説明

負極および二次電池

【課題】サイクル特性を向上させることが可能な二次電池を提供する。
【解決手段】正極21および負極22と共に電解液を備え、正極21と負極22との間に設けられたセパレータ23に電解液が含浸されている。負極22の負極活物質層22Bは、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な結晶性の負極活物質を含んでいる。この負極活物質は、ケイ素および鉄を構成元素として含んでおり、その負極活物質中における鉄の含有量は、0.05重量%以上である。負極活物質層22Bの物理強度が高くなると共に抵抗が低くなる。また、充放電時において負極活物質層22Bが膨張および収縮しにくくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極およびそれを用いた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、携帯電話あるいはノートパソコンなどのポータブル電子機器が広く普及しており、その小型化、軽量化および長寿命化が強く求められている。これに伴い、電源として、電池、特に小型かつ軽量で高エネルギー密度を得ることが可能な二次電池の開発が進められている。
【0003】
中でも、充放電反応にリチウムイオンの吸蔵および放出を利用するリチウムイオン二次電池は、鉛電池およびニッケルカドミウム電池よりも高いエネルギー密度が得られるため、広く実用化されている。
【0004】
リチウムイオン二次電池は、正極および負極と共に、電解質を備えている。正極は、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な正極活物質を含む正極活物質層を有している。負極は、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な負極活物質を含む負極活物質層を有している。
【0005】
負極活物質としては、炭素材料が広く用いられている。また、最近では、ポータブル電子機器の高性能化および多機能化に伴い、電池容量のさらなる向上が求められていることから、炭素材料に代えてケイ素を用いることが検討されている。ケイ素の理論容量(4199mAh/g)は黒鉛の理論容量(372mAh/g)よりも格段に大きいため、電池容量の大幅な向上が期待されるからである。
【0006】
負極活物質としてケイ素を用いる場合には、負極活物質層の形成方法として、蒸着法あるいは溶射法などの気相法が用いられている。負極集電体の表面にケイ素が直接堆積され、その負極集電体の表面に負極活物質が連結(固定)されるため、充放電時において負極活物質層が膨張および収縮しにくくなるからである。
【0007】
この場合には、特に、溶射法を用いると、蒸着法を用いる場合よりも負極の性能安定性が高くなる。なぜなら、ケイ素の堆積膜が結晶性になるため、負極活物質の物性が経時変化しにくくなるからである。
【0008】
負極活物質としてケイ素を用いたリチウムイオン二次電池の性能改善については、いくつかの技術が提案されている。具体的には、新規な電池系を確立するために、蒸着法あるいは溶射法などを用いて、結晶領域および非結晶領域を含むケイ素薄膜を形成している(例えば、特許文献1参照。)。また、低充電深度での高温保存耐性を向上させるために、ラマンシフトが490cm-1以上500cm-1以下であると共にピーク半値幅が10cm-1以上30cm-1以下である結晶性のケイ素薄膜を形成している(例えば、特許文献2参照。)。また、スラリーなどを用いずに活物質粒子を用いて電極を製造するために、ケイ素粒子を溶融あるいは蒸着させずに気流中に分散させながら集電体の表面に吹き付けている(例えば、特許文献3参照。)。また、サイクル特性などを向上させるために、蒸着法あるいは溶射法などを用いて、コバルトあるいはクロムなどを含有するケイ素薄膜を形成している(例えば、特許文献4参照。)。また、サイクル特性などを向上させるために、純度99%以下のケイ素薄膜中にアルミニウムなどの金属元素を含有させている(例えば、特許文献5参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−083594号公報
【特許文献2】特開2007−194207号公報
【特許文献3】特開2005−310502号公報
【特許文献4】特開2003−007295号公報
【特許文献5】特開2005−044814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
溶射法を用いて堆積されたケイ素膜は、そのケイ素自体の物性の影響を大きく受けるため、非常に硬くて物理的に脆くなると共に、高抵抗になる。これにより、二次電池の重要な特性であるサイクル特性が低下しやすい状況にある。しかも、近年、ポータブル電子機器は益々高性能化および多機能化しており、その消費電力は増大しているため、二次電池の充放電は頻繁に繰り返される傾向にある。これにより、二次電池の使用頻度の増加によっても、サイクル特性が低下しやすい状況にある。そこで、二次電池を高頻度で安定に使用するために、サイクル特性についてより一層の向上が望まれている。
【0011】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、サイクル特性を向上させることが可能な負極およびそれを用いた二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の負極は、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能である結晶性の負極活物質を含み、結晶性の負極活物質がケイ素および鉄を構成元素として含み、結晶性の負極活物質中における鉄の含有量が0.05重量%以上のものである。また、本発明の二次電池は、正極および負極と、溶媒および電解質塩を含む電解質とを備え、負極が上記した構成を有するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の負極によれば、ケイ素および鉄を含む結晶性の負極活物質を含んでおり、その結晶性の負極活物質中における鉄の含有量が0.05重量%以上である。この場合には、ケイ素だけを含んでいて鉄を含んでいない場合や、鉄を含んでいても含有量が0.05重量%未満である場合と比較して、負極活物質の物理強度が高くなると共に抵抗が低くなる。また、電極反応時において負極活物質が膨張および収縮しにくくなる。したがって、負極を用いた電気化学デバイスの性能向上に寄与することができる。このため、本発明の負極を用いた二次電池によれば、サイクル特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施の形態に係る負極の構成を表す断面図である。
【図2】図1に示した負極の断面構造を表すSEM写真およびその模式図である。
【図3】図1に示した負極の他の断面構造を表すSEM写真およびその模式図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係る負極を備えた第1の二次電池の構成を表す断面図である。
【図5】図4に示した第1の二次電池のV−V線に沿った断面図である。
【図6】本発明の一実施の形態に係る負極を備えた第2の二次電池の構成を表す断面図である。
【図7】図6に示した巻回電極体の一部を拡大して表す断面図である。
【図8】本発明の一実施の形態に係る負極を備えた第3の二次電池の構成を表す斜視図である。
【図9】図8に示した巻回電極体のIX−IX線に沿った断面図である。
【図10】Fe含有量と放電容量維持率との間の相関を表す図ある。
【図11】半値幅と放電容量維持率との間の相関を表す図である。
【図12】酸素含有量と放電容量維持率との間の相関を表す図である。
【図13】高酸素含有領域の数と放電容量維持率との間の相関を表す図である。
【図14】十点平均粗さRzと放電容量維持率との間の相関を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。

