説明

負荷制御装置及び負荷制御方法

【課題】消費電力量を削減しつつ制御対象値を制御目標値に制御すること。
【解決手段】評価関数算出部14が、所定時間T内における吸水ポンプP1〜P3の運転台数を規定した複数の運転パターンについて、その運転パターンで吸水ポンプP1〜P3を制御した場合の汚水4の水位と目標水位との水位偏差H及び消費電力量Hを含む評価関数Hを算出し、ポンプ制御部15が、算出された評価関数Hに基づいて複数の運転パターンの中から実行する運転パターンを選択し、選択された運転パターンに従って吸水ポンプP1〜P3の運転台数を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種プラント設備におけるポンプや送風機等の負荷の運転台数を制御する負荷制御装置及び負荷制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、水位に応じて複数台のポンプの運転台数を制御することによって、水位を所定範囲内に制御するポンプ制御装置が知られている。例えば、特許文献1には、貯水池の水位と目標水位との偏差が最小になるように送水ポンプの運転台数を制御することによって、貯水池の水位を目標水位に制御するポンプ制御装置が開示されている。また、特許文献2には、下水管渠内の雨水の貯留レベルと目標貯留レベルとの偏差に応じて排水ポンプの運転台数を制御することによって、雨水の貯留レベルを目標貯留レベルに制御するポンプ制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−228402号公報
【特許文献2】特開平9−62367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のポンプ制御装置は、水位のみに応じて複数台のポンプの運転台数を決定する構成になっており、決定した運転台数でポンプを運転させた際に消費される電力量を考慮していない。このため、従来のポンプ制御装置によれば、ポンプの消費電力量が水位を所定範囲内に制御するために必要な最小の消費電力量にならず、電力が無駄に消費されていることがあった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、消費エネルギー量を削減しつつ制御対象値を制御目標値に制御可能な負荷制御装置及び負荷制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る負荷制御装置は、プラント設備における複数台の負荷の運転台数を制御する負荷制御装置であって、所定時間内における負荷の運転台数を規定した複数の運転パターンを記憶する記憶部と、負荷の制御対象値を検出する検出部と、記憶部に記憶されている各運転パターンについて、運転パターンで負荷を制御した場合の制御対象値と制御目標値との偏差を示す偏差項及び消費エネルギー量を示す消費エネルギー量項とを含む評価関数を算出する算出部と、算出部によって算出された評価関数に基づいて複数の運転パターンの中から実行する運転パターンを選択し、選択された運転パターンに従って負荷の運転台数を制御する制御部とを備える。
【0007】
上記課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る負荷制御方法は、プラント設備における複数台の負荷の運転台数を制御する負荷制御方法であって、負荷の制御対象値を検出する検出ステップと、所定時間内における負荷の運転台数を規定した複数の運転パターンについて、運転パターンで負荷を制御した場合の制御対象値と制御目標値との偏差を示す偏差項及び消費エネルギー量を示す消費エネルギー量項とを含む評価関数を算出する算出ステップと、算出ステップにおいて算出された評価関数に基づいて複数の運転パターンの中から実行する運転パターンを選択し、選択された運転パターンに従って負荷の運転台数を制御する制御ステップとを含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る負荷制御装置及び負荷制御方法によれば、制御対象値と制御目標値との偏差及び消費エネルギー量に基づいて負荷の運転台数を制御するので、消費エネルギー量を削減しつつ制御対象値を制御目標値に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の一実施形態である負荷制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態である負荷制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】図3は、吸水ポンプの運転パターンの一例を示す図である。
【図4】図4は、評価関数を算出する際に用いられる関数の一例を示す模式図であり、図4(a)は吸水ポンプの一次電流を示す波形であり、図4(b)は吸水ポンプの吐出流量を示す波形である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態である負荷制御装置の構成及びその動作について説明する。
【0011】
〔負荷制御装置の構成〕
始めに、図1を参照して、本発明の一実施形態である負荷制御装置の構成について説明する。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態である負荷制御装置の構成を示すブロック図である。図1に示すように、本発明の一実施形態である負荷制御装置1は、沈砂池2からポンプ井3内に流れ込んだ汚水4を吐出渠5に排出する複数台(本実施形態では3台)の吸水ポンプP1〜P3の運転/停止を制御するものであり、台数制御装置10と水位検出装置20とを備える。なお、吐出渠5に排出された汚水4は、初沈槽、曝気槽、終沈槽等を備える水処理設備6に供給されて処理される。
【0013】
台数制御装置10は、マイクロコンピュータ等の情報処理装置によって構成されている。台数制御装置10は、運転パターン記憶部11、水位偏差算出部12、消費電力量算出部13、評価関数算出部14、及びポンプ制御部15を備える。運転パターン記憶部11は、ROM等の不揮発性の記憶装置によって構成されている。運転パターン記憶部11は、所定時間T内における吸水ポンプP1〜P3の運転台数を規定した複数の運転パターンに関する情報を記憶する。運転パターンの詳細については後述する。
【0014】
水位偏差算出部12、消費電力量算出部13、評価関数算出部14、及びポンプ制御部15の機能は、情報処理装置内のCPUが、ROM内に予め記憶されている制御プログラムをRAM内にロードし、RAM内にロードされた制御プログラムを実行することによって実現される。これら各部の機能については後述する。水位検出装置20は、ポンプ井3内の汚水4の水位を検出し、検出された水位を示す検出信号を台数制御装置10に入力する。
【0015】
〔負荷制御処理〕
このような構成を有する負荷制御装置1は、以下に示す負荷制御処理を実行することによって、消費電力量を削減しつつポンプ井3内における汚水4の水位(制御対象値)を目標水位(制御目標値)に制御する。以下、図2に示すフローチャートを参照して、この負荷制御処理を実行する際の負荷制御装置1の動作について説明する。
【0016】
図2は、本発明の一実施形態である負荷制御処理の流れを示すフローチャートである。図2に示すフローチャートは、台数制御装置10の電源がオフ状態からオン状態へと切り替えられ、負荷制御処理の実行が指示されたタイミングで開始となる。負荷制御処理は、所定の制御周期t(=所定時間T/3)毎に繰り返し実行される。
【0017】
ステップS1の処理では、ポンプ制御部15が、吸水ポンプP1〜P3の各運転パターンに割り当てられた固有の識別番号1〜nを計数するためのプログラムカウンタkの値を1にリセットする。これにより、ステップS1の処理は完了し、負荷制御処理はステップS2の処理に進む。
【0018】
ステップS2の処理では、ポンプ制御部15が、水位検出装置20から入力された検出信号に基づいて、ポンプ井3内における汚水4の水位を検出する。これにより、ステップS2の処理は完了し、負荷制御処理はステップS3の処理に進む。
【0019】
ステップS3の処理では、水位偏差算出部12が、プログラムカウンタkの値に対応する運転パターンkで吸水ポンプP1〜P3を運転した場合における、所定時間T後の汚水4の水位と目標水位との水位偏差Hを算出する。具体的には、運転パターン記憶部11には、図3に示すように所定時間T(=3×制御周期t)内における制御周期t毎の吸水ポンプP1〜P3の運転台数の変化を示すn個の運転パターンが記憶されている。
【0020】
そこで、始めに、水位偏差算出部12は、各制御周期tにおける吸水ポンプP1〜P3の運転台数に基づいて各制御周期tにおける汚水4の吐出流量(ポンプ井3から排出される汚水4の流量)を算出する。次に、水位偏差算出部12は、ステップS2の処理によって検出された汚水4の水位から各制御周期tにおける吐出流量を減算することによって所定時間T後の汚水4の水位を算出する。そして、水位偏差算出部12は、所定時間T後の汚水4の水位と目標水位との差分値を水位偏差Hとして算出する。
【0021】
より具体的には、水位偏差算出部12は、目標水位をL、時間t(=0〜T)における汚水4の水位を関数L(t)として以下の数式1を解くことによって水位偏差Hを算出する。すなわち、水位偏差算出部12は、水位偏差の二乗値の時間平均値を水位偏差Hとして算出する。なお、関数L(t)は、図4(b)に示すように吸水ポンプの吐出弁開度と回転数上昇に応じた吐出流量(時間T=T1〜T3の区間)、水位と回転数に応じた吐出流量(時間T=T3〜T4の区間)、及び吐出弁開度に応じた吐出流量(時間T=T4〜T5の区間)を考慮した吸水ポンプの吐出流量を示す関数である。すなわち、関数L(t)は、始動時の吐出流量増加遅れ時間ΔTv1と停止時の吐出流量減少遅れ時間ΔTv2とを考慮した吸水ポンプの吐出流量を示す関数である。これにより、ステップS3の処理は完了し、負荷制御処理はステップS4の処理に進む。
【0022】
【数1】

