説明

負荷制御装置

【課題】より効率的に負荷を駆動できるようにする。
【解決手段】IGBT51〜56のゲートに入力する信号の電圧を調整する電圧調整回路20とIGBT51〜56のゲートに入力する信号のスイッチングスピードを調整するスイッチングスピード調整回路30を備え、正弦波PWM制御モード、過変調PWMモード、矩形波制御モード等の制御モードに応じて、IGBT51〜56の損失が低減されるように、IGBT51〜56のゲートに入力する信号の電圧およびスイッチングスピードを加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
絶縁ゲート型トランジスタのゲートに信号を入力して負荷を駆動する負荷制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、絶縁ゲート型トランジスタ(IGBT)のゲートに複数の抵抗群と複数のスイッチから成るゲート抵抗を接続し、通常はゲート抵抗の抵抗値が小さくなるようにスイッチを制御して遮断動作期間のスイッチング損失を抑制し、IGBTに流れるコレクタ電流がある値以上になると、ゲート抵抗の抵抗値が大きくなるようにスイッチを制御して、遮断動作期間のコレクタ電流の変化率を小さくし、サージ電圧を抑制するようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、このような構成の回路では、サージ電圧を抑制しようとすると、コレクタ電流が大きいときはゲート抵抗の抵抗値を大きくする必要があり、必然的にスイッチング損失が大きくなってしまうという問題があった。
【0004】
そこで、IGBTのコレクタ電流の遮断過程をコレクタ‐エミッタ間電圧回復期間とコレクタ電流遮断期間に分け、コレクタ‐エミッタ間電圧回復期間にはゲート抵抗が小さくなり、コレクタ電流遮断期間にはゲート抵抗が大きくなるように構成して、コレクタ電流の遮断動作期間におけるサージ電圧を抑制しながらスイッチング損失を低減するようにしたものもある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平6−24393号公報
【特許文献2】特開平9−65644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このようなIGBT駆動回路では、IGBTにPWM(Pulse Width Modulation)信号を入力してIGBTに接続された負荷をPWM駆動するPWM制御モードと、IGBTに矩形波信号を入力してIGBTに接続された負荷を矩形波駆動する矩形波制御モードを有し、PWM制御モードと矩形波制御モードとを切り替えて負荷を駆動することが行われる。
【0007】
しかしながら、上記特許文献2に記載された回路は、IGBTのコレクタ電流遮断期間に、すなわちIGBTがオフする期間に、IGBTのゲート抵抗を大きくしてオフ時のサージ電圧の低減を図るように構成されたものであるため、例えば、IGBTをスイッチングしない期間の長い矩形波制御モードでは、損失を十分に低減することができない。すなわち、効率を十分に向上することができないといった問題がある。
【0008】
本発明は上記問題に鑑みたもので、より効率的に負荷を駆動できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、絶縁ゲート型トランジスタのゲートにPWM信号を入力して負荷をPWM駆動するPWM制御モードと、絶縁ゲート型トランジスタのゲートに矩形波信号を入力して負荷を矩形波駆動する矩形波制御モードとを有する負荷制御装置であって、絶縁ゲート型トランジスタのゲートに入力する信号波形を加工する信号波形加工手段と、制御モードに応じて、絶縁ゲート型トランジスタの損失を低減するように信号波形加工手段に絶縁ゲート型トランジスタのゲートに入力する信号波形の加工を指示する加工指示手段と、を備えたことを特徴としている。
【0010】
このような構成によれば、制御モードに応じて、絶縁ゲート型トランジスタの損失を低減するように絶縁ゲート型トランジスタのゲートに入力する信号波形の加工が指示されるので、より効率的に負荷を駆動することができる。
