説明

負電極組成物のためのスズ系合金を作製する方法

粉末ミリング技術、それによって形成されるスズ系合金、及びそのような合金のリチウムイオン電池の電極組成物としての使用法を提供する。合金は、スズと、少なくとも1つの遷移金属と、を含むが、シリコンは含有しない。粉末ミリングは、低エネルギーローラーミリング(ペブルミリング)を使用して行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
粉末ミリング技術、それによって形成されるスズ系合金、そのような合金のリチウムイオン電池のための電極組成物としての使用法を提供する。
【背景技術】
【0002】
ペブルミルは、水平軸上で回転される円筒形又は円錐形の容器によって特徴付けられる、ボールミルの一種である。ペブルミルは、鋼内壁を有することができるが、多くの場合、セラミック、ゴム、プラスチック、又は他の材料に内張りされている。ペブルミルは、他のミリング媒体を使用することができるが、典型的に鋼又はセラミックである、ミリング媒体と共に使用される。
【0003】
ペブルミルは、瓶の一方の末端部上の封止可能なポートから装填される、円筒形の瓶の形態であってもよい。ミリングプロセス中、多くの場合、より小さいペブルミルは、一組の電動ローラー上に定置される。多くの場合、より大きいペブルミルは、その長手方向軸に沿ったピン上に水平に取り付けられる、円筒形の容器からなり、軸、ギア、又はベルトによって駆動される。そのようなペブルミルは、一般に、ミリング容器を囲む固定囲い板を更に含む。囲い板は、容器が回転されている間、ミルの排出を可能にする。ペブルミル容器は、ミリング容器の水冷却を可能にする二重壁、容器の内壁上での媒体の滑りを防止するリフタ、及び/又は作動中のガス抜きを可能にするポートを有する場合がある。
【0004】
ペブルミルは、一般に、粉末を細かい粒径に粉砕するため、又は粉末若しくは顔料を溶媒中に分散させるために使用される。従来の乾燥粉砕作業では、ペブルミルは、典型的に、それらの体積の半分まで、ミリング媒体の混合物、及び粉砕される粉末(一般に、ミルベースと称される)で充填される。ミリング媒体は、一般に、3つの種類、球形、円筒形、又は不規則形のものである。球形のミリング媒体の場合、ミリング媒体対ミルベースの体積比は、典型的に、30:20である。容器の回転速度は、容器内の媒体が、カスケード角度が水平に対して45〜60°の範囲である、連続するカスケードを形成するように設定される。これらの条件は、それらが粉末の効率的なミリングに最適であるため、広く使用される。より高い回転速度では、媒体は、容器内の空気中に飛ばされる傾向がある。更により高い回転速度では、媒体は、遠心力によって、容器の側面に押し付けられた状態になる可能性がある。媒体が容器の側面に押し付けられた状態になる理論上の回転速度の毎分回転数(rpm)は、ミルの臨界速度と呼ばれ、以下の、
rpm臨界=54.2/R0.5
によって与えられ、式中、Rは、フィート(メートル)で表される、ミリング容器の内径である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
スズの低融点のため、一般に、ナノ構造のスズ系合金は、シリコン系合金より作製するのが困難である。スズ系合金組成物は、リチウムイオン電気化学セルにおける負電極に有用であることが知られているが、それらは、処理することがいくらか困難であり、比較的高価である。負電極材料として有用なナノ構造のスズ系合金を作製するのに経済的な方法が必要である。
【0006】
一態様では、シリコンを実質的に含有しない、ナノ構造の合金粒子を作製する方法が提供され、方法は、ミリング媒体を含有するペブルミル内で、ミルベースをミリングし、ナノ構造の合金粒子を用意する工程であって、ミルベースが、スズと、炭素又は遷移金属のうちの少なくとも1つとを含み、ナノ構造の合金粒子が、寸法が50ナノメートルを超える結晶性ドメインを実質的に含まない、工程を含む。
【0007】
別の態様では、ペブルミル内でミルベースをミリングする工程であって、ミルベースが、スズと、炭素又は遷移金属のうちの少なくとも1つとを含み、ナノ構造の合金粒子が、寸法が500ナノメートルを超える結晶性ドメインを実質的に含まない、工程と、ポリマー結合剤を含むスラリー中にナノ構造の合金粒子を分散させる工程と、負電極を提供するために、金属カレントコレクタ上にスラリーをコーティングする工程と、を含む、リチウムイオン電気化学セルのための負電極組成物を作製する方法が提供される。
【0008】