1.負極
2.負極を用いた電気化学デバイス(二次電池)
2−1.第1の二次電池(電池構造:角型)
2−2.第2の二次電池(電池構造:円筒型)
2−3.第3の二次電池(電池構造:ラミネートフィルム型)
【0016】
<1.負極>
[負極の全体構成]
図1は、本発明の一実施の形態に係る負極の断面構成を表している。この負極は、例えば二次電池などの電気化学デバイスに用いられるものであり、負極集電体1上に負極活物質層2を有している。
【0017】
[負極集電体]
負極集電体1は、良好な電気化学的安定性、電気伝導性および機械的強度を有する材料により構成されていることが好ましい。このような材料としては、例えば、銅、ニッケルあるいはステンレスなどが挙げられ、中でも、銅が好ましい。高い電気伝導性が得られるからである。
【0018】
負極集電体1の表面は、粗面化されていることが好ましい。いわゆるアンカー効果により、負極集電体1に対する負極活物質層2の密着性が向上するからである。この場合には、少なくとも負極活物質層2と対向する領域において、負極集電体1の表面が粗面化されていればよい。粗面化の方法としては、例えば、電解処理により微粒子を形成する方法などが挙げられる。この電解処理とは、電解槽中において電解法により負極集電体1の表面に微粒子を形成して凹凸を設ける方法である。電解法により作製された銅箔は、一般に「電解銅箔」と呼ばれている。この他、粗面化の方法としては、例えば、圧延銅箔をサンドブラスト処理する方法なども挙げられる。
【0019】
負極集電体1の表面の十点平均粗さRzは、特に限定されないが、中でも、1.5μm以上であることが好ましい。この場合には、1.5μm以上30μm以下であることがより好ましく、3μm以上30μm以下であることがさらに好ましい。負極集電体1に対する負極活物質層2の密着性がより高くなるからである。詳細には、1.5μmよりも小さいと、十分な密着性が得られない可能性があり、30μmよりも大きいと、かえって密着性が低下する可能性がある。
【0020】
[負極活物質層]
負極活物質層2は、例えば、負極集電体1の両面に設けられている。ただし、負極活物質層2は、負極集電体1の片面だけに設けられていてもよい。
【0021】
この負極活物質層2は、負極活物質として、例えばリチウムイオンなどの電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極材料のいずれか1種あるいは2種以上を含んでおり、必要に応じて、負極導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。
【0022】
負極材料としては、ケイ素および鉄を構成元素として含むと共に鉄の含有量が0.05重量%以上である材料(以下、「ケイ素鉄含有材料」という。)が好ましい。電極反応物質を吸蔵および放出する能力に優れたケイ素を含んでいるため、高いエネルギー密度が得られるからである。また、ケイ素に加えて金属元素である鉄を含んでいるため、負極材料の物理強度が高くなると共に抵抗が低くなるからである。さらに、電極反応時における膨張および収縮が抑制されるからである。鉄の含有量は、0.05重量%以上であれば特に限定されないが、中でも、0.05重量%以上8.8重量%以下であることが好ましい。ケイ素の割合が低くなりすぎて負極本来の機能が低下することを防止するためである。なお、ケイ素鉄含有材料の状態は、ケイ素と鉄とが完全な合金を形成している状態でもよいし、両者が混在している状態(化合物状態)でもよいし、それらの状態が混在している状態でもよい。
【0023】
負極活物質であるケイ素鉄含有材料は、結晶性である。非結晶性である場合よりも、負極の性能に寄与する負極活物質の物性が経時変化しにくくなるからである。また、電極反応時において負極活物質が膨張および収縮しにくくなると共に、負極集電体1に対する負極活物質の密着性が高くなるからである。このような結晶性の負極活物質は、例えば、溶射法などにより形成されている。ただし、負極活物質は、結晶性になれば、溶射法以外の方法により形成されていてもよい。
【0024】
負極活物質の結晶状態(結晶性であるか非結晶性であるか)については、X線回折により確認される。具体的には、負極活物質を分析した結果、シャープなピークが検出された場合には結晶性であり、ブロードなピークな検出された場合には非結晶性である。
【0025】
X線回折により得られる負極活物質の(111)結晶面における回折ピークの半値幅(2θ)は、特に限定されないが、中でも、20°以下であることが好ましい。また、同結晶面に起因する結晶子サイズは、特に限定されないが、中でも、100nm以上であることが好ましい。負極活物質の物性がより経時変化しにくくなると共に、電極反応物質の拡散性が低下しにくくなるからである。
【0026】
負極活物質であるケイ素鉄含有材料は、例えば、鉄以外の追加金属元素を構成元素として含んでいてもよい。上記したケイ素鉄含有材料の利点がより促進されるからである。このような追加金属元素としては、特に限定されないが、中でも、アルミニウム、カルシウム、クロム、マグネシウム、マンガン、ニッケル、カリウム、銅およびチタンのうちの少なくとも1種が好ましく、アルミニウムおよびカルシウムがより好ましい。高い効果が得られるからである。追加金属元素としてアルミニウムおよびカルシウムなどを含むケイ素鉄含有材料は、いわゆる金属シリコン(メタシリコン)でもよい。この金属シリコンとは、JIS規格G2312により規定されている材料である。
【0027】
ケイ素鉄含有材料が上記した追加金属元素を構成元素として含む場合には、鉄および追加金属元素の含有量の合計は、特に限定されないが、中でも、0.2重量%以上であることが好ましく、0.2重量%以上8.8重量%以下であることがより好ましい。より高い効果が得られるからである。
【0028】
結晶性の負極活物質は、負極集電体1の表面に連結された複数の粒子状であることが好ましい。負極集電体1に対して負極活物質が物理的に固定されるため、電極反応時において負極活物質が膨張および収縮しにくくなるからである。
【0029】
上記した「負極集電体1に対して負極活物質が連結されている」とは、負極集電体1の表面に対して負極材料が直接堆積されて負極活物質が形成されていることを意味している。このため、例えば塗布法あるいは焼結法などを用いて負極活物質が形成されている場合には、負極集電体1に対して負極活物質が連結されていることにはならない。この場合には、負極集電体1に対して負極活物質が他の材料(例えば結着剤など)を介して間接的に連結されていたり、単に負極集電体1に対して負極活物質が隣接しているにすぎないからである。
【0030】
なお、結晶性の負極活物質は、少なくとも一部において負極集電体1に連結されていればよい。一部だけでも負極集電体1に連結されていれば、全く連結されていない場合よりも、負極集電体1に対する負極活物質の密着性が高くなるからである。負極活物質が一部において負極集電体1に連結されている場合には、その負極活物質は、負極集電体1に接触する部分と接触しない部分とを有することになる。
【0031】
負極活物質が非接触部分を有していない場合には、その負極活物質が全体に渡って負極集電体1に接触するため、両者の間における電子伝導性が高くなる。その一方で、電極反応時において負極活物質が膨張および収縮した場合に逃げ場(緩和スペース)がないため、その膨張および収縮時による応力の影響を受けて負極集電体1が変形する可能性がある。
【0032】
これに対して、負極活物質が非接触部分を有している場合には、電極反応時において負極活物質が膨張および収縮した場合の逃げ場(緩和スペース)が存在するため、その膨張および収縮時による応力の影響を受けて負極集電体1が変形しにくくなる。その一方で、負極集電体1に対して負極活物質が接触していない部分があるため、両者の間における電子伝導性が低くなる可能性がある。
【0033】
結晶性の負極活物質が複数の粒子状である場合には、その粒子の形状はどのような形状でもよいが、中でも、少なくとも一部の形状は扁平状であることが好ましい。負極活物質同士が重なりやすくなる(接触しやすくなる)ため、負極活物質間の接触点が多くなるからである。これにより、負極活物質層2内の電子伝導性が高くなる。この「扁平状」とは、負極(負極活物質層2)の厚さ方向と交差する方向(負極集電体1の表面に沿った方向)に延在する形状を意味している。すなわち、負極集電体1の表面に沿った方向に長軸を有すると共にその表面と交差する方向に短軸を有する略楕円状である。この扁平形状は、例えば、溶射法により負極材料が堆積された場合において見られる特徴の1つである。この場合には、負極材料の溶融温度を高くすれば、負極活物質が扁平状になりやすい傾向にある。
【0034】
この負極活物質は、1回の堆積工程により形成された単層構造を有していてもよいし、複数回の堆積工程により形成された多層構造を有していてもよい。この場合には、負極活物質が多層構造を有する部分を一部として含んでいてもよい。ただし、堆積時に高熱を伴う場合には、負極集電体1が熱的ダメージを受けることを抑制するために、負極活物質が多層構造を有していることが好ましい。負極活物質の堆積工程を複数回に分割して行うと、その堆積工程を1回で行う場合よりも、負極集電体1が高熱に晒される時間が短くなるからである。
【0035】
また、結晶性の負極活物質は、負極集電体1との界面のうちの少なくとも一部において合金化していることが好ましい。電極反応時において負極活物質が膨張および収縮しにくくなるため、負極活物質層2が破損しにくくなるからである。また、負極集電体1と負極活物質との間において電子伝導性が向上するからである。この「合金化」とは、負極集電体1の構成元素と負極活物質の構成元素とが完全な合金を形成している場合だけでなく、両者の構成元素が混在状態にある場合も含む。この場合には、両者の界面において、負極集電体1の構成元素が負極活物質に拡散していてもよいし、負極活物質の構成元素が負極集電体1に拡散していてもよいし、両者の構成元素が拡散しあっていてもよい。
【0036】
また、結晶性の負極活物質は、内部に空隙を有していることが好ましい。この空隙は電極反応時において負極活物質が膨張および収縮した場合の逃げ場(緩和スペース)として働くため、その負極活物質が膨張および収縮しにくくなるからである。
【0037】
特に、負極活物質であるケイ素鉄含有材料は、ケイ素および鉄などに加えて、酸素を構成元素として含んでいることが好ましい。電極反応時において負極活物質の膨張および収縮が抑制されるからである。この場合には、少なくとも一部の酸素が一部のケイ素と結合していることが好ましい。その結合の状態は、一酸化ケイ素あるいは二酸化ケイ素でもよいし、他の準安定状態でもよい。
【0038】
負極活物質中の酸素含有量は、特に限定されないが、中でも、1.5原子数%以上40原子数%以下であることが好ましい。負極の性能を維持しつつ、負極活物質の膨張および収縮が抑制されるからである。詳細には、1.5原子数%よりも少ないと、負極活物質の膨張および収縮が十分に抑制されない可能性があり、40原子数%よりも多いと、抵抗が増大しすぎる可能性がある。なお、負極が電解質と一緒に電気化学デバイスに用いられる場合には、その電解質の分解反応により形成される被膜などは負極活物質に含めないこととする。すなわち、負極活物質中の酸素含有量を算出する場合には、上記した被膜中の酸素は含めないようにする。
【0039】
この酸素を含む負極活物質は、例えば、負極材料を堆積させる際に、チャンバ内に連続的に酸素ガスを導入して形成される。特に、酸素ガスを導入しただけでは所望の酸素含有量が得られない場合には、チャンバ内に酸素の供給源として液体(例えば水蒸気など)を導入してもよい。
【0040】
また、負極活物質は、負極活物質層2の厚さ方向において、より高い酸素含有量を有する高酸素含有領域と、より低い酸素含有量を有する低酸素含有領域とを含んでいることが好ましい。電極反応時において負極活物質の膨張および収縮が抑制されるからである。低酸素含有領域における酸素の含有量は、できるだけ少ないことが好ましい。高酸素含有領域における酸素の含有量は、特に限定されないが、中でも、上記した負極活物質中の酸素含有量(1.5原子数%以上40原子数%以下)と同様であることが好ましい。
【0041】
この場合には、低酸素含有領域により高酸素含有領域が挟まれていることが好ましく、低酸素含有領域と高酸素含有領域とが交互に繰り返して積層されていることがより好ましい。負極活物質の膨張および収縮がより抑制されるからである。低酸素含有領域と高酸素含有領域とが交互に積層される場合には、負極活物質中において酸素含有量が高低を繰り返しながら分布することになる。
【0042】
高酸素含有領域および低酸素含有領域を含む負極活物質は、例えば、負極材料を堆積させる際に、チャンバ内に断続的に酸素ガスを導入したり、チャンバ内に導入する酸素ガスの量を変化させて形成される。もちろん、酸素ガスを導入しただけでは所望の酸素含有量が得られない場合には、チャンバ内に液体(例えば水蒸気など)を導入してもよい。
【0043】
なお、高酸素含有領域と低酸素含有領域との間では、酸素含有量が明確に異なっていてもよいし、明確に異なっていなくてもよい。特に、酸素ガスの導入量を連続的に変化させた場合には、酸素含有量も連続的に変化してもよい。高酸素含有領域および低酸素含有領域は、酸素ガスの導入量を断続的に変化させた場合にはいわゆる「層」となり、酸素ガスの導入量を連続的に変化させた場合には「層」というよりもむしろ「層状」となる。この場合には、高酸素含有領域と低酸素含有領域との間において、酸素の含有量が段階的あるいは連続的に変化していることが好ましい。酸素の含有量が急激に変化すると、イオンの拡散性が低下したり、抵抗が増大する可能性があるからである。
【0044】
なお、負極活物質層2は、負極材料としてケイ素鉄含有材料を含んでいれば、他の負極材料を含んでいてもよい。
【0045】
他の負極材料としては、例えば、電極反応物質を吸蔵よび放出することが可能であると共に金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を構成元素として含む材料(ケイ素鉄含有材料に該当するものを除く)が挙げられる。高いエネルギー密度が得られるからである。このような材料は、金属元素あるいは半金属元素の単体、合金あるいは化合物でもよいし、それらの2種以上でもよいし、それらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有するものでもよい。なお、「単体」とは、あくまで一般的な意味合いでの単体であり、必ずしも純度100%を意味しているわけではない。
【0046】
上記した金属元素あるいは半金属元素は、例えば、電極反応物質と合金を形成することが可能な金属元素あるいは半金属元素であり、具体的には、以下の元素のうちの少なくとも1種である。マグネシウム、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ゲルマニウム、スズあるいは鉛(Pb)である。また、ビスマス、カドミウム(Cd)、銀、亜鉛、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム、イットリウム(Y)、パラジウム(Pd)あるいは白金(Pt)である。中でも、スズが好ましい。電極反応物質を吸蔵および放出する能力が優れているため、高いエネルギー密度が得られるからである。スズを含む材料は、スズの単体、合金あるいは化合物でもよいし、それらの2種以上でもよいし、それらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有するものでもよい。
【0047】
なお、本発明における「合金」には、2種以上の金属元素を含むものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とを含むものも含まれる。もちろん、「合金」は、非金属元素を含んでいてもよい。その組織には、固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物、あるいはそれらの2種以上の共存などがある。
【0048】
スズの合金としては、例えば、スズ以外の構成元素として、ケイ素、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモンおよびクロムのうちの少なくとも1種を含むものなどが挙げられる。スズの化合物としては、例えば、スズ以外の構成元素として、酸素あるいは炭素を含むものなどが挙げられる。なお、スズの化合物は、例えば、スズ以外の構成元素として、スズの合金について説明した元素のいずれか1種あるいは2種以上を含んでいてもよい。スズの合金あるいは化合物の一例としては、SnSiO3 、LiSnOあるいはMg2 Snなどが挙げられる。
【0049】
特に、スズを含む材料としては、例えば、スズを第1の構成元素とし、それに加えて第2および第3の構成元素を含むものが好ましい。負極が二次電池に用いられた場合に、高い電池容量が得られると共にサイクル特性が向上するからである。第2の構成元素は、例えば、以下の元素のうちの少なくとも1種である。コバルト、鉄、マグネシウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウムあるいはジルコニウムである。また、ニオブ、モリブデン、銀、インジウム、セリウム(Ce)、ハフニウム、タンタル、タングステン、ビスマスあるいはケイ素である。第3の構成元素は、例えば、ホウ素、炭素、アルミニウムおよびリンのうちの少なくとも1種である。
【0050】
中でも、スズ、コバルトおよび炭素を含む材料(SnCoC含有材料)が好ましい。このSnCoC含有材料の組成としては、炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下、スズおよびコバルトの含有量の割合(Co/(Sn+Co))が20質量%以上70質量%以下である。このような組成範囲において、高いエネルギー密度が得られるからである。SnCoC含有材料において、構成元素である炭素のうちの少なくとも一部は、他の構成元素である金属元素あるいは半金属元素と結合していることが好ましい。スズなどの凝集あるいは結晶化が抑制されるからである。
【0051】
このSnCoC含有材料は、スズ、コバルトおよび炭素を含む相を有しており、その相は、低結晶性あるいは非晶質であることが好ましい。この相は、電極反応物質と反応可能な反応相であり、その反応相の存在により優れた特性が得られるようになっている。この相のX線回折により得られる回折ピークの半値幅は、特定X線としてCuKα線を用いると共に挿引速度を1°/minとした場合に、回折角2θで1°以上であることが好ましい。電極反応物質がより円滑に吸蔵および放出されると共に、電解質などとの反応性がより低減するからである。なお、SnCoC含有材料は、低結晶性あるいは非晶質の相に加えて、各構成元素の単体あるいは一部を含む相を有している場合もある。
【0052】
なお、SnCoC含有材料は、必要に応じて、さらに他の構成元素を含んでいてもよい。このような他の構成元素としては、ケイ素、鉄、ニッケル、クロム、インジウム、ニオブ、ゲルマニウム、チタン、モリブデン、アルミニウム、リン、ガリウムおよびビスマスのうちの少なくとも1種が挙げられる。
【0053】
