出しないようにするため、十分にエージング処理したものが好ましい。)、高炉水砕スラグ、溶銑予備処理、転炉脱炭精錬、鋳造、電気炉精錬などの工程で発生する製鋼スラグ(脱燐スラグ・脱硫スラグ・脱珪スラグなどの溶銑予備処理スラグ、脱炭スラグ、鋳造スラグ、電気炉スラグなど)、鉱石還元スラグなどが挙げられ、これらの2種以上を用いてもよい。
【0040】
また、これらのスラグ中でも特に製鋼スラグが好ましく、そのなかでも特に脱炭スラグ(転炉スラグ)、脱燐スラグが好適である。鉄鋼スラグは、溶融スラグを冷却固化後、重機などまたはクラッシングプラントにより細かく破砕し、これを型枠に入れて適宜の方法によりボックス状に形成する。
なお、製鋼スラグをはじめとする各種のスラグは、水和処理、炭酸化処理、エージング処理、水和硬化、炭酸化硬化などを経たものを用いてもよい。
【0041】
(2)炭酸固化体
鉄鋼スラグを主原料とする炭酸固化体としては、例えば特許第3175694号で提案されている、鉄鋼スラグを主原料とする粉粒状原料を炭酸化反応で生成させたCaCO3(場合によっては、さらにMgCO3)を主たるバインダーとして固結させ、ボックス形状のボックス構造体を形成する。また、鉄鋼スラグとしては、高炉で発生する高炉水砕スラグや高炉徐冷スラグ、高炉水砕スラグ、予備処理、転炉、鋳造等の工程で発生する脱炭スラグ、脱燐スラグ、脱硫スラグ、脱珪スラグ、鋳造スラグ等の製鋼スラグ、鉱石還元スラグ、電気炉スラグ等を用いることができる。
【0042】
このような鉄鋼スラグを主原料とする炭酸固化体は、特に、スラグ中に含まれるCaO(又はCaOから生成したCa(OH)2)の大部分がCaCO3に変化するため、CaOによる海水のpH上昇を防止でき、また、全体(表面及び内部)がサブミリ以下の微細なポーラスな性状を有しているため表面に海藻類が付着し易く、しかも海藻類の生育促進に有効な成分(珪酸や鉄分など)が海水中に溶出しやすいことから、海藻着生基盤として特に有効に機能する。
【0043】
(3)水和硬化体、
鉄鋼スラグを主原料とする水和硬化体は、鉄鋼スラグを主原料(骨材及び/又は結合材)として含む原料を水和硬化させて得られるものであり、鉄鋼スラグとしては、先に挙げたような各種スラグ、すなわち高炉で発生する高炉水砕スラグ、脱燐スラグ、脱硫スラグ、脱珪スラグ、鋳造スラグ等の製鋼スラグ、鉱石還元スラグ、電気炉スラグ等を用いることができる。
水和硬化体によるボックス構造体は、原料を水と混練後、型枠に入れ、通常1〜4週間養生することによって製造される。
なお、水和硬化体に用いる結合材としては、上述した高炉水砕スラグの微粉末などの他にシリカ含有物質(例えば、粘土、フライアッシュ、ケイ砂、シリカゲル、シリカシューム)、セメント、消石灰、NaOHなどを適宜組み合わせて使用することもできる。
【0044】
(4)Ca含有水和硬化体
ここで用いるCa含有水和硬化体とは、基体となるCa含有水和硬化体の少なくとも外表面に炭酸カルシウム被覆層を形成したものである。
Ca含有水和硬化体は、その表面に炭酸カルシウム被覆層が形成されているので、これをボックス構造体の材料として用いた場合には、基体からのCa(OH)2の溶出とこれに伴う海水(特に基体表面の境界層の海水)のpH上昇が抑えられ、基体表面の海水層を遊走子や卵の着生や生育に好適な環境とすることができ、上記の炭酸固化体を用いた場合と同等の効果を期待できる。
【0045】
以下、Ca含有水和硬化体の構成を詳細に説明する。
ここにいうCa含有水和硬化体とは、前述のように、基体となるCa含有水和硬化体の少なくとも外表面に炭酸カルシウム被覆層を形成したものである。基体となるCa含有水和硬化体とは、Caを含有する結合材(セメントなど)、骨材(細骨材及び/又は粗骨材)、水、必要に応じて配合される混和材等を混練し、水和硬化させたもの、或は結合材程度から骨材程度までの広い粒径分布を有するCa含有材、水、必要に応じて配合される混和材等を混練し、水和硬化させたものである。最も一般的な基体となるCa含有水和硬化体はセメントコンクリートであるが、これに限定されるものではなく、例えば、FSコンクリート、エコセメントコンクリート、石炭灰水和硬化体(例えば、フライアッシュセメントコンクリート)や、鉄鋼製造プロセスで発生するスラグを主原料とする水和硬化体(例えば、溶銑予備処理スラグ、高炉スラグ微粉末、消石灰などを配合した水和硬化体)、など、任意のCa含有水和硬化体を対象とすることができる。
