説明

貧血又はH.ピロリ感染に用いる単(鉄ヒドロキシピロン)及び組み合わせ(鉄ヒドロキシピロン及び胃腸炎抑止剤)組成物

患者の血流中の鉄レベルを増大させるため及び/又は鉄欠乏性貧血などの貧血の治療及び/又は予防に用いられる、炎症性消化管疾患を治療及び/又は予防することができる一又は複数の化合物と鉄ヒドロキシピロンとを含む組成物を提供する。また、胃酸欠乏症又はその潜在的リスクを持ち、胃内pHが約4と同等又はそれ以上であるか、又は炎症性消化管疾患を患っている患者に投与するための、鉄ヒドロキシピロンを含む組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄イオンを含む治療用組成物およびその医療上の応用に関する。
【背景技術】
【0002】
人および動物のいずれにおいても、生体への適切な鉄分供給は、組織成長および健康維持にとって重要な要求である。さらに、潜行性の血液損失や体内での鉄分の偏在が見られるようなある種の病的状態においては、体内に蓄えられる鉄分量が低くなる鉄欠乏症およびこれに付随的な慢性貧血の病状が生じ得る。これは、胃潰瘍及び消化性潰瘍、逆流性食道炎、潰瘍性大腸炎、クローン病などの炎症性消化管疾患によく見られる。
【0003】
また、たとえば感染性胃腸炎に起因する、深刻な血液損失をもたらす手術やヘリコバクター・ピロリに関連する手術の術後に貧血が生ずることもある。
【0004】
胃酸欠乏症Achlorhydria(または低塩酸症Hypochlorhydria)は胃腸での胃酸生成が欠乏ないし低下している症状を意味する。胃酸欠乏症は、悪性貧血、自己免疫性胃炎、その他の自己免疫症状(自己免疫性甲状腺疾患など)、深刻な慢性胃炎(特にピロリ菌によって、塩酸を生成する胃壁細胞が破壊されて胃酸欠乏に至る)、ムコリピドーシスIV型(常染色体劣性リソソーム蓄積症)、胃酸の生成または輸送を減少させる制酸剤や薬剤の使用、萎縮性胃炎などの多様の原因によってもたらされる。
【0005】
この明細書に列記または記述される従来技術文献は、必ずしもこれらの文献が技術水準の一部となっており、あるいは一般に公知の技術となっていることを意味するものではない。
【0006】
WO96/41627には、クエン酸などのカルボン酸を含むヒドロキシピロンの鉄イオン錯体が記述されている。この組成物は鉄欠乏性貧血の治療に有効である。
【0007】
ヘリコバクター・ピロリによる感染性胃腸炎を治療するためにある種の金属イオン錯体を使用することがWO98/16218に開示されている。この錯体はFe3+のイオン錯体を含む。しかしながら、患者は酸減少療法で治療されない。
【0008】
WO01/89534には、コバルト塩を使用してピロリ菌由来の感染性胃腸炎を選択的に治療することが記述されている。
【0009】
WO02/24196には、第一鉄塩とヒドロキシピロンの混合物からなる粉末状などの固形組成物が開示され、これを使用して患者の血流中の鉄レベルを増大させ、または胃腸感染を治療及び/又は予防することが記述されている。
【0010】
WO2005/048912には、エンドペルオキシド架橋含有組成物を用いてヘリコバクター・ピロリ関連疾患を治療する方法及び組成物が記述されている。
【0011】
WO03/097627には、鉄ヒドロキシピロンの生成法が開示されている。
【0012】
US2007/0161600には、鉄−炭水化物の錯体で鉄関連病状を治療することが記載されている。
【0013】
胃酸分泌によって鉄分の吸収が促進され、鉄が第一鉄であると吸収がより迅速に行われることが知られている。また、制酸剤が不溶性錯体の生成によって鉄吸収を抑制することも知られている(Martindale、32版1347頁、1999年)。研究によれば、制酸作用を有する薬剤の使用によって吸収が抑制され鉄欠乏を引き起こす可能性があるとされている(Aymardら、Med. Toxicol. Adverse Drug Exp、1988年、第3巻、430−448頁)。これらから、当業者は、制酸剤の存在下においては鉄が胃腸内で効果的に吸収されるものとは考えていなかった(www.numarkpharmacists.com/hn/Drug/Famotidine.html)。
【0014】
鉄分吸収にとっては好ましくない胃腸環境でありながらも貧血を抑えるために鉄分吸収が要求されるような病状は数多く存在する。たとえば、胃炎で高pH(6.5超のような)である場合は、鉄分吸収が低すぎて貧血を効果的に治療することができないであろう。
【0015】
また、ヘリコバクター感染のような症状の治療レジメンは一般に制酸剤の使用を伴う。本発明は、少なくともその一部において、潰瘍、胃炎、呑酸(逆流性食堂炎)などの治療に必要とされるような制酸レジメンがある種の鉄ヒドロキシピロンとせ生体適合性を有し、制酸レジメンの使用にもかかわらず鉄ヒドロキシピロンからの鉄分吸収が有効に行われ得るという、これまで予測できなかった知見に関連するものと考えられる。
【0016】
本発明は、既存の貧血治療が有する問題点の幾つかを緩和することを目的とする。
【0017】
第一の観点における本発明によれば、炎症性消化管疾患を治療及び/又は予防することができる一又は複数の化合物と鉄ヒドロキシピロンとを含む、患者の血流中の鉄レベルを増大させるための組成物が提供される。
【0018】
別の観点によれば、炎症性消化管疾患を治療及び/又は予防することができる一又は複数の化合物と鉄ヒドロキシピロンとを含む、鉄欠乏性貧血などの貧血を予防及び/又は治療するための組成物が提供される。
【0019】
さらに別の観点によれば、炎症性消化管疾患を治療及び/又は予防することができる一又は複数の化合物と、好ましくは鉄が第一鉄の形態である鉄ヒドロキシピロンとの組成物からなる、患者の血流中の鉄レベルを増大させるための組成物ないしパーツキットが提供される。
【0020】
