説明

貝殻粉末含有石炭灰固化物およびその製造方法

【課題】 有効利用技術の開発が求められている石炭灰、およびホタテやカキ貝殻などの廃棄物を用いて、養浜用の砂礫や路盤材等に利用可能かつアルカリ成分の溶出などの環境影響がない貝殻粉末含有石炭灰固化物およびこれを安価に製造することができる貝殻粉末含有石炭灰固化物の製造方法を提供する。
【解決手段】 石炭灰、貝殻粉末、石灰類を含む水和物の表面に、炭酸塩からなる被膜を有してなり、材料を加圧成型した状態で水和反応させて水中養生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭灰およびホタテやカキ貝殻などの廃棄物を用いて安価に製造でき、養浜用の砂礫や路盤材等に利用可能である貝殻粉末含有石炭灰固化物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国の石炭灰発生量は年々増加しており、近年は、年間1000万トンを超え、これらの有効利用方法の開発が求められているのが現状である。一方、年間20〜40万トン産出されるホタテやカキの貝殻は、埋め立て地不足や埋め立てに伴う悪臭が地方自治体の抱える産廃処理問題の一つとして深刻な課題となっている。これらの理由から、石炭灰やホタテ貝殻などを大量に、かつ安価、そして安全に処理できる技術の開発が望まれる。
【0003】
石炭灰を用いて固化物あるいは造粒材を製造する方法としては、高温、高圧下で水熱処理する方法が主として知られている。例えば、石炭灰と、酸化カルシウム、水酸化カルシウム等を所定の割合で配合して高温・高圧処理することが提案されている(特許文献1〜3など参照)。
【0004】
これらの方法は、原料となる石炭灰が廃棄物で安価であっても、処理の費用が大きく、これがこれらの廃棄物の有効利用促進の足かせとなっているのが現状である。
【0005】
また、石炭灰を固化物とする際に、強度発現や早期固化のため、セメントを混合する方法が多く存在する。例えば、石炭灰にセメントを添加して造粒物や成型物を製造する方法が提案されている(特許文献4、5など参照)。
【0006】
しかしながら、このような製法により製造した石炭灰固化物は、石炭灰の質量%が増えるに従い、水に対する耐性が悪くなる傾向があり、また、成型物からのアルカリ成分の溶出も課題となっており、環境への影響が懸念されている。
【0007】
さらに、石炭灰、ごみ、製紙スラッジ、下水汚泥などの廃棄物に石灰系材と、石膏と、軟溶化剤とを添加して安定化処理物とする技術が提案されている(特許文献6参照)。かかる文献には、石灰系材として貝殻焼成粉末が使用できるとも記載されている。
【0008】
かかる技術は、廃棄物の種類も選ばず、幅広い用途が期待できるが、軟溶化剤として、硫酸鉄、亜硫酸ナトリウム、リン酸、硫化ナトリウム、硫化カリウム、水ガラスなどを使用する必要があり、石炭灰の含有割合等を考慮すると、決して安価に製造できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−291701号公報
【特許文献2】特開平7−291702号公報
【特許文献3】特開平8−1126号公報
【特許文献4】特開平11−130494号公報
【特許文献5】特開2001−206759号公報
【特許文献6】特開2005−138074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述した事情に鑑み、有効利用技術の開発が求められている石炭灰、およびホタテやカキなどの貝殻の廃棄物を用いて、養浜用の砂礫や路盤材等に利用可能かつアルカリ成分の溶出などの環境影響がない貝殻粉末含有石炭灰固化物およびこれを安価に製造することができる貝殻粉末含有石炭灰固化物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための請求項1に係る本発明の貝殻粉末含有石炭灰固化物は、石炭灰、貝殻粉末、石灰類を含有する材料を加圧成型した状態で水中養生を実施し、水和反応させたものであり、表面に炭酸塩からなる被膜を有することを特徴とする。
