説明

貯水槽用の弾性補強支柱及びそれを用いる貯水槽の弾性補強構造

【課題】老朽化した地下埋設のコンクリート製の貯水槽をその内部で効果的に補強して貯水槽の使用期間を延長させる。
【解決手段】コンクリート製の貯水槽2の内部3に立設状態に収容されて貯水槽2をその内部で補強するために用いる弾性補強支柱1である。支柱本体5の下部に、貯水槽2の底版部7に設置される下部支持部9が設けられると共に、支柱本体5の上部に、貯水槽2の頂版部11を下方から支持する上部支持部12が設けられている。上部支持部12は、支柱本体5の軸線方向で弾性伸縮可能な弾性伸縮部13を有する。弾性補強支柱1は、頂版部11を、その弾性域の範囲で下方から弾性的に支持した状態で貯水槽2を補強する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、老朽化した地下埋設のコンクリート製防火水槽等のコンクリート製貯水槽をその内部で効果的に補強して該貯水槽の使用期間を延長させ得る貯水槽用の弾性補強支柱に関するものであり、又、これを用いる貯水槽の弾性補強構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば構築後50年程度を経過して老朽化したコンクリート製防火水槽等、老朽化した地中埋設の既存のコンクリート製貯水槽は、当時の緩い設計基準や設定荷重で構築されていて鉄筋量が少なく元々強度が弱かったことに加え、経年変化による内部鉄筋の腐食もあって、耐力低下が生じていた。取り分け道路下に設置された貯水槽にあっては、通過車両の大型化による疲労に伴ってひび割れが進行しており、貯水槽の頂版部や側壁部が破損する恐れも高かった。そしてこれらの老朽化貯水槽は、特に地震発生時において、その頂版部が下に向けて円弧状に大きく撓む場合が生じ、この撓みによって、地震時の作用荷重によるひび割れが生じ、ひび割れによる漏水に伴って災害時に必要な貯水がないという不安も抱えていた。又ときには、かかるひび割れに起因して頂版部や側壁部の破損が一気に生じて貯水槽が陥没し、貯水槽上部の道路が使用できなくなる事態を招来することともなった。
【0003】
そこで、このような老朽化貯水槽については、これを取り壊して新規に構築するのが一般的であったが、近年、施工経済の面から、老朽化貯水槽に適宜の補強を施した上で更に長期間に亘って使用できるようにして欲しいとの要望がでてきている。
【0004】
そのための補強構造の一例として、ひび割れ等のコンクリートの欠陥箇所に断面修復等の補修を行なった後に、繊維補強シートを貯水槽の内面に貼り付けて補強する補強構造が特許文献1で提案されている。しかし、繊維補強シートは非常に高価であるために施工コストの大幅な上昇を招く問題があったばかりか、湿度の高い環境下でコンクリート面にエポキシ樹脂等の接着剤を塗布して繊維補強シートを固定しなければならないことから施工品質にも不安があった。又、繊維補強シートを貼り付けた後の接着剤の養生期間が必要であって工期を短縮できなかった。加えてこの種の貯水槽は、現場打ち施工によるものであって、板材を並べて形成した型枠にコンクリートを打設して構築していたが、その型枠に段差や歪みが生じていたため、補強シートをコンクリート面に貼り付ける際には段差の修復施工を余分に行なわなければならない等、現場での微調整を要した。このように、繊維補強シートを貼り付ける補強構造には、相当な労力とコストを要したばかりか工期が長引き、又、施工品質にも不安がある等、種々の課題が残されていた。
【0005】
又、老朽化したコンクリート製貯水槽を支柱を用いて貯水槽の内部で補強せんとする補強構造として特許文献2記載のものが提案されている。この補強構造は図36〜37に示すように、老朽化した貯水槽pを、該貯水槽pの底版部bの上面cで立設された1本乃至複数本の鋼製の支柱aを用いてその上端部uで頂版部dを下方から支持して補強する構成のものであった。このように、老朽化した貯水槽pをその内部で補強する場合は、貯水槽pをその外部で補強するのとは異なり、掘削が不要で交通遮断をしなくてもよく、老朽化貯水槽の補強施工を簡易に行なうことができる利点があった。
【0006】
この補強構造をより具体的に説明する。前記支柱aは、図37に示すように、前記底版部bの上面cから前記頂版部dの下面eまでの貯水槽内空高さよりも低く、該底版部bの上面cに形成する補強コンクリート部fの上面gから前記頂版部dの下面eまでの補強後の貯水槽内空高さよりも高い高さに設定されている。そして該支柱aを立設するに際しては、該支柱aの上端hを、上フランジjを介して前記頂版部dの下面eに所定本数のボルトkで固定すると共に、該支柱aの下フランジmを、前記底版部bの上面cに該上面cから離間させた位置で所定本数のボルトnで固定し、且つ、前記補強コンクリート部fで前記下フランジmを巻いていた。
【0007】
かかる支柱aを用いる前記補強構造によるときは、特許文献2の記載によれば、上載荷重が作用する貯水槽の頂版部dを支柱aによって貯水槽の底版部bで支持できるため、頂版部dに作用する曲げ応力を低減でき、老朽化した地下埋設の貯水槽を内部で効果的に補強でき、これによって、貯水槽の耐力を向上させて貯水槽の破損を抑制でき、老朽化貯水槽の使用期間を延長させ得ることに寄与できる、とされている。
【0008】
しかしながら、補強の対象となる貯水槽が、例えば構築後50年程度経過している老朽化したコンクリート製貯水槽である場合は、特許文献2記載の補強構造によっても所要の補強効果を達成できない場合があった。このような場合についてより具体的に説明する。老朽化した貯水槽に対して補修や補強を行なう場合は、それに先立って、貯水槽内の水を抜いて各部の部材厚さや劣化状態、鉄筋量等の調査を行なうのであるが、これらの古い貯水槽にあっては、通常設計図が残っていない。そのため、貯水槽の内側から非破壊検査を行なうことが行なわれている。
【0009】
しかしながら、調査の限界として、非破壊検査では、構造部の土に面する側(外側部分)における鉄筋の径や配筋ピッチ、部材厚さ方向で見た鉄筋の位置が判明しない場合が往々にしてある。そして、このような古い時代の貯水槽にあっては、当時は鉄筋(鋼材)が高価であったこともあり、鉄筋が必要最小限度しか入っていない場合があった。例えば貯水槽の頂版部について言えば、上載荷重の作用による曲げ応力については検討されていたが、色々な荷重の作用をもたらす地震荷重についてはそれほど考慮されておらず、経済性を重視した設計となっていた。そのため、頂版部の内側部分には鉄筋が必要量だけ配筋されてはいたが、頂版部の平面視の中央部分の外側部分(上側部分)については全く鉄筋を入れないか、或いは配筋状態が疎とされる等、必要最小限度にしか配筋されていない場合があった。