幾つかの実施形態では、ミリング媒体対ミルベースの体積比は、1.5:1を超える。幾つかの実施形態では、ミリング媒体対ミルベースの体積比は、5:1を超える。幾つかの実施形態では、ナノ構造の合金粒子は、非晶質である。幾つかの実施形態では、ペブルミル対ミリング媒体及びミルベースの組み合わせの体積比は、2:1以下である。幾つかの実施形態では、ペブルミルは、理論上の臨界速度を有し、ペブルミルは、理論上の臨界速度の50〜140パーセントの範囲の回転速度を有する。幾つかの実施形態では、ペブルミルは、0.01〜0.3ジュールの範囲の最大衝撃エネルギーを有する。幾つかの実施形態では、ペブルミルは、ある温度を有する格納容器壁を有し、温度は、100℃以下に維持される。幾つかの実施形態では、ペブルミルは、鋼内壁を有する。幾つかの実施形態では、ペブルミルは、セラミック又はセラミックが内張りされた格納容器壁を有する。
【0009】
幾つかの実施形態では、ナノ構造の合金粒子は、スズと、炭素と、遷移金属とを含む。幾つかの実施形態では、ミルベースは、鉄、コバルト、又はこれらの組み合わせを含む。幾つかの実施形態では、ペブルミルは、飽和高級脂肪酸又はその塩を含む、ミリング助剤を更に含有する。幾つかの実施形態では、ミリング助剤は、ステアリン酸を含む。幾つかの実施形態では、ナノ構造の合金粒子は、リチウムイオン電池における負電極組成物で活性材料として使用するために適合される。幾つかの実施形態では、ナノ構造の合金粒子は、少なくとも10、20、30、40、50、60、若しくは更には70重量パーセント以上のスズを含む。それらは、シリコンを実質的に含有しない。
【0010】
本明細書で使用する場合、
「合金」という用語は、1つ以上の金属相を有し、2つ以上の金属元素を含む、物質を指し、
「金属化合物」という用語は、少なくとも1つの金属元素を含む化合物を指し、
「合金化」という用語は、合金を形成するプロセスを指し、
「非晶質」という用語は、材料に適用される場合、X線回折によって観測される際に、材料が結晶性材料の長距離原子秩序特性を有さないことを意味し、
「脱リチオ化」という用語は、電極材料からリチウムを除去するためのプロセスを指し、
「電気化学的に活性」という用語は、リチウムイオン電池の充電及び放電中に典型的に直面する条件下で、リチウムと可逆的に反応する材料を指し、
「金属元素」という用語は、全ての元素金属(スズを含む)、シリコン、及び炭素を指し、
「ミル」という用語は、合金化するため、粉砕するため、ミリングするため、微粉化するため、ないしは別の方法で材料を小粒子に破壊するための装置(例には、ペブルミル、ジェットミル、ボールミル、ロッドミル、及び磨砕ミルが挙げられる)を指し、
「ミリング」という用語は、材料をミル内に定置し、合金化を実施する、あるいは材料を小さい若しくはより小さい粒子に粉砕する、微粉化する、又は破壊するようにミルを作動させる、プロセスを指し、
「ナノ構造の合金」という用語は、寸法が50ナノメートルを超える結晶性ドメインを実質的に含まない合金を指し、
「非晶質合金」という用語は、その原子の位置内に長距離秩序を有さない、ナノ構造の合金を指し、
「負電極」という用語は、放電プロセス中に電気化学的酸化及び脱リチオ化が発生する、リチウムイオン電池の電極(多くの場合、アノードと呼ばれる)を指し、
「正電極」という語句は、放電プロセス中に電気化学的還元及びリチオ化が発生する電極(多くの場合、カソードと呼ばれる)を指し、
「シリコンが実質的に存在しない」という語句は、シリコンを本質的に有さないが、しかしながら、1重量%未満の量の少量のシリコン不純物を含有し得る、組成物を指す。
【0011】
有利に、50ナノメートルを超える寸法を有する結晶性領域を実質的に含まない、ナノ構造の合金粒子を生産する、ミリング方法が提供される。例えば、ナノ構造の合金粒子は、1重量パーセント未満、0.5重量パーセント(重量%)未満、又は更には0.1重量%未満の、50ナノメートルを超える寸法を有する結晶性領域を有してもよい。
【0012】
更に、ミリング方法は、商業生産レベルに容易に拡張可能である。対照的に、現在使用されている技術(例えば、高衝撃ミル)は、より大きい結晶性領域を形成する傾向がある、及び/又は商業的に有用な量のナノ構造の合金粒子を生産するように拡張するのに問題がある。50ナノメートルを超える寸法を有する結晶性領域を有する材料は、一般に、繰り返されるリチオ化/脱リチオ化に好適ではないため、リチウムイオン電池の負電極で使用するために、ナノ構造の合金粒子は、非晶質であるべきである、又は少なくともそのような領域を含むべきではない。
【0013】
