説明

貯蔵安定性のある小麦粉ベースの液状冷凍ケーキミックス生地の製造方法

【課題】冷凍及び冷蔵による貯蔵安定性があり、製品価値を低下させることなく冷凍及び冷蔵貯蔵でき、無駄なく使い切ることができる液状の冷凍ケーキミックス生地の製造方法を提供する。
【解決手段】小麦粉をベースとし、その他の原材料を混合してなる液状ケーキミックス生地に、脂肪酸、油脂及びショ糖脂肪酸等の乳化剤を使用した遅効性の膨脹剤をさらに融点が10〜40℃となるように植物油脂もしくは動物油脂を2種以上ブレンドして調整したブレンド油脂に分散したものを添加混合後に冷凍する。増粘多糖類の少なくとも1種を生地に添加することが、求める生地の粘度を安定し実現するのに好適であり、更には、ゴム風船、もしくは耐熱性カップ状容器などに入れて冷凍をすることが貯蔵安定性向上に効果的である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホットケーキ及びパンケーキなどの小麦粉をベースとする液状の冷凍ケーキミックス生地に関し、更に詳しくは貯蔵安定性、特に冷蔵安定性があり、製品価値を低下させることなく冷蔵貯蔵でき、無駄なく使い切ることができる液状の冷凍ケーキミックス生地の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にホットケーキ及びパンケーキなどの製造に際しては膨張剤を添加することが通常である。
ここでいう膨脹剤とは、パンおよび菓子その他の食品等の製造工程で添加し、1種または2種類以上の成分による化学変化によって発生する炭酸ガス、もしくはアンモニアガスの力で生地を膨脹させ、多孔性にするとともに、食感を向上させる食品添加物およびその製剤をいう。
なお、膨脹剤は同義の表示として膨張剤、ベーキングパウダー又はふくらし粉とも表示されることがあるが、本発明では以下、膨脹剤と表記するものとする。
【0003】
膨脹剤は、炭酸水素ナトリウム(重曹)に、グルコノデルタラクトン、酒石酸水素カリウム、リン酸カルシウム等の助剤を添加したもので、助剤の種類により反応する温度やガスの発生時間の持続性が調整されている。
膨脹剤は水分との接触により水溶液となり、65℃以上で急速に化学反応が進み、ガスを発生するものであるが、膨脹剤を生地に加えた場合、周辺に水分が必然的に存在するために、緩やかにではあるものの化学反応が開始され、ガスの発生が進行してしまう。
このため、この反応を遅らせる目的で、何らかの物質でコーティングした遅効性のベーキングパウダー(特許文献1)をはじめとするコーティング技術が従来技術として知られる。
【0004】
しかしながら、既存のコーティング技術を用いた遅効性膨脹剤を使用した場合、冷凍保管中は反応が進行しない効果があるが、これを解凍して冷蔵保管にするとすぐに化学反応を開始し、1日程度で反応が終了し、生地が分離をしたり味が変わったり等の変化をして製品価値がなくなってしまうため、解凍後はすぐに焼成してしまう必要があった。
すなわち、特許文献1の遅効性のベーキングパウダーは生地に入れたときの化学反応の開始を遅らせ、焼成時の効果的なガス発生を保証するものではあったが、水分の多く含まれる液状生地に入れる際には、前記のように十分な効果を見せるものではなかった。
したがって、従来はミックス粉を粉状の状態で流通させ水分と接触しないようにし、使用する際に水分を添加し、これを短時間に使い切ることで対応をしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−333591
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前述した問題点を鑑み提案するものであり、水分の多く含まれる液状生地においても製品価値を低下させることなく冷凍及び冷蔵貯蔵でき、無駄なく使い切ることができる液状の冷凍ケーキミックス生地を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は小麦粉をベースとし、卵、油脂、砂糖、牛乳等の原材料を混合してなるホットケーキ又はパンケーキなどの液状ケーキミックス生地であって、脂肪酸、油脂及びショ糖脂肪酸等の乳化剤を使用した遅効性の膨脹剤をさらに融点が10〜40℃となるように植物油脂もしくは動物油脂を2種以上ブレンドして調整したブレンド油脂に分散して配合した後に冷凍することで、水分の存在下でもその反応を抑制して、膨脹剤の効果が長時間持続するようにしたことを特徴とするものである。
【0008】
あらかじめ遅効性にした膨脹剤を更にブレンド油脂に分散して調整をすることで、遅効性膨脹剤にコーティングした高級脂肪酸およびショ糖脂肪酸エステル等の乳化剤がブレンド油脂になじむため、水分との接触がなくなり、反応が更に進行しにくくなる。
この調整油脂は、融点が0〜10℃の液体油脂の場合、冷蔵保管中であっても油脂が溶解し、膨脹剤が水分と接触をしてしまう。また、融点が40℃以上の場合、パンケーキやホットケーキの生地を作る際に練りこむと、油脂の塊が入ってしまい、滑らかな生地にならない。塊が入らないように温度を上げて溶解するとその時点で膨脹剤が水分に接触してしまう。
よって、融点が10〜40℃に調整をすることで膨脹剤を十分に吸着し、その機能を効果的に抑制することができる。
【0009】
このとき、融点が0〜60℃の植物油脂もしくは動物油脂を2種類以上ブレンドし、固体脂指数(SFC・以下SFCと表記する)が10℃で20〜50、20℃で10〜30、30℃で5〜15となるように調整したものとすることにより融点を10〜40℃に調整することができる。油脂単体ではこのSFCを実現することは難しく、2種類以上の複数油脂をブレンドして調整することが必要になるものであり、このブレンド技術に本発明の大きな特徴があるものである。
【0010】
更にキサンタンガム、グアーガム、アラビアガム、ローカストビーンガムのうち少なくとも一つの増粘多糖類を生地に添加することが、求める生地の粘度を安定し実現するのに好適である。
【0011】
更には、ゴム風船に充填して球体の形状、もしくは、耐熱性カップ状容器などに入れて角となる部分の少ない形状で冷凍をすることにより、冷凍によるダメージを少なくし、膨脹剤の冷凍及び冷蔵時の安定化という本発明の目的の更なる達成を図ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、その構成により貯蔵安定性のある生地を作ることができるものであり、冷凍時のみならず解凍後の冷蔵保管時の貯蔵安定性を向上せしめることができる。
