説明

負極活物質の製造方法および該方法によって製造された負極活物質の利用

【課題】サイクル寿命特性が向上した二次電池の負極活物質の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明により提供される二次電池の負極活物質を製造する方法は、負極活物質を用意すること、前記用意した負極活物質に対し、液相法によって炭素材料を供給し、該負極活物質の一部に炭素コートを形成すること、前記液相法によって炭素材料が供給された負極活物質に対し、気相法によって炭素材料を供給し、該負極活物質の一部に炭素コートを形成すること、を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の負極活物質の製造方法に関し、詳しくは、炭素コートが形成された、二次電池の負極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池やニッケル水素電池等の二次電池は、電気を駆動源とする車両搭載用電源、あるいはパソコンおよび携帯端末その他の電気製品等に搭載される電源として重要性が高まっている。特に、軽量で高エネルギー密度が得られるリチウムイオン二次電池は、車両搭載用高出力電源として好ましく用いられることが期待されている。上記リチウムイオン二次電池等の二次電池の典型的な構成では、例えば、電荷担体となる化学種(典型的にはリチウムイオン)を可逆的に吸蔵および放出し得る負極活物質を主成分とする負極活物質層が負極集電体上に形成されたものを負極として用いており、上記負極活物質としては、例えば黒鉛等の炭素材料が用いられている。
【0003】
しかし、例えば、黒鉛を負極活物質として用いた場合、黒鉛のエッジ部(典型的には、黒鉛の六角網面(ベーサル面)の端部)が電解液(典型的には非水電解液)と反応することにより、二次電池の容量低下や抵抗増加を引き起こすことが知られており、これが二次電池の長寿命化(典型的にはサイクル寿命特性の向上)の障害になっている。このような問題を解消するため、高結晶性黒鉛の表面に気相法、液相法または固相法により低結晶性の炭素を付着させたものを負極活物質として用いる技術が提案されている。この種の従来技術として特許文献1が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−42786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、二次電池の長寿命化に対する要望は依然強く、二次電池のサイクル寿命特性(典型的には容量維持率および抵抗増加率の抑制)のさらなる向上が求められている。本発明は、上述した従来技術の改良に関するものであり、その目的は、サイクル寿命特性が向上した二次電池の負極活物質の製造方法を提供することである。また、そのような負極活物質を用いた二次電池(典型的には、非水電解液を備えるリチウムイオン二次電池等の非水電解液型二次電池)の提供を他の目的とする。さらに、該二次電池を備えた車両の提供を他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を実現するべく、本発明により、二次電池の負極活物質を製造する方法が提供される。かかる製造方法は、負極活物質を用意すること、前記用意した負極活物質に対し、液相法によって炭素材料を供給し、該負極活物質の一部に炭素コートを形成すること、前記液相法によって炭素材料が供給された負極活物質に対し、気相法によって炭素材料を供給し、該負極活物質の一部に炭素コートを形成すること、を包含することを特徴とする。
【0007】
本発明者らは、二次電池の長寿命化について鋭意検討していたところ、液相法によって負極活物質に炭素コートを形成した場合、該炭素コートの該負極活物質への付着力は強固であるが、該炭素コートは、該負極活物質の一部(例えば、外表面に通じる内部空間(空隙)の表面)には充分に形成されないことを発見した。そして、これが、液相法を採用した場合における二次電池の長寿命化の障害になっていると考察した。また、気相法によって負極活物質に炭素コートを形成した場合、該炭素コートは負極活物質の一部(例えば、外表面に通じる内部空間(空隙)の表面)に形成されるが、液相法による炭素コートと比べてその付着力が弱いことを発見した。そして、これが気相法を採用した場合における二次電池の長寿命化の障害になっていると考察した。これらの発見と考察から、液相法と気相法とを併用して負極活物質に炭素コートを形成することにより、両者の欠点を補完し、二次電池をさらに長寿命化することができると考え、さらに試験研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。すなわち、かかる構成の負極活物質の製造方法によると、液相法によって炭素材料を負極活物質に供給し、該負極活物質の一部(典型的には外表面の一部)に炭素コートを形成し、前記液相法によって炭素材料が供給された負極活物質に対し、気相法によって炭素材料を供給し、該負極活物質の一部(典型的には、外表面に通じる内部空間(空隙)の表面)に炭素コートを形成することにより、この方法によって製造された負極活物質を用いて構築される二次電池のサイクル寿命特性(典型的には容量維持率および抵抗増加率の抑制)が向上する。
従って、本発明の製造方法によると、リチウムイオン二次電池その他の二次電池のサイクル寿命特性の向上が可能な負極活物質を提供することができる。
【0008】
ここで開示される負極活物質の製造方法の好適な一態様では、前記液相法によって形成される炭素コートと前記気相法によって形成される炭素コートの全質量(合計質量)が、これら炭素コートを形成する前の負極活物質の質量を100質量%としたときに1質量%〜5質量%の範囲内となるように前記炭素材料を供給する。このように、液相法および気相法による炭素コートの全質量を適切な範囲とすることにより、この方法によって製造された負極活物質を用いて構築される二次電池は、サイクル寿命特性(典型的には容量維持率および抵抗増加率の抑制)がより向上する。
【0009】