【0011】
また、請求項2に記載の発明では、信号波形加工手段は、絶縁ゲート型トランジスタのゲートに入力する信号の電圧を調整する電圧調整回路を備え、加工指示手段は、制御モードがPWM制御モードの場合には、絶縁ゲート型トランジスタのゲートに入力する信号の電圧が第1の電圧となるように電圧調整回路に指示し、制御モードが矩形波制御モードの場合には、絶縁ゲート型トランジスタのゲートに入力する信号の電圧が第1の電圧よりも高い第2の電圧となるように電圧調整回路に指示することを特徴としている。
【0012】
このような構成によれば、制御モードがPWM制御モードの場合には、絶縁ゲート型トランジスタのゲートに入力する信号の電圧が第2の電圧よりも低い第1の電圧に抑制されるので、サージによる損失の増加を抑制することができ、制御モードが矩形波制御モードの場合には、絶縁ゲート型トランジスタのゲートに入力する信号の電圧が第1の電圧よりも高い第2の電圧となるので、導通損失を低減することができる。
【0013】
また、請求項3に記載の発明では、信号波形加工手段は、絶縁ゲート型トランジスタのゲートに入力する信号の立ち上がり速度を調整する速度調整回路を備え、加工指示手段は、制御モードがPWM制御モードの場合には、絶縁ゲート型トランジスタのゲートに入力する信号の立ち上がり速度が第1の速度となるように速度調整回路に指示し、制御モードが矩形波制御モードの場合には、絶縁ゲート型トランジスタのゲートに入力する信号の立ち上がり速度が第1の速度よりも速い第2の速度となるように速度調整回路に指示することを特徴としている。
【0014】
このような構成によれば、制御モードがPWM制御モードの場合には、絶縁ゲート型トランジスタのゲートに入力する信号の立ち上がり速度が第2の速度よりも遅い第1の速度となるように速度調整回路に指示するので、絶縁ゲート型トランジスタをサージから保護することができ、制御モードが矩形波制御モードの場合には、絶縁ゲート型トランジスタのゲートに入力する信号の立ち上がり速度が第1の速度よりも速い第2の速度となるように速度調整回路に指示するので、スイッチング損失を低減することができる。
【0015】
また、請求項4に記載の発明では、信号波形加工手段は、絶縁ゲート型トランジスタのゲートに入力する信号の電圧を調整する電圧調整回路および絶縁ゲート型トランジスタのゲートに入力する信号の立ち上がり速度を調整する速度調整回路を備え、加工指示手段は、制御モードがPWM制御モードの場合には、絶縁ゲート型トランジスタのゲートに入力する信号の電圧が第1の電圧となるように電圧調整回路に指示するとともに、絶縁ゲート型トランジスタのゲートに入力する信号の立ち上がり速度が第1の速度となるように速度調整回路に指示し、制御モードが矩形波制御モードの場合には、絶縁ゲート型トランジスタのゲートに入力する信号の電圧が第1の電圧よりも高い第2の電圧となるように電圧調整回路に指示するとともに、絶縁ゲート型トランジスタのゲートに入力する信号の立ち上がり速度が第1の速度よりも速い第2の速度となるように速度調整回路に指示することを特徴としている。
【0016】
このように、制御モードがPWM制御モードの場合には、絶縁ゲート型トランジスタのゲートに入力する信号の電圧が第1の電圧となるように電圧調整回路に指示するとともに、絶縁ゲート型トランジスタのゲートに入力する信号の立ち上がり速度が第1の速度となるように速度調整回路に指示し、制御モードが矩形波制御モードの場合には、絶縁ゲート型トランジスタのゲートに入力する信号の電圧が第1の電圧となるように電圧調整回路に指示するとともに、絶縁ゲート型トランジスタのゲートに入力する信号の立ち上がり速度が第1の速度よりも速い第2の速度となるように速度調整回路に指示することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態に係る負荷制御装置の全体の概略構成を示す図である。
【図2】図1中のA部の詳細を示す図である。
【図3】ゲート電圧調整回路の回路構成を示す図である。
【図4】スイッチングスピード調整回路の回路構成を示す図である。