このSnCoC含有材料の他、スズ、コバルト、鉄および炭素を含む材料(SnCoFeC含有材料)も好ましい。このSnCoFeC含有材料の組成は、任意に設定可能である。例えば、鉄の含有量を少なめに設定する場合の組成は、以下の通りである。炭素の含有量は9.9質量%以上29.7質量%以下、鉄の含有量は0.3質量%以上5.9質量%以下、スズおよびコバルトの含有量の割合(Co/(Sn+Co))は30質量%以上70質量%以下である。また、例えば、鉄の含有量を多めに設定する場合の組成は、以下の通りである。炭素の含有量は11.9質量%以上29.7質量%以下である。また、スズ、コバルトおよび鉄の含有量の割合((Co+Fe)/(Sn+Co+Fe))は26.4質量%以上48.5質量%以下、コバルトおよび鉄の含有量の割合(Co/(Co+Fe))は9.9質量%以上79.5質量%以下である。このような組成範囲において、高いエネルギー密度が得られるからである。このSnCoFeC含有材料の物性等(半値幅など)は、上記したSnCoC含有材料と同様である。
【0054】
また、他の負極材料としては、例えば、炭素材料が挙げられる。電極反応物質の吸蔵および放出に伴う結晶構造の変化が非常に少ないと共に、高いエネルギー密度が得られるからである。また、導電剤としても機能するからである。この炭素材料としては、例えば、易黒鉛化性炭素、(002)面の面間隔が0.37nm以上の難黒鉛化性炭素、あるいは(002)面の面間隔が0.34nm以下の黒鉛などが挙げられる。より具体的には、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素繊維、有機高分子化合物焼成体、活性炭あるいはカーボンブラック類などがある。このうち、コークス類には、ピッチコークス、ニードルコークスあるいは石油コークスなどが含まれる。有機高分子化合物焼成体とは、フェノール樹脂やフラン樹脂などを適当な温度で焼成して炭素化したものをいう。なお、炭素材料の形状は、繊維状、球状、粒状あるいは鱗片状のいずれでもよい。
【0055】
さらに、他の負極材料としては、例えば、金属酸化物あるいは高分子化合物が挙げられる。金属酸化物は、例えば、酸化鉄、酸化ルテニウムあるいは酸化モリブデンなどである。高分子化合物は、例えば、ポリアセチレン、ポリアニリンあるいはポリピロールなどである。
【0056】
もちろん、負極材料は、上記以外のものでもよい。また、一連の負極材料は、任意の組み合わせで2種以上混合されてもよい。
【0057】
ここで、負極の詳細な構成例について説明する。
【0058】
図2および図3は、図1に示した負極の一部を拡大して表している。各図において、(A)は走査型電子顕微鏡(scanning electron microscope:SEM)写真(二次電子像)であり、(B)は(A)に示したSEM像の模式絵である。なお、図2および図3では、負極材料としてケイ素および鉄だけを含むケイ素鉄含有材料を用いた場合を示している。
【0059】
負極活物質層2は、例えば、溶射法などにより負極集電体1の表面に負極材料が堆積されて形成されたものである。この場合において、負極活物質層2は、結晶性である複数の粒子状の負極活物質(負極活物質粒子201)を含んでいる。
【0060】
複数の負極活物質粒子201は、負極集電体1の表面に連結されている。負極集電体1が粗面化された電解銅箔などである場合には、その表面に存在する複数の突起部(例えば微粒子)を覆うと共に各突起部間の隙間に入り込むように負極材料が堆積されるからである。
【0061】
この複数の負極活物質粒子201は、負極活物質層2の厚さ方向と交差する方向に配列された単層構造を有していてもよいし、厚さ方向に積み重ねられた多層構造を有していてもよいし、両者の構造が混在していてもよい。
【0062】
負極活物質層2は、例えば、内部に複数の空隙202を有している。また、負極活物質層2は、例えば、負極集電体1に対して部分的に連結されているため、負極活物質粒子201が負極集電体1に接触している部分(接触部分P1)と接触していない部分(非接触部分P2)とを有している。
【0063】
負極活物質粒子201のうちの一部は、扁平状である。すなわち、複数の負極活物質粒子201は、扁平粒子201Pを含んでいる。この扁平粒子201Pは、隣り合う負極活物質粒子201と重なり合いながら接触している。
【0064】
[負極の製造方法]
この負極は、例えば、以下の手順により製造される。最初に、粗面化された電解銅箔などからなる負極集電体1を準備する。続いて、溶射法などを用いて、負極集電体1の表面にケイ素鉄含有材料を堆積させて、結晶性の負極活物質を含む負極活物質層2を形成する。なお、溶射法を用いる場合には、原材料として、ケイ素と鉄などとの混合物を用いてもよいし、ケイ素と鉄などとがあらかじめアトマイズ法により合金化されたもの(合金粒子)を用いてもよい。これにより、負極が完成する。
【0065】
この負極によれば、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能である結晶性の負極活物質として、ケイ素鉄含有材料(ケイ素および鉄を構成元素として含むと共に鉄の含有量が0.05重量%以上である材料)を含んでいる。この場合には、ケイ素だけを含んでいて鉄を含んでいない場合や、鉄を含んでいても含有量が0.05重量%未満である場合と比較して、負極活物質の物理強度が高くなると共に抵抗が低くなる。また、電極反応時において負極活物質が膨張および収縮しにくくなる。したがって、負極を用いた電気化学デバイスの性能向上に寄与することができる。より具体的には、負極が二次電池に用いられる場合には、サイクル特性の向上に寄与することができる。
【0066】
特に、X線回折により得られる結晶性の負極活物質の(111)結晶面における回折ピークの半値幅が20°以下であり、あるいは同結晶面に起因する結晶子サイズが100nm以上であれば、より高い効果を得ることができる。
【0067】
また、結晶性の負極活物質であるケイ素鉄含有材料がアルミニウムなどの追加金属元素を構成元素として含んでいれば、より高い効果を得ることができる。この場合には、鉄および追加金属元素の含有量の合計が0.2重量%以上であれば、さらに高い効果を得ることができる。
【0068】
また、負極活物質が酸素を含み、その酸素含有量が1.5原子数%以上40原子数%以下であれば、より高い効果を得ることができる。同様に、負極活物質が高酸素含有領域および低酸素含有領域を有していれば、より高い効果を得ることができる。
【0069】
また、負極集電体1の表面が粗面化されていれば、負極集電体1に対する負極活物質層2の密着性を向上させることができる。この場合には、負極集電体1の表面の十点平均粗さRzが1.5μm以上、好ましくは3μm以上30μm以下であれば、より高い効果を得ることができる。
【0070】
<2.負極を用いた電気化学デバイス(二次電池)>
次に、上記した負極の使用例について説明する。ここで、電気化学デバイスの一例として二次電池を例に挙げると、上記した負極は、以下のようにして用いられる。
【0071】
<2−1.第1の二次電池(角型)>
図4および図5は、第1の二次電池の断面構成を表しており、図5では、図4に示したV−V線に沿った断面を示している。ここで説明する二次電池は、例えば、負極22の容量が電極反応物質であるリチウムイオンの吸蔵および放出により表されるリチウムイオン二次電池である。
【0072】
[二次電池の全体構成]
この二次電池は、主に、電池缶11の内部に、扁平な巻回構造を有する電池素子20が収納されたものである。
【0073】
電池缶11は、例えば、角型の外装部材である。この角型の外装部材とは、図5に示したように、長手方向における断面が矩形型あるいは略矩形型(一部に曲線を含む)の形状を有するものであり、矩形状だけでなくオーバル形状も含むものである。すなわち、角型の外装部材とは、矩形状あるいは円弧を直線で結んだ略矩形状(長円形状)の開口部を有する有底矩形型あるいは有底長円形状型の器状部材である。なお、図5では、電池缶11が矩形型の断面形状を有する場合を示している。このような電池缶11用いた電池構造は、いわゆる角型と呼ばれている。
【0074】
この電池缶11は、例えば、鉄、アルミニウムあるいはそれらの合金などにより構成されており、電極端子としての機能を有している場合もある。中でも、充放電時に電池缶11の固さ(変形しにくさ)を利用して電池膨れを抑えるためには、アルミニウムよりも固い鉄が好ましい。なお、電池缶11が鉄により構成される場合には、例えば、電池缶11の表面にニッケルなどの鍍金が施されていてもよい。
【0075】
また、電池缶11は、一端部が開放されると共に他端部が閉鎖された中空構造を有しており、その開放端部に絶縁板12および電池蓋13が取り付けられて密閉されている。絶縁板12は、電池素子20と電池蓋13との間に、その電池素子20の巻回周面に対して垂直に配置されており、例えば、ポリプロピレンなどにより構成されている。電池蓋13は、例えば、電池缶11と同様の材料により構成されており、電極端子としての機能を有していてもよい。
【0076】
電池蓋13の外側には、正極端子となる端子板14が設けられており、その端子板14は、絶縁ケース16を介して電池蓋13から電気的に絶縁されている。この絶縁ケース16は、例えば、ポリブチレンテレフタレートなどにより構成されている。また、電池蓋13のほぼ中央部には貫通孔が設けられており、その貫通孔には、端子板14と電気的に接続されると共にガスケット17を介して電池蓋13から電気的に絶縁されるように正極ピン15が挿入されている。このガスケット17は、例えば、絶縁材料により構成されており、その表面には、例えば、アスファルトが塗布されている。
【0077】
電池蓋13の周縁付近には、開裂弁18および注入孔19が設けられている。開裂弁18は、電池蓋13と電気的に接続されており、内部短絡、あるいは外部からの加熱などに起因して電池内圧が一定以上となった場合に、電池蓋13から切り離されて内圧を開放するようになっている。注入孔19は、例えば、ステンレス鋼球などからなる封止部材19Aにより塞がれている。
【0078】
電池素子20は、セパレータ23を介して正極21と負極22とが積層および巻回されたものであり、電池缶11の形状に応じて扁平状になっている。正極21の端部(例えば内終端部)にはアルミニウムなどにより構成された正極リード24が取り付けられており、負極22の端部(例えば外終端部)にはニッケルなどにより構成された負極リード25が取り付けられている。正極リード24は、正極ピン15の一端に溶接されて端子板14と電気的に接続されており、負極リード25は、電池缶11に溶接されて電気的に接続されている。
【0079】
[正極]
正極21は、例えば、正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bが設けられたものである。ただし、正極活物質層21Bは、正極集電体21Aの片面だけに設けられていてもよい。
【0080】
正極集電体21Aは、例えば、アルミニウム、ニッケルあるいはステンレスなどにより構成されている。
【0081】
正極活物質層21Bは、正極活物質として、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な正極材料のいずれか1種あるいは2種以上を含んでおり、必要に応じて、正極結着剤あるいは正極導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。
【0082】
正極材料としては、リチウム含有化合物が好ましい。高いエネルギー密度が得られるからである。このリチウム含有化合物としては、例えば、リチウムと遷移金属元素とを構成元素として含む複合酸化物、あるいはリチウムと遷移金属元素とを構成元素として含むリン酸化合物などが挙げられる。中でも、遷移金属元素としてコバルト、ニッケル、マンガンおよび鉄のうちの少なくとも1種を含むものが好ましい。より高い電圧が得られるからである。その化学式は、例えば、Lix M1O2 あるいはLiy M2PO4 で表される。式中、M1およびM2は、1種類以上の遷移金属元素を表す。また、xおよびyの値は、充放電状態によって異なり、通常、0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10である。
【0083】
リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物としては、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(Lix CoO2 )、リチウムニッケル複合酸化物(Lix NiO2 )、あるいは式(12)で表されるリチウムニッケル系複合酸化物などが挙げられる。また、リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物としては、例えば、リチウム鉄リン酸化合物(LiFePO4 )あるいはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe1-u Mnu PO4 (u<1))などが挙げられる。高い電池容量が得られると共に、優れたサイクル特性も得られるからである。
【0084】
LiNi1-x x 2 …(12)
(Mはコバルト、マンガン、鉄、アルミニウム、バナジウム、スズ、マグネシウム、チタン、ストロンチウム、カルシウム、ジルコニウム、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、タンタル、タングステン、レニウム、イッテルビウム、銅、亜鉛、バリウム、ホウ素、クロム、ケイ素、ガリウム、リン、アンチモンおよびニオブのうちの少なくとも1種である。xは0.005<x<0.5である。)
【0085】
この他、正極材料としては、例えば、酸化物、二硫化物、カルコゲン化物あるいは導電性高分子などが挙げられる。酸化物は、例えば、酸化チタン、酸化バナジウムあるいは二酸化マンガンなどである。二硫化物は、例えば、二硫化チタンあるいは硫化モリブデンなどである。カルコゲン化物は、例えば、セレン化ニオブなどである。導電性高分子は、例えば、硫黄、ポリアニリンあるいはポリチオフェンなどである。
【0086】
もちろん、正極材料は、上記以外のものであってもよい。また、一連の正極材料は、任意の組み合わせで2種以上混合されてもよい。
【0087】
正極結着剤としては、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムあるいはエチレンプロピレンジエンなどの合成ゴムや、ポリフッ化ビニリデンなどの高分子材料が挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
【0088】
正極導電剤としては、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックあるいはケチェンブラックなどの炭素材料が挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。なお、正極導電剤は、導電性を有する材料であれば、金属材料あるいは導電性高分子などであってもよい。
【0089】
[負極]
負極22は、例えば、負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bが設けられたものである。負極集電体22Aおよび負極活物質層22Bの構成は、それぞれ上記した負極における負極集電体1および負極活物質層2の構成と同様である。すなわち、負極活物質層22Bは、負極活物質としてケイ素鉄含有材料を含んでいる。この場合には、上記したように、鉄の含有量は0.05重量%以上であれば特に限定されないが、鉄の含有量が多すぎて電池容量が低下しすぎることを防止するためには、0.05重量%以上8.8重量%以下であることが好ましい。この負極22において、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な負極材料の充電可能な容量は、正極21の放電容量よりも大きくなっていることが好ましい。充電時においてリチウム金属が意図せずに析出することを防止するためである。
【0090】
[セパレータ]
セパレータ23は、正極21と負極22とを隔離し、両極の接触に起因する短絡を防止しながらリチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ23は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどの合成樹脂からなる多孔質膜や、セラミックからなる多孔質膜などにより構成されている。なお、セパレータ23は、2種以上の多孔質膜が積層されたものであってもよい。
【0091】
[電解質]
このセパレータ23には、液状の電解質である電解液が含浸されている。この電解液は、溶媒に電解質塩が溶解されたものであり、必要に応じて、各種添加剤などの他の材料を含んでいてもよい。
【0092】
溶媒は、例えば、有機溶剤などの非水溶媒のいずれか1種あるいは2種以上を含んでいる。以下で説明する一連の溶媒(非水溶媒)は、単独でもよいし、2種以上混合されてもよい。
【0093】
非水溶媒としては、例えば、以下のものが挙げられる。炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジメトキシエタンあるいはテトラヒドロフランである。また、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサンあるいは1,4−ジオキサンである。また、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酢酸メチルあるいはトリメチル酢酸エチルである。また、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジノンあるいはN−メチルオキサゾリジノンである。さらに、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、燐酸トリメチルあるいはジメチルスルホキシドである。優れた電池容量、サイクル特性および保存特性などが得られるからである。
【0094】
中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルおよび炭酸エチルメチルのうちの少なくとも1種が好ましい。優れた電池容量、サイクル特性および保存特性などが得られるからである。この場合には、炭酸エチレンあるいは炭酸プロピレンなどの高粘度(高誘電率)溶媒(例えば比誘電率ε≧30)と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルあるいは炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒(例えば粘度≦1mPa・s)との組み合わせがより好ましい。電解質塩の解離性およびイオンの移動度が向上するからである。
【0095】
特に、溶媒は、式(1)で表されるハロゲン化鎖状炭酸エステルおよび式(2)で表されるハロゲン化環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種を含んでいることが好ましい。充放電時において負極22の表面に安定な保護膜が形成されるため、電解液の分解反応が抑制されるからである。この「ハロゲン化鎖状炭酸エステル」とは、ハロゲンを構成元素として含む鎖状炭酸エステルであり、「ハロゲン化環状炭酸エステル」とは、ハロゲンを構成元素として含む環状炭酸エステルである。なお、式(1)中のR11〜R16は、同一でもよいし、異なってもよい。式(2)中のR17〜R20についても、同様である。溶媒中におけるハロゲン化鎖状炭酸エステルおよびハロゲン化環状炭酸エステルの含有量は、例えば、0.01重量%〜50重量%である。
【0096】
【化1】