ここで開示される負極活物質の製造方法の好適な一態様では、前記液相法による炭素コートと前記気相法による炭素コートが形成された負極活物質が、下記(a)〜(c):(a)平均粒径D50が、10μm〜20μmであること;(b)BET法による窒素吸着比表面積(NSA)が、2.5m/g〜5.3m/gであること;(c)JIS K1469に準拠して測定したタップ密度が、0.92g/cm〜1.00g/cmであること;のうち少なくとも1つを満たす。このように、液相法による炭素コートと気相法による炭素コートが形成された負極活物質の平均粒径、比表面積およびタップ密度の少なくとも1つを適切な範囲となるよう設定することにより、上述したサイクル寿命特性がより向上する(典型的には抵抗増加率が抑制される)。
なお、本明細書において「平均粒径D50」とは、レーザ散乱・回折法に基づく粒度分布測定装置に基づいて測定した粒度分布から導き出せるメジアン径(D50:50%体積平均粒径)をいう。
また、本明細書において「タップ密度」とは、JIS K1469に準拠して測定される値をいう。より具体的には、質量W(g)の試料を容器に投入し、目視では体積変化が見て取れなくなるまでタップ操作を機械的に繰り返し、圧縮された試料の体積V(cm)を測定し、下記式:
タップ密度D(g/cm)=質量W(g)/体積V(cm
から算出される値である。
【0010】
ここで開示される負極活物質の製造方法の好適な一態様では、前記負極活物質が、球形化処理が施された黒鉛である。球形化処理が施された黒鉛は、層状の黒鉛が、そのベーサル面が同心円状にまたは折り畳まれるように変形しながら球形化し、さらに場合によっては微粉が凝集して球形化されていることから、その内部には外表面に通じる空間(空隙)が形成されている。つまり、液相法では炭素コートを充分に形成できないが、気相法では炭素コートを充分に形成できる箇所が存在する。そのため、上述した液相法と気相法の併用による作用効果がより顕著に得られる。
【0011】
ここで開示される負極活物質の製造方法の好適な一態様では、前記液相法による炭素コートと前記気相法による炭素コートの全質量の40質量%〜60質量%が前記液相法によって形成され、残部が前記気相法によって形成されるように前記炭素材料を供給する。このように、液相法による炭素コートと気相法による炭素コートの形成量を所定の比率となるように調整することにより、この方法によって製造された負極活物質を用いて構築される二次電池は、サイクル寿命特性(典型的には容量維持率および抵抗増加率の抑制)がより向上する。
【0012】
また、本発明によると、ここで開示されるいずれかに記載の方法によって製造された負極活物質を主成分として含有する負極活物質層が負極集電体上に形成された負極を備える、非水電解液型二次電池が提供される。また、そのような構成の非水電解液型二次電池を備えた車両が提供される。かかる非水電解液型二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)は、サイクル寿命特性(典型的には容量維持率および抵抗増加率の抑制)に優れるので、ハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車のような電動機を備える自動車等の車両に搭載されるモーター(電動機)用の電源として好適に使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】一実施形態に係る負極活物質の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の構成を模式的に示す断面図である。
【図3】一実施形態に係るリチウムイオン二次電池を備えた車両(自動車)を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明による一実施形態を説明する。なお、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。また、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、正極および負極を備えた電極体の構成および製法、セパレータや電解液の構成および製法、電池その他の電池の構築に係る一般的技術等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。
【0015】
図1に示されるように、一実施形態に係る負極活物質の製造方法は、負極活物質を用意すること(ステップS0)と、該負極活物質に球形化処理を施すこと(ステップS10)と、該球形化処理が施された負極活物質(液相法によって炭素材料が供給される直前の負極活物質である。)に対し、液相法によって炭素材料を供給し(ステップS20)、その後焼成することにより該負極活物質の一部に炭素コートを形成すること(ステップS30)と、前記液相法によって炭素コートが形成された負極活物質に対し、気相法によって炭素材料を供給し(ステップS40)、その後焼成することにより該負極活物質の一部に炭素コートを形成すること(ステップS50)とを包含する。以下、説明する。
【0016】
本発明を実施するにあたっては、まず、負極活物質(典型的には負極活物質を構成する原料)を用意する。ここで開示される負極活物質(典型的には負極活物質を構成する原料)としては、従来から負極活物質として用いられている種々の化合物が挙げられる。例えば、車両の駆動源として用いられるリチウムイオン二次電池の負極活物質を製造するにあたり本発明を適用する場合、かかる負極活物質としては、電荷担体となる化学種(典型的にはリチウムイオン)を挿入/脱離可能なものであれば特に限定されず、例えば、グラファイトカーボン(黒鉛)やアモルファスカーボン等の炭素(C)材料、ケイ素(Si)材料、スズ(Sn)材料等が挙げられる。また、このような材料であれば、単体、合金、化合物、上記材料を併用した複合材料を用いることもできる。典型例としては、天然黒鉛や人造黒鉛等の黒鉛等からなる粉末状の炭素材料が挙げられる。
【0017】
