負圧式倍力装置
【課題】 負圧式倍力装置にて、作動応答性を維持しつつ、吸気音を低減すること。
【解決手段】 負圧式倍力装置は、ハウジング10に組付けられた可動隔壁20とバルブピストン30を備えるとともに、バルブピストン30に組付けられた入力部材40と出力部材50と反力部材60と制御弁70とキー部材80等を備えている。制御弁70は、入力部材40に設けた環状の大気弁部41ａとにより変圧室Ｒ２と大気との連通・遮断を制御する大気制御弁部70ｂと、バルブピストン30に設けた負圧弁座30ｉとにより変圧室Ｒ２と負圧室Ｒ１との連通・遮断を制御する負圧制御弁部70ａを有している。大気弁部41ａおよび大気制御弁部70ｂの前方にて、入力部材40とバルブピストン30間に形成されている空気通路Ｐａには、大気弁部41ａの外径より小径の筒状支持部30ｎが設けられるとともに、大気弁部41ａの外径と略同一外径で大気弁部41ａと一体的な筒状整流部44が設けられている。
【解決手段】 負圧式倍力装置は、ハウジング10に組付けられた可動隔壁20とバルブピストン30を備えるとともに、バルブピストン30に組付けられた入力部材40と出力部材50と反力部材60と制御弁70とキー部材80等を備えている。制御弁70は、入力部材40に設けた環状の大気弁部41ａとにより変圧室Ｒ２と大気との連通・遮断を制御する大気制御弁部70ｂと、バルブピストン30に設けた負圧弁座30ｉとにより変圧室Ｒ２と負圧室Ｒ１との連通・遮断を制御する負圧制御弁部70ａを有している。大気弁部41ａおよび大気制御弁部70ｂの前方にて、入力部材40とバルブピストン30間に形成されている空気通路Ｐａには、大気弁部41ａの外径より小径の筒状支持部30ｎが設けられるとともに、大気弁部41ａの外径と略同一外径で大気弁部41ａと一体的な筒状整流部44が設けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【０００１】
本発明は、車両用ブレーキ装置に採用される負圧式倍力装置に関するものである。
【背景技術】
【０００２】
この種の負圧式倍力装置の一つとして、内部に圧力室を形成するハウジングと、このハウジング内に前進後退可能に組付けられて前記圧力室を前方の負圧室と後方の変圧室とに区画する可動隔壁と、前記ハウジングに前進後退可能に組付けられて前記ハウジング内に収容されている前端部にて前記可動隔壁に結合されたバルブピストンと、このバルブピストン内にて同バルブピストンに対し前進後退可能に設置されかつ外部からの操作力を受ける入力部材と、前記バルブピストンの前端部に組付けられて前記バルブピストンの推進力を外部に出力する出力部材と、前記バルブピストン内にて前記入力部材と前記出力部材間に介装されて前記出力部材に作用する力の反力を前記バルブピストンと前記入力部材に分けて伝達する反力部材とを備えるとともに、前記入力部材に設けた環状の大気弁部とにより前記変圧室と大気との連通・遮断を制御する大気制御弁部と前記バルブピストンに設けた負圧弁座とにより前記変圧室と前記負圧室との連通・遮断を制御する負圧制御弁部を有して前記バルブピストン内に組付けられた制御弁と、前記入力部材と前記バルブピストンに対して前進後退可能に組付けられて前記入力部材の前記バルブピストンに対する前進後退移動の限度を規定するキー部材を備える負圧式倍力装置があり、例えば下記特許文献１に記載されている。なお、後方とは、負圧式倍力装置に対してブレーキペダル側あるいは車両後方側を意味し、前方とは、負圧式倍力装置に対してブレーキマスタシリンダ側あるいは車両前方側を意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【０００３】
【特許文献１】特開２０１０−２３４９５８号公報
【０００４】
上記した特許文献１に記載されている負圧式倍力装置では、前記大気弁部および前記大気制御弁部の前方にて前記入力部材と前記バルブピストン間に形成されて前記大気弁部と前記大気制御弁部間を通して流入する空気を前記変圧室に導く空気通路に、前記大気弁部の外径より径外方に突出しない形状に形成されて前記大気弁部の所定量前方に配置される整流部が設けられている。このため、大気弁部の所定量前方に配置される整流部によって、空気が空気通路を通過する際に、大気弁部の前方にて渦流が発生することが抑制されて、渦流による不具合（空気通路での吸気音の発生）を抑制することが可能である。また、この負圧式倍力装置においては、空気通路に設けられている整流部が、大気弁部の外径より径外方に突出しない形状に形成されているため、空気通路での流路抵抗の増加を抑えることが可能であり、当該負圧式倍力装置の作動応答性を良好に維持することが可能である。
【発明の概要】
【０００５】
しかし、上記した特許文献１に記載されている負圧式倍力装置では、整流部が大気弁部より所定量前方に配置されている。このため、整流部と大気弁部間には、変圧室に導かれる空気によって渦流の発生する空間が存在していて、空気通路での吸気音低減効果に限界があり、更なる改善が要望されていた。
【０００６】
本発明は、上記した要望に応えるべくなされたものであり、上記した負圧式倍力装置において、前記大気弁部および前記大気制御弁部の前方にて前記入力部材と前記バルブピストン間に形成されて前記大気弁部と前記大気制御弁部間を通して流入する空気を前記変圧室に導く空気通路に、
前記大気弁部の外径より小径で前記バルブピストンに同軸的に形成されて前記大気弁部の所定量前方に配置され内周にて前記入力部材の一部を前進後退可能に支持する筒状支持部が設けられるとともに、
この筒状支持部と前記大気弁部間に配置され、前端部が前記筒状支持部の外周に対して前進後退可能に組付けられ、前記大気弁部の外径と略同一外径で、前記大気弁部と一体的に前進後退可能な筒状整流部が、前記大気弁部に対して連続的に設けられている
ことに特徴がある。
【０００７】
この負圧式倍力装置においては、上述した空気通路に、上述した筒状支持部と筒状整流部が設けられていて、大気弁部と筒状整流部間および筒状整流部と筒状支持部間に、渦流の発生する空間が形成されないように構成することができる。このため、大気弁部と大気制御弁部間を通して変圧室に向けて導かれる空気を、大気弁部の外周から筒状整流部の外周に沿って筒状支持部の外周に向けて、渦流を発生させることなく連続的に流動させることができる。したがって、大気弁部の外周から筒状支持部の外周に向けて流れる空気での渦流による不具合（空気通路での吸気音の発生）を無くすことが可能である。
【０００８】
また、この負圧式倍力装置においては、空気通路に設けられている整流部の外径が、大気弁部の外径と略同一であり、大気弁部より径外方に突出しない形状に形成されているため、空気通路での流路抵抗の増加を抑えることが可能であり、当該負圧式倍力装置の作動応答性を良好に維持することが可能である。
