説明

負圧式倍力装置

【課題】 低入力作動時に反動部材からプランジャに反力を伝達するスプリングユニットのスプリングが、プランジャに引っ掛かるのを防止し、異音発生や作動不良を防止する。
【解決手段】 プランジャ32は、反動部材34から反力を受ける前方軸部32aとフランジ部32bを有する。反動部材34とフランジ部32b間にあるスプリングユニット40は、プランジャの前方軸部32aに組付けられ前端部で反動部材43に係合する筒状の第1保持部材41と、第1保持部材41の後端部外周に組付けられ第1保持部材41より後方に延出する後端部でフランジ部32bと係合する第2保持部材42と、第1保持部材41の外周に組付けられ両保持部材41,42間で保持される皿ばね43を備える。反動部材43から第1保持部材41に作用する反力が皿ばね43の荷重以上になると、第1保持部材41が皿ばね43を撓ませて移動し、バルブボデー22の段部22gに係合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウジング内にて可動隔壁によって区画される定圧室と変圧室との間に生じる気圧差により、入力が増大されて出力するように構成した負圧式倍力装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の負圧式倍力装置の一つとして、ハウジング内を定圧室と変圧室とに区画する可動隔壁に連結されたバルブボデーが軸孔を備えていて、この軸孔内には、前記バルブボデーに対して進退可能な入力軸と、この入力軸の先端部に連結されたプランジャと、このプランジャの後端に設けた弁座を要素とする弁機構が組み込まれるとともに、前記プランジャの先端部が係合可能な反動部材と、この反動部材の前面に後端部にて係合する出力軸が組付けられていて、前記入力軸に入力が作用することにより、前記出力軸に出力が生じて、この出力の反力が前記反動部材から前記バルブボデーの端面と前記プランジャに伝達されるように構成したものがあり、例えば下記の特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開平10−230840号公報
【0003】
上記した特許文献1に記載されている負圧式倍力装置においては、前記プランジャが、前記反動部材から直接反力を受ける部分と、前記反動部材から反力伝達・遮断機構を介して反力を受ける部分を有していて、前記反力伝達・遮断機構は、前記プランジャの前方軸部に軸方向へ移動可能に嵌合されて前端部にて前記反動部材に係合可能で後端外周縁部にて前記バルブボデーに設けた段部に係合可能なスリーブと、このスリーブより後方にて前記プランジャに固定されたばね受と、前記プランジャの外周に組付けられて前記ばね受と前記スリーブ間で所定の荷重に保持される圧縮ばねを備えている。
【0004】
このため、上記した特許文献1の負圧式倍力装置においては、スリーブが反動部材から受ける反力により圧縮ばねの荷重に抗して後方に移動してバルブボデーの段部に係合するまでの低入力作動時、プランジャが反動部材から直接反力を受けるとともに反動部材から反力伝達・遮断機構を介して反力を受ける。しかし、スリーブがバルブボデーの段部に係合した後の高入力作動時には、プランジャが反動部材から直接反力を受けるものの、反動部材から反力伝達・遮断機構を介して反力を受けなくなる。したがって、この負圧式倍力装置においては、低入力作動時に低サーボ比で作動し、高入力作動時に高サーボ比で作動する。
【0005】
ところで、上記した特許文献1の負圧式倍力装置においては、反力伝達・遮断機構におけるスリーブが圧縮ばねの荷重に抗して後方に移動するとき、圧縮ばねの中間部がプランジャに固定されたばね受やプランジャ自体に引っ掛かる(係合する)おそれがあって、異音の発生や円滑な作動を阻害するおそれがある。また、反力伝達・遮断機構のばね受、圧縮ばね、スリーブは、プランジャに対して個別に組付ける必要があって、組付性が悪いものである。
【発明の開示】
【0006】
本発明は、上記した課題を解決すべくなされたものであり、上記した形式の負圧式倍力装置において、前記プランジャは、前記反動部材からスプリングユニットを介して反力を受ける部分と、前記反動部材から前記スプリングユニットを介さずに反力を受ける部分とを有していて、前記スプリングユニットは、前記プランジャの前方軸部に軸方向へ移動可能に嵌合されて前端部にて前記反動部材に係合する筒状の第1保持部材と、この第1保持部材の後端部外周に軸方向へ移動可能で抜け止め固定されて前記第1保持部材より後方に延出する後端部にて前記プランジャの一部と係合する第2保持部材と、前記第1保持部材の筒部外周に組付けられて前記両保持部材間で所定の荷重に保持されるスプリングを備えており、前記反動部材から前記第1保持部材の前端部に作用する反力が前記スプリングの荷重以上になると前記第1保持部材が前記スプリングを撓ませて軸方向に移動し前記バルブボデーに設けた段部に係合することに特徴がある。