【0013】
一般消費者やレストラン、喫茶店などの外食店舗においてケーキ用のミックス粉を使用するためには調理時に牛乳などの原料を準備する必要があり、更には洗いものや後始末に手間がかかっていたが、本発明に係る全ての原材料が予め入った液状ミックス生地であれば、特に大量に準備をしない場合に、フライパンやホットプレートで焼くときに極めて手軽で便利であり、取り扱いが容易になる。
【0014】
また、飲食店での個食対応や家庭での個食化により、一度に大量にできてしまう粉体のミックス粉はロスを生み無駄が増える。本発明の液状ミックス生地であれば1食ずつ焼成をすることが容易で、出来立てで提供する飲食店や一般家庭でもロスなく作ることが可能になるものであり、利便性が高い。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の液状ケーキミックス生地の製造方法を具体的に説明する。
原材料は小麦粉をベースとし、澱粉、増粘多糖類、卵、油脂、甘味料、オリゴ糖、乳化剤、牛乳等の材料中から適宜選んで使用する。
これらを適宜選択し、適宜割合で混合して液状のケーキミックス生地を得、遅効性の膨脹剤をさらに融点が10〜40℃となるように植物油脂もしくは動物油脂を2種以上ブレンドして調整したブレンド油脂に分散したものを混合した後、ゴム風船、もしくは、耐熱性カップ状容器などに充填した状態で冷凍をするものである。
【0016】
本発明においてはベース素材として小麦粉を使用するが、使用する小麦粉はメイラード反応による黒い斑点の出にくい、グレードの高い小麦粉を使用することが日持ちの向上を実現するのに好適である。
具体的には、澱粉や灰分が100g中0.5g以下の小麦粉を使用することで、冷蔵後の日持ちが向上する。
【0017】
本発明に使用する増粘多糖類は、キサンタンガム、グアーガム、アラビアガム、ローカストビーンガムのうち少なくとも1種とすることで、求める生地の粘度を安定し実現するのに好適である。
【0018】
本発明に使用する澱粉は、小麦、米、コーンのうち少なくとも1種とすることで、求める焼き上がりの食感と日持ちの向上を実現するのに好適である。
【0019】
本発明に使用する遅効性膨脹剤は、ベーキングパウダー、膨脹剤、膨張剤、膨らし粉と表示され、化学反応によってガスを発生させる目的で使用される食品添加物を指し、脂肪酸、油脂及びショ糖脂肪酸等の乳化剤を使用して遅効性に調整されたものを使用することができる。
【0020】
本発明に使用するオリゴ糖は、澱粉およびタンパク質の老化を防ぐことを実現するのに好適である。
【0021】
本発明に使用する乳化剤は、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルのうち少なくとも1種とし、生地の安定性を高めるのに好適である。
【0022】
本発明に使用する遅効性膨脹剤のコーティング用の油脂は、食用の乳脂肪、魚油、牛脂、豚脂等の動物油脂、パーム油、菜種油、大豆油、紅花油、オリーブ油、紅花油等の植物油脂および、これらをエステル交換、硬化などした加工油脂を使用でき、これらのうち少なくとも2種以上をブレンドして、融点10〜40℃に調整して使用することにより既述のように本発明の効果を得ることができる。
このとき、SFCが10℃で20〜50、20℃で10〜30、30℃で5〜15となるように調整したものとすることによりブレンド油脂の融点を10〜40℃に容易に調整することができる。
【実施例】
【0023】
以下に実施例および比較例をあげ、この発明の効果を具体的に説明する。
比較例1(ミックス粉によるレギュラーのパンケーキ配合)
水300g、鶏卵140g、香料適量を加えて攪拌して均一にし、あらかじめ合わせておいたホットケーキミックス500g、遅効性膨脹剤22g、食塩2gを少しずつ加え均一になるように攪拌をした。さらに、菜種油20gを少しずつ加えて生地を得た。
【0024】
比較例2(生地の粘度を上げた配合)
水430g、鶏卵350g、乳化剤、香料を攪拌して均一にし、あらかじめ合わせておいた小麦粉400g、大豆粉末100g、上白糖70g、食塩7g、オリゴ糖130g、キサンタンガム0.5g、遅効性膨脹剤25gを少しずつ加え均一になるように攪拌をした。さらに、合わせておいた菜種油25gと乳脂肪9gとパーム油6gを加えて生地を得た。
【0025】
比較例3(液体油脂のみでコーティング)
水430g、鶏卵350g、乳化剤、香料を攪拌して均一にし、あらかじめ合わせておいた小麦粉480g、コーンフラワー20g、上白糖70g、食塩7g、オリゴ糖130gを少しずつ加え均一になるように攪拌をした。さらに、菜種油40gに遅効性膨脹剤30gを分散させ、少しずつ加えて生地を得た。
【0026】
比較例4(液体油脂と固形油脂とでコーティング)
水430g、鶏卵350g、乳化剤、香料を攪拌して均一にし、あらかじめ合わせておいた小麦粉480g、コーンフラワー20g、上白糖70g、食塩7g、オリゴ糖130gを少しずつ加え均一になるように攪拌をした。さらに、乳脂肪24gとパーム油16gを合わせた調整油脂に遅効性膨脹剤30gを分散させ、少しずつ加えて生地を得た。調整油脂の融点は26℃、SFCは10℃で8、20℃で4、30℃で2であった。
【0027】
実施例(液体油脂と固形油脂とでコーティングし、更に粘度をあげた)
水430g、鶏卵350g、乳化剤、香料を攪拌して均一にし、あらかじめ合わせておいた小麦粉480g、コーンフラワー20g、上白糖70g、食塩7g、オリゴ糖130g、キサンタンガム0.5gを少しずつ加え均一になるように攪拌をした。さらに、菜種油15gと乳脂肪15gとパーム油10gを合わせた調整油脂に遅効性膨脹剤30gを分散させ、少しずつ加えて生地を得た。調整油脂の融点は32℃、SFCは10℃で41、20℃で25、30℃で10であった。
【0028】
評価
比較例1〜4、及び実施例で製造したパンケーキ生地を、1週間冷凍保管をし、冷蔵庫で5時間解凍後(スタート)と、以後冷蔵保管した1日目、2日目、3日目の生地をフライパンで焼成をした際の浮きその他の項目を計測した。
なお、冷凍は−18℃、解凍は5℃の冷蔵庫、解凍後の冷蔵保管は10℃以下の冷蔵庫で実施した。フライパンの焼成温度は180度であり、片面を1分30秒焼成し、反転して1分焼成した。
評価は浮き、形状、食感、発泡、分離の5項目を以下の4段階で評価し判定した。評価基準は以下のとおりである。
非常に良い商品価値あり…4点
良い商品価値あり…3点
商品価値なし…2点
非常に悪い…1点
【0029】
比較例1の評価
【表1】