【0012】
また、請求項2に係る本発明の貝殻粉末含有石炭灰固化物は、石炭灰、貝殻粉末、石灰類を含有する材料を加圧成型した状態で高湿養生を実施し、水和反応させたものであり、表面に炭酸塩からなる被膜を有することを特徴とする。
【0013】
また、請求項3に係る本発明の貝殻粉末含有石炭灰固化物は、石炭灰、貝殻粉末、石灰類を含有する材料を加圧成型した状態で高湿養生、次いで水中養生を実施し、水和反応させたものであり、表面に炭酸塩からなる被膜を有することを特徴とする。
【0014】
請求項1〜3に係る本発明では、石炭灰、貝殻粉末、石灰類を含む石炭灰固化物で表面に炭酸カルシウムなどの炭酸塩からなる被膜を有するので、アルカリの溶出が少なく、養浜用の砂礫や路盤材等に利用可能な貝殻粉末含有石炭灰固化物となり、貝殻粉末の有効利用に寄与することができる。
【0015】
そして、請求項4に係る本発明の貝殻粉末含有石炭灰固化物は、請求項1〜3の何れか一項に記載の貝殻粉末含有石炭灰固化物において、さらに石膏類を含有する材料を用いることを特徴とする。
【0016】
請求項4に係る本発明では、石膏類をさらに含むことにより、石炭灰固化物の製造に必要なカルシウムを補うことができ、また、廃脱石膏(脱硫石膏)、廃石膏ボード粉末なども有効利用可能な貝殻粉末含有石炭灰固化物が得られる。
【0017】
また、請求項5に係る本発明の貝殻粉末含有石炭灰固化物は、請求項1〜4の何れか一項に記載の貝殻粉末含有石炭灰固化物において、前記石灰類として、貝殻粉末を焼成したものを用いることを特徴とする。
【0018】
請求項5に係る本発明では、石灰類として貝殻粉末を焼成したものを用いても貝殻粉末含有石炭灰固化物を得ることができる。
【0019】
また、請求項6に係る本発明の貝殻粉末含有石炭灰固化物は、請求項1〜5の何れか一項に記載の貝殻粉末含有石炭灰固化物において、混合物中の前記石炭灰の含有量が20〜80質量%であることを特徴とする。
【0020】
請求項6に係る本発明では、石炭灰を20〜80質量%含有させることが可能であり、この固化物の表面に炭酸カルシウムなどからなる炭酸塩被膜を有する貝殻粉末含有石炭灰固化物となる。
【0021】
また、請求項7に係る本発明の貝殻粉末含有石炭灰固化物は、請求項1〜6の何れか一項に記載の貝殻粉末含有石炭灰固化物において、前記貝殻粉末が、ホタテ貝殻およびカキ貝殻の少なくとも一種であり、未焼成のものであることを特徴とする。
【0022】
請求項7に係る本発明では、ホタテ貝殻およびカキ貝殻の少なくとも一種を未焼成のまま貝殻粉末含有石炭灰固化物とすることができる。
【0023】
また、請求項8に係る本発明の貝殻粉末含有石炭灰固化物は、石炭灰、貝殻粉末、石灰類を含む水和物の表面に、炭酸塩からなる被膜を有してなることを特徴とする。
【0024】
請求項8に係る本発明では、石炭灰、貝殻粉末、石灰類を含む石炭灰固化物で表面に炭酸カルシウムなどの炭酸塩からなる被膜を有するので、アルカリの溶出が少なく、養浜用の砂礫や路盤材等に利用可能な貝殻粉末含有石炭灰固化物となり、貝殻粉末の有効利用に寄与することができる。
【0025】
上記目的を達成するための請求項9に係る本発明の貝殻粉末含有石炭灰固化物の製造方法は、石炭灰、貝殻粉末、石灰類を含む材料を湿式混合して混合物を得る工程と、この混合物から水分を低減し粘土状混合物とした後、加圧成型して成型物を得る工程と、この成型物を高湿環境下に保持して水和反応させて水和反応物とする工程と、この水和反応物を水中養生して水中養生物を得る工程と、水中養生物を大気中に放置して石炭灰固化物を得る工程とを具備することを特徴とする。
【0026】
