説明

貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子とその製造方法、貯湯タンク用断熱材製造用予備発泡粒子及び貯湯タンク用断熱材

【課題】環境適合性及び難燃性に優れた貯湯タンク用断熱材、その製造に用いられる貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子とその製造方法の提供。
【解決手段】分子内に臭素原子を有し、臭素分含有量が70質量%未満であり、分子内にベンゼン環を有し、且つ5質量%分解温度が200〜300℃の範囲内である難燃剤を用い、樹脂供給装置内でポリスチレン系樹脂に難燃剤及び発泡剤を添加、混練し、難燃剤・発泡剤含有の溶融樹脂を樹脂供給装置先端に付設されたダイの小孔から直接冷却用液体中に押し出し、押し出すと同時に押出物を切断するとともに、押出物を液体との接触により冷却固化して発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得る溶融押出法により得られたものである貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境適合性及び難燃性に優れた貯湯タンク用断熱材、その製造に用いられる貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子とその製造方法に関する。本発明の貯湯タンク用断熱材は、例えば、ヒートポンプ式給湯器の貯湯タンク用断熱材などに用いられる。
【背景技術】
【0002】
ヒートポンプ式給湯器は、高温の湯を貯えるとともに、その貯えた湯を給湯端末に供給することで給湯機能を実現している。この給湯器の貯湯タンクには、グラスウール、発泡成形断熱材、真空断熱材、シート状断熱材などの断熱材を取り付けて断熱性能を付与し、貯湯タンク内の高温の湯から外部への放熱ロスを低減している。このような貯湯タンク用断熱材の中でも、軽量、低価格であり、取り付けも容易であることから、ポリスチレン系樹脂発泡成形体製の貯湯タンク用断熱材が注目されている。
【0003】
貯湯タンク用断熱材には、火災等の発生防止、火災時の延焼による火災の拡大防止等の観点から、通常、一定レベル以上の難燃性能が要求されている。
従来、ポリスチレン系発泡成形体に難燃性を付与するための技術として、例えば、特許文献1〜3が提案されている。
特許文献1には、スチレン系樹脂100質量部に対して、(A)臭素系難燃剤(I)を0.1〜10質量部含有する有機溶媒液と、又は(B)臭素系難燃剤(I)と(II)とを合計0.1〜10質量部含有する有機溶媒液と、(C)発泡剤とを添加し、加熱発泡せしめることを特徴とする難燃性発泡スチレン系樹脂の製造方法が開示されている。
特許文献2には、テトラブロモビスフェノールAジアリルエーテルを界面活性剤の存在下において粒子径が50μm以下になるように分散した後、軟化剤、難燃助剤、可塑剤及び発泡剤と共にポリスチレン樹脂粒子に含浸させることを特徴とする自己消火性発泡ポリスチレン樹脂粒子の製造方法が開示されている。
特許文献3には、難燃化剤として、70重量%又はこれより多い臭素分を有する有機臭素化合物を含有し、燃焼テストB2(DIN4102による)にパスする自己消火性発泡体をもたらすように処理され得ることを特徴とする粒子状膨張性スチレン重合体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−172744号公報
【特許文献2】特開平11−130898号公報
【特許文献3】特表2001−525001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述した従来技術には、次のような問題があった。
特許文献1では、難燃剤を有機溶媒に予め溶解することにより押出機、オートークレーブ中に供給するが、有機溶媒に溶かす工程において揮発性溶媒を用いることは環境に与える悪影響が大きく、VOCの発生の観点から好ましい物ではない。また、発泡に使用する低級脂肪族炭化水素(ブタン、ペンタン)に溶解する工程も発泡剤の揮発による火災等の恐れがあり、危険性が高い。
【0006】
特許文献2に開示された従来技術は、難燃剤を界面活性剤の存在下において粒子径が50μm以下になるように分散した後、軟化剤、難燃助剤、可塑剤及び発泡剤と共にポリスチレン樹脂粒子に含浸させて難燃剤含有発泡性ポリスチレン樹脂粒子を製造しているが、このようにポリスチレン樹脂粒子に難燃剤を含浸させる方法では、ポリスチレン樹脂粒子の表面付近に難燃剤が含浸されるものの、樹脂粒子中心付近には難燃剤が存在しないか、含有量が低い難燃剤含有発泡性ポリスチレン樹脂粒子しか得られず、このような樹脂粒子を予備発泡し、更に得られた予備発泡粒子を型内発泡成形して得られる難燃性ポリスチレン系樹脂発泡成形体の機械強度が劣り、成形性や外観が悪くなる問題がある。
【0007】
さらに、特許文献3ではヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)等の臭素系難燃剤を用いているが、ヘキサブロモシクロドデカンは化学物質審査規制法第1種監視化学物質であり、経済産業省の既存化学物質安全性点検で難分解・高濃縮が指摘され、さらに欧州リスクアセス評価対象に該当するなど、その安全性には問題があることから、その使用を無くすことが望まれている。
【0008】
本発明は、前記事情に鑑みてなされ、環境や生物に対する安全性が高い難燃剤を用いて十分な難燃性能を有し、機械強度・寸法安定性にも優れた貯湯タンク用断熱材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明は、難燃剤及び発泡剤を含有するポリスチレン系樹脂を粒子状としてなる貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子であって、
前記難燃剤は、分子内に臭素原子を有し、臭素分含有量が70質量%未満であり、分子内にベンゼン環を有し、且つ該難燃剤の5質量%分解温度が200〜300℃の範囲内であり、
樹脂供給装置内でポリスチレン系樹脂に難燃剤及び発泡剤を添加、混練し、難燃剤・発泡剤含有の溶融樹脂を樹脂供給装置先端に付設されたダイの小孔から直接冷却用液体中に押し出し、押し出すと同時に押出物を切断するとともに、押出物を液体との接触により冷却固化して貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得る溶融押出法により得られたものであることを特徴とする貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を提供する。
