説明

負荷電ポリマーによる生体分子の沈殿

本発明は生体分子を単離する方法に関する。さらに詳しく言えば本発明は、抗体(mAb)及び抗体フラグメント(Fab)を含む関連タンパク質を単離する方法であって、これらが正かつ比較的疎水性であり、負荷電ポリマーと反応してポリマー−タンパク質複合体の沈殿を形成するような条件下で実施される方法に関する。単離は、様々な分子量のポリアクリル酸又はカルボキシメチルデキストランポリマーのような安価で生体適合性の負荷電ポリマーを沈殿剤として用いて達成できる。それは、広いpH範囲にわたって比較的高いポリマー濃度(例えば、10%)並びに高い塩濃度(>50mM)及び導電率(例えば、>10mS/cm)で行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生体分子を単離する方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、ポリマー−タンパク質複合体形成及び沈殿によって商業的に興味のある抗体及び他のタンパク質を単離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ミルク及び血漿のような各種の清澄化供給液からのタンパク質の処理は、非常に大きなスケールで日常的に行われている。現在、モノクローナル抗体のようなバイオ医薬品を100Kgスケールで製造することが、バイオ医薬品製造業者によって日常的に論議されている。これは、高いmAb力価(10g/L)においてさえ、10000リットルの発酵容量を処理する必要があり得ることを意味する。向上した処理能力を有するクロマトグラフィー媒体及び高い流量性能は、既存の大きい直径1.5〜2メートルのカラムを用いてかかる負荷量を扱うのに適する場合もある。しかし、かかるカラムは、特に夾雑物で汚損された場合に使用するのが難しいことがある。また、かかるカラムを通して大量の供給液を処理するための時間はやはりスケジューリング及びその他の問題を生じる。加えて、かかるプロセスは将来のバイオ医薬品製造或いは食品添加物、工業用触媒などとしてのタンパク質の処理に関係する恐らくは一層大量の供給液を扱うことができないであろう。したがって、迅速でコスト効率のよいプロセス容量(及び夾雑物)低減操作をクロマトグラフィー又は関連する下流操作の前に導入すべきであることはよく認識されている。これは特に、細菌性又は他の複合供給液流源(例えば、血液、組換えミルク又は組換え植物)からの供給液を処理する場合に言える。
【0003】
各種の新規でコスト効率のよい一次回収方法が検討されている。かかる方法は単独で使用することもできるし、或いは発酵後に導入して既存の標的精製プロセスを向上させることもできる。理想的には、使用する方法は既存のプロセス(濾過、抗ウイルス又はクロマトグラフィー)と容易にインターフェースをなすべきであり、プロセス液流の不都合な希釈又は汚染を引き起こすべきでない。興味深い方法には、水性ポリマー相分配、及び沈殿又は濾過と共に使用される(標的又は夾雑物の)凝集(下記に示す参考文献を参照されたい)がある。親和性リガンド又は帯電リガンドで修飾されたポリマーによって誘起される標的タンパク質の凝集(本明細書中では沈殿と互換的に使用される)は、タンパク質を精製するために常用されているクロマトグラフィーアプローチと概念的に類似しているので魅力的である。加えて、帯電リガンドで修飾されたポリマーは親和性リガンドで修飾されたものより安価である。
【0004】
清澄化供給液の沈殿に関する他者の最近の研究には、カルシウム及びリン酸塩で誘起される凝集(例えば、米国特許出願公開第2007/0066806号)或いはポリ(エチレングリコール)(例えば、国際公開第2008/100578号)を含む非帯電ポリマー又はポリビニルスルホン酸(下記参照)のような負荷電ポリマーによって支援されたかかる凝集の使用がある。ある者はまた、夾雑物の凝集を濾過と組み合わせた(例えば、米国特許出願公開第2008/0193981号、国際公開第2008/079302号)。場合によっては、凝集はある程度の選択性を達成することができる(米国特許出願公開第2008/0193981号及びJudy Glynn,BioPharm International,March2,2008を参照されたい)。
【0005】
Genetech社による特許出願(米国特許出願公開第2008/0193981号)では、凝集のためにポリビニルスルホン酸及びポリアクリル酸(PAA)が使用されている。低い導電率(6mS/cm未満)及びかなり低い抗体濃度のレジームで研究されたシステムは、得られた複合体を再溶解する(即ち、供給液流を希釈する)という問題に直面したように思われ、良好な(>95%の)DNA低減及び標的タンパク質単量体/凝集体比の維持を示しながらも約60%のHCP低減及び<90%の標的mAb回収率しか達成しなかった。この研究では、(a)([0128]及び図10に関して)「pH7及び1.5mS/cmでは、PAAが35000より大きいMWを有するまで完全な沈殿は達成されなかったこと」、及び(b)([0129]及び図33に関して)「pH7及び12mS/cmでは、220000(220kDa)より大きいMWを有するPSSを使用するまで(ポリスチレンスルホン酸(PSS)による)完全な沈殿は達成されなかったこと」が注目に値する。上記の著者らはまた、正味負荷電の標的タンパク質と相互作用する若干の正荷電ポリマーも検討した。
【0006】
他のグループは、組換えタンパク質供給液中に存在する多くは正味負の(酸性)宿主細胞タンパク質及び他の夾雑物を複合体化し、濾過を用いてかかる複合体化夾雑物を標的タンパク質から単離することに努めた(例えば、Judy.Glynn,Biopharm International,March 2,2008;A.Venkiteshwaran,P.Heider,L.Teysseyre,G.Belfort,Selective precipitation−assisted recovery of immunoglobulins from bovine serum using controlled−fouling crossflow membrane microfiltration,Biotechnology and Bioengineering,Published online 6 May 2008 in Wiley InterScience(www.interscience.wiley.com).DOI 10.1002/bit.21964)。しかし、かかるアプローチは、プロセスの初期において最も重要であり得る標的の濃縮(プロセス容量の低減)を提供しない。
【0007】
上記の研究に関係する若干の制約は、2種以上のポリマーを2種以上のタンパク質と相互作用させて相互に結合した複合体を形成することに依存する不溶性のタンパク質−ポリマー複合体を形成する目的で標的タンパク質に富む溶液をポリマーで滴定するような状況を考察すれば最も良く理解される。ポリマー濃度が標的タンパク質濃度に対して増加するに従い、最初は標的が過剰(かつ可溶)な状況であるが、次いで標的及びポリマーが同じ濃度であるか、或いはこれらが複合体を形成し得る比率で存在する状況に移動し、最後にポリマーが過剰で複合体が解離する状況に至ると予想される。大抵の場合、上記のGenetech社の出願に示されている通り、強いタンパク質−ポリマー相互作用を促進するために低いイオン強度が必要となり得る。もちろん、複合体の形成には(タンパク質のMWと同じく)ポリマーのMWが複雑な役割を演じる。これは、立体的に見ればポリマーサイズが大きいほど複合体形成に有利であるが、ポリマーのモル濃度及び拡散速度が低下することでそれを妨げるからである。
【0008】
上記の議論に関しては、6つの点に注目すべきである。第一に、複合体形成及び関連する現象(コアセルベート相形成、沈殿形成)は、複合体(タンパク質−ポリマー及び関連水)に富む液体領域と非複合体化成分に富む液体領域との間におけるポリマー、タンパク質、塩及び水の分配を含む複雑な動的プロセスである。したがって、タンパク質の相対溶解度(疎水性)及び塩に関するホフマイスター系列効果(L.A.Moreira,M.Bostrom,B.W Ninham,E.C.Biscaia,F.W.Tavares,Hoffmeister effects:Why protein charge,pH titration and protein precipitation depend on the choices of background salt solution,Colloids and Surfaces A,282−283,(2006)457−563を参照されたい)並びに分配効果(H.−O.Johansson,G.Karlstrom,F.Tjerneld,C.A.Haynes,Driving forces for phase separation and partitioning in aqueous two−phase systems.J.Chromatography B,711(1998)3−17を参照されたい)を含むエントロピー的な考察が重要な役割を演じることがある。第二に、標的捕捉(即ち、複合体形成)を生じるために低い導電率を要求する操作は、プロセス供給液流の不要の希釈を意味するが、これはラージスケール作業では経済的に実行できないことがある。第三に、標的放出(すな、複合体溶解)を行うために特定のpH条件及び低いタンパク質濃度を要求する操作は、やはりpH調整及びプロセス液流の希釈の必要性を招くことがある。第四に、特定の標的放出条件及び再溶解時の標的濃度が、かかる操作をコスト効率よく結合できる他の下流分離方法を制限することがある。第五に、高MWポリマーを用いて最適に働く操作は、溶液粘度の増加、可溶性夾雑ポリマーの除去、並びに高MWポリマーがクロマトグラフィー、フィルター、ポンプ及び他のプロセス液流表面を非特異的に汚損する可能性の高さに関係する問題のため、プロセス中に統合するのが一層困難である。第六に、数時間を超える実質的な時間にわたり複合体として保存した場合の標的タンパク質の変質(又は変質からの保護)及びタンパク質を処理中にある時間にわたり複合体として保存した後における標的タンパク質の放出の容易さに関して特別な考慮を払いながら、形成された複合体の性質を理解するように注意しなければならない。
【0009】
したがって、抗体及び他の生体分子を高い純度レベルに単離する方法であって、スケーラブルかつ効率的でありながら時間及びコストを節減する方法に対するニーズが今なお存在している。複合体形成、凝集、沈殿又は関連する方法に関しては、これらの基本的な満たされない要求に関係する若干の所望される特性を述べることができる。かかる方法は、多くの上流タンパク質供給液に関係する比較的高い塩濃度(例えば、150mM NaCl)、中性のpH及び高いタンパク質濃度をもった溶液に対して働くべきである。それはまた、清澄化発酵供給液のような各種の溶液に対して働くべきである。それは、上流で使用できるように良好な標的選択性及びプロセス容量低減を与えるべきである。これは、(しばしば負に帯電している)ウイルス、細菌、細胞破片、毒素及び核酸夾雑物のような夾雑物の排除を含む。それは、良好な捕捉及び容易な放出を可能にするやり方で、実質的な回収率をもって抗体又は抗体フラグメントのような標的を結合すべきである。放出には過度の希釈又はpHの変化が要求されるべきでなく、標的は各種の他の分離方法(特に現在のプロセスに常用されているもの)との容易な統合を可能にする濃度及び溶液範囲内に維持されるべきである。それは高いタンパク質濃度でも機能すべきであり、もちろん、添加された夾雑物を除去するために新しい単位操作の追加又は既存の単位操作の実質的な修正を要求するような物質の添加を含むべきでない。