【図5】PWM制御モードでのゲート電圧を変化させた場合のインバータ損失の測定結果を示す図である。
【図6】各動作モードに適したスイッチングスピードとゲート電圧を示す図である。
【図7】通信調停用マイコンとパワー半導体用マイコンのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態に係る負荷制御装置の全体の概略構成を図1に示す。本負荷制御装置1には、バッテリ2および負荷としての3相高電圧交流モータ3が接続されている。なお、モータ3は、車両の走行用の動力源として用いられる。
【0019】
本負荷制御装置1は、通信調停用マイコン10、6つのパワー半導体駆動用マイコン15、6つのゲート電圧調整回路20、6つのスイッチングスピード調整回路(図中では、SWスピード調整回路と記す)30、絶縁ゲート型トランジスタ(以下、IGBTと記す)51〜56、MG−ECU60を備えている。
【0020】
本負荷制御装置1は、IGBT51〜56のゲートに正弦波PWM信号を入力してモータ3をPWM駆動する正弦波PWM制御モードと、IGBT51〜56のゲートに過変調PWM信号を入力してモータ3をPWM駆動する過変調PWM制御モードと、絶縁ゲート型トランジスタのゲートに矩形波信号を入力してモータ3を矩形波駆動する矩形波制御モードを有している。
【0021】
通信調停用マイコン10は、MG−ECU60と通信を行うためのものである。通信調停用マイコン10は、バッテリ2の端子間電圧を検出する電圧検出回路(図示せず)を備え、この電圧検出回路により検出されたバッテリ2の端子間電圧をMG−ECU60へ通知するようになっている。なお、MG−ECU60は、通信調停用マイコン10より通知されたバッテリ2の端子間電圧等に基づいてモータ3を最適に駆動するための動作モード(制御モードに相当する)を決定し、決定した動作モードを特定するための情報を通信調停用マイコン10に通知するようになっている。
【0022】
通信調停用マイコン10は、MG−ECU60より動作モードを特定するための情報を受信すると、動作モードに適した各IGBT51〜56のゲートに入力する信号のゲート電圧値とスイッチングスピード値を特定し、各パワー半導体駆動用マイコン15に通知する。
【0023】
パワー半導体駆動用マイコン15は、通信調停用マイコン10より通知されたゲート電圧値に応じてゲート電圧調整回路20を制御するとともに通信調停用マイコン10より通知されたスイッチングスピード値に応じてスイッチングスピード調整回路30を制御する。
【0024】
ゲート電圧調整回路20は、IGBT51〜56の各ゲートに印加する電圧を調整するための回路である。このゲート電圧調整回路20については後で詳細に説明する。
【0025】
スイッチングスピード調整回路30は、IGBT51〜56の各ゲートに印加する電圧の立ち上がりスピードと立ち下がりスピードを調整するための回路である。このスイッチングスピード調整回路30についても後で詳細に説明する。
【0026】
IGBT51〜56は、3相インバータとして構成されている。本実施形態では、IGBT51はU相の上アーム、IGBT52はU相の下アーム、IGBT53はV相の上アーム、IGBT54はV相の下アーム、IGBT55はW相の上アーム、IGBT56はW相の下アームとなっている。
【0027】
MG−ECU60は、絶縁電源61〜66、マイコン67を備えている。絶縁電源61〜66は、それぞれ一定の電圧を生成する絶縁型DC−DCコンバータとして構成されている。絶縁電源61〜66により生成された定電圧は、それぞれゲート電圧調整回路20へ入力される。
【0028】
マイコン67は、前述したように、通信調停用マイコン10より通知されるバッテリ2の端子間電圧に基づいてモータ3を最適に駆動するための動作モードを決定し、この決定した動作モードを示す情報を通信調停用マイコン10へ通知する処理を実施する。
【0029】
マイコン67は、バッテリ2の端子間電圧が高電圧(例えば、700V程度)の場合は、正弦波PWM制御モード、バッテリ2の端子間電圧が中間の電圧(例えば、600V程度)では過変調PWM制御モード、バッテリ2の端子間電圧が低電圧(例えば、500V程度)の場合は矩形波制御モードとなるように動作モードを決定する。
