説明

貫通孔開口縁面取り寸法の良否検査方法と検査治具

【課題】径方向貫通孔の開口縁に面取り部が施された筒状部品を検査対象にして、前記面取り部の面取り寸法が規定範囲内にあるか否かの検査を短時間で信頼性良く行えるようにすることを課題としている。
【解決手段】頭部と胴部と円錐部3cを有する挿入ピン3と、筒状部品20の軸孔21の内径寸法に適合させた外径寸法とピン孔2aとを有する治具本体2からなる測定治具1を使用し、軸孔21に治具本体1を挿入した後、前記部品に設けられた貫通孔22の開口縁の面取り部23に円錐部3cが接する位置まで挿入ピン3を貫通孔22に挿入し、治具本体2の軸孔21からの突出部を基準面11bに当て、この状態で基準面11bから挿入ピン3の頭頂面までの距離L1が規定範囲内にあるか否かを調べて面取り寸法の良否判定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、径方向貫通孔(外径面から内径面に抜ける孔)の開口縁に面取り部が形成された筒状部品を検査対象にして、前記面取り部の面取り寸法が規定範囲内にあるか否かを検査する面取り寸法の良否検査方法とその方法に利用する検査治具に関する。
【背景技術】
【0002】
この発明による検査対象の一例を図8に示す。図示の検査対象、すなわち、筒状部品(図のそれは筒状部品)20は、手動変速機(MT)のシフト用部品であって、軸孔21と、外径面から前記軸孔21に抜ける径方向の貫通孔22を有する。
【0003】
前記貫通孔22の外径面側の開口縁には面取り部23が形成されており、例示の部品については、軸孔21の中心(内径中心)Cからその面取り部23までの寸法(この発明ではこれを面取り寸法と言う)Lを厳しく管理することが要求される。
【0004】
そのために、面取り寸法の良否検査を行っている。その検査は、三次元測定器を使用して軸孔21の中心を求め、その後、面取り部の深さを測定することで面取り部寸法を求めて部品の品質を保証している。
なお、面取り部の深さの測定に関しては、下記特許文献1に開示される段差測定具も提案されている。
【0005】
その特許文献1の段差測定具は、先端がテーパの測定ヘッドを備えた摺動部材をケーシングに挿入しており、ケーシングの先端を測定物の外面(測定基準面)に当接させ、この状態で測定ヘッドのケーシングからの突出部を測定物に設けられた孔に入れてその孔の面取り部に当て、このときの摺動部材のケーシングとの相対基準位置からの摺動量を測定することで測定物の外面からの面取り部深さを求めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平3−23303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
三次元測定器を使った従来法での面取り寸法の良否検査は、部品1個当たりの寸法測定に約10分の時間を費やし、効率が悪い。量産品については、抜き取り検査であっても、1ロット当たりの検査回数が多くなるため、検査に要する時間と労力が無視できないものになる。
【0008】
また、特許文献1に開示された段差測定具は、内径中心から測定物の外面までの距離を測れないため、先に述べた軸孔中心から面取り部までの寸法の測定には利用することができない。
【0009】
そこで、この発明は、上述した面取り寸法の良否検査を短時間で信頼性良く行えるようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、この発明においては、外径面から内径面に抜ける径方向の貫通孔を有し、その貫通孔の外径面側開口縁に面取り部が施される筒状部品を検査対象にして、上記面取り寸法が規定範囲内にあるか否かに関する良否検査を以下のようにして行なう。
すなわち、前記貫通孔の孔径よりも大径の頭部と、前記貫通孔の孔径よりも小径の胴部を有し、さらに、その頭部と胴部との間に前記面取り部のテーパ角よりもテーパ角の小さな円錐部を有する挿入ピンと、
前記軸孔の内径寸法に適合させた外径寸法と前記挿入ピンの胴部を挿入する軸直角なピン孔とを有する治具本体からなる測定治具を使用し、
