説明

貯蔵装置および船舶

【課題】魚類の腐敗を抑制できる貯蔵装置および船舶を提供する。
【解決手段】60〜40質量%の淡水と40〜60質量%の海水とを混合してなる調整水Wと魚類とを共に収容する水槽5と、この水槽の調整水中に配設される通電端子10と、この通電端子に、電流が0.2mA〜3mAで1.6W〜11.1Wの電力を通電端子に通電する電力供給装置12と、水槽の調整水を冷却する冷却装置7と、を具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は漁船用の生簀等に好適な貯蔵装置に係り、特に生簀に貯蔵した採捕魚類の腐敗を抑制する貯蔵装置およびこの貯蔵装置を具備した漁船等の船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から漁船は採捕魚類を活きたまま収容し貯蔵する生簀を具備している。この従来の生簀は淡水と氷を収容し、または冷水を収容し、採捕魚を氷水または冷水で冷却した状態で貯蔵している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このような氷詰めや冷水の生簀では採捕魚類の腐敗が早い。このために、漁船は魚類の腐敗の前に漁場から母港に帰港して水揚げしなければならず、その分、海上での採捕魚類の操業時間が已む無く短縮されるという課題がある。
【0004】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、その目的は、魚類の腐敗を抑制できる貯蔵装置および船舶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは魚類や食品の鮮度保持方法を永年研究した結果、魚類や野菜(植物)等の生体には固有の生体電位を有し、これら生体に所要の電位を与えることにより生体を活性化させ、腐敗を遅らせることができる点と、生体に電子を与えることにより酸化還元作用を発生させて酸化を抑制することにより、酸化による生体の腐食を抑制できる点と、に着目して、活きた魚類を生簀で鮮度保持する場合の水槽水の組成や、魚類に与える電流、電圧、電力、周波数、水槽水の温度が重要であると考え、これらを種々変える実験を繰り返した。その結果、魚類の腐敗を抑制できる方法を究明することができた。本発明はこの新たな知見に基づいて構成されている。
【0006】
請求項1に係る貯蔵装置は、60〜40質量%の淡水と40〜60質量%の海水とを混合してなる調整水と魚類とを共に収容する水槽と、この水槽の調整水中に配設される通電端子と、この通電端子に、電流が0.2mA〜3mAで1.6W〜11.1Wの電力を前記通電端子に通電する電力供給装置と、前記水槽の調整水を冷却する冷却装置と、を具備していることを特徴とする。
【0007】
請求項2に係る貯蔵装置は、前記電流の周波数が50Hz〜1000Hzであることを特徴とする。
【0008】
請求項3に係る貯蔵装置は、前記通電端子は、少なくとも前記調整水中に垂下される部分を鎖状に構成していることを特徴とする。
【0009】
請求項4に係る貯蔵装置は、前記冷却装置は、前記調整水を0℃〜−1℃に冷却するように構成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項5に係る貯蔵装置は、前記冷却装置の熱交換器を前記水槽の内面に沿って配設し、この熱交換器の内側に電気絶縁体を配設したことを特徴とする。
【0011】
請求項6に係る船舶は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の貯蔵装置を船体に配設したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水槽中に所要の電力を供給して水槽中の魚類に所要の電位と電子を与えることにより、魚類の腐敗を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る貯蔵装置の構成を一部断面で示す模式図。
【図2】図1で示す貯蔵装置を搭載した漁船の平面図。
【図3】図1で示す貯蔵装置による魚類腐敗抑制効果を調査するための実験データを示す表。
【図4】図3の実験結果を折線により示すグラフ。
【図5】本発明の他の実施形態に係る貯蔵装置の構成を一部断面で示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。なお、複数の図面中、同一または相当部分には同一符号を付している。