上記の要約は、本発明の全ての実施の開示された各実施形態を記述することを意図したものではない。図面の簡単な説明及び後に続く詳細な説明は、説明に役立つ実施形態をより具体的に例示する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】縦軸磨砕ミリングによって調製されたSn30Co4040、及びペブルミルを使用して調製されたSn30Co4040のX線回折パターン(XRD)対ミリング時間のチャート。
【図2】ペブルミルを使用して調製されたSn30Co4040のXRDパターン対ミリング時間。
【図3】図1及び図2に記載される、選択された粉砕材料の比容量(mAh/g)対サイクル数のグラフ。
【図4】ペブルミルを使用することによって調製されたSn30Fe5020のXRDパターン。
【図5】図4の試料の比容量(mAh/g)対サイクル数のグラフ。
【図6】ペブルミルを使用することによって調製された、200時間のミリングの後のSn40Co4020のXRDパターン。
【図7】図6の試料の比容量(mAh/g)対サイクル数のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下の説明において、本明細書の説明の一部を構成し、幾つかの特定の実施形態が例として示される添付の一連の図面を参照する。本発明の範囲又は趣旨を逸脱することなく、その他の実施形態が考えられ、実施され得ることを理解すべきである。したがって、以下の「発明を実施するための形態」は、限定する意味で理解すべきではない。
【0016】
他に指示がない限り、本明細書及び特許請求の範囲で使用される特徴の大きさ、量、物理特性を表わす数字は全て、どの場合においても、「約」という用語によって修飾されるものとして理解されるべきである。それ故に、そうでないことが示されない限り、前述の明細書及び添付の特許請求の範囲で示される数値パラメータは、当業者が本明細書で開示される教示内容を用いて、目標対象とする所望の特性に応じて、変化し得る近似値である。端点による数値範囲の使用には、その範囲内に含まれる全ての数(例えば1〜5には、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、及び5が包含される)及びその範囲内のあらゆる範囲が包含される。
【0017】
ペブルミルは、粉末処理技術分野において周知である。それらは、多数の製造業者から広く市販されている。概して円筒形であるか、概して円錐形であるか、又は幾つかの他の形状であるかに関わらず、有用なペブルミルは、比較的小さくてもよく(例えば、6インチ(15cm)以下の最大内径を有する)、又はそれらは、より大きい最大内径(例えば、最大で6フィート(2m)以上)を有してもよく、それらを、商業規模の生産に有用にする。ペブルミルは、例えば、鋼壁を有すること、又はセラミック材料で内張りすることができる。当該技術分野において一般的であるように、ペブルミルは、壁の間に冷媒(例えば、水)を循環させ、それによって内壁の温度を調節することができる、二重壁型のものであってもよい。例えば、内(格納容器)壁の温度は、100℃以下に維持されてもよい。
【0018】
通常の作動では、ペブルミルは、典型的に、ペブルミル内に含有されるミリング媒体が、論理上、遠心力によって壁に押し付けられ、ミリング効率が著しく低下する、理論上の臨界速度を有する。しかしながら、少なくとも幾つかの場合では、理論上の臨界速度に近い、又はそれを超えるミリング測度が、ナノ構造の合金をもたらすことができることが、予想外にも発見された。実験条件が、ペブルミル設計にいくらか依存して変化する一方、臨界速度の50〜140パーセントの範囲の回転速度は、典型的に、非晶質である、又は少なくとも寸法が50ナノメートルを超える結晶性ドメインを実質的に含まない、ナノ構造の合金粒子を生産するのに好適であることが発見された。これらの条件下で、ペブルミル内に含有されるミリング媒体の最大衝撃エネルギーは、典型的に、ナノ構造の合金粒子の十分な結晶化を生じさせるのに不十分である。
【0019】
有用なミリング媒体は、商用供給元から容易に入手可能であり、これらには、ステンレス鋼、ガラス、及びセラミック媒体が挙げられるが、しかしながら、また、他のミリング媒体が使用されてもよい。ミリング媒体は、ボール、ロッド、不規則な形状の本体、及びこれらの組み合わせの形態を有してもよい。ミリング媒体の例には、クロム鋼ボール、セラミックボール、セラミックシリンダー、長い鋼棒、短い鋼棒、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0020】