【0010】
図36は、そのような老朽化貯水槽pの一例を示すものであり、その頂版部dの内側部分qには鉄筋rが必要量だけ配筋されているが、頂版部dの平面視の中央部分sの外側部分(上側部分)tにあっては、鉄筋が全く配筋されていない。そして、このような配筋状態は、貯水槽の内側からは、前記したように非破壊検査では判定できないものである。
【0011】
このように頂版部dの配筋状態を判定できないことから、特許文献2の補強構造が、かかる老朽化貯水槽pの補強に用いられる場合も考えられる。図36は、かかる補強構造の頂版部dの前記中央部分sを前記支柱aで支持した状態を示す。この支持状態で頂版部dには、支柱aの上端部uで上向きの反力が発生する。その結果、該上端部uによって支持される支持部分vにおいては頂版部dが上に突の突き上げ状態で支持される共に、その両側部分w,wにおいては下に突の曲げ変形が生ずる。
【0012】
これについてより詳しく説明する。該頂版部dに作用する上載荷重が、盛土や通常の自動車走行による荷重である等、通常の上載荷重程度であるときは、この反力による影響は特にないとしても、地震時の大きな垂直荷重の作用によって大きな上下方向の振動が生じた場合は、該支柱aの上端部uが頂版部dを大きく突き上げる現象が生ずるのである。
【0013】
かかる突き上げる現象が生じた場合は、図38に模式的に示すように、支柱aの上端部uで支持される支持部分vに上に突の曲げ変形が生じ、その両側部分w,wにおいては、頂版部dが下に突の曲げ変形が生ずる。この下に突の曲げ変形に対しては、前記頂版部dの内側部分(下側部分)qに配筋されている前記鉄筋r(図36)で抵抗できる。しかしながら、該上に突の曲げ変形部分yにおいては、頂版部dの外側部分(上側部分)tに鉄筋が存在しないことから、繰り返し荷重が加わることによって、頂版部dの外側部(土に面する側)zにひび割れa1が入り易かった。このようにひび割れa1が入ると、その部分から頂版部dの内部に水が浸入してコンクリートの中性化を招き、頂版部dの内側部分(図35の下側部分)qに配筋されている鉄筋r(図36)の腐食を招いて頂版部dを弱体化させ、頂版部の崩落を招く危険もあった。
【0014】
このように、老朽化貯水槽の配筋状態によっては、支柱で補強することが却って貯水槽の耐力低下を招来する原因となる問題があったのである。
【0015】
又、特許文献2記載の支柱aは、その上端と下端が共に頂版部d、底版部bにボルト固定される構成であったため、地震時に発生する水平方向の力や、回転方向の力(下端が底版部bに固定されて立設状態にある支柱の上端を、該支柱を垂直面内で傾動させるように移動させる力)により、支柱に亀裂や屈曲等の損傷が生じて支柱の強度低下を招き、甚だしいときには支柱が破壊されてしまい、支柱が本来の補強機能を果たさなくなる恐れがあった。そればかりか、支柱の破壊に伴う道路の陥没等により通行不可となるような二次災害が発生する可能性もあった。そして、支柱が変形したり破壊した場合はその取り替えが必要となるが、支柱の下端部分を前記のように補強コンクリート部fで巻く場合はその取り替え作業は大変であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2005−48399号公報
【特許文献2】特開2010−189857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、前記従来の問題点に鑑みて開発されたものであり、老朽化した地下埋設のコンクリート製の貯水槽をその内部で支柱を立設して補強する場合において、頂版部の撓みをその弾性域での撓みに規制しながら該頂版部に作用する負荷を底版部に分散することを基本として、老朽化した貯水槽を簡易且つ効果的に補強可能とする貯水槽用の弾性補強支柱の提供を課題とするものである。又、該弾性補強支柱の補強機能が有効に発揮され得る貯水槽の弾性補強構造の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記課題を解決するため本発明は以下の手段を採用する。
即ち本発明に係る貯水槽用の弾性補強支柱(以下弾性補強支柱という)の基本態様は、コンクリート製の貯水槽の内部に立設状態に収容されて該貯水槽をその内部で補強する弾性補強支柱であって、支柱本体の下部に、貯水槽の底版部に設置される下部支持部が設けられると共に、該支柱本体の上部に、貯水槽の頂版部を下方から支持する上部支持部が設けられており、該上部支持部及び/又は該下部支持部は、前記支柱本体の軸線方向で弾性伸縮可能な弾性伸縮部を有することを特徴とするものである。
【0019】
該貯水槽用の弾性補強支柱において、前記上部支持部の上端部分に、上面が水平なスリップ面とされたスリップ板を設け、該スリップ面は、前記頂版部の下面に設けられた水平なスリップ面と面接触状態を呈し得るように構成するのがよい。或いは、前記下部支持部の下端部分に、下面が水平なスリップ面とされたスリップ板を設け、該スリップ面は、前記底版部の上面に設けられた水平なスリップ面と面接触状態を呈し得るように構成するのがよい。
【0020】
前記基本態様の貯水槽用の弾性補強支柱において、前記上部支持部の上端部分に、前記頂版部の下面に設けられた水平転動面を転動し得る転がり球体が設けられたものとして構成することもできる。或いは、前記下部支持部の下端部分に、前記底版部の上面に設けられた水平転動面を転動し得る転がり球体が設けられたものとして構成することもできる。
【0021】
本発明に係る貯水槽の弾性補強構造(以下弾性補強構造という)の第1の態様は、前記基本態様の貯水槽用の弾性補強支柱を用いる貯水槽の弾性補強構造であって、前記下部支持部が前記底版部に固定される一方、前記上部支持部の上端が前記頂版部の下面に、該下面に対して水平方向でスリップ可能の非固定状態で当接されており、前記頂版部に垂直荷重が作用したとき該頂版部は、前記上部支持部により、前記弾性伸縮部が弾性圧縮して下方から支持されるようになされているものである。この場合、前記上部支持部の上端部分に、上面が水平なスリップ面とされたスリップ板を設け、該スリップ面は、前記頂版部の下面に設けられた水平なスリップ面と面接触状態を呈したものとし、両スリップ面間で水平方向でのスリップが生ずるように構成するのがよい。或いは、前記上部支持部の上端部分に、前記頂版部の下面に設けられた水平転動面を転動し得る転がり球体が設けられたものとして構成するのもよい。
【0022】