さらに別の観点によれば、炎症性消化管疾患を治療及び/又は予防することができる一又は複数の化合物と、好ましくは鉄が第二鉄の形態である鉄ヒドロキシピロンとの組成物からなり、前記化合物はコバルト塩ではないことを特徴とする、患者の血流中の鉄レベルを増大させるための組成物ないしパーツキットが提供される。該組成物は好ましくは抗生物質ではない。
【0021】
別の観点によれば、胃酸欠乏症を実際に又は潜在的に持つ対象に投与するための鉄ヒドロキシピロンからなる組成物が提供される。
【0022】
本発明の一つの観点によれば、胃内pHが約4又はそれ以上、たとえば5又は6を超える胃内pHを有し、あるいはたとえば約6.5又はそれ以上である対象に投与するための鉄ヒドロキシピロンからなる組成物が提供される。
【0023】
本発明の他の観点によれば、炎症性消化管疾患を持ち又は該疾患に苦しんでおり且つ約4又はそれ以上、たとえば5又は6を超える胃内pHを有し、あるいはたとえば約6.5又はそれ以上である対象に投与するための鉄ヒドロキシピロンからなる組成物が提供される。
【0024】
本発明の一つの観点によれば、炎症性消化管疾患は、ここに定義される胃酸低減(酸分泌抑制)治療レジメンを必要とする。しかしながら、一つの実施形態によれば、該炎症性疾患は、ここに定義される胃酸低減治療レジメンを必要としないこともあり得る。
【0025】
上述の観点のいずれにおいても、鉄ヒドロキシピロン、炎症性疾患及び胃内pH及びこれらの組み合わせは好ましくはここに記述されるものである。
【0026】
本発明の一実施形態において、鉄ヒドロキシピロンは、他の医薬活性成分の不存在下において、すなわちたとえば炎症性消化管疾患を治療及び/又は予防することができる一又は複数の化合物の不存在下において、単独投与される。
【0027】
本発明の一実施形態において、前記組成物及び/又は鉄ヒドロキシピロンは、好ましくは経口投与によってたとえば対象の血液及び/又は体内に入り込んで鉄吸収を行う。
【0028】
好ましくは胃酸低減治療レジメンを必要とする炎症性消化管疾患の例としては、胃潰瘍ないし消化性潰瘍、逆流性食道炎、潰瘍性大腸炎、クローン病、胃炎、ゾリンガーエリスン症候群、呑酸などを挙げることができる。
【0029】
本発明のあらゆる観点又は実施形態において、好ましくは胃酸低減治療レジメンを必要とする炎症性消化管疾患を治療及び/又は予防することができる一又は複数の化合物は、好ましくは、制酸レジメンからなる。制酸レジメンは当業者に良く知られている。たとえば、制酸レジメンは胃潰瘍ないし消化性潰瘍、逆流性食道炎、潰瘍性大腸炎、クローン病、胃炎、ゾリンガーエリスン症候群、呑酸などの炎症性消化管疾患を治療及び/又は予防することができる一又は複数の化合物からなるものであって良い。
【0030】
本発明のあらゆる観点又は実施形態において、消化性潰瘍はとりわけ胃潰瘍であり、貧血はとりわけ鉄欠乏性貧血である。貧血はとりわけここに記述される炎症性消化管疾患に関連するものである。
【0031】
本発明の一実施形態において、貧血は術後の血液損失に起因し、及び/又は、ヘリコバクター・ピロリなどによる感染性胃腸炎に関連する。
【0032】
本発明による前記組成物及び/又はパーツキットは好ましくはヒトに投与される目的のものである。
【0033】
ここに用いられる「対象」の語はとりわけヒトなどの哺乳類をさす。哺乳類には、馬、牛、羊、豚などの家畜動物及び犬、猫、ハムスターなどのペットが含まれる。
【0034】
本発明の一実施形態において、対象には、制酸レジメンまたはここに記述される炎症性消化管疾患を治療及び/又は予防することができる一又は複数の化合物が既に投与され、または将来的に投与され、あるいは現在投与中である。
【0035】
本発明の一実施形態において、炎症性消化管疾患を治療及び/又は予防することができる一又は複数の化合物は制酸レジメンからなる。驚くべきことに、本発明による鉄ヒドロキシピロンは、胃酸が過剰生成される胃腸症状を治療するための制酸セラピー(酸分泌抑制剤)と組み合わせて患者に投与可能であることが分かった。鉄ヒドロキシピロンは、また、胃内pHが該して高い患者、たとえば約4又はそれ以上、中でも5又は6を超える胃内pHを有し、あるいはたとえば約6.5又はそれ以上、たとえば4〜8、4.5〜7.5、5〜6.5あるいは5.5〜6.0の胃内pHを有する患者に投与可能であり、効果的に吸収され得る。高い胃内pHは、たとえば、胃酸欠乏症、ここに記述されるような制酸レジメンの投与、ここに記述されるような炎症性消化管疾患、あるいはこれらの組み合わせが原因となり得る。鉄ヒドロキシピロンの投与は、たとえば経口投与によって鉄吸収を行う目的で使用され、あるいは対象の体内における鉄レベルを維持、すなわち正常な、健康的な、または栄養作用的な鉄分レベルを付与又は維持するために使用される。
【0036】
本発明によれば、鉄ヒドロキシピロンの投与は、炎症性消化管疾患を治療及び/又は予防することができる一又は複数の化合物ないしは制酸セラピーと同時であっても良いし、それ以前または以降であっても良い。一実施形態において、該一又は複数の化合物ないし制酸セラピーと同時またはその後に鉄ヒドロキシピロンが投与される。たとえば、該化合物の投与後1分〜2時間の間に、より好ましくは10分〜1時間後に、さらに好ましくは約30分後に、鉄ヒドロキシピロンが投与される。
【0037】
本発明の一実施形態において、ここに記述されるあらゆる観点又は実施形態において定義される前記組成物は、好ましくは胃酸低減治療レジメンを必要とする炎症性消化管疾患を持ち又は該疾患に苦しんでいるヒト又は動物への投与目的で使用される。たとえば、胃潰瘍ないし消化性潰瘍、逆流性食道炎、潰瘍性大腸炎、クローン病、胃炎、ゾリンガーエリスン症候群、呑酸及び/又は消化性潰瘍などの病症に苦しみ、その治療を必要としているヒトや動物である。
【0038】
本発明の好適な実施形態において、ここに記述されるように、感染性胃腸炎を患うヒトや動物に対して前記組成物が投与される。
