説明

貯蔵施設

【課題】爆破片や爆風圧の作用方向を特定方向に規制できて保安距離の大幅短縮を実現できる貯蔵施設を提供すること。
【解決手段】倉庫本体と、倉庫本体の周囲を所定の土被りで覆った覆土とを具備した火薬類を貯蔵する貯蔵施設であって、前記倉庫本体の天井の一部であって、該倉庫本体の長手方向に沿って脆弱部を形成し、前記脆弱部を介して爆破片や爆風圧の作用方向を倉庫本体の真上方向に規制した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は火薬類等を貯蔵する貯蔵施設に関するものである。
【背景技術】
【0002】
火薬類等の貯蔵施設は近隣の安全確保の観点から法令で保安距離が定められている。
また貯蔵施設自体の安全性を確保するため、一般に倉庫本体を壁厚の厚いコンクリートで堅牢に構築するとともに、倉庫本体を大量の土砂で覆土して爆発時の影響を最小にする構造となっている。
一方、倉庫本体の外周全面をシート体で覆い、覆土重量を利用してシート体の浮き上りを阻止することで、爆発片の飛散と爆風圧の拡散を抑制して倉庫本体の安全性を高めた貯蔵庫が特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−195538号公報(図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の貯蔵施設にあってはつぎの問題点を有する。
<1>シート体を有しない従来の貯蔵施設では、火薬類が爆発したときに、倉庫本体の爆発片と爆風圧が広範囲に亘り拡散するおそれがある。
さらに、倉庫本体の側壁や天井の躯体厚を厚くして高強度に設計すれば、爆発片と爆風圧の影響範囲をある程度縮小できるが、倉庫本体の構築コストが嵩むといった問題があった。
<2>特許文献1に記載の貯蔵庫は、倉庫本体の上部のみに設置したシート体が爆発片および爆風の抑制効果を発揮するものの、爆発片および爆風が斜め45度の方向へ拡散するため長距離の保安距離が必要となる。
<3>一般的な貯蔵施設は倉庫本体の断面形状が矩形を呈していて、倉庫本体の水平な天版に作用した覆土の載荷重を側壁で支持する構造であるから、頂底版中央部および側壁の上下部に大きな曲げモーメントが作用する。
そのため、覆土重量に比例して倉庫本体を高強度に構築しなければならない。
しかも倉庫本体の設置面積が大きくなると、天版の撓み変形を阻止するために柱部材を設ける等の補強対策を講じる必要があった。
【0005】
本発明は以上の点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは爆破片や爆風圧の作用方向を真上方向に規制できて、保安距離の大幅な短縮を実現できる貯蔵施設を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願の第1発明は、少なくとも倉庫本体と、倉庫本体の周囲を所定の土被りで覆った覆土とを具備した火薬類を貯蔵する貯蔵施設において、前記倉庫本体の断面アーチ形またはドーム形を呈する天井の一部であって、該倉庫本体の長手方向に沿って脆弱部を形成し、前記脆弱部を介して爆発片および爆風圧の作用方向を倉庫本体の真上方向に規制したことを特徴とする。
本願の第2発明は、前記第1発明において、前記倉庫本体が矩形の底版と、天井の一部に脆弱部を形成し、該底版に搭載する断面アーチ形またはドーム形を呈する上殻版とより構成し、前記上殻版の両側部を底版に剛接合したことを特徴とする。
本願の第3発明は、前記第2発明において、前記上殻版の両裾部を底版の両側端に形成した嵌合溝に収容してピン接合した後、該接合部を分離不能に剛結して上殻版の両側部を底版に剛接合したことを特徴とする。
本願の第4発明は、前記第1発明乃至第3発明の何れかにおいて、さらに防爆シートを含み、該防爆シートを倉庫本体の上方の覆土に埋設してあることを特徴とする。
本願の第5発明は、前記第1発明乃至第4発明の何れかにおいて、前記覆土を複数の防爆バッグの積層体で構成したことを特徴とする。
本願の第6発明は、前記第1発明乃至第4発明の何れかにおいて、前記倉庫本体がプレキャストコンクリート製であることを特徴とする。