また、セメントコンクリートには、ポルトランドセメント、高炉セメントなど任意のセメントを用いたコンクリートが含まれる。
【0046】
基体となるCa含有水和硬化体の外表面に炭酸カルシウムの被覆層を形成させる方法は任意であるが、通常は基体となるCa含有水和硬化体を炭酸ガスと接触させる炭酸化処理で形成させる。
Ca含有水和硬化体の外表面の炭酸化処理を効率的に行うには、Ca含有水和硬化体の表面に水(表面付着水)が存在することが事実上不可欠であり、このため基体となるCa含有水和硬化体の少なくとも外表面に水を付着させ又は少なくとも表層に水を含浸させることが必要である。すなわち、炭酸化処理における基体となるCa含有水和硬化体表層に含まれる未炭酸化CaとCO2との反応機構は、水和硬化体表面に存在する水(表面付着水)にCO2が溶解するとともに、水和硬化体側からはCaイオンが溶出し、この水に溶解・溶出したCO2とCaイオンとが反応(炭酸化反応)することにより、基体となる水和硬化体表面にCaCO3が析出するものであると考えられる。
したがって、上記機構による炭酸化を生じさせるには、基体となる水和硬化体表面に水(表面付着水)が存在することが必要となる。
基体となるCa含有水和硬化体に水を付着させ又は水を含浸させる方法は任意であり、例えば、基体となる水和硬化体を水中に浸漬する方法、基体となる水和硬化体に散水する方法、などの方法を採ることができる。
【0047】
また、炭酸化処理の具体的方法は任意であるが、例えば、上記のように水を付着させ又は水を含浸させた基体となるCa含有水和硬化体を密閉容器(気密性を保つことができる容器)内に置き、この密閉容器内に炭酸ガス又は炭酸ガス含有ガス(以下、便宜上これらを総称して「炭酸ガス」という。)を供給することで炭酸化処理を行う。
【0048】
上述した(1)鉄鋼製造プロセスで発生したスラグ(以下、「鉄鋼スラグ」という。)を主原料としたもの、(2)鉄鋼スラグを主原料とする炭酸固化体、(3)鉄鋼スラグを主原料とする水和硬化体、(4)少なくとも外表面に炭酸カルシウム被覆層を有するCa含有水和硬化体は、純水での浸漬試験においてのpH値が6〜10を示す。このため、ボックス構造体1を上記の材料で形成して護岸に設置すれば、ボックス構造体の周囲の海水が弱アルカリとなり、生物親和性を増すことができる。
なお、純水での浸漬試験は、試験材料:純水=1:10(体積比)として、試験材料を純水に浸漬し、pHの経時変化を測定する。(上記材料は、このときのpHの最低値または最大値が6〜10となる。)
なお、pH値の最低値または最大値は、通常試験開始1週間後程度において現れる。
【0049】
<高炉水砕スラグ層>
次に、ボックス構造体1の下方に設置した高炉水砕スラグ層7について説明する。
高炉水砕スラグ層7を形成する高炉水砕スラグは鉄鋼スラグの一種である高炉水砕スラグを水砕化処理して固化させた粉粒状のスラグであり、その粒径は海砂よりも大きく(通常、D50が、1.0〜2.0mm程度の粒径)、また真比重も海砂に較べてやや大きい。さらに、高炉水砕スラグは、その製造上の理由から多孔質組織のガラス質であり、且つスラグ粒子が角張った形状(表面に多数の尖った部分を有する形状)を有している。
【0050】
高炉水砕スラグとしては、生成ままのもの、地鉄(鉄分)除去したもの、軽破砕などの破砕処理したもの、地鉄除去の前又は後に軽破砕などの破砕処理したもの、炭酸化処理により表面に炭酸皮膜を形成したもの、などのいずれを用いてもよい。高炉水砕スラグは鉄鋼製造プロセスで大量に発生するものであるため、安価に且つ大量に入手することができる材料である。
高炉水砕スラグ層2の厚さは特に制限はないが、通常10cm以上、より望ましくは30cm以上が好ましい。
【0051】
なお、高炉水砕スラグ層2は、高炉水砕スラグに代えて製鋼スラグ、または、これらスラグの細粒と天然砂などとの混合物を用いて砂粒状のスラグを含む砂粒体からなる砂粒層としてもよい。砂粒状のスラグとしては、砂粒状の高炉水砕スラグ、溶銑予備処理スラグ、転炉スラグ、電気炉スラグ、あるいはこれらスラグの水和硬化体を砂粒状に粉砕したもの、炭酸固化体を砂粒状に粉砕したもの、あるいはこれらの砂粒状スラグを天然の砂、浚渫土と混合したもの、があげられる。