【0039】
ここで感染性胃腸炎はいかなる感染症であっても良いが、好適にはヘリコバクター・ピロリによる感染性胃腸炎である。
【0040】
前記一又は複数の化合物ないし制酸レジメンの鉄ヒドロキシピロンに対する好適なモル比は100:1〜1:100であり、好ましくは50:1〜1:50、より好ましくは10:1〜1:10であり、たとえば5:1〜1:5であり、さらには2:1〜1:2である。前記一又は複数の化合物ないし制酸レジメンの鉄ヒドロキシピロンに対する重量比は10:1〜1:10であることが好ましい。
【0041】
制酸レジメンの投与は、ヒト患者に対する治療的又は予防的措置のための通常の用量範囲で良い。本発明の一実施形態において、前記組成物は、ここに記述する実施形態のいずれかにおいて定義されるような病状である場合において、維持療法に適用しても良いし、あるいは炎症性消化管疾患の予防に適用しても良い。したがって、該組成物は、既に発症している病状の所期治療のために使用される該化合物及び鉄ヒドロキシピロンよりも少ない用量で済む。
【0042】
本発明の一実施形態において、前記組成物は、炎症性消化管疾患を治療及び/又は予防することができる一又は複数の化合物ないし制酸セラピーの維持量(maintenance dose)と、鉄ヒドロキシピロンの鉄分としての栄養量(nutritional dose)とからなる。たとえば、該化合物の一日量は400mg未満、たとえば300mg未満、200mg未満あるいは100mg未満とすることができる。該化合物(オメプラゾール、パントプラゾール、ラニチジンなど)の典型的な一日維持量は、一回又は複数回の投与として5〜140mgとすることができ、たとえば10〜100mg、好ましくは20〜50mgである。
【0043】
鉄ヒドロキシピロンの好ましくは一日当たりの適切な栄養量は、たとえば鉄分として40mgまたは60mg未満、たとえば鉄分として5〜20mg、またたとえば約15mg(鉄分として)である。典型的には1〜4週間に亘って投薬を行う。
【0044】
本発明の別の実施形態において、ここに定義されるように、炎症性消化管疾患を治療及び/又は予防することができる一又は複数の化合物は、一又は複数の制酸剤からなる。制酸剤は、酸の中和によって直接的に、あるいは、過剰な酸分泌をもたらす受容体を抑制し又は潜在する病状を治療することなどによって間接的に、酸レベルを低下させる。
【0045】
消化器疾患を治療する組成物として、いわゆるトリプルセラピー(薬併用処置)法において、金属塩と抗生物質とプロトンポンプインヒビター(抗潰瘍剤)とからなるものが知られている。抗生物質と抗潰瘍剤は、ここに記述されるように本発明の組成物に好適に使用される。適切な抗生物質には、たとえば、アモキシシリン、メトロニダゾール、クラリスロマイシン及びこれらの混合剤が含まれる。適切な抗潰瘍剤には、ランゾプラゾール、オメプラゾール、パントプラゾール、ラベプラゾールなどが含まれる。ラニチジン、ファモチジン、ニザチジン、シメチジンなどのH受容体拮抗剤も本発明に用いることができる。オメプラゾールはオメプラゾール・マグネシウム又はナトリウムの形態であっても良い。ラニチジンはラニチジンクエン酸ビスマス又は塩酸ラニチジンの形態であっても良い。
【0046】
本発明のいずれの観点又は実施形態においても、炎症性消化管疾患を治療及び/又は予防することができる一又は複数の化合物ないし制酸剤は、抗潰瘍剤、H受容体拮抗剤、又はアルカリ剤などの酸中和物質、又はこれらの組み合わせ、又はここに定義されるコバルト化合物から選択することができる。「酸中和物質」は製薬上許容される塩を含む。好適な塩の例としては、呑酸の治療に一般的に用いられている炭酸水素ナトリウム(重曹)、水酸化物、酸化物、炭酸塩などが挙げられる。好ましくは、重曹、水酸化物、酸化物又は炭酸塩を、ナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属、マグネシウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属、コバルトなどの遷移金属、またはアルミニウムなどの金属などの製薬上許容されるカチオンと組み合わせて用いる。
【0047】
本発明の一実施形態において、制酸剤は、オメプラゾール、ランゾプラゾール、パントプラゾール、ラニチジン、ファモチジン、ニザチジン、シメチジン、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸コバルト、又はこれらの組み合わせから選択される。
【0048】
本発明のいずれの観点又は実施形態においても、前記組成物は更にアモキシシリン、メトロニダゾール、クラリスロマイシン及びこれらの混合剤を含むことができる。
【0049】
本発明の実施形態又は観点において、炎症性消化管疾患を治療及び/又は予防することができる一又は複数の化合物は好ましくはコバルト化合物を含む。
【0050】
コバルト化合物はコバルト塩であっても良い。コバルト塩の好適な例がWO01/89534に定義されており、その教示をここに参照として取り入れるものとする。コバルト塩は好ましくはコバルト(II)塩である。コバルト(II)塩はコバルト(III)塩とは違って容易に入手可能であり、また、コバルト(III)塩は長期安全性が懸念される。
【0051】
コバルト塩は感染性胃腸炎の部位に(水和した形の)コバルトイオンを与えることができるものでなければならない。コバルト(II)塩などのコバルト塩は、コバルトイオンと過度に強く結合しないアニオンを有することが好ましい。該アニオンは好ましくは強酸(約3,4,5または6より小さいpKa値を有するものなど)のアニオン及び/又は一価である。
【0052】
好適なアニオンは、塩素イオン、グルコン酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、炭酸イオン、水酸化物イオン、酢酸イオン及びこれらの混合(2又はそれ以上のアニオンを含む塩など)である。当然のことであるが、塩素イオン、炭酸イオン、グルコン酸イオン、水酸化物イオン及び酢酸イオンがより好適である。