請求項9に係る本発明では、石炭灰、貝殻粉末、石灰類を湿式混合し,粘土状にした後、加圧成型した成型物を高湿環境下で水和反応させ、水中養生することにより、室温、常圧下で貝殻粉末含有石炭灰固化物を得ることができ、貝殻粉末の有効利用に寄与することができる。
【0027】
そして、請求項10に係る本発明の貝殻粉末含有石炭灰固化物の製造方法は、請求項9に記載の貝殻粉末含有石炭灰固化物の製造方法において、さらに石膏類を材料として用いることを特徴とする。
【0028】
請求項10に係る本発明では、石膏類を含むことにより、石炭灰固化物の製造に必要なカルシウムを補うことができ、また、廃脱石膏(脱硫石膏)、廃石膏ボード粉末などの有効利用が可能な優れた貝殻粉末含有石炭灰固化物を製造することができる。
【0029】
また、請求項11に係る本発明の貝殻粉末含有石炭灰固化物の製造方法は、請求項9又は10に記載の貝殻粉末含有石炭灰固化物の製造方法において、前記石灰類として、貝殻粉末を焼成したものを用いることを特徴とする。
【0030】
請求項11に係る本発明では、石灰類として貝殻粉末を焼成したものを用いて貝殻粉末含有石炭灰固化物を製造することができる。
【0031】
また、請求項12に係る本発明の貝殻粉末含有石炭灰固化物の製造方法は、請求項9〜11の何れか一項に記載の貝殻粉末含有石炭灰固化物の製造方法において、前記混合物の前記石炭灰の含有量が20〜80質量%であることを特徴とする。
【0032】
請求項12に係る本発明では、石炭灰を20〜80質量%用いて、確実に表面に炭酸カルシウムなどからなる炭酸塩被膜を有する貝殻粉末含有石炭灰固化物を製造することができる。
【0033】
また、請求項13に係る本発明の貝殻粉末含有石炭灰固化物の製造方法は、請求項9〜12の何れか一項に記載の貝殻粉末含有石炭灰固化物の製造方法において、前記貝殻粉末が、ホタテ貝殻およびカキ貝殻の少なくとも一種であり、未焼成のものであることを特徴とする。
【0034】
請求項13に係る本発明では、貝殻粉末としてホタテ貝殻およびカキ貝殻の少なくとも一種を未焼成のまま用いることにより貝殻粉末含有石炭灰固化物とすることができる。
【0035】
また、請求項14に係る本発明の貝殻粉末含有石炭灰固化物の製造方法は、請求項9〜13の何れか一項に記載の貝殻粉末含有石炭灰固化物の製造方法において、前記粘土状混合物の水分含有量を18〜24質量%とすることを特徴とする。
【0036】
請求項14に係る本発明では、水分含有量を所定範囲とした乾燥物を加圧成型して高湿環境下で水和反応させることにより、炭酸カルシウムなどの炭酸塩被膜を有する貝殻粉末含有石炭灰固化物を比較的簡便に得ることができる。
【0037】
また、請求項15に係る本発明の貝殻粉末含有石炭灰固化物の製造方法は、請求項9〜14の何れか一項に記載の貝殻粉末含有石炭灰固化物の製造方法において、前記高湿環境が、相対湿度が85%RH以上の室温常圧下の環境であることを特徴とする。
【0038】
請求項15に係る本発明では、所定の高湿環境下での水和反応により表面に炭酸カルシウムなどの炭酸塩被膜を有する貝殻粉末含有石炭灰固化物を確実に得ることができる。
【0039】
また、請求項16に係る本発明の貝殻粉末含有石炭灰固化物の製造方法は、請求項9〜15の何れか一項に記載の貝殻粉末含有石炭灰固化物の製造方法において、前記水中養生は養生水を交換することなく行うことを特徴とする。
【0040】
請求項16に係る本発明では、養生水を交換することなく水中養生することにより貝殻粉末含有石炭灰固化物を得ることができるので、廃液処理量が低減され、低コストでの製造が容易となる。
【0041】
また、請求項17に係る本発明の貝殻粉末含有石炭灰固化物の製造方法は、請求項9〜16の何れか一項に記載の貝殻粉末含有石炭灰固化物の製造方法において、前記石炭灰固化物は、表面に炭酸塩からなる被膜を有するものであることを特徴とする。
【0042】