【0010】
長年にわたり、バイオ医薬品の発酵、精製及びポリッシング/製剤化はしばしば別々のプロセス領域と見られてきた。これの主な理由は、これらが通例相異なる操作を含むと共に、各領域での標的の濃度に大きく関係するスケールを含むことにあった。即ち、発酵は恐らく1mg/mLで行われ、親和性又はイオン交換による精製で濃度は恐らく30mg/mLに上昇し、そしてポリッシング及び製剤化段階は標的を液体又は固体形態で100〜200mg/mLに持っていく。抗体及び他のバイオ医薬品は発酵供給液中で30mg/mLに達することがあり、またイオン交換クロマトグラフィーにおいて100mg/L以上に達することがあるので、これらの区別はあいまいである。製剤化はしばしば、タンパク質又は他のバイオ医薬品を、Dextran(商標)、ポリ(エチレングリコール)又はPolysorbate(商標)(ポリエトキシル化ソルビタン及びラウレート)を含むポリマー並びにTergitol(商標)又はPluronic(商標)のようなオキシエチレン又はオキシプロピレンの各種市販コポリマー又はブロックコポリマーのような付形剤と合わせることを含んでいる。アルブミンのような他のタンパク質(即ち、帯電した両親媒性バイオポリマー)の使用を含め、多くの付形剤は帯電していることがある。付形剤は、一部では、貯蔵中にバイオ医薬品を安定化し、凝集を誘起せずに高い濃度を維持し、体内での迅速な溶解及び取込みを可能にする。上記の事実を仮定すれば、生体適合性ポリマーを用いて溶液中の抗体又は他の標的タンパク質或いは不溶性複合体を局在させるいかなる分配又は沈殿方法も、バイオ医薬品の精製ばかりでなくその製剤化及び貯蔵の点からも興味の対象とすべきであることは当然である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
米国特許出願公開第2008/0193981号明細書
【発明の概要】
【0012】
本発明は生体分子を単離する方法に関する。さらに詳しく言えば本発明は、抗体(mAb)及び抗体フラグメント(Fab)を含む関連タンパク質を単離する方法であって、これらが正かつ比較的疎水性であり、負荷電ポリマーと反応してポリマー−タンパク質複合体の沈殿を形成するような条件下で実施される方法に関する。
【0013】
かくして一実施形態では、本発明は、生体分子を単離する方法であって、(a)生体分子を含む水性試料を用意する段階、(b)水性試料を塩の存在下で負荷電ポリマーと混合する段階であって、該ポリマーが生体分子と選択的に複合体化して凝集することで生体分子を含む沈殿の混合物を形成するような条件下で実施される段階、(c)水性液体から生体分子沈殿を分離する段階、及び(d)生体分子を再懸濁緩衝液中に再懸濁する段階を含んでなる方法を提供する。
【0014】
単離は、様々な分子量のポリアクリル酸又はカルボキシメチルデキストランポリマーのような安価で生体適合性の負荷電ポリマーを沈殿剤として用いて達成できる。それは、(様々な因子に応じて5〜9という)広いpH範囲にわたって比較的高いポリマー濃度(例えば、10%)並びに高い塩濃度(>50mM)及び導電率(例えば、>10mS/cm)で行われる。本方法は過剰ポリマーのレジームで機能するので、それは溶液のタンパク質濃度にあまり敏感でない。大部分のポリマー及び塩は沈殿中に保持されず、上澄み液に「分配」されるので、これらを再循環させることができる。宿主細胞タンパク質、核酸(及び恐らくはウイルス、細菌、毒素などの他の負荷電夾雑物)のような夾雑物は、ポリマー−標的タンパク質複合体から排除される傾向がある。様々な研究では、90+%のmAbが沈殿中に回収され、95+%のHCP及びDNAが上澄み液中に回収された。
【0015】
本方法は、標的及び他のタンパク質を高い濃度(例えば、10g/L)及び導電率で含む各種の複合溶液に関してうまく働くように思われる。これらの溶液には、清澄化発酵供給液のような溶液、及び水性ポリマー相分配からの標的含有相がある。沈殿は標的タンパク質リッチであり、各種の水溶液中に低希釈度で容易に溶解する。これらの溶液は低いpHを有することがあるが、それが必要なわけではない。これは、本方法を各種の他の分離及び下流処理方法や操作との直接統合を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、室温及びpH7の様々な塩条件における、10%(w/w)のNaPAA 8000を含む溶液中でのGammanormヒトポリクローナル抗体(GN)のポリマー−タンパク質複合体形成及び沈殿を示している。
【図2】図2は、抗体回収率を図1中の塩条件の関数として示している。
【図3】図3は、図1中の条件に関し、抗体回収率を緩衝液の導電率(mS/cm)の関数として示している。緩衝液の導電率はポリマーの寄与を含んでいないことに注意されたい。
【図4】図4は、室温及びpH7の様々な塩条件における、10%(w/w)のNaPAA 15000を含む溶液中でのGammanormヒトポリクローナル抗体(GN)のポリマー−タンパク質複合体形成及び沈殿を示している。
【図5】図5は、抗体回収率を図4中の塩条件の関数として示している。
【図6】図6は、図4中の条件に関し、抗体回収率を緩衝液の導電率(mS/cm)の関数として示している。緩衝液の導電率はポリマーの寄与を含んでいないことに注意されたい。
【図7】図7は、図1〜3中のNaPAA 8000関連実験について、K(沈殿したAb/沈殿しないAbの比)及び対数(Ln)Kを導電率(mS/cm)に対してプロットしたグラフを示している。同様な直線関係は、図4〜6に関する結果についても見出された(データは示さず)。
【図8】図8は、水性ポリマー二相システム(APTP)分配によって清澄化した実際のチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞発酵供給液からの再懸濁mAb沈殿を、Capto(商標)MMC多モード陽イオン交換クロマトグラフィー媒体(GE Healthcare社)上でのクロマトグラフィーに付した結果を示している。
【図9】図9は、図8に係る適用画分及び捕集画分のSDS PAGEの結果を示している。レ−ン1:分子量マーカー、レ−ン2:WAVE 51供給液、レ−ン3:WAVE 51供給液のATPS、レ−ン4:上澄み液、レ−ン5:pH5.5の再懸濁沈殿、レ−ン6:画分A1、レ−ン7:画分A2、レ−ン8:画分A3、レ−ン9:画分A4、レ−ン10:画分A1〜4、レ−ン11:画分A6、溶出液、レ−ン12:分子量マーカー。
【図10】図10は、分配、沈殿及びクロマトグラフィーに基づくタンパク質用の三段階一次精製スキームの概略を示している。第1の段階では、興味の対象のタンパク質(mAb)の95%以上が所望の相に分配される。発酵ブロスも大幅に清澄化される。第2の段階では、タンパク質の90%以上が回収されると共に、HCP及びDNAの95%以上の低減並びにウイルス及び毒素のレベルの顕著な低下が見られる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
一態様では、本発明は、生体分子及び不純物を含む水性試料から生体分子を単離する方法に関する。詳しくは、負荷電カルボキシ基を含むポリマーは、各種の水溶液からの抗体のような正荷電生体分子と選択的に複合体化して凝集する(本明細書中では沈殿するという)ことが判明している。
【0018】
本方法は多種多様の水性試料に適用できる。かかる試料には、特に限定されないが、原核細胞又は真核細胞発現系からの発酵生成物、血液、組換えミルク、組換え植物溶液、及び興味の対象の生体分子を含むその他任意の水性試料がある。かかる試料は好ましくは無細胞であり、さらに好ましくは固形夾雑物を除去するために清澄化されている。これは、任意の簡便に利用できる方法(例えば、濾過又は遠心分離)によって達成される。清澄化はまた、水性相分配方法によっても達成できる。
【0019】
本方法は、抗体の濃縮及び単離のために適している。本明細書中で使用される「抗体」という用語は、任意の組換え抗体又は天然のインタクト抗体、例えば抗原結合可変領域並びにL鎖定常ドメイン(CL)及びH鎖定常ドメインを含む抗体を意味する。この用語はまた、抗体フラグメント(特に限定されないが、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv及びFcフラグメントを含む)又は抗体フラグメントを含む分子も包含する。「抗体」という用語は、詳しくはFc融合タンパク質、ペプチボディー及び他のキメラ抗体のような融合タンパク質を包含する。「抗体」という用語は、詳しくはモノクローナル抗体及びポリクローナル抗体の両方を包含する。様々な実施形態では、抗体はIgG抗体、例えばIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4抗体であり得る。抗体の単離は下記に例示されるが、本方法は正味正の電荷を示し得るその他多くのタンパク質又は生体分子の単離のためにも等しく有効であると想定されている。
【0020】
興味の対象の生体分子を含む液体試料のpHは標的生体分子のpI以下に調整され、或いはポリクローナル抗体の場合のように2種以上の標的生体分子が標的試料である場合には最低pIの標的分子のpI以下に調整される。生体分子のpIは、当業者に知られている各種のpI測定方法の1つを用いて容易に測定できる。好ましい実施形態では、生体分子を含む試料上でキャピラリー等電集束法(cIEF)を実施し、pIを測定することでpIが求められる。pHの調整は、任意適宜の方法、例えば水性試料のpHが許容pH範囲内になるまでそれに酸性溶液のアリコートを添加することによって実施できる。5〜9の試料pH、例えばほぼ中性の試料pHを達成して維持することが好ましい。
【0021】
試料pHの調整と同時又はその後に、生体分子の選択的複合体化及び凝集のため、負荷電カルボキシル基含有ポリマーを試料と混合することができる。適当なpH及び塩条件下で、興味の対象の生体分子を含む凝集塊が形成される。好適には、ポリマーはポリカルボン酸(PCA)である。当業者であれば、効果的な複合体形成のために適したPCAポリマータイプ及び置換度(カルボキシル化度)を選択する原理は容易に理解される。他のポリマーもまた有用であろう。これらのポリマーには、CMセルロース又はCMデンプン並びにアクリル酸に類似したモノマーを含むポリマーがある。もちろん、本方法での使用をさらに向上させるその他の性質(例えば、サイズ、特定条件下での溶解度、磁性)を示すようにポリマーを設計することもできる。