【0053】
コバルト塩は、好ましくは、錯イオンではないコバルトイオン(たとえば該塩が水溶液中にあるときにはCo(H2O)62+イオンが形成される)を含むか、あるいはコバルトイオンが比較的弱く結合されていて錯体が部分的に溶解して感染部位でH.ピロリ菌などに取り込まれるに適した形態のイオンを与えるような錯体形態のコバルトイオンを含む。
【0054】
あるいは、コバルト化合物はコバルト錯体であっても良い。コバルト錯体を形成する好適なリガンドがWO98/16218に例示されており、その教示をここに参照として取り入れるものとする。好適なコバルト錯体は、たとえば、アスコルビン酸、アスパラギン酸、クエン酸、グルコン酸、ヒスチジン、リンゴ酸、マルトール、グルタミン酸、グルタミン、コハク酸、グルコン酸、酒石酸またはこれらの組み合わせと結合される、好ましくはコバルト(II)塩又はコバルト(III)塩である。
【0055】
本発明の一実施形態において、ここに定義されるように、コバルト化合物は、好ましくは水和形態であるグルコン酸コバルト(II)または塩化コバルト(II)、すなわちグルコン酸コバルト(II)二水和物または塩化コバルト(II)六水和物、またはこれらの組み合わせである。
【0056】
本発明の一実施形態において、コバルト化合物の量は、ヘリコバスター・ピロリに由来する感染性胃腸炎の治療に有効であるように選択され、すなわち、腸管内の他の微生物、特に善玉菌のためのMICより少ない量で存在する。
【0057】
グルコン酸コバルト(II)または塩化コバルト(II)などのコバルト化合物の一日量は好ましくはたとえば100mg(コバルトとして)未満など200mg(コバルトとして)未満であり、たとえば5〜20mg(コバルトとして)など2〜50mgである。
【0058】
一実施形態において、本発明による消化器疾患の治療に必要とされるコバルト塩などの化合物(たとえばコバルト)の量は一日当たりにして1〜50mgの化合物量の範囲内で変化し、より好ましくは一日当たり1〜30mgであり、たとえば一日あたり5mg又は20mg(好ましくはコバルトとして)である。好適な用量は化合物(好ましくはコバルトとして)10mgであり、該用量を一日に2回投薬してこれを数週間(たとえば1〜4週間)続けて感染症を治療する。他の投薬レジメンも本発明方法において適用可能であることが、当業者には理解できるであろう。コバルト化合物は、たとえばWO01/89534に記述されるような緩慢なリリース形態として用いることも可能である。
【0059】
ここで使用する「鉄ヒドロキシピロン」の語はヒドロキシピロンと鉄を含む組成物をすべて包含することを意図している。この語は、たとえば、ヒドロキシピロンとの鉄錯体を第二鉄トリマルトール(ferric trimaltol)や、鉄の塩や錯体などの鉄化合物と好ましくは固形状であるグルコン酸やトリマルトールの第二鉄及び第一鉄などの実質的に非錯形態である(ヒドロキシピロン錯体が10%、5%、2%あるいは1%未満であるような)ヒドロキシピロンとの混合物を包含する。
【0060】
鉄ヒドロキシピロンは好適には第一鉄(Fe2+)または第二鉄(Fe3+)酸化物の形態でイオンを有するものであって良い。あるいは、鉄ヒドロキシピロンは第一鉄と第二鉄の酸化物形態の混合イオンを有するものであっても良い。
【0061】
本発明の一実施形態において、鉄ヒドロキシピロンは第二鉄形態でイオンを有する。他の実施形態において、特に鉄ヒドロキシピロンが粉末状又は錠剤状などの固形状である場合、鉄ヒドロキシピロンは第一鉄形態でイオンを有する。
【0062】
鉄ヒドロキシピロンは好ましくは3−ヒドロキシ−4−ピロンである。好ましいピロンは、3−ヒドロキシ−4−ピロンそれ自体、または環状炭素原子に結合する水素原子の一又は複数が1〜6個の炭素原子の脂肪族炭化水素基で置換された3−ヒドロキシ−4−ピロン、またはコジック酸などの5−ヒドロキシピロンを含む。最も好適なヒドロキシピロンはマルトール(3−ヒドロキシ−2−メチル−4−ピロン)及びエチルマルトールである。あるいはまた、ヒドロキシピロンは、生体内で他のヒドロキシピロンに変換され得る自然産物(メコン酸またはイソマルトールなど)であっても良い。
【0063】
マルトールなどのある種のヒドロキシピロンは市場で入手可能である。他のものについて言えば、多くの場合に適切な出発材料は3−ヒドロキシ−4−ピロンであり、これは2,6−ジカルボキシ−3−ヒドロキシ−4−ピロン(メコン酸)の脱炭酸によって容易に得ることができる。たとえば、3−ヒドロキシ−4−ピロンはアルデヒドと反応させることによって2位置に1−ヒドロキシアルキル基を取り入れることができ、この基は更に還元されて2−アルキル−3−ヒドロキシ−4−ピロンを生成する。この手法を用いて2−エチル−3−ヒドロキシ−4−ピロンなどを調製することが公開された米国特許出願第310141(1960年)に記述されている。他の調製法がSpielman, Freifelder, J. Am. Che. Soc. Vol 69 Page 2908(1947年)に記述されている。
【0064】
前記化合物はその鉄錯体に適用可能な手法はこれらに限定されるものではなく、様々な代替的手法を用いることができることは、当業者であれば理解できるであろう。
【0065】
本発明の一実施形態において、鉄ヒドロキシピロンはヒドロキシピロンとの第二鉄錯体でえある。この第二鉄錯体はヒドロキシピロンに対する1:3モルの錯体である。
【0066】
好ましくは、鉄ヒドロキシピロンは第二鉄マルトール、第二鉄エチルマルトール又はこれらの混合体である。特に好適には第二鉄マルトールは第二鉄トリマルトールである。第二鉄トリマルトールは当業界において知られている任意の方法で調製可能である。好ましくは、第二鉄トリマルトールはWO03/097627に記述されるようにして調整され、その教示をここに参照として取り入れるものとする。