【0007】
この負圧式倍力装置においては、第1保持部材が反動部材から受ける反力によりスプリングの荷重に抗して軸方向に移動してバルブボデーの段部に係合するまでの低入力作動時、プランジャが反動部材からスプリングユニットを介さずに直接的に反力を受けるとともに反動部材からスプリングユニットを介して反力を受ける。しかし、第1保持部材がバルブボデーの段部に係合した後の高入力作動時には、プランジャが反動部材からスプリングユニットを介さずに直接的に反力を受けるものの、反動部材からスプリングユニットを介して反力を受けなくなる。したがって、この負圧式倍力装置においては、低入力作動時に低サーボ比で作動し、高入力作動時に高サーボ比で作動する。
【0008】
ところで、この負圧式倍力装置においては、スプリングユニットの第1保持部材が、筒状に形成されていて、プランジャの前方軸部に軸方向へ移動可能に嵌合されている。また、スプリングユニットの第2保持部材が、第1保持部材の後端部外周に軸方向へ移動可能で抜け止め固定されている。このため、第1保持部材の筒部外周に組付けられて前記両保持部材間で所定の荷重に保持されるスプリングは、第1保持部材が同スプリングを撓ませて軸方向に移動するときに、その中間部を第2保持部材やプランジャに引っ掛けることがない。したがって、この負圧式倍力装置においては、スプリングの引っ掛かりによる異音発生や作動不良を防止することが可能であり、静粛で円滑な作動を保証することが可能である。
【0009】
また、この負圧式倍力装置においては、スプリングユニットの第2保持部材が、第1保持部材の後端部外周に軸方向へ移動可能で抜け止め固定されており、スプリングが第1保持部材の筒部外周に組付けられて前記両保持部材間で所定の荷重に保持されている。このため、当該装置の組付に際して、第1保持部材の筒部外周にスプリングを組付けた後に、第1保持部材の後端部外周に第2保持部材を組付けて抜け止め固定することが可能である。これによって、スプリングユニットの第1保持部材、第2保持部材およびスプリングを一体化することが可能であって、スプリングユニットの組付性を改善することが可能である。
【0010】
また、本発明の実施に際して、前記スプリングは皿ばねであることも可能である。この場合には、皿ばねのバネ定数が皿ばねの変形形態によって変化する特性を利用して、高荷重・低バネ定数を容易に実現可能である。したがって、当該装置においては、皿ばねの荷重が高くなる高サーボ比領域での急操作時に、バルブボデーに対してプランジャが大きく前進するため、弁機構から変圧室への大気の導入が容易になって作動応答性を高めることが可能である。
【0011】
また、本発明に実施に際して、前記第1保持部材の筒部外周に前記スプリングが組付けられ、前記第2保持部材が前記第1保持部材の後端部外周に嵌合され、前記第1保持部材の後端が径外方に塑性変形されることにより、前記第1保持部材に対して前記スプリングおよび前記第2保持部材が抜け止めされて、前記スプリングユニットが一体化されることも可能である。この場合には、スプリングユニットの構成をシンプルとして、スプリングユニットを安価に構成することが可能である。
【0012】
また、本発明に実施に際して、前記プランジャの先端部が前記プランジャの他の部分とは別部材で構成されていて、この別部材が段付円柱形状とされていることも可能である。この場合には、別部材で構成されたプランジャ先端部が反動部材から反力を受ける受圧面積と、スプリングユニットの第1保持部材が反動部材から反力を受ける受圧面積を、別部材で構成されたプランジャ先端部の形状を変更するのみで、変更設定することが可能であって、低入力作動時に得られる低サーボ比と、高入力作動時に得られる高サーボ比を容易に変更設定することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1〜図3は本発明を車両用の負圧式倍力装置に実施した実施形態を示していて、この実施形態の負圧式倍力装置においては、ハウジング10に可動隔壁21とバルブボデー22を備えるパワーピストン20が組付けられていて、ハウジング10内が可動隔壁21により定圧室R1と変圧室R2とに区画されている。