【0023】
ステップS4の処理では、消費電力量算出部13が、プログラムカウンタkの値に対応する運転パターンkで吸水ポンプP1〜P3を運転した場合における、所定時間T内における消費電力量Hを算出する。具体的には、消費電力量算出部13は、吸水ポンプP1〜P3の運転パターン毎に予め用意された消費電力量を示す関数E(t)を用いて以下の数式2を解くことによって消費電力量Hを算出する。なお、関数E(t)は、図4(a)に示すように吸水ポンプの始動電流(時間T=T1〜T2の区間)と負荷の大きさに応じた定常電流(時間T=T2〜T5の区間)とを考慮した吸水ポンプの一次電流を示す関数である。以下に示す数式2の積分項は、図4(a)に示す関数Ep(t)の積分値Sに相当する。これにより、ステップS4の処理は完了し、負荷制御処理はステップS5の処理に進む。
【0024】
【数2】

【0025】
ステップS5の処理では、評価関数算出部14が、以下の数式3を用いて、ステップS3の処理によって算出された水位偏差H及びステップS4の処理によって算出された消費電力量Hにそれぞれ重み係数K、Kを乗算した後に乗算値を加算することによって、プログラムカウンタkの値に対応する運転パターンkの評価関数Hを算出する。なお、重み係数K、Kの値は、適宜変更することができる。例えば、汚水4の水位を目標水位に制御することに重点を置く場合、重み係数Kの値を重み係数Kの値より大きくし、消費電力量を削減することに重点を置く場合には、重み係数Kの値を重み係数の値Kより大きくするとよい。これにより、ステップS5の処理は完了し、負荷制御処理はステップS6の処理に進む。
【0026】
【数3】