【0067】
本発明の他の実施形態において、鉄ヒドロキシピロンは固形、液体又は液体中の懸架物であり、ここに記述した第一鉄又は第二鉄塩とヒドロキシピロンとの混合物からなる。固形混合物は乾燥状態(すなわち、水などの液体が実質的に存在しないか、混合物中の液体がたとえば10重量%未満、5重量%未満、2重量%未満あるいは1重量%未満)であっても良い。第一鉄塩とヒドロキシピロンとの固形混合物は実質的乾燥条件の下において適度な期間に亘って貯蔵しても安定している。しかしながら、水に溶解させると、この組成物は第一鉄イオンの一部又は全部が酸化して第二鉄イオンに変化する反応を起こす。
【0068】
第一鉄又は第二鉄塩は、製薬上許容されるアニオンとの鉄(II)又は鉄(III)塩であって良い。好ましくは、鉄(II)塩はカルボン酸鉄(II)又はカルボキシル酸鉄(II)である。
【0069】
第一鉄又は第二鉄塩は好ましくはカルボキシル酸鉄(II)又は(III)である。カルボキシル酸鉄(II)は、たとえばグルコン酸鉄(II)、コハク酸鉄(II)、フマル酸鉄(II)及びこれらの混合物の中から選択され得る。カルボキシル酸鉄(III)は好ましくはクエン酸第二鉄、クエン酸第二鉄アンモニウム、酒石酸第二鉄及びこれらの混合物から選択される。
【0070】
本発明のあらゆる観点又は実施形態において、前記化合物(または制酸レジメン)は好ましくは、たとえばグルコン酸コバルト(II)や塩化コバルト(II)などのコバルト化合物であってたとえば100mg未満(コバルトとして)の一日量で用いられるものであり、鉄ヒドロキシピロンはカルボキシル酸鉄(II)又は(III)とマルトール又はエチルマルトールなどのヒドロキシピロンの固形混合物であってたとえば鉄含量として15〜50mgの一日量で用いられるものである。あらゆる本発明実施形態において、該化合物の一日量は好ましくは維持量であり、鉄ヒドロキシピロンの一日量は好ましくはニュートリショナル(すなわち鉄喪失を置換することなどによって体内に貯蔵される鉄レベルを維持すること)である。
【0071】
本発明に従って患者の血流内の鉄レベルを増大させ及び/又は貧血を治療するために用いられる組成物ないしパーツキットは、上述した化合物又は鉄ヒドロキシピロン又はそれらの組み合わせのいずれからなるものであっても良い。
【0072】
特に、該パーツキットは、炎症性消化管疾患を治療及び/又は予防することができる一又は複数の化合物、又は、胃炎、呑酸及び/又は胃潰瘍を治療することができる一又は複数の化合物などからなる制酸剤と、鉄ヒドロキシピロンとを有し、該化合物と鉄ヒドロキシピロンとが別々にパッケージされていて必要に応じて該2つの別個部分の投薬指示があるものとすることができる。これは、化合物と鉄ヒドロキシピロンを一緒に保管できないような場合に適切な形態となり得る。
【0073】
一実施形態において、前記組成物は、炎症性消化管疾患を治療及び/又は予防することができる前記一又は複数の化合物、又は、胃炎、呑酸及び/又は胃潰瘍を治療することができる一又は複数の化合物などからなる前記制酸剤と、前記鉄ヒドロキシピロンとの複合処方形態である。これは、化合物と鉄ヒドロキシピロンとを一緒に保管しても問題ない場合に適切な形態となり得る。
【0074】
本発明の好適な組成物ないしパーツキットにおいて、鉄ヒドロキシピロンは、グルコン酸などのカルボキシル酸鉄(III)とマルトール又はエチルマルトールとを含む固形又は乾燥(すなわち、水などの液体が実質的に存在しないか、混合物中の液体がたとえば10重量%未満、5重量%未満、2重量%未満あるいは1重量%未満)混合物であり、炎症性消化管疾患を治療及び/又は予防することができる前記一又は複数の化合物ないし制酸剤は、グルコン酸コバルト(好ましくはコバルト(II)及び水和物)などのコバルト化合物である。マルトール又はエチルマルトールに対する鉄塩のモル比は好ましくは約1:3である。
【0075】
本発明の更に別の組成物ないしパーツキットにおいて、鉄ヒドロキシピロンは第一鉄トリマルトールであり、炎症性消化管疾患を治療及び/又は予防することができる前記一又は複数の化合物ないし胃炎、呑酸及び/又は胃潰瘍を治療することができる一又は複数の化合物などからなる前記制酸剤は炭酸水素カリウムである。炭酸水素カリウムは固形又は水溶液などの液状で存在し得る。
【0076】
好ましくは、本発明の組成物は、粉末状の鉄ヒドロキシピロンと一又は複数の化合物との混合物からなる粉末状(微粒状及び顆粒状のいずれをも含む)である。鉄ヒドロキシピロンは結晶状、アモルファス状又は他の固形状であっても良いが、好ましくは結晶状である。第一又は第二鉄塩は結晶水を含んでも良く、すなわち水和状態であっても良い。
【0077】
更に別の観点において本発明の組成物は医療用途に用いられ、他の観点においては製薬上許容される希釈剤又は媒体と共に本発明の組成物を有してなる医薬組成物が提供される。
【0078】
本発明はまた、炎症性消化管疾患を治療及び/又は予防することができる前記一又は複数の化合物ないし制酸剤と鉄ヒドロキシピロンとをここに記述されるようにして混合することによって組成物を生成する方法を提供する。混合は固形状又は液状で行うことができる。たとえば、これらの成分は、粉末状や錠剤状などの実質的に乾燥状態、好ましくはその水分量が10重量%未満、5重量%未満、2重量%未満あるいは1重量%未満であるような乾燥状態の固形物であって良い。
【0079】
上述の本発明の観点及び実施形態において、本発明の医薬組成物ないしパートキッツは経口投与に適合し得る。経口投与のための好適な形態は粉末状、錠剤状、カプセル状(ゼラチンカプセルなど)あるいは水性又は非水性液に溶解又は懸濁している形態、水中油型リキッドエマルジョン又は油中水型リキッドエマルジョンである。
【0080】
