説明

貧栄養耐性植物の作出方法

【課題】 貧栄養条件下でも生育可能な植物を作出する手段を提供する。
【解決手段】 RSH遺伝子又はppGpp合成酵素をコードする遺伝子を植物体内で過剰発現させることを特徴とする貧栄養耐性植物の作出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貧栄養耐性植物及びその作出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌には、外部環境の変化に応じて遺伝子発現やタンパク質機能を変化させる緊縮応答と呼ばれる機構が存在する。この緊縮応答は、ppGpp(グアノシン4リン酸)という物質によって制御されている。細菌中には、このppGppを合成するRelAやSpoTといったタンパク質が存在する。
【0003】
このRelAやSpoTのホモローグが、シロイヌナズナ、タバコ、イネなどで見つかり(van der BiezenEA et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2000 Mar 28;97(7):3747-52、非特許文献1、Xiong L. et al., Mol Plant Microbe Interact. 2001 May;14(5):685-92)、それらはRSH(RelA/SpoT homoluges)と呼ばれている。RSHの機能については、RelAやSpoTと同様にppGpp合成活性を持つという報告はあるものの(非特許文献1)、その詳細についてはほとんどわかっていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Givens RM et al., J BiolChem. 2004 Feb 27;279(9):7495-504
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
地球上には、窒素やリンが不足するため、植物の生育に適さない土地が多く存在する。このような貧栄養条件下においても生育可能な植物を作出できれば、近年の食料問題の解決に大きく貢献できる可能性がある。
【0006】
本発明は、このような技術的背景の下になされたものであり、貧栄養条件下でも生育可能な植物を作出する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、RSH遺伝子を植物体内で過剰発現させることにより、その植物に貧栄養耐性を付与できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、以下の(1)〜(12)を提供する。
(1)RSH遺伝子を植物体内で過剰発現させることを特徴とする貧栄養耐性植物の作出方法。
(2)RSH遺伝子が、シロイヌナズナRSH1遺伝子、シロイヌナズナRSH2遺伝子、シロイヌナズナRSH3遺伝子、シロイヌナズナRSH4/CRSH遺伝子、タバコRSH1遺伝子、タバコRSH2遺伝子、イネRSH1遺伝子、イネRSH2遺伝子、イネRSH4/CRSH遺伝子、トウガラシRSH遺伝子、又は緑藻クラミドモナスRSH遺伝子であることを特徴とする(1)に記載の貧栄養耐性植物の作出方法。
(3)ppGpp合成酵素をコードする遺伝子を植物体内で過剰発現させることを特徴とする貧栄養耐性植物の作出方法。
(4)以下の(a)〜(c)の遺伝子を植物体内で過剰発現させることを特徴とする貧栄養耐性植物の作出方法、
(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子、
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、植物に貧栄養耐性を付与する機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、植物に貧栄養耐性を付与する機能を有するタンパク質をコードする遺伝子。
(5)以下の(d)〜(f)の遺伝子を植物体内で過剰発現させることを特徴とする貧栄養耐性植物の作出方法、
(d)配列番号3に記載のアミノ酸配列を含み、植物に貧栄養耐性を付与する機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(e)配列番号3に記載のアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、植物に貧栄養耐性を付与する機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(f)配列番号3に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、植物に貧栄養耐性を付与する機能を有するタンパク質をコードする遺伝子。
(6)植物が、シロイヌナズナ、タバコ、トウガラシ、イネ、大豆、トウモロコシ、トマト、ポプラ、スイッチグラス、エリアンサス、又はヤトロファであることを特徴とする(1)乃至(5)のいずれかに記載の貧栄養耐性植物の作出方法。
(7)RSH遺伝子を過剰発現させたことを特徴とする貧栄養耐性植物。
(8)RSH遺伝子が、シロイヌナズナRSH1遺伝子、シロイヌナズナRSH2遺伝子、シロイヌナズナRSH3遺伝子、シロイヌナズナRSH4/CRSH遺伝子、タバコRSH1遺伝子、タバコRSH2遺伝子、イネRSH1遺伝子、イネRSH2遺伝子、イネRSH4/CRSH遺伝子、トウガラシRSH遺伝子、又は緑藻クラミドモナスRSH遺伝子であることを特徴とする(7)に記載の貧栄養耐性植物。