又、本発明に係る弾性補強構造の第2の態様は、前記上部支持部が前記頂版部に固定される一方、前記下部支持部の下端が前記底板部の上面に、該上面に対して水平方向でスリップ可能の非固定状態で当接されており、前記頂版部に垂直荷重が作用したとき該頂版部は、前記上部支持部により、前記弾性伸縮部が弾性圧縮して下方から支持されるようになされていることを特徴とするものである。この場合、前記下部支持部の下端に、下面が水平なスリップ面とされたスリップ板を設け、該スリップ面は、前記底版部の上面に設けられた水平なスリップ面と面接触状態を呈したものとし、両スリップ面間で水平方向でのスリップが生ずるように構成するのがよい。或いは、前記下部支持部の下端部分に、前記底版部の上面に設けられた水平転動面を転動し得る転がり球体が設けられたものとして構成するのもよい。
【0023】
前記の各弾性補強構造において、前記頂版部は、前記貯水槽用の弾性補強支柱によって該頂版部の弾性域の範囲で支持され、且つ、該頂版部に負の曲げモーメントが発生しないように前記弾性伸縮部のバネ定数が設定されたものとして構成するのがよい。
【発明の効果】
【0024】
(1) 本発明は、老朽化した地下埋設のコンクリート製の貯水槽をその内部で補強する弾性補強支柱が、支柱本体の下部に、貯水槽の底版部に載置される下部支持部が設けられると共に、該支柱本体の上部に、貯水槽の頂版部を下方から支持する上部支持部が設けられており、該上部支持部及び/又は下部支持部は、該支柱本体の軸線方向で弾性伸縮可能な弾性伸縮部を有する。
【0025】
かかることから本発明によるときは、自動車荷重や地震荷重の作用によって生ずる頂版部の撓みをその弾性域での撓みに規制しながら前記上部支持部で該頂版部を下方から弾性的に支持でき、該頂版部に作用する負荷を底版部に分散できる。それ故、本発明によるときは、上部支持部が頂版部を突き上げる作用は生じても該突き上げ力によって頂版部の破損を招く恐れを極力防止できる。より具体的には、頂版部の外側部(土に面する側)にひび割れが入りその部分から頂版部の内部に水が浸入してコンクリートの中性化を招き内部鉄筋の腐食を招いて頂版部を弱体化させるといった事態を極力防止でき、貯水槽を長期に亘って効果的に補強できることとなる。
【0026】
(2) そして、かかる補強は、特許文献1が開示するような繊維補強シートを貯水槽の内面に貼り付けて補強する補強構造に比して簡易であり、施工経済に優れる。
【0027】
(3) 特に、前記上部支持部の上端部分に、上面が水平なスリップ面とされたスリップ板を設け、該スリップ面は、前記頂版部の下面に設けられた水平なスリップ面と面接触状態を呈し得るように構成し、或いは、前記下部支持部の下端部分に、下面が水平なスリップ面とされたスリップ板を設け、該スリップ面は、前記底版部の上面に設けられた水平なスリップ面と面接触状態を呈し得るように構成するときは、地震時に発生する大きな水平力に伴う水平方向の変位に、スリップして無理なく追随でき、地震時の水平方向の振動による支柱損傷を防止できることとなる。
【0028】
(4) 前記上部支持部と前記下部支持部の双方に弾性伸縮部を設ける場合は、弾性補強支柱を、小さなバネ定数を有するにも関わらず大きな耐荷重を有したものとして構成でき、これによって、弾性伸縮部の破損を極力防止できることとなる。
【0029】
(5) 本発明に係る貯水槽の弾性補強構造を、前記頂版部が、前記弾性補強支柱によって該頂版部の弾性域の範囲で支持される如くなし、且つ、該頂版部に負の曲げモーメントが発生しないように前記弾性伸縮部のバネ定数を設定するときは、老朽化した貯水槽を、より効果的に補強できることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る弾性補強構造を示す横断面図ある。
【図2】その弾性補強構造を構成する弾性補強支柱の上下の部分拡大図である。
【図3】緩衝バネ積重体を用いて構成された弾性伸縮部を示す部分拡大断面図である。
【図4】弾性補強支柱を示す斜視図である。
【図5】弾性補強構造を示す一部欠切斜視図である。
【図6】弾性補強構造を示す縦断面図である。
【図7】弾性補強支柱の下部支持部を示す斜視図である。
【図8】弾性補強支柱の上部支持部を示す斜視図である。
【図9】上部支持部を示す分解斜視図である。
【図10】上部支持部を構成する支持板を示す斜視図である。
【図11】弾性補強支柱を貯水槽の内部に立設状態にするに際し、下部支持部にベース部材を吊下した状態を示す斜視図である。
【図12】その吊下状態を示す部分拡大斜視図である。
【図13】そのベース部材を底版部にボルト固定した状態を示す側面図である。
【図14】下部支持部とベース部材を示す斜視図である。
【図15】立設状態にある弾性補強支柱の高さ調整が完了した状態を示す正面図である。
【図16】支柱で補強されていない貯水槽を、その曲げモーメント図と共に示す説明図である。
【図17】従来の支柱で貯水槽を補強した状態を、その曲げモーメント図と共に示す説明図である。
【図18】本発明に係る弾性伸縮部で貯水槽を補強した状態を、その曲げモーメント図と共に示す説明図である。
【図19】本発明に係る弾性補強構造の他の態様を示す斜視図である。
【図20】本発明に係る弾性補強構造のその他の態様を示す斜視図である。
【図21】本発明に係る弾性補強構造のその他の態様を示す斜視図である。
【図22】弾性伸縮部のその他の態様を示す斜視図である。
【図23】弾性伸縮部を具える弾性伸縮支柱で貯水槽を補強した状態を示す正面図である。
【図24】弾性補強支柱の高さ調整の他の手段を示す斜視図である。
【図25】その高さ調整手段を具える弾性補強支柱で貯水槽を補強した状態を示す正面図である。
【図26】その高さ調整手段を具える弾性補強支柱で貯水槽を補強したその他の態様を示す正面図である。
【図27】下部支持部にのみ弾性伸縮部が設けられてなる弾性補強支柱を用いて貯水槽を補強した状態を示す正面図である。
【図28】下部支持部にのみ弾性伸縮部が設けられてなる弾性補強支柱を用いて貯水槽を補強したその他の態様を示す正面図である。
【図29】下部支持部にのみ弾性伸縮部が設けられてなる弾性補強支柱を用いて貯水槽を補強したその他の態様を示す正面図である。
【図30】下部支持部にのみ弾性伸縮部が設けられてなる弾性補強支柱を用いて貯水槽を補強したその他の態様を示す正面図である。
【図31】上部支持部と下部支持部の双方に弾性伸縮部が設けられてなる弾性補強支柱を用いて貯水槽を補強した状態を示す正面図である。
【図32】上部支持部と下部支持部の双方に弾性伸縮部が設けられてなる弾性補強支柱を用いて貯水槽を補強したその他の態様を示す正面図である。
