説明

貯水排水基盤材とそれを用いた緑化構造体

【課題】貯水排水基盤材Aを用いた人工地盤D上の緑化構造体Cにおいて、貯水排水基盤材Aの貯水用凹部20内の貯水Wが植生用土壌Gに確実に吸い上げられるようにする。
【解決手段】貯水排水基盤材Aとして、堰として機能する周壁10(11、12)で区画された貯水用凹部20内に、天面高さが周壁の天面高さと同じかそれよりも高くされた第1の支柱31と、天面高さが周壁の天面高さよりも低くされた第2の支柱32とを立設したものを用いる。吸水性シートBの上に配置した植生用土壌Gは、該第2の支柱32の近傍で貯水用凹部20内の貯水W中に入り込んだ状態となり、水Wは毛管現象により、植生用土壌Gに吸い上げられる。周壁10の近くでは、貯水Wと吸水性シートBとの間には空気層が形成されるので、毛根の呼吸作用が阻害されることもない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋上緑化などにおいて好適に用いられる貯水排水基盤材と、それを用いた緑化構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、都市緑化の一環として、あるいはヒートアイランド対策として、マンションの屋上面、あるいは地下駐車場や地中貯水池などの地上天井面などである、主にコンクリート造である人工地盤上に植物を植えて緑化することが推奨されている。しかし、コンクリート造である人工地盤は貯水性と排水性を確保するのが困難であり、そのために、人工地盤の上に発泡樹脂などで成形した貯水排水基盤材を配置し、その上に客土や植生マットなどを透水性シートを介して敷き詰めることで、緑化構造体とすることが行われる。
【0003】
特許文献1には、そのような人工地盤の緑化で用いる貯水排水基盤材の一例が記載される。この貯水排水基盤材は発泡樹脂で作られており、堰として機能する周壁で区画された領域内が凹面状の傾斜面とされた領域とされており、該領域が周壁の天面よりも低くなるようにされている。そして、該傾斜面に多数の凹穴が形成され、そこに植生に必要な水が溜まるようになっている。人工地盤の緑化に際しては、人工地盤の上に前記貯水排水基盤材が敷き詰められ、その上に不織布のような透水性シートを掛けるなどしてから、客土を盛土するようにされる。
【0004】
特許文献2には、堰として機能する周壁で区画された貯水用凹部と、貯水用凹部に立設された複数本の支柱とを備える発泡樹脂成形品などからなる貯水排水基盤材が記載されている。そこにおいて、支柱はすべて等しい高さであり、前記周壁と同じかそれよりも高くされている。屋上緑化に際しては、前記特許文献1に記載の貯水排水基盤材と同様に、人工地盤の上にその多数枚が敷き詰められ、その上に不織布のような透水性シートを配置した後、その上に客土層が形成される。
【0005】
特許文献3には、特許文献2に記載される形態の貯水排水基盤材において、貯水用凹部に立設する支柱を、堰として機能する周壁とほぼ同じ高さの支柱と、それよりも高さの高い支柱とで構成したものが記載されている。この貯水排水基盤材の上に配置した透水性シートは、裏面側が高さの違う支柱の頂部で支えられることで、下に凸の湾曲面を形成するようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−225627号公報
【特許文献2】特開2001−169665号公報
【特許文献3】特開2008−212124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載される形状の貯水排水基盤材は、その上に不織布などの透水性シートを配置したときに、透水性シートの裏面全面が貯水排水基盤材の凹面状の傾斜面に密着した姿勢となりがちであり、客土層(あるいは植生マットなど)と貯水排水基盤材との間に空気層を形成することが困難となる。そのために、根への酸素の供給が不十分となって植物の生育に不都合を生ることが起こり得る。
【0008】
特許文献2に記載される形状の貯水排水基盤材では、透水性シートは貯水用凹部に立設した複数本の高さの高い支柱の頂部によって支持されるので、透水性シートの裏面側に空間が形成されやすくなり、客土層(あるいは植生マットなど)と貯水排水基盤材に貯水された水の面との間での通気性が確保される利点がある。それにより、根への酸素の供給は確保される。