【0030】
図2に、図1中のA部の詳細を示す。図に示すように、ゲート電圧調整回路20は、第1回路21と第2回路22を備えている。
【0031】
第1回路21は、入力端子Vinを介してMG−ECUの絶縁電源61より入力される電圧から第1の電圧を生成して第1の出力端子Vout1より出力する。
【0032】
第2回路22は、入力端子Vinを介してMG−ECUの絶縁電源61より入力される電圧から第2の電圧を生成して第2の出力端子Vout2より出力する。第2の出力端子Vout2より出力される第2の電圧は、IGBT51のエミッタ端子に接続されている。なお、この第2の出力端子Vout2とIGBT51のエミッタ端子を接続している配線は、図1では省略してある。
【0033】
図3に、ゲート電圧調整回路20の回路構成を示す。第1回路21は、3端子レギュレータ210、抵抗211〜213、Nチャネル型MOSトランジスタ214、コンデンサ216、217およびダイオード218を備えている。
【0034】
3端子レギュレータ210のGND端子とGNDとの間には、トランジスタ214および抵抗222からなる並列回路と、抵抗221が直列に接続されている。
【0035】
なお、3端子レギュレータ210のGND端子とGNDとの間の抵抗値に応じて第1の出力端子Vout1より出力される第1の電圧が変化するようになっている。
【0036】
すなわち、パワー半導体駆動用マイコン15より制御端子Cnt1を介して入力される制御信号に応じてトランジスタ214がオンすると、3端子レギュレータ210のGND端子とGNDとの間の抵抗値は抵抗221の抵抗値と等しくなり、トランジスタ214がオフすると、3端子レギュレータ210のGND端子とGNDとの間の抵抗値は抵抗211と抵抗212の和となる。なお、トランジスタ214のゲートに入力するパルス信号のデューティーを変化させることにより、3端子レギュレータ210のGND端子とGNDとの間の抵抗値を変化させることも可能となっている。
【0037】
このように、制御端子Cnt1を介して入力される制御信号に応じて第1の出力端子Vout1より出力される第1の電圧が変化するようになっている。
【0038】
第2の回路22は、3端子レギュレータ220、抵抗221〜223、Nチャネル型MOSトランジスタ224、コンデンサ226、227およびダイオード228を備えている。
【0039】
第2の回路22は、第1の回路21と回路構成は同じである。すなわち、制御端子Cnt2を介して入力される制御信号に応じて第2の出力端子Vout2より出力される第2の電圧が変化するようになっている。
【0040】
本実施形態では、第1の回路における抵抗211と第2の回路22における抵抗221と各抵抗値、および第1の回路における抵抗212と第2の回路22における抵抗222の各抵抗値はそれぞれ異なっており、第1の回路21より出力される第1の電圧は0V〜30V程度であるのに対し、第2の回路22より出力される第2の電圧は10V程度となっている。
【0041】
図4に、スイッチングスピード調整回路30の回路構成を示す。スイッチングスピード調整回路30は、レベルシフト回路31、抵抗301、スピード調整回路32〜35を備えている。
【0042】
レベルシフト回路31には、スイッチ端子SWを介して半導体駆動用マイコン10より動作モードに応じたスイッチング信号が入力される。
【0043】
レベルシフト回路31は、このスイッチング信号の電圧レベル(例えば、5V)を、入力端子INを介してゲート電圧調整回路20より入力される第1の電圧の範囲(例えば、0V〜30V)にレベルシフトした電圧を出力する。
【0044】
スピード調整回路32〜34は、IGBT51のゲート電圧の波形の立ち上がりを調整するための回路であり、スピード調整回路35は、IGBT51のゲート電圧の波形の立ち下がりを調整するための回路である。
【0045】
スピード調整回路32は、抵抗321、322、コンデンサ323、ダイオード324およびNチャネル型MOSトランジスタ325を備えている。