請求項17に係る本発明では、表面に炭酸カルシウムの炭酸塩被膜を有する貝殻粉末含有石炭灰固化物とすることにより、アルカリ溶出の抑制された貝殻粉末含有石炭灰固化物とすることができる。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、有効利用技術の開発が求められている石炭灰、およびホタテやカキの貝殻を用いて、養浜用の砂礫や路盤材等に利用可能かつアルカリ成分の溶出などの環境影響がない貝殻粉末含有石炭灰固化物及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施例の製造フローを示す図である。
【図2】本発明の貝殻粉末含有石炭灰固化物断面のX線マイクロアナライザ(EPMA)分析の結果の図である。
【図3】試験例1で使用した貝殻粉末含有石炭灰固化物とその観察部位の模式図である。
【図4】実施例1の貝殻粉末含有石炭灰固化物の高湿養生後の固化物表面及び固化物内部のSEM写真である。
【図5】実施例1の石炭灰含有率(FA)が60質量%の固化物の被膜と内部の結晶構造の定性結果を表すX線回折(XRD)の図である。
【図6】実施例1の貝殻粉末含有石炭灰固化物のかさ密度と石炭灰含有率の関係を表すグラフである。
【図7】実施例4の貝殻粉末含有石炭灰固化物のpHを表すグラフである。
【図8】実施例4の貝殻粉末含有石炭灰固化物の圧壊強度を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明の貝殻粉末含有石炭灰固化物をその製造方法の一例と共に詳細に説明する。
【0046】
本発明の貝殻粉末含有石炭灰固化物は、石炭灰と、貝殻(未焼成)、石灰類と、必要に応じて添加される石膏類とを含有する材料を加圧成型した状態で、各種養生として高湿養生、次いで水中養生を実施し水和反応させたものであり、表面に炭酸カルシウムなどからなる炭酸塩被膜を有するものである。即ち、本発明の貝殻粉末含有石炭灰固化物は、石炭灰、貝殻粉末、石灰類を含む水和物の表面に、炭酸塩からなる被膜を有している。尚、水中養生の前に行う各種養生としての高湿養生を省略することも可能である。
【0047】
本発明で用いる石炭灰は、特に組成を限定するものではなく、何れの組成のものでも使用可能である。すなわち、本発明では、石炭灰の組成のばらつきに依存せず、貝殻粉末含有石炭灰固化物とすることができる。
【0048】
石炭灰は、フライアッシュでも、クリンカアッシュでもよく、さらに、埋め立て処理されたものを再度利用してもよい。
【0049】
一方、本発明で貝殻粉末は、ホタテ、カキ、ハマグリ、アサリなど各種の貝殻を粉末として用いたものであり、貝の種類は特に限定されない。これらの貝殻は廃棄物となるものをそのまま使用でき、焼成処理などして水和反応活性の高い生石灰(CaO)や消石灰(Ca(OH))などにする必要はない。本発明において、貝殻粉末は10〜25質量%の範囲で含有させることができる。
【0050】
石灰類は、例えば、生石灰(CaO)、消石灰(Ca(OH))など、および貝殻粉末を焼成したもののなかから選択されるものである。
【0051】
また、必要に応じて添加される石膏類としては、石炭灰、貝殻(未焼成)、石灰類との混合物の総カルシウム含有量の不足分を補うために添加するものであり、排脱石膏(脱硫石膏)、化学石膏、廃石膏ボード粉末、天然石膏などを挙げることができる。
【0052】
本発明においては、これらの原料は、廃棄物である石炭灰、貝殻粉末をできるだけ多く利用するのが好ましく、総量中のカルシウム含有量(CaO換算)が20〜40質量%とするのが好ましい。カルシウム含有量をこの範囲とすることにより、後述する水和反応が生成し易くなり、高密度、高強度でアルカリ溶出のない石炭灰固化物とすることができる。すなわち、本発明の貝殻粉末含有石炭灰固化物は、セメント材など強度発現に効果を発揮する原料を用いる必要なく、廃棄物となる石炭灰や貝殻粉末を原料として用いて、養浜用の砂礫や路盤材等に有効利用可能な貝殻粉末含有石炭灰固化物を得るものである。