【0022】
好ましくは、5000を超える分子量を有する高度にカルボキシル化されたポリアクリル酸(PAA)を用いて選択的な抗体の複合体化が達成される。同様な結果はまた、低い相対カルボキシル化度(置換度1.4)を有する高MWのカルボキシメチルデキストラン(CMD)を用いても得られる。水性試料に対するポリマーの濃度は、好ましくは3〜30%(w/v)、例えば5%(w/v)、10%(w/v)又は15%(w/v)である。
【0023】
好ましい実施形態では、生体分子を含む凝集塊(沈殿)は、ポリマーの存在下においてほぼ中性のpH及び比較的高い導電率(例えば、>50mMリン酸Na)で形成される。最も好ましい実施形態では、ポリマーはPAA(MW>5000)又はCMD(MW10000及び40000、置換度2.26及び3.24mmol/g)である。
【0024】
任意には、1種以上の塩が存在して沈殿プロセスを助ける。かかる塩の1種がリン酸ナトリウムである。通例、導電率を沈殿が起こる閾値(例えば、大抵は5mS/cm)より高く上昇させなければならない。若干の塩特有の(例えば、ホフマイスター型の)効果が期待されるが、操作者は塩の選択にある程度の自由を有している。別法として、塩は塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム又は硫酸ナトリウム或いはカリウムその他の塩或いはかかる塩の混合物である。塩及びポリマーは固体の形態で添加することができるが、これは試薬の溶解及び混合のために追加の平衡化時間を要求することがある。塩及びポリマーはまた、1種以上の液体濃縮物の形態で添加してもよく、或いは場合によっては固体の形態で添加してもよい。
【0025】
水性試料、ポリマー及び塩の混合物は、添加形態(上記参照)、混合(行われる場合)及び容量に応じ、15分乃至24時間の時間にわたってインキュベートされる。しかし通例は、適当に混合しながら液体濃縮物を添加すれば、大抵の用途にとって30分の時間で十分なはずである。明らかに、複合体及び懸濁液体(上澄み液)を分離するための時間は、これらを分離するために使用する方法に依存する。(試験管サイズ以下の)小容量で自発的な複合体形成及び沈降を行わせるために数時間を要するのに対し、大容量を濾過又は遠心分離に付す場合の時間も同様である。インキュベーションの長さは単離すべき生体分子に応じて変化し得るが、所定セットの条件(例えば、ポリマー濃度、重量など)に関してインキュベート時間を変化させ、各インキュベーション時間について沈殿する生体分子の量を測定し、最適レベル又は所望レベルの単離をもたらすインキュベーション時間を選択することで最適化できる。
【0026】
インキュベーション時間の経過中、混合物を連続的に混合しても、一定の間隔で混合しても、所望の回数だけ混合しても、或いは全く混合しなくてもよい。混合は要求されないが、当業者であれば、本発明の実施に際して沈殿の形成のために混合が望ましい時期が理解されよう。
【0027】
インキュベーションは、沈殿の形成に役立つことが判明している任意の温度で実施できる。例えば、インキュベーションは2〜8℃の温度又は室温で実施できる。発酵試料は、さらなる処理中にプロテアーゼ活性を低下させるため、室温又はそれより低い温度に冷却されることが多い。実際、本発明の利点の1つはインキュベーション段階を室温で実施できることであって、混合物を冷蔵状態に保つ必要はなく、特定の温度に設定する必要さえない。
【0028】
凝集塊が生じたならば、任意適宜のアプローチによって混合物を沈殿及び液相に分離できる。一実施形態では、混合物は遠心分離される。この実施形態では、沈殿は容器の底部に集まる一方、液相は不純物の大部分を含む。遠心分離後、例えばデカンティング又は吸引によって液相が除去される。
【0029】
別の実施形態では、混合物は濾過によって分離できる。
【0030】
液体試料から沈殿を分離した後、沈殿を任意に緩衝液で洗浄できる。任意の洗浄段階の目標は、残留液体成分を沈殿から除去することであり得る。任意の洗浄は、単に洗浄緩衝液を沈殿に接触させ、次いで吸引又はデカンテイングによって洗浄緩衝液を除去することからなり得る。
【0031】
沈殿は、水又は緩衝溶液を含む水溶液中に容易に再懸濁(即ち、再溶解)できる。このように再懸濁溶液の選択が比較的自由であることは、標的をほとんど希釈することなく、しかも標的の天然活性を維持しかつさらなる分離段階を最適化すること以外をほとんど考慮せずに緩衝液の最適選択を可能にする点で有利である。好ましくは、再懸濁緩衝液は低イオン強度の溶液であり、4.0〜9.0のpHを有する。再懸濁緩衝液の一例は、pH5.0の酢酸ナトリウム緩衝液である。
【0032】
下記の実施例では、5g/L未満の抗体を含む試料溶液との複合体形成により、通例は出発液体の容量の2%未満(多くは1%未満)の凝集塊が得られる。したがって、沈殿は所望の生体分子の50〜100×濃縮を達成する。生体分子の回収率は高く(約90%)、宿主細胞タンパク質及びDNAの分離度も同様に高い(共に約95%)。抗体分子の比較的高度に帯電したポリカチオン性の大きい表面積及び相対的な鎖の柔軟性には、大抵の夾雑物に比べて高い選択性が存在し得ると共に、ポリカルボン酸はポリ硫酸化ポリマーに比べて大きい鎖の柔軟性も与える。したがって、複合体はウイルス、毒素及び他の負荷電夾雑物のレベルの低下も示し得る。抗体の特定の性質(例えば、特定の抗原又はリガンドに対する結合部位親和性)がこの分離方法に関与することはない。したがって、それは抗体フラグメントを含む各種の他の分子に対しても働くと予想される。
【0033】
顕著な容量低減及び各種溶液中への容易な複合体溶解(再懸濁)は、本凝集方法を標準的な下流精製プロセスと直接に統合することを支援する。このようにすれば、沈殿の再懸濁後には、溶液状態の再懸濁生体分子を1以上の追加精製段階(例えば、生体分子又は残留ポリマーに関して通過又は捕捉モードのクロマトグラフィー)で処理することで所望の生体分子をさらに精製することができる。
【0034】
かくして一実施形態では、再懸濁生体分子は親和性媒体(例えば、プロテインA媒体)上に捕捉される。次いで、標的生体分子が溶出され、そして恐らくは陽イオン交換(標的捕捉)段階又は混合モード(標的通過、夾雑物捕捉)段階によるポリッシングに付される。
【0035】
別の実施形態では、標的生体分子はポリマーが通過する陽イオン交換媒体上に装填される。異なる実施形態では、生体分子は高イオン強度溶液中に再懸濁され、そして疎水性相互作用クロマトグラフィーカラム、混合モードカラム又は親和性カラム上に直接装填される。
【0036】
上述した通り、沈殿中の残留ポリマーは捕捉クロマトグラフィー媒体を用いたスカベンジングによって除去できる。別法として、ポリマーは水性多相システムの相分配のような他の方法によっても除去できる。
【0037】
さらに、沈殿中の残留ポリマーは、標的を顕著に吸着(捕捉)するがポリマーは吸着(捕捉)しないクロマトグラフィー媒体又は濾過媒体又は他の(モノリシック)捕捉媒体を通してそれを流すことで除去できる。別法として、沈殿中の残留ポリマーは、ポリマーに関して標的と異なる流速又は妨害度を有するクロマトグラフィー媒体又は濾過媒体又は他の(モノリシック)サイズ排除媒体を通してそれを流すことでも除去できる。
【0038】
かくして、高導電率溶液と共に使用するように設計されたCapto MMC及び関連捕捉媒体を用いて、上記の方法で製造された標的含有溶液を精製する方法がさらに提供される。
【0039】
本発明のすべての実施形態は、任意のスケールで使用できることに注意すべきである。例えば、本発明は、数十リットル、数百リットル又は数千リットルの細胞培養液から生体分子を単離するラージスケール生体分子製造作業に適用できる。別の例では、本発明はスモールスケールで使用できる。例えば、数リットル程度の容量又は1リットルより遙かに少ない容量の培養液から生体分子を単離するベンチトップスケール作業で使用できる。
【0040】
新規な方法のために使用する容器は固定型又は使い捨て型のものであって、標的回収及び上澄み液の除去を向上させるための様々な自明のやり方で改造することができる。また、本方法は標的含有供給液にポリマー及び塩溶液を添加することのみを含むので、それは(例えば、複合体を単離するために沈降又は遠心分離ではなく濾過を用いて)オンラインモード又は連続処理モードで容易に実施できる。固体担体に依存しない液体方法であるので、最小限の高価な標的タンパク質及び供給液の使用を可能にする条件下で標的回収率及び夾雑物除去のような各種のパラメーターを最適化するため、(例えば、マイクロタイタープレートにおけるミリリットルスケールの容量での)高スループットスクリーニングを使用することが容易に可能である。
【0041】
本方法の単純さ及び頑強性は、その他多数の刺激的な可能性を示唆している。例えば、pH依存性は、CO2分圧を用いてそれを実施して炭酸塩緩衝溶液中のpHを変化させることで、複合体が形成又は溶解するpH条件間で交互に移動させ得ることを示唆している。沈殿後の再溶解段階では、pHの低下と組み合わせて残留ウイルスを殺すこともできる。別の可能性は、沈殿を、ポリマー−塩、ポリマー−ポリマー又は熱応答性(逆熱溶解度)ポリマーの二相システム中での水性ポリマー二相分配と組み合わせることである。後者のシステムでは、ポリマーは曇り温度(Tc)で自己会合し、ポリマーリッチ相上に浮遊する水及び(標的)タンパク質リッチ相を形成する。かかるシステムにおける分配は、単位重力で(即ち、遠心分離を使用せずに)迅速な初期清澄化(細胞及び細胞破片の除去)並びにある程度の夾雑物除去をもたらすことができる(James Van Alstine,Jamil Shanagar及びRolf Hjorthによって2009年1月8日に提出された、「単一ポリマー相システムを用いる分離方法」と称するスウェーデン特許出願第0900014−2号(その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす))。しかもそれは、組換え体又は他のラージスケールタンパク質リッチ供給液に関連する導電率(血漿、血液又は組換え植物標的含有供給液流に関連するものを含む)において実施される。しかし、それはあまり多くの標的濃縮又はHCP除去を提供しない。したがって、それを本発明の方法と組み合わせることで、既存のプロセス又は新しいプロセス中に容易に挿入される二相清澄化及び精製レジームを生み出すのが理想的である(表1)。これには、もっぱら使い捨て部品のみを用いて働くように設計されたプロセスがある。それ以外にも、標的及び夾雑物は2つの区画室間を自由に移動できるが、複合体化ポリマーは末端共有結合による局在化によって保持されるか、或いは標的を通過させるが標的より遙かに大きいMWのポリマーは通過させないフィルターによりMWに基づいて保持されるような容器内で作業を実施するなどの様々な自明の可能性が存在する。
【0042】
【表1】