【図33】上部支持部と下部支持部の双方に弾性伸縮部が設けられてなる弾性補強支柱を用いて貯水槽を補強したその他の態様を示す正面図である。
【図34】上部支持部と下部支持部の双方に弾性伸縮部が設けられてなる弾性補強支柱を用いて貯水槽を補強したその他の態様を示す正面図である。
【図35】上部支持部に、頂版部の下面に設けられた水平転動面を転動し得る転がり球体を設けた場合を示す一部断面正面図である。
【図36】従来の支柱を用いて構成された貯水槽の弾性補強構造を示す断面図である。
【図37】その部分拡大図である。
【図38】従来の支柱による補強構造の問題点を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0031】
図1〜4において本発明に係る弾性補強支柱1は、老朽化した地下埋設のコンクリート製の貯水槽2の内部3に立設状態に収容されて該貯水槽2を該内部3で補強するものであり、支柱本体5の下部6に、該貯水槽2の底版部7に設置される下部支持部9が設けられると共に、該支柱本体5の上部10に、該貯水槽2の頂版部11を下方から支持する上部支持部12が設けられている。
【0032】
該上部支持部12及び/又は該下部支持部9は、前記支柱本体5の軸線方向で弾性伸縮可能な弾性伸縮部13を有している。本実施例においては図1〜2に示すように、弾性伸縮するのは前記上部支持部12のみとされている。そして、前記下部支持部9は前記底版部7に固定される一方、前記上部支持部12の上端14が前記頂版部11の下面16に、該下面16に対して水平方向でスリップ可能の非固定状態で当接されるものとなされており、前記頂版部11に垂直荷重が作用したとき該頂版部11は、前記上部支持部12によって、前記弾性伸縮部13が稍弾性圧縮して下方から支持されるようになされている。そして、前記上部支持部12の上端部分15に、上面が水平なスリップ面24(前記上端14)とされたスリップ板(以下、下のスリップ板ともいう)18が設けられており、該スリップ面24は、前記頂版部11の下面に設けられた水平なスリップ面28と面接触状態を呈し得るようになされている。
【0033】
本実施例においては図2〜4に示すように、前記上部支持部12の上端部分15 にスリップ板18が、貼着等によって固定状態に設けられている。該スリップ板18の前記スリップ面24は、前記頂版部11の下面16に貼着等によって固定状態に設けられたスリップ板(以下、上のスリップ板ともいう)19の水平な上面としてのスリップ面28と面接触状態を呈することができ、該上下のスリップ面28,24間で水平方向でのスリップが生ずるようになされている。前記非固定状態の当接は、本実施例においてはこのように、該上下のスリップ板19,18を介して行なわれている。
【0034】
以下、これをより具体的に説明する。前記貯水槽2は、例えば、構築後50年程度を経過して老朽化している、コンクリート現場打ち施工による防火水槽2aである。該貯水槽2は図1、図5〜6に示すように、その内空横断面部20が正方形状を呈し、底版部7と側壁部21と頂版部11とで構成された直方体函状を呈している。該内空横断面部20の上下方向F1の長さと左右方向F2の長さは共に例えば2800mm程度に設定され、該貯水槽2の延長方向F3の長さは例えば5200mm程度に設定されている。そして前記底版部7と前記頂版部11には、その隅角部分に位置させて、マンホール部22と集水ピット23とが上下対向状態で設けられている。
【0035】
該防火水槽2aは、構築当時の緩い設計基準や設定荷重で構築されていて、鉄筋量が少なく、又、径年変化による内部鉄筋の腐食もあって耐力低下が生じている。その頂版部11の配筋状態は、非破壊検査では正確に判定し難いものであるが、本実施例においては例えば図1に示すように、その内側部分(下側部分)25には鉄筋26が必要量だけ配筋されているが、該頂版部11の外側部分27の内、前記中央部分27の外側部分(上側部分)27aについては全く鉄筋が配筋されていない状態のものとする。なお図1においては、頂版部11以外の部分の配筋状態の図示を省略している。
【0036】
そして本実施例においては例えば図5〜6に示すように、3本の弾性補強支柱1,1,1が、貯水槽2の左右方向F2の中央部位において且つ前記延長方向F3に略等間隔で立設状態に収容されている。
【0037】
該弾性補強支柱1は、図1〜4に示すように、横断面円形状を呈する鋼製の支柱本体5の下部6に、前記底版部7に載置される下部支持部9が設けられると共に、該支柱本体5の上部10に、前記頂版部11を下方から支持する上部支持部12が設けられている。該弾性補強支柱1の上下長さは、前記貯水槽2の内空高さよりも100〜200mm程度短く設定されている。本実施例においては130mm程度短く設定されている。
【0038】
該下部支持部9は本実施例においては図2、図4、図7に示すように、前記支柱本体5の外形よりも直径の大なる円板状を呈する鋼板製の下の基板29が、前記支柱本体5と同心状態で該支柱本体5の下端30に当接され溶接等により固定されている。そして、該下の基板29の上面31と前記支柱本体5の下端側の外周面32とは、周方向に例えば90度の角度ピッチで配設された補強リブ板33で連結されている。又、前記下の基板29には、隣り合う補強リブ板33,33間の夫々において、同一円周上で1個の下の挿通孔35が上下方向で貫設されている。該下の挿通孔35には、後述の支柱軸36が挿通する。
【0039】
又前記上部支持部12は、本実施例においては、図2〜4、図8に示すように、前記下の基板29と同径の円板状を呈する鋼板製の上の基板37が、前記支柱本体5と同心状態で該支柱本体5の上端38に当接され溶接等により固定されている。又、該上の基板37の下面39と前記支柱本体5の上端側の外周面40とは、補強リブ板41で連結されている。そして該上の基板37には、隣り合う補強リブ板41,41間の夫々において、同一円周上の両側に位置させて2個の上の挿通孔42,42が上下方向で貫設されている。
【0040】
又、図2〜4、図8〜10に示すように、該上の基板37の稍上方に位置させて、該上の基板37と同径に形成された円板状を呈する鋼板製の支持板43が配設されており、該支持板43の下面45には、図9〜10に示すように、前記上の挿通孔42を上下方向で挿通するガイド軸46が下方向に突設されている。夫々のガイド軸46は、本実施例においてはネジ軸46aを以って構成されており、図3に示すように、バネ部材48である緩衝バネ積重体47の連続挿通孔49に挿通され該ガイド軸46の下端部分50が前記上の基板37の前記上の挿通孔42を挿通して下方に突出せしめられ、該突出した下端ネジ軸部51にナット52が螺合されることにより、該緩衝バネ積重体47が、前記上の基板37と前記支持板43との間で所要の圧縮状態とされる。これによって上部支持部12に、前記支柱本体5の軸線方向で弾性伸縮可能な前記弾性伸縮部13が設けられた状態とされている。該支持板43は、該緩衝バネ積重体47の弾性圧縮を伴いながら更に下方向に移動可能(沈下可能)となされている。
