説明

貝殻から得られるカルシウム塩結晶化抑制蛋白とその利用

【課題】 優れたカルシウム塩結晶化抑制物質を得る。それを含有する飲料または食品、カルシウム吸収促進剤、結石症の治療および/または予防剤、骨粗鬆症の治療および/または予防剤、ならびに飼料を得る。
【解決手段】 貝殻、特にホタテ貝殻をキレート化剤含有水性媒体で抽出して得られる蛋白であって、カルシウム塩結晶化抑制能を有し、分子量が26000〜28000である蛋白、それを含有する飲料または食品、カルシウム吸収促進剤、結石症の治療および/または予防剤、骨粗鬆症の治療および/または予防剤、ならびに飼料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貝殻、特にホタテ貝殻から得られるカルシウム塩結晶化抑制能を有する蛋白、ならびにそれを含有する飲料、食品、カルシウム吸収促進剤、とくに結石症治療および/または予防剤、骨粗鬆症治療および/または予防剤、ならびに飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
体液中においていくつかの蛋白が関与してカルシウム塩が過飽和状態で存在しているといわれている。これらの蛋白としては、例えば、以前は膵管内結石蛋白(PSP)と呼ばれていたリソスタシン(Lithostathine)、唾液安定化蛋白スタセリン(Statherin)、尿中のシュウ酸カルシウム結晶化阻害蛋白ネフロカルシン(Nephrocalcin)などがある。これらの蛋白が何らかの原因で働かなくなるとカルシウム塩の結晶化が起こり、このことは骨や歯の形成には有用ではあるが、結石症などへの進行やカルシウム吸収低下といった有害な結果を生じさせ、骨粗鬆症、骨軟化症、動脈硬化などのさらなる疾病の発生を招く。
【0003】
このようなカルシウム塩の結晶化やカルシウム吸収低下による種々の弊害を除去あるいは予防するための、カルシウム塩結晶化抑制物質あるいはカルシウム吸収促進物質がいくつか発見され、あるいは合成され、そのうちいくつかは食品サプリメント等として使用されている。カゼインホスホペプチド(CPP)(特許文献1および特許文献2等参照)はカゼインのトリプシン消化により製造されるものであり、市販もされているが、消化反応後に酵素を失活させる必要があり、また消化により副生するペプチドが苦味を呈するため飲食品へ添加する場合は十分にこの苦味ペプチドを分離する必要があり、したがって高価である。微生物により生産されるポリ−γ−グルタミン酸(特許文献3等参照)もカルシウム吸収促進作用があることが知られているが、カルシウム塩結晶化抑制活性が低く、かつ溶液の粘性率が極めて高く取り扱いが不便であり、平均分子量が10000〜300000と幅広く、ある程度の分画が必要となる。しかも微生物起源のため、安全性にも問題がある。ポリ−L−グルタミン酸(非特許文献1等参照)は合成品であり、食品添加物として許可されておらず、やはり安全性の面から問題がある。
【特許文献1】特開昭58−170440号公報
【特許文献2】特開平7−241172号公報
【特許文献3】特開平9−28309号公報
【非特許文献1】Biosci. Biotechnol. Biochem. 58. 1662-1665 (1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のごとく、従来のカルシウム塩結晶化抑制物質あるいはカルシウム吸収促進物質はいずれも安全性、価格、取り扱いの点から問題を有している。したがって、これらの問題のない、しかも効果の優れた、新たなカルシウム塩結晶化抑制物質あるいはカルシウム吸収促進物質を見出し、利用することが本発明の解決課題である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題に鑑みて、本発明者は鋭意研究を重ね、貝殻、特にホタテ貝殻をキレート化剤含有水性媒体で抽出するとカルシウム塩結晶化抑制能を有する蛋白が得られ、そのカルシウム塩結晶化抑制効果が従来知られている物質よりも優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0006】