【０００９】
また、本発明の実施に際して、前記筒状支持部と前記筒状整流部間には、前記筒状整流部を後方に向けて付勢する付勢部材が設けられていることも可能である。この場合には、付勢部材によって筒状整流部の後端面を大気弁部の前端面に当接した状態に保持することができて、筒状整流部の後端面と大気弁部の前端面間に隙間（渦流の発生空間）が無い状態を弾性的に維持することが可能である。また、この場合には、付勢部材を入力部材のリターンスプリングとしても機能させることが可能である。
【００１０】
また、本発明の実施に際して、前記筒状整流部の前端部外周には、前方に向けて縮径するテーパ面が形成されていることも可能である。この場合には、筒状整流部の前端に形成される段部を小さくすること（或いは無くすこと）ができて、同段部での渦流の発生を抑制する（或いは無くすこと）ことが可能であり、これによっても、空気通路での吸気音の発生を減少させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【００１１】
【図１】本発明による負圧式倍力装置の一実施形態を示す部分破断側面図である。
【図２】図１に示した負圧式倍力装置の要部拡大断面図である。
【図３】本発明による負圧式倍力装置の他の実施形態を示す図２相当の要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【００１２】
以下に、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図１および図２に示した負圧式倍力装置は、ハウジング１０に組付けられた可動隔壁２０とバルブピストン３０を備えるとともに、バルブピストン３０に組付けられた入力部材４０と出力部材５０と反力部材６０と制御弁７０とキー部材８０等を備えている。
【００１３】
ハウジング１０は、図１に示したように、内部に圧力室Ｒｏを形成する前方シェル１１と後方シェル１２を備えていて、内部の圧力室Ｒｏが可動隔壁２０によって負圧導入管１３を通して負圧源（例えば、図示省略のエンジンの吸気マニホールド）に常時連通する前方の負圧室Ｒ１と、この負圧室Ｒ１と大気にそれぞれ連通・遮断する後方の変圧室Ｒ２とに区画されている。このハウジング１０は、後方シェル１２を気密的に貫通する複数本（図１では１本が示されている）のボルト１４と、これに螺着されるナット（図示省略）を用いて、車体（図示省略）に固定されるように構成されている。また、ハウジング１０の前方には、前方シェル１１を気密的に貫通する複数本（図１では１本が示されている）のボルト１５と、これに螺着されるナット１６を用いて、ブレーキマスタシリンダ１００が組付けられている。なお、ボルト１４とボルト１５が一本のボルト（中間部にて可動隔壁２０を気密的に貫通するボルト）で構成されることもある。
【００１４】
可動隔壁２０は、金属製のプレート２１とゴム製のダイアフラム２２とから成り、ハウジング１０内に前進後退可能に組付けられている。ダイアフラム２２は、その外周縁に形成されたビード部にて、後方シェル１２の外周縁に設けられた折り返し部と前方シェル１１とにより気密的に挟持されている。また、ダイアフラム２２は、その内周縁に形成されたビード部にて、バルブピストン３０の前方フランジ部外周に設けられた溝に、プレート２１とともに気密的に固定されている。
【００１５】
図１に示したブレーキマスタシリンダ１００は、そのシリンダ本体１０１の後端部１０１ａが前方シェル１１に形成された中心筒部を貫通して負圧室Ｒ１内に気密的に突入し、またシリンダ本体１０１に形成されたフランジ部１０１ｂの後面が前方シェル１１の前面に当接している。また、ブレーキマスタシリンダ１００のピストン１０２は、シリンダ本体１０１から後方に突出して負圧室Ｒ１内に突入しており、出力部材５０の先端によって前方に押動されるように構成されている。
【００１６】
バルブピストン３０は、ハウジング１０内に収容されている前端部にて可動隔壁２０に結合された中空状のピストンであって、円筒状に形成された部位にてハウジング１０の後方シェル１２に気密的かつ前進後退可能に組付けられており、ハウジング１０の前方シェル１１との間に介装されたスプリング３１によって後方に付勢されている。また、バルブピストン３０の軸心には、図２に示したように、前端面から後端面に向けて、反力室孔３０ａ、反力室孔３０ａより小径のプランジャ先端部収納孔３０ｂ、プランジャ収納孔３０ｃ、プランジャ収納孔３０ｃより大径のプランジャ収容孔３０ｄ、制御弁収納孔３０ｅ、フィルタ収納孔３０ｆ等からなり、前後方向に貫通する軸孔が設けられている。
【００１７】
また、バルブピストン３０には、プランジャ収納孔３０ｃに対応してキー部材挿通孔３０ｇが径方向に設けられている。また、バルブピストン３０には、負圧室Ｒ１と制御弁収納孔３０ｅを連通可能な一対の連通孔３０ｈ（一方は図示省略）が設けられていて、これら各連通孔３０ｈの後端部には制御弁７０の負圧制御弁部７０ａが着座可能な円弧状の負圧弁座３０ｉが形成されている。また、バルブピストン３０には、キー部材８０の軸中央部分を収容する収容孔３０ｊと、この収容孔３０ｊとプランジャ収容孔３０ｄを連通させる円筒状の軸方向連通孔３０ｋと、収容孔３０ｊと軸方向連通孔３０ｋを変圧室Ｒ２に連通させる径方向連通孔３０ｍが形成されている。
【００１８】
入力部材４０は、バルブピストン３０内にて同バルブピストン３０に対し前進後退可能に設置されかつ外部からの操作力（入力）を受ける部材であり、バルブピストン３０のプランジャ先端部収納孔３０ｂから制御弁収納孔３０ｅに収容されてバルブピストン３０に対して軸方向（前後方向）に移動可能なプランジャ４１と、このプランジャ４１に球状先端部４２ａにて関節状に連結されて後端部４２ｂ（図１参照）にてブレーキペダル（図示省略）に連結される入力ロッド４２と、プランジャ４１と反力部材６０間に組付けられている先端部材４３を備えている。先端部材４３は、バルブピストン３０のプランジャ先端部収納孔３０ｂに前進後退移動可能に収容されていて、前端面にて反力部材６０と当接可能で、後端面にてプランジャ４１の前端面と係合・離脱可能（当接可能）である。
【００１９】
プランジャ４１は、図２にて示したように、先端部にてバルブピストン３０のプランジャ先端部収納孔３０ｂの小径部分に軸方向へ摺動可能に組付けられ、中間部にてバルブピストン３０のプランジャ収納孔３０ｃに軸方向へ摺動可能に組付けられていて、バルブピストン３０によってガイド支持されている。また、プランジャ４１は、先端（前端面）にて先端部材４３を介してバルブピストン３０の反力室孔３０ａに収容された反力部材６０に係合可能であり、その後端には制御弁７０の大気制御弁部７０ｂに離座可能に着座する環状の大気弁座４１ａが形成されている。