幾つかの実施形態では、ミルベースは、異なる組成を有する、複数の種類の粒子を含む。例えば、ミルベースは、スズ粒子、炭素粒子、及び遷移金属粒子を含んでもよい。幾つかの実施形態では、ミルベースは、スズ粒子、炭素粒子、及び/又は遷移金属粒子の1つ以上の合金を含む。合金の例には、例えば、Fe、Ti、Y、V、Cu、Zr、Zn、Co、Mn、Mo、及びNi等の遷移金属(希土類金属類を含む)の1つ以上の合金、例えば、ミッシュメタル(希土類の混合物)が挙げられる。どのようなミルベースの組成であろうと、ナノ構造の合金粒子を、リチウムイオン電池における負電極組成物で使用することを意図する場合、電池技術分野において周知であるように、部分は、一般に、結果として得られる負電極組成物が電気化学的に活性であるように調整されるべきである。
【0021】
ミルベースは、ミリング助剤を更に含んでもよい。ミリング助剤の例には、1つ以上の飽和高級脂肪酸類(例えば、ステアリン酸、ラウリン酸、及びパルミチン酸)、及びその塩類、炭化水素類、例えば、鉱油、ドデカン、ポリエチレン粉末等が挙げられる。広くは、いかなる任意のミリング助剤の量も、ミルベースの5重量パーセント未満、典型的には1重量パーセント未満である。
【0022】
所望により、固体ミルベース成分は、粉末として入手されてもよく、又はそれらをペブルミル内に定置する前に、インゴット若しくは塊から粉末に還元されてもよい。場合によっては、インゴット又は塊は、ペブルミルに直接使用されてもよく、その場合、インゴット又は塊は、ミリングプロセス中に粉砕される。例えば、両方とも2009年5月14日に出願された、米国出願第12/465,865号(Le)、及び同第12/465,852号(Leら)に概して記載されるように、純元素は、ミルベースの構成成分として使用されてもよく、又はそれらのうちの1つ以上が、予形成合金によって置換されてもよい。
【0023】
任意の相対量のミルベース及びミリング媒体が使用されてもよいが、典型的に、1.5:1を超える、又は更には5:1を超えるミリング媒体対ミルベースの体積比が、比較的高い生産性及び品質をもたらす。ペブルミルの囲まれた体積対ミリング媒体及びミルベースの任意の体積比が使用されてもよい。典型的に、50ナノメートルを超える寸法を有する結晶性領域を実質的に含まない、ナノ構造の合金粒子は、ミリング媒体及びミルベースの組み合わせで除算したペブルミルの囲まれた体積が、2:1以下の範囲である際に取得される。広くは、ミリングは、酸素制御環境で、例えば、不活性ガス(例えば、窒素、ヘリウム、及び/又はアルゴン)環境下で実施されるべきである。
【0024】
例示のナノ構造の合金には、約30重量%〜約70重量%のスズ及びコバルトと、約10重量%〜約30重量%の炭素とを含む、スズ合金が挙げられる。また、例示のスズ合金は、鉄も含有することができる。有用なスズ合金の例が、例えば、米国特許公開第2006/0068292号(Mizutaniら)、同第2007/0020528号(Obrovacら)、及び同第2009/0111022号(Dahnら)に開示されている。
【0025】
負電極組成物及び/又は正電極組成物を形成するために、提供される方法に従って調製されたナノ構造の合金粒子を、電池技術分野において周知である技術を使用して、ポリマー結合剤中に分散させることができる。例示のポリマー結合剤には、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸、及びリチウムポリアクリレート等のオキソ酸類並びにそれらの塩類が挙げられる。ポリマー結合剤の他の例には、エチレン、プロピレン、又はブチレンモノマーから調製されるもの等のポリオレフィン類、フッ化ビニリデンモノマーから調製されるもの等のフッ素化ポリオレフィン類、ヘキサフルオロプロピレンモノマーから調製されるもの等のペルフルオロ化ポリオレフィン類、ペルフルオロ化ポリ(アルキルビニルエーテル)、ペルフルオロ化ポリ(アルコキシビニルエーテル)、又はこれらの組み合わせが挙げられる。他のポリマー結合剤には、芳香族、脂肪族、又は脂環式ポリイミド等のポリイミド類、及びポリアクリレート類が挙げられる。ポリマー結合剤は、架橋されてもよい。架橋は、結合剤の機械的特性を向上させることができ、活性材料組成物と存在し得る任意の導電性希釈剤との間の接触を改善することができる。
【0026】
電極組成物は、当業者に周知であろうもの等の添加剤を含有することができる。例えば、電極組成物は、粉末材料からカレントコレクタへの電子移動を容易にするために、導電性希釈剤を含むことができる。導電性希釈剤には、炭素(例えば、負電極用のカーボンブラック、及び正電極用のカーボンブラック、フレークグラファイト等)、金属、金属窒化物類、金属炭化物類、金属ケイ化物類、及び金属ホウ化物類が挙げられるが、これらに限定されない。代表的な導電性炭素希釈剤には、Super Pカーボンブラック及びSuper Sカーボンブラック(両方とも(MMM Carbon、Belgium)より)等のカーボンブラック、Shawanigan Black(Chevron Chemical Co.,Houston,TX)、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、グラファイト、カーボンファイバー及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0027】