【0009】
特許文献3に記載される形状の貯水排水基盤材では、透水性シートは、高さの違う支柱の頂部で裏面から支えられるので、裏面に下に凸の湾曲面を形成することが可能となる。それにより、透水性シートの裏面に沿って水が下流側にそのまま流下してしまうのを防ぐことができ、結果として透水性シートから貯水用凹部への水の落下が確実になる。そのために貯水排水基盤材の貯水用凹部内に十分な貯水量を確保することができるようになる。
【0010】
本発明者らは、この種の貯水排水基盤材を人工地盤の上に敷き詰め、その上に透水性シートを置き、その上に植生マットや客土を配置することで、人工地盤上での緑化構造体を作り、植物の育成を行ってきている。その過程において、特許文献2あるいは3に記載の貯水排水基盤材のように、貯水排水基盤材の貯水用凹部内に立設した複数の支柱の天面によって透水性シートを支持することで、透水性シートの裏面側に根に対する酸素供給用の空間が確保されるようにした貯水排水基盤材を用いた場合、透水性シートの上に載置する植生マットや客土の種類によっては、水の貯水力が十分でなく、雨水や散水した水が貯水排水基盤材の貯水用凹部に短時間で落下してしまい、植生マットあるいは客土中での植物の根に対する給水が不十分となる場合が生じることを経験した。
【0011】
特許文献1に記載の貯水排水基盤材のように、透水性シートの裏面全面を貯水排水基盤材に密着した姿勢とすることで、客土層(あるいは植生マットなど)の水分不足は回避できる。しかし、前記のように、客土層(あるいは植生マットなど)と貯水排水基盤材との間に根に対する酸素供給用の空間を形成することが困難であり、植物の生育に不都合を生じることが起こり得る。そのために、この形態の貯水排水基盤材を用いることでは、前記の問題に対する満足した解決策は得られない。
【0012】
本発明は、前記の問題を解決するのに好適な貯水排水基盤材を提供することを課題とする。具体的には、一方においては、植物の根に対する酸素供給のための空間を確保することができ、他方においては、客土層(あるいは植生マットなど)に生じる恐れのある水分不足を確実に回避することのできる、より改良された貯水排水基盤材を提供することを第1の課題とする。また、その貯水排水基盤材を用いて人工地盤上での緑化を可能とした緑化構造体を提供することを第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明による貯水排水基盤材は、堰として機能する周壁で区画された貯水用凹部と、該貯水用凹部内に立設された複数本の支柱とを少なくとも備える人工地盤上に配置する貯水排水基盤材であって、前記複数本の支柱は、天面高さが前記周壁の天面高さと同じかそれよりも高くされた複数本の第1の支柱と、天面高さが前記周壁の天面高さよりも低くされた1本または複数本の第2の支柱とで構成されていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明による人工地盤上での緑化構造体は、本発明による貯水排水基盤材の1個または複数個が人工地盤上に配置されており、配置された貯水排水基盤材の上に各支柱の天面で下方から支持された状態で透水性シートが取り付けられており、前記透水性シートの上には植生用土壌が配置されている構成を少なくとも備えることを特徴とする。
【0015】
本発明による貯水排水基盤材およびそれを用いた人工地盤上での緑化構造体では、貯水排水基盤材の上に不織布のような透水性シートを配置し、その上に重量物である植生用土壌を置いたときに、透水性シートには、前記第1の支柱の天面で裏面側が支持される領域と、前記第2の支柱の天面で裏面側が支持された領域とが形成される。前者の領域近傍では、透水性シートの裏面と貯水用凹部に貯水される水の水面との間に空間すなわち空気層を確保することができる。一方、後者の領域近傍は、第2の支柱の高さが堰として機能する周壁の天面高さよりも低くされているので、貯水用凹部に貯水された水の中に部分的に入り込んだ状態となる。そのために、当該領域での透水性シート上の植生用土壌(客土あるいは植生マットなど)には、貯水用凹部に貯留されている水が毛細管現象によって直接供給される。また、その水分は、表面張力により、植生用土壌のその他の部分にも移動していく。結果として、植生用土壌には十分な水分補給が可能となり、植生用土壌の物性に左右されることなく、所要の貯水量が確保される。