【0014】
ハウジング10は、図1に示したように、前方シェル11と後方シェル12を備えるとともに、定圧室R1を負圧源(例えば、図示省略のエンジンの吸気マニホールド)に常時連通させるための負圧導入管13を備えている。このハウジング10は、同ハウジング10と可動隔壁21を気密的に貫通する複数本(図1では1本が示されている)のタイロッド14の後端部に設けられたねじ部14aにて静止部材、すなわち車体(図示省略)に固定されるように構成されている。なお、タイロッド14の前端部に設けられたねじ部14bには、ブレーキマスタシリンダ100が組付けられている。
【0015】
ブレーキマスタシリンダ100は、そのシリンダ本体101の後端部101aが前方シェル11に形成された中心筒部11aを貫通して定圧室R1内に気密的に突入し、またシリンダ本体101に形成されたフランジ部101bの後面が前方シェル11の前面に当接している。また、ブレーキマスタシリンダ100のピストン102は、シリンダ本体101から後方に突出して定圧室R1内に突入しており、後述する出力軸35の先端ロッド部35aによって前方に押動されるように構成されている。
【0016】
パワーピストン20の可動隔壁21は、金属製で環状のプレート21aと、ゴム製で環状のダイアフラム21bとからなり、ハウジング10内にて前後方向(パワーピストン20の軸方向)へ移動可能に設置されている。ダイアフラム21bは、その外周縁に形成された環状の外周ビード部にて、後方シェル12の外周縁に設けられた折り返し部と前方シェル11とにより気密的に挟持されている。また、ダイアフラム21bは、その内周縁に形成された環状の内周ビード部にて、バルブボデー22の前端部外周に形成した環状の溝にプレート21aの内周部とともに気密的に固定されている。
【0017】
パワーピストン20のバルブボデー22は、可動隔壁21の内周部に連結された樹脂製の中空体であって、円筒状に形成された中間部位にてハウジング10の後方シェル12に気密的かつ前後方向へ移動可能に組付けられており、ハウジング10の前方シェル11との間に介装されたリターンスプリング15によって後方に向けて付勢されている。なお、バルブボデー22のハウジング10外に突出する部位は、後端に複数の通気孔19aを有するブーツ19によって被覆保護されている。
【0018】
また、バルブボデー22には、図2に示したように、前後方向にて貫通する段付の軸孔22aが形成されるとともに、この軸孔22aの中間段部に後端にて連通するとともに前端にて定圧室R1に連通する連通孔22bと、軸孔22aの前方部分に略直交していてキー部材39を外周から挿通可能なキー取付孔22cが形成されている。
【0019】
上記した軸孔22aには、入力軸31とプランジャ32が組付けられるとともに、弁機構VとフィルタF1,F2が組付けられている。また、上記した軸孔22aには、入力軸31とプランジャ32に対して、当接部材33、反動部材34および出力軸35が同軸的に組付けられるとともに、プランジャ32の先端部および当接部材33に対して、スプリングユニット40が同心的に組付けられている。
【0020】
入力軸31は、バルブボデー22に対して前進後退可能であり、球状先端部31aにてプランジャ32の受承連結部32cに関節状に連結され、後端ねじ部31b(図1参照)にてヨーク111を介してブレーキペダル110に連結されていて、ブレーキペダル110に作用する踏力を入力として前方に向けて受けるように構成されている。
【0021】
プランジャ32は、その前方軸部32aにて当接部材33を介して反動部材34に係合可能であるとともに、その中間部に形成した環状フランジ部32bにてスプリングユニット40を介して反動部材34に係合可能であって、環状フランジ部32bが反動部材34からスプリングユニット40を介して出力の反力を受ける部分であり、前方軸部32aが反動部材34からスプリングユニット40を介さずに出力の反力を直接的に受ける部分である。また、プランジャ32の後端には、弁機構Vの環状大気制御弁部51aに離座可能に着座する環状大気弁座32dが形成されている。
【0022】