【0010】
本発明の貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子において、スチレン系モノマー、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、ノルマルプロピルベンゼン、キシレン、トルエン、ベンゼンからなる芳香族有機化合物の含有総量が500ppm未満であることが好ましい。
【0011】
本発明の貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子において、前記難燃剤が、テトラブロモビスフェノールAまたはその誘導体からなる群から選択される1種又は2種以上であることが好ましい。
【0012】
本発明の貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子において、前記難燃剤が、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ビス(アリルエーテル)からなる群から選択される1種又は2種以上であることが好ましい。
【0013】
また本発明は、前記貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を加熱して得られた貯湯タンク用断熱材製造用予備発泡粒子を提供する。
【0014】
また本発明は、前記貯湯タンク用断熱材製造用予備発泡粒子を成形型のキャビティ内に充填して加熱、発泡させて得られ、発泡倍数50倍の発泡成形体について、気泡の平均弦長が50〜350μmの範囲である貯湯タンクを提供する。
【0015】
また本発明は、前記貯湯タンク用断熱材製造用予備発泡粒子を成形型のキャビティ内に充填して加熱、発泡させて得られ、密度が0.010〜0.050g/cmの範囲である貯湯タンクを提供する。
【0016】
また本発明は、樹脂供給装置内でポリスチレン系樹脂に、分子内に臭素原子を有し、臭素分含有量が70質量%未満であり、分子内にベンゼン環を有し、且つ該難燃剤の5質量%分解温度が200〜300℃の範囲内である難燃剤及び発泡剤を添加、混練し、難燃剤・発泡剤含有の溶融樹脂を樹脂供給装置先端に付設されたダイの小孔から直接冷却用液体中に押し出し、押し出すと同時に押出物を切断するとともに、押出物を液体との接触により冷却固化して発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を製造する方法において、スチレン系モノマー、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、ノルマルプロピルベンゼン、キシレン、トルエン、ベンゼンからなる芳香族有機化合物を使用せずに発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得ることを特徴とする貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法を提供する。
【0017】
本発明の貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法において、前記難燃剤が、テトラブロモビスフェノールAまたはその誘導体からなる群から選択される1種又は2種以上であることが好ましい。
【0018】
本発明の貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法において、前記難燃剤が、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ビス(アリルエーテル)からなる群から選択される1種又は2種以上であることが好ましい。
【0019】
本発明の貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法において、樹脂中に所定濃度で前記難燃剤を含むマスターバッチ材を前記ポリスチレン系樹脂とともに樹脂供給装置内に供給し、該装置内で溶融混練することが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、分子内に臭素原子を有し、臭素分含有量が70質量%未満であり、分子内にベンゼン環を有し、且つ該難燃剤の5質量%分解温度が200〜300℃の範囲内である難燃剤を含有している。前記難燃剤は、環境や生物に対する安全性が高いものであり、特に、テトラブロモビスフェノールA誘導体は、ポリスチレン系樹脂発泡成形体に添加した場合に十分な難燃性能を付与でき、環境や生物に対する安全性が高いので、安全性に優れた貯湯タンク用断熱材を提供することができる。
本発明の貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、樹脂供給装置内でポリスチレン系樹脂に難燃剤及び発泡剤を添加、混練し、難燃剤・発泡剤含有の溶融樹脂を樹脂供給装置先端に付設されたダイの小孔から直接冷却用液体中に押し出し、押し出すと同時に押出物を切断するとともに、押出物を液体との接触により冷却固化して発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得る溶融押出法により得られたものなので、樹脂粒子中に難燃剤が均一に存在しており、樹脂粒子中に難燃剤が不均一に存在しているものと比べ、得られる貯湯タンク用断熱材の機械強度が高くなり、寸法安定性や成形性にも優れた床暖房用断熱材が得られる。さらに、粒度分布が揃った樹脂粒子が得られ、三次元的曲面を有する貯湯タンク用の断熱材を形成する場合にも、成形型のキャビティ細部に予備発泡粒子を充填し易くなり、成形性に優れている。
【0021】
本発明の貯湯タンク用断熱材は、前記貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を加熱して予備発泡させ、更に、得られた予備発泡粒子を成形型のキャビティ内に充填して加熱、発泡させて得られたものなので、環境や生物に対する安全性が高い難燃剤を用いて十分な難燃性能を有し、機械強度・寸法安定性にも優れた貯湯タンク用断熱材を提供することができる。
【0022】