前記治具本体を前記筒状部品の軸孔に挿入した後、前記円錐部が前記面取り部に接する位置まで前記挿入ピンの胴部を前記貫通孔と前記ピン孔に挿入し、
前記治具本体の前記軸孔からの突出部を基準面に当て、この状態で前記基準面から前記挿入ピンの頭頂面までの距離が規定範囲内にあるか否かを調べて面取り寸法の良否判定を行う。
【0011】
この方法を実施するために、この発明は、前記治具本体と挿入ピンを組み合わせた前掲の測定治具と、水平な基準面を有し、その基準面で前記筒状部品の軸孔に貫通させた前記治具本体を支えるテーブルと、測定子を下に向けたマイクロゲージと、このマイクロゲージを昇降自在に支持するスタンドを備えた貫通孔開口縁面取り寸法の良否検査装置も併せて提供する。
【0012】
この検査装置は、前記治具本体が、自己の軸心に対して平行、かつ、前記ピン孔の軸心に対して垂直な平坦部が外周に形成されたロッドであると好ましい。
【0013】
また、前記ピン孔の孔径を、前記挿入ピンの胴部が適合して挿入される大きさにするもの好ましい。
【発明の効果】
【0014】
この発明の検査方法では、治具本体を当接させた基準面から筒状部品の貫通孔に差し込んだ挿入ピンの頭頂面までの距離が規定範囲内にあるか否かを調べる。その距離は、面取り寸法の実測値を表すわけではないが、前記面取り寸法のばらつきに応じて変動するため、測定した距離を規定値と比較することで面取り寸法の良否判定を行うことができる。
【0015】
面取り寸法のばらつき量が測定した距離の規定値からのずれ量となって表れるため、検査の信頼性も高い。
【0016】
また、この方法は、筒状部品の軸孔に治具本体を挿入した後、筒状部品に設けられた貫通孔から治具本体に設けられたピン孔に前記挿入ピンを挿入し、その後、治具本体が載せられた基準面から前記挿入ピンの頭頂面までの距離を計測すればよいので、作業を簡単かつ、迅速に行える。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明の方法で利用する測定治具の正面図
【図2】図1の測定治具の側面図
【図3】良否検査装置のテーブルとマイクロゲージとゲージスタンドを示す正面図
【図4】筒状部品の軸孔に治具本体を挿入し、さらに、挿入ピンを部品の貫通孔に挿入した状態を示す側面図
【図5】筒状部品とそれに装着した測定治具を良否検査装置のテーブル上にセットした状態を示す正面図
【図6】基準面から挿入ピンの頭頂面までの距離の測定状態を示す図
【図7】面取り部の内端に対する挿入ピンの円錐部の接触状態を拡大して示す図
【図8】(a)測定対象の一例を示す正面図、(b)同上の測定対象の断面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明の検査方法の実施の形態を説明する。図1及び図2に、この発明において面取り寸法の良否検査に利用する測定治具の一例を示す。この測定治具1は、図8に示した筒状部品20を検査対象にしたものであって、治具本体2と挿入ピン3とからなる。
【0019】
治具本体2は、前記軸孔21の内径に適合した外径を有している。また、軸直角なピン孔2aを長手途中の外周に有している。ピン孔2aは、挿入ピン3の挿入が許容される孔である。
【0020】
例示の治具本体2は、所定長さの真直なロッドで構成されており、外周に、自己の軸心に対して平行、かつ、ピン孔2aの軸に対して垂直な平坦部2bを有している。
【0021】
挿入ピン3は、筒状部品20に設けられた貫通孔22の孔径よりも大径の頭部3aと、貫通孔22の孔径よりも小径の胴部3bを有し、さらに、その頭部と胴部の間に円錐部3cを有している。円錐部3cは、後述する理由から、テーパ角αを面取り部23のテーパ角α1よりも小さくしている。
【0022】
この挿入ピン3の胴部3bは、ピン孔2aに挿入可能な大きさになっている。例示の挿入ピン3は、胴部3bの外径をピン孔2aの孔径に適合させており、その胴部3bをピン孔2aに挿入することで挿入ピン3の傾きを阻止することができる。
【0023】
このように構成された測定治具1を使用して筒状部品20の貫通孔開口縁の面取り寸法が要求値を満たしているか否かを検査する。