【0053】
なお、石炭灰、貝殻粉末、石灰類など、それぞれ一種以上用いてもよいことは勿論であるが、本発明の目的を損なわない範囲で他の原料を添加してもよい。
【0054】
本発明の貝殻粉末含有石炭灰固化物を製造するには、まず、石炭灰と、石灰類と、必要に応じて添加される貝殻粉末及び/又は石膏類とを湿式混合して混合物を得る。ここで、湿式混合は、例えば、ミキサー、ボールミルなど従来から周知の方法で行えばよい。湿式混合は、各原料がほぼ均一に混合されるように行えばよく、また、湿式混合は水を用いて行えばよく、混合物が、後工程で加圧成型するのに適した以上の水分含有量となるように行えばよい。
【0055】
このように湿式混合した混合物を必要に応じて乾燥し、加圧成型に適した水分含有量で粘土状の乾燥物とする。ここで、乾燥とは、100℃以下の環境で行えばよいが、これ以上の温度で行っても問題はない。ここで、粘土状の乾燥物とは、加圧成型に好適な性状を有するものであり、例えば、一軸圧押し出し成型を行う場合には、水分含有量が20質量%程度とするのが好ましい。
【0056】
次に、このようにして得た乾燥物を加圧成型する。加圧成型する方法は特に限定されず、圧縮成型、押し出し成型(一軸圧成型)などを行えばよい。
【0057】
ここで、加圧成型して成型物とするのは、材料同士を密着させた状態で、次の工程での反応を効率的に行わせるためである。加圧荷重は任意であり、0.6MPa以上の荷重で加圧成型するのが好ましく、0.6MPa未満の荷重で加圧成形することも可能である。
【0058】
次に、このようにして加圧成型した成型物を高湿環境下に保持して水和反応させて水和反応物とする(高湿養生)。この高湿環境下では、成型物の水和反応を促進して貝殻粉末含有石炭灰固化物の表面に炭酸カルシウムなどからなる緻密な表面被膜(表面骨格)を作る。かかる工程の高湿環境下とは、相対湿度が85%RH以上の環境である。
温度は特に限定されない。高湿保持する期間は、水和反応に耐え得る表面骨格が形成される期間(短期間)であればよい。相対湿度85%、室温の環境では3日間以上保持すればよい。
【0059】
尚、高湿環境下に保持して高湿養生を行っているが、相対湿度が85%RHを下回る環境での養生を行うことも可能である。また、場合によっては高湿養生を省略することも可能である。
【0060】
続いて、高湿保持した成型品を水中養生(室温)して水和反応させる。水中養生においては、貝殻粉末含有石炭灰固化物の表面に炭酸カルシウムなどからなる緻密な表面被膜が形成されるとともに、固化物内部の水和反応を促進する。かかる水中養生は、養生水を交換することなく行えばよい。勿論、通常のセメント成型品などの水中養生のように養生水を循環して新鮮な水を導入したり、定期的に交換したりしてもよいが、この必要はなく、養生水を交換しない方が炭酸塩被膜がより良好に形成する。よって、エネルギーをできるだけ使用せず、環境保護を考慮すれば、養生水を交換することなく、常温の養生水で行えばよい。水中養生の期間は炭酸塩被膜が十分に形成されるまでとすればよく、例えば、3日程度行えばよい。
【0061】
水中養生した水中養生物は、大気中で養生(室温)して貝殻粉末含有石炭灰固化物とする。この大気中での養生は大気中に放置しておけばよく、養生水をゆるやかに乾燥させれば十分である。この大気中での養生により、表面の炭酸塩被膜が完全に完成し、高密度、高強度で、アルカリ溶出のない貝殻粉末含有石炭灰固化物となる。
【0062】
尚、高湿養生に続いて水中養生を行っているが、場合によっては、水中養生を省略することも可能である。
【0063】