(R11〜R16は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それらのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。)
【0097】
【化2】

(R17〜R20は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それらのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。)
【0098】
ハロゲンの種類は、特に限定されないが、中でも、フッ素、塩素あるいは臭素が好ましく、フッ素がより好ましい。他のハロゲンよりも高い効果が得られるからである。ただし、ハロゲンの数は、1つよりも2つが好ましく、さらに3つ以上でもよい。保護膜を形成する能力が高くなり、より強固で安定な保護膜が形成されるため、電解液の分解反応がより抑制されるからである。
【0099】
ハロゲン化鎖状炭酸エステルとしては、例えば、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ビス(フルオロメチル)あるいは炭酸ジフルオロメチルメチルなどが挙げられる。
【0100】
ハロゲン化環状炭酸エステルとしては、例えば、式(2−1)〜式(2−21)で表される化合物が挙げられる。このハロゲン化環状炭酸エステルには、幾何異性体も含まれる。
【0101】
【化3】

【0102】
【化4】

【0103】
中でも、式(2−1)に示した4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンあるいは式(2−3)に示した4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンが好ましく、後者がより好ましい。特に、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンとしては、シス異性体よりもトランス異性体が好ましい。容易に入手可能であると共に、高い効果が得られるからである。
【0104】
また、溶媒は、式(3)〜式(5)で表される不飽和炭素結合環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種を含んでいることが好ましい。充放電時において負極22の表面に安定な保護膜が形成されるため、電解液の分解反応が抑制されるからである。この「不飽和炭素結合環状炭酸エステル」とは、不飽和結合を有する環状炭酸エステルである。なお、不飽和炭素結合環状炭酸エステルには、幾何異性体も含まれる。溶媒中における不飽和炭素結合環状炭酸エステルの含有量は、例えば、0.01重量%〜10重量%である。
【0105】
【化5】

(R21およびR22は水素基あるいはアルキル基である。)
【0106】
【化6】

(R23〜R26は水素基、アルキル基、ビニル基あるいはアリル基であり、それらのうちの少なくとも1つはビニル基あるいはアリル基である。)
【0107】
【化7】

(R27はアルキレン基である。)
【0108】
式(3)に示した不飽和炭素結合環状炭酸エステルは、炭酸ビニレン系化合物である。この炭酸ビニレン系化合物としては、例えば、以下のものが挙げられる。炭酸ビニレン(1,3−ジオキソール−2−オン)、炭酸メチルビニレン(4−メチル−1,3−ジオキソール−2−オン)あるいは炭酸エチルビニレン(4−エチル−1,3−ジオキソール−2−オン)である。また、4,5−ジメチル−1,3−ジオキソール−2−オン、4,5−ジエチル−1,3−ジオキソール−2−オン、4−フルオロ−1,3−ジオキソール−2−オンあるいは4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソール−2−オンである。中でも、炭酸ビニレンが好ましい。容易に入手可能であると共に、高い効果が得られるからである。
【0109】
式(4)に示した不飽和炭素結合環状炭酸エステルは、炭酸ビニルエチレン系化合物である。炭酸ビニルエチレン系化合物としては、例えば、以下のものが挙げられる。炭酸ビニルエチレン(4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン)、4−メチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンあるいは4−エチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンである。また、4−n−プロピル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、5−メチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4−ジビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンあるいは4,5−ジビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンである。中でも、炭酸ビニルエチレンが好ましい。容易に入手可能であると共に、高い効果が得られるからである。もちろん、R23〜R26としては、全てがビニル基でもよいし、全てがアリル基でもよいし、ビニル基とアリル基とが混在していてもよい。
【0110】
式(5)に示した不飽和炭素結合環状炭酸エステルは、炭酸メチレンエチレン系化合物である。炭酸メチレンエチレン系化合物としては、例えば、以下のものが挙げられる。4−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4−ジメチル−5−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−オンあるいは4,4−ジエチル−5−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−オンである。この炭酸メチレンエチレン系化合物としては、1つのメチレン基を有するもの(式(5)に示した化合物)の他、2つのメチレン基を有するものであってもよい。
【0111】
なお、不飽和炭素結合環状炭酸エステルとしては、式(3)〜式(5)に示したものの他、ベンゼン環を有する炭酸カテコール(カテコールカーボネート)などであってもよい。
【0112】
また、溶媒は、スルトン(環状スルホン酸エステル)を含んでいることが好ましい。電解液の化学的安定性が向上するからである。スルトンとしては、例えば、プロパンスルトンあるいはプロペンスルトンなどが挙げられる。溶媒中におけるスルトンの含有量は、例えば、0.5重量%以上5重量%以下である。
【0113】
さらに、溶媒は、酸無水物を含んでいることが好ましい。電解液の化学的安定性が向上するからである。酸無水物としては、例えば、カルボン酸無水物、ジスルホン酸無水物あるいはカルボン酸スルホン酸無水物などが挙げられる。カルボン酸無水物は、例えば、無水コハク酸、無水グルタル酸あるいは無水マレイン酸などである。ジスルホン酸無水物は、例えば、無水エタンジスルホン酸あるいは無水プロパンジスルホン酸などである。カルボン酸スルホン酸無水物は、例えば、無水スルホ安息香酸、無水スルホプロピオン酸あるいは無水スルホ酪酸などである。溶媒中における酸無水物の含有量は、例えば、0.5重量%以上5重量%以下である。
【0114】
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの軽金属塩のいずれか1種類あるいは2種類以上を含んでいる。以下で説明する一連の電解質塩は、単独でもよいし、2種以上混合されてもよい。
【0115】
リチウム塩としては、例えば、以下のものが挙げられる。六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウムあるいは六フッ化ヒ酸リチウムである。また、テトラフェニルホウ酸リチウム(LiB(C6 5 4 )、メタンスルホン酸リチウム(LiCH3 SO3 )、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3 SO3 )あるいはテトラクロロアルミン酸リチウム(LiAlCl4 )である。さらに、六フッ化ケイ酸二リチウム(Li2 SiF6 )、塩化リチウム(LiCl)あるいは臭化リチウム(LiBr)である。優れた電池容量、サイクル特性および保存特性などが得られるからである。
【0116】
中でも、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウムおよび六フッ化ヒ酸リチウムのうちの少なくとも1種が好ましく、六フッ化リン酸リチウムがより好ましい。内部抵抗が低下するため、より高い効果が得られるからである。
【0117】
特に、電解質塩は、式(6)〜式(8)で表される化合物のうちの少なくとも1種を含んでていることが好ましい。より高い効果が得られるからである。なお、式(6)のR31およびR33は、同一でもよいし、異なってもよい。このことは、式(7)中のR41〜R43および式(8)中のR51およびR52についても同様である。
【0118】
【化8】