図10は、上記概念の一部を採用すると共に、後述する実験の詳細に従って、分配、沈殿及びクロマトグラフィーに基づくタンパク質用の三段階一次清澄化スキームを略示している。プロセス全体が使い捨て部品を用いて実施できる。段階1では、発酵試料又は組換え細胞(rCell)又は組換え細菌(rBacteria)(或いは植物又は動物関連の標的含有溶液)を水性ポリマー相分配に付すことで、細胞及び他の粒子状破片を除去して溶液を清澄化する。標的含有相(この例では、熱分離エチレンオキシドプロピレンオキシド(EOPO)型ポリマーに基づく1ポリマー二相システムからの水リッチ相)を単離し、次いで塩及びpH及びタンパク質複合体化ポリマー(この例では、正味正荷電のmAbタンパク質と容易に複合体化するPAA)の添加によって調整する。複合体形成及び(沈降、遠心分離又は濾過による)複合体の単離がそれに続く。この段階で、沈殿中の標的回収率を高めるため、上澄み液を別の沈殿ラウンドに付すことができる。次いで、複合体を新鮮な緩衝液に再溶解度することができる。これは、抗ウイルス処理の一部として低pH(例えば、pH4)の緩衝液であり得る。第3の分離段階では、再溶解された標的タンパク質を含む溶液がアフィニティークロマトグラフィー、混合モードクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー又は他の分離方法(例えば、捕捉クロマトグラフィー)に付される。それはまた、サイズ排除或いは濾過、クロマトグラフィー、モノリスカラムなどに関係する他の方法で処理することもできよう。
【実施例】
【0043】
以下の実施例は例示目的のためにのみ示されるものであり、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明を限定するものと決して解すべきでない。
【0044】
材料及び検討されるユニット
化学薬品
GammaNorm(ヒトポリクローナルIgG):165mg/ml、pI約7、Octapharma社。
【0045】
ポリアクリル酸Na塩(PAA):35%(w/w),MW=15000、45%(w/w),MW=8000、MW=5100及びMW=2100、すべてAldrich社から入手。
【0046】
カルボキシメチルデキストラン(CMD)0.39(2.26mmol/g)、MW 40000、名糖産業社(日本)から入手。
【0047】
カルボキシメチルデキストラン(CMD)1.39(3.24mmol/g)、MW 40000、名糖産業社(日本)から入手。
【0048】
デキストラン硫酸(16〜19%置換)、MW 10000、40000、100000及び500000、PK Chemicals社(デンマーク)から入手。
【0049】
Capto(商標)Q(17−5319−10)及びHiTrap Capto MMCカラム(11−0032−73)はGE Healthcare社(ウプサラ、スウェーデン)から入手した。
【0050】
本研究で使用した他の化学薬品はすべて分析用のものであって、MERCK社から購入した。
【0051】
相システム配合用の熱応答性ポリマー
Breox 50A 1000(エチレンオキシド及びプロピレンオキシドの等量コポリマー(EOPO))、Mw 3900、下記参照。
【0052】
特記しない限り、EOPOポリマーとは、50%エチレンオキシド及び50%プロピレンオキシドからなる(数平均)分子質量3900ダルトンのランダムコポリマーであるBreox 50A 1000をいう。これはある種の用途についてFDAの承認を得ており、(現在はCognis社(www.cognis.com)の一部である)International Specialty Chemicals社(サウサンプトン、英国)から入手した。
【0053】
相システム
スモールスケール研究では、下記に示す原液の適当な量/容量を混合することで、二相システム(ATPS)溶液を(特記しない限り)直接に10ml Sarstedt管中で調製した。各システムの最終容量は通例5mlであった。混合物を約30秒間渦動させ、次いで40℃の水浴中に約15分間放置して相形成させた。
【0054】
原液
EOPO、20%(w/w):10gのEOPOを40gのMQ水に溶解することで調製した。
【0055】
EOPO、40%(w/w):20gのEOPOを30gのMQ水に溶解することで調製した。
【0056】
NaP(リン酸Na、0.8M):0.8M NaH2PO4及び0.8M Na2HPO4を混合することで様々なpH(pH5、6、7、8)を生み出した。
【0057】
クエン酸Na(0.8M):0.8Mクエン酸ナトリウム及び0.8Mクエン酸を混合することでpH7の原液を調製した。
【0058】
NaCl(5M):14.6gのNaClを50mlのMQ水に溶解することで調製した。
【0059】
実際の供給液試料
実際のmAb供給液P4及びP5並びにWAVE 51をGE Healthcare社(ウプサラ、スウェーデン)から内部的に入手した。これらはチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞ベースの発酵液であった。
【0060】
沈殿実験
原液
NaP(リン酸Na、0.8M、pH7):0.8M NaH2PO4及び0.8M Na2HPO4を混合することで調製した。
【0061】
NaCl(5M):146gのNaClを500mlのMilliQ水に溶解することで調製した。
【0062】
方法
ポリマー溶液の調製:沈殿実験用のポリマー及び塩/緩衝剤溶液は、ポリマーの適当な量/容量を記載の原液の適当な量/容量と混合することで調製した。特記しない限り、密度は1と仮定した。
【0063】
所要量のポリマー溶液及び塩/緩衝剤溶液(表2)を混合し、それに抗体を添加した。次に、(複合体化及び凝集のため)混合物を室温に約3時間保ち、次いで3000×gで15分間遠心分離した。次に、上澄み液を沈殿から単離した。分離した沈殿を水又は適当な緩衝液に再懸濁した。
【0064】
電気泳動:Phast System(GE Healthcare社、ウプサラ)上において、4〜12%勾配のポリアクリルアミド及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS)還元ゲル、150Vで1時間、Coomassie Blue(登録商標)を用いた10分間の染色のような通常の動作条件下で実施した。
【0065】
クロマトグラフィーは、GE Healthcare社(ウプサラ、スウェーデン)から入手できるクロマトグラフィー媒体の供給者の推奨条件に従って実施した。
【0066】
分析クロマトグラフィー
プロテインAアフィニティークロマトグラフィーによるmAbの測定:抗体捕捉に関するプロテインA相互作用の選択性により、それを分析目的のために使用して、90+%の夾雑物はカラムを通過させながら試料中のすべての抗体を結合することができる。MabSelectSureカラムを用いてmAbの濃度を測定した。50μlの試料を1ml HiTrap MabSelectSureカラムに適用した。溶出液ピークの面積を積分し、それぞれ供給液及び水相の容量を掛けた。ATPSを用いた抽出に関する回収率を、面積単位の総数を比較することで算出した。MabSelectSure段階に関するmAbの回収率を同様にして算出した。試料:50μlの供給液又は水相、カラム:1ml HiTrap MabSelectSure、緩衝液A:PBS、緩衝液B:100mMクエン酸ナトリウム(pH=3.0)、流量:1ml/分(150cm/h)、勾配:0〜100%Bの階段勾配。
【0067】
凝集体レベルのサイズ排除測定:Superdex 200 5/150 GLゲル濾過カラム(サイズ排除クロマトグラフィー又はSEC)を用いて、二量体及び凝集体(さらにmAb濃度)を測定した。二量体ピーク及び単量体ピークの面積をUNICORNソフトウェアによって自動的に積分した。供給液及び水相からの二量体の総面積を比較した。試料:50μlの供給液又は水相、カラム:3ml Superdex 200 5/150 GL、緩衝液:PBS、流量:0.3ml/分(45cm/h)。
【0068】
使い捨てWAVEバイオリアクター中でのラージスケール発酵及び分配に基づく清澄化
実際の供給液であるmAb細胞培養物は、(内部的に供給された)51 CHO細胞株で発現される。培養期間は18日であり、培養容器は20Lのバッグ及びpH/オキシウェルを有するWAVEバイオリアクターシステム20/50であった。培養液は、5g/Lの加水分解物UF8804(Millipore社)を含みかつ必要に応じてグルコース及びグルタミンを供給したPowerCHO2(Lonza社)であった。供給液試料は、細胞の平均生存率が40%を下回った場合に収穫可能と定義された。WAVEバッグの内容物は、ポリマー−塩溶液を添加した場合、42℃に温度安定化された。
【0069】
水性ポリマー二相システムは、9.5kgのmAb供給液を含むWAVEバッグ中に原液混合物を直接ポンプ注入することで調製した。これは3.6Lの50%Breox EOPOポリマー原液、4.5Lの800mMリン酸Na(NaP)(pH8)、及び0.27Lの5M NaCl原液であって、9.5kgの供給液に全部で8.37Lが添加された。これにより、10%(w/w)EOPO、200mMリン酸Na(pH8.0)及び150mM NaClの概略最終濃度が得られた。添加した原液は40℃であり、したがって供給液及び相システム混合物を40℃で容易に平衡化させることができた。ポリマー混合物のポンプ注入時間は約50分であった。WAVEリアクター上に混合物を放置して15分間振盪した後、バッグホルダーを含めたWAVEバッグをリアクターから取り外し、次いで長軸が垂直になるようにして実験台上に配置した。これは、相形成の可視化を助けると共に、バッグのチューブ挿入口をバッグの上部及び下部に位置させた。それはまた、一層ラージスケールのプロセスにおいて予想されるものと一致するように相の高さを調整した(上記の議論を参照されたい)。二相システムの形成は5分後に認められ、30分後に完了した。細胞破片の層が界面に形成された。次いで、WAVEバッグの上部からチューブを挿入し、それを蠕動ポンプに連結することで、上部相を複数の瓶に移した。次いで、WAVEバッグを長軸が垂直になるように配置した場合にその下部コーナーになる部分に取り付けたチューブを用いて、下部(ポリマー)相を瓶に移した。
【0070】
複数の瓶からの集めた上部相材料をプールし(約13.5L)、次いで6インチULTA HC 0.2μmフィルターに連結した6インチULTA 0.6μm GFを用いて濾過した。7リットルの材料を濾過した後、圧力が2.5バールに増加したので、6インチULTA 0.6μm GFを新しいフィルターと交換した。濾過した材料をWAVEバッグ中に集め、次いで4℃に保った。
【0071】
ATPS後の上部ポリマープア相画分中におけるmAbの回収率を、MabSelect Sure分析(上記参照)を用いて測定した。粗供給液及びATPS実験後の回収mAbに関するmAb回収率及び宿主細胞タンパク質(HCP)データも分析した。これらの実験からの結果は、mAbが分配によって>99%の回収率で部分的に精製され、細胞破片の顕著な除去も見られることを示していた。抗体回収率を最適化するように選択されたこのシステムでは、HCPの顕著な低減は得られなかった。
【0072】
他のアッセイ
宿主細胞タンパク質(HCP)アッセイは、商業的な酵素結合免疫アッセイ法(Gyrolab社)によった。DNAは、標準の商業的なPicoGreen色素DNA分析法によって分析した。
【0073】
実施例1−抗体沈殿用ポリマーのスクリーニング
予備的な研究(表2)では、適当に緩衝されたヒトポリクローナル抗体溶液に約10%(w/w)の脱プロトン化ポリアクリル酸、即ちポリアクリル酸ナトリウム(以下互換的にNaPAA又はPAAと示す)を添加すれば、GammanormポリクローナルIg(Octapharma社)試料で代表される広範囲のヒト抗体の沈殿が生じることが示唆された。かかる効果はまた、それより高い濃度(10%(w/w))の高MWカルボキシメチル修飾デキストラン(CMデキストラン、名糖産業社(日本))を用いて再現することもできる。凝集を開始させるためには、≧50mM NaP緩衝剤が必要とされることに注目すべきである。この緩衝剤濃度は、NaPAAがポリエチレングリコール(PEG)と共に二相システムを形成するために必要な塩濃度と同様であり、相形成のためのエントロピー的推進力を与えるNaCl又はNaP塩の必要性に加えて、ポリマー由来の酸基の影響を相殺するためのpHの緩衝制御の必要性に関係するように思われる(この議論に関しては、H.O.Johansson et al,1998及びL.A.Moreira et al,2006を参照されたい)。
【0074】
【表2】