当接部材33は、プランジャ32の前方軸部32aより大径の頭部33aを有していて、段付円柱形状に形成されており、バルブボデー22に反動部材34と出力軸35が組付けられていない状態にて、バルブボデー22の前方からスプリングユニット40に対して脱着可能である。また、当接部材33は、図示のように組付けられた状態にて、プランジャ32によって前方に押されることにより反動部材34と係合して、反動部材34から受ける出力の反力をプランジャ32の前方軸部32aに伝達するようになっている。
【0023】
反動部材34は、リアクションゴムディスクであり、出力軸35の後方円筒部35b内に収容されて前面34a全体にて出力軸35の後端部後面35cに係合(当接)した状態にて、バルブボデー22の前端部に組付けられている。この反動部材34は、その後面34bにてバルブボデー22の円環状端面22dとスプリングユニット40における第1保持部材41の円環状前面41a1と当接部材33の頭部33a前面に当接可能となっている。
【0024】
上記したバルブボデー22の円環状端面22dとスプリングユニット40における第1保持部材41の円環状前面41a1と当接部材33の頭部33a前面は、当該倍力装置の作動時において反動部材34の後面34bと当接して出力の反力を受ける部分であって、円環状端面22dの受圧面積はA1であり、円環状前面41a1の受圧面積はA2であり、当接部材33の頭部33a前面の受圧面積はA3である。
【0025】
出力軸35は、反動部材34とともにバルブボデー22に前後方向へ移動可能に組付けられていて、図1に示したように、先端部に組付けた先端ロッド部35aにてブレーキマスタシリンダ100におけるピストン102の係合部に押動可能に当接しており、制動作動時にはブレーキマスタシリンダ100のピストン102から受ける反力を反動部材34に伝達するようになっている。
【0026】
キー部材39は、パワーピストン20のバルブボデー22に対するプランジャ32の前後方向移動を規定する機能と、ハウジング10に対するパワーピストン20の後方への移動限界位置を規定する機能を有していて、パワーピストン20とプランジャ32のそれぞれに対してパワーピストン20の軸方向に相対移動可能に組付けられている。
【0027】
弁機構Vは、プランジャ32に形成した環状大気弁座32dに対して着座・離座可能な環状大気制御弁部51aを有していて、変圧室R2と大気を連通・遮断可能であり、またバルブボデー22の連通孔22bに対応して形成した負圧弁座22eに対して着座・離座可能な環状負圧制御弁部51bを有していて、定圧室R1と変圧室R2を連通・遮断可能である。
【0028】
環状大気制御弁部51aと環状負圧制御弁部51bは、筒状の弁体51に一体的に形成されていて、スプリング52によって環状大気弁座32dと負圧弁座22eに向けて(前方に向けて)付勢されている。なお、筒状の弁体51は、リテーナ54を介して入力軸31の段部に係止するスプリング53によって前方に向けて付勢されていて、バルブボデー22における軸孔22aの定位置(段部)に保持されている。
【0029】
かかる弁機構Vの構成によって、変圧室R2は、入力軸31およびプランジャ32のバルブボデー22に対する前後方向の移動に応じて、定圧室R1または大気に連通可能である。すなわち、図1〜図3に示した入力軸31およびプランジャ32がバルブボデー22に対して前方へ移動して、環状負圧制御弁部51bが負圧弁座22eに着座し、環状大気弁座32dが環状大気制御弁部51aから離座したときには、変圧室R2が定圧室R1との連通を遮断されて大気に連通する。このときには、ブーツ19の通気孔19a、フィルタF1,F2、弁体51の内部、環状大気弁座32dと環状大気制御弁部51a間の隙間、バルブボデー22に設けた通孔22f(図2参照)とキー取付孔22c等を通して、変圧室R2に大気が流入する。
【0030】
また、図1〜図3に示したように、環状負圧制御弁部51bが負圧弁座22eから離座し、環状大気弁座32dが環状大気制御弁部51aに着座している状態では、変圧室R2が大気との連通を遮断されて定圧室R1に連通する。このときには、バルブボデー22に設けたキー取付孔22cと通孔22f、環状負圧制御弁部51bと負圧弁座22e間の隙間、連通孔22b等を通して、変圧室R2から定圧室R1に空気が吸引される。
【0031】
ところで、この実施形態の負圧式倍力装置においては、図3にて拡大して示したように、スプリングユニット40が、プランジャ32の前方軸部32aに組付けた筒状の第1保持部材41と、この第1保持部材41の後端部41c外周に組付けた環状の第2保持部材42と、第1保持部材41の中間部41b外周に組付けられて両保持部材41,42間で所定の取付荷重f1(図4参照)に保持される4枚の皿ばね43と、皿ばね43間に介装した環状プレート44によって構成されている。