本発明の貝殻粉末含有石炭灰固化物は、石炭灰と、ホタテ貝殻またはカキ貝殻などの貝殻粉末、石灰、または脱硫石膏などのカルシウム源を用いて、室温、常圧下にて、簡易に製造できるものである。そして、既存の方法で製造した石炭灰固化物のかさ密度は、1.2〜1.3程度の多孔体が多いが、本発明の貝殻粉末含有石炭灰固化物ではセメント材を混合していないにもかかわらず、かさ密度が1.5〜2.0と緻密でかつ高強度な多孔体となる。また、貝殻粉末含有石炭灰固化物は、製造時(養生時)に表面が炭酸塩化され、炭酸塩被膜を有するものである。
【0064】
すなわち、本発明の貝殻粉末含有石炭灰固化物は、水域中で化学的に安定に存在することが可能なカルシウム炭酸塩にて表面被膜されていることにより、水域利用時に問題となるアルカリ成分の溶出を抑制することが可能である。よって、本発明の貝殻粉末含有石炭灰固化物は、砂礫並みの大きさに造粒することにより、簡易かつ低コストな砂代替固化物となることが期待される。
【0065】
以下、実施例を参照しながら本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例1〜4のフローを図1に示す。
【0066】
(実施例1)
酸化鉄、酸化カルシウムの含有量が比較的多く、水和反応性の高い石炭灰(組成:SiO:Al:Fe:CaO=52:29:9:5)60質量%、ホタテの貝殻粉末23質量%、生石灰13質量%、脱硫石膏4質量%となるように(総カルシウム含有量[CaO換算]30質量%)、原料をボールミルで水を用いて湿式混合し、混合物を80℃で1時間乾燥して粘土状の乾燥物(水分含有量約20質量%)とし、これを2MPa、2分で一軸圧成型してペレット状の成型物を得た。
【0067】
これを室温、相対湿度85%RH以上の高湿環境下に1週間保持し、その後、養生水を交換することなく、1週間水中で養生した。そして、水中養生物を大気中に1週間放置して乾燥し、実施例1の貝殻粉末含有石炭灰固化物を得た。
【0068】
(実施例2)
酸化ケイ素の含有量が比較的多く、水和反応性の低い石炭灰(組成:SiO:Al:Fe:CaO=76:17:3.2:0.2)60質量%、ホタテの貝殻粉末26質量%、生石灰14質量%、脱硫石膏4質量%となるように(総カルシウム含有量[CaO換算]30質量%)、原料をボールミルで水を用いて湿式混合し、混合物を80℃で1時間乾燥して粘土状の乾燥物(水分含有量約20質量%)とし、これを2MPa、2分で一軸圧成型し、ペレット状の成型物を得た。
【0069】
これを室温、相対湿度85%RH以上の高湿環境下に1週間保持し、その後、養生水を交換することなく、1週間水中で養生した。そして、水中養生物を大気中に1週間放置して乾燥し、実施例2の貝殻粉末含有石炭灰固化物を得た。
【0070】
(実施例3)
ホタテの貝殻の代わりにカキの貝殻を用いた以外は、実施例1,2と同様に(又は他の配合)して、実施例3の貝殻粉末含有石炭灰固化物を得た。
【0071】
(実施例4)
酸化ケイ素の含有量が比較的多く、水和反応性の良い石炭灰(組成:SiO:Al:Fe:CaO=52:29:9:5)70質量%、ホタテの貝殻粉末17質量%、生石灰9質量%、脱硫石膏4質量%となるように(総カルシウム含有量[CaO換算]23質量%)、原料をボールミルで水を用いて湿式混合し、混合物を80℃で1時間乾燥して粘土状の乾燥物(水分含有量約20質量%)とし、これを2MPa、2分で一軸圧成型し、ペレット状の成型物を得た。
【0072】
(試験例1)
図2には本発明の実施例1の貝殻粉末含有石炭灰固化物断面の電子線プローブマイクロアナライザ(EPMA)分析の結果の図、図3には試験例1で使用した貝殻粉末含有石炭灰固化物とその観察部位の模式状況、図4には実施例1の貝殻粉末含有石炭灰固化物の高湿養生後の固化物表面(固化体表面)及び固化物内部(固化体内部)のSEM(Scanning Electron Microscope)写真、図5には実施例1の石炭灰含有率(FA)が60質量%の固化物の被膜と内部の結晶構造の定性結果を表すX線回折(XRD)の図、図6には実施例1の貝殻粉末含有石炭灰固化物のかさ密度と石炭灰含有率の関係を示してある。
【0073】