なかでも、粉末状の黒鉛は、粒径が小さく単位体積当たりの表面積が大きいことから、より急速充放電(例えば高出力放電)に適するが、その分、電解液と反応しやすいため、二次電池の容量低下や抵抗増加を引き起こしやすい傾向がある。そのため、電解液との反応性を低下させる炭素コート形成の効果が顕著に得られるので、本発明の実施に用いられる負極活物質として好適である。
【0018】
負極活物質(典型的には負極活物質を構成する原料)として、例えば高結晶性の黒鉛等の負極活物質を用いる場合、負極活物質に対し、球形化処理等の表面改質や形状制御等の処理を行うことが好ましい。なかでも、液相法と気相法とを併用して形成する炭素コートの効果が顕著に得られるという点で、球形化処理がより好ましい。
【0019】
球形化処理に用いる装置としては、例えば、衝撃圧縮、摩擦、せん断力等の機械的作用を繰り返し粒子に与える装置が挙げられる。具体的には、ケーシング内部に多数のブレードを設置したローターを有し、そのローターが高速回転することによって、内部に導入された負極活物質に対して上述の機械的作用を与え、表面改質を行う装置が好ましい。また、負極活物質を循環させることによって機械的作用を繰り返し与える機構を有するものも好ましく用いられ得る。好ましい装置としては、例えば、メカノフュージョン(登録商標)システム(ホソカワミクロン(株)製)、ハイブリダイゼーションシステム(登録商標)((株)奈良機械製作所製)、ニューグラマシン((株)セイシン企業製)、クリプトロン(登録商標)((株)アーステクニカ製)、ヘンシェルミキサ(登録商標)(日本コークス工業(株)製)、CFミル(登録商標)(宇部興産(株)製)、シータコンポーザ((株)徳寿工作所製)等が挙げられる。
【0020】
球形化処理を施す場合、負極活物質(典型的には負極活物質を構成する原料)としては、鱗片状の黒鉛(例えば天然黒鉛)を用いることがより好ましい。球形化処理が施された前記黒鉛は、例えば、層状の黒鉛が、そのベーサル面が同心円状にまたは折り畳まれるように変形しながら球形化し、さらに場合によっては微粉(典型的には、平均粒径が5μm以下)が凝集して球形化されることから、その内部には外表面に通じる空間(空隙)が形成されている。そのため、かかる形状を有する黒鉛は、液相法と気相法とを併用して形成する炭素コートの効果がより顕著に得られる。特に、負極活物質として球形化処理が施された天然黒鉛を用いることで、天然黒鉛系の材料では困難とされてきた長寿命化と高入出力特性との両立(典型的には、現時点では未確立の10年15万マイルという車両の要求特性の実現)が期待される。
【0021】
例えば上述したようにして用意した負極活物質は、その形状に特に制限はないが、例えば、外表面と該外表面に通じる内部空間(空隙)の表面である内表面とから構成される表面構造を有することが好ましい。なお、負極活物質が本来的に上述したような表面構造を有する場合、球形化処理等のような処理は不要である。本発明において球形化処理等のような処理が必須でないことは自明である。
【0022】
また、用意した負極活物質の平均粒径D50は、特に限定されないが、例えば5μm〜30μm(典型的には7μm〜20μm)である。さらに、負極活物質が、球形化処理が施された黒鉛のように球形状の場合、そのアスペクト比に特に制限はないが、アスペクト比は、例えば0.5〜1.0(典型的には0.7〜1.0)の範囲内とすることができる。なお、アスペクト比は、粒子の短軸方向の長さをA、長軸方向の長さをBとしたとき、A/Bで表されるものであり、走査型電子顕微鏡(SEM)で粒子を拡大し、任意に10個以上の粒子を選択し、A/Bを測定した平均値から得られる。
【0023】
次に、用意した負極活物質に対し、液相法によって炭素材料を供給し、その後焼成することにより該負極活物質の一部に炭素コートを形成する。ここで、本明細書における「液相法による炭素コートの形成」とは、特に限定されないが、例えば、用意した負極活物質を炭素材料が付与された液相に曝して、該炭素材料を負極活物質の表面に付着させ、該表面に付着した炭素材料を焼成することにより負極活物質の一部に炭素コートを形成することをいう。
【0024】
液相法で用いる炭素材料としては、ナフタレン、フェナントレン、アセナフチレン、アントラセン、トリフェニレン、ピレン、クリセン、ペリレン等の芳香族炭化水素、これらの1種を単独でもしくは2種以上を混合して加熱加圧下で重縮合して得られるタールまたはピッチ、石油系や石炭系のタール、ピッチ、アスファルト、油等、あるいはポリマー溶液やポリマー分散液等が挙げられる。これらの炭素材料は1種を単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0025】
液相法による炭素材料の供給条件は、用いる炭素材料の種類や炭化収率、製造装置等によって決定されるため、特に限定されず、例えば、液相法によって形成される炭素コートと気相法によって形成される炭素コートの全質量(以下、炭素コートの全質量ともいう)が、用意した負極活物質の質量を100質量%としたときに0.5質量%を超え、炭素コートの全質量の10質量%〜90質量%が液相法によって形成されるように、液相中における炭素材料の濃度等を調整することにより炭素材料の供給条件を決定すればよい。
【0026】
また、液相法によって炭素コートを形成する場合における焼成の条件(典型的には温度および時間等)は、負極活物質の一部(典型的には外表面の一部)に付着した炭素材料を炭素化することが可能な条件であればよく特に限定されないが、焼成温度としては、例えば500℃〜1500℃(典型的には700℃〜1300℃)の範囲内である。これによって、負極活物質の一部(典型的には外表面の一部)に、電解液との反応性の低い炭素コートを好適に形成することができる。
【0027】
次に、液相法によって負極活物質に炭素コートを形成した後、該負極活物質に対し、さらに気相法によって炭素材料を供給し、その後焼成することにより該負極活物質の一部に炭素コートを形成することが好ましい。ここで、本明細書における「気相法による炭素コートの形成」とは、特に限定されないが、例えば、気体状の炭素材料、あるいは液体状の炭素材料を噴霧またはバブリング等の手法により反応系内に導入し、該炭素材料を負極活物質の表面に付着させ、該表面に付着した炭素材料を焼成することにより負極活物質の一部に炭素コートを形成することをいう。