【0046】
同様に、スピード調整回路33は、抵抗331、332、コンデンサ333、ダイオード334およびNチャネル型MOSトランジスタ335を備えており、スピード調整回路34は、抵抗341、342、コンデンサ343、ダイオード344およびNチャネル型MOSトランジスタ345を備えている。
【0047】
スピード調整回路32における抵抗321、スピード調整回路33における抵抗331およびスピード調整回路34における抵抗341は、抵抗301と並列に接続されている。
【0048】
スピード調整回路32におけるトランジスタ325、スピード調整回路33におけるトランジスタ335、スピード調整回路34におけるトランジスタ345をオンまたはオフすることにより、抵抗301、スピード調整回路32における抵抗321、スピード調整回路33における抵抗331およびスピード調整回路34における抵抗341から成る合成抵抗が変化して、IGBT51のゲート抵抗が変化する構成となっている。なお、抵抗301、抵抗321、抵抗331および抵抗341から成る合成抵抗の抵抗値が大きいほど、IGBT51のゲート電圧の波形の立ち上がりが緩やかになる。
【0049】
また、スピード調整回路35は、抵抗351、352、コンデンサ353、ダイオード354およびNチャネル型MOSトランジスタ355を備えている。
【0050】
スピード調整回路35におけるダイオード354は、スピード調整回路32〜34におけるダイオード324〜344と接続方向が逆となっている。
【0051】
スピード調整回路35におけるトランジスタ355をオンまたはオフすることにより、抵抗301および抵抗351から成る合成抵抗が変化して、IGBT51のゲート抵抗が変化する構成となっている。なお、抵抗301および抵抗351から成る合成抵抗の抵抗値が大きいほど、IGBT51のゲート電圧の波形の立ち下がりが緩やかになる。
【0052】
本実施形態における負荷制御装置1は、動作モードに応じてIGBT61〜66により構成されるインバータの損失を低減するようにIGBT51〜56の各ゲートに入力する信号の波形を加工する。
【0053】
ここで、IGBTにより構成されるインバータの損失について説明する。インバータ損失は、導通損失とスイッチング損失の和として表される。
【0054】
導通損失は、IGBTに電流が流れているときに発生する損失である。この導通損失は、IGBTのゲート電圧を高くすることで低減することができることが知られている。
【0055】
また、スイッチング損失は、IGBTをスイッチングする過程で発生する損失である。このスイッチング損失は、スイッチングスピードを速くすることで低減することが可能である。
【0056】
まず、IGBTのゲート電圧の最適値について説明する。図5に、PWM制御モード時において、スイッチングスピードを一定とし、ゲート電圧を変化させた場合のインバータ損失について測定した結果を示す。この図では、IGBTのゲート電圧が12ボルト(V)〜17(V)までは、IGBTのゲート電圧を高くすることでインバータ損失が小さくなっている。しかし、IGBTのゲート電圧が17ボルト(V)よりも高くなるとインバータ損失が大きくなっている。
【0057】
このような現象は、IGBTのゲート電圧を高くするとサージが発生し、サージによる損失が導通損失の低下分を上回るためと考えられる。
【0058】
なお、サージによる損失は、スイッチング回数に比例して増加する。また、スイッチング回数は、矩形波制御モード、過変調PWM制御モード、正弦波PWMモードの順に多くなる
したがって、矩形波制御モードではIGBTのゲート電圧を高くしてIGBTの導通損失を低減し、過変調PWM制御モードでは、矩形波制御モードよりもIGBTのゲート電圧を低くし、更に、正弦波PWMモードでは、過変調PWM制御モードよりもIGBTのゲート電圧を低くするのが好ましい。
【0059】
次に、スイッチングスピードの最適値について説明する。本負荷制御装置1には、500V〜700V程度の範囲で出力電圧が変動するバッテリ2が接続されている。図1に示した全体構成の図において、U相の上アームのIGBT51とU相の下アームのIGBT52とが直列接続されており、このIGBT51とIGBT52にバッテリ2の端子間電圧が印加される。また、下アームのIGBT52がオンした場合、上アームのIGBT51には、バッテリ2の端子間電圧が印加される。