本発明の貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法によれば、前述したように優れた効果を有する貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を効率よく製造することができる。特に、本発明の製造方法によれば、スチレン系モノマー、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、ノルマルプロピルベンゼン、キシレン、トルエン、ベンゼンからなる芳香族有機化合物の含有量が低い貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を高効率で製造することができる。
また、本発明の貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法において、樹脂中に所定濃度で前記難燃剤を含むマスターバッチ材を前記ポリスチレン系樹脂とともに樹脂供給装置内に供給し、該装置内で溶融混練することによって、難燃剤をより均一に樹脂粒子に含有させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法に用いられる製造装置の一例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
本発明の貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法は、樹脂供給装置内でポリスチレン系樹脂に、分子内に臭素原子を有し、臭素分含有量が70質量%未満であり、分子内にベンゼン環を有し、且つ該難燃剤の5質量%分解温度が200〜300℃の範囲内である難燃剤及び発泡剤を添加、混練し、難燃剤・発泡剤含有の溶融樹脂を樹脂供給装置先端に付設されたダイの小孔から直接冷却用液体中に押し出し、押し出すと同時に押出物を切断するとともに、押出物を液体との接触により冷却固化して発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を製造する方法において、スチレン系モノマー、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、ノルマルプロピルベンゼン、キシレン、トルエン、ベンゼンからなる芳香族有機化合物を使用せずに発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得ることを特徴としている。
【0025】
図1は、本発明の貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法に用いられる製造装置の一例を示す構成図であり、本例の製造装置は、樹脂供給装置としての押出機1と、押出機1の先端に取り付けられた多数の小孔を有するダイ2と、押出機1内に樹脂原料等を投入する原料供給ホッパー3と、押出機1内の溶融樹脂に発泡剤供給口5を通して発泡剤を圧入する高圧ポンプ4と、ダイ2の小孔が穿設された樹脂吐出面に冷却水を接触させるように設けられ、室内に冷却水が循環供給されるカッティング室7と、ダイ2の小孔から押し出された樹脂を切断できるようにカッティング室7内に回転可能に設けられたカッター6と、カッティング室7から冷却水の流れに同伴して運ばれる発泡性粒子を冷却水と分離すると共に脱水乾燥して発泡性粒子を得る固液分離機能付き脱水乾燥機10と、固液分離機能付き脱水乾燥機10にて分離された冷却水を溜める水槽8と、この水槽8内の冷却水をカッティング室7に送る高圧ポンプ9と、固液分離機能付き脱水乾燥機10にて脱水乾燥された発泡性粒子を貯留する貯留容器11とを備えて構成されている。
【0026】
なお、押出機1としては、スクリュを用いる押出機またはスクリュを用いない押出機のいずれも用いることができる。スクリュを用いる押出機としては、例えば、単軸式押出機、多軸式押出機、ベント式押出機、タンデム式押出機などが挙げられる。スクリュを用いない押出機としては、例えば、プランジャ式押出機、ギアポンプ式押出機などが挙げられる。また、いずれの押出機もスタティックミキサーを用いることができる。これらの押出機のうち、生産性の面からスクリュを用いた押出機が好ましい。また、カッター6を収容したカッティング室7も、樹脂の溶融押出による造粒方法において用いられている従来周知のものを用いることができる。
【0027】
本発明の貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子において、ポリスチレン系樹脂としては、特に限定されず、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン、エチルスチレン、i−プロピルスチレン、ジメチルスチレン、ブロモスチレン等のスチレン系モノマーの単独重合体又はこれらの共重合体等が挙げられ、スチレンを50質量%以上含有するポリスチレン系樹脂が好ましく、ポリスチレンがより好ましい。
【0028】
また、前記ポリスチレン系樹脂としては、前記スチレンモノマーを主成分とする、前記スチレン系モノマーとこのスチレン系モノマーと共重合可能なビニルモノマーとの共重合体であってもよく、このようなビニルモノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、ジメチルマレエート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、エチルフマレートの他、ジビニルベンゼン、アルキレングリコールジメタクリレートなどの二官能性モノマーなどが挙げられる。
【0029】
また、ポリスチレン系樹脂が主成分であれば、他の樹脂を添加してもよく、添加する樹脂としては、例えば、発泡成形体の耐衝撃性を向上させるために、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、エチレン−プロピレン−非共役ジエン三次元共重合体などのジエン系のゴム状重合体を添加したゴム変性ポリスチレン系樹脂、いわゆるハイインパクトポリスチレンが挙げられる。あるいは、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、アクリル系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体などが挙げられる。
【0030】