【0041】
かかる構成を有する弾性補強支柱1の主要部の寸法を例示すれば、前記支柱本体5の外径は約102mmに設定される共に前記上下の基板37,29と前記支持板43の径は約350mmに設定されている。そして、前記下の挿通孔35の孔径と、前記上の挿通孔42の孔径は、共に約18mmに設定されている。又、前記支柱軸36の径は約16mmに設定される共に前記ガイド軸46の径は約16mmに設定され、前記上下の基板37,29及び前記支持板43の肉厚は約6mmに設定されている。
【0042】
前記緩衝バネ積重体47は本実施例においては図3に示すように、所要枚数の皿状バネ53をその表裏を適宜逆にしながら積重して構成されたバネ部材48を以て構成されており、該緩衝バネ積重体47の上下厚さは例えば38mm程度に設定され、前記支持板43が該緩衝バネ積重体47の弾性圧縮を伴いながら前記上の基板37に向けて、最大で10mm程度沈下可能となされている。鉛直方向の作用荷重による前記頂版部11の下方向への最大変位量は、通常2mm程度であるため、前記支持板43がこの程度沈下できれば何ら問題がない。
【0043】
本実施例においては図3〜4に示すように、前記円板状の支持板43の上面55に例えば3mm程度の厚さを有する前記下のスリップ板18が貼着等によって固定され、該下のスリップ板18の上面は水平なスリップ面24とされている。該下のスリップ板18は、摩擦係数が小さく腐食しにくい素材を以て構成されている。例えば、ステンレス板や、上面部56がフッ素樹脂で被覆されてなる樹脂板、全体がフッ素樹脂からなる樹脂板等を用いて構成されている。
【0044】
次に、かかる構成を有する弾性補強支柱1を貯水槽2の内部3に立設状態とし、前記上部支持部12で前記頂版部11を下方から支持する施工工程を説明する。そのために図11(B)、図3に示すように、前記頂版部11を下方から支持すべき支持部分57の下面16a(前記頂版部11の下面)に例えば2mm程度の厚さを有する上のスリップ板19を貼着等によって固定する。該スリップ板19は、摩擦係数が小さく腐食しにくい素材を以て構成され、例えば、ステンレス板や、下面部56がフッ素樹脂で被覆されてなる樹脂板、全体がフッ素樹脂からなる樹脂板等を用いて構成されている。そして、該上のスリップ板19の下面は水平なスリップ面28とされている。又図11(A)に示すように、頂版部11に固定されている前記スリップ板19と対向する前記底版部7の上面59の対向部位をモルタル等を塗布して整正し、該整正された設置面60にアンカーネジ筒61を埋設する。前記下部支持部9は、図2、図13に示すように、該アンカーネジ筒61に螺合される固定ボルト62を用い、ベース部材63を介して前記底版部7に固定される。
【0045】
該ベース部材63は図14に示すように、例えば円板状を呈する鋼板製のベースプレート65の上面66で、前記下の基板29に設けられている前記4個の下の挿通孔35,35,35,35を上下方向で挿通し得る前記支柱軸36,36,36,36を立設してなり、その外周縁部分67において、同心円上で4個の固定孔69,69,69,69が、隣り合う支柱軸69,69の夫々に関し、その中間に位置するように設けられている。該ベースプレート65の径は前記下の基板29の径よりも稍大きく形成されている。そして該ベース部材63は、図2、図13に示すように、そのベースプレート65を前記底版部7の上面59に設けた前記設置面60に設置して後、各固定孔69を挿通する前記固定ボルト62を前記アンカーネジ筒61に螺合し締め付けることによって前記底版部7に固定される。
【0046】
本実施例においては、前記下部支持部9を前記底版部7に固定するに先立って、図11(A)、図12に示すように、前記ベース部材63が前記下部支持部9に仮取り付けされている。この仮取り付けは、図12に示すように、前記支柱軸36の夫々を、前記下の基板29に設けられている前記下の挿通孔35(図14)の対応のものに挿通状態として行う。その際、前記支柱軸36には、該下の基板29を上下から挾むための締め付けナット(本実施例においては、緩み止め機能を有する二重ナット)70と高さ調整ナット71を螺合しておく。図12においては、前記支柱軸36の下端側に該高さ調整ナット71を螺合状態にすると共に前記締め付けナット70を前記支柱軸36の上端側に螺合した状態が示されている。
【0047】
前記ベース部材63が仮取り付けされた弾性補強支柱1を、前記マンホール部22を通して前記貯水槽2の内部3に搬入し、図13に示すように、前記支柱本体5が前記高さ調整ナット71で下方から支持された立設状態とし、前記ベースプレート65を前記底版部7の上面の前記設置面60に設置する。この状態で、前記底版部7に埋設されているアンカーネジ筒61に前記固定ボルト62を螺合し締め付けると、ベースプレート65が底版部7に固定される。そしてこの状態で、前記上部支持部12の前記下のスリップ板18の上面としての前記下のスリップ面24(前記上端14)は、前記頂版部11の下面16に設けた前記上のスリップ面28の稍下方に位置する。
【0048】
その後、図15に示すように、前記高さ調整ナット71,71,71,71を上昇させて前記下の基板29を持ち上げ、前記上部支持部12を前記頂版部11の前記上のスリップ面28に接近させる。該上部支持部12の上昇は、前記上下のスリップ板19,18間の空隙74(図13)がなくなるまで行ない、該上下のスリップ板19,18を面接触状態に当接させ、且つ、前記緩衝バネ積重体47の夫々を稍弾性圧縮した状態となす。
【0049】
図15、図2は、各高さ調整ナット71による高さ調整が完了した状態を示しており、この状態で前記の各締め付けナット70が締め付けられ、前記下の基板29が、前記高さ調整ナット71と前記締め付けナット70とにより締め付けられて所要高さに固定状態とされている。その後、図2に示すように、前記下の基板29の下面73と前記底版部7の上面59との間にコンクリートやモルタル等の充填材75を充填し、該充填材75の硬化によって、該下の基板29を該底版部7に安定状態に固定する。
【0050】