【0016】
本発明において、前記第1の支柱の天面高さが前記周壁の天面よりも高くされている場合には、透水性シートの裏面と貯水用凹部に貯水されている水の水面との間に形成される空間すなわち空気層を、より広くかつより確実に確保することができる。
【0017】
堰として機能する周壁の天面は平坦面であってもよく、一部に越流用切り欠き部が形成されていてもよい。前者の場合は天面全体が越流面となり、貯水用凹部の水面は該天面高さに規制される。後者の場合は越流用切り欠き部の底面が越流面となり、貯水用凹部の水面は該越流用切り欠き部の底面高さに規制される。貯水排水基盤材内に流入する水量によっては、後者の場合でも周壁の天面全体が越流面となる場合もある。
【0018】
周壁の天面の一部に越流用切り欠き部が形成されている形態の貯水排水基盤材を用いる場合には、第1の支柱の天面高さが周壁の天面高さと同じ場合であっても、透水性シートにおける第1の支柱の天面で裏面側が支持される領域近傍には、所要の空間すなわち空気層が確保される。また、この形態の貯水排水基盤材では、前記第2の支柱の天面高さは、前記した周壁の天面の一部に形成された越流用切り欠き部の底面よりも低い位置であることが好ましい。
【0019】
なお、本発明による貯水排水基盤材は、周壁に囲まれた1つの貯水用凹部から形成されるものでもよく、周壁に囲まれた複数の貯水用凹部が一体に形成されたものでもよい。
【0020】
貯水排水基盤材の一形態では、一部または全部の前記第1の支柱は前記周壁に沿うようにして立設しており、前記第2の支柱は前記第1の支柱が立設している場所よりも内側における貯水用凹部内に立設していることを特徴とする。より好ましい形態では、前記第1の支柱の天面は前記第2の支柱に向けて傾斜する斜面とされていることを特徴とする。
【0021】
これらの形態の貯水排水基盤材では、配置した透水性シートの裏面側を周壁部から内側(第2の支柱側)に向けて滑らかな傾斜面とすることができる。そのために、貯水用凹部内に貯留された水の植生用土壌側への吸水と植生用土壌内での水分の移動をより円滑化することができる。また、前記特許文献3に記載されるように、透水性シートの裏面に沿って水が下流側にそのまま流下してしまうのも防ぐことができ、集水性も向上する。
【0022】
貯水排水基盤材の一形態では、天面高さが前記第1の支柱の天面高さと第2の支柱の天面高さとの間である1本または複数本の第3の支柱をさらに備えることを特徴とする。この形態においても、より好ましくは、前記第3の支柱の天面は前記第2の支柱に向けて傾斜する斜面とされている。これらの形態の貯水排水基盤材では、透水性シートの裏面と貯水用凹部の水面との高さを段階的に調整することができるので、透水性シートの裏面に適切な所望の勾配を設けることが可能となり、貯水用凹部への集水効果と均等な水の吸い上げ効果の双方をより効果的に備えることができる。
【0023】
貯水排水基盤材の一形態では、前記周壁の一部または全部の天面には当該周壁を乗り越えようとする水を排水するための排水溝が形成されていることを特徴とする。この形態のさらに好ましい態様では、前記排水溝には貯水排水基盤材の裏面に貫通する1個または複数個の排水穴が形成される。これらの形態の貯水排水基盤材では、貯水排水基盤材を越流する水を円滑に貯水排水基盤材の裏面側に誘導することができる。そのために、これらの形態の貯水排水基盤材を用いて構築する緑化構造体においては、大雨が降ったときなど、余剰水が多い際に、その余剰水を貯水排水基盤材の裏面側にすみやかに排出することができる。それにより、植生用土壌が流亡するのを効果的に阻止することができる。
【0024】
本発明による緑化構造体の一形態において、前記透水性シートとして防根性能を備えた透水性シートが用いられる。また、他の形態の緑化構造体では、人工地盤の上に耐根シートが敷設されて、その上に前記貯水排水基盤材が設置される。これらの形態の緑化構造体では、植生している植物の根が透水性シートを超えて貯水排水基盤材に達するのを、また植生している植物の根が人工地盤にまで達してしまうのを阻止することができる。
【0025】