粒度の範囲としては0.01mmから80mmの間にあることが好ましい。
【0052】
<作用>
図1に示すように構成された護岸構造物5のボックス構造体1は、上記のように生物親和性の高い材料で形成されおり、特にボックス構造体1を鉄鋼スラグを主原料として形成した場合には、このボックス構造体1から珪酸や鉄分などの栄養塩が海中に溶出する。このため水深の浅い領域では珪藻類などの植物プランクトンが増殖し、その結果、植物プランクトンを捕食する動物プランクトンの増殖→動物プランクトンを捕食する小魚などの小型魚介類の増大→小型魚介類を捕食する大型魚類の増大、という食物連鎖による生態系がボックス構造体内に出来上がる。
また、ボックス構造体1の開口部9からは適度な光が入り込み、ボックス構造体内面が海藻養生基盤となって海藻類が養生・繁茂し、この海藻類が魚介類の餌場や産卵場所となり、水生生物のさらなる増殖をもたらす。
【0053】
また、ボックス構造体1は、満潮時には、前面壁11の上端が満潮時の海面高さ(HWL)よりも下方に位置し、開口部9から海水がボックス構造体内に流入する。また、干潮時には、前面壁11の上端よりも海面レベルが下になり、生物棲息場が海洋側と遮断され、ボックス構造体1内の水生生物が拡散するのを防止できる。
このように、ボックス構造体1を、前面壁11の上端が満潮時の海面高さ(HWL)よりも下方に位置し、干潮時の水面高さ(LWL)よりも上方に位置するように配置することにより、潮の干満によってボックス構造体1内の海水が入れ替えられ、水生生物にとって好適な環境となる。
また、上記で説明したように、天然の沿岸岩礁部と同等又はそれ以上の生態系が構築されたボックス内を、干潮時には海洋側と前面壁11によって海側と遮断することで水生生物が海洋側に拡散するのを防止でき、構築された生態系が維持され海域環境浄化が長期的に実現される。
【0054】
また、ボックス構造体1の下方に形成された高炉水砕スラグ層7がゴカイ等のベントスに好適に生息場所を提供する。すなわち、上述したように高炉水砕スラグは多孔質組織のガラス質であり、且つスラグ粒子が角張った形状を有しているため、高炉水砕スラグ層7はスラグ間隙が大きく、通水性に優れている。このためスラグ間隙の水が入れ替わり易く、この間隙での溶存酸素濃度が十分に確保される。
また、ガラス質のスラグ粒子から微量のCa分が長時間にわたってゆっくりと溶出することで間隙水中のpHが8.5程度に維持され、これにより硫酸還元菌による硫化水素の発生が長時間にわたり効果的に抑制される。以上の点から、高炉水砕スラグ層7はゴカイ等のベントスにとって好適な生息場所となる。したがって、海中構造物で生育・生息する水生生物の排泄物、死骸、老廃物などが水底に沈設しても、高炉水砕スラグ層7に生息するベントスがこれを捕食・分解し、水底に有機物が堆積することが適切に抑えられる。また、高炉水砕スラグは多孔質であるため、有機物を分解する微生物が付着しやすく、このため高炉水砕スラグ層7は微生物による有機物の分解能にも優れている。
【0055】
なお、ボックス構造体1内には、天然の砕石、塊状の鉄鋼スラグなどを適宜隙間を設けて配置してもよい。これらを配置することで、水生生物にとってより好適な棲息場となる。
また、ボックス構造体1を水和硬化体で形成して、内面に炭酸固化体のパネル部材を貼り付けるようにしてもよい。強度面では水和硬化体が炭酸固化体より優れ、逆に炭酸固化体の方が生物親和性に優れることから、それぞれの優れた点を活かすことができる。
また、ボックス構造体1の底を、例えば、図2の矢視A−A断面に相当する図4に示すように海側に向かって下に傾斜する傾斜面にしたり、また、図5に示すように、海側に向かって下りとなる階段を形成したり、さらに、図6に示すように、海側に向かって下りとなる階段を形成すると共に各段に傾斜を形成するようにしてもよい。このようにすることで、満潮時には冠水し、干潮時には干出する潮間帯を形成でき、多様な水生生物の棲息場とすることができる。
【0056】