【0030】
比較例2の評価
【表2】

【0031】
比較例3の評価
【表3】

【0032】
比較例4の評価
【表4】

【0033】
実施例の評価
【表5】

【0034】
3日目の状態のみを数値で比較した。総合評価は平均値である。
【表6】

【0035】
以上の結果より、実施例による本発明品は、浮き、食感、発泡、分離において、比較例1〜4より相当程度に優位であることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉をベースとし、卵、油脂、砂糖、牛乳、その他の原材料を混合してなる液状ケーキミックス生地に、融点が10〜40℃となるように植物油脂もしくは動物油脂を2種以上ブレンドして調整したブレンド油脂に分散した遅効性膨脹剤を添加混合し、冷凍することを特徴とする液状冷凍ケーキミックス生地の製造方法。
【請求項2】
キサンタンガム、グアーガム、アラビアガム、ローカストビーンガムのうち少なくとも1種類の増粘多糖類を更に添加することを特徴とする請求項1記載の液状冷凍ケーキミックス生地の製造方法。
【請求項3】
ゴム風船もしくは耐熱性カップ状容器に充填して冷凍することを特徴とする請求項1又は2に記載の液状冷凍ケーキミックス生地の製造方法。

【公開番号】特開2012−10672(P2012−10672A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152739(P2010−152739)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(390032023)リボン食品株式会社 (2)
【Fターム(参考)】