【００２０】
出力部材５０は、バルブピストン３０の推進力を外部に出力するものであり、反力部材６０とともにバルブピストン３０の反力室孔３０ａに軸方向へ移動可能に組付けられた後方部材５１と、この後方部材５１の先端部に一体的に組付けられた出力ロッド５２によって構成されている。出力ロッド５２の先端は、図１に示したように、ブレーキマスタシリンダ１００におけるピストン１０２の係合部に押動可能に当接している。
【００２１】
反力部材６０は、バルブピストン３０内にて入力部材４０と出力部材５０間に介装されたリアクションゴムディスクであり、その前端面にて出力部材５０における後方部材５１の後端面に当接し、その後端面にて、バルブピストン３０の環状反力受け面３０ｎに当接するとともに、先端部材４３の前端面に当接可能となっていて、出力部材５０に作用する力の反力をバルブピストン３０と入力部材４０（先端部材４３）に分けて伝達可能である。
【００２２】
制御弁７０は、上記した負圧制御弁部７０ａと大気制御弁部７０ｂを有する環状の可動部７０Ａと、バルブピストン３０の制御弁収納孔３０ｅに形成された段部に気密的に嵌合固定された環状の固定部７０Ｂと、環状の可動部７０Ａと環状の固定部７０Ｂを連結する円筒状の伸縮部７０Ｄによって構成されている。環状の可動部７０Ａは、入力ロッド４２に設けた環状部４２ｃ間に介装したスプリングＳ１によって前方に向けて付勢されていて、前後方向に移動可能である。環状の固定部７０Ｂは、環状のリテーナ７１によってバルブピストン３０に固定されている。
【００２３】
リテーナ７１は、バルブピストン３０に組付けられていて、バルブピストン３０の内孔段部に固定されており、制御弁７０の固定部７０Ｂをバルブピストン３０に固定している。なお、リテーナ７１は、切り起こして形成して複数個の係止部７１ａにて、バルブピストン３０に対して抜け止め固定されている。
【００２４】
負圧制御弁部７０ａは、バルブピストン３０に形成された一対の円弧状負圧弁座３０ｉに着座・離座可能であり、円弧状負圧弁座３０ｉへの着座によって負圧室Ｒ１と変圧室Ｒ２の連通を遮断し、円弧状負圧弁座３０ｉからの離座によって負圧室Ｒ１と変圧室Ｒ２を連通させる。大気制御弁部（弁座）７０ｂは、プランジャ４１に形成された環状の大気弁部４１ａに対して着座・離座可能であり、環状の大気弁座４１ａに対する着座によって変圧室Ｒ２と大気の連通を遮断し、環状の大気弁部４１ａに対する離座によって変圧室Ｒ２と大気を連通させる。
【００２５】
キー部材８０は、バルブピストン３０に対するプランジャ４１の軸方向移動（前進後退移動）の限度を規定するとともに、バルブピストン３０のハウジング１０に対する後退位置を規定するためのものであり、プランジャ４１とバルブピストン３０に対して前進後退可能に組付けられていて、バルブピストン３０に形成された径方向のキー部材挿通孔３０ｇに挿通されている。キー部材８０の前後方向の肉厚寸法は、キー部材挿通孔３０ｇの前後方向寸法よりも小さくされていて、キー部材８０はバルブピストン３０に対して所定量だけ前後方向に移動可能である。
【００２６】
このキー部材８０は、バルブピストン３０から径外方に突出した両端部の後端面にて後方シェル１２に当接可能であり、ハウジング１０に対するバルブピストン３０の後方への移動限界位置（後退位置）は、図２に示すように、キー部材挿通孔３０ｇの前方壁がキー部材８０の前端面に当接しかつキー部材８０の両端部の後端面が後方シェル１２に当接した位置である。
【００２７】
また、キー部材８０は、その中央部にて、プランジャ４１の中央部に形成された環状溝の前後両端面４１ｂ，４１ｃに当接可能であって、プランジャ４１がバルブピストン３０に組付けられた後に、バルブピストン３０に組付けられている。バルブピストン３０に対するプランジャ４１の後方への移動限界位置は、環状溝の前端面４１ｂがキー部材８０の前端面に当接しかつキー部材８０の後端面がキー部材挿通孔３０ｇの後方壁に当接した位置である。また、バルブピストン３０に対するプランジャ４１の前方への移動限界位置は、環状溝の後端面４１ｃがキー部材８０の後端面に当接しかつキー部材８０の前端面がキー部材挿通孔３０ｇの前方壁に当接した位置である。
【００２８】
フィルタ９１は、バルブピストン３０のフィルタ収納孔３０ｆ内にて入力ロッド４２間に装着されていて、同フィルタ９１にはバルブピストン３０の摺動部を外周から保護するブーツ９２に形成された通気孔９２ａを通して大気（空気）が流入可能である。ブーツ９２は、前端部にてハウジング１０における後方シェル１２の後端筒部に嵌合固定され、後端部にて入力ロッド４２の中間部外周に嵌合固定されている。
【００２９】
上記のように構成したこの実施形態の負圧式倍力装置においては、ブレーキ操作時、入力部材４０のバルブピストン３０に対する前方移動に伴って、変圧室Ｒ２が負圧室Ｒ１との連通を遮断されて大気に連通し、変圧室Ｒ２に流入する空気（大気）によってバルブピストン３０が前方に移動する。このとき、反力部材６０からの反力は、バルブピストン３０と入力部材４０のプランジャ４１に伝達される。なお、上記したブレーキ操作後のブレーキ解除時には、入力部材４０のバルブピストン３０に対する後方移動に伴って、変圧室Ｒ２が大気との連通を遮断されて負圧室Ｒ１に連通し、変圧室Ｒ２が負圧とされることによりスプリング３１によってバルブピストン３０が後方に移動する。これにより、各部材が図２に示した原位置に復帰し、次のブレーキ動作に備えることになる。
【００３０】
ところで、この実施形態の負圧式倍力装置においては、大気弁部４１ａと大気制御弁部７０ｂ間を通して流入する空気（大気）を変圧室Ｒ２に導く空気通路Ｐａに、筒状支持部３０ｐが設けられるとともに、筒状整流部４４が設けられていて、筒状支持部３０ｐと筒状整流部４４間には、筒状整流部４４を後方に向けて付勢する付勢部材（スプリング）４５が設けられている。空気通路Ｐａは、大気弁部４１ａおよび大気制御弁部７０ｂの前方にて、入力部材４０とバルブピストン３０（詳細には、プランジャ収容孔３０ｄ）間に形成されている。
【００３１】
筒状支持部３０ｐは、その外径が大気弁部４１ａの外径より小径であり、バルブピストン３０に同軸的かつ一体的に形成されている。また、筒状支持部３０ｐは、大気弁部４１ａの所定量前方に配置されていて、内周（プランジャ収納孔３０ｃ）にて入力部材４０の一部（プランジャ４１の中間部）を前進後退可能に支持している。
【００３２】
