説明

貧酸素化水質環境の改善処理方法及び改善処理装置

【課題】貧酸素化した水質環境に対して酸素を供給することにより、貧酸素抑制又は水質改善するとともに、自然浄化機能の賦活を増補する。
【解決手段】貧酸素化した水中(W)に、ガス透過性膜を用いてチューブ状に形成した中空膜構造体1(以下、隔膜チューブ10)を設置して気液分離する。隔膜チューブ10内に系外から大気導入して静置すると、該ガス透過性膜を介して内側(隔膜チューブ10内)の空気と外側の水(貧酸素水)とは気液平衡状態へ移行する。すなわち、隔膜チューブ10内の大気酸素が酸素濃度の低い(貧酸素化している)水側に自然拡散によって移動し、貧酸素水中(W)に供給される。なお、隔膜チューブ10内へは系外から送気管20(2)を介してフレッシュエアを適宜導入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアレーションその他の酸素富化処理を施す水質環境の改善処理方法に係り、詳しくは、貧酸素化した水質環境に対して酸素を供給することにより、貧酸素抑制又は水質改善するとともに、自然浄化機能の賦活を増補するための貧酸素化水質環境の改善処理方法及び改善処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、湖沼、ため池、修景池、水路、内湾その他の閉鎖性水域で発生する貧酸素化状態を改善するために、エアレーションその他の酸素富化処理を施す水質環境の改善処理方法や装置の提案が知られている(例えば、特許文献1及び2を参照)。
【特許文献1】特開2005−185970号公報
【特許文献2】特開2004−130272号公報
【0003】
上記従来技術は、いずれも水域に垂直方向の流れ場、すなわち上下方向の水循環を作り、成層化ひいては貧酸素化を解消しようとしている。
【0004】
ところで、閉鎖性水域では水の流れが滞りやすく、また夏季には躍層が発達し上下の混合が起こりにくくなる。底層では有機物が堆積しその分解が盛んに行われるため酸素が消費され、極めて溶存酸素量の少ない領域が形成される〔貧酸素水塊〕。
【0005】
このため、以下に列挙した水質環境への負影響が生起することが知られている。
(1)水中や底に生息する生物の大量死が発生する。
(2)底層が嫌気性(還元状態)になることにより硫化水素が発生し魚類の斃死(ヘドロの蓄積へ進行)や悪臭が起こる。
(3)リン等栄養塩類の溶出による富栄養化やアオコの発生が増大する。
(4)Fe,Mn等金属類の溶出により赤水が発生する。
【0006】
こうしたなかで、上記従来技術より前からエアレーション(曝気)による酸素富化処理があった。
【0007】
しかしながら、酸素供給手法としては動的な供給であり、気泡の上昇により水質の悪い底層水や底質の汚染物質を巻き上げてしまい二次汚染を引き起こすという問題がある。また、水面に気泡が現れるため景観を害するという問題もある。
【0008】
また、生態系への影響が看過できない。例えば、過飽和ガスにより魚類にガス病を発生させるおそれがある。底泥の巻き上げも生態系には負影響を及ぼす。
【0009】
さらに、強制的に酸素含有ガス(大気を含む)を圧送するので装置コスト及び運転コスト(エネルギコストを含む)の負担が大きく、気泡が浮上するので酸素の供給ロスも大きいという問題がある。
【0010】
上記従来技術においても動力源を用いるので、装置コスト(運転コスト)は無視できない。また、上下方向(深浅方向)の水循環を推進したからといっても、装置周辺でいわゆるショートサーキットが起こり易く、水平方向(成層方向)への酸素供給については波及効果が小さいものと推認される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする問題点を以下に列挙する。
(1)現場の水(貧酸素水)を動かすことなくソフト(静的又は準静的)な酸素供給を
おこなう。
(2)生態系への影響を極力回避する。
(3)貧酸素水中への酸素供給ロスをなくす。
(4)装置系の運転コストを極力低減して省エネルギを達成する。
(5)景観を害すことがない。
(6)電気その他のエネルギ供給が難しい地域に対しても機動的に適用可能とする(立地条件の緩和)。