予備スクリーニングのための条件を表2に示す。これらの条件下で、約1グラムのNaPAAを含む溶液を、約75マイクロリットル以上のGammanormポリクローナルヒト抗体(165mg/ml)と共に4mlの緩衝剤含有溶液に添加することで、5mlの全システム容量中に2.5〜16mg/ml(g/L)の抗体濃度を得た。デキストランのMWを100000に増加させかつ濃度を20%に上昇させた場合でも、硫酸化デキストランでAbの凝集を誘起するのは不可能であった。しかし、上記の研究では、1mS/cm未満から30mS/cm超までのNaPAA(MW 8000)溶液、6g/L以上のmAb濃度、最終濃度として200mM リン酸Na(pH7)及び150mM NaCl、並びに遙かに高いポリマー濃度を用いて沈殿が起こった。(これらの研究では元の試料容量の通例2%未満になるように思われた)沈殿を≦1mlの100mM NaP(pH5)に再懸濁することは、試料容量を約10〜20分の1に低減させながら(即ち、10〜20倍に濃縮しながら)複合体を溶解したことになる。16g/Lの抗体濃度でもタンパク質及びポリマーの密度が約1であると仮定すれば、Abは試料容量の2%未満をなすことに注意すべきである。(さらに考えを進めて)抗体が等質量のポリマー及び結合水と化合したとしても、得られた複合体はなおもシステム全体の6%未満をなし、したがって16倍を超える抗体濃縮をもたらすことになる。
【0075】
実施例2−抗体の沈殿に対するPAAポリマーのMW、緩衝剤濃度及び塩濃度の効果
さらなる沈殿研究のためにGammanorm(GN)ヒトポリクローナルIgG抗体(Ab)を使用した。ポリクローナル抗体試料を使用したのは、存在する抗体の大部分に関係する結果が、ただ1種のモノクローナル抗体ではなく広範囲の抗体に関係することを確実にするためであった。PAA(NaPAA)の様々な分子量を様々な緩衝剤及び塩濃度と組み合わせた(表3参照)。PAAの最終濃度は10%(w/w)であり、各システムの容量は5mlであった。結果は、これらの条件下では、5000までの分子量を有するPAAポリマーを用いてもほとんど沈殿は達成されないことを示した。かかる沈殿は、ポリマー又は塩濃度を増加させれば可能であるかもしれない。抗体の沈殿が得られたのは、分子量を8000又は15000に増加させかつ高い緩衝剤又はNaCl塩濃度を使用した場合であった。しかし、緩衝剤及びNaClをシステムから排除した場合には僅かな沈殿が認められた。これは、PAAポリマーによる抗体の沈殿のためには高い緩衝剤濃度又は高い導電率が必要であることを表している。
【0076】
【表3】