本発明において、貯水排水基盤材は、限定はされないが、軽量性や断熱性などの観点から樹脂発泡体の一体成形品、特に、成形性や強度の観点から発泡ポリスチレンの成形品であることが望ましい。しかし、設置の対象となる人工地盤が重量に制限を受けないような場所であるときには、非発泡の合成樹脂、金属、コンクリートやモルタルなどで製造してもよい。
【0026】
本発明において、透水性シートの材料としては、織布、不織布、樹脂繊維による網状物、複数の穴を配列した樹脂シート、金網のようなものが好適であるが、不織布は特に好ましい。前記したように、防根性能を備えた、または何らかの手段により植物の根が通過できないようにした不織布はより好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、植物の根に対する酸素供給のための空間を確保することができ、同時に、植生用土壌層に生じる恐れのある水分不足を確実に回避することのできる、より改良された貯水排水基盤材が得られる。また、本発明による緑化構造体は、根に対する酸素の供給と植生用土壌中の根に対する適切な水分供給の双方が良好に進行することから、植物の育成も良好となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明による貯水排水基盤材の一実施の形態を上面側から見た斜視図(a)と、図1(a)のb−b線による断面図(b)と、図1(a)のc−c線による断面図(c)。
【図2】図1に示す貯水排水基盤材を裏面から見た斜視図。
【図3】図1に示す貯水排水基盤材の上に透水性シートを配置したときの状態を説明する断面図。
【図4】図1に示す貯水排水基盤材を人工地盤の上に配置して緑化構造体とした状態を説明する断面図。
【図5】本発明による貯水排水基盤材の他の形態を説明するための図1(b)に相当する図。
【図6】本発明による貯水排水基盤材のさらに他の形態を説明するための部分図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を実施の形態に基づき説明する。図1および図2は本発明による貯水排水基盤材の一実施の形態を示している。
【0030】
図1および図2に示す貯水排水基盤材Aは、この例では、全体が発泡樹脂(例えば発泡ポリスチレン)の一体成形品であり、一辺が10〜200cm、厚み1〜10cm程度の上面視でほぼ正方形をなす平板材である。貯水排水基盤材Aは、基本的構造として、堰として機能する周壁10と、該周壁10で区画された貯水用凹部20と、該貯水用凹部20内に立設された複数本の支柱30とを備える。周壁10は、貯水排水基盤材Aの外縁を規定する外周壁11と、該外周壁11で囲まれる領域を複数個(図示のものでは9個)の区画に区分する互いに直交する内周壁12とで構成される。それにより、この貯水排水基盤材Aは、外周壁11と内周壁12とでほぼ同じ正方形に区画された9つの貯水用凹部20を備える。周壁10(外周壁11と内周壁12)の天面は平坦面であり、すべて同じ高さとされている。
【0031】
図示しないが、幾つの貯水用凹部20で1つの貯水排水基盤材Aを構成するかは任意であり、外縁を規定する外周壁11のみで囲まれた1つの貯水用凹部20で1つの貯水排水基盤材が形成されていてもよい。また、各貯水用凹部20は正方形以外の形状であってもよく、形状の異なる複数個の貯水用凹部20によって1つの貯水排水基盤材が形成されていてもよい。
【0032】
各貯水用凹部20内には、底面から複数本の支柱30が立設している。支柱30は、周壁10(外周壁11および/または内周壁12)に沿うようにして立設する第1の支柱31と、貯水用凹部20の中央部に立設する第2の支柱32と、第1の支柱31と第2の支柱32の間の領域に立設する第3の支柱33とで構成される。図示される貯水排水基盤材Aにおいて、各貯水用凹部20には、16本の第1の支柱31と、8本の第3の支柱33と、1本の第2支柱32とが、底面から垂直に立設している。
【0033】