(9)ppGpp合成酵素をコードする遺伝子を過剰発現させたことを特徴とする貧栄養耐性植物。
(10)以下の(a)〜(c)の遺伝子を過剰発現させたことを特徴とする貧栄養耐性植物、
(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子、
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、植物に貧栄養耐性を付与する機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、植物に貧栄養耐性を付与する機能を有するタンパク質をコードする遺伝子。
(11)以下の(d)〜(f)の遺伝子を過剰発現させたことを特徴とする貧栄養耐性植物、
(d)配列番号3に記載のアミノ酸配列を含み、植物に貧栄養耐性を付与する機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(e)配列番号3に記載のアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、植物に貧栄養耐性を付与する機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(f)配列番号3に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、植物に貧栄養耐性を付与する機能を有するタンパク質をコードする遺伝子。
(12)植物が、シロイヌナズナ、タバコ、トウガラシ、イネ、大豆、トウモロコシ、トマト、ポプラ、スイッチグラス、エリアンサス、又はヤトロファであることを特徴とする(7)乃至(11)のいずれかに記載の貧栄養耐性植物。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、植物の生育には適さなかった土地での植物栽培が可能となり、食料問題などを解決できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】窒素欠乏条件下での各シロイヌナズナ株の生育状況を示す図。
【図2】リン欠乏条件下での各シロイヌナズナ株中のアントシアニンの量を示す図。
【図3】リン欠乏条件下での各シロイヌナズナ株の生育状況を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明の貧栄養耐性植物の作出方法は、RSH遺伝子を植物体内で過剰発現させることを特徴とするものである。
【0013】
RSH遺伝子としては、シロイヌナズナRSH3遺伝子を使用できる。この遺伝子の塩基配列を配列番号1に、この遺伝子がコードするアミノ酸配列を配列番号2に示す。RSH遺伝子としては、シロイヌナズナRSH3遺伝子以外の遺伝子を使用することも可能である。RSH遺伝子は既知の遺伝子であり、多くの論文において報告されているので(例えば、van der Biezen EA et al., Proc Natl Acad SciU S A. 2000 Mar 28;97(7):3747-52、Givens RM et al., J BiolChem. 2004 Feb 27;279(9):7495-504、Xiong L. et al., Mol Plant Microbe Interact. 2001 May;14(5):685-92など)、当業者はRSH遺伝子がどのようなものであるか理解することができる。また、多くのRSH遺伝子の配列が公表されており、この遺伝子の系統樹も作成されているので(Givens RM et al., J Biol Chem. 2004 Feb 27;279(9):7495-504)、当業者であれば、シロイヌナズナRSH3遺伝子との相同性などを基づいて、どのようなRSH遺伝子を用いれば、貧栄養耐性植物の作出できる可能性が高いかを知ることができる。
【0014】
RSH遺伝子の具体例としては、シロイヌナズナRSH3遺伝子のほか、シロイヌナズナRSH1遺伝子(accession number NM_178956)、シロイヌナズナRSH2遺伝子(accession number NP_188021.1)、シロイヌナズナRSH4(CRSHとも呼ばれる)遺伝子(accession number NM_112627)、タバコRSH1遺伝子(accession number BAC76004.1)、タバコRSH2遺伝子(accession number AAQ23899)、イネRSH1遺伝子(accession number NP_001050067.1)、イネRSH2遺伝子(accession number BAD38079)、イネRSH4/CRSH遺伝子(accession number AK121808, AK058438, AB298325)、トウガラシRSH遺伝子(accession number AY043214.1)、緑藻クラミドモナスRSH遺伝子(accession number AB073881)などを挙げることができる。これらのRSH遺伝子の中では、種子植物由来のRSH遺伝子を使用するのが好ましい。また、Givensらは、植物のRSH遺伝子を色素輸送配列を持たないRSH1グループ(シロイヌナズナRSH1遺伝子、タバコRSH1遺伝子)と色素輸送配列を持つRSH2グループ(シロイヌナズナRSH2遺伝子、シロイヌナズナRSH3遺伝子、タバコRSH2遺伝子)とに分けているが(Givens RM et al., J Biol Chem. 2004 Feb 27;279(9):7495-504)、本発明においては、RSH2グループを使用するのが好ましい。