【0024】
その作業は、好ましくは、図3に示した良否検査装置10を使用して行う。その良否検査装置10は、上述した測定治具1(図3では省略)を含み、その測定治具と、テーブル11と、マイクロゲージ12と、ゲージスタンド13を組み合わせて構成される。
【0025】
テーブル11は、筒状部品20との干渉を避ける空間部(図のそれは溝)11aを中央に有しており、さらに、その空間部11aを間に挟む位置に、空間部11aによって左右に切り離された水平な基準面11bを有している。
【0026】
ゲージスタンド13は、テーブル11を載せるベース13aと、そのベース上に立設された支柱13bと、その支柱で支えた昇降可能なゲージホルダ13cを有しており、マイクロゲージ12がゲージホルダ13cに測定子12aを下に向けた姿勢にして保持される。
【0027】
図示の良否検査装置10を使用した検査は、先ず、図4に示すように、筒状部品20の軸孔21に治具本体2を挿入する。このとき、治具本体2は、両端を軸孔21の外に出し、平坦部2bを貫通孔22の設置点とは正反対側に置く。
【0028】
その後、挿入ピン3の胴部3bを筒状部品20に設けられた貫通孔22に部品外周から挿入し、さらに、貫通孔22を通り抜けた胴部3bの先端側を円錐部3cが面取り部23に当たるまで治具本体2に設けられているピン孔2aに挿入する。
【0029】
また、これと前後して、図6に示すように、ゲージスタンド13のベース13a上にテーブル11を載せ、そのテーブルの基準面11bに測定子12aを接触させてその位置で計測距離が0になるようにマイクロゲージ12を調整する。
【0030】
以上の下準備を終えたら、部品の軸孔21に挿通した治具本体2を、平坦部2bを下にしてテーブル11に載せ、そのテーブルの左右の基準面11bで、図5に示すように、治具本体2の両側を支える。
【0031】
次いで、挿入ピン3が測定子12aの直下にくる位置にテーブル11を移動させ、その位置で図6に示すように、挿入ピン3の頭頂面に測定子12aを当て、平坦部2bを支えたテーブル11の基準面11bから前記頭頂面までの距離L1を測る。
【0032】
円錐部3cは、テーパ角αを面取り部23のテーパ角α1よりも小さくしているので、図7に示すように、面取り部23の内端(貫通孔22の内面との交点)に接触する。そのために、面取り寸法のばらつき量が基準面11bから挿入ピン3の頭頂面までの距離の変動量となって現れる。
【0033】
そこで、その距離が規定範囲内にあるか否かで面取りの良否を判断する。その距離が規定範囲内(予め設定した判定基準の数値の下限以上、上限以下)にあれば面取り寸法は基準を満たしており、一方、その距離が規定範囲外であれば面取り寸法は基準から外れていることになる。
【0034】
なお、例示の測定治具1は、治具本体2の外周に設けた平坦部2bを基準面11bで支えるので治具本体2の載置安定性がよく、検査を正確に安定して行うことができるが、平坦部2bは必須ではない。
【0035】
また、ここでは、検査対象として円筒状の部品を例に挙げたが、角筒状の部品や、軸孔形状が単純や円形や角形でない部品、例えば、曲線の縁と直線の縁が複合されたような軸孔形状を有する異形部品が検査対象であっても発明の目的は達成される。
【実施例】
【0036】
この発明の方法の有効性を評価するために、図8に示した筒状部品20について面取り寸法の良否検査を行った。筒状部品20は、外径:φ24mm、内径:φ16mm、貫通孔直径:φ5mm、面取り部のテーパ角α1:60°であり、面取り寸法Lについて、10±0.3mmの精度が要求される。
【0037】
検査に利用した測定治具は、図1、図2に示したもので、治具本体2は、外径:φ16mm、長さ60mmであり、入口にC面取りを施したφ4.62mmのピン孔2aを長手中央部に有する。
挿入ピン3は、胴部直径:φ4.6mm、胴部長さ:12mm、円錐部長さ:3mm、頭部長さ:8mm、円錐部テーパ角α:58°の諸元である。
【0038】
良否検査装置のマイクロゲージ12とゲージスタンド13は市販品を利用し、テーブル11は専用のものを作成した。