貝殻、特にホタテ貝殻をキレート化剤存在下で抽出すると、優れたカルシウム塩結晶化抑制能の高い蛋白を得ることができ、これを有効成分として含有するカルシウム吸収促進剤、これを含有する飲食物(特に機能性食品)および飼料を製造することができる。これらは、カルシウム塩の結晶化に起因する結石症などの疾病、ならびにカルシウム吸収低下に起因する疾病状態、例えば骨軟化症、骨粗鬆症、動脈硬化などの予防、抑制および/または治療に優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本願発明は、
(1)貝殻をキレート化剤含有水性媒体で抽出して得られるカルシウム塩結晶化抑制能を有する蛋白;
(2)ホタテ貝殻をキレート化剤含有水性媒体で抽出して得られるカルシウム塩結晶化抑制能を有する蛋白であって、分子量が26000〜28000である蛋白;
(3)(1)または(2)記載の蛋白を含有する飲料または食品;
(4)(1)または(2)記載の蛋白を有効成分として含むカルシウム吸収促進剤;
(5)(1)または(2)記載の蛋白を有効成分として含む結石の治療および/または予防剤;
(6)(1)または(2)記載の蛋白を有効成分として含む骨粗鬆症の治療および/または予防剤;
(7)(1)または(2)記載の蛋白を含有する飼料
を提供するものである。
【0008】
これまで、貝殻は利用価値があまり見出されておらず、大部分が廃棄物として扱われているのが現状なので、未利用資源から付加価値の高い物質を得ることのできる本発明は、未利用資源の有効利用という面からも注目すべきものがある。本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白は、貝殻、例えば、ホタテ、カキ、アコヤガイなどの貝殻をキレート化剤含有水性媒体で抽出して得ることができる。なかでもホタテ貝殻はすでに食品添加物として使用されており、安全性の問題がないので、特に好ましいカルシウム塩結晶化抑制蛋白のソースである。
【0009】
本発明は、上述のごとく、貝殻をキレート化剤含有水性媒体で抽出して得られるカルシウム塩結晶化抑制能を有する蛋白を提供するものである。カルシウム塩の結晶化を抑制するということは、体液中でのカルシウムイオン濃度を高めることになり、体内のカルシウム吸収を促進することにつながる。それゆえ、本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白は、カルシウム塩の結晶化に起因する結石症などの疾病、ならびにカルシウム吸収低下に起因する疾病状態、例えば骨軟化症、骨粗鬆症などの予防、抑制および/または治療に優れた効果を発揮する。
【0010】
貝殻の水性媒体での抽出はいずれの公知方法で行ってもよい。抽出前に貝殻を粉砕しておくことが好ましい。粉砕方法も公知方法を用いることができ、例えば、ミルやハンマーその他の粉砕・破砕装置による粉砕、超音波破砕などを用いることができる。粉砕は常温・常圧で行うことができるが、粉砕時の摩擦熱などで貝殻が50℃以上になるのは好ましくない。粉砕は、貝殻が粉末状になるまで行うことが好ましい。粉砕した貝殻を水性媒体に浸漬または混合し、撹拌または振盪しながら、あるいは静置しつつ抽出を行うことができる。抽出に用いる手段、装置等も公知である。粉砕と抽出を一緒に行ってもよい。例えば、超音波を用いて貝殻を破砕しつつ抽出を行ってもよい。破砕および抽出温度は0ないし50℃の範囲が適当であり、好ましい破砕および抽出温度範囲は0ないし20℃である。
【0011】
貝殻の抽出工程において、キレート化剤により脱ミネラル処理を行うことが必須である。キレート化剤は種々のものがあり、例えば、EDTAなどのポリアミノカルボン酸類およびそれらの塩、クエン酸などのオキシカルボン酸類およびそれらの塩、ならびに縮合リン酸塩等が使用できる。とりわけホタテ貝殻からのカルシウム塩結晶化抑制蛋白の抽出におけるキレート化剤としてはEDTAおよびその塩が好ましい。水性媒体中のキレート化剤の濃度は、キレート化剤の種類や貝殻の種類に応じて適宜変更可能である。
【0012】
貝殻からのカルシウム塩結晶化抑制蛋白の抽出に用いる水性媒体は特に限定されるものではないが、毒性の低いものあるいは毒性のないものが好ましく、水、例えば、蒸留水、脱イオン水が特に好ましい。水道水を使用してもかまわない。水とメタノール、エタノール等のアルコールとの混合物を水性媒体として用いてもよい。水性媒体のpHは中性付近であることが望ましく、pH6.0ないし8.5の範囲が好ましい。水性媒体をこのようなpHに維持するために、適当濃度、例えば5ないし100mMのTris−HClなどの緩衝液を水性媒体に添加してもよい。