本発明の貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子において、原料となるポリスチレン系樹脂としては、市販されている通常のポリスチレン系樹脂、懸濁重合法などの方法で新たに作製したポリスチレン系樹脂などの、リサイクル原料でないポリスチレン系樹脂(バージンポリスチレン)を使用できる他、使用済みのポリスチレン系樹脂発泡成形体を再生処理して得られたリサイクル原料を使用することができる。このリサイクル原料としては、使用済みのポリスチレン系樹脂発泡成形体、例えば、魚箱、家電緩衝材、食品包装用トレーなどを回収し、リモネン溶解方式や加熱減容方式によって再生したリサイクル原料の中から、重量平均分子量Mwが12万〜40万の範囲となる原料を適宜選択し、又は重量平均分子量Mwが異なる複数のリサイクル原料を適宜組み合わせて用いることができる。
【0031】
本発明の貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子において、難燃剤としては、分子内に臭素原子を有し、臭素分含有量が70質量%未満であり、分子内にベンゼン環を有し、且つ該難燃剤の5質量%分解温度が200〜300℃の範囲内である難燃剤が用いられ、前記難燃剤の1種又は2種以上を混合して、或いは、前記難燃剤を主体として、それに他の難燃剤を組み合わせて使用してもよい。
臭素分含有量が70質量%を超え、分子内にベンゼン環を有さない難燃剤は、環境や生物に対する安全性が高い難燃剤となり難く、また機械強度・成形性・外観にも優れた貯湯タンク用断熱材を提供するという本発明の効果を達成し難くなる。臭素分含有量の下限は特に限定しないが50質量%以上であれば難燃効率が良いので好ましい。臭素分含有量のより好ましい範囲は55〜69質量%である。
また、該難燃剤の5質量%分解温度が200℃未満であると、難燃剤とポリスチレン系樹脂とを押出機1内で溶融混練する際に、難燃剤が分解して難燃効果が得られなくなる恐れがある。5質量%分解温度が300℃を超える難燃剤を用いた場合には、得られる貯湯タンク用断熱材の難燃性が低下してしまう。該難燃剤の5質量%分解温度の好ましい範囲は230〜300℃であり、より好ましい範囲は240〜295℃であり、最も好ましい範囲は265〜290℃である。
【0032】
本発明において、好ましい難燃剤としては、テトラブロモビスフェノールAまたはその誘導体からなる群から選択される1種又は2種以上が挙げられる。これらの難燃剤の中でも、特に、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ビス(アリルエーテル)からなる群から選択される1種又は2種以上であることが好ましい。5%分解温度が高いテトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)がより好ましく、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)が最も好ましい。
本発明の貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子において、前記難燃剤の添加量は、貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の樹脂分100質量部に対して0.5〜8.0質量%の範囲とすることが好ましく、1.0〜6.0質量%の範囲が更に好ましい。難燃剤の添加量が前記範囲未満であると、得られる貯湯タンク用断熱材の難燃性が低下してしまう。難燃剤の添加量が前記範囲を超えると、得られる貯湯タンク用断熱材の機械強度・成形性・寸法安定性が劣化してしまう恐れがある。
【0033】
本発明の貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子において、発泡剤としては特に限定されないが、例えば、ノルマルペンタン、イソペンタン、シクロペンタン、シクロペンタジエン等を単独で、もしくは2種以上混合して使用することができる。また、前記ペンタン類を主成分として、ノルマルブタン、イソブタン、プロパン等を混合して使用することもできる。特にペンタン類は、ダイの小孔から水流中に吐出される際の樹脂粒子の発泡を抑制しやすいので好適に用いられる。ポリスチレン系樹脂に含有させる前記発泡剤の量は、ポリスチレン系樹脂100質量部に対し、3〜10質量部の範囲であり、より好ましくは4〜7質量部の範囲である。
【0034】
本発明の貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、必要に応じて前記難燃剤及び発泡剤以外にも、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造において一般的に使用されている他の添加剤、例えば、タルク、珪酸カルシウム、合成あるいは天然に産出される二酸化ケイ素、エチレンビスステアリン酸アミド、メタクリル酸エステル系共重合体等の発泡核剤、ジフェニルアルカン、ジフェニルアルケン等の難燃助剤、カーボンブラック、酸化鉄、グラファイト等の着色剤、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等の酸化防止剤、ヒンダードアミン類等の安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤などの添加剤を、ポリスチレン系樹脂中に添加することができる。
【0035】
図1に示す製造装置を用い、本発明の貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を製造するには、まず、原料のポリスチレン系樹脂、前記難燃剤、発泡核剤、必要に応じて添加される所望の添加剤を秤量し、原料供給ホッパー3から押出機1内に投入する。原料のポリスチレン系樹脂は、ペレット状や顆粒状にして事前に良く混合してから1つの原料供給ホッパーから投入してもよいし、あるいは例えば複数のロットを用いる場合は各ロットごとに供給量を調整した複数の原料供給ホッパーから投入し、押出機内でそれらを混合してもよい。また、複数のロットのリサイクル原料を組み合わせて使用する場合には、複数のロットの原料を事前に良く混合し、磁気選別や篩分け、比重選別、送風選別などの適当な選別手段により異物を除去しておくことが好ましい。
【0036】
本発明の好ましい実施形態において、前記難燃剤を添加する場合、樹脂中に所定濃度で難燃剤を含むマスターバッチ材を用い、これをポリスチレン系樹脂とともに樹脂供給装置内に供給し、該装置内で溶融混練することが好ましい。樹脂中に所定濃度で前記難燃剤を含むマスターバッチ材を前記ポリスチレン系樹脂とともに樹脂供給装置内に供給し、該装置内で溶融混練することによって、難燃剤をより均一に樹脂粒子に含有させることができる。
【0037】