【0015】
また、使用するRSH遺伝子は、作出しようとする植物と同種の植物由来のものであってもよく、また、異種の生物由来のものであってもよい。
【0016】
RSHは、ppGpp合成酵素であるRelA/SpoTのホモローグであることから、RSHもppGpp合成酵素である可能性が高い。実際、タバコRSH2には、ppGpp合成活性が確認されている(Givens RM et al., J Biol Chem. 2004 Feb 27;279(9):7495-504)。従って、RSH遺伝子による貧栄養耐性付与は、ppGpp合成酵素の働きによるものである可能性が高い。よって、ppGpp合成酵素遺伝子を過剰発現させることによっても、貧栄養耐性植物を作出できると考えられる。
【0017】
ppGpp合成酵素遺伝子の具体例としては、上述したRSH遺伝子のほか、各種細菌由来のrelA遺伝子及びspoT遺伝子などを挙げることができる。具体的には、大腸菌relA遺伝子(accession number J04039)、大腸菌spoT遺伝子(accession number EFW75905.1)、シアノバクテリアspoT遺伝子(accession number NP_441398.1)、グラム陽性菌relA遺伝子(accession number VC2451), グラム陽性菌spoT遺伝子(accession number VC2710)、グラム陽性菌RelA/SpoT相同遺伝子relV(accession number VC1224)等である。
【0018】
貧栄養耐性植物の作出のために過剰発現させる遺伝子としては、(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子、(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、植物に貧栄養耐性を付与する機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、植物に貧栄養耐性を付与する機能を有するタンパク質をコードする遺伝子を使用することもできる。
【0019】
(b)の遺伝子における「同一性」は、80%以上であればよいが、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上である。なお、本明細書における「同一性」の値は、当業者に公知の相同性検索プログラムを用いて算出することができる。例えば、NCBIの相同性アルゴリズムBLAST(Basic local alignment search tool)においてデフォルト(初期設定)のパラメーターを用いることにより、算出することができる。
【0020】
(c)の遺伝子における「1若しくは数個」とは、通常は、1〜10個であり、好ましくは、1〜5個であり、より好ましくは1〜3個であり、更に好ましくは1個である。
【0021】
(c)の遺伝子における「欠失、置換若しくは付加」には、人為的な変異のほか、個体差、種や属の違いに基づく場合などの天然に生じる変異(mutantやvariant)も含まれる。
【0022】
(b)や(c)の遺伝子は、植物に貧栄養耐性を付与する機能を有するタンパク質をコードする。上述したように、このような機能は、ppGpp合成酵素によるものである可能性が高い。従って、(b)や(c)の遺伝子は、ppGpp合成活性を有するタンパク質をコードするものであってもよい。
【0023】
RSHには、RSHに共通して存在するRelA/SpoTに相同性の高い領域(RelA/SpoT domain)が存在する。シロイヌナズナRSH3のRelA/SpoT domainは、配列番号2における234番目から535番目のアミノ酸配列である(このアミノ酸配列を配列番号3に示す。)。配列番号3に示すアミノ酸配列と同一又は類似の配列を含むタンパク質は、シロイヌナズナRSH3と同様に貧栄養耐性を付与する機能を有する可能性が高い。従って、貧栄養耐性植物の作出のために過剰発現させる遺伝子としては、(d)配列番号3に記載のアミノ酸配列を含み、植物に貧栄養耐性を付与する機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、(e)配列番号3に記載のアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、植物に貧栄養耐性を付与する機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、(f)配列番号3に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、植物に貧栄養耐性を付与する機能を有するタンパク質をコードする遺伝子を使用することもできる。
【0024】
(e)の遺伝子における「同一性」は、80%以上であればよいが、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上である。
【0025】
(f)の遺伝子における「1若しくは数個」とは、通常は、1〜10個であり、好ましくは、1〜5個であり、より好ましくは1〜3個であり、更に好ましくは1個である。
【0026】
(f)の遺伝子における「欠失、置換若しくは付加」には、人為的な変異のほか、個体差、種や属の違いに基づく場合などの天然に生じる変異(mutantやvariant)も含まれる。