【0013】
上記のごとく粉砕・抽出を行った後、公知方法、例えば、遠心分離または静置などにより固形分を分離し、上清を得る。この場合の温度範囲は抽出時の温度範囲と同様であり、好ましくは0ないし20℃である。
【0014】
上記のようにして得られた上清にはカルシウム塩結晶化抑制蛋白が含まれており、この上清を直接使用してもよいが、さらに透析処理あるいは濃縮処理に付して粗抽出物として用いてもよい。透析および濃縮方法はいずれの公知方法であってもよい。例えば、セロハンその他の材料でできたチューブや膜を用いてもよい。濃縮法も種々の方法があるが、例えば、吸水性樹脂を用いる方法、限外濾過膜を用いる方法などが適用できる。透析および濃縮工程における温度は抽出時の温度範囲と同様であり、好ましくは0ないし20℃である。
【0015】
上記のごとく得られた上清または粗抽出物からカルシウム塩結晶化抑制蛋白をさらに精製することもできる。種々の蛋白精製方法、使用担体・樹脂、精製条件等が公知であり、当業者は適宜それらを組み合わせて本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白を精製することができる。精製の初期段階に硫安分画、エタノール沈殿などにより粗分画しておくことが好ましい。その後、得られた活性画分を各種クロマトグラフィーによりさらに精製することができる。バッチ法、カラム法などを用いることができる。クロマトグラフィーには、イオン交換クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどがある。HPLCを用いてこれらのクロマトグラフィーを行ってもよい。例えば、陰イオン交換クロマトグラフィーにはDEAE−セファロース、DEAE−セファデックス、DEAE−TOYOPEARLなどの樹脂を用いることができる。吸着クロマトグラフィーにはハイドロキシアパタイトなどを用いることができる。ゲル濾過クロマトグラフィーにはセファデックスゲルやTOYOPEARLなどを用いることができる。さらなる精製には、ゲル電気泳動やクロマトフォーカシングなどの方法を用いることができる。
【0016】
上記のようにして得られた上清または粗抽出物、あるいはいずれかの精製段階で得られた精製物をカルシウム塩結晶化抑制蛋白として用いることができる。上述のごとく、本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白は、カルシウム塩の結晶化に起因する結石症などの疾病、ならびにカルシウム吸収低下に起因する疾病状態、例えば骨軟化症、骨粗鬆症などの予防、抑制および/または治療に優れた効果を発揮する。したがって、本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白を、飲料や食品に添加して、例えば上記効果を有する健康食品や機能性食品を製造することができる。カルシウム塩の結晶化に起因する結石症などの疾病、ならびにカルシウム吸収低下に起因する疾病状態、例えば骨軟化症、骨粗鬆症などの予防、抑制および/または治療のための製剤を得ることもできる。また、本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白を飼料に添加して動物の脚弱、奇形、あるいは卵の硬度不足などを抑制することもできる。
【0017】
それゆえ、1の態様において、本発明は、貝殻をキレート化剤含有水性媒体で抽出して得られるカルシウム塩結晶化抑制能を有する蛋白を含有する飲料または食品を提供するものある。上述のごとく、ホタテ貝殻由来のカルシウム塩結晶化抑制蛋白は安全性が高く、、かつ、無味無臭であるため、これを飲料および食品に添加することが特に好ましい。本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白を含有させるべき飲料および食品の種類や形状は特に限定されるものではなく、あらゆる飲料および食品に添加することができる。また例えば、調味料やふりかけ等に本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白を含有させてもよい。本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白を含有する飲料および食品は、健康食品や機能性食品としても有用でありうる。本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白を食品サプリメントとして用いてもよい。