【0032】
第1保持部材41は、第2保持部材42より大径に形成された環状の前端部41aと、第2保持部材42より小径に形成されて外周に皿ばね43、環状プレート44および第2保持部材42を組付けることが可能な円筒状の中間部41bと、第2保持部材42を保持する環状の後端部41cを有していて、プランジャ32の前方軸部32aに軸方向へ移動可能に嵌合されている。この第1保持部材41では、第2保持部材42より大径に形成された前端部41aの前面41a1にて反動部材34に係合可能であり、また前端部41aの外周部後面41a2にてバルブボデー22の段部22gに係合可能である。
【0033】
第2保持部材42は、前端部42aにて第1保持部材41の後端部41c外周に軸方向へ移動可能に組付けられていて、第1保持部材41の後端部41c後端を径外方に塑性変形させることにより抜け止め固定されている。また、第2保持部材42は、前端部42aの前面にて皿ばね43に当接していて、皿ばね43によって後方に向けて付勢されている。また、第2保持部材42は、第1保持部材41より後方に延出する後端部42bにてプランジャ32の環状フランジ部32bと係合している。
【0034】
4枚の皿ばね43は、環状プレート44の前後にそれぞれ2枚が組付けられていて、その特性(撓み量δと荷重fの関係)は図4に示したとおりのものであって、図1〜図3に示した状態(非作動状態)の撓み量δは所定値δ1であり、荷重fは所定値(取付荷重)f1である。この皿ばね43は、当該倍力装置の作動時において反動部材43から第1保持部材41の前端部41aに作用する反力が上記した所定値f1以上になると、撓み量δを図4の値δ2に向けて増大させて、第1保持部材41の後方への移動を許容する。これにより、第1保持部材41が皿ばね43を撓ませて後方に移動しバルブボデー22の段部22gに係合して受承されるようになる。
【0035】
上記した実施形態の負圧式倍力装置においては、その作動時において、ブレーキペダル110に作用する踏力が小さくて、入力軸31,プランジャ32,当接部材33およびスプリングユニット40等が前進する際の入力が小さいとき(低入力作動時)には、反動部材34からスプリングユニット40に作用する反力が小さくて、スプリングユニット40の第1保持部材41はバルブボデー22の段部22gに係合するまで後退することはない。
【0036】
このため、このときには、プランジャ32が反動部材34から当接部材33を介して出力の反力を受けるとともに、反動部材34からスプリングユニット40を介して出力の反力を受ける。したがって、このときには、当該倍力装置が低サーボ比(A1+A2+A3)/(A2+A3)で作動し、入力と出力の関係は図5の点a〜点bに示したように緩勾配となる。かかる作動は、当該倍力装置を装備する車両において、電力回生効率を高めるブレーキシステムが採用されている場合、好適に実施し得る。
【0037】
また、当該倍力装置の作動時において、ブレーキペダル110に作用する踏力が大きくなり、入力軸31,プランジャ32,当接部材33およびスプリングユニット40等が前進する際の入力が大きくなったとき(高入力作動時)には、反動部材34からスプリングユニット40に作用する反力が大きくなって、スプリングユニット40の第1保持部材41はバルブボデー22の段部22gに係合するまで皿ばね43を撓ませて後退する。
【0038】
このため、このときには、プランジャ32が反動部材34から当接部材33を介して出力の反力を受けるものの、反動部材34からスプリングユニット40を介して出力の反力を受けなくなる。したがって、このときには、当該倍力装置が高サーボ比(A1+A2+A3)/(A3)で作動し、入力と出力の関係は図5の点b〜点cに示したように急勾配となる。
【0039】
また、上記した高入力作動時において、ブレーキペダル110を急操作したときには、入力軸31,プランジャ32,当接部材33等がバルブボデー22に対して前進するが、このときの反動は、反動部材34から当接部材33を介してプランジャ32に伝達される反動と、スプリングユニット40の皿ばね43からプランジャ32に伝達される反動である。しかし、このときの皿ばね43からの反動は、皿ばね43の作動領域が図4に示したように高荷重・低バネ定数の領域(撓み量δの変化に対する荷重fの変化量が小さい領域)としてあるため、小さいものである。したがって、このときには、ブレーキペダル110の急操作によってプランジャ32をバルブボデー22に対して大きく前進させることが可能であり、環状大気弁座32dと環状大気制御弁部51a間の隙間(吸気開弁)を大きくして、弁機構Vから変圧室R2への大気の導入を容易とし、皿ばね43の荷重fが高くなる高サーボ比領域での急操作時の作動応答性を高めることが可能である。