筒状整流部４４は、プランジャ４１とは別部材で構成されていて、筒状支持部３０ｐと大気弁部４１ａ間に同軸的に配置されている。また、筒状整流部４４は、前端部が筒状支持部３０ｐの外周に対して前進後退可能に組付けられ、その外径が大気弁部４１ａの外径と略同一で、大気弁部４１ａと一体的に前進後退可能であり、大気弁部４１ａに対して軸方向の隙間なく連続的に設けられている。また、筒状整流部４４の前端部外周には、前方に向けて縮径するテーパ面４４ａが形成されている。
【００３３】
このため、この実施形態の負圧式倍力装置においては、上述した空気通路Ｐａに、上述した筒状支持部３０ｐと筒状整流部４４が設けられていて、大気弁部４１ａと筒状整流部４４間および筒状整流部４４と筒状支持部３０ｐ間に、渦流の発生する空間が形成されないように構成することができる。このため、大気弁部４１ａと大気制御弁部７０ｂ間を通して変圧室Ｒ２に向けて導かれる空気（大気）を、大気弁部４１ａの外周から筒状整流部４４の外周に沿って筒状支持部３０ｐの外周に向けて、渦流を発生させることなく連続的に流動させることができる。したがって、大気弁部４１ａの外周から筒状支持部３０ｐの外周に向けて流れる空気での渦流による不具合（空気通路Ｐａでの吸気音の発生）を無くすことが可能である。
【００３４】
また、この負圧式倍力装置においては、空気通路Ｐａに設けられている整流部４４の外径が、大気弁部４１ａの外径と略同一であり、大気弁部４１ａより径外方に突出しない形状に形成されているため、空気通路Ｐａでの流路抵抗の増加を抑えることが可能であり、当該負圧式倍力装置の作動応答性を良好に維持することが可能である。
【００３５】
また、この実施形態の負圧式倍力装置においては、筒状支持部３０ｐと筒状整流部４４間に、筒状整流部４４を後方に向けて付勢する付勢部材４５が設けられている。このため、付勢部材４５によって筒状整流部４４の後端面を大気弁部４１ａの前端面に当接した状態に保持することができて、筒状整流部４４の後端面と大気弁部４１ａの前端面間に隙間（渦流の発生空間）が無い状態を弾性的に維持することが可能である。また、付勢部材４５を入力部材４０のリターンスプリングとしても機能させることが可能である。
【００３６】
また、この実施形態では、筒状整流部４４の前端部外周に、前方に向けて縮径するテーパ面４４ａが形成されている。このため、筒状整流部４４の前端に形成される段部を小さくすること（或いは無くすこと）ができて、同段部での渦流の発生を抑制する（或いは無くすこと）ことが可能であり、これによっても、空気通路Ｐａでの吸気音の発生を減少させることが可能である。
【００３７】
上記した実施形態においては、筒状支持部３０ｐと大気弁部４１ａ間に筒状整流部４４と付勢部材４５を組付けて実施したが、図３に示した他の実施形態のように、筒状支持部３０ｐと大気弁部４１ａ間に筒状整流部４４のみを組付けて実施することも可能である。図３に示した筒状整流部４４は、プランジャ４１に圧入嵌合されて一体的に固定されているが、これに相当する筒状整流部をプランジャ４１に一体的に形成して実施することも可能である。
【００３８】
なお、図３に示した他の実施形態では、入力ロッド４２の環状部４２ｃに代えて、入力ロッド４２の外周段部にリテーナ７２が組付けられていて、このリテーナ７２と制御弁７０間にスプリングＳ１が介装されている。また、リテーナ７１とリテーナ７２間にスプリングＳ２が介装されている。スプリングＳ２は、バルブピストン３０と入力部材４０間に介装されて入力部材４０をバルブピストン３０に対して後方所定位置に向けて後方に付勢するリターンスプリングであり、前端にてリテーナ７１を介してバルブピストン３０に係合し、後端にてリテーナ７２を介して入力部材４０の入力ロッド４２に係合している。
【００３９】
上記した図３の実施形態においては、筒状整流部４４の前後方向長さを上記した実施形態に比して短く構成することが可能であり、空気通路Ｐａの長さを上記した実施形態に比して短くして、同空気通路Ｐａでの流路抵抗を減じることができ、当該負圧式倍力装置の作動応答性を向上させることが可能である。
【００４０】
上記した各実施形態においては、シングル型の負圧式倍力装置に本発明を実施したが、本発明はタンデム型やトリプル型の負圧式倍力装置にも同様に実施可能であることは勿論のこと、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更して実施することが可能である。
【符号の説明】
【００４１】
１０…ハウジング、２０…可動隔壁、３０…バルブピストン、３０ｉ…負圧弁座、３０ｐ…筒状支持部、４０…入力部材、４１…プランジャ、４１ａ…大気弁部、４４…整流部、４４ａ…テーパ面、４５…付勢部材、５０…出力部材、６０…反力部材、７０…制御弁、７０ａ…負圧制御弁部、７０ｂ…大気制御弁部、８０…キー部材、Ｒｏ…圧力室、Ｒ１…負圧室、Ｒ２…変圧室、Ｐａ…空気通路
【技術分野】
【０００１】
本発明は、車両用ブレーキ装置に採用される負圧式倍力装置に関するものである。
【背景技術】
【０００２】
この種の負圧式倍力装置の一つとして、内部に圧力室を形成するハウジングと、このハウジング内に前進後退可能に組付けられて前記圧力室を前方の負圧室と後方の変圧室とに区画する可動隔壁と、前記ハウジングに前進後退可能に組付けられて前記ハウジング内に収容されている前端部にて前記可動隔壁に結合されたバルブピストンと、このバルブピストン内にて同バルブピストンに対し前進後退可能に設置されかつ外部からの操作力を受ける入力部材と、前記バルブピストンの前端部に組付けられて前記バルブピストンの推進力を外部に出力する出力部材と、前記バルブピストン内にて前記入力部材と前記出力部材間に介装されて前記出力部材に作用する力の反力を前記バルブピストンと前記入力部材に分けて伝達する反力部材とを備えるとともに、前記入力部材に設けた環状の大気弁部とにより前記変圧室と大気との連通・遮断を制御する大気制御弁部と前記バルブピストンに設けた負圧弁座とにより前記変圧室と前記負圧室との連通・遮断を制御する負圧制御弁部を有して前記バルブピストン内に組付けられた制御弁と、前記入力部材と前記バルブピストンに対して前進後退可能に組付けられて前記入力部材の前記バルブピストンに対する前進後退移動の限度を規定するキー部材を備える負圧式倍力装置があり、例えば下記特許文献１に記載されている。なお、後方とは、負圧式倍力装置に対してブレーキペダル側あるいは車両後方側を意味し、前方とは、負圧式倍力装置に対してブレーキマスタシリンダ側あるいは車両前方側を意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【０００３】
【特許文献１】特開２０１０−２３４９５８号公報
【０００４】