【0018】
本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白を有効成分として用いて、カルシウム塩の結晶化に起因する結石症などの疾病、ならびにカルシウム吸収低下に起因する疾病状態、例えば骨軟化症、骨粗鬆症などの予防、抑制および/または治療のための製剤を得ることができる。したがって、本発明は、さらなる態様において、本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白を有効成分として含むカルシウム吸収促進剤、本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白を有効成分として含む結石の治療および/または予防剤、本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白を有効成分として含む骨粗鬆症の治療および/または予防剤を提供するものである。
【0019】
上記のようにして得られた上清または粗抽出物、あるいはいずれかの精製段階で得られた精製物を、有効成分としてのカルシウム塩結晶化抑制蛋白として、そのまま、あるいは公知の賦形剤と混合して、上記の剤を製造することができる。賦形剤は特に限定されるものではないが、医薬上許容されるものが好ましく、液体賦形剤としては水、エタノール、生理食塩水、リンゲル液、食用油脂、糖蜜、グルセリン、モノもしくはジグリセリド、オレイン酸、リノール酸等、あるいはこれらの混合物などがある。固体賦形剤としては、グルコース、ショ糖、乳糖、デンプン類、セルロース類などの糖類、タルク、小麦粉、ステアリン酸およびそのマグネシウム塩などがある。これらの賦形剤を用いて種々の処方を得ることができる。処方の製造方法は特に限定されるものではないが、製薬分野で用いられている方法が好ましい。本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白を含有する剤は、一般的には経口投与に適した剤形とされる。液体剤形としては、水性または油性の溶液または懸濁液、シロップ、エリキシル等が挙げられるがこれらに限らない。固体剤形としては、錠剤、カプセル、トローチなどがあるが、これらに限らない。これらの処方には、公知の希釈剤、崩壊剤、結合剤、造粒剤、分散剤、滑沢剤などを適宜使用でき、さらに、公知の甘味料、香味料あるいは防腐剤などを適宜添加してもよい。
【0020】
もう1つの態様において、本発明は、本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白を含有する飼料を提供する。上記のようにして得られた上清または粗抽出物、あるいはいずれかの精製段階で得られた標品を、カルシウム塩結晶化抑制蛋白として飼料に添加してもよい。飼料の種類や形状は特に限定されるものではなく、液状、粉末、ペレットなどの形態に成形することができる。本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白を含有する飼料を動物に与えることにより、動物の脚弱、奇形、あるいは卵の硬度不足などの問題を解決することができる。
【0021】
以下に実施例を示して本発明をさらに詳しく説明するが、実施例は本発明を限定するものと解してはならない。
【実施例1】
【0022】
カルシウム塩結晶化抑制活性の測定方法
50ml容のトールビーカーに0.2μmのメンブランフィルター(Cellulose Acetate: 東洋濾紙製)を用いて濾過した20mM NaHCO(pH8.5)25mlを入れた。次に25℃の恒温槽中で試料溶液500μlを加え、水中スターラーを用いて十分に撹拌した。0.2μmのメンブランフィルター(Cellulose Acetate: 東洋濾紙製)を用いて濾過した20mM CaCl(pH8.5)25mlを素早く添加し、反応を開始させた。この反応系におけるpHの経時的変化を、pHメーター(D-51:HORIBA製)を用いて測定した。対照(コントロール)は蒸留水500μlを添加したものであった。
【0023】