【0040】
ところで、この実施形態の負圧式倍力装置においては、スプリングユニット40の第1保持部材41が、筒状に形成されていて、プランジャ32の前方軸部32aに軸方向へ移動可能に嵌合されている。また、スプリングユニット40の第2保持部材42が、第1保持部材41の後端部外周に軸方向へ移動可能で抜け止め固定されている。このため、第1保持部材41の筒部外周に組付けられて両保持部材41,42間で所定の荷重f1に保持される皿ばね43は、第1保持部材41が皿ばね43を撓ませて軸方向に移動するときに、その中間部を第2保持部材42やプランジャ32に引っ掛けることがない。したがって、この負圧式倍力装置においては、皿ばね43の引っ掛かりによる異音発生や作動不良を防止することが可能であり、静粛で円滑な作動を保証することが可能である。
【0041】
また、この実施形態の負圧式倍力装置においては、スプリングユニット40の第2保持部材42が、第1保持部材41の後端部外周に軸方向へ移動可能で抜け止め固定されており、皿ばね43が第1保持部材41の筒部外周に組付けられて両保持部材41,42間で所定の荷重f1に保持されている。このため、当該装置の組付に際して、第1保持部材41の筒部外周に皿ばね43とプレート44を組付けた後に、第1保持部材41の後端部外周に第2保持部材42を組付けて抜け止め固定することが可能である。これによって、スプリングユニット40の構成部材を一体化することが可能であって、スプリングユニット40の組付性を改善することが可能である。
【0042】
また、この実施形態の負圧式倍力装置においては、第1保持部材41の筒部外周に皿ばね43とプレート44が組付けられ、第2保持部材42が第1保持部材41の後端部外周に嵌合されて状態にて、第1保持部材41の後端が径外方に塑性変形されることにより、第1保持部材41に対して皿ばね43とプレート44および第2保持部材42が抜け止めされて、スプリングユニット40が一体化されている。これにより、スプリングユニット40の構成をシンプルとして、スプリングユニット40を安価に構成することが可能である。
【0043】
また、この実施形態の負圧式倍力装置においては、プランジャ32の先端部がプランジャ32の他の部分とは別部材である当接部材33で構成されていて、この当接部材33が段付円柱形状とされている。このため、当接部材33で構成されたプランジャ先端部が反動部材34から反力を受ける受圧面積A3と、スプリングユニット40の第1保持部材41が反動部材34から反力を受ける受圧面積A2を、当接部材33で構成されたプランジャ先端部の形状を変更するのみで、変更設定することが可能であって、低入力作動時に得られる低サーボ比(A1+A2+A3)/(A2+A3)と、高入力作動時に得られる高サーボ比(A1+A2+A3)/(A3)を容易に変更設定することが可能である。
【0044】
上記した実施形態においては、スプリングユニット40の両保持部材41,42間にて所定の荷重で保持されるスプリングとして皿ばね43を採用して実施したが、同スプリングユニットのスプリングとして、図6に示したコイルスプリング43Aを採用すること、または図7に示したゴムばね43Bを採用することも可能である。
【0045】
また、上記した実施形態においては、スプリングユニット40における第1保持部材41の筒部外周に皿ばね43とプレート44が組付けられ、第2保持部材42が第1保持部材41の後端部外周に嵌合された状態にて、第1保持部材41の後端が径外方に塑性変形されることにより、第1保持部材41に対して皿ばね43とプレート44および第2保持部材42が抜け止めされて、スプリングユニット40が一体化されているが、スプリングユニット40における第1保持部材41の筒部外周に皿ばね43とプレート44が組付けられ、第2保持部材42が第1保持部材41の後端部外周に嵌合された状態にて、第1保持部材41の後端部外周に嵌合固定されるクリップを用いて、第1保持部材41に対して皿ばね43とプレート44および第2保持部材42が抜け止めされるように構成して実施することも可能である。
【0046】