この状態で前記頂版部11が下方に撓み変形した場合、前記支持板43は、図2に矢印で示すように、前記緩衝バネ積重体47の弾性圧縮を伴って該頂版部11を支持したまま下方向に移動(沈下)できる。又本実施例においては、上下のスリップ面28,24間で、水平方向での滑りが生ずる。
【0051】
かかる施工工程を経て、図1、図5〜6に示す貯水槽の弾性補強構造76が構成されるのであるが、ここで、該弾性補強構造76を構成する弾性補強支柱1による貯水槽2の補強作用を、特許文献1記載の補強構造における支柱の補強作用との対比で、図16〜18に基づいて、模式化して説明する。
【0052】
図16(A)は、貯水槽2が何ら補強されていない状態を示し、図16(B)は、貯水槽2の頂版部11を、両端の支点77,78で支持された連続梁79で模式化した図である。該頂版部11には、繰り返しの自動車荷重や、地震時の大きな垂直荷重の作用によって図16(C)に示すように、大きな正の曲げモーメントM1が発生している。かかる大きな曲げモーメントM1が繰り返して発生すると、該頂版部11が下に向けて円弧状に大きく撓んでその中央の内側部(下面側)にひび割れが生じて該頂版部11の破損を招く恐れがある。
【0053】
図17(A)は、特許文献1記載の補強構造における補強状態を示し、図17(B)は、貯水槽2の頂版部11を連続梁79で模式化すると共に、その両端と中央部位が支点80,81,82で支持された状態を示しており、中央の支点82は、支柱83の上端85による支持状態を示している。該支柱83の上下長さが変わらないために、地震時の大きな垂直荷重の作用によって大きな突き上げ力が発生している。そして、頂版部11の、該支柱83の上端85による支持部分86に負の曲げモーメントM2が発生し(図17(C))、該支持部分86の両側部分87,88には正の曲げモーメントM3,M4が発生している(図17(C))。かかる負の曲げモーメントM2が繰り返して発生すると、頂版部11の外側部分(上側部分)に鉄筋が存在しないことから(図36)、該頂版部11の外側部分(上側部分)にひび割れが入り易く、このようにひび割れが入ると、その部分から頂版部11の内部に水が浸入してコンクリートの中性化を招き、頂版部11の内側部分に配筋されている鉄筋(図36)の腐食を招いて頂版部11を弱体化させ、頂版部の崩落を招く危険もある。
【0054】
図18(A)は、前記弾性補強支柱1による補強状態を示しており、図18(B)は、貯水槽2の頂版部11を連続梁79で模式化している。そして、該連続梁79の両端が支点89,90で支持されると共に、中央部位が、前記上部支持部(前記弾性伸縮部13が設けられている)12からなる支点84で弾性的に支持されている。該頂版部11に、地震時の大きな垂直荷重が作用した場合、該頂版部11が、該弾性補強支柱1の前記弾性伸縮部13によって弾性的に所要の突き上げ力で支持される。該突き上げ力は、前記支持部分86の破壊を招かないように、施工現場に合わせて所要に調整されるものであり、前記弾性伸縮部13のバネ定数を変化させることによって調整できる。バネ定数を大きくすれば突き上げ力を大きくでき、バネ定数を小さくすれば突き上げ力を小さくできる。
【0055】
このように、前記弾性伸縮部13による突き上げ力が所要に設定されているため、前記頂版部11には、正の曲げモーメントM5及びM6は発生するが、負の曲げモーメントは発生しない。乃至、負の曲げモーメントが発生しても、できるだけ小さく抑えられた状態となし得る。そして、この正の曲げモーメントM5,M6は、補強されていない状態における最大曲げモーメントM1a(図16(C))よりも小さい。かかることから前記補強構造によるときは、地震時の大きな垂直荷重が作用した場合にも、支柱の上端が頂版部11を突き上げて頂版部の外側部に有害なひび割れを発生させたり該頂版部11を破壊してしまう等の、頂版部11の損傷を防止できる。これによって、貯水槽2が適切に補強されることとなる。
【0056】
図16、図17、図18から分かることは、要するに、老朽化した貯水槽2を支柱で補強するに際しては、頂版部11の撓みを、該頂版部11に元々存在している鉄筋やコンクリートで抵抗できる弾性域での撓みに規制する必要があるということである。そのためには、特許文献1におけるように頂版部11を支柱で単に支持すればよいというものではなく、該弾性域を超える撓みを阻止できるように、頂版部11を、その破損を招かない所要の突き上げ力で弾性的に支持して、該頂版部11に作用する負荷を底版部7に分散させる必要があるということである。
【0057】
又地震時には、大きな水平力に伴う水平方向の変位も生ずるが、前記上部支持部12の有する前記弾性伸縮部13が水平方向である程度弾性変形できることや、前記支柱本体5が水平方向である程度弾性変形できることから、前記弾性補強支柱11は、これらの弾性変形によって該水平方向の変位にある程度は追随できる。特に本実施例においては、上下のスリップ面28,24間で水平方向でのスリップが生ずる構成が採用されているため、該スリップによって、該水平方向での変位に無理なく追随でき、地震時の水平方向の振動による支柱損傷を効果的に防止できることとなる。
【0058】
図19、図20、図21は前記弾性補強支柱1を用いる弾性補強構造76の他の態様を示すものであり、補強せんとする貯水槽2の構成と、その内部3で立設される弾性補強支柱1の配置状態が異なっている。図19に示す弾性補強構造76にあっては、貯水槽2が、平面視で正方形状を呈する直方体函状を呈している。その内部3には、4本の弾性補強支柱1,1,1,1が、頂版部11の中央部分に位置させて、且つ、正方形の各頂点に位置させて立設されている。これによって頂版部11は、弾性伸縮部13を有する上部支持部12で下方から支持された状態にある。図20に示す弾性補強構造76にあっては、貯水槽2が、直方体函状を呈すると共にその内部3が、中間の隔壁部91によって左右の貯水槽部92,93に二分割されている。各貯水槽部92,93において、その内部の中央部で前記弾性補強支柱1,1が立設されている。これによって頂版部11は、弾性伸縮部13を有する上部支持部12で下方から支持された状態にある。又、図21に示す弾性補強構造76にあっては、貯水槽2が円筒状に構成されている。その内部3の、頂版部11の中央部分に位置させて、同心円上で4本の弾性補強支柱1,1,1,1が90度の角度ピッチで立設されている。これによって頂版部11は、弾性伸縮部13を有する上部支持部12で下方から支持されている。
【実施例2】
【0059】