本願の第7発明は、前記第1発明乃至第4発明の何れかにおいて、前記倉庫本体が場所打ちコンクリート製であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
<1>本発明では、倉庫本体の天井の一部に形成した脆弱部を介して爆発片および爆風の作用方向を倉庫本体の真上方向に規制することができる。
したがって、本発明では従来と比較して保安距離を大幅に縮小できる。
<2>上殻版に形成した脆弱部が他の部位と比較して先行して破壊する構造となっているため、脆弱部を設けない場合と比べて上殻版の破壊範囲を最小に抑えることができて、貯蔵施設の防爆性が格段に向上する。
<3>倉庫本体の剛接合した上殻版の両裾部と底版の接合部が、爆発時に塑性ヒンジとなって上殻版の最頂部の口開きを大きくして、倉庫本体の真上方向へ向けた爆発片および爆風の噴出方向を収束し易くする。
<4>上殻版の両裾部と底版の接合部が塑性ヒンジとなるときに内圧エネルギーの吸収作用を発揮して爆風圧を緩和できる。
<5>倉庫本体の上方の覆土に防爆シートを埋設すると、防爆シートが爆発片および爆風圧を抑えて貯蔵施設の防爆性がさらに向上する。
<6>覆土を複数の防爆バッグの積層体で構成するとことで、通常の土砂だけの覆土と比べて、防爆バッグによる爆発片および爆風圧に対する耐力とエネルギーの減衰性能が格段に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態1に係る一部を省略した貯蔵施設の斜視図
【図2】脆弱部を例示した上殻版の頂部の拡大横断面図
【図3】脆弱部を例示した上殻版の頂部の拡大横断面図
【図4】底版と上殻版の接合部の拡大横断面図
【図5】貯蔵施設の構築方法の説明図
【図6】貯蔵施設の防爆性を説明するためのモデル図
【図7】本発明の実施の形態2に係る倉庫本体の上部の拡大横断面図
【図8】本発明の実施の形態3に係る地上式、半地下式の貯蔵施設のモデル図
【図9】本発明の実施の形態4に係る倉庫本体のモデル図
【図10】本発明の実施の形態4に係る他の倉庫本体のモデル図
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施の形態1]
以下図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
【0010】
<1>貯蔵施設の概要
図1は本発明に係る一部を省略した貯蔵施設の斜視図を示し、図2,3は上殻版の頂部の拡大横断面図を示し、図4は倉庫本体を構成する底版と上殻版の接合部の拡大横断面図を示し、図5は貯蔵施設の構築工程を示している。
【0011】
図1において、貯蔵施設は断面アーチ形またはドーム形を呈するプレキャスト製の倉庫本体20と、倉庫本体20の周囲を所定の土被りで覆った覆土30と、倉庫本体20の上方の覆土中に埋設された防爆シート40とを具備する。
本例では貯蔵施設が地面10に開削した溝、或いは窪地等の埋没空間11の底面に倉庫本体20を設置し、倉庫本体20の周囲を覆土30で覆った地下式貯蔵施設である場合について説明する。
倉庫本体20の坑口は例えばコンクリート壁、盛土壁等で封鎖し、その一部に出入口用の耐火扉や換気孔等の必要資材が設けられている。
以下に主要な構成部材について詳述する。
【0012】
<2>倉庫本体
倉庫本体20は鉄筋コンクリート等で構築した倉庫で、少なくとも平面形状が矩形の底版21と、側壁と天井を兼ねた断面アーチ形またはドーム形を呈する上殻版25とを具備する。
上殻版25を底版21と別体にしたのは、施工性の要請に応えるためである。
【0013】
<2.1>底版
底版21はプレキャスト製、場所打ちコンクリート製、またはこれらを複合した床版で、少なくとも底版21の両側端には上殻版25の軸方向に沿って嵌合溝22を形成している。嵌合溝22は上殻版25の両裾部を収容して剛結ができる構造になっている。
【0014】
<2.2>上殻版
底版21と別体の上殻版25はプレキャスト製、または場所打ちコンクリート製の湾曲した円弧版で構成する。
上殻版25をプレキャスト製で形成する場合は、左右対称形となるように上殻版25の中央から二分した円弧状の分割版で構成する。
【0015】