実施例3−抗体の沈殿及び回収率に対するPAAのMW及び塩濃度の効果
沈殿及び抗体回収率に対する緩衝剤及び塩濃度の効果を検討するため、様々な緩衝剤及び塩濃度(表4及び表5)でMW8000又は15000のNaPAAを用いて、5g/Lの抗体を含む総量5mlのシステムを調製した。各管から上澄み液を除去した後、沈殿を1mlの水中に再懸濁し、それぞれの吸光度を280nmで分光測光的にモニターした。これにより、沈殿及び上澄み液中に回収された抗体の量を算出できた。表4及び表5並びに図1〜7中の結果は、抗体の複合体化及び回収率が緩衝剤/塩濃度(即ち、導電率)と共に増加することを示している。これらの比較的スモールスケール及び手動操作方法の条件下でも、≧200mMの総緩衝剤/塩濃度で80〜90%の回収率を達成するのが可能であった。総回収率は通例>95%であったが、これは100mM NaP/100mM NaClでも二重沈殿を行って沈殿中に>90%のmAbを確保するのが可能であることを示唆している。
【0077】
【表4】

【0078】
【表5】

実施例4−カルボキシメチルデキストラン(CMD)を用いた抗体の沈殿
本研究は、他のポリマーがポリアクリル酸と同様に機能し得ることを立証するために実施した。試験ポリマーはPAAと全く異なっていた。即ち、それはナトリウム形で使用されず、天然の細菌起源のカルボキシメチル基(CM)で修飾された多糖デキストラン(D)であり、(PAAの場合のように)酸性基が単量体構造の一部であるような合成ポリマーではない。相異なる分子量(10000及び40000)を有する2種のCMDポリマーを、150mM NaCl及び200mM NaP(pH7)の溶液中20%(w/w)の濃度で、ポリクローナルIgG Gammanorm
の沈殿に関して試験した。結果は、これらの条件下で抗体を沈殿させ得ることを示した。しかし、NaP緩衝剤及びNaClを排除した場合には沈殿は得られなかった(表6)。
【0079】
【表6】

実施例5−抗体の沈殿及び回収率に対するCMDのMW及びリガンド密度の効果
様々なシステム中における沈殿形成及びGammanorm抗体の回収率に対するCMDポリマーの分子量の効果を検討するため、2種のMW(10000及び40000)及び様々なグラフトCMリガンド密度を有するCMDポリマーを、150mM NaCl及び200mM NaP(pH7)を含む1.2mlのシステム中において20%(w/w)で試験した(表7)。各管から上澄み液を除去した後、沈殿を1mlの水中に再懸濁し、それぞれの吸光度を分光光度計により280nmでモニターすることで、上澄み液及び沈殿した複合体中の抗体の量を推定した。結果は、沈殿中の抗体の回収率がカルボキシル基濃度(置換度×ポリマー濃度)と共に増加することを示唆している。抗体が非特異的な管壁吸着及び他の現象で失われると予想されるこのような小容量でも、20%のCMD 40000及び3.24mmol/gのカルボキシル密度で>80%の抗体回収率が得られた。82%までの抗体が沈殿中に見出され、試料は蒸留水中にも容易に再溶解できた。
【0080】
【表7】

実施例6−PAA及びCMDを用いた様々な粗供給液からのmAbの沈殿
チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞の発酵で産生させた様々なモノクローナルmAb発酵供給液(P4、P5及び51という)について、遠心分離を用いた常法で細胞及び細胞破片を除去して清澄化した。試料タイプ51は使い捨てのWAVE(商標)バイオリアクター(GE Healthcare社、ウプサラ)中で製造し、その後は試料タイプ51をWAVE 51ともいう。51供給液の対照試料は、Breox 50A 1000熱応答性ポリマーを含む水性ポリマー二相システム中において40℃(即ち、ポリマーのTcより高い温度)で清澄化した。これ以上の情報については、上記の「方法」及び「材料」を参照されたい。Breox及び他の「EOPO」ポリマー(例えば、Tergitol及びUcon)を用いて形成される二相システムに関する追加の情報は、様々な情報源(例えば、H.O.Johansson et al,1998(上記))から入手できる。遠心分離又は水性ポリマー二相分配によって清澄化された各種供給液の試料を、様々な緩衝剤及びNaCl濃度を使用しながら、様々な濃度のPAA及びCMDポリマーで沈殿させた(表8参照)。凝集、遠心分離で支援された沈殿、及び各管からの上澄み液の除去後、沈殿を水中に再懸濁し、(上記の「方法」中に記載した)プロテインAクロマトグラフィー分析によってmAb含有量を分析した。
【0081】
これらの実験から得られた結果は、以下のことを示している。
●緩衝剤及びNaClをシステムから排除した場合には、mAbの沈殿は起こらなかった(実験2)。
●比較的高い緩衝剤NaP及びNaCl塩濃度を使用した場合でも、PAAの濃度を10%から3%に低下させた場合には、mAbの沈殿は起こらなかった(実験3及び3a)。
●高い緩衝剤及びNaCl濃度を用いた10%PAA及び20%CMDシステムでは、高濃度のmAb供給液(WAVE 51及びWAVE 51 ATPS)を使用した場合でも、78〜88%のmAb沈殿回収率が得られた(実験4及び1d〜1e)。しかし、比較的低いmAb濃度を有する様々な供給液(P4及びP5)を使用した場合には、沈殿中のmAb回収率は56〜61%に減少した(実験1及び1b)。ただし後者の場合は、単に、出発溶液の≪1%の容量を有する試料を生み出す共沈殿の高濃縮効果に原因する分析中の抗体試料の喪失によるものかもしれない。
【0082】
【表8】

Gyrolabシステム(Gyros社、ウプサラ)を用いて、宿主細胞タンパク質(HCP)含有量を酵素結合免疫アッセイ法により分析した(表9)。結果は、沈殿したmAb試料中でのHCP低減率が88〜94%であり、大部分のHCPは上澄み液中に残留していることを示した。結果はまた、この沈殿方法が、清澄化供給液中の抗体試料ばかりでなく、水性ポリマー相システムの相(例えば、熱分離したBreox EOPOポリマー含有二相システムのタンパク質リッチ上部相)からの抗体試料ともうまくインターフェースすることを示している。この点から見て、上部相中の残留EOPOポリマーは抗体沈殿を妨害しないように思われた。Breoxポリマーの非帯電性を考えれば、これは予想外の結果ではない。
【0083】
【表9】