また、ボックス構造体1の底面は、図2の矢視B−B断面である図7に示すように幅方向に平坦面でもよいが、図8に示すように、幅方向に傾斜させたり(傾斜の方向は問わない。)、図9(a)に示すように、中央部が凸になる山形になるようにしてもよいし、図9(b)に示すように、中央部が凹となる谷形にしてもよい。また、あるいは、ボックス構造体1の奥側から前方に向かって傾斜すると共に幅方向にも傾斜するようにしてもよい。このように、ボックス構造体1の底面を幅方向に傾斜させることで、奥行きが比較的短く、幅が広い形状のボックス構造体1内に比較的なだらかな傾斜部を形成でき、これが海辺の浅瀬のような酸素に富む潮間帯となり、水生生物のより好適な棲息場となる。
【0057】
また、ボックス構造体1の前面形状に関し、図10に示すように、開口部15を図1の開口部9よりも小さくして、前面壁11における開口部15の近傍に複数の通水穴17を設けてもよい。このようにすることで、ボックス構造体1への海水の出入りと採光量を微妙に調整することができる。
また、前面壁11の上辺に関し、図2では水平のものを示したが、ボックス構造体1の幅方向に斜めに形成してもよい。斜めにすることで、太陽の位置との関係でボックス構造体1内への光の入り具合を微妙に調整することができる。
また、図11に示すように、前面壁11に複数の通水穴17のみを設け、採光用の開口部としてボックス構造体1の上面にグレーチング19を設けるようにしてもよい。
このように、ボックス構造体1の前面、上面に形成する開口部を適宜調整することにより、通水と採光とを水生生物にとって最も好適になるように調整できる。
なお、上記の実施の形態1に示したボックス構造体1は側壁、天井および前壁を有するものであるが、これら側壁、天井、前壁のうち、天井がないもの、前壁がない断面が略L字形状のようなもの、あるいは一部側壁がないもの、であってもよい。
【0058】
[実施の形態2]
図12は本発明の実施の形態2に係る護岸構造物21の説明図である。本実施の形態に係る護岸構造物21は、図12に示すように、球体又は多面体形状に形成した塊状体23を複数連結してパネル状に形成したパネル状連結体24を護岸に設置したものである。
パネル状連結体24は、例えば図14に示すように、塊状体23の中央部に貫通穴25を設け、この貫通穴25にワイヤ、ロープなどの緊締手段27を通すことによって複数の塊状体23を連結して形成されている。
そして、パネル状連結体24は、護岸に設置された断面略L字形の棚部材29に設置されている。棚部材29は、海側の面に前面壁31を有し、前面壁31に対向する後面壁33を護岸の直立面に接して取り付けられている。パネル状連結体24は、棚部材29の後面壁33と、底面35に、それぞれ二段にして設置されている。
【0059】
棚部材29は、図12に示すように、前面壁31の上端が満潮時の海面高さ(HWL)よりも下方に位置し、干潮時の水面高さ(LWL)よりも上方に位置するように配置されている。また、棚部材29は、棚部材29を海側から見た状態を示す図13に示されるように、護岸に沿って連続しており、また、棚部材29には、パネル状連結体24を保持するための押さえ板37が所定間隔で設けられている。
【0060】
塊状体23の材料としては、実施の形態1と同様に、(1)鉄鋼スラグを主原料としたもの、(2)鉄鋼スラグを主原料とする炭酸固化体、(3)鉄鋼スラグを主原料とする水和硬化体、(4)少なくとも外表面に炭酸カルシウム被覆層を有するCa含有水和硬化体が挙げられる。
【0061】
本実施の形態の護岸構造物21によれば、パネル状連結体24が、ほぼ球形又は多面体形状に形成した塊状体23を複数連結してパネル状に形成されているので、隣接するもの同士の間には隙間が形成され、この隙間が水生生物の棲息場として好適な場所となる。
また、パネル状連結体24を形成する材料が生物親和性を有することによる実施の形態1と同様の効果を奏することは言うまでもない。
さらに、本実施の形態においては、棚部材29の底面35に2段に設置したパネル状連結体24が潮間帯を形成し、多様な水生生物の棲息場として機能する。
なお、本実施の形態においては、塊状体23の形状について球体又は多面体形状を例に挙げたが、本発明はこれに限られるものではなく、その形状は特に問わない。もっとも、塊状体を連結したときに、隣接するもの同士の間に水生生物の棲息場となる適度な隙間を形成できるような形状が好ましい。