また、有用な電極組成物は、活性材料として作用するグラファイトも含むことができる。グラファイトは、活性負電極材料であり、カレンダープロセス中に電極の多孔率を低減するのに更に有用である。有用なグラファイトの例は、MAG−E(Hitachi Chemical Co.Ltd.,Tokyo,Japan)並びにSLP30及びSFG−44(両方ともTIMCAL Ltd.,Bodio,Switzerlandから)である。提供される電極組成物に有用である可能性がある他の添加剤には、粉末材料又は導電性希釈剤の結合剤への接着を促進する接着促進剤、又は電極成分のコーティング溶媒中への分散を促進することができる界面活性剤が挙げられる。
【0028】
負電極を作製するために、所望により、カルボキシメチルセルロース等のコーティング粘度調整剤及び当業者に既知の他の添加剤を含有する負電極組成物は、コーティング分散体又はコーティング混合物を形成するために、水、エタノール、メタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、又はN−メチルピロリジノン等の好適なコーティング溶媒に混合される。分散体は、十分に混合され、次いで、任意の適切な分散体コーティング技術(例えば、ナイフコーティング、ノッチ付きバーコーティング、スロットダイコーティング、ディップコーティング、スプレーコーティング、電気スプレーコーティング、又はグラビアコーティング)によって、金属箔カレントコレクタに適用される。
【0029】
集電体は、典型的には、例えば、銅、ステンレス鋼、又はニッケル箔等の導電性金属類の薄い箔である。スラリーがカレントコレクタ箔上にコーティングされた後、これを乾燥させることができ、通常、溶媒を除去するために、典型的に約80℃〜約300℃に設定された加熱オーブン内で約1時間の乾燥工程が続く。当業者に既知であるように、負電極は、2つのプレート又はローラーの間で押圧することによって圧縮することができる。また、電極は、米国出願公開第2008/0248386号(Obrovacら)に開示されるように、隆起パターンを伴って提供されてもよい。
【0030】
正電極は、例えば、アルミニウムカレントコレクタ上にコーティングされた正電極組成物から、負電極と同様に形成することができる。例示の正電極組成物は、ポリマー結合剤、及びLiV、LiV、LiCo0.2Ni0.8、LiNiO、LiFePO、LiMnPO、LiCoPO、LiMn、LiCoO等のリチウム遷移金属酸化物類、混合金属酸化物類(例えば、コバルト、マンガン、及びニッケルのうちの2つ又は3つ)を含む組成物を含んでもよい。
【0031】
正電極及び負電極は、リチウムイオン電気化学セルを形成するために、電解質と組み合わせることができる。リチウムイオン電気化学セルを製造する方法は、電池技術分野に精通する者に周知であろう。セル内では、電解質は、正電極組成物及び負電極組成物の両方と接触しており、正電極及び負電極は、相互と物理的に接触しておらず、典型的に、それらは、電極の間に挟持されるポリマー分離フィルムによって分離されている。性能の評価に、典型的に、2325コインセルが使用される。それらの構成は、実施例に更に記載される。
【0032】
電解質は、液体、固体、又はゲルであってもよい。固体電解質の例には、ポリエチレンオキシド、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素含有コポリマー、及びこれらの組み合わせ等のポリマー電解質が挙げられる。液体電解質溶媒の例には、エチレンカーボネート、1−フルオロエチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ビニルカーボネート、プロピレンカーボネート、及びこれらの組み合わせが挙げられる。電解質溶媒は、リチウム電解質塩が備わっており、電解質を作製する。好適なリチウム電解質塩の例には、LiPF、LiBF、LiClO、リチウムビス(オキサラト)ボレート、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiAsF、LiC(CFSO、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0033】