実施例7−10mlスケールでのCMD又はPAAによるmAbの沈殿
本方法の正確さ及び再現性を検討するため、表8に示した実験の一部を10mlスケールで繰り返した。表10に示した結果は、比較的高いmAb濃度(即ち、WAVE 51 APTPで清澄化された供給液)及び導電率の条件下で10%PAA又は20%CMD 4000システムを使用した場合、沈殿中に高レベルのmAb回収率(76%及び99%)が得られたことを表している。表11は、沈殿したmAb中でのHCP低減率が>94%であり、大部分のHCPは上澄み液中に残留していることを示している。これらの結果は1.2〜5mlのスケールにおいて上記で得られた結果と同様であり、本方法のスケーラビリティ及び頑強さ並びにマイクロタイタープレート又は小容量試験管のような小容量試験システムを用いたスクリーニングの可能性を示唆している。
【0084】
【表10】

【0085】
【表11】

実施例8−200mlスケールでのPAAによるmAbの沈殿
スケーラビリティ及び再現性をさらに試験するため、10%NaPAA 15000、150mM NaCl、200mM NaP(pH7)及び熱応答性APTPシステムでの分配(上記参照)によって清澄化したWAVEバイオリアクターからのmAb 51供給液に基づく沈殿システムを、200mlスケールでの二重反復試験によって処理した(表12)。複合体形成及び沈殿、並びに上澄み液の除去後、各沈殿を50mlの水中に再懸濁した。この場合には、再懸濁容量が大きかったので、追加の分析を実施することができ、また将来の分析のために若干の試料を凍結保存した。再懸濁溶液及び上澄み液の試料のmAb含有量を、抗体が(存在するmAbの量の分析を可能にする)MabSelect SureプロテインA親和性カラムに結合するように塩濃度及びpHを調整することで分析した。上澄み液及び沈殿に関するタンパク質回収率を表12に示す。予想された通り、複合体中には>86%の概略mAb回収率が得られた。さらに、残りのmAbは上澄み液中に存在するように思われた。これは、例えば、容易に第2の沈殿段階に付して精製mAbの量を増加させることができる。第2の沈殿段階は、単に少量のNaPAAを上澄み液に添加してNaPAAレベルを再び10%に上昇させることで達成し得ることに気づいてほしい。この実施例では、約86%のmAbが沈殿中に見出され、18%が上澄み液中に見出された(総量は標準誤差のために104%である)。最悪の場合として、沈殿中に82%のmAbが存在し(K=82/18=4.6)、そして第2の沈殿が同様な比率を与えたと仮定すれば、第1及び第2の段階からの沈殿をプールすることで約97%のmAbが複合体の形態で得られるであろう。
【0086】
また、上記の実施例では、プロテインAに基づくMabSelect Sure親和性カラムは常法に従って使用され、正常に見えるクロマトグラム(図示せず)を与えたことに注意されたい。これは、プロテインAタイプの親和性捕捉段階の上流に(即ち、それより以前に)沈殿段階又は分配とそれに続く沈殿段階を含めるのが可能であることを示唆している。かかる段階は、捕捉濾過、或いは充填若しくは膨張粒子ベッド又はモノリスカラムを用いる捕捉クロマトグラフィーを含み得る。
【0087】
残留する中性のAPTPシステム関連ポリマーは、後続のアフィニティークロマトグラフィー又はイオン交換クロマトグラフィーに対してマイナスの影響を及ぼすことはない(即ち、ほとんど影響を及ぼさないか、或いはプラスの影響を及ぼすことさえある)(米国特許出願公開第2007/0213513号)。クロマトグラフィー処理されるmAb試料中の残留PAA(通例は初期沈殿溶液中のPAAに対して僅かな比率にすぎない)に関しては、PAAは正味負の電荷を有するが、プロテインA類似体のpIは約5であるのでプロテインAカラムも同様であることに注意すべきである。このことをそれの比較的小さいMWと考え合わせると、PAAはプロテインAカラム(又は陽イオン交換カラムのような他の負荷電カラム)を通過して通過液中に入るはずである。ポリマーの小さいMWはまた、特異的濾過段階によるそれの除去を可能にし、或いは単に他の通常処理段階中に非特異的吸着によるそれの除去を可能にすることができる。
【0088】
【表12】

実施例9−Capto MMCカラム上での再溶解沈殿のクロマトグラフィー
この実験は、再懸濁したmAb沈殿試料が陽イオン交換媒体及び混合モード媒体を含む他の媒体上で処理できることを立証するために実施した。Capto(商標)MMCは、バイオプロセシングのため商業的に入手できる多モード陽イオン交換媒体(GE Healthcare社、ウプサラ)である。その構造及び用途に関する情報は、直接にメールで又はウェブサイトを介して供給者から入手できる(即ち、Optimizing elution conditions on Capto MMC using Design of Experiments,GE Healthcare publication 11−0035−48;Capto MMC Data File,GE Healthcare publication 11−0025−76)。それは、通常乃至高い流量(大形カラムで600cm/h以上)及び通常乃至比較的高い移動相塩濃度(例えば、5〜50mS/cm)で使用するために設計されており、高濃度の(正味正の状態の)標的タンパク質並びに残留塩及び負荷電ポリマーを含むを含む、微小容量溶液中に再懸濁した沈殿試料を処理するためには理想的と思われる。
【0089】
使い捨てWAVEバイオリアクター中で発酵され、次いで同じ使い捨てWAVEバイオリアクター中での水性ポリマー二相(APTP)分配によって清澄化されたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞発酵供給液(mAb 5g/L)からの実際の供給液の試料を用いて沈殿を生成した。沈殿は、10%(w/w)NaPAA 15000、200mM NaP(pH7)及び150mM NaClを達成するようにポリマー及び塩を添加することにより、(APTPに付された初期mAbの90%以上を保有する)mAb含有相を改質することで誘起した。分配によって約90%のmAbを含む沈殿は、沈殿システムの全溶液容量の<2%(v/v)と推定された。それを、250mM NaCl及び50mM 酢酸Naからなりかつ酢酸でpH5.5に調整された10容の緩衝液に溶解した。約17mlの試料を、Capto MMCカラム(Capto MMCを充填した1mlのHiTrapカラム)に0.5mL/分(滞留時間2分)で適用した。溶出(緩衝液B)は、1M NaClを含む100mM NaP(pH7.6)で行った。
【0090】
目標は、mAbをカラム上に結合し、残留HCPの大部分を通過させることであった。次いで、pH及び塩濃度を高めることにより、結合したmAbがカラムから溶出された。次いで、恐らくは多少の夾雑物を含む残留タンパク質が最高のpH及び塩濃度で溶出された。図8は、Capto MMCカラム上における再懸濁沈殿のクロマトグラフィーデータを示している。クロマトグラフィー実験からの画分を集め、そのHCP及びDNA含有量を分析し、データを粗供給液、上澄み液及び沈殿のものと比較する(表13)。純度チェックのため、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS PAGE)分析も実施した(図9)。
【0091】
図8のクロマトグラムは溶出液中に幅の広い初期ピークを示しているが、これはかなりの量のmAbがカラムを通過したことを示唆している(即ち、初期吸着緩衝液濃度又はmAbの量が使用した小形カラムにとって高すぎた)。SDS PAGEによってこのことが確認された(図9)。しかし、記録されたクロマトグラムの中央部における鋭いピークによって証明されるように、多く(50%以上)のmAbはカラムによって捕捉されるように思われた(表13並びに図8及び図9参照)。負荷電PAAポリマーは、負荷電HCP並びに恐らくは毒素、ウイルス及び他の負荷電夾雑物(分析せず)と共に通過液中に溶出されると考えられた。吸着された夾雑物は、高pHで高導電率の洗浄段階で(部分的に)除去されるであろう。
【0092】
表13は、溶出液(画分A6)中のHCPが約800ppmに低減したことを示している。DNA含有量のレベルが使用したアッセイの検出限界未満であったことで示されるように、DNAの顕著な低減が達成された。
【0093】
【表13】