上記した特許文献１に記載されている負圧式倍力装置では、前記大気弁部および前記大気制御弁部の前方にて前記入力部材と前記バルブピストン間に形成されて前記大気弁部と前記大気制御弁部間を通して流入する空気を前記変圧室に導く空気通路に、前記大気弁部の外径より径外方に突出しない形状に形成されて前記大気弁部の所定量前方に配置される整流部が設けられている。このため、大気弁部の所定量前方に配置される整流部によって、空気が空気通路を通過する際に、大気弁部の前方にて渦流が発生することが抑制されて、渦流による不具合（空気通路での吸気音の発生）を抑制することが可能である。また、この負圧式倍力装置においては、空気通路に設けられている整流部が、大気弁部の外径より径外方に突出しない形状に形成されているため、空気通路での流路抵抗の増加を抑えることが可能であり、当該負圧式倍力装置の作動応答性を良好に維持することが可能である。
【発明の概要】
【０００５】
しかし、上記した特許文献１に記載されている負圧式倍力装置では、整流部が大気弁部より所定量前方に配置されている。このため、整流部と大気弁部間には、変圧室に導かれる空気によって渦流の発生する空間が存在していて、空気通路での吸気音低減効果に限界があり、更なる改善が要望されていた。
【０００６】
本発明は、上記した要望に応えるべくなされたものであり、上記した負圧式倍力装置において、前記大気弁部および前記大気制御弁部の前方にて前記入力部材と前記バルブピストン間に形成されて前記大気弁部と前記大気制御弁部間を通して流入する空気を前記変圧室に導く空気通路に、
前記大気弁部の外径より小径で前記バルブピストンに同軸的に形成されて前記大気弁部の所定量前方に配置され内周にて前記入力部材の一部を前進後退可能に支持する筒状支持部が設けられるとともに、
この筒状支持部と前記大気弁部間に配置され、前端部が前記筒状支持部の外周に対して前進後退可能に組付けられ、前記大気弁部の外径と略同一外径で、前記大気弁部と一体的に前進後退可能な筒状整流部が、前記大気弁部に対して連続的に設けられている
ことに特徴がある。
【０００７】
この負圧式倍力装置においては、上述した空気通路に、上述した筒状支持部と筒状整流部が設けられていて、大気弁部と筒状整流部間および筒状整流部と筒状支持部間に、渦流の発生する空間が形成されないように構成することができる。このため、大気弁部と大気制御弁部間を通して変圧室に向けて導かれる空気を、大気弁部の外周から筒状整流部の外周に沿って筒状支持部の外周に向けて、渦流を発生させることなく連続的に流動させることができる。したがって、大気弁部の外周から筒状支持部の外周に向けて流れる空気での渦流による不具合（空気通路での吸気音の発生）を無くすことが可能である。
【０００８】
また、この負圧式倍力装置においては、空気通路に設けられている整流部の外径が、大気弁部の外径と略同一であり、大気弁部より径外方に突出しない形状に形成されているため、空気通路での流路抵抗の増加を抑えることが可能であり、当該負圧式倍力装置の作動応答性を良好に維持することが可能である。
【０００９】
また、本発明の実施に際して、前記筒状支持部と前記筒状整流部間には、前記筒状整流部を後方に向けて付勢する付勢部材が設けられていることも可能である。この場合には、付勢部材によって筒状整流部の後端面を大気弁部の前端面に当接した状態に保持することができて、筒状整流部の後端面と大気弁部の前端面間に隙間（渦流の発生空間）が無い状態を弾性的に維持することが可能である。また、この場合には、付勢部材を入力部材のリターンスプリングとしても機能させることが可能である。
【００１０】
また、本発明の実施に際して、前記筒状整流部の前端部外周には、前方に向けて縮径するテーパ面が形成されていることも可能である。この場合には、筒状整流部の前端に形成される段部を小さくすること（或いは無くすこと）ができて、同段部での渦流の発生を抑制する（或いは無くすこと）ことが可能であり、これによっても、空気通路での吸気音の発生を減少させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【００１１】
【図１】本発明による負圧式倍力装置の一実施形態を示す部分破断側面図である。
【図２】図１に示した負圧式倍力装置の要部拡大断面図である。
【図３】本発明による負圧式倍力装置の他の実施形態を示す図２相当の要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【００１２】
以下に、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図１および図２に示した負圧式倍力装置は、ハウジング１０に組付けられた可動隔壁２０とバルブピストン３０を備えるとともに、バルブピストン３０に組付けられた入力部材４０と出力部材５０と反力部材６０と制御弁７０とキー部材８０等を備えている。
【００１３】
ハウジング１０は、図１に示したように、内部に圧力室Ｒｏを形成する前方シェル１１と後方シェル１２を備えていて、内部の圧力室Ｒｏが可動隔壁２０によって負圧導入管１３を通して負圧源（例えば、図示省略のエンジンの吸気マニホールド）に常時連通する前方の負圧室Ｒ１と、この負圧室Ｒ１と大気にそれぞれ連通・遮断する後方の変圧室Ｒ２とに区画されている。このハウジング１０は、後方シェル１２を気密的に貫通する複数本（図１では１本が示されている）のボルト１４と、これに螺着されるナット（図示省略）を用いて、車体（図示省略）に固定されるように構成されている。また、ハウジング１０の前方には、前方シェル１１を気密的に貫通する複数本（図１では１本が示されている）のボルト１５と、これに螺着されるナット１６を用いて、ブレーキマスタシリンダ１００が組付けられている。なお、ボルト１４とボルト１５が一本のボルト（中間部にて可動隔壁２０を気密的に貫通するボルト）で構成されることもある。
【００１４】
可動隔壁２０は、金属製のプレート２１とゴム製のダイアフラム２２とから成り、ハウジング１０内に前進後退可能に組付けられている。ダイアフラム２２は、その外周縁に形成されたビード部にて、後方シェル１２の外周縁に設けられた折り返し部と前方シェル１１とにより気密的に挟持されている。また、ダイアフラム２２は、その内周縁に形成されたビード部にて、バルブピストン３０の前方フランジ部外周に設けられた溝に、プレート２１とともに気密的に固定されている。
【００１５】
図１に示したブレーキマスタシリンダ１００は、そのシリンダ本体１０１の後端部１０１ａが前方シェル１１に形成された中心筒部を貫通して負圧室Ｒ１内に気密的に突入し、またシリンダ本体１０１に形成されたフランジ部１０１ｂの後面が前方シェル１１の前面に当接している。また、ブレーキマスタシリンダ１００のピストン１０２は、シリンダ本体１０１から後方に突出して負圧室Ｒ１内に突入しており、出力部材５０の先端によって前方に押動されるように構成されている。