【0028】
気相法で用いる炭素材料としては、メタン、エタン、プロパン等の脂肪族飽和炭化水素、エチレン、プロピレン等の脂肪族不飽和炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、ペリレン等の芳香族炭化水素等、これらにカルボキシル基等の種々の官能基が導入された変性物、その他脂肪族および芳香族アルコール類、あるいは低沸点の石油系ピッチ等が挙げられる。これらの炭素材料は1種を単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0029】
気相法による炭素材料の供給条件については、用いる炭素材料の種類や炭化収率、製造装置等によって決定されるため、特に限定されず、例えば、炭素コートの全質量が、用意した負極活物質の質量を100質量%としたときに0.5質量%を超え、炭素コートの全質量の10質量%〜90質量%が気相法によって形成されるように、気相中における炭素材料の濃度等を調整することにより炭素材料の供給条件を決定すればよい。また、気相法によって炭素コートを形成する場合における焼成の条件も特に限定されず、焼成温度については上述した液相法の場合と同じ条件を好ましく採用することができる。なお、焼成は、上述したように、液相法による炭素コートの形成および気相法による炭素コートの形成のそれぞれについて行うことができるが、本発明はこれに限定されるものではなく、液相法によって炭素材料を供給した後、気相法によって炭素材料を供給し、その後、焼成を行うことも可能であり、この方法によっても、得られる二次電池のサイクル寿命特性は向上する。
【0030】
このようにして気相法によって炭素材料を供給することにより、液相法では炭素コートを充分に形成できない負極活物質の一部(典型的には、外表面に通じる内部空間(空隙)の表面)に、炭素コートを形成することができる。また、本発明者らは、上述とは逆の順序の場合、すなわち、気相法によって炭素材料を供給し、次いで液相法によって炭素材料を供給した場合、二次電池のサイクル寿命特性が劣る傾向があることを実験によって確認している。つまり、液相法と気相法との併用において、まず液相法によって炭素材料を供給し、次いで気相法によって炭素材料を供給するという順序が重要であり、この順序によって初めて本発明のサイクル寿命特性向上効果が得られる。気相法による炭素供給を先に行った場合、気相法による炭素コートは液相法によるものと比べて付着力が弱いため、その一部が脱落してしまい、結果として二次電池のサイクル寿命特性が劣るものと推察される。
【0031】
液相法と気相法による炭素材料の合計供給量は、特に限定されないが、炭素コートの全質量が、用意した負極活物質の質量を100質量%としたときに0.5質量%を超える(例えば0.75質量%以上、典型的には1質量%以上)ように供給することが好ましい。これによって、かかる負極活物質を用いて構築される二次電池のサイクル寿命特性が向上する傾向がある。一方、前記合計供給量は、炭素コートの全質量が、前記負極活物質の質量を100質量%としたときに10質量%以下(例えば7.5質量%以下、典型的には5質量%以下)となるように供給することが好ましい。これによって、かかる負極活物質を用いて構築される二次電池は、初期充放電効率の低下が抑制される傾向がある。特に、炭素コートの全質量が、前記負極活物質の質量を100質量%としたときに1質量%以上3質量%以下となるように炭素材料の合計供給量を調整することにより、該負極活物質を用いて構築される二次電池は、サイクル寿命特性が向上するだけでなく、初期充放電効率の低下を抑制することができ、二次電池の長寿命化と高い初期充放電効率とを両立することができる。
【0032】
また、液相法による炭素材料の供給量と気相法による炭素材料の供給量との比率は、特に限定されないが、二次電池のサイクル寿命特性を向上する観点から、液相法によって炭素コートの全質量の10質量%〜90質量%(例えば30質量%〜70質量%、典型的には40質量%〜60質量%)が形成され、残部が気相法によって形成されるように炭素材料の供給比率を調整することが好ましい。
【0033】
このようにして製造された負極活物質(典型的には、液相法による炭素コートと気相法による炭素コートが形成された負極活物質である。)は、負極活物質の少なくとも一部に(好ましくは略全体を覆うように)、液相法および気相法によって炭素コートが形成されている。かかる炭素コートの全質量は、特に限定されず、例えば、上述(液相法と気相法による炭素材料の合計供給量に関する説明)の範囲内とすることが好ましい。
【0034】
上記方法によって製造された負極活物質の平均粒径D50は、特に限定されないが、好ましくは5μm〜30μm(例えば7μm〜25μm、典型的には10μm〜20μm)である。平均粒径が上記の範囲内であることにより、二次電池のサイクル寿命特性と初期充放電効率とが両立する傾向がある。
【0035】
また、上記方法によって製造された負極活物質のBET法による窒素吸着比表面積(NSA)は、特に限定されないが、好ましくは0.5m/g〜10m/g(例えば0.9m/g〜8.0m/g、典型的には2.5m/g〜5.3m/g)である。NSAが上記の範囲内であることにより、二次電池のサイクル寿命特性と初期充放電効率とが両立する傾向がある。
【0036】
さらに、上記方法によって製造された負極活物質のJIS K1469に準拠して測定したタップ密度は、特に限定されないが、好ましくは0.80g/cm〜1.20g/cm(例えば0.90g/cm〜1.05g/cm、典型的には0.92g/cm〜1.00g/cm)である。上記タップ密度が上記の範囲内であることにより、二次電池のサイクル寿命特性と初期充放電効率とが両立する傾向がある。
【0037】
さらに、上記方法によって製造された負極活物質は、下記(a)〜(c):