【0039】
その結果、従来は部品1個当たりに約10分を要していた検査が、この発明の方法では約30秒で完了し、作業時間の大幅短縮が図れることを確認した。
【符号の説明】
【0040】
1 測定治具
2 治具本体
2a ピン孔
2b 平坦部
3 挿入ピン
3a 頭部
3b 胴部
3c 円錐部
10 良否検査装置
11 テーブル
11a 空間部
11b 基準面
12 マイクロゲージ
12a 測定子
13 ゲージスタンド
13a ベース
13b 支柱
13c ゲージホルダ
20 筒状部品
21 軸孔
22 貫通孔
23 面取り部
α 円錐部のテーパ角
α1 面取り部のテーパ角
L 面取り寸法
L1 軸孔中心から挿入ピンの頭頂面までの距離
C 軸孔の中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外径面から内径面に抜ける径方向の貫通孔(22)を有し、その貫通孔の外径面側開口縁に面取り部(23)が施された筒状部品(20)を検査対象にして、前記軸孔(21)の中心(C)から前記面取り部(23)までの寸法(L)が規定範囲内にあるか否かを検査する方法であって、
前記貫通孔(22)の孔径よりも大径の頭部(3a)と、前記貫通孔(22)の孔径よりも小径の胴部(3b)を有し、さらに、前記頭部(3a)と胴部(3b)との間に前記面取り部(23)のテーパ角(α1)よりもテーパ角(α)の小さな円錐部(3c)を有する挿入ピン(3)と、
前記軸孔(21)の内径寸法に適合させた外径寸法と前記挿入ピン(3)の胴部(3b)を挿入する軸直角なピン孔(2a)とを有する治具本体(2)からなる測定治具(1)を使用し、
前記治具本体(2)を前記筒状部品の軸孔(21)に挿入した後、前記円錐部(3c)が前記面取り部(23)に接する位置まで前記挿入ピンの胴部(3b)を前記貫通孔(22)と前記ピン孔(2a)に挿入し、
前記治具本体(2)の前記軸孔(21)からの突出部を基準面(11b)に当て、この状態で前記基準面(11b)から前記挿入ピン(3)の頭頂面までの距離(L1)が規定範囲内であるか否かを調べて面取り寸法の良否判定を行う貫通孔開口縁面取り寸法の良否検査方法。
【請求項2】
請求項1に記載の検査方法を実施する検査装置であって、検査対象の筒状部品(20)に設けられた貫通孔(22)の孔径よりも大径の頭部(3a)と、前記貫通孔(22)の孔径よりも小径の胴部(3b)を有し、さらに、前記頭部(3a)と胴部(3b)との間に前記面取り部(23)のテーパ角(α1)よりもテーパ角(α)の小さな円錐部(3c)を有する挿入ピン(3)と、
前記軸孔(21)の内径に適合した外径と前記挿入ピン(3)の胴部(3b)を挿入する軸直角なピン孔(2a)を有する治具本体(2)とからなる測定治具(1)と、
水平な基準面(11b)を有し、その基準面(11b)で前記筒状部品(20)の軸孔(21)に貫通させた前記治具本体(2)を支えるテーブル(11)と、測定子(12a)を下に向けたマイクロゲージ(12)と、このマイクロゲージ(12)を昇降自在に支持するゲージスタンド(13)を備えた貫通孔開口縁面取り寸法の良否検査装置。
【請求項3】
前記治具本体(2)が、自己の軸心と平行であり、前記ピン孔(2a)の軸心に対して垂直な平坦部(2b)が外周に形成されたロッドである請求項2に記載の貫通孔開口縁面取り寸法の良否検査装置。
【請求項4】
前記ピン孔(2a)の孔径を、前記挿入ピンの胴部(3b)が適合して挿入される大きさにした請求項2又は3に記載の貫通孔開口縁面取り寸法の良否検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−242201(P2011−242201A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−113075(P2010−113075)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(593016411)住友電工焼結合金株式会社 (214)
【Fターム(参考)】