【0012】
こうしたなかで、本発明者らは、設備コストやランニングコストの削減(省エネルギを含む。)に関する経済効果と、電気その他のエネルギ供給が難しい地域に対しても機動的に適用可能な立地性を兼備したガス透過性膜を用いた酸素富化処理(隔膜処理に同じ)による貧酸素化水質環境の改善処理技術について調査研究を進めてきた。
【0013】
ここでは、従来的な曝気処理と同程度の処理能力が約束されなければならないが、ガス透過性膜を用いた酸素富化処理(隔膜処理に同じ)により達成可能である。酸素供給効率が良いからである。そして、調査研究の成果物のひとつとして本発明を完成するに至ったものである。
【0014】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、従来的な曝気手段や水循環手段を排してガス透過性膜を用いて酸素供給することにより、上記課題を解消し、貧酸素抑制又は水質改善するとともに、自然浄化機能の賦活を増補することを実現可能とした貧酸素化水質環境の改善処理方法及び改善処理装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
課題を解決するために本発明は、エアレーションその他の酸素富化処理を施す水質環境の改善処理方法において、
貧酸素化した水質環境(以下、貧酸素化水質環境に同じ。)に対して酸素を供給することにより、貧酸素抑制又は水質改善するとともに、自然浄化機能の賦活を増補する貧酸素化水質環境の改善処理方法であって、
貧酸素化水質環境に対してガス透過性膜を用いて気液分離界面を形成し、大気又は酸素含有ガスと貧酸素水との気液間で隔膜接触させ、かつ、該貧酸素水中へ酸素を拡散供給又は浸透供給することを特徴とするものである。
【0016】
また、貧酸素化した水質環境(以下、貧酸素化水質環境に同じ。)に対して酸素を供給することにより、貧酸素抑制又は水質改善するとともに、自然浄化機能の賦活を増補する貧酸素化水質環境の改善処理装置であって、
貧酸素化水質環境下で水中設置され、気液分離界面を隔膜形成するためにガス透過性膜を用いて立体形成した中空膜構造体と、該中空膜構造体の内部空間へ系外から大気又は酸素含有ガスを導入するための酸素源導入手段を具備してなり、
前記中空膜構造体を介して大気又は酸素含有ガスと貧酸素水とを隔膜接触させ、かつ、該貧酸素水中へ酸素を拡散供給又は浸透供給するようにしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の効果に関し、以下に列挙する。いずれも隔膜処理であることの有利性を支持するものである。
【0018】
(1)現場の水(貧酸素水)を動かすことなくソフト(静的又は準静的)に酸素を供給可能であり、水温成層を維持し、水質の悪い底層水及び底質の汚染物質の巻き上げがなく、汚染や悪臭被害が防止できる。
【0019】
(2)気液間での平衡状態の移行により貧酸素水に酸素を供給すると同時に、逆に水中で過剰となった炭酸ガス等は膜を介して気相側に除去されるため、底層水のガス濃度が自然に近い状態で維持され、生態系への影響を極力回避することができる。
【0020】
(3)貧酸素水中への酸素供給ロスがない。
【0021】
(4)酸素源(大気を含む)を導入する際にコンプレッサ等大型の圧送装置は不要であり、装置系の運転コストを極力低減して省エネルギを達成することができる。
【0022】
(5)気泡が発生しないので水面に影響を及ぼすことがなく、景観を害さない。
【0023】
(6)電気その他のエネルギ供給が難しい地域に対しても機動的に適用可能(立地条件を緩和可能)である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の最良実施形態は、図1に改善処理方法の原理的説明図を示すように、上記構成の改善処理方法において、湖沼、ため池、修景池、水路、内湾その他の閉鎖性水域又は水槽内において発生する貧酸素化水質環境Wに対して、ガス透過性膜を用いてマット状、袋状、筒状又はチューブ状(図示の符号10)に立体形成した中空膜構造体10(1)を水中設置するとともに、該中空膜構造体10(1)の内部空間へ系外から大気又は酸素含有ガスを導入するものとしている〔図示の送気管20(2)〕。装置構成例については、後述の実施例1を参照されたい。