【0027】
(d)〜(f)の遺伝子は、植物に貧栄養耐性を付与する機能を有するタンパク質をコードするが、(b)や(c)の遺伝子と同様に、ppGpp合成活性を有するタンパク質をコードするものであってもよい。
【0028】
本発明の貧栄養耐性植物の作出方法では、上述したRSH遺伝子等を植物体内で過剰発現させる。ここで、「過剰発現させる」とは、RSH遺伝子等を、宿主生物中で、遺伝子工学的手法(例えば遺伝子導入)などにより、その宿主生物で通常発現されている量を超える量(例えば10%以上)で発現するように遺伝子操作するか、またはRSH遺伝子等を持たない宿主生物中にRSH遺伝子等を導入して発現させることを意味する。
【0029】
RSH遺伝子等を過剰発現させる手法は特に限定されず、当業者に公知の任意の手法を用いることができる。例えば、RSH遺伝子等を過剰発現用ベクターに組み込み、これを対象とする植物に導入する手法や対象とする植物の内在性のRSH遺伝子等のプロモーターを改変する手法などを用いることができる。
【0030】
過剰発現用ベクターとしては、公知のベクター、例えば、pGWB11をはじめとするpGWBベクター、pCAMBIA1200をはじめとするpCAMBIAベクター、pBI101をはじめとするpBIベクターなどを使用できる。過剰発現用ベクターの植物への導入は、アグロバクテリウム法やパーティクルガンを用いたカルス誘導法など常法に従って行うことができる。
【0031】
対象とする植物は特に限定されないが、高等植物が好ましく、種子植物が特に好ましい。また、単子葉植物、双子葉植物のいずれを対象としてもよい。具体的な植物としては、シロイヌナズナ、タバコ、トウガラシ、イネ、大豆、トウモロコシ、トマト、ポプラ、スイッチグラス、エリアンサス、ヤトロファなどを例示できる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
【0033】
(1)実験方法
シロイヌナズナの野生株(エコタイプColumbia)およびその組換え植物体は、Murashige & Skoog(MS)培地で育てた。リン酸欠乏培地はMS培地中のリン濃度を0.01 mMとした。窒素源を含まないMS培地を窒素欠乏培地とした。シロイヌナズナのrsh2変異体(SAIL CS814119)はABRC種子ストックセンター(http://abrc.osu.edu/ )から、rsh3変異体(GABI 129D02)はGABI-Kat種子ストックセンター(http://www.gabi-kat.de/)から取り寄せた。それらをかけ合わせることで、rsh2rsh3二重変異体を得た。
【0034】
先にサブローニングしたシロイヌナズナのRSH2およびRSH3遺伝子のcDNA(Mizusawa et al. 2008 Planta 228: 553-)を、植物過剰発現用ベクターpGWB11(Nakagawa et al. 2007 J. Biosci. Bioeng. 104: 34-)にそれぞれクローニングした。この反応にはLRクロネーゼ(Invitrogen)を用いた。得られたRSH2およびRSH3過剰発現ベクターをそれぞれシロイヌナズナrsh2rsh3二重変異体にアグロバクテリウムを用いた方法(Bechtold & Pelletier 1998 Methods Mol. Biol. 82: 259-)により導入した。得られたRSH2過剰発現体をRSH2oxと名付けた。RSH3過剰発現体は独立して2ラインとれたので、それらをRSH3ox1, RSH3ox2として解析した。RSH2ox株のRSH2遺伝子のmRNA量は、野生型のそれに比べ約10倍であった(未発表)。RSH3ox1株およびRSH3ox2株のRSH3遺伝子のmRNA量は、野生型のそれに比べ、それぞれ約5倍および約10倍であった(未発表)。
【0035】
各植物体を通常のMS培地で10日間育てた後、リン欠乏培地または窒素欠乏培地に移し、その後10〜20日間育てた植物体の表現型を観察した。リン欠乏条件に移した後10日間育てた植物体のアントシアニン量を測定した。測定法はTicconiらの方法(Ticconi et al. 2001 Plant Physiol. 127: 963-)に従った。
【0036】
(2)実験結果
図1に窒素欠乏条件下での各シロイヌナズナ株の生育状況を示す。図に示すように、RSH3過剰発現株(RSH3ox2株)は、緑色を保ち、窒素欠乏培地でも枯れなかった。
【0037】
なお、RSH2過剰発現株(RSH2ox株)は、葉が変色し、生育状況はよくなかったが、これは直ちにRSH2が貧栄養耐性と無関係であることを示すものではないと考えられる。上記実験方法では、過剰発現をmRNAレベルでしか確認しておらず、タンパク質レベルで確認していないため、RSH2ox株は、実際にはRSH2を過剰発現していなかった可能性があるからである。
【0038】
図2にリン欠乏条件下での各シロイヌナズナ株中のアントシアニンの量を示す。図に示すように、RSH3過剰発現株(RSH3ox1株及びRSH3ox2株)はほとんどアントシアニンを蓄積していなかった。一般に植物は、貧栄養などの環境ストレスを受けた場合にアントシアニンを合成する。従って、図2に示す結果は、RSH3過剰発現株が環境ストレスをほとんど受けなかったことを示している。
【0039】