押出機1内にポリスチレン系樹脂と難燃剤、さらに発泡助剤やその他の添加剤を供給後、樹脂を加熱溶融し、その難燃剤含有溶融樹脂をダイ2側に移送しながら、発泡剤供給口5から高圧ポンプ4によって発泡剤を圧入し、難燃剤含有溶融樹脂に発泡剤を混合し、押出機1内に必要に応じて設けられる異物除去用のスクリーンを通して、溶融物をさらに混練しながら先端側に移動させ、発泡剤を添加した溶融物を押出機1の先端に付設したダイ2の小孔から押し出す。
【0038】
ダイ2の小孔が穿設された樹脂吐出面は、室内に冷却水が循環供給されるカッティング室7内に配置され、且つカッティング室7内には、ダイ2の小孔から押し出された樹脂を切断できるようにカッター6が回転可能に設けられている。発泡剤添加済みの溶融物を押出機1の先端に付設したダイ2の小孔から押し出すと、溶融物は粒状に切断され、同時に冷却水と接触して急冷され、発泡が抑えられたまま固化して貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子となる。
【0039】
形成された貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、カッティング室7から冷却水の流れに同伴して固液分離機能付き脱水乾燥機10に運ばれ、ここで貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を冷却水と分離すると共に脱水乾燥する。乾燥された貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、貯留容器11に貯留される。
【0040】
前述したように製造された貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、難燃剤及び発泡剤を含有するポリスチレン系樹脂を粒子状としてなり、前記難燃剤は、分子内に臭素原子を有し、臭素分含有量が70質量%未満であり、分子内にベンゼン環を有し、且つ該難燃剤の5質量%分解温度が200〜300℃の範囲内であることを特徴とする。
【0041】
本発明の貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、前記難燃剤が樹脂粒子内に均一に含有されている。本発明の貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子において、均一に含有されていないと、得られる発泡成形体(貯湯タンク用断熱材)の機械強度、成形性、寸法安定性及び難燃性が劣る恐れがある。
【0042】
本発明の貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子に用いる前記難燃剤は、環境や生物に対する安全性が高いものであり、特に、テトラブロモビスフェノールA誘導体は、ポリスチレン系樹脂発泡成形体に添加した場合に十分な難燃性能を付与でき、環境や生物に対する安全性が高い。
本発明の貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、樹脂粒子中に難燃剤が均一に存在しており、樹脂粒子中に難燃剤が不均一に存在しているものと比べ、得られる難燃性ポリスチレン系樹脂発泡成形体の機械強度が高くなり、成形性や寸法安定性にも優れた発泡成形体が得られる。
【0043】
本発明に係る製造方法において、原料であるポリスチレン系樹脂として、スチレン系モノマー、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、ノルマルプロピルベンゼン、キシレン、トルエン、ベンゼンからなる芳香族有機化合物の含有量が低い樹脂原料を選択すれば、製造工程中で前記芳香族有機化合物を混入させることなく発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得ることができるので、得られた貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、前記芳香族有機化合物の含有総量を500ppm未満とすることができる。前記芳香族有機化合物の含有総量は、450ppm以下であることがより好ましく、400ppm以下であることが更に好ましい。前記芳香族有機化合物の含有総量が低ければ、得られる貯湯タンク用断熱材の機械強度が高くなり、寸法変化率が低いものとなる。また、近年要望されているシックハウス症候群への対応が可能となり、住宅に隣接して設けられることの多い貯湯タンク用の断熱材として好適なものとなる。
【0044】
なお、本発明において、前記芳香族有機化合物の含有総量は、次の<揮発性有機化合物(VOC)含有量の測定方法>により測定した値である。
<揮発性有機化合物(VOC)含有量の測定方法>
発泡性ポリスチレン系樹脂粒子1gを精秤し、0.1体積%のシクロペンタノールを含有するジメチルホルムアミド溶液1mlを内部標準液として加えた後、更にジメチルホルムアミド溶液にジメチルホルムアミドを加えて25mlとして測定溶液を作製し、この測定溶液1.8μlを230℃の試料気化室に供給してガスクロマトグラフで検出された各揮発性有機化合物のチャートを得た。そして予め測定しておいた、各揮発性有機化合物の検量線に基づいて、各チャートから揮発性有機化合物量をそれぞれ算出し、発泡性ポリスチレン樹脂粒子中の揮発性有機化合物量を算出した。
なお、本発明では、前述した揮発性有機化合物(VOC)含有量のうち、前記芳香族有機化合物に該当する各揮発性有機化合物量の合計量を「芳香族有機化合物の含有総量」としている。
【0045】
前述した本発明に係る製造方法により得られた貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、発泡樹脂成形体の製造分野において周知の装置及び手法を用い、水蒸気加熱等により加熱して予備発泡し、貯湯タンク用断熱材製造用予備発泡粒子(以下、予備発泡粒子と記す)とする。この予備発泡粒子は、製造するべき発泡成形体(貯湯タンク用断熱材)の密度と同等の嵩密度となるように予備発泡される。本発明において、その嵩密度は限定されないが、通常は0.010〜0.050g/cmの範囲内とし、0.015〜0.033g/cmの範囲内とするのが好ましい。
【0046】
なお、本発明において予備発泡粒子の嵩密度とは、次のようにして測定されたものをいう。
<予備発泡粒子の嵩密度と嵩発泡倍数>