本発明の目的及び利点は、以下の実施例によって更に例示されるが、これらの実施例において列挙された特定の材料及びその量は、他の諸条件及び詳細と同様に本発明を過度に制限するものと解釈されるべきではない。
【0034】
実施例
試料の調製
Sn30Co4040、Sn30Fe5020、及びSn40Co4020試料を、低エネルギーローラーミリング(ペブルミル)によって、又は縦軸磨砕ミリング(01−HD磨砕機、Union Process,Akron,OHから入手可能)によって、機械的に合金化した。実施例の開始材料は、CoSn、Co(Sigma−Aldrich、<150μ、99.9+%)、Fe(Alfa Aesar、球形、<10μ、99.5%)、及びグラファイト(Fluka,purum)であった。CoSnを、元素Sn(Sigma−Aldrich、<150μ、99.9+%)及びCoからアーク溶解し、流動アルゴン下で、500℃で24時間のアニーリングが続いた。次いで、アニールした材料を粉末に粉砕した。
【0035】
縦軸磨砕機において、20.5gの反応物質装薬を使用した。700mLのステンレス鋼磨砕缶に、反応物質と共に、直径約1,400 1/4”(0.67cm)のステンレス鋼ボールを装填した。磨砕機を、水冷却ジャケット内に取り付け、ミリング中、約20℃に維持した。缶は、封止カバーを備えており、回転軸は、それを通って突出する。軸は封止し、ベアリングは気密を長期にわたって保つ封止を提供するために社内で修正した。回転軸は、8本の混合アームを有し、それらは、ボール及び反応物質装薬を激しく撹拌した。本明細書に記載される結果のために、軸の角速度を700rpmに設定した。
【0036】
ペブルミルにおいて、30.0gの反応物質装薬を使用した。ペブルミルチャンバの外径は、9.95”(25.3cm)であり、内径(ボールを含有する空洞の直径)は、6.5”(16.5cm)であり、空洞の幅は、1.6”(4.1cm)であった。ペブルミルチャンバは、組み合わさり、Oリングで封止する、2つの同一の円筒形半分を有する。硬化鋼チャンバの内部に、反応物質と共に、直径約2,215 1/4”(0.67cm)のステンレス鋼ボールを装填した。本明細書に記載される結果のために、チャンバの角速度を99rpmに設定した。
【0037】
粉末の取り扱い、並びにペブルミル混合チャンバ及び磨砕缶の両方の装填を、アルゴンが充填されたグローブボックスの内部で実施した。磨砕ミリングによって、ミリング時間が4、8、及び16時間の別個の試料を調製した。ペブルミリングによって調製されたSn30Co4040、Sn30Fe5020、及びSn40Co4020の試料を、様々なミリング時間の後に取得した。そのために、チャンバを、アルゴンが充填されたグローブボックスの内部で開き、そこで、約0.5gの材料を取り出した。次いで、アルゴンが充填されたグローブボックスの内部で、チャンバを再度封止した。
【0038】
電極の調製
電極粉末を、重量比で80%の粉砕粉末、12%のSuper−Sカーボンブラック(MMM Carbon,Belgium)、及びリチウムポリアクリレート(Li−PAA)の溶液を形成するように、LiOH・HO(Sigma−Aldrich,Milwaukee,WI)で中和された、ポリアクリル酸の8%溶液(Alfa−Aesar,Ward Hill,MA,MW 240Kから入手可能)の結合剤で、銅箔上にコーティングした。電極を、使用の前に、90℃で4時間乾燥した。90重量%のエチレンカーボネート(EC):ジエチレンカーボネート(DEC)(1:2v/v、Ferro Chemicals,Zachary,LAから入手可能)、10重量%のフルオロエチレンカーボネート(FEC、Fujian Chuangxin Science and Technology Development,LTP,Fujian,Chinaから入手可能)中の100mLの電解質溶液1MのLiPFを混合し、電解質として使用した。電極コーティングから、2325コインセルで使用するためのディスク(直径13mm)を切り出した。それぞれの2325コインセルは、スペーサ(厚さ34ミル(900μm))として使用するためのステンレス鋼の直径18mmのディスクと、合金電極の直径13mmのディスクと、直径20mmの2つのミクロ孔質セパレータ(CELGARD 2300、Separation Products,Hoechst Celanese Corporation,Charlotte,NCから入手可能)と、直径13mmのリチウム(厚さ0.38mmのリチウムリボン、Aldrich、Milwaukee,WIから入手可能)と、アセンブリ上に200PSI(1.38MPa)の垂直積み重ね圧力を印加するように選択される、ステンレス鋼ベルビルワッシャと、を含有した。コインセルを、アルゴンが充填されたグローブボックス内で組み立てた。