(X31は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素、またはアルミニウムである。M31は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。R31はハロゲン基である。Y31は−(O=)C−R32−C(=O)−、−(O=)C−C(R33)2 −あるいは−(O=)C−C(=O)−である。ただし、R32はアルキレン基、ハロゲン化アルキレン基、アリーレン基あるいはハロゲン化アリーレン基である。R33はアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基あるいはハロゲン化アリール基である。なお、a3は1〜4の整数であり、b3は0、2あるいは4であり、c3、d3、m3およびn3は1〜3の整数である。)
【0119】
【化9】

(X41は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素である。M41は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。Y41は−(O=)C−(C(R41)2 b4−C(=O)−、−(R43)2 C−(C(R42)2 c4−C(=O)−、−(R43)2 C−(C(R42)2 c4−C(R43)2 −、−(R43)2 C−(C(R42)2 c4−S(=O)2 −、−(O=)2 S−(C(R42)2 d4−S(=O)2 −あるいは−(O=)C−(C(R42)2 d4−S(=O)2 −である。ただし、R41およびR43は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それぞれのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。R42は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。なお、a4、e4およびn4は1あるいは2であり、b4およびd4は1〜4の整数であり、c4は0〜4の整数であり、f4およびm4は1〜3の整数である。)
【0120】
【化10】

(X51は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素である。M51は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。Rfはフッ素化アルキル基あるいはフッ素化アリール基であり、いずれの炭素数も1〜10である。Y51は−(O=)C−(C(R51)2 d5−C(=O)−、−(R52)2 C−(C(R51)2 d5−C(=O)−、−(R52)2 C−(C(R51)2 d5−C(R52)2 −、−(R52)2 C−(C(R51)2 d5−S(=O)2 −、−(O=)2 S−(C(R51)2 e5−S(=O)2 −あるいは−(O=)C−(C(R51)2 e5−S(=O)2 −である。ただし、R51は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。R52は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、そのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。なお、a5、f5およびn5は1あるいは2であり、b5、c5およびe5は1〜4の整数であり、d5は0〜4の整数であり、g5およびm5は1〜3の整数である。)
【0121】
なお、1族元素とは、水素、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムおよびフランシウムである。2族元素とは、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムおよびラジウムである。13族元素とは、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウムおよびタリウムである。14族元素とは、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、スズおよび鉛である。15族元素とは、窒素、リン、ヒ素、アンチモンおよびビスマスである。
【0122】
式(6)に示した化合物としては、例えば、式(6−1)〜式(6−6)で表される化合物などが挙げられる。式(7)に示した化合物としては、例えば、式(7−1)〜式(7−8)で表される化合物などが挙げられる。式(8)に示した化合物としては、例えば、式(8−1)で表される化合物などが挙げられる。
【0123】
【化11】

【0124】
【化12】

【0125】
【化13】

【0126】
また、電解質塩は、式(9)〜式(11)で表される化合物のうちの少なくとも1種を含んでいることが好ましい。より高い効果が得られるからである。なお、式(9)中のmおよびnは、同一でもよいし、異なってもよい。式(11)中のp、qおよびrについても、同様である。
【0127】
LiN(Cm 2m+1SO2 )(Cn 2n+1 SO2 )…(9)
(mおよびnは1以上の整数である。)
【0128】
【化14】

(R61は炭素数が2以上4以下の直鎖状あるいは分岐状のパーフルオロアルキレン基である。)
【0129】
LiC(Cp 2p+1SO2 )(Cq 2q+1SO2 )(Cr 2r+1SO2 )…(11)
(p、qおよびrは1以上の整数である。)
【0130】
式(9)に示した化合物は、鎖状のイミド化合物である。このような化合物としては、例えば、以下のものが挙げられる。ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 2 )あるいはビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(C2 5 SO2 2 )である。また、(トリフルオロメタンスルホニル)(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C2 5 SO2 ))である。また、(トリフルオロメタンスルホニル)(ヘプタフルオロプロパンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C3 7 SO2 ))である。さらに(トリフルオロメタンスルホニル)(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C4 9 SO2 ))である。
【0131】
式(10)に示した化合物は、環状のイミド化合物である。このような化合物としては、例えば、式(10−1)〜式(10−4)で表される化合物が挙げられる。
【0132】
【化15】