先ず、予備発泡粒子を測定試料としてWg採取し、この測定試料をメスシリンダー内に自然落下させた後、メスシリンダーの底をたたいて試料の見掛け体積(V)cmを一定にし、その質量と体積を測定し、下記式に基づいて予備発泡粒子の嵩密度を測定する。
嵩密度(g/cm)=測定試料の質量(W)/測定試料の体積(V)
また、予備発泡粒子の嵩発泡倍数は次式により算出される数値である。
嵩発泡倍数(倍)=1/嵩密度(g/cm
【0047】
前記予備発泡粒子は、発泡樹脂成形体の製造分野において周知の装置及び手法を用い、該予備発泡粒子を成形型のキャビティ内に充填し、水蒸気加熱等により加熱して型内発泡成形し、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡成形体からなる貯湯タンク用断熱材を製造する。
本発明の貯湯タンク用断熱材の密度は特に限定されないが、通常は0.010〜0.050g/cmの範囲内とし、0.015〜0.033g/cmの範囲内とするのが好ましい。
【0048】
なお、本発明において貯湯タンク用断熱材の密度とは、JIS K7122:1999「発泡プラスチック及びゴム−見掛け密度の測定」記載の方法で測定した発泡成形体の密度のことである。
<発泡成形体の密度と発泡倍数>
50cm以上(半硬質および軟質材料の場合は100cm以上)の試験片を材料の元のセル構造を変えない様に切断し、その質量を測定し、次式により算出した。
密度(g/cm)=試験片質量(g)/試験片体積(cm
試験片状態調節、測定用試験片は、成形後72時間以上経過した試料から切り取り、23℃±2℃×50%±5%または27℃±2℃×65%±5%の雰囲気条件に16時間以上放置したものである。
また、発泡成形体の発泡倍数は次式により算出される数値である。
発泡倍数(倍)=1/密度(g/cm
【0049】
本発明の貯湯タンク用断熱材は、発泡倍数50倍の発泡成形体について、気泡の平均弦長が50〜350μmの範囲であることが好ましく、60〜300μmの範囲がより好ましい。なお、本発明において気泡の平均弦長とは、下記の方法で測定した発泡成形体の気泡の平均弦長のことである。
<平均弦長>
発泡成形体の気泡の平均弦長は、ASTM D2842−69の試験方法に準拠して測定されたものをいう。具体的には、発泡成形体を略二等分となるように切断し、切断面を走査型電子顕微鏡(日立製作所社製 商品名「S−3000N])を用いて100倍に拡大して撮影する。撮影した画像をA4用紙に印刷し、任意の箇所に長さ60mmの直線を一本描き、この直線上に存在する気泡数から気泡の平均弦長(t)を下記式より算出する。
平均弦長t=60/(気泡数×写真の倍率)
なお、直線を描くにあたり、直線が気泡に点接触してしまう場合には、この気泡も気泡数に含め、更に、直線の両端部が気泡を貫通することもなく、気泡内に位置した状態となる場合には、直線の両端部が位置している気泡も気泡数に含める。更に、撮影した画像の任意の5箇所において上述と同様の要領で平均弦長を算出し、これらの平均弦長の相加平均値を発泡成形体の気泡の平均弦長とする。
【実施例】
【0050】
[実施例1]
(発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造)
基材樹脂としてポリスチレン樹脂(東洋スチレン社製、商品名「HRM−10N」)と、スチレン−メタクリル酸共重合樹脂(東洋スチレン社製、商品名「T−080」)を質量比50:50で配合した樹脂100質量部に対して、難燃剤としてテトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)(第一工業製薬社製)を50質量%含むポリスチレン樹脂マスターバッチ7質量部(難燃剤量で3.5質量部相当)、微粉末タルク0.3質量部を、予めタンブラーミキサーにて均一に混合したものを、時間当たり160kg/hrの割合で口径90mmの単軸押出機内へ供給し、樹脂を加熱溶融させた後、発泡剤として樹脂100質量部に対して6質量部のイソペンタンを押出機途中より圧入した。そして、押出機内で樹脂と発泡剤を混練しつつ、押出機先端部での樹脂温度が190℃となるように冷却しながら、押出機に連接しヒーターにより320℃に保持した、直径0.6mm、ランド長さ3.0mmのノズルを200個有する造粒用ダイスを通して、50℃の冷却水が循環するチャンバー内に押し出すと同時に、円周方向に10枚の刃を有する高速回転カッターをダイスに密着させて、毎分3000回転で切断し、脱水乾燥して球形の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得た。得られた発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は変形、ヒゲ等の発生もなく、平均粒径は1.1mmであった。
得られた発泡性ポリスチレン系樹脂粒子100質量部に対して、ポリエチレングリコール0.03質量部、ステアリン酸亜鉛0.15質量部、ステアリン酸モノグリセライド0.05質量部、ヒドロキシステアリン酸トリグリセライド0.05質量部を発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の表面全面に均一に被覆した。
【0051】
(発泡成形体の製造)
前記の通り製造した発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、15℃の保冷庫中に入れ、72時間に亘って放置した後、円筒型バッチ式予備発泡機に供給して、吹き込み圧0.1MPaの水蒸気により加熱し、予備発泡粒子を得た。得られた予備発泡粒子は、嵩密度0.020g/cm(嵩発泡倍数50倍)であった。続いて、得られた予備発泡粒子を室温雰囲気下、24時間に亘って放置した後、長さ400mm×幅300mm×高さ25mmの長方形状のキャビティを有する成形型内に予備発泡粒子を充填し、その後、成形型のキャビティ内を水蒸気でゲージ圧1.0MPaの圧力で20秒間に亘って加熱し、その後、成形型のキャビティ内の圧力が0.15MPaになるまで冷却し、その後成形型を開き、長さ400mm×幅300mm×高さ50mmの長方形状の発泡成形体を取り出した。得られた発泡成形体は、密度0.020g/cm(成形倍数50倍)であった。
【0052】
前述した通り製造した実施例1の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子、予備発泡粒子及び発泡成形体について、以下の評価試験を行った。
【0053】
<難燃剤の分解温度の測定>