【0025】
また、上記構成の改善処理装置において、湖沼、ため池、修景池、水路、内湾その他の閉鎖性水域又は水槽内において発生する貧酸素化水質環境に対する装置構成は、
中空膜構造体が、ガス透過性膜を用いてマット状、袋状、筒状又はチューブ状に立体形成し、かつ、保形支持したものであり、酸素源導入手段が、前記中空膜構造体の内部空間に接続し系外から大気又は酸素含有ガスを給排可能に経路構成したものである。
【0026】
さらに、上記構成の改善処理装置において、水槽内で発生する貧酸素化水質環境に対する装置構成は、中空膜構造体が、水槽の側壁間に膜体管路を貫通形成するとともに、該管路両端を大気開放又は酸素源導入手段に接続して槽内処理環境を創出するものである。 〔後述の実施例2を参照〕。
【0027】
なお、ガス透過性膜は、酸素透過膜であって、公知素材であるシリコン樹脂、及び布帛の表面にシリコン樹脂を被覆したもの等を用いることができる。
【0028】
以下に、好適な中空膜構造体(図1参照)を用いた処理プロセスを要約しておく。
【0029】
貧酸素化した水中(W)に、ガス透過性膜を用いてチューブ状に形成した中空膜構造体1(以下、隔膜チューブ10)を設置して気液分離する。隔膜チューブ10内に系外から大気導入して静置すると、該ガス透過性膜を介して内側(隔膜チューブ10内)の空気と外側の水(貧酸素水)とは気液平衡状態へ移行する。すなわち、隔膜チューブ10内の大気酸素が酸素濃度の低い(貧酸素化している)水側に自然拡散によって移動し、貧酸素水中(W)に供給される。なお、隔膜チューブ10内へは系外から送気管20(2)を介してフレッシュエアを適宜導入する。
【実施例1】
【0030】
本発明の一実施例を添付図面を参照して以下説明する。
【0031】
本発明方法を実施するための技術手段として具体化した装置構成〔以下、第1実施例装置。〕を図2(a)(b)に示す。
【0032】
図示するように、第1実施例装置X1は、貧酸素水域Wに水中設置され、気液分離界面を隔膜形成するためにガス透過性膜を用いて立体形成した中空膜構造体1と、該中空膜構造体1の内部空間へ系外から大気又は酸素含有ガスを導入するための酸素源導入手段2を具備している。
【0033】
中空膜構造体1は、ガス透過性膜を用い筒状又はチューブ状に管路形成した複数の隔膜チューブ111 (膜体管路群)を支持枠体112 により保形支持して酸素供給ユニット11を構成している。
【0034】
酸素源導入手段2は、酸素供給ユニット11(中空膜構造体1)に接続し系外から大気又は酸素含有ガスを給排可能に経路構成したものである〔図示では給排気配管21〕。
【0035】
そして、酸素供給ユニット11(1)を介して大気又は酸素含有ガスと貧酸素水(W)とを隔膜接触させ、かつ、該貧酸素水中(W)へ酸素を拡散供給又は浸透供給するようにしている。
【実施例2】
【0036】
本発明方法を実施するための技術手段として具体化した他の装置構成〔以下、第2実施例装置。〕を図3に示す。
【0037】
図示するように、第2実施例装置X2は、水槽3内で発生する貧酸素水域Wに対して、中空膜構造体1を水槽3の側壁間に架設することにより、槽内処理環境を創出するようにしている。
【0038】
図示の中空膜構造体1は、水槽3の側壁間に貫通形成した膜体管路12であって、該管路12両端を大気開放又は酸素源導入手段〔図示省略〕に接続したものである。
【0039】
参考までに、実験的事実に基づく第2実施例類似装置(実験系)と一般的な水槽(対照系)との効果の対比を表1に示す。なお、実験系で用いた第2実施例類似装置(図示省略)は、第2実施例装置X2の基本構成(図3)に加えて、底泥を敷設し、閉蓋して貧酸素化水質環境(槽内処理環境)を模擬的に創出したものである。
【0040】
【表1】

【0041】
表1から理解されるように、底質は酸化状態に移行し、水の色、臭気、ガスの発生、P濃度、Fe濃度を指標とする水質浄化が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、極めて簡素な手法により低コスト(省エネルギを含む)で実施可能な貧酸素化抑制・改善技術であり、水質浄化処理の分野での新たな処理手法の確立及び技術開発に寄与するものであり、産業上の利用価値が高い。