図3にリン欠乏条件下での各シロイヌナズナ株の生育状況を示す。図に示すように、RSH3過剰発現株(RSH3ox2株)は、リン欠乏条件下でも生育を続けることができた。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明により、貧栄養条件下での植物の栽培が可能となる。このため、本発明は、農業分野などにおいて利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
RSH遺伝子を植物体内で過剰発現させることを特徴とする貧栄養耐性植物の作出方法。
【請求項2】
RSH遺伝子が、シロイヌナズナRSH1遺伝子、シロイヌナズナRSH2遺伝子、シロイヌナズナRSH3遺伝子、シロイヌナズナRSH4/CRSH遺伝子、タバコRSH1遺伝子、タバコRSH2遺伝子、イネRSH1遺伝子、イネRSH2遺伝子、イネRSH4/CRSH遺伝子、トウガラシRSH遺伝子、又は緑藻クラミドモナスRSH遺伝子であることを特徴とする請求項1に記載の貧栄養耐性植物の作出方法。
【請求項3】
ppGpp合成酵素をコードする遺伝子を植物体内で過剰発現させることを特徴とする貧栄養耐性植物の作出方法。
【請求項4】
以下の(a)〜(c)の遺伝子を植物体内で過剰発現させることを特徴とする貧栄養耐性植物の作出方法、
(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子、
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、植物に貧栄養耐性を付与する機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、植物に貧栄養耐性を付与する機能を有するタンパク質をコードする遺伝子。
【請求項5】
以下の(d)〜(f)の遺伝子を植物体内で過剰発現させることを特徴とする貧栄養耐性植物の作出方法、
(d)配列番号3に記載のアミノ酸配列を含み、植物に貧栄養耐性を付与する機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(e)配列番号3に記載のアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、植物に貧栄養耐性を付与する機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(f)配列番号3に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、植物に貧栄養耐性を付与する機能を有するタンパク質をコードする遺伝子。
【請求項6】
植物が、シロイヌナズナ、タバコ、トウガラシ、イネ、大豆、トウモロコシ、トマト、ポプラ、スイッチグラス、エリアンサス、又はヤトロファであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の貧栄養耐性植物の作出方法。
【請求項7】
RSH遺伝子を過剰発現させたことを特徴とする貧栄養耐性植物。
【請求項8】
RSH遺伝子が、シロイヌナズナRSH1遺伝子、シロイヌナズナRSH2遺伝子、シロイヌナズナRSH3遺伝子、シロイヌナズナRSH4/CRSH遺伝子、タバコRSH1遺伝子、タバコRSH2遺伝子、イネRSH1遺伝子、イネRSH2遺伝子、イネRSH4/CRSH遺伝子、トウガラシRSH遺伝子、又は緑藻クラミドモナスRSH遺伝子であることを特徴とする請求項7に記載の貧栄養耐性植物。
【請求項9】
ppGpp合成酵素をコードする遺伝子を過剰発現させたことを特徴とする貧栄養耐性植物。
【請求項10】
以下の(a)〜(c)の遺伝子を過剰発現させたことを特徴とする貧栄養耐性植物、
(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子、
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、植物に貧栄養耐性を付与する機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、植物に貧栄養耐性を付与する機能を有するタンパク質をコードする遺伝子。
【請求項11】
以下の(d)〜(f)の遺伝子を過剰発現させたことを特徴とする貧栄養耐性植物、
(d)配列番号3に記載のアミノ酸配列を含み、植物に貧栄養耐性を付与する機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(e)配列番号3に記載のアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、植物に貧栄養耐性を付与する機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(f)配列番号3に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、植物に貧栄養耐性を付与する機能を有するタンパク質をコードする遺伝子。
【請求項12】
植物が、シロイヌナズナ、タバコ、トウガラシ、イネ、大豆、トウモロコシ、トマト、ポプラ、スイッチグラス、エリアンサス、又はヤトロファであることを特徴とする請求項7乃至11のいずれか一項に記載の貧栄養耐性植物。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−183040(P2012−183040A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49320(P2011−49320)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】