【0133】
式(11)に示した化合物は、鎖状のメチド化合物である。このような化合物としては、例えば、リチウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド(LiC(CF3 SO2 3 )などが挙げられる。
【0134】
電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.3mol/kg以上3.0mol/kg以下であることが好ましい。高いイオン伝導性が得られるからである。
【0135】
[二次電池の動作]
この二次電池では、充電時において、例えば、正極21からリチウムイオンが放出され、セパレータ23に含浸された電解液を介して負極22に吸蔵される。一方、放電時において、例えば、負極22からリチウムイオンが放出され、セパレータ23に含浸された電解液を介して正極21に吸蔵される。
【0136】
[二次電池の製造方法]
この二次電池は、例えば、以下の手順により製造される。
【0137】
まず、正極21を作製する。最初に、正極活物質、正極結着剤および正極導電剤などを混合して正極合剤としたのち、有機溶剤に分散させてペースト状の正極合剤スラリーとする。続いて、ドクタブレードあるいはバーコータなどを用いて正極集電体21Aの両面に正極合剤スラリーを均一に塗布してから乾燥させて、正極活物質層21Bを形成する。最後に、必要に応じて加熱しながら、ロールプレス機などを用いて正極活物質層21Bを圧縮成型する。この場合には、圧縮成型を複数回に渡って繰り返してもよい。
【0138】
次に、上記した負極の作製手順により、負極22を作製する。この場合には、溶射法などを用いて負極集電体22Aの両面に負極材料としてケイ素鉄含有材料を堆積させて、結晶性の負極活物質を含む負極活物質層22Bを形成する。
【0139】
二次電池の組み立ては、以下のようにして行う。最初に、電池缶11の内部に電池素子20を収納したのち、その電池素子20上に絶縁板12を配置する。続いて、正極リード24を正極ピン15に溶接などして取り付けると共に、負極リード25を電池缶11に溶接などして取り付けたのち、レーザ溶接などを用いて電池缶11の開放端部に電池蓋13を固定する。最後に、注入孔19から電池缶11の内部に電解液を注入してセパレータ23に含浸させたのち、その注入孔19を封止部材19Aで塞ぐ。これにより、図4および図5に示した二次電池が完成する。
【0140】
この第1の二次電池によれば、負極22が上記した負極と同様の構成を有している。このため、負極活物質層22Bの物理強度が高くなると共に抵抗が低くなる。また、充放電時において負極活物質層22Bが膨張および収縮しにくくなる。したがって、サイクル特性を向上させることができる。
【0141】
特に、電解液の溶媒がハロゲン化鎖状炭酸エステル、ハロゲン化環状炭酸エステル、不飽和炭素結合環状炭酸エステル、スルトンおよび酸無水物のうちの少なくとも1種を含んでいれば、サイクル特性をより向上させることができる。
【0142】
また、電解液の電解質塩が六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウム、六フッ化ヒ酸リチウムおよび式(6)〜式(11)に示した化合物のうちの少なくとも1種を含んでいれば、サイクル特性をより向上させることができる。
【0143】
<2−2.第2の二次電池(円筒型)>
図6および図7は、第2の二次電池の断面構成を表しており、図7では、図6に示した巻回電極体40の一部を拡大示している。
【0144】
この二次電池は、第1の二次電池と同様にリチウムイオン二次電池であり、主に、ほぼ中空円柱状の電池缶31の内部に、巻回電極体40と、一対の絶縁板32,33とが収納されたものである。このような電池缶31を用いた電池構造は、円筒型と呼ばれている。
【0145】
電池缶31は、例えば、第1の二次電池における電池缶11と同様の材料により構成されており、その一端部は開放されていると共に他端部は閉鎖されている。一対の絶縁板32,33は、巻回電極体40を上下から挟み、その巻回周面に対して垂直に延在するように配置されている。
【0146】
電池缶31の開放端部には、電池蓋34と、その内側に設けられた安全弁機構35および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient:PTC素子)36とがガスケット37を介してかしめられている。このかしめ加工により、電池缶31の内部は密閉されている。電池蓋34は、例えば、電池缶31と同様の材料により構成されている。安全弁機構35は、熱感抵抗素子36を介して電池蓋34と電気的に接続されている。この安全弁機構35では、内部短絡、あるいは外部からの加熱などに起因して内圧が一定以上となった場合に、ディスク板35Aが反転して電池蓋34と巻回電極体40との間の電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子36は、温度の上昇に応じた抵抗の増大により電流を制限し、大電流に起因する異常な発熱を防止するものである。ガスケット37は、例えば、絶縁材料により構成されており、その表面には、例えば、アスファルトが塗布されている。
【0147】
巻回電極体40は、セパレータ43を介して正極41と負極42とが積層および巻回されたものである。この巻回電極体40の中心には、例えば、センターピン44が挿入されていてもよい。この巻回電極体40では、アルミニウムなどにより構成された正極リード45が正極41に接続されていると共に、ニッケルなどにより構成された負極リード46が負極42に接続されている。正極リード45は、安全弁機構35に溶接などされて電池蓋34と電気的に接続されており、負極リード46は、電池缶31に溶接などされて電気的に接続されている。
【0148】
正極41は、例えば、正極集電体41Aの両面に正極活物質層41Bが設けられたものである。正極集電体41Aおよび正極活物質層41Bの構成は、それぞれ第1の二次電池における正極集電体21Aおよび正極活物質層21Bの構成と同様である。
【0149】
負極42は、例えば、負極集電体42Aの両面に負極活物質層42Bが設けられたものである。負極集電体42Aおよび負極活物質層42Bの構成は、それぞれ第1の二次電池における負極集電体22Aおよび負極活物質層22Bの構成と同様である。すなわち、負極活物質層42Bは、負極活物質としてケイ素鉄含有材料を含んでいる。
【0150】
なお、セパレータ43の構成および電解液の組成は、それぞれ第1の二次電池におけるセパレータ23の構成および電解液の組成と同様である。
【0151】
この二次電池では、充電時において、例えば、正極41からリチウムイオンが放出され、電解液を介して負極42に吸蔵される。一方、放電時において、例えば、負極42からリチウムイオンが放出され、電解液を介して正極41に吸蔵される。
【0152】
この二次電池は、例えば、以下の手順により製造される。
【0153】
まず、第1の二次電池における正極21および負極22と同様の手順により、正極集電体41Aの両面に正極活物質層41Bを形成して正極41を作製すると共に、負極集電体42Aの両面に負極活物質層42Bを形成して負極42を作製する。続いて、正極41に正極リード45を溶接などして取り付けると共に、負極42に負極リード46を溶接などして取り付ける。続いて、セパレータ43を介して正極41と負極42とを積層および巻回させて巻回電極体40を作製したのち、その巻回中心にセンターピン44を挿入する。続いて、一対の絶縁板32,33で挟みながら巻回電極体40を電池缶31の内部に収納する。この場合には、正極リード45の先端部を安全弁機構35に溶接すると共に、負極リード46の先端部を電池缶31に溶接する。続いて、電池缶31の内部に電解液を注入してセパレータ43に含浸させる。最後に、電池缶31の開口端部に、ガスケット37を介して電池蓋34、安全弁機構35および熱感抵抗素子36をかしめる。これにより、図6および図7に示した二次電池が完成する。
【0154】
この第2の二次電池によれば、負極42が上記した負極と同様の構成を有しているので、第1の二次電池と同様の作用により、サイクル特性を向上させることができる。この二次電池に関する他の効果は、第1の二次電池と同様である。
【0155】
<2−3.第3の二次電池(ラミネートフィルム型)>
図8は、第3の二次電池の分解斜視構成を表しており、図9は、図8に示した巻回電極体50のIX−IX線に沿った断面を拡大して示している。
【0156】
この二次電池は、第1の二次電池と同様にリチウムイオン二次電池であり、主に、フィルム状の外装部材60の内部に、正極リード51および負極リード52が取り付けられた巻回電極体50が収納されたものである。このような外装部材60を用いた電池構造は、ラミネートフィルム型と呼ばれている。
【0157】
正極リード51および負極リード52は、例えば、外装部材60の内部から外部に向かって同一方向に導出されている。ただし、巻回電極体50に対する正極リード51および負極リード52の設置位置や、それらの導出方向などは、特に限定されない。正極リード51は、例えば、アルミニウムなどにより構成されており、負極リード52は、例えば、銅、ニッケルあるいはステンレスなどにより構成されている。これらの材料は、例えば、薄板状あるいは網目状になっている。
【0158】
外装部材60は、例えば、融着層と、金属層と、表面保護層とがこの順に積層されたラミネートフィルムである。この場合には、例えば、融着層が巻回電極体50と対向するように、2枚のフィルムの融着層における外縁部同士が融着、あるいは接着剤などにより貼り合わされている。融着層としては、例えば、ポリエチレンあるいはポリプロピレンなどのフィルムが挙げられる。金属層としては、例えば、アルミニウム箔などが挙げられる。表面保護層としては、例えば、ナイロンあるいはポリエチレンテレフタレートなどのフィルムが挙げられる。
【0159】
中でも、外装部材60としては、ポリエチレンフィルム、アルミニウム箔およびナイロンフィルムがこの順に積層されたアルミラミネートフィルムが好ましい。ただし、外装部材60は、アルミラミネートフィルムに代えて、他の積層構造を有するラミネートフィルムでもよいし、ポリプロピレンなどの高分子フィルムあるいは金属フィルムでもよい。
【0160】
外装部材60と正極リード51および負極リード52との間には、外気の侵入を防止するための密着フィルム61が挿入されている。この密着フィルム61は、正極リード51および負極リード52に対して密着性を有する材料により構成されている。このような材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンあるいは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂が挙げられる。
【0161】
巻回電極体50は、セパレータ55および電解質層56を介して正極53と負極54とが積層および巻回されたものであり、その最外周部は、保護テープ57により保護されている。
【0162】
正極53は、例えば、正極集電体53Aの両面に正極活物質層53Bが設けられたものである。正極集電体53Aおよび正極活物質層53Bの構成は、それぞれ第1の二次電池における正極集電体21Aおよび正極活物質層21Bと同様である。
【0163】
負極54は、例えば、負極集電体54Aの両面に負極活物質層54Bが設けられたものである。負極集電体54Aおよび負極活物質層54Bの構成は、それぞれ第1の二次電池における負極集電体22Aおよび負極活物質層22Bの構成と同様である。すなわち、負極活物質層54Bは、負極活物質としてケイ素鉄含有材料を含んでいる。
【0164】
なお、セパレータ55の構成は、第1の二次電池におけるセパレータ23の構成と同様である。
【0165】
電解質層56は、電解液が高分子化合物により保持されたものであり、必要に応じて、各種添加剤などの他の材料を含んでいてもよい。この電解質層56は、いわゆるゲル状の電解質である。ゲル状の電解質は、高いイオン伝導率(例えば、室温で1mS/cm以上)が得られると共に電解液の漏液が防止されるので好ましい。
【0166】
高分子化合物としては、例えば、以下のものが挙げられる。ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサンあるいはポリフッ化ビニルである。また、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレンあるいはポリカーボネートである。また、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロピレンとの共重合体である。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。中でも、ポリフッ化ビニリデン、あるいはフッ化ビニリデンとヘキサフルオロピレンとの共重合体が好ましい。電気化学的に安定だからである。
【0167】
電解液の組成は、第1の二次電池における電解液の組成と同様である。ただし、ゲル状の電解質である電解質層56において、電解液の溶媒とは、液状の溶媒だけでなく、電解質塩を解離させることが可能なイオン伝導性を有するものまで含む広い概念である。よって、イオン伝導性を有する高分子化合物を用いる場合には、その高分子化合物も溶媒に含まれる。
【0168】
なお、電解液が高分子化合物により保持されたゲル状の電解質層56に代えて、電解液をそのまま用いてもよい。この場合には、電解液がセパレータ55に含浸される。
【0169】
この二次電池では、充電時において、例えば、正極53からリチウムイオンが放出され、電解質層56を介して負極54に吸蔵される。一方、放電時において、例えば、負極54からリチウムイオンが放出され、電解質層56を介して正極53に吸蔵される。
【0170】
このゲル状の電解質層56を備えた二次電池は、例えば、以下の3種類の手順により製造される。
【0171】
第1の製造方法では、最初に、第1の二次電池における正極21および負極22と同様の作製手順により、正極53および負極54を作製する。具体的には、正極集電体53Aの両面に正極活物質層53Bを形成して正極53を作製すると共に、負極集電体54Aの両面に負極活物質層54Bを形成して負極54を作製する。続いて、電解液、高分子化合物および溶剤を含む前駆溶液を調製して正極53および負極54に塗布したのち、その溶剤を揮発させてゲル状の電解質層56を形成する。続いて、正極集電体53Aに正極リード51を溶接などして取り付けると共に、負極集電体54Aに負極リード52を溶接などして取り付ける。続いて、電解質層56が形成された正極53と負極54とをセパレータ55を介して積層および巻回したのち、その最外周部に保護テープ57を接着させて、巻回電極体50を作製する。最後に、2枚のフィルム状の外装部材60の間に巻回電極体50を挟み込んだのち、その外装部材60の外縁部同士を熱融着などで接着させて、巻回電極体50を封入する。この際、正極リード51および負極リード52と外装部材60との間に、密着フィルム61を挿入する。これにより、図8および図9に示した二次電池が完成する。
【0172】
第2の製造方法では、最初に、正極53に正極リード51を取り付けると共に、負極54に負極リード52を取り付ける。続いて、セパレータ55を介して正極53と負極54とを積層して巻回させたのち、その最外周部に保護テープ57を接着させて、巻回電極体50の前駆体である巻回体を作製する。続いて、2枚のフィルム状の外装部材60の間に巻回体を挟み込んだのち、一辺の外周縁部を除いた残りの外周縁部を熱融着などで接着させて、袋状の外装部材60の内部に巻回体を収納する。続いて、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物を調製して、袋状の外装部材60の内部に注入したのち、その外装部材60の開口部を熱融着などで密封する。最後に、モノマーを熱重合させて高分子化合物とし、ゲル状の電解質層56を形成する。これにより、二次電池が完成する。
【0173】
第3の製造方法では、最初に、高分子化合物が両面に塗布されたセパレータ55を用いることを除き、上記した第2の製造方法と同様に、巻回体を形成して袋状の外装部材60の内部に収納する。このセパレータ55に塗布する高分子化合物としては、例えば、フッ化ビニリデンを成分とする重合体(単独重合体、共重合体あるいは多元共重合体など)が挙げられる。具体的には、ポリフッ化ビニリデンや、フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンを成分とする二元系共重合体や、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびクロロトリフルオロエチレンを成分とする三元系共重合体などである。なお、高分子化合物は、上記したフッ化ビニリデンを成分とする重合体と共に、他の1種あるいは2種以上の高分子化合物を含んでいてもよい。続いて、電解液を調製して外装部材60の内部に注入したのち、その外装部材60の開口部を熱融着などで密封する。最後に、外装部材60に加重をかけながら加熱して、高分子化合物を介してセパレータ55を正極53および負極54に密着させる。これにより、電解液が高分子化合物に含浸し、その高分子化合物がゲル化して電解質層56が形成されるため、二次電池が完成する。
【0174】
この第3の製造方法では、第1の製造方法よりも電池膨れが抑制される。また、第3の製造方法では、第2の製造方法よりも、高分子化合物の原料であるモノマーあるいは溶媒などが電解質層56中にほとんど残らないと共に、高分子化合物の形成工程が良好に制御される。このため、正極53、負極54およびセパレータ55と電解質層56との間において十分な密着性が得られる。
【0175】
この第3の二次電池によれば、負極54が上記した負極と同様の構成を有しているので、第1の二次電池と同様の作用により、サイクル特性を向上させることができる。この二次電池に関する他の効果は、第1の二次電池と同様である。
【実施例】
【0176】
本発明の実施例について、詳細に説明する。
【0177】
(実験例1−1〜1−15)
以下の手順により、図8および図9に示したラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0178】
まず、塗布法を用いて正極集電体53A上に正極活物質層53Bを形成して、正極53を作製した。
【0179】
この場合には、最初に、炭酸リチウム(Li2 CO3 )と炭酸コバルト(CoCO3 )とを0.5:1のモル比で混合したのち、空気中で900℃×5時間焼成してリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2 )を得た。続いて、正極活物質としてLiCoO2 91質量部と、正極導電剤としてグラファイト6質量部と、正極結着剤としてポリフッ化ビニリデン3質量部とを混合して、正極合剤とした。続いて、N−メチル−2−ピロリドンに正極合剤を分散させて、ペースト状の正極合剤スラリーとした。続いて、コーティング装置を用いて正極集電体53Aの両面に正極合剤スラリーを均一に塗布してから乾燥させて、正極活物質層53Bを形成した。この正極集電体53Aとしては、帯状のアルミニウム箔(厚さ=12μm)を用いた。最後に、ロールプレス機を用いて正極活物質層53Bを圧縮成型した。
【0180】
次に、溶射法(ガスフレーム溶射法)を用いて負極集電体54A上に負極活物質層54Bを形成して、負極54を作製した。
【0181】
この場合には、最初に、負極材料として、表1に示した組成を有するケイ素鉄含有材料を準備した。このケイ素鉄含有材料としては、ガスアトマイズ法を用いて単結晶のケイ素(純度=99.99%)の破砕品と鉄(純度=99.9%)とを合金化したものを用いた。この際、ケイ素および鉄の割合(重量比)を表1に示したように変化させた。続いて、負極材料(メジアン径=1μm〜300μm)を溶融状態あるいは半溶融状態で負極集電体54Aの表面に吹き付けて、結晶性の負極活物質(複数の負極活物質粒子)を含む負極活物質層54Bを形成した。この負極集電体54Aとしては、帯状の電解銅箔(厚さ=15μm,表面の十点平均粗さRz=3μm)を用いた。溶射工程では、溶射炎の発生用のガスとして酸素ガスおよび水素ガス、負極材料の吹き付け用のガスとして窒素ガスを用いると共に、吹き付け速度を約45m/秒〜55m/秒とした。この際、負極集電体54Aが熱的ダメージを負わないように、炭酸ガスで基盤を冷却しながら吹き付け処理を行った。
【0182】
特に、負極活物質層54Bを形成する場合には、溶射炎に酸素ガスを連続的に吹き付けて、負極活物質中の酸素含有量を5原子数%とした。また、負極材料のメジアン径および溶融温度を調整して、複数の負極活物質粒子が扁平粒子を含むようにした。さらに、負極材料の溶融温度および基盤の冷却温度を調整して、X線回折により得られる負極活物質の(111)結晶面における回折ピークの半値幅(2θ)を1°、同結晶面に起因する結晶子サイズを350nmとした。なお、X線回折分析を行う場合には、リガク電機株式会社製のX線回折装置を用いた。この際、官球としCuKaを用いると共に、官電圧を40kV、官電流を40mA、スキャン方法をθ−2θ法、測定範囲を20°≦2θ≦90°とした。
【0183】
次に、溶媒として炭酸エチレン(EC)と炭酸ジエチル(DEC)とを混合したのち、電解質塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )を溶解させて、液状の電解質である電解液を調製した。この場合には、溶媒の組成(EC:DEC)を重量比で50:50とし、電解質塩の含有量を溶媒に対して1mol/kgとした。
【0184】
最後に、正極53および負極54と共に電解液を用いて二次電池を組み立てた。最初に、正極集電体53Aの一端にアルミニウム製の正極リード51を溶接すると共に、負極集電体54Aの一端にニッケル製の負極リード52を溶接した。続いて、正極53と、セパレータ55と、負極54と、セパレータ55とをこの順に積層してから長手方向に巻回させたのち、粘着テープからなる保護テープ57で巻き終わり部分を固定して、巻回電極体50の前駆体である巻回体を形成した。このセパレータ55としては、多孔性ポリプロピレンを主成分とするフィルムにより多孔性ポリエチレンを主成分とするフィルムが挟まれた3層構造体(厚さ=23μm)を用いた。続いて、外装部材60の間に巻回体を挟み込んだのち、一辺を除く外縁部同士を熱融着して、袋状の外装部材60の内部に巻回体を収納した。この外装部材60としては、外側から、ナイロンフィルム(厚さ=30μm)と、アルミニウム箔(厚さ=40μm)と、無延伸ポリプロピレンフィルム(厚さ=30μm)とが積層された3層構造のラミネートフィルム(総厚=100μm)を用いた。続いて、外装部材60の開口部から電解液を注入してセパレータ55に含浸させて、巻回電極体50を作製した。最後に、真空雰囲気中で外装部材60の開口部を熱融着して封止することにより、ラミネートフィルム型の二次電池が完成した。この二次電池を作製する場合には、正極活物質層53Bの厚さを調節して、満充電時において負極54にリチウム金属が析出しないようにした。
【0185】
(実験例1−16)
負極材料としてケイ素の単体(純度=99.99%)を用いたことを除き、実験例1−1〜1−15と同様の手順を経た。
【0186】
(実験例1−17〜1−19)
蒸着法(電子ビーム蒸着法)を用いてケイ素鉄含有材料からなる非結晶性の負極活物質を形成したことを除き、実験例1−5,1−9,1−16と同様の手順を経た。蒸着工程では、偏向式電子ビーム蒸着源として表1に示したケイ素の単体あるいは合金を用いると共に、堆積速度を100nm/秒とした。また、チャンバ内に連続的に酸素ガスおよび必要に応じて水蒸気を導入して、非結晶性の負極活物質中の酸素含有量を5原子数%とした。
【0187】
これらの実験例1−1〜1−19の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表1および図10に示した結果が得られた。
【0188】
サイクル特性を調べる際には、最初に、電池状態を安定化させるために23℃の雰囲気中で1サイクル充放電させたのち、再び充放電させて、2サイクル目の放電容量を測定した。続いて、同雰囲気中で99サイクル充放電させて、101サイクル目の放電容量を測定した。最後に、放電容量維持率(%)=(101サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100を算出した。この場合には、3mA/cm2 の定電流密度で電池電圧が4.2Vに到達するまで充電したのち、4.2Vの定電圧で電流密度が0.3mA/cm2 に到達するまで充電した。また、3mA/cm2 の定電流密度で電池電圧が2.5Vに到達するまで放電した。なお、サイクル特性を調べる場合の手順および条件は、以降の一連の実験例においても同様である。
【0189】
【表1】