製薬上許容される希釈剤及び媒体は、たとえば、ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤、メチルセルロース及びプロビドンなどの安定剤及び懸濁剤、ラクトースなどのその他の錠化剤及び賦形剤、エアロジル2000(商標)などの流動性改質剤を含む。特に有用な希釈剤及び媒体は、好ましくは非イオン系又はイオン性界面活性剤であるところの湿潤剤又は界面活性剤である。好適な非イオン性界面活性剤の例を挙げれば、ポリオキシル(10)オレイルエーテル及びポリソルベートである。
【0081】
あるいはまた、この医薬組成物は液体又は液体に懸濁された懸濁物の形で、あるいは経口又は非経口投与の前に再組成される粉状物の形で提供されるもの、座薬として使用するために処方され得るものであっても良い。液状媒体は無菌でパイロジェンフリーであることが好ましく、たとえば生理食塩水及び水である。液体処方は経口又は非経口投与に特に好適である。
【0082】
本発明の医薬組成物は、鉄ヒドロキシピロンや、一又は複数の炎症性消化管疾患を治療及び/又は予防することができる化合物ないし本発明制酸剤を複数含むものであっても良く、また、他の活性化合物が含まれていても良い。使用可能な添加剤の主要なものを例示すれば、ここに記述したものの他、当業者に公知である香料や色剤である。
【0083】
本発明の医薬組成物は、単位当量の形、すなわち単位量を含む各部の形で処方されても良いし、複数回又は分割回当量として処方されても良い。本発明の組成物は、鉄を迅速に放出して体内に適切に吸収されるように処方されることが好ましい。
【0084】
各々の特定の場合において与えられる該組成物の投薬量は該組成物の特定の組成などの様々な要因に依存するものの、指針として言えることは、該組成物の鉄含量としての一日量がたとえば10〜120mg(好ましくは鉄として)のように約1〜150mgの範囲内であるときに、ヒト(又は動物)の体内に存在する鉄量が満足できるレベルに維持されるということである。しかしながら、場合によっては、これらのレベルを下回り又は上回る一日量を与えることが適当であることもあり得る。たとえば、15〜50mgの鉄を含有する組成物を(貧血の程度に応じて)一日に一度、または二度、または三度投与することが貧血の治療に有効である。
【0085】
本発明の組成物は0.1重量%〜20重量%の鉄を含有することが好ましく、たとえば0.1重量%〜10重量%であり、好ましくは2〜10重量%である。
【0086】
本発明の一実施形態によれば、胃酸欠乏症又はその潜在的リスクを持つ対象に投与するために、鉄ヒドロキシピロンと、任意的に、炎症性消化管疾患を治療及び/又は予防することができる一又は複数の化合物とを有する組成物が提供される。
【0087】
この組成物は、患者の血流中の鉄レベルを増大させ、及び/又は、既述した鉄欠乏性貧血などの貧血を予防及び/又は治療するために好適に用いられる。
【0088】
胃酸欠乏症は、既述又は当業者に公知である原因、たとえば悪性貧血、自己免疫性胃炎、その他の自己免疫症状(自己免疫性甲状腺疾患など)、深刻な慢性胃炎(特にピロリ菌によって、塩酸を生成する胃壁細胞が破壊されて胃酸欠乏に至る)、ムコリピドーシスIV型(常染色体劣性リソソーム蓄積症)、ここに記述したような胃酸低減治療レジメンを要求する一又は複数の炎症性消化管疾患を治療及び/又は予防することができる化合物など、胃酸の生成または輸送を減少させる制酸剤や薬剤の使用、萎縮性胃炎などのいずれかに由来する。
【0089】
本発明の一実施形態において、胃酸欠乏症は、胃潰瘍ないし消化性潰瘍、逆流性食道炎、潰瘍性大腸炎、クローン病、胃炎、ゾリンガーエリスン症候群、呑酸などの炎症性消化管疾患に関連し又は由来する。
【0090】
本発明の他の実施形態において、胃酸欠乏症は、ヘリコバスター・ピロリなどを原因とする萎縮性胃炎又は感染性胃腸炎に関連し又は由来する。
【0091】
胃酸欠乏症又はその潜在的リスクを持つ対象に投与するための組成物は、ここに記述した観点又は実施形態のいずれかに定義されるものであって良く、特に、該組成物及び鉄ヒドロキシピロンは上述の実施形態のいずれかに定義されるものであって良い。
【0092】
本発明の一実施形態において、対象はH/KATPアーゼ・プロトンポンプに対する検出可能な抗体を有し、及び/又は、最大ペンタガストリン刺激などの刺激にもかかわらず胃内pHが高い値を維持し、及び/又は、高いガストリン値が検出され、及び/又は、最大酸分泌量が6.9m/モル/時間未満たとえば5.0m/モル/時間未満であるような場合であり得る。
【0093】
本発明の上記観点又は実施形態のいずれにおいても、鉄が吸収されるべき胃環境や消化管などの環境pH、たとえば胃内pHは、鉄吸収を行うために、好ましくは約4以上、中でもたとえば5又は6以上あるいは約6.5以上であり、たとえば4〜8、4.5〜7、5〜6.5又は5.5〜6.0である。したがって、あらゆる観点又は実施形態における前記一又は複数の化合物ないし制酸剤は、鉄吸収のための胃環境や消化管などの環境pH、たとえば胃内pHを、鉄吸収のために又はその前に、約4以上、中でもたとえば5又は6以上あるいは約6.5以上(たとえば4〜8、4.5〜7、5〜6.5又は5.5〜6.0、5〜8、好ましくは6〜7など)にまで増大させ又は増大させることができるように適合されるものとして定義することも可能である。
【0094】
下記の非限定的な実施例によって本発明を実証するが、いかなる意味においてもその範囲を限定するものではない。これら実施例において及びこの明細書を通じて、すべてのパーセント、部及び比は特に明記しない限り重量による。
【実施例1】
【0095】
<患者1>