【0015】
図2は船舶の一例である漁船の平面図である。この図2に示すように漁船1はその船体2に生簀等の貯蔵装置3を搭載している。また、船体2には漁船1を操縦する操縦室を有するキャビン4が配設されている。
【0016】
図1に示すように貯蔵装置3は、調整水Wと魚類Fを収容する水槽5を具備している。調整水Wは60〜40質量%の淡水と、40〜60質量%の海水とを混合して構成されている。海水は、例えば3.5%程度の塩分を有している。水槽5は、有底円筒状または有底角筒状の水槽本体5aと、この水槽本体5aの上部開口5bを閉じる開閉可能の上蓋6とを具備している。
【0017】
水槽本体5aは、炭素繊維を含有した強化プラスチック等高強度の合成樹脂、またはステンレス等の金属により所要大に構成され、その底部5cを、例えば船体2の底部2aの内面等の固定体上に固定している。
【0018】
水槽本体5aは、その図1中上部を所要径に縮径して首部5dを形成し、この首部5dは、その上部開口5b端を船体2の甲板2aの上面に対してほぼ面一となるように延在させている。甲板2aは、上蓋6の一側方において、上蓋6のほぼ板厚に相当する深さと上蓋6の平面形状の大きさを有する凹部2a1を形成し、上蓋6が凹部2a1側の一側方へ摺動して水槽本体5aの上部開口5bを全開し得るようになっている。上蓋6は全閉から全開まで所要開度で開口し、その開口状態を適宜保持し得る係止機構を具備している。上蓋6は水槽本体5aとほぼ同様の合成樹脂または金属により構成されている。
【0019】
そして、貯蔵装置3は、水槽5に冷却装置7を配設している。冷却装置7は、例えばヒートポンプ式の冷凍サイクル装置により構成され、その熱交換管である冷却配管8を、水槽5の側壁内面の内側近傍において、側壁の内面に沿ってほぼ全周または一部に亘って配設し、水槽5内の調整水Wを所要温度に冷却するようになっている。
【0020】
これら冷却配管8の内側(すなわち、水槽本体5aの中心側)には、水槽本体5aの側面をほぼ全体を被覆するように電気絶縁性を有する絶縁シート9を配設して、冷却配管8と水槽本体5aの電気絶縁を図っている。
【0021】
そして、上蓋6には、その中央部等において、板厚方向に貫通するように通電端子10を配設している。通電端子10は、その上蓋6の内面よりも内側(図1では下方)の通電端子本体10aを鎖状に形成して水槽5内に垂下させ、図中下端部を調整水W中に延在させ、調整水Wの揺動に伴って通電端子本体10aが揺動し、また、魚類Fと、衝突した場合にも揺動して魚類Fが傷つくことを防止することができるように構成されている。通電端子10が上蓋6を貫通して外部に突出する外端部10bには電力ケーブル11を介して電力供給装置12の電気出力端子が接続されている。
【0022】
電力供給装置12は、船体2内に配設された図示しない発電装置に接続されて所要の電力を受電して、周波数が50Hz〜1000Hzの電流が0.2mA〜3mAで1.0W〜20Wの電力を通電端子10に給電する。
【0023】
電力供給装置12は、通電端子10に出力する電流を0.2A〜3mAに調整し、電圧と周波数をそれぞれ調整するための操作部を具備している。
【0024】
図3,図4は、水槽5内に魚類Fの一例として複数の活きたイワシを収容し、電力供給装置12から通電端子10に、高,中,低3段階の電力をそれぞれ給電したときの水槽5内のイワシの生菌類の経時増殖変化を示す。生菌数はイワシ1g当りの大腸菌の個数を示す。ここで、高電力とは、電流が3mAで電圧が3700Vの電力が11.1W、中電力とは、電流が1.8mAで電圧が1700Vの電力が3.6W、低電力とは電流が0.2mAで電圧が800Vの電力が1.6Wであり、これら電流の周波数は50Hz〜1000Hzであった。また、調整水Wの水温は冷却装置7により0.1℃〜−1℃に冷却した。また、図3,図4中、通常冷蔵庫とは死んだイワシ1匹を冷蔵庫により5℃に冷却保存したときの大腸菌の増殖変化を標準寒天培養法により調査した。
【0025】