【0039】
電気化学試験プロトコル
全セルについて同じ電気化学試験プロトコルを用いた。粉砕材料の理論上の容量は、Sn及びCのみが活性材料であり、Sn原子毎に4.4Li、及びC原子毎に0.5Liと仮定して計算した。組み立て後、コインセルを開回路(2.7V近く)から0.005Vに放電した。その後、電位を2.5Vまで上昇させてから、再び0.005Vへと下降させた。予測される理論上の容量から前もって計算したように、このサイクルを、C/10レートで、全2サイクル行った。2サイクル終了後のセルについて、C/5レートで0.005V〜1.2Vの放電−充電を多数サイクル行った。
【0040】
Cu標的X線チューブ及び回折ビームモノクロメータを備えた粉末X線回折計を使用する、X線回折によって、上述される方法によって作製された試料からの粉末を観察した。10又は30秒/点で、−0.05度の増分で、20〜60度までのそれぞれのX線走査を収集した。
【0041】
(実施例1)
開始材料としてCoSn、Co、及びグラファイトを使用して、ペブルミリングによって、式、Sn30Co3040の材料を調製した。213時間のペブルミリングの後、粉末のX線回折パターンを測定した。粉末パターンは、大部分の非晶質相、及び約3nm未満の粒径を有する少量のナノ構造のCoSnの小部分の相からなる合金の特性を示した。図1は、磨砕ミリングによって処理された同一の式のものと比較した、実施例1で生産された(ペブルミリングによって調製された)粉末のX線回折結果を示す。
【0042】
(実施例2)
開始材料としてSn、Co、及びグラファイトを使用して、ペブルミリングによって、式、Sn30Co3040の材料を調製した。284時間のペブルミリングの後、粉末のX線回折パターンを測定した。粉末パターンは、大部分の非晶質相、及び約3nm未満の粒径を有する少量のナノ構造のCoSnの小部分の相からなる合金の特性を示した。この試料のX線回折結果を図2に示す。図3は、ペブルミリング及び磨砕ミリングによって、CoSn、Co及びグラファイトから作製された、Sn30Co3040正電極の比容量(mAh/g)対サイクル数を示す。これらの電極を、2325コインセルに組み込み、上述されるようにサイクルを実施した。
【0043】
比較実施例1
開始材料としてSn、Co、及びグラファイトを使用して、磨砕ミリングによって、式、Sn30Co3040を有する材料の調製を試みた。Sn粒子は、合金を形成する代わりに、開始材料から分離し、共に塊に結合した。この方法を使用して、Sn30Co3040合金を作製することはできないという結論が下された。
【0044】
(実施例3)
開始材料としてSn、Fe、及びグラファイトを使用して、ペブルミリングによって、式、Sn30Fe5020の材料を調製した。410時間のペブルミリングの後、粉末のX線回折パターンを測定した。粉末パターンは、非晶質相、及び約3nmの粒径を有するナノ構造のSnFeCの相からなる合金の特性を示した。この材料のX線回折パターンを図4に示す。図5は、実施例3の材料から作製され、2325コインセルに組み込まれた電極のサイクル性能(比容量対サイクル数)を示す。
【0045】
(実施例4)
開始材料としてCoSn、Co、及びグラファイトを使用して、ペブルミリングによって、式、Sn40Co4020の材料を調製した。213時間のペブルミリングの後、粉末のX線回折パターンを測定した。粉末パターンは、非晶質合金の特性を示した。この材料のX線回折パターンを図6に示す。実施例4の材料を使用して作製され、2325電気化学セルにされた電極のサイクル挙動(比容量対サイクル数)を示す。表1は、実施例1〜4の材料から作製されたセルの、20回の放電サイクルの後、及び100回の放電サイクルの後の放電容量を示す。実施例1〜4のサイクル結果は、高容量かつ長いサイクル寿命を有する負電極材料の特性を示した。そのような材料は、リチウムイオン電気化学セル及び電池において有用である。
【0046】
【表1】

【0047】