なお、パネル状連結体24の配置に関し、満潮時において少なくともその一部が海面下に位置すればよく、その全体が海面下に位置してもよい。また、干潮時においてはパネル状連結体24の一部が海面よりも上方に位置し、他の部分が海面よりも下方に位置するようになることが好ましい。
【0062】
[実施の形態3]
図15は本発明の実施の形態3に係る護岸構造物39の説明図である。本実施の形態に係る護岸構造物39は、図15に示すように、直立護岸41の前面側に複数のブロック体43からなる壁体45を設け、該壁体45と直立護岸41との隙間に水生生物の棲息場となる裏込め材47を詰め込んだものである。
該壁体45を構成する複数のブロック体43は、図15および壁体45を海側から見た状態を示す図16に示されるように、上下左右に所定の隙間を設けた状態で、押さえ金物49に保持されている。
【0063】
ブロック体43を形成する材料としては、実施の形態1と同様に、(1)鉄鋼製造プロセスで発生したスラグ(以下、「鉄鋼スラグ」という。)を主原料としたもの、(2)鉄鋼スラグを主原料とする炭酸固化体、(3)鉄鋼スラグを主原料とする水和硬化体、(4)少なくとも外表面に炭酸カルシウム被覆層を有するCa含有水和硬化体が挙げられる。
裏込め材47としては、小石、砂利、砕石、塊状の鉄鋼スラグなど、またスラグの水和固化体、炭酸固化体の粉砕物など種々の材料を単独または同時に用いることができる。これによって、多様な水生生物の棲息場を形成できる。
【0064】
本実施の形態の護岸構造物39によれば、複数のブロック体43間の隙間が裏込め材側まで貫通しており、これがカニ、魚などの水生生物の出入りの穴として機能し、裏込め材に多彩な水生生物の棲息場が形成される。
また、ブロック体43を形成する材料が生物親和性を有することによる実施の形態1、2と同様の効果を奏することは言うまでもない。
【0065】
なお、上記の実施の形態では、複数のブロック体43を、隙間を設けて設置することで裏込め材側に貫通する貫通穴を有する壁体45を形成する例を示した。
しかし、ブロック体43と同じ材料の板体に裏込め材側に貫通する貫通穴を所定の間隔で形成して壁体45を形成してもよい。
【0066】
[実施の形態4]
図17、図18は本発明の実施の形態4に係る護岸構造物51の説明図であり、図17が側断面図、図18が海側から見た図である。本実施の形態に係る護岸構造物51は、図17、図18に示すように、ケーソン護岸53の海側の面に複数のブロック体55を階段状に設置したものである。
より具体的には、ケーソン53の基礎となる捨石(マウント)57上に根固め用の石材59を設置し、その上に複数のブロック体55を設置したものである。複数のブロック体は石材59上に下方から上方に千鳥配置すると共に山形になるように配置されている。このため、ブロック体55による階段部61が形成されると共に、ブロック体55で囲まれた隙間62が形成されている。
【0067】
ブロック体55の材料としては、実施の形態1と同様に、(1)鉄鋼製造プロセスで発生したスラグ(以下、「鉄鋼スラグ」という。)を主原料としたもの、(2)鉄鋼スラグを主原料とする炭酸固化体、(3)鉄鋼スラグを主原料とする水和硬化体、(4)少なくとも外表面に炭酸カルシウム被覆層を有するCa含有水和硬化体が挙げられる。
【0068】
本実施の形態の護岸構造物51によれば、複数のブロック体55を下方から上方に千鳥配置すると共に山形になるように配置したので、ブロック体55によって階段部61が形成され、この階段部61が潮間帯を形成し、多様な水生生物の棲息場となる。また、ブロック体55に囲まれた隙間62にも、魚などの隠れ場所となり、水生生物にとって好適な棲息場となる。
また、ブロック体43を形成する材料が生物親和性を有することによる実施の形態1、2と同様の効果を奏することは言うまでもない。
【0069】
なお、上記の実施の形態4においては、ブロック体55をケーソン護岸の海側面に階段状に設置したが、ブロック体55に代えて同様の材料の板材をケーソン護岸に張り付けても、その材料の有する生物親和性により、一定の効果が期待できる。
さらに、直立式のケーソン護岸自体を、実施の形態1に示した、(1)鉄鋼製造プロセスで発生したスラグ(以下、「鉄鋼スラグ」という。)を主原料としたもの、(2)鉄鋼スラグを主原料とする炭酸固化体、(3)鉄鋼スラグを主原料とする水和硬化体、(4)少なくとも外表面に炭酸カルシウム被覆層を有するCa含有水和硬化体により形成することも有効である。