(a)平均粒径D50が、10μm〜20μmであること;
(b)BET法による窒素吸着比表面積(NSA)が、2.5m/g〜5.3m/gであること;
(c)JIS K1469に準拠して測定したタップ密度が、0.92g/cm〜1.00g/cmであること;
のうち少なくとも1つを満たす(例えば(a)、(b)、(c)、(a)と(b)、(a)と(c)、(b)と(c)のいずれかを満たす、典型的には(a)〜(c)のすべてを満たす)ことに加えて、炭素コートの全質量が、用意した負極活物質の質量を100質量%としたときに1質量%以上3質量%以下であることが特に好ましい。これによって、この負極活物質を用いて構築される二次電池は、サイクル寿命特性が向上するだけでなく、初期充放電効率の低下を抑制することができ、サイクル寿命特性と初期充放電効率とを高いレベルで両立することができる。
【0038】
次に、上記の方法により製造された負極活物質を用いた負極を備える一実施形態に係るリチウムイオン二次電池について説明するが、本発明はリチウムイオン二次電池に限定されるものではない。上記の方法により提供される負極活物質は、サイクル寿命特性に優れることから、種々の形態の二次電池(例えば、リチウムイオン以外の金属イオン(例えばナトリウムイオン)を電荷担体とする非水電解液型二次電池)の構成要素、すなわち該二次電池に内蔵される電極体の負極の構成要素として好ましく利用され得る。
【0039】
図2に示されるように、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池100は、金属製(樹脂製またはラミネートフィルム製も好適である。)のケース21を備える。このケース(外容器)21は、上端が開口した扁平な直方体状のケース本体22と、その開口部分を塞ぐ蓋体23とを備える。ケース21の上面(すなわち蓋体23)には、捲回電極体80の正極と電気的に接続する正極端子25および捲回電極体80の負極と電気的に接続する負極端子27が設けられている。また、ケース21の内部には、扁平形状の捲回電極体80が収容されている。この捲回電極体80は、例えば長尺シート状の正極(正極シート)50および長尺シート状の負極(負極シート)10を計二枚の長尺シート状セパレータ(セパレータシート)60とともに積層して捲回し、次いで得られた捲回体を側面方向から押しつぶして拉げさせることによって作製されるものである。
【0040】
正極シート50および負極シート10は、それぞれ、長尺シート状の電極集電体の両面に電極活物質を主成分とする電極活物質層が形成された構成を有する。また、正極シート50の幅方向の一端には、いずれの面にも上記正極活物質層が形成されていない正極活物質層非形成部分51が設けられており、負極シート10の幅方向の一端には、いずれの面にも上記負極活物質層が形成されていない負極活物質層非形成部分11が設けられている。そして、上記積層の際に、正極シート50の正極活物質層非形成部分51と負極シート10の負極活物質層非形成部分11とがセパレータシート60の幅方向の両側からそれぞれはみ出すように、正極シート50と負極シート10とを幅方向にややずらして重ね合わせることで、捲回電極体80の捲回方向に対する幅方向において、正負極シート50,10の電極活物質層非形成部分51,11が、それぞれ捲回コア部分(すなわち正極シート50の正極活物質層形成部分と負極シート10の負極活物質層形成部分と二枚のセパレータシート60とが密に捲回された部分)82から外方にはみ出た構成が得られる。かかる正極側はみ出し部分(正極活物質層非形成部分)51および負極側はみ出し部分(負極活物質層非形成部分)11には、正極リード端子26および負極リード端子28がそれぞれ付設されており、上述の正極端子25および負極端子27とそれぞれ電気的に接続される。
【0041】
かかる捲回電極体80を構成する各構成要素は、従来のリチウムイオン二次電池の電極体の各構成要素と同様でよく、特に制限はない。例えば、正極シート50は、長尺状の正極集電体の上に正極活物質を主成分とする正極活物質層が付与(典型的には塗布および乾燥)されて形成され得る。正極集電体にはアルミニウム箔その他の正極に適する金属箔が好適に使用される。正極活物質層の主成分となる正極活物質は、従来からリチウムイオン二次電池に用いられる物質の1種または2種以上を特に限定することなく使用することができる。好適例として、層状構造やスピネル構造のリチウムニッケル系複合酸化物、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物、オリビン型リン酸リチウム等の、リチウムと1種または2種以上の遷移金属元素とを構成金属元素として含むリチウム遷移金属複合酸化物が挙げられる。正極活物質層には、上記正極活物質の他に、さらに導電材や結着材等の添加材を含有させることができる。導電材としては、例えばカーボン粉末やカーボンファイバー等のカーボン材料が挙げられ、結着材としては、例えばセルロース誘導体(典型的にはカルボキシメチルセルロース(CMC))等の水溶性または水分散性ポリマーが挙げられる。なお、正極シート50および負極シート10のいずれかの表面には、電極活物質層の脱落を防止する目的や耐熱性を向上する目的で保護膜が設けられていてもよい。正極活物質層中における正極活物質の含有量は、固形分全量を100質量%としたときに凡そ50質量%を超えること(典型的には凡そ70質量%〜95質量%の範囲内)が好ましい。
【0042】
負極シート10は、例えば、長尺状の負極集電体の上に負極活物質を主成分とする負極活物質層が付与されて形成され得る。負極集電体には銅箔その他の負極に適する金属箔が好適に使用される。負極活物質層の主成分となる負極活物質は、上述した方法によって製造された負極活物質を用いる。負極活物質層には、上記負極活物質の他に、さらに結着材や増粘材等の添加材を含有させることができる。結着材としては、スチレンブタジエンゴム(SBR)またはその変性物等のポリマー材料が好ましく例示され、増粘材としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の水溶性または水分散性ポリマー等が好ましく例示される。負極活物質層中における負極活物質の含有量は、固形分全量を100質量%としたときに凡そ50質量%を超えること(典型的には凡そ90質量%〜99質量%の範囲内)が好ましい。