【0190】
溶射法を用いて結晶性の負極活物質を形成した場合には、蒸着法を用いて非結晶性の負極活物質を形成した場合よりも放電容量維持率が高くなった。また、結晶性の負極活物質を形成した場合には、ケイ素鉄含有材料を用いた場合において、ケイ素の単体を用いた場合よりも放電容量維持率が高くなった。この場合には、鉄の含有量が0.05重量%以上であると、高い放電容量維持率が得られた。これらのことから、本発明の二次電池では、鉄の含有量が0.05重量%以上であるケイ素鉄含有材料を負極活物質として用いることにより、サイクル特性が向上する。
【0191】
(実験例2−1〜2−38)
表2〜表5に示したように、ケイ素鉄含有材料がアルミニウムなどの追加金属元素を含むようにしたことを除き、実験例1−1〜1−19と同様の手順を経た。これらの実験例2−1〜2−38の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表2〜表5に示した結果が得られた。
【0192】
【表2】

【0193】
【表3】

【0194】
【表4】

【0195】
【表5】

【0196】
ケイ素鉄含有材料が追加金属元素を含む場合においても、表1と同様の結果が得られた。この場合には、追加金属元素を含む場合において、それを含まない場合よりも放電容量維持率が高くなった。また、SiFe(実験例1−3)とSiFeAlCa(実験例2−11)との比較から明らかなように、追加金属元素を含む場合には、鉄および追加金属元素の含有量の合計が0.2重量%以上であると、放電容量維持率がより高くなった。これらのことから、本発明の二次電池では、ケイ素鉄含有材料が追加金属元素を含むようにすれば、サイクル特性がより向上する。この場合には、鉄および追加金属元素の含有量の合計が0.2重量%以上であれば、サイクル特性がさらに向上する。
【0197】
(実験例3−1〜3−5)
塗布法を用いて負極活物質層54Bを形成したことを除き、実験例1−1〜1−15と同様の手順を経た。負極活物質層54Bを形成する場合には、最初に、負極活物質としてケイ素粉末(メジアン径=1μm〜40μm)とポリアミック酸溶液とを80:20の乾燥重量比で混合して、負極合剤とした。このポリアミック酸溶液の溶媒は、N−メチル−2−ピロリドンおよびN,N−ジメチルアセトアミドである。続いて、N−メチル−2−ピロリドンに負極合剤を分散させて、負極合剤スラリーとした。続いて、コーティング装置を用いて負極集電体54Aの両面に負極合剤スラリーを均一に塗布してから乾燥させた。最後に、真空雰囲気中において400℃×1時間の条件で加熱して負極結着剤であるポリイミドを形成した。これらの実験例3−1〜3−5の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表6に示した結果が得られた。
【0198】
【表6】

【0199】
塗布法を用いた場合には、負極活物質として同じ組成を有するケイ素鉄含有材料を用いたにもかかわらず、溶射法を用いた場合よりも放電容量維持率が低くなった。この原因は、負極集電体54Aに対する負極活物質層54Bの密着性が十分でないと共に、負極結着剤の存在に起因して抵抗が増加したためであると考えられる。このことから、本発明の二次電池では、負極活物質層の形成方法として溶射法を用いれば、サイクル特性が向上する。
【0200】
(実験例4−1〜4−13)
表7に示したように、負極活物質の半値幅および結晶子サイズを変更したことを除き、実験例2−20と同様の手順を経た。これらの実験例4−1〜4−13の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表7および図11に示した結果が得られた。
【0201】
【表7】

【0202】
半値幅および結晶性サイズを変更した場合においても、表1と同様の結果が得られた。この場合には、半値幅が20°以下であると共に結晶子サイズが100nm以上であると、放電容量維持率がより高くなった。これらのことから、本発明の二次電池では、負極活物質の(111)結晶面における回折ピークの半値幅(2θ)が20°以下であると共に結晶子サイズが100nm以上であれば、サイクル特性がより向上する。
【0203】
(実験例5−1〜5−3)
複数の負極活物質粒子が扁平粒子を含まないようにしたことを除き、実験例1−9,2−18,2−20と同様の手順を経た。これらの実験例5−1〜5−3の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表8に示した結果が得られた。
【0204】
【表8】

【0205】
複数の負極活物質粒子が扁平粒子を含まない場合においても、表1と同様の結果が得られた。この場合には、扁平粒子を含む場合において、それを含まない場合よりも放電容量維持率が高くなった。これらのことから、本発明の二次電池では、複数の負極活物質粒子が扁平粒子を含むようにすれば、サイクル特性がより向上する。
【0206】
(実験例6−1〜6−9)
表9に示したように、負極活物質中の酸素含有量を変更したことを除き、実験例2−20と同様の手順を経た。これらの実験例6−1〜6−9の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表9および図12に示した結果が得られた。
【0207】
【表9】

【0208】
負極活物質中の酸素含有量を変更した場合においても、表1と同様の結果が得られた。この場合には、酸素含有量が1.5原子数%以上40原子数%以下であると、高い放電容量維持率が得られると共に、十分な電池容量も得られた。これらのことから、本発明の二次電池では、負極活物質中の酸素含有量が1.5原子数%以上40原子数%以下であれば、優れたサイクル特性および高い電池容量が得られる。
【0209】
(実験例7−1〜7−3)
表10に示したように、チャンバ内に断続的に酸素ガスを導入して、低酸素含有量領域および高酸素含有領域を含むように負極活物質層54Bを形成したことを除き、実験例2−20と同様の手順を経た。この場合には、低酸素含有量領域により高酸素含有領域が挟まれると共に、それらが交互に積層されるようにした。また、高酸素含有領域における負極活物質中の酸素含有量を5原子数%とした。これらの実験例7−1〜7−3の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表10および図13に示した結果が得られた。
【0210】
【表10】

【0211】
負極活物質層54Bが高酸素含有領域および低酸素含有領域を含む場合においても、表1と同様の結果が得られた。この場合には、高酸素含有領域および低酸素含有領域を含む場合において、それらを含まない場合よりも放電容量維持率が高くなった。これらのことから、本発明の二次電池では、負極活物質層54Bが高酸素含有領域および低酸素含有領域を含むようにすれば、サイクル特性がより向上する。
【0212】
(実験例8−1〜8−12)
表11に示したように、負極集電体54Aの表面の十点平均粗さRzを変更したことを除き、実験例2−20と同様の手順を経た。この場合には、十点平均粗さRzを調整するために、負極集電体54Aとして、電解銅箔だけでなく、必要に応じてサンドブラスト処理された圧延銅箔も用いた。これらの実験例8−1〜8−12の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表11および図14に示した結果が得られた。
【0213】
【表11】

【0214】
十点平均粗さRzを変更した場合においても、表1と同様の結果が得られた。この場合には、十点平均粗さRzが1.5μm以上、さらに3μm以上30μm以下であると、高い放電容量維持率が得られると共に、十分な電池容量も得られた。これらのことから、本発明の二次電池では、負極集電体54Aの表面の十点平均粗さRzが1.5μm以上、好ましくは3μm以上30μm以下であれば、優れたサイクル特性および高い電池容量が得られる。
【0215】
(実験例9−1〜9−8)
表12および表13に示したように、電解液の組成を変更したことを除き、実験例2−20と同様の手順を経た。この場合には、溶媒として、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)あるいは4,5−ジフルオロ−1、3−ジオキソラン−2−オン(DFEC)を用いた。他の溶媒として、炭酸ビニレン(VC)、炭酸ビニルエチレン(VEC)、プロペンスルトン(PRS)、無水スルホ安息香酸(SBAH)あるいは無水スルホプロピオン酸(SPAH)を用いた。電解質塩として、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )を用いた。溶媒中における他の溶媒の含有量は、1重量%とした。また、LiBF4 の含有量を溶媒に対して0.1mol/kgとし、LiPF6 の含有量を溶媒に対して0.9mol/kgとした。これらの実験例9−1〜9−8の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表12および表13に示した結果が得られた。
【0216】
【表12】

【0217】
【表13】

【0218】
電解液の組成を変更した場合においても、表1と同様の結果が得られた。特に、FEC等を加えた場合には、それらを加えなかった場合よりも放電容量維持率が高くなった。これらのことから、本発明の二次電池では、溶媒としてハロゲン化鎖状炭酸エステル、ハロゲン化環状炭酸エステル、不飽和炭素結合環状炭酸エステル、スルトンあるいは酸無水物を用いれば、サイクル特性がより向上する。また、電解質塩として四フッ化ホウ酸リチウムを用いれば、サイクル特性がより向上する。
【0219】
(実験例10−1,10−21)
角型の二次電池を作製したことを除き、実験例2−20と同様の手順を経た。この場合には、最初に、正極21および負極22を作製したのち、正極集電体21Aにアルミニウム製の正極リード24を溶接すると共に、負極集電体22Aにニッケル製の負極リード25を溶接した。続いて、正極21と、セパレータ23と、負極22とをこの順に積層してから長手方向において巻回させたのち、扁平状に成形して電池素子20を作製した。続いて、表14に示した金属製の電池缶11の内部に電池素子20を収納したのち、その電池素子20上に絶縁板12を配置した。続いて、正極リード24を正極ピン15を溶接すると共に、負極リード25を電池缶11に溶接したのち、電池缶11の開放端部に電池蓋13をレーザ溶接した。最後に、注入孔19を通じて電池缶11の内部に電解液を注入したのち、その注入孔19を封止部材19Aで塞いで、角型電池が完成した。これらの実験例10−1,10−2の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表14に示した結果が得られた。
【0220】
【表14】