【００１６】
バルブピストン３０は、ハウジング１０内に収容されている前端部にて可動隔壁２０に結合された中空状のピストンであって、円筒状に形成された部位にてハウジング１０の後方シェル１２に気密的かつ前進後退可能に組付けられており、ハウジング１０の前方シェル１１との間に介装されたスプリング３１によって後方に付勢されている。また、バルブピストン３０の軸心には、図２に示したように、前端面から後端面に向けて、反力室孔３０ａ、反力室孔３０ａより小径のプランジャ先端部収納孔３０ｂ、プランジャ収納孔３０ｃ、プランジャ収納孔３０ｃより大径のプランジャ収容孔３０ｄ、制御弁収納孔３０ｅ、フィルタ収納孔３０ｆ等からなり、前後方向に貫通する軸孔が設けられている。
【００１７】
また、バルブピストン３０には、プランジャ収納孔３０ｃに対応してキー部材挿通孔３０ｇが径方向に設けられている。また、バルブピストン３０には、負圧室Ｒ１と制御弁収納孔３０ｅを連通可能な一対の連通孔３０ｈ（一方は図示省略）が設けられていて、これら各連通孔３０ｈの後端部には制御弁７０の負圧制御弁部７０ａが着座可能な円弧状の負圧弁座３０ｉが形成されている。また、バルブピストン３０には、キー部材８０の軸中央部分を収容する収容孔３０ｊと、この収容孔３０ｊとプランジャ収容孔３０ｄを連通させる円筒状の軸方向連通孔３０ｋと、収容孔３０ｊと軸方向連通孔３０ｋを変圧室Ｒ２に連通させる径方向連通孔３０ｍが形成されている。
【００１８】
入力部材４０は、バルブピストン３０内にて同バルブピストン３０に対し前進後退可能に設置されかつ外部からの操作力（入力）を受ける部材であり、バルブピストン３０のプランジャ先端部収納孔３０ｂから制御弁収納孔３０ｅに収容されてバルブピストン３０に対して軸方向（前後方向）に移動可能なプランジャ４１と、このプランジャ４１に球状先端部４２ａにて関節状に連結されて後端部４２ｂ（図１参照）にてブレーキペダル（図示省略）に連結される入力ロッド４２と、プランジャ４１と反力部材６０間に組付けられている先端部材４３を備えている。先端部材４３は、バルブピストン３０のプランジャ先端部収納孔３０ｂに前進後退移動可能に収容されていて、前端面にて反力部材６０と当接可能で、後端面にてプランジャ４１の前端面と係合・離脱可能（当接可能）である。
【００１９】
プランジャ４１は、図２にて示したように、先端部にてバルブピストン３０のプランジャ先端部収納孔３０ｂの小径部分に軸方向へ摺動可能に組付けられ、中間部にてバルブピストン３０のプランジャ収納孔３０ｃに軸方向へ摺動可能に組付けられていて、バルブピストン３０によってガイド支持されている。また、プランジャ４１は、先端（前端面）にて先端部材４３を介してバルブピストン３０の反力室孔３０ａに収容された反力部材６０に係合可能であり、その後端には制御弁７０の大気制御弁部７０ｂに離座可能に着座する環状の大気弁座４１ａが形成されている。
【００２０】
出力部材５０は、バルブピストン３０の推進力を外部に出力するものであり、反力部材６０とともにバルブピストン３０の反力室孔３０ａに軸方向へ移動可能に組付けられた後方部材５１と、この後方部材５１の先端部に一体的に組付けられた出力ロッド５２によって構成されている。出力ロッド５２の先端は、図１に示したように、ブレーキマスタシリンダ１００におけるピストン１０２の係合部に押動可能に当接している。
【００２１】
反力部材６０は、バルブピストン３０内にて入力部材４０と出力部材５０間に介装されたリアクションゴムディスクであり、その前端面にて出力部材５０における後方部材５１の後端面に当接し、その後端面にて、バルブピストン３０の環状反力受け面３０ｎに当接するとともに、先端部材４３の前端面に当接可能となっていて、出力部材５０に作用する力の反力をバルブピストン３０と入力部材４０（先端部材４３）に分けて伝達可能である。
【００２２】
制御弁７０は、上記した負圧制御弁部７０ａと大気制御弁部７０ｂを有する環状の可動部７０Ａと、バルブピストン３０の制御弁収納孔３０ｅに形成された段部に気密的に嵌合固定された環状の固定部７０Ｂと、環状の可動部７０Ａと環状の固定部７０Ｂを連結する円筒状の伸縮部７０Ｄによって構成されている。環状の可動部７０Ａは、入力ロッド４２に設けた環状部４２ｃ間に介装したスプリングＳ１によって前方に向けて付勢されていて、前後方向に移動可能である。環状の固定部７０Ｂは、環状のリテーナ７１によってバルブピストン３０に固定されている。
【００２３】
リテーナ７１は、バルブピストン３０に組付けられていて、バルブピストン３０の内孔段部に固定されており、制御弁７０の固定部７０Ｂをバルブピストン３０に固定している。なお、リテーナ７１は、切り起こして形成して複数個の係止部７１ａにて、バルブピストン３０に対して抜け止め固定されている。
【００２４】
負圧制御弁部７０ａは、バルブピストン３０に形成された一対の円弧状負圧弁座３０ｉに着座・離座可能であり、円弧状負圧弁座３０ｉへの着座によって負圧室Ｒ１と変圧室Ｒ２の連通を遮断し、円弧状負圧弁座３０ｉからの離座によって負圧室Ｒ１と変圧室Ｒ２を連通させる。大気制御弁部（弁座）７０ｂは、プランジャ４１に形成された環状の大気弁部４１ａに対して着座・離座可能であり、環状の大気弁座４１ａに対する着座によって変圧室Ｒ２と大気の連通を遮断し、環状の大気弁部４１ａに対する離座によって変圧室Ｒ２と大気を連通させる。
【００２５】
キー部材８０は、バルブピストン３０に対するプランジャ４１の軸方向移動（前進後退移動）の限度を規定するとともに、バルブピストン３０のハウジング１０に対する後退位置を規定するためのものであり、プランジャ４１とバルブピストン３０に対して前進後退可能に組付けられていて、バルブピストン３０に形成された径方向のキー部材挿通孔３０ｇに挿通されている。キー部材８０の前後方向の肉厚寸法は、キー部材挿通孔３０ｇの前後方向寸法よりも小さくされていて、キー部材８０はバルブピストン３０に対して所定量だけ前後方向に移動可能である。
【００２６】
このキー部材８０は、バルブピストン３０から径外方に突出した両端部の後端面にて後方シェル１２に当接可能であり、ハウジング１０に対するバルブピストン３０の後方への移動限界位置（後退位置）は、図２に示すように、キー部材挿通孔３０ｇの前方壁がキー部材８０の前端面に当接しかつキー部材８０の両端部の後端面が後方シェル１２に当接した位置である。
【００２７】