上記反応系において、pHの経時的変化における結晶化抑制率を数値化するために、完全にpHの変化を抑えた場合を100%、対照として用いた蒸留水におけるpHを0%とし、50%結晶化抑制を示す時の反応系中の蛋白濃度をIC50とした。
【0024】
蛋白の定量はLowry法によったが、カラムクロマトグラフィーにおける溶出蛋白の定量は280nmにおける吸光度によった。
【実施例2】
【0025】
粗抽出物の調製およびそのカルシウム塩結晶化抑制活性
ホタテ貝殻をハンマークラッシャー、続いてローラーミルで処理して粉末とし、貝殻粉末1gに対して2mlの0.5M EDTA水溶液(10mM Tris−HClにてpH8.0とした)に懸濁し、超音波(SONICFIER 250, ULTRASONICS:BRANSON)を用いてさらなる粉砕よび抽出を行った(4℃,Duty cycle 40%, Out put control 3, 8分)。その後、破砕液を遠心分離(4℃,27700xg,10分)し、得られた上清を10mM Tris−HCl緩衝液(pH8.5)に対して4℃で一晩透析した。透析にはダイアライシスメンブラン(Size 36: 和光純薬工業株式会社)を用いた。透析された試料をダイアライシスメンブラン(Size 36: 和光純薬工業株式会社)に入れ、ポリエチレングリコール20000に吸水させることにより、4℃で8時間濃縮を行うことにより粗抽出物を得た。
【0026】
実施例1に示した活性測定法により、粗抽出物のカルシウム塩結晶化抑制活性を測定した。結果を図1に示す。蒸留水の場合にpHが急激に低下している、矢印で示す反応開始から5分後に、粗抽出物500μlを添加したところ、pHの低下が停止し、結晶化抑制作用が示された。この反応系における炭酸カルシウムの結晶観察を走査型電子顕微鏡にて行った。図2は、反応開始5分後に粗抽出物を添加し、15分後まで反応させた結晶の写真を示す。対照系における15分後の結晶に比べて粗抽出物添加系では結晶が小さく、対照系の5分後の結晶粒径とほぼ同じであった。このことからも、本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白の活性が示される。
【実施例3】
【0027】
カルシウム塩結晶化抑制蛋白の精製
実施例2で得られた粗抽出物の濃縮物を常法に従いエタノール沈殿処理に付し、50〜70%フラクションを得た。
【0028】
上で得られたエタノール50〜70%フラクションを、DEAE−TOYOPEARL 650Mを用いる陰イオン交換クロマトグラフィーにかけた。溶出液として10mM Tris−HCl緩衝液(pH8.5)を用い、溶出液中のNaCl濃度を直線的に増加させるリニアグラジエント法にてカルシウム塩結晶化抑制蛋白を溶出させた(図3A)。ピークフラクションを集め、同じ樹脂および同じ緩衝液を用い、緩衝液中のNaCl濃度を段階的に増加させるステップワイズ法にて溶出を行った(図3B)。0.2M NaClのフラクションに大きな蛋白ピークが見られ、このフラクションに高いカルシウム塩結晶化抑制活性が見られた。この0.2M NaClフラクションを、TOYOPEAL HW−55Fによるゲル濾過クロマトグラフィーにかけた。溶出液には0.15M NaClを含む10mM Tris−HCl緩衝液(pH8.5)を用いた。ピークはほぼ単一で左右対称であった(図4A)。これまでの精製段階の活性を比較した表を以下に示す。
【表1】



精製段階を経るにつれてIC50値が低下し、比活性が上昇したことがわかる。
【実施例4】
【0029】
カルシウム塩結晶化抑制蛋白の諸性質
実施例3と同じゲル濾過カラムにて、既知分子量の蛋白の溶出状態と比較することによりカルシウム塩結晶化抑制蛋白の分子量を測定したところ、26000〜28000であることがわかった(図4B)。この分子量は、SDS−PAGEと銀染色とを組み合わせた系で測定した分子量と一致した(図示せず)。
【0030】
実施例3で得られたゲル濾過後のフラクションに含まれるカルシウム塩結晶化抑制蛋白の温度安定性およびpH安定性を調べたところ、約60℃まで安定で、pH6〜9の範囲で安定であることがわかった。
【実施例5】
【0031】
本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白とCPPの活性比較