【0060】
なお、前述したように、MG−ECU60は、バッテリ2の端子間電圧が高電圧(例えば、700V程度)の場合は、正弦波PWM制御モード、バッテリ2の端子間電圧が中間の電圧(例えば、600V程度)では過変調PWM制御モード、バッテリ2の端子間電圧が低電圧(例えば、500V程度)の場合は矩形波制御モードとなるように動作モードを決定する。
【0061】
バッテリ2の端子間電圧が700Vの場合、動作モードは正弦波PWM波制御モードとなり、下アームのIGBT52がオンした場合、上アームのIGBT51には、700Vが印加される。ここで、各IGBT51、52の耐圧を1000Vとした場合、耐圧までのマージンは300Vとなる。
【0062】
また、バッテリ2の端子間電圧が500Vの場合、動作モードは矩形波制御モードとなり、下アームのIGBT52がオンした場合、上アームのIGBT51には、500Vが印加される。ここで、各IGBT51、52の耐圧を1000Vとした場合、耐圧までのマージンは500Vとなる。
【0063】
このように、矩形波制御モードの方が正弦波PWM波制御モードよりも、耐圧までのマージンが大きくなるため、矩形波制御モードではスイッチングスピードを速くしてIGBTのスイッチング損失を低減し、過変調PWM波制御モードではIGBTの保護のためスイッチングスピードを抑え、正弦波PWM波制御モードでは、更に、IGBTの保護のためスイッチングスピードを抑えるのが好ましい。
【0064】
本負荷制御装置1は、図6に示すように、正弦波PWM制御モード、過変調PWM制御モード、矩形波制御モードの順にスイッチングスピードを速くし、正弦波PWM制御モード、過変調PWM制御モード、矩形波制御モードの順にゲート電圧を高くする。
【0065】
次に、図7に従って、通信調停用マイコン10とパワー半導体用マイコン15の処理について説明する。通信調停用マイコン10とパワー半導体用マイコン15は、定期的に図7に示す処理を実施する。
【0066】
まず、動作モード特定情報を受信したか否かを判定する(S100)。具体的には、MG−ECU60より動作モードを特定するための情報を受信したか否かを判定する。
【0067】
ここで、動作モードを特定するための情報を受信していない場合、S100の判定はNOとなり、S100の判定を繰り返し実施する。また、動作モードを特定するための情報を受信すると、S00の判定はYESとなり、次に、動作モードを判定する(S102)。
【0068】
ここで、動作モードが正弦波PWM制御モードであると判定した場合、正弦波PWM制御に適したゲート電圧とスイッチングスピードを特定する(S104)。具体的には、図6に示したような正弦波PWM制御に適したゲート電圧とスイッチングスピードを規定したテーブルを参照してゲート電圧とスイッチングスピードを特定する。なお、本実施形態では、正弦波PWM制御に適したゲート電圧は15Vとなっている。
【0069】
次に、S104にて特定したゲート電圧となるようにゲート電圧調整回路を制御する(S106)。本実施形態では、図2に示したように、IGBT51〜56のゲート電圧が15Vとなるように、制御端子Cnt1、2に制御信号を出力する。
【0070】
次に、スイッチングスピード調整回路30を制御する(S108)。具体的には、図4に示した各トランジスタ325、335、345、355をオフするように制御信号を出力する。このとき、IGBT51〜56のゲート抵抗の抵抗値は、抵抗301の抵抗値と等しくなる。
【0071】
また、動作モードが過変調PWM制御モードであると判定した場合、過変調PWM制御に適したゲート電圧とスイッチングスピードを特定する(S110)。なお、本実施形態では、正弦波PWM制御に適したゲート電圧は17.5Vとなっている。
【0072】