また、キー部材８０は、その中央部にて、プランジャ４１の中央部に形成された環状溝の前後両端面４１ｂ，４１ｃに当接可能であって、プランジャ４１がバルブピストン３０に組付けられた後に、バルブピストン３０に組付けられている。バルブピストン３０に対するプランジャ４１の後方への移動限界位置は、環状溝の前端面４１ｂがキー部材８０の前端面に当接しかつキー部材８０の後端面がキー部材挿通孔３０ｇの後方壁に当接した位置である。また、バルブピストン３０に対するプランジャ４１の前方への移動限界位置は、環状溝の後端面４１ｃがキー部材８０の後端面に当接しかつキー部材８０の前端面がキー部材挿通孔３０ｇの前方壁に当接した位置である。
【００２８】
フィルタ９１は、バルブピストン３０のフィルタ収納孔３０ｆ内にて入力ロッド４２間に装着されていて、同フィルタ９１にはバルブピストン３０の摺動部を外周から保護するブーツ９２に形成された通気孔９２ａを通して大気（空気）が流入可能である。ブーツ９２は、前端部にてハウジング１０における後方シェル１２の後端筒部に嵌合固定され、後端部にて入力ロッド４２の中間部外周に嵌合固定されている。
【００２９】
上記のように構成したこの実施形態の負圧式倍力装置においては、ブレーキ操作時、入力部材４０のバルブピストン３０に対する前方移動に伴って、変圧室Ｒ２が負圧室Ｒ１との連通を遮断されて大気に連通し、変圧室Ｒ２に流入する空気（大気）によってバルブピストン３０が前方に移動する。このとき、反力部材６０からの反力は、バルブピストン３０と入力部材４０のプランジャ４１に伝達される。なお、上記したブレーキ操作後のブレーキ解除時には、入力部材４０のバルブピストン３０に対する後方移動に伴って、変圧室Ｒ２が大気との連通を遮断されて負圧室Ｒ１に連通し、変圧室Ｒ２が負圧とされることによりスプリング３１によってバルブピストン３０が後方に移動する。これにより、各部材が図２に示した原位置に復帰し、次のブレーキ動作に備えることになる。
【００３０】
ところで、この実施形態の負圧式倍力装置においては、大気弁部４１ａと大気制御弁部７０ｂ間を通して流入する空気（大気）を変圧室Ｒ２に導く空気通路Ｐａに、筒状支持部３０ｐが設けられるとともに、筒状整流部４４が設けられていて、筒状支持部３０ｐと筒状整流部４４間には、筒状整流部４４を後方に向けて付勢する付勢部材（スプリング）４５が設けられている。空気通路Ｐａは、大気弁部４１ａおよび大気制御弁部７０ｂの前方にて、入力部材４０とバルブピストン３０（詳細には、プランジャ収容孔３０ｄ）間に形成されている。
【００３１】
筒状支持部３０ｐは、その外径が大気弁部４１ａの外径より小径であり、バルブピストン３０に同軸的かつ一体的に形成されている。また、筒状支持部３０ｐは、大気弁部４１ａの所定量前方に配置されていて、内周（プランジャ収納孔３０ｃ）にて入力部材４０の一部（プランジャ４１の中間部）を前進後退可能に支持している。
【００３２】
筒状整流部４４は、プランジャ４１とは別部材で構成されていて、筒状支持部３０ｐと大気弁部４１ａ間に同軸的に配置されている。また、筒状整流部４４は、前端部が筒状支持部３０ｐの外周に対して前進後退可能に組付けられ、その外径が大気弁部４１ａの外径と略同一で、大気弁部４１ａと一体的に前進後退可能であり、大気弁部４１ａに対して軸方向の隙間なく連続的に設けられている。また、筒状整流部４４の前端部外周には、前方に向けて縮径するテーパ面４４ａが形成されている。
【００３３】
このため、この実施形態の負圧式倍力装置においては、上述した空気通路Ｐａに、上述した筒状支持部３０ｐと筒状整流部４４が設けられていて、大気弁部４１ａと筒状整流部４４間および筒状整流部４４と筒状支持部３０ｐ間に、渦流の発生する空間が形成されないように構成することができる。このため、大気弁部４１ａと大気制御弁部７０ｂ間を通して変圧室Ｒ２に向けて導かれる空気（大気）を、大気弁部４１ａの外周から筒状整流部４４の外周に沿って筒状支持部３０ｐの外周に向けて、渦流を発生させることなく連続的に流動させることができる。したがって、大気弁部４１ａの外周から筒状支持部３０ｐの外周に向けて流れる空気での渦流による不具合（空気通路Ｐａでの吸気音の発生）を無くすことが可能である。
【００３４】
また、この負圧式倍力装置においては、空気通路Ｐａに設けられている整流部４４の外径が、大気弁部４１ａの外径と略同一であり、大気弁部４１ａより径外方に突出しない形状に形成されているため、空気通路Ｐａでの流路抵抗の増加を抑えることが可能であり、当該負圧式倍力装置の作動応答性を良好に維持することが可能である。
【００３５】
また、この実施形態の負圧式倍力装置においては、筒状支持部３０ｐと筒状整流部４４間に、筒状整流部４４を後方に向けて付勢する付勢部材４５が設けられている。このため、付勢部材４５によって筒状整流部４４の後端面を大気弁部４１ａの前端面に当接した状態に保持することができて、筒状整流部４４の後端面と大気弁部４１ａの前端面間に隙間（渦流の発生空間）が無い状態を弾性的に維持することが可能である。また、付勢部材４５を入力部材４０のリターンスプリングとしても機能させることが可能である。
【００３６】
また、この実施形態では、筒状整流部４４の前端部外周に、前方に向けて縮径するテーパ面４４ａが形成されている。このため、筒状整流部４４の前端に形成される段部を小さくすること（或いは無くすこと）ができて、同段部での渦流の発生を抑制する（或いは無くすこと）ことが可能であり、これによっても、空気通路Ｐａでの吸気音の発生を減少させることが可能である。
【００３７】
上記した実施形態においては、筒状支持部３０ｐと大気弁部４１ａ間に筒状整流部４４と付勢部材４５を組付けて実施したが、図３に示した他の実施形態のように、筒状支持部３０ｐと大気弁部４１ａ間に筒状整流部４４のみを組付けて実施することも可能である。図３に示した筒状整流部４４は、プランジャ４１に圧入嵌合されて一体的に固定されているが、これに相当する筒状整流部をプランジャ４１に一体的に形成して実施することも可能である。
【００３８】
なお、図３に示した他の実施形態では、入力ロッド４２の環状部４２ｃに代えて、入力ロッド４２の外周段部にリテーナ７２が組付けられていて、このリテーナ７２と制御弁７０間にスプリングＳ１が介装されている。また、リテーナ７１とリテーナ７２間にスプリングＳ２が介装されている。スプリングＳ２は、バルブピストン３０と入力部材４０間に介装されて入力部材４０をバルブピストン３０に対して後方所定位置に向けて後方に付勢するリターンスプリングであり、前端にてリテーナ７１を介してバルブピストン３０に係合し、後端にてリテーナ７２を介して入力部材４０の入力ロッド４２に係合している。
【００３９】