図1(a)のb−b線による断面図である図1(b)に示すように、第1の支柱31の天面高さは周壁10の天面高さよりも高く、第2の支柱32の天面高さは周壁10の天面高さよりも低い。また、第3の支柱33の天面高さは第1の支柱31の天面高さと第2の支柱32の天面高さの間の高さとされている。なお、図示の例で、第3の支柱33の天面高さは周壁10の天面高さと等しくされているが、これに限らない。なお、本発明において、支柱30は、基本的に、天面高さが周壁10の天面高さと同じかそれよりも高くされた複数本の第1の支柱31と、天面高さが周壁10の天面高さよりも低くされた1本または複数本の第2の支柱32とを備えていれば、所期の目的は達成可能であり、前記第3の支柱33は、すべて省略することもできる。第2の支柱32の天面高さは、前記したように周壁10の天面高さよりも低いことを条件に任意であり、後に記載するように、その上に設置する植生用土壌に貯水用凹部20内に貯留された水をどの程度の量だけ吸い上げさせるかに応じて、適宜設定すればよい。
【0034】
周壁10において、内周壁12の横幅は外周壁11の横幅よりも広い。そして、各内周壁12の天面の幅方向中央には、排水のための溝13が、各内周壁12の長手方向全長に亘って形成されている。また、該排水溝13は各内周壁12と交差する外周壁11をも貫通している。外周壁11の交差する2つの辺の外側には張り出し部14、14が設けられており、各張り出し部14の上面は、前記排水溝13と同じ幅と深さの第1段部15と、その外側であって第1段部15よりさらに低くされた第2段部16が形成されている。外周壁11の交差する残りの2つの辺の裏面側は、前記第2段部16の厚さと同じ厚さだけ切り欠かれた領域17が全長にわたって形成されている。
【0035】
貯水排水基盤材Aの裏面には、前記周壁10(外周壁11と内周壁12)に対向する位置を避けるようにして、等しい高さの所要数の脚18が形成されている。また、前記各排水溝13と前記各張り出し部14の上面に形成された第1段部15には、裏面に貫通する適数の穴が排水穴19として形成されている。
【0036】
図3は、上記した貯水排水基盤材Aの上に不織布のような柔軟性のある透水性シートBを配置したときの状態を説明する図であり、図1(b)に示す断面位置における状態を示している。透水性シートBの上面全面に荷重が掛かると、透水性シートBは前記した支柱30の天面によって裏面側が支持された状態となる。この例では、透水性シートBは、高さの異なる3種の支柱、すなわち最も高さの高い第1の支柱31、中間の高さの第3の支柱33、最も高さの低い第2の支柱32によって裏面側が支持される。それにより、各貯水用凹部20内において、透水性シートBは、前記周壁10に沿った領域ではもっとも高い位置に支持され、次第に中央に向けて支持位置が低くなっていき、第2の支柱32で支持されている領域近傍で最も低い位置となる。より具体的には、各貯水用凹部20内において、透水性シートBは、周壁10に沿った4周の領域でもっとも高い位置で支持され、中央位置では最も低い位置に支持されることとなる。
【0037】
次に、上記の貯水排水基盤材Aの適数を用いて形成される人工地盤上での緑化構造体Cについて、図4に参照して説明する。図4に示す例において、緑化構造体Cは、人工地盤の一例であるわずかな傾斜角度を持つ屋上躯体Dの上に形成されている。最初に、好ましくは、屋上躯体Dの上に、屋上防水層を植物の根から保護するべく、耐根シート(主にポリエチレンシート、塩化ビニルシート、発泡ポリエチレンシートなど)Eを敷き詰める。その際に、耐根シートのラップ部は十分なラップ距離を確保するか、もしくはテープなどで固定しておく。耐根シートを屋上躯体Dに対して接着剤またはアンカーを用いて固定する。
【0038】
その上に、多数枚の上記貯水排水基盤材Aを縦横方向に配置する。配置した貯水排水基盤材A群の周囲を見切り材Fにより囲い込み、各見切り材Fを適宜の手段により屋上躯体Dに固定することで、配置した貯水排水基盤材A群は安定化する。また、前記したように、各貯水排水基盤材Aは前記構成の張り出し部14を有しており、その第2段部16を隣接する貯水排水基盤材Aの切り欠かれた領域17の下方に差し込むようにして配置することで、隣接して接合している貯水排水基盤材A、Aの接合部には、前記第1段部15による排水溝13が形成される。
【0039】