この場合、ケーソン護岸における海側の面に、凹凸部、ケーソン護岸幅方向に傾斜する傾斜凹凸などの水生生物の隠れ場所となるような形状を設けることが好ましい。
また、ケーソン護岸における海側の面における海底近傍に海側に突出する棚部を設けるようにするのも好ましい。棚部はケーソン護岸に付着した生物、例えば貝などが死滅して落下したときにこれを受け止めて、死骸が海底に堆積するのを防止する機能を有する。
棚部を形成する材料は問わず、例えばコンクリート、鋼材、あるいは水和硬化体であってもよい。
なお、棚部に、実施の形態1で述べた砂粒状のスラグを含む砂粒体からなる砂粒層を形成してもよい。
【実施例1】
【0070】
実施の形態1に示したボックス構造体および水砕スラグの効果を実証するために以下表1に示すボックス構造体をコンクリート護岸に設置して3ヶ月後にCOD(Chemical Oxygen Demand)の測定を行った。
【0071】
【表1】
【0072】
表1に示したボックス構造体を干満差が3メートルある場所のコンクリート護岸(縦8m)に、横に4列並べた。ボックス構造体の設置高さは、ボックス構造体の天端面を満潮時の水面の70cm上とした。
また、ボックス列の下には水砕スラグを30cmの厚みで幅80m、奥行き5mで敷いた。
比較対照を縦8m×幅48mの通常のコンクリート護岸とした。
3ヶ月後(夏季)の、発明例と比較対照例の護岸近傍表層水の水質(COD)を計測したところ以下の表2に示す通りであった。
【0073】
【表2】
【0074】
表2に示すように、発明例では比較対照例に比べてCODが半分以下に減っており、水質が改善されていることが実証された。
【実施例2】
【0075】
本発明の実施の形態4の効果を検証するため、実施形態で示した材料を用いてこれらの材料の生物親和性の確認実験を以下の通り行った。
本発明例として、奥行80cm×高さ5mの垂直護岸を水和固化体で作成し、表面に炭酸固化体のパネル(30cm×30cm×10cm)を2列で15個貼り付ける。また、その垂直護岸の下に高炉水砕スラグを30cmの厚みで周囲5m×5mで敷く。
他方、比較例として、幅80cm×高さ5mの垂直護岸をコンクリートで作成した。
これら、発明例と比較例を海中に設置して、1年後の状況を観察したものを表3に示す。
【0076】
【表3】
【0077】
表3に示されるように、発明例は比較例に比べて海藻付着数及び蝟集魚数が顕著に多く、生物親和性が非常に優れていることがわかる。
また、比較例ではヘドロの堆積があるのに、発明例ではヘドロの堆積がなく、高炉水砕スラグの微生物等による有機分解能に優れる点も実証された。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の実施の形態1に係る護岸構造物の説明図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係るボックス構造体の説明図である。
【図3】図2の矢視A−A断面図である。
【図4】ボックス構造体の他の態様の説明図である(その1)。
【図5】ボックス構造体の他の態様の説明図である(その2)。
【図6】ボックス構造体の他の態様の説明図である(その3)。
【図7】図2の矢視B−B断面図である。
【図8】ボックス構造体の他の態様の説明図である(その4)。
【図9】ボックス構造体の他の態様の説明図である(その5)。
【図10】ボックス構造体の他の態様の説明図である(その6)。
【図11】ボックス構造体の他の態様の説明図である(その7)。
【図12】本発明の実施の形態2に係る護岸構造物の説明図である。
【図13】本発明の実施の形態2に係る護岸構造物の説明図である。
【図14】本発明の実施の形態2に係るパネル状連結体の説明図である。
【図15】本発明の実施の形態3に係る護岸構造物の説明図である。
【図16】本発明の実施の形態3に係る護岸構造物の説明図である。
【図17】本発明の実施の形態4に係る護岸構造物の説明図である。
【図18】本発明の実施の形態4に係る護岸構造物の説明図である。
【符号の説明】
【0079】
1 ボックス構造体
3 直立式護岸
5 護岸構造物
7 高炉水砕スラグ層
9 開口部
11 前面壁
24 パネル状連結体
43、55 ブロック体