実施例1の貝殻粉末含有石炭灰固化物を樹脂で固めた試料を電子線プローブマイクロアナライザ(EPMA: Electron Probe Micro-Analysis)で分析した結果は図2の通りであり、この試料は図3に示すように円筒ペレット状に固めたものであり、断面の点線枠内を観察した。
【0074】
この結果、表面にカルシウム成分が多量に含有する被膜が形成されていることが確認された。また、緻密な固化体外表面を有し、固化体内部に貝殻、石炭灰が含まれていることが確認された。つまり、室温・高湿養生後の固化体は、Ca炭酸塩の緻密な表面層で覆われており(図4)、水中養生を経て大気乾燥後(材齢29日)では、Calcite(CaCO)と微量のモノサルフェート水和物の炭酸塩などで覆われていることがわかった。
【0075】
また、被膜について、X線回折(XRD)で結晶構造解析したところ、被膜は炭酸カルシウムなどのカルシウム炭酸塩などからなることが判明した。即ち、図5に示すように、石炭灰含有率(FA)が60質量%の固化物の内部は未反応の原料や炭酸塩化していない水和物が多く検出され(△)、一方、被膜部分についてはこれらが炭酸塩化した後に生成するCaCO等が多く観られ(○)、表面が炭酸塩化していることが確認された。尚、石炭灰含有率(FA)が60質量%の固化物は大気養生後(材齢22日)のものである。
【0076】
図6に示すように、実施例1の貝殻粉末含有石炭灰固化物のかさ密度(g/cm3)は、石炭灰含有率(FA:質量%)を70質量%程度まで、緻密でかつ高強度な多孔体となる1.6g/cm3程度を維持していることがわかった。このため、軽砂として利用できることが確認できた。
【0077】
(試験例2)
図7には実施例4の貝殻粉末含有石炭灰固化物のpHの状況、図8には実施例4の貝殻粉末含有石炭灰固化物の5つのサンプルに対する圧壊強度を示してある。
【0078】
図7に示すように、実施例4の貝殻粉末含有石炭灰固化物(材齢29日)は、日数が経過しても水中に浸漬後のpHが8から8.5の低い値に安定していることがわかった。これは、貝殻粉末含有石炭灰固化物の表面が化学的に安定な炭酸塩であること、固化体内部からカルシウムイオンが溶出しても、気中のCO2と反応し、固化体表面あるいは水中で炭酸塩化するため、pHを低く抑えることができるためである。
【0079】
また、図8に示す貝殻粉末含有石炭灰固化物は、石炭灰含有率(FA)が70質量%、かさ密度が1.9g/cm3の固化体である。いずれの固化体も圧壊強度80N/mm2の大きな強度を有していることがわかった。このため、軽砂として利用できる強度を有することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の貝殻粉末含有石炭灰固化物は、養浜用の砂礫や路盤材(路床材、下層路盤材、上層路盤材等)等の他、コンクリート用骨材、アスファルト混合物用骨材、埋め戻し材などに利用可能ある。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭灰、貝殻粉末、石灰類を含有する材料を加圧成型した状態で水中養生を実施し、水和反応させたものであり、表面に炭酸塩からなる被膜を有することを特徴とする貝殻粉末含有石炭灰固化物。
【請求項2】
石炭灰、貝殻粉末、石灰類を含有する材料を加圧成型した状態で高湿養生を実施し、水和反応させたものであり、表面に炭酸塩からなる被膜を有することを特徴とする貝殻粉末含有石炭灰固化物。
【請求項3】