配置した貯水排水基盤材A群の上に、例えば不織布である透水性シートBを敷き詰める。好ましくは、防根性能を備えた透水性シートを用いる。そして、透水性シートBの上に植生用土壌(客土層あるいは植生マットなど)Gを配置し、植生用土壌Gによって植物Hを植生する。好ましくは、植生用土壌Gの上に、土壌流出防止用の透水性シート(ポリエステル長繊維不織布など)(不図示)を敷設して、貯水排水基盤材Aごとに固定する。
【0040】
植生中に、植生用土壌Gの上から潅水を行う。また、上位に取り付けた給水パイプなどから給水を行う。潅水したあるいは給水した水のうち植生用土壌Gで吸水されなかった水は、植生用土壌Gを通過して貯水排水基盤材Aの貯水用凹部20に落下し、貯水用凹部20内に貯水Wされる。通常、人工地盤である屋上躯体Dなどはわずかに傾斜しており、貯水用凹部20に貯水される水量が多くなると、堰として機能する周壁10(外周壁11と内周壁12)を越流して、傾斜下流側に流出する。また、横方向にも越流する。越流した水は周壁10(外周壁11と内周壁12)の天面に形成された各排水溝13に入り込み、そこから排水穴19を通って、貯水排水基盤材Aの裏面側に速やかに排出される。排出された水は、各貯水排水基盤材Aの裏面に形成した脚18の間の空間を通って、屋上躯体Dの外に排水される。
【0041】
前記したように、本発明による貯水排水基盤材Aを用いることにより、透水性シートBは、各貯水用凹部20内において、周壁10(外周壁11と内周壁12)に沿った4周の領域でもっとも高い位置に支持され、中央位置では最も低い位置に支持されている。そして、前記最も高い位置は堰として機能する周壁10(外周壁11と内周壁12)の天面よりも高く、前記最も低い位置は周壁10の天面よりも低い。そのために、各貯水用凹部20の貯水Wが満水となったときも、あるいは周壁10天面を超えて越流するときも、その水面と透水性シートBの裏面の間には、空気層としての空間が形成される。また、前記のように、透水性シートBの最も低い位置は、常に周壁10の天面よりも低い位置にあるので、その領域では透水性シートBおよび植生用土壌Gは、貯留水に接した状態におかれる。そのために、貯水用凹部20に貯留されている水Wが毛細管現象によって直接、植生用土壌Gに吸い上げられる。また、その水分は、表面張力により、植生用土壌Gのその他の部分にも移動していく。結果として、植生用土壌Gには十分な水分補給が可能となり、植生用土壌Gの物性に左右されることなく、所要の保水量が確保される。よって、本発明による緑化構造体Cは、根に対する酸素の供給と植生用土壌G中の根に対する適切な水分供給の双方が良好に進行するようになり、植物の育成に最適な環境を長期にわたって維持することができる。
【0042】
また、図示のように、透水性シートBの最も低い部分が貯水用凹部20の中央部に位置するように裏面全体が凹曲面をなしていることにより、植生用土壌Gからの余剰水を確実に貯水用凹部20に落とし込むことが可能となる。特に、前記のように第3の支柱33を備える場合には、透水性シートBの裏面全体の凹曲面を滑らかなものにできると共に、その曲面形状も、第3の支柱33の高さを調整することで、最適な形状に調整することができる。
【0043】
図5は、本発明による貯水排水基盤材の他の形態を示している。この貯水排水基盤材A1は、第1の支柱31と第3の支柱33の天面が、第2の支柱32に向けた傾斜面31a、33aとなっている点でのみ、図1に示した貯水排水基盤材Aと相違する。他の構成は貯水排水基盤材Aと同じであり、同じ符号を付すことで説明は省略する。この貯水排水基盤材A1では、配置した透水性シートBの裏面側を周壁部10から内側(第2の支柱32側)に向けて、一層滑らかな傾斜面とすることができる。そのために、貯水用凹部20内に貯留された水Wの植生用土壌G側への吸水と植生用土壌G内での水分の移動をより円滑化することができることに加え、透水性シートBの裏面に沿って水が下流側にそのまま流下してしまうのも、より確実に防ぐことができ、貯水用凹部20への集水性も一層向上する。
【0044】
図6は、本発明による貯水排水基盤材の他の形態の一部を示している。この貯水排水基盤材A2は、周壁10(外周壁11と内周壁12)の一部に越流用切り欠き部40が形成されている点で、前記した貯水排水基盤材A、A1と相違する。そして、第2の支柱32の天面高さは、越流用切り欠き部40の底面よりも低い位置とされている。第1の支柱31と第3の支柱33の天面高さは、周壁10の天面高さと同じかそれよりも高いことを条件に任意である。図示の例では、第1の支柱31と第3の支柱33の天面高さは、周壁10の天面高さと同じ高さとされている。