【0221】
電池構造を変更した場合においても、表1と同様の結果が得られた。特に、電池構造が角型である場合には、ラミネートフィルム型である場合よりも放電容量維持率が高くなった。この場合には、電池缶11の材質が鉄であると、放電容量維持率がより高くなった。これらのことから、本発明の二次電池では、電池構造が角型であれば、サイクル特性がより向上する。
【0222】
上記した表1〜表14および図10〜図14の結果から、以下のことが確認された。本発明の二次電池では、負極活物質がケイ素および鉄を構成元素として含み、負極活物質中における鉄の含有量が0.05重量%以上である。これにより、負極活物質中の酸素含有量、低酸素含有領域および高酸素含有領域の有無、電解液の組成、あるいは電池構造などに依存せずに、サイクル特性が向上する。
【0223】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記した実施の形態および実施例において説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、本発明の負極の使用用途は、必ずしも二次電池に限らず、それ以外の他の電気化学デバイスであもよい。他の用途としては、例えば、キャパシタなどが挙げられる。
【0224】
また、上記した実施の形態および実施例では、二次電池の種類として、負極の容量がリチウムイオンの吸蔵および放出により表されるリチウムイオン二次電池について説明したが、必ずしもこれに限られない。本発明の二次電池は、負極の容量がリチウムイオンの吸蔵および放出による容量とリチウム金属の析出および溶解による容量とを含み、かつ、それらの容量の和により表される二次電池についても適用可能である。この場合には、負極活物質としてリチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な材料が用いられると共に、その材料の充電可能な容量が正極の放電容量よりも小さくなるように設定される。
【0225】
また、上記した実施の形態および実施例では、電池構造が角型、円筒型あるいはラミネートフィルム型である場合や、電池素子が巻回構造を有する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、本発明の二次電池は、コイン型あるいはボタン型などの他の電池構造を有する場合や、電池素子が積層構造などの他の構造を有する場合についても適用可能である。
【0226】
また、上記した実施の形態および実施例では、電極反応物質の元素としてリチウムを用いる場合について説明したが、必ずしもこれに限られない。電極反応物質は、例えば、ナトリウム(Na)あるいはカリウム(K)などの他の1族元素や、マグネシウムあるいはカルシウムなどの2族元素や、アルミニウムなどの他の軽金属でもよい。本発明の効果は、電極反応物質の種類に依存せずに得られるはずであるため、その電極反応物質の種類を変更しても、同様の効果を得ることができる。
【0227】
また、上記した実施の形態および実施例では、本発明の二次電池における負極活物質中の鉄含有量について、実施例の結果から導き出された適正範囲を説明している。しかしながら、その説明は、鉄含有量が上記した範囲外となる可能性を完全に否定するものではない。すなわち、上記した適正範囲は、あくまで本発明の効果を得る上で特に好ましい範囲であり、本発明の効果が得られるのであれば、鉄含有量が上記した範囲から多少外れてもよい。このことは、鉄および追加金属元素の含有量の合計、負極活物質の半値幅および結晶子サイズ、負極活物質中の酸素含有量、あるいは負極集電体の表面の十点平均粗さRzなどについても、同様である。
【符号の説明】
【0228】
1,22A,42A,54A…負極集電体、2,22B,42B,54B…負極活物質層、11,31…電池缶、12,32,33…絶縁板、13,34…電池蓋、14…端子板、15…正極ピン、16…絶縁ケース、17,37…ガスケット、18…開裂弁、19…注入孔、19A…封止部材、20…電池素子、21,41,53…正極、21A,41A,53A…正極集電体、21B,41B,53B…正極活物質層、22,42,54…負極、23,43,55…セパレータ、24,45,51…正極リード、25,46,52…負極リード、35…安全弁機構、35A…ディスク板、36…熱感抵抗素子、40,50…巻回電極体、44…センターピン、56…電解質層、57…保護テープ、61…密着フィルム、60…外装部材、201…負極活物質粒子、201P…扁平粒子、202…空隙、P1…接触部分、P2…非接触部分。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極および負極と、溶媒および電解質塩を含む電解質とを備え、
前記負極は、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能である結晶性の負極活物質を含み、
前記結晶性の負極活物質は、ケイ素(Si)および鉄(Fe)を構成元素として含み、前記結晶性の負極活物質中における鉄の含有量は、0.05重量%以上である
二次電池。
【請求項2】
X線回折により得られる前記結晶性の負極活物質の(111)結晶面における回折ピークの半値幅(2θ)は、20°以下である請求項1記載の二次電池。
【請求項3】
X線回折により得られる前記結晶性の負極活物質の(111)結晶面に起因する結晶子サイズは、100nm以上である請求項1記載の二次電池。
【請求項4】
前記負極は、負極集電体上に前記結晶性の負極活物質を有し、前記結晶性の負極活物質は、前記負極集電体との界面の少なくとも一部において合金化している請求項1記載の二次電池。
【請求項5】
前記結晶性の負極活物質は、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)、クロム(Cr)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、カリウム(K)、銅(Cu)およびチタン(Ti)のうちの少なくとも1種の追加金属元素を構成元素として含む請求項1記載の二次電池。
【請求項6】
前記結晶性の負極活物質中における鉄および追加金属元素の含有量の合計は、0.2重量%以上である請求項5記載の二次電池。
【請求項7】
前記結晶性の負極活物質は、複数の粒子状であり、そのうちの少なくとも一部は、前記負極の厚さ方向と交差する方向に延在する扁平状である請求項1記載の二次電池。
【請求項8】
前記結晶性の負極活物質は、内部に空隙を有する請求項1記載の二次電池。
【請求項9】
前記負極は、負極集電体上に前記結晶性の負極活物質を有し、前記結晶性の負極活物質は、前記負極集電体の表面に接触している部分と接触していない部分とを有する請求項1記載の二次電池。
【請求項10】
前記結晶性の負極活物質は、溶射法により形成されている請求項1記載の二次電池。
【請求項11】
前記結晶性の負極活物質は、酸素(O)を構成元素として含み、前記結晶性の負極活物質中の酸素含有量は、1.5原子数%以上40原子数%以下である請求項1記載の二次電池。
【請求項12】
前記結晶性の負極活物質は、前記負極の厚さ方向において高酸素含有領域および低酸素含有領域を有する請求項1記載の二次電池。
【請求項13】
前記負極は、負極集電体上に前記結晶性の負極活物質を有し、前記負極集電体の表面の十点平均粗さRzは、1.5μm以上である請求項1記載の二次電池。
【請求項14】
前記十点平均粗さRzは、3μm以上30μm以下である請求項13記載の二次電池。
【請求項15】
前記溶媒は、式(1)で表されるハロゲン化鎖状炭酸エステル、式(2)で表されるハロゲン化環状炭酸エステル、式(3)〜式(5)で表される不飽和炭素結合環状炭酸エステル、スルトン、および酸無水物のうちの少なくとも1種を含む請求項1記載の二次電池。
【化1】

(R11〜R16は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それらのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。)
【化2】

(R17〜R20は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それらのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。)
【化3】

(R21およびR22は水素基あるいはアルキル基である。)
【化4】

(R23〜R26は水素基、アルキル基、ビニル基あるいはアリル基であり、それらのうちの少なくとも1つはビニル基あるいはアリル基である。)
【化5】

(R27はアルキレン基である。)
【請求項16】
前記電解質塩は、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )、過塩素酸リチウム(LiClO4 )、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF6 )、および式(6)〜式(11)で表される化合物のうちの少なくとも1種を含む請求項1記載の二次電池。
【化6】

(X31は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素、またはアルミニウムである。M31は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。R31はハロゲン基である。Y31は−(O=)C−R32−C(=O)−、−(O=)C−C(R33)2 −あるいは−(O=)C−C(=O)−である。ただし、R32はアルキレン基、ハロゲン化アルキレン基、アリーレン基あるいはハロゲン化アリーレン基である。R33はアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基あるいはハロゲン化アリール基である。なお、a3は1〜4の整数であり、b3は0、2あるいは4であり、c3、d3、m3およびn3は1〜3の整数である。)
【化7】

(X41は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素である。M41は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。Y41は−(O=)C−(C(R41)2 b4−C(=O)−、−(R43)2 C−(C(R42)2 c4−C(=O)−、−(R43)2 C−(C(R42)2 c4−C(R43)2 −、−(R43)2 C−(C(R42)2 c4−S(=O)2 −、−(O=)2 S−(C(R42)2 d4−S(=O)2 −あるいは−(O=)C−(C(R42)2 d4−S(=O)2 −である。ただし、R41およびR43は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それぞれのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。R42は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。なお、a4、e4およびn4は1あるいは2であり、b4およびd4は1〜4の整数であり、c4は0〜4の整数であり、f4およびm4は1〜3の整数である。)
【化8】

(X51は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素である。M51は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。Rfはフッ素化アルキル基あるいはフッ素化アリール基であり、いずれの炭素数も1〜10である。Y51は−(O=)C−(C(R51)2 d5−C(=O)−、−(R52)2 C−(C(R51)2 d5−C(=O)−、−(R52)2 C−(C(R51)2 d5−C(R52)2 −、−(R52)2 C−(C(R51)2 d5−S(=O)2 −、−(O=)2 S−(C(R51)2 e5−S(=O)2 −あるいは−(O=)C−(C(R51)2 e5−S(=O)2 −である。ただし、R51は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。R52は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、そのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。なお、a5、f5およびn5は1あるいは2であり、b5、c5およびe5は1〜4の整数であり、d5は0〜4の整数であり、g5およびm5は1〜3の整数である。)
LiN(Cm 2m+1SO2 )(Cn 2n+1 SO2 ) …(9)
(mおよびnは1以上の整数である。)
【化9】

(R61は炭素数2以上4以下の直鎖状あるいは分岐状のパーフルオロアルキレン基である。)
LiC(Cp 2p+1SO2 )(Cq 2q+1SO2 )(Cr 2r+1SO2 ) …(11)
(p、qおよびrは1以上の整数である。)
【請求項17】
前記正極は、正極活物質として、式(12)で表される複合酸化物を含む請求項1記載の二次電池。
LiNi1-x x 2 …(12)
(Mはコバルト(Co)、マンガン、鉄、アルミニウム、バナジウム(V)、スズ(Sn)、マグネシウム、チタン、ストロンチウム(Sr)、カルシウム、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ルテニウム(Ru)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、イッテルビウム(Yb)、銅、亜鉛(Zn)、バリウム(Ba)、ホウ素(B)、クロム、ケイ素、ガリウム(Ga)、リン(P)、アンチモン(Sb)およびニオブ(Nb)のうちの少なくとも1種である。xは0.005<x<0.5である。)
【請求項18】
前記電極反応物質は、リチウムイオンである請求項1記載の二次電池。
【請求項19】
電極反応物質を吸蔵および放出することが可能である結晶性の負極活物質を含み、
前記結晶性の負極活物質は、ケイ素および鉄を構成元素として含み、前記結晶性の負極活物質中における鉄の含有量は、0.05重量%以上である
負極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−165508(P2010−165508A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−5626(P2009−5626)
【出願日】平成21年1月14日(2009.1.14)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】