この患者は制酸剤として炭酸水素カリウムを含有して呑酸を抑制する「Gaviscon(商標)」の服用を続けていた。患者は手術を必要とする胆嚢破裂を患い、血液損失による深刻な貧血に陥っていた。彼は「Gaviscon(商標)」の服用を続けたが、同時に貧血治療のために硫酸第一鉄の錠剤を服用した。彼は深刻な副作用として胃不耐症(gastric intolerance)と激烈な頭痛に陥り、硫酸第一鉄は彼の貧血を治癒することができなかった。彼は「Gaviscon(商標)」の服用を続けながらマルトール及びグルコン酸第一鉄を用いた治療を開始したところ、1ヶ月後に貧血が治癒した(ヘモグロビンが8.8g%から11.8g%に上昇した)。45mgの一日量で彼の鉄分は良好な耐性を示すようになった。
【実施例2】
【0096】
<患者2>
この患者は胃酸分泌を抑止するプロトンポンプ阻害剤であるオメプラゾール「Losec(商標)」を長期間に亘って服用していた。彼は股関節全置換術を受け、そのときに膨大な血液量が失われて鉄欠乏性貧血を起こした。マルトールとグルコン酸第一鉄の毎日15mg投与を開始したところ、彼の貧血(Hb>11.0g%)が完治した。彼は疲れを感じたときにマルトールとグルコン酸第一鉄を「ブースト」として用い続けており、彼のヘモグロビンレベルは常に正常値の低い方に維持されている。
【実施例3】
【0097】
下記は本発明による医薬組成物の一例であり、ゼラチンカプセルへの処方に適している。
組成 量(mg)
グルコン酸第一鉄 240
マルトール 200
グルコン酸コバルト 100
キャリア(ラクトース) カプセルを満たす残部
【実施例4】
【0098】
<方法>
健常女性ボランティア13人について、0.5M炭酸水素ナトリウム溶液(制酸レジメン)で胃内pHを>6.5に調整する処置を施した。ハイデルベルグカプセルを用いてマルトール鉄処方を経口投与して、血中及び全体内への吸収%を測定した。
【0099】
<結果>
マルトール鉄処方10mg投薬量からの鉄吸収は10.72%であった。マルトール鉄処方20mgの場合は8.00%であった。
この吸収レベルは、硫酸第一鉄などの標準的な鉄調剤を通常の胃内pHで投与された健常ボランティアについても予測され得るものである。
【0100】
<研究の結論>
13人の女性対象者を含む研究において、炭酸水素ナトリウム溶液(制酸レジメン)と共にマルトール鉄処方を投与し、胃内pHは6.5を超えていた。驚くべきことに、この高pHにあっても吸収阻害は生じなかった。マルトールの存在によって、鉄欠乏性貧血に関連する胃炎及び高pHという特有の病状について、処方を好適なものとしている。
【0101】
<論考>
この研究によって、本発明による鉄ヒドロキシピロンが高pH(6.5超)においても良好に吸収されることが示された。驚くべきことであるが、この鉄ヒドロキシピロンは、したがって、ヘリコバクター感染症の治療に用いられるような制酸剤の存在下などの高pH環境においても鉄を輸送することができる。すなわち、制酸剤レジメンの存在などによる高pHであっても鉄の可溶性やバイオアベイラビリティが変化することはないと考えられるので、マルトールなどのヒドロキシピロンを含む鉄調剤を用いることには、これまで予期し得なかった利点がある。他の研究によれば、低い投薬量であってもコバルトがヘリコバクター感染の治療において有意的活性を発揮し得ることが示された。これらの結果からして、マルトールを含む鉄製品とコバルトとを同時に処方することがヘリコバクター感染由来の貧血を治療するために特に有用であると思われる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炎症性消化管疾患を治療及び/又は予防することができる一又は複数の化合物と鉄ヒドロキシピロンとを含む、患者の血流中の鉄レベルを増大させるための組成物。
【請求項2】
炎症性消化管疾患を治療及び/又は予防することができる一又は複数の化合物と鉄ヒドロキシピロンとを含む、鉄欠乏性貧血などの貧血を予防及び/又は治療するための組成物。
【請求項3】
前記炎症性消化管疾患が胃酸低減治療レジメンを必要とし、及び/又は、前記一又は複数の化合物又はレジメンが場合によっては約4と同等又はそれ以上、たとえば5や6以上、あるいは6.5以上の胃内pHを与える、請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
好ましくは胃酸低減治療レジメンを必要とする炎症性消化管疾患を好ましくは有するヒト又は動物への投与目的で使用される、請求項1ないし3のいずれか記載の組成物。
【請求項5】
好ましくは感染性胃腸炎を有するヒト又は動物への投与目的で使用される、請求項1ないし4のいずれか記載の組成物。
【請求項6】
感染性胃腸炎がヘリコバクター・ピロリを原因とする、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
好ましくは胃酸低減治療レジメンを必要とする前記一又は複数の炎症性消化管疾患を治療及び/又は予防することができる化合物が制酸剤である、請求項1ないし6のいずれか記載の組成物。
【請求項8】
前記制酸剤がプロトンポンプ阻害剤、H受容体拮抗剤、酸中和物質又はこれらの組み合わせから選ばれる、請求項7記載の組成物。
【請求項9】
前記制酸剤がオメプラゾール、ランゾプラゾール、パントプラゾール、ラニチジン、ファモチジン、ニザチジン、シメチジン、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カルシウム又はこれらの組み合わせから選ばれる、請求項7記載の組成物。
【請求項10】
好ましくは胃酸低減治療レジメンを必要とする前記一又は複数の炎症性消化管疾患を治療及び/又は予防することができる化合物がコバルト化合物である、請求項1ないし6のいずれか記載の組成物。
【請求項11】
前記コバルト化合物がコバルト塩又はコバルト錯体である、請求項10記載の組成物。
【請求項12】
前記コバルト化合物がグルコン酸コバルト(II)または塩化コバルト(II)又はこれらの組み合わせである、請求項10記載の組成物。
【請求項13】