実施例10−抗体フラグメント(Fab)の沈殿
抗体フラグメント(Fab)は、典型的には母体mAbのMWの1/3のMWを有するが、多くの場合に母体mAbと同様なイオン交換クロマトグラフィー挙動及び同様な滴定曲線を示す(MW及び残基数に関しては、例えば、(mAbについては)C.Harinarayan,J.Mueller,A.Ljunglof,R.Fahrner,J.Van Alstine,R.van Reis,An Exclusion Mechanism in Ion Exchange Chromatography,Biotechnology and Bioengineering 95(2006)775−787、また(Fabについては)A.Ljunglof,K.M.Lacki,J.Mueller,C.Harinarayan,R.van Reis,R.Fahrner,J.M.Van Alstine,Ion Exchange Chromatography of Antibody Fragments,Biotechnology and Bioengineering96(2007)515−524)を参照されたい)。Fabの相対疎水性、電荷密度、pIのような性質が同様であることは、これらが上述した方法によって複合体化し得ることを示唆している。しかし、Fabのサイズが小さく、それに伴ってポリマー相互作用のための表面積が減少しかつ拡散率が大きくなることは、これらがある種の条件下ではmAbより低い程度にしか複合体化しないかもしれない子とを示唆している。これを試験するため、内部的に供給された3g/LのFab溶液をポリマー及び塩と合わせて、10%(w/w)NaPAA 15000、200mMリン酸Na(pH7)及び150mM NaCl中に0.6g/LのFabを含む5mlのシステムを形成した。目に見える沈殿が生じた。UV分析(A280nm)は、これらの条件下で20%のFabが複合体化したことを示唆した。それ以上の実験は行わなかったが、ポリマー又は塩濃度の増加、ポリマーのMWの増加、pHの変化、温度の変化などを含む上述の方法によってこの将来有望な結果を実質的に拡張することは容易に可能なはずである。
【0094】
Ab及び関連するタンパク質に加えて、ある種の他のタンパク質にもこのアプローチによる処理を施し得ることに注目するのは興味深い。かかるタンパク質は、(使用するpH条件下で)正味正の電荷を有すると共に、可能ならはある程度の表面疎水性を有するべきである。上述した通り、タンパク質のサイズも一定の役割を演じるであろう。その例には、血清アルブミン及びキモトリプシンのような商業的に興味深い若干のタンパク質、並びにインスリン及び若干の他のホルモンがある。かくしてAlves et al.は、PEG−塩及びPEG−デキストランシステムにおいて、インスリンは10という高い分配係数をもって上部相を好む傾向があることを示した(Jose G.L.F.Alves,Lucy D.A.Chumpitaz,Luiza H.M.da Silva,Telma T.Franco,and Antonio J.A.Meirelles:Partitioning of whey proteins,bovine serum albumin and porcine insulin in aqueous two−phase systems,Journal of Chromatography B,743(2000)235−239)。Fuentes et al.は最近、各種のタンパク質とクロマトグラフィー基質上に非共有結合的に吸着させたCMDポリマーとの相互作用を研究した。彼らは、E.coliのHCPがCMDで修飾したマトリックスにpH5で結合したがpH7では結合しなかったこと、ポリマー被覆表面とのHCP相互作用の低下がイオン強度の増加と共に減少したこと、そしてpH7では比較的疎水性の塩基性タンパク質であるキモトリプシン(pI約9)が、移動相に>200mMのNaClを添加するまでポリマーから放出されなかったことに注目した。彼らはまた、ポリマー相互作用が固有の活性を保持するタンパク質にある程度の構造安全性を付与するように思われることにも注目した(Manuel Fuentes,Benevides C.C.Pessela,Jorgette V.Maquiese,Claudia Ortiz,Rosa L.Segura,Jose M.Palomo,Olga Abian,Rodrigo Torres,Cesar Mateo,Roberto Fernandez−Lafuente,and J.M.Guisan,Reversible and Strong Immobilization of Proteins by Ionic Exchange on Supports Coated with Sulfate−Dextran,Biotechnol.Prog.20(2004)1134−1139)。
【0095】
本明細書中で言及された特許、特許出願公開及びその他の公表参考文献のすべては、各々が個別かつ詳細に本明細書中に組み込まれた場合と同じく、その全体が援用によって本明細書の内容の一部をなしている。以上、本発明の好ましい例示的な実施形態を記載してきたが、当業者には、限定のためでなく例示を目的として示した記載の実施形態以外のやり方でも本発明を実施できることが容易に理解されよう。本発明は、以下に示す特許請求の範囲によってのみ限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体分子を単離する方法であって、
(a)前記生体分子を含む水性試料を用意する段階、
(b)水性試料を塩の存在下で負荷電ポリマーと混合する段階であって、前記ポリマーが生体分子と選択的に複合体化して凝集することで生体分子を含む沈殿の混合物を形成するような条件下で実施される段階、
(c)水性液体から生体分子沈殿を分離する段階、及び
(d)生体分子を再懸濁緩衝液中に再懸濁する段階
を含んでなる方法。
【請求項2】
生体分子がホルモン又はポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体又は抗体から導かれるタンパク質を含むタンパク質である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
抗体がIgG抗体である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
生体分子が抗体フラグメント(Fab)である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
負荷電ポリマーがポリアクリル酸(PAA)である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
PAAが5kDを超える分子量及び3%(w/v)を超える濃度を有する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
ポリマーがカルボキシメチルデキストラン(CMD)又は他のカルボキシ修飾ポリマー或いは他のポリ酸ポリマー又は他の生物分解性ポリ酸ポリマーである、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記塩がリン酸Na、NaCl、クエン酸Na及び硫酸Naから選択される、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記塩の濃度が50mMを超える、請求項8記載の方法。
【請求項10】
段階(b)における混合物のpHが5〜9の範囲内にある、請求項1記載の方法。
【請求項11】
段階(b)における混合物のpHが約7である、請求項1記載の方法。
【請求項12】
水性試料が、原核細胞又は真核細胞発現系からの清澄化発酵生成物、ウイルス培養系、全血、清澄化血液、組換えミルク、組換え植物溶液、及び興味の対象の生体分子を含むその他任意の水性試料からなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項13】
清澄化又は他の初期試料精製分離段階が、遠心分離或いは各種の緩衝剤又は塩の存在下で1種又は2種の水溶性ポリマーによって形成されるものを含む1以上の水性多相分離システム中における分配によって実施される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
分離が、
(a)混合物を遠心分離して沈殿及び水性液体を得る段階、並びに
(b)水性液体を沈殿から除去する段階
を含む、請求項1記載の方法。
【請求項15】
分離が、混合物を濾過して複合体を水性流体から単離することを含む。請求項1記載の方法。
【請求項16】
前記沈殿した生体分子が、pH3〜9の水性緩衝液又は水中に再懸濁される、請求項1記載の方法。
【請求項17】
沈殿中の残留PAA又は他のポリ酸が、段階(d)後にスカベンジングによって除去される、請求項5乃至請求項7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
沈殿中の残留PAA又は他のポリ酸が、段階(d)後に水性多相システムによって除去される、請求項5乃至請求項7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
沈殿中の残留PAA又は他のポリ酸が、段階(d)後に、前記生体分子を顕著に吸着するがPAA又は他のポリ酸は吸着しないクロマトグラフィー媒体又は濾過媒体又は他の(モノリシック)捕捉媒体を通してそれを流すことによって除去される、請求項5乃至請求項7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
沈殿中の残留PAA又は他のポリ酸が、段階(d)後に、PAA又は他のポリ酸が前記生体分子と異なる流速又は妨害度を有するクロマトグラフィー媒体又は濾過媒体又は他の(モノリシック)サイズ排除媒体を通してそれを流すことによって除去される、請求項5乃至請求項7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
さらに1以上の追加精製段階を含み、これが追加の水性相分配段階又は沈殿段階を含み得る、請求項1記載の方法。
【請求項22】
追加の精製段階が、多モード陽イオン交換体を用いるクロマトグラフィー、プロテインA親和性カラム、疎水性相互作用カラム及び陽イオン交換を含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
請求項1記載の方法によって製造された生体分子含有溶液を低希釈度で精製するための、高導電率溶液と共に使用するように設計されたCapto MMC及び関連捕捉媒体の使用。
【請求項24】
一定期間(例えば、数日、数週間、数ヶ月又は数年)にわたって貯蔵するための安定化形態でバイオ医薬品を単離するための、請求項1記載の方法の使用。
【請求項25】
バイオ医薬品をポリマー付形剤又は他の付形剤と共に一定の濃度又は不溶状態にするための製剤化段階における、請求項1記載の方法の使用。
【請求項26】
ポリマーがCM−デキストランのような生物分解性ポリ酸を含む、請求項25記載の使用。
【請求項27】
ポリマー付形剤又は他の付形剤が製剤に補助性能を与える、請求項25又は請求項26記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2012−515161(P2012−515161A)
【公表日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−545324(P2011−545324)
【出願日】平成22年1月11日(2010.1.11)
【国際出願番号】PCT/SE2010/050017
【国際公開番号】WO2010/082894
【国際公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(597064713)ジーイー・ヘルスケア・バイオサイエンス・アクチボラグ (109)
【Fターム(参考)】