上殻版25を断面アーチ形またはドーム形に形成したのは、覆土30の載荷重を軸方向圧縮力として伝達し、上殻版25に生じる曲げモーメントを、断面矩形の場合と比べて大幅に低減するためである。
【0016】
<2.3>上殻版の脆弱部
上殻版25は天井の一部、すなわち上殻版25の最頂部に脆弱部26を有する。
脆弱部26は覆土30の載荷重により破損せず、爆風圧が作用したときに他の部位に先行して破壊する部位であり、上殻版25の最頂部に倉庫本体20の長手方向に沿って連続的に形成してある。
脆弱部26を上殻版25の最頂位置に形成するのは、爆破片の飛散方向および爆風圧の拡散方向を倉庫本体20の真上方向に規制することで、貯蔵施設の保安距離を短くするためである。
【0017】
図2に示すような上殻版25を中央から左右二つに分割したプレキャスト製の分割版25a,25aで構成する場合には、分割版25a,25aの最上部の対向面25b,25bに互いに嵌合可能に形成した凹部25cと凸部25dを組み合わせたヒンジにより脆弱部26を構成するとよい。
【0018】
また図3に示すように上殻版25が場所打ちコンクリート製である場合は、上殻版25の最頂の外周面側から内周面側へ向けてスリット25eを形成した誘導目地で脆弱部26を構成してもよい。
上殻版25を場所打ちした場合における脆弱部26のその他の形態としては、上殻版25の最頂部の躯体厚を他の部位より薄く形成してもよく、要は、倉庫本体20内で爆発を生じたときに、脆弱部26が爆風圧により他の部位に先行して破損する構造であればよい。
【0019】
<2.4>底版と上殻版の接合構造
本発明では底版21と上殻版25の両裾部の間を剛接合の形態で接合する。
剛接合を採用したのは、爆発した時に脆弱部26より先に上殻版25の裾部と底版21との接合部を分離させないためである。
上殻版25と底版21を剛接合することで、脆弱部26を最も早く破壊させることができるとともに、上殻版25全体が四方へ飛散するのを効果的に防止できる。
【0020】
<3>防爆シート
図1に示した防爆シート40は、覆土30の載荷重を利用して爆破片および爆風圧のエネルギーを吸収するための非通気性および遮水性を有するシート状部材である。
防爆シート40の素材としては、熱の影響を極力受けない素材が好ましく、熱可塑性樹脂系よりも耐熱性の高い天然ゴム、または合成ゴム系のシート材が望ましいが、耐熱性等の諸条件を満足できる場合は、熱可塑性樹脂系のシート材を用いても問題はない。
また高温が予想される場合は、サラン樹脂等の耐熱温度の高いシート材を用いることも効果的である。
また強度が必要とされる場合は、ゴム材料に金属や繊維を埋設、被覆、又は挟み込み等により補強したシート素材が望ましい。
【0021】
本発明に係る貯蔵施設は爆破片の飛散方向および爆風圧の拡散方向を倉庫本体20の真上方向に規制できることから、倉庫本体20の全域を防爆シート40でカバーする必要はなく、少なくとも上殻版25から離隔して脆弱部26の上方で略水平に位置していればよく、また防爆シート40の強度は想定される爆風圧等の大きさに応じて適宜選択すればよい。
また防爆シート40の設置枚数は単数に限らず、間隔を隔てて複数枚のシートを階層的に設置してもよい。
【0022】
尚、防爆シート40は必須ではなく省略する場合もある。
【0023】
[貯蔵施設の施工方法]
つぎに図5を参照して貯蔵施設の施工方法について説明する。
【0024】
<1>底版の設置
図5の(a)は倉庫本体20の組立て工程を示したもので、まず十分に転圧した埋没空間11の底面に底版21を設置する。
プレキャスト製で一体ものの底版21をクレーン等で吊り込むことの他に、図5の(a)に示すように底版21の両側端の部位21a,21aを予めプレキャストで製作し、このプレキャスト製品の間にコンクリート21bを現場打ちして一体化した底版21を構築するとよい。
【0025】
<2>上殻版の搭載
つぎに底版21上に上殻版25を中央から左右二つに分割したプレキャスト製の分割版25aを搭載して断面アーチ形またはドーム形の上殻版25を組立てる。
突き合わせた分割版25aの最頂部に脆弱部26が形成される。
【0026】