前記鉄ヒドロキシピロンが第二鉄トリマルトールである、請求項1ないし12のいずれか記載の組成物。
【請求項14】
前記鉄ヒドロキシピロンが第一又は第二鉄塩とヒドロキシピロンとからなる好ましくは固形状の混合物である、請求項1ないし12のいずれか記載の組成物。
【請求項15】
前記第一鉄塩がカルボキシル酸鉄(II)である、請求項14記載の組成物。
【請求項16】
前記カルボキシル酸鉄(II)がグルコン酸鉄(II)、コハク酸鉄(II)又はフマル酸鉄(II)から選ばれる、請求項15記載の組成物。
【請求項17】
炎症性消化管疾患を治療及び/又は予防することができる一又は複数の化合物と鉄ヒドロキシピロンとを含み、前記鉄ヒドロキシピロンが第一鉄の形態の鉄を含む、患者の血流中の鉄レベルを増大させるための組成物ないしパーツキット。
【請求項18】
前記化合物がグルコン酸コバルトからなるコバルト塩である、請求項17記載の組成物。
【請求項19】
炎症性消化管疾患を治療及び/又は予防することができる一又は複数の化合物と鉄ヒドロキシピロンとを含み、鉄が第二鉄の形態であるとき該化合物はコバルト塩ではない、患者の血流中の鉄レベルを増大させるための組成物ないしパーツキット。
【請求項20】
前記化合物が酸中和物質である、請求項18記載の組成物。
【請求項21】
前記炎症性消化管疾患が胃酸低減治療レジメンを必要とする、請求項17ないし20のいずれか記載の組成物。
【請求項22】
製薬上許容される希釈剤又は媒体を含み、経口投与に適合する医薬組成物である、請求項1ないし21のいずれか記載の組成物。
【請求項23】
胃酸欠乏症又はその潜在リスクを持つ対象に投与するための、鉄ヒドロキシピロンを含む組成物。
【請求項24】
胃内pHが約4と同等又はそれ以上、たとえば5や6以上、あるいは6.5以上である対象に投与するための、鉄ヒドロキシピロンを含む組成物。
【請求項25】
炎症性消化管疾患を有し、好ましくは胃内pHが約4と同等又はそれ以上、たとえば5や6以上、あるいは6.5以上である対象に投与するための、鉄ヒドロキシピロンを含む組成物。
【請求項26】
対象が胃酸欠乏症又はその潜在リスクを有する、請求項24又は25記載の組成物。
【請求項27】
対象が過去又は将来又は現在において制酸レジメン又は炎症性消化管疾患を治療及び/又は予防することができる一又は複数の化合物の投与を受けている、請求項23ないし26のいずれか記載の組成物。
【請求項28】
炎症性消化管疾患を治療及び/又は予防することができる一又は複数の化合物又は制酸レジメンを更に含む、請求項23ないし26のいずれか記載の組成物。
【請求項29】
前記炎症性消化管疾患が胃酸低減治療レジメンを必要とする、請求項27又は28記載の組成物
【請求項30】
前記組成物が患者の血流中のイオンレベルを増大させるため、及び/又は、鉄欠乏性貧血などの貧血を予防及び/又は治療するために用いられる、請求項23ないし29のいずれか記載の組成物。
【請求項31】
前記胃酸欠乏症が炎症性消化管疾患に関連するものである、請求項23又は26記載の組成物。
【請求項32】
前記胃酸欠乏症がたとえばヘリコバクター・ピロリによる萎縮性胃炎又は感染性胃炎に関連するものである、請求項23又は26記載の組成物。
【請求項33】
請求項3ないし22のいずれかに記載される、請求項23ないし32のいずれか記載の組成物。
【請求項34】
炎症性消化管疾患を治療及び/又は予防することができる一又は複数の化合物又は制酸レジメンと同時又はその前後に鉄ヒドロキシピロンが投与され、好ましくは該一又は複数の化合物又は制酸レジメンと同時又は引き続いて鉄ヒドロキシピロンが投与される、請求項1ないし33のいずれか記載の組成物。
【請求項35】
前記組成物が経口投与される、請求項1ないし34のいずれか記載の組成物。
【請求項36】
前記組成物が鉄吸収のために用いられる、請求項1ないし35のいずれか記載の組成物。
【請求項37】
炎症性消化管疾患を治療及び/又は予防することができる一又は複数の化合物と鉄ヒドロキシピロンを対象に投与するステップを有することにより、患者の血流中の鉄レベルを増大させ及び/又は鉄欠乏性貧血などの貧血を予防及び/又は治療する方法。
【請求項38】
患者の血流中の鉄レベルを増大させ及び/又は鉄欠乏性貧血などの貧血を予防及び/又は治療するための製薬に用いられる、好ましくは胃酸低減治療レジメンを必要とする一又は複数の炎症性消化管疾患を治療及び/又は予防することができる化合物及び鉄ヒドロキシピロンの用途。
【請求項39】
胃酸欠乏症又はその潜在リスクを有する対象に投与するための製薬に用いられる鉄ヒドロキシピロンの用途。
【請求項40】
胃内pHが約4と同等又はそれ以上、たとえば5や6以上、あるいは6.5以上である対象に投与するための製薬に用いられる鉄ヒドロキシピロンの用途。
【請求項41】
炎症性消化管疾患を有し、好ましくは胃内pHが約4と同等又はそれ以上、たとえば5や6以上、あるいは6.5以上である対象に投与するための製薬に用いられる鉄ヒドロキシピロンの用途。

【公表番号】特表2011−520855(P2011−520855A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−509003(P2011−509003)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際出願番号】PCT/GB2009/001231
【国際公開番号】WO2009/138761
【国際公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(510302928)アイアン セラピューティックス ホールディングス アーゲー (1)
【氏名又は名称原語表記】IRON THERAPEUTICS HOLDINGS AG
【住所又は居所原語表記】Sihleggstrasse 23,8832 Wollerau,Switzerland
【Fターム(参考)】