【0043】
正負極シート間に使用されるセパレータ(セパレータシート)の好適例としては、多孔質ポリオレフィン系樹脂で構成されたものが挙げられる。例えば、厚さ5μm〜30μm程度の合成樹脂製(例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン製)多孔質セパレータシートを好適に使用し得る。このセパレータシートには耐熱層等が設けられていてもよい。なお、電解液に替えて固体電解質またはゲル状電解質を使用する場合には、セパレータが不要になること(すなわちこの場合には電解質自体がセパレータとして機能し得る。)があり得る。
【0044】
図2を参照し、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池100は、例えば次のような方法で製造される。まず、上述したような手法により、正極活物質を主成分として形成された正極活物質層を正極集電体上に備えた正極シート50を構築し、上述した方法によって製造された負極活物質を主成分として形成された負極活物質層を負極集電体上に備えた負極シート10を構築する。その後、上述したように、正極シート50と負極シート10とセパレータシート60とから構成される捲回電極体80を、ケース本体22の上端開口部分から該ケース本体22内に収容するとともに適当な支持塩を含む電解液をケース本体22内に配置(注液)する。
【0045】
電解液は、従来からリチウムイオン二次電池に用いられる非水電解液と同様のものを特に限定なく使用することができる。かかる電解液は、典型的には、適当な非水溶媒に支持塩を含有させた組成を有する。上記非水溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、エチルメチルカーボネート(EMC)等の1種または2種以上を用いることができる。また、上記支持塩としては、例えば、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、LiCSO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiI等のリチウム化合物(リチウム塩)の1種または2種以上を用いることができる。なお、支持塩の濃度は、従来のリチウムイオン二次電池で使用される非水電解液と同様でよく特に限定されないが、例えば上記支持塩を0.1〜5mol/L程度の濃度で含有させた電解液を好適に使用することができる。
【0046】
上記電解液を注液した後、上記開口部分を蓋体23との溶接等により封止することで、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池100が構築される。ケース21の封止プロセスや電解液の配置(注液)プロセスは、従来のリチウムイオン二次電池の製造で行われている手法と同様でよく、本発明を特徴付けるものではない。
【0047】
このようにして構築されたリチウムイオン二次電池は、上述したように、サイクル寿命特性に優れ、さらに初期充放電効率との両立が可能であるので、特に自動車等の車両に搭載されるモーター(電動機)用電源として好適に使用し得る。従って本発明は、図3に模式的に示すように、上記リチウムイオン二次電池100(典型的には複数直列接続してなる組電池)を電源として備える車両1(典型的には自動車、特にハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車のような電動機を備える自動車)を提供する。
【0048】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「部」および「%」は、特に断りがない限り質量基準である。
【0049】
<例1>
(1)負極活物質の作製
天然黒鉛(中国産)を粉砕・球形化装置(ホソカワミクロン株式会社製メカノフュージョン(登録商標)システム)を用いて球形化処理することにより、平均粒径D50(50%体積平均粒径)が13μmで、アスペクト比が0.8の球形状黒鉛粒子を得た。平均粒径D50は、レーザ散乱・回折法に基づく粒度分布測定装置に基づいて測定した粒度分布から導き出したメジアン径であり、アスペクト比は、球形状黒鉛粒子の長軸方向の長さをA、短軸方向の長さをBとしたとき、A/Bで表されるものであり、走査型電子顕微鏡(SEM)で得られた球形状黒鉛粒子を拡大し、任意に10個の黒鉛粒子を選択し、A/Bを測定し、その平均値をとったものである。
【0050】
得られた球形状黒鉛粒子に対して、焼成後の炭素コート量が球形状黒鉛粒子の0.5%となるように石油ピッチ(炭素材料)の仕込み量を調整して液相法によって石油ピッチを付与し、その後1100℃で加熱(焼成)した。次に、球形状黒鉛粒子に対して、焼成後の炭素コート量が球形状黒鉛粒子の0.5%となるようにベンゼン(炭素材料)の仕込み量を調整して気相法によってベンゼンを付与し、球形状黒鉛粒子をベンゼンとともに加温し、吸着炭化させた後、1100℃で加熱(焼成)した。このようにして例1に係る負極活物質を作製した。
【0051】
(2)リチウムイオン二次電池の構築