上記した図３の実施形態においては、筒状整流部４４の前後方向長さを上記した実施形態に比して短く構成することが可能であり、空気通路Ｐａの長さを上記した実施形態に比して短くして、同空気通路Ｐａでの流路抵抗を減じることができ、当該負圧式倍力装置の作動応答性を向上させることが可能である。
【００４０】
上記した各実施形態においては、シングル型の負圧式倍力装置に本発明を実施したが、本発明はタンデム型やトリプル型の負圧式倍力装置にも同様に実施可能であることは勿論のこと、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更して実施することが可能である。
【符号の説明】
【００４１】
１０…ハウジング、２０…可動隔壁、３０…バルブピストン、３０ｉ…負圧弁座、３０ｐ…筒状支持部、４０…入力部材、４１…プランジャ、４１ａ…大気弁部、４４…整流部、４４ａ…テーパ面、４５…付勢部材、５０…出力部材、６０…反力部材、７０…制御弁、７０ａ…負圧制御弁部、７０ｂ…大気制御弁部、８０…キー部材、Ｒｏ…圧力室、Ｒ１…負圧室、Ｒ２…変圧室、Ｐａ…空気通路
【特許請求の範囲】
【請求項１】
内部に圧力室を形成するハウジングと、このハウジング内に前進後退可能に組付けられて前記圧力室を前方の負圧室と後方の変圧室とに区画する可動隔壁と、前記ハウジングに前進後退可能に組付けられて前記ハウジング内に収容されている前端部にて前記可動隔壁に結合されたバルブピストンと、このバルブピストン内にて同バルブピストンに対し前進後退可能に設置されかつ外部からの操作力を受ける入力部材と、前記バルブピストンの前端部に組付けられて前記バルブピストンの推進力を外部に出力する出力部材と、前記バルブピストン内にて前記入力部材と前記出力部材間に介装されて前記出力部材に作用する力の反力を前記バルブピストンと前記入力部材に分けて伝達する反力部材とを備えるとともに、前記入力部材に設けた環状の大気弁部とにより前記変圧室と大気との連通・遮断を制御する大気制御弁部と前記バルブピストンに設けた負圧弁座とにより前記変圧室と前記負圧室との連通・遮断を制御する負圧制御弁部を有して前記バルブピストン内に組付けられた制御弁と、前記入力部材と前記バルブピストンに対して前進後退可能に組付けられて前記入力部材の前記バルブピストンに対する前進後退移動の限度を規定するキー部材を備えた負圧式倍力装置において、
前記大気弁部および前記大気制御弁部の前方にて前記入力部材と前記バルブピストン間に形成されて前記大気弁部と前記大気制御弁部間を通して流入する空気を前記変圧室に導く空気通路に、
前記大気弁部の外径より小径で前記バルブピストンに同軸的に形成されて前記大気弁部の所定量前方に配置され内周にて前記入力部材の一部を前進後退可能に支持する筒状支持部が設けられるとともに、
この筒状支持部と前記大気弁部間に配置され、前端部が前記筒状支持部の外周に対して前進後退可能に組付けられ、前記大気弁部の外径と略同一外径で、前記大気弁部と一体的に前進後退可能な筒状整流部が、前記大気弁部に対して連続的に設けられている
ことを特徴とする負圧式倍力装置。
【請求項２】
請求項１に記載の負圧式倍力装置において、
前記筒状支持部と前記筒状整流部間には、前記筒状整流部を後方に向けて付勢する付勢部材が設けられていることを特徴とする負圧式倍力装置。
【請求項３】
請求項１または２に記載の負圧式倍力装置において、
前記筒状整流部の前端部外周には、前方に向けて縮径するテーパ面が形成されていることを特徴とする負圧式倍力装置。
【請求項１】
内部に圧力室を形成するハウジングと、このハウジング内に前進後退可能に組付けられて前記圧力室を前方の負圧室と後方の変圧室とに区画する可動隔壁と、前記ハウジングに前進後退可能に組付けられて前記ハウジング内に収容されている前端部にて前記可動隔壁に結合されたバルブピストンと、このバルブピストン内にて同バルブピストンに対し前進後退可能に設置されかつ外部からの操作力を受ける入力部材と、前記バルブピストンの前端部に組付けられて前記バルブピストンの推進力を外部に出力する出力部材と、前記バルブピストン内にて前記入力部材と前記出力部材間に介装されて前記出力部材に作用する力の反力を前記バルブピストンと前記入力部材に分けて伝達する反力部材とを備えるとともに、前記入力部材に設けた環状の大気弁部とにより前記変圧室と大気との連通・遮断を制御する大気制御弁部と前記バルブピストンに設けた負圧弁座とにより前記変圧室と前記負圧室との連通・遮断を制御する負圧制御弁部を有して前記バルブピストン内に組付けられた制御弁と、前記入力部材と前記バルブピストンに対して前進後退可能に組付けられて前記入力部材の前記バルブピストンに対する前進後退移動の限度を規定するキー部材を備えた負圧式倍力装置において、
前記大気弁部および前記大気制御弁部の前方にて前記入力部材と前記バルブピストン間に形成されて前記大気弁部と前記大気制御弁部間を通して流入する空気を前記変圧室に導く空気通路に、
前記大気弁部の外径より小径で前記バルブピストンに同軸的に形成されて前記大気弁部の所定量前方に配置され内周にて前記入力部材の一部を前進後退可能に支持する筒状支持部が設けられるとともに、
この筒状支持部と前記大気弁部間に配置され、前端部が前記筒状支持部の外周に対して前進後退可能に組付けられ、前記大気弁部の外径と略同一外径で、前記大気弁部と一体的に前進後退可能な筒状整流部が、前記大気弁部に対して連続的に設けられている
ことを特徴とする負圧式倍力装置。
【請求項２】
請求項１に記載の負圧式倍力装置において、
前記筒状支持部と前記筒状整流部間には、前記筒状整流部を後方に向けて付勢する付勢部材が設けられていることを特徴とする負圧式倍力装置。
【請求項３】
請求項１または２に記載の負圧式倍力装置において、
前記筒状整流部の前端部外周には、前方に向けて縮径するテーパ面が形成されていることを特徴とする負圧式倍力装置。
【図１】
【図２】
【図３】
【図２】
【図３】
【公開番号】特開２０１２−２４０６３０（Ｐ２０１２−２４０６３０Ａ）
【公開日】平成２４年１２月１０日（２０１２．１２．１０）
【国際特許分類】
【出願番号】特願２０１１−１１５５８５（Ｐ２０１１−１１５５８５）
【出願日】平成２３年５月２４日（２０１１．５．２４）
【出願人】（３０１０６５８９２）株式会社アドヴィックス (1,291)
【Ｆターム（参考）】
【公開日】平成２４年１２月１０日（２０１２．１２．１０）
【国際特許分類】
【出願日】平成２３年５月２４日（２０１１．５．２４）
【出願人】（３０１０６５８９２）株式会社アドヴィックス (1,291)
【Ｆターム（参考）】
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