難燃剤を20mg採取して試料とし、示差熱・熱量同時測定装置 TG/DTA 300型(セイコー電子工業社製)を用いて、窒素ガス量30ミリリットル/分、加熱温度10℃/分、測定温度30〜800℃の条件下にて試料の質量減少率を測定し、縦軸に試料の質量減少率を、横軸に温度をとったグラフを得る。そして、得られたグラフに基づいて、試料の質量減少率が5%に達した時の温度を5質量%分解温度とした。
【0054】
<ビーズ発泡性の評価>
実施例(及び比較例)で得られた発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を15℃の保冷庫に72時間保管した後、これを円筒型バッチ式予備発泡機に供給して、吹き込み蒸気圧0.1MPaの水蒸気により3分間に亘って加熱し、得られた予備発泡粒子の嵩発泡倍数を下記の通り測定し、次の評価基準:
嵩発泡倍数50倍以上を○、
嵩発泡倍数40倍以上50倍未満を△、
嵩発泡倍数40倍未満を×、に照らし、ビーズ発泡性の評価を行った。
【0055】
<難燃性>
発泡成形体から200mm×25mm×10mmの大きさの試験サンプル5個をバーチカルカッターにて切り出し、60℃オーブンで1日間養生後、JISA9511−2006の測定方法Aに準じて測定を行い、5個の平均値を求め、消炎時間とした。なお、このJIS規格では消炎時間が3秒以内である必要があり、2秒以内であればより好ましく、1秒以内であればさらに好ましい。
○(合格)・・・消炎時間が3秒以内であり、5個のサンプル全てにおいて、残じんがなく燃焼限界指示線を超えて燃焼しない。
×(不合格)・・・ 消炎時間が3秒を超えているか、サンプルの1個でも残じんがあるか燃焼限界指示線を超えて燃焼する。
【0056】
<発泡成形体の外観評価>
上記ポリスチレン系樹脂予備発泡粒子を発泡成形機の金型に充填し、水蒸気を用いて二次発泡させることによって長さ400mm、幅300mm、厚み50mmの直方体状の発泡成形体を得た。
発泡成形体の外観を目視観察し、下記の基準に基づいて評価をした。
◎(極めて良):発泡粒子間の間隙がなく、表面が極めて平滑な状態である。
○(良):発泡粒子間の間隙がなく、表面が平滑な状態である。
△(やや良):発泡粒子間の間隙が少なく、表面の平滑が少し劣る。
×(不良):発泡粒子間の間隙が大きく、表面の平滑がかなり劣る。
【0057】
<加熱寸法変化率>
長さ400mm、幅300mm、厚み25mmの平板形状の発泡成形体を成形金型から取り出し、温度23℃、相対湿度50%の恒温恒湿室(JIS−K7100の標準温湿度状態)に24時間放置した後、この発泡成形体の中央部から上下面が平行で正方形状の平板(長さ150mm、巾150mm、厚み25mm)を切り出し、その中央部に縦及び横方向にそれぞれ互いに平行に3本の直線を50mm間隔になるように記入して、JIS−K6767に従う試験片とした。この試験片の寸法(加熱前寸法:L2)を測定した後、90℃に保った熱風循環式乾燥機の中に水平に置き、168時間加熱した後に取り出し、再び恒温恒湿室に1時間放置し、試験片の寸法(加熱後寸法:L2)を測定した。加熱試験の前後における寸法測定はJIS−K6767に従って行い、寸法変化率は次の式に従って求めた。
寸法変化率(%)=(L2−L1)×100/L1
(但し、L1は、型内成形後に23℃、相対湿度50%で24時間放置された発泡成形体から得られた試験片の寸法、L2は該成形体を90℃で168時間加熱した後の試験片の寸法である)
なお、寸法とは、発泡成形体から得られた試験片に記入した縦横それぞれ3本の直線の長さの平均値である。
加熱寸法変化率は、−0.5%以上、+0.5%未満が良(○)、−1.0%以上、−0.5%未満がやや良(△)、+0.5%以上、+1.0%未満がやや良(△)、−1.0%未満が不良(×)、+1.0%以上が不良(×)として評価した。
【0058】
<総合評価>
前記<ビーズ発泡性の評価>、<難燃性>、<発泡成形体の外観評価>及び<加熱寸法変化率>の各評価項目について、不良(×)が無いものを良(○)とし、1つ以上不良(×)が有るものを不良(×)として総合評価した。
【0059】
[実施例2]
難燃剤として、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)(第一工業製薬社製)を同量用いたこと以外は、実施例1と同様にして発泡倍数50倍の発泡成形体を製造した。
【0060】
[実施例3]
難燃剤として、テトラブロモビスフェノールA−ビス(アリルエーテル)(第一工業製薬社製)を同量用いたこと以外は、実施例1と同様にして発泡倍数50倍の発泡成形体を製造した。
【0061】
[実施例4]
難燃剤として、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)3.2質量部、テトラブロモビスフェノールA−ビス(アリルエーテル)0.3質量部を混合して用いたこと以外は、実施例1と同様にして発泡倍数50倍の発泡成形体を製造した。
【0062】
[比較例1]
難燃剤として、ヘキサブロモシクロドデカン(第一工業製薬社製)を同量用いたこと以外は、実施例1と同様にして発泡成形体を製造した。
【0063】
[比較例2]
難燃剤として、トリス−(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート(日本化成社製)を同量用いたこと以外は、実施例1と同様にして発泡成形体を製造した。
【0064】
[比較例3]
難燃剤として、ペンタブロモベンジルアクリレート(第一工業製薬社製)を同量用いたこと以外は、実施例1と同様にして発泡成形体を製造した。
【0065】
[比較例4]
難燃剤として、トリス(トリブロモネオペンチル)フォスフェート(大八化学社製)を同量用いたこと以外は、実施例1と同様にして発泡成形体を製造した。
【0066】
前記実施例1〜4及び比較例1〜4で用いた難燃剤の臭素分含有量、難燃剤分子中ベンゼン環の有無、5質量%分解温度を表1にまとめて記す。
また、前記実施例1〜4及び比較例1〜4の測定・評価結果を表2にまとめて記す。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
表1,2の結果より、実施例分子内に臭素原子を有し、臭素分含有量が70質量%未満であり、分子内にベンゼン環を有し、且つ該難燃剤の5質量%分解温度が200〜300℃の範囲内である難燃剤A〜Cを用いた、本発明に係る実施例1〜4は、ビーズ発泡性、難燃性及び発泡体の外観がいずれも良好であった。
一方、臭素分含有量が75質量%と多く、分子中にベンゼン環の無い難燃剤Dを用いた比較例1は、ビーズ発泡性が不良となり、発泡体の外観もやや劣っていた。