得られた負極活物質と、結着材としてのスチレンブタジエンゴムと、増粘材としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、これらの材料の質量比が98:1:1となるように秤量し、これらの材料をイオン交換水と混合して、ペースト状の負極活物質層形成用組成物を調製した。この組成物を、長尺状銅箔から構成される負極集電体(厚さ10μm)の両面に合計塗布量が7.5mg/cm(固形分基準)となるように塗布した。塗布後、120℃で20秒間乾燥させ、該塗布物にプレス処理を行い、負極集電体上に負極活物質層を形成し、シート状の負極(負極シート)を作製した。また、正極活物質としてのニッケルマンガンコバルト酸リチウム(Li[Ni1/3Mn1/3Co1/3)粉末と、導電剤としてのアセチレンブラックと、結着材としてのCMCとを、これらの材料の質量比が90:5:5となるようにイオン交換水中で混合して、ペースト状の正極活物質層形成用組成物を調製した。この組成物を、長尺シート状のアルミニウム箔(正極集電体;厚み15μm)の両面に合計塗布量が17mg/cm(固形分基準)となるように塗布して乾燥させた後、プレス処理を行い、シート状の正極(正極シート)を作製した。作製した負極シートと正極シートとを二枚の長尺状ポリオレフィン系セパレータ(ここでは厚みが25μmの多孔質ポリエチレンシートを用いた。)とともに積層し、その積層シートを長尺方向に捲回して捲回電極体を作製した。この捲回電極体を電解液とともに円筒型の容器に収容することにより、例1に係るリチウムイオン二次電池(理論容量223mAh、4.1V充電〜3V放電)を構築した。電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との3:3:4(質量比)混合溶媒に支持塩として約1mol/LのLiPFを溶解させたものを用いた。
【0052】
<例2>
液相法において、焼成後の炭素コート量が球形状黒鉛粒子の2.5%となるように石油ピッチの仕込み量を調整し、また、気相法において、焼成後の炭素コート量が球形状黒鉛粒子の2.5%となるようにベンゼンの仕込み量を調整した他は、例1と同様にして負極活物質を作製し、この負極活物質を用いてリチウムイオン二次電池を構築した。
【0053】
<例3>
例1で用いた球形状黒鉛粒子に対し、焼成後の炭素コート量が球形状黒鉛粒子の1.0%となるように石油ピッチの仕込み量を調整して液相法によって石油ピッチを付与し、その後1100℃で加熱(焼成)した。このようにして例3に係る負極活物質を作製し、この負極活物質を用いて例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を構築した。
【0054】
<例4>
焼成後の炭素コート量が球形状黒鉛粒子の5.0%となるように石油ピッチの仕込み量を調整した他は、例3と同様にして負極活物質を作製し、この負極活物質を用いてリチウムイオン二次電池を構築した。
【0055】
<例5>
例1で用いた球形状黒鉛粒子に対し、焼成後の炭素コート量が球形状黒鉛粒子の1.0%となるようにベンゼンの仕込み量を調整して気相法によってベンゼンを付与し、その後1100℃で加熱(焼成)した。このようにして例5に係る負極活物質を作製し、この負極活物質を用いて例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を構築した。
【0056】
<例6>
焼成後の炭素コート量が球形状黒鉛粒子の5.0%となるようにベンゼンの仕込み量を調整した他は、例5と同様にして負極活物質を作製し、この負極活物質を用いてリチウムイオン二次電池を構築した。
【0057】
[初期充放電効率]
初期充放電効率は、前記の負極を試験極とし、対極にリチウム金属を用いた平板のラミネート電池(負極活物質層面積3cm×4cm)を作製して測定した。測定条件は、負極の典型的な比容量(350mAh/g)から求めたラミネート電池の容量(mAh)の10分の1の電流値で0Vまで充電を行い、初期充電容量を求めた。次いで、同じく容量の10分の1の電流値で1.5Vまで放電を行い、初期放電容量を求めた。初期充電容量に対する初期放電容量の比率(初期放電容量/初期充電容量)を初期充放電効率(%)として記録した。
【0058】
[タップ密度]
JIS K1469に準拠して、質量W(g)の試料(負極活物質粉末)を容器に投入し、タップ密度測定装置(筒井理化学器械(株)製、商品名「TPM−3」)を用いてタップ速度31回/分、タップ回数300回の条件にてタップ操作を行った。圧縮された試料の体積V(cm)を測定し、下記式:
タップ密度D(g/cm)=質量W(g)/体積V(cm
から試料のタップ密度を算出した。
【0059】
[容量維持率]
上記構築した例1〜例6に係るリチウムイオン二次電池に対して、充放電を1000サイクル繰り返し、1000サイクル後の放電容量維持率(%)を求めた。1サイクルの充放電条件は、測定温度60℃において、4Cで上限電圧4.1Vまで2時間CCCV充電を行い、その後4Cで下限電圧3.0VまでCC放電を行った。そして、1サイクル目の放電容量に対する1000サイクル目の放電容量から放電容量維持率(%)を算出した。
【0060】
[IV抵抗増加率(25℃)]
上記構築した例1〜例6に係るリチウムイオン二次電池に対して、測定温度60℃において、4CでCCCV充電を行い、SOC(State of Charge)60%の充電状態に調整した。その後、25℃にて4Cの電流値で10秒間の放電を行い、放電開始から10秒後の電圧降下量からIV抵抗増加率(%)を算出した。
【0061】
[IV抵抗増加率(−15℃)]
上記構築した例1〜例6に係るリチウムイオン二次電池に対して、測定温度60℃において、4CでCCCV充電を行い、SOC60%の充電状態に調整した。その後、−15℃にて4Cの電流値で10秒間の放電を行い、放電開始から10秒後の電圧降下量からIV抵抗増加率(%)を算出した。
【0062】
上記作製した例1〜例6に係る負極活物質の液相法および気相法による炭素コート量、ならびに得られた負極活物質の平均粒径D50、BET法による窒素吸着比表面積(NSA)およびJIS K1469に準拠して測定したタップ密度を表1に示す。また、上記構築した例1〜例6に係るリチウムイオン二次電池の初期充放電効率、容量維持率ならびに25℃および−15℃におけるIV抵抗増加率の測定結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