プレキャスト製の分割版25aは二台のクレーンで施工できるので施工が簡単で工期短縮が可能となるだけでなく、左右の各分割版25aの頂部を突き合わせることで各分割版25aの自立が図れるから、別途の支保部材を用いずに上殻版25を効率よく組立てることができる。
本例では上殻版25を複数のプレキャスト製の分割版25aで構成する場合について説明するが、既述したように上殻版25は場所打ちコンクリート製でもよく、現場の状況や貯蔵施設のサイズ等を考慮して、プレキャスト製品、或いは場所打ちコンクリート製品を使い分けする。
【0027】
<3>底版と上殻版の接合
底版21と上殻版25の両裾部の間は最終的に剛接合する。
図4に例示した底版21と上殻版25の両裾部の間の剛接合構造について説明する。
【0028】
<3.1>ピン接合
上殻版25の裾部を底版21の嵌合溝22に嵌合して位置決めする。
上殻版25の裾部を底版21に載置すると接合部がピン接合となって、上殻版25は底版21に対して安定姿勢を維持する。
【0029】
<3.2>剛接合
つぎにピン接合した接合部を以下の簡易な作業によって分離不能に剛結して上殻版25の両側部を底版21に剛接合する。
すなわち、上殻版25の裾部の底面から下方へ延出した鉄筋25fと、底版21の嵌合溝22から上方へ延出した鉄筋21cとの間をスリーブ状の鉄筋継手27で接続するとともに、上殻版25の裾部に開設した作業用の開口部25gにモルタルを充填して剛接合する。
底版21と上殻版25の接合構造は上記したモルタル充填式鉄筋継手の他に公知の剛接合構造を適用できる。
【0030】
<3.3>接合を二回に分けた理由
前記上殻版25の両裾部と底版21との間をピン接合した後に剛接合した理由のひとつは、プレキャスト製の分割版25aの重量を軽くして、上殻版25の組立て施工性をよくするためである。
倉庫本体20の組立てにあたり、左右一対の分割版25aの裾部を底版21に仮接合して位置決めすると、左右一対の分割版25aの頂部は分割版25aの自重を利用して互いに分離不能に接合できるから、上殻版25の仮組立ての施工性がよくなる。
さらに、ピン接合による上殻版25と底版21との仮接合工程と、モルタル充填による仮接合部を剛結する剛接合工程とを並行して行えるので、倉庫本体20の組立て施工性がよくなる。
【0031】
<4>覆土
図5の(b)は倉庫本体20の周囲を覆土30で覆う作業工程を示したもので、埋没空間11内に土砂等を投入して覆土30する。
この覆土30の作業途中において、倉庫本体20の上方に防爆シート40を埋設する。
図5の(c)に示すように、所定の土被りに達するまで倉庫本体20の周囲を覆土30で覆った貯蔵施設が完成する。
【0032】
<5>上殻版のアーチアクション
倉庫本体20を構成する上殻版25の脆弱部26が覆土30の載荷重に耐え得る強度に形成されているため、上殻版25に覆土30の載荷重が作用しても上殻版25は当初の形状を維持することができる。
また上殻版25が断面アーチ形またはドーム形を呈するため、アーチアクションにより上殻版25全体に無理な力がかからず、安定した姿勢を維持できる。
したがって、上殻版25は断面が矩形のボックスと比べて、覆土30の載荷重に耐え易く、上殻版25の躯体厚を薄くできる。
【0033】
[貯蔵施設の防爆性]
つぎに図6を基に貯蔵施設の防爆性について説明する。
【0034】
<1>倉庫本体の防爆性
本発明に係る貯蔵施設では、倉庫本体20を構成する上殻版25の最頂部の脆弱部26が上殻版25の他の部位より脆弱に形成してあり、上殻版25の裾部が底版21に剛接合されている。
【0035】
倉庫本体20内で爆発を生じた場合、上殻版25の内部圧力が増大する。この内部圧力は倉庫本体20の内周全面に爆圧P1として作用する。
この爆圧P1が、上殻版25の強度、覆土30の載荷重、および底版21と上殻版25の接合部の強度以内の大きさであれば、倉庫本体20は破壊されることなく、この爆圧に耐え得ることができる。
【0036】
爆圧P1が所定値以上に達すると、上殻版25の最頂部の脆弱部26が破壊され、剛結した底版21との接合部を支点として上殻版25の最頂部が左右に開き、爆破片および爆風P2が倉庫本体20の真上方向に向けて噴出する。
上殻版25の最頂部が左右に開く際、剛結した底版21と上殻版25との接合部が塑性ヒンジとなってエネルギーを吸収する。