本発明は、前記実施例で示したものに限定されるものでは決してなく、「特許請求の範囲」の記載内で種々の設計変更が可能であることはいうまでもない。その一例を挙げれば次のようである。
【0060】
(1) 図22〜23は、弾性伸縮部13が設けられた上部支持部12の他の態様を示すものであり、前記と同様構成の上の基板37と支持板43との間の中央部分に、バネ部材48である、軸線が上下方向のコイルバネ95が介装されている。本実施例においては、該コイルバネ95の上下方向に延長する孔部96の上下の端部分97,99に、前記支持板43の下面45の中央部で下方に突設された円柱状支持軸100と、前記上の基板37の上面101の中央部で立設された円柱状支持軸102が挿通されることによって該コイルバネ95が位置固定されている。又前記支持板43の下面45には、前記コイルバネ95を取り囲むように、例えば4本のガイド軸103が同一円周上で下方向に突設されている。
【0061】
夫々のガイド軸103の下端部分105は、前記上の基板37に設けられた挿通孔106に挿通されて該上の基板37の下方に突出せしめられ、該突出した下端ネジ軸部107にナット109が螺合されることにより、前記コイルバネ95が前記上の基板37と前記支持板43との間で所要の圧縮状態とされている。これによって上部支持部12に、前記支柱本体5の軸線方向で弾性伸縮可能な弾性伸縮部13が設けられている。かかる構成を有する弾性伸縮部13を構成する前記コイルバネ95の上下方向の長さは例えば30cmに設定され、コイルバネ95を構成する線材の径は20〜30mmに設定される。
【0062】
図23は、かかる構成を有する上部支持部12を具える弾性補強支柱1を貯水槽2の内部3に立設した状態を示しており、その下部支持部9は、前記と同様の施工工程を経て底版部7に固定されている。又前記と同様にして、頂版部11の下面16に固定された上のスリップ板19の下面である水平なスリップ面28と前記支持板43の上面55に固定された下のスリップ板18の上面である水平なスリップ面24とが面接触状態とされて、該上下のスリップ面28,24間で水平方向でのスリップが生ずるようになされている。これにより、該上下のスリップ板19,18を介して、前記上部支持部12の上端15が前記頂版部11の下面16に非固定状態に当接された状態にあり、前記上部支持部12が、前記弾性伸縮部13が稍弾性圧縮した状態で前記頂版部11を下方から支持している。
【0063】
(2) 図24〜26は、立設した弾性補強支柱1の高さ調整を行なう他の手段を示すものであり、前記支柱本体5を、下側支柱本体5aと上側支柱本体5bとに2分割すると共に、該下側支柱本体5aは、内側にネジ部110が設けられたネジ筒部111として構成し、該ネジ筒部111は、前記下の基板29の上面31の中央部で立設されている。そして、該上側支柱本体5bの下端部分は、外側にネジ部112が設けられたネジ軸部113とし、該ネジ軸部113を該ネジ筒部111に螺合して前記上側支柱本体5bを所要に回転させることにより前記上部支持部12の高さを調整可能となされている。図25、図26は、かかる高さ調整手段を具える弾性補強支柱1を立設して、頂版部11を上部支持部12で支持した状態を示しており、下部支持部9の下の基板29が前記底版部7の上面59に、固定ボルト62を用いて直接固定されている。
【0064】
その他、立設した弾性補強支柱1の高さ調整は、例えば前記下の基板29と前記ベースプレート65との間にライナープレートの所要枚数を積重して介在させたり、或いは、該下の基板29と該ベースプレート65との間に楔を打ち込むこと等によって調整することもできる。
【0065】
(3) 図27〜30は、弾性補強支柱1のその他の態様をその使用状態と共に示す説明図である。
【0066】
図27、図28は、緩衝バネ積重体47を用いて構成された弾性伸縮部13を具える上部支持部を有する前記弾性補強支柱1(図1〜2)を上下逆にして、貯水槽2の内部3で立設状態とし、該弾性補強支柱1で頂版部11を下方から支持した状態を示している。又図29、図30は、コイルバネ95を用いて構成された弾性伸縮部13を具える上部支持部が設けられてなる弾性補強支柱1(例えば図23)を上下逆にして貯水槽2の内部3で立設状態とし、該弾性補強支柱1で頂版部11を下方から支持した状態を示している。この場合は、下部支持部9に弾性伸縮部13が設けられている。
【0067】
図27〜30においては、弾性補強支柱1の上部支持部12が頂版部11に固定されている。そして、該弾性補強支柱1の下部支持部9は、底版部7の上面59との間に介在された、例えば図27(B)に示す上下のスリップ板19,18による上下のスリップ面28,24間で、水平方向でのスリップが生ずるようになされており、該下部支持部9の下端94が前記底版部7の上面59に非固定状態に当接されている。該下の滑り板18は、底版部7の上面59に固定される一方、該上の滑り板19は該下部支持部9の下面115に固定されている。このように上下のスリップ板19,18を底版部7側に設ける場合も、上下のスリップ面28,24間の水平方向でのスリップによって支柱損傷を防止できる。
【0068】
弾性補強支柱1をこのように上下逆にして立設する場合、前記高さ調整は、例えば図25、図26に基づいて説明したところと同様に、支柱本体5を適宜回転操作して行なうこともできる(図28、図30)。
【0069】
(4) 図31〜32、図33〜34は、弾性補強支柱1の上部支持部12及び下部支持部9が共に、支柱本体5の軸線方向で弾性伸縮可能な弾性伸縮部13,13を有する如く構成された場合を示すものである。図31〜32においては、弾性伸縮部13が前記緩衝バネ積重体47を用いて構成されており、図33〜34においては、前記コイルバネ95を用いて構成されている。このように構成する場合は、弾性補強支柱1の前記弾性補強支柱13を、全体として小さなバネ定数を有するにも関わらず大きな耐荷重を有したものとして構成でき、該弾性伸縮部13の破損を極力防止できる利点がある。
【0070】
そして、前記上部支持部12又は前記下部支持部9の何れか一方が底版部7又は頂版部11に固定され、他方は、好ましくは、例えば図31(B)に示すように、上下のスリップ板19,18を介在させて該上下のスリップ板19,18間で水平方向のスリップが生ずるように構成するのがよい。又、前記弾性補強支柱1の高さ調整は、例えば、図24〜26に基づいて説明したところと同様に、前記支柱本体5を適宜回転操作して行なう。
【0071】