47 裏込め材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
護岸構造物に設置されて水生生物の棲息場となる構造体であって、構造体は、塊状体を複数連結してパネル状にしてなるパネル状連結体であり、前記塊状体が鉄鋼スラグを主原料とする炭酸固化体、又は鉄鋼スラグを主原料とする水和硬化体、又は少なくとも外表面に炭酸カルシウム被覆層を有するCa含有水和硬化体によって形成されていることを特徴とする構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の構造体が設置された護岸構造物であって、パネル状連結体の少なくとも一部が満潮時の水面位置よりも下方に位置し、干潮時の水面位置よりも上方に位置するように配置されていることを特徴とする護岸構造物。
【請求項3】
構造体が前面壁を有する断面L字形の棚部材の後面壁と底面に設置されており、該棚部材の前面壁の上端が満潮時の水面位置よりも下方に位置し、干潮時の水面位置よりも上方に位置するように設定されていることを特徴とする請求項2に記載の護岸構造物。
【請求項4】
護岸構造物の近傍の水底に砂粒状のスラグを含む砂粒体からなる砂粒層を設けたことを特徴とする請求項2又は3に記載の護岸構造物。
【請求項5】
護岸構造物における水底近傍に前方に突出する棚部を設けたことを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載の護岸構造物。
【請求項6】
棚部に砂粒状のスラグを含む砂粒体からなる砂粒層を設けたことを特徴とする請求項5に記載の護岸構造物。
【請求項1】
護岸構造物に設置されて水生生物の棲息場となる構造体であって、構造体は、塊状体を複数連結してパネル状にしてなるパネル状連結体であり、前記塊状体が鉄鋼スラグを主原料とする炭酸固化体、又は鉄鋼スラグを主原料とする水和硬化体、又は少なくとも外表面に炭酸カルシウム被覆層を有するCa含有水和硬化体によって形成されていることを特徴とする構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の構造体が設置された護岸構造物であって、パネル状連結体の少なくとも一部が満潮時の水面位置よりも下方に位置し、干潮時の水面位置よりも上方に位置するように配置されていることを特徴とする護岸構造物。
【請求項3】
構造体が前面壁を有する断面L字形の棚部材の後面壁と底面に設置されており、該棚部材の前面壁の上端が満潮時の水面位置よりも下方に位置し、干潮時の水面位置よりも上方に位置するように設定されていることを特徴とする請求項2に記載の護岸構造物。
【請求項4】
護岸構造物の近傍の水底に砂粒状のスラグを含む砂粒体からなる砂粒層を設けたことを特徴とする請求項2又は3に記載の護岸構造物。
【請求項5】
護岸構造物における水底近傍に前方に突出する棚部を設けたことを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載の護岸構造物。
【請求項6】
棚部に砂粒状のスラグを含む砂粒体からなる砂粒層を設けたことを特徴とする請求項5に記載の護岸構造物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2009−2155(P2009−2155A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−225247(P2008−225247)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【分割の表示】特願2004−66234(P2004−66234)の分割
【原出願日】平成16年3月9日(2004.3.9)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【分割の表示】特願2004−66234(P2004−66234)の分割
【原出願日】平成16年3月9日(2004.3.9)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
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