このように剛接合から塑性ヒンジへ変換した接合部は、上殻版25の裾部を底版21から分離し難くする。
【0037】
<2>覆土と防爆シートの防爆性
上殻版25の口開きした最頂部から真上に向かう爆破片および爆風P2は、覆土30を通過するときにエネルギーを減衰されながら防爆シート40に到達する。
爆破片および爆風P2が防爆シート40の破断強度以下であれば、防爆シート40の強度により爆破片および爆風P2の上昇を抑えられる。
しかも、防爆シート40がその上下面を覆土30に挟持された形態で埋設されているため、防爆シート40の一部(中央)に上向きの爆破片および爆風P2が作用しても防爆シート40全体の捲れ上がりが阻止される。
【0038】
爆破片および爆風P3が防爆シート40の破断強度を超えると、爆破片および爆風P3は防爆シート40とその上方の覆土30を突き破って地上へ噴出する。
この間、底版21と上殻版25との間の剛接合構造によるエネルギー吸収作用、覆土30の通過抵抗、および防爆シート40の防爆作用により、爆破片および爆風P3のエネルギーは効果的に減衰される。
【0039】
従来の貯蔵施設は爆破片や爆風の作用方向を制御できず、爆発片および爆風が斜め上方45度の方向へ拡散するために、保安距離を長くとる必要があった。
また上殻版25の両裾部と底版21との間をピン接合しただけでは、爆風圧が作用したときに上殻版25の両裾部が底版21から分離するとともに、上殻版25の最頂部の口開きが小さくなる。そのため、上殻版25が全体的に破壊されて、爆破片や爆風が広範囲に飛散する。
【0040】
これに対し本発明では、上殻版25の最頂部に脆弱部26を設けるとともに、上殻版25の裾部を底版21に剛接合することで、爆破片や爆風の作用方向を倉庫本体20の真上方向に集束して規制することが可能となるから、従来の貯蔵施設と比較して水平へ向けた爆破片や爆風圧の影響範囲を格段に小さくできる。
換言すれば、爆破片や爆風圧の大きさは倉庫本体20の真上に向けた噴出高さに対して大きく影響を及ぼすものの、横方向の拡散範囲に対しては影響が小さい。
【0041】
さらに本発明では爆破片や爆風の噴出方向を特定方向に規制できるだけでなく、側壁と天井を兼ねた上殻版25の最頂部が積極的に口開きし易い構造を成しているため、脆弱部26を設けない場合と比べて上殻版25が破壊される範囲を最小に抑えることができる。
上殻版25の破壊範囲を小さくできれば爆破片の発生量も少なくできるから、貯蔵施設の防爆性がより向上する。
以上説明した複数の要因により、本発明に係る貯蔵施設は従来と比較して保安距離を大幅に縮小することができる。
【0042】
[実施の形態2]
以降に他の実施の形態について説明するが、その説明に際し、前記した実施の形態1と同一の部位は同一の符号を付してその詳しい説明を省略する。
【0043】
図7は複数の防爆バッグ33で覆土30を構成した他の形態を示す。
防爆バッグ33は非伸縮性の素材で形成した扁平形の袋体31と、袋体31内に充填した土砂等の中詰材32とよりなる。
上殻版25の周囲に複数の防爆バッグ33を積上げて覆土30を構築する。
防爆バッグ33の積層範囲は、図1に示した埋没空間11の全域か、或いは一部とする。
少なくとも脆弱部26を形成した上殻版25の最頂部の上方に複数の防爆バッグ33が積層して位置すればよい。
【0044】
防爆バッグ33は外力が加わると袋体31が内部の中詰材32を拘束してインターロッキング作用を発揮して防爆バッグ33が剛結する。
したがって、覆土に代えて複数の防爆バッグ33を用いる本例にあっては、通常の土砂だけの覆土30と比べて、防爆バッグ33による爆破片や爆風圧に対する耐力とエネルギーの減衰性能が格段に向上するといった利点がある。
尚、防爆バッグ33のサイズや厚さは貯蔵施設の規模や想定される爆風圧等を考慮して適宜選択する。
【0045】
[実施の形態3]
本発明は地下式の貯蔵施設に限定されず、図8(a)に示した倉庫本体20を地面10に設置し、倉庫本体20の周囲を堤体状の覆土30で覆った地上式の貯蔵施設、または図8(b)に示すように埋没空間11の底面に倉庫本体20を設置し、倉庫本体20の周囲を堤体状の覆土30で覆った半地下式の貯蔵施設に適用することも可能である。