(5) 前記上部支持部12や前記下部支持部9に弾性伸縮部13を設ける場合、該弾性伸縮部13を構成するバネ部材48としては、前記頂版部11を所要に弾性的に支持できるものであれば、前記したものに特定されない。又、前記上部支持部12と前記下部支持部9が共に弾性伸縮部13を有する場合、上下の弾性伸縮部13,13を構成するバネ部材48,48は、異なる構成のものであってもよい。
【0072】
(6) 図35は、前記上部支持部12の上端部分116に、前記頂版部11の下面16に設けられた水平転動面114を転動し得る転がり球体117の多数個を、分散状態に設けた場合を示している。該水平転動面114は、本実施例においては図35に示すように、前記頂版部11の下面16に硬質水平板119を貼着等によって固定して設けられている。該硬質水平板119は、例えばステンレス板を以て構成できる。かかる構成は、前記底版部7に対しても応用できる。転がり球体117が水平転動面114を転動し得るようにしたかかる構成も、本発明においては、前記した、水平方向でスリップ可能の非固定状態で当接すること、に該当する。
【0073】
(7) 本発明に係る弾性伸縮構造において、前記した上下のスリップ板19,18は、その何れか一方が省略されることがある。その他、地震時の水平方向の振動によって弾性補強支柱が損傷しにくいものであれば、かかる上下のスリップ板19,18(即ち、上下のスリップ面28,24)が省略されることもある。
【0074】
(8) 前記支柱本体5は、コンクリート製とされることもある。
【0075】
(9) 前記老朽化した貯水槽は、前記弾性補強支柱1を用いて補強すると、前記のように効果的に貯水槽を補強できるのであるが、元々貯水槽に存していた部分的な初期欠陥等に起因して、地震時等において、漏水の原因となるひび割れや欠損が発生する場合が考えられる。このようなことが予想される場合は、頂版部を除く貯水槽内部に、弾性伸縮性を有する防水膜層を形成すると、漏水の恐れをより一層効果的に防止できることになる。かかる防水膜層は、例えばシリコン系やアスファルト系等の樹脂を吹き付けたり、こて塗りすることによって、或いは、ゴムシートを貼着すること等によって構成できる。
【0076】
(10)本発明において、前記上下のスリップ面28,24間で水平方向でのスリップが生ずるように構成する場合、前記弾性伸縮部13が存する側に該上下のスリップ面を設けることの他、弾性伸縮部を有さない上部支持部12側、又は下部支持部9側に該上下のスリップ面を設けることとしてもよい。
【0077】
(11)本発明が補強の対象とする老朽化貯水槽は、プレキャストコンクリートブロックを組み立てて構築したものであってもよい。又、頂版部11に正常に配筋されている老朽化貯水槽であってもよい。
【符号の説明】
【0078】
1 弾性補強支柱
2 貯水槽
3 貯水槽の内部
5 支柱本体
7 底版部
9 下部支持部
11 頂版部
12 上部支持部
13 弾性伸縮部
18 下のスリップ板
19 上のスリップ板
24 下のスリップ面
25 内側部分
26 鉄筋
28 上のスリップ面
29 下の基板
37 上の基板
63 ベース部材
76 弾性補強構造
114 水平転動面
116 上端部分
117 転がり球体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート製の貯水槽の内部に立設状態に収容されて該貯水槽をその内部で補強する弾性補強支柱であって、支柱本体の下部に、貯水槽の底版部に設置される下部支持部が設けられると共に、該支柱本体の上部に、貯水槽の頂版部を下方から支持する上部支持部が設けられており、該上部支持部及び/又は該下部支持部は、前記支柱本体の軸線方向で弾性伸縮可能な弾性伸縮部を有することを特徴とする貯水槽用の弾性補強支柱。
【請求項2】
前記上部支持部の上端部分に、上面が水平なスリップ面とされたスリップ板が設けられており、該スリップ面は、前記頂版部の下面に設けられた水平なスリップ面と面接触状態を呈し得ることを特徴とする請求項1記載の貯水槽用の弾性補強支柱。
【請求項3】
前記下部支持部の下端部分に、下面が水平なスリップ面とされたスリップ板が設けられており、該スリップ面は、前記底版部の上面に設けられた水平なスリップ面と面接触状態を呈し得ることを特徴とする請求項1記載の貯水槽用の弾性補強支柱。
【請求項4】
請求項1記載の貯水槽用の弾性補強支柱を用いる貯水槽の弾性補強構造であって、前記下部支持部が前記底版部に固定される一方、前記上部支持部の上端が前記頂版部の下面に、該下面に対して水平方向でスリップ可能の非固定状態で当接されており、前記頂版部に垂直荷重が作用したとき該頂版部は、前記上部支持部により、前記弾性伸縮部が弾性圧縮して下方から支持されるようになされていることを特徴とする貯水槽の弾性補強構造。
【請求項5】
請求項1記載の貯水槽用の弾性補強支柱を用いる貯水槽の弾性補強構造であって、前記上部支持部が前記頂版部に固定される一方、前記下部支持部の下端が前記底板部の上面に、該上面に対して水平方向でスリップ可能の非固定状態で当接されており、前記頂版部に垂直荷重が作用したとき該頂版部は、前記上部支持部により、前記弾性伸縮部が弾性圧縮して下方から支持されるようになされていることを特徴とする貯水槽の弾性補強構造。
【請求項6】
請求項2記載の貯水槽用の弾性補強支柱を用いる貯水槽の弾性補強構造であって、前記スリップ板の上面の水平なスリップ面が、前記頂版部の下面に設けられた水平なスリップ面と面接触状態を呈しており、両スリップ面間で水平方向でのスリップが生ずるようになされていることを特徴とする貯水槽の弾性補強構造。
【請求項7】
請求項3記載の貯水槽用の弾性補強支柱を用いる貯水槽の弾性補強構造であって、前記スリップ板の下面の水平なスリップ面が、前記底版部の上面に設けられた水平なスリップ面と面接触状態を呈しており、両スリップ面間で水平方向でのスリップが生ずるようになされていることを特徴とする貯水槽の弾性補強構造。
【請求項8】
前記頂版部が、前記貯水槽用の弾性補強支柱によって該頂版部の弾性域の範囲で支持され、且つ、該頂版部に負の曲げモーメントが発生しないように前記弾性伸縮部のバネ定数が設定される如く構成していることを特徴とする請求項4〜7の何れかに記載の貯水槽の弾性補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【公開番号】特開2012−67586(P2012−67586A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179797(P2011−179797)
【出願日】平成23年8月19日(2011.8.19)
【出願人】(000137074)株式会社ホクコン (40)
【Fターム(参考)】