また、上記実施形態においては、プランジャ32の先端部がプランジャ32の他の部分とは別部材である当接部材33で構成されるようにして実施したが、プランジャ自体の先端部が反動部材34にまで延出して、同プランジャが反動部材34から直接反力を受けるように構成して実施することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明による負圧式倍力装置の一実施形態を示す断面図である。
【図2】図1に示したバルブボデーとこれに組付けられた各部材の拡大断面図である。
【図3】図2に示したプランジャ、当接部材、反動部材、出力軸、スプリングユニット、バルブボデー等の要部拡大断面図である。
【図4】図1〜図3に示した皿ばねの特性線図である。
【図5】図1に示した負圧式倍力装置にて得られる入出力特性線図である。
【図6】図1〜図3に示したスプリングユニットの第1変形実施形態を示す要部拡大断面図である。
【図7】図1〜図3に示したスプリングユニットの第2変形実施形態を示す要部拡大断面図である。
【符号の説明】
【0048】
10…ハウジング、20…パワーピストン、21…可動隔壁、22…バルブボデー、22a…軸孔、22d…端面、22g…段部、31…入力軸、31a…先端部、32…プランジャ、32a…前方軸部、32b…フランジ部、32c…受承連結部、32d…環状大気弁座、33…当接部材、34…反動部材、35…出力軸、39…キー部材、40…スプリングユニット、41…第1部材、42…第2部材、43…皿ばね、44…プレート、V…弁機構、R1…定圧室、R2…変圧室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング内を定圧室と変圧室とに区画する可動隔壁に連結されたバルブボデーが軸孔を備えていて、この軸孔内には、前記バルブボデーに対して進退可能な入力軸と、この入力軸の先端部に連結されたプランジャと、このプランジャの後端に設けた弁座を要素とする弁機構が組み込まれるとともに、前記プランジャの先端部が係合可能な反動部材と、この反動部材の前面に後端部にて係合する出力軸が組付けられていて、前記入力軸に入力が作用することにより、前記出力軸に出力が生じて、この出力の反力が前記反動部材から前記バルブボデーの端面と前記プランジャに伝達されるように構成した負圧式倍力装置において、
前記プランジャは、前記反動部材からスプリングユニットを介して反力を受ける部分と、前記反動部材から前記スプリングユニットを介さずに反力を受ける部分とを有していて、前記スプリングユニットは、前記プランジャの前方軸部に軸方向へ移動可能に嵌合されて前端部にて前記反動部材に係合する筒状の第1保持部材と、この第1保持部材の後端部外周に軸方向へ移動可能で抜け止め固定されて前記第1保持部材より後方に延出する後端部にて前記プランジャの一部と係合する第2保持部材と、前記第1保持部材の筒部外周に組付けられて前記両保持部材間で所定の荷重に保持されるスプリングを備えており、前記反動部材から前記第1保持部材の前端部に作用する反力が前記スプリングの荷重以上になると前記第1保持部材が前記スプリングを撓ませて軸方向に移動し前記バルブボデーに設けた段部に係合することを特徴とする負圧式倍力装置。
【請求項2】
請求項1に記載の負圧式倍力装置において、前記スプリングは皿ばねであることを特徴とする負圧式倍力装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の負圧式倍力装置において、前記第1保持部材の筒部外周に前記スプリングが組付けられ、前記第2保持部材が前記第1保持部材の後端部外周に嵌合され、前記第1保持部材の後端が径外方に塑性変形されることにより、前記第1保持部材に対して前記スプリングおよび前記第2保持部材が抜け止めされて、前記スプリングユニットが一体化されていることを特徴とする負圧式倍力装置。
【請求項4】
請求項1、2または3に記載の負圧式倍力装置において、前記プランジャの先端部が前記プランジャの他の部分とは別部材で構成されていて、この別部材が段付円柱形状とされていることを特徴とする負圧式倍力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−56429(P2006−56429A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−241501(P2004−241501)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】