本例における倉庫本体20と防爆シート状物40の作用効果は既述した実施の形態1と同様であるので説明を省略する。
【0046】
また図示を省略するが、盛土により覆土30を構築する際に、各盛土層の間にジオテキスタイルやジオグリッド等のメッシュ状の盛土補強シートを埋設して覆土30を補強盛土として構築すると、覆土30の形状安定性が向上するだけでなく、倉庫本体20の上位に位置する盛土補強シートが防爆シートとして機能する。
【0047】
[実施の形態4]
図9,10に他の倉庫本体20を示す。
図9は分割版25aの裾部と底版21の両側端の部位21aを予め一体成形したブレキャストピース25kと場所打ちコンクリートを組合せて倉庫本体20を構築する場合を示している。
本例では、ブレキャストピース25kを使用して断面アーチ形またはドーム形に組立てて上殻版25を構築した後、両側端の部位21a,21aの間にコンクリート21bを現場打ちするだけで倉庫本体20を施工できる。
本例にあっては、上殻版25と底版21の間を予め剛接合したブレキャストピース25kを使用するので、先の実施の形態1と比べて工期の短縮が図れ、さらに剛接合構造の強度を高く設定できるといった利点がある。
【0048】
図10は現場で型枠を組み、底版21および上殻版25を場所打ちコンクリートで構築した倉庫本体20を示している。
【符号の説明】
【0049】
10・・・・・地面
11・・・・・埋没空間
20・・・・・倉庫本体
21・・・・・底版
25・・・・・上殻版
26・・・・・脆弱部
30・・・・・覆土
40・・・・・防爆シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも倉庫本体と、倉庫本体の周囲を所定の土被りで覆った覆土とを具備した火薬類を貯蔵する貯蔵施設において、
前記倉庫本体の断面アーチ形またはドーム形を呈する天井の一部であって、該倉庫本体の長手方向に沿って脆弱部を形成し、
前記脆弱部を介して爆破片や爆風圧の作用方向を倉庫本体の真上方向に規制したことを特徴とする、
貯蔵施設。
【請求項2】
請求項1において、前記倉庫本体が矩形の底版と、天井の一部に脆弱部を形成し、該底版に搭載する断面アーチ形またはドーム形を呈する上殻版とより構成し、前記上殻版の両側部を底版に剛接合したことを特徴とする、貯蔵施設。
【請求項3】
請求項2において、前記上殻版の両裾部を底版の両側端に形成した嵌合溝に収容してピン接合した後、該接合部を分離不能に剛結して上殻版の両側部を底版に剛接合したことを特徴とする、貯蔵施設。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか1項において、さらに防爆シートを含み、該防爆シートを倉庫本体の上方の覆土に埋設してあることを特徴とする、貯蔵施設。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか1項において、前記覆土を複数の防爆バッグの積層体で構成したことを特徴とする、貯蔵施設。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4の何れか1項において、前記倉庫本体がプレキャストコンクリート製であることを特徴とする、貯蔵施設。
【請求項7】
請求項1乃至請求項4の何れか1項において、前記倉庫本体が場所打ちコンクリートャスト製であることを特徴とする、貯蔵施設。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−197648(P2012−197648A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63955(P2011−63955)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【特許番号】特許第4892106号(P4892106)
【特許公報発行日】平成24年3月7日(2012.3.7)
【出願人】(000229128)日本ゼニスパイプ株式会社 (31)
【出願人】(509017859)JFE商事テールワン株式会社 (1)
【出願人】(000106955)シバタ工業株式会社 (81)
【Fターム(参考)】