石炭灰、貝殻粉末、石灰類を含有する材料を加圧成型した状態で高湿養生、次いで水中養生を実施し、水和反応させたものであり、表面に炭酸塩からなる被膜を有することを特徴とする貝殻粉末含有石炭灰固化物。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載の貝殻粉末含有石炭灰固化物において、さらに石膏類を含有する材料を用いることを特徴とする貝殻粉末含有石炭灰固化物。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載の貝殻粉末含有石炭灰固化物において、前記石灰類として、貝殻粉末を焼成したものを用いることを特徴とする貝殻粉末含有石炭灰固化物。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載の貝殻粉末含有石炭灰固化物において、混合物中の前記石炭灰の含有量が20〜80質量%であることを特徴とする貝殻粉末含有石炭灰固化物。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項に記載の貝殻粉末含有石炭灰固化物において、前記貝殻粉末が、ホタテ貝殻およびカキ貝殻の少なくとも一種であり、未焼成のものであることを特徴とする貝殻粉末含有石炭灰固化物。
【請求項8】
石炭灰、貝殻粉末、石灰類を含む水和物の表面に、炭酸塩からなる被膜を有してなることを特徴とする貝殻粉末含有石炭灰固化物。
【請求項9】
石炭灰、貝殻粉末、石灰類を含む材料を湿式混合して混合物を得る工程と、この混合物から水分を低減し粘土状混合物とした後、加圧成型して成型物を得る工程と、この成型物を高湿環境下に保持して水和反応させて水和反応物とする工程と、この水和反応物を水中養生して水中養生物を得る工程と、水中養生物を大気中に放置して石炭灰固化物を得る工程とを具備することを特徴とする貝殻粉末含有石炭灰固化物の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の貝殻粉末含有石炭灰固化物の製造方法において、さらに石膏類を材料として用いることを特徴とする貝殻粉末含有石炭灰固化物の製造方法。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の貝殻粉末含有石炭灰固化物の製造方法において、前記石灰類として、貝殻粉末を焼成したものを用いることを特徴とする貝殻粉末含有石炭灰固化物の製造方法。
【請求項12】
請求項9〜11の何れか一項に記載の貝殻粉末含有石炭灰固化物の製造方法において、前記混合物の前記石炭灰の含有量が20〜80質量%であることを特徴とする貝殻粉末含有石炭灰固化物の製造方法。
【請求項13】
請求項9〜12の何れか一項に記載の貝殻粉末含有石炭灰固化物の製造方法において、前記貝殻粉末が、ホタテ貝殻およびカキ貝殻の少なくとも一種であり、未焼成のものであることを特徴とする貝殻粉末含有石炭灰固化物の製造方法。
【請求項14】
請求項9〜13の何れか一項に記載の貝殻粉末含有石炭灰固化物の製造方法において、前記粘土状混合物の水分含有量を18〜24質量%とすることを特徴とする貝殻粉末含有石炭灰固化物の製造方法。
【請求項15】
請求項9〜14の何れか一項に記載の貝殻粉末含有石炭灰固化物の製造方法において、前記高湿環境が、相対湿度が85%RH以上の室温常圧下の環境であることを特徴とする貝殻粉末含有石炭灰固化物の製造方法。
【請求項16】
請求項9〜15の何れか一項に記載の貝殻粉末含有石炭灰固化物の製造方法において、前記水中養生は養生水を交換することなく行うことを特徴とする貝殻粉末含有石炭灰固化物の製造方法。
【請求項17】
請求項9〜16の何れか一項に記載の貝殻粉末含有石炭灰固化物の製造方法において、前記石炭灰固化物は、表面に炭酸塩からなる被膜を有するものであることを特徴とする貝殻粉末含有石炭灰固化物の製造方法。


【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−263210(P2009−263210A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73975(P2009−73975)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】