【0043】
特に、環境対策上、既存のエアレーションや強制循環処理の代替処理法として適用可能であり、コスト削減や環境保全の観点からも有用であり、地域性(立地条件)に係る制限も少ないので利用先が拡大できる等、行政施策としての推進が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】改善処理方法の原理的説明図である。
【図2】第1実施例装置の装置構成説明図である。
【図3】第2実施例装置の装置構成説明図である。
【符号の説明】
【0045】
1 中空膜構造体
10 隔膜チューブ
11 酸素供給ユニット
111 隔膜チューブ(膜体管路群)
112 支持枠体
12 膜体管路
2 酸素源導入手段
20 送気管
21 給排気配管
3 水槽
X1 第1実施例装置
X2 第2実施例装置
W 貧酸素化水質環境(貧酸素水域)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアレーションその他の酸素富化処理を施す水質環境の改善処理方法において、
貧酸素化した水質環境(以下、貧酸素化水質環境に同じ。)に対して酸素を供給することにより、貧酸素抑制又は水質改善するとともに、自然浄化機能の賦活を増補する貧酸素化水質環境の改善処理方法であって、
貧酸素化水質環境に対してガス透過性膜を用いて気液分離界面を形成し、大気又は酸素含有ガスと貧酸素水との気液間で隔膜接触させ、かつ、該貧酸素水中へ酸素を拡散供給又は浸透供給することを特徴とする貧酸素化水質環境の改善処理方法。
【請求項2】
湖沼、ため池、修景池、水路、内湾その他の閉鎖性水域又は水槽内において発生する貧酸素化水質環境に対して、
ガス透過性膜を用いてマット状、袋状、筒状又はチューブ状に立体形成した中空膜構造体を水中設置するとともに、該中空膜構造体の内部空間へ系外から大気又は酸素含有ガスを導入するようにした請求項1記載の貧酸素化水質環境の改善処理方法。
【請求項3】
エアレーションその他の酸素富化処理を施す水質環境の改善処理装置において、
貧酸素化した水質環境(以下、貧酸素化水質環境に同じ。)に対して酸素を供給することにより、貧酸素抑制又は水質改善するとともに、自然浄化機能の賦活を増補する貧酸素化水質環境の改善処理装置であって、
貧酸素化水質環境下で水中設置され、気液分離界面を隔膜形成するためにガス透過性膜を用いて立体形成した中空膜構造体と、該中空膜構造体の内部空間へ系外から大気又は酸素含有ガスを導入するための酸素源導入手段を具備してなり、
前記中空膜構造体を介して大気又は酸素含有ガスと貧酸素水とを隔膜接触させ、かつ、該貧酸素水中へ酸素を拡散供給又は浸透供給するようにしたことを特徴とする貧酸素化水質環境の改善処理装置。
【請求項4】
湖沼、ため池、修景池、水路、内湾その他の閉鎖性水域又は水槽内において発生する貧酸素化水質環境に対する装置構成であって、
中空膜構造体が、ガス透過性膜を用いてマット状、袋状、筒状又はチューブ状に立体形成し、かつ、保形支持したものであり、
酸素源導入手段が、前記中空膜構造体の内部空間に接続し系外から大気又は酸素含有ガスを給排可能に経路構成したものである
請求項3記載の貧酸素化水質環境の改善処理装置。
【請求項5】
水槽内で発生する貧酸素化水質環境に対する装置構成であって、
中空膜構造体が、水槽の側壁間に膜体管路を貫通形成するとともに、該管路両端を大気開放又は酸素源導入手段に接続したものである
請求項3又は4記載の貧酸素化水質環境の改善処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−43882(P2008−43882A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−222192(P2006−222192)
【出願日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【出願人】(591079487)広島県 (101)
【Fターム(参考)】