また、分子中にベンゼン環の無い難燃剤Eを用いた比較例2は、ビーズ発泡性が不良となり、発泡体の外観も不良となった。
また、臭素分含有量が75質量%と多く、5質量%分解温度が300℃を超える難燃剤Fを用いた比較例3は、ビーズ発泡性がやや不良であり、難燃性が不良であり、発泡体の外観がやや不良となった。
また、臭素分含有量が75質量%と多く、分子中にベンゼン環が無く、5質量%分解温度が300℃を超える難燃剤Gを用いた比較例4は、ビーズ発泡性、難燃性、発泡体の外観のいずれも不良となった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、環境適合性及び難燃性に優れた貯湯タンク用断熱材、その製造に用いられる貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子とその製造方法に関する。本発明の貯湯タンク用断熱材は、例えば、ヒートポンプ式給湯器の貯湯タンク用断熱材などに用いられる。
【符号の説明】
【0071】
1…押出機(樹脂供給装置)、2…ダイ、3…原料供給ホッパー、4…高圧ポンプ、5…発泡剤供給口、6…カッター、7…カッティング室、8…水槽、9…高圧ポンプ、10…固液分離機能付き脱水乾燥機、11…貯留容器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
難燃剤及び発泡剤を含有するポリスチレン系樹脂を粒子状としてなる貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子であって、
前記難燃剤は、分子内に臭素原子を有し、臭素分含有量が70質量%未満であり、分子内にベンゼン環を有し、且つ該難燃剤の5質量%分解温度が200〜300℃の範囲内であり、
樹脂供給装置内でポリスチレン系樹脂に難燃剤及び発泡剤を添加、混練し、難燃剤・発泡剤含有の溶融樹脂を樹脂供給装置先端に付設されたダイの小孔から直接冷却用液体中に押し出し、押し出すと同時に押出物を切断するとともに、押出物を液体との接触により冷却固化して発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得る溶融押出法により得られたものであることを特徴とする貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。
【請求項2】
スチレン系モノマー、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、ノルマルプロピルベンゼン、キシレン、トルエン、ベンゼンからなる芳香族有機化合物の含有総量が500ppm未満である請求項1に記載の貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。
【請求項3】
前記難燃剤が、テトラブロモビスフェノールAまたはその誘導体からなる群から選択される1種又は2種以上である請求項1又は2に記載の貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。
【請求項4】
前記難燃剤が、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ビス(アリルエーテル)からなる群から選択される1種又は2種以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を加熱して得られた貯湯タンク用断熱材製造用予備発泡粒子。
【請求項6】
請求項5に記載の貯湯タンク用断熱材製造用予備発泡粒子を成形型のキャビティ内に充填して加熱、発泡させて得られ、密度が0.010〜0.050g/cmの範囲である貯湯タンク用断熱材。
【請求項7】
請求項5に記載の貯湯タンク用断熱材製造用予備発泡粒子を成形型のキャビティ内に充填して加熱、発泡させて得られ、発泡倍数50倍の発泡成形体について、気泡の平均弦長が50〜350μmの範囲である貯湯タンク用断熱材。
【請求項8】
樹脂供給装置内でポリスチレン系樹脂に、分子内に臭素原子を有し、臭素分含有量が70質量%未満であり、分子内にベンゼン環を有し、且つ該難燃剤の5質量%分解温度が200〜300℃の範囲内である難燃剤及び発泡剤を添加、混練し、難燃剤・発泡剤含有の溶融樹脂を樹脂供給装置先端に付設されたダイの小孔から直接冷却用液体中に押し出し、押し出すと同時に押出物を切断するとともに、押出物を液体との接触により冷却固化して発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を製造する方法において、スチレン系モノマー、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、ノルマルプロピルベンゼン、キシレン、トルエン、ベンゼンからなる芳香族有機化合物を使用せずに請求項1又は2に記載の貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得ることを特徴とする貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法。
【請求項9】
前記難燃剤が、テトラブロモビスフェノールAまたはその誘導体からなる群から選択される1種又は2種以上である請求項8に記載の貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法。
【請求項10】
前記難燃剤が、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ビス(アリルエーテル)からなる群から選択される1種又は2種以上である請求項9に記載の貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法。
【請求項11】
樹脂中に所定濃度で前記難燃剤を含むマスターバッチ材を前記ポリスチレン系樹脂とともに樹脂供給装置内に供給し、該装置内で溶融混練する請求項8〜10のいずれか1項に記載の貯湯タンク用断熱材製造用発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−93952(P2011−93952A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−246295(P2009−246295)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】