実施例2で得た粗抽出物をカルシウム塩結晶化抑制蛋白標品として用いて、そのカルシウム塩結晶化抑制活性をCPPの活性と比較した。活性測定は実施例1で説明した方法によった。試料は反応開始から1分後に添加した。粗抽出物濃度(蛋白として)およびCPP濃度はいずれも0.2μg/mlとした。結果を図5に示す。粗抽出物はpHの低下を強く抑制し、10分までpHはほぼ一定値であり、その後わずかに低下しただけであった。一方、CPPは6分まではpHの低下を抑制したが、それ以後pHは急激に低下した。したがって、本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白は従来から用いられているCPPよりも優れたカルシウム塩結晶化抑制効果を有することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、食品産業、飼料産業(畜産業)や医薬品産業などにおいて利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は粗抽出物のカルシウム塩結晶化抑制作用を示すグラフである。黒四角は粗抽出物、黒丸は対照を示す。
【図2】図2は粗抽出物のカルシウム塩結晶化抑制作用を示す走査型電子顕微鏡写真である。図2Aは対照系(蒸留水添加系)の5分後、図2Bは対照系の15分後のカルシウム塩の走査型電子顕微鏡写真である。図2Cは粗抽出物添加系の15分後のカルシウム塩の走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】図3はDEAE−TOYOPEARL 650Mを用いた陰イオンクロマトグラフィーによる本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白の溶出パターンを示す。図3Aはリニアグラジエントによる溶出パターン,図3Bはステップワイズ法による溶出パターンを示す。
【図4】図4AはTOYOPEARL HW−55Fカラムによるゲル濾過溶出パターンを示す。図4BはTOYOPEARL HW−55Fカラムを用いた本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白の分子量測定結果を示す。(1)はウサギ筋肉ホスホリラーゼB(分子量97400)、(2)はウシ血清アルブミン(分子量66200)、(3)はニワトリ卵白オバルブミン(分子量45000)、(4)はダイズトリプシンインヒビター(分子量21500)の場合を示す。
【図5】図5は本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白とCPPの活性比較の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貝殻をキレート化剤含有水性媒体で抽出して得られるカルシウム塩結晶化抑制能を有する蛋白。
【請求項2】
ホタテ貝殻をキレート化剤含有水性媒体で抽出して得られるカルシウム塩結晶化抑制能を有する蛋白であって、分子量が26000〜28000である蛋白。
【請求項3】
請求項1または2記載の蛋白を含有する飲料または食品。
【請求項4】
請求項1または2記載の蛋白を有効成分として含むカルシウム吸収促進剤。
【請求項5】
請求項1または2記載の蛋白を有効成分として含む結石の治療および/または予防剤。
【請求項6】
請求項1または2記載の蛋白を有効成分として含む骨粗鬆症の治療および/または予防剤。
【請求項7】
請求項1または2記載の蛋白を含有する飼料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−42628(P2006−42628A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−225534(P2004−225534)
【出願日】平成16年8月2日(2004.8.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年3月1日 社団法人日本農芸化学会発行の「日本農芸化学会誌 通巻第925号 第78巻 第3号」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年3月5日 社団法人日本農芸化学会発行の「日本農芸化学会2004年度(平成16年度)大会講演要旨集」に発表
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【Fターム(参考)】