表1に示されるように、液相法と気相法とを併用して球形状黒鉛粒子の表面に炭素コートを形成した負極活物質を用いた例1および例2に係るリチウムイオン二次電池は、液相法単独または気相法単独で炭素コートを形成した負極活物質を用いた例3〜例6に係るリチウムイオン二次電池よりも、60℃4Cサイクルでの容量維持率が高く、25℃および−15℃におけるIV抵抗増加率が低かった。このように、液相法と気相法とを併用して炭素コートを形成することにより、リチウムイオン二次電池のサイクル寿命特性が向上したことが判る。
【0065】
<例7〜例28>
平均粒径D50が7μm,10μm,13μm,16μm,20μmおよび25μmの球形状黒鉛粒子を用いて、表2および表3に示す炭素コート量となるように石油ピッチおよび/またはベンゼンを付与した他は、例1と同様にして負極活物質を作製した。炭素コート量ならびに得られた負極活物質の平均粒径D50、NSAおよびタップ密度を例1と同様にして測定した。結果を表2および表3に示す。また、得られた負極活物質を用いて、例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を構築し、例1と同様の方法により初期充放電効率(%)、容量維持率(%)ならびに25℃および−15℃におけるIV抵抗増加率(%)を測定した。結果を表2および表3に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
【表3】

【0068】
表2および表3に示されるように、負極活物質の合計炭素コート量(炭素コートの全質量)が1%以上である例13〜例28に係るリチウムイオン二次電池は、容量維持率がいずれも75%であった。特に、負極活物質の合計炭素コート量が1%〜3%の範囲内であり、負極活物質の平均粒径D50が10μm〜20μmの範囲内であり、BET法による窒素吸着比表面積が2.5m/g〜5.3m/gの範囲内であり、JIS K1469に準拠して測定したタップ密度が、0.92g/cm〜1.00g/cmの範囲内である例14〜例16、例19〜例22に係るリチウムイオン二次電池は、上述した高い容量維持率に加えて、初期充放電効率が93.5%以上であり、25℃および−15℃における抵抗増加率がそれぞれ130%および150%以下であった。
一方、負極活物質の合計炭素コート量が0.5%である例7〜例12に係るリチウムイオン二次電池は、例13〜例28と比べて容量維持率が劣り、25℃および−15℃における抵抗増加率が高くなる傾向が見られた。
また、負極活物質の合計炭素コート量が5%である例24〜例28に係るリチウムイオン二次電池は、負極活物質の合計炭素コート量が1%〜3%である例13〜例23と比べて初期充放電効率が劣る傾向が見られた。
このように、液相法と気相法とを併用して所定量の炭素コートを負極活物質に形成することにより、リチウムイオン二次電池のサイクル寿命特性と初期充放電効率とが両立したことが判る。
【0069】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0070】
1 車両
10 負極(負極シート)
11 負極側はみ出し部分(負極活物質層非形成部分)
21 ケース
22 ケース本体
23 蓋体
25 正極端子
26 正極リード端子
27 負極端子
28 負極リード端子
50 正極(正極シート)
51 正極側はみ出し部分(正極活物質層非形成部分)
60 セパレータ(シート)
80 捲回電極体
82 捲回コア部分
100 リチウムイオン二次電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池の負極活物質を製造する方法であって、
負極活物質を用意すること、
前記用意した負極活物質に対し、液相法によって炭素材料を供給し、該負極活物質の一部に炭素コートを形成すること、
前記液相法によって炭素材料が供給された負極活物質に対し、気相法によって炭素材料を供給し、該負極活物質の一部に炭素コートを形成すること、
を包含することを特徴とする、負極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記液相法によって形成される炭素コートと前記気相法によって形成される炭素コートの全質量が、これら炭素コートを形成する前の負極活物質の質量を100質量%としたときに1質量%〜5質量%の範囲内となるように前記炭素材料を供給する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記液相法による炭素コートと前記気相法による炭素コートが形成された負極活物質が、下記(a)〜(c):
(a)平均粒径D50が、10μm〜20μmであること;
(b)BET法による窒素吸着比表面積(NSA)が、2.5m/g〜5.3m/gであること;
(c)JIS K1469に準拠して測定したタップ密度が、0.92g/cm〜1.00g/cmであること;
のうち少なくとも1つを満たす、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記負極活物質が、球形化処理が施された黒鉛である、請求項1から3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記液相法による炭素コートと前記気相法による炭素コートの全質量の40質量%〜60質量%が前記液相法によって形成され、残部が前記気相法によって形成されるように前記炭素材料を供給する、請求項1から4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の方法によって製造された負極活物質を主成分として含有する負極活物質層が負極集電体上に形成された負極を備える、非水電解液型二次電池。
【請求項7】
請求項6に記載の非水電解液型二次電池を備えた車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−84398(P2013−84398A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222313(P2011−222313)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】