【0027】
ステップS6の処理では、ポンプ制御部15が、プログラムカウンタkの値が吸水ポンプP1〜P3の運転パターンの総数nであるか否かを判別する。判別の結果、プログラムカウンタkの値が総数nでない場合、ポンプ制御部15は、全ての運転パターンについて評価関数Hを算出していないと判断し、負荷制御処理をステップS7の処理に進める。一方、プログラムカウンタkの値が総数nである場合には、ポンプ制御部15は、全ての運転パターンについて評価関数Hを算出したと判断し、負荷制御処理をステップS8の処理に進める。
【0028】
ステップS7の処理では、ポンプ制御部15が、プログラムカウンタkの値を1増数する。これにより、ステップS7の処理は完了し、負荷制御処理はステップS3の処理に戻る。
【0029】
ステップS8の処理では、ポンプ制御部15が、各運転パターンについて算出された評価関数Hの値を比較することによって、評価関数Hの値が最も小さい運転パターンを特定する。これにより、ステップS8の処理は完了し、負荷制御処理はステップS9の処理に進む。
【0030】
ステップS9の処理では、ポンプ制御部15が、ステップS8の処理によって特定された運転パターンに従って吸水ポンプP1〜P3の運転/停止を制御する。具体的には、図3に示す運転パターンn−1が選択された場合、ポンプ制御部15は、1回目と2回目の制御周期t1、t2では吸水ポンプを3台動作させ、制御周期t3では2台の吸水ポンプを動作させる。評価関数Hの値が最も小さい運転パターンとは、水位偏差Hと消費電力量Hとの和が最も小さい運転パターンである。従って、評価関数Hの値が最も小さい運転パターンに従って吸水ポンプP1〜P3の運転/停止を制御することによって、消費電力量を低減しつつ汚水4の水位を目標水位に制御することができる。これにより、ステップS9の処理は完了し、一連の負荷制御処理は終了する。
【0031】
以上の説明から明らかなように、本発明の一実施形態である負荷制御装置1では、評価関数算出部14が、所定時間T内における吸水ポンプP1〜P3の運転台数を規定した複数の運転パターンについて、その運転パターンで吸水ポンプP1〜P3を制御した場合の汚水4の水位と目標水位との水位偏差H及び消費電力量Hを含む評価関数Hを算出し、ポンプ制御部15が、算出された評価関数Hに基づいて複数の運転パターンの中から実行する運転パターンを選択し、選択された運転パターンに従って吸水ポンプP1〜P3の運転台数を制御するので、消費電力量を低減しつつ汚水4の水位を目標水位に制御することができる。
【0032】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明は限定されることはない。例えば、本実施形態では運転台数の制御対象は吸水ポンプであったが、運転台数の制御対象は吸水ポンプに限定されることはなく、本発明は給水ポンプ、送風機、吸気装置等の吸水ポンプ以外の負荷にも適用することができる。このように、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0033】
1 負荷制御装置
2 沈砂池
3 ポンプ井
4 汚水
5 吐出渠
6 水処理設備
10 台数制御装置
11 運転パターン記憶部
12 水位偏差算出部
13 消費電力量算出部
14 評価関数算出部
15 ポンプ制御部
20 水位検出装置
P1、P2、P3 吸水ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラント設備における複数台の負荷の運転台数を制御する負荷制御装置であって、
所定時間内における前記負荷の運転台数を規定した複数の運転パターンを記憶する記憶部と、
前記負荷の制御対象値を検出する検出部と、
前記記憶部に記憶されている各運転パターンについて、該運転パターンで前記負荷を制御した場合の前記制御対象値と制御目標値との偏差を示す偏差項及び消費エネルギー量を示す消費エネルギー量項とを含む評価関数を算出する算出部と、
前記算出部によって算出された評価関数に基づいて前記複数の運転パターンの中から実行する運転パターンを選択し、選択された運転パターンに従って前記負荷の運転台数を制御する制御部と、
を備えることを特徴とする負荷制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記評価関数の値が最小になる運転パターンを実行する運転パターンとして選択することを特徴とする請求項1に記載の負荷制御装置。
【請求項3】
プラント設備における複数台の負荷の運転台数を制御する負荷制御方法であって、
前記負荷の制御対象値を検出する検出ステップと、
所定時間内における前記負荷の運転台数を規定した複数の運転パターンについて、該運転パターンで前記負荷を制御した場合の前記制御対象値と制御目標値との偏差を示す偏差項及び消費エネルギー量を示す消費エネルギー量項とを含む評価関数を算出する算出ステップと、
前記算出ステップにおいて算出された評価関数に基づいて前記複数の運転パターンの中から実行する運転パターンを選択し、選択された運転パターンに従って前記負荷の運転台数を制御する制御ステップと、
を含むことを特徴とする負荷制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−196276(P2011−196276A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64868(P2010−64868)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【Fターム(参考)】