次に、S110にて特定したゲート電圧となるようにゲート電圧調整回路を制御する(S112)。本実施形態では、図2に示したように、IGBT51〜56のゲート電圧が17.5Vとなるように、制御端子Cnt1、2に制御信号を出力する。
【0073】
次に、スイッチングスピード調整回路30を制御する(S114)。具体的には、図4に示したトランジスタ325をオンし、トランジスタ335、345、355をオフするように制御信号を出力する。このとき、IGBT51〜56のゲート抵抗の抵抗値は、並列接続された抵抗301と抵抗321の合成抵抗の抵抗値と等しくなり、正弦波PWM制御モードの場合よりもゲート信号の立ち上がり波形は急峻になる。
【0074】
また、動作モードが矩形波制御モードであると判定した場合、矩形波制御に適したゲート電圧とスイッチングスピードを特定する(S116)。なお、本実施形態では、矩形波制御に適したゲート電圧は20Vとなっている。
【0075】
次に、S116にて特定したゲート電圧となるようにゲート電圧調整回路を制御する(S118)。本実施形態では、図2に示したように、IGBT51〜56のゲート電圧が20Vとなるように、制御端子Cnt1、2に制御信号を出力する。
【0076】
次に、スイッチングスピード調整回路30を制御する(S120)。具体的には、図4に示したトランジスタ325、335、355をオンし、トランジスタ345をオフするように制御信号を出力する。この場合、過変調PWM制御モードの場合よりもゲート信号の立ち上がり波形、ゲート信号の立ち下がり波形ともに急峻になる。
【0077】
上記した構成によれば、動作モードに応じて、絶縁ゲート型トランジスタの損失を低減するように絶縁ゲート型トランジスタのゲートに入力する信号波形の加工が指示されるので、より効率的に負荷を駆動することができる。
【0078】
また、動作モードがPWM制御モードの場合には、絶縁ゲート型トランジスタのゲートに入力する信号の電圧が第2の電圧よりも低い第1の電圧に抑制されるので、サージによる損失の増加を抑制することができ、動作モードが矩形波制御モードの場合には、絶縁ゲート型トランジスタのゲートに入力する信号の電圧が第1の電圧よりも高い第2の電圧となるので、導通損失を低減することができる。
【0079】
また、動作モードがPWM制御モードの場合には、絶縁ゲート型トランジスタのゲートに入力する信号の立ち上がり速度が第2の速度よりも遅い第1の速度となるように速度調整回路に指示するので、絶縁ゲート型トランジスタをサージから保護することができ、動作モードが矩形波制御モードの場合には、絶縁ゲート型トランジスタのゲートに入力する信号の立ち上がり速度が第1の速度よりも速い第2の速度となるように速度調整回路に指示するので、スイッチング損失を低減することができる。
【0080】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々なる形態で実施することができる。
【0081】
例えば、上記実施形態では、ゲート電圧調整回路20とスイッチングスピード調整回路30を備え、動作モードに応じてゲート電圧とスイッチングスピードを変更するようにしたが、例えば、スイッチングスピード調整回路30を備えることなく、動作モードに応じてゲート電圧調整回路20によりゲート電圧を変更するようにしてもよく、また、ゲート電圧調整回路20を備えることなく、動作モードに応じてスイッチングスピード調整回路30によりスイッチングスピードを変更するようにしてもよい。
【0082】
また、上記実施形態では、バッテリ2の端子間電圧が高い場合に正弦波PWM制御モードとなり、バッテリ2の端子間電圧が低い場合に矩形波制御モードとなる例を示したが、バッテリ2の端子間電圧以外の各種条件に応じて動作モードを切り替えるように構成してもよい。この場合、IGBTのゲートに入力する信号波形が各種条件に適した波形となるように加工してIGBTの損失が低減されるように構成すればよい。
【0083】
また、上記実施形態では、正弦波PWM制御モード、過変調PWM制御モード、矩形波制御モードの3つの動作モードを切り替える構成を示したが、例えば、正弦波PWM制御モードと矩形波制御モードの2つの動作モードを切り替える構成としてもよい。
【0084】