【0045】
この貯水排水基盤材A2を用いる場合は、貯水用凹部20内に貯留している水は、越流用切り欠き部40の底面部分から越流する。すなわち、越流用切り欠き部40内の貯留水の水面高さは、越流用切り欠き部40の底面の高さに依存する。しかし、貯水排水基盤材A2において、第2の支柱32の天面高さは越流用切り欠き部40の底面よりも低い位置とされているので、貯水排水基盤材A2を用いた緑化構造体においても、根に対する酸素の供給と植生用土壌G中の根に対する適切な水分供給の双方を同時に満足することができる。
【符号の説明】
【0046】
A、A1、A2…貯水排水基盤材、
B…透水性シート、
C…人工地盤上での緑化構造体、
D…人工地盤としての屋上躯体、
E…耐根シート、
F…見切り材、
G…植生用土壌(客土層あるいは植生マットなど)、
H…植生植物、
W…貯留水、
10…周壁、
11…外周壁、
12…内周壁、
13…排水溝、
18…裏面の脚部、
19…排水穴、
20…貯水用凹部、
30…支柱、
31…第1の支柱、
32…第2の支柱、
33…第3の支柱。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
堰として機能する周壁で区画された貯水用凹部と、該貯水用凹部内に立設された複数本の支柱とを少なくとも備える、人工地盤上に配置する貯水排水基盤材であって、前記複数本の支柱は、天面高さが前記周壁の天面高さと同じかそれよりも高くされた複数本の第1の支柱と、天面高さが前記周壁の天面高さよりも低くされた1本または複数本の第2の支柱とで構成されていることを特徴とする貯水排水基盤材。
【請求項2】
一部または全部の前記第1の支柱は前記周壁に沿うようにして立設しており、前記第2の支柱は前記第1の支柱が立設している場所よりも内側における貯水用凹部内に立設していることを特徴とする請求項1に記載の貯水排水基盤材。
【請求項3】
前記第1の支柱の天面は前記第2の支柱に向けて傾斜する斜面とされていることを特徴とする請求項1または2に記載の貯水排水基盤材。
【請求項4】
天面高さが前記第1の支柱の天面高さと第2の支柱の天面高さの間である1本または複数本の第3の支柱をさらに備えることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の貯水排水基盤材。
【請求項5】
前記第3の支柱の天面は前記第2の支柱に向けて傾斜する斜面とされていることを特徴とする請求項4に記載の貯水排水基盤材。
【請求項6】
一部または全部の前記周壁の天面には当該周壁を乗り越えようとする水を排水するための排水溝が形成されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の貯水排水基盤材。
【請求項7】
前記排水溝には貯水排水基盤材の裏面に貫通する1個または複数個の排水穴が形成されていることを特徴とする請求項6に記載の貯水排水基盤材。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか一項に記載の貯水排水基盤材の1個または複数個が人工地盤上に配置され、配置された貯水排水基盤材の上に前記各支柱の天面で下方から支持された状態で透水性シートが取り付けられ、前記透水性シートの上には植生用土壌が配置されている構成を少なくとも備えることを特徴とする人工地盤上での緑化構造体。
【請求項9】
前記透水性シートとして防根性能を備えた透水性シートを用いることを特徴とする請求項8に記載の緑化構造体。
【請求項10】
人工地盤の上に耐根シートが敷設されており、その上に前記貯水排水基盤材が設置されていることを特徴とする請求項8または9に記載の緑化構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−254023(P2012−254023A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127365(P2011−127365)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】