本発明の範囲及び趣旨から逸脱しない本発明の様々な変更や改変は、当業者には明らかとなるであろう。本発明は、本明細書で述べる例示的な実施形態及び実施例によって不当に限定されるものではないこと、また、こうした実施例及び実施形態は、本明細書において以下に記述する「特許請求の範囲」によってのみ限定されると意図する本発明の範囲に関する例示のためにのみ提示されることを理解すべきである。本開示に引用された全ての参照文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンを実質的に含有しない、ナノ構造の合金粒子を作製する方法であって、ミリング媒体を含有するペブルミル内で、ミルベースをミリングし、前記ナノ構造の合金粒子を用意する工程であって、前記ミルベースが、スズと、炭素又は遷移金属のうちの少なくとも1つとを含み、前記ナノ構造の合金粒子が、寸法が50ナノメートルを超える結晶性ドメインを実質的に含まない、工程を含む、方法。
【請求項2】
前記ペブルミルが、理論上の臨界速度を有し、前記ペブルミルが、前記理論上の臨界速度の50〜140パーセントの範囲の回転速度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ペブルミルが、理論上の臨界速度を有し、前記ペブルミルが、ある温度を有する格納容器壁を有し、前記温度が、100℃以下に維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ミリング時間が、約300時間未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ミリング時間が、約100時間未満である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ミリング媒体が、ステンレス鋼を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記媒体が、約1.3cm未満の平均直径を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記媒体が、約0.70cm未満の平均直径を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記ミルベースが、スズと、炭素と、少なくとも1つの遷移金属と、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記ミルベースが、鉄又はコバルトのうちの少なくとも1つを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ナノ構造の合金粒子が、リチウムイオン電気化学セルにおける負電極組成物で使用するために適合される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
ミリング助剤を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記ミリング助剤が、ステアリン酸を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1に従って作製された負電極組成物を含む、リチウムイオン電気化学セル。
【請求項15】
リチウムイオン電気化学セルのための負電極を作製する方法であって、
ペブルミル内でミルベースをミリングする工程であって、前記ミルベースが、
スズと、
炭素又は遷移金属のうちの少なくとも1つとを含み、前記ナノ構造の合金粒子が、寸法が50ナノメートルを超える結晶性ドメインを実質的に含まない、工程と、
前記ナノ構造の合金粒子を、ポリマー結合剤を含むスラリー中に分散させる工程と、
前記スラリーを金属カレントコレクタ上にコーティングする工程と、を含む、方法。
【請求項16】
前記ナノ構造の合金粒子が、スズと、炭素と、遷移金属と、を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記遷移金属が、鉄及びコバルトのうちの少なくとも1つである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項17に従って作製された負電極を含む、リチウムイオン電気化学セル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−532251(P2012−532251A)
【公表日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−517609(P2012−517609)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【国際出願番号】PCT/US2010/039124
【国際公開番号】WO2011/008410
【国際公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【出願人】(309038971)
【Fターム(参考)】