これら図3,図4によれば、実験開始日(初日)から3日間で、通常冷蔵庫で貯蔵した場合は、生菌数が15000個を超過するのに対し、本実施形態の場合には、生菌数が初日から殆ど増殖していない。また、本実施形態によれば生菌数が4日間で若干増殖しているに過ぎない。本実施形態により、このように魚類の鮮度を保持できる理由についての理論は必ずしも解明されているものではなく、調整水W中に所要の電力を給電することにより、この調整水W中の魚類Fに固有の生体電位を与えて活性化させる一方、電子を与えて酸化還元作用を及ぼすことにより、酸化、すなわち腐敗を抑制できると解することができる。このために、採捕して水槽5内に貯蔵した魚類Fは、少なくとも4日間は、貯蔵初日とほぼ同程度に鮮度を保持できる。これにより、漁船は4日間程度は漁場に止まり、母港等に帰港せずに、十分に操業を続行することができる。そのために、漁獲量の増大を図ることができる。また、帰港回数を減らすことにより漁船の燃費を節約できる。
【0026】
なお、図5に示すように本発明は、冷却装置7の冷却配管8を水槽本体5a外に配設し、水槽本体5aの外側面を囲むように構成し、絶縁シート9を水槽本体5aの内面に密着させた状態で配設してもよい。これによれば、水槽本体5aの貯蔵容量を増大させることができるので、その分、貯蔵する魚類Fの増大を図ることができる。
【0027】
また、水槽5内の調整水W中に供給する電力は、上記電流と電圧の組合せに限定されるものではなく、電流が0.2mA〜3mAの微弱電流であって、電力が1.6W〜11.1Wの範囲内であればよく、上記電流と電圧との組合せは、適宜変更した場合でも図3,図4で示す鮮度保持効果を奏することができた。
【0028】
さらに、上記水槽5に、調整水W中の電圧を検出する電圧検出器を設け、所定以上の高電圧を検出したときに警報器から警報を出力するように構成してもよい。また、船舶としては漁船1に限定されるものではなく、釣り船や観光船等魚類の貯蔵装置を搭載しているものにも本発明は適用される。
【0029】
そして、冷却配管8と水槽5の内面を絶縁シート9により被覆したので、通電端子10の通電時の冷却装置7や水槽5の感電を防止し、冷却配管8への通電による冷却装置7の破損の防止や人への感電の防止を図ることができる。
【符号の説明】
【0030】
1 漁船(船舶)
2 船体
3 貯蔵装置
5 水槽
5a 水槽本体
6 上蓋
7 冷却装置
8 冷却配管
9 絶縁シート
10 通電端子
10a 通電端子本体
12 電力供給装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
60〜40質量%の淡水と40〜60質量%の海水とを混合してなる調整水と魚類とを共に収容する水槽と、
この水槽の調整水中に配設される通電端子と、
この通電端子に、電流が0.2mA〜3mAで1.6W〜11.1Wの電力を前記通電端子に通電する電力供給装置と、
前記水槽の調整水を冷却する冷却装置と、
を具備していることを特徴とする貯蔵装置。
【請求項2】
前記電流の周波数が50Hz〜1000Hzであることを特徴する請求項1記載の貯蔵装置。
【請求項3】
前記通電端子は、少なくとも前記調整水中に垂下される部分を鎖状に構成していることを特徴とする請求項1または2記載の貯蔵装置。
【請求項4】
前記冷却装置は、前記調整水を0℃〜−1℃に冷却するように構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の貯蔵装置。
【請求項5】
前記冷却装置の熱交換器を前記水槽の内面に沿って配設し、この熱交換器の内側に電気絶縁体を配設したことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の貯蔵装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の貯蔵装置を船体に配設したことを特徴とする船舶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−244694(P2011−244694A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117627(P2010−117627)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(510142690)
【出願人】(599002490)株式会社オムニ研究所 (2)
【出願人】(510142704)
【出願人】(510142025)有限会社 源吉丸漁業 (1)
【出願人】(510142036)有限会社 源吉水産 (1)
【Fターム(参考)】