また、上記実施形態では、3相高電圧交流モータ3を負荷として駆動する構成を示したが、このような負荷に限定されるものではない。
【0085】
なお、上記実施形態における構成と特許請求の範囲の構成との対応関係について説明すると、ゲート電圧調整回路20、スイッチングスピード調整回路30が信号波形加工手段に相当し、S104〜S108、S110〜S114、S116〜S120が加工指示手段に相当する。
【符号の説明】
【0086】
1 負荷制御装置
2 バッテリ
3 モータ
10 通信調停用マイコン
15 パワー半導体駆動用マイコン
20 ゲート電圧調整回路
30 スイッチングスピード調整回路
51〜56 絶縁ゲート型トランジスタ(IGBT)
60 MG−ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁ゲート型トランジスタのゲートにPWM信号を入力して負荷をPWM駆動するPWM制御モードと、前記絶縁ゲート型トランジスタのゲートに矩形波信号を入力して前記負荷を矩形波駆動する矩形波制御モードを有する負荷制御装置であって、
前記絶縁ゲート型トランジスタのゲートに入力する信号波形を加工する信号波形加工手段と、
前記制御モードに応じて、前記絶縁ゲート型トランジスタの損失を低減するように前記信号波形加工手段に前記絶縁ゲート型トランジスタのゲートに入力する信号波形の加工を指示する加工指示手段と、を備えたことを特徴とする負荷制御装置。
【請求項2】
前記信号波形加工手段は、前記絶縁ゲート型トランジスタのゲートに入力する信号の電圧を調整する電圧調整回路を備え、
前記加工指示手段は、前記制御モードが前記PWM制御モードの場合には、前記絶縁ゲート型トランジスタのゲートに入力する信号の電圧が第1の電圧となるように前記電圧調整回路に指示し、前記制御モードが前記矩形波制御モードの場合には、前記絶縁ゲート型トランジスタのゲートに入力する信号の電圧が前記第1の電圧よりも高い第2の電圧となるように前記電圧調整回路に指示することを特徴とする請求項1に記載の負荷制御装置。
【請求項3】
前記信号波形加工手段は、前記絶縁ゲート型トランジスタのゲートに入力する信号の立ち上がり速度を調整する速度調整回路を備え、
前記加工指示手段は、前記制御モードが前記PWM制御モードの場合には、前記絶縁ゲート型トランジスタのゲートに入力する信号の立ち上がり速度が第1の速度となるように前記速度調整回路に指示し、前記制御モードが前記矩形波制御モードの場合には、前記絶縁ゲート型トランジスタのゲートに入力する信号の立ち上がり速度が前記第1の速度よりも速い第2の速度となるように前記速度調整回路に指示することを特徴とする請求項1に記載の負荷制御装置。
【請求項4】
前記信号波形加工手段は、前記絶縁ゲート型トランジスタのゲートに入力する信号の電圧を調整する電圧調整回路および前記絶縁ゲート型トランジスタのゲートに入力する信号の立ち上がり速度を調整する速度調整回路を備え、
前記加工指示手段は、前記制御モードが前記PWM制御モードの場合には、前記絶縁ゲート型トランジスタのゲートに入力する信号の電圧が第1の電圧となるように前記電圧調整回路に指示するとともに、前記絶縁ゲート型トランジスタのゲートに入力する信号の立ち上がり速度が第1の速度となるように前記速度調整回路に指示し、前記制御モードが前記矩形波制御モードの場合には、前記絶縁ゲート型トランジスタのゲートに入力する信号の電圧が前記第1の電圧より高い第2の電圧となるように前記電圧調整回路に指示するとともに、前記絶縁ゲート型トランジスタのゲートに入力する信号の立ち上がり速度が前記第1の速度よりも速い第2の速度となるように前記速度調整回路に指示することを特徴とする請求項1に記載の負荷制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−95413(P2012−95413A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239386(P2010−239386)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】